第5期研究費部会(第6回) 議事録

1.日時

平成21年7月7日(火曜日) 10時30分~12時30分

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.出席者

委員

 有川部会長、小林委員、田代委員、佐藤委員、中西委員、深見委員、三宅委員、家委員、岡田委員、甲斐委員、金田委員、鈴村委員、谷口委員、水野委員

文部科学省

 磯田研究振興局長、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、勝野学術機関課長、山口学術研究助成課長ほか関係官

4.議事録

(1)科学研究費補助金の在り方について

 事務局より、資料2「科学研究費補助金の在り方について(審議のまとめ)【素案】」について説明を行い、その後意見交換を行った。

【水野委員】
 全体の書き方としてもう少し科学研究費補助金の在り方についての哲学を前面に出して書かないと、若手研究が何となく悪平等になってきたので基盤研究に動かすようにも読めてしまう。科研費は、ある程度社会保障に似たようなところがあって、自由競争で市場に任せておいても十分スポンサーがつくようなものとは違い、我が国の今後の学術全体のために支えていかなければいけないというところに税金をつぎ込むので、やはりそういう哲学に基づいて、今回の回数も考えるとする書きぶりは必要だと思う。
 若い人々に研究費を与えるというのは1つの重要なプリンシプルであったはずである。基盤研究でも、そこで与えるものが普通ではなかなか採択されないような基礎的なものであるが、学術全体のためには大切なものだというプリンシプルがあれば、こちらを少し減らしてそちらに乗せるということも言いやすくなるかもしれない。何となく全体の書き方が、若い人をきちんと選ぶ力があればそんなに悪平等にもならなかったという気もする書き方になっている。一方で、競争させればいいというような1つの哲学が全体の中に流れているように見えるが、必ずしもそうではないはずなので、科学者同士で、発想が豊かな将来伸びるような人を選んで、そういう人に早いうちに実績をつくらせて、安定的な職につかせるというような研究者の育成のルートを我々がきちんとつくっていくということと結びつけて、もう少し上手に書いていただければという気がする。
 つまり、読んだ感じでは、若い人を育成しなければと言いつつ、若手研究を削るという矛盾した流れに読めるので、どういう哲学で科研費を使っていくのかということを出さないと、全体が、そのときに気がついた細かな部分を不具合があるから是正するというようになってしまって、どうしてそんなに小手先でころころ変えるのかというような印象を与えてしまいかねない。

【有川部会長】
 もう少し哲学や理念を書くべきではないかということがあると思う。理念については、例えば若手研究、基盤研究それぞれに対してもあるし、そもそもその前に科研費というのは何かということを書いておかなければいけないと思う。それぞれが導入されたときにはしっかり理念があって、当然それに基づいて予算措置がされてきたので、そういう意味でも理念はしっかりしたものがある。
 この中で非常に大事なこととして、自由な発想に基づく研究を支援するということが科研費の一番大事な理念になっている。当然、競争的な面はあるが、自由な発想に基づく研究を支援するということこそが、科学技術の展開に関する多様性を保障するということであって、他の研究助成等とは明らかに異なる非常に大事な理念だと思う。
 それから、若手研究についても、例えば5ページの中ぐらいに、若手研究者支援を開始した趣旨については云々というようなところで、基本的な理念や哲学に相当するところはある。その辺のことを前のほうに置くことにするか。

【三宅委員】
 こういうまとめたものを見て気がついたことが1つある。3の今後の基盤研究の在り方というところで、科研費として基盤研究が大事で、基盤研究(A・B・C)のいずれについても、今後とも充実していく必要があるという話が出てくるが、これが若手研究の話の後に出てきていている。その次に基盤研究(A・B・C)の今後の在り方のところで、特に基盤研究(C)が多様な新しい考え方に対応するので手厚くしなければいけないということや、基盤研究(S)で大きい研究を行うところも手厚くしなければいけないということが出てくる感じがするが、構成から考えると、科研費が大事だということが最初に来て、その上で基盤研究(C)を手厚くする必要があるということや、基盤研究(S)も充足率を落とさずに頑張っていかなければいけないという話があって、それから若手研究の話が出てくということでも良いのではないかという気がする。

【家委員】
 確かにこれを読むと若手が大事だと言いながら、若手を削っているという印象を受けてしまうかもしれないが、必ずしもそうではないと思う。7ページの若手研究を何回も採択されている人がいるというこのデータが大事で、この裏には、若手でありながらこの若手研究の支援を受けられない人がかなりいるということがあるので、若手研究に2回も3回も採択されるような実力のある人を基盤研究に移すことを促すのがこの趣旨だと思う。
 それによって、限られた予算の中で、本来の趣旨である若手で1回も採択されていないような人たちをより広く採択できる。予算の使い方としてそういう方向がよいのではないかと今までの議論を聞いていた。

【山口学術研究助成課長】
 全体の構成について、どういう順番で書いたかということを申し上げると、第1回目に審議をお願いしたい事項として配付した資料の「はじめに」のところで書いているが、今期の研究費部会では、まず全体の方向性、2番目に若手、3番目に今後の基盤研究の在り方、4番目に成果公開というような順でまとまっていた。現実にこれまで若手の議論が多かったようにも思ったので、この順に沿って資料をつくらせていただいた。
 大もとの問題として、こういう審議事項の構え方自体が説明上誤解を与えるということがあれば組みかえることも可能であるが、資料としてはそういう趣旨で作成している。

【谷口委員】
 第1点目は、科学研究費補助金の在り方についてという、審議のまとめにしては随分小ぶりで、各論的なところが述べられている。科研費全体を見れば特別推進研究から始まってもっとたくさんの分野があり、全体的に多くの課題があるのではないか。従ってそういう全体を含めた基本的な見解について1本筋がないと、各論的な印象を受ける感じがする。ただ、これから随時この部会で科研費についてきちんとまとめていくということであれば良いと思うので、誤解であればご容赦願いたい。
 それが全体の考えで、もう1つは、書きぶりについて、一体何が言いたいのかというところがあると思う。若手研究、若手支援ということは確かに大切であるが、少し別の見方をすると、若手の人とそうでない人とで、ダブルスタンダードで科研費の採択を行っているのではないかという批判もなくはないと思う。それについて、何故科研費でこのような支援が必要なのか、きちんと説明責任ができることも大切なので、それを含めた意味での書きぶりということを先ほど言われたのではないかと思う。
 例えば、科学技術基本計画の中では、「モノから人へ」というようなキャッチフレーズがうたわれている。その中で、基本計画にのっとって科研費に目を向ければ、若手の育成というのは極めて重要である。そのためにこういう枠を設けて、こういうことにするという書きぶりであればわかるが、こういう何回も採択されているとか、特別に保護するのではなくとか、少し言い訳がましい印象を持たなくもない。そうではなく、もし書くのであれば、こういう問題が指摘されているが、それでもこうすべきだというスタンスがあると良い気がする。

【山口学術研究助成課長】
 今の関係で1つ申し上げると、今回、今まで5回ご審議いただいた上でこういうまとめの素案を出させていただいているのは、事務方として、来年度予算へ向けての方向性をお示しいただきたいという部分と、来年度の公募要領をこれから確定しなければいけないので、何かの手当が必要な部分があるかどうかということについて一定の考えをまとめていただきたいという部分がある。そういう面で、技術的な色彩が強く出たかもしれない。ただ、これですべて終わりということではなく、その部分を除いて、全体は基盤研究や若手研究など、科研費の中核の大きな議論なので引き続き検討していく。ある意味、当面の夏までの措置として今まで5回議論したことをまとめていただければと思い、このような措置を書かせていただいた。
 そういう面でいうと、表題の「科学研究費補助金の在り方について」というのは広過ぎたのかもしれない。それから構え方自体としても、我々の必要な部分と全体の議論の方向性というものについて、少しずれがあったのかもしれない。

【有川部会長】
 「はじめに」のところにもあるが、今回は、4つの点について審議をしてきた。今、谷口先生が言われたように、特別推進研究やその他にも議論すべきことがあるということも含めて、1の今後の科学研究費補助金が目指すべき方向性というところでもっと理念的なことをいれるべきなのだろうが、それは意識しながらも、若手研究や基盤研究、研究成果の社会への還元ということに焦点を当てて議論してきた。時間的なこともあるので、それをこの段階でまとめて、来年度に向けて反映させなければいけないことは反映させるという趣旨である。

【岡田委員】
 科研費全体に言えることだが、評価については、大型の研究費に関しては非常にきちんとした評価がされるが、額の小さい研究費に関しては大型のものほどしっかりした研究成果の評価がなされていないと思う。若手研究(A・B)に前年度応募を許して重複制限の緩和を認めるということは、研究の継続性や計画をきちんと立てるという意味では非常に良いことだと思うので賛成である。前年度応募の際には、その時に実施中またはそれ以前にうけていた研究費についての自己評価と成果をどのように次の応募研究につなぐのかといったことに関して、応募書類に項目を作ってきちんと書かせて、その内容を選考の重要なポイントとして扱うことが必要ではないかと思う。

【小林委員】
 10ページの当面の措置のところで、22年度公募から回数制限とあるが、具体的にはどのように導入するのか。

【有川部会長】
 回数制限については、今まで少し話題にはなっていたが、今日もう少し議論して、具体的にしておく必要があると思う。

【深見委員】
 1回、2回では少し少ないのではないかという感じがする。この間も、回数制限をつけることの是非の議論があったと思うが、1回が4年間、2回で8年間だとすると、期間が少し長くなったので2回ぐらいは可能かもしれないが、少なくとも1回は少ないという印象がある。
 それから実質的な審査体制について、最終年度前年度の応募ということが全体に書かれているが、若手研究(B)や基盤研究(C)の応募件数が非常に多いという現状の中で、ただでさえ学振側の審査体制がかなり厳しいというような印象を持っているので、最終年度前年度の応募を認めることが本当に可能なのかということを心配する。

【有川部会長】
 若手の回数や前年度応募について、審査にかかる時間や手間の問題を考えると、今でもギリギリなのではないかということである。まず、若手の回数のことについて、1回では少ないのではないか、2回ぐらいが良いのではないかというようなことがあったが、もう1つ、そういったものは1回きりだという考え方もあると思う。極端なことを言うと、1回だけだという考え方と、若手で年齢的な制限があるので回数制限を言わなくてもいいのではないかという、この2つがあると思う。

【鈴村委員】
 以前に、年齢制限を設けることが必ずしも当然のことではないと申し上げた際に、年齢制限や若手というカテゴリーに対して、特別な措置をしなければいけないような実態があるから入ってきたという話があって、それが説明になっているような雰囲気になってしまったが、そのような問題がある際には、やはり問題のほうを責めるのが当然のことで、問題を前提として助成制度のほうで辻褄を合わせるということは、本来的に決して正しいこととは思えない。そのことだけは申し上げた上で、にもかかわらず、若手助成というカテゴリーがなぜ必要なのかということは書いておかないと、なかなかこのような事柄は理解されないという気がする。
 回数制限の問題は若手の定義次第でおのずから過ぎていくという形になっていれば良い。1回とか2回とか、回数をここで議論して決めるということは、オーダーが違う話を議論しているような気がする。
 それから、これを見た際に、調整のようなことはともかくとして、ほとんどすべてのところで増額の要求が書いてある。私は経済学者なので、全体の予算をどのように配分するかということに気が回ってしまうが、科研費全体の重要性から見て増額の要求をすることはわかる。その中で、とりわけここまで増額ということを言うと、全体の枠が増えたとしてもどこかへこむものが出てくるので、そうであればあるほど、増額がどうしても必要だという理由が必要だと思う。そのことを議論するほうが、ここは基本問題についての会合だと理解しているので、優先的なのではないかと思う。

【有川部会長】
 増額ということについてはいろいろなところに書いてあるが、これはこれまでデータも示しながら見てきたところである。例えば基盤研究(C)は、採択率が20%強になっている。非常に応募者が増えてきているということがあり、やはり増額してもらわなければいけない。他についてもそのような認識で議論してきた結果このような表現になっていると思う。
 科研費は、今2,000億円を少し下回ったところで飽和状態のような形で推移しているが、そのままで良いのか。特に、国立大学が法人化して、運営費交付金等が減額される中で、私学も同様であるが、いわゆる基盤経費的な部分が少なくなった結果、基盤研究(C)や(B)への応募が非常に増えてきたということがある。そういう意味で、大学における研究を支える非常に大事な資金として科研費の重要性が増している。そのようなことで、このまとめ案では増額ということがいろいろなところに出てきたと理解したい。

【深見委員】
 トータルとしての科研費の増額はもちろん要望したいし、それが可能であるなら本当に望ましいことであるが、毎年のことながら、トータルの額はあまり増えない。これが希望どおり満たされる額というのはかなり大きな額であって、そのような状況でトータルがある程度限られたときに、次にどのようなことを考えるべきか。基盤研究を充実するのであれば、他のところはもう少し削るというようなことが、文科省全体や、文科省だけではなく省庁間を超えたようなところまで踏み込めると良いが、それは現時点では難しいと思うので、少なくとも文科省の中における在り方を現実的に少し考えなくてはいけないと思う。

【有川部会長】
 なかなか難しいところがあると思う。これまでの議論では若手研究を見直して、基盤研究の中に位置付けるということがあったと思う。そういう方向が出せれば、今、深見先生が言われたように、あるところは削りながら他のところを充実させていくというようなことをこの枠組みの中で表現することもできると思う。
 それから、回数はおのずと決まることであって、そういうことを議論すべきではないという指摘もいただいているがどうするか。

【小林委員】
 日本学術振興会の立場から言うと、平成22年度公募の内容を決めるためには、制度に関する部分はここで決めていただかなければ動けないので、その点はよろしくお願いしたい。

【家委員】
 今の科研費の最大の問題は、基盤研究も若手研究も全体を通じて採択率が20%の前半にしか達していないということで、ここを予算拡充するということは皆さんが一致していて、それは可能なことだと思う。
 それから、若手の真の問題は、研究資金の問題ではなくポストの問題だと思うが、それでも、科研費で何ができるかということについて、若手研究の、特に若手研究(B)の本来の趣旨からいって、資金獲得の経験のない人にできるだけ広く行き渡るようなシステムにするほうが良いのではないかという意味で、プラクティカルに現行制度で少し手直しするとすれば、例えば回数制限を導入して、既に採択された人は基盤研究に移行していただくということが良いのではないかと思う。
 そこで、私の感覚で言うと若手研究全体で2回、つまり、若手研究(A・B・S)全体を通して2回、(A)と(S)は1回限りというぐらいが適当ではないかと思う。

【山口学術研究助成課長】
 先ほど小林先生からどのようなことを考えているかという質問をいただいたが、例えば、若手研究を2回までとすると公募要領に書いた場合、どのような運営になるかという質問だと思う。私どものイメージとしては、例えば2回としてまとめていただいた場合、これから初めて受ける方は2回応募できるという前提で考えている。それから、例えば1回目を受けている方は、当然2回目のアプライのときにそれが最後になってしまう、2回目を既に受けている方についてはもうだめで、次は基盤研究へいくというように考えていただければと思う。ここはそのようなイメージで書いている。
 ただ、一方で、これからそのような秩序をつくると整理すると、今まで受けている人は対象にせず、これから応募する人を対象にするという議論もあると思うが、そうすると非常に格差が大きくなってしまうと思っているので、私どものイメージとしては、今受けている人についても2回という前提で考えていただくのではないかと思う。

【小林委員】
 確認だが、そうすると、平成22年度に3回目の応募になる人は今回から応募できないということか。

【山口学術研究助成課長】
 それでどうかと思っているが、それではあまりにもひどいのではないかという話があれば考えなければいけない。ただ、どこかで線を引かなければいけないので、そのような線の引き方ではどうだろうかと思っている。

【甲斐委員】
 若手研究(B)の話か。それとも、若手全体の話か。これまで若手研究(B)を2回受けていて、いよいよ若手研究(A)や(S)に応募しようとしている人も、もう2回受けているから応募できないとなってしまうと、少しかわいそうだと思う。

【山口学術研究助成課長】
 イメージとして差をつける気はなかったが、そこは議論していただければと思う。ただ、ルールとしては同じではないかと思う。

【甲斐委員】
 過渡期的に、若手研究(A)や(S)にこれから応募しようという人には、猶予を与えてあげたほうが良いのではないかと思う。

【田代委員】
 回数制限はどこかで決めなければいけないことかもしれないので、線を引かなければいけない。先ほど来出ている若手研究(S・A・B)で2回というのは、確かに良い案ではないかと思う。7ページを見ると若手研究(B)を2回受けている方は7.7%なので、あまり影響がないような感じがある。若手研究(A)で2回というのは24.5%あるので、かなり影響があるのではないかと思う。したがって、若手研究(S・A・B)全体で2回というのは1つの案なのかもしれない。ただし、技術的にこの回数の把握ということが可能なのかどうかというのは少し事務局に聞きたい。勤務先が変わったときなど3度目だということが把握できるか。

【石田企画室長補佐】
 日本学術振興会の研究事業部とも、仮にこれが導入された場合の話として相談しているが、内容としては、研究者番号という各研究者に固有の番号があるので、その番号単位で技術的には対応可能ではないかと考えている。

【家委員】
 7ページの資料は平成20年度に採択された人で過去に何回採択されているかということなので、2回目の人が若手研究(B)でも28%はいるというデータだと思う。

【甲斐委員】
 先ほど私が言った意見で、今、若手を2回受けている人にあと1回の猶予をあげてほしいということに追加であるが、平成22年度公募の時点で継続して若手研究(B)を受けている人がいるので、その2回目の人もやはり同じ猶予を与えるべきだと思う。ちょうど終わりの人だけ猶予を得られて、その次の年はゼロというのではかわいそうなので、猶予をうまく含めた形であと1回だけというような移行措置を考えてほしい。

【深見委員】
 移行措置が必要だという今の意見に賛成である。今は全体的に1つ1つの研究期間が長くなってきているが、以前は若手研究(B)も2年などがあったと思う。そうすると、2回、3回と普通に受けているのではないかという感覚があるので、それを考えると、今、いきなり2回というのは混乱を招くのではないかという感じがする。移行措置ということで、現在若手研究を受けている方に対してはもう1回ぐらいは最低必要ではないか。今までの研究期間が短かったということを考慮するとそのようなことになると思う。

【中西部会長代理】
 この前までの議論では、若手研究(S)を除いて、若手研究(A・B)は全部基盤研究の中に入れ込んでいくという議論をしていたと思うが、回数はその移行措置として考えていくのか。理念として科研費はどうあるべきだというときに、研究の種類によって必要な額が多かったり少なかったりするので、基盤研究(A・B・C)を設けて非常にすっきりしているが、若手やスタートアップなどいろいろな問題が出てきたときに、それぞれに対処するのではなく、すっきりした中でいろいろな問題を解いていこうという方向だと思っていた。移行時期ということを考えて、今、回数を議論しているのか。それとも、しばらく今の制度を続けるということか。

【有川部会長】
 13ページに、当面の方針と今後の方針ということがある。まずは当面の方針を考えなければいけないが、今後の方針としてはこれまで議論してきたが、まだ、明確なところまでは来ていない。大体の方向としては、若手研究(S)以外については統合したほうが良いのではないか、あるいは若手という柱はきちんと置いておくべきではないかということであったと思う。

【山口学術研究助成課長】
 前回までと今回について少し補足して説明させていただこうと思う。これまでの議論では、基本的に科研費の中核は基盤研究であるということでそれを中心に据えるべきであって、若手研究がこれまで大きく育ってきたが、それを基盤研究への移行ということを前提に考えていくべきではないかという議論であったと思っている。前回までは、例えば、若手研究(B)については、基盤研究(C)の中に審査区分という形で立ててはどうか、あるいは若手研究(A)は将来的に基盤研究(A)や(B)の中に位置付けてはどうかという図で議論していただいた。ただし、そのときにどういう形で若手を処遇するのかという部分の議論はまだ十分ではないという話もあって、今回のこのまとめの案では、若手研究(A)については、将来的には基盤研究に位置付けるという方向性は出すが、詰めなければならないことがたくさんあるので、方向性を出して引き続き検討するという形で書かせていただいている。
 それから、若手研究(B)については、審査区分という形で基盤研究(C)の中に入れるということもあると思うが、その場合、若手という部分が全くなくなってしまうので、今回の私どもの案としては、審査区分として基盤研究(C)の中に入れるのではなく、外に出して最終年度前年度の応募という形で、基盤研究と同じような効果を持たせてはどうかという案にさせていただいている。

【有川部会長】
 今後の方針と、若手の回数をどうするかということは独立して考えられると思う。全体を含めて2回程度にするべきか、移行期をどうするか、あるいは2回ということを言わなくても良いのではないかという、大体3つぐらいの意見が出ていると思う。年齢的には37歳から39歳まで引き上げられている。回数を重ねていってもそこでは制限されるが、一方で、繰り返して受けている人もいて、なかなか採択されない人もいるというようなことを考えると、若手研究のところで1回あるいは2回やった人は、基盤研究に移ってそちらでやってもらうという考え方もできる。完全に消滅するのではなく、2回目を受けた人は当然基盤研究という普通の世界でもやれるだろうという見方もできると思う。したがって、回数制限をあるところで引いても、それほど困ったことにはならないと思う。

【家委員】
 その大前提としては、基盤研究(A・B・C)の予算を大幅に増額して、そちらに移行したときに、逆のひずみが生じないようにすることだと思う。

【有川部会長】
 そういうことを含めて全体を増やすということになっているが、全体の採択率をある程度適正なところへ誘導できるような予算措置、あるいは要求をしていかなければいけない。現在、(S)関係が厳しいというのはわかるとしても、基盤研究(C)などの競争率が非常に高くなっているのは問題である。特に人社系の人たちがそこをよく使われるというようなこともあるので、実際の状況を反映させるような予算の仕掛けをしておかなければいけないと思う。いろいろな意見があってそれぞれもっともだが、若手に関しては全体として2回を限度にするということを基本にして、過渡期の措置をどうするか。過渡期については、これまでのいろいろな種目が導入されたときや廃止されたときのようなやり方をしていけば良いのではないか。ゼロになるわけではなく回数のことを言っているので、若手研究で十分力はついていると考えれば良い。若手研究から基盤研究に行くときに少し競争が厳しくなるかもしれないが、そういうことを乗り越えて普通の世界に入っていくのだと思う。
 2回ということでどうか。若手研究は(S)も含めて2回ということにする。それから、現在進行中の人の過渡期の問題がなかなか難しい。先ほど甲斐先生が言われたようなことに少し配慮すると、そこにつながったもう1つの問題が出てくる。さきほどから言っているように若手研究の回数のことでほかのことを閉ざしているわけではない。若手研究を少なくとも2回はやっているので、次は一般の基盤研究に行ってくださいという強いメッセージを込めることもできると思う。したがって、現在の研究が終わるまでというような整理の仕方をして2回までということが、わかりやすいやり方としてあると思う。

【小林委員】
 移行期の技術的な問題として、今年、3回目を応募しようと思っている人がいるので、それを今の時点でだめと言うのは少々急ではないかという気がする。例えば、実施を平成23年度からにして、1年間の周知期間を置くというのもやり方ではないかという気がする。

【甲斐委員】
 移行期間として、現在受けている人はあと1回までとしたほうが良いと思う。既に若手研究(B)を3回もらっていて継続中の方はもう絶対にだめなのか。つまり、移行期として今受けている人は、終了後にあと1回だけは良いとしてあげたほうが移行期として優しいのではないかと思う。

【谷口委員】
 回数制限に反対ということは思っていないが、結局は理念の問題に戻ると思う。先ほども意見があったように、なぜ科研費で若手を支援する必要があるかというところに戻ってしまう。若手が若手でいる限りにおいては、回数制限を設けるというのは、あくまで反対ということではないにせよ、どうなのかという感じがしなくもない。結局、若手研究(S)は5年間続くので、2回やって10年たてばもう若手ではなくなるということもあるし、若手研究(A)は2年というものがあるが、テクニカルな問題がないのであれば少しどうなのかなという気がする。

【有川部会長】
 若手研究(S)は少し年齢が高くて42歳まで応募できる。それから5年間なので、終わるときには47歳になるが、その辺を若手というかという問題も出てくると思う。
 この問題は、今日で6回目であるが、必ずしも意見の方向が合わないところがある。この回数についてもそうだが、一方でこれまでの議論を考えて、基盤研究が一番大事で、そちらの方向へ誘導していくというようなことからすると、回数を明確にして応募者側である研究者の意識を基盤研究に移していくということをしたほうが良いのではないかと思う。この辺は、考え方として、若手に関する理念的なことも入っていると思う。
 先ほど小林先生が言われたように、今は7月だが、11月には応募するつもりで準備していた人が、いきなりそれがなくなってしまうということは問題になるかもしれない。これは平成22年度からということか。

【山口学術研究助成課長】
 今の案は平成22年度公募からということを前提としてこれまでの議論を踏まえて作っているが、この部分について、例えば、回数制限や経過措置を詰めないと見切り発車は難しいということがあれば、小林先生が言われるように平成23年度まで延ばすということもあり得ると思う。要するに周知期間としてこういう方向で行くということを言いながら、細部はもう少し詰めていくということはあるかもしれない。絶対に平成22年度からということではないが、やるとしたらもうここで決めないと9月の公募要領には間に合わない。

【有川部会長】
 今日、平成22年度からということを明確に言わなくても良いということか。そうすると、そのようなことを3カ月ぐらい前に言われても困る研究者がいるであろうから、平成23年度以降は2回だということを周知しておくことで、先ほど甲斐先生が言われたこともその中に取り込んだ格好で対応ができるかもしれない。

【深見委員】
 平成22年度からということでいろいろ考えていたが、平成23年度からでも大丈夫ということであれば、若手研究(A)の在り方や基盤研究にどのように入れるのかというような問題など、もう少しトータルに考えた上で結論を出したほうが良い。応募者側の立場から言うと、ころころ変わるのが一番混乱を招くということがある。平成22年度か平成23年度のどちらが良いのかということは初めに決めたほうが良い。

【有川部会長】
 当面の方針と今後の方針ということで分けていただいて、理念に関係するような非常に大事なことは、今後の方針のところにまとめてあると思うが、そういう方向へ行くために、当面しておかなければいけないことは幾つかあると思う。その中の1つとして若手について議論してきたので、年齢的なことは当然最初から決まっているとしても、回数について方向を出しておくということはあると思う。それから、来年議論するときにそれを変えるようなことは当然やってはいけないと思う。

【田代委員】
 例えば2回にした場合、期間が2年や4年などがあるが、平成22年度にこれから応募する方は2回目の研究期間を自分で決めるので周知されているはずである。今、突然言われて困るのは、今、2回目あるいは3回目をやっている方がこれで打ち切られてしまうということだけではないかと思う。したがって、回数制限を導入するということであっても、新しく始める方にとっては別に問題ではなく、周知期間があるということになるので、移行のところだけ考えれば良いのではないかと思う。

【有川部会長】
 次回までに事務局のほうで、今日の議論について、回数を2回にするということ、平成23年度以降からとして1年間を周知期間として使うというようなことをまとめたものを用意していただいて、確認をすることにするか。

【家委員】
 前年度応募のことをルールとして確認したい。10ページに、前年度応募の重複制限の緩和という表現がある。前年度応募を認めるというのは結構だと思うが、これはどういう意図か。

【石田企画室長補佐】
 表現ぶりの話だけだと考えているが、考え方としては、研究計画最終年度前年度応募というのはそもそも重複応募制限ルールの緩和措置ということである。

【家委員】
 継続ということがわかればそれで良い。それから、先ほど前年度応募を認めると審査が大変になるのではないかという話があったが、それは実際には数としてはそれほど多くない。つまり、4年以上の研究計画で採択されている人の数というのは非常に少ないと思う。

【田代委員】
 18ページの丸の2個目に、「人文系と理工系、生物系など、研究分野の特性に応じた在り方」で審査をするとある。今までこういうことはあまり考えられていなかったと思うが、実際問題これから取り入れようとしているのか。

【山口学術研究助成課長】
 事務方としては、これまでいろいろな意見が出たものについて抽出して項目として出しているだけなので、ここについてはこのようにしたいという方針として出しているものではないが、例えば、基盤研究(C)の使い方として、おそらく人文系と、理工系、生物系の方々が求めるものは異なるのではないかという議論があったので、それについてもこれから議論の中で出てくるのではないかということで、項目として入れさせていただいている。

【田代委員】
 それでは少しお願いがあるが、やはり基盤研究(C)は、人社系で相当応募して敗退している種目なので、もし人社系のほうで調整が可能であるならば、予算の配分を少し増額するとか、何か措置を講じていただけるととても良いと思う。

【山口学術研究助成課長】
 おそらく、今のようなご意見があるかもしれないので、そのようなことを、この18ページの丸の2つ目で、今後、議論していただくことはあると思うが、基盤研究(C)は基盤研究(C)のルールで今まで動いているので、この時点で盛り込むということではないと思う。

【甲斐委員】
 この基盤研究の在り方については、当面の措置が書いていないので、これから議論していこうということで良いか。

【山口学術研究助成課長】
 当面の措置として、我々は夏に概算要求がある。特に基盤研究(C)については予算をかなり増やす方向で考えなければいけないので、その方向についてはこの部会でも議論していただいたと整理しているが、制度の在り方自体については、これから議論していただく部分が多々あると思う。

【甲斐委員】
 それは大変ありがたいことだと思う。基盤研究(C)は大事だということで前回まで随分議論になったので、これを増やしていくという方針だが、この在り方について基盤研究(C)だけを増やしていこうということを平成22年度の概算要求に載せていくということか。

【山口学術研究助成課長】
 少し正確に申し上げると、基盤研究自体は、(A・B・C)にかかわらず、16ページにもあるように、充実を図っていくべきであるとある。これまでの議論の中で、特に必要なのは基盤研究(C)で、次は基盤研究(B)でというような議論があったと思っているので、とりわけ基盤研究(C)は重要であると書いているが、ほかのものはやめてというようには書いてない。全部中核としてやらなければいけないが、とりわけ基盤研究(C)は頑張りたいということで書いている。

【甲斐委員】
 基盤研究(C)も含めて、応募総額を変えるというような議論は、今回は入らないで将来的な検討課題にするということか。つまり、前に議論があったように、研究期間との兼ね合いであるが、若手研究と基盤研究の単年度の金額が逆転をしているという現象について今年度は何も言わないということか。

【山口学術研究助成課長】
 18ページの丸の2つ目であるが、これらの点を踏まえということで、今後も引き続き検討を行うことの3つ目に、年限や研究費総額等の在り方についても議論していただく必要があると思っているので、項目として入れている。

【有川部会長】
 ご指摘のような問題が、若手研究と特に基盤研究(C)などに関してあるので、これから議論していく。特に基盤研究(C)に関しては、先ほど来言っているような状況にあるので急いで大幅な増額が必要だということでいくが、そのときに大事な問題としてそのほかのものを削って基盤研究を増やすということにならないようにしておかなければいけない。
 研究成果の公開の仕方について、謝辞はきちんと科研費によるものだということを書くべきだということであるが、この辺はもう少し強く求めても良いのではないか。審査のときや、あるいは報告のときにきちんと科研費で出したという謝辞が書いてある論文を添付するぐらいのことまでやっても良いのではないかという気もする。

【鈴村委員】
 研究成果公開促進費について、私は数年前まで取りまとめの委員会に参加していたので、自然科学の生命科学や理工学の方、人文学あるいは社会科学の方まで全部集まった形で、この制度のあり方について何回かにわたって議論したことがあったが、そのときの私の持っていた印象と、今ここで提案されているものとで、かなり顕著な違いがある。データベースは本質的には研究機関の業務としてやるべきものも多いということについては、当時もそのような意見があったと思うが、学術定期刊行物と学術図書の印象が全く逆転していて、今回、学術図書の出版助成が非常にウエートを与えられていて、学術定期刊行物については過渡的な助成を除いてはほとんど消滅していくようなイメージを受ける。私自身の経験の中であるのは、これを非常に重視していたのは自然科学であって、もちろん紀要のようなものは問題外であるが、レフェリーズ・ジャーナルを継続的に出していくためのサポートが必要であるといっていたのは、一体どこへ行ったのかということを、事実の橋渡しのためにも教えていただきたい。それから、今、22ページの表3を見ていて、確かに平成19年度、平成20年度とトータルの予算が相当激減している。この状況は分かるが、学術図書について、当時の私たちの印象としては、出したい図書がこんなにたくさんあるのに予算のために出せないというよりは、カテゴリー間で少し予算を動かしても良いという意見が出るほどだったと思っている。したがって、この逆転現象は非常に顕著だが、学術定期刊行物のウエートがこれだけ減っていることの事実上の背景を教えていただければ考えやすいと思う。

【有川部会長】
 これは過去5回の議論がまとめてあるので、ここで出てきた意見を起こして集約しているということがある。それから、学術図書に関しては1つ資料があって、特に人社系だったと思うが、非常に高度なものでしかもこの助成がないと出版できないようなものが非常に多く、高く評価されているということを示すデータもある。それから、全体の予算が激減しているというのは表3のとおりであって、そのことを押さえておかなければいけないが、学術定期刊行物についてはこの数年の間に非常に変わってきたことがある。それはここにも機関リポジトリとして表現されているが、ICTが非常に進んできて、成果の公表、流通のさせ方がかなり変わってきた。新しい技術が使えるようになってきたという技術的な背景があることは顕著な違いだと思う。

【鈴村委員】
 学術図書について非常にすぐれた業績があるのはその通りであるが、リストを見ればわかるように、全体として毎年の助成がすべてそういうものであるということとは別である。カテゴリーとしての重要性はよくわかるが、ウエートをそこに置くべきことがらというほどまでにはその資料は必ずしも語っていないと思う。それから、学術定期刊行物については、例えば学会の規模ということを少し考えていただきたい。例えば物理学会、医学会の規模というのは当然数万人単位で、そういうところであれば自助努力の余地というのはかなり豊かにあり得ると思う。学会の開催ということについてもかなり大きなものが自助努力でカバーされると思う。ただ、人社系の中には、例えば会員全員集めても、極端なケースを挙げれば100名しかいないところもある。そこが、そこにしかない学術定期刊行物を出しているという際に、100名の自助努力でそれを出し続けることは難しいと思う。したがって、例えば、立ち上がりのときだけの助成でということであれば、即座に雑誌を消滅させるということにならざるを得ないというような事情も聞いている。やはりこういう世界では、固定費用というのは大きなものなので、背景になる学会の規模ということを頭に置かないと実態が見えないと思う。
 そこで、意見の中で、22ページにある「紙などの旧媒体によるシステムをある程度維持することも検討すべきであるとの指摘もある」については、これで結構であるが、せめて「強い指摘がある」という程度にはしていただきたい。それから、同様の趣旨で、23ページの一番上の「小規模な学会による学会誌の発行のためには」ということについても、この発行がスタートアップの意味にとられる可能性があるので、「継続的な発行のためには」というようにしていただければ、先ほど来申し上げている事情を反映していただけたことになるのではないかと思う。

【家委員】
 学術定期刊行物について、今言われたことは本当に大事なことで、比較的小さな規模の学会はもちろん大変だと思うが、物理学会のような大きな規模の学会でも、諸外国の今の学術専門誌の刊行の状況においては非常に苦しい状況になっている。
 ここに書かれているように、本来、学会が自主的に取り組むべきというのは原則としてその通りだと思うが、今置かれている状況で、それを学会だけの自助努力で戦えるかどうかというのはなかなか難しい問題がある。2行目に「そのスタートアップを支援すれば十分であるといった意見」とあるが、本来こういうものは、国として学術情報をどう考えるのかということをどこかで議論して、競争的資金とは別の形で支援することを検討すべきと申し上げたところである。
 それから、新しい情報技術を用いればと言われたが、もちろんそれは新しい流れとして検討すべきことだと思う。ただ、学会誌、学術専門誌というのは情報が出ていれば良いというだけではなく、その雑誌のレピュテーションが非常に大事で、そのレピュテーションがうまく回らないと負のスパイラルに陥り、誰も投稿をしなくなり誰も読まなくなるというところがある。その辺のところを頑張っている日本の学会をいかに支援していくかということが非常に大事だと思う。

【田代委員】
 いろいろな意見の中で、学術図書について非常に貴重な意見があった。学術図書の出版については人社系と理系との対立構造が少し出ている感じがするので、ぜひ理系の方にわかっていただきたいが、人社系はすごく時間をかけて熟成していく学問である。そのため非常にページも多くなるし、結局、数量的に理解できない部分がたくさん出てくる。そこら辺のところで、発見したものを早く小さな雑誌でどんどん出していきたいと考える時間的に制限を持たれている自然科学系と異なり、人社系は学問の成果が出しにくい状態にある。そのため、人社系の研究者はかなりの予算を図書出版にかけている部分がある。学術図書は昨年、今年と20%程度の採択率だったと思うので、これをもう少し30%あるいは40%程度に戻す措置をしていただけたらと考えている。

【有川部会長】
 人社系にとって、この学術図書というのは研究成果の集大成のような要素が多分にあったと思う。そこにも書いてあるが、学術情報基盤作業部会でも議論しているところでなかなか理解してもらえないところがある。小さい学会は学術定期刊行物を出し続けることができなくなるというようなことを言われるが、機関リポジトリ的な発想を持ち込むと、むしろ非常に小さい規模の学会でもやりやすくなるという面があると思う。その際にしなければいけないことは、機関リポジトリのサーバー等をそれぞれで維持するのは大変なので、サーバー等をどこかで管理し、維持するというようなやり方ができるはずで、そうすると100人の規模の学会でも活動がきちんとやっていける。新しい時代の学術情報の流通と保存管理の1つのあり方になっているのではないかと思う。もちろん、印刷しようと思えばそこから簡単に印刷できるので、どちらかを否定しているようなことではない。
 それから、ここでいう学術図書も紙媒体で出されているが、なかなか手に入らないということがあってアクセスしにくいので、これもネットワーク上に置くことを考えたらどうかという意見も学術情報基盤作業部会であった。
 それでは最後のその他について、何か意見があればお願いしたい。
 ここでは研究者の自由な発想を支えるとなっているが、研究者の自由な発想に基づく研究を支えるということだと思う。発想を支えるでは少し後ろ向きのような気がする。
 それから、科研費を学術研究費といった形で位置づけるという書き方がある。

【甲斐委員】
 この上から2つはとても大切なことで、先ほど議論にあったように、研究者の自由な発想に基づく研究を支えるということは一番前に持っていっても良いのではないかと思う。それから、学術研究費ということは非常に賛成であるが、これは今後の検討課題なのか。こういうことをどこかで書けたら良いと思う。

【有川部会長】
 この辺は、この部会で引き続き検討していくことだと思う。

【谷口委員】
 科研費の在り方というのは今後いろいろな形で重要な課題になるのではないかと思うし、多面的な視点からの慎重かつ的確な検討が必要と考えられる。今、総合科学技術会議のホームページなどを見ても、小林先生のノーベル賞の受賞なども重なったと思うが、基礎研究を推進するために科研費を拡充すべきだという意見が出されているようである。これは基本的には大変歓迎するべきことだと思う。
 全体を見ると、我々は部会として科研費を議論するところなので、国際的なあるいは日本の科学技術の流れなどを捉えて、その中で科研費の位置付けがどうあるべきかという骨太の議論をすることが重要なのではないかと思う。世界的に見ても、かなり巨大化して多様化している科学技術の流れがあり、また各国が国家戦略として位置付けられているところがあり、その傾向は今度益々強くなるであろう。このように世界的な科学技術の流れや位置づけを視野に入れながら科研費等を学術研究費という位置づけで議論していくと、国の戦略的位置づけの問題など、別の角度からの問題が出てくるということもあると思う。少し断片的な話になるが、昨今、学術基本法をつくってはどうかという議論もあった。それは今述べた科学技術の内外の流れの中で、やはり基本的なところを守らなければいけないという発想があるのが一端だとも理解される。しかし、一方で学術研究費という形で科研費を特別な位置付けにする、となると、ある程度の代償を支払わなければいけないという問題も出てくるのではないか。つまり、あくまでも仮定の話ではあるが、研究の予算を増やして省庁横断的にし、NIHのファンディングみたいにする、といったことも議論になる可能性があるだろう。我が国の科学技術の国家戦略の位置付けとして、学術研究費を位置づける、といったそのような議論が出る可能性もあると思う。したがって、その流れも想定し、科研費がどうやって位置付けをされていくかということを、日本の学術研究、科学技術研究がどうあるべきかということをよく踏まえながら、的確な検討をしていくことがとても重要だと思う。
 科研費は、もともとは大学や研究機関等の研究を支援するためにできた研究費という位置付けで、それはずっと文部省時代から続いている。それが今度、新たな流れになってくるということになると、そこから出てくるいろいろな問題点というのもおそらくあると思う。その辺はなかなか悩ましい課題もあるかと思われるので、今後検討すべきポイントが幾つかあるという印象を持っている。

【有川部会長】
 大事な根幹にかかわる指摘をいただいたと思う。科学技術基本法や総合科学技術会議、あるいは第4期科学技術基本計画なども検討中であるが、非常に大事なこととして、そこで科学技術といったときにはいわゆる純粋な人社系というのは排除されていることがある。
 それから、国家戦略ということは、例えば重点4領域など、明確なことがある。先ほど来言っている自由な発想に基づく研究を支援するということは、例えば重点4領域に対しても、その次あるいはその次の次ぐらいには浮上してくる話だと思う。そうしたところをしっかりサポートするのも、言うならばもう1つの大きな国家戦略と考えられる。自由な発想に基づくというのは一見軟弱に聞こえるかもしれないが、自由な発想に基づく研究を支援するということこそが、研究の多様性と広がり、層の厚さ、新しいものに対する取り組みを可能にしてきていると思うので、非常に大事だと思う。次回までに当面のことを議論した上で、今後、理念的なことを含めて、科研費の在り方について深い議論をしていければと思う。

【水野委員】
 理念については、本日議論をした技術的なことも全部関連している気がしていた。自由な発想に基づく研究をサポートするときには、理念の問題だけではなく、現実にこの科研費の仕組みが、例えば審査まで含めて十分にその理念を実現できるような構造になっているのかを、考えなければならない。基盤研究へ行ってしまうと、どうしても実績のある人しか採択されないという構造があって、新しい目で思いついた実績のない若い人の研究を増やしたい、しかし審査の実態のせいでそれが実現しにくいことも、若手研究に今まで力を入れてきた1つの要因であったのだと思う。
 今回、若手研究を長年続けてきたことの問題が指摘されて、これを是正するという理由を述べるのであれば、若手研究の中でも実績のある若手が繰り返し受ける一方で実績のない本当の若手が受けられなくなっていることを危惧することを前面に出すのがいいだろう。さらに基盤研究に入れればそれでよいということではなく、同時に基盤研究の審査の過程まで含めて、実績があって今はやっているテーマを扱っている人の研究だけが有利になっているようなことがないか、というようなことまで含めて、満遍なく自由な発想を、将来の芽が出るような研究を支援できるような科研費の仕組みをつくり上げているのかどうかということを見ながら考えなくてはならないだろう。常に理念と実際の仕組みというのは連動している問題であると思う。

(2)その他

 事務局から、次回の研究費部会は7月16日(木曜日)10時30分から開催予定である旨連絡があった。

(以上)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課