1.分野名 (21)ナノスピンエレクトロニクス
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 舛本 泰章  筑波大学物理学系教授
川合 知二  大阪大学産業科学研究所教授
榊  裕之 東京大学生産技術研究所教授
意見聴取者   : 横山 直樹 富士通ナノテクノロジー研究センター長
長我部信行 日立製作所基礎研究所長
平山 祥郎 NTT物性科学基礎研究所グループリーダー

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 半導体、酸化物や磁性体中の電子のもつもう一つの自由度であるスピンを電子デバイスにおける新しい自由度として積極的に活用し、既に応用の展望のある磁気センサー、磁気メモリや光アイソレーター性能の格段の高性能化に加えて、大きな可能性のある超高速光スイッチ、スピントランジスター、さらには、量子情報処理・量子情報通信デバイスなどとして利用する基盤を作る。加えて、新しいナノスピントロニクス材料の探索も行い、これらによって新しいナノ構造を利用したスピントロニクスの展開を推進して、次世代情報処理技術の基礎を作る。

(2)一般向け概要説明
 スピンは光アイソレーター以外ではこれまでほとんど実用電子デバイスに使われてこなかった電子の自由度であったが、半導体中を電子がスピン状態を保ったままマクロなスケールで伝播したり、長い時間電子がスピン状態を保ったままになることがあるケースが見出されて、スピントランジスター、新たなスイッチや超高速光スイッチ、量子情報処理キュビットなどとして利用する可能性が指摘されている。特に量子情報処理はコンピューターの性能の飛躍的向上には必須で、半導体中の長いコヒーレンス時間をもつ電子スピン状態や核スピンは量子情報処理キュビットとして有力である。このため多くの可能性のある新しいナノ構造を利用してスピンエレクトロニクスの展開をはかり、次世代情報処理技術の基礎を作る必要がある。
  一方、基礎研究レベルでは最近大きな進歩があり、より実用化が近いものとしては、巨大磁気抵抗効果の高密度磁気メモリや高感度磁気センサーへの応用、大きな磁気光学効果を示す新ナノ素材があり、現用の磁気メモリ、光磁気記録、光アイソレーターを飛躍的に高度化する可能性が高い。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
 スピンエレクトロニクスはごく最近になって多くのブレークスルーが我が国の研究者によってなされ世界的に注目され始めた分野である。情報技術を支える半導体産業と磁性体産業の接点にあり、その両方の産業に極めて大きなインパクトを与える可能性がある。10〜20年後に実用化・産業化が期待される。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
電子スピンのコヒーレント制御の研究
 半導体中を電子がスピン状態を保ったままマクロなスケール伝播したり、電子のスピンや核のスピンの緩和が長いコヒーレンス時間を持つことがあるケースが見出されて、新たなスイッチや超高速光スイッチ、量子情報処理キュビットなどとして利用する可能性が指摘されている。電子や核のスピンがコヒーレントである長い時間、フェムト秒光パルスにより上向きスピンと下向きスピンの任意の線形結合状態を形成し、これをコヒーレント制御することができることで、光パルスの時間幅だけで決まる超高速の光スイッチ、量子情報処理キュビットにすることができる。こうした研究は、10年から20年後の実用化・産業化をめざした挑戦的基礎研究で、実用化には更にその後に5年から10年を要する。

巨大磁気抵抗を示す物質の研究
 磁性イオンを含む磁性半導体や磁性酸化物で巨大磁気抵抗を示す物質やナノ構造物質が見出されている。こうした物質は磁気センサーや磁場による伝導スイッチとして有用で、物質の探索や構造の最適化の研究により、実用になる可能性があるのは10〜15年後であろう。

大きなファラデー回転を示すナノ構造の研究
 ファラデー回転は光アイソレーターとして使える他にない特性であり、ファラデー回転を利用した光アイソレーターは光通信のあらゆるシステムに組み込まれている。光情報通信の波長に応じた大きなベルデを持つ磁性半導体ナノ構造は特に注目すべき材料で、優れた特性をもつ材料が見つかれば数年のうちに実用化される。

ナノ構造におけるスピン量子物性の研究
 電子がスピン状態を保ったままマクロなスケール伝播するとスピン偏極電子の注入と制御を用いた各種のスピントランジスターなどの新素子の可能性がある。また、単電子動作する磁性体ナノ構造では、電子スピンの状態が電気伝導を支配してくる。この現象は極めて敏感な磁気センサーや磁気メモリを可能にする。こうした課題は、10〜20年後の実用化・産業化をめざした挑戦的基礎研究である。

新しいナノスピンエレクトロニクス材料の探索
 希薄磁性半導体、有機分子、金属ナノ構造のネットワークや量子ドットのネットワークにおいて新しいテラヘルツ帯光素子や磁気記録媒体などに使えるナノスピンエレクトロニクス材料が見出される可能性がある。こうした課題も、10〜20年後の実用化・産業化をめざした挑戦的基礎研究である。

5.研究の概要
 ここでは考えられる研究内容を例示する

(1)電子スピンのコヒーレント制御の研究
 半導体中を電子がスピン状態を保ったままマクロなスケールを伝播したり、電子のスピン緩和が長いコヒーレンス時間を持つことがあるケースが見出されて、新たなスイッチや超高速光スイッチ、量子情報処理キュビットなどとして利用する可能性が指摘されている。電子のスピンがコヒーレントである長い時間、フェムト秒光パルスにより上向きスピンと下向きスピンの任意の線形結合状態を形成し、これをコヒーレント制御することができることで、光パルスの時間幅だけで決まる超高速の光スイッチ、量子情報処理キュビットにすることができる。

(2)巨大磁気抵抗を示す物質の研究
 磁性イオンを含む磁性半導体や磁性酸化物で巨大磁気抵抗を示す物質やナノ構造物質が見出されている。こうした物質は磁気センサーや磁場による伝導スイッチとして有用で、物質の探索や構造の最適化の研究が必要である。

(3)大きなファラデー回転を示すナノ構造の研究
 ファラデー回転は光アイソレーターとして使える他にない特性であり、ファラデー回転を利用した光アイソレーターは光通信のあらゆるシステムに組み込まれている。光情報通信の波長に応じた大きなベルデを持つ磁性半導体ナノ構造は特に注目すべき材料で、優れた特性をもつ材料を見出す必要がある。

(4)ナノ構造におけるスピン量子物性の研究
 電子がスピン状態を保ったままマクロなスケール伝播するとスピン偏極電子の注入と制御を用いた各種のスピントランジスタなどの新素子の可能性がある。また、単電子動作する磁性体ナノ構造では、電子スピンの状態が電気伝導を支配してくる。この現象は極めて敏感な磁気センサーや磁気メモリを可能にする。こうした課題は、可能性の大きな重要な研究であり、推進すべき課題である。

(5)新しいナノスピンエレクトロニクス材料の探索
 希薄磁性半導体、有機分子、金属ナノ構造のネットワークや量子ドットのネットワークにおいて新しいテラヘルツ帯光素子や磁気記録媒体などに使えるナノスピンエレクトロニクス材料が見出される可能性がある。

6.取り組みにあたっての留意事項
 本分野は物理・物質科学・応用物理・電子工学・情報科学の専門家が連携を取り研究開発を行う必要がある。

ページの先頭へ

 

1.分野別 (22)ナノ造形
2.検討チーム
検討担当委員: 北澤 宏一  東京大学新領域創成科学研究科教授
岸  輝雄  物質・材料研究機構理事長
意見聴取者   : 長我部信行  日立製作所基礎研究所長
和田 恭雄  日立製作所基礎研究所
 ナノテクノロジー研究プログラム主任研究員
小川 正毅  NECラボラトリーズ研究企画部長
田原 修一  NECラボラトリーズ
 シリコンシステム研究所 部長
横山 直樹  富士通研究所
 ナノテクノロジー研究センター長
今井 元  富士通研究所
 基盤技術研究所長代理
森田 雅夫  NTT物性科学基礎研究所企画部長
平山 祥郎  NTT量子物性研究部
 主幹研究員、グループリーダー
豊田 信行  東芝研究開発センター副所長
江刺 正喜  東北大学未来科学技術共同研究センター教授
舛本 泰章  筑波大学物理系教授

3.当該分野の概要
(1) 数10ナノメートルの限界を突破し、次世代の超微細加工・組上げ技術に向けた材料的課題、加工・組み立て技術の課題、評価技術の課題を解決するための挑戦的・探索的あるいは融合的な研究を行う

(2)ナノテクノロジーにおける基盤技術は、数10ナノメートル以下のサイズでの造形技術とそのプロセス・モニタリング技術である。現在の半導体技術はホトリソグラフィという同時多発の量産性の高いミクロ加工技術によって成功がもたらされた。将来のナノテクノロジー時代の基盤となるのは、したがって、現在のホトリソグラフィの微細加工限界を突破し、かつ、量産性を確保できる新たな加工技術が育てられねばならないが、それは従来の加工(トップダウン型プロセス)と、原子レベルからの組み立て(ボトムアップ型プロセス)の両者の融合によってなされていくと考える。しかしながら、このような技術には学問的に未解明な点が多く、ナノ物理・化学といった新学問領域が同時に形成されていく必要がある。その芽としての我が国の蓄積はすでに大きなものがあるが、本プロジェクトの趣旨は、今後、数年間の超微細集積回路などの連続的な技術進展の基盤を支えるとともに、その後に予想される本格的なナノテクノロジー段階のプロセスを先導的に開拓することを目指すものである。

4.
(1)現状
 現在の超微細加工はホトリソグラフによって支えられ、その量産性の優秀さによって、当面の情報化社会実現を可能にした。光を用いる加工方式には本質的に波長という限界があり、このため、可視光から更に波長の短い紫外光へと技術は進んできた。将来に予想される高度情報化社会に向けて、さらに抜本的な微細化が必要とされてきており、より波長の短いX線や電子ビーム・リソグラフィが原理的にはスケールの壁を打ち破ってきている。しかしながら、これらの方法は現時点ではまだ量産性という壁に突き当たっている。
 一方、ナノスケールでは、量子力学的な問題、界面と表面におけるの原子の振る舞いや結晶成長・物質の安定性に関わる問題、少数電子となるための統計熱力学的問題、などが顕在化してきており、物理的・化学的な基礎学問の確立の必要性が感じられる。また、ナノ造形のスケールに対応した新たな評価技術がまだ未発達な状況である。
 これらに関する世界の研究状況は、個々の芽は散発的に出つつあり、我が国は米国とともにそれをリードする立場にあるが、それらを組織体系化して、実際の将来プロセスに向けて体制を組むことはまだできていない。

(2)将来目標
 ナノ構造をトップダウン型に作り出すX線、電子ビームなどの新リソグラフ技術のスループットを向上させる新たな技術の探索、およびボトムアップ型の加工・組み立て技術のリソグラフ技術との融合により、ナノ造形の基盤分野を開拓する(10〜15年後に導入開始を目標)。また、このためのナノ構造を有する表面、界面における原子・分子の振る舞いを記述し、その領域での結晶成長と物質の安定性を記述する物理化学をその背景基礎基盤として確立する(5年後からの有効性発揮と15年後完成を目標)。これにより、電子デバイス作製だけでなく、我が国の「ハイテク・高信頼性技術」の根幹をなす幅広い技術分野に対する波及的な基盤形成を目指す(10〜20年後を目標)。また、研究機関の間に共通的なナノ造形先端プロセスに対するサービスを供給できるセンタなどナノ造形技術インフラの充実を志向する(5年後を目標)。

5.研究の概要:具体的研究テーマ例
(1)新型リソグラフィの限界(特にスループット)を突破する新規提案
(2)ビーム・プローブ誘導型組み立て技術
(3)リソグラフィ−自己組織化融合技術
(4)ナノ構造における物理化学(表面・界面原子ダイナミクス、ナノ結晶成長、ナノ熱力学、ナノ現象学、ナノ材料設計学)、
(5)超精密転写技術
(6)ナノプロセス・モニタリング技術
(7)ナノ造形融合・総合技術(ナノ造形ルームなどを含む)
 ナノの形を作るに当たって、大きな材料を削り取って加工していくトップダウン型の方法、ビームやプローブなどにガイドされて物質を堆積する方法、周囲環境によって物質自身が誘導されて望みの形状に至るボトムアップ型の方法など、いくつかの原理とまったく異なる方法が考えられるが、それらは競合的・相補的に用いられ、融合されることになると考えられる。その意味で、これらの領域は相互に密接なコミュニケーションがなされつつ、あるいは、融合されて研究が推進されることが望ましい。ナノ造形における最大の課題は、スケールとともに飛躍的なスループット向上が必要とされる点である。これはトップダウンとボトムアップ両プロセスの融合によってなされると考えられ、このためには、同時多発型のボトムアップ・プロセスに対するナノ物理化学の解明・確立がその基盤として必須であり、さらに、次のフロンティアを切り開いていくものである。また、これらナノプロセスを実施するにあたり、それに適したモニタリング技術の進展が必須であり、そのための、新たな提案が重要である。

6.取組みに当たっての留意事項
 ミクロ加工にとって、特殊クリーンルームが必要であったように、ナノ造形においても特殊ルームが必要となることが考えられる。その設計から周辺技術に関する問題が同時に総合的に考慮され、対処されていかねばならない。そして、それは共通センタとして全国のサービスに供される必要が出てくる可能性が高い。このようなセンタについても本領域における配慮が必要である。
 一方、ナノ造形はホトリソグラフィ並みのスループットを上げようとしなければ、現在でもある程度のことはできるようになってきた。したがって、将来へ向けての発展は原理的に量産に耐えられる技術に支えられねばならない。このためには、ボトムアップ型の技術との融合が必須であるが、その制御のための表面での原子のダイナミクスや結晶成長などの物理と化学の理解に代表される基礎学問の進展が重要視される必要がある。

ページの先頭へ

 

1.分野名 (23)プログラム自己組織化
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 川合知二  大阪大学産業科学研究所教授
魚崎浩平  北海道大学大学院理学系研究科教授
柳田敏雄  大阪大学大学院医学系研究科教授
意見聴取者   : 山下一郎  松下電器産業(株)先端技術研究所主任研究員

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 DNAの遺伝プログラムによってタンパク質が合成され、これらが相互作用を通して自己組織化することで生体が形成される。このようなプログラムにもとづく自己組織化現象をコンセプトとした、ナノ構造制御の物質・材料構築の新概念を創出するとともに、これらに基づいた素子、システム創成を目的とする。 個人のDNAの遺伝情報をチップに埋め込んだDNAチップやバイオチップによるオーダーメイド医療の実現や、これらのチップを利用して生体が行っているような遺伝情報(プログラミング)に従った自己組織化により、生体を越える分子モータ、分子デバイス、分子構造体を構築することを目指す。

(2)一般向け概要説明
 人間は、たった1つの細胞(受精卵)から出発し、細胞分裂を繰り返して成長していく際に遺伝子にインプットされたプログラミング情報に基づき、目や心臓や手足が作られて、約60兆の細胞で構成される高機能かつ精緻な構造体となる。このように優れた物質構築機能を見習い、プログラミングに従って原子・分子単位で制御された物質(材料)合成(ボトムアップ)により、生体を凌ぐ分子モータや分子デバイス、あるいは五感センサーや脳型デバイス等の人工生体情報材料を作る。
  DNAチップやプロテインチップをより発展させたバイオチップにより、オンチップに個々の生体の機能を築いていく。これらは検査や診断に留まらず、検出した遺伝情報等をもとに論理判断・予測等のインテリジェントな機能を併せ持つ。チップ上に個々人の情報がインプットされており、メディカルな情報、嗜好情報等が組み込まれており、個人に適したオーダーメイド、オンデマンドの快適な生活環境が享受できる。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
 一端をチオール化したアルキル鎖を持つ分子の金表面上への自己組織化単分子膜(Self-assembled-monolayer:SAM)など単一種類の原子・分子の固体表面上での自己組織化や、最近は複数の分子種を構造制御しながら配列しようとする研究がなされている。
 一方、半導体や機能性酸化物の分野では、物理的な設計指針から決定されたプログラミングに基づき、原子層レベルでの薄膜結晶成長技術により人工格子が形成されている。この時の各層における2次元的結晶成長は、個々の原子のもつ自己組織化特性に従っている。これらの技術は現在、磁気ヘッド用の巨大磁気抵抗素子や衛星通信用のHEMT素子に適用されている。

(2)「実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途」
分子モータ、分子デバイス、分子構造体の開発
 タンパク質複合体や人工分子を機能デバイスとして発展させていくためには、必要最小限の要素を高密度に集積していく必要がある。この際に自己組織化特性を活用する。生体が行っているようにプログラムに沿った自己組織化で、生体を構成する機能部品を人工的に作る。目標達成時期は8〜10年、実用化にさらに5〜10年を目安とする。目標達成により、生体を越える分子モータ、分子デバイス、分子構造体が期待される。

人工生体情報材料の開発
 我々生体は、目で光情報を認識し、電気的・化学的信号により情報が脳に伝達することにより、判断、記憶している。無機・有機物質の高機能物性を利用し、それら部品をある順序に沿って原子・分子スケールで組みあわせるプログラム自己組織化にもとづき、人工生体材料、超五感センサー・脳型メモリを構築する。目標達成時期は8〜13年、実用化にさらに5〜10年を目安とする。目標達成により、高機能マンーマシンインターフェースの実現や高性能ロボットへの搭載が期待される。

バイオチップ、ヘルスケアチップの開発
 ゲノムの塩基配列の個人差で、1000塩基に1カ所以上、ゲノム全体では数百万カ所以上あると考えられており、この差が主種の病気へのかかりやすさや、薬の効き方に影響を与えている。ポストSNPとして、遺伝情報をDNAチップやバイオチップより発展させ、オンチップに個々の人の情報を構成する。目標達成時期は5〜10年、実用化にさらに5〜10年を目安とする。目標達成により、オーダーメイド医療や日常生活の個別管理等が期待される。さらに、これらの情報等をもとに論理判断・予測等の機能や、塩基相補性・酵素反応を利用した演算やメモリ機能等の知能を持ったインテリジェントバイオチップ開発へと発展させていく。

5.研究の概要
(1)固体表面上での有機分子、生体分子のプログラム自己組織化メカニズムの解明と応用
 タンパク質複合体を機能デバイスとして発展させていくためには、必要最小限の要素を高密度に集積していく必要がある。この際に時間的空間的スケールでのプログラムに沿った自己組織化特性を活用する。生体が行っているようにプログラム自己組織化で、生体を越える分子モータ、分子デバイス、分子構造体を作る。

(2)プログラム自己組織化プロセスを用いた人工生体情報材料合成
 光機能に優れた分子や、適応学習、メモリ機能を有する強誘電体等、無機・有機物質を原子・分子スケールで組みあわせるプログラム自己組織化にもとづき、人工生体材料を合成し、五感センサー・脳型メモリへ適用する。

(3)多種類原子および分子のプログラム自己組織化とバイオチップへの応用
 遺伝情報をはじめとした個人のデータがプログラミングされているだけでなく、演算やメモリ機能までも有するような、知能を持ったバイオチップ(インテリジェントバイオチップ)の合成

(4)自己組織化の時間分解計測
 原子レベルの空間分解能を有するプローブ顕微鏡を用いて、分子等が自己組織化形成過程を時間分解で計測する技術を確立する。

(5)プログラム自己組織化の理論構築
 有効な機能を持つ物質の発現(生体形成等)を担う自己組織化を支配するプログラミングを理解するためのモデル形成、遺伝的アルゴリズム等に変わる理論を構築する。

6.取り組みに当たっての留意事項
 本分野は生物・物理・化学および微細加工・集積化技術に代表される半導体工学分野等の研究者が、その専門性を融合させることが求められる。また産官学が各々の得意分野を生かし、共同によりその進展が初めて可能にある分野である。次世代のDNAチップ、バイオチップに対する重要性、社会的要請も強い。ゲノム分野で欧米に遅れをとった日本の命運をかけて、今後のオーダーメイド医療、高齢化社会における、中枢分野となる本分野の研究推進を強力に推進すべきである。

ページの先頭へ

 

1.分野名 (24)ナノ新計測
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 川合真紀  理化学研究所主任研究員
塚田 捷  東京大学大学院理学系研究科教授
意見聴取者   : 青野正和  大阪大学大学院工学研究科教授
蔡 兆申  日本電気(株)基礎研究所主管研究員

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 構築された個々のナノ構造の機能を計測するための方法を確立し、ナノテクノロジーに共通な計測基盤を供する。ナノメートル領域から、単一分子や分子内構造、さらには単一原子を対象とし、原子配置、元素検出、電子状態、振動状態、スピン状態、量子状態などに加え、ナノ構造の機能そのものを計測する手法を開発する。さらに機能の動的現象の検出を対象に、個々のナノスケール構造の短い時間応答の検出法を確立する。

(2)一般向け概要説明
 微細なナノメートル領域で、意図した機能を発現する構造をつくる方法は大きな発展を見たが、個々のナノ構造や結合ナノ構造の状態や機能を直接計測する新たな手法開発が必要である。ナノ構造の伝導特性、磁性、誘電特性、個々の原子の元素分析など、計測方法を開発し、つくられたナノ構造の状態を把握すると同時に新たなナノ構造創成に寄与する。走査トンネル顕微鏡の開発により、原子・分子単位での物質操作が広く進展したように、新しい測定法の開発は物質科学の新たなブレイクスルーに繋がる重要な研究分野である。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
 走査トンネル顕微鏡に代表される、局所プローブ法は、その発明以来急速な進歩を遂げ、固体表面上に固定された個々の分子の姿を直接観測できるだけでなく、その電子状態の空間分布やさらには個々の分子の振動スペクトルまでも観測できるようになってきた。1990年代前半には、個々の分子の姿を実空間で捕らえ、ひとつひとつの分子の観測を通じて固体表面での吸着位置や、分子軌道の広がりが議論できる程度であった。1990年代後半では、分子内の電子状態の空間分布を捕らえ、吸着分子系の電子状態の広がりや対称性を議論できるようにり、さらには、吸着分子系の振動状態との共鳴トンネル現象を空間的に捕えることができるようになり、原子スケールでの物性議論に新しい展開が期待されるようになった。一方、原子間力顕微鏡の応用展開も目覚ましい発展をとげ、探針と試料との間に生じるピコニュートン程度の小さな相互作用の変化を捕られるようになった。探針の素材を工夫することにより、原子間に生ずる微小な相互作用を原子レベルの位置分解能で検出できるようになった。
 このような技術革新を背景に、原子・分子を単位とした操作技術は発展し、現在のナノテクノロジーの基礎をなしている。今後さらに、ナノメートル領域の機能を直接計測する手法や、高速過程の検出法、原子レベルでの元素同定法などの開発が望まれる。また、既に実現している技術に関しても、ナノテクノロジーの実用化に向けこのような極限技術の全てが汎用的に使えるようになるにはさらなる技術開発が必要である。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
 これまでのナノテクノロジーの研究を強力に牽引してきた最重要基盤技術としてのプローブ顕微鏡は、今後のナノテクノロジーの急速な発展に対応して質的に進化することが要求されている。プローブ顕微鏡に限らず、位置及び時間の分解能を飛躍的に高めたナノスケール計測法の開発や、単一スピン状態の検出、ナノ構造の機能を直接計測する手法の開発など達成すべき課題は多い。

ナノメートル領域の機能計測
 ナノテクノロジーにおいて、様々な意図した構造を構築する方法は大きな発展を見たが、構築されたナノ構造の物性や機能を計測する方法の開発が急務である。多探針STMの開発など、既に開始され国際的な開発競争にある試みもあり、研究推進が急務である。
 非接触原子間力顕微鏡の応用は、さまざまな機能計測の道をひらくだろう。機能探針による複合機能計測や極微力場を検出する顕微鏡の開発により、小さな相互作用を検出できるようになれば、各種の機能評価が可能となろう。また、プローブ顕微鏡以外の各種顕微測定法の開発も望まれる。これによって、ナノ構造の機能を直接計測できるようになり、有用な機能発現に適したナノ構造の物質設計も可能となる。目標達時期は10年後、実用化にはさらに5年必要である。

高分解能ナノスケール計測
 サブオングストロームの空間分解能で引力や反発力を検知する計測法が開発されると、絶縁性の材料に対しても、STMの空間分解能に匹敵する微細構造の情報が得られるようになり、バイオ材料がデバイス素材として計測にかかるようになる。また、微小なエネルギー差を検知するシステムにより、単一スピンの計測などが可能になる。このような高精度のナノスケール計測が実現すると、これまでの電荷を媒介としたデバイスを越えたシステムの創成に寄与する。目標達成期間は10年、実用化はさらに5年

極短時間分解能ナノメートル領域計測
 原子や分子のダイナミクスはピコ秒、電子のダイナミクスはフェムト秒の時間分解能で観測できる。ナノ構造電子ダイナミクスや、光応答など、様々な機能を解明するための道具だてが揃うことになり、機能解明に大いに寄与できる。目標達成期間は10年。

5.研究の概要
 研究内容の例示
(1)多探針走査プローブ顕微鏡(SPM)の開発と利用
 独立に駆動できる2,3,4本の導電性の探針を持つSPMの開発である。これによって、ナノ構造、ナノデバイス電気特性の評価(4端子評価)、またそれら素子の局所ゲート電圧特性や局所磁場特性の評価(3端子または5端子)を行うことができ、ナノ構造に注入された電子の拡散の速度や、分布の計測、ナノ構造の能動的機能の計測、化学反応の伝播の観測など、様々な計測が可能になる。

(2)ナノスピン顕微鏡(スピン分布)
 スピンの空間分布をナノスケールから原子スケールの空間分解能で観測できる顕微鏡の開発。感度も1個のスピンを検出できることが望ましい。幾つかのスピン偏極走査トンネル顕微鏡が開発されているが、信頼性、安定性、操作性、感度などの点でまだ不十分であり改良が必要である。さらに、それらとは異なる新しい方法の開拓を積極的に進めるべきである。

(3)ナノオプティカル計測研究
 ナノスケール領域において極短時間分解能のオプティカル計測を行いうる方法の開発とその利用に関する研究を行う。電子デバイスの周波数特性を支配する電子の散乱時間と散乱長に匹敵する、フェムト秒の時間分解能およびナノメーターの空間分解能で電子状態を計測することを目的とする。さらに、電子遷移によって誘起される光の直線偏光ならびに円偏光を計測して電子状態の軌道対称性やスピンに関する情報を得る方法も確立して利用する。

(4)ナノ力学顕微鏡による機能計測研究
 非接触原子間力顕微鏡は絶縁基板や、その上に吸着した分子、原子ワイアなどの原子尺度構造や力学的特性を測定するのに極めて有力である。STM、SNOMなどとの複合探針により、電子的、光学的、誘電的性質などと関連する物性および、原子尺度構造や力学的性質が観測できる上、単分子電子デバ イスの解析、さらにカンチレバーの振動エネルギーの散逸測定から、ナノ構造の動力学的性質の原子尺度情報がえられ、これを用いた構造性御も可能となる。また探針の構造と原子種に選択的に敏感なことを利用して測定対象の原子種、官能基などの同定が可能となります。これらは生体分子の3次元構造と機能制御に係わるバイオインフォーマテイックスとう分野の強力な実験観察手法になる。

(5)新しい顕微鏡システムの開発研究
 微細なナノメートル領域の機能を検出する新しい顕微鏡システムの開発研究は、将来のナノテクノロジー研究の発展に大いに寄与するものである。X線顕微鏡を利用しての元素分析、微細領域からの磁気共鳴など、材料機能を検出する上で有用な情報を得る手法となる。

6.取り組みにあたっての留意事項
 ナノ計測は、ナノテクノロジー全ての発展の根源に関わる共通基盤研究である。新しいナノ構造や機能が開発されると、それに伴い必然的に新しい計測方法の開発が臨まれるようになる。したがって、研究対象も常に他の分野の発達状況に併せ柔軟に対応すべきである。また、STMの発明がそうであったように、新しい計測法が開発されると新しい物質科学分野が開けてくる。したがって、双方向の情報発信が大変重要である。

ページの先頭へ

 

1.分野名 (25)ナノシミュレーション
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 塚田 捷  東京大学理学系研究科教授
岸 輝雄  物質・材料研究機構理事長
茅 幸二  岡崎国立共同利用機関分子科学研究所所長
意見聴取者   : 大西楢平  日本電気(株)基礎研究所主席研究員
押山 淳  筑波大学 物理学系教授

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 ナノテクノロジーで必要なナノ構造材料は、望みの性質を発現する様に原子尺度で構造制御された系である。このような構造を創製する生成方法、実現し得る原子尺度構造、および期待される物性や機能の理論的な予測と解析を、コンピューターを駆使した数値シミュレーションによって実行する。ナノ構造においては量子効果が支配的になるので、これを定量的に記述する第一原理計算を中核にしたハイブリッドシミュレーション法を開発し、原子配列構造、生成反応、諸物性の理論解析と機能探索を行う。

(2)一般向け概要説明
 極微なナノメートル領域での材料開発では、実験的な手法のみで材料の内部構造や性能を解析・評価することは難しい。近年発達の著しいコンピューター を駆使し、ナノ構造物の生成反応や原子尺度での構造を予測、期待される性質と機能をシミュレーションする。こうした理論シミュレーションの方法によって、ナノテクノロジーの開発を効率的に進めることができる。本課題ではそのために必要な各種シミュレーション技術の開発と、その応用研究を行う。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標と目標達成時期の目途
(1)数千原子までの系についての第一原理計算法の開発と実用化
 ナノテクノロジーを実現するには、ナノ材料の原子配列構造に基づく物性と機能の理論解析を行い、生成法や制御法を解明しなければならない。実験的計測が困難なスケールである一方、理論計算では様々な環境下で自在な原子の組み合わせについて正確に予測できることから、計算科学に対する期待は大きい。原子尺度系の理論予測には密度汎関数法による第一原理計算が最適だが、現在の手法とコンピューターの性能では高々数百原子が実用的な限界。ナノ構造系では少なくても数千程度の原子からなる系についての計算が必要である。このため並列分散処理、プログラムの高効率化など計算アルゴリズム、ソフトウエアなどの開発と、非平衡開放系の第一原理法など、種々の計算物理の方法論の開拓が必須である。目的の達成時期は10〜15年後、実用化普及化のためにさらに5年が必要。
(2)数百万原子の系の分子動力学とモンテカルロシミュレーション
 半導体、セラミックス、金属、高分子、それらの複合材料について、ナノスケールでの構造、発現機能などを解析・予測するためのシミュレーション法を構築する。固液界面の性質、材料の生成過程、破断、疲労、摩擦、エネルギー伝達に係わるプロトンの挙動などナノスケール現象の解析には、数百万以上の原子からなる系のマイクロ秒程度にわたる時間発展を追うシミュレーションが必要。このため、現象論的な原子間力モデルに基づく理論シミュレーション法を開発する。モデルに関する系統的理論の構築、第一原理計算を基礎にする原子間力などのデータベースの完備、大規模計算に特化した並列分散処理型専用計算機の開発などが急務。目的の達成時期は10〜15年後、実用化普及化のためにさらに5年が必要。

(3)ナノ材料設計プラットフォームの構築
 第一原理計算、古典分子動力学、モンテカルロシミュレーション、および統計力学的処理を組み合わせたナノ材料解析・設計のための総合的シミュレーションプラットフォームを構築。計算機資源としては公的研究機関、主要大学の大型計算機を高速通信回線で結んだものなどを使用。またこれをネットワーク上で民間研究者を含む多数のユーザーに使用可能とし、理論・実験、産業界・大学・研究機関の多様なユーザーがインタラクテイブに利用できるシステムを開発。このナノ材料設計プラットフォームによるシミュレーション結果の知識データベース化を図り、異分野のシミュレーション結果をデジタルコンテンツとして有効利用、ナノ材料設計を効率化する。これにより情報・通信、環境保全、バイオなどの各分野におけるナノテクノロジーの実現を加速し、豊かな社会の構築に貢献する。プラットフォームとデータベースの知識ベース化システムの製作のために10〜15年、一般に普及するためにさらに5年必要。

5.研究の概要 (課題の例)
(1)大規模系の第一原理計算のためのアルゴリズム開発
 従来型のアルゴリズムでは、計算規模は原子数Nの3乗に比例し大規模系への適用は困難である。これを克服しオーダ(N)法のアルゴリズムを開発する。試験計算で実証された有力な方法は実空間有限要素法で、密度汎関数法計算を高効率で並列処理できる。時間発展問題や非平衡開放系に適用可能で、系の階層構造に応じた最適化に適し、ナノ材料系の計算ですぐれた特長を発揮する。これをさらに発展させ、アルゴリズムの最適化、ソフトウエアの標準化、普及化、専用計算機などの開発を行う。

(2)走査型プローブ顕微鏡の理論シミュレーション
 走査トンネル顕微鏡、原子間力顕微鏡などは、ナノ材料の原子スケール構造を解析する重要な実験法である。実験結果を解析するための第一原理的シミュレーション法を開発、標準化して、普及型ソフトを製作。原子間力顕微鏡のパイロットプログラムは開発されたが、計算規模が大きく普及し難い。これを解決して信頼度のある普及型ソフトウエアを開発する。さらにこの理論解析法の発展として、吸着分子を用いた力学センサー、ナノマシーン、分子モータなどについて研究し、新しいナノ力学デバイスの基礎を探索する。

(3)籠型炭素ナノ構造と基板表面を用いた回路網
 フラーレンやカーボンンナノチューブと基板表面との複合系の物質設計と機能予測を行う。これらのナノ構造と基板表面との相互作用、表面上に導入したナノ電極との接合構造、これらを要素構造とするデバイスの理論設計、デバイス特性解析、望みの機能を実現する構造の生成法などを探索するためのシミュレーションを行う。

(4)プロトニックスの基礎シミュレーションシステム開発
 プロトン運動の量子論的シミュレーションを可能にする計算アルゴリズムを開発する。エネルギー関連は燃料電池における触媒活性と溶媒と電極のシミュレーション、バイオ系では金属錯体近傍のプロトンの役割、環境関連は不純物イオンを囲んだ水クラスターにおける励起状態の様子を定量化できるシミュレーションを行う。

6.取り組みについての留意事項
 ナノ構造の理論シミュレーションには、(1)基礎理論の構築、試行的シミュレーションプログラムの開発、(2)その効率化標準化と実用的プログラム開発という2つの異なるフェーズがあり、そのいずれもが車の両輪のように欠かせない。(1)は大学、公的研究機関で実施できるが、(2)については民間やベンチャーなどの役割を期待したい。

ページの先頭へ