資料3 資源調査分科会報告「地域資源を活用した真の「豊かさ」の創造について(仮称)」の骨子(案)

1 豊かさのパラダイム転換

(1)加速化する地方の衰退

 近年、発展途上国とされた国が急速な経済発展を遂げ、資本の論理によるグローバル化が世界を覆い尽くそうとしている中、地域間の経済格差と地方の衰退は同時代性をもって世界中で深刻化しつつある。
  このような中、我が国では、特に人口減少社会への突入や高齢化、一次産業の衰退といった重大な問題を抱えており、地方の疲弊はもはや抜き差しならない状態に至っている。

(2)従来型経済発展の限界と政策転換の必要性

 地域間格差を埋めるような市場の自律調整機能に疑問が呈せられている。
 加えて、世界経済のフラット化や環境制約の高まりにより、いわゆる先進国は従来のGDPに代表される経済発展からの脱却を迫られており、特に、我が国では革新的なイノベーション等による生産性の向上に不透明感がある中で人口減少という難題も抱えていることから、従来の経済発展の思想を転換し、今後は、地域の生活の質をいかに向上させていくかという政策に力点を移しつつ、我が国社会の持続可能な発展を目指していく必要がある。

(3)地域資源を活用した内発的発展の必要性

 今日の決定的な地域間格差の現状に鑑みると、一律的な資本投下による外来型開発では限界があることが指摘されている。
 こうした限界に直面しつつある中で、今後我が国がとるべき方向性としては、地域が持つ多様な資源を活用し、環境との調和や生活の質の向上を目指す内発的発展を目指していくべきである。

2 地域資源の概念と特徴

 資源は、人間による利用やその享受能力を経て資源となるものであり、本来、「資源」は、いかようにも創造可能で、地域資源の概念もこの視点から捉える必要がある。
 地域資源は、特に、近代以降の生産要素市場の成立で忘却された特質、即ち、人間と自然の相互依存や生命的に再生可能な性質を有している。
 さらに、資本は人的資本、人工資本、自然資本、社会関係資本の4資本に分類可能であるが、人工資本の充実による経済発展の限界が懸念される中で、地域資源は自然資本としての重要性はもちろん、社会を支える資源としてのソーシャル・キャピタルや人間関係を基礎とした社会共通資本としての重要性を特に有している。

3 生活の質の向上と地域資源の活用の必要性

 地域資源は、市場評価が困難な自然環境や、地域の人的・社会的つながりの機能、歴史・文化など、私的所有権制度の徹底や近代以降のマーケットの論理の中で忘れられてきた価値ある多様な資源であり、真の豊かさや生活の質の向上を図る上でその活用が求められる。
 一方、人口減少社会の中で、経済活動の停滞回避の観点からイノベーションの展開に必要な人的資源・経営資源の活用も重要であり、これらを「地域」の中で創出・発見していくことも重要である。

4 地域資源の活用のあり方

(1)地域の主体性

 地域資源の活用を図るためには、まずその前提として、地域資源自体の価値の認識やその価値の向上といったプロセスが不可欠である。そのためには安易なものまねに堕することのない高い自主性を地域自らが発揮し、当事者の資源認識の意識を高めるとともに、最終的な資源の活用方策の意思決定は住民自らが行うことが何よりも重要。

(2)人材の育成と地域外の目利き

 地域資源の活用に必要な人材の育成に当たっては、アイデア提供者に対する地域の包容力などを通じて、人材の育成や運営組織の強化を図ることが重要であり、また、マーケット戦略などの基礎的なノウハウも培っていくことが必要。
 一方で、チャレンジ精神をもった外部の関係者から常識にとらわれない視点でアドバイスが行われることにより地域資源の発見が行われることも多い。
 このため、地域にあっては、外部からの意見の利用を積極的に進めるとともに、そうした意見を踏まえてさらに地域内の集落間や世代間の交流を図る中で地域資源の活用に道筋を立てていくことが重要である。また、外部関係者にあっては自らの意見を一方的に押しつけるのではなく、地域の伝統的な知恵などの暗黙知を積極的に評価することが求められる。
 いずれの場合であっても、地域住民と外部関係者の協働関係の構築が極めて重要である。こうした協働関係は、農村資源等の有形無形を問わず、その管理において広域的な調整を図る観点からも必要である。また、こうした資源管理は、まずは地元の有するモチベーションを出発点としつつ、不足部分を外部から補完して管理することが必要である。
 さらに、地域の活性化には、住民の取組結果となる成果の利益配分について全体の利害調整に当たるリーダーの育成が実際には不可欠であることに加え、地域固有の文化等を担う後継者を確保し内発的なアイデアを形成しうる人材を育成することも必要。

(3)人的・社会的つながりとしての重要性

 画一的にGDP等で計測される「豊かさ」以外に、「豊かさ」には他者への信頼間に基づく安心や犯罪率の低さなどの視点が必要であり、こうした「豊かさ」を担保しうる地域の人的・社会的つながりは、経済発展に係るパラダイム転換と相まって、地域資源の重要な要素となってきている。
 人的・社会的つながりについては、地域の活性化の観点からのイデオロギーの共有も重要であるが、信頼、ネットワーク、互報酬性などをベースとした概念であるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)は、集団の協力関係の増進に寄与するものとして一層地域資源としての重要性が増しつつある。
 特に、濃密な社会関係資本が東アジアに存在する中、我が国では、歴史的にも社会関係資本のポテンシャルが高く、この地域資源を上手に活用することは、契約コストの低下やアイデア交換等を通じた人的資源の蓄積、相互監視によるガバナンスの強化といったメリットがあり、地域活性化に極めて有効。
 また、地域資源の活用は本質的に地域住民のリスクテイクとなるため住民間の信頼関係が鍵であり、この点からも社会関係資本の活用が極めて重要。
 一方で、地域内での消費優遇などの保護主義的な色彩などのマイナス面もある。
 さらに、今日の資本主義社会において十分に機能していない富の再分配のメカニズムとしても、地域資源たる信頼やネットワークといった社会的な仕組みがこの分配機能を担う面があることを十分に踏まえることが必要。

(4)経済構造の転換と知的社会の創造

 近代以降、資源は生産要素として取引の対象とされてしまったが、本来、資源とは生命的な再生可能な自然であり、人間と相互依存的な関係にあるものであった。
 地域資源はその性格上特にこうした特徴を十分に有する資源であり、従来型の経済発展が行き詰まりを見せ、豊かさの価値観も変化しつつある中でその位置付けは極めて重要。
 また、地域資源は多様であることから、その個々の地域資源の特性に精通した人間の知的能力の組織化等を通じて、知的社会を創造していくことが可能。
 こうした知的社会の創造のプロセスにおいては、従来の経済学の資源観ではなく、人間の主体自体を資源として認識する発想の転換が必要。
 かかる認識の下、知識の蓄積を通じた地域の人的資源の活用によって初めて大量生産・大量消費社会からの脱却と、自然資源の使用量の減少を通じた質的構造変換が可能。

(5)相乗効果と利用効率性

 地域資源の活用においては前方連関効果や後方連関効果に着目しつつ、クラスター形成や産官学連携による産業集積を図っていくことが重要。
 その際には、医療や福祉といった雇用への寄与度が高い産業セクターを絡めながら地域の発展を図ることが望ましい。

 また、農林水産業における6次産業化のように、各地域の産業の付加価値を高め、当該価値実現によって地域に利益が還元され、更に地域産業の付加価値を高めるといったお金の循環づくりを進めていくことが必要。 
 さらに、祭りなどを通じて人的つながりが強化されるように、歴史・文化資源と人的資源は互いに相乗して地域活性化に寄与することにも留意することが必要。
 いずれにせよ、社会関係資本を醸成していくためには、再分配政策や持ち家促進政策、寄付促進政策などの様々な施策が考えられる。

(6)「共」による資源管理等の重要性

 個々人が資源を所有しない状態を排除することを志向する近代資本主義は、環境制約が強まる中で曲がり角に来ており、今後は相互扶助の思想であるコミュニタリアニズムやエコロジカル経済学がアンチテーゼとなるものであり、こうしたテーゼの中で、「共」による地域資源の管理をいかに進めていくかが課題となっている。
 こうした管理においては人間関係を基礎としつつ伝統的な地域の管理形態を尊重した共同管理の在り方を模索することが必要。
 このような考え方の下、例えば里地里山の管理に必要な経費の支払い制度や、選択的集中を通じた「まちたたみ」とコンパクトシティーの推進、農地や森林の転用・開発を行う場合における自然管理経費の拠出制度などが検討対象となり得る。
 その際、自然資源は、一地域での管理の在り方が周辺地域の自然資源にも影響を与える場合があることから、当分科会が前期に報告した自然資源の統合的管理の考え方も踏まえ、流域等の広域的な視点も取り込むことが重要。
 さらに、自然資源の恩恵を受けている企業や個人が地域による資源管理をサポートする仕組みとして、寄付制度やボランティア制度など誰もが幅広く参加可能な仕組みを充実させていくことが重要。

(7)再生可能エネルギー

 日本は再生可能エネルギー資源の宝庫であり、地域活性化の観点からもその活用は重要。
 特に、再生可能エネルギーの供給に当たっては、地元資本の参加により収益を地域に帰属させ、雇用も創出させるといった形で地域の活性化を図っていく方策を検討していくことが必要。 

(8)行政組織のあり方

 諸外国では少ないといわれる休日の地域イベント参加に象徴されるように、日本の行政関係者の地域活性化における役割は大きく、重要な地域資源の一つであると言える。
 しかしながら、市町村合併等に伴い、農村地域を中心として行政の執行体制が充実しているとは言い難く、住民との距離も離れつつある。
 一方で市町村合併により地域内の多様な地域資源利用や広域的土地利用、人材の多様化が期待できる。
 さらに、労働者の供給など経済発展の歴史の中で負の影響を受けてきた農村地域を活性化していくためには、地域住民に加え研究者、企業、行政などのファシリテーターの果たす役割が重要。

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課資源室

電話番号:03-5253-4111(4009)

(科学技術・学術政策局政策課資源室)

-- 登録:平成24年02月 --