光資源委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成19年4月24日(火曜日) 15時~17時

2.場所

文部科学省 K2会議室(仲通りビル地下1階)

3.議事録

午後3時 開会

(主査)
 それでは、定刻になりましたので、資源調査分科会光資源委員会、今回で第5回目でございますが、開催させていただきます。
 先生方、ご多忙のところご出席いただきまして、まことにありがとうございました。それでは、まず、事務局から委員の出欠と配付資料の確認をお願いいたします。

(資源室長)
 委員の先生方のご参集の状況でございますけれども、本日三宅委員、大川委員、藤嶋委員、安河内委員、山田委員、ご都合によりご欠席というふうに伺っております。また、緑川委員、本日ご発表の予定でございますが、若干遅れてお見えというご連絡をいただいております。
 それから、資料の確認でございますけれども、資料1、本日ご発表いただきます加藤委員の資料でございます。それから、資料2、同じく緑川委員の発表資料でございます。
 参考資料の1、毎度お手元にお配りさせていただいておりますけれども、調査審議の進め方でございます。
 以上、何か不備がございましたら、お申し出いただければというふうに思っております。

(主査)
 それでは、緑川委員もご出席いただきました。これできょう予定しているお2人のスピーカーがおそろいでございます。
 最初に、原子力研究開発機構の量子ビーム応用研究部門長の加藤委員から、光による粒子の加速とその利用ということで、お話をいただいて、意見交換をさせていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(委員)
 原子力機構の加藤でございます。きょうは、光による粒子の加速とその利用に関して発表させていただきます。
 この委員会で今まで地球環境、豊かな暮らしや健康な暮らしに寄与する光というような分野が取り上げられてきました。電気に弱電、強電という言葉がございますけれども、光にも弱い光と強い光、そういう分け方があるのではないかと思います。そういう言葉はまだ定着はしていないのですけれども、こういう分類ができるかと思います。
 今までこの委員会で扱われてきた光は、体に優しい光、それほど強くない光が取り上げられてきたと思いますが、私は、強い光、それもきょうお話しさせていただくのは極めて強い光、極限のような強い光、それをテーマにした研究を若干紹介させていただきます。
 ここにあらわしておりますのは、加速器に使われるマイクロ波用の空洞共振器でございます。加速器の場合には、これがずっと並んで粒子を加速する、非常に大きな装置になります。
 一方これはレーザーを使った加速器でございまして、レーザー光を集光して、ここに非常に強い光の電界をつくって、それで粒子を加速するというものでございます。波長が、マイクロ波がセンチメートルのオーダーに対し、光の場合はミクロン、10のマイナス4乗センチメートルのオーダーです。だから、4けたか 5けたぐらいの違いがあります。光はその分だけ非常に小さく絞れ、かつレーザー光の場合非常に高出力を出せますので、集光すると非常に強い光電界を作れます。この電界により粒子を加速することができる、そういうものでございます。
 加速器がどの程度いろいろな分野に利用されているか、普通我々の目には触れないわけですけれども、実際は、産業とか医療、あるいは科学で非常に大きな重要な分野を占めております。幾つかの例を紹介させていただきますが、これはイオン注入による半導体製造の装置でございまして、イオンを加速して半導体に打ち込みます。例えばホウ素、燐、砒素などを半導体に注入して、それでP型あるいはN型の半導体をつくって回路を形成します。CCDなどの撮像素子をつくるのにも、これが不可欠の役割をしております。
 それから、X線も非常に広く使われております。X線装置は、通常我々の健康診断に使う装置のようなものだけではなくて、放射光装置も実用化されています。これは小型の放射光装置の例です。放射光でX線を発生させまして、X線を使ったいろいろな加工がなされております。代表的なものは、MEMS、マイクロ・エレクトロニクス・メカニカル・システムと呼ばれるものでございまして、ミクロンあるいはそれより小さい構造のものをつくります。例えば、これですと携帯電子機器用のマイクロ分光器(光回路において分光する分光器)、あるいは非常に小さな量の液体を混合するために、液体を混合するというのはそう簡単ではないのですけれども、こういう非常に小さなメッシュをつくって、その中を液体を通すことによって、非常に混合しにくい液体でも混合できる。これはバイオ関係で使われております。こういういろいろな使われ方が行われております。
 それから、医療分野への応用も、ますます重要になってきております。ここに示しましたのは幾つかの例ですが、一番大きな応用はがん治療への応用でございまして、粒子線を使ったがん治療です。これは国立がんセンター東病院に設置されています、がん治療用のサイクロトロンです。このサイクロトロンでイオンをぐるぐる回して加速し、その加速したイオンを取り出して、別途離れたところにございます治療室に送り出します。建物としては非常に大きなものになりますが、それを使いますと、例えばここにあったがんが、何回か照射しますと完全になくなる。切らずに治療ができて、かつX線よりも副作用が少ない。そういう非常にすぐれた治療法が実用化され、現在そういう施設が国内に何カ所かございまして、普及しつつあります。
 また、がんを診断するのに、ポジトロン・エミッション・トモグラフィー、PETが最近普及しています。これは放射性同位体を使うわけですが、そのための薬剤を製造する装置、これも加速器が使われております。イオンを使って、酸素あるいはフッ素に当てて、同位体をつくる。同位体を薬剤を介して体の中に導入し、同位体がガンマー線を出す間にガンマ線を測定して診断するというものでございます。
 さらに、加速器は科学技術の分野から生まれたもので、基礎科学分野への適用が実際は非常に大きいわけですが、その代表的な装置を幾つかここに示します。
 これは皆様ご存じのSPring-8です。兵庫県の播磨にあります、世界で最もエネルギーが高く高性能の、大型の放射光施設です。これで非常に強く、かつ指向性のいいX線を出しまして、それで物質あるいはたんぱく質などの構造や機能を解明する研究に使用されています。最近は産業利用でも大きな成果が上げられています。
 現在、我々JEAとKEKとの共同のプロジェクトとしてJ-PARCという装置を、茨城県東海村、私が今おります、そこに建設中でございます。これは陽子加速器でございます。SPring-8の場合電子を加速するわけですが、これはもっと重い陽子を加速いたします。ここにある線型加速器で数100キロボルトに加速し、さらにシンクロトロンで3ギカ電子ボルト(30億ボルト)にします。3GeV(ギガ電子ボルト)まで加速した陽子をさらにメインリングの 50GeV(ギガ電子ボルト)加速器に送り込みます。
 3GeV(ギガ電子ボルト)の出力を取り出し水銀ターゲットに当てまして、それで中性子を発生させます。中性子で物質やタンパク質の構造や機能を調べます。中性子とX線で物質との相互作用の仕方が違いますので、中性子は特に軽い元素、水とか、プロトンとか、そういうものを見るのに適した装置です。
 それから、30GeV(ギガ電子ボルト)の陽子を使う高エネルギー物理の分野では、ニュートリノを出しまして、約300キロ離れたカミオカンデまで飛ばして、それで質量をニュートリノの測る、そういうような実験が今準備されておりまして、来年度から運転開始です。
 さらに大きい加速器といいますと、これが今世界で一番大きいものですが、ラージハドロンコライダー(LHC)という、スイスのセルンにあるもので、これは周長が27キロと、山手線(34.5キロメートル)と同程度の大きさです。これは地面に埋められているので見えないのですが、こういう大きな装置を用いて、質量の起源を求める上で鍵になると考えられているヒッグス粒子の探求を目的としており、2007年に実験が開始されます。
 粒子を加速する機構ですけれども、例えば電子を加速する場合はマイクロ波を使います。マイクロ波の波長にほぼ等しい空洞共振器を使いまして、ここにマイクロ波をこちらから送り込みます。空洞共振器で共振させ、非常に強いマイクロ波の電界をつくり、その電界によって電子を加速します。これを何段もつなげることによって、非常に高いエネルギーまで加速するというものでございます。
 この場合は、何が限界になるかといいますと、共振器内に非常に強い電界を発生しますので、電界によって共振器の金属壁が絶縁破壊をします。これが電界の強さ、従って一つの空洞で電子を加速できる性能の限界となります。通常加速距離1メートル当たり100メガボルトぐらいが限界となります。
 この方法で加速器をどんどん大きくしていくとどうなるかといいますと、例えば電子の加速器として、アメリカで超電導磁石を使った周長が87キロの超大型の加速器が1980年代に計画されましたが、これが1兆円ぐらいかかるということで、結局中止になりました。トンネルを4分の1ぐらいつくったところで中止になった。この例のように、大型化する上で限界がきているわけです。
 一方、レーザーを使った加速器はどういう原理かといいますと、レーザー光を希薄なガス中に通します。そうすると、レーザー光によってガスがイオン化するわけです。それで、プラズマと呼ばれる電子とイオンで構成される電離状態になります。そこでレーザー光が強いと、光の圧力により電子が押し退けられまして、プラズマの波ができます。この図で青い部分が電子の密度が高いところです。例えば、ここを見ますと、ここは電子の密度が高いですが、その右側は電子がない、電子の真空のような状態になります。ここで、非常に強い電界ができますので、この電界によりそこに置かれた電子が加速されます。
 光は光の速度で進み、それと同じ速度でこの波ができます。ですから、この波が光の速度で進行し、それに伴ってこの電子もどんどん加速されていく、そういう機構です。この場合は絶縁破壊の限界はありません。もともとプラズマは電離した状態なので、金属が電界で壊れるといったことは起きません。
 通常プラズマは不安定性が非常に起きやすいのですが、この場合は強い光によってドライブされているため、非常に堅い構造、不安定性が起きないような構造の波がここにできています。したがって、この波は壊れにくく、ここは非常に強い電界をつくることができる。かつ、空間スケールが100ミクロン以下と非常に短いので、電界の勾配が非常に強い。このため、マイクロ波の場合よりも3けた以上も高い加速勾配が得られます。したがって、非常に短い距離で加速されるというわけです。
 この方法はレーザー航跡波加速と呼ばれますが、その提案は1979年に、田島とドーソンによってなされました。田島さんはずっとアメリカで研究をされた方で、これはカルフォルニア大学ロスアンゼルス校のときに発表したのですが、その後テキサス大学等で仕事をされ、現在原子力機構の関西光科学研究所の所長をしていただいております。この右側の方がドーソン先生です。
 航跡波加速は、いわば波乗りのようなものでして、こういう非常に大きな波に、サーファーが乗り、うまく乗ると加速される。長い距離をずっと波に乗れるとどんどんエネルギーが高くなるというわけです。
 この提案が79年になされまして、その後実験がいろいろなされてきたのですが、非常に明確な結果が得られたのが2003年から2004年にかけてでして、その結果が2004年にネーチャーに掲載されました。イギリス、アメリカ、フランスと、3つの研究所の成果が同時に掲載され、タイトルに「ドリームビーム」という名前がつけられました。このドリームビームというのは、コンパクトな粒子加速器の夜明けである。特徴としては、コンパクトで、エミッタンスが小さい。つまり、ビーム径が小さく、広がり角が小さい。短パルスで、かつ電流も大きい。右下の図が、一つの成果ですが、エネルギーが86メガボルトで、エネルギーの広がりは3パーセントぐらい、準単色という呼び方をしていますが、こういうビームが得られております。
 実は、これと同じころに、あるいは外国よりも少し早く、産総研でも同様の結果が得られ、この前の年に国際会議で発表されています。論文発表としては少し後になったのですが、エネルギーは若干低いのですけれども、準単色の電子を発生できることが示されています。
 これは我々の実験結果ですが、ここにガスジェットを置きまして、レーザー光を集光させて、前方に飛び出してくる電子のエネルギーを電子分光器で分解して見る。そうすると、角度広がりが非常に小さい、指向性のいい電子ビームが得られることがわかります。
 下はこのガスの中をレーザー光が伝播する様子を横からレーザー光を当てて観測しているものです。これがプラズマ波です。先ほど示した航跡波でして、左から右にレーザー光が進んでいます。だんだんこの光跡波の振幅が大きくなってきたときに電子ビームが発生します。条件をうまく整えますと、こういうビームを発生できるということがわかっております。
 今のは比較的おとなしい、それほど強くない光の場合ですが、さらに強くすると、光の作用が非常に極端になります。これはシミュレーションですが、実験的にもほぼこれに相当しているということがわかっております。この図は、光パルスが進むにつれてどういうふうに光とプラズマが見えるかをビジュアルに示したもので、赤い部分がレーザー光です。左から0.3ミリ、2ミリ、ここは示しておりませんが約4ミリぐらいだったと思います。真ん中の図を見ますと、レーザー光によって電子がなくなりにはバブル状態になっている。ここで電子が加速されると、どこかからか電子が供給されなければいけないわけですが、光で押し退けられた電子がぐるっと回ってここに入ってきて、加速域に打ち込まれる。この電子が加速されて、高いエネルギーになる。こういう状況がわかっております。
 原理はこれで示されました。これをさらに使いやすくするには、幾つかのことをクリアする必要があります。1つは、エネルギーをもっと高くしたいわけですが、それがこの結果です。ここでは、れは先ほどのような自由膨張するガスではなくて、キャピラリーを使います。拡大図をここに示していますが、このキャピアリー(細管)に放電をさせる。放電をして、ここにプラズマ状態をつくります。そこにレーザー光を当てる。そうすると、キャピラリー内で電子の密度が中心軸上で低くなるため、このプラズマが導波路構造になりまして、レーザー光が広がらずにこの中をずっと進む。かつ電子ビームに対しても導波路になります。したがって、より長い距離にわたって加速される。そういうことで、長さが3.3cmの細管を使い、1GeV(ギガ電子ボルト)、10億電子ボルトまで加速されるという結果が示されました。これは2006年に発表されております。
 それから、より再現性をよくすることが重要です。加速電子を生成する再現性をよくするために、先ほどシミュレーションで見た絵では、電子がぐるっと回ってきて、それが打ち込まれるという言い方をしましたが、それをもう少し人為的にコントロールしようということがなされている。これはフランスの実験ですが、このポンプレーザーに対して右側からもう少し弱いレーザー光を入れます。すると、光が2つ干渉して強い電場ができまして、ここで電子の種ができ、それが右側に加速される。レーザー光をぶつける場所を変えますと、だんだん加速する距離を長くできますので、それによってエネルギーが上がる。図の左の方が高いエネルギーですが、加速距離を長くすると高いエネルギーの電子ができるということで、再現性と、かつエネルギーの制御ができるようになってきております。
 レーザー加速もだんだんエンジニアリング的になってきておりまして、原理実証から、より工学的な段階に入りつつあります。これをどのように利用するかということで、いろいろな構想がいろいろなところで検討されております。これはKEKの中島先生のご提案で、まずガスジェットで100MeV(メガ電子ボルト)ぐらいの電子を出して、それから、今、お示ししたプラズマ導波路で、例えば1GeV(ギガ電子ボルト)まで加速する。この電子は非常に指向性がいいですから、これを例えばアンジュレータに通しますと放射光が出てくる。条件をうまく選ぶとフェムト秒のコヒーデントX線が出せる。
 これは今1GeV(ギガ電子ボルト)ですけれども、さらに長くして、導波路を長くして例えば10GeV(ギガ電子ボルト)まで加速しますと、これは SPring-8の8GeV(ギガ電子ボルト)と同じぐらいのエネルギーになりますので、いわばSPring-8がコンパクトな10センチメートルぐらいになった、そういうものになるというわけです。
 もちろん完全にSPring-8と同じ光が出るわけではありません。電子発生の周期は、レーザーの繰り返しでリミットされていますので、例えば10ヘルツぐらいです。放射光の場合は繰り返しが何けたも高いですから、平均出力としては及ばないのですが、大きさはコンパクトになります。
 次にイオンの生成について述べます。高エネルギーのイオンを加速して発生することもできます。薄膜ターゲットにレーザー光を当てますと、高エネルギーの電子が右側に飛び出してきます。そうすると、ここで電界が生じますので、この電界によって陽子が加速されて、右側に出てくる。我々のところでした実験では、比較的小型のレーザーですが、それで4MeV(メガ電子ボルト)の陽子が出てきます。レーザー光からイオンへの変換効率は約1パーセント、この 4MeV(メガ電子ボルト)ぐらいですとまだ応用は限られるのですが、我々は医療応用のイオンビームの開発を目指しております。これは今までのいろいろな実験結果を示しており、それからシミュレーションも行っておりまして、大体100MeV(メガ電子ボルト)ぐらいのイオンを出すためには、1平方センチメートル当たり10の21乗ワットぐらい。今この値が10の19乗ぐらいですから、あと2けたぐらい高い強度が必要だという予測を持っております。
 初めに申しましたように、粒子線によるがん治療は非常に効果的なのですが、装置が非常に高いのです。100億円以上ぐらいどうしてもする。小型化も図られつつありますので、もう少し下がりつつありますけれども、いずれにしろ非常に高価なので、日本に全国展開するというのは難しい。これを小型化できれば、もっと普及ができるわけです。レーザーを使って小型の加速器ができないかという研究を我々のところでしております。
 今、私が説明しましたのは、プラズマを介しての電子あるいはイオンの加速ということだったのですが、もっと光の強度が強くなりますと、光だけで加速することができるようになります。それはどういうことかといいますと、荷電粒子に働く力、ローレンツ力と呼びます。粒子が受ける力は、電界による成分と磁界による成分があります。電磁気学をとられた方は覚えていらっしゃると思いますが、通常粒子が受ける力は電界による力だけです。光が左から右に進むときに、電界は上下方向に振動しています。ですから、電子は上下方向に振動するだけです。ところが、上下方向に振動した電子の速度Vが、光の速度Cに近くなりますと、この磁界による第2項めの大きさが第1項めと同じぐらいの大きさになってきます。この第2項めの力の向きがどちら方向かといいますと、Z方向、前方向です。光が非常に強くなると、こちらが支配的になってきて、粒子は前の方向に進むようになります。それを相対論域と呼んでいますが、つまり、粒子の速度が光の速度に近いから相対論域と言っているのですが、電子に対しては1平方センチメートル当たり10の18乗ワットぐらい。この値がさらに3けたぐらい高い 21乗か22乗ぐらいになると、陽子でさえも直接光で加速されるようになります。
 ですから、この状態というのは、例えば光によって電子も光と同じぐらいの速度で飛ぶし、陽子もそれに近い速度で飛ぶようになる。こうやってできた陽子は、エネルギーはGeV(ギガ電子ボルト)級でして、エミッタンスは非常に優れている。つまり広がり角が小さい、非常に強い強度の陽子ができる。陽子のエネルギーはレーザー強度に比例するようになります。
 さらにあるドイツの方が提案されているのは、科学的な応用ですけれども、寿命の短い原子核を長寿命化することができるのではないか。つまり、例えばパイオンという素粒子があるのですが、これは寿命が20ナノセックです。ですから、光の速度で飛ぶと6メートルでディケイして、このパイオンがミューオンとニュートリノに変換し、なくなってしまう。ですけれども、途中でレーザー光をぼんと当てて加速しエネルギーを高くしますと、例えば10GeV(ギガ電子ボルト)までしますと、相対論的な効果で寿命が100倍長くなる。寿命が長くなった分だけ長い距離を飛びますので、その間に通常の加速器で加速してやれば、非常にエネルギーの高いパイオンができる。加速されたパイオンがディケイし、ミュオンとかニュートリノの非常に指向性のいいビームができる。こういうような提案がされています。こういう応用までいくにはもうちょっと時間がかかるのですが、いろいろな新しい分野が開かれるだろうと思われています。
 そういう強いレーザー光を発生する方法はどうか。これは時間がございませんので簡単にしますが、もともとは非常に短いレーザー光をつくります。これをそのまま増幅すると、レーザー装置が壊れてしまいますので、光学的な方法でパルス幅を長くします。10の4乗倍ぐらいにする。そうするとピーク強度が下がります。そうすると、レーザーは壊れないので、これを増幅しまして、増幅した後、またパルス幅を短くする。パルス圧縮と呼んでいます。これはチャープパルス増幅と呼ばれていますが、1985年にジェラル・モロー先生によって提案されました。
 この方法で、レーザーのエネルギーはそんなに大きくないが、パルス幅が短く、ピーク強度が高いレーザーをつくれるようになったわけです。これは我々の実験室の装置です。これは結構広い実験室を使って縦に展開していますので大きいものですが、最近は市販品でもっと小さい、ほんの10分の1ぐらいの大きさで同程度の性能を出すような装置が出てきています。先ほど述べた配置でずっと装置が並んでおりまして、それで今我々のところでパルス幅が約20フェムト秒、 1フェムト秒は10のマイナス15乗秒です。光の波のサイクル数にして10もないぐらいです。ピーク出力が80テラワット(80×10の12乗ワット)、繰り返し10ヘルツで、非常にコントラストの良いレーザー光が生成されています。これに使われるレーザー媒質はチタンサファイアという結晶です。この写真は直径8センチメートルのレーザー結晶で、これを最終増幅段に使い、さらに一桁高い、ほぼペタワット(10の15乗ワット)のレーザー光が得られています。
 これはレーザー光の集光強度を年とともにプロットした図でございまして、1960年にレーザーが発明され、Qスイッチとかモード同期により出力が上がった。しかし頭打ちになったのですが、チャープパルス増幅の発明によって再びずっと上がってきて、今、どこまで到達しているかというと、我々のレーザーを集光しますと、大体1平方センチメートル10の21乗から22乗ワットぐらい、これくらいが得られるようになっています。電子は当然相対論的領域になっていて、イオンも相対論的な領域にかかるかどうかというところまでいっています。
 現在、欧州では、10の23乗以上の領域に入ろうということで、ELI(エクストリーム・ライト・インフラストラクチャー)という提案がなされております。右図はフェルミのペタエレクトロンボルト加速器と呼ばれるもので、もしマイクロ波でペタボルトの加速器をつくろうと思ったらば地球を一周するぐらいの長さにしないといけないということになります。まだレーザー加速器もそこまでは到達できませんけれども、もっと短い距離で加速できる可能性も見えてきている。
 私は、レーザーの発展を述べまして、緑川先生がアト秒科学とか、超高速の世界をいろいろ紹介されると思います。
 極限の光を発生するもう一つの流れとして、放射光があります。第2世代放射光、第3世代放射光のSPring-8、それからさらにコヒーレンスのいいX 線を出そうということで、いろいろな提案がなされまして、現在開発が進められているのがX線自由電子レーザーです。今、理化学研究所で建設が始められようとしております。
 それから、ERL(エネルギー回収型ライナック)といって、超伝導加速器を使って電子のエネルギーを回収して、効率よく、位相のそろった放射光をつくろう、そういう提案もございます。
 ここでレーザーと加速器を、並行して書いてございますが、きょうの私の話も光と加速器の結びつきを述べているわけで、だんだん結びつきが強くなってきております。光から加速器への展開、あるいは加速器においてレーザーを使う。そういう光と加速器の融合分野がどんどん開かれつつあります。
 それから、ここでご紹介した研究は、産業に対してどういう影響があるのかということですが、強いレーザー、強いレーザーというのはピーク出力が高いとか、平均出力が高いとか、そういうレーザーを総称して言いますけれども、これが産業用でもいろいろ使われています。例えば自動車生産への利用でして、金属のスポット溶接、樹脂の溶接、異なる材料を一体化するための加工、そういうものに使われております。それから、今、紹介した超短パルスレーザーを使って、例えばエンジンのシリンダーに溝をつくってやる。そうすると、潤滑油が非常によく流れて、寿命が長くなる。また、ジーゼルエンジンの燃料噴射の穴は、非常に細くて長い穴が必要ですが、これも超短パルスレーザーを使うと良い。そういうことで、我々の使っているレーザーをそのまま産業に使うわけではないのですが、その技術を用いることによって、こういうレーザーの開発ができて、それで産業にも役立つ、そういうつながりがございます。
 まとめますと、レーザー加速により、高エネルギー電子やイオンの生成が実現しました。これからはレーザー電子加速を利用する段階で、それを使ったX線源をつくる。それから、イオン源としては粒子線治療への適用が重要な課題です。さらに強い光領域への展開、それから産業応用の普及、こういうことが重要かと思っております。
 一番最後に、これはつけ足しですけれども、夏目漱石の「三四郎」にこういう文章がございます。野々宮君、これは寺田寅彦がモデルだと言われているのですが、この学者が穴倉で光線の圧力を測っている。この当時は電球を使っていましたから、光の圧力は非常に弱くて、(実は私も学生実験のときこういうのをやったのですが、何をやっているかわからない実験だったのですけれども)、現実世界と没交渉で、生涯接する気はないのかもしれないと書いてあります。しかしレーザーの登場で、今は光が強くなって、物すごい圧力が出せるようになり、きょう紹介したようないろいろなことが可能になってきたということでございます。

(主査)
 ご質問、ご意見等をお願いします。

(委員)
 全く素人なんですけれども、大変すばらしいご研究をしていらっしゃると思って感動して聞いていました。チャープで出力を上げるというお話をされたのですが、どのくらいのところをチャープされるのですか。あるいは、どういうものを使ってチャープをされるのですか。

(委員)
 これは光学的に、光の遅延ラインにするのです。この超短パルスは、いろいろな波長成分が含まれていますので、赤い成分から青い成分まである。これを回折格子にあてますと分光され、それをまた元に戻してやるわけですが、この青い光と赤い光が伝播距離が違うので、青い光が先で、赤い光が後になります。それで時間的に周波数が変わる。いわゆるチャープした光ができる。

(委員)
 そうすると、広がりは距離を変えてやれば変わることになりますね。

(委員)
 そうです。こちらではそれを逆の配置にしますと、それがまた元に戻される。

(委員)
 粒子線治療というのが生体のどの臓器を問わずがん治療に非常に有効であるということを読んだことがあるのですけれども、例えばPETが今数億円代のシステムだと思うんですけれども、そうすると、よくイメージングできるとわかっていてもなかなか一般の人たちの医療に使われない。数百億円ベースというお話があったのですけれども、粒子線治療が数億円以下の治療器になって、一般の患者が恩恵にあずかれるようになるめどというものはどのくらいあるのでしょうか。

(委員)
 今、粒子線治療、がん治療をするのに、約300万円かかります。放医研とか、国立がんセンターとか、兵庫県の粒子線治療センターとか、何カ所かあるのですけれども、そこに行きまして治していただくと大体そのくらいで、保険がききません。ですから、副作用がないQOLの高い優れた治療法ですが、だれでもというわけにいかない。今までの装置は数百億円、最近の装置は100億円ぐらい。現在群馬県でより小型の装置をつくろうとしていますが、これが100億円を切ると言われていますけれども、大体それくらい。ですから、例えば10億円の装置ができれば、医療費は、比例するのかどうかわかりませんけれども、10分の1になる。かつ、それがいろいろな病院に普及されますと、多分健康保険の適用もきくようになりますので、より安くなるだろう。
 何年ぐらいかかるか。これはなかなか難しいご質問です。つまり、今のべたような装置を開発するには、やはりある程度資源を集中的に投入して、それでいろいろな人が協働してやらなければいけないです。その程度によると思いますが、オーダー10年ぐらいかなと思います。本当に集中してやればもう少し早くできる可能性はあるかもしれません。単にレーザーだけではなくて、医療ですから、完全な信頼性の確立が必要です。

(委員)
 これはイメージングとあわせてやるシステムでしょうか。

(委員)
 今、実は先ほど紹介した田島所長が、振興調整費に提案しております。光医療産業バレー構想というのですが、先日ヒアリングがあって、どうもかなり厳しい質問を受けたから、ちょっと難しいかなと言っていますけれども、そこでいろいろなことを提案しております。そこで提案しているのは、粒子線を体内に当てる。そこで例えば酸素が放射化するのです。そうすると、それがそのままPET源になる。ですから、診断しつつ、かつ治療できる、それは可能ではないか。こういうような提案もしております。それができるようになると素晴らしいと思います。医療界の方は非常に高く評価してくださっています。ただ、10年というと、いつかわからないというとらえ方をされるわけです。そこらが、こういう課題の難しいところです。レーザー駆動粒子線治療の開発は、我々だけではなくて、フランスとか、アメリカでも始められており、アメリカではもう病院の中でこういう開発が始まっています。このような状況を見ますと、いずれは実現するのではないかと思います。

(主査)
 粒子線の場合は、照射したときの副作用はほとんどないのですか。

(委員)
 この図がドーズ(単位体積あたりのエネルギー付与率)です。これが体の表面で、これが体内ですが、X線の場合は次第に減衰しますので、ここにがんがあったときにそれに至るまでにずっと正常な細胞にも放射線が当たるわけです。したがっていろいろな副作用が起こります。粒子線の場合は、途中は殆どエネルギーを与えないで、あるところまで行くと急にとまり、そこにエネルギーを与えます。ブラッグピークと呼ばれています。もちろん若干正常な細胞もこの辺にありますから、副作用が全くないということはないのでしょうが、X線よりははるかに副作用が少ない。

(主査)
 そこでとめるように、そこのがんのところでとまるようになっているのですか。

(委員)
 とめるように、ここの粒子線のエネルギーを調整するのです。お医者さんが放射線の専門の方と協力して、いろいろなフィルターを入れたりして、ちょうどここで粒子が止まるようにします。そのため、非常に注意深い高度な医療技術が開発されています。
 今の装置では、イオンビームのビーム径は5センチメートルくらいと大きい。それにフィルターをかけて、患部の特定の箇所だけにいくようにしている。ですから、ビームのかなりのところを捨てているわけです。レーザーを使う場合にはそういう使い方はしませんで、非常に小さなスポットから小さな広がり角で出てきますので、それを収束し患部の非常に小さいところだけに当てる。スポットスキャンと呼ばれますが、ビームをスキャンしていって、患部を治す。アプローチとしては少し違う形になるだろうと考えております。

(主査)
 従来の加速器ですと、例えばフェルミの地球一周ぐらいの距離が必要だとおっしゃいましたが、レーザーでやるとどのくらいの規模になるんですか。

(委員)
 そこまでは計算していないのですけれども、例えば1メートルで10GeV(ギガ電子ボルト)とすると、1PV(ペタボルト)にするのは、100キロメートルになります。その場合は、一段だけでは加速できないので、多段式にして徐々に加速することが必要になりますので、もう少し複雑な設計が必要になります。そういう検討もいろいろなされてはいるのですが、実験的にはまだで、これからそういう課題に取り組む段階になるだろうと思います。

(委員)
 私は全く素人質問なんですけれども、チャープパルス増幅という図で、最初にピークがあって、最後に分散したのをまた合わせてピークにする。これは分散したので光の周波数が違うのをうまく利用して何かというようなことはないのですか。必ず最後に全部合わせて、また振幅を大きくする。

(委員)
 我々の場合はそうですけれども、そうしないで、分散して、チャープした光をそのまま使うということはもちろんできます。途中にいろいろな変調素子を入れておいて、その光をいわばデザインして、最適の光をつくる。そういう応用がございます。これは量子制御と呼ばれておりまして、例えば分子にレーザー光を当てる。そうするとレーザー光によって電子が振動を受けるわけですが、その光の周波数を変えると電子の振動も変わります。電子は固まりの波(波束)となって運動していますので、光により電子の波を人工的にコントロールすることができます。そうすると、分子の解離も普通だったら起きないような解離が起きるようになる。そういうことができますので、解離が最大になるように変調素子をフィードバック制御し、自分で最適界を見つけて、レーザー波形をコントロールする。そういうような手法も開発されています。

(主査)
 ほかにいかがですか。緑川先生のお話も割合と関連していますので、また後でも。どうもありがとうございました。

(委員)
 きょうは、アト秒とか、テラヘルツ、ちょっと耳なれない言葉です。これはみんなギリシア語の接頭語で、単位をあらわしていまして、アトというのはピコ、ヘム、3けたずつ変わってくる、その先、アトです。テラは、例えばギガヘルツとか、メガ、ギガ、テラと、3けたずつ上がっていく、こう言っています。きょうは我々がやっているテラヘルツとか、アト秒とか、そういう話です。
 まず、それをお話しする前に、今、光というのが科学技術にどんなふうにかかわってきたかというのをお話ししようと思っています。これは、世界で最初にできた顕微鏡です。顕微鏡というのは、普通対物レンズと接眼レンズがございますけれども、ここに1個だけレンズがついている。下は、これは望遠鏡です。これは両方とも、偶然ではないのですけれども、1600年ごろ、オランダで発明されました。その理由は、オランダは当時眼鏡の職人が世界最高でございまして、眼鏡のレンズをいろいろ磨いていたわけです、凹レンズも凸レンズも含めて。それを並べてみますと遠くが見えたり、近くのものが大きく見えた。そういうことで望遠鏡と顕微鏡というのが発明された。
 顕微鏡で何を見たかというと、やはり小さいものを見ます。人間の皮膚とか、内部を見る。そうすると、人間の構造あるいは植物の構造が何か四角い構造で区切られている。それをセルと名づけた。そこから細胞で生体はできているというのがわかった。
 こちらは、望遠鏡の発明はガリレオと一般的に言われてもいるのですが、実はガリレオは発明したわけではなくて、これを使って木星を見たのです。木星を見ると、そこに衛星がある。それをイヨと名づけた。ここから近代科学が始まったと申し上げてもよろしいかと思うんですが、1600年ぐらいです。
 実は、それからずっと科学技術というのは可視光で物を見てきた。望遠鏡も顕微鏡もそうです。目で見る。ところが、1900年の初め、1800年の終わりごろ、レントゲンが初めて奥さんの手の写真を撮ったもので、有名な写真で、ここに結婚指輪がございます。このとき初めてX線という、正体のわからない放射線が発見されたわけです。これが第1回のノーベル賞になっているわけですけれども、ここで重要なのは、これは非破壊で内部のものを見られるのです。今まで、可視光で見ていたのは、すべて外見しか、内部までは見えません。これは、皮膚を通して内部を見られるというところで、一つ違う波長域の光を使うとこういうことができる。
 それから、1960年、これは何かと申しますと、レーザーが出た。これは全く人工的な光でございまして、実は、こちらの今までのX線あるいは普通の可視光と全く違います。これはコヒーレントな光、波の位相がそろっているのですけれども、それで何が変わったか。今まではこういうふうに何か見たり、計測したりというのを、情報が送れるとか、レーザーで、光で物を切る、加工ができる。そういう光技術のパラダイムシフトがここで起こっているわけです。
 その後、きょうお話しするのは、1990年以後、非常に短い時間の光、あるいはテラヘルツ、そういう話、近接場というのもあるのですが、これはきょうは省いてお話しします。
 これは私の研究で申しわけございませんけれども、これが実はテラヘルツとか新しい光をあらわしている図なので持ってきたのですが、実は、ここに電磁波の波長が書いてございます。可視光とここにありますが、非常に短い、狭い領域なんです。大体400ナノから800ナノぐらいまで、非常に短い。ところが、その外側には赤外線、あるいはその外側にテラヘルツ、さらに外側が電波になる。こちら側、ちょっと短い方が紫外線、極端紫外、軟X線、X線、ガンマー線と、これは全部電磁波でございまして、サインウエーブのような波でできている。
 我々が光と普通呼んでいる、これまでのこの委員会でも光というと、すべてほんの電磁波の波長の領域で、わずかな部分のところしか使っていないわけです。ここでは光資源委員会ということで、私はこの可視光の光をもっともっとこちらに広げていったらどんなことが起こるかというのをきょうお話しするわけです。
 もちろん可視光が便利なところはあります。非常に簡単に発生できますし、レーザーもいいものが出ております。それからオプチックスもあります。ところが、ここをちょっと離れた、きょうお話しするテラヘルツとか、軟X線というのは、光源もほとんどない。ましてやオプチックスとか、ディテクター、そういうものもないわけです。そういうところの光をこれから利用していくといろいろなことができるので、こういうところを今後開発していかなければいけないというのが、私のきょうのお話でございます。
 例えば理化学研究所では、非常に大きな生物のグループがございます。例えば一番小さなところでゲノム解析、これは人間の設計図でございます。この解析には、ゲノムですから、X線が適しているのです。X線の波長でこういうDNAのシーケンスを見ていくわけです。ところが、また一方では脳科学のような部分もあるわけです。そういうところはX線がいいかというと、例えば細胞ですとミクロンサイズですから、可視光で見るのがいいわけです。そういういろいろなサイズに応じていろいろな必要な波長というのがございます。
 もう一つは、これは生物ではございませんが、天文学の領域では、天文衛星でX線衛星スザクを打ち上げたとか、あるいは可視ですとハップル望遠鏡とか、あるいは赤外線の天文衛星というのがあると思うんですが、どうしてあんなにいろいろな衛星を上げるかということです。
 これは、太陽の例でございますけれども、太陽を皆さんが目で見たら、オレンジか、黄色っぽく均一に見えますけれども、これを今申し上げましたようなテラヘルツとか、赤外線の領域で見ますと、ちょっと違ったふうに見えます。いわゆる太陽黒点という、太陽の活動、温度のようなものがわかるわけです。太陽はエネルギーの源は核融合ですから、非常にプラズマの活動が活発なんです。そういうプラズマの放射を見るのには、今度は可視光では見えませんで、軟X線とか、紫外線という、非常に短い電磁波のディテクターを置くわけです。ですから、一つのものを見ても、我々が見ているという、可視光で見ているというのは、ほんの一つの断面しか見ていないのです。
 例えば、有名な話を皆さん聞いたことがあるかもしれません。チョウチョウというのは、雄雌をどうやって自分で区別しているかというと、あれは人間の目では区別できませんけれども、紫外線のディテクターを持っているとその模様が違うのです。ですから、モンシロチョウが2羽遊んでいたとしますと、それは雄と雌が戯れているのか、雄同士がけんかしているのかというのは、人間はわからないかもしれないのですが、紫外線のディテクターでフィルターをつけて見れば、模様でそれがわかる。動物のあるものはそういう紫外線とか赤外線の領域のディテクターを持っています。ただ、人間は可視しか持っていませんので、可視中心の光科学というのが今まで栄えてきたわけです。
 これは太陽ですけれども、私の今目標としているのは、今のような太陽を、例えば人間の細胞に置きかえてみる。そうするといろいろな光を当ててみると違う現象が見えるだろうということで、私のところでは、テラヘルツの光、あるいはアト秒の光というのを使って、そういうことをやっていこうというので、テラとか、アトという、これは非常に特定源的な光なので、エクストリームフォトニックスということでやっている。これは宣伝ですけれども。
 まず最初に、テラヘルツの話でございます。今、申し上げましたように、テラヘルツというのは、ちょうど電波、マイクロ波とかミリ波といわれる電波と、それから可視の近赤外のちょうど間で、電波のような性質もあるし、光のような、皆さん例えばこの部屋で携帯電話を使えますね。電波は建物を通ってくるからです。ところが、こちらの可視光になったら太陽の光はここまで届きません。ですから、可視の光というのは、普通のもので遮断されている。テラヘルツというのは、ちょうどその中間です。例えばプラスチックとかセラミックとか、そういうものはX線のように透過します。ところが金属はだめだ、そういう特殊な光の性質を利用すると、いろいろなことができる。例えば、電波的にはプラスチックを通るとか、セラミック、紙のようなものを通るというのを利用すればいいんですけれども、今度光の性質のときは、普通にレンズとか、あるいはミラーで集めたり、そういうことも簡単にできるわけです。
 テラヘルツ、これは1990年ぐらいからかなり開発されるようになったのですけれども、幾つかこういう特殊な発信器が今開発されています。これは、それぞれ特徴があって、オールマイティーの光源というのはなかなかないんですが、それぞれの応用に応じて強い光を出すテラヘルツとか、あるいはいろいろなチューナブルな光を発生するテラヘルツの光源とか、そういうものがあるのですけれども、最近は、カスタムカスケードレーザーとか、最終的にこういうものの応用は社会に入っていくためには、半導体レーザーのようなもので光が出せないといけないというので、今、世界じゅうで一つ大きな流れというのは、こういうのを半導体で出そうということをやっているわけです。
 その光源の話はまたの機会にしたいのですけれども、では、どんな使われ方をするのか。これはまだ研究段階ですので、社会にテラヘルツが入っているわけではございませんけれども、これからこういうのが開発されると、こういうような応用があるのではないかというのをご紹介したいと思います。
 これはスイカのカード、皆さんよくご存じだと思います。スイカというのはプラスチックのケースの中にICが入っているんです。その中にアンテナがありまして、ここから出る、あるいは駅の機械から出る電波をとらえているわけです。それを見よう。中身がどうなっているか。壊さずに見られる、これがテラヘルツ。ちょうどX線を当ててもこんなふうに見えますけれども、X線は人体に害がありますけれども、テラヘルツというのは非常にエネルギーの小さい光で、全く害がない。これがアンテナです。ここで電磁波を受けて、電波を受けて、ここのICでいろいろな演算したり、何かするわけです。それで料金がどうのこうのとわかるわけですけれども、これはソニーのカードなのでソニーというマークが入っているのですけれども、こんなX線のようなことができるというのが一つの応用でございます。
 それから、もう一つ重要なのは、これは水は通らないのですけれども、プラスチックのケース、これは暗くてよくわからないかもしれないのですが、プラスチックとか紙の中に五円玉とかクリップとか、そういうのが入っているのです。そちらのプリントを見ていただいた方が見えるかもしれない。それから、水を通らないので葉っぱに当てますと、水が通っているところだけ黒く見える。これは乾燥したエビ、サクラエビとかトウガラシ、これだと密度の高い骨格とか、種が見えてくるのです。
 こういう応用を考えますと、今、食品の業界では、例えば食品の中に髪の毛1本入っていたとか、パックの中に針が入っていた、これは非常に大変な問題になるのですが、テラヘルツでディテクトするとそんなことがわかる。それから、水の量が、余り深くまではわからないのですが、こういう葉っぱとか、あるいは普通の野菜の水分の状態とか、そんなものもわかるわけです。そういう意味で、これは東大の農学部と共同研究しているのですけれども、食品とか、農業の分野で今非常に注目されているわけです。
 それから、もう一つは、これは安全安心といいますか、五、六年前にアメリカで炭疽菌事件というのが、封筒の中に炭疽菌が入っていたという、白い粉がありますけれども、そういうものがチェックできないかということです。もう一つは、今、禁止薬物、いわゆる麻薬です。そういうものがどうやって日本に入ってくるかというと、もちろん特殊なルートもあるんですが、一般の方々で一番多いのが、インターネットで申し込んで、ダイレクト便で郵便で来るのが多いんです。郵便は捜査令状がないとあけられないそうです。そういう封筒の中に隠れた薬物を見つけられないかいうのが、税関とか警察からの要請でございまして、理研でそういうテラヘルツを使っていろいろな薬品あるいは麻薬も含めてスペクトルをとったのです。これはコカインとか、私もこの辺は余り詳しくないのですけれども、一応警察の許可を得まして、そうするとコカインとか薬物はこういうスペクトルをする。封筒はこんなのと。先ほど申しましたように、紙のようなものはテラヘルツは通りますから、中に特殊なスペクトルが入っていると、それが薬物かどうかというのが、ある程度わかるわけです。
 実際にアスピリンとか、覚醒剤とか、いろいろな薬を入れて、本当にそれが区別できるかやってみた。そしたらある程度データベースにあるような薬品に関しては、最初にスペクトルをとっておけば封筒をあけずにわかる。それで成功しまして、今、科学警察と税関でプロトタイプのこういう機械をつくってくれ。毎日海外からのメールというのは何十万通も来るので、全部チェックするわけにいかないのですけれども、最初に可視とかX線で予備的に怪しいというのをスクリーニングします。少しこれは検査した方がいいというのはテラヘルツに回す。さらに本当に疑わしいのは、今度は分光装置でスペクトルまでとって薬物かどうかというのを見るのです。
 こういう装置は追っかけごっこで、これをやったから必ず防げるというわけではないのですが、少なくとも怪しいものがあるとわかるだけで、かなりの阻止率がある。先ほど申しましたように、封筒というのは全くあけることができないので、今、人海戦術では、とてもではないけれども、そういうのはとめられないので、こういうことができないかというので、これは3年ぐらいもうやっていまして、これは実際に第3番目の機械で、現場に持っていって今使えるかどうかを検査するところまで完成しております。中身はこんなふうに、テラヘルツの発信器で光を当てるところとディテクターがあるというような装置です。
 それから、テラヘルツは、もう一つはそういう食品とか安全以外に、半導体の分野でも一つ我々は応用を考えていまして、テラヘルツというのは、プラズマをつくってやると、そこから放射されるのです。それから、レーザーを小さなスポットで半導体の集積回路に当てますと、断線しているか、断線していないかで、そこでどんな放射があるかで見ていると、その回路の欠線状態が見えるのです。そんなのをテラヘルツ顕微鏡で、普通テラヘルツだけ当てますと、テラヘルツは波長が長いので、そんな半導体素子のミクロンは見えないのですけれども、これはレーザーを当てて、レーザーは可視ですから、ミクロンぐらいまで集光できるわけです。そこから出てくるテラヘルツを今度は見る。そうすると、ミクロンサイズぐらいで半導体の欠線の状態が悪いかどうか。これは実はよく見えないのですけれども、赤と青とか、そういうところでプラズマの状態が違っているというのがあるのですけれども、こういうことをやっている。
 テラヘルツは、今、非常にそういう意味で応用が取りざたされているのですけれども、問題は、発信器がなかなかいいのがないということと、もう一つはディテクターの問題、画像をやろうとしますと、可視ですとCCDというのがございます。今、皆さんデジカメ買ったら中に何10万画素という、安いのが入っていますけれども、それが実はテラヘルツでは全くないのです。もしテラヘルツ領域で可視と同じようなCCDができたら、もっともっとすばらしい使い方ができる。そういうので、理化学研究所では、これは超伝導なのでまだ冷やさないといけないのですけれども、一応二次元のそういうCCDのようなものを開発しようというのでやっています。
 それから、今まではレーザーをベースとした発信器をずっと開発して、これで麻薬のスペクトルとか、そういうのを見てきたのですが、これはできるというのはわかったのですが、今度できるというのと、産業応用とか、そういうのは全く次元が違う話です。先ほど申しましたように、産業応用とか、例えば税関に全部、あるいは空港に全部配置しようとしますと、どうしても半導体素子のようなコンパクトでリライアブルのあるものが必要になりますので、そういうことで、量子カスケードレーザー、これはテラヘルツを出すための特殊な構造の半導体でございます。これは半導体の極致のような構造を持っているのですけれども、そういうものを今後開発していこうということをやっております。
 後半は、今度は全然話が違います。こちらは、新しい反対の極限、今は長い波長で、可視光が大体1ミクロンぐらい、0.5ミクロン、そのぐらいの波長です。それに対してテラヘルツというのはその100倍ぐらい長いところでやっています。こちらのアト秒パルスというのは、今度は軟X線と書いています。それは、可視光に比べて100分の1ぐらい波長の短い領域です。
 では、どうしてアト秒パルスのようなものが必要かという話からしたいと思います。科学の世界では、フラッシュを使うと瞬間的に物がとまって見えるというのがございます。例えば、カメラのフラッシュですと、普通は電気的な接触ですから、せいぜい早くてもマイクロ秒ぐらいです。それからミリ秒、その辺だと機械的な動きは大体とまって見えます。18世紀から19世紀初めごろですと、馬の絵をかいたときに、足が変なんです。両方前足が2つそのまま出ているとか、あの時代はフラッシュが早いのがなかったから、そういう動物の動きでも瞬間的な動きがわからなかった。ところが、カメラのフラッシュとか、電気的なスパーグでそういうのを見てみますと、ちゃんと交互に動いているとか、そういうことがわかるわけです。科学の世界では、今、何を見ようとしているかというと、ちょっと10年ぐらい前は、速いのは分子の動きなんです。分子というのは、例えばこれは水とか、酸素とか、そういうのを見る。そういうのは、空気中でくるくる回っているんです。回る周期をピコ秒、大体1兆分の1秒、10-12秒ぐらいです。
 ちょっと前にピコ秒レーザーというのがあって、ピコ秒分光学とか、そういうので分子のそういう動きがわかりました。次は、フェムト秒レーザー、先ほど加藤先生が出されたようなチャープパルスもそのころですが、フェムト秒レーザーというのを使いますと、今度はこういう分子が伸びたり、縮んだり、振動運動をしています。今はこういう空気中である熱の運動でこういうふうに振動しています。その電子が例えば窒素分子だったら窒素分子の中の原子が伸びたり、縮んだり、それがフェムト秒のスケール、数100フェムトです。ですから、フェムト秒ぐらいのフラッシュを短いのをぱっと当ててやると、どっちに伸びているか、縮んでいるか、瞬間的な動きがわかります。
 そういうことで、例えば化学反応がどういう原子の動きで起こっているかというのを解明した人がツバイル博士といいまして、フェムト秒ケミストリー、フェムト秒で化学反応を見るという例が、これが五、六年前、2000年ごろです。それでノーベル賞になっています。
 その先、では、そこで終わりかというと、実は原子がどう動いているかというよりも、化学反応の最後は原子の周りを回っている電子がどういうふうに動いているかで化学反応というのは決まってくるんです。電子というのは、ご存じのように大体1,000倍ぐらい原子核より軽いですから、大体数100倍ぐらい動きが速いのです。そうすると、これがフェムト秒で見られるとすると、それより数けた、二、三けた早くしないと電子は見えないということで、このアト秒という領域に入ってくるわけです。
 アト秒科学というのを我々はやっているわけですけれども、では、アト秒とこのX線がどうして関係あるのかと申しますと、それを簡単にご説明しますと、 800ナノと書いています。可視光だと思っていただければいいんですが、光というのは、これは先ほど申し上げましたテラヘルツでも軟X線でもみんな同じです。こういうふうにサインウエーブで、サイン波のように振動しています。山から山、あるいは谷から谷までを1波長というんです。だから、これは可視光ですと、ここからここまでが800ナノという。これは一回振動すると、光の速さで割ればいいんですけれども、3フェムト秒かかるのです。ですから、可視光ですと、これよりも短くできないんです。
 フェムト秒しかできないんですけれども、ではどうやって光でアト秒にもっていくかというと、実は、これは、この光をずっと短くすればいい。そうすると、例えばここにこれの800の27分の1ぐらいの速さのパルスを書きました。そうるすと、これはこれの27分の1ですから、0.1フェム、100アト秒となるのです。27分の1の長さしかありませんから、それは波長でいうとこれを27で割った30ナノという波長になるのです。これは軟X線と呼ばれる領域の光ですけれども、軟X線を使うと短いパルスができる可能性があるわけです。
 ただ、可能性があるんですけれども、もう一つ重要なのは、これはちょっと専門家になるので余り詳しくは言いませんけれども、一つバンド幅というのが必要でして、例えばオーディオでも何でもそうなんですけれども、非常にシャープな音を出そう。短い反応のものを出そう。帯域が広くなければいけない。ですから、今、申し上げました、短い光をつくるとともに、もう一つは帯域、その領域でいろいろな広いバンドの、例えば先ほど短いパルスを加藤先生がつくられるときに、チャープパルスと、いろいろな色が入っていました。あれはいろいろな色が入っているから短くなるんです。ですから、これはアト秒というのは、X線領域でいろいろな光をつくらなければいけないんです。
 それにもっとも適しているのが、きょうお話しする、我々のやっている高次高調波というのです。この原理は省略しますけれども、先ほど申し上げましたチャープパルス増幅でつくったような光をラッセルに入れますと、ここでこういう、櫛の刃状にいろいろなX線のスペクトルが出てきます。これはX線ですから、今、申しましたようにアト秒になるポテンシャルがあるんですけれども、ちょうどそういうものをうまく重ねてやる。これは我々のところで発生する、そういうX線ですけれども、それを幾つかまとめてやる。こういうものを足し算してやると、先ほど申し上げたアト秒になるんです。
 もちろんX線を発生させますから、ある程度大がかりな装置が必要でして、これは加藤先生のところのような大きなものではございませんけれども、あれをちょっとスケールダウンしたような装置で、やはりチャープスパルス増幅というのを使っていまして、1段、2段、3段と増幅があるんです。こういうところにコンプレッサーというのがあるんですけれども、こんな装置を使って発生するんです。
 発生しますけれども、では、そんなに短いパルスをどうやってはかるのか。普通レーザー光でも、ナノ秒ぐらいまでは普通のダイオードを1個ぽんと置いて、オシロスコープで波形を見れば、このパルスはこういう時間波形だよとわかるのですけれども、フェムト秒とか、アト秒になると、そんなに早く感じるディテクターはないのです。どういうことをやるかというと、非線形効果、自己相関工程、ここで簡単に書いています。ここにビームを2つに分ける装置があるんですけれども、ここで来た光が2つに分かれます。こっちにいった光と、こっちにいった光がレンズを通してここで重なります。ここに、非線形媒質というのを置くんです。これは、強い光が当たったときだけ光を発する。ですから、2つのパルスがそろうと光が強くなりますね。そのときだけ出るのです。光が2つばらばらだと弱いので、このものは光を発しないのです。ここで、ミラーを少しずつ動かして、これをどのくらい動かしたときここで光が重なるかというのがわかると、実はあとはミラーの動かした距離を光の速さで割るとパルスが出る。だから、距離に置きかえて、距離の長さを見て、それでわかっている。距離ですとミクロンでも今だとナノメーターは簡単にはかれますから、そういうことではかるのです。
 非線形効果というのは、簡単に申しますと、これが一番いい例なのでほかの図を借りてきたのですが、光が強いところだけ起こる。こちらは普通のリニアな効果です。レンズで物が溶液中に集光しますと、だんだん光が弱くなって、集光しいく。
 この辺で散乱されている。こちらは非線形なんです。これは同じように光を集光しているが、ここだけちょっと薄いのが光っている。どうしてここだけ光っているかというと、これは集光されてきて、ここだけが光が強い。実は、この距離をはかってやればいいのですけれども、こういうふうに強くなったところだけ状態が変わる。光ったり、こういうのを非線形光、強い光の特徴です。こういうことをやっている。
 実は、私が一番やりたいのは、X線でこんなことができたらすごいだろう。先ほど加藤先生が、がんの治療とか何かの話を説明なされましたけれども、例えば非線形効果がX線で起こせたとしたら、本当にがんのそこだけで、ほかには影響を与えずにできる。実際に、こういう非線形効果を使うと、ここだけを加工するとか、ここだけを見るということはできるわけです。これは例えばフェムト秒加工とか、そういうことで、今はもう既にやられている。これも2光子顕微鏡の原理なんですけれども、こういうことがX線領域とか、軟X線領域で起こったらすばらしいだろうというのが、私の研究のモチベーションです。
 そういう非線形効果を起こすためには、とにかく光は強くなければいけないというので、私のところで開発しているのは、強いX線の光です。高調波というのを用いています。どのくらい強いか。なかなか強さを実際にお見せするのは難しいので、X線領域で強いといわれるSPring-8、先ほど出てきました。それの1億倍ぐらい強い。もちろんレーザーですから、瞬間的に出るのでそういう強いのを出す。
 これが我々の開発したものです。それを使って、では非線形効果を起こしてやろう。そして非線形効果を出せれば、先ほどの自己相関でX線のパルスアト秒が見えますというのです。最初にやったのがこの実験で、これは私は割と好きな図なんですけれども、今までのレーザーによる非線形効果を端的にあらわしていまして、こちらが光強度です。こちらが1光子のエネルギーです。この1つの極限、これは放射光で30年ぐらい前に実現されました。1光子のエネルギーが非常に高いX線という、そういうものを原子や分子に当てますと、普通は光がワンホトン当たると原子は1個しか動きません。これはセレクションで自然界でそう決まっているんです。ところが、X線のような強いエネルギーを持ったものを当てまして、エレクトロンが飛び出るのですが、そのときに、非常に大きなエネルギーを伴って飛び出ますので、そのポテンシャルが揺さぶられて、もう1個電子が出てくる。これは2電子電離というのですけれども、これはシェークアップオフとか、専門家の話で名前はどうでもいい。いずれにしても、こんな光子を1個しか当てていないのに2個出てくるような放射光で初めて見つかった。これが 30年前ぐらいです。
 こちら極端な方はレーザーです。レーザーは、非常に強い光を当てますと、光子を何個も吸って電子を2個出す。そういう現象があります、これが2光子電子電離。ちょうどその中間に、軟X線、アト秒パルスができるような2光子2電子電離というのがあったんです。これは20年ぐらい前に溶出されたのですが、光源がなかったときにできなかったんですが、我々のところで強いレーザーが出たときに初めてこれをやってみまして、実際に本当に出ると証明したのがこの図ですけれども、これはこちらにレーザー強度をとると、そういうシグナルが2乗に比例して出てくる。これが業界では証拠になるのですが、これはそういうことが見つかったということです。
 もう一つは、難しかったのは、どうやってはかるかということで、先ほどオートコリレーションというのをお見せしました、自己相関、鏡で2つにビームを割って。ところが、あれは可視光だからできるのです。まず、2つに軟X線のビームを割るようなミラーが軟X線領域にはないんです。それから、軟X線ですと、1回反射して30パーセントか10パーセント発信するので、先ほど書いたように、何枚も何枚もミラーを使ったりできないのです。我々のところでは、実はこういう特殊な、一回反射しただけではかれるような装置をつくりまして、これは実はビームを空間的に二分割するんです。ここに板があって、これがX線を非常に効率よく反射する基盤なんですけれども、そこにビームを当てて、空間的に2つにビームを割って、ここにX線が当たるのです。上と下でビームが分かれるんですけれども、下のプレートをちょっと動かしてやると時間が2つずれて、先ほどの2つの時間がずれたビームが出る。それを後でここで合わせてやるというような、そういうことで、うまくはかれたのです。これがアト秒がはかれたときの図ですけれども、ここにきれいにアト秒が出ています。
 これは宣伝なんですけれども、こういう私どものウルトラショートパルスの業界といいますか、そういうところでは、自分でこういう新しい測定法を発明すると名前をつけるのです。最初に可視で、オートコリレーションみたいなもので可視光でフェムト秒をうまくはかれるといった人が、フロッグとつけたんです。カエルです。その次の人はX線をラビットと、こういうルールで、動物の名前をしなければいけないというので、我々はアト秒をはかる装置を発明したときにパンサーと名づけました。フロッグ、ラビットよりも全然強いので、非常に受けているのですけれども。これは宣伝です。
 最後に、応用だけお話しします。こういうサイエンスの分野で、先ほど化学反応の話をしましたけれども、分子がどういうふうに正常のときに化学反応を起こすか、強い光を当てたときに分子がどういう変形を起こすかというのが非常に重要なことです。瞬間的にその分子の形状を見ようというので、どういうことをするかというと、例えば強い光を当てるのです。そうすると、エレクトロンが飛び抜けてきます。エレクトロンは、先ほど申し上げましたように原子核より軽いので、エレクトロンは先にぱっといなくなる。そうすると、後にはプラスをチャージーにもった原子核が残ります。そうすると、プラスとプラスは反発しますから、これは爆発するんです。これをクーロン爆発というんですけれども。
 その爆発するのは、これは2つのプラスとプラスの反発力、R2乗で計算できますから、実は後で飛んできたイオンのエネルギーかとモメントをはかっておけば、どういう形になっていたか、最初の形がわかるんです。それをクーロン爆発といっているのですが、こういうことを一番正確にできるのは、実はX線のアト秒パルスを使うと瞬間的にそういう状態をつくれるのです。ところが、強いX線のアト秒パルスは今までございませんでしたから、本当にそんなことが起こるのかというのが疑問で、我々はそれをやってみたのが、この実験です。ここにN2分子を引きまして、そこにレーザーを当ててやるんです。そうすると、N2は爆発します。こっちに爆発したのと、こっちに飛んできたので、ここにディテクターを置くと、こちらは先に着いて、こっちに行ったのは一回ぐるっと回ってくるので、後ろの方に、ダブルビームができるんです。クーロン爆発が起こっているという証拠は、このダブルビームなんですが、それで確かにやってみるとこんなダブルビームができたので、よかったのですけれども、それを実際に時間を変えてやってきますと、アト秒のパルスに追随して分子が爆発していくというのが初めてわかりました。これは世界で初めてアト秒でクーロン爆発が起こった例で、これによって、多分、先ほど申しましたフェムト秒科学の次にアト秒科学というのが出てくるだろうと思っているのです。
 最後に、実はアト秒のパルスが見えたというのは、我々はわかったのですけれども、もう一つ、アト秒が出たんですけれども、それをさらに詳しくアト秒のパルスを見てやると、アト秒のパルスの中にいろいろな構造があるというのがわかってきました。最初は、こんなことが見えるはずがないと思っていたのですが、実際にこうやってみますと、アト秒のパルスが1個、2個、3個と出ている。これとこれと全く違う構造をしているんです。どうしてこれとこれが全く違うのか。こっちは真ん中にピークがあって、こっちはダブルピーク、これは真ん中のピークがなくてこんなことに。今まで世界じゅうの人がアト秒で想像していたのは、ここにこういうアト秒のパルスがこういうふうにあることだけだった。ところが、全く違う。
 どうしてかというと、実はこれは発生の原理とかかわっていまして、こういう高調波というのは、電子の動きに追随して出るんです。ここで出ているパルスというのは、電子が光の電場の一番ピークでイオン化して、飛び出る。短サイクルの割には電場が逆向きになるので、電子はこっちに向かってきて、元の位置に戻っていくのです。ここで光が出る。次の瞬間は今度ここからエレクトロンが出て、戻ってくる。こことここでは実は電子の向きは逆なんです。光の電場があると、こっちに出たり、こっちに出たりする。そうすると、それに伴って出てくるX線も位相が変わっているのです。
 これは、私ども非常に驚いて、実は、今までアト秒のパルスを見るだけでも大変だったのですが、実は、アト秒のパルスがどういう構造になっているかというのまでは我々の装置がはかれるということが、クーロン爆発を使っているんですが、それでこういうふうにアト秒のパルスは今までこんなふうに出ているだろうと思われたのですが、その中身の光電場までわかってきた。これは、X線までまだいかないのですが、軟X線の領域でも可視と同じようなこと、可視ではもちろんこの測定は今できるんです。やっとX線とか軟X線の領域でも可視の領域に近づいた、こういう測定ができるということになっています。
 最後に、きょうお話ししたのは、そういう新しい光、例えばテラヘルツとか、アト秒ですけれども、我々のところでは、そういう新しい光で何か新しいものを見ようということ、それから、きょうはつくるということは申し上げませんでしたけれども、例えばレーザー加工とか、先ほど加藤先生が言われた、そういう強い光で加速器をつくる。そういう新しい光を使うと、何か新しいものがつくれるという、そういうことを目指して研究をしております。
 以上でございます。

(主査)
 ご質問等お願いいたします。

(委員)
 詳しいご講義ありがとうございました。
 1カ月か2カ月前だと思うんですけれども、NHKで、テラヘルツの応用の番組があって、そこで福井かどこかの先生だったと思うんですけれども、生体組織を染めないでテラヘルツ光でがんの部位と正常部位を見ている。あれは何かの特定の分子のスペクトルをとっている感じでしょうか。

(委員)
 テラヘルツで見えるのは、大きな分子でも、その分子の分子間の相互作用のようなものなんです。今、がんの組織をやっているのは、がんというのは、今、お医者さんが組織を切ってきて、それを薄いスライスにして、それを顕微鏡で見ているのです。どうしても熟練された方と、そうでない方、あるいは疲れていると見逃してしまうとか、そういうことがあって、テラヘルツを使った場合に、組織が堅くなっていたり、溝の状態が違うと、透過のスペクトルが違う可能性があるんです。原因は我々もまだわからないんですが、ただ、そういう特殊な分光装置をしてやると、一応テラヘルツでがんの部位を診断できる。どこまでできるかわからないんですけれども、そういう実験データが出ています。100パーセントはやはり難しいのですけれども、先ほどの封筒と同じで、少しスクリーニングして、あと怪しいところは専門家にもう一回見ていただく。そんなことを考えてやっております。

(委員)
 あれは乾燥した切片だったのでしょうか。

(委員)
 いえ、乾燥ではないです。水分ではなくて、冷凍しています。冷凍測定です。氷になってしまうと使えるのです。

(委員)
 X線で高調波を出そうという場合に、非線形材料というのは具体的にどういうのがあるんですか。

(委員)
 今、ここで使っているのは、普通の希ガスです。キセノンとか、クリプトンとか、ネオンとか。それぞれのZナンバーによって出てくる波長が短いのが出たり、長いのが出たりします。

(委員)
 効率はかなり高いのですか。

(委員)
 低いです。典型的なところでマイナス4乗とか、マイナス5乗ですから、テラヘルツもそんなものです。

(委員)
 例えば、先ほどX線の高調波をやりたいということをおっしゃっていましたね。それはできるのですか。

(委員)
 私がX線で高調波を出しているのですけれども、一番は、何が優れているかというと、波長変換なので、コヒーレンスがレーザー光のそのものを継承しているのです。私もプラズマX線レーザーとかやっていたのですが、X線領域になるとキャビティとか、コヒーレンスをつくるためのキャビティがないです。ですから、自然放出光を増幅したようなものになってしまうので、時間とか空間のコヒーレンスが悪いのです。

(委員)
 それは30ナノメーターぐらいだからですか。

(委員)
 いえ、すべての領域でプラズマX線レーザーというのはそうならざるを得ない。何か共振計が開発されれば別かもしれない。それに対して、今のような波長変換というのは、レーザー光のコヒーレンスをそのまま継承しますので、こういう非線形応用とか、そういう点が非常にすぐれている。そういう意味で私はこちらを今やっております。

(委員)
 すごくおもしろいお話を伺って、感動して聞いていたのですけれども、クーロン爆発のお話をされたのですが、クーロン爆発を続けるとどうなるのですか。素材はどうなるのですか。

(委員)
 レーザー光の強さによってとれる電荷の荷数が違いますけれども、そうすると、どの辺までばらばらになるかというのは、少し大きな分子で2個ぐらいしか電子をとらない場合は2つにしか分かれませんけれども、例えば電子が全部とれてしまえば1個1個の分子が全部原子がばらばらになる、そういう違いがあります。

(委員)
 ばらばらになった、その先はどうなるのですか。

(委員)
 ばらばらに膨張して飛んでいきます。それを全部ディテクターで受けて、再構築するというのが、こういう研究のやり方です。

(委員)
 物質は?

(委員)
 実際にやっているのは、そんな大きなものではなくて、3原子とか4原子、せいぜい5つか、その辺ぐらいまでしかまだできません。

(委員)
 もう一つ、テラヘルツ光とアト秒軟X線の間を近接場光と先ほどおっしゃったのですけれども、これはどうして近接場光というのですか。

(委員)
 これはエバネッセントのようなものを使うのです。非常にローカライズした。つまり伝播しない光で、そういう意味で近接場、非常に小さい開口をつくっておいて、そこからほんの少しだけ漏れる、波長程度漏れる光を使う。そういう意味で近接場と。

(委員)
 少ししか出ないわけですか。

(委員)
 出ないといいますか、そういう構造をつくるのです。

(委員)
 かなり近いです。

(委員)
 テラヘルツ光源なんですけれども、量子カスケードレーザーというのは、どの程度実用化されているのでしょうか。例えば、封筒のスクリーニングなどの装置の話がありましたけれども。

(委員)
 量子カスケードというのは、中赤外ではかなり実用化、10ミクロンとか、20ミクロンぐらいまでだったら実用化されております。ガスの検知器とか、あるいは衛星も載せています。ところが、50ミクロンを超しますと、原理的に炎の吸収が問題がありまして、まだごく低温で出たという程度で、とても実用のレベルにテラヘルツにはまだいっていない。ただ、発信した。半導体レーザーはみんなそうで、最初はごく低温でちょっと出る、そこからなので、今後に期待しております。
 つけ加えたいのは、中赤外というのは非常にセンシティブなところがございまして、実は、日本は一番不得意なんです。アメリカとか、軍事に非常に関係しますので、中赤外というのは、もちろんテラヘルツ、あるいはカスケードレーザー、かなり防衛産業からお金が出てきますけれども、日本はそういうのはございませんので、非常におくれている。そういう理由もあって、私は理研でやるべきだと思ってやっているのですけれども。

(委員)
 テラヘルツの領域ではないのですけれども、10ミクロンとか、数ミクロンの波長の光源としては、私は大気環境の研究をやっているので、大気計測の方では、例えばCO2(二酸化炭素)の同位体のリアルタイムの測定などで非常に注目されています。テラヘルツではないのですけれども、中赤外の量子カスケードレーザーを私の研究でも使おうとしています。

(委員)
 その辺はもうかなり使えるものになっております。

(委員)
 電波と光の境の話をされたのですが、電波は、国際電波科学連合という組織がありますけれども、あそこは3,000ギガヘルツまでは電波と呼ぶという定義をしていたと思ったのですけれども、テラヘルツの波も一部が電波になるんじゃないかと思うんですけれども、そういうことはないのですか。

(委員)
 テラヘルツは、今のところそういうのはないと思います。ただ、通信の方で何か若干あるかもしれないです。ただ、今、いろいろな応用に関して、そういう意味では、テラヘルツは安全安全と言われていますけれども、どの辺まで当てたら安全かとか、そういう基準はこれから必要になってくるんだと思います。

(委員)
 電子のイメージングで、電子運動の映像をとれるということで、どのくらいのイメージ、どういう映像がとれるのか楽しみなんですけれども、不確定性原理とか、まともに効いてくるような時間分解で見られるのでしょうか。

(委員)
 そういうところを目指しています。例えば、電子といってもウエーブパケットですから、電子の粒で見るわけではないですけれども、そういう電子群の広がりとか、そういうのまで見られるようにと思っています。

(委員)
 加藤委員とも関係してくるかもしれませんけれども、コヒーレントの光を生体に当てるとき、動物が主だと思うんですけれども、何か問題は起こりませんか。今、レーザー光を植物に当ててやっているのですけれども、だめなんです。光合成、つまり干渉して、スペクトルパターンや何かが出るのです。僕のやっている範囲では、光合成では、植物にはだめなんです。動物や何かでそういうご経験はないですか。

(委員)
 あります。レーザー顕微鏡というのがございますね。あれでやると、余り成長しないのが、核の、あるいはDNAのダメージが入って、それで短い光は使わないとなって、2光子で赤外でやろうとなっているのですが、そちらも強いんです。強さが問題になって、やはり問題になる。生物ですと、生きて、どういうふうな成長をして発達していくか見たいのですけれども、結構死亡率、致死率が高いというのが問題になる。それは、ただコヒーレントか、レーザーの強さか、その辺はまだよくわかりませんけれども。

(委員)
 強さもあるし、僕の経験ではコヒーレンスがちょっと問題なんです。だから、2光子光合成というのも考えたこともあるんですけれども、効率が悪くて話にならない。それだけ強ければいいのかもしれないのですけれども。

(委員)
 そういうことで、我々のところでは、先ほど加藤委員が言ったように、コヒーレント制御、位相制御して、少しコヒーレンスを乱すようにとか、あるいは違う波をうまくコヒーレンスを満たして重ね合わせるとか、そういうことをやると少し変わるのはあるんです。

(主査)
 きょうの話は分子の話が多かったのですけれども、結晶とか、固体とか、金属とか、そちらは何か。

(委員)
 実は、そういうところをやりたいのですが、どうしても固体の表面に当てますといろいろなものが飛んでくるので、それをディテクターでうまく分けていくというのは、非常に難しい状況です。ただ、ゆくゆくは世界じゅうで次のベース、小さなガスの分子ができたら固体というのは出ると思います。

(委員)
 自己相関法の話、大変おもしろいと思ったのですが、あれは真ん中のミラーでは完璧に両方同じ大きさに分割できるわけですか。

(委員)
 それは可視でしたら50パーセントのミラーというのは簡単に膜の厚さでつくれるので、できます。

(委員)
 フェムト秒のパルスの場合はどうなんですか。

(委員)
 できます。それも可視域なら何でもできるというのが、私の持論で、そういうことを少しできない領域、テラヘルツとか。

(委員)
 完全に分化できないと、難しくなりますね。

(委員)
 少し比が変わりますから、若干計算が必要だとか、ダイレクトにそのままの値は信じられない。

(主査)
 どうもありがとうございました。
 これで大体予定していた先生方のお話は全部終わったことになるのですが、今後の進め方について、事務局からお願いします。

(資源室長)
 次回ですけれども、取りまとめの案といいますか、報告の案といいますか、こちらで準備をさせていただいて、ご議論をいただくということを経まして、それをまた取りまとめてという形にしていきたいと思っています。スケジュールは別途ご相談をさせていただきます。

(主査)
 光を資源として見るというのは今まで余りないですね。そういう意味では、この報告書はそういう視点で何かおもしろい報告書になればいいなと思っているのですが、よろしくお願いします。出てきた報告書に先生方のそういう視点でいろいろコメントいただいて、いいものにしていければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
 きょうはどうもありがとうございました。

午後4時50分 閉会

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科学技術・学術政策局政策課資源室

(科学技術・学術政策局政策課資源室)