基礎研究振興部会(第12回) 議事録

1.日時

令和5年8月10日(木曜日)14時00分~16時00分

2.場所

オンライン開催

3.議題

  1. 生成AIに関する研究開発の方向性について
  2. 基礎科学の推進に向けた今後の課題について~世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)を例に~

4.出席者

委員

観山部会長、上杉委員、合田委員、品田委員、城山委員、辻委員、長谷山委員、前田委員、美濃島委員

文部科学省

研究振興局長 塩見みづ枝、研究振興局長担当審議官 奥野真、研究振興局基礎・基盤研究課長 西山崇志、研究振興局 参事官(情報担当)参事官補佐 廣瀬麻野、科学技術・学術政策局人材政策課 課長補佐 滝沢翔平、研究振興局基礎・基盤研究課 課長補佐 春田諒

オブザーバー

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター 福島俊一フェロー

5.議事録


【観山部会長】  それでは、定刻となりましたので、ただいまより、第12回科学技術・学術審議会基礎研究振興部会を開催いたします。
 本日の会議ですが、本部会運営規則に基づき、公開の扱いとさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず事務局より、本日の出席者と議題の説明などお願いいたします。

【春田課長補佐】  それでは、本日、本部会の事務局を担当いたします文部科学省基礎・基盤研究課課長補佐の春田より、御説明をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、本日の委員の出席状況につきましては、本日は13名中8名の委員に御出席をいただいております。佐伯委員、有馬委員、小泉委員、齊藤委員におかれましては、本日は御欠席の御連絡をいただいております。また、城山委員におかれましては、用務の都合上、少し遅れての御出席となる旨、御連絡をいただいてございます。
 本日は、議題(1)の関係で、国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センターより、システム・情報科学技術ユニットフェローの福島俊一様にも御出席いただいております。福島フェロー、よろしくお願いいたします。
 続きまして、配付資料を確認いたします。資料は、議事次第の配付資料一覧のとおり、事前にメールにて送付しております。資料1から資料2-3、参考資料1から参考資料3までございます。欠落等ございましたら、画面越しに手を挙げてお知らせいただければと思います。資料の欠落等ございませんでしょうか。御確認ありがとうございます。
 また、事務局において人事異動がございましたのでお知らせいたします。8月4日付で、研究振興局長に塩見みづ枝局長が着任しております。
 塩見局長より一言御挨拶さしあげたいと思います。よろしくお願いいたします。

【塩見局長】  文部科学省研究振興局長の塩見でございます。8月4日付で着任をいたしました。この場をお借りしまして、一言御挨拶申し上げます。
 委員の皆様には、お忙しいところ本部会に御参加をいただきまして、誠にありがとうございます。皆様には改めて申し上げるまでもございませんが、新たな知の蓄積こそが社会発展の基盤となるものであり、特に地球規模で複雑で困難な課題が数多く生じている中、あらゆる知の根本となる基礎研究の振興の重要性は、ますます高まっていると考えております。
 一方で、近年我が国につきましては、論文の質、量双方の観点での国際的な地位の低下に見られるように、研究力が相対的に低下している傾向にあるのではないかという指摘もございます。こうした中で、本基礎研究振興部会におきましては、10年から20年先を見据えた基礎研究の振興や、研究DXの推進などを中心に議論をいただいていると承知しております。
 本日は、昨今話題となっております生成系AIに関する文科省の今後の取組、またWPIを例に、基礎科学の推進に向けた今後の課題などについて御議論いただく予定となっております。皆様には、基礎研究の振興やさらなる可能性につきまして、多様な観点から忌憚のない御意見を賜りますよう、お願い申し上げます。どうぞよろしくお願いいたします。

【春田課長補佐】  塩見局長、ありがとうございました。
 続きまして、本日の議題について御説明いたします。事務局の西山課長よりお願いいたします。

【西山課長】  ありがとうございます。基礎・基盤研究課長の西山です。本日も先生方、どうぞよろしくお願いします。本日の議題でございますが、2つございます。
 先ほど塩見局長のほうからも少しお話がございましたとおり、まず1つ目は、生成AIに関する研究開発の方向性についてでございます。5月、6月、2回にわたって、この基礎研究振興部会で御議論をいただいてまいりました。その結果も踏まえまして、本日、文部科学省における今後の生成AIの研究開発の方向性について、事務局のほうより御説明させていただきたいというふうに思います。本日部会でいただいた御意見等も踏まえまして、8月末の文部科学省の概算要求のほうに反映していきたいと、このように考えております。
 2つ目は、基礎科学の推進に向けた今後の課題についてでございます。WPIにおける取組を事例といたしまして、本日は、WPIの拠点長でもあります上杉委員、前田委員に話題提供をお願いしてございます。御説明も踏まえまして、基礎科学の推進に向けた今後の課題について、委員の先生方より御意見を賜りたく思います。今後の部会の審議につなげていくということで考えてございます。
 以上でございます。

【観山部会長】  ありがとうございました。
 それでは、議事に入りたいと思います。まず議題の1番ですが、文部科学省生成AIに関する研究開発、人材育成の方向性であります。資料1について事務局より発表をお願いいたします。発表が終わりましたら、委員の皆様に御意見をいただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

【春田課長補佐】  観山部会長、ありがとうございます。それでは、文部科学省基礎・基盤研究課の春田より、資料1、文部科学省生成AI研究開発の方向性についてにつきまして、御説明をさせていただきます。
 1ページ目、お願いいたします。本日の説明の構成でございますが、まず、現在検討中の文部科学省における生成AIに関する研究開発の方向性全体、及び各施策について御説明をさせていただいた後に、特に科学研究向け生成AIモデルに関して、その背景、狙い等、詳細を御説明させていただければというふうに考えております。
 では2ページ目、お願いいたします。2ページ目が、現在検討している文部科学省における生成AIの研究開発の方向性全体についてまとめた資料となっております。大きく分けて3つの施策を現在検討してございます。
 1つ目が、アカデミアにおけるオープンな基盤モデル研究開発を通じた透明性・信頼性の確保によるリスクの低減ということで、AI For Societyに係る取組として、現在検討を進めているところでございます。
 2つ目が、開発された基盤モデルを活用した、科学研究向け生成AIモデルの開発及び多様な科学分野での利活用という形で、AI for Scienceという形の取組で、現在検討しているところでございます。
 最後の3つ目が、若手研究者等に対する人材育成、Cross AI Talent Developmentという形で検討しているものでございます。
 1つ目のAI For Societyについては、左にございますとおり、基盤モデルの透明性・信頼性の確保と高度化事業という形で、創発性の観測される規模の基盤モデルに関する研究開発を通じまして、一連の構築プロセスの検証を実施するとともに、知見・ノウハウを共有し、例えば、学習コーパスが明らかなモデルに対し、コーパス検索機能を活用して入出力関係を分析するなど原理解明等の研究開発を実施することを、現在検討してございます。
 AI For Scienceにつきましては、真ん中にございますとおり、科学研究向け生成AIモデルの開発・共用という形で、特定科学分野(ドメイン)に強い他の研究機関と連携し、基盤モデルを活用した科学研究向け生成AIモデルを開発。その開発した科学基盤モデルを他のドメインにも展開しつつ、利用について広く開放し、日本の科学研究を世界に先駆けて革新するような取組を、現在検討しているところでございます。
 最後のCross AI Talent Developmentにつきましては、次世代AI人材育成プログラムという形で、緊急性の高い国家戦略分野として、AI分野における新興・融合領域を設定し、当該分野の人材育成を推進。研究者の流動性及び人材獲得力を高めるため、人件費を上乗せ支援するような形を、現在検討しているところでございます。
 それでは、個別の政策につきまして、少し詳細を御説明させていただきます。
 3ページ目、お願いいたします。まず、AI For Societyのところでございますが、これにつきましては、AI戦略会議において、令和5年5月26日に取りまとめられたAIに関する暫定的な論点整理においても、リスクへの対処が必要と書かれておりまして、特にAIの透明性と信頼性を確保することが重要というふうに挙げられているところでございます。
 透明性につきましては、AIがどのようなデータを学習しているのか、学習データをどのように作成しているのか、どのような手法で回答を作成しているのかといった、AIの透明性を高めることにより、使用目的に対して適切なAIを選択することができるほか、問題が生じた場合の対処が容易になるというふうに考えてございまして、これに係る原理解明に関する取組を進めていくことを考えているところでございます。
 信頼性につきましては、ハルシネーションの問題や、AI等の対話によって機密情報が漏えいしないかなど、AIの信頼性への不安があるところを解消するような取組を進めていくといったことを考えているところでございます。
 具体には、対応方策例のところに書いてあることに書いてあるとおり、こちらにつきまして、小規模モデルの構築・実験を通じて、この生成AIに関する原理解明を行い、学習理論研究や意味の汎化現象の解明、学習データと入出力の関係に関して解き明かしていく取組を進めていくということを、現在検討しているところでございます。
 信頼性の部分につきましては、学習技術の高度化を通じて、学習内容の更新や敵対的学習に対する対応策、さらにはAIアライメントの高度化などに関する研究開発を進めていくといったことを考えているところでございます。
 続いて、4ページ目、AI For Scienceに関する詳細を御説明いたします。
 こちらにつきましては、先ほど御説明いたしましたとおり、特定科学分野に強みを有する研究機関と連携体制を構築し、基盤モデルを活用して、科学研究データを追加学習することで、ドメイン指向の科学研究向け生成AIモデルを開発するといったことを考えているところでございます。この開発した科学研究向け生成AIモデルの利用を産学に広く開放することで、多様な分野における科学研究の革新を狙う。こういったことを狙いとして取組を進めていくことを検討してございます。
 この取組については大きく分けて3つの柱に分かれてございまして、1つ目が良質なデータの創出、集約という形で、まずは生命・医科学分野、材料・物性科学分野に絞って、この良質なデータの創出、蓄積を行い、さらには基盤モデルを活用したマルチモーダル化技術の要素技術などに取り組み、この科学基盤モデルの開発などを行っていくということを考えているところでございます。
 そして3つ目の柱として、いわゆる学習に必要な計算資源に係る取組も進めていくことを考えておりまして、小規模なモデルから徐々に大規模化し、大規模計算時は政府全体として整備する計算資源を活用することも考えながら、それと並行して、高速、セキュア、エコを実現する革新的な計算資源に係る研究開発も進めていくことを考えているところでございます。
 最後に5ページ目でございますが、Cross AI Talent Developmentについて、詳細を御説明させていただきます。
 こちらにつきましては、背景・課題といたしましては、ChatGPTなど、超大規模深層学習でつくられた基盤モデルに基づく生成系AIは、人間の知的作業全般に急速な変化をもたらしているといったところを背景として考えてございます。このような中で、我が国においてもイノベーションや産業競争力強化を図るため、若手研究者や博士課程学生がオープンな研究環境で活躍できる支援の抜本的な拡充が必要という認識に立ち、この施策を進めることを、現在検討してございます。
 事業の目的、・目標といたしましては、緊急性の高い国家戦略分野として、AI分野及びAI分野における新興・融合領域を設定し、当該分野の人材育成及び先端的研究開発を推進することを考えてございます。
 支援内容といたしましては、大きく若手研究者向けと博士課程学生向けに分けて考えてございまして、若手研究者につきましては、大きく貢献する大学等における独立した、独立が見込まれる研究者に対して、研究費や人件費などを手当てすることを考えているところでございます。博士課程学生に関しましては、当該設定した国家的戦略分野に関する博士課程学生に対して、十分な研究費や生活費を支援することを考えているといったところでございます。
 こちらの事業の特徴としましては、右の事業の特徴に書いてありますとおり、所属機関にかかわらず、最適な場所を求めて自由に研究者が独立して研究に従事し、ステップアップできる環境を構築するといったところとなってございます。そのため、自身が持つ、AI以外の高い専門性を生かしつつ、それを超えた国家戦略分野にチャレンジする意欲を喚起し、産学官のセクターを超えた複数の組織への所属を推奨することで、国家戦略分野に従事する人材の流動化を促進したいというふうに考えているところでございます。
 それでは続きまして、特に科学研究向け生成AIモデルに関して、現在検討を進めている施策の背景及び狙いについて、詳細を御説明させていただきたいと思います。
 7ページ目、お願いいたします。こちらにつきましては、前々回の基礎研究振興部会でCRDSの福島フェローより御説明いただいた資料でございます。
 基盤モデルと生成AIについておさらいでございますが、この現在流行している対話型生成AIは、与えられた入力の続きを統計的に予測することで応答を生成しているものでございます。この高度な生成は、自己教師あり学習を用いて、大量のデータからつながり関係を事前学習することで可能となっているところでございます。
 昨今の対話型生成AIブームが生まれた3つの要因としては、1つが予測精度の飛躍的な向上、2つ目がユーザインタフェースの採用、3つ目が、人間の意図・価値観に合わせてAIを振る舞わせるAIアライメントがあるというふうに挙げられたところでございます。
 続きまして、8ページ目でございますが、こういった昨今高度化が進む生成AIにつきましては、特に知的生産活動を行うような高度専門職に対して影響が強いという論文も出てございまして、米国のとある論文によりますと、米国の労働人口の約19%は、仕事の50%以上が、この生成AIによって影響を受ける可能性があるというふうに推測されているところでございます。
 知的生産活動と言えば、科学研究ももちろん知的生産活動でございますので、この科学研究も影響を受けるようになるのではないかというふうに考えているところでございます。この生成AIが今後さらに高度化するに当たっては、やはりこれをしっかりと上手に活用して、科学研究というものをより高度化していくことが必要ではないかというふうに、我々は考えているところでございます。
 9ページ目、こちらも前々回の基礎研究振興部会でCRDSの福島フェローから御説明いただいた資料でございます。この基盤モデル・生成AIに関する研究開発の課題としては、こちらに挙げられておりますとおり、大きく8つのブロックからなるような取組が考えられるところでございます。
 今回詳細は御説明いたしませんが、10ページ目に参りまして、この中でも特に右側の3つのブロックについては、基礎研究として重点的に取り組むべき課題であるというふうに、福島フェローからも御説明いただいたところでございます。この中の今回は特に科学研究向け基盤モデルについて、御説明を続けてまいります。
 11ページ目、お願いいたします。現在の基盤モデルは、主に言語や画像といったモダリティに関する入出力が可能なモデルとなってございますが、これをさらにマルチモーダル化し、数値情報などの科学研究データも扱えるようにすることが、今後この生成AIを科学研究に活用するに当たって鍵となる技術であるというふうに、我々は意識をしてございます。特に現在の大規模言語モデルですと、人間のこれまでの知的生産活動の主軸を担っている、言語というものをベースにした学習を行っているために、人間の知性を大きく超えることが難しいというふうにされているところでございます。
 他方で、この言語以外のモダリティである科学研究データを数値情報のまま学習、理解、解釈、そして生成するような基盤モデルを生成することができれば、いわゆる人間の知性を超えるようなモデルというものも作成可能ではないかというふうに考えられているところでございます。
 12ページ目、こちらは前々回に、オムロンサイニックエックス株式会社の牛久先生のほうから御説明いただいたものでございますが、では具体に、どういったものが科学研究向け生成AIモデルとして考えられるかといいますと、ここに記載されておりますとおり、正しい文献を、ただ言語情報のみならず、数値情報も含めた図表ごと理解し、これに対して研究者が理解を得られる説明を行い、研究者の教示を賢く学んで、さらには実際の実験を実行して結果のデータも学ぶような科学用基盤モデルというものを構築する必要があるのではないかというふうに、牛久様のほうからも御発表いただいているところでございます。
 13ページ目、お願いいたします。こういった科学研究向け生成AIモデルを開発することで、ここに書いてあるような幅広い分野で実験を行い、法則を見つけ出す、そういったモデルが構築できるのではないかというふうに、牛久先生のほうからも御発表いただいているところでございます。
 14ページ目。続きまして、こちらも前々回において、CRDSの嶋田フェローのほうから御説明いただいたものでございますが、この生成AIを科学研究に活用することで生まれるインパクトとして、大きく2つあるというふうに御説明いただいたところでございます。
 1つ目が、仮説の生成・探索の部分でございまして、これは先ほども少し御説明いたしましたとおり、人間の認知能力を超えた、大規模な網羅的な仮説探索が可能になるのではないかというふうに、嶋田フェローのほうから御説明いただいたところでございます。さらにもう一つのところが、実験の検証・分析のところでございまして、こちらは人間の身体能力を超えたハイスループットな仮説検証が可能になるのではないかというふうに、御発表いただいたところでございます。
 これらを踏まえまして情報をまとめたものが、15ページ目でございます。この科学研究向け生成AIモデルを開発、共用することで、科学研究に対して劇的な変革が起こるのではないかというふうに我々は考えておりまして、具体には、先ほどの嶋田フェローからの御発表にもありましたとおり、科学研究サイクルといったものが、ハイスループット化し、飛躍的に加速されるとともに、この仮説の生成、検証、同定に関する探索空間というものも、大幅に拡大されるのではないかというふうに考えているところでございます。
 理化学研究所において個別の研究課題を試算したところ、いわゆるこの研究サイクルについては約10倍の加速が、さらに探索範囲については、約1,000倍拡大する可能性があるのではないかということが挙げられているところでございます。
 具体に科学研究サイクルについてはこちら、左下に整理させていただいておりますとおり、仮説の形成から実験計画の策定、実行、そして、その実験結果の解釈考察、さらには再実験を繰り返しながら仮説を練り上げていき、論文化するという形になってございますが、これがそれぞれ基盤モデルの活用によって加速されていく、さらには探索範囲が拡大していくのではないかというふうに考えているところでございます。
 16ページ目でございますが、それでは具体に、例えば生命・医科学やの材料・物性科学において、この科学研究向け生成AIモデルができることで、どういったことが可能なのかというものを少しまとめたものが、16ページの目の資料となってございます。
 生命・医科学分野につきましては、現在いわゆるミクロな現象、細胞レベルの現象と、マクロな現象、身体、個人レベルでのいわゆる症状や特性などについてはそれなりの知見がたまっていますが、これをつなぎ合わせたような生命現象の統合的理解といったものは、いまだ少し果たされていない部分があるというふうに認識をしてございます。
 この科学研究向け生成AIモデルを活用することで、先ほどの科学研究サイクルの大幅なスピードアップ、さらには探索範囲の大幅な拡大がなされ、生命現象の統合的理解、及びそれに基づく革新的・効率的な治療法の開発といったものに結びついていくのではないかというふうに考えているところでございます。
 材料・物性科学分野につきましては、無機・有機・バイオ、それぞれに対して知見を有する科学者の方がいらっしゃると思いますが、これらを統合的かつ融合したような画期的材料の発掘、及び必要とする特性から逆計算するような材料及びその合成法の提案といったものが、科学研究向け生成AIモデルの開発、共用によって実現されていくのではないかというふうに考えているところでございます。
 最後、17ページ目でございますが、この科学研究向け生成AIモデルを開発していくに当たって、大きく分けて2つのパターンがあるのではないかというふうに考えているところでございます。
 1つ目が、事前に言語などのデータによって事前学習されたモデルに対して、科学データを追加学習させることでマルチモーダル化をさせ、それを科学研究向け生成AIモデルとして活用する方法。もう一つが、事前学習の段階から科学研究データを加えて事前学習させ、さらに追加学習で高度化させた上でモデルを開発する方法とあることが考えられるというふうに考えておりまして、これらいずれのパターンについても同時並行で進めながら、どのパターンが、より高度な科学研究向け生成AIモデルを開発することにつながるのかを検証していくことが必要ではないかと考えているところでございます。
 それでは少し長くなりましたが、私からの説明は以上となります。

【観山部会長】  ありがとうございました。
 それではただいまの説明に関して、委員の先生方から御質問や御意見をいただければと思いますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。共有を一旦やめていただけると、画面がみえます。ありがとうございます。いかがでしょうか。
 それでは少し私のほうから。生成AIに関して、今ChatGPTとかいろいろな会話型AIが出てきて、一般にもたくさん使われているという状況なのですけれども、言われたようにリスクがありますよね。これに関して、例えばこのリスクの公表とか、信頼性はどれぐらいのものなのかとか、その対応する分野によって随分信頼性は違います。ChatGPTにおいてはレベル4になると随分信頼性は上がったとは聞きますけれども、どの程度の信頼性があるか疑問です。
 一方で、何ページでしたか、懸念されるリスクの具体例ということで、これはよく言われるのですが、いろいろ質問する事で、こちらの情報がどんどん吸い取られていって、それがまた情報漏えいとかそういう形に使われるのではないかというリスクあるとか言われています。開発者にそのリスクを正確に提示してもらうということはできないのでしょうか。

【春田課長補佐】  そうですね、こちらについては、詳細は情報担当のほうから少し御説明いただいたほうが良いかと思いますが、米国においても、いわゆる各巨大なIT企業に対して、米国政府のほうから、各リスクに関する説明責任を果たすような取組も進めるべきということが示されているように、我が国においても信頼性を確保するような技術開発を進め、各企業においても、その信頼性について提示するような形の取組を進めていただくことが必要というふうに考えてはございます。
 情報担当のほうから補足はございますでしょうか。

【廣瀬参事官補佐】  ありがとうございます。情報担当の廣瀬です。
 先ほど観山先生から御指摘がありました、基盤モデルの信頼性といった観点ですが、まさにこの基盤モデルの回答がどのように正確であるかといった評価をする指針というものが、我々のほうで研究者の先生方と意見交換をすると、まだ新しいこの生成AIに関しては、いろいろなものが提案されているけれども、ワールドワイドに固まっているようなものがないというふうに伺っております。
 基盤モデルをどういうふうに評価するのかというところに関しても、この信頼性や透明性を確保するという中で取り組んでいきたいと考えているところです。
 リスクの部分に関しましては、まさに先ほど春田さんのほうからも御指摘がありましたとおり、事業所側がどういった責任を負うのかといった話は、政府全体、またはアメリカ等と、いろいろな各国で今議論がされているところでして、そういったところも注視しながら、研究開発、技術として何ができるか我々が今考えている事業等でも通じて検討できればというふうに思っております。
 以上となります。

【観山部会長】  新しい商品で、信頼性もよく分からないし、使うとどういうリスクがあるかも分からないし、だけど結構便利なもので、いろいろやり取りができるというのは、面白いということで、いろいろな形で利用できるということで話題です。ChatGPTの普通の公開型の場合は無料なので、責任に対してはどうなのでしょう。レベル4に関しては課金がされているので、当然その事業者の責任というものはどうしたって発生すると思います。この辺はやっぱり個人ベースではなかなか会社に要求するのは難しいので、国としてこういうものを普及することに対して、強くメーカーとか開発者に要求していくということが重要ではないかと思いますけれど。

【廣瀬参事官補佐】  ありがとうございます。

【観山部会長】  ほかの委員の方々、いかがでしょうか。
 美濃島先生、どうぞ。

【美濃島委員】  美濃島です。御説明ありがとうございました。
 その科学基盤モデルのほうについてお伺いしたいのですけれど、生命と材料・物性ということで、地域性の高い戦略分野をまず設定されたというお話があって、御説明で理解できるところは十分あるのですが、その設定の根拠というか、もちろんいろいろな分野の特質で選ばれるということはあると思うのですが、国の施策として選ばれたということですので、そこで日本が勝てるかというか、その先の見通しについてお伺いします。生成AIのほうは、ある意味日本はちょっと出遅れているところも全体としてあるかと思うのです。
 そこで、こちらの分野を選ぶ、設定することによって勝てるかという、何か見通しのようなものがあるのかということをお聞きしたいです。もう一つは、バイオのほうは割と統合的というか、出口も人体の生命現象を理解して、例えば治療とかそういったものに展開しようという、全体の筋書はある程度見えやすいのかと思うのですが、材料のほうは、いかがでしょうか。もちろん新規材料発見ということがあると思うのですけれど、いろいろな分野に広がり得る重要な分野で、物をひたすら組み合わせて新しいものができるのかという観点ではもちろん有効と思うのですが、それがどういった価値を生む材料なのかとか、どうやってその価値を評価するのかとか、その材料の特性の評価技術や計測技術ですとか、そういったことも重要と思うのです。
 その辺についてはどのように考えられているのかというのを、2点教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。

【春田課長補佐】  美濃島先生、ありがとうございます。
 まず、この生命・医科学分野と材料・物性科学分野を選んだ背景でございますが、こちらにつきましては、2つの軸から検討してございます。1つ目が、いわゆるこの科学研究向け生成AIモデルを開発するに当たって、その開発がどれぐらいしやすい分野であるかといったところと、もう一つが、この開発をして、さらに共用することで、どれぐらいのインパクトが生まれる分野であるか。この2軸から検討を進めて、この2つの分野をまずは取り進めようという形で考えているところでございます。
 生命・医科学分野、材料・物性科学分野ともに、データの蓄積、及びこれからの創出に関して、ある程度体制が整っている分野であるというふうに認識をしてございまして、その中でこの2つの分野については、この科学研究向け生成AIモデルを作成するに当たって最も重要なデータ部分に関して、我が国が強みを有する部分であると考えているところでございます。
 さらには、この生成AIモデルを作成した際のインパクトにつきましても、生命・医科学分野、材料・物性科学分野ともに、我が国として、特に材料分野については産業として強い部分があり、さらに生命・医科学分野については、我々社会として課題を抱える部分が多分にあるといったところで、そのインパクトも大きいものであると考え、現在この2分野について、まずは進めてみようというふうに検討しているところでございます。
 もう一つの御質問でございますが、いわゆる材料・物性科学分野につきましては、御指摘のとおり、作成した新規材料について、どのような物性を持つものであるかといった評価のところについても、強化していく必要があるというふうに認識してございまして、そういった評価に関するデータをさらに蓄積することで、科学研究向け生成AIモデルをさらに高度化するものにもつながっていくと考えているところでございます。なので、このいわゆる新しく物質を生成するといったところのみならず、その物性をしっかりと計測していくところにつきましても、力を入れていく必要があるというふうに認識してございます。

【美濃島委員】  ありがとうございます。その評価についても生成AIモデルで、こういったデータを活用した部分を展開していくのも含めたモデルというふうに理解すればよろしいということでしょうか。

【春田課長補佐】  そうですね。実験結果の解釈の部分も、この生成AIモデルのほうでカバーするというふうに考えておりますので、物性データのいわゆる解釈の分につきましても、この生成AIモデルというものを活用することを考えているところでございます。

【美濃島委員】  分かりました。ありがとうございます。

【観山部会長】  前回も少し議論になったと思いますが、今の美濃島先生の最初の質問ですか、日本がこれから勝てるのかと言うことです。その部分がやっぱり、大きな予算、概算要求とか、予算化していくということで、非常に重要なポイントになろうかと思います。この生成AIというものの中身が、私はちょっとよく分かっていないので、非常に質問がとんちんかんになるかもしれませんけれども、1つは基盤モデルをつくることに関して。
 例えばChatGPTにおいては自然な言語が出てくるようなところで言うと、基盤モデルをつくるために物すごくたくさんのデータを処理して、その仕組みをつくっていくということですが、例えば今考えている、割と分野を特化した、正確な、言ったら教師データがあるようなものに関しては、今からでも、例えば医療だとか今の材料だとかそういう分野では、十分日本に蓄積されたデータを基に、日本型の科学というか、分野を限ったものであるかもしれませんけれども、十分戦えるような生成AIができるというふうに考えて良いのでしょうか。

【春田課長補佐】  観山部会長、ありがとうございます。御質問でございますが、生命・医科学分野、材料・物性科学分野ともに、我が国において、いわゆるデータに関しましては、こちらの生成AIモデルを学習させるためには何でも良いというわけではございませんで、ある程度良質なデータが必要というふうに認識をしてございます。この良質なデータを蓄積するといった面につきまして、我が国は既にある程度体制を構築している部分があり、強みがあるというふうに考えているところでございます。
 また、さらにこの生成AIモデルをつくるためには、既存のデータのみでは足りず、大きなデータ量をさらに創出していく必要があるというふうに考えてございまして、この大量のデータを創出するという面につきましても、我が国は一定の強みを現在有していると考えているところでございます。

【観山部会長】  十分戦えるところはあるということですね。

【春田課長補佐】  はい。

【観山部会長】  辻先生、どうぞ。まず辻先生のほうから。その次、長谷山先生お願いします。

【辻委員】  今の質問に関連して素朴なお尋ねです。オープンAIなどが大きく先行していることを考えると、基盤モデルの研究開発をしても、日本は結局彼らの手のひらの上で踊るという形になるのでは、と思ったりもします。そうするといろいろなデータを持っていかれそうですし、そうではなくて、手のひらから離れたところで地に足がついていれば、独自性があってコントロールもできそうに思うのですが、その辺りはどうなのでしょうか。分野を絞れば、そこでは独自のデータもあるし、自分の足で歩いていける、そういうことなのでしょうか。ざっくりした質問ですみません。

【春田課長補佐】  辻先生、ありがとうございます。現在、言語に関する基盤モデルにつきましては、米国の一部企業が先行しているところがございますので、それをある意味、一部利活用しなければいけない状況というものも生まれてくるかと考えてございます。
 他方で、この科学研究データは、そういった最先端の基盤モデルのほうにただ流すという形になりますと、辻先生、御懸念のとおり、データが流れていく可能性もございますので、現在そういった一部の占有する企業に対抗するかのように、オープンなモデルといったものも出てきているところでございますので、このオープンなモデルを使い、さらにそれを高度化することで、いわゆる我々の手でコントロール可能なデータの取扱いができるというふうに考えてございまして、そういった意味では、手のひらで転がされるだけではなくて、それを逆に利活用しながら、自身のコントロール可能な範囲のものにしていくことを考えているところでございます。

【観山部会長】  関連して、先ほどの資料の12ページを開いてもらえますか。ちょっと共有していただければと思うのですが。この絵を見ると、汎用基盤モデル(GPTなど)、上に科学用基盤モデルというのがあって、そして論文などいろいろあるわけなのですけれども、これはちょっと誤解を与えるように思えます。今のお答えで言うと、GPTなどは汎用基盤モデルなんだけれども、今のお答えは、ChatGPTというか、そういうものを使うわけではなくて、オープンにされているような汎用の基盤モデルの上に、要するにコントロールできるような形で、この上の日本の割と独自にデータを持っている部分を重ねていって、全体科学レベルをつくろうということと考えてよろしいのでしょうか。

【春田課長補佐】  観山部会長、ありがとうございます。御指摘のとおり、基本的にはそのGPTなどを活用、もしくは公開されているフリーモデルなどを活用して、いわゆるデータを我々がコントロールできる形で、競争力を失わない形で、科学用基盤モデルを開発していくことを考えているところでございます。

【観山部会長】  分かりました。ありがとうございます。
 すみません、長谷山さん。どうぞ。

【長谷山委員】  長谷山です。先ほどの美濃島委員と観山部会長のご発言と、私も同様の不安を持っておりましたが、春日課長補佐が、生命・医科学分野と材料・物性科学分野が、強みを有しているため選ばれたとご説明をなさったので、ここに注力することに私も納得したと仮定して発言させて頂きます。
私の研究室はAIやその社会応用の研究室です。GPT(Generative Pre-trained Transformer)はトランスフォーマーのことで、私の研究室もこの分野の研究を行っています。公開議題のためデータベースの名称を言うのは避けますが、今現在、質の高いデータであれば、数百万・数千万のデータ量がなくても、2,000セットぐらいで人間と同じように回答をするトランスフォーマーを設計することが可能になっています。
 国内でもこのような研究に着手していて、オープン・クローズに限らず、データベースを利用して既に成果を出しているところがあります。そのような研究グループを拾い上げて研究資金を投じなければ、今までと同じ特定の分野に巨額の資金が投じられても、従来の知識の上だけに研究が進められることになります。
 一方で、この生成AIの分野は、これまでとは異なった研究の発展の仕方をしていますので、今までと同じ研究の上に研究を積み重ねたとしても、発展できるかどうか極めて疑問です。
 文科省自身が、そして、この研究分野を重点化することを決めた委員会が、調査をしていると思いますが、国内にもトランスフォーマーを研究し成果を出しているところもありますし、アメリカだけではないですし、オープンAIだけではない、ChatGPTだけ、GPT-4だけでもないということは、どうぞよくよくお調べになって進めていただきたいと思います。そうでなければ、また同じように、研究費を投じても負けに回ることが起こるように思います。十分に考えて進めていただきたいと思います。
 以上です。

【春田課長補佐】  長谷山先生、ありがとうございます。御指摘ごもっともだと思っておりまして、いわゆる我が国内におきまして、この基盤モデルに関する研究開発として、どういった先生がどういった取組を進められていて、さらに企業においてもどういった取組を進めているかをしっかりと把握、検証した上で、どういったプレーヤーを巻き込んでいくことが適切かといったことを検討した上で、進めていきたいと考えております。

【観山部会長】  前田先生、どうぞ。

【前田委員】  私は今回聞かせていただいて、医療のところとか材料のところというのはすごく面白い話ですし、ぜひやっていただきたいなと思います。一方で、前回か前々回にも少し申し上げたと思うのですが、最終的にこの分野で勝ってきたのは、ChatGPT(オープンAI)などのようなインフラを構築した企業なのではないかと思っています。勝ってつまり、基礎研究で積み上げたAI技術というのを、どういうふうにしてしっかりと使えるインフラにしていくのかというロードマップがとても大事だと私は考えています。
 私自身は、日本が基礎研究のところで負けているわけではないと思っていて、基礎研究のところで、日本ですごく画期的なものを出している先生方はいっぱいいるのではと考えています。一方で、それをかき集めて、ChatGPTなり、材料分野の実用的なソフトウェアなりといったインフラにまで持っていったところが最終的に「勝った」というふうに見えていて、それに対して日本が遅れているように見えているのだと感じています。
 私自身のWPI‐ICReDDに関する話のところでも少し関連する話を入れているのですけれども、最終的に、どういうふうにしてエンジニア人材をいっぱい集めて、しっかりとインフラにするのか。もちろんデータがなければつくれない話なので、データをつくれるというところは最初の基本だとは思うのですけれど、そこからしっかりとしたインフラにするところをどうするのかというロードマップをぜひ考えていただきたいと思っております。

【春田課長補佐】  前田先生、ありがとうございます。御指摘のところはごもっともだというふうに認識をしてございます。プラットフォーム化し、さらにそれを普及させるためには、単なる基礎研究的な視点のみならず、UI、UX、ユーザビリティーなところ、いわゆる民間企業的な視点も必要というふうに考えておりまして、その点につきましても検討のスコープとして含めまして、現在検討しているところでございます。また引き続き御指導いただければと思っております。よろしくお願いいたします。

【観山部会長】  品田先生、よろしくお願いします。

【品田委員】  ありがとうございます。ちょっと観点がずれているというか、基礎研究振興部会で議論する話でないのかもしれないのですけれども、このAIが普及して、特に生成AIのように、社会に非常にインパクトのあるものがどんどん普及していくと、社会自体が変わっていくのは多分当然だと思うのですけれど、どういう社会があるべきなのかとか、どういうふうに社会が変わってしまうからこうあるべきだとかいう、それも基礎研究と言えば基礎研究だと私は思うのです。自然科学ではないですけれども。
 それはAI For Societyの上位概念的な研究になるのかもしれないのですけれども、そういうところはちょっと範疇から外れるということでしょうか。重要だとは思うのですけれども、それはまた別のところでやるというお考えなのか、それを少し知りたいと思いました。

【春田課長補佐】  品田先生、ありがとうございます。ただいま、いわゆる御指摘のありましたAI倫理の部分、科学研究向け生成AIモデルをつくるに当たっても、そのデータの利活用の部分、さらに生成に関する信頼性の部分、科学者との協業の部分について、多分に関係してくるところというふうに考えておりまして、そういった要素については取り込んでいきたいと考えているところでございます。
 他方で、世界全体として、社会として、いわゆるこのAIとどういうふうに向き合っていくべきかといったことに関しては、少しスコープがずれてまいりますので、それに関しましては別途情報担当のほうで、AIPの中などで少しされているところがあるかと思いますので、少し補足いただければというふうに考えてございます。

【廣瀬参事官補佐】  ありがとうございます。情報担当の廣瀬でございます。
 先ほど品田先生の御指摘のありました件に関しましては、理化学研究所にAIPセンターという、人工知能の関係の研究をするセンターがございます。この中に、いわゆるELSI問題とかいったものを研究する部門がございまして、社会とAIがどういうふうに関わっていくのかといったことを、日々研究していただいております。

【品田委員】  ありがとうございます。あともう一つ、少し取り留めのない質問になってしまうかもしれないですけれどよろしいでしょうか。
 大分フェーズが変わって、人材のところです。Cross AI Talent Development。5ページに、人材流動化を促して、どんどんステップアップして、若手技術者が活躍するという。これは当然ポジティブな面なのですけれども、人材を流動化させると、当然海外に流れたりするリスクといいますか。流れても結果的にまた帰ってくれば良いのですけれども、流れっ放しになってしまうというリスクも当然あるわけで、その辺はどうするのかというのは、いかに魅力的な研究を日本で頑張るか、あと、資金もちゃんと積み込んでという、本当に取り留めのない回答になってしまうとは思うのですけれども、その辺非常に重要だと思いますので。
 特にこの分野は非常に人が流動化している。もう現実として流動化しているので、それをいかに日本のためにポジティブにするかというところについて、もう一歩何かお考えがありましたら、お聞かせいただければと。

【春田課長補佐】  品田先生、ありがとうございます。御指摘の点は大変重要な点だというふうに認識をしてございます。昨今のIT人材に関しましては、やはり世界的に大企業のところについて、いわゆるサラリーの面、さらには開発環境の面からかなり厚遇されてございまして、そういったところに人材が行きやすいような状況になっているというふうに認識をしてございます。
 こういったワンウェイの頭脳循環ではなく、しっかりと頭脳循環させるための取組が今後必要というふうに認識をしてございまして、本日、人材政策課のほうからも担当が来ておりますので、少し補足などもいただきながら御説明させていただければと思います。
 滝沢補佐、よろしくお願いいたします。

【滝沢課長補佐】  すみません、人材課の滝沢です。御指摘ありがとうございます。
 この事業の特徴としては、おっしゃるとおり、人材の獲得競争になっているところがあるので、まずは国内外にかかわらず、優秀な方が国家戦略分野、今回はこのクロスAI分野に来ていただけるような支援というものをできないかと考えております。企業のほうも結構、特に海外の企業は高いお金でこういうAIの方を採っていくというところがある中で、この事業の狙いとしては、まずは研究費だったりとか、あとは人件費の部分というものを程度支援させていただきまして、うまく育てて、研究環境の整備等も含めて、このお金で、若い方々がこの分野でできるだけ自由に独立して研究ができるような支援をしていきたいというふうに考えております。
 5ページを画面共有していただきたいのですけれども、右側のほうに少し事業の特徴を載せておりますが、今回大きく分けて、若手研究者、博士課程学生と、2種類を検討しております。
 若手研究者については、今回はAI分野がありますけれども、例えばほかの分野から、このAIにチャレンジしたいという方を呼んでくるような異分野融合の観点だったりとか、あとは産学官のセクターを超えた複数の組織への所属、例えば今は材料をやっていますけれど、AIをやってみたいといった方について、例えばクロスアポイントメント制度等も使いながら、そういうところで人材の流動化等も促進していくということで、研究力の観点、異分野融合の観点、人材流動化の観点というところと、あとはその優秀な方を引きつける、といった観点を含めて、事業の設計を今考えているという状況でございます。
 取りあえず、以上でございます。

【品田委員】  ありがとうございます。またよろしくお願いいたしますというか、進むと良いかと思います。

【観山部会長】  今、品田さんが言われたことは非常に重要で、結構養成するのは良いのだけれども、例えばアメリカと日本の大学職員の給与は、アメリカの大学はランキングがあるので良いところと悪いところがありますけれども、良いところだと3倍違います。なかなか面白いことをやっている研究室といっても、物価も高いですけれども、3倍違えば少し稼いでいこうかという感じでどんどん出てしまう可能性はあるので、やはり人材を集めようと思うと、サラリーの問題とか環境の問題は非常に重要なので、そこら辺はしっかりと検討される必要があると思います。
 日本の中での比較だと、今はもう円安もありますから、非常にみんな大学の先生はよくやっているなと思いますけれども、海外で考えると、もう全然レベルが違うサラリーをもらっているので、そこら辺は十分お分かりだと思いますが、よろしくお願いします。

【滝沢課長補佐】  ありがとうございます。

【観山部会長】  ほかに御質問ある方、いかがでしょうか。
 合田先生、どうぞ。

【合田委員】  合田です。生命・医科学分野の生成AIを使った科学基盤モデルについてですが、この分野において日本がリードしているというよりは、一般的には少し遅れを取っているようにも思えます。
 例えばアメリカや欧州では、ベンチトゥベッドサイドと呼ばれる基礎的な科学から医療までをつなぐ体制が良く整っていて、基礎研究所と病院が密に連携して、人のサンプルがすぐ基礎研究者へ流れてくるようなシステムがあります。あとMD-PhDプログラムも充実していて、基礎から医療まで分野融合的な知識を持つ人材も豊富ですので、日本でもそういう面からのサポートも充実させることが大事かと思います。
 あと、統合的な理解がまだ果たされていない状況へはヒトの認知限界という理由以外にも、やはり人の資料へのアクセスが限られている、また、飛躍的に進んでいるマウスや他の動物モデルの知識をどうやって人に持っていくかというところが、少しネックになっているという印象を持っています。
 以上、少しコメントになりました。

【観山部会長】  ありがとうございました。文部科学省、何かお答えありますか。

【春田課長補佐】  合田先生、コメントありがとうございます。御指摘の点、大変大事な点だというふうに認識してございます。この生命・医科学分野においては、御指摘のとおり、いわゆる基礎的な知見の部分と臨床的な知見の部分、ここをいかにつなぎ合わせるかといったことが、この科学研究向け生成AIモデルの開発、共用においても重要な点と考えてございまして、ここはまだ課題がかなりあると認識してございまして、ここをどういうふうにするか、さらに検討を進めていきたいと考えているところでございます。
 さらには御指摘のあったとおり、いわゆる基礎研究の分野においては、マウスなどのモデル動物に関する知見がたまっており、さらにそれをしっかりと人へ応用する場合については、そのマウスと人との差異の部分が、かなりクリティカルに利いてくるといったところもございますので、これをどのようにこの科学研究向け生成AIモデルの開発を進めることで解決していくことができるのかといった点も、少し検討を進めていきたいというふうに思っております。

【観山部会長】  よろしいでしょうか。先ほど長谷山先生からも少し懸念があって、分野を医療と材料という分野、ほかにもいろいろな進展はあるのだということで、それは文部科学省もよく考えていただければと思いますが、しかし医療の分野、材料の分野というのは、ある意味日本のデータでほぼ自己完結している部分があるというので、日本の戦略として強みをするという方向では、そういう分野が適切な状況かとは思います。
 ただ、科学の進展のためには国際協働というのも非常に重要なので、ほかの分野に関しても、日本だけではなかなか達せないような部分はあるのですが、それはそれでほっといていいというわけではないので、例えば国際協力とかそういうしっかりできるような分野とか、それから人を選んで、その開発にまた参加していただくという、両面が必要なのではないかと思いました。私の感想ですけれども。
 そういうことで、いろいろ留意しつつ、ちょっと新しい時代に入っていくという状況なので、単純に日本も遅れないようにというわけではなくて、日本の強みを生かしつつ頑張っていただければと思います。
 長谷山先生、どうぞ。

【長谷山委員】  私の説明が少し誤解されてしまったかもしれませんので。

【観山部会長】  そうですか。すみません。

【長谷山委員】  生命と材料というのは、私も大学でIR(インスティテューショナル・リサーチ)の担当なので、日本全体の各研究分野の論文数は理解しています。世界に向けて競争力を持つためには、ある程度の論文の量と多様性が必要で、この2つを選んだことと思います。これに私が納得したと「仮定」して、と申し上げました。「仮定」してと付けたのは、この材料と生命・科学の方たちだけでは、最先端のトランスフォーマー、GPTはできないと考えたからです。

【観山部会長】  なるほど。

【長谷山委員】  つまり2つの分野の掛け合わせに情報のエッセンスが入ってくることが重要と思います。日本は融合研究にことごとく失敗しています。その日本で、生命と材料と情報を融合しようとするときに、既に生命と情報、材料と情報の組合せになっている既存の研究グループに投資しても、勝ち続けることはできないと思います。トランスフォーマーに関しては、多様なデータで世界のトップカンファレンスに出ている日本の研究者はいないわけではないのです。
 例えば当研究室は小さな研究室ですが、特徴的なトランスフォーマーを研究し、トップカンファレンスにも採択されています。私の研究室のことを自慢するわけでも何でもなく、他にもそのような研究室があるのです。論文やコンファレンスデータを分析すれば出てくると思います。しっかりと掘り起こして、生命・科学、材料・物性の中に、新しいエッセンスの情報科学者を投入する、そのような戦略を持って進めなければ、せっかくの日本の質と量を備えるこの2分野が、世界に勝って出ることができないと思います。
 以上です。

【観山部会長】  大変重要な指摘だと思います。文部科学省のほうもぜひ、今の意見も考慮して進展していただければと思います。
 ほかにはよろしいでしょうか。
 それでは、2番目の議題に進みたいと思います。後で振り返ってもらっても結構でございますけれども、基礎科学の推進に向けた今後の課題について、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)を例にという議題でございます。資料2-1について、事務局から説明いただいた後に、本日は資料2-2については、物質-細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)拠点長の上杉志成先生、それから資料2-3については、化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)拠点長の前田理先生から御発表を予定しております。
 それぞれの発表が終わった後に、意見交換、御意見をいただければと思いますので、よろしくお願いします。それでは、まず事務局よりお願いします。

【春田課長補佐】  ありがとうございます。それでは私のほうから、資料2-1、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)についてに基づき、御説明をさせていただきます。委員の先生方々は既にかなり御存じかとは思いますので、手短に説明させていただきます。
 まず1ページ目、お願いいたします。このWPIでございますが、国際頭脳循環のハブを目指す研究拠点を、長期・集中的に支援するプログラムでございまして、WPIのミッションとして定めております3つ、世界を先導する卓越研究と国際的地位の確立、国際的な研究環境と組織改革、次代を先導する価値創造、この3つのミッションを達成していくといったものを目的としたプログラムでございます。
 これまで、9つの拠点形成を既に行っていまして、現行拠点形成を進めているのが、本日御発表いただく前田先生のICReDDも含め、8つございます。また9つの中には、本日御発表いただく上杉先生に拠点長をしていただいておりますiCeMSも含まれているところでございます。
 WPI拠点につきましては、こちら右下にありますとおり、顕著な成果を上げてございまして、例えばトップ10%の論文の割合は、日本全体ですと8.5%のところ、WPIですと20%ございます。国際共著論文につきましても、日本全体30%のところ、50%ございまして、外国人研究者の場合についても、日本平均に比べ、割合にして5倍ほどいるといったところになってございます。
 さらに成果につきましては、次の2ページ目でございますが、こちらに記載してありますとおり、この3つのミッションを達成する形でそれぞれ顕著な成果を上げているところでございます。例えば、そのトップ10%論文の割合につきましては、補助金支援期間中のみならず、拠点形成を行った後の補助金支援期間終了後も高いレベルを維持しているとともに、右下にありますようなポスドクの採用倍率についても、おおむね10倍以上の高い倍率を誇っているといったところになってございます。
 3ページ目、最後でございますが、トップ10%補正論文の割合、いわゆるQ値と言われるものにつきましては、世界の代表するような研究拠点、大学と比べても遜色のないレベル、もしくはそれを上回るような拠点形成ができているような状況でございまして、基本的には全ての拠点が、日本平均、あるいは東京大学全体の平均を超えるようなQ値を持っているといった状態になってございます。
 私からの説明は以上でございます。

【西山課長】  部会長、差し支えなければ、iCeMS拠点長の上杉先生のプレゼンに移りたいと思いますが、よろしいでしょうか。

【観山部会長】  すみません、WPI-iCeMS拠点長の上杉志成先生より御発表をお願いいたしたいと思います。よろしくお願いします。

【上杉委員】  見えていますでしょうか。大丈夫でしょうか。

【観山部会長】  はい。大丈夫です。

【上杉委員】  (1ページ)京都の上杉でございます。WPIの例として、iCeMSを御紹介します。
 (2ページ)京都大学には、化学、細胞生物学という2つのフラッグシップがございます。そのフラッグシップの2つは、それぞれに発展してきたものでありますけれども、iCeMSはこの2つをコンビネーションするという研究所であって、2007年に設立されました。
(3ページ)これがWPIの補助金のグラフになります。最初の10年にこのように十数億円毎年頂いてまいりました。それがその後WPIアカデミーになりますと、4,700万円、4,000万円、3,000万円になります。補助金がここからこのように激減するという問題がございました。
 下がWPI-iCeMSの所属研究者数です。これは専属所属研究者数でございます。このようにどんどん増えてきまして、ピークが2013年にあります。この間、2010年に、山中先生のiPS研究が非常によくうまくいったので、その部分の応用研究を切り離しiPS研究所を作りました。iCeMSはあくまで基礎研究でありますので、iPSの応用研究を切り離したのです。それで、最終的に2012年に山中先生がノーベル賞をもらわれます。その直後の2013年にちょうどピークを迎えるという感じです。
 補助金の期間が10年ですので、この辺になりますとだんだん終わりの期間というのが見えてきまして、5年間の採用というのがだんだんできなくなります。それで徐々に減ってきまして、このように2017年、ここでWPIの補助金が終わりなのですけれども、ピークから見ると半減することになります。この後でお話ししますけれども、このように人数が減って、補助金が少なくなった中で、どうやって生き残るかというのを考えて、オンサイトラボという考え方が出てきます。それは後で御紹介します。
 (4ページ)これは論文数です。このように、ピークであった2013年辺りが一番多いのですが、2017年で補助金が切れたとき、またこれが上がっています。これは、WPIの補助金が終わることで多くの皆さんがほかの職を取らなければいけなくなって、最後の馬鹿力を出したという感じでしょう。その後少し減るのですけれども、人数が減っている割合よりは少ない減りになっております。インパクトファクター10以上の論文数に関しては、ある程度維持しております。ですから、ある程度質は担保されていると考えることができます。
 先ほど文部科学省からのプレゼンで、iCeMSはポスドクの人数が非常に多いというのがありました。iCeMSの場合には、特に人件費にWPIの補助金を使ってきましたので、これがなくなったときにかなりの数を減らしました。そういう問題がありました。
 (5ページ)さて、これは一般的な組織のライフサイクルの図です。例えばiCeMSの場合、北白川のラーメン屋の2階にみんな集まりまして、そこでアイデアを思いついて、そこから始まっています。このアイデアがうまくいけば、組織というのはサイズが大きくなります。どんどんサイズが大きくなります。サイズが大きくなってきますと、だんだんマネジメントというものが要ります。ややもすると、このマネジメントというのに忙殺されて、それで物事が政治的になって、皆さんがアイデアやビジョンを失っていって死んでいく、これが大体のライフサイクルです。
 iCeMSは、今ここにあります。このまま死んでいく方向に行くのかというと、そうではありません。現在行っているのがリニューアルステージという考え方です。ビジョンをもう一度クリアにして、意志決定も簡潔にして、それでクリエイティビティを上げようという運動です。それによって、もう一度成長したいと考えています。
 (6ページ)そのビジョンをはっきりさせるという意味で重要な点は、この絵にあります。化学と細胞生物学を融合させるには、いろいろな考え方があります。これまで十数年やってきまして、何が大切かが分かってきました。それでこの自己集合というのに着目しています。生き物は煎じ詰めれば、化合物で成り立っています。でも化合物は生き物ではございません。
 ではこの化合物が、どの段階から生き物っぽくなるのかというのを考えてみます。それは、我々は自己集合だと考えています。自己集合というのは、物質が勝手に集まってきて、何らかの機能を持ち始める現象でございます。このような自己集合が生物らしさを出して、シンプルなもので機能を生んでいると考えています。
 (7ページ)WPI-iCeMSのターゲットは、細胞の中にある様々な自己集合体を理解して、その理解した考え方に化学者がインスピレーションを受けて、自己集合材料をつくる。それによってグローバルな問題を解決したいと考えています。
 (8ページ)細胞は、言ってみれば自己集合の究極の例と言えます。自己集合体によって細胞の中にシグナルが入ってきますし、遺伝子が発現します。そしてコンパートメントを作っていきます。また力を生むこともできますし、エネルギーをためたり作ったりすることもできます。全て自己集合体によって可能になっていることが最近よく分かっています。
 (9ページ)そういう自己集合体を理解することによって、自己集合体材料を作ります。その材料によって、できる限り社会の問題を解決したい。病気を治す、もしくはガスやリキッドを精製する。CO2をコンバージョンする、もしくはエネルギーを蓄える。こういう材料でございます。恐らく、精製、コンバージョン、ストレージというのは、材料を知っている方々はよく御存じだし、もう今すでに実行され、世の中に様々なものができています。
 この中で、特に新しいのは、病気を治す自己集合材料です。そこを少しだけ説明させてください。(10ページ)これは材料の歴史と未来を見ています。材料というのは無機、有機両方あります。最近実用化されている新しい材料を見てください。赤で示しています。こういう新しい材料は、自己集合材料なのです。
 例えばiCeMSの前の拠点長であります北川先生がやっておりましたMetal Organic Framework。ガスを閉じ込めます。これは実用化されてございます。もしくは自己集合材料であるSupramolecular Polymerによって、まるで生き物のように自己修復するような材料が生まれてきます。これらは非常にエキサイティングなものでありますが、いずれも自己集合材料です。ですから、この自己集合というのは材料によって非常に大切な概念です。
 そこで僕らは、自己集合医薬品というものが今後でてくるのではないかと考えています。(11ページ)医薬品の歴史を見ますと、医薬品の歴史はケミカルな医薬品とバイオロジクスな医薬品に分けられます。ケミカルはアスピリンで始まり、バイオロジクスは天然物から始まっていろいろな発展をしてきました。その後、有機合成があまりにも発展しまして、どんどん大きなものが合成できるようになりました。最近ではRNAを工場で生産して、それを薬にするということも可能になっているわけでございます。
 そしてバイオロジクスのほうでは抗体や、細胞、京都大学ですとiPS細胞を使って、細胞自身を薬にして使おうとしています。トレンドは、いずれの医薬品も非常に複雑で、分子量が大きいものになってきているということです。
 では、今後はどういうものが生まれていくのかと考えましょう。小さな分子で大きく複雑なものを作ろうと思えば、「自己集合ではないか?」ということでございます。この考え方は全く今はやっておりません。これからはやらそうとしています。(12ページ)このような考え方、つまり自己集合の化学、生物学というコンセプトで、ICEMSには様々な研究者が集まっています。大切なのは、このWPI-iCeMSだけでは全ては成り立ちませんで、特に京大の中から自己集合をやっている先生方とも協力しながら行うということです。
 (13ページ)研究はこれまでです。さあ、次に、iCeMSがこれまでしてきた大学全体のリフォームやグローバリゼーションへの貢献というのをお話ししたいと思います。これはWPIの一つのミッションでございます。(14ページ)WPI-iCeMSができたときから、もう13年前から、京都大学全体のテストベッドとして、いろいろな実験的な試みをなしています。今は国際卓越研究大学なんかで大学の改革が求められていますけれども、その求められていることをもう十数年前から、iCeMSでテストしていたと思っていただければ結構かと思います。
 (15ページ)そのテストをする人たちというのは、教員が中心となって行うというよりも、リサーチ・アドミニストレーション・ディビジョンが行っています。その方々がエンジンとなっています。こういうチームづくりがありまして、それぞれの方々が大学改革の実験を行っています。現在行っている実験は6つあります。
 (16ページ)1つ目はこれです。どうすれば海外からすばらしい人をリクルートできるのか、そして博士課程にどうすればもっと大学院生が来てくれるかという実験を行ってまいりました。特にグローバルな実験を行っています。
 1つだけ申し上げますと、京都大学にはInternational Undergraduate Programといいまして、世界中から学部生のリクルートを行っています。このプログラムと我々のiCeMSはシステマチックなコラボレーションをしていまして、彼らが学部生の身分のままiCeMSで研究できるという教育実験を行ってございます。
 (17ページ)2つ目は、最初のほうで申し上げました、オンサイトラボです。これは特に京都大学に特徴的なものでありまして、京都大学のヘッドクオーターと協力しながら、iCeMSのオンサイトラボ、つまり海外ラボをつくってまいりました。特にアジアに我々の場合は着目してきました。WPIの補助金がなくなって、そして人数も減っていく中で、どうやれば成長することができるのか。成長するアジアを取り込もうと考えました。アジアの各国と協力して、アジアの資金も得ながら、こういうオンサイトラボというのを行ってまいりました。
 このオンサイトラボは研究するだけではなくて、いろいろな機能を持っています。相手方とスタートアップベンチャーをつくろう、研究者のリクルートメントの基礎にしようなどです。
 (18ページ)3つ目です。3つ目は、iCeMS Analysis Centerです。これはコアファシリティのモデルとなっています。京都大学全学的にも、コアファシリティ、共有設備をどんどん行っていこうと考えています。今後、日本のそれぞれの大学にとっても、コアファシリティという考え方は非常に大切になってくるだろうと思われます。我々iCeMSでは、以前からコアファシリティをつくっていました。今、京都大学では、全学で共有施設をマネジメントして課金するという仕組みがつくられています。それはiCeMSも中心となって進めていたものでございます。
 (19ページ)4つ目は、スタートアップです。最終的に基礎研究が残っていくためには、我々はスタートアップは必要であると考えています。それでiCeMSでは、今まで5つのスタートアップをつくってまいりました。今6つ目、7つ目に向かっております。こういうスタートアップができて、そこで収益を得て基礎研究に回していくというのが、海外の事例を見ても大切ではないかと考えているわけでございます。
 (20ページ)5つ目です。これはファンドレイジングです。結局WPIの補助金がなくなってしまいますと、何とかしなければいけないわけです。でも、大学本体も同じ問題を抱えています。そこで、実験を行ってまいりました。1つは、寄付を受ける。もしくは自分らがつくったスタートアップからの収益を受ける。そして、iCeMSには金融関係のアドバイザーがいまして、その方々に助けていただく。2022年は1億円超える寄附、そのファンドレイジングをすることができました。この1億円が今後また上がっていくかどうかは分かりませんけれども、ある程度はうまくいっていると思います。
 (21ページ)最後、6つ目です。それはインターナルコミュニケーションです。パンデミックの間に、iCeMSの中でのコミュニケーションさえも失いました。インターナルコミュニケーションは、WPIとしては非常に大切だと僕は思っています。インターナルコミュニケーションの質が上がれば、コンプライアンスや研究者の満足感があがり、離職率が下がる、そしてリスクも下がります。そしてインターナルコミュニケーションがあれば、分野をまたいだコラボレーションも起こりやすくなる。
 もう一つ非常に大切なのは、インターナルコミュニケーションを上げると、よりインクルーシブになります。そのインクルーシブになると、我々はダイバーシティーが上がると考えています。時々日本で間違っているのではないかと思うのは、ダイバーシティーを上げてインクルーシブにするという考え方ですけれども、やはり組織自身が最初からインクルーシブなカルチャーを持っていないと、ダイバーシティーは上げにくいのではないかと考えています。
 (22ページ)さあ、最後のスライドであります。この十数年やってまいりまして、こういうことが、基礎研究振興もしくはWPIの問題ではないかと思います。
 1つは、iCeMSの場合には、WPI補助金のかなりの部分を人件費で使っていました。時限つきの人件費には、例えばWPI、ほかの研究費もありましょう。それらを組み合わせて基礎研究グループを安定に維持するのは非常に難しいなと思いました。
 その一つの理由としましては、日本の研究プログラムにはRenewalという考え方がほぼないのではないかと思います。例えば私は昔、アメリカの教員を長いことやっていましたけれども、NIHグラントでは必ずRenewalがあります。Renewするとテニュアが取れるという感じだったのです。でもなかなか日本のプログラムには、何をうまくやってもRenewというものがないので、どうやって研究をRenewすればいいのだろうというふうに思う人もいるのではないでしょうか。
 次、3つ目です。スタートアップのお話をしました。基礎研究で新しいコンセプト(考え方)が生まれれば、そのコンセプトから何かの応用が必ず生まれると我々は考えています。その応用も基礎の研究室でやり続ければ、問題になると思います。できるだけ早くスタートアップをつくって、そのスタートアップが応用研究を行う、これが大切ではないかと思います。
 つまり、そのスタートアップ振興によって基礎研究を振興できるはずだと我々は考えています。そして、スタートアップが起こると、世の中の方々にも基礎研究の重要さというのが分かっていただけるのではないかとも考えています。我々はそういう意味でスタートアップをつくってまいりましたが、なかなかそのスタートアップから利益が戻ってくるまで時間がかかりまして、いまだにiCeMSも、自分らがつくったスタートアップから潤沢に基金が戻ってきているとは思えません。時間がかかります。
 その次ですが、WPIの補助金が毎年十数億来たときに、すばらしい機器をそろえました。ところが、ちょうど今どんどん潰れていく時期に入っております。それをどういうふうにRenewalするのかというのが極めて大きな問題。何とかランニングすることはできるのですけれども、Renewというのができなくなります。
 最後に、いろいろな大学の実験を行ってくれたリサーチアドミニストレーションの方々はWPIの補助金で雇われていました。WPIの補助金がなくなった時点で、どうやってこの人たちの給料を払い続けるかというのが問題です。今は何とかしていますけれども、非常に大きな問題でございます。
 我々はこのように、多様性を持ちながらフォーカスした研究を行おうとしています。
 以上です。ありがとうございます。

【観山部会長】  どうもありがとうございました。
 それでは、続きましてWPI-ICReDD拠点長の前田理先生より発表をお願いいたします。よろしくお願いします。

【前田委員】  それでは共有させていただきます。こちらで見えていますでしょうか。大丈夫ですか。

【観山部会長】  見えています。

【前田委員】  (1ページ)それでは15分程度ということで、WPI-ICReDDについて御紹介させていただきます。
 (2ページ)化学反応は、安価な原料を有用な材料や薬剤へと変換しますので、人類社会の発展に欠かせません。その世界経済に対する貢献は、年間約60兆円にも上ると言われています。新たな化学反応の開発は人類社会にとって著しく重要であるにもかかわらず、その開発には非常に長い時間がかかります。そこで、化学反応を効率よく開発する手法の確立が急務となっています。
 (3ページ)WPI-ICReDDは、「化学反応の設計と発見を革新する」というスローガンを掲げ、計算・情報・実験、これら三つを高度に融合しながら、この課題に取り組んでいます。その中で、「複雑な化学反応の開発期間を大幅に短縮させる」、もしくは、「従来のやり方では100年かけても見つからない、人知の及ばない化学反応の発見を導く」、そういった化学反応設計法の構築を目指しています。
 (4ページ)この課題に、こちらに示すメンバーで取り組んでいます。それぞれ、青〇が計算、オレンジが情報、緑が実験を専門とする研究者です。シルバーは、組織マネジメントのメンバーです。加えて、Rubinstein教授、Varnek教授、そして2021年ノーベル化学賞のList教授の、3名の海外研究者が、当拠点に所属して研究グループを主催しています。4名の若手研究者が主催するJr-PIグループもございます。
 (5ページ)文科省と北大のご支援により、この3月にICReDD新棟が完成しました。4階建て、5500平米、融合研究を促進するスーパーミックスラボ、産学連携ラボスペースなど、非常に恵まれた環境で、研究させていただいております。
 (6ページ)融合研究を強力に押し進めるために、フラッグシッププロジェクトを設けています。これらは、基盤となる計算・情報ツールの開発から、小分子系の課題、巨大分子系の課題、複雑・夾雑系の課題まで、階層的に設定されています。
 (7ページ)すべてのフラッグシッププロジェクトの基盤となるのは、計算・情報ツールの開発を行うProject Iです。Project Iには、すべての計算系・情報系のグループが参加しています。各計算系・情報系のグループは、Project Iで開発された設計法を用いて、実験をベースとするフラッグシッププロジェクトや、ボトムアッププロジェクトに参画します。その中で得た、設計法の成功例と失敗例をProject Iにフィードバックし、設計法の改善に取り組みます。この仕組みにより、拠点が一丸となって、設計法の開発と、その応用を展開しています。こういう、拠点長のトップダウンで、拠点一丸で何かできる、というところは、WPIのめちゃくちゃ大きな強みだと思います。
 (8ページ)持続的な発展には若手の活躍が不可欠です。ICReDDでは若手によるボトムアッププロジェクトの立ち上げを支援しています。毎年、これらプロジェクトに対して評価を実施、有望なボトムアッププロジェクトはフラッグシップに昇格させて、さらに促進します。これにより、若手研究者からのアイデア創出をサポートし、研究を持続的に発展させます。
 (9ページ)こういった戦略も功を奏し、ICReDDの論文出版状況は、数においてもインパクトを示すTop10%指数においても、非常に高い水準に達しています。ここからは、研究内容について簡単に触れさせていただきます。
 (10ページ)まず、計算から何が分かるのか。こちらは、教科書などにある、いわゆる化学反応式です。次に、計算によって得たこの化学反応の動画を流します。このように、あたかも目で見たかのように、化学反応が進んでいく様子を理解することができるわけです。
 (11ページ)この様子を、このように、各原子の移動ごとに分解して表します。この反応では、ここにある8回の変化の後に、化学反応が完結します。我々は、この変化一つ一つを線でつないだ反応経路ネットワークで化学反応を表します。こちらの八本の線が、これら八つの構造変化を表します。この八本は、実際に起こる変化を示したものですが、これらが起こることを証明するには、他の全てが起こらないことも証明しなければなりません。そのため、他の可能性全てを計算し、このような複雑は反応経路ネットワークを計算することで初めて、化学反応を予測することができるのです。このような計算は非常に難しく、長年不可能とされてきました。我々は、これを計算する汎用的な計算法の開発に、世界に先駆けて成功しました。
 (12ページ)実際に、フラッグシップの2では、この計算法によって得た反応経路ネットワークから化学反応を予測し、それを実験的に検証することによって、複数の新反応の発見を成し遂げています。これらの例では、通常2~3年かかる合成法開発を、計算先行で設計を実施することで、数か月から1年程度以内で成し遂げています。
 (13ページ)少し前後しますが、フラッグシップの1では、計算による化学反応をデータベース化し、大規模データベースの大規模機械学習によって、化学反応を予測するAIを構築する、というチャレンジを進めています。計算では、実験的な観測が難しい副反応や実験的に取り扱いが難しい化合物が含まれる反応もデータベース化できるため、この我々の試みは、実験による化学反応のみに依拠した従来型の反応予測システムの課題を抜本的に改善する可能性を持っています。
 (14ページ)実は、この計算法には適用限界があり、これまでは小分子の化学反応のみが対象でした。非常に最近になってですが、拠点内での融合研究によって機械学習を導入することで効率が劇的に改善し、この限界を大きく突破することができました。これにより、List教授のグループが扱っている巨大な分子触媒を含む化学反応に対しても、この計算法を適用することができました。すでに、このような触媒系に対しても新反応が見つかりつつあり、フラッグシップの3において、実験実証を進めているところです。
 こういった、分野を超えた知識の融合でブレークスルーを引き起こせるところが、WPIの素晴らしいところだと思います。
 (15ページ)他にも様々な最先端技術を活用しています。ここでは各技術の詳細は省きますが、フラッグシップの3で取り組んだ、化学情報学とロボット合成を駆使した分子触媒設計についてお示しします。こちらの研究では、List教授のグループが開発している様々な形の分子触媒を、Varnek教授のグループが開発した分子記述子を利用して表現し、それらを用いた化学反応のデータをロボット合成装置によって大量に取得して、機械学習によって予測モデルを確立することで、新規触媒の情報科学的な設計に成功しました。
 (16ページ)フラッグシップの4では、伊藤教授のグループが中心となり、ボールミル装置による機械的な衝撃を駆動力とする新しいタイプの化学反応の研究を進めています。ボールミル反応は、大量の溶媒を用いる必要がなく環境負荷が少ないなどのメリットがあり、次世代型の化学反応として注目されています。一方で、その理解はまだ十分ではありません。そこでICReDDでは、その理論構築や、ボールミル反応特有の中間体の計算による理解も進めながら、ボールミル反応の体系を築くことを目指しています。ボールミル反応への期待は高く、世界中から注目を集める成果を上げることができています。
 (17ページ)フラッグシップの5では、グン教授のグループが開発した筋肉のような機能を持つ画期的なゲル材料の研究を進めています。筋肉のような機能がなぜ発現するのかというと、この材料を引っ張ると、材料の中で分子の鎖がちぎれて、反応性の高い「ラジカル」と呼ばれる化学種が生成します。このラジカルが周囲と化学反応を起こすことで分子の鎖同士の新たなつながりが生成し、材料の強度が向上します。ICReDDでは、このラジカルの生成過程や、その後の周囲との化学反応を計算によってシミュレーションしながら、その構成分子を設計していくことで、材料の機能向上を進めています。
 (18ページ)フラッグシップの6では、田中教授のグループとグン教授のグループが共同で発見したHARP現象を用い、ガンの治療技術の開発を進めています。HARP現象は、ゲル材料の表面において、ガン細胞がガン幹細胞へと誘導される現象です。ゲル材料とガン細胞の組合せや、その後の抗がん薬剤の多様性を迅速にスクリーニングする技術を、診断システム開発や計測技術開発、さらには、データ科学や機械学習なども導入しながら、推進しています。
 (19ページ)WPIでは、10年の支援期間後の拠点の自走が大きな課題です。そのためには、国際認知の向上と企業連携の推進が不可欠であり、我々も様々な取り組みを実施しているところです。
 ここでは、三つお示しします。一つ目は、ICReDDによる化学反応設計法、新反応、新材料、診断・計測技術などを世界に広めるための、MANABIYAシステムの運用です。このシステムでは、アカデミアまたはインダストリーから研究者を2か月程度招へいし、ICReDDにて共同研究を実施します。これにより、国際認知や、新たな産学連携プロジェクトの創出などを促進します。
 (20ページ)二つ目は、2021年にノーベル化学賞を受賞したList教授を長とするListサステナブルDX触媒連携研究プラットフォームの立ち上げです。これは、ICReDDを中心に、学内外の研究者と連携しながら、List教授らの有機触媒開発のデジタルトランスフォーメーションを促進するとともに、有機触媒の創薬展開や高分子合成などへの応用も実施しながら、国際認知と産業連携を加速する取り組みです。
 (21ページ)三つめは、三井化学-ICReDD化学反応設計イノベーション部門の設置です。これは、ICReDD新棟にある産学連携ラボスペースに設置されていて、高機能材料開発、循環型社会の実現に資する新規反応設計、および、そのための計算・情報技術の開発に取り組むプロジェクトです。今後、このような産学連携の機会をさらに創出し、WPI補助金の支援が切れた後にも恒久的に発展していける拠点を目指します。
 (22ページ)最後に、基礎研究に関する課題を議論してください、というオーダーでしたので、二点お話しします。
 まず、アカデミアでのAIインフラ構築の課題です。我々は、我々が世界に先駆けて開発した化学反応を収率付きでゼロから予測する技術によって大規模な計算化学反応のトレーニングセットを構築し、化学反応予測ツールを作りたいと考えていて、今まさにこの課題に直面しています。例えば、この部会でも何度も登場したAlphaFoldは、GoogleのDeepMind社が開発しています。AlphaFoldの論文を見ると、著者30名くらい、おそらくは、さらに多くのエンジニアが関わっていると思われます。こういう論文の後ろの方に名前がある人や、論文には名前が出てこないエンジニア人材は、アカデミアでは評価されにくくプロジェクト後の行き先がない、という問題があって、現状アカデミアに唯一許されている期限付きのプロジェクト雇用のみでは、こういった人材を大勢確保することは困難、というのがアカデミアでのAIインフラ構築の非常に大きな障壁だと考えています。
 (23ページ)二つ目は、人材に関する課題です。この部会でも出てきたJST創発は、講座制等でのPIの研究への貢献から脱し、自身のチャレンジに集中できる機会を若手に与える素晴らしい制度であると思っています。私自身も、京都大学白眉プロジェクトに同様の機会をいただいていて、それがなければ、ICReDD含め、今の私はなかったと思っています。
 一方で、これによって、シニアなPIが運営する大規模プロジェクトでは長期的に研究に参加してくれる優秀な人材が不足して、日本の研究力は落ちるのでは、と危惧します。シニアなPIは、学生や短期のポスドクのみという体制で、はたしてこれまでのような成果創出を続けられるのでしょうか。米国などではそのような体制のグループがほとんどですので、答えは「可能」、ですが、これは膨大な雑務がなければ、という条件付きで、つまり日本では「不可能」と認識しています。日本では、学務や運営等の大量の会議、申請・報告等の大量の書類、入試を担当する年には高校の教科書全種類を隅から隅まで把握して問題を作る、などなど、研究のことを考える暇が全くないという日もざらにあって、逆に、今日は一日研究に集中するぞという日は休日にしか訪れない、という教授の先生方がほとんどです。この状況下で教授の先生方が自身のアイデアを成果にしてこられたのは、講座制の中に優秀な若手人材が活躍するチームがあったからこそだと思います。それを崩すと、シニアなPIによって創出される研究成果は、質も量も下がります。良質な研究成果のかなりの割合はそういったPIから出ているはずで、そこを失うと日本の研究力は大きく下がると想像します。
 私は、若手独自のチャレンジを支援する創発のような仕組みの構築は非常に重要で、最優先にすべき取り組みだと思います。それと同時に、シニアなPIの雑務を減らす仕組みを整備していくことが必要不可欠だと思っています。そうしなければ、せっかく日本で良い成果を上げた若手研究者が、研究環境を求めて海外にどんどん流出していって、日本の研究力は下がる一方、という未来も想像できます。
 (24ページ)こちらは本日のまとめです。ありがとうございました。

【観山部会長】  ありがとうございました。上杉先生、前田先生、WPIの運営を通じて見えてきた基礎科学の進展に向けた課題等をお話しいただきました。本当にありがとうございました。
 基礎科学の進展に向けた今後の方向性とか課題とかを議論させていただければと思いますが、あまり時間はないのですけれども、委員の先生方からいかがでしょうか。
 では、私のほうから1つ。このWPIは結構もう十数年やっているプログラムでして、いや、採択されている先生にこれを聞くのはちょっとあれかもしれませんけれども、いろいろ課題を上杉先生も前田先生もおっしゃったのですが、様々今まで科研費とかいろいろなJSTのプログラムとか、取られたと思いますけれども、データとして、このWPIプログラムというのはどのように評価されますか。上杉先生、いかがでしょうか。

【上杉委員】  私自身の評価ですか。

【観山部会長】  そうです。

【上杉委員】  私はWPIをやっているのにはすばらしいとしか言いようがないのです。京都大学の場合には、すばらしい先生が集まって融合研究を行ったので、かなり新しいことをやったと思います。僕もこのWPIに最初から、その北白川のラーメン屋のときから関わってきました。その当時の人はほとんど定年しちゃいました。長い間関わらせていただいたおかげで研究の方向が変わりました。恐らく僕自身が今やっている研究は、WPIに入っていなかったらやっていなかったです。かなり新しいことができる環境にありました。
 かなり刺激を受ける環境にあったと思います。それは言えると思います。WPI全体のお話は、最初に文部科学省からあったと思いますけれども、特にお金のあるうちは、それぞれの研究者がこれまでやらなかったことを思い切ってやる環境になって、レベルが上がると思います。そして事務方のサポートも、普通の部局にいるよりは高くなりますので、研究により集中できる環境にはあると思います。
 前田先生はどういうふうに思われていますか、どうでしょう。

【前田委員】  私も全面的にアグリーです。非常に新しいことができるというところはすごいメリットで、途中でもお話しさせていただきましたけれども、やっぱり拠点長のトップダウンで、こういう方向性で一丸となってやりましょうということができます。なので、WPIが始まる前には全く思い描くことができなかったことというのが幾つもできているというのが、私の持っている印象です。

【観山部会長】  ただ永遠に続くわけではないので、それに対するいろいろな問題点はもちろんあろうかと思いますけれど。
 私は1つのWPIのプログラムオフィサーをしていますので、知らないわけではないのですけれども、外国人を非常にたくさん入れるとか、それからフュージョン、分野融合ということを一つの目標に掲げてほしいということとか、それからアンダーワンフローフというか、いろいろな分野の人が1つの屋根の下で研究できるような環境を。これはホストユニバーシティーの協力がないとできないのですけれども。
 それからお金は人件費にしかほとんど使えないということとか、ボードとかワーキンググループが、外国人を含めたものが毎年サイトビジットしていろいろ評価するという、様々な、今まではないようなプログラムで動かして、さきほど言われたように、もう教授会とかなくて、要するに拠点長が基本的な方向性を決めていくということですが、さて、委員の方々、御質問とか御意見とかいかがでしょうか。

【上杉委員】  1つよろしいでしょうか。自分で言っておきながら申し訳ない。前田先生か文部科学省にお答えいただきたいのですけれども、前田先生のところの研究所は、産学連携によって将来生き延びる可能性があるのではないかとお考えです。WPI補助金が終わった後、リベニューがそこからあるのではないかということです。これは一つの考え方なのです。iCeMSもやっております。
 しかしやっているうちに、その産学連携ではあまりうまくいかないことを、実はiCeMSの場合には思いました。例えばある特定の会社と共同研究をやって、それは良いののですけれども、やっぱり会社にも事情がありますし、何十年とそれができるわけではない。そのときにつけた成果というのは、その会社と一緒にやったものなので、その後スタートアップにするのも難しいかもしれません。
 やるならば、早い段階でスタートアップにして、そのスタートアップがその会社に買われるか、もしくは共同研究をするというのが、基礎研究に集中する方法ではないかと、僕はそう考えたのです。でも前田先生や、ほかの文部科学省の方、もしくはほかの委員の方がどういうふうに思われるのか、御意見を伺えればと思います。これは非常に重要な問題です。今後の大学のやり方を占う上で非常に重要な問題だと思います。基礎研究をする上で非常に重要だと思います。どうぞ。

【前田委員】  ありがとうございます。我々はこれからそこをやっていく段階で、この後5年間でどうやって自走にもっていくかというところを、ぜひたくさん意見交換させていただいて、教えていただきたいのですけれども。我々も、スタートアップ企業を幾つかつくろうかという話をちょうど始めたところですので、今いただいた御意見はすごく貴重で、ぜひ参考にさせていただきたいです。我々はそこをいろいろ今まさにやっているところですので、文科省の方からも何か御意見があると、非常にありがたいです。

【観山部会長】  いや、難しいところだと思いますが、コメントありますか。

【西山課長】  文科省からよろしいでしょうか。

【観山部会長】  はい。どうぞ。

【西山課長】  基礎・基盤研究課長です。
 今の上杉拠点長からいただいた問題提起はとても重要な話だと思っています。WPIを創設してから16年が経過しておりますが、おっしゃるとおり、WPIというプロジェクトは10年間の支援が基本ですので、5年にしろ、10年にしろ、15年にしろ、何かしらのプロジェクトとしてのお尻は設定するわけです。
 他方で国費をかなりの金額を投入しているわけですから、その国費の投入が終わった瞬間に価値が低減するのではなくて、補助支援の終了後も、持続可能な形で成長、発展していく、そのモデルをしっかりとつくっていくということが、現状のWPIの最も大きな課題であろうというふうに認識をしています。
 そもそも論として間違えてはいけないと思っておりますのは、これは10年間のプログラムで、最初に大学、ホスト機関から提案していただくときに、10年かけて大学は、その拠点を自立化、内製化するということのコミットメントはいただいておりますので、この点大学における役割というのは変わらないと思います。ですので、それはきっちりと行っていただきつつも、国として、WPIの制度として、拠点がより成長、発展できる環境をどのようにつくっていくかというのが、国側の役割だろうというふうに思っております。
 上杉先生がおっしゃった、スタートアップ等は、私は一つの解決法だというふうに思います。他方でそれ以外にも、例えば東京大学のKavli IPMUは、海外のカブリ財団が基金をつくり、その基金の運用益で、毎年支援を得ています。これをKavli IPMUの運営に充てているというようなビジネスモデルもありますし、また大阪大学のIFReCにおいては、企業さんと10年間、100億円の支援をするという包括連携契約を結んでおります。
 これも、10年間、100億円というのは共同研究という形ですが、基本的には運営経費にきちんと充てられる、すなわち人件費等に長期的な形で充てられるということで、いかにこのWPIというブランドを強化しつつ、拠点で行っている、その基礎科学の価値というものを、社会、産業にきちんと認められる形で評価を得つつ、そこで得られた収益というのを、長期的な学問に再投資していくのか、そういうようなビジネスモデルは今申し上げたとおり、複数あると思っていますので、そういう環境がつくれるような支援、環境整備を、文科省としてはしていきたいと思っております。

【観山部会長】  ありがとうございました。いろいろな形があると思いますが、上杉先生が言われたのは、基礎科学、つまり10年ぐらいだと、それがすぐ企業とかに展開できるようなレベルにはなかなか難しい。基礎科学ですので。基礎科学でリニューアルして、また支援ができるような体制がうまくできるか。大阪大学だとかカブリというのは、非常に良いスポンサーなりを見つけたかと思いますけれども、なかなか分野によっては難しい分野もあろうかと思いますので。
 非常に良いプログラムをつくったと思うのですが、今後やっぱりどうやってそれを継続させるか。確かに大学は約束してやったのですが、最初に始まったのは2007年とかそれぐらいの年ですので、その頃の運営費交付金と今の運営費交付金で言うと、結構レベルが下がっていますので、大学自体の余裕度というのも、なかなか厳しい状況になっていることも事実なわけですよね。
 美濃島さん、どうぞ。

【美濃島委員】  すみません。ちょっと途中で割り込むような形で。
 ちょっと関係する話なのですけれども、上杉先生にお伺いします。この大型プロジェクト、WPIにかかわらずですが、それが突然終わってしまうのは非常に大きな根本的な問題だと、いろいろなところで私自身も思っているところなのです。大学がコミットするということを約束しても、基本的な姿勢は変わらないのですけれど、大学の執行部もどんどん替わっていきますし、最初の発足のときにいろいろ話はしていて、例えば人材をパーマネント化するなどを約束していても、実際諸事情でなかなか行われなかったりとか、難しい面をいろいろなところで見ています。
 その中で上杉先生にお伺いしたかったのが、資金面で、直接このWPIで雇用する人数が大きく減っていたのに論文数が半減で済んでいるという話が、最初にあったと思うのです。
 いろいろな御努力をされた上で、このようにされているということだと思うのですけれども、データとして、それは新たないろいろな資金獲得によって雇用して、関係する人たちをある程度確保しているためにそうなっているのか、それとも、言い方はちょっとあれですが、非常に生産性の高い人だけが結果として残っていて、少ない人数ですけれども論文の生産性が保てているのかというような、実質的な論文1本当たりの人数と言ったら何なのですが、その半減で済んでいるというのは、どこにポイントがあるとお考えでしょうか。

【上杉委員】  簡潔に申し上げれば両方です。WPIの補助金がなくなって、なにもしなければかなりの方々が解雇になってしまうわけです。でもそれを最小限に抑えるために、何らかの外部資金、そして大学本体もいろいろなポジションをくれたのです。それによってある程度に止めた。それが1つです。
 もう一つ、でも人数はかなり減っています。ピークのときから半分に減っています。でも、論文数が半分になったり、インパクトの高い論文も半分になっていないのです。それは、ある程度質の高い人が残ったからではないかと思います。あまりこういうのはどうかと思いますけれど、精査されている人らが残っている。ある意味テニュアトラックみたいになったのです。若い人たちもかなり雇用しましたので、独立した若い人たちがいて、そういう人たちで良い人らが、テニュアみたいな形で京都大学のiCeMSに残ったというのもあります。
 もう最初のメンバーは、今、私と北川先生しかいません。全部入れ替わりました。それで若い人をリクルートしたり、若い人らが育ってきてPIになったという理由で、質が良いのだと思います。でも、出ていった人達も、かなりの人材です。
 今どこにいるかというと、いろいろな日本の大学、そしてその他の海外の大学にかなり行っています。ですから減ったといっても、その出ていった人がみんな悪いというのではなくて、質の高い人たちなのです。それぞれが活躍できるところに移ったのです。iCeMS出身だという人が世界中にいます。出ていったのですけれど、悪いことではなかったなというふうに思います。

【美濃島委員】  もちろん人材輩出というか、育成という効果は十分あると存じていますので。

【上杉委員】  すみません。あまり歯切れの良いお答えではなくて。

【美濃島委員】  いいえ。

【上杉委員】  情報ということですみません。

【美濃島委員】  分かりました。

【観山部会長】  ありがとうございました。時間が来てしまっていますが。

【美濃島委員】  すみません。

【観山部会長】  ほかに何か。

【美濃島委員】  1つだけ良いですか。
 もう1個、前田先生のほうの最後のコメントの、課題というところで、もちろん若手を独立させて育成するのも重要だけれども、やっぱりシニアのPIのほうも何とかしないと、長期的な研究力が落ちますよという御指摘がありましたが、非常に私も感じているところであります。上杉先生のお話、拠点を継続的に残すということとも関係すると思います。その中でこういったWPIなどの非常に大きな拠点を残していくという観点も重要ですが、それに関係して私などが思うのは、日本全体の研究力維持を考えると、中小規模の拠点でないところとか、中小規模の大学とかそういうところで、もう既に非常にまずい状況が起きているというのを感じております。もちろん若手の方をどんどん支援するのは非常に重要なことなのですけれども、そこだけにどうしても今偏ってきているように思いまして、シニアなPIがもたなければ、若手の方を支援することもできず、若手の方にそれこそ先ほどの雑用が全部回ることになりますので、教育にしろ、雑用にしろ、非常にまずい、クリティカルな状態に、中小規模大学とかそういうところから先に起きるのではないかと思っております。
 それは若手にとっても学ぶ機会がなくなるということで、上のシニアなPIから、組織の運営ですとか、いろいろな機会に学んでいく、その中で、いろいろなトライをしていくという機会も失われていくと思うので、組織としてのセーフティーネット、日本の研究力のセーフティーネットが失われるという意味で非常に問題だと思っております。そういったところもぜひ、それは文科省のほうですけれどもお考えいただきたいと思います。お願いします。

【観山部会長】  文科省に向けですね。
 ほかにどうでしょうか。
 どうもありがとうございました。ちょっと時間を延長してしまいましたけれども、本日の議題はこれまでにしたいと思います。
 基礎研究振興部会運営規則第7条に基づいて、本部会の議事録を作成して、資料と共に公表することになっておりますので、本日の議事録については、後日メールにてお送りいたしたいと思いますので、御確認のほど、よろしくお願いします。
 事務局、何かありますでしょうか。よろしいですか。

【春田課長補佐】  ございません。ありがとうございます。

【観山部会長】  それでは、以上をもちまして、第12回科学技術・学術審議会基盤研究振興部会を閉会といたします。今日は本当にどうもありがとうございました。失礼いたします。
 
―― 了 ――

お問合せ先

研究振興局基礎・基盤研究課