参考資料3 世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に関する評価・改善点について

平成28年7月15日
戦略的基礎研究部会

 科学技術・学術審議会 戦略的基礎研究部会においては、平成27年4月の部会設置以降、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)に採択された拠点への訪問や拠点長、ホスト機関関係者からのヒアリング等を行い、当該プログラムの成果及び課題を踏まえた新たな制度設計について審議を進めてきた。
 これまでの議論を踏まえ、WPIのプログラムとしての評価及び改善すべき事項を以下の通り、とりまとめる。

1. WPIのプログラムとしての評価点
 WPIは、国際頭脳循環のハブとなる世界トップレベル研究拠点の形成を支援するプログラムであり、その評価は、研究成果と研究環境・研究システム改革の両面から行うべきである。

(研究成果)
○各WPI拠点は世界のトップレベル大学と同程度またはそれ以上に優れた研究論文を多数輩出するなど、極めて高い水準に達している。
○特に、WPIがプログラムのミッションとして「融合領域の創出」を掲げ、10年の長期にわたって安定した支援を続けてきたことは、プログラムを特徴づけ、WPI拠点からユニークかつ高水準の科学的成果を生み出される源泉となっている。
○優れた研究者の一定規模の物理的な集積を確保し、トップレベルの研究成果を生み出す、これまでの日本にはなかった新しい研究のあり方とその有効性を実証したことは、極めて高く評価できる。
○これらの優れた成果は、当該分野で国際的に高い知名度を獲得することにつながり、一部拠点が米国民間財団からの多額の寄附を得るなど、国内外にさらに大きなインパクトを与えている。
○また、平成28年、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)が中外製薬との間で締結した10年間で100億円の支援を受ける包括連携契約は、基礎研究段階から長期かつ大型の産学連携を行う画期的な先例であり、WPIの卓越した成果をあらためて示した好例と言える。

(研究環境・研究システム改革)
○ポスドクの国際公募や英語使用を標準とする事務体制の整備などを要件として求め、結果として平均で外国人研究者の比率が40%を超える高度に国際化した環境を達成していることは高く評価できる。
○海外からの優秀な人材の引き抜きや囲い込みではなく、プログラムの目標である国際頭脳循環のハブとして、高い流動性が保たれていることは、極めて高く評価できる。
○高い国際性の実現には、スタートアップ支援の充実や、高度な研究支援員の配置を含む共通機器システムの構築など、海外の一流の研究機関と同等の「国際標準の」充実した研究支援体制が構築されたことが重要な役割を果たしており、WPIが総合的に支援可能なプログラムであったことの意義は大きい。
○生活面での支援も可能となるよう制度が設計され、研究面と生活面の両方から充実した支援が受けられる環境が整えられた点も評価できる。
○拠点長によるトップダウンマネジメントと事務部門を統括する「研究がわかる」事務部門長によるマネジメント体制は、改革を実現する大きな力となっている。
○改革の成果は、大学等のホスト機関にとっても大きな、好ましい変化を与えている。英語使用を基本とする事務体制などの目に見える成果・変化だけでなく、大きな改革を成し遂げた身近な存在として、ホスト機関全体の意識改革を促している面についても評価すべきである。

(事業全体)
○WPIがプログラム全体として達成した成果は、極めて高いものであり、プログラムとして大きな成功を収めている。
○この成功は、各拠点・ホスト機関の多大な努力はもちろんのこと、プログラム・ディレクター、プログラム・オフィサー、プログラム委員会等、関係者が一丸となった献身的な運営が重要な役割を果たしている。
○WPIの投資効果は、これまでの拠点形成事業と比較して明らかに優れており、WPIの大規模かつ長期的な投資に見合う成果が得られている。
○WPIが国際的な知名度、ブランドを確立し、これを維持・発展させていくことは、日本の長期的な財産となる。

 WPIは、以上の通り大きな成功を収めており、プログラムとして今後とも継続させるべきである。

2. WPIのプログラムとしての改善点
WPIは、平成19年度のプログラム開始から10年が経ち、更なるプログラムの運営の効率化、成果の最大化等のため、修正・改善すべき点もある。文部科学省は、特に以下の点についてプログラムの改善を図るべきである。

(成果の最大化・波及)
○拠点形成後の成果の定着を促す制度設計が必要である。過去の拠点形成事業では、良い成果が雲散霧消してしまったものも少なくない。成果を確実に定着させ、政策効果を最大化させることが重要である。
○WPIは日本の大学全体の国際化や研究環境改革を強力に牽引できる存在であり、WPIの優れた成果を可能な限り全国に波及させていくべきである。ただし、成果の波及は、拠点・ホスト機関の責任を超えるため、国の責任で全国への成果波及を行うべきである。

(拠点間の横串、ネットワーク化)
○WPI拠点を横につなぎ、グローバルな拠点間連携や、新たな価値や研究領域を積極的に作り出していくという視点を加えるべきである。
○研究者や政策関係者の間ではWPI事業の知名度が高い一方で、一般の方々や海外では十分に知名度が高いとは言えない。戦略的な広報が必要である。
○優れたスタッフの共有化、拠点間での研究者の流動化など、拠点間で連携した固定費の削減方策を検討すべきである。

(人材育成)
○手厚い研究支援体制の構築に必要な人材が不足している。WPI拠点が、それらの人材の育成の場になることも重要である。
○学生、特に大学院生を積極的に拠点に受け入れ、育成する機能を導入・強化すべきである。

(補助金支援終了後の制度設計)
○WPI拠点は、国際的なブランドを確立したため、そのブランドが毀損されてしまった場合は、国益を損ねる。WPIのブランドを守るための方策を検討すべきである。
○産業界との連携は重要な論点。WPI拠点は、経営できる研究拠点のモデルを目指し、外部からの人材活用も検討すべきである。
○効率的・効果的なマッチングなど、WPI以外のプログラムとの連携による拠点運営を目指すべきである。そのためには、大学改革と連動した全体デザインとロードマップが必要である。

以上

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