数学イノベーション委員会(第18回) 議事録

1.日時

平成27年4月24日(金曜日)13時30分~15時30分

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 数学イノベーション委員会について
  2. 数学イノベーション委員会における検討について
  3. その他

4.出席者

委員

若山委員、合原委員、今井委員、グレーヴァ委員、國府委員、小谷委員、高木委員、常行委員、中川委員、長谷山委員、樋口委員、舟木委員、本間委員、森委員

文部科学省

常盤研究振興局長、安藤大臣官房審議官(研究振興局担当)、行松基礎研究振興課長、粟辻融合領域研究推進官、田渕基礎研究振興課課長補佐

5.議事録

【若山主査】
 それでは、事務局から配付資料の確認をお願いします。
【粟辻融合領域研究推進官】
 はい。配付資料を確認させていただきます。座席表の後に議事次第が1枚ございまして、その後、資料1-1、それから、1-2、1-3とございます。その後、資料2が数学イノベーションの取組についてでございます。その後、各先生方の発表の資料が資料3-1、3-2、3-3、3-4、3-5まで5種類ございます。あとは、資料4としまして、数学イノベーション委員会における検討についてという1枚紙があります。その後、参考資料としまして、参考資料1-1と1-2、それから、参考資料2として、この前の委員会でまとめた「数学イノベーション戦略」を付けております。
 以上でございます。何か足りないものがございましたら、事務局に言っていただければと思います。
【若山主査】
 よろしいでしょうか。もし途中で足りないことが判明した場合には、その折りにお伝えください。
 それではまず、本委員会の設置や規則について、事務局より御説明をお願いいたします。
【粟辻融合領域研究推進官】
 資料1-1をごらんいただきますと、先ほども申しましたけれども、午前中に戦略的基礎研究部会が開催されまして、そこの部会でこの数学イノベーション委員会がその下に設置されることが正式に決まっております。
 委員につきましては、資料1-2にありますように部会長の方から指名されておりまして、本日皆様にお集まりいただいているということでございます。
 私の方から、僭越(せんえつ)ですが御紹介させていただきます。
 座席順でございますけれども、常行先生でございます。あとは、高木先生、それから、長谷山先生、それから、本間先生、グレーヴァ先生はちょっと遅れてこられるということで今いらっしゃらないということでございます。それから、主査の若山先生、それから、小谷先生、それから、合原先生、今井先生、國府先生、樋口先生、舟木先生、森先生でございます。グレーヴァ先生、中川先生は遅れてこられるということと、常行先生は途中で退席されると聞いております。
 それから、資料1-3が、当委員会の運営規則の案でございます。一番上の科学技術・学術審議会、あるいはその下に設けられたこの上部部会である戦略的基礎研究部会の運営規則に定められていない事項については本委員会の運営規則で定めるということになっておりますので、それをごく簡単に紹介させていただきます。
 第1条は趣旨が書かれております。
 第2条は、その下に小委員会を置くことができるという旨の規定でございます。
 第3条は、議事と書いてありますけれども、過半数が出席しなければ会議を開くことができないという旨が定められています。
 第4条は委員の欠席に関する規定でございます。
 それから、裏に行っていただきまして、第5条は委員会の公開に関する規定。
 第6条は、委員会の議事録の公表に関する規定でございます。
 概略は以上でございます。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 何かただいまの説明に関し、御質問等ございましたらお願いいたします。
 よろしいでしょうか。どうもありがとうございます。それでは、資料1-3のとおり、本委員会の運営規則を定めることにしたいと思います。
 では、議題2に参りたいと思います。数学イノベーション委員会における検討についてに移りたいと思います。本日は、数学イノベーション委員会の現状、数学・数理科学以外の分野や企業からの数学・数理科学へのニーズなどを踏まえながら、今後検討すべき内容について御審議していただきたいと考えています。
 まず数学イノベーションの取組について、事務局より資料に基づいて御説明お願いしたいと思います。
【粟辻融合領域研究推進官】
 それでは、資料2を御覧いただければと思います。余り時間もございませんので、簡単に御説明させていただきたいと思います。
 1ページ目の下の部分に書いてありますのが、全体の取組の概要図でございます。大きく分けると、背景と、それから、文科省の組織体制のようなものと、具体的な取組と三つに分かれております。
 背景はもう既に皆さん御存じのものも多いでしょうから省略させていただきます。
 体制として、この数学イノベーションが4年前に設置されて、これまで議論を重ねてまいりました。その成果物として、昨年8月に「数学イノベーション戦略」という報告書を取りまとめております。また、我々、数学イノベーションユニットという組織を、バーチャルな組織ですけれども作っておりまして、そこを中心に具体的な施策の企画立案などを行っております。
 具体的な活動としまして、下の部分に三つに分けて整理をさせていただいています。一つ目が、数学への具体的なニーズをどう発掘していくのかということ、それから、二つ目が、数学と諸分野あるいは産業との協働による研究の支援、三つ目、右端の部分にありますのが、こういった活動をする組織、拠点の整備と、この三つでございます。
 1枚めくっていただきまして、先ほど申しました「数学イノベーション戦略」という報告書が昨年8月にまとまっていまして、今申し上げたような三つの部門を含む五つの柱で今後取組が必要なものを整理しています。1番、2番は、先ほど申しましたとおりで、あとは、人材育成とか、情報の発信なども含めた取り組みが必要だということがまとめられております。
 その下の4ページは、報告書をまとめたときの委員会のメンバーとか、あるいは委員会にお呼びしてお話をお聞きした人たちのリストでございます。
 5ページからが、具体的な取組のまず1本目の柱である、数学へのニーズをどう発掘していくのか、それをどう支援していくのかという活動です。これは数学協働プログラムと略称で申していますけれども、これを平成24年度から5年間の予定で開始しておるところでございます。何をしているかと申しますと、そこに今、ワークショップとか、スタディグループとか、作業グループとかいろいろ書いていますけれども、一言で申しますと、数学・数理科学の関係者と、それから、他の分野や産業の関係者とが出会って議論をする場を設ける活動を支援しているということでございます。体制は、5ページの右側に書いてあるように、統計数理研究所に受託機関になっていただいて、全国の八つの大学が協力機関になるという体制を組んでいただいております。
 それで、具体的にどのような成果につながっているのかということの一例がその下の6ページにまとめられています。これは、要は、こういう出会いの場とか議論の場を作った結果、具体的な共同研究などにつながった事例などを少し集めたものです。例えば一番上にあります、はんだ付けの不良箇所を検出する装置の共同研究、それから、実際の特許の共同出願につながったような事例とか、あるいは、昨年、つい最近行われた、リチウムイオン電池の寿命の予測などに関する共同研究に向けた動きにつながりつつあるような事例とか、あとは、自動車などに使われる部品であるシャフトのひずみを解消する装置、これも経験と勘でソフトウェアの設定がなされているようなところがあるらしいんですけれども、それの根拠になるような理論が欲しいということで、そういうことを目指した共同研究に至った事例とか、こういった出会いの場を作ることでこのような共同研究につながったような事例が幾つか出てきているということでございます。
 7ページは、同じくこの事業、この数学協働プログラムの中の事業として、昨年10月に初めてこのような数学を専攻する主に博士課程の学生と企業との交流会のようなものを開催いたしました。企業からは20社以上の会社が参加しまして、トータルで100名以上の参加者があって、非常に盛況だったと思っています。そこにありますように、学生からの企業へのポスター発表、あるいは企業から学生への個別交流会、こういったものが開かれたということでございます。
 二つ目の活動のコアとして、いわゆる共同研究をどう支援していくのかというものがございまして、2に書いてあるのは、JSTの戦略創造事業の中で数学関連の領域が幾つか設けられて活動がなされているというものでございます。一番上が、2007(平成19)年から始まっているものでして、いろいろ研究成果の芽が出つつあるものでございます。真ん中がビッグデータ関連の領域、これが一昨年度から始まっており、昨年度からは数理モデルの領域、一番下の領域が始まっているところでございます。
 それで、右側の9ページに行っていただきますと、9ページに挙げましたものが、昨年度発足した数理モデリングの関係の領域、これはさきがけとCRESTと両方あるわけですけれども、初年度に採択されたテーマを少し整理してみたものでございます。ここにありますように、生命科学とか材料科学あるいは気象学のようなもの、それから、社会とか金融とかといったもの、こういったところと連携して現象を数理的に記述してやろうというようなものとか、あとは、言語学だったり、機械工学だったり、計算科学とか、情報関係では暗号の関係の研究テーマとかがございます。あとは一番下の緑の部分は、どちらかというと横断的に様々な数理モデリングの技術や手法や理論を研究していこうというテーマでございます。このようにいろいろな分野と連携しながらやるような研究がまた今後本格的に始まろうとしているということです。
 それから、10ページは、三つ目の柱である組織、体制です。ここにありますように、北は北大から南は九州大学まで幾つかの大学で、数学と異分野あるいは産業との連携の拠点が設けられているところでございます。大学共同利用機関として統計数理研究所、それから、共同利用・共同研究拠点として京都大学の数理解析研究所がもともとあったわけですけれども、ここ一、二年で九州大学のマス・フォア・インダストリ研究所あるいは明治大学の先端数理科学インスティテュートが新たに認定を受けているところでございます。
 11ページ以降は例示でございまして、これは省略させていただきます。
 それであと、もう一つめくっていただきまして、参考資料と致しまして、16ページから日本の数学の現状を示すようなデータを少し紹介させていただきます。
 16ページは、これは日本の数学、特に純粋数学のレベルがどうなのかということを示す指標として整理したものです。例えばフィールズ賞の受賞者でいいますと、受賞者の数は3名ということで、日本は欧米諸国に次ぐ6番目ぐらいの地位を占めているとか、あるいは2006年に創設された、同じく国際数学連合が作ったガウス賞という、数学が応用されたことに基づいて表彰する賞が設けられておりまして、これの第1回の受賞者が日本人の伊藤清先生でございます。
 また、こういったフィールズ賞、ガウス賞を表彰している国際数学連合の総裁に今年から我々の数学イノベーション委員会の委員もしていただいている森先生が就任されております。これは欧米以外を拠点に活動する数学者が総裁になるというのは初めてという状況でして、欧米から見ても日本を含むアジア地域への期待が高まっているということの表れではないかと思っています。
 それから、この下のグラフは、国際数学連合が主催して4年に1回行う国際数学者会議における基調講演あるいは招待講演の数を所属機関の国を基に並べてみたものでございます。アメリカが圧倒的に多いわけですけれども、ここにありますように、過去30年間ぐらいのものを集計いたしますと、日本の地位が欧米5か国の次ぐらいに来る地位を現状では占めているというものでございます。
 それから、17ページは主に応用数学にフォーカスしていまして、応用数学全体の論文数はすごく増えているけれども、日本のシェアはなかなかそれに比べると伸び悩んでいるというものでございます。
 それから、18ページは、これも数学と他分野の連携を示す指標の一つとして、いわゆるトップ1%論文を生み出した研究チームにどの程度数学を専門とする人が参加しているのかということを示した割合でございます。これはアメリカと日本で比較していますけれども、一目で分かりますとおり、アメリカに比べると日本はかなり見劣りをしているということでございます。
 あとは、19ページ、20ページはキャリアパスの関係です。一例として、アメリカでは2014年のBest JobsでMathematician、数学者がトップになっているのに対し、日本の場合は、これは日本数学会が昨年とられたアンケートの結果で、数学専攻の博士課程修了の学生の就業状況を調べたものでございます。ここにありますように、実際に企業に就職される方は極めて人数的には少なくて、いわゆるアカデミアに進まれる方が非常に今多いという結果が出ております。
 ただその一方で、20ページにありますように、同じくこれは日本数学会が数年前に調べた大学院生向けのアンケート調査結果です。ここにありますように、学際的な講義とかインターンシップなどに参加したことがある人だとか、あるいは他分野との連携企画や大学からのキャリア支援企画などへの参加意欲のある人、こういった指標はかなりの人が参加を希望していたり、あるいは現に参加をしたりしているというようなデータが出ていますので、今後更に伸ばしていく余地はあるのかなと考えています。
 ちょっと時間が長くなりましたけれども、以上でございます。
【若山主査】
 後で意見交換の時間はとりたいとは思っておりますので、ここでは特に御意見求めないことにしますが、何か御質問がございましたら。よろしいでしょうか。それも含め後ほどということで進めたいと思います。
 それでは、数学イノベーション委員会における検討についてですけれども、数学・数理科学以外の分野・企業での御所属で新しくこの委員会の委員になってくださいました常行先生、高木先生、長谷山先生、本間先生、グレーヴァ先生からそれぞれ、数学と連携が必要となるような課題について、短い時間で大変恐縮なんですけれども、御紹介いただきたいと思っております。先生方、大体説明を8分ぐらいしていただいて、その後、少し質疑、2分ほど時間をとりまして、最後にまとめて意見交換をしていきたいと思います。きょうは初めての会議ですので、是非とも全ての先生方に御発言いただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。
 それでは、常行先生からお願いします。
【常行委員】
 東京大学の常行でございます。私、物性物理学の理論研究とか、あるいはもうちょっと言うと、計算物質科学という分野で研究をしています。「京」コンピューターって御存じかと思いますけれども、あれの戦略機関の中の分野2という、新物質・エネルギー創成という分野の責任者をしています。そこで分子科学あるいは材料科学まで含めて物質科学全体を見ていていろいろなところで困ったことがたくさんあって、その中で数学者の方に御協力いただくといいのかなという、そう思われるところを少しピックアップしてまいりました。
 3ページしかございません。一つ目が物質構造探索という問題です。物質の構造を、例えば化学組成を与えて、温度と圧力を与えて、じゃ、何ができるんですかというのを、これを完全に理論予測する。これはもうこの分野、我々の業界の何十年にわたる夢みたいなものでして、随分進みましたけれども、いまだにまだまだできないことがたくさんある。計算機を使うと、それはいろいろなことができるようになっていますが、実はいろいろな大きな計算ができるようになって、もっと難しくなってきている。難しい要求が出てきているところがたくさんございます。
 ここに絵を載せましたけれども、これは何かというと、リチウムイオン二次電池の電極です。電極付近で一体何が起きているのか、これを計算シミュレーションでやろうとすると大変な労力がかかって、かつ分からない。原子数が多いとか、それから、起こるはずの物理現象の時間スケールが非常に長くて計算機で追い切れないとか、そういう事情がございます。これの何が難しいかというと、固体と液体とその界面にできる訳の分からないアモルファス状態、ガラス状態、そういうものが共存しているようなために非常に難しいんですが、これは電池に限ったことではなくて、いろいろな分野でこういうことがございます。
 例えば半導体と酸化膜の界面、これは例えばシリコンカーバイトとかガリウムナイトライドみたいなパワーエレクトロニクス材料の界面、それから、触媒反応で何が起きているか、それから、高性能の磁石を作るときに磁石というのは粒界がないと材料として使えませんが、その粒界構造が一体何なのか。それから、構造材料、金属材料等、その中にちょっとした添加物を入れると強くなる。これがどういう役割を果たしているのか、それはミクロな構造がわからないと議論ができない。
 こういうところでいろいろな構造探索の問題が出てまいります。それは簡単にまとめていうと多自由度最適化の問題で、その中でどうやって妥当な解を見付けていくか。それも一番安定点だけではなくて、力学的に、物理的に妥当な分布を見付けていく、そういう問題が大きなテーマとしてございます。それから、これは計算機だけではなくて、実験グループと協力して、実験データからいかに構造データを作り出すか。それは逆問題をどう解くかという話でして、これもきれいな結晶であればかなりのことができますが、こういう乱れた構造あるいは界面の複雑な構造については、なかなかできません。それから、この両方のやり方、計算機でボトムアップでシミュレーションしていくやり方と、それから、実験データから逆問題を解いていくやり方、この二つをどうやって組み合わせていくか、これは一種のデータ同化だと思っていますが、この方法論についてまだまだ未発達でございます。これが1点目です。
 それから、物質合成と材料創製の問題、新しい材料、新しい物質をどうやって作っていくか、実際我々が使える役に立つ材料の組織、非常に複雑な長周期の構造であったり、大きな単位を持ったような構造、これをどうやって制御して作っていくか。これは多分に経験的な知識、知恵によるものが多いんですが、これを何とか数理モデルにのせてシミュレーションしていく、あるいは予測していくということが必要かと思います。
 ここに例、この絵は余りよろしくないんですけれども、つい最近聞いた例は、MOVPという有機金属を使った気相成長法、これを使って新しい半導体デバイスの材料を作っていく。ただ、ゆっくり作ればできますが、実際に経済的に合うような速いスピードで作るとどうしても不純物が入る。これをどうやって除去したらいいんだろうかと。これはミッションは最適化問題かもしれませんけれども、大きなテーマになりそうな分野です。
 それから、資料の方は書き忘れて、一番大事なものが抜けたかもしれませんが、マテリアルズインフォマティクスというのがあります。いろいろな産業界でも期待されていて、材料の分野でインフォマティクスを使って新しい材料開発をしていこうと。これはもう磁石から触媒から電池からあらゆる分野でとにかく期待はされている、これからという雰囲気のある分野でございます。これが2点目です。
 3点目はガラッと話が変わりまして、量子多体問題という話で、これは我々の業界でも一番基礎的な部分に当たります。物質を電子論から理解していくときに、電子論自体の精度、信頼性を上げていくという問題です。例えば高温超伝導体の電子状態を理解していく、あるいはもう少し新しい、電子相関が強いというふうに我々業界でいいますけれども、相関の強い電子系というんですが、こういう新しい電子材料の候補、これを理解していくときに、今のシミュレーション手法、その基礎となっている電子論ではまだまだ足りないところが多くて、新しい手法が求められています。
 多体波動関数理論という、済みません、業界用語のジャーゴンで申し訳ないんですが、その分野でいろいろな進展が最近あって、例えばここに一つだけ挙げたテンソルネットワークというのは、我々の中でも一番基礎的な分野の人たちが非常に注目していて、今、日本で若手の研究者が大量にここに参入しようとしている方法論です。もう図で描くしかない、こんなおもちゃみたいな絵で描くしかないんですが、いわゆるMatrix product statesというものを使って、entanglementといいます、そういう量子的な取扱いをして、量子力学に従うような電子系の問題を解いていく。
 これが非常に難しい問題で、個別問題に対してはそれぞれに最適な方法、良さそうな方法がいろいろ見付かりつつあるんですが、実は本来統一されるべきものがばらばらなままで、汎用性の高いものができていません。ここを何とか本当は数学者の方と一緒にやって、統一的な汎用性の高い、しかも安定した方法を作っていくというのが結構大事なことかなと思っています。
 ということで、以上です。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 何か御質問等ございましたら、お願いいたします。余り時間をとっておりませんので、また後でということも……。
【合原委員】
 一ついいですか。
【若山主査】
 はい。
【合原委員】
 量子多体系なんかで、最近物理系として作る量子シミュレーション、ああいう話とこういう数学的な話というのはどれぐらい足並みをそろえてやられているんですか。
【常行委員】
 量子シミュレーションの話、量子計算ですかね。
【合原委員】
 というか、量子系を物理現象として作って……。
【常行委員】
 ボース・アインシュタインコンデンスレーションを使っているんですね。レーザー冷却を使って。
【合原委員】
 いろいろとあると思うので。
【常行委員】
 そこはある程度連携してやっています。実際に物を作ってシミュレーションをやる、物質を作ってしまうという話ですね。
【合原委員】
 そうですよね。
【常行委員】
 それもございます。
【小谷委員】
 今年の物理学会でマテリアルズインフォマティクスのセッションは非常に好評だったというか、大変な大盛況だとお聞きしました。そこで何か数学者が聞いておいた方がよいようなコメントとかはございましたでしょうか。
【常行委員】
 済みません、私、別用があって出られなかったんです。大変残念だったんですけれども。
【小谷委員】
 大変な盛況だったとお聞きしたので、期待は大きいのかなと。
【常行委員】
 そうですね、大きな会場が満杯で立ち見が出たと聞いています。物理学会でも非常に興味は持たれていて。ただ、実際に自分で参加しようという人は数が限られているという状況かと思います。やっぱり皆さん、物理やっている方は、物理のいろいろなものを包括するような物理的な概念を導き出せるとかそういうことがあると非常にいい方法論として使えますが、インフォマティクスが材料開発で特別な例えば役に立つ材料を経験的よりももうちょっとうまく作れましたぐらいであると、なかなか自分でやるというところまで行かないですね。だから、インフォマティクスというのも非常に範囲の広い言葉ですので、そこに恐らくは日本なりの、数学者も参加して、物理屋も参加して、材料の方も参加してという、それぞれの分野で役に立つようなインフォマティクスがこれから作れればいいかなと思います。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 それでは次に、高木委員の方からお願いします。
【高木委員】
 東京大学の高木と申します。私はバイオインフォマティクスという分野を専門にしておりますが、ただ、私はデータベースだとか自然言語処理だとか、どちらかというと生物学の知識を扱う方ですので、もちろん機械学習とかはいろいろ使うんですけれども、数学とあんまり縁がないんですが、私、ライフサイエンス委員会の委員をしている関係で、この委員会との二つの委員会の接点という意味でこれに出ろと言われたので、あんまりお役に立てないと思ったんですが、来ました。それでまず、そういう意味でなかなか数学という観点ではお話しできないんですけれども、いわゆるバイオインフォマティクスという観点で少しこれまでの経験なり状況をお話ししたいと思います。
 まずデータのことでございますけれども、データは次世代シークエンサー、NGSと呼ばれているものが非常に急速に進歩しておりまして、御存じのようにヒトゲノムを決めるのに、10年15年前は数千億円のお金がかかったんですが、今は何万円という金額でできるぐらいです。その性能の伸びというのは、いわゆるムーアの法則と呼ばれているコンピューターの伸びをはるかに凌駕(りょうが)しておりまして、とにかく大量にデータが出てくる。ゲノム以外にも、タンパクの情報だとか代謝の情報だとか様々なものが簡単に計測できるようになりまして、それからまた顕微鏡も非常に進歩していて、様々なデータが急増している。
 それから、最近は、コホート研究といいますけれども、いろいろな人を何年間も追跡して、その健康と環境情報とか生活習慣との関係を明らかにしようと。そうなってきますと、従来の生体分子の情報だけではなくて、臨床情報はじめ、生活習慣、それから、環境情報、こういうものがどんどんたまってくる。特に最近のIoT、Internet of Thingsだとか、それから、ウェアラブル端末とか、そういうものからどんどんデータがとれてくる。皆さん個人で自分のデータを測るようになっていまして、口の中にどういうような細菌がいるかとか、そういうものも簡単に測って、みんなオープンにしているような状況になっています。
 今こういうような状況でして、データ量というと、大体ペタのオーダーで物事を考えるような状況になってきます。この分野のデータベースセンターあるいはスパコンセンターというと、数十ペタのデータディスクを持っているというのが普通になってきているという状況です。
 それからもう一つ、ここまではデータの話なんですけれども、実は論文も急増しておりまして、今、2,400万件ぐらい。年間70万件ぐらいの論文が出ている。それぐらい出るわけですから、いろいろ問題も起きているという状況です。このような状況がある。
 じゃあ、今言ったようなデータを産業につなげるとき、どういうような流れでデータが出てきて管理されていくかといいますと、一つは下にこういういろいろな生物なり植物なり様々なものがある。最近は腸内細菌とか、これも非常に病気に関係しているとか言われていますが、そういうもの。それから、iPSだとか、ゲノム編集と呼ばれている技術があって、こういうものを使って様々なデータが取られていく。病院だとか、様々な大きなプロジェクト、民間企業、様々なところでいろいろな情報がたまってくる。ここに書いたような情報がたまってくる。
 問題は、個人ゲノムの情報とかがございますので、どこか1か所に集めるのはなかなか難しくて、やっぱり病院で管理するとかそういうことになってきますと、こういうふうなスパコンとか大容量ストレージの連携をしたネットワークを作っていかないといけない。まだこれ、日本ではできておりません。HPCIというのはございますけれども、それとは違って、いわゆるデータサイエンスを進めるためのネットワークみたいなものを作っていかないといけない。
 その上で、先ほど言いましたように、テキストマイニングとか、そのデータの著作権とか、それから、パーソナルゲノムとかになりますと暗号化とか匿名化とか、こういうものを倫理問題も踏まえて管理していくということで、単にデータを処理するというよりも、もう少し幅の広い、社会との接点まで含めて考えていかないといけないという状況になっています。それから、そういうデータも今、国際的にどんどん共有する方向に来ているというわけです。
 問題は、ここに大量のデータが出てくるから何かソフトウェアを掛ければいいかというと必ずしもそうはいかなくて、例えば遺伝子という最も基本的な言葉の定義さえデータベースごとに違います。ですから、二つのデータベースで遺伝子というデータを取ってきても、それは別物だったりするわけです。あるいは、一つの遺伝子にも複数の名前が、10、20の名前が付いていますので、何か解析しようと思っても、それらが同じものなのか、違うものかということをまず整理しないと、そこから始めないといけません。
 それから、もちろんデータそのものは、相当文脈依存性といいましょうか、装置依存性とか、様々なことがあります。普通に考えてもらえば、例えば血圧を朝測るのと夜測るのとどういう状態で測るかで違うのと同じように様々なものがあって、それをどううまくコントロールするかということで、そのデータを整理、共有しないとなかなか解析まで至らないという、こういうフェーズがございます。それをベースにしまして、数理モデルから始まりまして、最近は人工知能研究が非常にこの分野でも使われていますけれども、機械学習、統計解析、様々なものが使われているという状況です。
 その中で大きく分けて二つアプローチがございます。一つは、どちらかというと分かっているもの、それから、論文で書かれているものをまとめて、モデルを立てて、それを詳細に解析していくという方向と、ガサッと大きなデータを取ってきて、例えばヒトゲノムの変異の情報と疾患との情報を何万人分集めて、その間のアソシエーションをとるというようなやり方です。
 問題は、でも、この間の二つが完全に分離しておりまして、そこをうまくつなぐような仕組みが全然ないというのが今大きく言われているわけです。将来的にはそういうものを使って予測とか設計ができれば、ここに書いたようなものが実現できるだろうと。医学的には予防医学的なもの、それから、農業ではいろいろなゲノムを使って、設計といいましょうか、デザインするような時代が来るだろうと。
 さて、それで、この中でいろいろ解くべき問題は非常にいっぱいあるんですけれども、先ほど申しましたように、私、必ずしもデータの解析をそれほどやっていないので、周りの人間に少し聞いてみました。やはり皆さん同じようなことを言うんですけれども、基本的には非常によく分かったものに関しては「京」とかを使ってシミュレーションとかできるんですけれども、なかなか予測までつながらない。分かっていることをなぞるみたいなところがまだまだ多い。
 やはりメカニズムの理解とか、未来予測とか、例えばがんの進行予測とか、生体系の予測とか、あるいは薬の場合は最後に行って毒性が分かって駄目になるというケースがありますから、最初からやっぱり毒性みたいなものをうまく予測するとか、あるいは今言った作物を設計すると、こういう方向です。そのために必要なのは、やはりその現象を支配する、こういうものを自動的に抽出するようなものと、それと機械学習とをうまく組み合わせたようなものとか、あるいはゆらぎ、これは合原先生とかがおやりになっていますけれども、そういうような、どちらかというと数学というより物理系の方が取り組んでいるかもしれません。それから、ここに書いたような統計手法です。
 あとはそれ以外に、きょうはお話ししませんけれども、様々なデータが出ていますので、イメージ解析。それから、もう一つ、これ重要になっているのが、パーソナルゲノム等をどううまく分散管理して、あるいは秘匿検索をして暗号化して、あるいは電子割り符みたいなもので個人同定をするかとか、あるいはあるデータを公開したときに、それがどの程度個人同定可能かどうかみたいなことを予測しないと、なかなかどのデータを公開していいのか分からない。
 それから、今まではどちらかというと、DNAのデータは一次元の文字列として解析してきましたけれども、それだけではなかなかうまくいかない、分からないところがありますので、DNAとかタンパクの構造そのものをうまく扱って、その配置とか、そういうような技術も必要で、これは例えばトポロジーだとか、幾何学みたいなものとか、群論とかそういうものが必要になってくるかもしれません。
 さて、それで最後に、こういうようなことは、私が言う前に、数学協働プロジェクトの提言「数理生命科学」、割とつい最近これ、公開されましたけれども、そちらに大体載っています。それからもう一つ、今申し上げたような観点での研究は少し進んでいまして、文科省のプロジェクトですと、生命動態システム科学拠点推進事業というものがございまして、東京大学に2か所、それからあと、京都大学と広島大学にございますけれども、そういうところでも取り組まれております。ただ、そこで成果はもちろん出ているんですけれども、必ずしも現実の生物学者あるいは医学者が求めるような問題設定にはなってなくて、そこにまだギャップがある。ですから、生物学者はやはり目の前の問題を解きたいわけで、そうすると、やはり10年先に何が分かるということはほとんど関心がないという状況になっています。
 それで、生命科学と数学の間にバイオインフォマティクスという分野があると思うんですけれども、これも、ここ20年ぐらいの歴史がございますけれども、依然としてやっぱり生物系と情報系に大きな隔たりがあります。隔たりはいっぱいあるんですけれども、基本的にはやはり過度な期待と失望が常に入り交じっていまして、先ほどの臨床情報とか環境情報を取ったら何か分かるだろうと。あとは、でも、お医者さんは、それは誰かバイオインフォマティクスの人が解釈してくださいということになるわけですが、なかなかそうは簡単にはいかない。やはりいろいろ物の見方、何が大事かというところの価値観が大分違いますので、依然として大きな問題がある。
 それから、これはつい最近『Nature』に出ましたけれども、こういうようなタイトルで、バイオインフォマティシャンへ見返りがないと、要するに、キャリアパスの問題とかあって、この分野に誰も参入しない。多分もっと、数学の場合も同じようなことが言えるんじゃないかと思います。要するに、先ほど申しましたように、生物学者が解きたい問題というのは、装置によって、いろいろな文脈によって違いますから、そのパラメーターフィッティングみたいなこととかパラメータ設定で時間がとられるんですね。そうすると、新しいアルゴリズムを作るなんていうことにほとんど労力を割けなくて、なかなか情報系として論文が書けないという問題で、そういう人をどうサポートしていくのか。
 それからもう一つは、教育の問題で、この二つのギャップは、日本の場合は特に生物の人は数学、プログラミングは大嫌いですから、どうしてもそこの教育みたいなことをきちんとやらないと、なかなか先ほど言ったような過度な期待、過剰な期待が生まれてしまったりするという現状になっているわけです。
 最後に、数学ですけれども、数学はやっぱりどこに必要か、何が有用かということはまだまだ検討されていないように思います。数学が必要とされる問題、あるいは数学が有用な問題というのはもう少しきちんと議論していかないといけないんですが、私の考えでは、やっぱり生物学者と議論しても多分何も得られないというふうに極論すれば思いますので、そこはやはりバイオインフォマティクスの人が間に入ったり何かして少し問題をきれいにしていかないとなかなか議論が難しいのかなと思っています。以上です。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 何か御質問等ございますでしょうか。
【合原委員】
 いいですか。
【若山主査】
 どうぞ。
【合原委員】
 論文が2,400万出ていると。脳科学も同じ状況でして、全部読んでいる人は誰もいないという状況で、学問自体が急速に進んでいっているわけですね。それをどうすればいいかというのは本当に悩ましくて、AIみたいなもので読ませるのか。多分高木先生の専門と割と近いと思うので、どういうふうにすればいいと思われておられますか。
【高木委員】
 一つはもちろんAIみたいなものを使って、最近、御存じのようにIBMの「ワトソン」を使って何万件の論文を読んで新しい遺伝子を見付けたとか、そういうのがあって、それは一つの大きな流れであるというのは間違いないと思いますけれども、今はやはり、こう言ったらなんですけれども、論文にしなくていいものを論文にしているんですね。要するに、表の形でサブミットすれば済むようなものも全部論文。なぜそうするかというと、やっぱり論文にしないと評価されないからですよね。だから、やっぱりそこの評価の仕組みを考えていかないと、言葉で大したことないこともだらだら書き連ねるという状況が生まれていますので、そこの辺りの文化を変えていかないとなかなか難しいのかなとは思います。
【若山主査】
 ほかにございませんでしょうか。
 どうぞ。
【小谷委員】
 バイオインフォマティクス人材が不足しているといろいろなところでお聞きするんですが、具体的に言うと、どの時期にどのようなレベルの人材がどれぐらい必要であり、また彼らのキャリアパスがしっかり形成できる方策はなど、ある程度分かると政策的にも対応できると思うんですが、その辺について何かございましたら。
【高木委員】
 これはなかなか難しい問題で、いわゆるバイオインフォマティクスという研究者なり技術者という場合に、様々なレベルのものがあります。非常にオリジナルな新しいアルゴリズムを作っている人から、目の前の問題を既存のツールとか既存のデータベースを使ってちょっと解くと。要するに、ほんの数行プログラムを書ければ解決するような問題もいわゆるバイオインフォマティクスの人がやらないといけないというような状況になっていますので、そういう意味でまず振興策というときには、どういうタイプの人がどこにどれぐらい必要かということの、今おっしゃったようなことをまず明らかにしないといけないと思うんです。なかなかその具体的な数というのは難しいんですけれども、今のゲノム解析ですと、例えば少々大きな病院には結構そういう人が必要なぐらいの数が必要だろうとは思っています。最低でも数百人レベルがいないといけないんですが、今はなかなかそこまでもまだ行ってないという状況です。
 先ほど最後にありましたこの『Nature』の記事なんかでは、アメリカですと、例えばコアファシリティーというか、全米に幾つかそういう拠点を作って、そこでサポートするようなことをしているんですけれども、先ほども言ったように、その人たちは単にお手伝いになってしまって、なかなかその後のキャリアパスが開けないというような状況が生まれています。
【若山主査】  ありがとうございます。
 どうぞ。
【國府委員】
 バイオインフォマティクスを介さないで生物と数学がつながるというような可能性もあると思うのですが、そういうのは日本ではどんな様子になっているでしょうか。
【高木委員】 
それは先ほどそこの上から2番目に書きました拠点事業というのが四つございまして、例えばその中の一つが東京大学の数理科学研究科とおやりになっているケースがあります。いろいろなかなか言いづらいところがありますが、問題設定が必ずしもうまくいっていないという面があるのかなと思っております。
【國府委員】
 私が見聞きしている範囲では、アメリカなんかは数学者が割と自発的に生物の人たちと話をしに行くというようなことが結構あると思うのですが、日本はまだそういうところには至っていないということでしょうか?
【高木委員】
 結構、私も数学の方とお話をしたりとか、興味あるから少し勉強しようという先生と何人かお会いしたりとか、それ以外にもそういうケースというのは結構数学の方も努力されているようなんですが、そのときは、ああ、そういう問題を考えようと思っても、多分一旦別れてしまうと、その後、多分自分の仕事が忙しいですからなかなか先に進まない。やはり相当長時間一緒の場所にいて一緒の問題を解くということをずっとやらないと、なかなかちょっと会って、そうですかといって持ち帰っても、ほとんど私の知っている範囲では実らなかったと思っています。ですから、やはり同じ問題を一緒に解いて、しかもそれで飯を食わないといけないという状況が生まれないと、なかなか現実的には難しいのかなというふうには思います。
【小谷委員】
 ということは、一定期間ある種のプロジェクト的な課題解決を異分野の研究者が一緒に滞在して議論する場所があったら進むと思われますか。例えば物理とか数学では、3か月ぐらいテーマを設定して関連研究者があつまり、研究専念で集中的に議論し、課題を解決する場所があったら良いと言われています。
【高木委員】
 それは有効だと思いますが、ただ、それがどの程度の歩留りかというのはよく分かりません。
【グレーヴァ委員】
 ちょっといいですか。
【若山主査】
 どうぞ。
【グレーヴァ委員】
 経済学的にいうとそれは中央集権過ぎまして、やっぱり一番いいのは、広いマーケットプレイスをなるべくよく整備して、いつでも誰かがつながれるようにするということと、あとは、つなぐコストを下げるという、そういうのが多分一番いいのです。
【高木委員】
 少し手前みそになりますけれども、コストを下げるのに一番いいのはやっぱりデータベースなんです。きちんとしたデータベースがあれば、先ほど言った、同じ遺伝子に違う名前が何十も付いているということが解消されていれば、大分ハードルは下がるんですけれども、そういうところが現状ではなかなか難しいので、そこのハードルを下げるということが私は非常に重要だと思っています。
【グレーヴァ委員】
 そうですね。
【若山主査】
 人材育成ですから、評価とかそういうことも非常に利いてくると思います。
 どうぞ。
【森主査代理】
 今のお話というのは、日本独自のことですか。それとも、世界のどこでも同じなんでしょうか。つまり、どこかでもしうまくいっているのであれば、参考になるかと思うんですけれども。
【高木委員】
 人材不足ということに関していいますと、日本はやっぱり相当後れていると思います。それは一つは、大学が、御存じのように少子化でどんどん新しい学科を作ったりなんかできないということもあって、どうしてもそういう新しい分野の大学の教育体制が整っていかないということと、それから、私がよく聞くのは、欧米では、例えば製薬企業にしても、それから、生物系の研究所にしても、バイオインフォマティクスが大事だとすると、いわゆる実験系の人の首をパッと切って、数学なりコンピューターができる人をさっと雇うという状況が生まれているんです。そうすると、勢い、皆さんもう必死でそれをやるんですけれども、日本だとなかなかそうはならないので、そこは大分時間的な遅れが出てきている。それで、日本の場合、より深刻な人材不足になっている。先ほどの『Nature』の記事にもありますように、やはりこういうふうにバイオインフォマティクスの人のキャリアを考えたり、育成するかとかいうことはアメリカでももちろん問題になっているんですけれども、日本の場合、それがよりいろいろな複数の問題で深刻化していると。
 それから、あんまりあれですが、例えば日本の製薬企業は欧米に比べて規模が非常に小さいですから、なかなか数学の人とか情報の人を抱え込んで自分たちで情報解析をやっていくとならないんです。どうしてもそれはアウトソースしたりとか、ベンチャーを買ってしまうということになってくると、なかなか人材は育たない。そうすると、製薬企業でバイオインフォマティクスの人を採るのは、何年間に1人、2人ぐらいしか採らないわけです。そうなると、ソニーや日立やそういう情報系の企業は年間何百人と採るわけですけれども、製薬系の企業、大きな企業でも情報系の人を年間1人採るか採らないかなんです。そうなってきますと、余りにも危険過ぎて、学生としてはマーケットとして考えられないんですね。ですから、そこには参入しないという状況だと思います。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 尽きないかもしれませんが、次に参りたいと思います。長谷山先生、お願いできますか。
【長谷山委員】
 はい。
【若山主査】
 先ほどの『Nature』の記事は、論文は2ページですね。
【高木委員】
 2ページです、はい。
【長谷山委員】
 北海道大学の長谷山でございます。少し私の背景を説明させてください。私は工学部の電子工学科を卒業しておりまして、数学科の卒業ではありません。私の卒業論文研究の指導教授が数学科出身で、数学出身の教授の下で電子工学科の学生である私は、信号処理のテーマで研究を始めて、現在は画像・映像処理、ビッグデータ解析を専門とする研究者になったというヒストリーを持っています。今日は、私の研究室で行っている研究について、「社会を支える数理科学」という切り口で、画像・映像処理の技術でどんなことを研究しているのかを紹介したいと思います。
 私は、一次元系の信号処理、主に、音声・音響信号から研究を始め、准教授となってから画像処理へ研究を移行しました。移行当初は、符号化から始め、画像認識、そして、ビッグデータ解析へとテーマを展開してきました。現在、私の研究室で医学、理学、社会基盤、脳科学、生物学の異分野の皆さんと共同研究を行っておりますので、数学者に育てられた情報科学者がどのような研究を行っているかを御紹介したいと思います。
 当研究室で行われた研究を皆さんにお見せすると、コンピューターグラフィックやインタフェースの研究者なのではないかとよく誤解を受けますので、まずは数学に基づく信号処理系のアルゴリズムを使っているということを御理解いただくために、一番初めの頁にリストアップさせていただきました。識別機や、画像認識のための特徴量、さらには遺伝的アルゴリズムなどが記載されております。
 まず医学系との共同研究の話です。例えば、がん細胞に対して薬品の投与により死滅する細胞を画像から抽出する研究をUCSFと行っておりました。また、現状は、ピロリ菌が胃がんの原因として分かってきましたので、本学の医学部附属病院消化器の医師とともに、胃がんゼロを目指す研究を進めております。胃がん発症のリスクが高いのか、低いのかとをX線の二重造影像からピロリ菌の感染の有無を推定することで自動判定する、画像認識のアルゴリズムを実現しています。
 また、生物系との共同研究ですと、国立科学博物館の研究者と、バイオミメティクスという、生物の機能に学んでイノベーションを起こすことを目指す科学技術分野で連携しています。こちらのスライドは、科博から頂いた昆虫の顕微鏡像です。一般に、生物のデータは生物の多様性を観察するために用いられていることは知られていますが、どのようにこのようなデータを産業応用するのかといいますと、画像の類似性に注目して配置した左側の3枚の画像は昆虫の顕微鏡像ですが、こちらの顕微鏡像は形状が似ていますが、合成繊維の顕微鏡像です。今までのデータベースの検索ではタグを頼りにして検索してきましたが、画像の特徴を用いることで、この資料の画像のように全く異なるものをつなぐことが可能になります。資料には実際の社名を出しておりませんが、この合成繊維は、既にワイピングクロスとして商用化されたものです。 また、このバイオミメティクスでは、カワセミのくちばしの形状に類似した空気抵抗を抑えた新幹線の先端形状や、チョウの羽からヒントを得た構造発色繊維、ガの目の構造を模擬した反射防止フィルムが作られています。この産業化の波を受けて、ISOで、3年前にTC266という新しい技術委員会が誕生いたしました。昨今のTCを見てお分かりいただけるかと思いますが、TC266の幹事国はドイツでございます。
 当研究室の画像処理に基づき、このバイオミメティクスデータ検索基盤を実現しており、生物学者のデータを用い実際に利用する企業と共同研究を進めているところです。また、私はISO TC266国内審議員を務めており、2年前にナレッジインフラストラクチャーという新しいワーキンググループを提案して採択され、日本がコンビナーを務めるワーキンググループを設立することができました。
 更にこちらですが、日本気象協会研究者と共同で、気象データ分析による気象予報の誤差予測手法の研究を行い、宇宙工学系との連携では、JAXAと連携して、火星の気象現象である砂嵐を画像データを用いて抽出するアルゴリズムを実現しています。また、本学の大規模地球解析基盤のメンバーにもなっており、スペクトル解析手法の構築を行い、アジアの国の人材育成に貢献しています。
 脳科学につきましても、最近に新しい発展が信号処理で生まれておりまして、実際に、皆さん御存じのディープラーニングを使った研究が進んでいます。こちらに、1つの研究成果をお見せします。本日お見せするものの中で、この映像だけが私の研究室の結果ではありません。こちらは、左側の画像を見ているヒトから脳波信号を取得し、その脳波信号のみを用いて右側の映像が生成されたと発表さたものです。大変に話題になりこの分野の研究が加速する一つのきっかけとなった研究です。
 我が国におきましては、超サイバー社会の人工知能の必要性を受けて研究が進むと思いますが、先ほど他の委員のお話にありました「ワトソン」に刺激を受けた研究も含め、新しい発想の研究が生まれております。当研究室でも本学で利用が可能となっている共同利用施設fMRIを使って、人に視覚や聴覚的な課題を与えて脳の活動を観察し、脳の活動の様子を信号処理の技術で分析する研究に発展させています。
 この研究は、fMRIだけでは限界がありますので、ウェアラブルセンサや他のセンサも利用した手法に拡張を進めています。こちらが当研究室で開発した手法をインテグレーションして、人間を観察することで得られたデータから、感情推定を行うシステムに仕上げたものです。当研究室は、画像、映像、音響、音声、音楽、ウェブデータなどの研究テーマがあり、学生は各々自身のテーマを持って教育を受ける体制をとっています。学生が1つの領域に閉じこもらないように、互いの知識を連携できるように、1年ないしは2年の期間を設定して研究室独自のプロジェクト・ベースド・ラーニングを行っております。このシステムもそれで実現したものです。
 また、実現されたシステムを札幌市の皆さんに見ていただくという機会も得ることができ、3年間、雪まつり期間中に、地下歩行空間でシステムの実証実験を行いました。その映像がこちらです。映像は、1面ですが、実際の実証会場は65インチディスプレイを縦置きにして、それを横に6面並べた環境で行っています。ディスプレイの上に取り付けられたキネクトで人間の動き、表情を観察して、感情推定を行います。実際の推定結果が映像中に吹き出しとして表示されています。この単語が推定された感情を表すタグです。どのような気持ちなのか推定するシステムです。
 次に、こちらが、最初に私が社会基盤という表現でお話ししたものです。NEXCO東日本社との共同研究を通して、橋・道路の点検で撮影した損傷画像をお預かりいたしまして、損傷判定支援システムを実現し、損傷の進行状況を判定するアルゴリズムの構築を行っています。また、日本ハムファイターズ、コンサドーレ札幌から試合映像を提供いただき、映像からスポーツの戦略解析手法を提案し、さらにはウェブデータからコミュニティを抽出する解析などにも着手しております。
 ところで、冒頭、自身の研究分野についてウェブデータを含むビッグデータ解析とお話しいたしました。最後にその分野らしい研究をお見せしたいと思います。このスライドでお見せしているものは、YouTubeから大量の映像を入手し、画像、映像、音楽、そして、リンク、ブログを、数学に基づく理論で解析した結果です。1000ほどの映像からコミュニティを抽出し、その階層構造を可視化しています。この結果は、社会の階層構造、つまり、その映像を見ている人間の階層構造を分析した結果とみることができます。このスライドは、数年前にグーグルの本社でプレゼンテーションした際のもので、英語となっています。
 実際に、クイーン・メリーというキーワードを一度だけ使って映像を入手しています。先ほど御説明した異なるデータを連携利用することで、映像を見ている人の深層心理と言えるような、クイーン・メリーを通して何を見ているのかを可視化したものです。
 このように、数学を利用して社会のニーズに応えるソリューションを実際に実現する研究をしております。以上でございます。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 何か御質問ございませんか。
 はい、どうぞ。
【中川委員】
 数学者との連携はされているんでしょうか。実際に新しいものを作るときに、数学理論をどのように持って来られるのかに関心があります。
【長谷山委員】
 残念ながら、生物屋とか物理学者の方が多くて、数学はそれに比べると少ないというようにお返事したいと思います。
【中川委員】
 ゼロじゃないんですね。
【長谷山委員】
 はい。
【中川委員】
 分かりました。
【若山主査】
 ほかにございませんでしょうか。
【今井委員】
 よろしいですか。
【若山主査】
 どうぞ。
【今井委員】
 先生のところの学生さんたちの基礎的な知識や、足りないから研究室に入ってきてから補った知識など、どのような基礎があったらそのような研究が可能なのかをお聞かせいただけますか。
【長谷山委員】
 私の研究室は、教授が1名、助教が1名、競争的資金で雇用しております特任助教が1名で20名の卒論生と大学院生を教育しております。20名につきましては、留学生を除くと、およそ80%が本学の情報科学系のコースから入学していますので、プログラミング、数学と応用数学、工学部情報系の知識を持っているということになります。したがいまして、それ以外のデータの取扱いや数学のアルゴリズムなどにつきましては、全て卒論配属以降大学院卒業までに全て教育することになります。
【若山主査】
 よろしいですか。
 ほかにございませんか。
 それでは次に、本間委員の方からお願いしたいと思います。
【本間委員】
 花王の本間と申します。よろしくお願いいたします。私はアカデミックじゃなくて、産業界の方なので。実はバックグラウンドは二つありまして、もともとは花王に研究員として最初は配属させていただいたんですけれども、その後マーケティングの方にシフトしていますので、花王の中における科学領域、それから、マーケティング領域における数学と関係性のありそうな話をさせていただこうと思っています。
 まず私の部屋がちょっと変わった名前なんですけれども、ぶっちゃけて言うと、ウェブサイトを作って、ウェブサイト上で商品を販売することに関して企画及び実行するというのが私のミッションです。その中で近年デジタル広告というのが、御存じのように、どの広告の方がクリックレートが高い、いわゆる何度押されるのかだとか、どのバナーの方がコストパフォーマンスがいいんだというようなデータに基づいて広告を購入したり、完全に株の取引と同じようにリアルタイムにバナー広告を取引するようなマーケットに今なっていますので、データ分析及び予測が欠かせないようになってきていまして、かなり数学と切り離せない状態になっていると。
 それからもう一つは、花王はどちらかというと皆さんからマスマーケティングの会社というふうに思われていると思うんですけれども、日本市場においても、じゃ、50%以上シェアをとれる製品があるのかというとそのような製品はほぼないので、そういう意味では、以前やっていたようなマスマーケティング論ではないマーケティングに行かなくてはいけないというのが、今、マーケティングにおいても数学のニーズがあるところです。そういう意味ではかなり数学が求められていて、私も花王に数学のバックグラウンドで入社したんですけれども、最初は研究員で数学を使っていましたが、後にもう1回マーケティングで今、数学を使っているという状況です。
 まず花王は、研究所に1,800人ぐらいの研究員がいる、割と研究員が多い会社ではあるんですが、先ほどからほかの先生たちもおっしゃっているように、かなり科学研究において大量、多量の実験データが取れるようになってしまったことが、ある意味、科学者にとって一つ問題点でもあり、インプルーブメントでもあるということです。
 更にもう一つは、先ほども論文のお話がありましたが、実は花王の中にも過去にいろいろな研究をされていて、しかもプライベートカンパニーというかカンパニーなので外に出さない研究成果もあるわけですが、その中に果たして使える研究テーマがまだ眠っているのかどうなのかということも今の段階では非常に混沌(こんとん)とした状態です。たまにあることでいうと、過去同じような研究をしていたのに、別な人がまた同じ研究をしてしまうようなことが多々あるということです。そういう意味では、データ整理、分析ツールのオペレーターは増えてきているんだけども、本当にその分析手法、整理手法が合っているのかなとかいうことがちょっと疑問視されていることです。
 東大・九州大学のスタディグループにも近年参加させていただいていますが、例えば最近出させていただいた例でいうと、化粧をした後の表情を理解したいために、Kinectで顔の表情を測定して、この人が笑っているのか、それとも、自信たっぷりの表情なのかを、人じゃなくて、客観的データから何か判定できないかとか、あと、市場投入前にいろいろなアンケートをとるわけですが、そのアンケート手法を今までのような5段階のラジオボタンで押させるんじゃなくて、あるスケールの中で自由に押してもらうような新しいアンケート手法が出てきたときに、そのデータをどのように数学的に扱っていいのかだとかというテーマは実際に起こってきている問題です。
 ただ一方、マーケティングというか事業領域においても非常に問題は多発しています。下の写真は、分かりやすく、P&Gのシンシナティで社外に公開されている本社の役員室です。画面上ちょっと光っていますが、完全にスクリーンが出ていまして、データを見ながらボードメンバーがディシジョンメークをするような経営会議室ができています。片側に世界地図があって、左側にグラフがあって、今どこのエリアでどんな商品が売れているんだというのを、大量のデータを後ろのサーバーに蓄えておいて、極力リアルタイムのデータを基にジャッジをするというようなことをP&Gがやられています。ここに使われているのが、実は製薬会社さんでお使いのツールをP&Gさんは使っているというふうなことまで発表されています。
 なぜこんなことをしているかというと、やっぱり事業の収支予測のニーズが相当高くなってきていて、株主だとか、市場の優位性を保つために、かなり俊敏なディシジョンメークをしたいということが増えてきている。あとは、過去の事業データも本当はカンパニーの中に存在しているんですが、その分析整理をきちんとしていないので、それはまだきちんとされていない。
 一方、御存じのように、マーケティングという言葉の中に何か科学的なにおいがしないような感じがありますが、実際やっぱり科学的なアプローチが少なくて、僕たちが知りたいのは、右側にあるマーケティングミックスモデル、例えばお客さんが商品を買うときにどのようなコミュニケーション戦略が一番利いているのか、店頭の価格なのか、テレビ広告なのかみたいなことに関しては、何となくこうだろうという仮説はあるんですが、実証的に調べたことは余りないというのが実態です。
 事実、マーケティング全般においては、このようなことに関してはかなりニーズが高くて、実は日本でも3年前からData Summitというようなカンファレンスと、幾つか、きのうも日経BPさんのビッグデータマーケティングカンファレンスというのがあったんですが、非常に多くのメンバーが集まっています。これは今年の3月に東京大学のホールを貸していただいて300人ぐらいで集まったときの写真です。
 先ほどもほかの先生もおっしゃっていますが、ビッグデータを使うとマーケティングが良くなるんだろうという期待値の下に集まってはいるんですが、じゃ、実際にビッグデータを取り扱って新しいマーケティングモデルを作れる人がその中にたくさんいるのかというと、誰かの答えを待っているという状態が実態でして、なかなか際立ったインプルーブが存在しているというわけではない。ただし、実際にはここにかなりのニーズがあって、うまくサポートすれば、ひょっとしたら日本独自の新しい考え方だとかやり方が出てくる可能性があるということです。
 ここからが問題なんですが、実は近年マーケティングもコンピューターソフトウェアを使うケースが非常に多くなってきました。先ほども例えばソーシャルメディアの分析とかもされているというお話もありましたが、そのような外的なデータだとか、それから、シミュレーションだとか、投資予測だとか、そういうものに関してコンピューターを使うというものが、実は右と左は日本とアメリカにおける、とある人が描いたマーケティングツールの絵なんですが、右側のアメリカはある意味混沌(こんとん)としているといえば混沌(こんとん)としているんですが、かなり多くのプレーヤーが存在しているという事実があります。左側は実はアメリカの会社の幾つかが日本に進出しているケースで、日本独自のものはほとんどないというのが今、マーケティング業界のツール群になっています。
 その中で特に数学的に分析だとか予測だとかをするツールだけ抜き出したものがこれなんですが、日本の分析・実行ツールで紹介されているものの中では、人が出てくるような人サービス系のものも若干ありますが、実は日本独自のカンパニーネームはほぼないんです。要は、右側に黄色く囲まれているやつの幾つかが左側に来ているだけであり、マーケティングの分析・実行ツールに関しては、日本独自のツールが皆無と言っていいのかなと思います。
 それはマーケティング業界の私たちの問題も一つありまして、まだ僕たち自身がマーケティングを科学的にアプローチできていないから、ここの市場にニーズを僕たちはあんまり言っていない。もう一つは、ここにまだまだ科学的な人たちが日本でも参入してくれないので、日本の中ではあんまり議論が進まないというような問題があるんではないかなと思います。
 実際ビッグデータって、かなり私たちの会社でもよく話になるんですけれども、悲しい話をすると、私が今、事業をしているマーケティングという言葉はほぼ、ものづくりというところに出てくるぐらいで、日本の総務省がお出しになった情報通信白書の中でもあんまりフィーチャーされていないという問題もあるんですね。やはり今、一番大きいのが、医療の最適化だとか、それから、いろいろ社会全体に対する問題ということです。マーケティング・製品開発費削減のところに5.7兆円というのがありますが、いわゆるお客様サービス系のものに関しては、この中でもまだ、正直に言うと、ビッグデータの寄与があるかどうかは余り皆で議論されていないので出てきていないんじゃないかなと思われます。
 そういう意味では、花王の中では科学研究においても当然データの扱いが増えてきたことによる数学のサポートが非常に必要になってきていることと、マーケティングにおいては、花王のみならず、恐らく日本のマーケティング全般ではこの後いろいろ議論しなければいけないことがあるんですが、まだそこに関してのうまいコラボレーションの仕方を見付けていないというのが私のお話です。以上でございます。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 何か御質問ございませんでしょうか。
 どうぞ。
【合原委員】
 ちょっと個人的な話なんですけれども、僕、花王の社長、会長をやられていた常盤さんと個人的に親しくて、随分長いこといろいろな議論をしてきているんですけれども、花王での数学の話は一回も聞いたことがなくて。そうすると、これはやっぱり最近ビッグデータが取れるようになって、それを使うために数学を重視されているという、花王としてそういう傾向が出てきたということなんですか。
【本間委員】
 そうですね。一つはそういうこともありますし、僕が数学出身なので中をハブ的に取りつなぐと、やっぱりサポートしてほしいんだという声が結構ある。逆のことを考えると、数学者が何を支援してあげられるのかということを僕たちがあんまり伝えていなかったので、駆け込んでいいかどうかが分かっていなかったというのも社内にあったような気はします。
【合原委員】
 なるほど。数学者ってどのぐらいいるんですか。数学出身の方。
【本間委員】
 ピュアに数学者と自分で名乗っている人は今、僕も含めると5人ぐらいですね。バックグラウンドとして、数学を学部の4年まで学んで入ってくる人は結構いるんですが、マスター以上となると多分10人未満だった気がします。
【若山主査】
 どうぞ。
【森主査代理】
 逆説的な質問ですけれども、このマーケティング業界のお話ですけれども、アメリカであるものをそのまま持ってきただけでは駄目なものは逆に何かあるんですか。
【本間委員】
 正直に言うと、これは会社の経営組織の問題があって、多分グレーヴァ先生の方が詳しいんだと思うんですけれども、日本はかなり先に投資シミュレーションしないと、経営実行されない。アメリカは、経営実行に、そこにチャンスがあるなら先にボタンを押してみて、駄目なら撤退するという、その経営プロセスの判断ジャッジも違うんです。そういう意味では、日本で求められているこの手のツールはどれだけの打率で当たるのか、アメリカで求められているのは、今これだけお金を入れたらとりあえずリターンがありそうだけど、そのギャランティーはしないよというモデルがあるので、経営者向けにいうと、多分本来求めているものが若干違うとは思います。
【森主査代理】
 じゃ、追加の質問ですけれども、日本式のものに対するいい答えというのはあり得るんですか。
【本間委員】
 これから僕たちが作ればいいんだと思うんですけれども。
【森主査代理】
 そうですか。信頼性のあるものが作れるのかどうかちょっと不思議な。
【本間委員】
 だから、そこに相当限定的な仮定を置かないといけないんですね。環境条件が去年と全く経済動向でだとか、お客様の状況は去年と変わっていないとか、幾つかの仮説は当然置くんだと思います。
【森主査代理】
 なるほど。分かりました。
【樋口委員】
 よろしいですか。
【若山主査】
 どうぞ。
【樋口委員】
 海外のものを日本に持ってきたときにうまくいかない理由は、マーケティングはいわゆる個別化が必要な産業体であるので、現地とかその状況にあわせる辺りはやはり必ず現地の人がやらないといけないので、そこの部分が他の業態との決定的な違いじゃないかと、私は考えます。
【本間委員】
 そうですね。要は、日本人とアメリカ人という民族性の違いはパラメータで入れてあげないといけないんだけど。そうですね。
【樋口委員】
 商行為とか感性とかその辺が非常に重要なファクターで、その辺を全部抜いた形で輸入されているから、それは作り込みをしないといけない。そこが抜けているから弱いんだと思います。
【本間委員】
 おっしゃるとおりですね。それもおっしゃるとおりだと思います。
【若山主査】
 先ほどの花王で数学者というか、きょう粟辻さんの準備された資料にもありますけれども、アメリカの労働統計で見ると、大学の先生じゃない数学者という、大体学位は修士を持っている人というのが3,500ポジションぐらいあります。これは、例えば普通のほかの職業に比べると大体一桁小さいんですけれども、日本には到底、3,500という、今おっしゃったような意味でもいないと。
 ついでに言っておきますと、アメリカはランキングが好きなので、毎年、人気がある職業というのを例えばウォールストリートジャーナルなんかで発表していますが、今年度もやっぱり数学が1番で、大体は上位に先の意味での数学者とかアクチュアリーとか統計家とかそういうものが並んでいるというのは、この七、八年、私が知る限り見ている資料です。Mathematicianと彼らが呼んでいる、修士以上の学位がある人たちですけれども、それは民間での研究・開発部門や種々の研究所が多いんですけれども、一方で連邦政府にもかなりの数がいるということがございます。この点もちょっとお伝えしておきたいと思います。
 それでは、グレーヴァ先生、お願いできますでしょうか。
【グレーヴァ委員】
 はい。慶應大学経済学部のグレーヴァ香子と申します。日本人です。私はずっと経済学部出身なんですが、昔よく言われたのは、エコノミストはfailed mathematicianであるということです。自然科学の方たちとかなり目的も方法論も似ていて、唯一違うのだけスライドに強調して書きました。問題意識が違う。自然科学は要するに、メカニズムを知りたい。社会科学もそこは同じです。社会科学はもう1個あって、どうせうまくいってないはずだということがあるわけです。世の中ミスマッチが多いと。あるべきところに物がない、人がいないとかですね。
 ミスマッチがあるだろうという問題意識で、ただし、先ほど大変批判めいたことを言ってしまったんですが、もう一つの問題意識は、これを上から解決しないでおこうと。昔、経済計算論争というのがありまして、もしもコンピューターが発達して、ありとあらゆるデータが完全にそろえば、あるべきところにあるものが計算できるから、ただそれをアロケートすればいいだろうという議論があったんですが、そこまでできるか分かりません。
 それから、ここには書いていないんですが、人間から出る情報は必ずゆがみがあります。うそをつく、意図的に隠すとか、それから、忘れるとかありますので、恐らくそういう理想状態に行かないとしたら、やはり上から計算するのではなくて、ボトムアップ、意思決定をする個人とか企業が自発的に行動するようにしてうまくいくようにしたいと。ここが、多分社会科学全体ではないですが、経済学が多分自然科学と一番違うところです。それ以外は、メカニズムを知りたい、知った上でどううまく構造をずらすとうまくいくかということを知りたいと、その辺は同じです。
 非常にシンプルな全体構造については一応経済学ではもう仮定しております。(スライドを指して)登場人物は、左側が消費者です。右側が生産者です。両方に同じ人がいてもいいんですけれども。消費者というのは、労働とか、土地とかを持っていて、それを売ったり貸したりして所得を得る。その所得の制約の下にできる限り自分で満足できるような買物行動をするだろうと、この辺までは仮説です。
 次に生産者の方は、消費者が所有している――これは私的所有経済を仮定しておりますので、全部誰かが所有している――土地だの労働だのを買ったり借りたりしてそれを使用して生産を行う。生産を行って利潤を得るのが目的です。また、生産者の方も実は技術的な制約があって、作りたい物を作りたいだけ作れるわけではないということです。それぞれ制約条件付最大化を解いているというのが一応基本的なメカニズムの仮定です。
 Failed mathematicianと言われる理由は、これに使う道具が基本的には単なる制約条件付最大化問題という数学を使っていたからです。ですが、最近やっぱりいろいろデータを見るにつけて、ラグランジュとかクーン・タッカーだけで解けない話はいっぱいある。
 理論で何を予想するかというのを我々は均衡と呼んでいて、多分オペレーションズ・リサーチの方でも均衡とか平衡と呼ぶんですが、これは理論、数学的な予想値でありまして、数学的には連立方程式の解、需要と供給が一致するところで落ち着くであろうと。解の存在については不動点定理とかゲーム理論とかで計算する。もう本当に数学、応用数学そのものの分野になっております。
 次にビーマーに行きます。この後は、きょうはほとんど数学者の方に会うのかと思って数式をいっぱい用意しております。日本語ビーマーは作れません。申し訳ありません。
 今言ったように、制約条件付最大化は、有限時間で有限個の物と人がいるならば、全部有限問題で解けるのですね。これは、だから、もう既に解けた問題です。各個人が世の中にあるものの値段を見て、何を何単位買うかを出してきて、そちらが需要になります。企業の方は、材料をどれだけ買うか、それから、製品をどれだけ供給するかというのを考えて行動していく。左辺が消費者で、右辺が企業という感じです。これは一応供給が超過する分には捨てればいいということになっておりますので等号じゃなくてもいいんですが、何らかのこういう大きい方程式体系が解ければよろしいだろうという、この辺が割とクラシカルな経済理論で予想したいことです。
 これに必要な数学はいろいろな不動点定理です。やっぱり当初の頃は、もう不動点定理に落とし込めるような消費者と生産者しか分析できないということでした。最近はもうちょっと行動経済学とかもありまして、消費者行動もいろいろですので、できれば数学の皆さんと協力して、既にある不動点定理で分析するんじゃなくて、こちらのニーズに合った不動点定理はできないものかと思います。不動点が、要するに、理論の予測でありまして、ある価格体系の下で人々がわやわや行動した後で、それをうまくバランスさせるような価格があったとして、最初と一致すればこれで決まるという話です。
 更に問題は幾つかあります。実際には有限個の変数じゃなくて、例えば時間を考えると無限個になります。経済社会がいつ終わるかわからないですから。特に金融市場では、もう本当に秒単位で取引が行われるということになると離散時間ですらない。長期最大化問題を2つスライドに書きましたが、左側は離散時間で、右側が連続時間です。今、せいぜい我々経済学者が解けるのは、ディスカウンティッドダイナミックプログラミングぐらいでして、これ、もうちょっと何とかならないかなということです。
 聞いたところでは、東京大学の先生が九大の先生と、POM DPというアルゴリズムの研究をされていまして、そのようにアルゴリズムでもいいからなるべく多くの場合に使えるような解を出せる方法はないか。それに単に最大化じゃなくて必ず制約条件が付くというのが経済問題でして、こんな簡単なリニアな不等式ならばいいんですけれども、現実の人間や企業が直面している制約条件はノンリニアなことも多いです。それから、こんなマルコフという、前期からしか制約されないという形じゃないので、もっとヒストリーに制約されたりとかいろいろあるわけですので、やっぱりこの長期最大化問題については是非数学とコラボする必要があるんじゃないかという分野です。
 ついでに、長期だけじゃなくて、更に難しくなるのは、このエクスペクテーションが付いている部分です。ファイナンスは一時、確率過程についてはかなり大はやりなマルチンゲールというのがありまして、ノーベル賞も出ました。株価がマルチンゲール体系で動いているという方程式を解いて、これはすごいというふうにノーベル賞を出したんですが、後にかなりデータを調べたところ、マルチンゲールじゃないらしいという話になって、ノーベル賞どうするんだということなんです。なので、ここも一進一退というか、確率過程のプロセスでいかに解ける形でなるべく現実のデータに近い形を数学者とコラボする必要があるという時代に来ております。これは単に現状をメカニズム的に理解するというだけじゃなくて、やっぱり物のアロケーションがうまくいっていない可能性があるので、どこをどう変えたらどこがどう変わるかというのが全部芋づる式になっていますので、それを知りたい。
 最後に、離散数学について。本当に今、進行形でたくさんの人が実際に数学者みたいなことをしてやっている分野です。スライドの最初の部分についてはクラシカルな問題なんですが、物というのは、液体じゃなく固体の場合は0.5単位とかは買えないことがあるので、やっぱりインテジャープログラムになってくると。インテジャープログラムになると均衡の分析は難しくなってくるという基本的な問題がまだあります。
 それから、今一番ホットな話題の一つがマッチング問題で、ゲール・シャプレーに始まりまして、学校選択とか、ハウスアサインメント、それから、内臓の移植のアサインメントなど、いろいろなマッチング問題があるんですけれども、それについては本当に数学的な問題であって、2種類の集団をどのようにマッチングさせると文句が出ないかとか、なるべくうまく(効率的に)割り当てたいという問題があります。
 例えば学生はどの学校に行きたいかというランキングを持っていて、学校はどういう学生が欲しいかというランキングを持っているときに、単にそれをマッチングする問題はもう解けています。最近の問題は、学生は学校だけじゃなくて、どの学生と同じ学校になるかに興味があるだろうとなると、それは独立した2集団の間のマッチング問題じゃなくなってしまうわけですね。学校側はあんまりそういうのは気にしないかもしれないですけれども、学生側は、隣の学生と学校の両方が気になるとすると、非常に複雑な構造のネットワークマッチングを考えなければいけない。それからまた、学生はうそをつくでしょうと。第1候補じゃなくて、第2候補を志望校リストのトップに持ってきたりとかそういうことがありますので、もうちょっと現実的な形で、既に解かれていると思われるマッチングアルゴリズムなんかを改善していかないと、実際の問題には役に立たないというような、かなり具体的な数学の問題がありますということです。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 舟木先生、何か?
【舟木委員】
 全般的に非常に面白いお話を伺えてとても興味深く思います。最初の、もうお帰りですけれども、常行先生の場合は、例えば最近、昨年ですが、フィールズ賞をもらったマルティン・ハイラーさんは、もともとは界面の問題の方程式であるKPZ方程式を解くというようなことで、先ほどの常行先生のお話にもそれが出ていましたけれども、そういったものが数学に本当に影響を与えて、高度な数学理論のレベルまで来ていると思います。
 それから、高木先生のお話は、私も時々生物の方とお話しするんですけれども、やっぱり先ほど先生がおっしゃったように、直接話をするのが難しいと感じます。我々数学者にとってはやはりモデルをはっきり定式化していただくと、これでこういう方向で走っていけばいいのかなということがはっきりします。しかし、なかなかおっしゃっていることを理解するのが難しく、まずお互いに言葉が違うといいますか、我々からいうと何かもやもやとしたような話を伺って、それをちゃんと定式化するのはどうしたらいいのかと、そこから始めなければいけないということなんですね。
 先ほど常行先生のお話にもあったと思います。最初におっしゃった物質構造探索、これも多分ミクロなモデルをどうやって構築するのかということをおっしゃったんだと思うんです。そういう意味では、モデルがはっきりすれば数学者としては非常に分かりやすくて、いろいろなメソッドというかそういうものを持ち合わせていますから、いろいろやれると思うんです。だから、その辺、やはり先ほどインフォマティクスの方が途中でつないでやることが必要じゃないかというようなことをおっしゃいましたけれども、やはり我々もそんなふうに直接やるのがまだまだ難しいといいますか、そういうことは痛切に感じます。
【若山主査】
 どうもありがとうございました。
 せっかく式も書いて持ってきてくださいましたので、是非数学者の方には御発言いただきたいところです。
 よろしいですか。
 それでは、御発言いただきたい、意見交換をしたいんですけれども、今後の数学イノベーション委員会における検討について、資料に基づいて、粟辻さんの方から説明いただけますか。
【粟辻融合領域研究推進官】
 資料4という1枚紙を用意させていただいていますので、ごく簡単に触れさせていただいて、意見交換させていただきたいと思います。
 最初に少し今の状況として、第5期の科学技術基本計画、これが来年度からの計画なんですけれども、今、検討が行われているところでございます。その中で、例えば文部科学省の審議会が取りまとめた中間取りまとめなどでは、超サイバー社会の実現が重要な課題の一つとして掲げられております。こういったものに科学技術イノベーションとしてどう取り組んでいくのかということが書かれているわけですけれども、当然のことながら、きょうのお話にもありましたように、数学あるいは数理科学の世界がこういうものにどう貢献していくのかというのが非常に求められているところかと思います。
 そういったものにも焦点を当てながら今後どういうものについて検討していこうかというものを少し頭の整理も兼ねて並べてみたのが、以下、一応四つありますけれども、各々関係し合うものだと思いますので、自由に御意見いただければと思います。
 一つ目が、数学・数理科学を活用して、例えば超サイバー社会も含めた具体的な問題の解決にどう貢献していくのか、どう数学者を活用していくのかということでございます。先ほどありましたようなことでは、例えばバイオインフォマティクスのような間に入る人が必要じゃないかという議論もあるかと思います。
 二つ目は、それに関わる話で、特に他分野と数学が、あるいは産業との連携といったときに、数学者が直接ダイレクトにやるのは必ずしも難しい、限界もあるということだと思いますので、そういう場合に先ほどのバイオインフォマティクスだとか、あるいは情報科学、こういった方々とどう連携、協力していくのかという問題点があろうかと思います。
 三つ目が国際的な連携とか協力の強化。
 それから、四つ目は、スペックに関わる話ですけれども、異分野連携なんかをする場合には、当然相手の言葉とか文化とかをある程度理解していなければいけないということもありますので、そういったことができるような人材をどう育成していくのかという問題点があるかと思います。
 以上でございます。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
【行松基礎研究振興課長】
 あと、午前中ありました親部会の戦略的基礎研究部会で数学イノベーションに関してこういうことを議論してほしいというのを、まだ急いで起こしたばかりですが、きょうの資料集の一番下に番号等付けないで未定稿という形でまとめさせていただいております。
 一つは、数学の場合、ほかの分野の基礎から応用という流れとは違うんではないかということと、それから、ビッグデータ、金融システム、社会システム、情報と物の一体化など、数学者が中心にならないといけない問題があるんではないか。医療のビッグデータという問題に是非取り組んでほしいということとか、システムのシステム化、これ、小谷先生がおっしゃったことをそのまま書いていますけれども、最適化などが必要だと。さらに、数学者に期待されるというのは、数学を学んだ方というふうにおっしゃっていたと思うんですけれども、アーキテクトとして社会を設計すると。これができないと日本は世界から取り残される。そのためには数学者の考え方の変革が必要ではないかと、そういった御指摘がございました。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。アーキテクトとして設計する、ある種のデザインをしていくということだと思うんですけれども、以前の委員会で一度少しだけ、御紹介というほどではないですけれども、オランダの企業と数学とを連携させる仕組みの世話をしている数学者がいるんです。統計的にはちゃんとカウントしたわけではないけれども、オランダの企業では企業のCEOと役員は数学バックグラウンドの人が一番多いんじゃないかというふうなことを言っておりました。だから、少なくとも多いということは事実だという、そういう社会になっていると。
 それからまた、先ほど舟木先生おっしゃったことに加えて、数学バックグラウンドで実際問題の定式化のところからやっていけるような人材がやっぱり必要なんじゃないかというふうに。単に数学科の中にいて連携をするというのではやはり限界があると思っています。
 さて、余り時間はないんですけれども、きょういろいろと御紹介いただいたことを中心に意見交換をさせていただきたいと思います。御発表された先生方も含めて御自由に御発言くださればと思います。どなたからでもよろしいですけれども。
 はい、どうぞ。
【樋口委員】
 私、人材育成という観点から御発言したいんですけれども、キーワードとして、分野転移力、つまり分野を跳躍するような力、もう一つはチーム力、この二つをキーワードとしてお話しさせていただきたいと思います。
 冒頭で高木先生の方からバイオインフォマティシャンの話等ありましたけれども、ドメインとメソドロジーのピンポイントで人材を育成する例ですね。その方式はバイオインフォマティクスのときは非常に有効だったわけですけれども、それはマスとして非常にニーズが高かったということと、データが非常に重要な分野なので帰納法が重要でした。センサで取られるデータのタイプが一定のものであったので、そこを得意な研究者を大量生産できた。だけども、その後が……、という話があったんですが、そこの人材育成において分野を跳躍するような力というところの視点が大切だったのではないか。数学・数理科学も含めて、資質として分野を跳躍するようなところも考えていかないといけないんじゃないかということです。
 あとは、チーム力ということですけれども、やはりドメインと数学・数理科学は非常にギャップがあるので、先ほどからたくさん出ている、問題を見付け、問題を設定するところ、これがもう鍵であると思うんです。さらには、昨今の産業界のニーズに応えるために、スマート化し、さらにはスケール化しないといけないというところでは、やはり計算機あるいはプログラミング等へ対応できるような人材が必要で、結局、チーム力が必要になるんじゃないかと思います。そうすると、チーム力あるいは分野を超越する、跳躍するような力、そういうことを備えた資質、そういうところと数学・数理科学のところの重要な成分をいろいろ考えていくと面白いんじゃないかと思います。
【若山主査】
 ありがとうございます。チーム力という意味では、先ほどちょっと御紹介したアメリカの労働統計で、民間にいる数学者というのはどういうことをやるかというと、やっぱり数学ディシプリンに基づいていろいろな社会の問題を解決していく、それから、応用していくという、それがあるんですけれども、そのときに、最後に1行書いてありまして、チームで研究することが多いという指摘でありました。
 はい、どうぞ。
【中川委員】
 チーム力ということでは、数学の人が何もかも全部自分でする必要はないのじゃないかと思います。うまい分業の仕方、各々が自分の得意分野を持ち寄って、相補的にお互いが助け合って、チーム運営しいいものを共同で作っていくというのもありかなと。私の場合は民間企業にいますので、プロとしての分業体制が基本になっています。
【合原委員】
 数学の人って、チームで仕事をするのはカンファタブルなんですかね。何か一人でやるのが楽しいような人たちが多いような印象を持っているんですけれども、そこら辺はどうですか。
【若山主査】
 その傾向はあると思いますけれども、でも、実際にやってみると楽しいということを発見した人は私の周りには……。
【合原委員】
 そういう人もいるということですかね。
【若山主査】
 ええ、それはいますね。
【國府委員】
 よろしいですか。
【若山主査】
 はい。
【國府委員】
 私の知る範囲では、少なくとも最初のうちはアカデミックに数学の研究を目指している人たちも、例えば就職をするなどがきっかけとなって数学に対する取り組み方がガラッと変わる人は何人もいます。やっぱり数学の他分野への活用ということを経験していないので、それがどういうものかというのがなかなか分からないというのが、数学科の学生は多分大きいのではないかという気がします。
 今の人材の育成とかも含めて、数学の方から外に出ていく何らかのメリットというかインセンティブがあると、若い人がそういうふうに感じられるようにすることが重要なんだと思うんですけれども、それを方向を限定せずにいろいろなところに行ける可能性があるというような形に持っていくと良いと思います。例えば生命とかには幾つもチャンスはあるんだと思うんですけれども、例えば自分の指導教員のような身近な人たちがそういうところに関わっていればその分野に関わっていくチャンスはあるかもしれないけれども、そうでなければなかなかそうはいかないですよね。だから、もう少し日本全体でいろいろな大学でそういうことが進むような形の環境が整えられるといいんじゃないかと感じました。
【若山主査】
 ありがとうございます。
 今井先生、どうですか。
【今井委員】
 私自身は数学科の出身で、たまたま工学部に就職したために専門が情報系に変化していったのですが、やはり数学科出身だったからやれたことというのもあるように思います。皆さんおっしゃってらっしゃるけれども、数学科のドクターまで行っても全員が数学者になるわけでもなく、そうではない方がやりたいことができる人もいるのではないかと思います。そのような事がもう少し高校生ぐらいの頃から見せられると良いのではないでしょうか。大学入るときに数学科に行くというと、数学者になるの? みたいな目で見られて、数学者になるのではなければ全く違う学科を選んでしまうこともあります。数学科で勉強しても,そうではない道もたくさんあるということがもう少し分かるといいのかと思います。きちんと数学を勉強したことがいかに社会で役に立つかというところがもう少し見せられるといいのではないかという気はします。
 あとは、生物の分野の方との話が大変というのがあったように思いますが、ヒトゲノムを読むというプロジェクトが前にあって少し関わったことがありましたが、生物の先生方とお互いに言葉が通じるようになるにはある程度時間がかかるかもしれませんが、話が分かり合えるようになると,そこから先はかなり一緒にいろいろなことができたように思います。最初は大変ですが、やはりそれに少し時間を割くという覚悟も要るのではないかと思います。
【若山主査】
 おっしゃるとおりだと思います。
 今お聞きになって、何か新たに……。
【グレーヴァ委員】
 そのとおりだと思っておりました。日本の高校の数学はかなりよくできているので、すごく優秀な人が数学を目指していける、だけど、それは数学者だけじゃなくていろいろなところに使えますよというのを高校のうちから分かるようにしていれば、さっきの樋口さんのチームワークとかも自然と乗りやすいですよね。なので、全部つながっているんじゃないかなと非常に思いました。
【若山主査】
 そうですね。大学の数学科で教えてきた者として思うんですけれども、先ほど数学科に入るときに数学者というのがありますが、あとは高等学校の先生になりたいという人も例えば多くて、教育内容がどちらかというと数学者向けのカリキュラムとかをずっとやってきたものですから、また高等学校の先生になったときも、今指摘されたようなことが余り打ち出されていないという、そういう循環になっていたということがあるんです。ですから、高等学校の先生でも、やはりどちらかというと、今、大分ましになったといえども、統計科目のところを教えるというのに苦手意識を持たれている方がいらっしゃったり、最近始まった活用、一体何を教えればいいのかという苦情がいっぱい出てきたり、そういう点も踏まえておく必要があるのが現在の状況です。
 本間さん、何か。
【本間委員】
 逆に僕も数学出身なので、数学でやっていて良かったなと思うところが企業人としても結構あるわけです。一方、最近、若手の社内の研究者と話すときに、これは数学的な問題なのかどうかということが分からないが故に放置してしまうというケースが非常にあると。先ほども言ったように、数学者が異分野の方に乗り込むのか、異分野の方が数学に寄ってくるのかという、やっぱり両方とも若干サイロができてしまっていて、やっぱり中間の、トランスレーションするだとか、若しくは一緒に共有する場所がちょっと少ない。
 恐らくそれは、僕も確かに大学のときを考えると、どうしてもピュアマス、僕は応用数学だった割にはやっぱり数学の講座の授業を中心に受けてしまうので、自分自身の大学生活の中でもほかの科学を聞いてなかったという問題もあり、やっぱりトランスレーションできるような機能がどこかに企業の中でもちょっと求められているし、本当は企業の外に何かちょっと中立な場所があるともう少しシンクはしやすいんだろう、考えやすいんだろうなと。お互い、これ、数学者に頼んじゃいけないんだよねと、うちの社内も思っているし、社内の数学者の人の話、いや、これは専門の人たちは解けているんだよねみたいな、お互いに溝が開いてしまっているのが企業の中でも見受けられるかなと思います。
【小谷委員】
 済みません。
【若山主査】
 はい。
【小谷委員】
 私、数学的視点をとりいれた材料科学を目指す研究組織にいまして、初めこの提案をしたときは、みんなに非常に挑戦的だとかハイリスクだと言われました。しかし、若手研究者が自由に自分の意思で研究できるけれども、唯一のミッションは、「材料の実験系の先生と数学の間をあなたの持っているアイデアとテクニックでつなぐ役目です」と明言したインターフェースユニットという組織を作りました。それが非常によく機能して、おかげでいろいろなことがうまくいくようになり、数学-材料科学連携が予想を超えて進んでいるねと言われるようになりました。数学者と実験科学者がダイレクトに議論すると面白いことはいっぱいありますが、今はまだまだギャップが大きいので、そういうつなぎの役割の人がいるととりあえずの垣根が越えやすいと感じました。
【本間委員】
 そうですね。
【小谷委員】
 でも、いったん垣根を超えた後はダイレクトに議論した方が……。
【本間委員】
 全然早くなりますね。
【小谷委員】
 本当に面白い問題がたくさんあるので。
【若山主査】
 長谷山先生は、数学者のお師匠さんだったということでもちろん幸せに感じておられるんだと思うんですけれども、それはそうですよね。
【長谷山委員】
 もちろん、小さなときから大好きな数学に触れることができる大変に幸せです。二つ言わせていただいてよろしいですか。一つは、私が、最近よく思っているのですが、数学とか物理とか化学というのは、過去から現在に脈々と受け継がれる次の世代に学問を教えるための一つの整理の形だと思っています。それはやはり脈々と受け継がれているものですので、教えやすいですし、習熟の効率もいいと思います。
 でも、これから解決しなければならない社会の問題というのは、先ほどほかの委員の先生もおっしゃったのですが、分野転移力であったり、チーム力であったりが必要です。非常に問題が複雑化してきたので、一つの知識では解決するのが難しいのだと思います。このように考えますと、数学者がダイレクトに解決するのが難しい問題が多く存在しているのだと思います。
 今、自分自身が解き放たなければならないのは、私も含めて、数学出身だとか、数学者に育てられてうれしいと語っていること自体が、そもそも凝り固まった過去の枠組みに何かとらわれてしまっているのではないかと思っています。だから、自分の学生には、凝り固まるな、それは過去の整理の枠組みなんだ行っています。ここの委員会でも、数学の出身とか、私は数学者に教えられたと語ること自体が、もはや現状の社会のニーズに合っていないのではないかと感じています。
 このように考え、数学者がダイレクトに解決法を見いだすということはとても難しいことなのではないかと思っています。例えば、私が、先ほどお話しさせていただいたのは全て、生物学者と数学を連携させることで産業界に送り出すためののり付けを情報科学は行っているということです。
 次に、2番目ですが、その解決は非常に難しいのですが、高木先生がおっしゃったことに関係していて、問題が複雑になればなるほどコントリビューションが明確にならなくなるという点に起因する問題です。現状の一元化された研究業績の評価方法では、極めてのり付け部分の評価が厳しくなると感じています。なおかつ、数学というのは、私の考え方ですと、抽象化の概念を教えてくれる学術体系だと思っています。抽象化できるからこそ、ほかの問題の解決方法が見えてくるわけです。
 一方で、抽象化してしまえば、その人のコントリビューションは見えづらくなると感じています。そう考えると、先ほどの情報科学研究者のコントリビューションが明確にしづらいことと同様のことが、数学者にも起こると考えられます。そうなれば、結局のところ、一生懸命に学生に分野転移力、異分野連携力、チーム力を教えても、大学とか研究所に行くのであれば、論文を書けるところに行く方が良いと考えてしまうことになります。プラスのスパイラルに持っていこうとしても、社会がそれを抑圧するような業績の判定方向になっていれば、負のスパイラルは止められません。これが、残念ながら、今抱えている大きな問題だと思っています。二つお話しさせていただきました。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
【グレーヴァ委員】
 突然思ったんですけれども、野球でいうと、先発ピッチャーだけが勝ち負けをもらっていたのを、今は、セーブとかホールドとかいろいろなポイントが付くようになりましたよね。それなんかコンピューター使って、そういうアカデミックなコントリビューションをいろいろなポイント制にできたら、この問題は多少解決するかもしれないなと今ふと思いました。勉強になりました。面白い。
【若山主査】
 高木先生、どうですか。
【高木委員】
 先ほど樋口先生が言った、チーム力と跳躍ですか。まずチーム力に関していいますと、今の生命科学はほとんどチームでやる世の中になっていると思います。きょうは生物系と情報系の話だけしましたけれども、実は今の生物学というのは、私が言うのもなんですけれども、テクノロジードリブンで、新しい装置が出てきて、新しいデータが出てくる、それで進んでいくという側面が非常に大きいので、やはりテクノロジーの人とも一緒にやっていかないと、なかなかうまくいかない。
 欧米では完全にそうなっているんですが、日本はなかなかそこのところがいろいろ難しい問題があって、なかなかチームが簡単に組めない。そうすると、チームが組めないと、自分のところのデータ解析力が弱くなるものですから、外にデータを出さないということになって、今言われているオープンサイエンスがなかなか進んでいかないという問題があるわけです。だから、そこのところも、チームでやるということをもう少し明確にいろいろなプロジェクトで打ち出していかないと難しいのかなとは思います。
 それから、跳躍力なんですけれども、私どものバイオインフォマティクスももう生命科学を先導するつもりでやりたいと。ですから、先に理論なり理屈が先行して、どういうデータを取るかということを是非やりたいと思っているんですけれども、みんな大体情報系から入ってくる人は、最初は格好良く問題を解いてやるというふうに入ってくるんですが、現実はなかなか難しくて、非常に複雑だから、なかなか解けない。ある問題を解いている間にどんどん違う種類の新しいデータが出てきてしまって、問題が問題じゃなくなってくるんですね。ですから、そこのところがなかなか難しくて。
 そうなると、二つに分かれていって、やはり現実の役に立つことをする方向に行くのか、それとも、生物学者は余り誰も相手にしてくれないけれども、数式を立てたりシミュレーションをするという方向に行ってしまってなかなか現実問題が難しいというようなことになっていると思います。そこのところを解消していかないといけないんですが、ただ、今の状況というのは、その二つを何とかブリッジしていくような流れというのはできつつあるように思いますので、これからそういうところに期待したいと思いますし、是非数学の方もそういうところに入ってきていただきたいなとは思います。
【若山主査】
 どうもありがとうございます。
 時間が参ってしまいました。非常に活発な意見交換ができたと思います。本日の議論を通じまして、諸科学、産業でも数学の力が期待されているということは事実ですし、それを受けて、教育も含めてシステムの改革もあるのかもしれませんけれども、どのようにやっていくかということを議論して参りたいと思います。今後の議論に生かしたいと考えております。
 それでは最後に、粟辻さんの方から連絡事項がありましたら。
【粟辻融合領域研究推進官】
 どうもありがとうございました。大変に活発な議論で、今後の我々の施策の立案にも活用させていただきたいと思っています。
 それでは最後に、次回でございますけれども、今の時点で6月24日の午後4時からを予定しております。詳細な場所も含めてまた御連絡をさせていただきます。
 それから、本日の議事録につきましては、事務局で案を作成いたしまして、皆様にお諮りして、主査の了解も得た上でホームページに載せさせていただきたいと思っております。
 また、本日の資料、若干大部でもありますので、机の上にそのまま置いておいていただければ、事務局から封筒に入れて送らせていただきます。
 とりあえず以上でございます。
【若山主査】
 それでは、これで終了したいと思います。どうもありがとうございました。

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