資料7 機関リポジトリの活用による情報発信機能の強化について(素案)

1.機関リポジトリの役割・意義

○ 研究成果のオープンアクセス化への対応を含め、学術情報の発信・流通機能の強化に関し、大きな役割が期待されるものが、大学等において、知的情報に関するインターネット上の書庫として整備が進められている「機関リポジトリ」である。

○ 機関リポジトリ自身は、情報発信だけでなく、研究、学習・教育に関わる幅広い環境整備に関わる役割を有するものであり、主な機能としては以下のとおりである。
 1)大学の生産する知的情報・資料の集積、長期保存の場(アーカイブ)
 2)学術情報の発信及び流通の基盤(論文、データ、報告書等の公表及び提供)
 3)学習・教育のための基盤(教材の電子化、提供、保存)

○ 機関リポジトリを情報発信の観点から整備する意義は、以下のとおりである。
 1)機関側の意義として、大学等の有する知的生産物を一元的に収納し、保全することにより、大学全体の知的資産を把握・可視化することができるとともに、教育研究成果を国内外に迅速かつ広範に情報発信し、大学の存在感、優秀度等をアピールする手段となりうる。
 ユーザー側のメリットとしては、大学等の有する様々な知的資産に対し、どこからでもワンストップでアクセスし、基本的に無償で利用できる。
 そのため、学術情報に関する新しいコミュニケーションツールとしての発展が期待できる。
 2)更に、商業出版社が独占し、購読料の高騰などの影響から、一部でアクセスに問題を生じさせている現行の学術論文流通システムを代替する機能としても期待される。

○ 大学等の生み出す多様な知的生産物は、第4期科学技術基本計画においても形成が唄われている「知識インフラ」を構成する中核的要素であり、我が国の貴重な財産として、社会に共有され、活用されることが、今後の発展に必要である。
 大学等は、責務として、知的情報の蓄積・発信に努めるべきであり、そのための重要な手段に機関リポジトリを位置づけ、整備・充実を図ることが望まれる。

2.機関リポジトリの現状

(機関リポジトリの整備状況)

○ 機関リポジトリの構築については、これまで、各大学等の図書館を中心とした自発的な努力により、独自もしくは連合して開発したシステムや既存の公開システムを用いて、その整備が進められてきた。また、NIIやDRF(機関リポジトリに関わる広域コミュニティ組織)等による啓発活動・支援などの効果により、近年、構築数は急速に伸びており、現在では、国公私立大学等の約240機関に設けられている。
 国際的には、機関リポジトリ関連情報サイトOpenDOARに登録されている機関数は、世界全体で2,199機関の中、日本は136機関で世界4位となっている。(2012.4.2現在)

○ しかしながら、科学研究費補助金の申請機関として登録されている大学・研究機関だけでも1,000機関以上あることを考慮すると、より一層の整備・拡充が求められる。
 昨年度からは、独自にシステムの整備が困難な大学を対象に、NIIが共用リポジトリシステムを提供することにより、機関リポジトリの構築をサポートするJAIROCloud事業も開始されたことから、更に加速することが見込まれる。
 将来的には、機関リポジトリの有する価値の多様性から、全ての大学等が、機関リポジトリの構築・充実に向けて努力されることが期待される。

(機関リポジトリの横断的な連携・データ分析機能)

○ 機関リポジトリを効果的に整備・活用するためには、リポジトリ間の連携や横断的なデータ分析は欠かせない。
 国内では、NIIが機関リポジトリの横断的検索ツールとしてJAIROを設け、情報の連携を図るとともに、JAIROを通じたコンテンツ等のデータ分析ツール(IRDB)を設けている。また、ユーザー分析に関しては、アクセスログを入力することにより、国別、機関種別等の分析を可能にするシステム(ROAT) が千葉大学を中心に開発されており、活用可能である。
 海外との連携においては、OpenDOAR、OAIsterといった機関リポジトリの情報共有サイトが整備され、運用されている。

○ 例えば、平成24年4月現在、IRDBを用いた分析では、JAIROにおける収録コンテンツについては、登録件数約135万件のうち、紀要論文が約57万件、学術雑誌論文が約30万件と多く、アクセスは、国別では日本国内からが多くを占めており、コンテンツ別では紀要論文に対するものが多くなっている。

○ 私立大学、特に人文・社会科学系分野において、紀要を発信する重要なツールとなっており、大学の発信機能の向上とともに、公開であるため、紀要の質の向上にも寄与している。

3.機関リポジトリの機能強化に当たって留意すべき点、課題等

(コンテンツの登載強化への対応)

○ 機関リポジトリの整備における課題としては、機関・研究者の理解、システムの整備、人材の確保など様々考えられるが、最も重要な問題は、登載されるコンテンツの充実である。
 大学等では、その整備は、図書館職員を中心に、部局や研究者の協力を得て進められる。
 コンテンツの登載は、基本的に情報を有する研究者自信が行う「セルフアーカイブ」によるとしているケースが多いが、既に学術誌に掲載された論文等については、事務的に二重の負担になるとともに、著作権の問題から登載する論文が刊行された論文ではなく、その前の著者最終稿である場合がほとんどであることから異なる情報の流通は適切ではないとする意識も働き、機関リポジトリの構築に対する研究者のインセンティブは、必ずしも高くない。
 また、機関リポジトリへの登載には、学術誌を発行する学協会等の許諾を必要とするが、その公開のための著作権ポリシーが定まっていない場合が多いことも支障になっている。

○ 大学等では、セルフアーカイブの促進を図るため、研究者はコンテンツのデータをPDF化し、送るだけでよく、著作権ポリシーの確認を含め、その後は図書館職員がすべて代行する方式、また、大学等が公開する研究者情報とリンクさせることや科研費の研究成果報告書に情報を出力できるなど、研究者の負担軽減につながる様々な工夫を行っているが、このような取組の共有化を図ることも重要である。 

○ 一方、学術誌に掲載された論文に関しては、著作権ポリシーに基づいた公開後、学協会等の理解を得て、直接データを得るなど、よりスムーズに機関リポジトリに情報が収納されるシステムの構築も望まれる。

(研究者の意識改革)

○ 研究者に対しては、大学等は、自らの学術情報を機関リポジトリに掲載し、オープンアクセスにすることで、国内外からの検索、流通が一層進むことから、研究者にとっても有益に機能することや機関に所属する者の責務として、情報登載への理解を促す必要がある。

○ 更に、機関リポジトリの構築は、大学が全学的に取り組むべき情報発信機能であって、その業務を図書館が担っていることを明確に位置づけ、サポートすることも重要である。

(評価への組み入れ)

○ 大学等の機関別評価を行う際に、機関リポジトリの構築による情報発信への取組状況についても評価する仕組みを導入することで、積極的な整備を促すことが期待される。
 また、大学等が研究者の個人評価を行う際において、機関リポジトリへのコンテンツの登載を通じた情報発信への取組について、研究者の教育、研究、社会貢献にかかる業績として評価の観点に加えることが重要である。

(登載すべき情報の在り方)

○ 機関リポジトリに登載されるコンテンツとしては、主に以下のような事項が想定されるが、各大学等が保有するユニークな資料や他では流通しづらい資料の登載にも力を注ぐなど、独自性を意識した展開も重要である。
 - 学術誌に掲載された論文
 - 研究紀要等による学内掲載論文
 - 学位論文
 - 国際会議等での口頭発表資料
 - テクニカルレポート
 - 研究成果報告書、研究データ
 - 教材
 特に、研究データの流通促進については、今後、知識インフラ形成の一環として重要になると思われるが、機関リポジトリへの登載に当たっては、データ量が膨大なため、今後のクラウド技術に関するイノベーションの動きも踏まえつつ、機関リポジトリで流通させるべきデータの選択など、ニーズを踏まえた適切な対応が必要である。

○ 大学等は、その情報戦略・整備方針等に基づき、どのようなコンテンツを重点的かつ網羅的に整備するか、また、オープンアクセスにするかを判断しつつ、機関リポジトリに登載するコンテンツの充実・発信に努め、国内外における存在感の強化を推進すべきである。

○ 機関リポジトリが現状では主に国内で活用され、登載される日本語文献に対するニーズ・重要性が高い一方で、国際的な情報流通を促進する観点からは、分野を問わず英語による発信が重要であることから、少なくとも、要約やキーワード等について英語で登載することが望ましい。

(連携の促進)

○ 機関リポジトリの連携効果としては、大学等の教員評価データベースやJSTのJ-GLOBALの研究者情報にリンクさせ、活用することも有効と考えられる。
 また、科学研究費補助金との関連においては、提出する研究成果報告書に研究成果論文が掲載されているWebアドレスを記載する項目を設けているが、その記載を強く奨励することにより、科研費データベース(KAKEN)とのリンクを進め、科研費の成果の把握・分析等に活かすことも期待される。

(支援の方向性)

○ 国等は、学術誌を発行する学協会等の著作権ポリシーが明確になっていないために、学術誌掲載論文の機関リポジトリへの登載に支障が出ている状況から、未定の学協会等に対しては、オープンアクセス化もしくは著作権ポリシーの早急な検討・公表を促すことが求められる。

○ また、機関リポジトリの整備・普及をさらに推進し、ユーザーの利活用を促進させるため、NIIが提供する共用リポジトリの積極的な展開、機関リポジトリのソフトウェアの高度化・機能標準化など、情報発信機能や運用体制の強化に寄与するサービスの充実に努める必要がある。

第4期 科学技術基本計画(平成23年8月、閣議決定)

4.国際水準の研究環境及び研究開発基盤の整備
(3)究情報基盤の整備
<推進方策>
・ 国は、大学や公的研究機関における機関リポジトリの構築を推進し、論文、観測、実験データ等の教育研究成果の電子化による体系的収集、保存やオープンアクセスを促進する。また、学協会が刊行する論文誌の電子化、国立国会図書館や大学図書館が保有する人文社会科学も含めた文献、資料の電子化及びオープンアクセスを推進する。
・ 国は、デジタル情報資源のネットワーク化、データの標準化、コンテンツの所在を示す基本的な情報整備、更に情報を関連付ける機能の強化を進め、領域横断的な統合検索、構造化、知識抽出の自動化を推進する。また、研究情報全体を統合して検索、抽出することが可能な「知識インフラ」としてのシステムを構築し、展開する。

 

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