戦略的基礎研究部会(第6回) 議事録

1.日時

平成28年1月7日(木曜日) 16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省 5F3会議室

3.議題

  1. 世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムにおける拠点の在り方について
  2. その他

4.議事録

【大垣部会長】
 それでは、定刻となりましたので、ただいまから第6回科学技術・学術審議会戦略的基礎研究部会を開催いたします。
 改めまして、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。本日は年初の御多忙のところをお集まり頂き、まことにありがとうございました。
 では、まず事務局より配付資料の確認をお願いします。

【浅井室長補佐】
 資料については、議事次第の後に資料1-1から資料1-4までと資料2、そして参考資料が1から3までを付けさせていただいております。欠落等ございますでしょうか。万が一ありましたら、会議の途中でも結構ですので、事務局までお知らせ下さい。
 なお、本日、阿部委員、角南委員、長我部委員については欠席の連絡を頂いております。有信委員と川上委員、柳川委員は遅れて出席される見込みです。
 また、事務局として1月1日付の人事異動により基礎研究振興課長が交代しておりますので、紹介いたします。基礎研究振興課長の渡辺でございます。

【渡辺基礎研究振興課長】
 渡辺です。よろしくお願いします。

【大垣部会長】
 それでは、議事に入りたいと思います。本日の議題ですが、世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムにおける拠点の在り方についての審議を行いたいと思います。本日は、東京大学に置かれましたWPI拠点であるカブリ数物連携宇宙研究機構の村山斉機構長及び春山富義事務部門長、三田一郎プログラム・オフィサーにお越し頂き、拠点の実情とこれからのWPIプログラムに求められる改善事項等について御説明を頂きます。その上でWPIプログラムにおける拠点の在り方について御議論頂ければと思っております。以上が本日予定している議題です。積極的に御意見を頂くとともに、議事の円滑な進行に御協力をお願いしたいと思います。
 それでは、世界トップレベル研究拠点(WPI)プログラムにおける拠点の在り方についての審議に入らせていただきます。前回は黒木登志夫プログラム・ディレクターにより、本日いらっしゃっていますけれども、昨年10月に開催されたWPIプログラム委員会における議論の結果について御報告を頂くとともに、プログラム・ディレクターとしての今後のWPIプログラムの在り方について御提案を頂き、議論したところであります。今回も引き続き今後のWPIプログラムの在り方について議論を進めてまいります。
 まず、事務局から本日の議論の論点案、WPI各拠点の概況について説明していただきます。その後、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構、村山斉機構長から同機構の概要、これからのビジョンを御説明頂くとともに、次期WPIプログラムの検討に当たって特筆すべき成果と課題、改善すべき点についてもお考えを伺います。また、同機構を担当していただいております三田一郎プログラム・オフィサーからもプログラム・オフィサーとしての立場から見たWPIプログラムの成果と課題についてお考えを伺います。
 では、初めに事務局から説明をお願いします。

【斉藤基礎研究推進室長】
 資料の1-1と資料1-2をお開き頂きたいと思います。まず、1-1でございます。「WPIプログラムの将来構想の検討にあたっての論点」ということで、簡単に今日の議論の背景となるような状況を御説明させていただきます。
 まず、1ページ目でございますが、これは前回も御紹介させていただいたと思うのですけれども、10月に開かれましたWPIのプログラム委員会で現在このようなお話を頂いているという御紹介でございます。大きく分けて二つの検討課題あると思っておりまして、一つ目は1.にございますけれども、平成29年度に新規に拠点公募を行うべきという方向性でございます。二つ目は現行のままで行きますと来年度で補助金の支援期間が終了となる当初に立ち上がった5拠点のうち4拠点に対して、その拠点の機能をなるべく維持していただくという観点から、何らかの支援スキームを整備してWPIのブランドを維持すべきではないかというような御指摘を頂いておりまして、WPI Academyなのか、Associationなのか決まっていませんが、新たなシステムを作って評価を受けながら維持していくということが必要ではないかということを指摘されているというのが1ページ目でございます。
 2ページ目でございますが、それらの方向性を受けまして、今後、WPIプログラムの今後の基本構想を御検討頂くに当たりまして、事務局の方でこれまでのWPIプログラム全体及びこの下の6項目はWPIプログラムのミッションとして今まで立てさせていただいている4項目でございますけれども、それぞれについてこれまでどういう成果が上がっているのかという話と、現状にはどういう課題があって、どういう検討すべき論点があるのかという話、それを受けてどういう方向を目指すべきかというのを一覧表の形で整理させていただいたのがこの紙という位置づけでございます。
 現段階で整理がここまで進んでいるというものでして、これに対してもいろいろコメント頂きたいと思いますが、まず、プログラム全体につきましては、プログラム全体は成功しているのではないかという評価をいろいろ頂いていると思っております。PD・PO等による進捗管理がしっかりしていて、さらにプログラム委員会による評価をしっかり進めているという評価を頂いている。一方で、現状の課題に対しましてはプログラム終了時に、現在もそうですけれども、かなり大規模な補助金による支援が今まで行われてきて、その終了時の制度設計をもう少し工夫した方がいいのではないかというような御指摘も受けておりまして、それを受けて先ほどの1ページ目にございました拠点の維持の観点からの新たな仕組みの検討やプログラムの再定義、また、新陳代謝を図るための新規拠点の公募というようなことを考えていったらいかがかという整理かと思います。
 四つのミッションのうち一つ目、世界最高レベルの研究水準については、極めてすぐれているという評価を頂いている一方で、それを維持するための評価活動に対して客観的な評価体制みたいなことも含めて、更には兼任のPIの方が多くて成果が見えにくいというようなことも含めて、もう少し工夫の余地があるのではないかという方向性。研究組織の改革につきましては、クロスアポイントメント制度の先駆けになるなど様々な成果を残している一方で、拠点以外の大学なり法人なりの組織全体に取組の広がりという意味では、まだまだ不十分な点があるのではないかということで、組織内での展開を応援するための何か新しい仕組みなり、ほかの事業とも関連した枠組みなりを考える必要があるのではないかというのを今考えております。
 国際的な研究環境の実現という意味ですと、英語対応ができる事務職員、若手研究者の育成に貢献している、国際的な共同研究が進んでいるというような成果がある一方で、そのような高い能力を持つ事務職員が不足している、研究環境の整備の在り方ももう少し工夫の余地があるのではないかというような指摘も頂いております。それらについても引き続きそれを加速する方向で進めるということかと思います。融合領域の創出につきましては、分野融合的な研究が着実に進んでいるという面がある一方で、分野融合そのもの、融合そのものが自己目的化しているというような御指摘も一部でいただいておりますし、人文・社会科学については対象としてどのように扱うべきかというようなことで御指摘を頂いている状況であると思っております。
 3ページ目ですが、これからのWPIプログラムを全体として考えるときに四つのミッションについて整理したものでございます。四つのミッションは変わらずここに掲げておりますけれども、それぞれのミッションを具体的にどういう内容であるのか、そのミッションの到達度を測る際にはどのような基準で見るべきなのかということで、プログラムとして意識すべき具体的な内容ということでここに例示をさせていただいております。それぞれについて一番右の国の役割ですけれども、1.世界レベルの研究水準や新しい研究領域の開拓などにつきましては、従来も主に研究費については競争的資金で獲得していただいておりますし、PIの人件費などはWPIプログラムで見ておりますけれども、このような仕組みになっています。
 一方で3の組織改革の先導ですとか、4の国際的な研究環境につきましては、国のシステム改革の諸制度とともに引き続き国がしっかり支援していくべきものではないかという整理をしております。そのため、先ほど出てまいりました既存拠点の機能の維持というようなことを考えるにしても、この下の二つというのがポイントになってくるのではないかという整理でございます。
 資料1-2でございますが、これは今後のスケジュール感を整理したものでございます。これも前回御紹介させていただいておりまして、おさらいの形になりますが、本日、この部会の方で様々な御意見を頂いたことも踏まえまして、先ほど御説明させていただいた新規の拠点の公募をどうするかという話と既存拠点の機能の維持をどういうふうに進めるかという二つの面について引き続き関係者からの意見聴取や文科省の素案作りなどを進めてまいりたいと思っております。1月27日にWPIプログラムの日本人委員会がございますので、そちらの方でも御議論頂きつつ、今後、3月、6月に予定されています本部会において御議論頂きまして、8月の予算要求に反映させたいというのが中期的なスケジュールになってございますので、本日、これに向けた具体的な御議論を頂くという位置付けになってございます。
 以上でございます。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。
 後ほど十分な質疑、討議の時間がございますが、この今の資料1-1と資料1-2に関して、資料として何か御不明な点がありましたら、今、お受けしたいと思いますが、いかがでしょうか、よろしいでしょうか。

【土井委員】
 細かいことで恐縮ですが、2ページ目の国際的な研究環境の実現、これまでの成果というところですけれども、英語対応できる事務職員等、革新的な運営環境を実現と書いてあるのですが、多分、革新的な運営環境を実現したということが重要で、この書き方だと少し、英語対応できる職員を雇えば革新的な運営ができるように誤解されてしまうので、少し書きぶりを考えていただいた方がいいのかなと思いました。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。
 これはよろしいですね。後ほどまた議論をしていただく。ほかにはよろしいですか。ありがとうございます。
 それでは、早速、村山斉機構長より御説明をお願いしたいと思います。お願いいたします。

【村山機構長】
 今、指名頂きました村山斉です。WPIで東大に作られましたカブリ数物連携宇宙研究機構の機構長をしています。私から見たWPIということで、今までWPIの目的は何であったのか、成果はどうなのか、今後をどう考えているかということです。全て私の私見ですので含んでいただきたいと思います。ちなみに、5人の委員の方は、実は去年8月に私のところに来ていただきまして、実際にどういうことが行われたか見ていただきました。ほとんど重複していますので、その方々には申し訳ないですけれども、ほかの委員の方々には初めてのお話かと思います。
 まず、私から見たWPIの目的ということなのですが、そもそも私自身がWPIでして、人生の約半分、外国で暮らしていて、WPIが始まる前はアメリカのバークレーに住んでいました。元々帰国子女です。日本で仕事をするつもりはさらさらなかったので、そもそも私が日本にいること自身がWPIの一つの成果と、もし思っていただければ嬉しいですけれども、そういう立場から見てWPIの話を初めて聞いたときに非常に共感できるものがありました。外から日本を見ていて、日本の研究者、個人的に知っているわけですけれども、非常にもったいないと思ったことがあります。
 WPIは世界で目に見える研究拠点を作るということなのですが、外から見て本当に日本にはすぐれた研究者が多いと思うのですけれども、例えば日本からすごくいい論文が出た、周りの私の友達がその話をしているときに、あのジャパニーズペーパーだと言うわけです。誰の論文と言わない。顔が見えていない。せっかくこんなにいい仕事をしているのに、誰もその人の名前を覚えていないという事情がある。本当にもったいないと思います。日本人は残念ながらvisibilityで圧倒的に損をしているなといつも思ってきました。地理的に離れている。英語力が低い。コミュニケーション能力が劣るとか、いろいろな問題があると思いますけれども、非常に損をしている。日本はもちろんノーベル賞がたくさん出る国ですけれども、もっとそういうコミュニケーションがツーカーになれば、ノーベル賞が倍になっても不思議はないと私は個人的に思います。すごく損していると思う。もっと世界とツーカーになれないものだろうか、外から見ていてずっと思っていました。
 そこでこのWPIというのができたわけですけれども、御存知のとおり拠点当たり年間約13億円、WPI Focusはその半分ですね。10プラス5年間でやって、日本で初めて英語を公用語とする研究所を作る。外国籍研究者は3割以上そろえなさい。スタッフは大体200人そろえなさい。そして、分野融合で新しい分野を生み出し、運営の方法も、いわばアメリカンスタイルで、教授会とかはなくてトップダウンの運営をしなさい。そして、この年間13億というお金も、これは研究費ではないのだと。共通のインフラを作って、拠点を作るためのお金であって、研究費は別に取ってこいというプログラムですから、このお金は全く研究に使えません。研究費は別途確保する。そして、こういう仕組みでもって世界で目に見える研究拠点を作り、人材の世界的な流動の「環(わ)」の中に置くのだというのがこの目的だったわけです。
 これを10年で実現しろというのは、正直言ってそんなことできるのだろうかと思ったぐらい非常に野心的な計画です。つまり、こういうことができる研究所というのはプリンストンの高等研究所であれ、マックスプランク研究所であれ、本当に長い歴史を持った研究所がこういうレベルに達するわけなので、それを10年でやれ。これは大変な話だと個人的には思って、そのときは自分がそれに関わるとは夢にも思っていなかったわけですけれども、実際にそういうことになりました。先ほどまたお話がありましたけれども、この毎年の審査というのが非常に厳密に行われている。
 ここにいらっしゃる黒木プログラム・ディレクター、また、宇川プログラム・ディレクター代理、そして三田プログラム・オフィサーを中心としてこういう組織があり、それぞれの拠点に年に1回現地視察があって、これは非常にいい運営の仕方を先ほど斉藤室長がおっしゃいましたけれども、審査される側からするとものすごく大変です。このためにみんなでガチガチとプレゼンテーションを練習して、1日、2日間、びっしりその審査を受けて、レポートが出て、それがプログラム委員会に上がる。プログラム委員も御存知のとおり非常にそうそうたるメンバーが入っていて、プログラム委員会の約3分の1が外国人だと。これも非常に大きな特徴だったと思います。この審査を受けながら、本当にちゃんとやっているのか。そもそもこの拠点、やらせていいのだろうかというところから始まって、WPIプログラムは始まりました。
 その仕組みの中で拠点長は何をするのかといいますと、これははっきり言ってサービス業です。もちろん自分のビジョンでもって拠点のアイディア、設計を行い、運営していくという、それは非常にやりがいのある仕事であって、それはとてもいいのですけれども、そうやって考えて夢の研究所というのは残念ながら自分のためではなくて、本当にそこにいる所員の人が伸び伸びと研究できる環境を作り、それが最終的には日本全体のためになるということを目指す立場です。ですから、実際の仕事は何ですかと言われたときに私がいつも言うのは、1がサンドイッチマン、こういう拠点を作りましたから来てください。2がリクルート、人買い。人を連れてこなければいけない。3が、研究費が別ですから金せびりと言っているのですけれども、研究費を何とかして持ってこなければいけない。これが基本的に拠点長の仕事で、しかも、私はそのバークレーと掛け持ちをしているものですから、あるときアメリカ物理学会誌にこんな写真が掲載されてしまいました。こういう生活をしているという、そういう毎日です。
 そうやって始まったWPI、今のような目的のために何をやったかということですけれども、成果に関して言うと、当然、私自身の拠点のことしかよく知りませんので、その例を御紹介したいと思います。御存知のとおり国際化、サイエンスの世界レベル、そして分野融合、そしてシステム改革というのが四つの目的だということになっているわけですけれども、国際化に関して言いますと、うちの研究所は完全にゼロから出発して、2007年10月に誰もいないところから発足したわけです。私自身もそのときはいませんでした。1年たって集めたメンバーがこういう様子で、ごらんのとおり既にかなり国際的な感じになっています。これが3年後、そしてこれがこの間、8歳のときに撮った写真です。こうやってどんどん人が増えてきて、メンバーの約5割が外国人という編成になっています。ポスドクは本当に外国人が多いですけれども、教官レベル、助教、准教授、教授のレベルで見ても36%が外国人で、数字だけ見るとMITとかハーバードよりも外国人比率が多いという研究所です。
 例えばどんな人が来ているかということなのですけれども、例えば彼女は天文学者なのですが、イギリスのPortsmouth大学からテニュアのオファーがあったにもかかわらず、テニュアトラックの我々の助教に来てくれました。それから、Mark Hartzというアメリカ人ですけれども、これはアメリカの国立研究所のテニュアトラックのジョブを蹴って我々のところに来てくれました。それから、Mikhail Kapranovというのはイエール大学の教授で数学の研究をした人なのですけれども、イエールをやめて移ってきました。こうやって世界中からいろいろな人が集まってきています。
 特に我々にとって非常に嬉しかったのはポスドクです。まず、これは非常にこれからやっていくべきことだと思っているのです。WPIの課題として、国際的な研究所を作るためのノウハウというのは、それぞれの研究でどんどん積み重ねてきたわけですが、例えばポスドクの公募をするときというのは、欧米に合わせるとタイムテーブルが完全に決まっています。それに合わせないとまず応募してもらえない。そういうところから始めるわけです。そして、先ほど言いましたようにサンドイッチマンをして世界中を行脚して、ともかく応募してくれということをやった結果、毎年約800人の応募があるようになりまして、そのうち700人以上が外国人、その中からざっと10人、15人を採用していくという仕組みができ上がりました。
 そして、2015年の3月までに120人のポスドクを採用し、89人が既に育っていったわけですけれども、そのうち研究を離れた人は1割未満で、既に4割の人がどこかの研究所のファカルティに既についています。こうやって世界中からこの研究所にやってきた人がまた世界に羽ばたいていって、若しくは日本のほかの研究機関に行って更に高いポジションについていくという、本当にキャリアパスとして成立してきたなと思っています。その例が例えば去年のこのリストです。こうやって集まってきた外国人がそれぞれまた自分の国に帰っていくだけではなくて、日本に定着していく例というのも最近たくさん出てきていまして、例えば筑波の助教についた人、京都の助教についた人、こういった格好でWPIはWPIの拠点だけでなく、その成果が徐々に日本に浸透してきているということの一つの例かなと思っています。
 ノウハウの一つなのですけれども、特にこういう外国人の研究者の場合、特に欧米の場合ですけれども、先ほど言いましたように日本の研究者の顔が見えていないという状況がある。そうすると、自分が日本に行ったら、自分も顔が見えなくなるという本当に恐怖心を持って日本にやってきます。その恐怖心を何とか取り除かなければいけない。そのために心がけているのがこの研究交流です。我々のところでは毎月1回ぐらい国際研究集会を開いていて、それがたくさんあるわけですけれども、そういうものを通じて、かれこれ年間1,000人近くのビジターが訪れ、そのうち約半数は外国から来ます。
 ですから、うちの若い研究者に聞いてみると、アメリカのちょっと小さい大学にいるよりも、日本のここにいる方がはるかに世界中の一流の研究者に会えるとまじめな顔をして言うぐらいです。こういうふうに日本にいながらにして、常に世界中の人と接する機会があるという環境ができていれば、若い研究者も安心して、じゃあ、自分の次のキャリアパスはあるのだと思って安心して研究生活ができるわけですけれども、そういう環境がないと、日本に行くということは、本当に彼らは恐れを持って考えるので、これは一つのノウハウの一部だと思っています。そして、本人たちにも年間11か月以上日本にいてはいけないというルールを作っていまして、要するに自分の足で出掛けていって、ほかの研究所の人と話をし、講演をし、会議に参加して自分を売ってこい。それはひいて言えば我々の研究所の名前も売ってきてくれることになるのでvisibilityを高めるのにもこれは非常に役に立っていると思います。こういうことを通じて世界とつながった、本当に世界に目に見える研究拠点を作るという活動になっていると思います。
 サイエンスと分野融合に関してですけれども、うちの場合には数学、理論物理学、実験物理学、天文学とざっと4分野あると言っているわけですけれども、まず、そのいろいろな分野の人を無理やり会わせて、そこから研究が起きるような環境を作るにはどうすればいいか。その取組の一つが毎日3時に行われるティータイムで、うちの研究所は基本的にデューティはありませんから研究をみんなやるわけですけれども、ティータイムに来るのが唯一のデューティだと言っています。そのときの様子、実は爆笑問題の2人が来られたので、そのビデオを流してみます。

(ビデオ上映)

【村山機構長】
 この辺から品が悪くなるのでやめますけれども、そういう活動を通じて論文が着実に出てくるようになりまして、もちろん最初はゼロだったわけですが、今は毎年500件近くの論文が出版されている。その引用件数を比べてみても、例えばプリンストンの高等研究所、アインシュタインのいたところですが、そういうところと比較しても数字としてあまり遜色のない、そういうレベルの研究が行われるようになりました。つい先ほどのティータイムの例ですけれども、あるときに本当に分野融合でティータイムから論文が出たことがあります。まず、アメリカのグループが、さっき少し出ました超新星、星が生涯の最後に爆発を起こすという現象で、新しいタイプの、今までよりももっと明るいものを見つけたという発表をしました。そういう論文が出たわけです。ハーバードを中心としたグループです。
 先ほどのビデオに出てきたRobert Quimbyさんが、実は彼は今までで一番明るい超新星を発見した人ですから、この分野のことをよく知っている。論文を読んでいくと、どうもこれはおかしい。今まで知っているやつによく似ているんだ。実際、どうやってその超新星が明るくなって、だんだん暗くなっていくか。カーブを見ますと、これはよく知られているタイプなのですが、ハーバードのグループが見つけたのはこれと同じで、確かに30倍明るいのですけれども、カーブがほとんど同じです。全体として明るくなっているだけなのに性質は非常によく似ている。これは何だろうか。その話をティータイムでほかの人にしたところ、たまたまそこにいた数学者が、こういうことではないか。アインシュタインの理論を自分の分野である微分幾何学を使って調べてみると、こういうことがあり得る。ここで起きた超新星とこの我々の間のちょうど一直線上に、ここに誰も気がつかなかった銀河があったとしましょう。そうすると、この銀河の重力でもってここから来る光が落ちる。
 つまり、曲げられますから、凸レンズの虫眼鏡の働きをして、この超新星がたまたま明るく見えたのではないだろうかというわけです。これは数学的にはあり得るのだということなのですけれども、数学的にあるからといって現実に宇宙で起きるのだろうか。誰も気がつかなかった銀河とこの超新星がたまたま本当に一直線上にある確率はほとんどないと思われます。ところが、そのときにまた、たまたまその場所にいた物理学者なのですけれども、その物理学者は今まで非常に大きなデータを扱ったことがあって、このハーバードのグループが持っているデータはかなり大きいデータですから、そのデータの中にこういうたまたま一直線上に並ぶという確率をパッと計算してみると、1個ぐらいはあっていいよということが分かったわけです。それで慌てて3人を中心にすぐ論文を書きました。
 本当にティータイムの会話から出た論文です。この段階では、これは本当かどうか分からない。仮説だったわけですけれども、実は1年後、この超新星が本当に消えてなくなった後、もう一度観測をしてみると、確かにこの一直線上にここにもう一つ、誰も気がつかなかった銀河があるということがはっきり証明できました。これでこの解釈が間違っていないということが分かったわけです。これはかなり日本の新聞にも取り上げられまして、特にこの朝日新聞の記事がおもしろかったのですけれども、拡大してみると、ここにハーバード説、東大説とあって、東大説が正解と書いてあります。勝ったというわけですね。外国のメディアにもかなり出まして、特に外国のメディアにこれを発信していくいろいろなノウハウがあるわけですけれども、それを使って外国でも80件以上のメディアにこの研究成果を報告されています。
 それから、これも分野融合の例ですが、あるときに物理学で出た論文を、この大学院生が数学者、准教授の人に話をしまして、これはもしかしたらあなたのやっている代数幾何学の6次元の幾何学の役に立つかもしれないのだという話をしました。うちは実は数学と物理の、言ってみれば通訳に当たる人がいまして、トロント大学で半分数学科、半分物理学科にいたという人を呼んできたのですけれども、そういう人ですから物理の言葉を数学の人に翻訳してあげることができる。それをやった結果、この代数幾何学の研究者は本当にそれからインスピレーションを得て、幾何学の定理を証明することができました。これでもって実は国際数学者会議、これは数学者のオリンピックです。4年に1回しかない会議なわけですけれども、フィールズ賞が発表される非常に大きな会議ですが、そこの招待講演に選ばれて、実際にこの定理をそこでプレゼンしたということもありました。こうやってティータイムのように素朴なやり方ですけれども、そこで実際に分野融合、そして世界的なレベルの結果が出ているという例だと思っています。
 そして最後のシステム改革ですけれども、様々なことをやらざるを得なかったということです。まず、そもそも私が着任するのに当たって、半分バークレーで半分東大という新しい雇用の仕組みを作らなければいけない。今までなかったわけです。東大で初めてそういうものが生まれた。それはクロスアポイントメントと言っています。その後、これが学内に浸透しまして、今では東大と外国であるとか、今、MITの人もいます。それから、ほかの国内の機関、例えば理研と部分的な雇用をするクロスアポイントの例がありますし、学内でも例えば半分物理学科で半分IPMUといったような、そういうアポイントメントもできるようになりました。これはシステムとして浸透しつつあります。
 それだけではなくて給与も年俸制、混合給与というのはいろいろな資金を混ぜて給与を払うやり方、市場原理で給与を設定することが許される方法、こういうものをやらざるを得なくてやってきたということなのですけれども、それをやっていくと、これが学内に浸透していって、最終的には文科省の高等局が出した国立大学改革プランにこういうものが実際に載せられていて、今、全国の大学でこういうものが使われるように国策として奨励されるようになってきています。
 それから、国際標準の採用システム、先ほど言ったように公募の時期を合わせるとか、面接の仕方を国際標準にするとかいろいろなことがあります。助教も基本的にテニュアトラックにする。研究以外には基本的にデューティは全くなくて、ティータイムに来ることだけがデューティである。年に最低1か月は外国に行けという、先ほど言いました。それから、組織の作り方もできるだけフラットにして、教授の下に准教授がいて助教がいて学生がいるといったような仕組みを完全に排除し、基本的に全員同じ役割で研究をするのであるという体制を整えました。それから、先ほどありましたけれども、バイリンガルのスタッフを今20人近くそろえていて、生活の立ち上げから、研究費の申請から様々なところで研究者をサポートしています。
 そして、うちの研究所の名前にカブリという名前が付いているのは、これはアメリカの財団なのですけれども、アメリカのカブリ財団から1,250万ドルの寄附を頂きまして、それを基金として運用して、その運用益を研究に使う。年間1億円近くのお金がこれで入ってくることになります。これは日本で初めてで、しかも、研究所に名前を付けるというやり方も日本で初めてだそうで、これもこれから日本に浸透していくことを願っている、そういう一つのやり方です。恥ずかしいのですけれども、その年俸制、市場原理の給与というのをやらざるを得なかった理由の一つは、私自身の給料でありまして、バークレーから来るときに給料を下げるのは困りますよと。機構長手当、付くんですよねと言ったら、実は総長よりも給料が高くなってしまって、こういうふうに新聞に載ることになりました。
 こういう生活情報というのも、実は非常に日本で限られていまして、うちのWebサイト、最初、私が作ったのですけれども、ここに様々な情報が載っています。例えば外国人から見て日本で暮らすというのはどういうことなのだろうか。例えばヨーロッパは税金が高いですから、日本では税金何%なのとすごく気になります。アメリカ人は御存知のとおり、オバマがやっとオバマケア、全国民に健康保険を与えるということをやろうとして、今でも共和党が反対しているという状況ですけれども、日本の健康保険、どうなっているんだ。そういう様々な質問が出てくるのを何とかしてあらかじめ答えておくような情報を載せる。
 例えば、あるときにうちの研究所にインフレーション理論を提唱したコーネル大学のHenry Tyeという人が来て講演してくれました。私の顔を見た瞬間にこう言うんですね。おまえは俺の命の恩人だ。え、どうしたんだ?まず、アメリカから飛行機に乗って日本に着いて、研究所に行くのにバスに乗らなければいけないから現金が要る。自分のアメリカの銀行のカードを持って銀行に行ってみても、ATMでお金が下ろせない。日本の都市銀行はアメリカのカード、外国のカードが一切使えません。6か所行って駄目だった。パニックになってホテルの部屋に帰ったわけです。ホテルの部屋に帰ってうちのWebサイトを見てみると、お金の下ろし方が書いてある。何が書いてあるかというと、日本でも、ゆうちょとセブン-イレブンは外国のカードが使えます。そのことが書いてあるので喜び勇んでフロントに行って、セブン-イレブンはないか。行ってみたら、お金を下ろせたよというので命の恩人なのだそうです。本当に細かいことなのですけれども、こういうのがないと外国人は非常に困るわけですね。
 それから、先ほど言った健康保険。例えば健康保険、どうやっているんだと日本でGoogleで探したりしますと、日本の健康保険は3割自己負担だなんて出てきます。これを見た瞬間にアメリカ人は、そんな国に行けないというわけです。実際何が起きているかというと、ここにも書いてあるのですけれども、ニューヨークで盲腸の手術をすると200万円かかる。その3割なんてとても払えない。ところが、日本では40万円です。だから、3割といっても大したことないし、限度額以上は次の月に返ってきますということがここに書いてあって、ここを読めと言うと、まあ、これなら大丈夫かなといって納得して来てくれる。こういう本当に基本的な情報が非常に大事です。こういう情報を集めてWebサイトを作ったので、総長の業務改善賞というのを頂きました。
 もう一つ業務改善賞の例なのですが、例えば日本に着任して生活を始めるときに、やっぱり安全というのは非常に大事です。安全と衛生。これも一々日本の仕組みを説明していたのでは、事務の人の埒が明かないので、これもビデオを作りました。これをごらん頂きますが、例えば地震。地震のない国から来る人がほとんどですから、地震が起きたときにどうすればいいか知らないわけですね。

(ビデオ上映)

【村山機構長】
 日本に到着した研究者は、まず必ずこれを1時間見なければいけないというルールになっています。こうやって日本での生活を安心してできるような仕組みを作っていく。あのビデオも業務改善総長賞を頂きました。こういうことで外国人の研究者は非常に手厚くサポートしている中で、本当に彼らは日本の生活もエンジョイして帰っています。例えば(スライドで見せた)彼女は柏の研究所ですから、つくばエクスプレス上にあるので、わざわざ都内の浅草に住んで、せっかくだから日本の情緒を味わう生活をしたい。浴衣を着て浅草の神輿を担ぐのに参加したりしていました。今ではポスドクを終わってヨーロッパに住んでいますけれども、ベルンの大学のプロフェッサーになりました。こうやって日本に来て、本当に日本の生活をエンジョイしつつ研究成果を出し、更にそれがキャリアパスとして次のポジションにつながっていって、こうやってファカルティまで成長していくという人がこれまでも何十人も出ているという状況です。
 そして、先ほど言いましたけれども、ここでやっている研究の内容を日本と外国に発信していくというのも心がけているわけで、特に最近、そのノウハウが少し分かってきたものですから、外国でのメディアの登場件数というのも年間200回ぐらいあります。それから、アウトリーチも非常に心がけていて、年間5,000人ぐらいの人を動員して、いろいろなアウトリーチのイベントを行ってきて、特に青少年の科学への興味をつなげていくということに心がけているつもりです。
 これがうちの例ですけれども、一般にWPIでは今言った4点、つまり、国際化、トップレベルのサイエンス、そして融合研究、システム改革というのをどの拠点も心がけてやってきたわけで、御存知のとおり前回、黒木先生から伺ったと思いますけれども、プログラム委員会の判断としては5拠点、2007年に始まった5拠点全てがWPIプログラムのゴールへ完全に到達し、World Premier statusを達成したという結論になっている。これは本当に5拠点全てそれぞれ、様々な努力をして今の4点に心がけて、そこまで到達することになったということの証明だと思っています。これがWPIの成果です。
 これを踏まえて、そのWPIの今後というのを少し考えてみるのですけれども、これは私の全くの私見ですけれども、今までの成果をもう一遍ざっとおさらいしてみると、まず、国際競争力のある研究所であって、日本だけではなく外国からも非常にvisibilityがあるところである。外国のメディアにも取り上げられるし、外国の財団からもお金をもらったりすることがあるわけだし、実際、これだけたくさんの人が外国から応募してくる、そういう研究所になっているというvisibilityが上がっています。その結果、若手の研究者の国際的な頭脳循環の「環」の中に、WPIの目的であったものですけれども、それが実現するようになった。この頭脳循環の「環」という言い方は、恐らく生川審議官が書かれたんですよね。WPIを始められるときに書かれた言葉だと思いますが、私は非常にいいと思ったのは、ベクトルが日本向きだけではない。
 「環」になっているわけですから、日本に外国からも来るけれども、ここで育った人がまた外国に巣立っていく。若しくは日本人が外国に行くという、本当に循環を作るのであると。文字どおりそういう形になってきていると思います。そして、様々なシステム改革は国際的な研究所を作るためには、ある意味やらざるを得なくて、大学の本局と掛け合って何とかこれをやってくださいということでやってきたものが徐々に全国に普及するようになってきている。それが成果だと思っています。これを今までは2007年に発足した5拠点、それぞれ独立にそれぞれもがきながらやってきたというのが現実だと思いますが、これは私は残念で問題だと思っています。ここで言うのも変な話かもしれませんが、ある意味、2007年に発足した5拠点は馬車馬のように戦わされてきました。5頭の馬を、さあ、行けと言って競争してやってきたのが現実だと思います。
 ですから、こういう情報を交換するということは基本的に全く行ってきませんでした。WPIの今後を考えるというときに、これからもう一つのI2CNER、拠点が後半戦に入りましたし、それから、今年、その後にできたWPI Focusの3拠点が中間評価に入る。それから、これから新しい拠点を公募していくのであれば、ゼロから出発する拠点がまた幾つかできるわけなので、せっかく今まで培ってきたノウハウをプールしておかないと、せっかくの今まで積み上げたものが失われてしまいます。ですから、そういう仕組みを作る。今日、先ほどWPI Academyとか、そういうお話があったようなのですけれども、そういうものができるのであれば、そういう役割を担うべきではないかと個人的に思いました。
 思いつきなのですけれども、例えば学振にオフィスを置いて、そこに何人か人を雇い、例えば2人か3人のメンバーがどこかの拠点に1年間張り付く。1年間、その拠点のいろいろな活動を支援しながら、そこで行われているやり方を文書化して学振に持ち帰る。そういうことを続けていくと、何年かの間にどの拠点でどういうやり方をして、国際化に結び付き、分野融合に結び付き、そういうものが本当に文書化されていって、新しく立ち上がる拠点は、それを見れば、あ、こうやればまず立ち上げられるのかと気付くことがあるのだと思います。ただ、これを行っていくためには、本当に大事だと思うのは生きた組織でなければいけない。
 ここでこれからの支援に関わってくると思うのですけれども、例えば今まであったこの5拠点が、これから支援が完全に打ち切られてしまって、今言ったようなWPIの理念を実現するのが難しくなった場合には、過去の歴史としてこういうことをやりましたという文書だけ残っていても、情報というのはどんどん死んでいきます。時代もどんどん動いていきます。生きた組織が動いていないと生きた情報は残らないので、それを生きた組織として続けていくことができるような仕組みというのを是非この部会の皆さんと考えていきたいと思います。これができれば今後の日本の世界に見える研究拠点作りというのを支援できるような、本当に日本全体を助けるそういう仕組みができていくのではないかと個人的には思っています。
 それからもう一つ、WPIで非常に特徴的だと思うのが、先ほども言いましたけれども、「研究資金の提供を主たる目的とする通常のプログラムとは全く性質の異なるものであることを十分認識する必要がある。」つまり、これは研究費ではないのだ、研究プロジェクトではないのだということです。これは具体的に何を意味するか。これも私なりの解釈ですが、通常のプログラム、例えば有名な研究者がここにいたとします。通常のプログラムというのは、こういうものですよね。この人は世界的な研究をしているので、もっとお金を付ければ、世界トップの結果が出るだろう。5年間、大きなお金を付けて思う存分やってもらおう。これが恐らく普通の競争的資金の目的だと思います。ところが、WPIは全く違う。これは小谷さんをイメージしているのですけれども、WPIではこの人は世界的なネットワーク力とコミュニティの信頼が厚い。ですから、この人に5年から10年間頑張ってもらって、今までにない研究所を作り、ひいては日本全体を変えてもらおう。これが先ほど言ったサービス業という意味です。
 ですから、お金が付いたといっても、こういう普通の競争的資金とは全く性格が違っていて、このお金は拠点を作るのである。拠点長がそのサービス業をやり、新しいインフラを作って、そこに人を呼んでくるという本当に人を中心としたプログラムだと私は思ってやってきました。ですから、WPIの最初の審査のときでも拠点長のビジョンというのを文章に書くわけですが、ビジョンは審査の上、それを買ってもらったわけです。だけど、そのビジョンを実現するための研究費は一切くれないわけですね。これをやっていくといいのは、まず拠点を作り、人を集めてインフラを作ることで、あとはそこに集まった人がお金を持ってくるんだからその研究ができるだろうという考え方になっているので、目的は本当に人です。
 それを生かすための頭脳循環であれ、人材育成であれ、国際化であれ、システム改革であれ、それは本当にニーズとして出てくるものですから、これは実は目的化されたものでは私としてはなかったです。こういうものを本当にやろうと思うと必然的にいい人を探したら、その人が日本人である確率は低いわけですから、世界中で公募したら、本当に欲しい人を選ぼうと思うと、その人が日本人である確率は恐らく10分の1程度なので、必然的に国際化してしまう。そういう人たちがいい環境で仕事ができるようにしようと思うと、そのために研究環境がどうしても必要になる。そういう人を採用しようと思うと、どうしても今までにないシステムが必要になる。本当にニーズにさらされてこういうことが起きていくというのがWPIだったと思います。
 ですから、四つの目的と書かれているのを見ると、これが目的なのねと理解しがちなのですが、私にとっては全然違っていて、いい研究所を作ろうとすると、必然的にこういうことをやらざるを得なかった。それが最終的にノウハウとして蓄積されてよその研究所に役に立てば一番いいなと、そういうものだと思っています。ですから、その成功例が、いずれは日本の学術全体を刺激するようになって、先ほどのWPI Academyがその役割を果たすのかもしれません。
 そして、外向きに見ますと、日本政府はこうやって基礎科学にこれだけ投資するのかと。そのコミットメントを見せるというのは、日本という国の持っている、ある意味で品格というか、知悉というか、そういうもののイメージを非常によくしたという印象をとても強く持っています。特に私の分野のように素粒子とか天文といった、本当に基礎的に、また、応用があまりないような分野の場合、外国でもなかなか政府の投資というのは限られてくることが多いわけですけれども、そういう分野に日本はこれだけ投資したというのは、私の分野の人たちが世界中から日本はすごいなと言うわけですね。本当に日本のイメージを変えるという働きをしてきたと思います。そういう意味で、これは外向きのプログラムです。
 そして、では、このWPIの10年間、終わった後ということを考えた場合に、そうやって外から見えるように、せっかくなったところにあるわけですけれども、これがもしそこで支援が完全に途絶えるとどうなるか。もちろん新拠点を恐らく公募されるのだと私は理解しているので、そういうのがどんどん広がっていくと、これは是非やっていただきたいと思いますけれども、恐らく新拠点に選ばれるのは今までの拠点とは違う分野になっていくのだと想像します。そうすると、世界の研究者でその分野の人から見ると、日本はその拠点を捨てたというイメージがどうしてもつきます。日本は一体何をやっているのだと。せっかくここまで育てた世界に見える研究所を何でそこでやめてしまうのだということにどうしてもなると思います。
 ですから、世界から見ると門戸を開いて、さあ、皆さん来てくださいとやったはずのプログラムがいきなり門戸を閉じたように見えてしまう。これでは本当に元の木阿弥で非常に残念。先ほど私が共感したと言った日本のvisibilityを何とかしなければいけないと思ったそのモチベーションが本当に台無しになってしまう。これは是非避けるような仕組みを作っていただきたいと思います。こういうことを通じてWPI拠点、もちろん各大学の研究所があるわけですけれども、そういう意味でこれは国の財産として何とか維持管理ができるような、そういう仕組みができたらなと本当に願います。
 では、具体的にWPIでないとできないことというのは何だったのか。これはもちろん各拠点、事情は違うと思いますけれども、うちの例について述べてみますと、例えばPIの人件費であるとか、事務の職員であるとか、建物であるとか、そういうものは基本的に大学の資産ですから、最終的にホスト機関がそれをちゃんと面倒見ますと約束されているとおり、それは最終的にそうなるモデルに移行すべきだと私は思います。ですから、その分はカバーされるのだと思います。それプラス、各PIが頑張って競争的資金を持ってきて研究をしなさいということだと思うのですけれども、それではできない部分がやっぱりあります。何かといいますと、その外向きの部分、これは拠点全体に共通しているもので、各PI、1人、1人の研究のために資するものではないもの、その部分がWPIのエッセンスだと私は思っていて、それができなくなります。
 具体的に何を言っているかといいますと、例えば先ほど言いましたように年に1か月、必ずどこかに行け。年に1,000人ビジターを呼んでくるんだ。かなり旅費がかかります。これを拠点全体のために人を呼んでくるというのは、呼んできた人がそれぞれPIの誰それの友達であるとか、誰それの競争相手だとか、そういう立場で呼んでくるのではなくて、すばらしい研究者だから呼んできて話を聞こう。すばらしい若手研究者だから、どこに送り込んで研究させようという使い方をする。ですから、各PIの持ってきた自分の研究のための資金では、こういう旅費の使い方はできません。それから、研究者をサポートするためにバイリンガルな特任事務職員を随分雇いました。
 実際、雇ってみると外資系の人であるとか、銀行で働いていた人であるとか、本当にいろいろな人が集まってきてすごくサポートしてくれるわけですけれども、こういう職員を一つの研究所に張り付けておくというお金の使い方は、今の大学のシステムでは非常に難しいと思います。なぜあそこだけなのだ。何でそんなに人数が要るのだ。なぜこういう人でなければいけないのだ。しかも、ほとんどの人は特任専門職員で任期付きの立場です。いわゆる東大職員の人はこういう仕事に対応できるのは多くはありません。ですから、こういう人を集めるというのも既存の競争的資金では、各PIはそんなことにお金を使いたくありません。自分の研究に使いたいわけなので、これもやっぱりできないです。
 もう一つ、私にとって非常に大事だと思っているのは、拠点というのは何で拠点になるかというと、1足す1が3になる、4になるからすばらしい拠点になり得る。1足す1が2の拠点では人が集まっている意味がないわけですね。では、1と1を3にするにはどうすればいいか。そうすると、2人PIがいたときに、そのそれぞれのPIの奴隷として自分の資金でポスドクを雇っていたのでは、それは1足す1はそれぞれ2にしかなりません。
 先ほど言ったように国際公募するときに、できるだけPIに張り付けないでフリーフローティングのいろいろな人と話をして、いろいろな人と仕事ができるような奴隷ではないポスドクというのを雇うように心がけていて、そういう人たちは時間と知的興味と若さがありますから、みんなそれぞれ忙しいPIの間を実は取り持って、PIを巻き込みながら仕事をするということをやってくれる。そういう若い人が欲しい。これもそれぞれのPIが持ってきた研究資金では、そういう雇い方は絶対しません。こういうことでWPIらしさというのが生まれてきたというのは、少なくとも我々の例ではそうでした。こういうことを継続していけるような仕組みがあるかどうかというのを私は個人的にすごく気にしています。
 そして、最後に日本国内から見たWPIというのを考えたときに、これは私の認識なのですけれども、WPIは大学に来た黒船だと思っています。つまり、政府からお金が来たわけですが、言ってみれば喉元に突き付けられたナイフで、大学、変われと言っているわけですね。変わらないと、この船は沈むぞという状況にあるわけです。ですから、大学執行部にとっては、大学を変えていくための非常に大きな起爆剤としてうまく使ってきてくれたと思いますし、逆にこういうWPI拠点を大学としてサポートするときの内部への説得材料にも使われてきたと思います。この黒船の機能、これはどうやって維持するのか。もちろん、WPI拠点が完全にホスト機関のサポートというモデルに移行すると、その瞬間、この機能は完全になくなります。
 つまり、執行部から見ると養ってやっているのだという立場になりますから、自分たちが変わらなければいけないという切迫感は全くないわけですね。どうやって変えるか。言ってみれば、からしのピリリと辛い辛さを維持していくかということなわけですけれども、そのためにはやっぱり何らかの外からの圧力が必要であろう。アメリカという国がなかったら、黒船は何の圧力もなかったわけですから、そのアメリカに対応するのが何か必要になるのではないか。それはやっぱり国の政策なのだと思います。
 ですから、私がWPIの今後について話してくださいと言われたときに思ったのは、今までのWPIの成果として、WPI拠点がホスト機関を持ち上げ、全体として日本を引き上げていくのだというのがWPIの成果だと思っているわけですけれども、このWPIのロケットが失速しないで更に飛び続けるためにはガソリンが必要です。このガソリンは、やっぱり私は何とか文科省に出していただきたいと思っているので、これが今後についての私の私見ですけれども、こういうことを思っています。
 以上です。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。大変強いメッセージを皆さん感じたと思いますが。
 それでは、続いて三田プログラム・オフィサーよりWPIプログラムの成果と課題について、お考えをお伺いいたします。よろしくお願いします。

【三田プログラム・オフィサー】
 三田でございます。今、御紹介頂いたとおり、Kavli IPMUのプログラム・オフィサーをしております。今の村山さんの話を聞いて、すばらしい拠点ができたなとお思いになれば、あとほかの4拠点も同じような話ができるのだと思います。ですから、ここで皆さんにご理解頂きたいのは、このプログラム委員会の結論、トップレベルの研究、それから、国際的なセンター、融合、研究組織の改革の成功についてWPIのミッションが成功したという評価を頂いております。それで、もう一つWPIの大きまミッションは、この研究組織の改革が全国に広がることです。私は今日頂いた時間でそのことについてお話ししたいと思います。
 もちろんWPIプログラムによって研究組織の改革が前進したのは確かです。村山さんが話したとおり、拠点を作るのに必要な改革はやってこられました。それ以外に村山さんが話さなかったことは、彼の苦労したところです。拠点を始めるときにポストが一つもなく、一流の研究者を日本に呼んでこなければならないというのは、不可能に近いことです。東大が最初から九つポストを出すからどうにかしろと言ってくださったら、彼の苦労が半分になったのではないかなと思います。それで、ここで言いたいのは、我が国の大学では、学長のリーダーシップが出せるところが非常に少ないことです。世界最高のレベルの研究所を作るにはhost Instituteである大学のリーダーシップが欠かせません。  
  この件に関して、二つの例を挙げたいと思います。一つはDOE(Department of Energy)がSLAC (Stanford Linear Accelerator Laboratory)をスタンフォード大学に作ったときに、スタンフォード大学はテニュアポストを30出しました。そして、研究所を作る土地として東京ドーム10個分をDOEにリースしました。そのとき私はスタンフォードにいなかったので分かりませんけれども、多分、ほかの分野の教授たちはものすごい反対をしたと思います。スタンフォード大学の学長のおかげで、現在SLACから三つノーベル賞を取った研究が出ております。
 それから、ロックフェラー大学、私が20年ぐらい勤めていた大学ですが、研究者を雇いたいときには、学長に話しに行くのです。教授会はありません。ファカルティミーティングというのはあるのですけれども、それは大体報告を聞く会議であって、ポストは学長のリーダーシップで研究室に配っています。ですから、WPIが目指す機構長のリーダーシップは既に米国でやっているやり方ですね。我が国がすばらしい研究所を作るのであれば、学長にもっとリーダーシップをとれるような組織を作られたらいかがでしょうか。
 Kavli IPMUの場合、東京大学が7年間議論して九つのポストをKavli IPMUに与えました。それも少しずつ出していますので、拠点側は大変苦労したと思います。将来計画は立てられません。このような状況の中で文科省が、少しずつですけれども、テニュアポストを五つ用意してくださったことは非常に大きな励みになりました。ですから、私の提案ですけれども、日本も教員の定年後のポストは学長に返す組織を作られたらいかがでしょうか。
  それからもう一つ、WPIが成功と評価された一つの理由は、きめ細かい評価体制でした。例えば黒木プログラム・ディレクターは、少し横にずれているような拠点があったら、すぐそこに行かれ、修正する議論を長い時間をかけてやられました。そういう努力の下で4拠点全部が世界的にWPIの目的を果たしたという評価を頂いていると思います。
 そこで、これはWPIとは関係ないのですけれども、我が国の研究組織の改革の一つとして、科研費の終了後にも同じような評価をすることを提案させていただきます。もちろん、そうしたら大変評価に時間とお金がかかって出来ないという考え方もあるでしょうけれども、アメリカでは1人の審査員が研究室に来て、6人ぐらいの研究者に各自30分ぐらい話を聞きます。私が評価されたときには、私の研究について話していたら、その評価委員はペラペラと去年のノートを見て、「おまえ、去年、こんなことを言っていたのに、それを今やっていないじゃないか」と言われました。そのようなきめ細かな評価というのは、受ける方にとっても大きなモチベーションになります。
  同じ研究者が科研費の終了後、次の科研費を応募した場合、前の科研費終了後の審査を評価の一つとすれば、科研費の採択のときの努力や、審査に必要な費用の削減されるのではないでしょうか。
 それから、評価体制、どうやって評価するかということで事務局の方から、案を出してほしいということを言われましたので、一つコメントいたします。Kavli IPMUの場合、何百人もの共同研究になるときがあります。多くの拠点が関わっている共同研究です。そのときには、ここに書いてあるのですけれども、「もしこの拠点がなかったら、この結果が得られたか」という自問をベースに評価するのが重要だと思います。一番大事なのは、その研究の発案者です。何を研究するか決まったら大体、もう研究の80%は終わったと思っても過言ではありません。ですから、Kavli IPMUに所属している研究者がどれだけ研究の発案者であるか、どれだけ拠点の研究者が発見に寄与したかということを詳しく見ます。
 それから、補助金の支援期間の終了後の支援に関してですが、もちろん終了後にホスト機関がフルにサポートすると約束はしました。同じ約束はCOEや、GCOEなどで大学はしていますが、これらのプログラムで支援期間後に残っているプログラムは一つもありません。国からのサポートがなければ、ゆっくりと知らないうちになくなっていくという可能性が十分あります。従ってホスト機関の拠点運営を温かく見守る必要があると思います。
 それから、新拠点に融合を求めるかについてコメントします。私自身、融合は非常に難しく研究の妨げにもなるとまで思ったことがあります。融合を余りにも強調するがゆえに本当の研究ができなくなってしまうということを言ったことも覚えております。しかしながら、Kavli IPMUでは結果的には融合があって、それで新しい分野が開けました。ですから、現在Focusなどでも融合をエンカレッジするべきだと思います。
 そしてもう一つ、行政指導での枠を超えた研究組織の改革ということで、新拠点の候補の審査にはホスト大学の学長のリーダーシップを詳しく調べるのはいかがでしょうか。
 以上で私の提案を終わります。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。
 それでは、あと全体で小1時間ございますが、これまでKavli IPMUに関して御説明頂きましたし、そのことに対する御質問、あるいは御意見、それから、資料1-1で最初に説明をいたしましたが、論点案についての御議論を頂きたいと思います。
 それでは、最初、まずIPMUに関しまして何か御質問、あるいは御意見、聞きたいこと等ありましたら、まずお願いしたい。いかがでしょう。どうぞ。

【片岡臨時委員】
 すばらしい成果とすばらしい御発表で非常に感銘を受けましたし、それから、私も東京大学所属なのですけれども、言われていることの一つ一つが身にしみるということで非常に感動いたしました。
 それで、この中で、すばらしいシステム改革が行われたと思うのですけれども、特にこのスタッフによる手厚い研究者支援、これが非常に大きく働いているのではないかと思います。実際、バイリンガルの研究者支援の方を雇用したと。これに関して、いい人を集めるにはそれなりの給料を出さないと来ないですよね。それに関してはかなり考慮されたのかという部分と、それから、このスタッフの人事権、よく問題になるのは、要するにスタッフの人事権が必ずしも研究者にないというところが一つの大きな問題にはなっているのですけれども、この拠点においては拠点長というか、そういった形でかなりトップダウンで決めていかれたのか、その2点を教えていただけますか。

【村山機構長】
 まず、給料ですけれども、東大には特任専門職員という肩書が御存知のとおりあります。これで出せる最大の給料が年間800万ぐらいですか、ですから、そんなに高給とは言えませんけれども、現実にどういう人が集まっているかという例を挙げてみますと、例えばかなり優秀な人で、特に、こういうことを言うのはいいかどうか分かりませんけれども、女性で例えば外資系の企業に勤めていた、銀行に勤めていたという方がお子さんができたり、結婚されて退職された。日本の現実では、そういう方がまた企業でバリバリ働くという職につくのは難しいという現実があるのだと思いますけれども、そういう方が自分の持っている能力をどこかで生かしたい。そういうことで応募されてきて、本当にバイリンガルで、こういう組織に来てすごく頑張ってくださるという方が、それだけでも8人ぐらいいますよね。

【春山事務部門長】
 います。

【村山機構長】
 そういう方で、今言ったような事情があるのである意味で申し訳ないのですけれども、そのぐらいの給料でありながら非常に頑張って組織を支えてくださっています。その採用をどうしているかといいますと、今お話し頂いたように本当に機構長回りで全部決めていまして、まず、事務部門長という立場は今まで東大になかったポジションですけれども、事務部門長というのはWPIの場合、各拠点にいて、ほとんどの人が研究者上がりの人が事務の人を統括して運営に当たるという、そういう立場で仕事をしてくださっています。
 この春山もKEKで冷却システムをずっと作ってきた、世界の、実は国際冷却学会の会長もされたんですよね。そういう方なのですけれども、今は事務を束ねているということで、彼と私と、それから、東大職員である事務長が中心に面接をして人を採用する決断をしていますので、研究所全体のためにどういう人が必要かという、本当にその観点だけから人を採ることができます。各PIにそれを任せていたら、自分の研究のために役に立つ人という、恐らくは非常勤の人を雇う方向にしか行かないと思うので、これは本当にWPIだからこそ、拠点長にお金が付いてトップダウンの運営ができるからこそ、そういう人を集めることができたという仕組みの例だと思います。

【片岡臨時委員】
 大変よく分かりました。その場合、例えばこれはやはり地の利もあると思うんですね。今言われたようなそういう方がプールと言うと少し語弊がありますけれども、そういう方が大勢おられるような地域というか、東京などそうだと思いますが、これはWPIという考え方を日本全体に広げていくときには、結局、そういった方がどれだけいるかという地域で、ある程度決まってきてしまうという問題があるのではないか。それに関しては何かいい案とか、お考えはございますか。

【村山機構長】
 確かに我々はその点、恵まれていたと思います。ただ、柏キャンパスでしたら千葉県ですから東京ではないので、いろいろ調べてみると、千葉県の柏市に住んでいる人でも、昔、国連で仕事をしていた人がボランティアで研究者を市役所に連れていってあげますよ。定年になったからそういうことをされているのですけれども、そういう人がいたりするので、探してみると結構そういう人がいるものだなと思いました。具体的にどうやって探したかといいますと、先ほど言ったようにアウトリーチもしているので、そこで講演会をやる。地元の人がやってくれる。そこでビラを配って、こういうことに困っているんだけれども、助けてくれる人はいませんか。それに実際に応募して手を挙げてくれる方がいらっしゃったわけですね。ですから、どういう地域でも恐らく諦めずに探してみると、そういう人は少しはいるのではないかと思います。
 東京でどうしても、本当に東京だからこそできたことというのは、インターナショナルスクールで、これは地方都市では難しいかなと思います。WPIの最初から募集要綱に書いていることなのですけれども、子女教育手当を出してよい。ですから、外国人の教員でお子さんがいる場合、インターナショナルスクールにお子さんを入れる場合は、授業料の半分を給料に上乗せして手当として出すことを許しています。何で半分にしたかというと、全額出すことになるとみんな一番高いところに入れるので、それは困るなと。でも、ゼロだと年間授業料100万、200万かかりますから、特にポスドクなんかやっていけません。それで50%というところに落ち着けたのですけれども、それは本当にインターナショナルスクールが存在する東京の近くですからできたことだと思うので、それは確かに地方では難しいかもしれません。

【大垣部会長】
 よろしいですか。どうぞ。

【有信委員】
 IPMUそのものをあまり褒めると利益相反になるかもしれないので、でも、今日は非常に重要なことを言われていて、一つは村山先生が言われたIPMUは黒船だというのは、システム改革という観点からは明らかに日本の従来の大学の中の研究システムに対して、喉元に刃を突き付けている。そこの一番の重要なポイントで、多分、村山先生、苦労されたのではないかと思うのは、三田さんが言われたポストの問題ですね。ポストの問題で、これは私なりの解釈で言うと、ポストの問題というのは、一つは学位を出すための大学内の組織が、実は大学設置基準で決められていて、しかも、なおかつ定員まで決められている。つまり、定員管理をものすごく厳しくやられているというのが大学の具体的な学部、あるいは研究科専攻の構成になっているわけですね。研究所は、そういう意味では学位を授与していないので多少自由度が高い。しかし、もう一方の定員管理という意味では、国立大学が法人化したときに定員管理の枠がもう一つ入ったんですね。
 承継ポストという形で、これは大学の教員の退職金を、いわば普通の企業で言えば退職積立金という形で日本の企業の場合だと退職金を積み立てますし、あるいは海外ではペンションで設計をするのだけれども、日本の法人化のときには、その退職金を全部財務省が準備をしますということで、結果的に言うと、それによって移行時の定員管理がそのままずっと続いてきた。でも、実際、これはさっき言われたように年俸化をするということで、ある意味では解決できる話なのだけれども、なぜかそのままずっと来て、そのために多分、東大の場合だと定年になった教員のポストの一部を総長特別枠という格好で確保して、その部分を学部に非難されないように気を使いながら、多分、村山さんのところに配分をしたのだろうと、こういうふうに想像しています。いわばここで言っている人の循環だとか、様々な現状のシステムを変えた新しい研究の形がWPIでいろいろ出てきつつあるにもかかわらず、制度面のところが、これはもうお金を幾ら入れても解決しない話の部分があるわけですよね。
 そこにどれだけ切り込めるかというのは、今、村山先生が言われたように各地のノウハウで大分そこをカバーしている部分もあるし、だけど、そこで明らかになった制度上の問題を具体的にどういうふうに崩していくか。そういう上で新しいWPIを作っていかないと、システム改革をやっても、その組織の改革にしかならない。三田さんが言われたように、もう縦割り研究体制の時代ではない。これは元々の設置基準で細かく切り分けて設置認可を受けているわけで、そこに課題があるわけです。日本の中で学位をもらおうと思うと、設置認可を受けたディシプリンのベースでしか学位が取れないという話になっているので、この辺の制度上の問題まで、本来ならばWPIのところで議論ができればいいと思いますし、特に質問という意味で村山先生にお聞きしたいのは、多分、ポストのところは相当苦労されたのではないかと思いますけれども、その辺はどんな感じだったんですか。

【村山機構長】
 ポストのことは本当に苦労しました。最初はテニュアのポジションが一つもなかったわけなので、人を採用するときにもリスクがありますと初めから本人に伝えつつ、口説き落とすわけですね。現実にはその段階で集めることができた人というのは大抵の場合、30代半ばの本当に元気な研究者で、ある意味でテニュアを持っているかどうかは気にしていなくて、むしろ、今一番いい研究ができるところに行きたい。デューティは欲しくなくて、全ての時間を研究に使いたい。そうやっているうちに10年あるから、いい結果を出したら絶対次はあるだろうという自信満々の若者が集まるという、そういう体制でした。もちろんそれはそれですばらしいのですけれども、将来的に研究所を維持していくという体制を作るためには、やっぱりある程度シニアな人がいて、それが若い人を束ねながら将来のことを考えつつ、研究所の組織を作っていくという人がどうしても必要になります。そういう人が残念ながら1人もいなかったんです。
 やっとテニュアのポジションが付けられるようになって、先ほど言いましたようにイエールの教授がイエールをやめてやってくる。これはテニュアのポジションがなかったら、当然起きないことなわけで、そういうことができるようになりました。このポジションはどういう格好で作られたかといいますと、実は文科省に概算要求して、機能強化ということで特別経費を頂いた。その特別経費が付いたのを受けて濱田総長が、じゃあ、このお金を使って年俸制で人を雇いなさい。この機能強化のお金、いつまで来るか分からないけれども、あとは絶対面倒見るからテニュアにしていいと宣言してくださったんですね。それで五つ別にポジションが付いた。ですから、これは本当に純粋に年俸制で、退職金がもう財務省から来ない。しかも、先ほど言われたような承継職員の枠に入っていない初めてのテニュアポジションだったという例です。

【有信委員】
 それが実際にはできるということを実証したわけですね。

【村山機構長】
 はい。そうです。東大で既にそれが実現した。それからもう一つは、これはまだあまり全学に普及していないですけれども、縦割りの弊害を防ぐための仕組みとして提案したのは、このクロスアポイントメントであったわけで、アメリカの大学ではそういうポジションがたくさんあるわけです。私の物理学科でも半分生物で半分物理という人が3人いますし、化学と物理という人も2人いますし、そういうポジションの人というのは、あの学科ではこういうやり方をやっているということを、情報を持ってきてくれるという役割も果たすし、研究の推進の上でも非常にいい。それが東大でもできるようになったわけです。
 まだあまり使われていないのですけれども、実はこの間、産学連携の担当の、実は文科省から来られた江頭さんと話をしていたら、東大で産学連携を進めてお金を取ってくるためにネックになっていることの一つが、分野ごとに凝り固まっていることだと言っていました。こういうクロスアポイントメントを使っていろいろな学科にまたがって仕事をしている人というのが増えると、そのバリアがなくなるのだということで、彼の意見としてもこれは研究の立場で私は言ったわけですが、そういうお金を取ってくるという立場からでもクロスアポイントメントは重要だろうというところで一致した。これから多分広がっていくのではないかと期待しています。

【大垣部会長】
 カブリに関しましては、あと一、二ぐらいで、あと全体。お願いします。

【小谷臨時委員】
 利益誘導になるといけないので、委員としてはあまりWPIのお話はしたくないのですが、今日はWPI拠点長の村山先生がお話しされているので、私も拠点長として意見を言いたいと思います。
 まず、村山先生が発表されたことは、かなりの部分は全く同じ、同感、シェアしています。一つだけ村山先生があまりお話にならなかったことで、WPI拠点があってよかったと思うことを述べます。 研究支援体制ですが、村山先生のところは優秀な人を外から雇用して、手厚い研究者支援をしている。東北大学は幸いなことに、東北大学の正規事務職員の中で英語が非常にできるかたを多く配置していただきました。これは、総長が、WPI拠点という国際的にすぐれた環境の中にエリート事務職員を置いて経験を積ませたうえで、他部局に異動させることで大学全体の事務の国際化を図るということを考えたからです。AIMRをそのように、大学の国際化の駆動力としていただいた。
 もちろん英語ができることも大切ですけれども、事務職員に関するWPIの一番大きな成果は意識改革です。普通の部局の事務職員は、どちらかというと、先生、それはできませんというところから入りますけれども、WPIはシステム改革がミッションなので、できないことをできるよう変えるのがあなたたちの役目で、それがあなたたちの業績ですよといって励ましました。何を変えたい、何か新しいシステムを作りたいという、そういう意識を持った事務職員が、すばらしいと高評価を受けて大学全体に広がっていくことがWPIの成果として非常に大きかったと思います。特別な国際的な場所があって、そこに大学の教員なり職員が参加して、それが大学全体に広がっていったことです。できれば同じことが国全体に広がるといいと思っています。その意味では、やはり国からの支援を続けていただくことが大切で、村山先生の言い方であれば黒船だったということで、このようなWPIらしさは、競争的資金や大学の資金に頼るのでは失われてしまうと思います。

【大垣部会長】
 どうぞ、川上委員。

【川上臨時委員】
 大変感心したのですけれども、一番思ったのは東京大学が村山先生を呼んできたことだと実感しました。一つだけ小さな質問なのですが、このちょうど出ているスライドで、教員にほとんどデューティなし。私は医学部なので、大変です。患者さんのための委員会、図書館委員だの、動物実験の委員だの何かありまして、毎週一、二回は必ずあります。どのように管理されているのでしょうか。

【村山機構長】
 いろいろなことがあるのですが、まず、研究ですので、実はティーチングがありません。授業のデューティは初めからありません。それから、いろいろな委員会というのがあるわけですけれども、実はカブリ数物連携宇宙研究所は大学の中でパーマネント組織として位置付けられてはいるのですが、いわゆる部局ではなく、実は並びとしては大学の総合図書館と並んで国際高等研究所があって、しかも、その下についているということになっているわけで、全学委員会が回ってこないんです。それは善し悪しなのですけれども、ですから、その委員会に出なければいけないというデューティがほとんどない。それでも柏キャンパスの中の委員会というのはあるのですが、幸い事務部門長が特任教授ですので、事務部門長がその委員会に参加することが許されています。というわけで、研究者にそれはやらせていないんです。

【川上臨時委員】
 分かりました。ありがとうございます。

【村山機構長】
 あともう一つだけ加えて言いますと、今でも抱えている大きな問題は、大学院生を採るのがどうしても難しいということで、これは多分、小谷さんも同じように思われていると思いますけれども、既存の研究科にある意味でお恵みで学生を頂かなければいけないという立場なものですから、これはいまだに実現するのが難しい、抱えている問題です。

【大垣部会長】
 ほかに特にあればですが、では、簡単にお願いします。

【竹山臨時委員】 非常に御苦労されたことがあるかと思いますが、今後新しくWPIを公募する際に生かせることがあるのではないかと思います。新規WPI公募時にいくつかの要件をいれることによって、先生がご苦労されたところはクリアーされた状態で新規機関はスタートできるのではないでしょうか。例えば、テニュアトラック人材としての雇用があるかと思います。別にテニュアトラック人材プログラムもあることなので、可能な要求かと思います。

【村山機構長】
 例えばさっき三田さんが言われたとおり、もし初めから大学として幾つかポジションを付けるというコミットメントをしなければいけないというルールになっていれば、拠点長はものすごくやりやすくなると思います。それが現実に可能かどうか分かりませんけれども、一つの例としてそれはいい考え方ではないでしょうか。
 それからもう一つ、これはむしろ、私から是非入れていただきたいと思うのは、やっぱり人を中心としたプログラムですので、若手研究者をどうやって、英語でメンタリングというのは日本で何と言うのでしょうか、育てていくかという、そういうプランを初めから申請書に書かせた方がいいのではないかと私は思います。そういうことで、今、例えば私が言ったように、外国に1か月、必ず行きなさいとか、そういうことをそこに書く。こうやってうちの研究所では若手を育てていくのだというアイディアを提示させると、やらざるを得なくなるので、それを中心にプログラムが回っていく形になるのではないか。
 ほかの拠点長といろいろ話をすることもあったのですけれども、日本の伝統的なやり方だと、ある研究室の先生が自分の研究室から育った学生を次にポスドクに採用し、その中でいい人がいずれ助手に採用されてという、そういう抱え込み的なところがあると聞いていますけれども、頭脳循環というのは全く逆で、今まで自分と全く縁のない人を頑張って引っ張ってきなさい。引っ張ってきた人をどこか次に押し込めなさいという、そういうことをやれというわけですから、それもそういう(抱え込みの様な)やり方はしないのだということを初めから明言させれば起きないはず。それももしできたらいいのではないかなと思っていることの一つです。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。
 では、短くお願いします。

【小山臨時委員】
 先生のところでは、WPIの取組の中で、いろいろな面で活性化に成功されて、成果としての成功事例を作られたと思うのですけれども、WPIのシステムが合うサイエンスの領域とそうでない領域というのが、あるのかどうかということについて、直感的な話で結構なのですけれども、御意見をお聞かせ願いたいのですが。

【村山機構長】
 もちろんほかの分野のことはよく知りませんので、あまり大したことを言えないと思いますけれども、あまり関係ないのではないかなというのが私の個人的な感想です。ただし、一つ立ち上げに関して我々が有利だったことというのはあると思うのですが、理論の研究者、例えば数学とか理論物理の研究者というのは動きやすいですね。実験室を動かす必要がありませんから、ですから、今でももちろん実験の人もいるのですけれども、本当に立ち上げたときに最初に集めることに成功した人というのは、理論の研究者と、それから、自前で装置を持っている必要はないのだけれども、どこかの望遠鏡に行けば観測ができるという天文の研究者は割と早く集まってきた。実験室を持ってきて装置を付けなければいけないというタイプの研究者は集めるのに苦労しました。だから、そういうこともあるのかもしれません。

【小山臨時委員】
 短いと言いつつ、1点だけ、補足をお願いいたします。海外のそういったWPIのような拠点では、結構、様々な装置を使うことが必要な研究領域の拠点があるかと思うのですが、そう下場合にはスタッフの数が研究者の数の何倍もいたりするなどして、一部の優秀な研究者のレベルをキープするのに一生懸命バックアップするというスタイルをとっている拠点が幾つもあると思うのですが、そういうタイプの拠点を成功させるときには、やはり先生野ところとは、もう少し違うタイプのシステムや予算管理が必要になるというふうに、考えておりますが。ほかの分野では少々異なるのではないかと。

【小谷臨時委員】
 それは私が答えやすいです。 うちは材料科学なので装置は必要です。研究者に一番評判がいいのは共通機器室を設置したことです。若い人が使えるようにベーシックだけれども、性能が高い機器をそろえ共通機器室に置きました。更にその共通機器室に学位を持って、実は理学研究科で助教をされていた方が、支援スタッフとしてついていて、若い方の実験の相談に乗っています。
 若い人に独立研究をさせるなら、このような共通機器室が必要です。村山先生も私も理論だから何もなくてできますけれども、実験系では装置がなければ予備的成果が得られず、予備的成果がなければグラントは取れないし、自分のグラントがなければ独立の研究はできないので、予備実験ができる共通機器室があるということは、若い人や外国から来たばかりの研究者とって非常によかったと思います。もし実験系のWPI拠点を作るのであれば、共通機器室と高度な知識を持った支援者が必要だと思っています。

【小山臨時委員】
 ありがとうございます。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。

【村山機構長】
 WPIのお金は共通的な研究の基盤を作ることにはお金は使っていい。本人の研究費は駄目なのだけれども、共通的なインフラを作るのにはいいというルールですから、それはWPIでできるはずです。確かに私がアメリカの大学で実験の物理学者の採用のときに関わってみると、スタートアップ経費をまず本当に2億円、3億円付けるわけです。助教に。それでお金を付けて研究で成功してテニュアまでいって、研究費を取ってきて、間接経費を持ってきて大学が最終的に潤うのだという考え方で投資する。投資だと思ってやっている。それに対応することを基本的にはWPIでもできるはずだと思います。

【小山臨時委員】
 なるほど、最初の初期投資で特徴を出して、どう成功させるか、の道筋次第、すなわち、最初の投資方向性の如何で決まってくるという感じ。

【村山機構長】
 実際、我々のやっている研究契約の中でも大きな装置を、望遠鏡を取り付けるのですが、そういうチームを立ち上げて、これができるのだったら、この研究所に来ればこのデータが使える。データ欲しさに人が集まってくるというふうに回り始めました。ですから、何らかの格好で大規模な投資をしてインフラができてしまえば、それに群がるように人が集まってくるという戦略はあり得るのだと思います。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。
 それでは、既にいろいろWPI全般のミッションの話、あるいは国の支援の在り方について話が出ておりますが、資料1-1で最初に説明がありましたけれども、この資料1-1に関しまして御意見、あるいは御質問等の審議、討議に入りたいと思います。特に2ページ目、1枚目の裏側にありますWPI Associationというような概念が出ておりますし、それから、3ページ目はWPIプログラムのこれまでの成果とこれからの課題が取りまとめられておりますし、特に最後の4ページ目でしょうか、WPIの四つのミッションと国の支援の在り方があります。この辺のミッションがこれでいいか、ほかの御意見があるか、あるいは具体的な内容というものがこのようなものでよろしいかというようなあたりの御意見を今のIPMUの御説明等も受けたことを御参考に御意見を頂ければと思いますが、いかがでしょうか。どうぞ。

【土井委員】
 ありがとうございます。2点ありまして、1点目はWPI AcademyとかAssociation、そういう形で支援するというのはいいのですけれども、先ほど村山先生からもお話がありました黒船であると。だから、いつまで黒船であり続けるべきかというところの、やはりそこに関しては文部科学省としてきちんとロードマップを作っていかないといけないのかなというのがあるのだと思うんですね。
 だから、そういう意味では、あの黒船が来て開国をして日本は変わったわけなので、大学の研究の在り方をこのWPIという黒船によっていつまでにどういうふうに変えるのだという、その線表の下に、では、それが必要だ、そのためにはこういう数のWPI Academyなり、Associationなりという形でWPIを作り続けて変えないといけないというのがあるのだったらいいのですけれども、そうではなく、ただ単に、言い方は悪いんですけれども、今までいい成果を上げたからやりましょうというやり方だと少し話が合わないのかなと思います。というのが1点目です。
 2点目も今のお話と関連するのですけれども、そういう意味では拠点を作るということでは、このWPIという形でもなく、いろいろな形でリーディングとか、スーパーグローバルユニバーシティとかやっているわけですね。一方、今、共通の研究基盤という形で言えば、附置研とかいろいろ共通に使えるような研究機関があるわけで、ですから、そういう意味で基礎研究の基盤、プラットフォーム、インフラをどうやって作っていくのか。最近は運営費交付金が減っていてそれ以上できないという話もありますけれども、ですから、そういう中でどういうふうに予算の手当てをしてトップを維持できる基盤、若手に来ていただけるような基盤を作っていくかというのが必要なのではないかと思います。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。ロードマップと全体のデザインが必要だと。

【鈴木臨時委員】
 実際に私も昨年カブリに訪問させていただいて、すばらしいと思いました。すばらしさというのは訪問しないと分からないぐらいすばらしいですね。こちらの3ページ目の四つのミッションというのはよろしいかと思うのですけれども、具体的な内容を一つ一つ見てみると極めて平凡なので、やはりWPIだからこそできること、定量化ができることも含めて達成具合が、本当に達成できてよかったと思えるような内容に書き換えた方がいいと思います。

【大垣部会長】
 そうすると、具体的な内容のところが、ある意味指標的な意味合いを持つのですが、それをもう少し精査しないといけないと、そういう御意見でよろしいですか。

【鈴木臨時委員】
 はい。

【大垣部会長】
 はい。

【片岡臨時委員】
 私も先ほどの土井委員の言われた点に全く同感でありまして、黒船と言われている理由はやはりそれが起爆剤になって社会が変わったということですね。つまり、明治維新が起きた。イノベーションが起きたんですね。だから、そういう形でこのWPI AcademyなりAssociationが動いていくというのは重要だと思うのですけれども、そうでないと、これは出島を日本中に作るという形になるのではないか。つまり、江戸時代にある出島というのは、結局、社会を変えられなかったんですね。ですから、それを幾ら作っても、これはやっぱり何も変わらないのではないかという気はします。
 ですから、今、文部科学省の方で大学を研究開発型とか、いろいろ新しい考え方を出してきていますけれども、それとこのWPIがどういうふうに連動するのかということは、やはり1回きちんと精査する。考えていただいて、その中でこれを位置付けるということが重要ではないかなと。最大のミッションはやはりシステム改革、ここで言っているのは大学のシステム改革ですが、つまり、そのミッションのためのWPI Academyでなくては、これは出島を作るだけだと思います。

【有信委員】
 いいですか、今の出島の話で。

【大垣部会長】
 はい。どうぞ。

【有信委員】
 全くそのとおりだと思います。現実に今のKavli IPMUも東京大学の中の組織的に言えば出島にされてしまっているわけですね。多分、小谷先生のところはもう少し違うと理解をしています。これは大学の考え方によるので、ただ、さっき言ったポストの問題で指摘したのは、今の大学の在り方というか、例えば設置認可の話をしましたけれども、これは文部科学省が特定のサイエンスのディシプリンに関わる研究者の定員を決めているわけです。研究者の意志ではなくて、設置認可というプロセスの中でその定員が決められている。
 例えば今いろいろ出ていますようなリーディング大学院のようなプロジェクトでシステム改革をやろうとすると、学位プログラムを作りながら、その学位プログラムが学位を出せないというような問題がある。今の日本の知的基盤を支える研究大学を作り出しているシステム、もちろん考え方はいろいろあると思いますけれども、今、黒船だと言ったのは、まさしくその制度上の問題にまで実際には刃を突き付けているというところがある。そういうところを一方で解決しながら進めていかないと、それこそ今言われたように、このWPIの組織をどんどん作っても、出島を作るだけ。
 特に理解がある学長がリーダーシップを発揮すれば、ある程度は組み込めるけれども、それでもここに書かれてあるような人の循環を作り出すというWPIが実現した新しい研究のスタイルとか、拠点の作り方というのはなかなか実体化されないというか、今の大学そのものの中に本当に生きる形になっていかないような気がする。これは一朝一夕にいかないかもしれないけれども、どこかに突破口を作るという意味で、例えば自動的にポストを必ず用意させる。あるいは要するに大学院生が採れないのは、設置認可で認可を受けていないから採れない。ですから、そういうことをどこで突破できるかというのを考えながら、抱き合わせで少し新しい形が作れないかということを考えてみたらいいのではないかと思います。

【小谷臨時委員】
 出島ということについて、一言いいですか。

【大垣部会長】
 今の件で、はい。

【小谷臨時委員】
 出島ではいけないということは、プログラム委員会で数年前からかなり厳しく言われています。つまり、大学への波及効果を重視しています。評価されるからというだけでなく、私自身も、自分が使ったエネルギーがただ消滅するもので終わってしまっては嬉しくないので、大学全体がどう変われるかということを常に意識してきました。学内の関連部局と有機的な連携により、教員や事務職員がAIMRと交流するように。 大学全体をいきなり改革するのは難しい。一ついい組織を作って、そこに大学の教職員や学生が参加できるようにシステムを作ります。来た人はこんないいことがあったよと必ず持って帰ってくれます。他部局ではそれほどお金はないけれども、できることをやろうという雰囲気になっています。英語の事務書類を見せて欲しい、英語の会議の仕方を教えて欲しいと、諸々のことを聞かれています。
 ですので、WPI拠点は、必ずしも出島ではなくて、大学の中で波及効果は出ています。一番大きな効果は、先ほども申し上げた意識改革です。トップダウンの研究組織を作ることに10年前には非常に大きな抵抗がありました。作ってみたら、それはそんなに悪いものではないということが少なくとも部局長の間では認識が広まったということは非常に大きな成果だと思っています。私の望みは、これを国全体に広げられること。WPI Academyを作る一番大きな理由はそこにあります。大学の中での波及は大学がやればいいけれども、大学の外まで波及するためには国が関わらなくてはいけないということです。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。
 では、宇川委員。

【宇川臨時委員】
 ある意味、黒船論の続きなのですけれども、今日の村山さんの話でもはっきり明らかだと思うのですけれども、確かに黒船だったわけですね。どこにその黒船の一番のポイントがあるかというと、有信先生もおっしゃっていたように人事制度、結局は大学における人事制度のところも一つの非常に重要なポイントとして出てきているわけですね。ですから、その意味で大学全体の組織改革、人事制度の改革も含めて考えないと、WPI自身の意義が逆に問われるというのは、それは確かにそうなのですけれども、でも、逆に言うと運営費交付金1兆円の大学全体と毎年100億のWPIプログラムと考えてみると、予算的には1%でしかないわけですよね。ですから、そのことを考えたときにどういうふうなことを組織改革のポイントとして今後続けていけば大学改革にもつながるかというところがすごく大事で、余りに大きな枠組みで考えることによってWPIのいいところが消えてしまっては元も子もないのではないか。
 その観点からすると、WPIは、まだ8年、9年の期間でここまで来たので、大変すごいと思うのですけれども、もしここで問題をもっと大きなものにすり替えてしまって、本当にWPIの意義が残っていくかというと、そこは非常に難しい。むしろ、そういう意味からは、WPIプログラムはまだ続ける時期にる。新拠点も公募をして、もちろんいつまでも公募をし続けるということはあり得ないわけなので、どのぐらいの数の拠点がよいのか、あるいは終了拠点に対してどの程度の規模の支援を何に対して行うのか、なおかつそのサイクルをどうするか。プログラム委員会の御提案の方にも標準を作って、3年サイクルで評価をしてというようなことが書かれていますけれども、それを何回続けるのかとか、そういった具体的なところを今後もう少し詰めていくことによって、WPI自身の果たしている役割をより大きく、組織改革においても、ブレインサーキュレーションにおいてもより大きくしていくことができるのではないか、というのが私の思うところです。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。
 ほかに御意見。では、小山委員。

【小山臨時委員】
 会社組織にいる者から考えますと、大体、会社の中の組織改定というのは最低10年に1回行うように定期的に実施する感じが多いんですね。それは大体たとえば10年たつと組織のおりみたいなものが溜まってきて、当初これは理想的だと思われるシステムを作っても、必ずどこかに淀みができてしまうということがあるのだと思うんですね。
 ですので、私、大学の人事制度ですとか、システムのことはよく肌感覚で理解できないところはあるのですけれども、組織の老朽化という観点から考えますと、一番社内で活性化してみんなが生き生きしているときというのは、何か得体の知れない新しい風がいつも吹いてきて、ざわざわとみんなが騒いでいるとき、それが非常に前向きなざわつきがあるときというのは非常に活性化するのではないかと思えるのですね。なので、このWPIのお話を伺っていますと、何か大学にとって非常に明るいざわめき感というものを与えているのではないか。これは外から見て違うことを申し上げているのかもしれないのですけれども、そんなふうな印象を受けます。
 ですので、今、宇川先生がおっしゃられたみたいな、じゃあ、別のこの組織がいいだろうから、そちらの方に向かって何かかたいものを作っていこうとされるよりは、やはり10年、15年、もう少し見られて、このざわめき感がどういう方向に収束しているのか、あるいは大学側にどういういい影響を与えているのかというのを上手に見られていくのがよろしいのではないかと感じました。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。
 鈴木委員。

【鈴木臨時委員】
 これは質問なのですけれども、1ページにある2.補助金支援期間終了拠点への支援というところで、またWPI AcademyやAssociationみたいなものが立ち上がる前提なのですけれども、これをホスト大学の学長はそれを今後も積極的に支援して、大学自体が改革していくというふうに声明なさるという理解でよろしいですか。

【斉藤基礎研究推進室長】
 補助期間が終了した後は、ホスト機関でその機能を維持してくださいということでずっと今までもレビューもしてきましたし、そのように進めてきてはいます。ただ、一方で言われておりますのは、年間13億、14億と大きい規模の支援ですし、いきなり急にゼロになってしまうと急に変化が大き過ぎるというお話も伺います。また、当初、プログラムが始まったときにはそれほど想定されていなかった運営費交付金がずっと減り続けてきて、大学等のホスト機関の経営そのものも相当厳しいというような話もございまして、そういう諸々の周辺事情を考えますと、ここにあるとおり各拠点の機能をしっかり維持してもらうためには、何かしらの支援スキームを考える必要があるのではないかとプログラム委員会の方からは指摘されているという現状でございます。

【鈴木臨時委員】
 その支援があれば、ホスト大学の学長は前向きにWPIに今後も協力するし、かつ大学自体を改革していく姿勢があるということを前提にするという理解でよろしいですか。

【斉藤基礎研究推進室長】
 そもそも言いますと、この支援スキームがなくても大学側はそういうふうに支援していただけるということを前提に始まっています。それで走っている制度だとは思いますけれども、こういうものがあればよりWPIの機能の維持により積極的にといいますか、前向きに動いていただけるのではないかと思っております。

【波多野臨時委員】
 村山先生の拠点はもちろんすばらしくて、このWPIと同時にFIRST プロジェクトもあり、研究と教育、東大とバークレーと、複数の役割と責任を果たしていらっしゃり、どのようにこなしていらっしゃったのか、と思っていましたが今日お話を伺い理解できました。今の議論にありましたように、前回部会でのでは、WPIは意外と少ない予算、1億円程度で継続・発展させることがきる、と伺いました。
 もう一度確認させていただくと、どれくらいの規模の予算が必要なのでしょうか?5億程度の支援って必要になってくるのでしょうか。
 それは各拠点でかなり違うのでしょうか?これまで各拠点で構築してきたノウハウや運営に関わることは拠点間の協力で共通化するなどできませんでしょうか?、例えば卓越した能力をつけたスタッフなど、折角このWPIで育成されたのですから、共有化して固定費を減らすなど可能かとも思います。今後大学の中へ波及していくことはもちろんのこと、、学外へ、また他の拠点に展開していくことも重要と思います。それともやっぱり

【大垣部会長】
 IPMUのケース、先ほどの数字が出ていましたので、その中で少し。

【村山機構長】
 もちろん、お金はお金ですから、ここで4億という数字を挙げていますけれども、額が少なくなればそれに応じてできることは少なくなる。私が非常に思うのは、例えば額を半分にしたらアクティビティが半分になるのかというと、残念ながらそうではないと思うんです。その拠点を作るという、先ほど言いましたけれども、1足す1が3になるように作るということを心がけてきた場合、半分になると半分の二乗になったり、半分の三乗になったり、すごくノンリニアに物事が変わっていくので、ある額以上は意味がないという額がやっぱりあるのだと思います。

【波多野臨時委員】
 なるほど。

【村山機構長】
 我々の場合には、それが幾らかというので自分なりに挙げてみてこの額を出しましたけれども、それがどの額であれば本当にいいのかというのは、ある意味で文科省から、全ての拠点を見渡している立場から、ある程度それを割り出すという作業が必要なのではないかと思います。これはうちではこうですということを言っただけですから、全体のシステムの設計にどのぐらいが適切かというのは、今言ったような観点から是非精査して、これぐらいはやっぱり必要なのではないかという額を決めていただくのがいいのではないかと私は考えます。

【波多野臨時委員】
 はい。私もそう思います。

【大垣部会長】
 今の件に少しコメントしますと、この最後、資料1-1の最後のページの3と4のところに、右側の方に国の役割で赤く丸が付いていて。

【波多野臨時委員】
 はい。そこですよね。

【大垣部会長】
 ここのところの予算の規模ですよね。

【波多野臨時委員】
 はい。規模感が分からない。

【大垣部会長】
 そうですね。柳川委員。

【柳川臨時委員】
 今の話につなげますと、この3、4のあたりは非常に国全体としても大事なので、この役割の赤の部分は相当ここに手厚い資金を配分するということが、これからの日本にとっては大事だろうと思います。3のところの先ほどの黒船の話に関連するのですけれども、これは組織改革の先導ということをかなり大きなミッションとして掲げるとすると、ここは本腰を、かなり大きな改革にもつながる大きなポイントなのだろうと思います。ただ、現状でいくと、私はこのWPIって国の政策でいくと特区に相当するものだと思っているので、何がいいかというと、とにかく光輝いてもらって、その光でもって結局、そういうふうに変えた方がいいのだなという実例を作っていってもらうということなのではないかと思います。
 黒船と出島はとてもすばらしい例だと思うのですけれども、違いは何だったかというと、やっぱり見えたということだと思うんですね。出島は見えなかったわけですね。江戸の人たちに。黒船は江戸の人たちに見えたということが大きなことで、結局、WPIがいろいろやってこられ、改革したことをどれだけ多くの人にちゃんと伝えて情報を共有してもらうかというところがとても大事なのではないかと思います。というと、先ほどの村山先生の話のところにあったような、今後どうやって刃を突き付けるかという話でいくと、やはり突き付け続ける必要があって、このAcademyとかAssociationという話もそういう面を残していく必要があるのではないか。片方でこの視点の方の大学の方で、機関の方で面倒を見るということになると、どうしてもそれが弱くなるとすると、このAssociationとかAcademyの方で、ある意味での今後のシステム改革の在り方とか、大学の改革の在り方ということを提言してもらうということは、実はとても大事なことなのではないか。
 その意味では、お話があった、いろいろうまくできてきて分かってきたことを共有してもらうということも大事なのだと思うんですけれども、むしろ、なかなか難しくて、大学がこういうふうに変わらないとうまくできないというネガティブな側面も是非共有していただいて、言えることと言えないことがあるとは思うのですけれども、できるだけそういうことを発信してもらって、それがこの最終的には国の大きなシステム改革との連動につながっていくという、そういうサイクルができるといいかなと思っております。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。
 ほかには。では、竹山委員。

【竹山臨時委員】
 この委員会ではWPIのことに関して話が中心になっていますが、この1年で同様な討議が他の委員会でもなされています。大学、特に国立大学の改革の討議の場で様々な議論がなされています。WPIのみに大学改革の責務を負わせるのは酷なことが多過ぎますし、文科省がもうすこし責任をもって進めるべきかと思います。
 今までの文科省プロジェクトや改革ですが、成果報酬型の手法論を取ってきましたが多くの課題が残っているかと思います。全体を俯瞰した制度設計が必要なので、効率的に他のプログラムとのマッチングをしながら、機関内のWPI以外のプログラムとの連携によるWPI運営を目指すべきかと思います。WPIを生かすためのお金、制度等という考えかたではなく、全体的運営システム内でのWPIの位置づけを考えるべきかと思います。
 特区はそれなりの優位性はありますが、もう少し他の制度との連携を考えていただいた上の包括的討議が必要だと思います。

【大垣部会長】
 さっきの100兆と100億の関係だということを認識していただいて、どうぞ。

【片岡臨時委員】
 私が出島の発言をして、そこから何かいろいろな話題が出ましたけれども、出島って別に否定的な意味で使っているのではないんですね。出島というのは海外に開かれていたんですよ。外から見たときに日本は出島がやっぱり世界の最先端。これはこれでよかったのだと思うんですね。ただ、私が何で申し上げたかというと、ここに問題がいろいろ出ていますけれども、自助努力によって拠点を維持するというところですね。先ほど言われたように、このWPIに行っているお金、結構なお金ですから、例えばこれがなくなった瞬間にホスト機関が全部面倒を見るということですね。これは間違いなく明治維新をやらないといけないんですよ。つまり、大学本体のシステムまで切り込んでやるということですね。
 本当に、今後もホスト機関が全部面倒を見るというプラカードをずっと出し続けるのかどうかということですね。さっき、竹山委員も言われていましたけれども、例えばほかの今、研究開発型大学とか、いろいろなシステムがございますね。そういうものとの連動とか、全体を見ながらやった方がいいのではないかという意味で申し上げました。もし本当に、プラカードをそのまま実践するのであれば、これは出島でなくなる訳で、大学全体のイノベーションにつながるし、そうでなかったら、出島は出島で、蘭学が日本に浸透していった様に、ゆっくりと日本の大学を変える役割になります。一方においては出島のままでも、海外からは非常に大きく評価されているわけですから、きちっと制度設計のときに、もう少し分かりやすい形で、ホスト機関の役割を明確にされた方がいいのではないかなと、そういう意図で発言をいたしました。

【大垣部会長】
 ほかになければ、実は一つ、「融合領域の創出」という言葉が出ておりまして、先ほど三田POも融合領域ということについて触れられましたけれども、実はこの4ページ目というか、最後の表の上から2番目に2は新しい研究領域の開拓ということになっていまして、新しい領域ということになっておりますけれども、それは異分野融合の推進が自己目的化するのではないかという御意見が出たこともあって、このようなことも一つあるということなのですが、何かこの異分野融合、あるいはこの新しい研究領域、この2のミッションに関して御意見等あればお聞かせ頂きたいのですが、いかがでしょうか。新しい研究領域だと何でも全て入るので、特に御意見。どうぞ。

【土井委員】
 そういう意味では、一方に新学術領域がありますよね。ですから、先ほどまでのお話と同じなのですけれども、新学術とは何が違うのかということをやっぱり明確にしないといけないと思うので、新学術はあくまでも研究ですよね。だから、新学術を競争的資金として取ってきてやるとかいうことも可能なわけですよね。そうなると、WPI、最初は例えばカブリのような形で天文と何とかという融合で始めたけれども、でも、途中から変わりましたというのを許すかということなんですね。ですから、そこはWPIは一体何なのかという、何に使っていくのかということをよく考えていかないと、新学術領域ともお金を出しているし、なのに何でここでも必要なのみたいな、ですから、ここだけを表に出してしまうと少し間違えてしまうのかなというのは感じます。
 なので、あくまでも、そういう意味ではシステムを変える、大学の在り方を変えていくというところの一つの側面だとは思うのですが、大学を変えるために文科省がいろいろな施策をやっていますけれども、その施策とどう絡むのかとか、そういうことが全く見えずという状態になっているので、それはきちんと整理した上で、これをこういうふうに進めるのだという、そういう意味での大きなマップを作っていただかないと、財務省側も、じゃあ、何でお金を出し続けるんですかと。最初の約束は、それぞれのホスト機関が面倒を見ると言っていたじゃないですか。それでおしまいですよね。そうなっては困るので、ということで、先ほどから申し上げているつもりなのですけれども。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。
 有信委員。

【有信委員】
 融合領域と言ってしまうから何となくありきたりということになるので、例えば、本当の学問というのは別に既存のディシプリンで全て定義できるわけではないですよね。つまり、新しいことをやろうと思うと、要はその分析的に、例えば対象をより細かく分割を進めれば進めるほど定義が鮮明になる。その方向で学問がどんどん分化して、知識が先鋭化する。例えば本来だったら数物というのが本当に異分野かというようなところが異分野になってしまっているというところがあるわけですね。
 これは多分、対象によって極めて先鋭化された様々な知識の領域から新しい知識を見るときに、当然、融合は起こらないといけない話で、それのつながりは、例えば数物というようなことだけのつながりではないかもしれない。今、土井委員の、逆に言うと研究領域の定義は一体何なのだというのが問題にならないかという問題提起もあったのですけれども、そこはもう少し緩く考えてもいいような気がして、融合と言ったときに、いわゆる出口側で考えてイノベーションに向かう側の融合という部分と、今言ったように極めて先鋭な知識の中で異なった先鋭的な知識を組み合わせる、あるいはそれをつなぎ合わせる、あるいはそこの中の架橋の部分で先へ行くところを考えるというような意味の融合というのがあり得るわけですね、基礎研究分野では。特にさっき御紹介頂いたような数学と物理の話だとか、そういうところで得られるのがまた新しい知識になるわけで、それはもう少し融合ということに関しても注意深く議論していった方がいいような気がしますね。

【村山機構長】
 融合ということに関してなのですけれども、例えば新学術領域と何が違うのか。私、今年、新学術領域、取ったのですけれども、何が違うかといいますと、まず、WPIのように、じゃあ、異分野の人を同じ建物に入れましょうというのを科研費でやるとは思えないですよね。それはWPIというのがこれだけの大きさの予算で大学が無視できない形になっていたから、じゃあ、建物を造ってそこに一緒に入れましょうというところまでやる気になれた。科研費ではそうならない。
 実際にそうやって集めて、同じところにいる。ティータイムで会おうという環境ができて初めて、それまで考えることもできなかった、恐らく科研費の申請書になることがないようなインタラクションが生まれる。それは先ほどの話と似ていますけれども、ある程度のクリティカルマスがやっぱりあって、その規模があるから実現できるという何か、弁証法みたいに量的変化が質的な変化を生むという、そういうものなのではないかと思います。
 私の経験から言いますと、13億って大きなお金なのですけれども、本当に分野融合するためには、この分野もクリティカルマスがあり、それを両方組み合わせるまでの大きさがあるということがないと本当はできないわけで、13億というのはそれでもカツカツぐらいです。ですから、これも本当に規模感として、ある程度のサイズがあって初めてできることで、そうでないと大学もそこまではやろうとしないという、そういうスレッショルドがどこかにあるのだと思います。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。
 時間が、一言、はい。

【小谷臨時委員】
 一つ一つのアイテムはそれぞれに何らかの別のツールがあって、それでできるかもしれませんが、WPIプログラムではそれを一つに統合してできるというところが魅力です。システム改革を研究や研究者から完全に切り離してシステム改革すればいいのか、国際化を研究や研究者から切り離して国際化すればいいのか、それは大体うまくいかなくて、それらが統一的にできるからこそ世界拠点であり、非常にうまく機能したと思います。
 最終的にはこんなものはシステム改革ではなくなり、全ての大学で当たり前にできるようになることが目的ですけれども、現状ではWPIが必要です。トップレベル研究者がいて、新しい領域にチャレンジし、システム改革も行い、国際的である、これが統合できるような世界トップレベル研究所を作ることが、WPIでは大切だったと思っています。

【大垣部会長】
 ありがとうございました。

【宇川臨時委員】
 一言だけよろしいですか。

【大垣部会長】
 では、発言されていない若山委員。あと短く。時間がオーバーしているので。

【若山臨時委員】
 はい。短くいたします。大学では、九州大学ですけれども、WPIは大事ですけれども、もちろんWPIセンターのことだけを考えているわけではなくて、文科省のいろいろな施策を合わせて、国が考えるべきだということはもちろん国もお考えでしょうけれども、大学自身が執行部としても全体の観点から考えているのは事実です。やはりこれが徐々にですけれども、大学のシステム改革につながっているというのは現実です。そのためにやはり今日もございましたけれども――短くします。
 人材育成、教育のこと、先ほど有信委員が言われたことは結構決定的なところがあります。そういう意味でもやはり全体を考えたときの支援というのは国として、今日何度も出てきましたけれども、それは必要で、そしてWPIをいつまで続けていくかということも含めてバランスというのがあると思うんですね。そこを国として考えて、大学もそれぞれ考えていく。そういうふうにしていかないといけないと常に思っています。

【大垣部会長】
 ありがとうございます。

【宇川臨時委員】
 分野融合についてのコメントなのですけれども、この分野融合の自己目的化と書かれていますけれども、私はこれは書き過ぎではないかと。融合で各拠点が非常に苦労したのは事実ですけれども、私は結果としてはそこから新しいものが生まれてきているというのが事実ではないかと思います。ただ、融合というと二つの分野が一緒になるということですね。だけど、もっと大事なことは、それによって新しいものが生まれてきたということではないかと思って、その観点からは新しい研究領域の開拓という方が融合も含めてよりよいネーミングではないかと思います。

【大垣部会長】
 どうもありがとうございます。
 あと、どうしてもという御意見は。よろしいですか。時間が少し。熱心な御討議、どうもありがとうございました。それでは、文部科学省におかれましては、今ありましたように大学改革、あるいは基礎研究等に関する全体的な俯瞰を、政策の方で俯瞰をしつつ、かつロードマップも考慮して本日の議論を踏まえてWPIプログラムの今後の在り方について、更に具体的な検討を進めていただければと思います。それが皆様の御意見ではないかと思います。
 それでは、時間が少しオーバーいたしましたが、本日は以上で終了させていただきたいと思います。最後に今後のスケジュールについて、事務局から説明をお願いいたします。

【斉藤基礎研究推進室長】
 まず、最後に頂きましたコメントですが、文科省全体で考えるべきというお話で、我々も強くそれを認識しております。プログラムができてから10年ぐらいたつわけですけれども、多分、10年前と今とかなり状況も違うと思いますし、WPIでこれだけの成果を出していただいたからこそ、黒船なのか、出島なのか、次の展開をしっかり考えないといけないフェーズに入っていると思っておりまして、そういう意味ですと、先ほどもまさに御指摘頂いた指定国立大学の制度ですとか、システム改革と称して文科省が様々行っている既存のプログラムなどとWPIの将来計画がどのように連携できるのかということも、既に担当課ベースではいろいろ話も始めておりますし、なるべく具体的な形で御提案できるように検討していきたいと思っております。
 事務的な御連絡ですが、資料2でございます。今後の予定についてということで、次回3月9日、14時から16時ということで予定させていただいております。今日の議論の続きということで、WPIプログラムの今後の在り方について及び今日の案件とは別ですが、数学イノベーション委員会の検討が進んでおりますので、その状況について御報告をさせていただく予定となっております。
 なお、本日の会議の議事録につきましては、作成次第、委員の先生方に御確認頂きまして、文科省のホームページに掲載させていただきます。本日の資料につきましては、封筒に入れて机上に残していただければ事務局の方から郵送させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 以上です。

【大垣部会長】
 それでは、以上をもちまして、7分ほどオーバーしてしまいましたが、第6回戦略的基礎研究部会を閉会いたします。皆様、熱心な御討議、どうもありがとうございました。

── 了 ──

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