研究環境基盤部会 学術情報基盤作業部会(第29回) 議事録

1.日時

平成22年1月22日(金曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省 3F2特別会議室

3.出席者

委員

有川主査、三宅主査代理、植松委員、倉田委員、加藤委員、土屋委員、羽入委員、米澤委員

科学官

喜連川科学官

学術調査官

阿部学術調査官、阪口学術調査官

事務局

舟橋情報課長、飯澤学術基盤整備室長、その他関係官

4.議事録

(1) 吉田明治大学図書館長より資料1「明治大学図書館の現状と課題」に基づき、明治大学図書館の現状と課題について説明が行われ、その後、質疑応答が行われた。

 

【吉田明治大学図書館長】

  まず、明治大学の全体像について、現在、学部、研究科、法科大学院、専門職大学院の学生、院生を合わせて3万1,000人余りとなっており、来年に創立130周年を迎えます。明治大学のキャンパスは3つに分かれており、その関係で図書館も中央図書館、和泉図書館、生田図書館があり、それぞれ所属する学生の学部、学年が違うため、図書館の蔵書の内容もある程度分類されております。
  蔵書数は231万冊ですが、学生数の割には少ないと言われていますが、努力して増やしていく予定です。年間入館者数が181万5,000人。年間の予算は、2008年度の資料予算が7億4,500万円程度です。
  図書館の組織は、専任職員が現在34名です。図書館を運営するために各学部、研究科等から図書委員を選出していただき、現在、合計23名の教員で図書委員会を開催しており、実質的にこの図書委員会が図書館の運営の一番基本的な方針を決めています。図書館全体の企画管理を行う総務事務室があり、そこに事務長がおります。3つのキャンパスの図書館にもそれぞれ事務長がおります。
  図書館資料費は、最近10年間、ほぼ7億円台で推移をしており、資料費総額はほとんど変わっておりませんが、その配分が大きく変化しております。特に学術雑誌、電子資料が高騰、増大しており、10年前にはこの部分の予算が全体の予算の3分の1強であったものが、2009年度の予算では53%と、50%をついにオーバーしてしまった状況です。また、学術専門図書費がその分、圧縮されてしまっており、10年前と比べ、24%から2009年度は13%となっております。学習用図書費はなるべく減らしたくないと思って工夫はしておりますが、10年の間に全体の予算の26%から18%へと圧縮されてしまっております。
  今後の課題として、雑誌の高騰に対する抜本的な対策が必要と考えています。特に、ここ数年、電子ジャーナルを積極的に導入せざるを得ない状況が続いており、自然科学系、理工系の需要が非常に大きくなった結果、電子ジャーナルに予算のかなりの部分を割かざるを得ない状況になっております。
  貴重書を電子化して、インターネットで公開する作業も続けていますが、現在、特に古地図のコレクション、蘆田文庫から手をつけ、2,000点を高精細画像として電子化し、インターネットで公開を行っています。そのほかの貴重資料も徐々に同じように公開したいと思っておりますが、年間予算500万円程度の範囲で行っていきます。
  機関リポジトリについても、2年前から開始し、2008年3月には約4,000点の論文を公開しています。今後は、学内で発表される論文について、英文のレジュメをつける等グローバルに応用していただけるよう工夫する予定です。
  ここ数年、利用者のための利便性を内側からも、また、外側からの要求に対しても様々な工夫をしています。開館時間、年間の開館日も大幅に増やし、1回の貸出期間、貸出冊数も、昨年度に規則を改定し、量的サービスを拡大しました。
  また、明治大学図書館の特徴として、学部の学生が自由に書庫に出入りをすることができます。質的な面でのサービスも行っていますが、例えば共同閲覧室という、図書館内の部屋をグループで利用する、情報機器やネットワークを利用することができるスペースを設けております。
  学内の教職員、学生のみならず、学外の大学や自治体の図書館等ともネットワークを組んでおります。山手線沿線私立大学図書館コンソーシアムは、2000年8月から学生証を提示すれば相互に図書館を利用できます。2008年度は、明治大学図書館が8つの大学の中で一番利用されました。
  キャンパス所在の自治体との連携も図っており、和泉図書館は杉並区と連携し、また、中央図書館は千代田区と連携し、区民に図書館を開放しております。生田図書館は川崎市多摩区の方々に図書館を開放しています。
  Webベースサービスシステムは主に学内の教職員、学生向けのサービスになります。wwwシステムを利用したキャンパス間の図書館所蔵の文献資料の配送です。ただし、Webベースサービスシステムにすると、利用者と図書館職員との直接の対面サービスが減少するという懸念はあります。
  主に学部の授業の一貫として、図書館職員と教員が交代で授業を担当し、学生が図書館を積極的に利用し、また利用しやすい場を授業を通してつくる努力もしております。「『教育の場』としての図書館の積極的活用」は、「平成19年度特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に採択され、2007-2009年度の3年間、助成していただきました。明治大学では、既に10年前から学生向けの図書館活用法の授業を行っており、現在ではハワイ大学の専門家にコンサルティングを依頼し、年度ごとにプログラム評価し、更新しています。
  学生向けには、他に、授業の1コマの利用や、学生が自主的に申し出る形式で、主に図書館職員が図書館内を「ゼミツアー」と称して案内し、利用法も説明し、学生を図書館に呼び込もうとしております。特にゼミツアーでは、和泉校舎の学生1,2年生のほぼ30%が何らかの形でゼミツアーに参加し、図書館の使い方を学んでいます。
  また、授業担当の教員からの要望があるときは、図書館職員が直接授業に出向き、出前講義も行っております。
  図書館職員について、専任職員が大きく減少せざるを得ない状況です。1993年から2009年度までの間に、専任職員が半減しています。従来は、二部(夜間部)が数年前までありましたので、その二部の学生を嘱託職員として図書館の仕事を手伝ってもらっていたのですが、現在では二部もほとんど学生が残っておりません。そこで、嘱託職員にかわり業務委託になっております。その分、専任職員の育成に関しては幾多の問題を抱えざるを得ない状況です。
  専任職員の育成の問題ですが、例えば、以前は、職員が新しく入ると、目録づくりから始めるという職人的な部分があったのですが、現在では目録づくりも外部委託になってしまっております。果たしてこれでいいのかという問題を抱えております。しかも、明治大学の場合は、「図書館の積極的活用」ということで、図書館職員が授業も担当いたしますので、専門の図書館職員としての知識を、今後どのようにつけてもらうかということは非常に大きな問題となっています。

  以上でございます。

【土屋委員】

  業務委託職員65名とありますが、業務委託というのは職員ではないのではないかと思いますが、どのような形態になっているのでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  業務委託に何人派遣するかということは受託側の問題で、この人数に関しては、平均的な人数となっています。比較の上で大学の図書館の業務の中で委託部分が多いということを示したかったので、人数をあえて挙げさせていただきました。

【土屋委員】

  図書館の専任職員数の推移を示されていますが、大学全体としてはどうなっているのでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  正確な数字は今持ち合わせておりませんが、約3分の2になっています。図書館の専任職員の減少が大幅に大きくなっています。

【土屋委員】

  差し支えなければ、それはなぜでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  大学の業務の中で図書館業務の位置付けが軽く見られているという印象を私は持っています。

【倉田委員】

  ナレッジデータベースの構築というのは、具体的にどのようなサービスをなさっているのかをお教えいただけないでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  このシステムは、図書館に対する調査依頼、要望や読書ノート、ユーザレビューなどをウエブベースでオンライン入力し、図書館からオンラインでその答えを返す。そのことで、図書館に来る様々な調査依頼を蓄積しているオンラインシステムです。
  特徴は、このデータベースを、明治大学だけではなく、複数の図書館で共同構築している点です。今のところ、明治大学だけで運営していますが、私立の幾つかの大学から興味を示していただいて、これから一緒に運営していこうという相談をしているところです。

【倉田委員】

  レファレンスサービスのウエブでの共同構築展開ということでよろしいのでしょうか。
  また、調査依頼というのは、明治大学の場合、どの程度までお受けになっていらっしゃるのでしょうか。現在、普通の図書館ですと、事実確認や、資料を探すというところまではしていると思いますが、研究等に踏み込むようなところまでのサポートはあまり聞いたことがありませんが、その辺のところまでなさっているのでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】  

  形としてはそこまでいきたいという気持ちはありますが、実際問題としてそこまで求められることがないというところがあります。

【有川主査】

  図書館リテラシー教育の充実として、授業をしていますが、教員が8名、図書館職員が28名、講義担当とありますが、どのような人が担当しているのでしょうか。専任職員は全体で34名ですが、それ以外の方も担当しているのでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  現在、図書館の専任職員は34名ですが、そのうち28名が、講座全体を通して担当するのではなく、課題ごとに、1人平均4コマ程を担当しております。

【有川主査】

  講義などに関係している職員は、専任の職員であるということですね。

【吉田明治大学図書館長】

  補足させていただきますと、2007年度のシラバスに半期授業で、4月から7月まで14回の授業のテーマと担当者名を載せておりますが、この担当者の多くが図書館の専任職員とお考えいただければと思います。

【羽入委員】

  授業評価は、どのような項目で評価をされているのかということを教えていただけますでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  通常の授業評価では、評価対象が主として学生の達成度になると思います。ここでは、プログラム評価、即ち評価対象を学生ではなくてプログラムそのものとし、図書館活用法という授業そのものを評価するという考え方に立ちます。その立場に立って、例えばこのプログラムは明治大学にとってどういう位置付けになるのか、どのような意味を持つのか、どう評価するのか。また、学生にとってはどういう意味があるのか。講義を担当する教員、図書館職員にとって、この授業で何を教えたいと思うのか。そのようなことをそれぞれの関係者、各学部の学部長、学部の教員、担当者、授業を受ける履修者からアンケート、インタビューを通じて、データをとっていきますと、そのずれが明らかになっていきます。最終的にそれを見て、そこからは検討課題になりますが、このプログラムはどうあるべきかというものをそれぞれの関係者の意見をまとめて組み立てていくというものがプログラム評価の技法になっています。それをもとにカリキュラムを変更していくという活動をしています。

 

(2) 藤井京都大学附属図書館長より資料2「京都大学図書館の現状と課題」に基づき、京都大学図書館の現状と課題について説明が行われ、その後、質疑応答並びに明治大学図書館及び京都大学図書館の発表を踏まえた大学図書館の整備に関する意見交換が行われた。

 

【藤井京都大学図書館機構長】

  まず、京都大学について説明しますが、1897年の創立で100年余りを経過した大学です。規模は10学部、17の大学院研究科及び専門職大学院で成り立っておりますが、特徴としては、センターというものが沢山あります。学生数は2万2,700人。大学院生が9,300人、学部学生が1万3,400人。外国人留学生の数が1,430人。この数はこれからG30等で増やしていこうというのが大学の方向性のようです。教職員数は5,400名。うち教員が2,860名という構成です。
  京都大学においては、図書館機構というネットワーク型の組織があり、附属図書館と各部局の図書館室で成り立っております。部局の図書館室というのは全学約50余りあり、附属図書館が絶対的に大きいという構成ではありません。しかし、電子ジャーナルあるいは学術情報リポジトリ等々については、実質的には附属図書館が担っているという構造になっております。
  法人化の折に図書館機構を設けることになりましたが、図書館機能を全学的にどのように考えるかということから、この図書館機構はつくられているということがポイントであると思います。図書館機構の基本理念と構成については、世界最高水準の教育・研究拠点にふさわしい学術情報基盤としての役割を担うということがその理念ということになろうかと思います。構成は、附属図書館のほかに、部局図書館で成り立っています。635万7,421冊が2008年度末の蔵書数です。1年間で11万冊程増加しています。職員数は287名で、専任が109名、臨時職員が178名で、これは附属図書館と部局図書館をすべて合わせた数字だということを念頭に置いてください。
  図書館機構の将来構想は、現在の図書館機構が何をどう担っているかをきちんと押さえ、その中から前に向かって進める課題をそれぞれ拾い上げていこうという立場でつくりました。大きく変えたのは、これまで附属図書館と言っていたものを総合図書館という名称にして、事実上、図書館機構を附属図書館と置きかえていきたいということ。また、部局図書館と附属図書館だけで成り立っていたものを各エリアの連携図書館をつくってはどうかということで、少しずつ考えております。京都大学も本部校内のほかに、桂キャンパスと宇治キャンパスが比較的大きなキャンパスとして存在しており、できるだけエリアごとにつくることによって、図書館業務そのものをスリムにしていく。あるいは、共同化によって、職員、スペースの問題を解決していこうということが今回少し前向きに考えた点です。
  京都大学においては、文学部、文学研究科の図書館の蔵書数は100万冊を超えており、法学部、経済学部等においてもかなり蔵書数の大きな図書館があり、一律に論ずることはできないのですが、附属図書館本体について少し話しをさせていただきたいと思います。
  1897年(明治30年)に設置され、2年後に開館し、蔵書数は86万冊余りで、年間の受け入れ図書は約1万6,000冊です。附属図書館に限った利用統計ですが、約14万9,000冊、開館日数は339日です。入館者数は86万3,124と、附属図書館1館にしてはかなりの利用者数だと思います。予算規模として、資料費は7億円余りですが、電子ジャーナルの経費が約6億円含まれています。実際に附属図書館が書物を購入したりするのは約1億円、運営経費は2億2,000万円、職員数は全体で76名です。31名が専任、45名が臨時の職員です。
  電子ジャーナルはどこでも大変大きな問題になっていると思いますが、現在の購入タイトル数は2万5,000タイトル余りで、経費は5億9,600万円です。うち共通化経費が2億円。それ以外は、これが一番難しい問題ですが、部局にそれぞれの基盤経費等の割合等を勘案して負担をしていただいています。データベースは、京都大学は少し遅れていると聞いていますが、導入種類数は15種類です。
  問題点は、毎年の値上げへの対応をどうするか。また、費用の分担方式について利用頻度をどの程度反映するかという問題を抱えております。財政的にこれ以上拡大することができないときに、タイトルの見直しをどのような手順で行うかということも大きな課題になっております。
  教育・学習支援について、新しい取組みとして始めたものですが、昨年の1月に「学習室24」を開設し、24時間、学生たちが学べる空間を設けました。この利用度は思った以上に高く、1年間で17万人、月平均で1万4,000人が利用しています。座席数は、1人1人が座って勉強する場所が90席余り、ラウンジ形式が30席程あります。夜間は警備員が1人おり、監視と安全確保を行っています。その他に、研究個室や共同研究室を設けました。予約制で運用しているのですが、かなりの利用率です。
  情報リテラシー教育はどの大学でも行っていると思いますが、全学共通科目の中で「情報探索入門」を設けています。附属図書館に研究開発室を設けており、昨年、ようやく准教授ですが、1名定員をいただき、その方を中心にこの情報探索入門のさらなる質の向上を考えて、運用をしております。これを始めたのは長尾先生が図書館長の時代で、もう10年近くになります。
  講習会は、図書館の職員が定期的に、あるいは要望があればそれに対応するという形で年間120回開催しており、4,000名が参加しています。京都大学は1学年3,000人程入ってきますので、何らかの形で触れていると考えております。
  学内図書デリバリーサービスは、京都大学がキャンパスを3つと、遠隔地に幾つもの研究所や出先を持っておりますので、配送サービスを始めました。評判は比較的よいと思います。遠いところは宅急便を使って配送する、近いところは、図書専用便を毎日運用してキャンパスを回っています。利用件数は、月に600~700件です。
  京都大学学術情報リポジトリ「KURENAI」を立ち上げております。昨年度世界で24位、国内1位という評価をいただき、順調に形成が進んでいると思います。
  京都大学の学術情報リポジトリの特徴は、全学にある廃刊になったものを含む紀要類を入れ込むことであり、また、徐々に博士論文を入れていこうということです。大変多くの利用者がおりますが、学内の利用者が意外と少なく、宣伝がうまく行き届かないので、何か工夫が必要であると思います。
  知的資産の保存・管理が大変大きな問題になっており、京都大学でも耐震工事等の後にかびが発生するなどいろいろな問題が出ました。そのため、書庫環境の整備のために図書館資料保存環境整備マニュアルを機構を構成している図書館職員が集まって作成しました。実習会等も比較的頻繁に開催しております。修復費用の確保は、なかなか普段は難しいのですが、5年程前に基盤強化経費として年間770万円を措置していただき、附属図書館、文学部、総合博物館が保有している貴重資料を対象として計画的に修復を始めているところです。
  利用者アンケートは、数年に1回、利用者の声を聞くために実施しております。直近では2008年12月から2009年1月に実施し、期待度が高いものは図書の充実と開館時間であり、特に開館時間は、学生にとっては大変高い。満足度が高いものの知名度が低いものはリテラシー教育などとなっています。
  図書館職員の育成については、京都大学は全体としては専任の職員を何とか確保しています。附属図書館も確保しておりますが、文科系の図書館は専門職員がいないと成り立たないという危機感があって、定員削減のときにもなるべく削減しないような運用をしてきました。一方、理科系は、かなり削減され、極端に言うと、電子ジャーナルさえあればいいとおっしゃる先生まで出てくるので、考え直してもらいたいと私は思っております。能力開発については、リポジトリや電子ジャーナルの問題を考える場合には、これまでの司書という資格だけでは十分でないことは明らかな状況ですので、現在はいろいろな研修会で補っているのが実態です。
  図書館の社会貢献については、公開企画展の開催や、博物館、美術館等への館蔵資料の貸出しが大変多くあり、そのような形で社会貢献ができていると思っております。電子図書館システムによる貴重資料の公開は、際立って点数が増えているという状況にはありません。利用された方に聞くと、大変きれいで、利用しがいがあると言っていただけます。利用のされ方を考えると、不安な点が残りますが、少しずつ増やして着実に進めていこうと思っております。

  以上でございます。

【有川主査】

  京都大学は図書館機構を置いて、その下に附属図書館及び部局図書館を位置付けていますが、東京大学、九州大学は、附属図書館の中に部局図書館も全部位置付けています。そのような方向と考えてよろしいのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  その方が良いこともあるのですが、例えば文学研究科では、文学研究科の各研究室の予算で本を買って、それが図書館に入るという構造ですので、そこに手を突っ込むのは大変難しいというか、専門書の収集という観点から、しない方が良いという考え方を持つ方が多いようです。

【有川主査】

  実際には、図書資料を購入するにはそれぞれの研究費等を使っているが、管理や維持などは図書館で行っているというところが多いと思います。電子ジャーナルについて、京都大学は2億を全学で措置し、残りは受益者負担になっていると思います。ネットワークで使っているものは、全学で負担する方が馴染むとも思われるのですが、どう考えておられるのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  2億円は、3年前にようやく全学共通経費で出していただくことになりました。残りを各部局にいかに分担してもらうかという議論は、結構不毛な議論になり、できれば私としてはやめたいと思っていますが、今後、全額あるいは8割を全学で持っていただきたいという交渉をこれから始めようと思っております。

【有川主査】

  多くの大学がそのような方向だろうと思います。。
  また、図書館ネットワークの整備ということがよくわからなかったのですが、人的なネットワークということなのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  現在の図書館の職員は、附属図書館が各部局の事務長等と相談して配置されております。事務長によっては、自分の部局の図書館の職員はそれ以外の仕事をする必要はないという考え方の方もおられるので、全学図書館ネットワークの整備を図ることにより、部局の図書館の構成員も実際に機構のいろいろな事業に参加したり、仕事を担っていただくことを目標にしています。そのような意味で、強化したいと思っています。

【有川主査】

  機関リポジトリについて、学内の利用者や認知度は、大体説明のあったようなものだろうと思います。学内の人は専門家同士ではよく知っていますので、特に見ないのでしょうが、他の大学の同業者のことは知りたいということだと思います。そのような意味では非常に健全なのではないかというのが私の印象です。

【植松委員】

  附属図書館の専任職員は31名ですが、部局図書館、図書室にはどのくらいの職員の方がおられるのでしょうか。
  また、今、附属図書館と部局図書館の職員は適当に循環しているという話がありましたが、基本的には部局図書館の職員は、部局の職員としてカウントされていると思うのですが、次世代のパターンであるエリア連携図書館は、いわばどちらの管轄で、職員としてどちらに計算されるような仕組みとしてお考えなのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  部局図書館の正規職員の定員はばらばらで、文学研究科には、正規の職員が10数人おります。しかし、館によっては、特に小さいところは全く正規の職員がいないところも沢山あります。例えば、理学部の図書館は、以前は他の図書館と変わらない人数がいたのですが、定員削減のときにターゲットになって、事実上、専任の職員は1人しかいなくなり、それ以外に非常勤の職員を相当数雇っています。学内的に動かしているのはいわゆる定員内の専任職員で、非常勤職員はそれぞれの部局が雇うので、動かすことはできないということが少し悩ましいところだと思っております。
  エリア連携図書館については、現在、急速に中央集権的な体制にするつもりはありませんので、それぞれの部局で合同でエリア連携図書館をつくっていただいて、それぞれの持っている人員、お金等をお互いに出し合って運用していただくことを考えています。

【土屋委員】

  例えば、部局図書館の利用状況の統計はわかるものなのでしょうか。資料における座席数は、附属図書館の数になっていると思うのですが、部局の図書館の座席数を全部足し上げた数というのはどこを見ればわかるのですか。

【川瀬京都大学附属図書館事務部長】

  実態調査の際に出している数字を見ればわかります。今、手元に持っておりませんが、それで一応把握はしております。

【有川主査】

  部局あるいは教室等の図書館、図書室では、職員が1人であったり、非常勤であったりすることがあるので、他の部局等へ行って借りたい、或いは調べたいと思っても、休み時間などの関係でなかなかできないということが以前はあったのですが、そのようなことはないのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】  

  不便をかけないために、中央図書館から誰かをその時間帯に派遣して運用していくことも考えたのですが、費用の問題をどうするかが解決せず、うまく運用されていません。課題としては小さければ小さいほどあると認識をしております。

【土屋委員】

  改修された新しい環境は、17万人が利用しているということですが、その結果、もう満杯なのか、或いは余裕があるのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  昼間は余裕がなく、ほぼ満杯です。夜間でも、20人程度は大体朝までいます。開館する前は、夜間に何か問題が起こったらどうしようか大変心配しましたが、1年間運用して、今のところ問題は1件も起こりませんでしたので、安堵している状況です。

【土屋委員】

  個人用机と共同机を配備しているということですが、コンピューター端末などの配置はどうなっているのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  無線LANで利用していただくということで、備付けのパソコン等は置いてありません。

【羽入委員】

  学習室を新しく設けられたということですが、それに対して図書館の職員がコミットすることはあるのでしょうか。例えば学習する際に何かアドバイスをする体制や、学生との交流の場面というのは何かお考えでいらっしゃるのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  学習室そのものは、そのような機能は全く持っておりません。参考書が置いてある程度で、それ以外はありません。ただし、図書館の中にあるので、普通の時間であれば、レファレンスを受けることなどは問題ありません。
  司法試験の勉強をしている法学部の学生の利用度は大変多いように思いますので、本当の意味で図書館なのかという面もありますが、図書館自身が実際に学習の場として多様に使われていることから言うと、このようなスペースをつくることは意味があると私は思っております。

【有川主査】

  以前から図書館で司法試験の勉強をする学生が沢山いることが問題だと、私が10数年前に館長になったときには言われたりもしたのですが、それは別に構わないと思います。多様な目的で学生たちは図書館に来ています。最近、多くの大学で京都大学と同じようなことを始めていると思いますが、非常に評判が良い。皆がいるところで勉強したいという学生が相当いる。これまで、図書館は静かにすることを言い過ぎてきたのではないかと思います。
  私どもは学術情報基盤作業部会として、大学図書館の整備、学術情報の流通の充実という大きな課題意識を持ちながら議論しているところで、代表的な大学の方々にお話を聞いて、勉強しながら方向等について見極めていこうとしています。
  今回は、大規模な私立大学と国立大学ということで、明治大学と京都大学からお話を伺いましたが、両大学とも相当伝統もあり、図書館の活動に関しても非常に体系的な活動をされていらっしゃるということで、非常に多くのことを学べたと思っております。
  個人的なことで恐縮ですが、明治大学図書館の当時の職員のいろいろな著作を丹念に読んで勉強させていただいたのですが、非常に高い意識を持っていらっしゃるということを、10数年前の当時から思っておりました。今日お話を伺いまして、図書館全体としてそのような土壌があったのではないかということも感じた次第です。
  今、大学図書館で取り組まなければならない課題が、今日の両大学からのプレゼンテーションの中にほぼ入っていたのではないかという気がしております。両大学の図書館に関しまして、ご質問や、今私が申し上げましたようなことも含めて議論していただきたいと思います。

【植松委員】

  明治大学で、2008年から学術雑誌の電子資料費が急に増えているのは、なぜでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  2007年度までは、電子資料に対する対応が非常に貧弱でした。大学の理解を得て、2008年度から増えたということです。また、2007年度までは紙媒体を一生懸命維持してきましたが、対応しきれなくなり、紙媒体をやめて電子化に移るということを大幅にしましたので、2008年度に増えています。

【米澤委員】

  全国にある図書館の蔵書をグーグルなどで検索できるようにしているのでしょうか。それがいいことなのか悪いことなのかも含めた議論は必要ないのでしょうか。

【倉田委員】

  慶應大学の場合には、全部グーグルで引くことは可能です。ただし、検索結果の上位に出てくるかと言われると、あまり出てこないことの方が多い。他の図書館でも、OPACの情報がグーグルでも出てくるということはあると思います。それを方針としてどう考えるかというのは確かに全然違う問題になってくると思います。

【土屋委員】

  Webcat(全国の大学図書館等が所蔵する図書・雑誌の総合目録データベース等を,WWW上で検索できるシステム。国立情報学研究所が運営)がグーグルと連携しているかというと、OCLC(WorldCatという世界最大のオンライン蔵書目録を運営している組織)のようなシステマチックなものはできていませんが、実際にはWebcatのデータもグーグルの検索結果に表示されます。大概、書店関係のページが検索結果の上位を占めて、図書館関係に到達するのは大分後になるということは事実です。

【三宅委員】

  京都大学の資料「図書館機構報」の「図書館を採点!」の中で、学部生、院生、教員等で何がうれしいかということについて、資料がわかりやすく配置されているとありますが、何か学生が本を見やすい並べ方をしているのでしょうか。

【藤井京都大学図書館機構長】

  京都大学図書館の悪いところは、何段階もの分類があり、それが錯綜して存在しますが、よく使われるものについては、なるべく同じものをまとめて置く、閉架に入っているものでもよく使われるものは開架に入れることなどがあげられると思います。

【羽入委員】

  お茶の水女子大学においても、学生から、同じような意見が出たことがあり、書店と並び方が違うと言われて、書店の発想を参考に工夫をしました。

【有川主査】

  分類というのは1つの見方なので、時代とともに変わらなければならないと思うのですが、書店は新しいものを取り扱っており、古いものはどう取り扱うかという問題が出てきます。バーチャルにいろいろな分類ができるという仕掛けを考える場合、IT技術を使えば可能だろうと思います。

【土屋委員】

  両大学について、リテラシー教育や講習会などについて、受けた人は満足だが、実はあまり知名度がなく、普及していないという話と、明治大学の場合、482人が1年間に履修していますが、多分、1学年7,000人程の大学だと思うので、その7,000人に対して500人教えることでリテラシー教育と言えるのか。リテラシーとは読み書きですから、全員に教えられて初めて意味があると思うので、対象者を500人から7,000人にしようという計画をお持ちなのか、或いは500人に対して実施すれば、図書館としては、とりあえず自己満足ということなのでしょうか。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  2000年頃から図書館活用法を始めたのですが、始めて3、4年の頃は、希望者に漏れなく履修登録をさせていました。その時には、1,500人以上が履修しましたが、とても授業の体をなさないという反省と情報探索・検索の実習等も行いたいということで、方式を変えて、現在の人数になり、半期で6コースを少人数で行っています。全学年、全員を対象にはし得ないというのが、現在の認識になっております。

【藤井京都大学図書館機構長】

  京都大学では、情報環境機構があり、コンピュータ等をどう使うかという教育を、新入生全体が必ず受けるようにするということが大学の戦略だと思います。
  図書館は、図書館の機器をどう使うかということについて学生に教えた方が良いということで、個別対応的な講習会は、結構意味があると思います。

【土屋委員】

  明治大学では図書館職員が授業を担当されていますが、単位は誰が出すかという問題があると思います。通常、非常勤講師にオムニバスで1コマだけ頼むだけでも、資格審査をしますが、そのようなことが図書館職員にも行われているのか、あくまで補助的な役割という認識でいるのでしょうか。筑波大学などでは、非常勤講師の発令をしていると思うのですが、その辺、どうなっているのでしょうか。

【吉田明治大学図書館長】

  まず、今のご質問の前に、リテラシー教育以外に、新たに電子ジャーナルを契約したとき等を含め、機器の使い方の講習会は、学生、教職員を対象にして、ある程度実施しています。それとは別に、授業で単位を付与するものがあります。この「図書館活用法」だけではなく、他の一般的な科目でも、外部の方を、必ずしも教員でない方をお招きして、授業の1コマなり2コマなり担当していただくこともあるのですが、専任教員がコーディネーターになり、最終的には、そのコーディネーターが責任を持って単位を出すということになります。

【菊池明治大学図書館総務事務長】

  資格審査はしていませんが、その授業のコーディネータとなる専任教員の属する学部の教授会で、授業を担当する者の審査を行い、そこで担当者の承認を得ています。

【有川主査】

  そのような方法は、いろいろなところで行われているのではないかと思います。他の科目でも、その科目を設定するときに、しかるべき委員会等があって、そこでチェックは入っていると考えていいのではないでしょうか。
  また、京都大学の個別対応は年間120回で4,000人ずつと非常に大きな数になっていますし、明治大学でも、教育自体は、数百人ですが、実習に関しては、多くの学生が参加していると感じております。
  教育に携わる図書館職員について、九州大学では、新しい図書館関係の大学院専攻をつくろう計画しており、そこでは当然、資格審査等をしますが、図書館職員が大学院担当の准教授や教授になるというようなことも考えております。この点は図書館の専門性ということからすると非常に大事なことだと思います。図書館職員でPh.D.(博士)を持った職員が何人もいて、必要に応じて教育にも携わっていくような世界を大学図書館としてはつくっていかなければならないのではないかと感じて、九州大学では、専攻設置を計画しているところです。実際、認可されるかどうかは別ですが。

【土屋委員】

  学生から見たときに、図書館職員が教育側にいる立場の人として対応するということは非常に重要なことだろうと思いますが、一方で、大学の組織の中では事務職員という位置付けを与えられていて、そのギャップというのは結構大きい。事務職員と教員との境目ということを、どう考えていけばいいのかということについて、構想があれば教えていただければと思います。

【有川主査】

  私学もそうかもしれませんが、国立大学の場合は、教員以外は全て事務と括ってしまっていました。病院の看護師も事務系という括り方をごく最近までしていました。ところが、実際には、2000~3,000人の中で、1,500人程は病院関係の技術者であるというようなことがあります。
  私は、この10年程、図書館職員を事務職員と呼んだことはなく、図書館職員と常に言っています。また、施設部にも一級建築士や、機械や電気などの資格を持つ技術者集団が相当います。これも事務と括ってしまうのもおかしいでしょう。2つに分けるのではなく、実態に合うような分け方をしなければならないのではないかと思っており、これは大事なことですので、いろいろな機会に言っております。

【土屋委員】

  採用制度などについても検討されるということでしょうか。

【有川主査】

  採用については、国立大学が法人になってから変わってきています。実際に看護師の採用は、事務と同じような採用をしているとは思えないのですが、これまで分類上は教員と事務となっていたはずです。少なくとも技術系ということで区別するようにはなっていますが、図書館職員も、例えば、レファレンスや、サブジェクト・ライブラリアン的なものは、明らかに区別しても良いと思います。
  日本においては、卒業生が大学に対してお世話になったという意識があまりない。それは、多分に大学で長時間勉強していないからではないでしょうか。では、どこで勉強するかというと、ほとんど図書館だろうと思うのです。その違いが私は大きいと思っております。各国のエグゼクティブたちへのアンケート調査によると、あなたのキャリア形成に大学は役に立ちましたかという質問に対して、役に立ったと答えた人がどの程度かという統計で日本が最下位だった。要するに、大学は行っただけで、別に役に立ったわけではないと思っているということは、結局、大学で苦労して勉強したという意識がない。滞在時間が短かったのかもしれない。その辺が、おそらく図書館で勉強をどれだけするかということの違いかなと、私は感じております。

【植松委員】

  明治大学から、図書館は大学全体の中で軽く見られているという印象があって、職員を大幅に削減されているというお話がありました。また、前回の上智大学も職員を相当な勢いで削減しているというお話がありました。一方で、有川主査からは、図書館職員を専門職員として位置付けるべきとのお話がありました。
  最近、国立大学法人の業務について、市場化テストの検討が行われようとしていて、図書館業務に関するアンケート調査が行われると伺いました。これは、図書館が軽く見られているとも言え、公共図書館における指定管理者制度のような方向に向かうことが危惧されます。

【加藤委員】

  話が前に戻るかもしれませんが、かつて法科大学院の検討会議を文科省がつくりました。そのとき、私は、委員で参加をしておりまして、いろんな意見交換をしました。その際に、カリキュラムの中に、法情報調査を必須の科目として位置付けるという基準をつくりました。
  そこで使われている、例えば、図書館情報の、特にロー・ライブラリーに関する情報のさまざまな教科書が数多く出ています。その関係のご専門の先生方もさることながら、そこに、書き手として加わっている方たちというのが、ロー・ライブラリアン、つまり法律を専門とする図書館情報を持っておられる方たちが多数入っています。これはいろいろな資格の問題もありますが、各大学の実態を調査してみますと、法情報調査に、図書館情報の活用などを、そのライブラリアンの人たちがきちんと担当しています。もちろん、責任教員がいて、何人かが組んで作業をしています。
  そのことと関連して考えてみますと、図書館自体の存在意義は、だれもがその重要性を認めるところがある。ところが、それに対する各大学の対応、あるいはその重要性をどのように各大学のカリキュラムなどに反映させていくかという議論がどうしても弱くなるような感じがします。
  私は法科大学院の議論をしたときに、この法情報調査というカリキュラムがつくられたことが、それに関わるライブラリアン、特に専門ライブラリアンにとっては非常に重要な意味を持っているだろうと思っています。ですから、そうした観点からのサポートということについて、意見として付せていただくと大変ありがたいと思います。

【土屋委員】

  いろいろな業務のうち無駄なものを省くとしても、現在の図書館の規模では難しい。かつ、きちんとした教育への関与を求めたときには、当然、処遇に反映させることになりますが、その図書館が持っている人件費予算で処遇を良くすれば、人数は減ることになります。したがって、教員の持っているリソースを移すなどしないことには対応できないのではないかという感じがします。今、加藤委員がおっしゃったように、カリキュラムなどからきちんと考え直すところまで、できれば踏み込んで議論していただきたいと思います。

【有川主査】

  加藤委員からのご指摘は、非常に良い、具体的な例になっていると思いますので、今後、時間をとって議論ができればと思います。
  今日は大学図書館の役割・機能、大学における位置付けについての現状と課題、職員の育成・確保を中心にして、さまざまな観点から議論ができたと思っています。
  吉田先生と藤井先生には非常に重要なプレゼンテーションをしていただきまして、我々も非常に理解を深めることができたと思っております。ありがとうございました。
  次回以降も、大学図書館の実態を把握するために、ヒアリングを行い、それを踏まえて、討議を続けていきたいと思っております。

 

(3) 事務局より、次回の開催は2月23日(火曜日)に開催する旨案内があり、本日の作業部会を終了した。

――了――

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