沖縄本島中・北部では、受蝕性の高い国頭マージという土壌が広く分布しており、年平均約2,300mmにも達する降水量とも相俟って、森林の開発や地形改変などに伴い大規模な土壌侵蝕が誘発され、河川のみならず海洋まで汚染されるなど広域にわたる被害が発生した。
そのため九州農業試験場が中心となり、農林水産省関係のみならず建設省関係や地元沖縄県の研究機関も参加して平成3~9年度にかけて「南西諸島における海洋への土砂流出の発生機構の解明と防止技術に関する研究」が実施され、更に現在「亜熱帯島嶼域の森林の保全と利用」という課題のもとに、沖縄県森林資源研究センターにより各種施業試験が行われている。
そのような既往・現行の研究のレヴュー等に加え、異なる土地利用による土壌や環境への影響を現地調査することで、わが国の土地利用について、土壌資源や環境への影響という観点から統合的に管理する方法を考える上で好適な参考事例であると考えられることから、沖縄本島中・北部において現地調査を行い資料の収集を図る。
(1)豊かな森林及び貧弱な森林(自然林及び人工林)
(2)新規造林地及び造林放棄地
(3)各種地質の露頭(林道開設地等)
(4)森林を伐採して造成された農地、果樹園等
(5)森林を伐採して造成された養豚場、養鶏場等
地殻の最表層部に位置する土壌は、一般に【1】農林業等によるバイオマス生産、【2】養分、物質、水及びエネルギーの貯蔵、ろ過及び変換(水源涵養、有機性廃棄物処理、物質循環等)、【3】各種生物の生息場所及び遺伝子プール、【4】人間活動のための物理的及び文化的基盤、【5】原材料の供給源(陶磁器、レンガ、ガラス等)、【6】炭素プール(大気:7400億Ct、植物:8000億Ct、土壌:1兆4500億Ct)、【7】地理学及び考古学的遺産のの保管庫、等の機能を有している。
現在、わが国において、そのような機能を有する土壌の劣化をもたらす主な要因としては、以下のようなものが考えられる。
表層部が最も肥沃、地力低下、土壌再生不可能
アメリカ農務省:0.5mm/y(11.3t/ha)以内 (1mの土層再生:2000年以上)
平均土壌浸食量(地表被覆の重要性)
森林…0.2mm/y 4.5t/ha/y(有機物層・リター層)
農地…1.6mm/y
36t/ha/y(農作物)
裸地…10mm/y
226t/ha/y
土壌有機物=有機物層(地表に堆積)+集積有機物(鉱質土壌内に浸透)=腐植
腐植(humus)…リターが土壌動物や微生物の働きで分解され生成された低分子有機化合物が、再び重合や縮合を繰り返して生成される高分子の暗色環状有機化合物群(無数の反応基、養分や水分の保持、可給態養分等)、土壌の理学的及び化学的性質と密接に関連
減少の主な要因
森林土壌…森林伐採、林床植生の減少(間伐遅れ、野生動物による食害等)、病虫害・気象害等による森林衰退、有機物分解の加速(温暖化)
農業土壌…堆肥に代わり化学肥料の多用、集約的土地利用による有機残滓の減少、土壌浸食(作物収穫に伴う裸地化)
土壌微生物…細菌類、放射菌類、菌類(カビ、酵母)、変形菌
土壌動物
1)小型動物類(microfauna)(体長0.2mm以下)…原生動物
2)中型動物類(mesofauna)(0.2~2mm)…センチュウ、ワムシ、ダニ、トビムシ
3)大型動物類(macrofauna)(2~20mm)…ヒメミミズ、ヤスデ、昆虫類、等脚類
4)巨型動物類(megafauna)(20mm以上)…ミミズ、食虫類、軟体動物
*モグラ、ネズミ、ヘビ等の脊椎動物は含まない場合が多い。
リターの分解、腐植の生成、可給態養分の生成…土壌の理学的及び化学的性質
遺伝子プール…遺伝子資源
浸食による土壌の喪失や土壌有機物の減少と密接に関連、土壌の過湿化・乾燥化
三相組成(固相:40%、液相:30%、気相:30%)(最適割合)
仮比重の増加、土壌孔隙率(液相+気相)の割合
重機による重圧(農業土壌、特に気相の減少)
重金属類、揮発性有機化合物、農薬、窒素、リン、放射能
汚染原因物質の不適正な取り扱い、廃棄物の埋め立て・不法投棄
重金属、揮発性有機化合物…周囲の地域住民への健康被害、放置・荒廃による地域経済への悪影響
Altlasten(EU)、Brownfield(USA):土壌汚染で塩漬け状態の土地
農薬汚染…レイチェル・カーソン女史、沈黙の春(1974)、食物連鎖を通しての難分解性農薬の蓄積による慢性的毒性、残留性農薬使用禁止、有機農業の導入
リン…工場や下水処理場排水、河川・湖沼の富栄養化(アオコ魚類の死滅、悪臭)
窒素…生活排水、農地における化学肥料や家畜糞尿の多用
硝酸塩による地下水汚染⇒発ガン性物質(ニトロソアミン類の生成)
脆弱地質(断層、地すべり、火山地帯)、基岩の風化状態(深層風化)、樹種構成(深根性、浅根性)、鉄道防災林(防備林の胸高断面積密度:25m2/ha以上)
今回の沖縄本島中・北部における調査では、行政区画図や土地利用図等の文献調査とともに、上述の(1)~(5)の調査予定地において以下のように(a)~(f)のうちそれぞれ関連するものについて調べ、また(1)~(4)においてはできるだけ試孔を掘り土壌断面の調査もあわせて行い、異なる土地利用が土壌や環境へ及ぼす影響を推察し、立地環境条件と調和した持続的な土地利用法について考察する。
(1)豊かな森林及び貧弱な森林(自然林及び人工林)…(a),(b),(c),(f)
(2)新規造林地及び造林放棄地…(a),(b),(c),(d),(f)
(3)各種地質の露頭(林道開設地等)…(a),(f)
(4)森林を伐採して造成された農地、果樹園等…(a),(b),(c),(d),(f)
(5)森林を伐採して造成された養豚場、養鶏場等…(a),(e),(f)
八木久義(文部科学省科学技術・学術審議会臨時委員)
内畠聖寿(文部科学省科学技術・学術政策局資源室長)
調査補助者(東京大学大学院農学生命科学研究科造林学教室)
平成22年1月25日(月曜日)~1月29日(金曜日)(5日間)
(内畠室長:1月25日~27日)
沖縄県森林資源研究センター(企画管理班:生沢 均氏)
調査地の選定、現地案内、調査補助等
東京大学大学院農学生命科学研究科造林学教室
調査補助、現地での土壌分析等(硬度計、簡易土壌分析機器等)
科学技術・学術政策局 政策課 資源室
-- 登録:平成22年05月 --