光資源委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成18年12月6日(月曜日) 15時~17時

2.場所

三菱ビル 地下1階 M1会議室

3.出席者

委員

 飯吉委員、石田委員、唐木委員、深尾委員、三宅委員、加藤委員、高辻委員、萩本委員、緑川委員、森永委員

文部科学省

 藤田官房政策評価審議官、戸渡科学技術・学術局政策課長、大山資源室長 ほか関係官

4.議事録

【主査】
 定刻でございます。ただいまから、光資源委員会の第2回目の会合を開催させていただきます。先生方お忙しい中をお集まりいただきまして、大変ありがとうございました。
 初めに、事務局から委員の出欠と配付資料の確認をお願いいたします。

【事務局】
 本日は、お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。
 初めに、委員の出席状況についてご報告申し上げます。資料1に所属委員の名簿をお配りいたしております。このうち本日は大川委員、藤嶋委員、松見委員、安河内委員、山田委員、ご都合によりご欠席となっております。
 また、事務局の方でございますけれども、藤田官房政策評価審議官、戸渡科学技術・学術政策局政策課長が出席しております。
 続きまして、資料の確認をさせていただきます。資料2が本日ご発表いただきます高辻委員の発表資料となっております。また、資料3でございますが、同じく森永委員の発表資料となってございます。なお、参考資料1、前回お配りしたものを改めて添付させていただいております。
 以上でございます。資料の欠落等ございましたらお知らせいただければと思います。

【主査】
 それでは、もう議事の方に入らせていただきます。
 まず、東海大学開発工学部教授で、日本植物工場学会理事長でいらっしゃる高辻委員から、「光と植物-植物工場」のタイトルでご発表いただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

【委員】
 高辻です。早速やらせていただきます。
 光と植物ということで話させていただきますけれども、私、植物工場の開発をずっと手がけているもので、最近実用化の機運が急速に高まってきた植物工場を中心として、その中における光と植物の関係をお話ししていきたいというふうに思っております。植物工場って今まで注目されたり注目されなかったりいろいろだったんですけれども、最近は技術革新みたいなものもありまして、実用化の動きが急になっております。
 植物工場というのは、ご存じない方もかなりおられると思いますが、農業というのは、露地栽培が中心で、それからハウス栽培、施設園芸、水耕栽培、そしてさらに植物工場という方に環境管理の面ではだんだん高度化してまいります。環境制御の自動化とか機械化も、このような順番で高度に導入されていきます。
 植物は、光とか温度、二酸化炭素濃度、あるいは培養液という環境条件に非常に大きく作用されますから、動物に比べてずっと環境の作用が大きいわけです。ですから、環境コントロールによって植物を速く育てたり遅く育てたりすることが可能なわけです。そこで、植物工場では、植物を1年中天候や場所に左右されずに、連続的にコンスタントに生産しましょうということです。
 問題点は、採算性です。植物工場はエネルギーを使う農業ですから、採算性が問題になり、それが最近、割合にコストに合うようになってきました。最近安全・安心への志向が非常に高まってきているというのがこの背景にあります。今年の5月には、残留農薬ポジティブリスト制度が施行されました。例えば輸入野菜で残留農薬がある程度以上あるようなものは、もちろん輸入禁止ですし、販売してはいけないという制度ができましたので、植物工場による無農薬、新鮮、清潔、高付加価値の作物の安定供給というのが注目されてきたわけです。
 また、この植物工場というのは、都市型農業です。都市型農業というのもいろいろありますけれども、ポピュラーなのは屋上の緑化とか壁面緑化ですね。今ヒートアイランド化の対策として非常に研究されています。大手町のビル地下にあるパソナの地下農園の例のように、太陽が全然当たらない空間の田園化とか、アメニティ空間の創造とか、そういう新しい農業の発展にも寄与しますし、従来の農業生産方式に対するインパクトも現実にあります。
 さて、植物工場には、太陽光を使うタイプと人工光のみによって人工的にコントロールするタイプとがあります。太陽光利用型の特徴は、これはハウス栽培の延長で、ハウス栽培よりももっと機械化を行い、環境コントロールを高度化しているものですね。ハウス栽培の場合は夏暑いですから夏期栽培に難点があるわけです。ただ、太陽光を使うと一般に農薬使用は避けられません。太陽光を利用し、かつ無農薬でやろうというのは、できますけれどもコストとかいろいろな問題で現実には難しい。だけれども、果菜類とか果物、穀物とか芋とかには、太陽光利用型じゃないと全然コストが合いません。
 他方、私が個人的に、というか客観的にも重要だと思うのですが、興味があるのは、完全人工制御型です。こっちの方が、開発されたのはずっと新しいわけです。完全人工制御型というのは、閉鎖空間内で、人工光を利用して、季節性、場所依存性を脱却して、完全無農薬栽培ができるということに特徴があります。けれども、さっき申し上げましたように、採算性の問題があります。これは太陽光利用型についても言えることですけれどもね。太陽光利用型だから採算に合うというわけではない。
 光源の選択がポイントで、それよってビル農業が可能になります。完全制御型は果菜類や穀物にはだめだけれども、ほうれん草とかレタス、春菊、小松菜、ハーブなど、そういう葉菜類の生産には将来本命になると思います。将来といってもかなり先ですけれどもね。
 太陽光利用型の話は、きょうはする時間がありませんので、JFEのこういう例をご紹介しておきます。外国にもいっぱい例があります。これはスウェーデンとか北欧などで、盛んに取り入れられている方法です。きょうは人工光と植物というテーマで、人工光型を中心にお話させていただきます。
 私は日立製作所の中央研究所にずっと長くいまして、会社の経験の方が東海大学よりずっと長いんですね。日立製作所にいるときにわが国で初めて植物工場の研究を手がけました。これは1つの成果ですけれども、ダイエーのバイオファームです。野菜売り場の奥に人工光型の野菜工場をつくって毎日100株ずつぐらい「産地直売」しています。このような植物工場をいくつか開発しました。
 それから、これも別の写真ですけれども、高圧ナトリウムランプというランプを使っている。これが一番発光効率が高いので、省エネに役立っています。とにかく、完全制御型はごらんのとおりエネルギーコストがかかりますから、できるだけ発光効率や照明効率が高いことが重要なわけです。高圧ナトリウムランプは入力電力に対する光の割合が30パーセントぐらいあって、従来はこの光がもっぱら使われてきたわけです。
 植物というのは、後でお話ししますけれども、光にシビアですね。青と赤、それも特定の赤と青を特別に好みます。特定の赤がもっともよい。それも好き嫌いが非常に強くて困っています。だけれども、植物は、種まきと水撒きによってだれでも作れます。僕みたいな素人でも。僕は物理が専門ですから。加藤さんと同じですよ。昔はレーザーの研究やってましたけど、35歳のときに心境の変化によって農業に変わりました。加藤さんは立派ですよ、ずっと同じことを続けられてるからね。
 ちょっと余計な話をしましたけれども、さて、光源として蛍光灯とLEDが登場してきたので大分植物工場の様子が変わってきました。蛍光灯もLEDも、光自体の熱放射が少ないんですね。光自体は、蛍光灯は少し熱を出しますけれども、LEDというのはほとんど出ない。レーザーでもいいんですよ、レーザーの場合はLEDじゃなくてLDというふうに言いますけれども。植物に近接して照明できるから照明効率が向上するし、多段栽培によってビル型農業にできるんですね。
 蛍光灯は安いから現在最も有力なんですけれども、問題は赤色成分が少ないということです。蛍光灯では、そのために野菜の品質に難点があります。冷蔵庫で四、五日しかもたない。一部実用化はしてますけれども、そういう難点がある。
 一方、LED、すなわち発光ダイオード、これは小型、軽量、長寿命です。それから、赤と青の波長が、偶然なんですけれども、ちょうどクロロフィルの吸収スペクトルに一致しているから効率よく栽培ができます。弱い光でも栽培できるという利点があるんですね。それから、光合成に有利なパルス照射が可能ということもあります。
 そういう利点はあるんですけれども、とにかくLEDは高いですから、照明設備がひどく高くなる。それでも赤色LEDは比較的安いので、赤色LED利用の植物工場はいくつかありますが、赤色だけだと栽培できる品目が限られるという弱点があります。
 蛍光灯の植物工場については、高柳さんという人が最初に実用化した。もう10何年前になります。蛍光灯は熱が余り出ませんから、ビル式に何段にも重ねることができます。今言ってる蛍光灯というのは普通の蛍光灯です。蛍光灯といっても、最近は冷陰極管とか外部電極型とかも注目されていますけれども、これらはかなり高くなる。普通の蛍光灯は1本何百円かで買えます。ただ、インバーターを入れると何千円になりますが、それでもLEDよりはずっと安くつきます。
 これが、10年前ぐらいに高柳さんが開発した10階建ての蛍光灯植物工場で、これは一部実用化してます。これを現在採用しているのは何ヶ所かあって、例えば焼き肉用のレタスをつくって全国に出している例もあります。ここでの光は、太陽光みたいにただじゃなくて、電力代がかかってるので、できるだけ逃がさないということが非常に重要になります。それが一つの重要なノウハウになっています。このように非常に近づけて照射できますから、光を効率よく利用できます。菜っ葉類なら蛍光灯で何でも育つ。そういう意味で、今人工光の中では一番有力といえます。
 蛍光灯のコスト計算の例があります。生産コストというのは変動費と人件費、償却費、出荷経費、それと一般管理費、そういうものからできています。高柳さんの場合は1日2,000株生産するような工場で1株の生産原価が84円ぐらいでできると発表されています。これだけの蛍光灯栽培のノウハウを持っている人は少ないのですが、今は残念ながら80歳近くになって半分引退されています。
 ただ、この84円でやるというのは実際には非常に大変です。やはり植物工場といっても農業ですから、完全な工業まではとても至ってません。生き物を扱うわけだし、一種の篤農技術ですから、うまくできる人とうまくできない人がいて、メロンのうまい人と下手な人と同じぐらいの差があるわけです。豚とか牛の飼育、また私の発表の次に、魚の話が出てきますけれども、植物は動物よりも難しい面もあると思います。
 光と植物ということで、クロロフィルの吸収スペクトルのことに触れます。ここにクロロフィルのaとbがあります。これらの吸収スペクトルは若干異なりますけれとも、赤色ではだいたい660ナノメートル近辺に吸収ピークがあるし、青色のほうはだいたい450ナノメートルぐらいにピークがあるわけです。ですから、660と450近辺というのが光合成にとっては一番効率がいいはずです。
 偶然ですけれども、LEDとかレーザーダイオードにはいろいろな波長のものがありますけれども、660ピタリというのがあるのです。交通信号に使われているのは違いますよ、あれは630ナノメートル近辺です。信号機では極端にいうと植物は育ちません。それほど植物というのは、波長選択性が厳しいんです。青については450ナノメートルの青のLEDもありますけれども、今は台湾でしかつくっていません。よく出ているのは470ですね。470でもよく育ちます。
 蛍光灯とか白色LEDというのは、確かにいろいろな色を含んではいますけれども、最適な赤と青に必ずしもピタリではありません。特に蛍光灯というのは、赤が少ないのが問題なんです。植物の好きな赤が少ないから生産物の品質に問題が出ることがある。
 これは我々の研究室で、13年ぐらい前に、LEDによる栽培を始めようということになりました。いろいろな色のLED、あるいはそれらの組合せでレタスがどのくらい育つかということを、この装置で調べました。その結果、赤と青の比率が、光量子束密度単位で10対1から5対1ぐらいがベストであるという結果を出しました。
 同様な実験を赤のレーザーダイオードだけでもやってみました。レーザーダイオードはLEDと基本的には同じような構成ですけれども、レーザーの方が効率が高いし、高出力が出るという特徴があります。ただ、高価なことと、光のコヒーレンシーが高い、つまりきれいな光すぎるという難点があります。植物にはきれいな光である必要は全くないわけで、DVDに使うわけじゃないんですから、本当は捨てるようなLDで十分なわけです。いろいろな波長のLEDあるいはレーザーダイオードとの組合せで植物の成長率を測定してみました。これはレタスの場合ですけれども、レッドとブルーの比が10のときに成長率がベストでした。
 この比率は植物によって多少違います。例えば青が特に欲しいという植物、例えばほうれん草とかイチゴの場合には赤と青は5対1ぐらいがベストですね。後から出てきますが、赤だけで育つ植物もある。赤だけで育つようなレタスの品種もあります。
 それから、人工光でつくった野菜がどのような栄養価、ビタミン含量を持っているかということが問題になりますが、こういう研究をしている人はみんな測っています。これは我々が測った結果です。市販のもの、太陽光を利用したものに比べると、ビタミンC含量は何倍かに増大します。一言でいうと自然状態に比べて環境条件が改善されるためです。
 次に、実際のLED植物工場に移ります。これはコスモプラントという会社が開発して、今全国で7ヶ所ぐらい稼動しています。東京ディズニーランドに今つくっていて、来年の4月からディズニーランドに皆さんが行くと、嫌でも植物工場のレタスを食べさせられることになるでしょう。いろいろな種類の野菜を1日1万株つくる予定だそうです。
 この植物工場は10階建てで、1つの栽培トレイがこういう形になってる。これは昇降ベルトで上下移動する。ここで定植して移動していき他端で収穫されます。収穫された野菜は品質検査してパッキングをして、それから出荷します。収穫してなくなったらそこに苗を植えつけて補充する。ぐるぐる回して、コンスタントに生産する、そういうシステムです。
 これは北海道の帯広にあるシステムなんですが、1日5,000株生産です。ここの高さは15メートルぐらいで、全体の広さは数百平米ぐらいですね。ここは苗をつくるには蛍光灯でやってます。赤で栽培するんですけれども、苗は赤だけじゃうまく育ちません。少なくとも青を含んでないとよくできないので、蛍光灯を使うわけです。ここの場合、1日24時間照明で夜はありません。夜なし、赤のみということです。どんなものができるか不安に思う人が多いようですが、とてもよいものができます。スーパーに少し出てますよ。
 赤というのは植物の甘味を増すんです。糖度を高める作用があります。それから、青にもいろいろな作用があるわけですけれども、例えばタンパク質を合成したり、背の高さをガッチリ育てるような作用が知られています。LED植物工場はまだ非常にリスキーだと思います。照明設備コストが膨大になるし、その保守管理に注意を要する。未来型システムといえるでしょう。
 次に、LEDにしろLDにしろ半導体ですから、非常に短いパルスを照射することが可能になります。明期と暗期の周期が1万分の2秒ぐらい、200マイクロセカンドぐらいのパルス幅で照射すると、連続光に比べて、光の単位光量当たりの光合成量が高まるという効果が得られます。我々は周期が400マイクロ秒のときに、連続光に比べて20パーセントかそれ以上に光合成速度がふえるということを見つけました。これは6年ぐらい前に見つけた事実ですが。まだ実際の植物工場には応用されていません。これからの課題です。
 この写真は周期400マイクロ秒でレタスに照射した場合です。左は連続光、右はパルス光で照射した例ですが、同じ光量でこれだけ違いが出るわけです。
 結局、光合成というのは光によって水を分解して電子の流れをつくるという、一言で言うとそういうことなんですね。それでNADPという還元分子ができる。これによってCO2(二酸化炭素)を還元してデンプンをつくるわけです。クロロフィルには光化学系1と2がありますけれども、ここにクロロフィル中心がある。これを光が励起して酸化するわけです。こういう光反応は元に戻るまで一定の時間がかかります。その一定の時間内は化学反応が起らない。もとに戻るまでの時間が還元時間になります。
 光化学系2の反応中心P680の還元には200マイクロ秒かかります。そこでこの時間をパルス幅とする間欠照射をすると省エネとなるわけです。
 他に我々が発見した事実に、花が青や青緑で開花が促進されるということがあります。この写真は、ミニバラを青色LEDで開花させた事例ですが、光による試験管内開花ということで、フラワービジネスに貢献する可能性があります。
 植物工場の課題としては、やはりコストダウンの一言につきます。その意味でいろいろな面での合理化が必要です。照明設備の低価格化、照明の効率向上の工夫、新しいタイプの照明設備の導入などです。それから、食味を向上させることも重要です。水耕栽培の場合は普通の土耕も同じですが、硝酸態窒素の問題があります。その場合には有機栽培との結合の可能性も有望です。また蛍光灯とLEDの弱点をカバーするために、両光源の組合せも有力な選択になるでしょう。非常に安い電球といえば最近出回っている電球型蛍光灯があります。これは非常に安いですから、将来は最有力な光源になると考えられます。
 それで今、私たちのグループでは、この写真に示すような蛍光灯プラスLEDと有機栽培の植物工場の基礎研究を行っています。
 最後に、無農薬で高付加価値の野菜をどう売るか、どんな野菜をつくるべきか。それをどう量販店等に供給していくか、とったマーケティングが実際には非常に大切です。例えば香港とか上海のお金持ちというのは、日本のJAの野菜しか食べないそうです。それが向こうで2倍から3倍の値段で売られているので、そういうところに供給するのも1つの手だろうと考えられます。
 ありがとうございました。

【主査】
 高辻先生、どうもありがとうございました。
 それでは、意見交換に移らせていただきます。どうぞ。いかがでしょうか、大変おもしろいお話で。

【委員】
 ちょっと不思議だと思ったのは、生物というのは普通適者生存で生きてきているので、例えば人間でしたら太陽スペクトルの一番強いところがやはり感度がいいはずですよね。目がグリーンとか。そうすると植物も何かそういう一番太陽光の一番強いところのスペクトルを利用して生きてきたのかと私は思ったんですが。今そこが全く欠けて、むしろ赤と青となっているのは、これはどうしてなんですか。

【委員】
 人間の場合はそうなんですか。緑って一番強いところですか。

【委員】
 そうですね。

【委員】
 そうですか。要するに植物の場合には量子効果によってクロロフィルという色素を励起しなきゃなりませんから、そういう分子の光スペクトルというのはエネルギーレベルが飛び飛びなんですよね。ですから、それがたまたま赤と青にピークがぶつかったということでしょう。

【委員】
 そうだと思うんですが、それがなぜクロロフィルがそうなったのかなというのが逆に不思議な気がするんですね。

【委員】
 不思議ですけれども、答えられる人は一人もいないと思います。

【委員】
 わかりました。

【委員】
 不思議ですけれどもね。私も答えられません。

【主査】
 ほかに何か。
 どうぞ。

【委員】
 簡単な質問ですが。ずっと24時間当てっぱなしとおっしゃいましたけれども、植物の場合は寝なくてもいいんですか。

【委員】
 寝る必要はありますね。というのは、24時間つけっぱなしというのは、植物、動物も同じなんですけれども、体が比例的に大きくなっている時期、つまり栄養成長のときだけです。質的に変わる、開花したり種が発芽したり、そういうのは生殖成長と呼びますけれども、そのときは夜が必要です。比例的に大きくなっている、人間で言うと、だんだんからだが大きくなっていく時期ですよね。そのときは光合成だけが作用するから24時間でよいのです。
 質的変化の例を出すと、植物には長日植物と短日植物と区別があります。長い日の植物というのは、例えばの話、10時間以上の光を当てると開花する。それから、短日植物というのは10時間よりも短い光を当てると花が開いちゃうと。それから、鈍感なやつもあります。トマトなどは鈍感で、中性植物と呼ばれます。短日植物だと花が開いちゃうわけですから、24時間照明というのはできません。野菜工場は花をつくるわけじゃない。レタスで花つくっても一銭ももうかりませんからね。だから多くの場合に長日植物を選ぶわけです。できるだけ栄養成長させたほうが有利になります。
 長日植物には24時間つけっぱなしでも、あるところまでは開花しないものがある。レタスなどは、せいぜい100グラムぐらいで収穫しますから。それまで花が開いたり変な形にならなきゃいいわけです。それでギリギリの大きさに育つまでやってるわけです。
 けれども、生殖成長を伴うもの、果菜類、トマトとかインゲン、キュウリ、ナスビなどは24時間照明はだめです。できた澱粉を果実に効率よく転流させるために、一定の夜が必要になります。それに比べて、根菜類は大丈夫ですね、24時間つけっ放しでも。なぜかというと葉っぱでできた澱粉がストンと根に落ちるだけですから。いわば物理的に落ちると考えてもよいでしょう。ところが、果采類では葉っぱのデンプンを果実に移すのに、そこでつけっぱなしにしていると大変なことになります。我々の食べ過ぎ、うなぎ丼を3杯食ったような状態になって、枯れちゃうんですよ。大体6時間ぐらいの夜は最低限必要です。

【委員】
 示された図ではベルトコンベアーのようになっていましたけれども、何日で収穫されるのですか。

【委員】
 そうですね、早くやろうと思えば1週間でできますけれども、コストとの兼ね合いですから普通は2週間から3週間ぐらい、数グラムで定植して100グラムで収穫するという場合、そうですね、2週間でやる人もいるし3週間ぐらいかけてやる人もいます。

【委員】
 すごく速いんですね。

【委員】
 速いですね。だから、1年に20作から30作はいきます。

【主査】
 ほかにいかがでしょうか。どうぞ。

【委員】
 植物は動物よりもコントロールできるということで大変興味深いお話だったんですが。こういう野菜などの場合、運搬ですとか、保存とか、そういうこともコントロールできればいいなと考えられるんですが、光を使ってそういう保存面で、ある程度育ってしまった後、今度は光のコントロールで保存をよくして運搬するとか、そういうご研究というのはあるんでしょうか。

【委員】
 野菜ではあまり聞いたことはありません。野菜というのは安いですから余り光を使うと流通経費がかかってしまう。生鮮で急いで運ぶに限ります。例えば韓国できのう採れた野菜がきょうそこのスーパーに出てるような状況ですから。新潟に釜山から船で来て、来た途端に前にトラックがワーッと並んでいてそれを運んで来るわけですよ。花は光の効果が重要です。花は赤い光を当ててしぼむのを押さえるとか、緑色が効果的という話があります。いま研究段階ですけど、近いうちに実用化されると思います。

【委員】
 例えばこういう植物の栄養素における面とか、あとは今までの感触ですか、食べたときの感触というか、私たちが食べる場合の、そういうものに関しての遜色とか栄養素のバランスみたいなものの変化というのはほとんどないと思ってよろしいでしょうか。

【委員】
 栄養価の点では遜色はありません。さっきビタミンCの例を出しましたけれども、コスモプラントはビタミンAなどもっといろいろな栄養素について、人工栽培の方がずっとふえるという結果を出してます。
 問題は味です。僕は、正直言って、蛍光灯で作った野菜は余りおいしいとは言えませんね。まずいです、はっきり言いましょう。それとときに苦みとかえぐみがあります。それは土耕でも同じですが、硝酸態窒素が多いからでしょう。ただ味も栄養価も光の強さに大いに関係していて、光が十分に強ければおいしくなるし、栄養価も高まります。
 それから、柔らかいとか歯ごたえの問題もありますね。青が少ないとどうしても柔らかくなってしまう。青というのは繊維をつく作用があります。蛍光灯は安い光源ですけれども、赤と青の色の面で弱点があります。その点、赤色LEDを使った場合は糖度が増してますからおいしいものができやすい。
 それで我々はLEDと蛍光灯を組合せて有機栽培でつくってみました。おいしいのができました。もちろん無農薬ですが、有機栽培はやはりおいしいですね、ただ、水耕栽培の方がはるかに取扱いやすく、機械化にはやはり水耕栽培の方が向いています。

【委員】
 多分先生、こういう話を普通の農家とか農協でなさったことはあると思いますが。

【委員】
 農協でやったことはありません。主婦会でやって、300人の主婦につるし上げられたことはあります。今はそういうことはないと思います。

【委員】
 農作業している方たちで、どんな方たちが自分はやってみようというのかと思いまして。こういうようなことを実際に農業をやっている方たちでどのくらい積極的に取り入れようという意識が日本においてはあるのか知りたいと思いまして。

【委員】
 それはね、今やりたいという人は随分ありますよ。今の農業というのは大変じゃないですか。じいちゃんばあちゃん農業でしょう。Uターンもあることはありますが、誰も跡を継ごうとしない。植物工場ならやりたいという人は少なくありませんが、まだリスクと資金の問題で決断がつかない状況です。

【委員】
 それに関連してなんですが。先般、南極観測のために観測隊が出かけたんですけれども、彼らが一番困っているのは新鮮な青野菜が食べられないということらしいんですね。持って行ってもすぐなくなってしまうということで、もやしや何かを育てたりして食べているということを聞いたんですけれども。そういう工場が南極にできれば多分彼らは非常に喜ぶと思うんですけれども、何か国立極地研究所とご一緒にそういう新しいプロジェクトをやるということはできないんですか。

【委員】
 南極の野菜栽培については、かって装置を観測船に持ち込んだりしたことはあるはずです。しかし植物栽培にはかなり時間がかかります。本格的な植物工場でも栽培に20日間はかかるわけですから、相当大きな装置じゃないと毎日食べられないことになる。そういうものは船には乗せにくいわけです。

【委員】
 先ほどちょっと先生おっしゃった、主婦の方たちにつるし上げをくったということですが、何が主婦の方たちにとって問題なんですか。

【委員】
 主婦連だったからじゃないでしょうか。しかもかなり前でしたから、あのころの主婦の方たちは野菜を育てるのに太陽も使わなければ土も使わないで、コンピュータで制御しているというのはいいものができるわけがなくて、うちの子どもたちがそういうのを食べたら心配だと、それで凝り固まってました。
 ただやはりちょっと気持ち悪いという方はおられるんじゃないでしょうか。それは色はきれいだけれども、この真っ赤な光でいいものができるわけがないという感じですね。植物の栄養価といっても、一次的な栄養価、すなわちデンプンとかタンパク質とか核酸みたいなもの、それは太陽光が一番いいのかもしれません。ただ、今栄養価で問題になっているのはビタミンとか二次的な産物です。いろいろな薬用効果のあるものって二次産物ですから、それは太陽である必要は全くありません。ある種のストレスがあった方がかえっていいわけです。
 薬草なんかそうじゃないですか。薬草というのは、だいたいはストレス下で育ってるわけですよ。それで薬味が出てくるわけです。薬草をいい環境で育てたら育たないどころか、薬用成分がたまらないでしょう。

【主査】
 きょうのお話を聞いて、大分付加価値の高い栄養価の高いものができているということで、問題は少しコストが高くなるというようなことであれば、やはり1つの考え方としては、大量生産でなくて1つの家庭ですよね、1家庭でそういうのを少しお金かけてでもおいしいものとか栄養の高いものを食べたいという家族もいるだろうと思うんですが。そういう意味の小さなユニットにして販売するという可能性はあるんでしょうか。

【委員】
 それはあると思いますし、有望です。これまでもいくつかの会社で、家庭用の開発が試みられました。いまでも考えているところがあると思います。ただ、広い家庭があまり日本にはないようで、たくさんは売れないらしい。しかしお話したような人工光でそういう試みが出てくるでしょう。例えばLEDを使えば見た目もきれいですし、デコレーション兼用でいいんじゃないでしょうか。

【委員】
 葉っぱ類とお花と根菜のお話が出てきているんですけれども、日本でやはり国土が狭くて食糧がつくれないというとき、穀物だと思うんですが。お米とか大豆とかそういうものもたてにして国土に関係なくたくさん採れるようになるんでしょうか。

【委員】
 はい、食糧問題との関連で言えば確かにそういうことが必要になります。稲とか大豆、トウモロコシ、小麦でもイモでも何でも人工栽培自体は可能です。太陽光を使おうと人工光を使おうと全く変わりなくできることは野菜と同じです。ただこれらの作物は、葉や茎が食べられない。例えば米だったら籾というか種を食べるわけですが、そのほかの部分は捨てられてしまう。そうすると電気を使うのが無駄になるわけです。だから、葉采類のように全部食べられないとコスト的に成立しなくなります。
 ただし、いざとなったとき、本当に食料難に陥ったとき、稲なんかはそれこそ何階建てのビルででも、1年に4作はできますから、植物工場は食糧安全保障にはなります。いざとなったら米よりもイモつくった方がいいのではないかと思います。

【主査】
 JFEもつくってますね、レタス。私も実は前に食べたことあるんですが。本当にきれいですね。

【委員】
 きれいですね、エコ作といってね。

【主査】
 均質でできるもんですから、本当に見た目もきれいだし。それで栄養ありますよと言われて、本当においしいような気がして、いっぱい買いましたけれども。あれも自分のうちでできるというわけですね。

【委員】
 そうですね、僕も自分のうちでは太陽光下でやってるんですよ。2階ですからベランダでしかできないんで、家庭用栽培装置が販売されています。水耕栽培ですが、それで栽培練習をしています。

【主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは、次に、今度は植物から魚の方に、海洋生物工場を提唱されていらっしゃる、東京海洋大学海洋科学部の森永委員から「光と水産」というタイトルでお話をいただきます。

【委員】
 海洋大学の森永です。東京海洋大学は3年前に東京水産大学と東京商船大学が一緒に統合してできた大学であります。
 きょうは「光と水産」ということで、3つの話題についてお話しさせていただきます。まず第1番目は魚介類の光反応の不思議ということで、海中の光が海洋生物に反応する場合に、光の使い方によって真反対な行動を示します。これがそういった意味で不思議というふうに表現したわけです。
 それから、2番目のまぐろ類釣獲率の向上。今、まぐろ類は非常に資源のことを考えて漁獲枠が制限されております。きょうの話はまぐろを捕獲する場合、針素のところに従来はワイヤーの材料を使っていました。新素材の開発によりまして、皆さんもよくご存じのテグス、ナイロンテグスを使ったら釣獲率が向上した。これはなぜかというお話を第2番目に。
 それから、第3番目は、おいしい海苔の誕生です。海苔は今この季節に栽培しています。大気から海中に入る光が風とか波による効果によっておいしい海苔ができると、そういうお話。これは先ほどの高辻先生がおっしゃった海藻ですから光合成に関係したお話しです。
 それで、この3つの話に入る前に、まず大気中と海中における光の振る舞いが大きく違うことが2点あります。まず1つは、光減衰でございます。これが非常に大きいです。例えば大気中では10数マイル先が見えるわけです。だから、大体15マイルとすれば約24キロメートル。しかし、海中ではせいぜい数十メートル、メートル単位です。したがいまして、これをきれいな海中で60メートル見えるとしたら約400分の1に海中では光が減衰するという視程の問題です。
 それからもう1つは、分光分布、スペクトル分布が大気の場合と海中の場合で非常に変わるわけです。290から3,000ナノメートルぐらいにスペクトルがあるのに、海中では380から760という人間の可視光の領域しか入らないわけですね。当然、表面で短波長側、長波長側が減衰されてしまうわけであります。
 それともっと困ったことに、海の中には海中の懸濁粒子と溶存物が存在しまして、海の中のスペクトル分布の海洋型の1、2、3のタイプと、それから緑色とか黄色の方がよく光を透過させる東京湾の濁った海水で、黒潮の海中では480ナノメートル付近がよく透過し、こういうふうに分光分布が変わるということです。
 では次に、きょうの1番目の話題の魚介類の光反応の不思議。これは、きょうここの部屋に点灯しているのは蛍光灯照明で、これは定常光、連続光であります。連続光というのはもう皆さんがよく知っている走光性、光に魚が集まって来る現象。その魚は群れを形成する表層魚で、マアジとかマサバとかサンマです。しかし、そのほかにこのスルメイカも集まるわけです。ここで零と表示しているのは、定常光を点灯しても余り反応しないタイ科の魚とカツオ、マグロです。それから、光を嫌う夜行性動物、アワビやイセエビの甲殻類です。だから、昼間は活動しないわけです。巣穴にじっとしているわけです。夜間になってゴソゴソ出てくる。しかも光を嫌うものだから、月夜ではなくて闇夜に出て匍匐する習性があります。
 では、この走光性に関して皆さんが一番よくご存じの集魚灯を利用したイカ釣り漁のお話です。これは、漁船の上に集魚灯をつけて、遠くからスルメイカを集めて、イカ釣り漁具という装置です。ナイロンテグスのモノフィラメントに20個ぐらいの擬似針をつけて、これをゆっくり上げるのでなくしゃくりながら上げて、イカが擬似針に飛びついて漁獲します。
 農水省のプロジェクトで、今、高辻先生のお話に出たLEDがありましたけれども、このメタルハライド放電等をLEDに変えなさい。そうすれば消費電力も非常に少なく、それから発電した量の炭酸ガスの排出も少なくて、今はやりの環境にいい状況を作り、農水省は勧めておるわけでございます。それで、こちらはシーアンカーで流れとともにゆっくり移動します。
 次に、集まったスルメイカがどのように漁船の下に分布しているのかというのがこの図でございます。すなわち、真ん中に零と表示しているところに船が、左舷、右舷に散布する赤いのがイカが群れているところです。白線で描いたのが水中照度分布といい、等照度線の分布です。この値は510ナノメートルの光線、この海域で一番よく海中へ入る光ですね。それで見ますと、大体今40メートルから70メートルぐらいのところにイカが分布していますが、必ずしもイカは明るいところへいるわけじゃありません。明るい暗い、そういう境界に分布します。
 これは8kW(キロワット)の光源を使った場合ですけれども。2隻の漁船が集魚灯をつけて操業していると、必ず光源の出力の高い方にイカがよく獲れるので、先ほどのプロジェクトは光力適正化の問題を全国の研究者に募ってやっております。
 横軸に光源出力、縦軸に漁獲量で描いていますが、大体100kW(キロワット)ぐらいのところで漁獲量と比例関係にある。それ以上いくらやっても値が散らばって効果がないようです。そのプロジェクトでは大体180kW(キロワット)が光力適正化の上限ではないかというふうに言われております。しかし、委員の中には大きすぎると主張する方もいます。スルメイカの値段、油代、そういうことを考えて150kW(キロワット)ぐらいがいいんじゃないかというようなことを言っている人も委員の方におられます。
 こういうイカ釣りの漁業で、ランプが今はLEDですから非常に寿命がよくていいですけれども、昔は白熱電球とかそういう性能が悪かった時代はランプが切れる寸前に点滅する現象があります。そうすると集まっているイカが一斉に飛び散って逃げてしまうそういう現象。すなわち光の短時間変動によって生物の反応がまるっきり変わってしまうというのが次の不連続光の影響であります。
 すなわち、先ほど述べたのは定常光、連続光でありましたが、誘致、集魚効果がありますが、これからは断続光、不連続です。それらの反応は忌避する、嫌うわけです。即ち、嫌忌効果であり、そういう意味で光反応の不思議というふうに題をつけました。
 この断続光の忌避、嫌忌効果を調べた研究をのべます。これは直径18メートルの円形水槽に定置網で採れた元気のいいマアジを遊泳させて、そこに連続光と断続光を照射したときであります。黒くなっているのが連続光を当てた場合、このハッチの区域が断続光の場合です。そうすると、連続光の時は数値が高いわけですね。断続光になると白丸が急に零の位置へ低下します。
 これは明暗周期を比べた場合です。1.36から0.62の範囲、従って、BとCですね、こういう場合に非常に断続光に対してのマアジの光反応の影響、嫌忌効果があるということです。
 それから一方、これはマアジが泳いでいるところの背景の明るさが、例えば黒丸印が連続光で、白丸が断続光です。0.2lx(ルクス)以上明るいと嫌忌効果はあらわれません。低いほど、すなわち泳いでいるところの背景照度が暗いほど非常に効果があります。
 それで、この断続光に対してはこれ以外にも波長だとか明暗の強度比とか、それから相手が生物ですから生物の目の順応状態、即ち、暗順応とか明順応によってもこの断続光の嫌忌効果が変わることがわかっております。
 それで、これを応用して多光束照射装置が開発されており、魚の通る道を遮断するとか行動を制御するとか可能です。この装置の光源からオプティカルファイバーを使い、照射するところへそれを導きまして、その先に光束を絞るためにレンズをつけております。例えば沿岸へ来遊魚を捕獲する定置網漁具がございますが、その漁具に光の垣網として応用できるのではないか。それから一方、海洋牧場では魚を囲い込む技術に使えるということが考えられます。
 では、次に、2番目のまぐろ類釣穫率の向上のお話をいたします。
 まず、まぐろを捕獲する方法からお話しします。巻き網漁法と釣り漁法があります。巻き網漁法は小型魚の群れを網で囲い込んで、小型の10キログラムぐらいのサイズです。だけれども、ここで余計なことですが、10キログラムでは資源が枯渇するので30キログラムに増大しなさいと言われています。小型魚を獲ったら出荷はできませんから、蓄養で餌をやって大きくしてから出荷します。
 それから一方釣り漁法、これは大型魚の単体を釣り糸で獲る方法であります。きょうはこちらの釣り漁法のお話をします。これには曳縄操業と延縄操業がございます。曳縄操業は一本の釣り糸に餌のついた釣り針を用い、小型の漁船に乗って親子でやるとか古老の漁師が頑張っている、沿岸漁場において日帰りで操業します。例えば、これはテレビで放映されて大間とか松前とか漁場名を皆さんよくご存じだと思います。
 それから一方延縄操業です。まぐろ類やかじきが遊泳する水深に多数の釣り針、即ち、枝縄に餌のついた釣り針を置いて待ち伏せで獲る方法で、沖合域の外洋で1週間、1カ月、半年とかの期間、漁船は大型になりますと500トンぐらいの船での操業方法でございます。きょうはこの延縄操業のことです。
 漁船の船尾から延縄漁具を、まぐろ、かじきが泳いでいる層に餌のついた釣り糸を垂らして、これに食いつかせるという仕掛けです。それで、先ほど言いましたように、針素といって針のすぐ上についている糸のところに、従来はワイヤーといって鉄の亜鉛メッキした材料を使っていました。最近、新素材が開発されまして、手入れもよく保存も非常に良く、ナイロンテグスが使われる。これはモノフィラメントでございます。この資材を使用すると釣獲率が上がったというお話しです。
 ベンガル湾漁場の釣獲率を研究しています。ベンガル湾はインド半島の東側でございます。バングラディシュの南にある海域です。釣り糸、針素の部分の資材を比較すると、釣り元ワイヤー、すなわち直径が1.7ミリメートルぐらいで、0.34パーセント。すなわち1,000本の針に対して3.4匹獲れます。一方、ナイロンテグスはこれより太く。2ミリメートルです。1,000本の針に対して20.1匹と非常に釣獲率が向上しました。
 これは何故かということを2年続けて調べました。これを以下のように考えたわけです。まぐろは非常に視覚がいい。すなわち、魚の感覚というのは人間と同様 五感、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚がありますと。しかしながら、生態行動に重要な役割を果たしているのは視覚と言われており、どこが違うだろうと考え、見える距離、即ち、釣り糸を見分けていることにいたりました。水中視程理論を適用して、物体の大きさと、これは視力に関係するので大きさとコントラストと、それと明るさです。ワイヤーやテグスをどこぐらいの距離からまぐろは見ているかのを計算したわけです。
 そうすると、釣り糸の下げておる手前のワイヤーは3.6メートルからは見ている。しかしテグスは1.1メートル、3分の1の距離近くに接近しないと釣り糸は見えないということです。それで、釣り糸とワイヤーのテグスを見分けることで視認距離の差が釣獲率の向上に寄与したと考えたわけです。
 ちなみに餌のマサバの尾叉長が大体25センチメートル、体高が7センチメートルです。まぐろは28メートルの距離から、あそこに餌があるぞというのを視認しているわけです。
 きょうの新聞記事で読みましたけれども、普通、まぐろは高スピードで遊泳し、ゆっくり泳いでいる場合は見かけません。高スピードで釣り糸を見分けるのかという反論があるけれども、きょうの新聞にこれを裏づける説が出ていました。マッコウクジラの大型のものから小さい魚体のものまで餌を獲るときは毎秒1メートルから2メートルぐらいのスピードで獲る。
 それから、第3番目の美味しい海苔の誕生です。海苔は今の季節では最盛期に入っております。海苔は一般に海の表面付近の表層で栽培します。網に海苔の胞子、種をつけて海面に浮かべます。東京湾の入口の富津漁場では、大体10月の初めから1カ月半で1番目の刈取りができます。
 ノリ網の種を強くさせるために毎日漁師の人が30分間、このように海面から網を上げます。それは干出作業、即ち、乾湿させて、刺激を与えて付着物をつかせないとか、種を元気にさせるような目的のための作業です。
 美味しい海苔がどうしてできるのかというと、昔から季節風、北風が連吹、ずっと続けて吹いてさらに寒い季節は良質な海苔ができると、水産分野では言い伝えというかことわざがあります。このことを次のように考えてみました。
 こちらが平滑海面で、波浪海面、こちらが風のない場合、一方は風がある場合。そうしますと、風があれば「さざ波」が起こると、大気と海中のガスの交換がこちらに比べたら多くなる。ここの光の透過変動に関して、変動がこちらに比べたら一方が大きくなる。それから、海苔漁場は沿岸の10メートルとか15メートルぐらいの水深で栽培するので、海面から海底まで鉛直循環が盛んで均一です。水温躍層が無く、栄養塩の補給がこのように水が循環するので、こちらに比べたら一方が多いということです。
 ガスの交換と栄養塩の補給というのを一定にして、光だけを変えてみて実験をしました。変える場合、透過光の変動の場合は連続光です。それから、一方の透過光は「さざ波」で起こるから0.5とか1とか2Hz(ヘルツ)の光を植物海藻に照射します。当然、1日の照射量は同じにします。
 海苔の種を使ってやるのは非常に難しいものですから、微細藻イソクリシス・ガルバナです。ほぼ球形をして、直径が4μm(マイクロメートル)の単細胞遊泳性、植物プランクトンです。
 そうしますと、当然低周波ですから光合成の今の言う非常に光周期がゆっくりですから、大きくはならないけれども、微細藻の総色素含有量が定常光に比べて0.5Hz(ヘルツ)では非常に増加します。
 9日目の培養日の海苔は非常に大きく増える。どの色素が大きくなったのかと微細藻の各色素含有量の増殖割合を調べる。0.5Hz(ヘルツ)が「さざ波」の場合と定常光の場合を比べると、増加割合の大きい色素はクロロフィルa、ディアディノキサンチンおよびフコキサンチンです。
 そうしますと、微細藻の特定色素の増加が起こったわけですから、美味しい海苔にこのような色素の含有量が増大しており、美味しい海苔の誕生になます。
 最後に、光と水産の今後の展望です、1番目の魚介類の光反応の不思議、集魚効果と忌避効果ですが、新たな漁法とか操業形態が構築できるということです。それから、2番目のまぐろ釣獲率の向上に関する釣り糸の見分けの話題。現今では生物資源に配慮して持続的に利用できる方向に進んでいて、合理的漁具資材の改良、あまり漁獲を望まなければ魚類から見えやすい漁具の製造、ある程度獲れて対象物以外の生物が嫌うような漁具資材を開発するなどです。
 それから、3番目に美味しい海苔の誕生というのは、「さざ波」の効果。すなわち高周波の断続光による光合成で海藻類の増養殖です。海藻から医薬品の原料の抽出が目的です。今、生の海苔は外国からの輸入は保護政策のため禁止されています。要は海藻、昆布とかワカメを増殖させ食料製品を作るばかりでなく、医薬品の原料の抽出が重要です。皆さんよくご存知の真昆布の場合、利尻とか日高昆布に比べて昔では害藻であったガコメ昆布が最近脚光を浴びています。その理由は真昆布に比べて血液をさらさらにするフコイダンという物質が2倍も含まれていると事実が判明しました。最近、函館では産学官でプロジェクトをつくり取組んでいます。函館だけじゃなくて東京でも売っています。ガコメ昆布から始まりましてキャラメル、チョコレート、そば、醤油などです。
 一方、きょうは申し上げませんでしたけれども、アワビの光環境制御による増養殖です。光周期、大体日周期ですね、12時間明・12時間暗の日周期を中心に、それより光周期を短縮し。餌は十分に与え、流水水槽で飼育をします。日周期に比べて恒暗でいつも真っ黒の時の方がアワビの成長は良好です。もう1つは、9時間明るく15時間暗くする。それも日周期に比べて成長がいいことがわかる。殻長6センチメートルぐらいの稚貝で、光の効果は成貝よりあったように思います。テラピアの光による増養殖では、テラピアの稚魚は非常に成長がよいと判明しています。これは先ほど極地の話が出ましたけれども、宇宙空間での食糧問題に関する重要な課題です。したがって、私が展望と述べましたが、この3番目がこれからの光資源において有効であると思っております。
 以上で終わります。ありがとうございました。

【主査】
 どうもありがとうございました。
 それでは、何かご質問等ございましたら、どうぞ。

【委員】
 3番目の問題なんですけれどもね。海苔の場合はレタスなどに比べて高いし、生海苔なんか高いですよね。それから、そんなに強い光がいらないんじゃないかと思うんですけれども。これを人工光で育てる、海苔の植物工場みたいな可能性はどういうところが問題があるんでしょうか。

【委員】
 海苔は農業と違って水中で栽培します。そこが非常に大きく異なり、閉鎖系や循環式などの水質管理が一番問題になるところです。

【委員】
 糞と尿。

【委員】
 魚類の養殖と勘違いしておりました。

【委員】
 だって、海苔だから出さないでしょう。

【委員】
 いやいや、もちろんそうですけれども、栄養もあります。
 それから、もう1つ、どれくらいの光を当ててこういう結果を出したのか。5,000lx(ルクス)前後です。
 高辻先生が植物の話では、高周波もイソクリシス・ガルバナではやはり10の4乗Hz(ヘルツ)ぐらいですか、高いところでは成長がいいということがわかっております。

【委員】
 ちょっと二、三枚前のグラフに戻っていただけませんか。それがちょっとわかりにくかったんですが、定常光の場合は一番…

【委員】
 一番下にあるこれです。

【委員】
 それで、その上のやつが2Hz(ヘルツ)の場合ですか。

【委員】
 そうです。

【委員】
 一番効率のいいのは。

【委員】
 0.5ヘルツ。

【委員】
 そうすると、例えばもっと周波数が低くなるとどうなるんですか。定常光に近くなる、定常光というのは要するに0Hz(ヘルツ)ですよね。

【委員】
 ちょっと先生がおっしゃった意味が。

【委員】
 僕が勘違いしてるのかな。

【委員】
 ここの縦軸の取り方でしょうか。

【委員】
 いや、波の周波数の方なんですが。

【委員】
 このグラフの、きょうはここの画面の値を取り出して言ったわけですけれども。

【委員】
 0.5Hz(ヘルツ)が一番効率がいいということですね。

【委員】
 はい。

【委員】
 それを例えば0.2Hz(ヘルツ)ぐらいにするとどうなるんですか。

【委員】
 いや、そこら辺はやってません。

【委員】
 おっしゃる定常光というのは0Hz(ヘルツ)ということですか。

【委員】
 連続光です。定常光というのは、先ほど言いましたように、風がなくて波が立たない連続光ということです。照射を継続しています。

【委員】
 0Hz(ヘルツ)です。

【委員】
 そうすると、何かそのグラフはわかりにくいんですけれども。0Hz(ヘルツ)では一番効率が悪くて、2Hz(ヘルツ)にするとちょっとよくなるんだけれども、それがどんどん周波数が低くなるにつれてまた効率が上ってるわけですよね。そうすると、0.5Hz(ヘルツ)を0.2Hz(ヘルツ)にして、さらに0.1Hz(ヘルツ)にするとそのカーブがどうなるかというということですが。

【委員】
 いや、これだって1回の実験で言ったわけじゃない、何回でも統計をとってやったわけで、そこら辺はまだよく分かりません。

【委員】
 そういうものがあると大変おもしろいと思ったんですけれども。申しわけありません。

【主査】
 ほかにいかがでしょうか。
 これは光がさっきの漁場とか海苔とかそういったものには光がどういう効果を持つかというときには、やはり光がさっきのように海の場合はなかなか海底までいきにくいと。そうすると、大体表面の現象というふうに考えてよろしいわけですね。

【委員】
 ええ、この場合はですね、海苔はたまたま海の表面で栽培するということが昔から行われているわけですね。深くなるとだんだん吸収・散乱され、スペクトルの可視光が深いところへいくほど狭まって、特定なスペクトル域になります。ブルーもあるしグリーンもあるしレッドもあると、そういうものの方がいいかというふうに思いますね。
 ただ、先ほど最後に言いましたように、アワビは人間よりも光感知の能力が高い。月夜には余り出なく、闇夜に匍匐するのはそういう意味です。

【主査】
 アワビのうまみというのは光がない方がいいんですか。

【委員】
 そうです。うまみの話になると、これを例えばグリコーゲンであるとかそういう化学成分の解析が進んでないので、きょうは当然そこを出すと言われると思ってきょうは出さなかったわけです。

【委員】
 魚の光の不思議のところで走光性で光に集まってくる魚はみんな銀色ですね、これ。だから、群れをつくるときにお互いに認識するというのはキラキラ光るのを認識して群れをつくってるんですか。

【委員】
 それもありますし、側線といって魚の中腹ぐらいのところにある側線、ああいうところでも感知しているわけですね。

【委員】
 あれは圧力ですね。

【委員】
 もちろんそう、それもありますし。だから、視覚は当然キラキラ光るだけというのもありますけれども、集群した場合はぶつかることはほとんどないですね、あの小さい魚がもう大きくなってですね。

【委員】
 もし光のキラキラだけだったら何か海中にキラキラと光るものを当てれば集められるのかなと。

【委員】
 キラキラは、先ほど言ったように、断続光になるから逃避するんじゃないでしょうか。

【委員】
 今日は海の表面の光に関して主に話されたと思うのですが、もう少し海の底の方まで光を導く、例えば鏡で光を集め、ファイバーで深いところまで光を導く。そうすると、海の深いところでも光を使った栽培ができる可能性はありませんか。

【委員】
 それはやられております。それはファイバーができた折にその研究は盛んにやられまして、例えばメガフロートいう大きいフロートをつくって飛行場とか飛行機の離発着ですか、そういった場合の海底に光が届かない、そういうところに光を供給するとか、そういうような研究もあります。だけれども、最近それは中止されています。
 今先生がおっしゃった表面にある光を海底100メートルとかそういうところへもっていって、そこで生物を増殖することもできます。

【委員】
 長い目で見ればもう少しいろいろな広がりが出てくる可能性があるのですね。

【委員】
 そうです。

【主査】
 光というのは魚の成長率なんかにも関係するんですか。要するにもっと大きなまぐろをつくるとかそんなことは、今の話は漁獲の量みたいなものが多かったと思うんですけれども、もう少し生産量というよりも魚の成長率を速めて。

【委員】
 光を使って成長は、魚の場合の光の成長というのは餌を食べて代謝の効果です。夜行性のアワビだとかイセエビの場合ですね。イセエビは脱皮をしますのでちょっと脱皮の関係で臭気のことがございまして、高辻先生のきょうのお話にありましたように、経済的効果を考えますと余り効率的ではないと。

【主査】
 ほかによろしいでしょうか。
 それでは、どうも先生、ありがとうございました。きょうは予定の2つのお話を伺うということが議題でございました。これで本日の審議は終わったことになりますが。事務局の方から少しお話を。

【事務局】
 どうもありがとうございました。
 次回でございますけれども、またご連絡申し上げますが、メールでご案内いたしておりますけれども、1月26日、3時を予定させていただきたいと思っております。次回は安河内委員から「照明光に対する人の適応能」、それから大川委員から「光生体リズム調節」についてご発表いただく予定にいたしております。
 以上でございます。

【主査】
 ということでございますので、また次回もよろしくお願いいたします。
 本日はどうもありがとうございました。

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課資源室

(科学技術・学術政策局政策課資源室)