1.学術情報基盤の整備と我が国の情報発信・流通の強化について

a.背景

○ 我が国が国際競争力の高い優れた学術を振興する上で、その基礎となる学術情報基盤の整備は、研究者間における研究成果の共有、研究活動の効率的展開、社会に対する研究成果の発信・普及、研究成果を活用する教育活動の実施、研究成果の次世代への継承等の観点から不可欠なものである。

○ 学術研究及び学術情報流通は元来グローバルな性質を持っているが、近年は特に国際的な動向を踏まえた戦略的な観点から、我が国の研究活動の振興、社会における存在感の向上に努める必要がある。

○ 現在の学術情報流通は、商業出版社および学協会等の発行するジャーナルにおける研究成果の発表を中心としている。ジャーナルは同一タイトルのもとに継続して発行され、査読制度のもと掲載論文は質が保証されたものであることから、当該研究成果の評価システムとしても機能している。

○ コンピュータ、ネットワーク技術の著しい発展を受け、学術情報の流通・発信は、国際的に電子化が基本となっている。我が国においても、研究成果を国際的に発表するジャーナルについては、自然科学系では既に電子ジャーナルが中心となっているが、人文学・社会科学系では電子ジャーナルへの移行は遅れている。

○ また、学術情報流通の硬直化等の問題に対して、電子化の進展を前提に、学術情報の国際発信・流通を一層促進する観点から、利用者側が費用負担なしに、必要な資料を入手することを可能にするオープンアクセスが国際的に大きな関心を集めている。特に、公的助成を受けた研究成果についてはオープンアクセス化を図るべきという考えが強くなってきていることを十分認識すべきである。

b.現状

○ 日本の研究は、多くの分野において世界でもトップクラスの業績を上げている。一方で、日本においては、インパクトファクター(IF)が高く、国際的に認知された有力なジャーナルの発行は決して多いとは言えない。これは、発行主体が主に学協会ごとに細分化しており、編集体制や査読制度の脆弱さ、マーケティング力の不足、一部は言語が日本語などの理由が考えられる。
 その結果、我が国で生産される論文の約8割が海外のジャーナルに投稿されている状況にあり、査読で不利益を受ける可能性や公開前に情報が流通することを懸念する声もある。言語等の問題等も含め、優れた研究成果が十分流通せず、結果的に埋もれてしまう可能性がある。日本自らが学術情報を発信する場としてのジャーナルの整備に関しては、十分な成果を挙げてきていない。

○ 世界の中で日本の研究上の位置づけに見合った貢献を学術コミュニケーション(学術情報流通・発信)において実現するには、日本の学術コミュニティに基礎を置く国際的なジャーナルが必要である。
 我が国が知的存在感を増すとともに、また、投稿論文がその扱いにおいて不利益を受ける恐れがないようにするためにも、我が国発の有力ジャーナルの育成は不可欠であり、こうした懸念は、日本学術会議からも強く指摘されている。
 我が国において国際的ジャーナルが刊行されることは、日本発のオリジナルな研究成果の掲載と、それに続く優れた研究成果が諸外国からも投稿されることにつながり、我が国が当該学術分野において世界をリードする発展拠点になることが期待される。

○ 将来を見据えた我が国の学術情報基盤の整備に当たっては、学術情報の電子化、ネットワーク化、さらにはオープンアクセスの理念を踏まえ、第4期科学技術基本計画でも指摘されている「知識インフラ」構築に向けて、多様な取組を加速化して実施していくことが望まれる。日本で生産される多様な学術情報の電子化、オープンアクセス化を推進することで、我が国の研究成果の国際的な流通を促進し、研究成果の共有により学際的、創発的な研究活動の推進が期待される。

○ さらに、このような電子化とオープンアクセスを前提とする知識インフラの構築は、研究者のみならず一般の人々の科学技術・学術情報へのアクセスを格段に向上させることも期待される。

c.課題

○ 学協会が行う学術的価値の高いジャーナルの刊行に対しては、これまで科学研究費補助金により支援することで、ジャーナル刊行の継続性や情報発信力の確保に一定の成果を上げてきたものの、助成対象は紙媒体に対する発行経費に限定されてきた。日本発の国際的に有力なジャーナルの育成に当たっては、電子ジャーナル化、オープンアクセスジャーナルへの取組を含め、国際情報発信力の強化を支援する方向での改善が望まれる。

○ 研究成果のオープンアクセス化に関しては、利用者が費用を負担するこれまでの学術情報流通の在り方と根本的に異なるため、このような取組に対する反発や躊躇もあるが、研究活動が自由で活発な学術情報流通を前提に成立すること、また、国際的な大きな流れにも鑑み、我が国としても積極的に取り組むべきである。そのためには、オープンアクセスジャーナルの育成とともに、各大学が整備を進めている機関リポジトリの活用も有益である。

○ 機関リポジトリは、各大学等の教育研究成果を収集・保存し、インターネット上で発信・流通させることを目的に構築、運営されるものであり、学術情報流通のオープンアクセスの文脈だけではなく、我が国における「知識インフラ」の構築に当たってもその一翼を担うことが期待されている。その整備を加速化させるためには、大学等が教育研究活動をアピールするに当たって、機関リポジトリの整備・充実は重要であるとの認識を一層普及させることが必要である。

○ 国際的な動向を踏まえた上で、日本における学術情報基盤の強化を図るに当たっては、助成事業を行う日本学術振興会(JSPS)のほか、科学技術振興機構(JST)、国立情報学研究所(NII)、国立国会図書館(NDL)による学術情報流通を側面から支援するための環境整備が重要である。例えば、学術情報流通を促進するための電子的プラットフォームの整備、日本が発信する情報の国際的なビジビリティ、アクセシビリティを向上させるための識別情報やメタデータの標準化や連携、多様な情報の統合的検索や自動分類、利用データの活用に基づく新しい機能の提案などの事業を強化していく必要があり、そのためには、これらの機関の連携及び役割分担が求められる。

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研究振興局情報課学術基盤整備室

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