第5期研究費部会(第5回) 議事録

1.日時

平成21年6月23日(火曜日) 13時30分~15時30分

2.場所

全省庁共用1208特別会議室

3.出席者

委員

有川部会長、小林委員、佐藤委員、鈴木委員、中西委員、深見委員、三宅委員、家委員、甲斐委員、金田委員、鈴村委員、水野委員

文部科学省

 磯田研究振興局長、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、大竹基礎基盤研究課長、山口学術研究助成課長ほか関係官

4.議事録

(1)科学研究費補助金の在り方について

 事務局より、資料2-1「これまでの主な御意見と今後の検討の方針(案)について【その1】」から資料5「これまでの主な御意見と今後の検討の方針(案)について【その3】」まで説明を行い、その後意見交換を行った。

【家委員】
 若手研究(スタートアップ)の2年目の応募が思ったほど多くないのはなぜだろうかと考えていたが、この年間スケジュールはどうなっているのか。これは春ごろに応募するが、内定通知が届くのはいつごろで、次の応募の時期との関係はどうなっているか。

【石田企画室長補佐】
 3月に公募を開始し、審査を経て、内定通知は大体8月ごろになる。次の年度の若手研究や基盤研究などの応募時期には十分間に合うと考えられる。

【家委員】
 それにもかかわらず2年目に他の種目に応募する人の割合が30%前後というのは意外である。
 それから、若手研究(A)を基盤研究(B)などに入れ込むという方針には賛成である。このダイアグラムの中に若手優遇措置と書いてあるが、何らかの若手に対する配慮をしているというメッセージは対外的に必要だと思う。一方でそれをどのように明示的に書くかということは審査とも絡んで、なかなか難しい問題だと思う。何かお考えはあるか。

【山口学術研究助成課長】
 この点は、前回の研究費部会でも大きな議論になったところで、資料2-1の4ページあたりに、若手優遇措置のあり方についての前回の意見が●で出ている。例えば、明示的に枠を設けるというよりは、実際の審査の中で行われている私学等への措置といったものと同様なものであればあり得るだろうというようなご意見があったと記憶している。ただし、この部分は非常に難しくかつ非常に大事なところだと思っているので、もし例えば若手研究(A)を将来、基盤研究の体系の中に位置づけて考えるのであれば、その方針は打ち出しつつ、優遇措置としてどういうものが考えられるかということをもう少しこの部会で議論していただければと考えている。

【小林委員】
 若手研究(スタートアップ)について、採択通知を受けてから次の年に応募することは時間的には可能である。ただし、現実は半年遅れてスタートするため、2年の研究期間といっても実質は1年半であり、それをルールとして1年にするのは少しきつすぎるのではないか。

【有川部会長】
 スタートアップは実質的に1年半ということで、初めて研究機関にきて応募し、半年したときにまた次の応募書類を書くこととなる。採択されたばかりなので1年半はこれで研究しようという心情のあらわれとも考えられる。

【家委員】
 本当にスタートアップという趣旨を徹底させるのであれば、あまり成果は求めず、立ち上げのためであるということにしてしまう。それから、まじめな応募者が半年ではとても成果を出せないため次のステップには行けないと考えることは、大変モラルのあることだと思う。そういうことで次につながっていないのであれば、スタートアップは少し異なる性格のものだというメッセージを出しても良いかもしれない。

【有川部会長】
 資料2-2にあるように、採択率は20%~24%程度と結構厳しい。採択されていない人が4分の3程度いる前提では、成果を問わないとするのは難しいと思う。
 もう1つ、前回までの議論で、スタートアップは科研費で行うよりも、それぞれの機関で行うべきではないかという議論もあったと思う。

【甲斐委員】
 どこかから帰ってきた人を迎える、あるいは新たにつくったポジションに途中から迎えるといった支援は機関がやるべきであり、あくまで育休・産休後の復帰の人に限定すれば良いのではないか。今のご議論であれば1年半は妥当なところだと思うが、1年半で1回限り、二度目はできないということでも良いのではないか。
 若手研究(A)をとっている人が基盤研究(B)に入っていく考え方は妥当。何らかの優遇措置で、例えばボーダーに入ったときに少し高い率で採択されるというような制度、現在行われている調整枠のようなものと理解したが、そのようなことがあるのであれば良いと思う。
 新たにできたこの絵を見て感じることは、若手研究(S)がやはり少しおかしいと思う。若手を優遇しつつ速やかに基盤研究に移行できるような特別枠を設ける考え方は良いと思うが、基盤研究(A・B・C)よりも金額規模が大きいのに、若手の人しか応募できない若手研究(S)があるのは、年齢差別に当たると思う。42~47歳の人を若手として、42歳以上の人は応募できないという枠が、基盤研究(A・B・C)よりも上に配置されているのは少しなじまないのではないか。移行期間だからというのも変な理屈だと思う。5年間が終わるまでというのは、この5年間はもう募集しないということか。それとも5年間はずっと募集し続けるということか。
 科研費の良いところは、いろいろなひずみが出たら速やかに変えて、皆さんの意見を吸収してきたところだと思う。明らかに年齢差別のように見えるものをかたくなに5年間、移行期間だからといって残す意味がよくわからない。

【有川部会長】
 若手研究(S)は下の基盤研究のくくりの中にあるが、上のほうに特別推進研究と基盤研究(S)があって、42歳を超えた人もきちんと応募できるという考え方はできると思う。

【甲斐委員】
 特別推進研究でも40代前半の人が採択されているので、40代でもPIとして十分な実力がある人はどんどん応募している。それを差別せずに採択している審査委員会があるのだと思うので、特別枠を設ける意味がよくわからない。

【有川部会長】
 私も同じような意見であるが、整理の仕方としては、今言ったようなことがあるのだろうということである。まず大事な点として、若手研究(S)は3年目ということだが、今後若手研究(S)として新規募集はしないのか、今走っているのがそれぞれ終わるまでの間だけ存続させるのか。事務局でイメージを作成したときに、その辺はどのように整理しているか。

【山口学術研究助成課長】
 この部分については、資料2-1の7ページにもあるように、若手研究(S)はスタートして3年目なので、まずは5年間くらいしっかりやって検証することが必要なのではないかというご意見をいただいている。それをもとに、5年間くらいは完成年度へ向けてこのまま動いていくのだろうということで、資料4のポンチ絵は非常に中途半端な図になっているが、若手研究(S)を完成後見直しということで暫定的にここに置いてあるという形になっている。事務局としてこれからずっとここに置き続けようという意図はないが、完成後に一応見直すというご意見をいただいているので、このようなポンチ絵にさせていただいたということである。

【有川部会長】
 完成後ということは、現在走っているのが終わるまでということか。

【山口学術研究助成課長】
 そういうことではないと理解している。ただ、そのことについてはご意見をいただければと思う。結局のところ、若手研究(S)についてのご意見は7ページのこの部分だけしかないので、ご審議いただければと思う。

【鈴村委員】
 将来のイメージがここに書いてあって、多分どこにこの仕組みを収束させていくかという問題だと思うが、イメージとしては、「若手優遇」という表現そのものが実はかなり異質的な発想だと思う。
 しばしば外国ではという話が出るが、外国でこういう年齢で優遇するという発想はないと思う。こういう制度がスタートしてここまで来ているのを一挙にやめるとか、そういうことまで言うつもりはないので黙っていたが、将来のイメージということからいうと、年齢などの特定の指標だけではなく、研究活動からみて一種のハンディキャップを持っている方の背中を押す措置をとれれば、研究上の貢献を期待できる方にそういう離陸の機会を提供することができる。その際、年齢は関係ないという制度も考えてほしいと思う。今の若手研究(S)を見直すということも、その一貫だと思う。

【鈴木委員】
 若手優遇というのはあまり例がないということの裏を返せば、前々回も言っているが、こういうことをしなければいけない日本の研究体質がまず問題だと思う。それを考えた上でこういう制度を作ってきたのだと思う。
 この資料4を見ても、直感的に右側がすっきりした図ではない。どう見ても頭が混乱するだけで、見通しも悪い。左のほうがずっとすっきりしていて、イメージがわいてくると思う。そういう意味で、若手優遇もこのようにはしないで、左のほうで若手研究(A)、若手研究(B)とあるのだから、そのまま残しておけば良い。そうして、若手研究から基盤研究に移るときに、最終年度前年度の応募を可能にするとか、若手研究のほうで基盤研究に移りやすいような措置を考えていけば良い。無理に基盤研究と若手研究をくっつけて考える必要はない。イメージとしてすっきりするのはやはり左のほうなので、この中でいかに若手が基盤研究に移れるような措置を若手研究の中にはめ込むかを検討すべきではないか。

【有川部会長】
 2つの異なった意見を出していただいたと思う。資料4については、確かに下の大きな箱はかなりごちゃごちゃしていて、理解しにくいところがあると思うが、上のほうの特別推進研究と基盤研究(S)を1つにおさめているところなどは整理されていると思う。

【佐藤委員】
 若手をどうするかというのは議論があると思うが、これはできた経緯があって、現状でそれが妥当しているのかどうかということがあると思うので、少し歴史を教えていただけないか。

【山口学術研究助成課長】
 歴史については後ほど説明させていただくが、資料4の作成者として、この図の意図を少し説明させていただこうと思う。このピンクのファイルの4に前回の配布資料があるが、終わりから3枚目ぐらいに、議論のためのたたき台ということで前回ご用意させていただいたポンチ絵がある。若手研究を新たな基盤研究の中に盛り込んで、ある意味この中に吸収して位置づけていくという図で前回ご議論をいただいたところである。
 ただし、先ほどの資料2-1にもあるように、若手研究者について研究のスタートの段階で支援をしていくことは意味があるが、根本は基盤研究を中核に据えて科研費を考えていく以上、そこへの移行というものを円滑にするような仕組みを全体として考えていくべきではないか、という議論をいただいたと理解している。資料4においては、基盤研究という、ここで青い図にしているものを中核に置いて、そこに若手がどのようにシフトしていくかということを、例えば最終年度前年度応募といった形で円滑に進めていこうとしている。この全体の黒の枠は基盤研究を中心として、若手研究もそこへ移行するためのシステムの一貫として、全体を一体として位置づけようということで、こういう図にさせていただいている。

【山下企画室長】
 若手研究の各研究種目の創設の経緯については、4月28日に開催した第2回の会議の配布資料がピンクの冊子の中にあるが、こちらの資料5に若干記載させていただいている。
 資料5の1ページ目に若手研究(A・B)の目的等ということで目的及び創設の経緯の記載がある。若手研究(A・B)については、平成14年度に奨励研究(A)を改組して創設したという経緯がある。それから、若手研究(S)については、5ページの(1)のところで、国内外で卓越した実績を上げている若手研究者の自立を促し、研究のさらなる発展を支援するため、平成19年度に創設したという記載がある。

【甲斐委員】
 多分ある一定時期、若手支援や若手を優遇するなど、「若手」がキーワードだった時期が長くて、その時期は正直言って若手関係だと予算が獲得しやすいというのがあったのだと思う。そういうことを挙げて予算を獲得することはとても大事なことだと思うし、全体の研究費枠が大きくなることはウェルカムなので、ぜひ文部科学省には頑張っていただきたいと思う。
 昔は、基盤研究があって、それ以外に奨励研究(A)というのがあった。ドクターをとったばかりの人には基盤研究(C)はすぐには難しいので、奨励研究(A)で助けようという姿勢があったと思う。それによって育てられた研究者はたくさんいた。私も奨励研究(A)をとらせていただいて、基盤研究(C)に移行するのにすごく役に立った。そういうことは必要だと思う。ただし、奨励研究(A)を若手研究(B)にし、(A)、(S)と拡充してきた過程については疑問。
 現在、ひずんでいる原因としては、速やかに基盤研究に移行するべきと言いながら、若手研究より基盤研究のほうが獲得できる金額が低いので、若手にとって魅力的ではなくなっている。基盤研究に移行すると、一般に審査は厳しくなる上獲得できる年額は下がるので、若手は若手研究に固執するようになる。逆に、年齢制限を超えた基盤研究(C)を獲得している人にとってみれば、若手ばかり何でこんなに優遇されるのか、ラボを守っているのは私たちだみたいな形で、現場の感覚としてはすごくひずんでいる。これを是正しなければいけないというのをすごく感じるので、このように大きく変えるのであれば、そこは根本から見直したい。
 今日いただいたイメージは少しわかりにくくなっているが、ほんとうは前回の資料にあったイメージと同じで、基盤研究を一本化してしまおうという感覚だと思う。そこで、基盤研究(B)の横に出ている若手優遇措置というのはおそらく青色に入って、よく見えなくなるのだと思う。基盤研究(A・B・C)だけにして、昔あった奨励研究(A)のようなものがないと若手の最初はかわいそうだと思うので、若手研究(仮称)というのが1個だけ出ているというのは、そんなに違和感がない。一方で、若手研究(S)として、基盤研究(A・B・C)の人が応募できない若手枠がここにあるというのはすごく違和感がある。だから、イメージとして基盤研究に一本化して、基盤研究こそが科研費の一番大事なものだという趣旨で行くことは、大筋で賛成である。

【有川部会長】
 基盤研究(B)のところにある若手優遇措置というこの図のまとめ方については、どう思うか。

【甲斐委員】
 でき上がれば基盤研究(B)と書かれて、若手優遇措置ということは見えなくなると思う。要項に書くのか、書かないのかがわからない。現行の調整枠については要項に書かれているか。

【石田企画室長補佐】
 公募要領に書いてあるわけではない。審査の進め方の段階で書いている。

【甲斐委員】
 実際に審査を行った方は知っていると思うが、基盤研究(C)には私学等を対象とした調整枠がある。例えば、ボーダーライン付近のものから1件採択できるような仕組みは審査を行った方は知っているが、確かに公募要領には書かれていない。そうすると、若手も書かれないということか。

【山口学術研究助成課長】
 同じにするのであればそうなると思うが、そのあり方として、この図の若手優遇措置が基盤研究(B)の中に入ったときには、実際上の整理としては青色になるのだろうと思う。ただし、そこまで形を変えたときに、応募される方にどのようにとられるのかということについては考えなければならないと思う。
 もっと言うと、甲斐先生が言われたように、この若手優遇措置が公募要領等にきちんと書ければ目に見える形になると思うが、そこの部分についてはまだ整理されていないので、この段階のイメージ図としては、こういう形でピンクにさせていただいたというようにご理解いただければと思う。

【深見委員】
 基本的に甲斐先生と全く同じ意見である。今日の図はごちゃごちゃしたイメージがすごく強いので、前回よりも後退したような印象があるが、基本的には前回の図のように基盤研究(C)に若手区分を置いても良いのかなというように思っている。それで一本の真っすぐな並び方にすると、もっとシンプルで受け取りやすい図になるのではないか。
 優遇措置のあり方をどうするかということはすごく重要だと思うが、やはりこの書き方や設定の仕方のイメージがないと、回数制限をどうするかというようなところには議論がいかないと思うので、優遇措置をどういう形にするのかはある程度見えるようにしたほうが良い。基盤研究(A・B・C)に関して、若手優遇措置をどこまで入れるのか。何らかの形で優遇していることをアピールしていくことが重要ではないか。

【金田委員】
 基本的には今の議論で違和感はないが、少し違和感があるのは、若手研究(S)がこの図のここにあるということで、これは制度的に過渡期だということなのでそれは良いということにすると、この間から議論になっていた1つに、若手研究に固執して何回も繰り返して応募していることが問題になっていると思う。要するに若手の優遇措置があることは良いが、それを何回も繰り返すチャンスではなく、若手研究でチャンスがあるのは1回だけという形であれば必然的に基盤研究に移行すると思うので、それでよろしいのではないか。

【鈴木委員】
 考え方の中に少し違和感がある。回数制限を設けるとか、金額が基盤研究(B)より若手研究(A)のほうが大きいとか、そういうことで判断すること自体おかしい気がする。若手研究(B)や(A)というのは、若い人たちに何とかいい成果を早く出してもらおうということでやっているのであって、研究室の中で、私は研究室を背負っているのにあいつの方が金額が大きいというようなことで判断すること自体間違いであって、中身が良い研究をしていれば良い研究なのであって、高い金額をもらったから良い悪いという判断自体おかしいような気がする。そうではなくて、やはり良いものは良いという判断をする中で、若手研究などで若いうちにどんどんやってほしい。それに対して我々はいかに支援するかという姿勢がないと、何かいびつに曲げられている気がする。

【有川部会長】
 その際、若手という枠を別にとっておかなければいけないか。同じ土俵で若手も競争してもらうということも考えられると思うが、どうか。

【鈴木委員】
 同じ土俵でも良いが、例えばアメリカでは、若い人たちに対してお金をサポートしなかったら卒業生が全部カナダへ行ってしまった。カナダで成果を上げて、また帰ってくる。それと同じように、若く基盤が弱いときにそういうサポートがないと、みんなどこかへ行ってしまう。そういう意味で、若手研究(A・B)が一番大事だと思う。

【中西部会長代理】
 問題になったことは、若手の定義がはっきりしないことだと思う。若手研究(S)は42歳になって獲得して、47歳まで受給できるので、若手が誰を指すのかはっきりしないところがある。研究や発想には歳は関係ないので、若手でも古手でも同じ土俵の上で競争していくということも大切ではないかと思う。
 スタートアップに関して、先ほどの表を見ると50代でもかなり応募していて、十数%の採択率がある。流動性を確保するという上でもスタートアップ助成は大切である。女の人だけでなく新しく始めようとする人に対する大学からの支援が不十分な場合が多々あると思われるので、ぜひ若手という言葉をとって、スタートアップ資金というような名称で継続していただきたいと思う。

【有川部会長】
 スタートアップについて、実際に若手ではなくても、企業等からきている方なども入っていると思う。
 それから、この若手研究のもとになった奨励研究や、年をとってからでも新たなことを行う人が結構いるので萌芽研究など、その辺がどこかに入り込むようにしていたほうが良い気もする。

【山口学術研究助成課長】
 先ほど甲斐先生から奨励研究的なものをというお話があったが、私どもとしても、若手研究(仮称)を外に出したのは、そういう形で明示的に昔の奨励研究的なものがあるほうがわかりやすいのではないかということもある。
 それから、若手研究(スタートアップ)について、前回の部会で大きな議論になったのは、もともとスタートアップというのは研究機関が出すべきものであって、特に間接経費がここまでできた以上は、それを前提とすべきで、スタートアップという形で区切るのはどうだろうかというご意見が強かったと考えた。そういう面から言えば、4月から研究職になった方ももちろん前年の応募には間に合わなかった方なので、締め切りに間に合わなかった人の救済措置というように割り切れば、スタートアップという形ではないのではないかと考えて、こういう形で名称・内容等を変更ということにさせていただいた。

【有川部会長】
 資料4の右の図の整理の仕方について、わかりにくくしているのは若手研究(S)がここにあるということであるが、これは過渡期だということで、これをないものとして考えるとかなりすっきりする。それから若手優遇措置が基盤研究(B)よりも大きいぐらいになっているが、本来これは隠れていて、例えば、私学振興のようなことと同じで、審査の段階で同点だった場合に優遇するというようなことだとすると、このピンクのところはほとんど見えなくなる。そう考えるとかなり整理がされてきて、若手研究というのは何らかの形で残して、そこから基盤研究(C)や基盤研究(B)に行く道があると考えると、かなりすっきりした図になると思う。
 スタートアップについては、産休などで、あるいは他のこともあるかもしれないが、応募時期に応募できなかった人に対応するということ。それから、前の議論の中にあったと思うが、いわゆる男女共同参画というようなことで、特に日本の場合には明示的に女性研究者を支援するというようなことをしなければいけないと思う。その辺の対応をどこかに含めるとすると、スタートアップのところに持ってくることができるのではないかという気がする。

【小林委員】
 基本的にそういうところで意見がそろっていると思う。先ほどあったように、去年までは若手支援の充実ということがキーワードになっていて、予算獲得という意味もあったのかもしれないが、研究者に対してもそういうメッセージを発してきたのではないかと思う。これはかなり方向転換という印象があるし、事実方向転換ではないかという気がするので、その趣旨を十分に研究者に伝わるようにする必要がある。それから、優遇措置について、私学等の調整枠というのは、細目当たり1,2件程度の話であって、その程度であれば可能かもしれないが、どの程度意味があるか。もう少し大規模なことを考えると、審査の過程に非常に大きな影響があるので、どう設定していいかというのはまだアイデアがないのではないかと思う。事務局の提案もそうだが、少し時間をかけて検討する必要がある気がする。

【三宅委員】
 研究しているところには幾つかのタイプがあり、人の流動性がそれほどまだ高くないということもあって、タイプごとに若手のやれることが違うと思う。いわゆる研究大学で、上の人が大きな研究を行っていて、そこにも参画しながら、自分も若手研究に応募するだけのいろいろなテーマも経験もあるという方が、上も手伝いながら若手研究にも応募しているようなところと、若い人が自分で一生懸命ある程度の研究費をとってこないと、自分の研究環境もつくれないというところがあるのではないか。小さいところで一生懸命頑張っているので若手研究が非常にありがたいと考えている人たちもいるだろう。確かに私学は優遇されているかもしれないが、研究対象はそれほど大きいものではなく、私学助成であれば何か学校単位でやる必要がある。今の議論の中では、若手が若手研究で30代後半までに頑張らないと、他のチャンスで研究できないという大学も日本の中には相当数あるのではないだろうかという議論があまり見えてこなかった気がする。
 そういう中で、どういうところにいる人がどのような応募の仕方ができたら良いのかということを、できるだけすっきりした形にしようということ自体に無理がある。簡単には基盤研究(A)、(B)、(C)だけがあって、そこにいろいろな人たちが様々な形で応募してくるということを、審査する側が考慮することができれば、他に特別な対応は何も要らないということがあるのかもしれない。要するに、制度で分かれていてマルチにコースがあってそれで対応しようとするのか、額や年数の異なる研究枠があってその中で多様性を吸収するのかという問題なのだと思う。

【深見委員】
 科研費の制度の変遷を見てみると、いろいろなニーズがあるのは当然だと思う。スタートアップのようなものも欲しいし、複数回応募もあったら良いというように、当然いろいろなニーズがたくさんあると思うが、そのニーズ一つ一つに対して対応する制度をつくったほうが良いのかというところは、もう1回考えたほうが良いのではないか。
 ある一定のニーズというのはどのようなところでも絶対にあるし、そのバリエーションというのはすごくたくさんあると思う。そのたびにそれに対応して制度をつくるのではなく、逆にどういうことにでも対応できるような制度が望ましいわけで、ある意味それが間接経費の使い方なのだと思う。そこのところを今後の間接経費の使い方の1つとして大学側に示していき、基本的にそのようなバリエーションを吸収するために、今後、大学が独自にきちんとやっていく姿勢を持つべきだというようなメッセージを研究費部会から出していくことも重要であって、あまり細かい対応を、このような場で決めるべきではないのではないか。
 その例外として、産休・育休は大学に任せるとあまりうまくいかないところなので、ここだけは上からトップダウンのような形で保護しても良いと思う。例外はそのぐらいで、あとは大きな枠組みをどうやって運用していくか、大学がきちんとそのようにできる仕組みが重要なのではないかと思う。

【有川部会長】
 新しい問題として、間接経費についてもこの研究費部会で取り上げて、提言したらどうかということである。これはもともと研究機関等に措置し、そこで一定の基準のもとで使われるというものである。使途についての例示もされていたと思うが、そこにある種の新しいメッセージを入れても良いのではないかという意見である。
 それから、基本的には単純にして、その中でいろいろな問題が出てきても対応できるようにしたらどうかということである。例えば、基盤研究の中に、現在では42歳というのが若手研究(S)の応募時の年齢の上限になっているのでその辺で区切って、いわゆる若手の比率とそれ以外の比率が相等するように採択をするというような審査の仕方はあり得ると思う。つまり、基盤研究(A)は少し違うかもしれないが、基盤研究(B・C)については内部的に若手枠を作って、大体均衡するように採択するというようなことをすると、そこで吸収できると思う。
 一方で、最近講座や研究室等における若手研究者の独立とか自立いうことが科研費に限らず様々なところで言われている。教授、准教授、助教という職制にもそうしたことが背景にあり導入された。新しい職制においては、すべての教員が独立して研究できるということになっていて、准教授がすぐれた、教授は特にすぐれたというようになっていたと思う。そこにも、若手ではないが、独立ということがきちんと反映されているので、そういうことをどこかで保証すれば良いと思う。
 それから、いわゆるPIだけではなく、チームの一員として研究を展開して、やがて自分が代表になっていくという研究の展開の仕方も当然ある。その辺を考えると、例えば、さっき言ったようなことも1つの方法としてはあるのではないかと思う。

【鈴木委員】
 家の話として考えた場合、若手をどうとらえるかという問題であれば、子供の教育は金がかかるが、私は1カ月にたばこ代しかもらっていないというときに、子供に対して、「おまえはけしからん」、「おまえは家の大黒柱でない」、「おまえに教育費をやらんぞ」と言うかというと言わない。若手というのは子供と同じで、将来を背負って立つのできちんと支援をするべきだというのが、若手研究(A)だと思う。それを大黒柱とか何とかでというような話ではないと思うので、考える発想が少し異なると思う。

【有川部会長】
 そこは1つの例えとして言われたと思うが、私も、例えば教授をやっていたときに、自分のところの若い人が自分のとってくるお金より良いものをとってきたとしたら、非常にうれしかった。そういった文化であるべきだということに関しては、全く同感であるが、自分より多くとってきてはいけないというような種類のことではなく、基本的にこれまで議論された中でのことで言うと、若手を特別扱いするということで年齢の高い人が若手研究に応募できないというのは明らかに差別したことになるし、言葉使い自体としても少し問題があるのではないかというようなことではないかと思う。

【佐藤委員】
 そこは議論があるが、要するに、若手に何かのメッセージを出してしっかりやれという精神はみんな一緒だと思う。その組み立て方として、現行の制度でやっていると多少いろいろなひずみが出てきているので、整理をしようということで、この案は、さきほど部会長が言われたように、若手研究(S)がこの枠外で、基盤研究(B)の若手優遇措置が隠れるのだとすれば、かなりすっきりした絵ではある。ただ、それでメッセージとして十分かどうかという議論は残ると思うが、ごちゃごちゃしているという印象は少ない。
 ただ、若手研究(S)がよくわからない。今年は若手研究(S)をもう募集しないような印象で聞こえたが、原案は多分5年間募集すると書いてあるのではないかと思う。それは確認しておいたほうが良いと思う。

【山口学術研究助成課長】
 私どもの考え方としては、一応5年間完成年度まで行って、その上で評価するというようなご意見をいただいたと思っているので、とりあえず5年間、完成年度までは今のままで行くのかなと思っている。したがって、新規募集を止めるという前提でこの図を考えていない。完成後というのはそういう趣旨である。

【有川部会長】
 大きな四角の外に出してしまうわけにはいかないので、中にきちんと入れておかなければいけない。

【山口学術研究助成課長】
 そこは決まっていないので、とりあえずここに置いているというだけで、そういう意味では、これはピンクではなく無色のほうが良かったのかもしれない。

【有川部会長】
 そういう意味では、入れ方として、若手研究(S)を、特別推進研究や基盤研究(S)のほうに置いておいたほうがすっきりするかもしれない。

【鈴村委員】
 今の話を聞いていると、制度は1つだとしても、圧倒的に自然科学の分野における研究室の考え方が色濃く反映している議論だと思う。それは歴然としていて、先ほど鈴木先生が言われたことは、最初は難解であったが、なぜ日本でこういう若手優遇という制度にしないといけないかというと、そういうことをしないと例えば若手が外国へ行ってしまう。ところが、外国では、そういう優遇はないのでむしろそのチャンスを生かして、自分自身がそこできちんと証明をすれば自分のポジションがつくれる。そうだとすれば、日本のほうで制度を同じにすることだって十分考えられる。なぜ優遇という道に行かなければいけないのか。それが私にはわからなかったところである。
 私たちの考え方で言えば、別にこういう若手というカテゴリーとして特別な優遇措置をつくらなければいけない理由はない。それよりは、本当に必要な人がいる場合に、その人に対してもう少し普遍的に適用可能な措置を講ずることはわかる。だからそれが、私が申し上げた趣旨であった。
 今のような若手優遇ということに特定のウエートを置いて考えることが、どうしても自然科学で必要だということであるのであれば、一括して議論すること自体はテーブルに乗せざるを得ないことがあるのではないかということは考えていた。ただ、何度も申し上げているが、制度のつくり方の問題について、一本の制度にしておきながら、その良し悪しを議論するときに、人々が異なるモデルを心の中に置いて議論しているというのは、すれ違いになる危険性のほうが大きいのではないかという気がしてならない。少し考えていただきたいということで申し上げているが、今、整理がこういう方向に行くことを、改めて元に戻してくださいというようなことを申し上げているわけではない。

【有川部会長】
 こういった議論を通じて、基盤研究や若手研究に対するそれぞれの分野の人たちの考え方をお互いに理解しているというようにも考えることはできると思う。
 若手ということに関して、先ほど甲斐先生が言われたが、例えば40歳過ぎぐらいで特別推進研究に採択されたり、グローバルCOEのリーダーになったりしている人たちもいる。その人たちがいわゆる若手優遇をされたとはとても考えられない。そういう面も一方ではあると思う。
 それから、例えばこの大きな四角の中で言うと、若手研究(仮称)というようなことで、若い研究者がとにかく自分で独立して研究費をとってきて、研究をやれるというような構えをつくることは意味があると思う。そうして全体をすっきりさせておいて、その中で配慮すべきことがあれば、例えば実際にやってみた結果、特に高齢者のほうに傾いているということがあれば、それは是正しなければいけない。そういう意味では、先ほど申し上げたようなことで少し層を別にして、その間でもバランスがとれるようにすることは考えられるのではないかと思う。

【水野委員】
 理科系の事情がよくわからないので、この問題について私はあまり申し上げずにきたが、文科系の場合にはポストがあって、図書館に行ければ何とかなるというところがある。ただ、全部一本化して、後は研究の良し悪しの力関係で決めるという理屈はある種公明正大な市場原理ではあるが、私は法学者なので、市場原理に任せておいてはいけないところに手を出さなければいけない、是正をしなければいけないという発想で考えると、先ほどから言われている男女共同参画のような構造的にサポートしなければいけないところと、市場原理に任せておいたときに、その実態が実は自由ではないために不公正があるときには手を出さなければいけないという枠組みがある。それが私は少しわからないでいる。つまり、理科系の実態として、大学の社会が非常に古典的で、大先生のもとで研究室も非常に封建的なところで、大先生の方針に従わないような非常に新しいことをやりたいというときに、「君、そういうことじゃだめだよ」と言われてしまって、なかなか研究が進まない、実績が上げられないというような若い人に、外から全然まだ実績も何もなくてもチャンスを与えてあげて、それは当然むだがある程度出るとしても、一定の割合で当たりが出てきたときに、こんなに当たりましたといって独立の芽を出していくというようなニーズが本当にないのかということをお伺いしたい。
 大学に対して、スタートアップは組織がすべきだという意見は前回も強く言われて、それを事務局が受け入れたということはわかるが、こういうことについて私は非常に懐疑的で、大学の側に間接経費をこういうふうに使ってくださいなどということをいくら言っても、大学というのは目の前に引きずられて苦慮しているので、いろいろなことに使われていくだろうし、私が問題意識として持っていることは、一番みんなが共通して使うプラットフォームのところがすごく薄くなっていて、例えば文科系であれば、国立国会図書館の世話にならない人はいないと思うが、国立国会図書館を維持するような経費はどの競争的資金でも出ていない。例えばライフサイエンスの分野では、競争的資金でそれに近いような資料を確保するようなところを獲得してこなければいけないという問題があるし、そういうほんとうにプラットフォームのところを充実していくことが全体の基盤を上げると思っているが、間接経費というのは、大学の中のそういうプラットフォームの組織運営のところに使うことでいっぱいいっぱいである。むしろそこが足りないので、必死にとってきているのではないかと思うと、もちろん先生方が言われることは非常に正論であるが、この間接経費の優先的な使い方をメッセージとして口で言うだけではなく、何らかの具体的な構成を強制的にやるような仕組みも入れる必要があるのではないかと思う。したがって、これは細々とした質問で、理科系の社会の中では本当に自由競争に任せておいても、そんなに民主的なのかという疑問である。

【有川部会長】
 4つの系ごとに分かれて、さらに分科細目にきちんと配慮しながらやっているので、それぞれの分野の特殊な事情というのはきちんと反映されているのだと思う。その上で、若手という問題が理系と文系とでは異なるだろうし、理系のほうはこんな簡単に整理しきって本当に大丈夫なのかということであるが、その辺はいかがか。

【甲斐委員】
 今の答えは私もわからないので明確には答えられないが、マイノリティあるいは普通の競争原理ではやはり差別がある場合に助けることが必要だというご意見はよくわかる。
 先ほど小林先生が言われたように、この絵にしてしまうとすごく大きな転換のように見えるということも考えていた。ここに若手優遇措置で入るのが基盤研究(B)だけであるが、若手研究(B)は若手研究(仮称)のほうにシフトされ、若手研究(A)は基盤研究(B)に若手優遇措置で入るとすれば、例えば若手研究(S)も基盤研究(A)のところに入れて、私大等の調整というほどではなくても、ある程度しっかりした人数が採択されるということを公募要項に書けないか。ある程度、若手の枠があるというようなことは、マイノリティの救済ではないが、若手に対してある一定枠は託されることになる。例えば基盤研究(A・B・C)に応募するときに、それぞれの応募書類に「若」などをマークするところがあって、それをマークしたものはある一定の優遇の枠の中にも応募できる、自分はしたくないというのであれば丸をしなければいいので、堂々と戦いたいというのがあっても良いのではないかと思う。
 そのような書き方は水野先生がお詳しいと思うが、ある一定の枠をとるべきだというような書き方を要項に書いて、基盤研究(A・B・C)にそれぞれ枠をつくって、若手研究(S)も入れてしまう。つまり、若手の優遇はもちろん残すとして、基盤研究が大事なので基盤研究に一本化していくという考え方は成り立たないのだろうか。

【有川部会長】
 基盤研究(A・B・C)の中に実質的な若手枠のような入れ方もあり得ると思うが、一方で、そういうことをやると、審査などのときに、実際は自分の力で採択されていたとしても、若手枠で採択されたのだろうと言われることもあると思う。

【山口学術研究助成課長】
 優遇措置について、実際に審査をするときにどんな形でどういう手順でどういう負担になるのかというところをよく考えなければいけない。基盤研究はJSPSで審査されているが、先ほど小林先生が言われたように、若手の「若」と書いて丸をつけた結果、どのように審査が動いていくのかということをかなり時間かけて考えないと、できない制度をつくっても仕方がないと思うので、優遇措置の中身は少し時間をかけて考えないといけないのではないかという提案をさせていただいた。

【有川部会長】
 実際には年齢や、それに相当する情報は入っていたと思う。例えば基盤研究(B)などに応募して、採択のときに年齢でふるい分けられるというようなことであれば、単純な作業でできると思う。

【三宅委員】
 ある領域では若手の人が独立しにくい。それは上がしっかりして大きなものを行っているところで、そういう意味では恵まれた環境にいるから独立しにくいということも言えるかもしれない。それを全く孤立無援で、でも頑張らなければいけないというところでやっている人から見ると、大きな良い環境にいる人が若手として応募している場合も採択されやすいようにも見える。制度を別にして審査のやり方をはっきり明示したとしても、基盤研究で支えたいものがきちんと支えられていくとは限らない。多少は研究環境別の裁量のようなことをやらざるを得ないのではないかと考える。

【鈴木委員】
 いろいろな方針が何でこんなくるくる変わるのかということがよく理解できない。基盤研究(B)の中に若手を入れると、目に見えて次に起こってくる問題は、先生の名前で判断しているのではないかとの懸念から、そういう問題を避けるために覆面でやる必要があるかといったことを考えた。そういうことがまたどこかで忘れられているが、基盤研究に若手を入れたらまた同じような問題が出てくる。
 ある程度、今までまずかった点というのはどこかでキープしておかないと、いろいろなことがぐるぐる回っているような気がする。だから、何かどこか思想がないと、テクニカルにいじることだけでほんとうにやっていけるのかということが心配になってくる。

【有川部会長】
 まとめていただいたように流れがあってここまで来ているが、その中の一番大事な議論として、若手というようなくくり方がほんとうにいいのかということは、いろいろな形で皆さんが言ってこられたところである。
 それでは、事務局のほうでここまでの議論を少し整理していただいて、次回以降、また議論を続けられればと思う。
 それから、もう1つ議論しなければいけないことは、この図の中で言うと、特別推進研究と基盤研究(S)とを今一緒にくくっているが、この辺についてのお考えをお聞かせいただきたい。
 基盤研究(S)の額が1億円から2億円に大きくなったということで、基盤研究(S)については基盤研究(A・B・C)の並びではなく、むしろ内容的にも特別推進研究にかなり近いものになっているということで、ここで整理をまとめてみたらどうかということである。

【深見委員】
 まとめるという意味は、1つの研究種目にしてしまうという理解か。

【山口学術研究助成課長】
 まとめるというように申し上げている意味は、1つにしてしまうということではなく、基本的には2つで考えている。先ほど申し上げたように、今全く別の仕組みとして審査の書類あるいはスケジュールが別々に動いているが、例えばその2つのスケジュールを少しずらすことによって両方に応募できるというようなこと、あるいは審査書類を共通化することによって容易に両方に応募できるようにするとか、そういった形で、一体として、相互にもう少し連携を持たせて考えていくこともできるのではないかということで、こういう形で点線でまとめさせていただいている。

【小林委員】
 その際、1つポイントは、現在、特別推進研究は重複して応募できるので、基盤研究(S)と特別推進研究と例えば両方でヒアリングを受けるということが現実に起こっている。それを二度チャンスがあるのは良いことだと考えるのか、あるいはそうではないと考えるのか、そこは考え方が分かれる点だという気がする。

【甲斐委員】
 今までは、基盤研究(S)は基盤研究(A)の審査員が同じ形式で審査していたのではないか。今度は特別推進研究の形で審査しようということなのか。

【有川部会長】
 審査も実は、基盤研究(S)もヒアリングがあり、途中のプロセスでレビューを求めることをしないぐらいで、ほとんど同じになっているのではないかと思う。それから、特別推進研究の審査も今日本学術振興会のほうに移っているし、それも含めてかなり似たような格好になっている。ただ、応募する研究者側から言うと、小林先生が言われたように、今、基盤研究(S)も特別推進研究も両方とも応募できる格好になっているが、こういうくくり方をすると、重複制限というような規制も考慮し、どちらか一本になるというようなことはあるかもしれない。

【甲斐委員】
 今度は重複応募をできなくするということか。

【山口学術研究助成課長】
 今は同じスケジュールで動いているので、両方に応募するということになるかもしれないが、これは可能かどうかわからないが、完全にスケジュールをずらしてしまえば、重複ということは生じない。ただ、ヒアリング等を考えると、相当長期にわたって審査期間が要るので、全部を2つに分けるというのはなかなか難しいかもしれない。事務局として、重複する、あるいは重複をさせないということではなく、うまく連携して、例えば片方落ちたときにもう片方に応募できるということはできないだろうか、そういったことをもう少し議論して、詰めていただけないだろうかということで、1つのグループとして検討していただけないかという案を出している。

【甲斐委員】
 特別推進研究を獲得している方はもちろんのこと、基盤研究(S)を獲得している方も日本のトップの仕事をしている方たちなので、百十数件中三十数人という4分の1以上の方が重複応募をしているというこのチャンスを奪うのはいかがなものかと思う。だから、審査の形をうまくすることで、両方に応募してどちらかに採択されるというチャンスを2つあげることはキープしていただきたいと思う。

【有川部会長】
 重複のことは小林先生からご指摘いただいたので少し言ってみたが、審査のやり方とか規模とかが似通っているので、そこにまとめてみたということである。
 もう1つ、ご審議をいただかなければいけないことがある。科研費の研究成果を社会に還元していくための方策等ということで資料5がある。このことについて少し議論していきたい。

【鈴村委員】
 ここで提案されている話の中で1つ気になるのは、学術定期刊行物は学会が自助努力で出すものだということで、スタートアップのときはともかくとして、時限的にある程度行ったらストップする。これは経済学者であればおなじみの幼稚産業保護論のようなもので、そこまで行ったらともかく自分で離陸しろとなるが、学問の場合に、ある非常に小さな学会がやっている雑誌で、自助努力でそこまで行ったらビジネスでやれと言って、やれるところというのはそれほどあるとは思わない。私たちなんかは経済学で社会科学のほうで比較的マーケットに乗るとは思っているが、人文科学の方々は悲鳴を上げると思う。そういう事情も考慮に入れないと現実性を失う。この幼稚産業保護論のようなものが成立するのは、ある程度年数がたてばマーケット自体が拡張して、当初立ち上げのときにはできなかったことができるようになるということが前提となっている話であるが、学問の場合そうでないものもあって、それはそれで小さなものであっても、記録に残すことの価値があるということも認めないと、学問の中には成立する基盤を失ってしまうものもあるということは理解すべきだろうと思う。

【有川部会長】
 今のところは生産ベースにということよりも、むしろ最近のデジタル化とか、あるいはネットワークといった情報通信技術がしっかりしてきているので、その辺の技術をしっかり使うことによって、むしろそういった弱小学会等を支援することができると思う。
 ここの言葉使いで言うと、機関リポジトリのような格好のものをやると良いと思うが、いきなりそこに行くことは難しいと思うので、最初は今までの研究成果公開促進費等で支援をしていけば、その部分については独立して自力でやれるようになるだろうと思う。どんな学会であっても、現在、手書きで原稿を集められることはほとんどないと思う。おそらくワープロなり何らかの形で、原稿のデータが来るというように考えると、例えば画像等があったとしても、それは画像として機関リポジトリに置くことはできる。そういうことを何回かやっていって、そういったいろいろな学会に共通のプラットフォームのようなものができる。そうすると、投稿されて審査されて掲載が決まれば、自動的に論文集ができるという状況になる。そういう議論だったと思う。

【鈴村委員】
 社会科学の分野としてそれは十分理解するが、やはり異なる分野もあるようなので議論としては慎重にやっていただきたい。

【金田委員】
 私は今の鈴村先生のご発言に大変賛同したい。特に人文学の分野だと、一たん提示された成果がその次に利用されるまでのスパンが非常に長いケースがしばしばある。今の機関リポジトリというような考え方も、期間の保証とか検索の保証というのが十分にどこまでできるかというのはまだわからない。
 どうしても人文学というのは何十年というのが当たり前のケースなので、やはり今までの信頼の置ける紙媒体の雑誌のようなスタイルを、これは自動的に消滅していくと言われればそうかもしれないが、そのタイムスパンが相当長いので急速に変えるべきではないのではないかと理解している。

【有川部会長】
 これはまず電子的なデジタルなものを先につくって、それはネットワーク上にあるので、それを学会なりがプリントして、何部かきちんと保存しておくというようなことはごく自然にできる。そこのところはあまり心配しなくてもよいのではないかと思う。むしろそれよりいろいろなところで皆さんが見るので、読者層は増えるだろうし、その後様々に媒体が変わった場合にも対応できるのではないかと思う。

【水野委員】
 私も人文社会の領域は単なる情報ではない気がしてならない。形になった本というのは考古学の研究の対象物のようなところがあって、それを違う時代の人間がためつすがめつすることによって新しい発見があるようなところがある。ローマ時代の古文書とか、歴史をやっている人々というのは、何十年どころか何百年単位の本をそっと開いて、そこで発見をするということがあるし、それから、私のようなもっと現行法の実用法学の人間でも、やはり明治時代の文書というのを一から見て、そしてそこから発見するということがある。
 それから、我々の習慣として、電子的な情報で得た情報によって理解するということはあまりない。膨大な情報の海から信頼できるものを持ってくるというのではなく、形になった本や雑誌として市場に置かれて流通されるものによって広くみんなが共有するという文化は、そう簡単に変わらないだろうと思う。そして人文社会の領域は、手元に本を置いて認識して、一行一行読んでいくことによって全体を理解するという、人間のアナログの仕組みなり思考なりというのと相互に密接に絡んでいるところがあるので、理科系の先生方のように新しい情報が出てそれが得られればそれで良いというものとはまた少し異なる。紙媒体で手元に欲しいという気がする。

【三宅委員】
 いろいろなものがいろいろな形でいろいろなレーヤーであるということの利点が多分あると思う。原書を見て初めて書いた人が300年前に筆をどのぐらい立てて書いていたかは、やはりものを見ないとわからないという方もいるが、そういうものがあるかどうかということを誰かが探そうというときに、本は本で存在していて、一方で検索可能な状態でネットワーク上に載っかっているということによって、初めてアクセスが可能になる世界というものがある。今、人間研究系の雑誌であれば、雑誌に投稿されてきた論文については、少なくともアブストラクトはもう誰でもアクセスできる場所に上げてしまっていいのではないかと考える人たちも出てきている。誰が何をやっているかということがわかれば研究者同士の交換も可能になり、全体として質があがると考える人が多くなってきたからだろう。学会が大きければネットワークの上を探していくと、採用された論文について、紙面の制限のせいで載せられなかったもっと長い報告書や実際に使った電子的な材料などが全部ネットの上でに載っていて、同じものを追試したいという人がすぐ追試して見られるようなところもある。そうすると、レーヤーがたくさんあることによって情報は増えるが、増えてはいけないということは当面はないと考えると、そこの入り口をつけておくという方向で、公的支援ではその部分をむしろ支えるほうが正しい気がする。

【有川部会長】
 ここで今話をしているのは、例えば、古文書のようなものをデジタル化し、それだけですませるという話ではない。そういったものを対象にして研究された成果物や論文を印刷屋に出し、何回かの校正を経て、論文として出版されるというのが伝統的であろうが、そのプロセスは縮めようと思えば縮められるので、論文をデジタル化する作業に対する支援をしていくようにしてはどうかということである。そこから先は、印刷物が必要だということであれば、そこからのコピーというのは自宅でもどこでもできる。そのようなことが今可能な時期なので、どこかの印刷屋に出して何回か校正をしてというようなことに固執する必要はないのではないかということが1つの意見である。
 そういう技術もある状況なので、そういうことを視野に入れて、引き続き検討していけば良いのだと思う。

【金田委員】
 私はオールドファッションな人間だが、そういったデジタルでアクセスが容易なように情報をできるだけオープンにするということは、基本的に大賛成で全く問題ないし、そのようにやるべきだと思う。しかし、例えば、出版助成というような種類のものを考えるときには、少し大げさなことを言うと、日本文化全体のことも視野に入れておいていただきたいと思う。
 例えば英語で発信するというのは研究上極めて重要で、世界的な発信としての影響力も意味がはるかに大きいということは重々承知した上で言っているが、日本みたいに1国で1言語を支えているような文化というものが持つ意味と、例えば、複数の国々が同じような言語を使ってやっている文化というのとではその意味が異なるので、文化を支えるときの気構えと、それに対する投資や労力を惜しんではいけないと思う。少し異なることを申し上げると、例えばすべてが英語であれば、それで良いというものではなく、多少労力があっても日本語のバックグラウンドがあって、初めて成立しているものがたくさんあるので、そこを大切にしろというのと一緒である。
 刊行物についてもそうで、同じフラットでオープンでわかりやすいという部分を否定するものではないが、アナログ的に蓄積されてきて、実際にもまだ機能が残っているものに対する助成というものは、やはり積極的に考えるべきで、新しい方向というのはどちらかというと放っておいても行くものなので、むしろオールドファッションと思えるようなものが実は重要だということは考慮すべきだと思う。

【有川部会長】
 そのことに関しては、この7ページの研究成果公開促進費についての最初の○のところで、学術図書については非常に立派な図書が出版されていることをデータとともに見せていただいた。それはむしろ拡充の方向で検討したらどうかというまとめ方になっている。
 今議論しているのは、いわゆる中小規模の学会が出される定期刊行物について、今のままでいいのか。もう少し今の時代に即したやり方もあるのではないかというような問題提起である。これは一方で研究環境基盤部会の中の学術情報基盤作業部会で議論しているところである。そこでは、機関リポジトリやオープンアクセスは、電子ジャーナルの価格の問題も含めて、学術情報として研究成果の公表から流通の仕方について、この時代と今までの時代と全く同じでいいのかというような議論をしているところである。その議論も踏まえながら、この問題については引き続き検討していくということになると思う。

【中西部会長代理】
 ここの議論はいろいろな人のご意見が書かれているので、それらの個々の意見に対していろいろ申し上げるのはどうかとは思うが、論文誌や自然科学系の学会雑誌と、技術解説誌が混在していると思われる。論文誌や学会誌については国際的視点できちんと議論することが必要なものである。また、先ほどから言われている日本語で出す小さな総説や、学会単位での技術解説誌等は論文誌とはきちんと区別してサポートしていってほしい。つまり、学会の中で得られてきた知見をきちんと助成するようなスタンスを持っていただければ良いと思う。

【佐藤委員】
 成果とは関係ないが、当面、22年度の予算要求をしなければいけない。いろいろ議論があるが、要するに基盤研究(C)を増やすというのが1つの大きな目玉であるのに、あまりそのことが今日は議論されなかったと思う。次回の議論の前に、事務局は部会長と相談してできるだけ前広にコンセンサスが得られるようにまとめていかないと、科研費の予算をとり損ねてしまうような気がする。

【小林委員】
 予算ということで、去年は挑戦的萌芽研究で大幅な増額要求したと思うが、今年も増額要求する方針か。そのあたりも議論されていないような気がする。

【山口学術研究助成課長】
 まだ決まってはいないが、検討しなければいけないと思う。

【有川部会長】
 今日はかなりたくさんの議論ができたと思う。
 今、佐藤委員からもあったように、来年度の概算要求に乗せなければいけない部分と、引き続き検討しなければいけない部分と2つあると思う。次回は7月7日に予定されているので、そこでは一定の方向を出せる部分については出すようにしたいと思う。

(2)その他

 事務局から、次回の研究費部会は7月7日(火曜日)10時30分から開催予定である旨連絡があった。

(以上)

お問合せ先

研究振興局学術研究助成課