2.科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の改善について

a.制度の概要

○ 科学研究費補助金は、我が国の優れた学術研究に対する支援を目的とした基幹的な助成事業であるが、学術研究は、単に研究を行うだけでなく、その成果を公開し、社会において利用できるようにする視点が重要である。
 そのため、科研費では、研究費を助成する基盤研究等の種目とは別に、研究成果の普及経費を助成する研究成果公開促進費が設けられている。

○ 研究成果公開促進費は、我が国の学術の振興と普及に資するとともに、学術の国際交流に寄与することを目的とし、優れた研究成果の公的流通の促進を図るものとしており、その中で、「学術定期刊行物」の区分を設け、学会又は複数の学会の協力体制による団体等が、学術の国際交流に資するために定期的に刊行する学術誌に対する助成を行っている。

b.科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の課題

○ 現在、科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の審査・採択においては、質の良いジャーナルであれば、継続的に科研費の助成を受けられる結果となっており、このことは、科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)が、競争的資金である科研費の一種目であるにも関わらず、競争性が十分でないという批判にもつながっている。

○ 科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の配分額については、科研費全体の予算が伸びている中で、平成17年度の約9億1千万円をピークに年々若干ずつ減少し、平成23年度には約3億5千万円と約1/3になっている。長期的に助成を受けられている学協会がある一方、予算規模の大幅な縮小により、応募意欲の減退を招き、これが応募件数の減少につながっている。

○ 科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の応募対象経費については、紙媒体が前提とされていたため、直接的な出版費としての製版代や印刷代等が助成の対象となっており、電子化の進展に十分対応できていない。また、査読審査や編集等に係るジャーナルの発行に不可欠な経費への助成も対象となっていない。

○ 科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の評定基準においては、個々の刊行計画の学術的価値等が中心となっており、国際情報発信強化への取組みについても、海外有償頒布部数、編集委員やレフェリーに占める外国人の割合、海外からの投稿論文数等の評価にとどまっている。

○ 科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の審査については、他の研究種目と同様に、研究者のピアレビューを基本とし、各分野の専門家が学術的価値等を評価する体制を構築していることから、ジャーナルの発行に係る実務者等が参画しておらず、発行改善への取組内容を十分に評価できるような審査体制となっていない。

c.科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の改善の方向性

○ 我が国の学術情報発信力を強化する観点からは、研究の多様性を確保し、世界の学術に貢献するような有力なジャーナルを多く育てることが必要である。そのため、科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)は、国際的な学術情報流通の電子化を踏まえて、国際競争力を高める観点から助成方法を検討することが重要である。

○ 以下は、学術情報基盤作業部会として、科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の改善の方向性等を示すものであり、本種目の審査・交付業務を行う日本学術振興会において制度改善による影響を検証しつつ、具体的な内容について検討することが望まれる。

(ジャーナルの発行に必要な経費の助成)

  • 電子化の進展をふまえつつ、ジャーナルの発行(査読審査、編集及び出版等)方法の改善に必要な経費の助成を可能とするため、助成対象及び応募対象経費を見直すことが必要である。
  • 助成対象については、ジャーナルの発行による国際情報発信力強化のための取組に係る事業計画を対象として助成することが必要である。その際、個別の学協会の取組はもちろん、分野のコミュニティによる電子ジャーナル発行にかかる連携の取組等、新たな取組にも配慮するべきである。
  • 応募対象経費については、電子化の進展をふまえつつ、国際情報発信力強化の取組に係る経費など、紙媒体の直接出版費以外にも、柔軟に経費を助成することが必要である。ただし、条件の緩和が学協会等による経費執行に混乱を生じる可能性もあるため、指針や例を示すことが望まれる。

(国際情報発信力強化を評価するための公募内容の見直し)

  • 国際情報発信力強化に向けた電子化・国際化等、ジャーナルの改善に関する取組を評定要素として重視することを明確にした上で、学協会等が自ら、国際情報発信力強化の取組等について、事業期間を通じて達成すべき目標を設定するとともに、事業期間内の年度毎の計画を設定し、その内容を応募時に審査できるようにすることが望ましい。
  • 事業期間については、現状では、学協会等からの応募を踏まえ単年度中心の助成となっているが、取組の実を上げ、かつ内容を評価できるような事業期間とすることが重要である。
  • 応募区分については、欧文誌の欧文化率が100%に近づく傾向にあるほか、和文誌についても分野の特性に応じて欧文化率に係る取組内容を評価できるようにするため、欧文化率による条件を緩和することが重要である。また、国際的なコミュニケーションの現状を踏まえると英語を基本とし、場合によって例外的措置を認めることも考えられる。

(オープンアクセスの取組への助成)

  • 我が国の学協会が基礎となって刊行される国際的なジャーナルの情報発信力を強化して、すみやかに欧米並みのレベルに到達させ、さらにリードできるようにすべき状況にあることを考慮すると、電子ジャーナルを前提としたオープンアクセスジャーナルへの取組に対して科研費で助成することは重要である。
  • なお、現行の科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)においては、海外で有償頒布が行われていないものは公募の対象とはならないため、オープンアクセスジャーナルは応募できない。このため、公募の対象から海外有償頒布の条件を削除することにより、購読誌とオープンアクセスジャーナルのどちらも応募可能とすべきである。
  • 政策的にオープンアクセスジャーナルの育成を推進することについて明確化するため、新たな重点支援のための区分として「オープンアクセス誌(スタートアップ支援)」を設けることを検討すべきである。その際、ジャーナルが評価されるまでに時間がかかることに配慮した事業期間とするとともに、従来からある購読誌とは別に新たなオープンアクセスジャーナルへの取組を促進できるように重複応募についても配慮すべきである。

(研究成果の公開に必要な事業の拡充)

  • 原著論文の発表の場であるジャーナルの助成を行う科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)に関しては、我が国の研究者の高い研究力に見合った国際貢献をするためにも、各分野において世界の学術に貢献するような有力なジャーナルを育てていくことが重要であり、そのための事業の拡充は不可欠である。

(その他科研費の改善に関する留意事項)

  • 科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の審査に当たっては、ジャーナルの改善への取組内容を適正に評価できるような体制を構築すべきである。
  • 併せて、学協会等が連携して行う国際情報発信力強化の取組については、審査において特段の配慮を行うことを検討すべきである。
  • 各応募区分に関する応募上限額の設定については、適正な規模で必要な支援を確実に行う観点から、その必要性等についての検討が必要である。
     また、事業年度が単年度中心の助成から複数年度に渡って継続の内約を行うことから、予算を平年度化するための経過措置についても検討すべきである。
  • 「科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)」の名称について、改善案を踏まえて変更することも検討すべきである。

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研究振興局情報課学術基盤整備室

(研究振興局情報課学術基盤整備室)