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3.10〜20年後の実用化、産業化を展望した挑戦的研究に係る課題の抽出
(順不同)
( 1 )次世代通信用ナノデバイス
( 2 )超集積システム・素子・素材技術の研究
( 3 )単一分子素子と集積
( 4 )テラビット級メモリの原理・素材・方式
( 5 )新原理・量子デバイスの探索的研究
( 6 )次世代フォトニクスの基礎
( 7 )バイオ分子デバイス
( 8 )超高感度知的センサー技術
( 9 )IT化医療:ドラッグデリバリー・ナノマシン
(10)ナノソフトマシン
(11)ナノ組織エネルギー貯蔵・変換材料
(12)ナノ構造制御触媒
(13)ナノポア系材料
(14)超分子制御
(15)ナノチューブ・フラーレン
(16)クラスター・ナノ粒子
(17)ナノコンポジット構造材料
(18)ナノ組織制御・機能材料
(19)ナノ制御高機能表面界面材料
(20)有機・無機融合ナノ構造体構築
(21)ナノスピンエレクトロニクス
(22)ナノ造形
(23)プログラム自己組織化
(24)ナノ新計測
(25)ナノシミュレーション

(注)なお、これらの課題については、「実用化・産業化の目標を強く意識した観点から抽出したもの」、「研究対象とする物質に注目したもの」、「研究対象とする技術に注目したもの」及び「研究対象とする機能に注目したもの」があり、各課題の具体的な研究要素については重複するものも存在する。しかし、10〜20年後の実用化・産業化を展望した研究課題の抽出にあたっては、10〜20年後の目標を多角的にとらえてゆくべきであるとの観点から、本課題の抽出にあたり、研究要素の重複は排除すべきではないとの方針に基づいている。
   また、(21)〜(25)は、共通基盤技術であるが、10〜20年後の実用化・産業化を展望した挑戦的研究としても位置づけられるものである。

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1.分野名   (1)次世代通信用ナノデバイス
2.検討チーム
検討担当委員: 北澤   宏一    東京大学新領域創成科学研究科教授
  榊   裕之    東京大学先端科学技術研究センター教授
意見聴取者   : 長我部   信行    日立製作所基礎研究所長
  和田   恭雄    日立製作所基礎研究所
       ナノテクノロジー研究プログラム主任研究員
  小川   正毅    NECラボラトリーズ研究企画部長
  田原   修一    NECラボラトリーズ
       シリコンシステム研究所部長
  横山   直樹    富士通研究所
       ナノテクノロジー研究センター長
  今井   元    富士通研究所基盤技術研究所長代理
  森田   雅夫    NTT物性科学基礎研究所企画部長
  平山   祥郎    NTT   量子物性研究部
       主幹研究員、グループリーダー
  豊田   信行    東芝研究開発センター副所長
  江刺   正喜    東北大学未来科学技術共同研究センター教授
  舛本   泰章    筑波大学物理系教授

3.当該分野の概要
(1)情報伝達の超高速・広帯域化と超省電力性に向けた新規デバイスの材料・構造作製、デバイス物理を展開するとともに、量子暗号などで情報伝達の安全性を確保するための可能性を追求する。
(2)情報通信の需要はビジネス間のいわゆるBtoBからビジネス-消費者間のBtoC、CtoCへそして、個人間のPtoPに進むにつれて爆発的に増大しようとしている。情報が行き交う量、いわゆる通信の総量(情報トラフィック)は現在半年で2倍という凄まじい増大を示しており、これこそが情報革命が現実に起こっていることを如実に示す指標と考えられるものである。情報化社会の基本は、コンピューターの発展とそれら相互を結ぶ通信技術の発展によって支えられる。今後の通信技術の発展の基本は大容量化・高速化・無線化・ソフトウェア化などによって支えられる。このためには、それを担うデバイスの高速化・大容量化が同時に達成されねばならない。一方、通信技術の高度化に伴って、通信に必要な電力の増大が社会問題として顕在化し始めており、超省電力化がさらにこれに伴う必要がある。本プロジェクトは、民間企業−通産省などの共同で推進される通信技術の研究開発とは相補的に、その先を見越して、新たなデバイスの実証とその実現を志向するものである。

4、概要説明
(1)現状
   ソフトウェア無線などの新規通信方式への転換につれて、通信システムの急速な高速・大容量化が今後とも予想されている。これに対し、半導体の集積化・高機能化はムーアの予測に従い3年で4倍のペースで進んでおり、2005年には素子の最小寸法が100nmを切り、ナノデバイス時代に突入する。さらにPtoPの時代における通信需要を満たし、新しい価値観を創造するネットワーク社会を実現するためには、ナノオーダのデバイスの量産化に成功する必要がある。しかしながら、現状のデバイス技術は、まだ「ナノ」以前の量産加工技術の課題を残す段階にあるといわざるを得ない。このため、現在の延長技術としての研究開発は必須であり、これは民間企業と経産省のプロジェクトによってなされる。
   しかしながら、現在のデバイスの延長上においては、高速化限界、情報のセキュリティ確保など諸課題が顕在化するとともに、通信の電力消費が問題となりつつあり、高速化と省電力といった相反する課題に抜本的解決を得ることは難しい。このような諸問題に対処するための、新たな素子や方式に対する提案や実証がかなり散見されるようになった。また、その中には我が国が提案する新規デバイスなども多数含まれている。
   一方、通信技術の進展に連れて顕在化した大きな課題は情報のセキュリティ確保に関するものである。これに抜本的解決を与えるものとして量子暗号による通信が提案された。しかしながら、それを担うデバイスなどのハード面はまだ今後の実証を待たねばならない状況である。

(2)将来目標
   現在の半導体デバイスの延長においても、今後とも、上記課題を解決する方向での努力が継続される必要があり、主として民間企業によってなされるが、このような連続的な努力に併行して、超高速性、超省電力性の観点から、現行の速度や消費電力性能を2桁以上凌駕する革新的な機能を持つ非従来型新規デバイスを実証し(5〜10年後目標)、その集積回路実現のための材料的課題、デバイス作製技術の課題を追求し、デバイス作動の物理を確立する(10〜15年後目標)。また、量子的情報制御の実用技術としての可能性を探るために、単一光子発生・検出素子の作製とその原理作動を含めて、量子的情報制御素子に関する新たな試みを推進する(10〜15年後目標)。

5.研究の概要:
(1)テラヘルツ・ナノ構造FET、HBT素子素材技術
(2)超省電力単一電子素子素材技術
(3)超高速・超省電力単一量子磁束集積回路技術
(4)超高速・超多重光通信用素子素材技術
(5)超高速通信用実装技術
(6)新規通信用ナノ構造素子素材(ナノメカニクスを含む)
(7)量子暗号通信およびテレポーテーション用素子・伝送技術の実証
      (単一光子発生・検出素子、量子ドット素子、超伝導コヒーレンス素子など)
   上記(1)から(6)のデバイスは全体として競合的に開発され、動作速度、省電力性、回路集積度等の総合評価によって徐々に優劣、あるいは棲み分けが決まるであろう。(3)は既に現在の半導体デバイスに比較して速度、省電力性ともに現状性能を2桁以上凌駕することが実証されたが、集積度において非常に遅れている。したがって、集積度向上に向けた挑戦的な試みが重要である。(6)は更にその他の新たな可能性追求のための研究を支援する。

6.留意事項
   次の世代を担うべき通信用新デバイスが何になるかは、現時点ではっきりと予想できる状況にない。また、それらはいずれ優劣がついていくのか、それとも、相補的に用いられるのかについても、明らかではなく、非常にリスキーな課題であるため、民間企業では挑戦的取組みが難しい課題でもある。
   しかしながら、それら素子の特色は、集積度を上げた回路として始めて明らかになる場合も多く、その意味で早期から産学官の情報流通と連繋が緊密に取られつつ、研究が推進されることが望ましい。また、人材的にも回路のアーキテクチャまでを含めた統合的な人材の確保や育成も重要な課題である。

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1.分野名   (2)超集積システム・素子・素材技術の研究
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 榊      裕之    東京大学生産技術研究所教授
  江刺   正喜    東北大学未来科学技術共同研究センター教授
意見聴取者: 長我部   信之    日立製作所基礎研究所長
  和田   恭雄    日立製作所基礎研究所主任研究員
  小川   正毅    NEC  ラボラトリーズ研究企画部長
  田原   修一    NEC  ラボラトリーズSiSystem研究所部長
  横山   直樹    富士通研究所
       ナノテクノロジー研究センター長
  森田   雅夫    NTT物性科学基礎研究所企画部長
  平山   祥郎    NTT物性科学基礎研究所主幹研究員
  豊田   信行    東芝研究開発センター副所長
  北澤   宏一    東京大学新領域創成科学研究科教授
  舛本   泰章    筑波大学物理学系教授

3.当該分野の概要
(1)専門的な概要
   情報処理の基幹技術である集積回路システムや素子では、微細化が進み、その寸法が10nm領域に突入したため、種々の限界に面しつつある。本研究では、こうした極微素子システムの物理的な限界を打破するために、革新的なナノ素材やプロセスを開発するとともに、新構造素子での物理機構の解明と制御により、更なる進展を確保する。また、生体との親和性の高い新超集積システム技術を開発し、体内での医療計測や視覚障害克服などのための新しい適用領域の開拓を目指す。

(2)一般向け概要
   LSIなど集積回路システムは、主としてトランジスタや配線の微細化により高性能化を実現してきた。その最小寸法は10nm領域に近づきこれ以上の進展はデバイスの動作面でも、製造技術面でも大きな壁に面しつつある。このような限界を打破するには、極微な構造のデバイスの物理的な解明と制御法を開拓するとともに、ナノスケールの新規素材を活用した革新的なプロセス技術の開発が不可欠である。本研究では、まずこのような微細化に伴う限界の打破の研究を進める。さらに、体内での医療計測や視覚障害克服技術のために、生体との親和性の高い新しい集積システムの開拓も目指す。

4.現状および実用化・産業化の具体的目標とその達成予定時期
   LSIなど集積システム技術は、最小寸法が100nm以下の領域に突入し、50nmや20nm級の素子の試作も進みつつある。こうした領域では、素子の動作や、製造技術上の物理的な限界が次々と登場するとともに、製造のためのコストの上昇によって今後の発展は困難となる見通しである。この困難を回避するには、2つの知恵ある取組みが重要となる。そのひとつは、(A)革新的なナノ素材やナノプロセス技術の開発によって、10ナノメートル級の素子実現の技術的課題を解決することである。特に(A-1)極短かつ極薄状あるいは極細線状の伝導チャネルを持つ素子の形成技術や(A-2)ナノ構造を制御した新規誘電体や配線用金属材料の開発や(A-3)効率のよい革新的なナノリソグラフィー技術の開発が不可欠である。これらについては、恒常的に改善が進むため、5年〜20年にかけて継続的な成果が期待される。
   もうひとつは(B)10nm級の各種の極微構造素子の考案と実現ならびに動作物理の解明と性能改善の研究である。特に、自己形成の量子ドットや量子細線やナノチューブを取り込んだスイッチ素子の研究開発が重要となる。この領域での研究の見通しは難易度によって異なる。早いものでは約7年後から実用的な構造として利用されることとなろう。多くのテーマでは10年後には可能性と課題の双方に関し見通しがかなり明らかになり、15〜20年後には実用化の目途が立つものと思われる。
   さらに、生体親和性の高い集積システム技術による医療計測応用や視覚障害の克服応用技術への展開については、約10年後から許容度の高い応用分野から段階的に結実するものと思われる。

5.研究の概要
   本研究分野は、以下に記す3つのサブ領域(A、B、C)から構成する。

   A領域では、10ナノメートル級超微細システムやデバイスの実現の鍵となる革新的なナノ素材とナノプロセス技術の開発に関する研究を進める。特に
A1.微細トランジスタ用極薄伝導チャネル
   (超薄SOIやナノチューブなど新構造と新素材)
A2.超集積システム用の新規の誘電体およびナノ配線・電極技術
   (ナノポア誘電体やナノ粒子・ナノチューブ)
A3.超集積システム用ナノリソグラフィー・ナノプロセス技術
などを研究する。

   第2の領域Bにおいては、超集積システムに適した10mn級の各種極微素子の探索的研究を進め、動作機構の解明と設計制御法の開発を図る。特に
B1.極短(10nm以下)・極薄(2nm以下)チャネルを持つFET素子の研究
B2.量子細線やナノチューブをチャネルとするFETや単電子トランジスタの制御性向上と高性能化の研究
B3.5nm以下の量子ドットなどを取り込んだ新構造素子の探索研究
などを進める。

   C領域では、オフィス機器から携帯機器へと拡がった集積回路システムの適用範囲を体内までさらに拡大するための技術開発を目指す。特に
C1.体内での種々の医療計測を可能とする生体親和性と安全性の高いシステムの探索を行なう。また、
C2.視覚障害克服のための人工網膜と視神経などとの情報の授受に関する基礎的研究
などを進める。

6.留意事項
   集積回路システム・素子技術は、その要素技術の多様さや社会への影響の大きさから見ても、例外的に巨大な技術である。これに対しては、各企業における短期的な投資戦略、中期的な開発戦略のみでは十分な対応ができない。特にナノメートル領域での物理限界への対応や新領域の応用展開では、総合的・基礎的・長期的な取組みが不可欠である。この状況に対して、経済産業省を中心として「あすか」プロジェクトや「みらい」プロジェクトが進みつつある。しかし、いずれも現時点で最有望と思われる技術を選択し、集中的に取組む方式の開発プロジェクトとなっている。文部科学省の研究プロジェクトは、こうしたプロジェクトとは異なり、学術性に重点を置き、産業界のプロジェクトとは相補的な役割を果たす思想で計画されている。特に、ナノ素材やナノ素子に関して学術的に深い研究を推進するとともに、リスクの高い革新的手法にも果敢に取り組む。また、当初は大きな市場の期待できない生体親和性の高い集積システムの開発を目指すなど、産業界とは相補的な役割を果たすことを徹底する。

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1.分野名   (3)単一分子素子と集積
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 川合   知二    大阪大学産業科学研究所教授
  玉尾   皓平    京都大学化学研究所長
意見聴取者   : 松重   和美    京都大学国際融合創造センター長
  和田   恭雄    日立製作所(株)基礎研究所主席研究員

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   革新機能を有する単一分子とその超高密度集積からなる新デバイス開発を目指す。優れた導電性、スイッチングやメモリ機能を有する分子の合成、および、プログラムされた自己組織化によるこれら分子の高集積化法を開発し、多様なデバイス機能を有する超高集積分子素子を構築する。新しい情報処理システムとしての分子デバイス・システムの礎を築く。

(2)一般向け概要説明
   現在のトランジスタ高集積化を可能とした「微細化(トップダウン)」手法は、加工技術の限界、量子効果の顕在化等の技術的問題に加えて、経済的な負担も大きく、次世代を担う革新的ナノテクノロジーの創成が大きく期待されている。「微細化」とは異なるデバイス作成手法が必須である。その有力候補が、多様な機能・情報を有する"分子"という素材であり、また、自己組織化を含むボトムアップの手法である。分子には意図した機能が付加でき、分子1個で回路としての機能を発現できる可能性がある。これら分子を設計図にしたがって回路として集積する手法を開発することが大きな目標となっており,ボトムアップの手法により単一分子の超高集積化を目指す

4. 現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目的達成時期の目途
(1)現状
   有機分子のエレクトロニクス応用は、光伝導性や有機発光素子などで実用化され始めている。しかし、これらは薄膜としての応用であり、1分子固有の特性を直接利用するという段階にはなっていない。"単一分子素子と集積"分野では、現在、様々な機能分子の設計・合成およびそれらの組織化の研究が行われ、機能計測もSTM 等により行われ始めているが、真に優れた導電性、特異なスイッチングやメモリ機能を有する単一分子の合成および分子系デバイスとしての高度集積化法は未開拓である。特に,機能分子を望むように集積して回路を形成する手法の科学と技術が今後のキーテクノロジーである。

(2)実用化・産業化の具体的目標、並びに目的達成時期の目途
超小型、超軽量なナノスケール分子集積プロセッサーの開発
   ナノリソグラフィーにより作製された電極群に高度に集積化した単一分子、又は少数分子群において、論理演算を可能とした分子ロジック回路、更には分子CPUを開発する。現在のSi デバイスに比較して回路密度が10,000倍以上の分子デバイス、プロセッサーの開発。そのプロットタイプ開発の目標達成時期は15〜20年、実用化に更に5〜10年を目安とする。

超高密度分子メモリの開発
   単機能としてのメモリ分野の実用化は早期に実現可能と思われる。単一分子において、分子分極、コンフォメーション、スピンなどを情報記憶単位として用い、その高度集積化により超高密度な記憶素子を創成する。現在のコンパクトディスクに比較して約10,000倍以上の密度・容量を有する記憶メディア創成を目指す。目的達成時期は8〜13年、実用化に更に5〜10年を目安とする。目標達成により超小型、超軽量の記憶素子が可能となり、現在の携帯電話の記憶素子部に国立図書館分の情報が記憶され、情報交換可能となる。

極薄、軽量、フレキシブルな単一分子ディスプレイ
   単一分子にてホール/電子注入、発光を可能とする分子を集積化することによる超高効率・極薄ディスプレイの開発。現行の多層膜ELディスプレイを改良し、かつ有機TFTとの組み合わせにより超軽量フレキシブルディスプレイ創成を試みる。移動情報端末等への民生品応用が考えられ、その目標達成時期は10〜15年。

単一分子センシング素子
   視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚などを付与した超小型、超軽量ナノセンサーの研究開発。単一分子及びその効率的な集積化によりヒューマンインターフェースとして、また生体適合性に富む分子センシング素子の開発。目標達成時期は10〜15年、実用化に更に5〜10年を目安とし、電気・情報・医療分野への応用が期待される。

5. 研究の概要
   単一分子素子実現には、導電性、半導体性,絶縁性、およびスイッチングやメモリ機能などを有し、かつナノリソグラフィーに適合したサイズ/形状を有した新規分子の合成、それら個々分子の機能を論理的に組み合わせ、目的とするデバイス機能発現を可能とする高度なナノレベルでの集積化技術、観測による特性変化の影響を最小限度に抑えつつ、単一分子や集積化した分子集合体の機能、形状を高感度計測するナノスケール分子評価・制御技術、の三つが相伴って発展していくことが必要となる。
   本研究では、次のような項目を具体的課題として設定し、研究を展開する。
(1)特徴的な電子伝導、蓄積、記憶、光応答などの機能を有する多機能超分子の設計と合成
(2)分子と親和性を有する微細加工法および機能分子群のプログラム自己組 織化による集積回路形成技術の開発
(3)単一分子の状態制御、およびその電子・光機能計測を可能とするナノ計測・制御技術の開発
(4)単一・少数分子系の電極を含む電子状態・伝導の理論的解析・シミュレーション、電子波干渉、強相関、協同運動などの新規な物理現象の解明
(5)電界・コンフォメーション・光等による伝導スイッチング素子、共鳴トンネル電子デバイス等の新規分子電子デバイスの開発
(6)室温動作単一分子トランジスタ、分子ロジック回路および分子集積CPUの製作
(7)将来の分子コンピューター構築に関するアーキテクチャーの検討

6.取り組みにあたっての留意事項
   本分野は化学・物理・電子工学・ナノ工学分野の研究者がその専門性の融合により、また産官学の協同によりその進展が始めて可能となる分野である。次世代の革新デバイス・新コンピューター創成に対する社会的要請も強く、実際本研究の内容は次世代の産業創成へ寄与するところも大きく、またその実現性も高い。この分野への取り組みが世界各地で開始されている状況もあり、早急にしかも強力に本分野の研究推進を計るべきである。

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1.分野名   (4)テラビット級ナノメモリの原理・素材・方式
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 江刺   正喜    東北大学未来科学技術共同研究センター教授
  榊   裕之    東京大学   生産技術研究所教授
意見聴取者 : 田原   修一    NECシリコンシステム研究所研究部長
  有本   由弘    富士通研究所シリコンテクノロジー研究所主席研究員
  鈴木   孝雄    豊田工業大学大学院研究科教授

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   現在使われているLSIメモリ、磁気ディスク、光ディスクは急速な進歩を続けているが、その性能限界の壁を打ち破るとともに、強誘電体メモリなどの次世代メモリ、また特に極限的なマルチナノプローブメモリや光閉じ込めメモリのような将来方式のメモリデバイス・システムに向け、ナノメモリの原理・素材・方式に関する基礎的研究を行なう。

(2)一般向け概要説明
   高度情報化社会を進めるには、ネットワーク技術やプロセッサ技術の進歩と共にデータストレージ(メモリ)技術の進歩が不可欠と言える。LSIメモリも磁気ディスクも記憶密度が10年で100倍程の割合で進歩してきた。現在の記憶密度は109bit(1Gbit)/cm2程であるが、これは300nm角(0.3μm角)の面積に1bitの情報が記憶されていることに相当する。これを現在の1000倍程の記憶密度、すなわち1012bit(1Tbit)/cm2程にすることが目標である。これは10nm角すなわち原子が10個程度並んでいる所に1bitの情報を記憶させることに相当する。走査型トンネル顕微鏡(STM)などのプローブ技術を用いて原子1個を取ったり付けたりすることも可能になっており、原子レベルの高密度メモリも実現できるが、書込み読出し速度など実用的面では多くの問題が残されている。図の例は多数のプローブで並列に書き込み・読出しを行なうことで高密度・高速化した次世代用マルチナノプローブデータストレージの試作品と、それを用いてDVDRAMに使われる相変化記録媒体に記録した例である。

先端30nmのナノヒータプローブを配列した次世代マルチナノプローブデータストレージ   マルチナノプローブデータデータストレージで相変化記録媒体(GeAsTe)に記録した例
先端30nmのナノヒータプローブを
配列した次世代マルチナノプローブ
データストレージ
  マルチナノプローブデータ
データストレージで相変化
記録媒体(GeAsTe)に記録した例

   このようなナノメモリ技術を基礎から研究し、超高記録密度や高速性、電源を切っても記憶し続ける不揮発性や超低消費電力のような性能を持つ、将来の携帯情報端末などに期待される次世代メモリへの道を開拓する。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
   動画像の蓄積をはじめ、画像や音声の認識、外国語翻訳など情報処理技術を飛躍的に進展させるため、次世代のメモリ技術を開発する必要がある。磁気ディスクにおける記録密度は図のように急速に進歩してきたが、超常磁性効果(情報記録の単位であるビットを形成する原子の磁気スピンのエネルギーが熱エネルギーと同程度になるために記録情報に誤りが生じる現象)による記録密度の限界に近づいている。これを越えるためには、10ナノメートル領域の記憶の基礎物理(多体効果、安定性や揺らぎなど)、10ナノメートル領域記録媒体の素材や物質の科学、記憶と演算の結合による高機能化など総合的な学問研究が必要である。

磁気ディスクでの記録密度の進歩
磁気ディスクでの記録密度の進歩

5.研究の概要
   メモリにはLSIメモリ素子の延長上で、電子レベルの究極の高密度メモリ素子である量子ドット・単電子メモリ素子、集積回路のチップ上で強誘電体材料や磁性体材料を用いる高性能不揮発性メモリデバイスであるFeRAMやMRAMなどの次世代メモリ素子が研究対象になる。また磁気ディスクのような記録媒体に記録するデータストレージの延長上で、原子・分子レベル高密度メモリとしてのナノプローブデータストレージ、さらには光閉じ込めによる新しいメモリなどが考えられる。このようなデータストレージでは、磁気、光、熱、電界などのいろいろな記録・読出し方式、ヘッドやその精密制御、ナノ構造を持つ記録媒体などの課題があるが、この研究では特にナノメートル領域での磁化特性や磁化反転メカニズム、および信頼性向上のための新規記録材料探索など、記録限界に着目して研究する。

6.取り組みにあたっての留意事項
   ナノメートル領域での現象の発見や解明が新しいメモリに応用できる点で基礎研究が直接的に実用に役立つ。経済産業省などでの実用レベルでのプロジェクトと、文部科学省での基礎研究が相補的に進められることが望ましい。

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1.分野名   (5)新原理・量子デバイスの探索的研究
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 榊   裕之    東京大学生産技術研究所教授
  舛本   泰章    筑波大学物理学系教授
意見聴取者: 長我部   信之    日立製作所基礎研究所長
  和田   恭雄    日立製作所基礎研究所主任研究員
  小川   正毅    NEC  ラボラトリーズ研究企画部長
  田原   修一    NEC  ラボラトリーズSiSystem研究所部長
  横山   直樹    富士通研究所
       ナノテクノロジー研究センター長
  森田  雅夫    NTT物性科学基礎研究所企画部長
  平山   祥郎    NTT物性科学基礎研究所主幹研究員
  豊田   信行    東芝研究開発センター副所長
  北澤   宏一    東京大学新領域創成科学研究科教授
  江刺   正喜    東北大学未来科学技術共同研究センター教授

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   ナノスケールの物質や構造で発現する種々の量子力学的な効果を制御・活用し、量子的な情報処理や伝達機能および超高感度の計測機能など、従来の手法では実現の困難な機能を持つ素子の原理の探求と実現法の開発を目指す。

(2)一般向け概要説明
   ナノスケールの物質や構造の中で起きる種々の量子的な効果や新現象を活用すると、高い安全性と優れた情報処理能力を持つ量子的情報処理や量子通信技術に不可欠な素子を生み出せる可能性がある。さらに、こうした現象を制御すれば、超高感度で磁場や電場などを計測する技術が誕生する可能性もある。本研究分野では、こうした可能性を明らかにするために、その動作原理の探索解明と技術的課題の解決策を探り、新しい素子群の実現を目指す。

4.現状および実用化・産業化の具体的目標とその達成予定時期
   ナノ構造における量子効果の研究は、これまでは10nm級の半導体超薄膜構造を中心舞台として大きく発展し、各種の素子利用の道が開かれてきた。最近では、各種の量子ドットや細線やナノチューブ構造のような構造や、磁性元素を含む新素材などにも、探索の対象が拡大しつつある。これらの新ナノ構造や新ナノ素材では、より多くの現象と機能が現れて来つつある。本研究では、次項に述べる種々の現象や構造を調べて、量子的な情報処理や伝達技術の可能性を開くとともに、超高感度なセンシング技術の開発を目指す。
   達成の予定は、10年後の時点で実現の期待できそうなもの(例えば、一部のスピン制御素子や細線応用素子)から、10年余り技術上のブレークスルーを試行錯誤的に探索すべきものまで、様々である。

5.研究の概要
   ナノ構造中の量子現象は極めて多岐にわたるが、具体的には以下の諸構造や諸現象を中心に探索的な研究を進める。

(1)量子ドット系を含め各種の固体Qビット素子の可能性を探る
(2)超伝導系の新量子磁束素子の可能性を探る
(3)相関電子素子・相関光子素子で量子もつれ状態などを探る
(4)スピン制御用の各種の新構造素子を研究する
      (新素材・新構造TMR,GMR, TMR素子、電気的光学的スピン制御素子)
(5)量子細線・ナノチューブ系の構造で新原理素子を探索する
(6)ナノメカニクス構造や超分子など他の新原理素子の可能性も探る

6.留意事項
   まず、スピンエレクトロニクス素子、量子情報通信素子、高感度センサー素子などの研究分野との、補完性や相補性を確保する必要がある。
   量子計測・通信システム・ナノ物性計測やナノ素子形成技術などの異分野の専門家が、有機的な協力体制を作る必要がある。

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1.分野名   (6)次世代フォトニクスの基礎
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 舛本   泰章    筑波大学物理学系教授
  榊      裕之    東京大学生産技術研究所教授
意見聴取者   : 横山   直樹    富士通ナノテクノロジー研究センター長
  長我部   信行    日立製作所基礎研究所長
  平山   祥郎    NTT物性科学基礎研究所グループリーダー

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   光技術―フォトニクスの将来は
超大容量通信ネットワークの基幹技術として
各種の画像情報の取得手段として
各種の画像情報の表示手段として
空間・時間・エネルギー分解能を持つ分光計測技術として
照明・加熱・殺菌・ピンセット・造形など多様な光ビーム応用技術として多様な展開が期待される。
   広い波長領域をカバーする光をこれらの多様な分野で格段に有効利用するため次世代フォトニクスの基盤を作る。具体的には、通信、情報処理や分光計測技術の質を格段に向上させるため光発生、光変調、光スイッチ、光増幅、光検出、光メモリ、表示などの高性能化を可能にさせる新しいナノ構造フォトニクスの基礎研究や材料の開発、また光ビーム応用技術の開発を行い、次世代光技術の基礎を作る。

(2)一般向け概要説明
   人間は情報の大部分(70%以上)を眼、すなわち光を通じて得ている。このフレーズは、情報の取得と光との密接な関係を端的に示しているが、現代・未来の情報通信のブロードバンド化により、人間の生活における超高速光通信の重要性がますます増してくる。大容量・超高速インターネットの実現により、なめらかな動画の送受信が可能なテレビ電話、高品質の映画や音楽のオンデマンド配信、さらにこれらの超高速通信を利用した在宅総合教育、在宅医療、介護が実現するなどライフスタイルまで変化してくると思われる。
   これらの情報通信のブロードバンド化に必要な基盤技術は大容量・超高速の光通信の技術であり、これに必要な光発生、光変調、光スイッチ、光増幅、光検出、光メモリ、表示などへの新しいナノ構造フォトニクスの基礎研究や材料の開発を行い、次世代光技術の基礎を作る。
   光技術―フォトニクスの革新は、科学の発展を促す分光計測技術の進歩となり科学上の新しい発見や技術上の革新に繋がる可能性があり、波及効果が大きい。また、光のビームとしての応用技術の進歩にも、科学上の進歩だけでなく工学・医学・産業上の新たな利用技術の革新に繋がり新しい産業の芽となる可能性がある。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
   フォトニクス材料の研究は光発生、光変調、光スイッチ、光増幅、光検出、光メモリ、表示など、現在まで様々な分野で進められており、今日の情報通信の基盤技術となっている。今後、情報通信の分野ではブロードバンド化に拍車がかかり、新しいナノ構造フォトニクス材料の開発による格段の高性能化が必須・急務の課題である。分光計測技術や光ビームの応用技術の進歩は常に新しい科学の芽・産業の芽となる可能性がある。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
ナノ構造フォトニクス材料の基礎研究
   新しいナノ構造フォトニクス材料の基礎研究は、光発生、光変調、光スイッチ、光増幅、光検出、光メモリ、表示などの質を格段に向上させるため、現在も活発に行われている。低消費電流高効率の量子ドットレーザーは量子井戸レーザーを凌駕するレベルに達しており着実な進歩が期待できるが、実用化には更に5〜10年を要する。10〜20年後の実用化・産業化をめざした挑戦的基礎研究としてはサブバンド間遷移を利用したテラヘルツの周波数で応答する光変調や光スイッチ、様々な波長領域で動作する超高感度検出器、光非線形素子、光多重メモリや輝尽性光メモリ、面発光素子を視野にいれたナノ構造フォトニクス材料や原理的研究が対象となる。

テラヘルツ電磁波の発生と検出の研究
   テラヘルツ電磁波の発生器、検出器の探索や構造の最適化の研究により、テラヘルツ帯電磁波の送受信が可能になる可能性があるのは10〜15年後、実用化には更に5年から10年が必要であろう。

フォトニック結晶による光波の制御
   3次元光導波路は5年から10年で実用化され、光波の3次元閉じ込め構造によるレーザーや光非線形素子の実用化には10〜15年が必要である。

環境にやさしい高輝度ナノ発光材料の研究
   InGaN、ZnO、シリサイドなどの環境にやさしい高輝度ナノ発光材料の開発研究はすでに一部が実用化レベル、他に材料を探索中という状況である。目標達成時期は10〜15年、実用化に更に5年から10年を目安とする。

5.研究の概要
   ここでは考えられる研究内容を例示する
(1)ナノ構造フォトニクス材料の基礎研究
   光発生、光変調、光スイッチ、光増幅、光検出、光メモリ、表示などの質を格段に向上させるため、新しいナノ構造フォトニクス材料の基礎研究の開発を行い、次世代光技術の基礎を作る。低消費電流高効率の量子ドットレーザー、サブバンド間遷移を利用したテラヘルツの周波数で応答する光変調や光スイッチ、様々な波長領域で動作する超高感度検出器、光非線形素子、光多重メモリや輝尽性光メモリ、面発光素子を視野にいれたナノ構造フォトニクス材料や原理的研究が研究の対象となる。

(2)テラヘルツ電磁波の発生と検出の研究
   テラヘルツ電磁波とはサブテラヘルツから数テラヘルツの周波数の電磁波を指す。この周波数領域の電磁波は弱い発生器、感度の低い検出器しかない光と電波の間の暗黒領域であった。しかし、最近の研究により、半導体、超伝導体、酸化物等をフェムト秒レーザーで励起しピコ秒オーダーの過渡電流を流すことで高効率のテラヘルツ電磁波が発生できることが明らかになり、また同時にテラヘルツ電磁波を微少ギャップ電極から構成されるアンテナで過渡電流として受信することで検出できることが明らかになった。今後、発生器、検出器の探索や構造の最適化の研究により、テラヘルツ帯電磁波の送受信が可能になれば、電波よりもはるかに高速の通信や天文学や物質科学などの基礎科学への応用が期待できる。

(3)フォトニック結晶による光波の制御
   波長程度の周期をもつ屈折率の変調構造により、光波を反射したり、曲げたり、閉じ込めたりすることができる。この技術の利用により直角に曲げる3次元光導波路や光波の3次元閉じ込め構造を作成することができる。光波を狭い空間に閉じ込めることが活性媒体中にできることから、レーザーや光非線形素子で格段に性能を上げることができ、近い将来から実用になる可能性が高い。

(4)環境にやさしい高輝度ナノ発光材料の研究
   InGaN、ZnO、シリサイドなどの環境にやさしい高輝度ナノ発光材料の開発研究は重要であり、推進すべき課題である。

6.取り組みにあたっての留意事項
   本分野は物理・応用物理・電子工学・物質科学の専門家が連携を取り研究開発を行う必要がある。フォトニクスあるいは光エレクトロニクス分野の連携研究を強力に推進すべきである。

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