資料1 学術情報の発信 日本言語学会

学術情報の発信 日本言語学会

学術情報の発信 

日本言語学会

(http://www3.nacos.com/lsj/)

庄垣内 正弘(日本言語学会顧問)
影山 太郎(日本言語学会会長)

0.

1) 沿革
1938(昭和13)年2月に東京神田の学士会館において日本言語学会の設立が決議され新村出を会長とし、同年5月に創立大会が東京帝国大学で開かれ、柳田国男らの講演が行われた。

2) 現会員数及び会費(平成23年4月現在)
個人会員 計2083名、団体会員 計100団体、その他 3
[内訳]通常会員:1741名(国内1702、海外39) (国内外とも年会費7,000千円)
    学生会員:328名(国内314、海外14) (国内外とも年会費4,000円) 
    維持会員:国内14名 (年会費10,000万円)
    団体会員:100団体(国内98、海外2) (年会費7,000円)
    賛助会員:国内3 (年会費10,000円)

3) 学会の基本姿勢
 学会誌『言語研究』創刊号序にある初代会長の言:
「実践的顧慮によって論述の体を歪められることなく、一学派一運動の宣伝誌に傾くことなく、あくまでもその学問的価値に基準をおくところの論作を収載する雑誌である」
 この新村出初代会長の学術性重視、客観性重視の姿勢は現在の日本言語学会に受け継がれている。

4)  欧米における言語学会との違い:
 a. 一般言語学理論以外に歴史言語学、社会言語学、心理言語学、人類言語学、文献言語学など独立の学会として成り立ちうる分野も日本言語学会に含まれる。
 b. 日本語学会、日本英語学会、日本中国語学会など言語毎に独立した学会の会員の多くが言語学会の会員でもある。

2.学会の組織と運営

1) 役員
会長:1名(会員の直接選挙によって選出する)
事務局長:1名(会長の指名による)
常任委員:8名(会長の指名による)
評議員:約70名(地区ごとの人数の割り当、会員の直接選挙によって選出する)
編集委員長:1名(会員の直接選挙によって選出する)
大会委員長:1名(会長の指名による)
広報委員長:1名(会長の指名による)
夏季講座委員長:(会長の指名による)
顧問:会長経験者(現在9名)
会計監査員:2名(会員の直接選挙によって選出する)

2) 委員会
a. 評議員会:最高決議機関
b. 常任委員会:会長を補佐する
c. 編集委員会:『言語研究』を編集・刊行する。
 編集委員:現在8名(編集委員長が選出)、特別編集委員:外国人編集委員現在11名
d. 大会運営委員会:年2回の大会(研究発表、シンポジウム、講演、ワークショップ)を企画・運営する
 大会運営委員:現在11名(会長および大会運営委員長が選出)
e. 広報委員会:学会の諸活動の状況や活動成果を発信する
 広報委員:現在7名
f. 夏季講座委員会:会員・非会員を問わず一般向けに言語学の講習会を隔年に開催する
 夏季講座委員:現在5名

3.大会

 春季と秋季の年2回開催され、2011年春季の大会(日本大学)で142回を数える。会員による個別の研究発表に加え、ワークショップやポスター発表などが行われる。また、公開講演や公開シンポジウムなど一般に開かれたプログラムも組まれている。

4.『言語研究』(言語学会機関誌)

1) 沿革:1939年の創刊号から現在は139号までが発行されている。

2) 刊行の目的
 a. 言語学の最新のすぐれた研究の公刊と永久保存
 b. 言語学各分野における研究の紹介と、批判、普及、奨励
 c. 会員の言語研究に必要な情報の交換
 d. 言語学会大会における研究発表、ワークショップ、ポスター発表、講演、シンポジウム等の要旨の掲載
 e. 日本の言語学の海外への紹介。海外の言語学会との研究協力、情報交換
 f. 会員への学会運営上の情報の交換

3) 年間発行部数:2冊

4) 配布:会員には無償配布

5) 販売:在庫部数を市販する(1,200円~4,000円)

6) 体裁:日本学術振興会「科学研究費補助金(研究成果公開促進費)」の定める「欧文抄録を有する和文誌」に分類される。論文、書評論文、フォーラムの使用言語は日本語のほかに英語、フランス語、ドイツ語が認められている。和文論文には欧文要旨が、欧文論文には和文要旨が各々義務づけられ、目次や投稿規定、執筆要項などは日本語と英語の両方を掲載している。

7) 最近の発行状況
 a. 総発行部数2300×2 = 4600
 b. 年間総頁数(平成22年度) 合計約500頁(原著論文約350頁、研究抄録(大会発表要旨)約50頁、そのほか約100頁)
 c. 論文の欧文率(ページ数) 約37%  (和文11篇、英文5篇)

8) 投稿規程
 a. 投稿は会員に限る。ただし、共著の場合は筆頭著者が会員であればよい。
 b. 投稿は随時受け付ける。
 c. 投稿は未公刊の完全原稿に限る。
 d. 他誌に応募中の原稿は投稿できない。
 e. 稿料は支払わない。

9) 採否

原稿の採否は編集委員会が決定する。編集委員会は複数の査読者を選定し、ピアレビューにより客観的に審査する。

10) 著作権

 著作権は、基本的に原著者に帰属するが、ウェブサイトで公開するために 2006年11月に「日本言語学会著作物取扱規程」を定めた。
 a. 『言語研究』掲載の論文等の著作物を複製・刊行する権利、それらをインターネットを通じて公開する権利(複製権と公衆送信権)が、著者から本学会に許諾されていることを明確にしている。
 b. 本学会は、著者から託されたこれらの権利を、著者を含む会員の利益のために行使する。
 c. 著者が自らの著作物の複製等を作成する場合は、事前に本学会に通知し出典を明記すれば、本学会は許諾を受けていることを理由に異議を唱えることはしない。
 d. この規程は、制定された期日以前に『言語研究』に掲載された著作物に対しても、遡って適用される。(現会員全員に文書で知らせるとともに、日本言語学会のホームページを通じて呼びかけた結果、異議は1件も寄せられなかった。)

11) 電子ジャーナル化

・現在、紙冊子と電子版を並行して刊行している。紙冊子は会員のみに配布し、電子版は制限を設けず公開している。ただし、電子版は、会員の権利を守るという目的のため、刊行から一年を経たものを逐次公開している。
・『言語研究』のバックナンバーに関しては、2006年に独立行政法人科学技術振興会(JST)の電子アーカイブ事業のアーカイブ化対象雑誌となり、第1号から100号(2005年)までがJournal@rchiveから公開された。その後101号以降は言語学会独自の企画として電子化し、現在137号(2010年3月号)までの論文(PDF)が学会ホームページから無償でダウンロードできるようになった。また、全号の目次や、論文要旨(117号以降)も閲覧可能となった。

5.学会連合

言語系学会連合(The United Associations of Language Studies, UALS)が日本言語学会を中心として2010年4月1日に発足し、現在33学会が加入している。

6.今後の課題

1) 日本学術振興会「科学研究費補助金(研究成果公開促進費)」への要望
 日本学術振興会科学研究費補助金の規程によると、欧文抄録を有する和文誌は、仕上がりにおいて欧文のページ数が50%を超えてはならないという制約がある。この制約は、学術の国際的な展開に支障となるものであり、改善していただきたい。

2) 海外での評価の向上とグローバル化に向けて
 European Science Foundation (http://www.esf.org/)がまとめているEuropean Reference Index for the Humanitiesは、世界諸国で刊行されている人文学関係雑誌を高度な学術水準と広範な国際性を元に分類しており、言語学に関してはアメリカ言語学会機関誌Languageを始め、言語学の諸分野で主導的な役割を果たしている国際的ジャーナルがAランクとして位置づけられている。しかし、日本国内で刊行されている学会誌でこのReference Indexに掲載されているのは日本言語学会『言語研究』と日本英語学会English Linguisticsの2誌だけで、いずれもBランクに留まっている。Aランクに入るためには、常に諸外国からの投稿論文が掲載されていることと、真に国際的な体制でピアレビューが行われていることが必要である。そのためには、次の3と4について前向きの検討が必要であると考える。

3) 論文の使用言語
 海外への研究成果発信のために基本的に英文で書くよう義務づけるのが好ましい。ただし、漢字文化圏の言語を対象とする場合などに筆者や読者にとって英文使用が不都合なこともあるので、特例を残す必要がある。

4) 投稿資格について
 この件については、学会として方向性を模索中であるが、英語の使用が言語学論文の世界標準になっている今日、ヨーロッパ系言語はもとより日本語やアジアの言語を扱った研究でも英語で発信することが求められている。英語論文を増やすための一つの方策として、現在は会員だけに限定される論文投稿の枠を取り外し、とりわけ海外からの投稿数の増加をはかることが考えられる。しかしながら、非会員の投稿も自由に認めることには、現会員から異論の出ることも充分に予想される。ひとつの解決策として、現在刊行している和文号(2号)とは別に、英文号を年1回電子ジャーナルのみで発行し、これに関しては投稿の制約を設けないということが考えられる。電子ジャーナルであるから、印刷経費はかからない。英文電子ジャーナル専用の助成金を学術振興会で用意していただければ、財政的な問題は生じないはずである。

5) 文献資料の電子化
 日本国内で出版された言語学関係の文献資料の電子化が遅れている。これには著作権の問題もともなうが、早急に推進する必要がある。

6) 学会連合言語系学会連合(The United Associations of Language Studies, UALS):
 UALSをさらに有機的に結合し、各学会が研究情報を交換し合うシステムに発展させる必要がある。

2011. 6. 2

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