資料1(その1) 学術情報の国際発信・流通力強化に向けた基盤整備の充実について(案) はじめに

 我が国は、これまで高い科学技術力をもとに、社会・経済発展を遂げてきたが、グローバル化の流れの中で、円高の進行、新興国の台頭、少子高齢化の影響等により、国際競争力が低下し、社会に停滞感が蔓延している。
 物的資源の少ない我が国にとって、知的資産は重要な資源であり、そのため、従来以上に科学技術振興に力を注ぎ、特に、将来を見据えた独創性の強い学術研究を推進することが国際競争力を高める上で不可欠である。
 学術研究の推進のためには、情報を必要とする人々に対してタイムリーに広くアクセスが保証されていることは必須の条件である。それと同時に優れた研究成果を国内外に迅速に発信・流通させ、さらに社会に活かしていくことが重要であり、そのことが日本の知的存在感を向上させ、世界中から優秀な人材を引きつけることにより、我が国の学術の更なる発展及び社会全体の活性化につながる。
 我が国の学術レベルについては、様々な分野で世界トップ水準にある一方で、我が国としての学術情報発信力は高いとは言えない。例えば、研究成果としての論文発表の場であるジャーナル(学術雑誌)に関して、国際的に有力なジャーナルが国内に少ないこともあり、国内で生産される論文の約8割が海外のジャーナルに投稿されている。優れた研究成果が電子化されていないため、結果的に十分流通していない可能性もあることから、より多くの成果が電子化され、日本発で国際的に発信・共有される流通システムの整備が必要である。
 第4期科学技術基本計画においても、このような研究情報基盤の整備に関して、研究教育成果の電子化およびオープンアクセスの推進、大学等における機関リポジトリの構築、さらにはデジタル情報資源をネットワーク化し、研究情報基盤全体を「知識インフラ」として統合的に展開していくことが謳われている。さらに、東日本大震災後の科学技術・学術の在り方について、一般社会のニーズや課題の認識、科学技術・学術の専門家からの積極的な情報発信、社会の課題解決のための学際的研究の必要性が求められていることからも、このような学術情報基盤の整備は大きな意義を持つと考えられる。
 学術情報流通の世界的な動向としても、海外の商業出版社や大手学会が刊行し、大学図書館が提供する電子ジャーナルは広く普及し、全般的なアクセスは大幅に進展している一方、継続的な購読料の値上がりや契約方法への批判も強まっている。それを背景として、論文等の成果に無償で制約なくアクセスできるようにするオープンアクセス化を促進すべきとの流れが世界的に強まっている。
 日本の研究・教育拠点である大学や研究所においては、自ら生み出す様々な学術情報(成果である論文、研究データ、教材など)を集約、保存、発信し、それらを次の研究・教育に活かすための仕組みとして「機関リポジトリ」の構築が進められている。大学等が日本全体での整備・展開が必要とされている「知識インフラ」の一翼を担うためにも、機関リポジトリの有効活用と大学での戦略的位置付けは重要な課題である。
 また、日本からの学術情報の国際発信力を高め、オープンアクセスの推進や機関リポジトリの構築を展開していくためには、支援事業や環境整備も不可欠である。学術基盤整備に関して、様々な事業を実施している国立情報学研究所(NII)や科学技術振興機構(JST)等の関係機関がそれぞれの必要性や重要性を踏まえ、連携しつつ、効果的・効率的に取組むことが重要である。
 このような状況から、今期の作業部会では、我が国における学術情報の国際発信・流通力強化のための基盤整備やシステム改革に必要な課題や対応策について、審議することとした。
 作業部会では、平成23年4月以降、関係者へのヒアリングを含め、計16回の審議により、背景や現状の把握とその対応策に関する検討を行い、1.科学研究費補助金研究成果公開促進費(学術定期刊行物)の改善、2.科研費等競争的資金による研究成果のオープンアクセス化への対応、3.機関リポジトリの活用による情報発信機能の強化、4.学術情報基盤の強化のための環境整備に関わる機関(NII、JST、NDL、JSPS)の連携・協力等の取組強化に関するとりまとめを行った。
 今後、大学、学協会、関係機関が結集して、個々の研究者の対応を含め、我が国からの学術情報の発信・流通を高めるための取組を強化し、知的国際競争力の向上に寄与することが望まれる。

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研究振興局情報課学術基盤整備室

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