資料2-1 学術の基本問題に関する特別委員会作業メンバーによる論点の抽出・整理【概要】

1部 学術研究の意義と課題

 

1.検討に当たっての視点

   我が国が、今後とも国際社会をリードする国家として存立するためには、国家の「国際競争力」を高め、経済・社会的に価値のある知を生み出すという視点と、科学の「国際協調」を進め、人類の発展に貢献する知の創出の重要な役割を果たすという視点とのバランスがより重要となってきている。このような状況を踏まえ、確固たる方針の下、国民の理解と支持を得ながら、学術の振興を図っていくことが重要である。また、厳しい財政状況の中で、学術研究にかかわる者は、学術研究の意義や現状と課題、その振興の必要性について明らかにしていかなければならない。
 

 

2.学術研究の意義

(1)学術とは

    [1]学術の意義

     学術は、真理の探究という人間の基本的な知的欲求に根ざし、これを自由に追求する自主的・自律的な研究者の発想と研究意欲を源泉とした知的創造活動とその所産としての知識・方法の体系であり、その対象は人間の知的好奇心の及ぶものすべてにわたる。このような学術研究は、様々な場における人間の営みであるが、その中心となるのは、大学及び大学共同利用機関(以下「大学等」という。)である。

    [2]学術の法的な位置づけ

     「学術」という用語は、明治19年の帝国大学令の制定により大学制度が創設されて以来、諸学の総体を示す、我が国の学問を包括的に捉えたキーワードとして定着しており、現行の法律においても、教育基本法や学校教育法の規定に位置づけられている。

 

(2)学術研究の意義

    [1]学術研究の社会的役割

     学術研究は、それ自体が文化として優れた価値を有するのみならず、その成果は人間の持つ可能性を拡大させるとともに、我が国の国際競争力や文化力を高めるものである。

    [2]学術とイノベーション

     革新的技術などのブレークスルーをもたらし、経済・社会の変革につながっていく独創的・先端的な研究成果は、研究者が日常的に研究活動を行う中から意図せずして生まれることも多い。学術が脆弱化すれば、学術を基盤とする科学技術の発展もイノベーションの創出もありえないことを認識しなければならない。

    [3]学術と人材養成

     人材養成において学術が果たす役割は大きく、大学から企業の研究所に至るまで、研究者はすべて、大学で研究の基礎として学術研究を学んでいる。また、近年、退職後に大学の学部や大学院に入学して学術研究に取り組んでいる人々の姿も見られ、今後、少子高齢化がさらに進展していく我が国において、人間が学術に真剣に取り組むことの尊さを、社会全体が今一度積極的に評価していくことが必要である。

 

(3)学術研究の特性と振興に当たっての留意点

    学術研究の特性を踏まえ、研究者の自主性と研究の多様性を尊重すべきこと、学問の全分野にわたる均衡の取れた知的資産の形成・承継が必要であること、学術研究と教育機能との有機的な連携と総合的な発展が必要であることに留意しながら、学術の振興を図るための施策を講じるべきである。
 

3.学術研究をめぐる現状と課題

(1)国際的な研究活動の活発化と我が国の存在感の低下

    研究活動自体が複数国の絡む共同活動へと様相を変化させている中、各国の論文シェアを指標とした場合、研究分野によって状況は異なるものの、中国が頭角を現すとともに、学術研究の国際的な協調が進展していくにつれて、我が国の学術研究は、国際的な存在感という点で、他の主要国に比べて全体として低落傾向にあるのではないかと危惧される。

 

(2)存在感低下の要因と懸念材料

    [1]各国の研究開発投資の動向

     多極化する国際情勢の中、研究・開発を基盤としたイノベーションを政策的に推進する様々な取組が急速に広がっている。各国の研究開発投資は増加傾向で推移している一方で、我が国の伸びは、アメリカや中国に及ばない。また、政府の研究開発費の負担割合は諸外国よりも低くなっている。

    [2]学術研究基盤の脆弱化

     競争的資金や政策課題に対応したプロジェクト型の研究資金が増加する一方で、学術研究を支える基盤的経費が減少傾向にある中、大学等の研究施設・設備の維持や改修、運転経費に十分な費用を確保できない状況を指摘する声があり、大学図書館における図書館資料費はほぼ横ばい、図書館運営費は減少傾向にある。

    [3]研究支援体制の脆弱化

     研究支援者数の量的水準など、長年指摘されている脆弱な研究支援体制の改善は一向に図られていない。さらに、研究者が大学等としての評価に携わらざるを得ない中、研究に専念できる時間を十分に確保できないなどの課題が指摘されている。

    [4]科学研究費補助金の新規採択率の低迷

     基盤的経費が削減され、科学研究費補助金等の競争的資金の役割が増す中、我が国の学問や文化を支えてきた科学研究費補助金の増額は十分なものではなく、新規採択率も低迷している。

    [5]大学等のマネジメントの難しさ

     大学等への研究費の状況から研究資金不足、研究条件の格差拡大が結論づけられない状況で国民の十分な理解を得なければならない。また、大学等の基盤的なシステムが崩れている一因として、教育研究活動の向上や社会貢献に係る様々なサービスへの期待から大学等の財政支出や研究者負担が増加する一方にあることが考えられる。国は、それぞれの大学等における研究経費の配分状況等を検証することが必要であり、大学等における研究費の使用状況の透明化や適切なマネジメント体制の整備が求められる。

    [6]学術研究職の魅力の減少

     優れた研究者を継続的に一定規模確保していく必要があるが、不透明なキャリアパスや大学院へ進学する上での経済的問題等、優秀な学生が大学等での研究に進むことを躊躇するような状況が生じている。

 

(3)学術研究に対する国民の関心・理解

     現代では、大学等における学術研究は公財政支出によって支えられており、また研究成果と社会生活との関係も極めて密接となっている。国民の学術に対する信頼や学術研究の振興についての理解を得るため、学術研究にかかわる者は、学術研究の意義や現状と課題、その振興の必要性について明らかにしていかなければならない。
 

 

4.学術研究の振興の方向性

   我が国の学術研究が、今後、国際的な存在感を保ちながら発展していくため、1.世界的に魅力のある学術研究拠点の形成、そのための2.学術研究の基盤的なシステムの維持・強化、及び3.世界で活躍できる研究者の育成、さらに4.新たな学問の発展に向けた取組の充実について検討を進めることが必要である。また、これらの前提として、5.国民の学術研究の振興に対する理解と支持の獲得が基本となる。
 

 

 

2部 学術研究の振興に向けた具体的施策

 

1.世界的に魅力のある学術研究拠点の形成

   一部の大学に限られない総体的な研究の層の厚みと幅を形成するとともに、積極的な発信を通じて学術研究における国際的存在感を高めていく必要がある。我が国において国際的に魅力ある学術研究拠点が形成されることで、国内外の研究者が我が国に集って研究活動を行い、優れた研究成果が生まれることが期待される。

【考えられる具体的方策の例】

[1]世界的に魅力ある学術研究拠点の形成に必要な研究支援体制の整備

   国は、各分野の中核となる(なり得る)研究拠点や特色のある研究組織を対象として、研究資金の提供のみならず、必要な研究体制を整備するための支援を行う。

[2]研究者コミュニティの意向を踏まえた大型研究の推進

   国は、研究者コミュニティの意向を踏まえ、国際的な連携も検討しつつ、世界の科学を先導する大型研究を積極的に支援する。

[3]我が国の学術研究の魅力の発信

   国は、学協会の積極的な国際発信の取組や国際学会の開催などの取組を支援する。
 

 

2.学術研究の基盤的システムの維持・強化に向けた支援の充実 

   我が国の学術研究の持続的な発展のため、多様な基礎研究の主な担い手たる大学等への積極的な投資や、より多くの研究者への研究機会の確保などにより、学術研究の全体的な水準の維持・向上を図る根幹となる基盤的なシステムの維持・機能向上を図る必要がある。

【考えられる具体的方策の例】

[1]学術研究の基盤的なシステムを維持・強化するための財政支援

   国は、大学等の基盤強化を図るため、基盤的経費の充実を図り、確実に措置するとともに、大学等に対する寄附や共同研究等についての税制上の優遇措置について検討する。また、競争的資金については、マルチファンディングの仕組みを整理・構築し、各制度の採択率や採択件数の見直しを行うとともに、大学等において、研究者がより研究に専念できるような運用を促進する。

[2]研究施設・設備の整備

   大学等は、それぞれの設置基準や労働安全衛生の基準を守り、教育研究環境の整備に努める。国としても、具体的な整備目標も含めた計画を策定する。

[3]大学図書館の充実

   大学等は、大学図書館機能を充実させるとともに、大学図書館職員の専門性の向上に取り組む。特に電子ジャーナル等の効率的な整備を図る方途について検討する。また、国は、図書館設備の整備や貴重書等資料の電子化等の支援を行うとともに、オープンアクセスを推進する。

[4]共同利用・共同研究体制の推進

   国は、大学共同利用機関や共同利用・共同研究拠点に重点的な予算配分を行い、高度研究支援人材の配置や、研究設備や資料等の共同利用を促進する取組を支援する。また、利用目的が終了した設備・機器などの移転・貸与を推進する各大学等の取組を支援する。

[5]研究評価・大学評価の改善

   国、ファンディング・エージェンシー、大学は、競争的資金の申請・評価やピアレビュー等の在り方について、それらが研究に果たす役割を踏まえながら、研究者に過度の負担がかからないよう、それぞれ配慮する。国は、大学評価について、各大学等の負担を軽減しつつ、競争的な環境の醸成や研究の多様性の確保を促進する機能を果たすよう検討する。

[6]学協会の機能の強化

   学協会は、その機能強化に向けた取組を進めるとともに、研究者の活動等によって得られた知見や成果を社会に還元するためのコミュニケーション活動や、それを担う人材養成等を進める。    

[7]各大学の財務マネジメントの強化

   大学は、学内の研究経費の配分の実態を把握し、研究分野の特性や研究手法の相違等を考慮した配分への改善を図りながら、厳しい財政状況の下でマネジメントを確立する。
 

 

3.世界で活躍できる研究者の育成

   世界で活躍できる資質を持つ優秀な研究者を一定規模育成するため、体系的な人材育成施策のほか、大学院生やポストドクター個人の熱意に依存しない、彼らのインセンティブを確保するための取組が必要である。また、アカデミアの研究者を志す者がそれ以外で専門性を活かす機会が得られるようなセーフティ・ネットの用意も重要である。

【考えられる具体的方策の例】

[1]初等中等教育段階の取組

   国や地方公共団体は、広く子どもが科学に親しむことができるような取組を推進するとともに、国は、優れた才能を早期に発見し、伸ばす取組を推進する。

[2]大学の学部・大学院に関する取組

   国は、大学の公的な質保証システムの制度・運用についての改善を検討する。また、大学院生に対する経済的支援について、各制度の目的・趣旨を踏まえながら充実を図る。大学等は、質の高い学生を確保するため、適切な定員数を検討しながら、大学院入試の改善を図る。また、国際的な共同教育プログラムを通じて魅力的な教育プログラムを構築するとともに、専攻や研究科等の組織・分野を超える連携を通じて大学院教育の充実を図る。

[3]若手研究者、ポストドクター等への支援

   国は、ポストドクターのアカデミックポスト確保につながる大学の取組への支援、ポストドクターが自立した研究者となるための支援を行う。また、国は、企業が必要とする研究能力を明確化するよう促し、大学等と企業が協力して、アカデミアとノンアカデミアを超えた博士号取得者のキャリアパスの明確化や異動の柔軟化・双方向化を図る。さらに、国は、若手研究者の海外渡航に対する積極的な支援を行う。

[4]女性研究者等への支援

   国は、大学等における女性研究者等のための環境整備を支援する。さらに、女性研究者の活躍促進に当たって、数値目標の設定など具体的な計画を示し、一層の取組に努める。大学等は、障害のある研究者が働きやすいよう、施設のバリアフリー化を進める。
 

 

4.社会問題の解決や新分野の創出など新たな学問の発展に向けた取組の充実

   学問の発展には、社会や人類の課題の解決等を目指し、分野横断的なアプローチを用いて新たな知を創出するといった新たな展開も必要である。改めて、研究者が新しい知を創出するための仕組みを構築していくことが必要である。

【考えられる具体的方策の例】

   国や独立行政法人は、異分野融合型、学際型の研究について、研究テーマの設定や公募方法等について検討しながら、研究資金の提供などにより積極的に推進することに努める。共同利用・共同研究拠点、大学共同利用機関は、それぞれの機関の目的や特色に応じて、異分野融合や学際型の研究を推進する。
 

 

5.学術振興政策の明確な位置づけと学術に対する国民の信頼と支持の獲得

   今後、我が国が科学技術創造立国、教育立国、文化立国として存立するには、学術振興の視点を中心にして文教科学政策を進めていかねばならない。また、学術研究の推進には国民各層の信頼と維持が欠かせないため、研究者や大学は、社会とのかかわりの中で、研究の意義や内容について積極的に社会へ発信していくことが求められる。

【考えられる具体的方策の例】

[1]学術政策の明確な位置づけ

   国は、科学技術基本計画や教育振興基本計画の策定やそれらに基づく取組の推進に当たって、学術の意義を踏まえる。また、国は、卓越した研究者の知見を取り入れながら運営を行っている独立機関が、学術全体の方向性を示すような機能を果たすべく、必要な組織・体制を整備し、活動を行うことについて検討する。

[2]学術と社会の対話の促進

   大学や研究者は、組織的、自発的に国民・社会とのコミュニケーションを推進し、研究活動やその成果に対する理解を得るよう努める。また、国は、博物館や美術館、科学館等による学術研究成果の国民への発信を積極的に支援するとともに、これらの機関や、産業界、大学、研究者等との連携を促進する。

 

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