多糖類および二糖類の単糖当量への換算係数について(案)

背景

 2015年に予定されている日本食品標準成分表(食品成分表)の次期改訂において,炭水化物のうち直接分析した成分(でん粉、ぶどう糖、果糖、しょ糖、麦芽糖、乳糖、ガラクトース、トレハロース)の合計値は、成分項目名を「利用可能炭水化物」とし,単位を「単糖当量(g/100 g)」として収載することとしている。食品成分表においては,初めて単糖当量という用語および単位を用いるため、予め規定しておくべき事項がある。
この資料は、多糖類であるでん粉ならびに二糖類であるしょ糖、麦芽糖、乳糖およびトレハロースに関して、質量から単糖当量への換算係数についての提案等を取りまとめたものである。なお、直接分析した成分のうち、単糖類であるぶどう糖、果糖およびガラクトースについては、質量から単糖当量への換算は必要ない。

換算係数の種類

(1) 分子量(式量)に基づく換算係数

1) 六炭糖の単糖類(ぶどう糖、果糖、ガラクトース)の分子量を180.16とする;六炭糖のみからなる二糖類(しょ糖,麦芽糖,乳糖およびトレハロース)の分子量を342.30とする;水の分子量を18.02(18.0153を小数点以下2桁にまるめた)とすると、でん粉中のぶどう糖残基の式量は180.16-18.02=162.14となる。

2)  従って、二糖類の質量を単糖当量に換算するための係数は、(180.16 + 180.16) / 342.30= 1.0526(4388...) である。また、でん粉の質量を単糖当量に換算するための係数は、180.16/ 162.14= 1.1111(3852...)である。

(2)  FAO/INFOODSの指針(FAO/INFOODS, 2012)に基づく換算係数

1) 二糖類についての単糖当量への換算係数は1.05とし、多糖類についての単糖当量への換算係数は1.10とする。
なお、この指針には係数の根拠が示されていない。しかし、単糖当量で利用可能炭水化物量を収載している(知り限りにおいて)唯一の成分表である英国成分表(Food Standards Agency, 2002)において、二糖類については1.05およびでん粉については1.10の換算係数を用いているので、FAO/INFOODSはこの数値を採用したと考えられる。

換算係数についての提案

(1) わが国の食品成分表の策定過程においては、これまでもFAO/INFOODSの提案や指針をできる限り尊重しているので、独自の換算係数を採用することはしない。単糖当量への換算係数は、二糖類については1.05とし、でん粉については1.10とする。

(2) 科学的には、上記、「換算係数の種類」(1)2)に示した係数が適切であるため、利用者が当然の疑問をもつことが予想される。そこで、食品成分表の適切な箇所に、食品成分表ではFAO/INFOODS(2012)の指針に従って、「換算係数についての提案」(1)の数値を採用した旨を記載する。

関連する事項についての提案

(1) 日本食品標準成分表における炭水化物量に関する妥当性検証調査 成果報告書(日本食品分析センター、2010)では、でん粉、ぶどう糖、果糖、しょ糖、麦芽糖、乳糖、ガラクトース、トレハロース以外に、ラフィノース、スタキオース(三糖類以上のオリゴ糖類)およびフラクタン(果糖を構成単糖とする二糖-多糖類)についても分析している(これらのラフィノース系列のオリゴ糖類およびフラクタンは、利用可能炭水化物ではなく、〈水溶性〉食物繊維である)。これらの糖類は、食品成分表2010で採用している食物繊維の分析法(プロスキー変法等)の特性により、食物繊維には含まれず、炭水化物に含まれている。しかし、将来見込まれる食物繊維の定義の変更により、食物繊維を構成する成分として扱われるので、ラフィノース系列のオリゴ糖類およびフラクタンについては、単糖当量への換算係数は規定しない。
なお、FAO/INFOODSの指針(FAO/INFOODS, 2012)では、ラフィノース系列のオリゴ糖類であるラフィノース(三糖類)、スタキオース(四糖類)およびベルバスコース(五糖類)の単糖類への換算係数は,それぞれ1.07、1.08および1.09としている。

(2) 上記報告書(日本食品分析センター、2010)には、イソマルト-スおよびアラビノースが存在する食品が収載されている。
イソマルトースは、利用可能炭水化物である。次期改訂では、上記報告書(日本食品分析センター、2010)において存在が認められた食品については、二糖類の換算係数を適用し、利用可能炭水化物に含める。
アラビノースは五炭糖であり、ヒト体内での挙動が六炭糖とは異なると予想されるので、ヒトにおけるエネルギー換算係数等についての情報収集をすることとする。次期改訂では、上記報告書(日本食品分析センター、2010)において存在が認められた食品については、食品群別留意点等にその量を記すことにとどめ、利用可能炭水化物には含めない。

(3) これまで、魚介類、肉類および卵類の炭水化物は、ぶどう糖を標準物質として、アンスロン-硫酸法を用いて、(差し引き法ではなく)直接分析により全糖を分析している(文部科学省、2004)。アンスロン-硫酸法の特徴として、硫酸の添加および加熱の過程で、二糖類以上の糖類は加水分解により単糖類となりアンスロンと反応し発色する。このため、二糖類以上の糖類の構成単糖がぶどう糖のみであり、共存物資の影響がないと仮定すれば、該当する食品の全糖の質量は、(単糖当量で示した)ぶどう糖の質量に相当すると考えられる。従って、次期改訂では,アンスロン-硫酸法で炭水化物を分析した食品(=アンスロン-硫酸法以外の方法で炭水化物を分析していない食品)については、該当する食品の利用可能炭水化物(単糖当量)の収載値は、食品成分表2010における炭水化物の収載値を用いることとする。この場合、全糖を構成する糖類についての情報はないので、(別冊における)単糖類や二糖類等の収載値は空欄(-)とする。
なお、魚介類、肉類および卵類のうち、炭水化物組成を分析した食品については、その分析値を参考に利用可能炭水化物(単糖当量)の収載値および別冊における単糖類や二糖類等の収載値を決定する。

(4) 水あめ等の食品には,利用可能炭水化物であるマルトオリゴ糖類やα-グルカン(重合度<~18かつα-1,4あるいはα-1,6結合のもの;この程度重合度のものは80% EtOHに溶解するといわれている)(以下、マルトオリゴ糖類等)が含まれる。炭水化物組成を分析している食品のうち、これらの糖類の存在が予想される食品については、EtOH処理をしない条件下でもでん粉を分析しておくことが望ましい。
理由:その分析値とEtOH処理をしたでん粉の分析値との差は、マルトオリゴ糖類等+麦芽糖+ぶどう糖の(でん粉量としての)合計値と考えられる。従って,直接分析した麦芽糖+ぶどう糖の(でん粉量に換算した)分析値を差し引く等の方法により,マルトオリゴ糖類等の(でん粉量に換算した)質量を求め,それにでん粉の換算係数(1.10)を乗ずれば,利用可能炭水化物としてのマルトオリゴ糖類等の量を知ることができるためである。

文献

FAO/INFOODS (2012) FAO/INFOODS Guidelines for Converting Units, Denominators and Expressions, version 1.0. FAO, Rome.
Food Standards Agency (2002) McCance and Widdowson’s The Composition of Foods, Sixth summary edition, Cambridge: Royal Society of Chemistry.
日本食品分析センター(2010)日本食品標準成分表における炭水化物量に関する妥当性検証調査 成果報告書(平成22年度 文部科学省委託調査報告書)、財団法人 日本食品分析センター,平成22年10月29日.
文部科学省(2004)五訂増補 日本食品標準成分表 分析マニュアル,文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会 食品成分委員会 資料,平成16年12月.

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