資料2 学術の意義・社会的役割について

学術研究の意義・社会的役割について (論点メモ)

  1. 大学等における学術研究にはどのような意義や役割があるか。
  2. 学術研究の意義や公財政支援の必要性について、社会の理解を得るためにどうすべきか。
  3. 「学術研究」と「基礎研究」、「基礎科学」、「研究者の自由な発想に基づく研究」などとの関係をどう捉えるか。
  4. 科学技術基本計画の中で学術研究をどのように位置づけるべきか。

※これらの論点の検討を進めるに当たっては、科学技術基本計画や国立大学等の法人化など大学の研究に関わる最近の政策動向の中で、学術研究の全般的な現状及び課題に関する問題意識も視野に入れ、あわせて議論していくこととしてはどうか。

<議論の切り口として、>

  • 競争と重点的支援
  • 研究基盤(インフラを含む)の確保
  • 評価の問題
  • 人材育成
  • 大学のマネジメントと研究環境
  • 分野間の差異 など

学術研究の意義・役割について

学術キーワード

 

 主に学術研究の意義に関するキーワードを収集したもの。

 (学術審議会/分科会答申等を対象に、事務局にてピックアップ。)

 

自由な発想、研究意欲、好奇心、自由闊達、自主性、学問の自由、基礎研究 独創的、先端的、創造的/性、先導的、普遍的、多様性、画期的、国際的、人類共通、知的資産、蓄積、知的創造、知的活動、知的共有財産、英知、体系付けられた知識、承継、発展、大学、未来を切り拓くブレークスルー、知のフロンティア、知的存在感のある国、未知なるものの探求、真理の探究、 分析や総合の方法論の確立、人類の/国家的/文化/社会/経済発展/ 精神的基盤、文化的側面/価値、社会貢献、科学技術の中核、研究者養成、課題解決、豊かさ、人文・社会科学から自然科学までのあらゆる学問分野、中・長期的観点、基盤的、競争的

 

 

学術審議会等の提言における学術の意義についての指摘

 

○ 学術振興に関する当面の基本的な施策について(第3次答申)(昭和48年10月31日)

 1.学術研究をめぐる一般的動向と学術振興の基本的考え方

  1.学術研究特に基礎研究のもつ意義
   基礎研究を中心とする学術研究は、未知なるものの探求を目指すものであって、人間の知的活動の源泉をなすものである。その活動は、絶えず新たなフロンティアを切り開き、人間の持つ可能性を拡大してきた。そしてその成果は、体系づけられた知識として現代科学を構成し、人類共有の資産として蓄積されるとともに、応用化・技術化を通じて我々の生活に大きな便益をもたらし、現代社会の繁栄を支える基盤となってきた。

 

○ 学術研究体制の改善のための基本的施策について(答申)(昭和59年2月6日)

 1.学術振興の方向について

  1.学術振興の基本となる考え方
   学術研究は、国家社会のすべての分野の発展の基盤を形成するものであり、その振興方策を講ずるに当たっては、長期的観点に立ち、かつ、幅広い視点をもつことが不可欠である。学術研究の振興を図るに当たっては、次の諸点を基本とすべきである。

 (1)学問の全分野にわたる基盤の形成
   大学(国立大学共同利用機関等大学と同様の性格を有する研究機関を含む。以下同じ。)は、学術の中心として人文・社会科学及び自然科学の広汎な領域の全体にわたり学術研究を発展させることにより、我が国の学問的基盤の確保と水準の維持向上を図ることを使命としている。 

      したがって、学術研究の振興を図るに当たっては、常に各領域にわたる発展とこれを支える基盤的な研究条件の整備に十分配慮する必要がある。

 (2)研究者の自主性の尊重
   学術研究は、長期的観点から、基礎的なものの地道な積上げの上に立って未知なるものの探求を目指すものであり、独創性豊かな新しい知見を生み出すことを本質としている。

      このような研究は、本来研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として初めて優れた成果を期待できるものであり、学術研究を推進するに当たっては、研究者の自主性を最大限に尊重することが不可欠である。

 (3)研究と教育の一体的推進
   大学は上記(1)のような幅広い分野の研究とともに、これと不可分一体のものとして優れた研究者をはじめ多方面の人材の養成を使命としている。したがって、大学における学術研究は人材養成との関連について十分な配慮を払いつつ、これと総合的に推進されて初めてその真の効果を発揮し得るものである。

 

○ 学術研究振興のための新たな方策について-学術の新しい展開のためのプログラム- (建議)(平成元年7月19日)

 1.学術研究の在り方と学術研究をめぐる動向 

   学術研究は、人文・社会・自然科学のあらゆる学問分野における幅広い知的創造の活動である。それは真理の探究という人間の基本的な知的欲求に根ざし、新しい法則、原理の発見、分析や総合の方法論の確立、既成のあるいは新しい知識や技術の体系化、先端的な学問分野の開拓などを目指している。このような学術研究の成果は、人類の知的共有財産として、文化の知的側面を形成するとともに、応用化、技術化を通じて、日常生活を支え、これを豊かにする役割を果たし、人類社会の発展の基盤を形成するものとして重要である。

 

○ 21世紀を展望した学術研究の総合的推進方策について(答申)(平成4年6月15日)

 1.学術研究推進の方向

   学術研究は、真理の探究を目指して行われる人文・社会・自然科学のあらゆる分野にわたる人間の自由な知的創造活動であり、人類文化の新しい展開や社会の発展の基盤をなすものである。また、国際的にも創造的な学術研究の重要性にかんがみ、21世紀を展望してその飛躍的発展を図ることが我が国にとって不可欠な課題である。その際、学術研究の特質から見て、次の諸点を基本とすることが必要である。

 (1)人類共通の知的創造活動としての学術研究
   学術研究は本来普遍的な意味を持つ知的創造活動であり、その成果は、人類の未来を拓くための知的基盤を構築するものである。

      我が国の学術研究水準は、近年、着実に向上し、多くの分野において高い水準に達し、世界の第一線の研究が行われている。我が国の学術研究水準の向上と国際的役割の増大に伴い、創造的な学術研究の推進に通じて人類の知的基盤の構築に貢献することが強く求められており、世界の学術の発展に積極的に貢献する必要がある。

 (2)学術研究の動向に配慮した研究基盤の形成
      近年の学術研究においては、研究の専門分化・高度化が進む一方で、関連分野の総合的研究や学際的研究が重要になっており、人文・社会・自然科学の調和のとれた総合的発展の必要性も高まっている。さらに、科学の急速な進展に伴い、科学と人間・社会、あるいは地球環境との調和を図る必要が一段と高まっている。科学は、本来、人間性の豊かな発露であるとともに、人間・社会に貢献するものであることを認識し、人間尊重という原点に立って、その推進を図る必要がある。

   こうした学術研究に対する多面的な要請に配慮し、その推進に当たっては、全分野にわたる研究基盤の形成を図るとともに、学術研究の動向に配慮しつつ、必要に応じ施策を重点的に進めることが大切である。

 (3)研究者の自主性の尊重と社会貢献への期待
   学術研究は、本来、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として優れた成果が期待されるものであり、学術研究を推進するに当たっては、研究者の自主性を尊重することが不可欠である。その結果得られた独創的な研究成果を次世代に伝えることが、研究者にとって社会からの期待にこたえる基本である。

   それと同時に、研究者は、地球環境問題への対応など学術研究に対する社会的要請にも積極的にこたえ、その中から本質的な学術研究課題を新たに見出すなどの努力を通じ、社会的貢献を積極的かつ能動的に果たすことが期待されている。

 (4)研究と教育の総合的推進
   大学は、学術研究の中心として幅広い分野の研究を行うとともに、これと不可分のものとして学生に対する教育を行い、優れた人材の要請を図ることを使命としている。これらの活動は、具体的には大学を構成する学部、大学院、研究所等の教育研究組織によって行われているが、これらの教育研究組織の果たしている現実の機能や役割は、当該組織の設置目的等により多様なものがあり、教育と研究のいずれに重点が置かれるかについても、おのずと濃淡がある。こうした多様性に配慮しつつ、大学における学術研究と教育は、全体としては両者の均衡が保たれるよう総合的に推進される必要がある。

 

○ 卓越した研究拠点(センター・オブ・エクセレンス)の形成について(建議)(平成 7年7月20日)

 はじめに

   学術研究は、真理の探求という人間の基本的な欲求に根ざした、人文・社会科学から自然科学に至る幅広い知的創造活動である。また、その成果は、人類の文化の発展に貢献する知的共有財産であるとともに、その応用化・技術化を通じて日常生活を豊かにし、人類・社会発展の重要な基盤を形成するものである。

   特に、創造的学術研究は、変革の時代を迎えた人類・社会の発展を支える基盤として益々重要な役割を果たすことが期待される。こうした状況に近年における我が国の学術の進展と経済の発展が加わり、創造性豊かな先導的学術研究の一層の展開が、国際的な立場からも我が国に強く要望されている。

 

○ 21世紀に向けての研究者の養成・確保について(建議)(平成8年7月29日)

 1.研究者の養成・確保についての基本的視点

  1 研究者の養成・確保のための方策強化の必要性

   学術研究は、真理の探求という人間の基本的な知的欲求に根ざす創造活動であって、学術研究によって得られた成果は、人類共通の知的資産として、国家・社会のあらゆる分野の発展の重要な基盤となり、原動力となる。こうした知的創造活動としての学術研究の果たす役割は、21世紀においては一層増大するものと考えられ、それ故に学術立国を図ることが我が国の将来にとって極めて重要な目標となろう。さらに学術研究は、文化的側面を持つとともに、普遍的、国際的な性格を有するため、国際社会の中で信頼と尊敬を得るためには、国の学術研究水準が国際的に十分高いことが重要であると考えられる。

 

○ 学術研究における評価の在り方について(建議)(平成9年12月9日)

 1.評価の基本的考え方

  1.学術研究の意義と使命

   学術研究の中核的担い手である大学及び大学共同利用機関(以下「大学等」という。)は、広く人文・社会・自然の諸科学にわたる様々な分野において蓄積されてきた人類の知的資産を正しく継承しつつ、それを新たな知的創造活動によって発展させること、及びその研究成果を踏まえた教育活動によって人材を育成すること、並びにこれらを通じて国家社会及び国際社会の発展に貢献することを使命としている。

   このような使命を担う大学等の学術研究は、それ自体優れた文化的価値を形成しており、国の文化を発展させ、ひいてはその国際的地位を高めるなど、国家社会発展の重要な基盤・原動力となっている。また、学術研究は、各方面の人材養成をはじめ、広範な社会諸分野の活動の知的・精神的基盤として大きな役割を果たすとともに、科学技術の発展の基盤として、産業の発展・創出、国際競争力の向上、地球的規模の課題の解決、国民生活の向上などに貢献している。

    このような意義を有する学術研究は、研究者の自由闊達な発想と研究意欲を源泉として展開されることによって、初めて優れた成果を期待できるものであり、大学等における研究に学問の自由が保障されているのも、そのためである。

      大学等の研究者は、自由な研究環境の保障が、大学等がその使命を全うするために必要なものであることを自覚し、自らを厳しく律して研究を推進することが望まれる。同時に、以下に述べる学術研究における評価の在り方を踏まえた、評価の定着と社会への情報発信に努めることが望まれる。

 

○ 科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について
     -「知的存在感 のある国」を目指して-(答申)(平成11年6月29日)

 第1章 学術研究の意義と目指すべき方向

 1.学術研究の意義

 (1)文化・文明の基盤となる学術研究

 (ア)大学等(大学及び大学共同利用機関をいう。以下同じ。)を中心に行われる学術研究(以下、単に「学術研究」という。)は、人文・社会科学から自然科学にまで及ぶ知的創造活動であり、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として真理の探究を目指すものである。その成果は、人類共通の知的資産を形成するとともに、産業、経済、教育、社会などの諸活動及び制度の基盤となるものであり、また、人間の精神生活の重要な構成要素を形成し、広い意味での文化の発展や文明の構築に大きく貢献するものである。   

 (イ)このように学術研究は、社会・国家の存続・発展の基盤となるものであり、その振興は国の重要な責務である。また、未知なるものの探究、すなわち知のフロンティアの開拓は、一国の枠を越えて人類全体への貢献が期待されるものでもあり、国際社会でしかるべき役割を果たす観点からも、国が中心になってその振興に努めるべきものである。

 (2)21世紀の新しい文明の構築に貢献する学術研究

  ① 20世紀の文明を支えた学術・科学技術

 (ア)学術研究は、基礎研究から産業・経済の発展につながる実用志向の研究まで幅広く包含しており、科学技術の中核をも成している。また、学術研究は、新しい法則や原理の発見、分析や総合の方法論の確立、新しい技術や知識の体系化、先端的な学問領域の開拓などを目指して行われ、その成果は、科学技術の発展の基盤となっている。

 (イ)先進諸国を中心に20世紀の人類の福祉の飛躍的な向上を可能にした点において、科学技術は今世紀の文明を支えてきたものとして、高く評価されるべきものである。他方、効率性追求、大量生産、大量消費、大量廃棄などの言葉とともに想起される「20世紀型科学技術」からもたらされた負の面も目立つようになっており、様々な問題が生じている。これらを背景に、20世紀は、人類の歴史において功罪両面から特異な世紀となっている。温暖化現象、酸性雨、オゾン・ホール、砂漠化などの地球環境問題やエネルギー・資源問題 などの顕在化、深刻化とともに、「20世紀型科学技術」を基盤とする文明は、環境も含め地球上の資源が有限で、場合によっては回復不可能なものであること、また、従来型の発展は限界に近づいていることを人類に認識させるに至っている。

 (ウ)また、このような「20世紀型科学技術」からもたらされる負の側面が、人々の学術・科学技術への不信感を誘発する状況も生じている。また、学術・科学技術の高度化・専門分化等により、一般の人々の無関心が助長されている。このため、学術・科学技術に対する人々の信頼と関心を確保するための新たな取組が必要になっている。

   ②21世紀の新しい文明構築のための学術研究   

 (ア)21世紀の学術研究及びそれを中核・基盤とする科学技術は、「20世紀型科学技術」のもたらした文明の行き詰まりを克服し、新しい価値観の下に我が国の発展、更には世界・人類の発展を期して、新たな文明の構築に貢献することを目指すものでなければならない。

 (イ)平成7年11月に制定された科学技術基本法においても、「科学技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、我が国における科学技術の水準の向上を図り、もって我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的とする。」としており、我が国が、今後、科学技術を国の発展そして世界・人類の発展への貢献の基盤に据えていこうとする姿勢を打ち出している。

 (ウ)21世紀の学術・科学技術が新たな文明の構築への貢献を目指すに当たっては、次のような観点が重要である。

   ・ 21世紀においても、我が国が20世紀に到達した経済面、生活面等の水準を維持し、更に適正な範囲内で一定の発展を図ることは重要である。しかし、経済のグローバル化に伴うメガコンペティション(大競争)の拡大、産業の空洞化、人口構成の高齢化など、我が国が直面している課題を踏まえると、この到達水準を維持することも楽観視できる状況ではなく、新たな発展のためのフロンティアを拡大する学術・科学技術の役割が一層重要になる。

   ・ 科学技術の発展とその応用が地球環境問題等を引き起こしたことは事実であるが、他方で自然等と調和した、いわゆる持続的発展を支えるのも科学技術である。今後重要なことは、自然等との調和を内包する持続的発展に適した、言わば「21世紀型科学技術」及びその中核・基盤となる学術研究を推進することである。

   ・ 人間の物質的欲望を充足させ続けるには限界があり、人間と自然等が共存する中で、精神的充足感により重点を置いた価値体系である「新しい豊かさ」を目指すことが必要になっている。このような新たな価値体系の構築には、人文・社会科学から自然科学に至る英知を結集することが必要であり、この観点からも学術研究の貢献が期待される。なお、健康の増進や新しい感染症を含む疾病の予防・克服、自然災害の防止や被害の軽減、国や社会の安定など、広い意味での健康と安全の確保も、この「新しい豊かさ」の重要な要素であることに留意しなければならない。   

   ③先導的・独創的な学術研究推進による「知的存在感のある国」の構築   

 (ア)「21世紀型科学技術」を発展させ、「新しい豊かさ」を目指す価値体系を構築するためには、人文・社会科学と自然科学を統合した研究も含め、先導的・独創的な学術研究を推進しなければならない。

 (イ)我が国は、明治以降主として欧米の学術研究の成果を吸収し、経済社会の発展に応用するという傾向にあった。戦後の我が国は、独自の学術研究の成果も多く生みだしてきたが、全体としては、欧米から数多くの基礎的あるいは独創的な研究成果を導入し、その応用化や製品化等により産業を発展させ、世界有数の経済発展を遂げてきた。一定の経済的豊かさを達成した我が国は、21世紀において学術研究の先端を切り開き、人類の知的体系の発展に貢献するという姿勢を示すべきであり、世界の我が国に対する期待も政治・経済面以上に学術・文化面での貢献に向けられると考えられる。   

 (ウ)我が国は、今こそ先導的・独創的な学術研究を推進させることにより、新たな文明の構築に貢献し、優れた学術や文化が日本から生み出されていると世界の人々に受け止められる状態、言わば「知的存在感のある国」を目指すべきである。

 (エ)また、我が国が「知的存在感のある国」となるためには、優れた学術研究を推進することを基本としつつ、その研究成果、研究者・研究機関に関する情報を積極的に海外へ発信することが重要である。そのためには、研究者、研究機関・学会等が海外の各種情報媒体を活用することも含め、このような情報を組織的かつ戦略的に発信することが大切であり、国等も積極的な支援を行う必要がある。

  

○ 学術研究における評価の在り方について(報告)(平成14年2月14日)

 1.基本的考え方

 (1)学術研究の意義と評価の基本理念

   大学等における学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として行われる知的創造活動であり、人間の精神生活を構成する要素としてそれ自体優れた文化的価値を有するものである。その成果は人類共通の知的資産となり、文化の形成に寄与する。また、多様性を持った学術研究が幅広く推進される中から、未来社会の在り方を変えるブレークスルーを生み出すなど、国家・社会発展の基盤ともなるものである。

 

○ 研究の多様性を支える学術政策(報告)(平成17年10月13日)

 第1章 多様な学術研究の総合的な推進

 1.学術研究の今日的意義

   大学等を中心に行われている学術研究は、人文・社会科学、自然科学からその複合・融合分野にまで及ぶあらゆる学問分野を対象とする、個々の研究者の自由な発想と知的好奇心・探求心に根ざした知的創造活動である。

   すなわち、学術研究とは、我が国が「文化芸術立国」を目指す中、文化芸術の発展・振興にも寄与する、人類の幸福に資する知の体系であり、国の知的・文化的基盤であるとともに、人類共通の知的資産を築くものである。21世紀は知を基盤とする社会(knowledge-based society)となり、の時代とも、「知の大競争時代」とも言われているが、その場合の「知」とは、絶えず更新され発展し続ける多様な英知の集積体であって、学術研究は裾野に広がりを持った重厚な知的ストックの形成に中心的な役割を果たしているのである。

   ことに、物的資源に乏しい我が国においては、中長期的な視点に立って、独創的・先端的な学術研究活動により多様な知を創造し、重厚な知的ストックを構築していくことは国家存立の基本と言える。この重厚な知的ストックこそが経済・社会の力強い発展の源泉となる。

   時流に流されない継続的な研究から多様な知的ストックが構築されて初めて、突発的な事件・事態にも速やかに対応できる底力となるのであり、危機に強い社会を創るという知による安全保障の観点も考慮されなければならない。

   さらに、教育と研究を一体として推進している大学等においては、学術研究の発展が現代社会で求められる多様で高度な教育を実現するために不可欠である。また、学術研究の成果を広く初等中等教育にまで還元することによって、小中学校段階から知を基盤とする社会を担う優れた人材を育成することができる。

   このような中、現在の課題の解決、未来への先行投資、そして、現在・将来を支える人材の育成という観点から、学術研究は多くの国民から大きな期待が寄せられている。

 

○ 人文学及び社会科学の振興について(報告)(平成21年1月20日)

 はじめに

   人文学及び社会科学とは、「実証的」な方法に基づいた分析による説明とともに、「対話的」な方法を通じた総合による理解を目指す知的営為と言ってよい。そして、このような知的営為には、「実践的な契機」が内包されており、社会との対話を通じて、人間や文化、そして社会を変革する効果をもたらすはずである。このような特性を踏まえ、諸施策を検討することが重要であると考える。

     これまで人文学及び社会科学に対しては、成果が見えにくいとか、そもそも何を明らかにしたのか分かりにくいといった理解の不足があったように思う。「報告」では、社会の選択を通じて成果が受容されるという成果還元のプロセスを示した。人文学及び社会科学の成果は、何かの役に立つという道具的な性格を持つというよりも、「理解」の共有という対話的な性格を有している。したがって、このような性格から、人文学及び社会科学は、多様性を前提としつつ人々の間に共通の理解を促すという意味で、文明の形成に大きな貢献を果たしているのである。

 

(参考) 「科学技術基本計画」における基礎研究の意義の指摘について

 

○ 第1期科学技術基本計画〈平成8年閣議決定〉

「物資の根源、宇宙の諸現象、生命現象の解明など、新しい法則・原理の発見、独創的な理論の構築、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究の成果は、人類が共有し得る知的資産としてそれ自体価値を有するものであり、人類の文化の発展に貢献するとともに、国民に夢と誇りを与えるものである。」

「社会的、経済的ニーズに対応した研究開発や知的好奇心など研究者の自主性に基づく基盤的な研究活動を効果的、創造的に推進できる研究開発環境の整備が必要である。」

 

○ 第2期科学技術基本計画〈平成13年閣議決定〉

「研究者の自由な発想に基づき、新しい法則・原理の発見、独創的な理論の構築、未知の現象の予測・発見などを目指す基礎研究は、人類の知的資産の拡充に貢献し、同時に、世界最高水準の研究成果や経済を支えるブレイクスルーをもたらすものである。このような基礎研究を一層重視し、幅広く、着実に、かつ持続的に推進していく。」

 

○ 第3期科学技術基本計画〈平成18年閣議決定〉

「多様な知と革新をもたらす基礎研究については、一定の資源を確保して着実に進める。

人類の英知を生み知の源泉となる基礎研究は、全ての研究開発活動の中で最も不確実性が高いものである。その多くは、当初のねらいどおりに成果が出るものではなく、地道で真摯な真理探究と試行錯誤の蓄積の上に実現されるものである。また、既存の知の枠組みとは異質な発見・発明こそが飛躍知につながるものであり、革新性を育む姿勢が重要である。」

「基礎研究には、人文・社会科学を含め、研究者の自由な発想に基づく研究と、政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究があり、それぞれ意義を踏まえて推進する。すなわち、前者については、新しい知を生み続ける重厚な知的蓄積(多様性の苗床)を形成することを目指し、萌芽段階からの多様な研究や時流に流されない普遍的な知の探求を長期的視点の下で推進する。一方、後者については、次項以下に述べる政策課題対応型研究開発の一部と位置づけられるものであり、次項2.に基づく重点化を図りつつ、政策目標の達成に向け、経済社会の変革につながる非連続的なイノベーションの源泉となる知識の創出を目指して進める。」

 

「学術研究の意義と特質」

 「学術」は,法律上,人文科学及び自然科学,並びにそれらの応用の研究であると定義されている(文部省設置法第5条第7項)。それは,哲学,文学など狭義の人文科学,社会学,経済学などの社会科学から,物理学,化学,生物学,工学,医学,農学などの自然科学にいたるあらゆる学問の分野における知識体系とそれを実際に応用するための研究活動を意味するものと解される。その意味において「学術」は,法科学の全体を指すものと解して差し支えあるまい。学術研究とは,それらの領域における幅広い知的創造の活動をいうものである。

 学術研究は,このように幅の広い活動であるが,もともと真理を追求するという人間の基本的な知的欲求に根ざすものであって,新しい法則,原理の発見,分析や総合の方法論の確立,既成の或いは新しい知識や技術の体系化による新たな学問分野の開拓などの面に,その中心的任務があるというべきである。そして,学術研究の成果は,人類の知的共有財産として,それ自体,文化的価値を形成すると同時に,応用化,技術化を通じて,われわれの日常生活を支える物質的基盤を提供する役割をも果たしている。

 このような性格をもつ学術研究は,本来,研究者の自由闊達な発想を源泉として展開される、ことによって優れた成果を期待できるものであって,そうでなくては,真に独創性豊かな,従って飛躍的な波及効果を生む可能性のある研究は進展しない。学問の自由という理念が,近代社会における一つの基本的な社会的規範として定着しているのも,長い目で見た場合,それが人類社会の発展にとって,極めて有益であるという歴史的体験の所産といってよかろう。自由な知的探究の場である大学が学術研究の中核と規定され,特に学問の自由が強く保障されるのも,このような意味合いによるものである。 

学術は,また教育と密接な関連をもっている。現代の教育は,いわば,先人の学術研究の成果の上に立って行われているといってよい。特に大学段階の教育は,それぞれの学問分野における最先端の研究成果を教授することに,その目標を置くのであるから,学術研究と表裏する関係に立つ。

 

出典=「我が国の学術」(昭和50年8月文部省学術国際局)

『序章 学術研究の意義と科学政策の重要性』より抜粋

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