資料1 食品のたんぱく質量の新たな算出法と新しい「窒素-たんぱく質換算係数」の考え方について

1. 提案の背景

「五訂増補 日本食品標準成分表」では,たんぱく質量は,基本的に改良ケルダール法により窒素を定量し,「窒素-たんぱく質換算係数」を乗じて算出している。一方,資源調査会は昭和61(1986)年に「改訂日本食品アミノ酸組成表(以下,アミノ酸組成表)」を公表し,食品のアミノ酸含量について情報を提供した。これらの資料は,我が国の多くの場で有効に利用されてきたと言える。

本来,食品のたんぱく質量は,それを構成するアミノ酸の量によって決まってくるものである。遊離アミノ酸も少量存在するが,特別な場合を除いて大きな問題にはならないと考えられる。

食品のアミノ酸の量を定量することは,1960年代までは必ずしも容易ではなかったが,1970年代に入るとかなり正確に定量できるようになった。

このたび,代表的な食品のアミノ酸組成のうち,133食品について定量し(注1),従来のアミノ酸組成表の収載値と比較,検証したところ,非常によい適合性が認められた。これはアミノ酸組成表の収載値が,精度の高い値であったことを意味し,この収載値をもとに行われた食事設計等が有効であることを示している。

新たに公刊する予定の「日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表2010(仮称)」における収載食品は,分析結果と,さらに計算によって推定される食品(注3)を含め,337食品になる予定である。これは,従来,アミノ酸組成表に収載されていた295食品から, 42食品増加することになる。この結果,「五訂増補 日本食品標準成分表」に掲載されている食品,全1,878食品のうち,18%について信頼に値するアミノ酸組成を示すことができる。

以上を勘案すると,従来の「五訂増補 日本食品標準成分表」に示されたたんぱく質量に加えて,新たにアミノ酸組成に基づくたんぱく質量を示すことが可能となる。それにより,我が国での食事設計等において,より正確なたんぱく質量の情報を提供できる。

最終的には,食品成分委員会で正式に審議・決定する内容であるが,以上の見解が成り立つことを前提に,「五訂増補 日本食品標準成分表」のたんぱく質量に追加して,アミノ酸組成に基づいて算出したたんぱく質量を表示することを提案する。

2. たんぱく質量の新たな算出法と新しい「窒素-たんぱく質換算係数」の提案

「五訂増補 日本食品標準成分表」に示されているたんぱく質量は,改良ケルダール法によって定量された窒素量から,茶類及びコーヒーではカフェインを,ココア類及びチョコレート類ではカフェイン及びテオブロミンを,野菜類では硝酸イオンを,それぞれ別途定量し,これらに由来する窒素量を差し引いたものを基準(以下「基準窒素(仮称)量」という)とし,これに,FAO/WHO等(FAO/WHO,1973,Merrill, A.L. and Watt, B.K.,1955,FAO,1970)で公表している「窒素-たんぱく質換算係数」を乗じて算出している。

一方,FAOの技術ワークショップ報告書(FAO,2003)では,たんぱく質の好ましい算出法として,個々のアミノ酸残基の総量として求める方法を推奨している。

今回,アミノ酸組成表の改訂作業の中で,日本人の食生活において重要な食品について,正確なアミノ酸およびアンモニアの量を知る事が出来るようになったことから,より正確なたんぱく質量を求めるために,上記のFAOが推奨する方法を採用する。

 たんぱく質量の計算にあたっては,

(1) アミノ酸がペプチド結合で結合したものであるとの前提に立って,その重合物の量として算出する,

(2) 末端のアミノ基は遊離である場合が多く,補正を行う場合は,各食品についてたんぱく質を構成するアミノ酸の平均の数の情報が必要となること,アセチル化などの修飾がある場合もあることなどから,その補正は行わないこととする。遊離アミノ酸の補正も分析値が得られていないので行わず,たんぱく質態のアミノ酸として扱う,

以上に加えて、今回、食品に含まれるアミノ酸以外の窒素化合物として定量されてくるアンモニアの量を示すこととした。アミノ酸分析の過程で定量されてくるアンモニアは、たんぱく質中のアミド態窒素に由来するものが多いと推定される。すなわち、グルタミン、アスパラギンに由来するものである。このアンモニア量をこれらのアミノ酸のアミド態窒素として、たんぱく質量に算入することも検討したが、そのためには、一定の仮定を採用せざるを得ないことから、アンモニアの量を別欄に示して、参考として供することとした。このアンモニア量は、たんぱく質に含まれるアミド態窒素量を推定する目安を示すものと理解される。

 なお、アンモニア量を、たんぱく質のアミド態窒素としてたんぱく質量に算入しても、アミノ酸組成から算出されるたんぱく質量には大きな影響を及ぼすことはなく、今回新たに示す「アミノ酸量に基づく新しい窒素-たんぱく質換算係数」に大きな乖離を生ずるものでないことを、試算で確認している。

以上の前提で,まず,アミノ酸分析を行った食品の可食部100g当たりのたんぱく質量(A)を求める。次に,基準窒素(仮称)量(B)を求め,両者の比(A/B)をとって,この値を新しい「窒素-たんぱく質換算係数」として記載する。

さらに,「五訂増補 日本食品標準成分表」に収載されている可食部100g当たりのたんぱく質量を,従来の「窒素-たんぱく質換算係数」で除すことによって,「五訂増補 日本食品標準成分表」の可食部100 g 当たりの基準窒素(仮称)量(C)を求め,これに,上記の新しい「窒素-たんぱく質換算係数」(A/B)を乗じ,「五訂増補 日本食品標準成分表」に準拠したたんぱく質量(C×(A/B))を新たに算出する。

3. 新たに改訂する予定の「日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表2010(仮称)」の表示に係る提案

新たに改訂する予定の「日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表2010(仮称)」の第2表のアミノ酸量には,「基準窒素(仮称)量」 1 g 当たりのアミノ酸量を記載する。たんぱく質態のアミノ酸残基量ではなく,アミノ酸量そのものとして表示する。このため,その量の単純な合計は,前述のアミノ酸組成から算出した新しい「窒素-たんぱく質換算係数」より,加水分解時に加わる水の量だけ多くなる。なお,この新しい「窒素-たんぱく質換算係数」もあわせて第2表に記載する。

第3表の「たんぱく質 1 g 当たりのアミノ酸量」の表には,第2表の各アミノ酸量を前述の新しい「窒素-たんぱく質換算係数」で除して,新たな算出法で求めたたんぱく質量1 g当たりのアミノ酸量としたものを記載する。すなわち,ある食品のたんぱく質 1 g を食べた時に,各アミノ酸としてどれだけの量を摂取できるのかという数値を示していることになる。

第1表の「可食部100 g 当たりのアミノ酸量」は、「五訂増補 日本食品標準成分表」に収載されている可食部100g当たりのたんぱく質量を,従来の「窒素-たんぱく質換算係数」で除して,「五訂増補 日本食品標準成分表」の可食部100 g 当たりの「基準窒素(仮称)量」を求め,次いで,これを「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」第2表の「基準窒素(仮称)量」 1 g当たりのアミノ酸の量に乗じて算出したものを記載する。

4. 新しい「窒素-たんぱく質換算係数」の使用について

新たに計算されたたんぱく質量は,前述のように,「基準窒素(仮称)量」とアミノ酸組成を基礎に算出されており,それによって得られた新しい「窒素-たんぱく質換算係数」も表示されている。したがって,食品のたんぱく質量を求める場合は,その食品の基準窒素(仮称)量に新しい「窒素-たんぱく質換算係数」を乗ずれば,従来の方法によるたんぱく質量よりも,より正確な食品のたんぱく質量を求めることができる。

実際に,個別の食品のたんぱく質量を求めたい場合には,「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」に収載された食品であれば,その食品について別途定量した「基準窒素(仮称)量」に,この新しい「窒素-たんぱく質換算係数」を乗じて算出できる。「五訂増補 日本食品標準成分表準拠 アミノ酸成分表(仮称)」に未収載の食品は,できるだけ近縁な食品の新しい「窒素-たんぱく質換算係数」を用いることが推奨される。

アミノ酸分析が,近縁の食品について行われていない食品は,従来の「窒素-たんぱく質換算係数」を用いて算出することになる。

以上,

(1) 食品のたんぱく質量は,アミノ酸の組成に基づいて,その重合物の量として計算すること,

(2) 個別の食品のたんぱく質量を求める場合には,「基準窒素(仮称)量」に新しい「窒素-たんぱく質換算係数」乗じて算出すること,

(3) アミノ酸量は,たんぱく質態となったアミノ酸残基の量ではなく,アミノ酸の量そのものとして表示すること(従来通りの記載方法),

を提案の骨子としている。

参考文献

FAO/WHO (1973): Energy and protein requirement. Report of a Joint FAO/WHO Ad Hoc Expert Committee, FAO Food And Nutrition Series No.7, FAO Nutrition Meeting Report Series No. 52, WHO Technical Report Series No. 522, Food and Agricultural Organization of the United Nations, Rome.

Merrill, A.L. and Watt, B.K(1955).: Energy value of foods-basis and derivation-, Agricultural Research Service United States Department of Agriculture, Agriculture Handbook, No.74.

FAO (1970): Amino acid content of foods and biological data on proteins. Nutritional Studies, No.24, Food and Agricultural Organization of the United Nations, Rome.

FAO (2003): Food energy ? methods of analysis and conversion factors, Report of a technical workshop, Rome, 3-6 December 2002, FAO Food and Nutrition paper 77, Food and Agricultural Organization of the United Nations, Rome.

(注1)

今回の133食品のアミノ酸の分析では,新規に選定した13食品(注2)を取り上げている。また,残りの120食品については,従来の収載値があるものの,日本人にとって主要な食品であることや流通している品種が変化したことなどから,あらためて分析を行うこととした。

(注2)13食品

01088 こめ[水稲めし]精白米

05008 ぎんなん 生

06268 ほうれんそう 葉、ゆで

06269 ほうれんそう 葉、冷凍

07006 アボカド 生

08013 しいたけ 乾しいたけ 乾

08031 マッシュルーム 生

09038 もずく類 もずく 塩蔵、塩抜き

11041 うし[乳用肥育牛肉]リブロース 赤肉、生

11042 うし[乳用肥育牛肉]リブロース 脂身、生

11127 ぶた[大型種肉]ロース 赤肉、生

11235 にわとり[副生物]皮 もも、生

18013 ハンバーグ 冷凍

(注3)計算食品

01093 こめ[水稲全かゆ]精白米

01097 こめ[水稲五分かゆ]精白米

01101 こめ[水稲おもゆ]精白米

01111 こめ[うるち米製品]おにぎり

01112 こめ[うるち米製品]焼きおにぎり

01113 こめ[うるち米製品]きりたんぽ

11037 うし[乳用肥育牛肉]リブロース 脂身つき、生

11040 うし[乳用肥育牛肉]リブロース 皮下脂肪なし、生

11123 ぶた[大型種肉]ロース 脂身つき、生

11126 ぶた[大型種肉]ロース 皮下脂肪なし、生

11219 にわとり[若鶏肉]むね 皮つき、生

11221 にわとり[若鶏肉]もも 皮つき、生

12004 (鶏卵類)全卵 生

15009 カステラ

15042 芋かりんとう

15048 小麦粉せんべい いそべせんべい

15049 小麦粉せんべい かわらせんべい

15050 小麦粉せんべい 巻きせんべい

15051 小麦粉せんべい 南部せんべい ごま入り

15052 小麦粉せんべい 南部せんべい 落花生入り

15054 中華風クッキー

15061 ボーロ 衛生ボーロ

15062 ボーロ そばボーロ

15063 松風

15074 スポンジケーキ

15079 パイ パイ皮

15080 パイ アップルパイ

15090 ゼリー ワイン

15092 ウエハース

15093 クラッカー オイルスプレークラッカー

15094 クラッカー ソーダクラッカー

15095 サブレ

15096 パフパイ

15101 小麦粉あられ

15102 コーンスナック

15103 ポテトチップス ポテトチップス

15113 マシュマロ

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課資源室

(科学技術・学術政策局政策課資源室)