学術の基本問題に関する特別委員会(第1回) 議事録

1.日時

平成21年3月5日(木曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.出席者

委員

佐々木委員、小林委員、白井委員、三宅委員、樺山委員、鈴村委員、谷口委員、磯貝委員、郷委員、古城委員、中村委員、沼尾委員

(科学官) 
縣委員、喜連川委員、佐藤委員、高山委員、福島委員

文部科学省

磯田研究振興局長、奈良振興企画課長、久保高等教育局担当審議官、戸谷高等教育局担当審議官、舟橋情報課長、勝野学術機関課長、山口学術研究助成課長、松川総括研究官、門岡学術企画室長 その他関係官

4.議事録

【門岡学術企画室長】 

 失礼いたします。定足数を満たしておりますので、始めさせていただきたいと思います。
 会議の冒頭は、私、学術企画室長の門岡のほうから主査にバトンタッチするまでの間、進行をさせていただきます。
 事務局からのご連絡といたしましては、開会から主査代理の指名、本特別委員会の運営規則及び公開手続の決定までの間、会議は非公開の扱いといたしますので、ご承知おき願います。

 

○科学技術・学術審議会学術分科会運営規則第3条3項の規定に基づき、佐々木委員が主査に指名された。

 

【佐々木主査】 

 よろしくお願い申し上げます。
 それでは、これより議事に入ります。科学技術・学術審議会学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会、第1回会合でございます。
 まず初めに、事務局より本委員会の委員のご紹介、配付資料の確認等をお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 それでは、第5期科学技術・学術審議会学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会の委員にご就任された方々をご紹介させていただきます。
 資料1として名簿がございますので、適宜ご参照ください。
 小林委員でいらっしゃいます。

【小林委員】 

 小林でございます。よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 佐々木委員でいらっしゃいます。

【佐々木主査】 

 佐々木でございます。

【門岡学術企画室長】 

 三宅委員でいらっしゃいます。

【三宅委員】 

 三宅です。よろしくお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 樺山委員でいらっしゃいます。

【樺山委員】 

 樺山でございます。

【門岡学術企画室長】 

 鈴村委員でいらっしゃいます。

【鈴村委員】 

 鈴村でございます。

【門岡学術企画室長】 

 谷口委員でいらっしゃいます。

【谷口委員】 

 谷口です。よろしくお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 磯貝委員でいらっしゃいます。

【磯貝委員】 

 磯貝でございます。

【門岡学術企画室長】 

 郷委員でいらっしゃいます。

【郷委員】 

 郷でございます。よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 古城委員でいらっしゃいます。

【古城委員】 

 古城と申します。よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 中村委員でいらっしゃいます。

【中村委員】 

 中村と申します。よろしくお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 沼尾委員でいらっしゃいます。

【沼尾委員】 

 沼尾と申します。よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 また本日はご欠席ですが、石井委員、柘植委員、家委員、平尾委員がいらっしゃいます。
 次に、本委員会にご出席いただく文部科学省科学官をご紹介いたします。
 喜連川科学官でございます。

【喜連川科学官】 

 喜連川でございます。

【門岡学術企画室長】 

 佐藤科学官でございます。

【佐藤科学官】 

 佐藤でございます。

【門岡学術企画室長】 

 高山科学官でございます。

【高山科学官】 

 高山です。

【門岡学術企画室長】 

 福島科学官でございます。

【福島科学官】 

 福島です。よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 縣科学官でございます。

【縣科学官】 

 よろしくお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 以上の科学官の方にも本委員会にご参加いただきます。
 次に、事務局をご紹介いたします。磯田研究振興局長です。

【磯田研究振興局長】 

 よろしくお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 奈良振興企画課長です。

【奈良振興企画課長】 

 よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 久保高等教育局審議官です。

【久保高等教育局担当審議官】 

 どうぞよろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 戸谷高等教育局審議官です。
 舟橋情報課長です。

【舟橋情報課長】 

 よろしくお願いいたします。

【門岡学術企画室長】 

 勝野学術機関課長です。

【勝野学術機関課長】 

 よろしくお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 山口学術研究助成課長です。

【山口学術研究助成課長】 

 よろしくお願い申し上げます。

【門岡学術企画室長】 

 松川総括研究官です。

【松川総括研究官】 

 松川でございます。

【門岡学術企画室長】 

 それでは、ご紹介は以上にさせていただきまして、次に配付資料等の確認をさせていただきます。
 本日の資料は、お手元の議事次第の2枚目以降に一覧を添付しております。資料1から6、参考資料の1から7をその下に積んでおりますけれども、参考資料の中の冊子については、資料番号を省いております。もしも欠落等がございましたら、お申し出いただきたいと思います。なお、今回は第1回でございますので、総論的なご審議ということになるかと想定いたしておりまして、総論的な資料にとどめております。次回以降、具体の検討事項の審議において、その事項に沿った内容につきまして、前期の審議会等でまとめられた提言等は説明をさせていただいたり、順次提出させていただきたいと思っております。
 また、机上資料で、今年の2月2日の科学技術・学術審議会総会と学術分科会における主な意見を学術企画室クレジットでまとめたものを机上配付しておりますので、ご参照いただければと思います。
  以上です。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。それでは、議事に入ります。
 まず1番目が、本特別委員会主査代理の選任についてという件でございます。

 

○主査代理には、学術分科会運営規則第3条第7項の規定に基づいて、谷口委員が指名された。

 

【佐々木主査】 

 次に2番目でございますが、議事運営等についてという件でございます。科学技術・学術審議会学術分科会学術の基本問題に関する特別委員会運営規則等の制定についてということでございます。同時に、公開手続につきましてもお諮りしたいと思います。提案の内容につきましては、資料2に則して、事務局からお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 失礼いたします。お手元の資料の資料3-1と3-2をごらんいただきたいと思います。学術の基本問題に関する特別委員会の運営規則及び公開手続について、説明させていただきます。
 資料3-1が運営規則というものになっております。本特別委員会につきましては、さる2月2日の学術分科会において設置されております。資料2のほうにその特別委員会の設置ペーパーがございまして、その資料2の2枚目に、参考としてその学術分科会のときに認められました各部会、それぞれの委員会3つ、この6つの審議体制というものが決定されております。
 本委員会の運営規則につきましては、学術分科会運営規則第3条9項によりまして、学術の基本問題に関する特別委員会の運営に関し、必要な事項を定めたものでございます。内容としては、第2条で会議の成立、過半数の出席が必要であること。第3条で会議は原則公開。第4条におきまして、議事録についても公開というのが原則であるということをうたっております。この運営規則の中の公開につきましては別に定めるとなっておりまして、公開の手続について定めたものが、資料3-2の公開の手続について(案)でございますけれども、これにつきましては、内容は会議開催を原則1週間前にホームページ等に掲載すること。あと、傍聴登録などについて定めたものでございます。
 以上でございます。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。ただいまの事務局からの説明について、ご質問があればいただきたいと思いますが、いかがでしょう。運営規則(案)及び公開手続(案)について、原案のとおりご了承いただけますでしょうか。 

( 了承 ) 

【佐々木主査】 

 それでは、そのように取り扱いをさせていただきます。
 それでは、運営規則第3条に基づきまして、本日の委員会はこれより公開とさせていただきます。もし傍聴の方がいらっしゃるようであれば、入室していただくようにお願いします。

(傍聴者入室)

【佐々木主査】 

 それでは、この2の後半部分ということになりますが、この学術の基本問題に関する特別委員会の発足に当たりまして、私から一言ごあいさつを申し上げさせていただきます。
 本特別委員会は、もちろん前期はなかったものでございます。学術の基本について、領域の違う皆様方にご参加いただいて検討すること自体は大変意義の深いことでありますが、1つの目標といたしまして、次期の科学技術基本計画にどのような形で我々の主張というものを積極的に打ち出していくかという課題があるということを1つ頭の片隅に置いていただければありがたいと。そればかりではございませんけれども、そういうことが1つございます。
 それからもう1つは、もちろんこの現下の我が国におけます学術研究の現状と課題につきまして、特に政府のサポートのあり方等につきまして、忌憚のないご意見をいただきたく思っているところでございます。過日の科学技術・学術審議会総会におきましても、いろいろな意見が出されました。机上資料がそこに参っているかと思いますが、科学技術・学術審議会総会、2月2日でございますが、そこにおける主な意見というものがございます。大学運営の現状から施策の方向性、それから人材育成、研究資金、評価、施設研究環境、分野ごとの課題という形で非常に広範な意見が出されまして、私自身参加しておりまして、非常に議論の内容それぞれに得るところが多かったと記憶しているところでございます。
 この委員会におきましても、そういう観点で、各領域の実情に即したいろいろなお話を伺うことによりまして、今後の新しい施策のあり方につきまして、一定の方向性を見出すことができればと思いますと同時に、そもそも科学技術を含めた全体の我が国における研究状況というものについて、我々がどんなオーバービューを持っていたらいいのかということも、実もこれも縦割りになりますとなかなかわかりにくくなるものでございますから、そういうことにつきましても、率直なご意見をいただければありがたいと。我々なりの全体像をつくって、そして我々の作業の意味づけをきっちり行っていくという回り方ができれば大変意義深いことであると考えているところでございます。
 そんなことで、何分にも委員の皆様にはよろしくご協力のほどお願い申し上げまして、私のあいさつとさせていただきます。よろしくお願いいたします。
 それでは、谷口主査代理からも一言お願いいたします。

【谷口主査代理】 

 大変力不足の者でございますが、主査代理ということで、ますますプレッシャーを感じております。私は、先ほど委員長からご紹介いただきましたように、日本学術会議という立場から日本の大学及び大学等における基礎研究のあり方について提言等をまとめてまいりましたが、後で議論があることかと思いますが、そもそも学術とは何かという議論から学術会議で議論がされたという経緯もございまして、学術の定義といったものを一体どう考えるかということを含めた根底的な議論というのは、やはりこの委員会でも求められているのではないかと思います。
 一方で、先ほど委員長のごあいさつにもございましたように、端的に申しますと、原則論と現実論というのもあるかと思います。現実の問題にきちんと対応していかないと船が沈んでしまうというほど危機的な状況にもあるという理解もございますので、その辺、両面をよく見ながら、この委員会がぜひ生産的なものになることを期待しております。私は大変ヘレティックなことを言うので皆さんのひんしゅくを買うかもしれませんが、ぜひよろしくお願い申し上げます。失礼いたします。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。
 それでは、文部科学省より磯田研究振興局長からごあいさつをいただきたいと思います。

【磯田研究振興局長】 

 研究振興局長の磯田でございますが、改めまして、このたびこの学術の基本問題に関する特別委員会の委員をお引き受けいただきましたことを、ありがたく感謝申し上げたいと思います。
 特にそれぞれお願いしました先生方は極めてご多忙な方々ばかりでございまして、教育研究、さらには大学研究所等の運営においても重要な方々でございます。そのお時間をあえて割かなければならないと考えた点につきましては、先ほど佐々木主査、谷口主査代理のお2人の先生方からお話しいただいた内容で尽きるわけでございますが、若干補足的にお話をさせていただければと思いますけれども、この学術分科会、前身の学術審議会におかれましても、折々において学術研究の推進についてご提言を取りまとめていただいて、政府の指針とさせていただいてきたわけでございますけれども、この近年におきましては、先ほどお話がございました日本学術会議でお取りまとめいただいております「我が国の未来を創る基礎研究の支援充実を目指して」、これがまず1つの発端であったと思っております。これにつきましては、本科学技術・学術審議会の会長の野依会長からも、行政でしっかりこれを受けとめて検討するようにというご発言を私は直接いただいているところでございます。それから、ご案内のとおり我が国から複数の学者がノーベル賞を受賞したということで、改めて大学における学術研究に関心が深まったということがございます。
 それから、また全体的には、ご案内のとおり国際的な経済社会情勢の急激な変化、あるいは研究者の国際的な流動化、さらには国立大学におかれましては、第2期の中期目標期間への対応が迫られておりますし、私立大学におきましては、経営的に極めて厳しい状況で、学術研究の基盤も変わりつつあるという状況にございます。
 それから、当面でございますが、第4期の科学技術基本計画に向けまして、近く科学技術・学術審議会に、これは仮称でございますが、基本計画特別委員会が設けられまして、審議を開始し、来年以降の総合科学技術会議における議論に反映させたいということで伺っております。また、総合科学技術会議におきましても、科学技術政策の重要課題の1つとして基礎研究の強化を掲げまして、ワーキンググループが既に議論を開始されております。また、内閣総理大臣のもとにおきましては、教育再生懇談会において科学技術人材の育成等も視野に入れた議論をされると伺っております。
 また、戻りますが日本学術会議では、この報告書以降もかなり密度の濃いご議論を進めていただいていると承っておりまして、私ども全体像についてのご審議をしていただくとともに、例えば来年度の予算とか、あるいは現在さまざまな情勢に応じた予算の柔軟な対応ということを、今、検討しておりますけれども、そういう予算の柔軟な対応という観点でも、さらには今後の制度の改正等も含めて、忌憚のない、基本に立ち返ったご議論をいただければと思います。私ども、全力でサポートさせていただきますので、ぜひよろしくご指導、ご審議のほどお願いします。どうぞよろしくお願いします。

【佐々木主査】 

 局長、どうもありがとうございました。
 それでは、大分時間がたちましたので、本日の主題、今後の審議事項についてに移りたいと思います。今日、これから残りの時間におきましては、委員全員からそれぞれのお考え等をいただきたく思っているところでございますが、それに先立ちまして、何もなしにいきなりというのもいささかやりにくいものでございますから、事務局のほうで例示的なお話や、あるいはこれまでのいろいろな蓄積といったもので何かご紹介いただけるものはないかということを私なりにお願いしておきましたところ、それに応じて、今日は資料をお出しいただいたということでございます。最初、松川総括研究官のほうから少しご紹介をお願いします。

【松川総括研究官】 

 それでは、まず資料4をごらんください。本特別委員会における検討事項(例)となっておりますが、この委員会における論点の整理等々はここでまたいろいろご議論いただければと思っておりますが、学術の基本に立ち返って議論するということであれば、一応考えられる検討事項を学術研究の意義から、人、もの、金、改正等々、網羅的にとりあえず挙げてみたものでございます。その上で、幾つかキーワードとなるようなものを挙げております。もちろんこれをすべて逐次順番にやっていくというものでもございませんし、逆にこれに尽きるものでもございませんけれども、ご議論を始めていただくに当たって、対象の広がりという程度でざっとごらんいただければと思っております。
 それから、次の資料5でございますが、学術研究をめぐる動向についての幾つかの資料をご用意させていただきました。3枚めくっていただきますと、2ページとなっておるところに横長の表がございます。大学等の研究に対する施策動向ということで、この10年間ほどの学術研究にかかわる動向を年表風に整理したものでございます。左端の欄に行政組織・政策の動向ということで、大きな国の動きを幾つか整理しております。非常に影響の大きいところといたしましては、皆様ご承知のとおり平成13年に中央省庁の再編が行われまして、文部科学省や総合科学技術会議が置かれているということ。それから、平成16年には国立大学、大学共同利用機関が法人化されたということがございますが、そのほかにも国の行政改革の大きな流れの中で、学術研究をめぐる組織、政策についてもいろいろな動きがあるということでございます。
 それから、真ん中の欄には学術分科会、あるいは旧学術審議会時代も含めてでございますが、主な答申、報告等、すべてではございませんが、重立ったものを列挙しております。各個別テーマについて報告をまとめたものもございますが、比較的網羅的なものといたしましては、例えば平成11年のところに「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」ということで、これは旧学術審議会時代の最後の総合答申と言われておるものでございますが、省庁再編でありますとか、第2期の科学技術基本計画の動きをにらみながら、学術審議会で総合的な答申を取りまとめたものでございます。
 それから、その下の平成17年のところにも、「研究の多様性を支える学術政策」(報告)というものがございます。これにつきましても、第3期、現行の科学技術基本計画が取りまとめられる際に、それに先立って学術についての考え方を整理した、比較的総論的な報告になっているということでございます。
 それから、右端には主な国の施策なり事業、これも少々アトランダムですが、年次に沿ってざっと並べております。雑多なものが入っておりますので、ざっと眺めていただければと思いますが、最初のころといいますか、省庁再編前後の施策としては、科研費の拡充、改革、それから大学共同利用機関の整備、あるいは大学共同利用機関を中心とした大型プロジェクトを推進していくといったものがオーソドックスといいますか、従来的な学術施策であったわけでございますが、例えば平成14年のところをごらんいただきますと、21世紀COEプログラムというプロジェクト事業が始まったわけでございますが、これを皮切りといたしまして、その後、こういった拠点を形成するとか、あるいはさまざまなシステム改革を競争的な資金配分の中で実現していくといったたぐいの施策がいろいろと出てまいっております。
 特に今第3期の科学技術基本計画策定以後、そういった動きが非常に多くなっておりまして、例えば平成18年のところをごらんいただきますと、科学技術振興調整費によりまして、先端融合領域のイノベーションを創出するとか、あるいは若手、女性研究者の支援をするといった競争的資金プロジェクトも行われております。こういった事業は必ずしも大学のみを対象したものではございませんが、実態としてはかなりの部分が大学への支援となっているという実態がございます。
 今の施策のところは、その下の分類というところにありますとおりマル1からマル5に、これも厳密な定義ではございませんが、簡単に施策の分類分けをした数字を入れておりますので、ご参考にしていただければと思います。
 それから、2枚めくっていただきまして、5ページには平成21年度の学術関連の予算についての資料をおつけしております。どこまでが学術関係かというのも厳密なあれはございませんけれども、(1)のところでは「大学等における研究基盤の整備、基礎研究の推進」ということで、国立大学法人運営費交付金、私学助成等の項目を挙げておりますが、このあたりにつきましては、近年予算が減少しているという状況がございます。
 一方、その下の(2)から「競争的資金による取組」ということで、先ほども申し上げたようなプロジェクトが幾つか挙がっておりますが、こういったところでは予算の増を図っているというところでございます。
 その他「研究者の確保」、「学術国際交流」等の主な事項が掲載されております。
 それから、9ページでございますが、ここ以降は他の審議会等の状況でございますが、9ページには中央教育審議会の大学分科会の動向といたしまして、昨年9月に文部科学大臣から諮問した内容の資料をおつけしております。大きく3点、そこにございますように、「社会や学生からの多様なニーズに対応する大学制度及びその教育の在り方について」、「グローバル化の進展の中での大学教育の在り方について」、「人口減少期における我が国の大学の全体像について」という諮問を受けて、現在、大学分科会のほうで審議が行われてございます。
 それから、11ページでございますが、こちらは先ほど磯田局長からも話がございましたが、政府の教育再生懇談会で、2月に第三次の報告が取りまとめられました。報告は全部で3つの大きな柱がございますが、そのうちの1つといたしまして、「大学全入時代の教育の在り方について」という、大学教育に焦点を絞った点がございます。全体の中身はそこにございますとおりですが、学術ともかかわるという点では、3番のところで高等教育に対する公的支援の話でありますとか、4番のところでトップクラス人材の育成といったことも提言として盛り込まれております。
 次に13ページでございますが、基礎科学力強化総合戦略構想ということでございます。これは現在文部科学省のほうで取り組んでおるものでございますが、昨年、日本人からノーベル賞受賞者が4人出たということもございまして、そのノーベル賞を受賞された方を含めて、有識者の方からご意見を聞く機会を設けました。それが基礎科学力強化懇談会という左上に写真が載っているものでございますが、そこでいただいたご意見を踏まえまして、今後基礎科学力を強化するための総合戦略をつくっていこうと。今年2009年を基礎科学力強化年として総合的な取り組みを進めていこうということで、今、やっているところでございます。それで、組織的な動きとしては、一番下、緑色が塗ってあるところの左端のところにございますが、具体的に強化システムの検討として、関連施策の調整を行うため、省内に基礎科学力強化推進本部というものを設置いたしております。また、それとあわせまして、有識者による基礎科学力強化委員会というものも設置を検討しておりまして、その意見も聞きながら、文科省全体としての戦略をつくっていきたいとも考えております。
 15ページが総合科学技術会議の動向でございます。こちらも磯田局長から少し話がございましたが、先月の総合科学技術会議に出された資料でございますが、2009年の科学技術政策の重要課題ということが出されております。その抜粋でございますが、その一番上のところに科学技術の現状についての基本認識というものがございまして、そのマル3の中で「基礎研究強化による日本の国際競争力強化への要請」といったことが書かれております。具体的な取り組みといたしましては、次の16ページでございますが、「4.科学技術力の抜本的強化に向けた取組」といたしまして、(1)で「基礎研究の強化による新分野の開拓」と。具体的な施策としては、そこに4点ほど挙がっておりますが、こういった施策を今後進めていく上で、総合科学技術会議の中に検討ワーキンググループのようなものも置かれて議論が進められているようにも伺っております。
 また、関連してその下の(3)のところには、人材育成・人材活用といったことも強化策として取り上げられておりまして、大学における教育研究とも非常に密接に関連するかなと思っております。
 最後に18ページでございますが、第4期科学技術基本計画策定に向けての今後の簡単なスケジュールということでございます。現在の第3期の科学技術基本計画というのは平成18年度から22年度まででございまして、今、ちょうど3年たったところと。あと2年後には次の基本計画を策定するという段階でございますが、これに向けて文部科学省の中では間もなく、4月ごろを予定しておりますが、科学技術・学術審議会の中に基本計画特別委員会というものを置いて議論を進めていくと。その結果を取りまとめて、来年以降、総合科学技術会議の中で行われる議論に反映していきたいと考えております。
 これは3期のときの動きとも似ているわけでございますが、参考までに3期のときの動きを下の表でごらんいただきますと、一番下に内閣府というものがございまして、ここが総合科学技術会議における議論なのですが、それに先立って科学技術・学術審議会の基本計画特別委員会、青い矢印で書いているところでございますが、ここで議論が行われたと。さらにそれに先立ってといいますか、この学術分科会の中でもそこに盛り込むようなことについてのご審議をいただいて、適宜意見を反映していったという経緯がございます。こういった動きも念頭に入れながら、この特別委員会のご議論をいただければと思っております。
 それから、参考資料として幾つかご用意しておりますが、中身は紹介いたしませんが、どういう性格の資料かということだけご紹介させていただきますと、番号が振っておりません参考資料1は「研究の多様性を支える学術政策」ということで、先ほど申しました平成17年に学術分科会で取りまとめた報告でございます。それから、その次の参考2というのは、参考1を取りまとめる前に、特に第3期科学技術基本計画に盛り込まれるべき事項を中間段階で取りまとめた意見のまとめということでございます。それから、その次の参考3が現行の第3期科学技術基本計画の概要版と基本計画の本体でございます。参考資料4は科学技術・学術審議会の総会等でも配られておりますが、我が国の科学技術・学術の現状についての幾つかのデータでございます。学術に限らず、研究開発全体についてのデータでございますが、ご参考いただきたいと思います。参考資料5が、先ほど来から話が出ております日本学術会議で昨年8月に出されました提言の本体でございます。参考資料6は、これは先ほど申しました教育再生懇談会の第三次報告の全体でございます。最後の参考資料7でございますが、こちらは産業競争力懇談会といいまして、産業競争力に関心のある産業界の有志の方でつくられている懇談会でございますが、こちらから昨年の12月に出された提言といいますか、報告でございまして、産業界側から見た基礎研究への期待といったことが取りまとめられております。内容の紹介はいたしませんが、こういったいろいろな動きがあるということも念頭に置きつつご議論いただければと思っております。
 以上でございます。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。ただいま配付資料のご説明も含め、これまでの動向につきまして、ご紹介をいただいたと思っております。
 これから委員の皆様から今後どういった点を議論したらいいか、あるいは現在の大学の研究の問題点などを含めてご議論をいただきたいと思います。先ほども私のごあいさつで申しましたが、この前の総会でもいろいろ重要な指摘がなされたところであります。いろいろな支援体制を1つ考えるにしましても、画一的なイメージで物事を考えるというのは非常に無理があるということを痛感いたしたところでありまして、非常に古典的な形での図書だとか何とかというサポートが必要な領域もあるだろうと思うし、それから、そうでない別の形のサポートを必要としている領域もあるかもしれない。あるいは、これまで試みたことのないサポートのあり方を考えなくてはいけないというところもあるかもしれない。
 この前の総会でも、その可能性についてそれぞれの領域の委員から、やや異なる観点からの意見の陳述をたくさんいただいたという記憶が大変鮮烈に残っているわけでございますが、それはともかくといたしまして、本日は自由討議ということで、特にテーマも設けておりません。むしろこれからの本委員会の検討事項に関しまして、どういう問題意識で何に取り組んだらいいのかについてご発言をいただいて、これからの本委員会の運営に寄与していただきたいというのが私の主たるお願いでございます。もちろんそれ以外の点についてご意見を伺うことも排除するものではございませんけれども、少なくともそういう文脈で今日は自由討議にしたということでございます。これから1時間10分程度時間がございますので、ひとつ忌憚のない問題提起、検討事項のご提案等をいただければありがたいと思います。よろしくお願いします。どうぞ。
 谷口委員、日本学術会議での検討の中で、例えば幾つかポイントが仮に出てきたとすればどんな点があったのか、口火を切ることも含めてお話しいただけませんか。

【谷口主査代理】 

 はい。今までの全体の話を伺っておりまして、学術会議の提言というのは、瀕死の状態のけが人にとりあえずばんそうこうを張るようなものだというぐらいに、しかし、ばんそうこうを張らないと大変だということで、効果はどの程度であろうということで、皆さんで一生懸命まとめたわけですが、もちろんこれもさることながら、お隣にいらっしゃる小林先生はじめノーベル賞を受賞された先生方とか、非常に大きな社会の変化というのもあって、先ほどの総合科学技術会議のものを見ていましても、基礎研究の重要性というのはより認識されていると思います。
 学術会議の提言で議論したことを端的にまとめますと、提言は基礎研究の充実を目指すための科研費を中心とした充実を目指してほしいということ。
 それから、大学の法人化に伴う運営費交付金を中心とした大学の状態が非常に切迫した状態なので、このままだと大変なことになるということで、デュアルサポートシステムをぜひ充実してほしいということ。
 それから、インフラストラクチャーの充実。これは結構重要で、ぜひご議論いただきたいと思うのですが、競争的資金の名のもとに、それを支える基盤というのが急激に脆弱化しているのではないかと。リソースのないリサーチというのはあり得ないという認識を皆さんにぜひしていただきたいということもございます。
 それから、4番目は教育の問題です。教育と研究というのは離して考えることができない問題であり、研究の衰弱というのは急激な教育の深刻な、ポスドクの問題もありますが、大学の学生の質の低下とか、そういった危機的な状況を生み出しているということも訴えております。
 それから、あと科学者の社会的責任ということも申し上げております。これはぜひご議論いただきたいところでありますが、以上の4点の中で、特に先生方に申し上げたいのは、やはり我々こういう学術の分野に近い人間が議論をしますと、みんなすぐに意見の一致を見てしまうというところがあるのですが、世の中は結構見方が厳しくて、大学の数が多過ぎるのではないか、一気に減らしたほうがいいのではないかという議論もあると思います。それから、そもそも学者の数が多過ぎるという議論もあります。これは、数値という問題もありますが、いろいろ誤解もあるかと思いますが、そういうことが結構言われているわけです。それから、思ったほど効果が出ていないではないかと。成果が出ていないではないかという批判もあります。それから、さらには自由な発想で研究をするなんていうのは、そもそも国民の税金を使ってそういう研究をやるのは間違いだと。自由な研究をやりたいのなら、自分で金を稼いでやればいいのだということを実際に言う方々がいらっしゃるわけです。こういう場では我々がそういうことを言うと品格がないと言われるかもしれません。しかし、現実はそんな甘いものではないということをやはり我々は認識する必要があると思います。そういうことから、国民の貴重な税金を使った研究を行うのであれば、当然社会の負託にこたえなくてはいけないという問題はあるわけです。
 ですから、自由な発想を持って自由な基礎研究をやることは大切だということを空念仏のように唱えていても全く説得力がないというくらいの認識を持って、それでも学術、基礎研究が大切だという、その辺から議論をしないと、あえて申し上げると、ここだけの議論で無駄な時間を費やしてしまったということにもなりかねないというぐらいの状況であるということは考えたほうがいいのかなと思います。
 以上です。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。ということを谷口委員は実感され、かつ作業の中で改めてお感じになったということでございます。
 それでは、ほかの委員から問題提起、あるいは特にこれからの検討課題につきまして、何かご発言をいただければ大変ありがたいと思っております。先ほどの資料は例ということで事務局のほうでお出しになったのですけれども、それはそれとして、もちろんそれに対するご意見もあろうと思うし、もちろんこれに縛られる必要も全くございませんので、どうぞその点も含めてご意見をお出しいただければ幸いでございます。
 どうぞ。

【中村委員】 

 東大の中村です。

【佐々木主査】 

 よろしくお願いします。

【中村委員】 

 今、私は東大の化学系のグローバルCOEのリーダーをやっています。グローバルCOEを何のためにやっているのかというのを自分たちで考えなくてはいけないということで、三菱総研に依頼して、我々がよく知っているアメリカのデパートメントのトップ1から20ぐらいのところを5つ選んで調査しました。先生がたや事務機構、それから学生のインタビューをしてもらいました。会社の人もしらべて全体で2年やりました。そのことについて述べたいと思います。今まで議論されたことがそこにはたくさん入っているのですけれども、入っていないほうのことを少しかいつまんで申し上げます。
 全体として、学術研究にせよ人材育成にせよ、日本の競争力を強化するという立場ばかりとっていると、どうも少し具合が悪いのではないかといことを思いました。基礎研究は人類の英知の増進に寄与するということとおなじで、人材育成の国際責務、日本がどれぐらい貢献できるかという考え方をしたほうが健全なのではないかということを思いました。日本にいい人を引っ張ってくるというのは、日本としてはいいのですけれども、アメリカと競争して獲得するというものでもなくて、お互い人材を供給し合うという観点をとったほうがいいのではないかということです。
 次は全く違うことを幾つか述べさせていただきます。まずは、研究者と社会、研究者と学生を結ぶ機構が日本にはなさ過ぎること。アメリカの場合には、現場を知った事務職員が研究者と大学や社会との間に立っている。また留学生と教員の関係だったら、留学生をリクルートしてくれる人、留学生の世話をしてくれる人というのがきちんとといる。日本だと教員が大学院の留学生の下宿の世話から何からみんなやらなくてはいけないということで、組織だった対応ができない。ですから、その間を結ぶ、いわゆる事務、ではなくて現場を熟知している国際関係担当戦略室みたいなものがきちんと現場に近いところにある必要がある。これは大学にあってもうまく機能しないので、やっぱり学科レベルでなくてはいけないと。
 同じことは研究にもある。今、研究費をとってくればとってくるほど時間がなくなるといわれますけれども、アメリカの場合にはリサーチアドミニストレーターがきちんといて、教員の負担を減らしている。こういう人も学校からお仕着せではなくて、デパートメントチェアが自分で差配する。研究者や教員と社会を結ぶ間の職種が、日本には完全に欠落している。ここが一番大きな問題であるということがわかりました。それは人数に現れている。事務や技術職員と教員の数の比が日本と全く違うということが明らかになりました。
 それから、3番目はやはりアメリカの大学院の基礎研究のレベルが高くいられるかと言うこと。それは企業が基礎研究でトレーニングされた人を大変高く評価することに起因している。ですから、日本の青田買いみたいなことはもともと起きない。企業は、博士課程採用者には博士の仕事を発表させて、丸一日インタビューして採用するわけです。日本の場合は青田買いですので、企業は学生の成績も見ないで1年も2年も前から採用を決めてしまう。これではまともに学業を授けても意味がないというのが今の日本の現状です。大学院や大学は社会の鏡であるということがよくわかりました。そういう意味では、アメリカのシステムというのは非常によくできているシステムで、それをつまみ食いして日本に持ってきたのでは全く動かないということもよくわかりました。
 実は、これは三菱総研の方が最初に指摘した重要な点なのですけれども、アメリカの大学院というのは基本的に博士を育てるためにある。ミッションがはっきりしていますね。日本の大学院は、修士と博士希望者が混在して大学院の教育ミッションがうまく定義できない。基礎研究と応用研究の区別も含めて、日本の大学院においては何のために何をやっているのか、どうもいま一つ明確でないということがわかりました。
 それから、最後に、そもそも我々が信条としている、自由な発想の研究、というのは、フランス革命の前、後の変化、つまり19世紀にブルジョアが王権から解放されて自由なった時の思想ではないかと感じました。自分のお金で自分の好きに考えてやっても良いのが科学であるということになった。けれども、今は自分のお金で研究をやっている人はいなくなりました。アメリカの研究には典型的に出ていますけれども、税金を使って行われている基礎研究は決して自由な発想でやるわけではなくて、社会に対してインパクトを与えるためにやる、ということになりました。日本では、研究は単に自由な発想に基づいて行う、と言うことになっていますが、これで良いのか自体を歴史的な枠組みから見直す必要があると、個人的には思っております。
 以上です。

【佐々木主査】 

 中村委員、貴重な問題提起をいただきまして、どうもありがとうございました。大変重要なポイントが幾つか含まれていたと思います。あるいは、そのご議論に絡めてでももちろん結構ですがご発言を。私たち人文社会系はとかくよくわからないことが多いものですから。白井委員です。

【白井委員】 

 今のご意見、全くそうだと思います。ここは基本問題に関する特別委員会ですから、これからの長い基本方針を議論するのだとすれば、先ほど谷口委員も言われたけれども、やはり日本の科学技術については、日本の国の大きさとか、今の財政支出とか、いろいろなことを考えれば量をものすごく求めなくても仕方がないかもしれないけれども、どういう国にするかという国の形も含めて、学術を我々がやるというのは、資源のない国では最も好ましいことだというのはみんなある程度了解してきたと。
 それだったら覚悟を決めてやらなくてはいけないのだと思うのですが、そのときに、ただお金が要る、お金が要るだけ言っていても、ずっと増えないわけで、どうしたらいいか。やはり基本的な、こういうシステムが必要だと、そのシステムはこういうものをつくりますということを言うべきだと思います。例えばアメリカであればNIHがやる、何がやるという一連の研究体制や、それに大学がどういうふうにコミットしてやるのだという組み合わせがきっちりできていますよね。それでリサーチがこれだけ伸びたのだと思います。
 だから、そういうシステムをきっちり言って、それにどれだけのお金が要るということも含めて、立法は結構あったのかもしれないけれども、それにきっちり位置づける法律的な基盤もつくってやらないと、なかなか難しいのではないかと。今のこのままの体制の中で見直してお金をくれということだけ言ってみても、らちが明かないという意味で、こういうシステムをつくる必要がある。それはどのぐらいの規模でどういう目的だということを明確に言うべきではないかと。今おっしゃられた国際責務というのは非常に良いと思います。ODAも減ってきているのですが、昔からのパターンでのインフラ整備だけの協力ではなく、若干教育にも回ってきましたけれども、研究面で徹底的に貢献すると。いい研究機関をつくって、ここに外国人の学者、研究者が来ても非常にいい研究ができるという場をつくれば人が来ると思うのです。皆さん先ほど言われたようなそういうシステムを全部含めて、こういうものをつくると。つくらなくてはだめだと。そのための法的バックグラウンドも明確にしていただくべきなのではないかなという気がしました。
 それから、日本のドクター課程の地位について、我々も産業界と文科省等ともいろいろ意見交換をしているのですが、大学は大学で相変わらずですよね。我々は研究をやりたいのだから、純粋に研究につき合う人が頑張ればいいのだと。それから、自分の後継者が育ってほしいという感覚だし、一生懸命やっているということなのだけれども、それだけでは通用しないということと、企業ははっきり言ってドクターの人は使えないから要らないと。本音を言わせれば、今でもそう言う企業は結構多い。実際はある程度雇っているのだけれども、本気で欲しくて欲しくてしようがないという状態では全くない。では、どうしたらいいのかという問題は確かにある。
 それから、国は今言ったような理由でお金をあまり出していない。そうすると、この間の意思疎通というのは、頭がみんな同じにはなってないということですよね。法律をつくるというのは、強制力も持ちながらも、日本の1つの法律をつくるというよりもコンセンサスをつくるということだと思うのだけれども、そういうものをある程度やってほしいと。そうじゃないと、みんな自分の利害だけおっしゃるから、これはずっと平行線でいくのではないかなという気がします。
 例えば企業側が要求するものはどういうドクターなのか。だったら、そのドクターに応ずるような教育システムというものをこれだけつくります。それは研究者養成とは違うかもしれない。あるいは、外交の人などを考えると、非常に教養の広い人が欲しいのだと。外国に行ったら、大使などはみんなドクターを持っていたりするけれども、日本から行ったらそんな人は全然いないというのは、それでいいのか悪いのかということも含めてだけれども、もし世界の標準がそうなら、そういうものを育てるような機関がきちんとあっていい。ドクターに限らないけれども、そういうものをしっかりやるべきだと。
 それから、非常に気になるのは、研究者に対して冷たいですよね。例えばポスドク問題、千五、六百人いるのでしょうか。もっといるのかな。

【佐々木主査】 

 もっといるでしょうね。

【白井委員】 

 こういう人たちの労働力、みんな優秀な人たちですよ。そういう人たちを日本は活かしていないのではないでしょうか。例えば理科離れなんていうことが問題になるけれども、理科離れと言うのだったら、そういう人たちが教育に携わるような機会だって与えてもいいと思うのですが、教員免許がない人は教えさせませんとか、そういうことになる。少々話が違いますが、人を活かさないというところも非常に問題なのだけれども、そういうふうに研究者に対してやはり国際責務であり、社会の1つの大きな根本的な力なのだということの認識を、やはり何かの立法化でもって示していくということをやらないと、日本の中でそういう人がずっと育たないのではないかと思うので、ぜひそういう問題を皆さんで議論していただけたらと。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。それでは、ほかに。どうぞ。

【沼尾委員】 

 大阪大学の沼尾と申します。

【佐々木主査】 

 沼尾委員、よろしくお願いします。

【沼尾委員】 

 私は、日本学術振興会(学振)の学術システム研究センターで中村先生の後を継いで科研費のワーキンググループの主査をこの3月まで担当しています。そのため、研究者の方々から研究費についてのコメントを聞く機会が多くあります。競争的資金が増えているのはよいとして、運営費交付金のような基盤的経費が減り続けていることが問題になっています。装置はあるが、その維持経費が不足しているという感想も皆さんお持ちのようです。学振の方々にお聞きすると、国としては基盤的経費のほうは減らしていき、競争的資金を増やす方針のようです。市場における競争が万能であるという考えを学術にも当てはめ、研究費の市場で競争をさせるのが、活力を維持するには重要であるというポリシーになっているわけです。私には市場万能主義の是非は分かりませんが、土地、労働力、資本のような生産要素が市場で扱われると弊害が出てくると聞いたことがあります。それと、同じことが研究の世界でも起きているようです。基盤的経費が減っていきますと、競争的資金のうちで、科学研究費補助金(科研費)の基盤研究Cのような小さな種目に多くの応募が集中します。人文や数学のように、従来は運営費交付金で研究をまかなってこられた方々も少額の競争的資金に応募されるようになるわけです。そうしますと、基盤研究Cのような少額な科研費は、競争的資金には違いありませんが、基盤的研究費に準じた資金として多数応募されますので、増額が必要になります。しかし、実際には予算は限られているので、応募が増えると採択率が下がっていき、採択が困難になります。基盤的研究費としては機能しなくなるわけです。人材についても、常勤のポストが減り、競争的資金による任期付きのポストが増え、劣悪な待遇の研究者が増えているという問題があります。
 私は情報系なので維持費用というと学内ネットワークのメンテナンス費用などが該当するのでしょうか。例えば化学系などでも種々の共通的な装置をどうやって維持していくかという問題があります。そういった維持経費も削られるため、競争的資金に申請されるという事例が増えています。本来、競争的資金にはなじまない経費が競争的資金に申請されるというのが、少々気になるところです。
 学術にお金を持ってくるためには競争的資金に何とかすべて変えていくという方針になっていますが、それを続けていくと、基盤のほうが細っていってしまうのではないかという危惧があります。
 もう一つ、予算説明をしやすくするために、二、三年とか五、六年の範囲のショートスパンで、研究費について考えるという傾向が出てきていると思います。学振では、長い間、科研費を扱っていますので、古いところまで遡って、例えば昔100万円程度投資した研究が、今、非常に大きなものになってきているとか、そういった学術の成功例を集めて、ニュースレターなどで紹介する試みを始めました。そういう長いスパンで成功したものを例として集めて、周りの理解を得る必要があると思います。
 以上です。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。それでは、鈴村委員、どうぞ。

【鈴村委員】 

 ここは基本問題検討委員会ですので、まことに申しわけないですが、基本的なことだけ3点ほど申し上げさせていただきたいと思います。
 まず第1点は、やはり学術というキーワードにかなり本格的にこだわっていくべきだろうという思いがありますということです。多分学術という言葉でカバーすべきなのは、リベラル・アーツ・アンド・サイエンシス。ただし、そのサイエンシスの中にはナチュラルサイエンシスとソーシャルサイエンシスがともに含まれているべきだと。だから、基本問題ということはやはりこういうものをカバーするということを意識しながら議論する必要があるだろうと。当然のことですけれども、最初にそのことを確認させていただいて、その上でなんですが、しかし、さはさりながら、全体をカバーするということは、別に各分野に対して一律の制度をつくるということは全く意味しないと。これは先ほど佐々木先生がおっしゃったことと共通するかと思います。これは当然のことでありますが、1点目です。
 それから、学術に対してのサポートの体制ということにつきましても、しばしば充実してきたと言われている現状のサポートが、どちらかというといわゆるペキュニアリーな、金銭的な意味での豊かさが以前と比較すると随分拡大しているということだろうと思います。ただ、サポートというもので非常に重要な要素は、ノンペキュニアリーなんです。非金銭的なサポート。あるいは別の言い方をすると、研究のインフラストラクチャーをやはりもっと供給しなきゃいけないと。そういう言い方をしますと、いやいや、それは競争的な資金を獲得してきて、それをインフラの充実に充てればそれでいいということになりかねないのですが、インフラはまさにパブリックなものであって、これは学術の観点から、これは共通して充実させなきゃいけないということは事実大きいと思います。先ほどアメリカの事情がご紹介で出ましたし、私はアメリカもそれなりに経験しましたけれども、イギリスにかなりおりまして、貧しい貧しいと言われるイギリスでも、インフラに関する限りでは非常にサポートが整っているという印象をずっと持ち続けております。その意味で、逆に言うと、日本の研究体制というものの貧困がかなり目に余るという思いをずっと持ってきております。その点、学術へのサポートというものもやはりかなり基本的に考えるべきことがあるだろうということが2点目であります。
 3点目はもう少しコンセプショナルなことなのです。先ほどの議論とか、出していただいた資料の中にもあらわれているのですが、最近になって、競争と評価というのがかなり悪い言葉になってきています。しかし、考えてみると絶えず競争というものが一体善か悪かということについてずっと揺れ続けてきているのが、福沢の時代から今に至るまでも揺れ続けているのが現状でありまして、競争的な資金の獲得という仕組みが入ってきたことが、今、どうも大学の疲弊につながっていると。そうすると、やっぱり競争ではいけないねというイメージが持たれてしまうとしたら、これは今まで何のために実験をしてきたのかということにもつながりかねないと思います。揺れながら進化するというのは当然あるわけですから、揺れることは結構なのですが、ただ元に戻るというようなイメージを持たないような、いわばせめてらせん状に上がっていけるようなイメージで競争的な仕組みを改めて調整していくということを考えるべきことが、やはり基本問題の中で取り扱うべき問題だろうと思います。
 くどいようですけれども、競争というのはやはりいろいろな意味で機会をもたらしたと思うのです。今まで大学の中には競争がなければできないことがありました。それから、とりわけ大学の中にはそれなりのカルチャーというものもあり、残念ながら人間関係とか、いろいろな意味で縛りつけられるようなものがあったことは否定したって始まらないことだと思います。しかし、競争というのはある意味では自由をもたらすということはありまして、大学自体がとにかく競争的な資金を獲得しなければ道が開けないということになれば、研究の能力と実績と、研究の管理の上の能力以外のことで人を差別していたら大学そのものが維持できなくなると。やはり能力を尊重するという形の機会を開いたのは競争原理なわけですから、いわば、今、競争の副作用が出ているからといって、また元に戻って、競争自体を悪と言うようになったら、いささか我々見識を問われるという思いがいたします。だから、この点はやはりほんとうに基本にかかわる問題だろうと思います。
 評価も同様です。私は最近ある方が大新聞に書かれているエッセーを見てかなり衝撃を受けたのですが、評価に対して非常にマイナスなことをおっしゃる。率直に言って、私自身も含めて評価に巻き込まれますと相当疲れますから、気持ちはわかるのですが、だからといって評価作業そのものをののしってみても話は始まらないと。よい評価の仕組みというものに我々はそれを進化させていくための工夫を凝らすことで、やはり受け取るべきものがあると。だから、競争と評価に対しての、それこそ我々自身の評価と進化のために後押しをするような制度設計というものがここで議論されるべきことではなかろうかと。それが3点目です。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。ほかの委員からどうぞ。

【磯貝委員】 

 よろしいでしょうか。

【佐々木主査】 

 磯貝委員、お願いします。

【磯貝委員】 

 私、奈良先端大の磯貝でございます。私の専門分野は農学なのですが、今日はその農学という立場ではなくて、大学院大学という非常に特殊な大学を運営してきた立場から幾つか申し上げたいと思います。1つ最初に学術とは何だという話、原則的な問題があるので、1つだけ私がいつも考えていることを申し上げたいのですが、随分前に多分早稲田大学と思うのですが、早稲田大学のラグビー部の監督さんが何かで優勝されたときに、大学ラグビーは文化であるというふうに書かれた。私、大変その言葉に感銘を受けまして、大学とはやはり文化を伝承する場なのだとそのときに思いました。我々がやっているのは、やはり文化を生んで文化を伝承するということを日常作業でやっていると。そういう意味では、科学技術立国という言葉の前に、科学力を高めると。その前に、やはり国の文化力を高めるという作業が基本的に必要なんじゃないかと。その文化力そのものが、今、鈴村先生が言われた、いわゆるナチュラルサイエンスだけではなくてソーシャルサイエンス、あるいはアーツみたいなものも全体を含めた文化力というものがやはり必要なのではないかといつも思っておりました。
 そういう意味で、大学を運営する立場でその伝承と文化を生み出すという立場で見ますと、1つは学生の教育の問題、もう1つは教育をしている教員の問題、2つの問題があるだろうと思います。教育の問題について言うと、やはり大学院大学という使命上、特に研究力の高い、あるいは社会で科学技術をベースに活躍できる学生を育てるという使命があるわけですが、今、よく言われているポスドクが増えているという話も、うちの大学でも同じことがございます。
 やはりそういう面で学生たち、あるいはポスドクたちを見ておりますと、これは我々の責任でもあるのですが、要するに人を育てているのかどうかということが、1つ私にとっては大変重い課題でありまして、というのは、ポスドクの人たちのかなりの部分は、プロジェクト研究で雇われている。つまりプロジェクトの成果を出すための活躍が期待されていると。雇っている人たちも、そういう立場で雇っている。そういう視点だけでほんとうに人は育つのであろうかという気がしております。特にプロジェクト研究というのは期限がありますから、何年間だけ一生懸命やりなさいという形で、往々にして雇ってしまうという状況が現実の問題としてあるのだろうと思います。
 一方で、昔からポスドクを育てるシステム、つまり人を育てるシステムとしてあった日本学術振興会の特別研究員のPDというのは、ご存じかもしれませんが、年々対象の数が減ってきております。学術振興会の特別研究員制度は、最近ではむしろ大学院学生、DC1とかDC2のほうに比重が置かれてきて、ポスドクはいろいろなプロジェクト研究で雇われる機会もあるからという理由だと聞いておりますけれども、その数が減ってきている。つまり、ポスドクというのは研究者の経歴にとってどういう期間、時期なのかという立場で見ると、私はやはり人を育てる、人が育つ期間でなければ基本的な科学力は高まらないのではないかと思っております。そういう意味で言うと、今のようにいわゆるプロジェクト研究でポスドクを雇って研究成果を出すことだけを競争させるというシステムがどうも納得いかないという気がしております。
 もう1つは、ドクターの学生が将来どうなるかという問題も当然あるわけで、先ほど白井先生が言われたように、社会的なニーズを大学の教育システムが満たしているのかどうかという問題はいつも教育システムを考えるときに考えるわけですが、やはりその人たちの将来の職場、あるいはロールモデルみたいなものが社会の中につくられていかないと、なかなかそういうところに入ってくる人たちもいない。昔はよく言われるように、末は博士か大臣かと言われたのですが、今はどちらも大分価値が下がってきてしまっているという状況があって、若い人たちが夢を持たないのではないかと。そういう社会になってしまうと、やはり文化力とか科学力というのはなかなか強くならない。そうすると、かなり高い科学力を持った人たちが働く職場、先ほど中村先生が大学、研究者と社会を結ぶ立場のシステムがないと言われましたけれども、そういうところにもっと入る余地があるのではないかと。あるいは、そういうための教育システム、あるいはロールモデルみたいなものもどんどんつくっていく必要があるのではないかと。
 あるマスコミ関係の人に聞いた話なのですが、新聞記者の90%は文系の人であると。10%ぐらいの人が理系だろうと。その中で、生物をやっている人はまた10%ぐらいだよと言われたことがあります。今、生物学というのは社会にとって大変大事なサイエンスであるわけですけれども、それを世の中に伝える人たちが、今、現実的にあまりいない。そういうところにもっともっと入っていけるシステム、もちろん教員の問題もありますし、そういうシステムをやはり全体で工夫してつくっていくということが必要なのではないかかと思っております。
 もう1つは、学生たちを教える教員の問題なのですが、特に法人化以降、教員たちはかつてよりもっともっと忙しくなってきておりまして、総勤務時間を調べますと、前よりずっと増えている。しかし、研究時間は前より相対的にも絶対的にも減っている状況がございます。それで、増えているのは何かというと、組織運営にかかわる時間という統計が出ているわけであります。それは、今、大学の教育システムあるいは研究システムが組織力による競争という形になってきていることも反映しているのだと思うのですが、結局、そういうところを現場の教育者あるいは研究者におんぶせざるを得ないシステムが、やはりどこか無理があるのではないかと。
 そういう意味で言うと、私も大学にいて、例えばそういう人たちをきちんと雇おうと思ったりすると、今、大学では運営交付金が1%減っていくだけではなくて、総人件費政策ということがあって、お金があってもきちんと人が採れないと。厳密に採ってはいけないという意味ではなくて、きちんとした提言みたいな形で、そういう研究支援システムを拡充しようと思っても、なかなか事務機構を拡充するような方策はとれない。そういう足かせもある中でどういうふうに工夫していくかというのは大学を運営する立場からいくと大変難しい問題を抱えております。もちろんお金の絶対量だけの問題ではなくて、ある種の工夫を考えなければいけないのではないかというふうに思っております。幾つか教育の問題を中心に申し上げさせていただきました。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。それでは、郷委員、どうぞ。

【郷委員】 

 ありがとうございます。今、いろいろな先生方がおっしゃったご意見、どれも大変賛成でございますが、私、6年ほどこの学術審議会の委員をやっておりまして、それから総合科学技術会議の議員を2年やりましたが、そのときに利益相反になるということで、この審議会の委員は全部やめさせていただきました。今、またここに今日帰ってまいりまして、申し上げたいことは、それぞれのいろいろな委員会の中で、今のようなご意見がそれぞれみんな出てくるのですけれども、それを全体としてどこがまとめて声を出して施策に反映していくかという、そこが全然ないのではないかという、そのことを感じます。
 総合科学技術会議ができたときに、ここへの期待は大変大きかったと思います。この科学技術・学術審議会からもいろいろなご意見があったと思いますけれども、今、入ってみますと、結局日本全体の長期的なビジョン、学術も科学技術も、あるいは大学のあり方とか、全体をどこが見ていくのか、それが全くない。どこもそれをやられていない、非常に大きな問題があると思います。
 今、特に政治が不安定だということもございますし、総合科学技術会議は毎年毎年予算の問題に追われていて、ご自分たちがつくった第3期の科学技術基本計画ですら、もうそこに書いてあったことがどれだけちゃんとやられているかということを検証する間もないまま来年度の予算と、実際にやっていることは、はっきり申し上げて各省庁から出てくるものの調整役のようなことが大きな仕事になっていて、先ほど申し上げたような日本全体の学術も教育も全部含めたビジョンをつくるというところがないと思っています。
 そういうところに反映させていかないと、こういうところで先生方がほんとうにいろいろなご意見をおっしゃるのですが、やはりそこで終わってしまう。報告書として出てきて、そのままではないとは思いますけれども、どこがそれをほんとうに責任を持って提言していくのかという問題。やはりいつまでもそういうことを言っていても仕方がありませんから、学術会議もあり、いろいろなところが声を合わせていく。何かの仕組みをそこでつくっていかないといけないのではないかと思います。
 総合科学技術会議はやはり競争的資金ということに非常に力強いウエートがありますので、例えば科学技術・学術審議会がお出しになることは大体科研費のことであろうとか、大体おっしゃることは何となくわかっているという雰囲気もありまして、そのあたりが非常にそれぞれがある種の強いバイアスがかかった意見で左右されていくというところがあると、印象ですけれども、私は思います。
 日本全体のグランドビジョンをどうやってつくっていくか、そこを科学技術・学術審議会あるいは学術会議とか、広い範囲の先生方がまさに教育や学術を担っている、科学技術を担っている現場の方たちがやっぱり声を出していく、まとめ役を中心になってやっていくということが私は大事ではないかと。最後は法的な問題ということにならざるを得ない。そうならなければ実効力がないと思いますけれども、それから、そういうことを申し上げてもやはり専門でない方がこういう問題に強い発言をされると、これはほんとうはおかしいわけですね。そこのところが日本のいろいろな人材養成という、職種の問題にしても、専門性が生かされていない。そこがずっと日本という国は、せっかく教育をして専門家をつくっても、その人たちを生かす仕組みをつくっていないのではないかと。
 そういう意味で、おくれているというか、過去のことを考える、大事なことなのですけれども、やはり今、あるいはこれから先何が必要なのかということを、非常に早い勢いで世界は動いていますので、先ほど中村委員のお話にもありましたけれども、情報を集約させて、反映させていくことが大事だろうと思います。
 私も大学で4年間お預かりする立場におりましたけれども、大学の中の職種も事務か教員かという、二分ではもうやっていけないという時代が来ていると思います。いろいろな職種がなければ学生を集めてくることもできないし、いろいろないい入試をやろうと思ってもできません。それから、研究と社会を結ぶと一口に言うと、そういう人材をどうやって育てるのかという問題。それから、ドクターコースもやはり一言で申しますと、私も自分の反省を込めておりますけれども、研究者をつくる、自分の後継者をつくるということにやはりどうしても主眼があって、そこから大きく抜け出さないと、今の世の中で博士を持った人がいろいろなところで必要なのだということと新しいキャリアをつくっていく、そういうことに積極的に関与していかないといけないと思います。
 競争的資金とか評価の問題も、先ほど鈴村委員がおっしゃったことは、私は大変実感として賛成なところがございます。この5年で随分国立大学も変わってきておりますけれども、まだ変わってないところもございます。でも、ほんとうに大きな評価のやり過ぎというのは、やはり評価は頑張っていい方向に行ってもらうためにやるのですが、それが逆に疲れさせてしまって、教育や研究力をそいでしまっている状況が、今もう既に始まっているということは、先生方ご指摘のとおりです。
 最後に申し上げたいことは、自由な発想で研究をすることがなぜ悪いかという問題でございますけれども、そこだけでとどまっていてはやはりいけないと思います。そのことが世の中をどう変えていくか。新しい発見、世の中を変えるような力になっていくのだというところまでをやはり言っていく必要があると思いますし、教育やこういった基礎研究、インフラをつくることというのはやはり公共のものだという、そこにお金を投資していくことがやっぱり日本全体の力をつけていくことだということを、もう少し論理的な補強をして言っていく必要があるのではないかと思います。
 長くなりまして、申しわけありません。

【佐々木主査】 

 またどうしていくかという話は大変重要なポイントだと思いますが、いろいろ問題提起をいただいたということで。樺山委員、それから古城委員、よろしいですか。

【樺山委員】 

 樺山でございます。この会の初めに主査代理がおっしゃいました自由な発想による研究というのがキーワードになっておりまして、なかなか味わいがある言葉だと思うのですが、私は歴史学を仕事にしておりますけれども、歴史学を含む、いわゆる古典的な人文系の学問は基本的には本心から言えば、自由な発想を何とかして保証してくれと、そこに尽きるかもしれません。
 私も個人的には何よりも人からあれこれ言われたくない、自由な発想で学問をやらせてくれという、その気持ちをよく理解しております。私ども研究仲間たちと話をしますと、現在の大学改革や、あるいは研究条件の変化、変動の中でもって、とにかくお金はそこそこでいい。でも、自由な発想で自由な仕事をさせてほしいというのが本心です。本心ではあるけれども、今、郷先生がおっしゃったとおりに、さはいえ大学を含む研究機関、あるいはその他教育機関も含めて、これは公共的な存在でありますから、そこでもって、あなただけ自由にやっていいですよというわけにもいかないだろうという、人生論を含めたこういう議論は当然のことながら成り立つ話だと思っております。
 文学でありますとか哲学のように、それ自体の研究は比較的個人プレーに近いところがあり、またできるだけ自由な、闊達な議論が学問の進展を保証するという性格もありますので、このことを大事にしたいと思っているけれども、でも、やはりとりわけ人文社会科学のうちでも古典的な人文学に属する部分については、そうであるにもかかわらず、社会に対してどんな形でもって負託にこたえるかということ、これは国立大学のように税金でやっているところはもとよりのことでありますけれども、私立であれ何であれ、公共的な存在の教育研究機関は、何らかの形でもって、やはり社会的な負託にこたえるような仕事をせざるを得ないであろうということを申し続けてまいりました。
 先ほど文科省でご整理いただきました学術研究をめぐる動向について、資料5ですが、ここにも記載していただきましたけれども、実は数年前から日本学術振興会を母体といたしまして、「人文・社会科学振興プロジェクト研究事業」というものがございまして、この5年間、継続して事業をしてまいりました。多少のお手伝いをしてまいりましたのですが、この3月でこの事業は終了いたします。あさってのシンポジウムを最後といたしまして終了いたしますが、このプロジェクト事業で参加されました百数十人の方々に繰り返し申し上げてきたのですけれども、とりわけ人文科学研究はもちろん自由にやってほしいと。そのことが学問の進展を保証するが、でも、これはやはり人文科学としてとりわけ社会的な要請にこたえるような仕事をしてほしいんだと。この場合の要請というのは、もちろん政策形成に関する提言というような狭い意味ではない。社会的な課題に対する応答が十分にできるような人文科学であってほしいということでお願いしてまいりました。
 参加された方々の中ではかなり意識が変わってきたなという感じをしておりますけれども、でも、実はそれだけではないということも感じてまいりまして、とりわけ古典的な人文系諸科学を中心としてでありますけれども、単に社会的な要請にこたえるだけではなくて、同時に2つの事柄がよりさらに大事だろうと申してまいりました。1つは人文科学研究にも当然のことながら組織力が求められるということが1つと、いま1つは発信力が求められる、この2つだと申してきたのですけれども、ということは、これまで私も含めてですが、えてして人文系の諸科学をやっている人間は組織力とは距離を置いたところでおれ1人でやるんだという、人にあれこれと言ってほしくないという意味での組織力に対する距離の置き方と、それから発信という、これも当然のことながら極めて大きな発信力を持った偉大な研究者の方がおいでになるけれども、しかし、全体としてはやはり発信力が不足している。自分で研究して自分で成果が出て、仲間たち、小さいところでもって評価し合えばこれでいいなという、そう考えがちなところがありました。でも、今後人文科学が社会的な存在として公共性を担保することができるためには、少なくともその組織力と発信力をも視野におさめながら、人文研究の上で今後展望してほしいと申してまいりました。
 これも少しずつ成果が上がってきたと考えておりまして、いわゆる共同研究をはじめとする組織力や、あるいは何らかの形で、これは書物だけではなく、ネットを含むさまざまな形での発信が人文科学にとって今後必要なのだということは、随分合意を得つつあるように思っています。
 そういうことで、今回伺いますと、まだできていないようですけれども、この分科会にはいま1つ「人文学及び社会科学の振興に関する委員会」という委員会が設置されるようで、こういう形でもって別途の検討も可能でありますので、そこで議論しながら、と同時に、こういう自然科学、あるいは工学、生命科学を含むさまざまな分野の方々と議論をする場所が設定されておりますので、どういう形でもって人文社会科学がほかの科学との間で共通の課題を獲得することができるか、あるいはどうやって進めていくことができるかということについて議論させていただきたいと考えております。
 文科省でお作りいただきました検討事項の例というところにもございますが、例えば4番の特定分野(人文社会を含む)の研究推進のあり方とか、あるいは最後のところにあります研究成果の発信といった事柄は、もちろんあらゆる科学にとって、あらゆる学術研究にとって共通の課題でありますので、いろいろな事情を抱えながら、私たちといたしましても、人文系、あるいは社会科学系の諸分野において、共通の課題を模索、発見しながら議論をさせていただきたいと考えております。
 ありがとうございました。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。それでは、古城委員、どうぞ。

【古城委員】 

 東京大学の古城でございます。私、専門は国際関係の国際政治学でありまして、社会科学系と言っていいと思います。このたびこういう会議に参加するようになりまして、特に私は最初思ったのは、ふだん人文社会系の先生方と話していることが、今のこういう研究資金の配分とか、そういう研究体制にあまり反映されていないのではないかと。ですから、申しわけないのですが、結局は文部科学省が悪いのではないかとか、そういう議論になりがちだったわけです。
 今回、この資料をいただいたり、今の諸先生方のお話を伺って、皆さん考えられていることにそんなに大差がないと思ったわけです。ですから、先ほど郷先生もおっしゃいましたけれども、やはりこういったことをどのように活かしていくのかということをもう少し真剣に考えていくべき時期に来ているのではないかと思います。このままおそらく、しばらくたって見直しが来るだろうと研究者仲間では言っておりますけれども、その時期が一体いつ来るのかということで、かなり疲弊しているというのが現状だと思います。
 それで、先ほど評価ということがありましたけれども、この評価の方法もある程度見直しをしていただかないと、やはりいろいろな学問分野があって、それぞれにどんな特性があって、どういう資金配分がいいかということについては、一律にはやはり全く論じられないということです。人文社会系はいろいろ分野がありますけれども、1つにはやはり競争的資金で使えないようなところ、つまり運営交付金とか、そういうことできっちりやっていただきたいところに手当をしないと、競争的資金がいくら増えてもうまく研究が回っていかないという現状が、特に文系では顕著ではないかと思います。
 私の周辺で起こっていることはどういうことかといいますと、皆さんやはり運営交付金は減っておりますし、自分の研究がしたいわけで、競争的資金をとるわけですけれども、競争的資金はとっても、暇が非常になくなってきていて、その資金をうまく活用できないと。片や運営交付金が減ってきているので、例えば暖房が壊れても、それを直す資金がないと。つまり、これで一体どうやって研究をやれとか、そういう非常にちぐはぐな状況が最近目立ってきていると。ですから、その部分はやはり早急に何らかの形で手当していただくということがいいのではないかと思います。
 それから、もう1つは研究者の養成ということですけれども、私が最近感じているのは、研究者を養成するということは非常に重要なのですが、研究者の養成がどういうことにつながるかというと、やはり後の人を育てる人をつくっていくということだと思うのです。優秀な研究者の人を育てるということは、その後に続く人も育ててくれるということなのだと思います。そこが昨今先細りしているような気がしまして、もし先細りしていくとなると、日本の高等教育全体が地盤沈下していくという危険性があるのではないかと思っています。ですから、きちんと優秀な研究者を1人2人育てていくというよりも、その後の教育も基礎的なことからきっちり教えられるという人材を丁寧に育てていくということもやはり必要ではないかと思っています。
 ですので、非常に国際的に通用するということばかりを言って、それは非常に重要なのですが、やはりその後、その人たちがきちんと日本にとどまって教育をしていってくれるということまで視野に入れていかなければいけなくて、そのこと自体を訴えていけば、社会的なニーズにも当然こたえることになるのではないかと思っております。
 以上です。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。小林委員、三宅委員、それから科学官の先生方からも。せっかくの機会ですので、お願いしたいと思います。それでは、小林委員、どうぞ。

【小林委員】 

 もう言うことが大分なくなったのですが、1つ議論で共通していたのは、基盤的な研究経費の整備が重要だということだと思います。基盤経費が重要だという意味では、多分大学関係者はだれも反対しないのだろうと思いますけれども、ただ、実際に具体化しようと思うといろいろな問題が出てくるのだろうと思います。どういう範囲にどういう方針で配分するかとか、評価というものを全くなしというわけにもいかないとか、そういう問題が出てくる。
 ですから、そういうレベルまで踏み込んで制度設計の議論をしないと、これはなかなか実現に向けて進んでいかないのではないかという気がします。それをどこがイニシアティブをとってやるかというのは、郷先生のおっしゃるような問題ではないかという気がします。
 もう1つ別のことですけれども、自由な発想の研究でよいかという議論がございましたけれども、これも要するに研究者個人の問題と、それからそういう研究の集積としてどういう役割を果たすかという問題と同一のレベルでは議論できない問題ではないかと思うので、こういうところでは集積として社会に対するどういうインパクトを持っているかということをきちんとまとめていくべきではないかという気がいたします。
 それから、学術とは何かという議論が最初にございまして、漠然としたイメージは持っていると思うのですけれども、定義しろと言われると私は困るのですが、鈴村先生、対応する英語として、リベラル・アーツ・アンド・サイエンシスとおっしゃいましたけれども、対応する一語の英語がないのですね。ということから、要するに学術という概念がグローバルに1つのまとまった概念として共通に認識できるものなのかどうかというのはちょっと気になっていまして、そういう客観的な1つの概念として定義できるものかどうか、何かの機会にご議論いただけるといいかなという気がしました。
 以上です。

【佐々木主査】 

 ありがとうございます。では、三宅委員、どうぞ。

【三宅委員】 

 提言をしても受けとめるところがないと意見を言ってもしようがないという先ほどの郷先生のお話を伺って、何を言ったらいいのかとすごく考えてしまったのですが、どうしてそういうふうになるのかということを考えたときに、提言が出て、その提言が実現される仕組みと資金を文科省なりJSPSなりから提供されたとしても、受け止める研究者がするっと新しいやり方に変われますというものではない、というところにも問題があるのではないかと思います。例えば大学の制度ですとか研究者自身が感じている領域意識というか、そういうものがあって、それが実はいろいろな提言を活かせないような具合に働いてしまうということがありはしないか、要するに人間がやることというのは歴史と文化を負ってしまっているので、そこを壊していくような仕組みをどうやってつくるかという話からここでしなくてはいけないのかもしれない、ということを考えておりました。
 例えば本来人間がどう賢くなっていくかとか、どう新しい発想をしていくかということを考えるときには、そこに理工系、人文社会系という区別があるわけではないと、ずっと狭間で仕事をしてきたものですから、そう思います。ですが実際には、それがあって、両者の考え方の違いをまず尊重するところから始めなければならない、その差はこえられない、というような雰囲気を感じることがあります。最近、中堅どころの私学から大きな大学に移ってみましたら、大きければそういう差は却って小さく見えるかというとそうでもなく、そこが実際には融合していかないと多分新しい提言が出てもうまくいかない、というようなことはあるのだと思います。
 アメリカにしばらくいたときに印象的だったのは、方法論が同じか違うかとは関係なく、ただいろいろな人がみな「おもしろそう」だと感じるテーマがあると、そのテーマにほんとうに方法論の違う人たちが集まって話をしようよという契機があることでした。さらにそれにお金を出そうというところが出てくる仕組みがあって、それが3年、4年うまく回ると、今までなかった新しい学問分野が立ち上がってきて、全体としてものが変わっていくということが実際に起きていたと思うのです。
 日本に帰ってきてから、何回かそういう契機があるように見えたときがあったのですけれども、実際にはそういうふうにはなりませんでした。なぜそうならないかというと、日本の大学がある意味小さ過ぎて、1つの大学の中で1つのテーマを1つの方法論でやっていらっしゃる方は、仲間がだれも周りにいないので、そういう意味で一緒に話をしようところまで話を持っていくのにエネルギーがかかり過ぎるということがあるのではないかということを感じておりました。こういうところから変える必要があるのかもしれません。
 以上です。

【佐々木主査】 

 縣科学官、何かございませんでしょうか。

【縣科学官】 

 では、2つだけ申させていただきます。1つはやはり学術の本質は何かという議論をぜひやっていただきたいと思いました。特に私はドイツ語が基調なものですから、考えますと、私はWissenschaftと言ってしまえば、学術も科学技術もみんな入ると理解しております。ところが、日本の場合には概念上、行政用語上分かれている。これがいろいろな組織的な区分であるとか、予算上の区分というものを生んでいるように私は思っております。それが、今日先生方がご指摘の、非常に多様な現象として生まれる構造的な原因ではないかと思います。ですから、その点でこの基本問題特別委員会がこのことをまず徹底的に議論していただいて、そして中長期的にいろいろな構造的変革につながるようなことをまとめていただければいいのではないかと1つは思います。
 もう1つは、いろいろな側面をどのように動かしていったらいいかというときに、1つ重要だと思ったのは、博士学位取得者の社会的役割を日本の今までの流れの中に置いたままでいいのか、あるいは変えなければいけないのか、この点をどう考えるかだと思います。研究が教育につながって、最終的にどういうことが生まれるかの象徴的なものはやはり博士学位取得者、これはちょっと程度は違うと思いますけれども、自然科学も人文社会もみんな同じだと思います。そのときに、社会がそういう人たちをどう受け入れるかによって、研究教育の成果の方向が決まると思います。
 ですから、現状としては短期的にはポスドク問題というものが生じているわけですが、これを将来に向かってどういう形で打開するのか。要すれば、人文社会においても博士学位取得者が社会的にたくさん受け入れられていくように社会のあり方を変えるのかどうか。それを変えるように、この学術の方向から働きかけをするのかどうか、この点をかなり徹底的に考えておく必要があるのではないかと思いました。

【佐々木主査】 

 それでは、佐藤科学官、どうぞ。

【佐藤科学官】 

 私も簡単に2つだけ申し上げさせていただきます。
 1つは、社会と学問との関係で、学問は常に金を使ってやっているのだからという負い目を感じてきたというのは事実だと思いますけれども、1つの責任は、やはり学術が社会に対するほんとうの意味でのニーズにこたえ切っていないというところに大きな責任の1つがあるような気がしております。
 例えば、私の一番近いところで遺伝子組み換えを1つの例に申し上げますと、どうすればよいものができるかという技術の話はさんざんやるのです。それは確かに産業がそういうものを要求しているからなのですが、一方では社会にはそんなものは要らないという意見もたくさんある。そうすると、やはり学術としてはどうして日本の国はそうなのかということも考えなくてはならない。その辺のことも含めて、やはりいろいろな分野の人たちが寄ってそういうものを考えるという仕組みがない。これはやはりものすごく大きな問題であろう。異分野交流のための仕組みをつくるための議論をしていただきたいというのが1つです。
 もう1つは、これも社会との関係ですが、研究者の側の意識改造が必要な部分も多分にあるような気がしておりまして、例えば考古学者の中には掘ったものは全部自分のものだと思っている人もいますし、フィールドに出かけていく研究者の中には、どこか外国の田舎の畑に植わっている植物を研究のためと言って黙って持ってくるんです。そういうことはやはりいけないのであって、その辺の意識改革ということも社会と学問のかかわりの中では多少は必要なんじゃないかということも申し上げたいと思います。

【佐々木主査】 

 高山科学官、どうぞ。

【高山科学官】 

 私も手短に2つだけ申し上げたいと思います。
 1つはやはりシステムの問題だと思うのですけれども、私たちの周りの人たちはほんとうに忙しくなりすぎています。大学の先生方はかつては研究をわりと自由にされて、教育もそれなりにやられていたと思うのですが、最近は多くの人たちが研究時間をとれなくなってしまっている。いつも、雑務に追われて走り回り、研究や教育に専念できない状態になってしまっている。特に有能な方にはいろいろな仕事が集中していて、その方たちは自分の研究も教育も満足にできないという状態です。大学教員が研究と教育に専念できるシステムをきちんと考えなければならないと思います。
 大学の物理的なインフラも問題です。例えば、私どものところでは、大学教員に研究室と呼べるような部屋を用意するスペースの余裕がないという問題があります。部屋を用意できたとしても、大学の所蔵する図書が部屋を埋め尽くしていて、自由に使えるスペースは机だけという例も見られます。この現実の状態を無視して、独創的な研究成果や、実のある教育成果の議論をしているわけですから、惨たんたる気持ちになってきます。
 もう1つは、研究と教育の問題です。大学の教員に期待されている基本的役割は研究と教育だと思いますが、この二つの役割がうまく整理されていないため、なかなか生産的な議論ができないのだと思います。教育の問題だけに限定しても、人間教育をやるのか、人間教育というのは教養教育なのかもしれないのですが、それとも専門知を教えていくのかをはっきりさせておかないと、議論が混乱します。研究の問題を考える場合でも、ある種自由なといいますか、自分のやりたいことをやる研究を問題にする場合と、それとはちょっとレベルが違う、新たな知を創出する研究、つまり、人類が共有する知にどうやって貢献するかということを問題にする場合とでは、やはり大分対応の仕方が違ってくるのではないかと思います。
 このような問題も、ここで議論していただき、わかりやすい形で整理していただければ、ありがたいと思っています。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。福島科学官、いかがでしょうか。

【福島科学官】 

 2つお話ししたいと思います。
 1つは、私は自然科学系なので、何でもわりとデータをよく見るのです。お手元にある参考資料4、これは文科省のほうでまとめられた資料だと思うのですが、「我が国における科学技術・学術の状況について」という資料の一番最後のページに、日本の学術力みたいなものの国際比較がグラフ化してあります。グラフでは人文社会は省かれているので自然科学系だけですけれども、いわゆる研究論文の数とその引用数の経年推移が書いてあります。日本は小豆色で表示してありますが、実は2003年までの10年間ぐらいは一生懸命頑張っていたことが見て取れます。どういうことかというと、このグラフは右側に行くほど論文を大量に生産していて、上側に行くほどたくさん引用されている。縦軸は全体としての論文の質(クオリティー)を、横軸は論文の量(クオンティティー)を表しています。日本は、2003年までの約10年間は一番右上端ですから、質もよく、量も多かったのですが、それから2004、2005、2006、2007と左下のほうにどんどん下がっている。どういうことかというと、論文の量は減り、質も下がったということです。ヨーロッパなどの他の国に比べると、日本だけ下がっています。つまり、明らかに2004年の法人化、その前の2年間ぐらいから、大学関係者はみんな法人化の議論に忙殺されていたと思うのですが、その影響だと思います。私が心配するのは、これは一時的でないような気がすることです。このデータだけ見ると、多分このまま左下のほうにどんどん下がって行ってしまうのではないかと。つまり、明らかにこのデータだけを見ると、ここ数年、日本の学術力は他の主要国に比べて断トツに落ちており、しかも長期低落傾向にあると言わざるを得ない。質も下がっているし、量も減っている。本当に、これだけ見ると、お先真っ暗なような気がします。これは事実を解釈しただけです。
 もう1つは全く違う話をします。私の所属する国立天文台では、すばる望遠鏡とかの大型研究施設を用いてカッティング・エッジの研究をしていまして、その意味で大きなお金をつけてもらっている研究所です。けれども、私個人としては、カッティング・エッジの研究だけやっていて、果たして日本の学術は栄えるのかという疑問を抱いています。
 最近、大学で教えていて思うのは、学生がレポートを書いて出すプロセスが昔と大きく異なってきたことです。昔で言うと教科書、我々物理系だと『ランダウ=リフシッツ』とか、そういう有名な教科書があって、それを一生懸命勉強して答える。でも、今は違うのですね。今、学生は何を参考としているか。多くの場合、コンピュータネットワーク上のフリー百科事典であるウィキペディア(Wikipedia)を見ます。ウィキペディアに文部科学省は何か貢献しているかというと、多分ゼロだと思います。大学の関係者はあまり貢献していないでしょう。ごく少数のポスドクや大学院生は貢献しているかもしれません。ところが、ウィキペディアは、我々のような学術関係者が行っているより大きい情報発信能力を持っており、実際に、今の社会により大きな影響を与えていると思います。これは日本に限りません。世界的に見ても、そうです。ところで、ウィキペディアにはカッティング・エッジが書いてあるかというと、基本的にカッティング・エッジは書いてありません。何が書いてあるかというと、いわゆるミニマムといったりプライマーといったりする、学問を学ぶ上で最低限必要な諸知識が、わりとコンサイスによくまとまって書かれています。もちろん、玉石混交ですので、中にはひどい記事もあります。けれども、ウィキペディアのようなものが世の中に広まっていて、しかも一般市民はそちらを参考にされている。かならずしも専門家の意見や見解とは限らない。たとえ間違っている部分があっても、それを信じている人が多い。
 これは、どこかおかしいのではないか。つまり、そういう世の中の人々が普段に参考とするような知識体系こそ、我々学術人がつくり上げ提供すべきなのではないでしょうか。学問を体系化し、教科書なら教科書、立派な参考書なら参考書、そういう最低限必要な知識を初等中等教育で教える。リベラル・アーツというか、いわゆる昔、大学で行われていた教養教育の枠組みをつくり上げていく。こういうことは、日本に限らないと思いますけれども、ちょっと我々はおろそかにし過ぎているのではないかと思います。
 先ほど申し上げた日本の学術力のグラフに戻りますが、日本と違って、ドイツは年々、上に上がっています。これはどういうことかというと、量は変わらないけれども、質が上がっている。イギリスもフランスもそうです。特にあるところから上の方向に向かう転回現象が起きますが、これはEUの設立に関係していると思います。つまり、EUになって通貨が一緒になって、ドイツの国でドイツ人だけが研究している鎖国のような状態から大きく変化してきた。そういう、ある種のグローバリゼーション、これがEU諸国の学術力を完全に向上させているわけと考えています。
 そういうことを思うと、我々は、日本の国内だけで日本人だけで学術を追及する、あるいはカッティング・エッジだけを追い詰めているというような姿勢だけで、学術がほんとうに向上するかどうか、少々疑問であります。

【佐々木主査】 

 よろしいですか。ありがとうございました。谷口委員。

【谷口主査代理】 

 最初に少し反面教師的なことを申し上げたのですが、いろいろ大変重要な課題が出されたと理解しております。
 「好奇心というのは存在すること自体に意義がある」というのは、アインシュタインという物理学者の言葉です。私の古い大学の先輩に当たるチューリッヒの大先生ですけれども、こここそがサイエンスの根幹にあると私は思います。やはり好奇心こそが0から1、無から有を生み出す基盤になっているというか、それこそがサイエンスの原動力になってきたと。これは何も自然科学だけではなくて、先ほどからご指摘のある社会科学の分野にも言えることでありまして、それが過去の歴史をさかのぼってみても、新しい技術革新や社会の文化力の創造につながる根幹にあるのはそれであるというのが、合っているかどうか知りませんが私の信念で、やはりそこを中心に据えるべきではないかと思うわけです。
 それをもって、それをいかに社会に貢献する、社会に理解してもらうか。パブリシティーの問題というものも非常に重要だと思います。日本あるいは世界の学問のあり方、サイエンスのあり方、政治のあり方も含めて大きな曲がり角にある今こそ、やはり日本が独自のあり方、考え方というものを持っていくということが重要だと思います。
 1つには技術革新というものがあり、もう1つはやはり文化の育成といいますか、先ほどからの委員のご意見にもありましたように、人文社会、理工系、理学系、いろいろすべてを統合したあり方を考えていくということが重要ではないかと思い、それこそが国際標準ということを基準にした日本のこれからの学問のあり方を標榜していくために重要なのではないかと思うわけです。
 学術に関する基本問題は、もちろん今日は最初ですからいろいろ議論があっていいところだとは思うのですが、やはり今後の課題といいますか、私は先ほどそういう観点から見ていて思ったことは、やっぱり総合科学技術会議などでもいろいろ批判とか意見とかあったとしても、総合会議というのは非常に重要な存在であり、そこで基礎研究の重要性というのは非常にしっかりと今回うたわれ続けているという流れを感じました。
 そういうところから、日本学術会議でもやはりこの問題というのは引き続き議論されているということもありますし、三宅先生のご意見にもありましたが、ぜひこの基本問題検討委員会で議論されたことをより現実性、具体性を持って活かしていただくような形で科学技術・学術審議会に報告をして、科学技術・学術審議会と総合科学技術会議等が一緒になって概算要求といったところにある程度反映されてくるような仕組みというものを考える必要があるというのがまず1点。それから、長期的に見れば第4期の科学技術基本計画の中にここで議論されることがいかに反映されていくかということをやはり明確に視点に入れながら進めていくということが大変重要なのではないかということを思っております。
 最後になりますが、先ほど三宅先生がお話しになったアメリカの話では、オバマ政権になって、やはりアメリカではナショナルサイエンスカウンセルというものがありまして、ナショナルアカデミー・オブ・サイエンスとエンジニアリングと、それから3つの組織が一緒になった組織があり、そこが大統領に対するアドバイザリーボードというものをきちんとつくっていて、科学者コミュニティーがその意見を反映させるような仕組みがあるんです。チェアマンのエリック・ランダーと、私の知り合いですけれども、ハロルド・バーマスというノーベル医学賞をもらったオンコジーンの研究で有名な方ですが、そういう方々がしっかりと座っているので、科学者が安心感を覚えるというところがあります。
そういう仕組みを日本ですぐつくれというのは大変難しいかもしれませんが、悪いところを学ぶ必要はないので、やはりいいところを学び、いいところはやはり日本が独自のあり方を考えながら、今のような視点も持って検討していくということが非常に重要ではないかと。
 長くなって失礼しました。

【佐々木主査】 

 ありがとうございました。先ほど来皆さんからここでの議論の課題等についてのご指摘をいろいろいただきまして、今後の議論の参考にさせていただきたいと思いますが、同時に、こういうものをどのように活かすのかということについて、再三委員の側からご質問なりご意見なりがございましたので、局長におかれましては、よくよくこの場だけで終わらない形で、活かすすべについては、またいろいろご工夫のほど、主査としてもお願い申し上げたいと思います。
 私個人の意見もほんとうは申し上げたいことはあるのですが、とりあえず私の隣の領域の法学が、今、大変な状況になっているものですから、これもどうしようかという話もございます。ですから、それぞれ事情は異にいたしますけれども、やり方も含めて、また課題の設定の仕方も含めて、少しこれまでなかったような筋を出すべく努力したいと思いますので、ご協力のほどお願い申し上げます。
 それでは、これで時間になったわけでありますが、今後のスケジュールについて、事務局からお願いします。

【門岡学術企画室長】 

 次回の学術分科会の日程につきましては、資料6にありますように、3月31日13時から15時に行いたいと思います。場所につきましては、決まり次第ご連絡を差し上げたいと思います。3月31日の午後1時から午後3時で開催を予定しております。
 また、本日の資料につきましては、お手元の封筒にお名前をご記入の上、机上に残していただけますれば郵送させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 以上です。

【佐々木主査】 

 どうもありがとうございました。これで終了いたします。

―― 了 ――

 

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研究振興局振興企画課