5.人文学及び社会科学の振興方策について

(1)基本的な考え方

(2)政策や社会の要請に応える研究の振興方策

1政策や社会の要請に応える研究の振興について

  •  社会における課題や国としての政策的課題を明らかにすることが必要ではないか。
  •  研究成果の社会還元に当たっては、マス・メディアへの働きかけを念頭に置くべきである。
  •  「政策や社会の要請に応える研究」は、「学術研究」や「基礎研究」に対して「臨床研究」と言いうるものである。ここで、「臨床研究」は、純粋な学問的動機というよりも、現在の社会に存在する価値観を前提に行われるタイプの研究と言いうるものであり、人文学及び社会科学において、このようなタイプの研究を進めていくことが必要である。

2「世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業」(文科省)

(意義)

  •  ある程度まとまった予算を、政策や社会のニーズに対応した人文学及び社会科学研究の推進に当てることは、非常に重要である。
  •  環境問題や貧困問題といった現代社会が直面する「グローバル・イシュー」をベースにした地域研究を推進することは重要である。
  •  様々な価値が並び立つ現代世界において、人々が共に生きていくためには、「普遍性」と「特殊性」の問題を真剣に考えていくことが重要であり、このような観点から地域研究を推進していくことは重要である。
  •  政策的、社会的ニーズへの対応という枠組みの下では、人文学の諸分野は対象となりにくいのではないか。

(研究対象地域、研究領域)

  •  今後の研究対象地域としては、アメリカや東アジアが考えられる。
  •  低所得水準の開発途上国を対象とした効果的、効率的な開発援助の在り方について、研究してはどうか。
     研究対象国としては、現在、国連において行われている2000年期開発目標の中で、国連と緊密な協同作業を実施している8カ国(ケープベルデ、モーリタニア、マダガスカル、タンザニア、アルバニア、ウルグアイ、パキスタン、ベトナム)が考えられる。

(研究実施体制)

  •  研究の推進に当たっては、競争的資金による資金配分のみならず、研究の拠点を整備するなど、中・長期的な観点から振興を図ることも必要である。
  •  研究の推進に当たっては、若手研究者が研究活動に専念できるよう、事務体制を整備するための経費を措置することが必要である。
  •  政策的、社会的ニーズに対応した研究を進めるに当たっては、社会からの具体的な問いかけに応えるための組織や体制が必要ではないか。

(研究成果の社会還元)

  •  本事業により蓄積されたデータや、その分析結果などを、どのように活用していくかが課題と考える。

(3)研究方法の観点から見た支援施策

1フィールド研究(臨地研究)

(海外における研究拠点の整備)

  •  フィールド研究の効果的な実施のためには、海外における研究拠点の整備が重要である。
     現在、各大学が海外に研究拠点を整備しているが、我が国の研究者が相互に活用可能とするため、これらを連携させていくことが重要である。また、日本学術振興会の海外連絡センターを整備し、我が国の大学の海外展開の拠点としていくことも視野に入れるべきである。

(フィールドにおける安全の確保)

  •  フィールド研究の実施の前提として、フィールドにおける研究者の安全を確保しなければならない。このためには、大学や日本学術振興会などの学術関係の機関が、組織として諸外国の大学や政府との協力関係を築くことが求められる。

(サバティカル制度の活用)

  •  長期にわたるフィールド研究の実施のためには、サバティカル制度など、一定期間、海外等のフィールドに継続的に滞在できる研究環境の整備が必要である。特に、若手の段階で、このような機会を付与することができれば、研究者としての成長を大いに期待することができる。

(資料等の整理、蓄積)

  •  次世代の研究者等に活用されることを目的として、フィールド研究から得られた膨大な資料を整理し、蓄積していく体制づくりが必要である。

2数理的研究手法

(実験社会科学への支援)

  •  コンピュータを用いた新たなシュミレーション手法や実験の試みを積極的に支援することが必要である。

(実証データベースの構築)

  •  社会調査データのアーカイブ化を積極的に推進し、世界的な規模に拡大することが必要である。
  •  データベース構築にあたって、参考になるのがドイツのケルン大学である。同大学では、日本の社会学的、政治学的サーベイを全て集めた上で、英語で概要説明を付けており、非常に使いやすい。
  •  実証データベースを構築することは、学問的な観点からも、また公費を投じて行われた研究についての説明責任という観点からも、非常に重要ではあるが、ツールであるデータベースの構築自体が自己目的化してしまうことがありうる。どこまでの内容を、どの程度の資源を投入して行うのか、制御する仕組みをビルトインしておかないと、無限に広がってしまう。

(4)研究拠点の形成

(5)人文学研究における振興方策

1総論

(新しい人文学)

  •  人文学の中には、人類の遺産となるべきもの、文化的に継承していくべきものがある。他方、人文学の中にも、時代とともに変化すべき部分がある。
     伝統的な人文学を継承しつつも、例えば、テクノロジーを活用した新しい人文学について、より積極的に考えていく必要があるのではないか。

(文化政策からのアプローチの必要性)

  •  国の文化政策の方針の中で、文学、思想、美術、歴史等の人文学研究の発展を位置付けていくことも考えられるのではないか。

(政策や社会の要請に応える人文学の必要性)

  •  政策や社会の要請に対応していくという視点は、人文学においても必要である。
     例えば、外国人問題、民族問題などは、これからの我が国にとって重要な課題と考えられる。具体的には、日本語教育や、様々な宗教や価値観を理解するという問題は、我が国の人文学が取り組むべき重要なテーマと考えられる。人文学の性質からして百年単位で考えるべき課題がある一方で、今ここにある現実に向かいあっていくという学問の姿勢も必要である。
  •  例えば日本の文化、アイデンティティーの継承、そうしたものの意味が見えるような格好にするというのは重要。そのための具体的方策として、少し枠組みを変えて、何か政策対応的視点を持った部分をつくっていくというのは、非常にいい提案。

(共同研究の必要性)

  •  人文学は個人研究が中心ではあるが、大学、研究機関間の連携、共同利用機関の中核機能の強化、専門分野を越えた研究者間の連携など、組織レベル、研究者レベルで相互協力の体制を整備していく必要がある。

2研究インフラの整備

  •  文献データベース等の研究インフラはまだまだ貧弱であり、何らかの支援が継続的に行われていく必要がある。

3人材養成

  •  若手研究者の海外での研究機会の確保など、人文学の国際化推進が必要ではないか。
  •  学問の継承の観点から、人材養成に対する支援が必要ではないか。

4研究費

  •  科学研究費補助金の人文学研究の別枠化についても考える必要があるのではないか。

(6)社会科学研究における振興方策

1総論

  •  我が国の社会科学を国際的な水準としていくためには、1理論化、概念化への志向、2研究インフラの整備、3厳格な評価の実施を三位一体で行うことが必要。

2研究インフラの整備の必要性

  •  社会科学に対しては「紙と鉛筆があれば足りる」とか、「研究費はそれほどかからない」といった意見があるが、必ずしもそうとは言えない。国際的な規模の社会調査やコンピュータを活用したデータの数理的な処理など、自然科学と類似の方法を用いて研究を行うのが本来の姿である。この意味で、我が国の場合、米国などと比して社会科学の研究インフラの整備が遅れており、何らかの対応が必要である。

(7)融合分野の振興方策について

(文理融合の研究所)

  •  研究方法や研究内容によって文理融合を行うということだけではなく、文科系の研究者と理科系の研究者を混合するという形での文理融合が効果的である。研究テーマを与えて、それに向けて文科系と理科系の研究者に、同一の研究テーマを与えて、研究所に隔離して研究に専念させてしまうことも重要である。このようにしてしまえば、自分の専門以外の分野の知識や発想が体に染み込み、専門の枠を超えた発想が可能になる。
  •  文理融合を前提とした研究テーマを定めて、多様な分野の研究者を集めて研究を推進する場を設定することが必要ではないか。

(コーディネーターの育成)

  •  学際領域の形成や文理融合を進展のためには、当該学際領域や文理融合を前提とした研究テーマ自体の専門家の養成よりも、多様な専門分野の研究者の意見をまとめあげていく能力を有するコーディネーターの役割が重要である。コーディネーターとしての能力は、研究者としての能力とは異なる種類の能力であり、このような能力を有する人材をどのように育成していくかは、困難な課題である。

(8)研究者養成

(ポテンシャルの高い大学院生の確保)

  •  研究者養成機能の充実のための最大の課題は、「ポテンシャルの高い学部学生の大学院への進学者を増やすこと」である。このためには、1入学したい大学院の数を増やすこと、2大学院進学者の(経済的)負担を小さくすることである。
  •  入学したい大学院の数を増やすには、優れた研究者を特定の大学院に集中させ、研究水準の高い大学院をつくっていくことである。
  •  大学院進学者の負担を小さくするためには、奨学金の拡充や少数の期待できる大学を中心にした傾斜配分を行うことが考えられる。

(大学院生への研究環境の充実)

  •  少ない予算を薄く広く撒くことよりも、少数の組織や領域に対する集中投資が必要。例えば、フィールド研究や国際共同研究などへの支援を増やすなど。
  •  個々の院生への分散的支援もあるが、大学院生が「群れて育つ」仕組みが必要である。

(研究機能直結の事務組織の充実)

  •  若手教員のエネルギーの大部分が、事務的な仕事に割かれている。数が少ない優れた研究人材を事務的な仕事に使うことは大きなマイナスである。競争的研究資金等の執行に当たる事務体制の強化が求められる。

(9)その他

(我が国の優れた研究成果の「国際的発信」への支援)

  •  国内の優れた研究成果を世界に向けて利用可能なものとするために、日本語で書かれた研究成果の中で質の高いものを、大量に翻訳し、出版する国家的なプロジェクトが必要である。
  •  翻訳や出版のための準備を研究者の片手間で行うことは、きわめて非効率的である。

(教員の業務分担)

  •  教員の役割を明確にすることで、効率的な大学運営を実現し、結果として、研究活動、教育活動、アドミニストレーション活動それぞれを充実したものとしていくべきである。
     現在、我が国の教員は、研究、教育、アドミニストレーションの全ての業務をこなすことが求められており、それぞれの活動が中途半端になる傾向がある。このことは、研究活動のみならず、大学運営全般を非効率なものとしている。

(大学の類型化)

  •  大学において、研究を中心とするか、職業教育を中心とするかを決め、ある程度、特化していくことも考えられる。

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