1.分野名 (17)ナノコンポジット構造材料
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 岸  輝雄 物質・材料研究機構理事長
井上 明久 東北大学金属材料研究所長
早稲田嘉夫 東北大学多元物質科学研究所所長
意見聴取者   : 梶山 千里 九州大学大学院工学研究院工学研究院長
正木 彰樹 石川島播磨重工業株式会社航空宇宙事業本部
技術開発センター材料技術部長

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 母相中へ配置する繊維や粒子、それに伴い生じる界面をナノから原子レベルで制御し、複合化する技術を確立するとともに、強度・寿命・靱性・耐熱特性等の機械的特性を飛躍的に向上させた構造材料開発を行う。

(2)一般向け概要説明
 数種の材料を複合(コンポジット)化して、その組織や材料間の界面をナノレベルで制御することで、各々の材料単体では現れない革新的な特性を持つ材料を開発し、建築物や自動車等構造物に用いられる材料(構造材料)に応用する。例えば、熱効率70%(現状ではせいぜい50〜55%)を可能とする超高効率ガスタービン用材料や片手でも持ち上がる自動車ボディー材の開発を目指す。
 構造材料として最も多く使われているのは、ねばり強く、割れない、信頼性の高い金属材料である。他方セラミックスは、優れた耐熱性、耐食性、超硬度など魅力ある特性が多々あるが、一般にもろく、信頼性に乏しい。しかしながら金属とセラミックスの複合化によって、両者の「いいとこ取り」をした新規材料開発が期待できる。また、金属・セラミックに加え、高分子や有機物を含めたさまざまな材料の複合化による新構造材料開発への期待も大きい。具体的にはナノパウダー(ナノフィラー)複合体、ナノ制御傾斜機能材、ナノ粒界制御複合材、分子複合材(モレキュラーコンポジット)等の設計開発が挙げられる。ナノコンポジット構造材料は、今後、航空・宇宙、環境・エネルギー、医療・生体等、様々な分野への応用が期待され、材料開発の社会的意義は極めて大きい。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
 複合材の研究はMMC(金属系コンポジット材料)、CMC(セラミック系コンポジット材料)PMC(高分子系コンポジット材料)等、現在まで様々な分野で進められており、テニスラケット、自転車のフレーム等、特にスポーツ用材料としての実用例が多い。他方、大型構造部材として例えば火力発電ガスタービン用W強化型Ni基複合耐熱合金を例に取ると、製造コスト、製造時や使用時の内部反応による特性劣化の問題等が解決できないのが現状である。ナノ複合化技術革新による高性能化、高コストパフォーマンス化が急務の課題である。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
革新的な耐熱特性を持つ高温コンポジット構造材料開発
 セラミック系コンポジット材では1500℃の温度領域(現状では1350℃程度)において利用可能で、クリープ寿命が従来セラミック焼結材と比べて3桁以上長い材料の開発。金属系コンポジット材では現状より100℃から200℃以上高温の、1200℃レベルで使用可能な材料開発。その他現状と比して50〜100℃以上の高温にて使用可能で、比強度が1.5〜2倍のコンポジット材料開発。目標達成時期は10〜15年、実用化に更に5年から10年を目安とする。
 目標達成により超高効率タービン発電システム、超高燃費自動車等の創製など、省エネルギー・環境保持への貢献は計り知れない。例えば、ガスタービンの運転効率を1%改善すると、1兆円に匹敵する経済効果があるという試算があるが、1200℃級材料の実用化により20%以上の効率向上が期待できる。

革新的な機能特性を持つナノコンポジット構造材料開発
 金属に匹敵する高靱性、高快削性、超塑性変形性を付与した構造用セラミック材料の研究開発。ナノコンポジット組織を用いて水素環境で強度が維持できる革新的鉄系高強度材料の創製、強磁場利用システムで求められる強度2000MPa以上と伸び5%以上を有する非磁性新合金の創製、高強度、耐熱性に優れたAlならびにMg系軽金属材料の創製等。目標達成時期は10〜15年、実用化に更に5年から10年を目安とする。
 目標達成により、燃料電池発電プラント用材料開発、超軽量輸送機システム(省エネルギー)等、省エネルギー・環境保持に多大なる貢献があるものと期待できる。

その他超高比強度ナノコンポジット材料
 高強度・高靱性化・高信頼性を付与した生体適合ナノコンポジット材料の研究開発。金属・セラミックス・高分子材料の複合化。分子レベルで強化分子を複合化させた分子複合材料(モレキュラーコンポジット)。カーボンナノチューブ強化型プラスチック等新素材を用いたコンポジット材料開発等。10年〜20年後の実用化を目標。

5.研究の概要
 ここでは考えられる研究内容を例示する
(1)ナノ制御界面を持つ耐熱金属系コンポジット材料開発
 金属母相(Ni,Ti基超合金等)中にセラミックス繊維(SiC等)を適切に配置して得られる耐熱コンポジット材料において、製造時や使用時の内部反応、特に界面反応による劣化の問題を解決し、実用化可能なコンポジット構造材料、具体的には1200℃レベルで使用可能な材料を開発する。例えばセラミック繊維表面にナノスケールのコーティングを施しさらにその上に金属母相をコーティングすることで、繊維1本ずつが既にコンポジットであるいわゆる「モノコンポジット」を作製し、それを配列してバルク材を作製する技術を開発する。

(2)構造をナノレベルで制御したセラミック系コンポジット材料の研究開発
 セラミックス系材料の結晶粒内や粒界に積極的にナノサイズの第2相粒子や欠陥などを導入することで、その構造や組織をナノから原子レベルまで制御して材料の破壊強度や靱性の向上や、長寿命化を目指したナノコンポジットの研究開発を行う。例えば、結晶粒内や粒界に第2相粒子あるいは欠陥を導入し、粒界でのき裂の進展を抑制することで、高靱性材料を開発する。

(3)非平衡合金微粉末の固化成形によるナノ高強度材料の創製
 メカニカルミリングやガスアトマイズ法などで高度に非平衡状態にある微粉末を作製し、それを固化成形し、ナノ結晶粒、第2相ナノ粒子が分散したナノコンポジット組織を造り出すことで、水素環境で強度が維持できる革新的鉄系高強度材料の創製、強磁場利用システムで求められる強度2000MPa以上と伸び5%以上を有する非磁性新合金の創製、高強度、耐熱性に優れたAlならびにMg系軽金属材料等の創製を試みる

(4)モレキュラーコンポジットの開発
 剛直な強化分子を屈曲性のマトリクス高分子に分子状に分散させたモレキュラーコンポジットを開発する。マクロな強化材を用いないので力学的な欠陥が少なく、高強度・軽量の複合材料が実現できる。

(5)カーボンナノチューブ強化型プラスチックの開発
 プラスチックを強化し、また導電性を付与させるために充填されている炭素繊維を、アスペクト比が大きくて電気的・機械的に優れた特性を有するカーボンナノチューブに置換することで電気・機械的特性を改善する。

(6)ナノ構造のモデリングと物性評価技術確立
 例えばき裂進展のメカニズムをモデル化することで、高靱性ナノコンポジット材料開発に資す。図(a)に示すようにセラミックス材料のき裂は一般的に粒界破壊によって進展するが、結晶粒内や粒界に第2相粒子あるいは欠陥を導入することによって、図(b)に示すように粒界でのき裂の進展を抑制できると考えられる。このような結晶粒内や粒界の構造のモデル化をナノレベルで行い、高強度・高靱化・長寿命化発現メカニズムを解明する。また、ナノコンポジット界面の構造と力学・電気的特性を評価するためのナノプローブ測定法と分光分析法、非破壊検査法等を開発する。以上の研究成果を、金属・無機・有機物質を融合した新ナノコンポジットの開発に資す。

(a)セラミックスの破壊モデル


(b)ナノコンポジットの破壊モデル


6.取り組みにあたっての留意事項
 本分野は金属・セラミックス・高分子の専門家が連携を取り新材料開発に望むに好適であり、全材料分野連携のアプローチを強力に推奨すべきである。

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1.分野名 (18)ナノ組織制御・機能材料
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 井上 明久  東北大学金属材料研究所長
岸 輝雄  物質・材料研究機構理事長
意見聴取者   : 松原英一郎  東北大学金属材料研究所教授
牧野 彰宏  秋田県立大学システム科学技術学部教授
田中 良平  (株)超高温材料研究センタ−技術顧問
金山 幸雄  YKK(株)技術開発本部長、常務

3.当該分野の概要
(1) 専門的概要説明
 金属材料の機械特性や磁性など多くの物性は、その組織によって敏感に変化する。我々は製造、加工、計算科学、材料解析・計測などの技術を結集し、ナノ組織形成機構を理解し、ナノ組織と諸物性の関係を解明し、金属材料の高機能・多機能化を目指したナノ組織を設計・実現し、地球温暖化防止、低環境負荷型、省エネルギーなどを目指す環境材料や、より高度な情報通信社会実現のための磁性材料、社会基盤整備を目的とする構造材料を創製する。

(2) 一般向け概要説明
 原子オーダーの金属結晶やアモルファスをナノスケールで3次元的に分布させた組織を構築することで、金属材料の様々な性質は飛躍的に改善する。例えばアルミニウム合金中の組織をナノ組織に制御することで、倍以上の高強度と伸びを兼ね備えた材料を作り出すことができる。また、ナノ組織制御により高性能永久磁石の開発も可能である。電力消費の約半分以上が駆動モータなどによって消費されることを考えると、1%の効率向上でも小規模の原子力発電所1基分に相当する膨大なエネルギーの節約ができる。さらに電気自動車の電池の軽量化にもつながる。このように、軽くて強いナノ金属構造材料やナノ組織高性能磁石の開発は、地球温暖化防止のための炭酸ガス排出量削減が急務である現代社会において、材料開発に携わる研究者および技術者が地球環境保全に貢献できる方策のひとつである。すなわち、我々は金属材料のナノ組織制御による高機能・多機能化により、構造敏感な材料の性質を根本から変革し、革新的金属材料の創製を目指す。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)ナノ粒子分散超高強度構造材料の開発
 軽くて強い高比強度材料の開発は、省エネルギーのための重要な課題である。高比強度化が期待できる金属として、Al、Mg、Tiが挙げられるが、資源の豊富さと価格の点でAlが最も有望視される。従来型の強化方法によって得られる最大強度は、実用上必要とされる5%以上の伸びを有する場合、650〜700MPaである。現在の環境問題、エネルギー問題を解決するためには、1000Mpaを上回る超高強度Al基合金の開発が目標とされる。この目標達成のために、急冷凝固などによって作製した非平衡状態にあるアモルファス金属を利用し、材料組織をナノ組織に制御する方法が有望であり、300℃程度の高温でも従来のAl合金の約20倍の高温強度が得られることも分かってきている。これらの研究成果を踏まえ、ナノ組織制御により従来の高強度材料の3倍以上の引張り強さを示し、高温でも十分な強度を持つ軽量、高強度バルク金属材料を開発し、10年後の実用化を目指す。

(2)高度ナノ組織分散高臨界電流密度超伝導材料の開発
 生体の断層映像撮影のためのMRI用超伝導磁石は広く普及している。しかし、さらに高分解能で水素以外のリンや炭素も分析できる10T以上のMRI、環境対策用の強磁場磁気分離、タンパク質構造解析用の強磁場NMR、強磁場中での新材料創製プロセスなどの応用には、革新的な超伝導マグネット線材の開発が必要である。そのために、ナノスケールでの析出物、結晶粒界などを3次元空間で高度に組織制御することにより、金属系および金属酸化物系実用超伝導材で、10〜15年を目処に、温度10〜20K、磁場20〜30T、応力300〜400MPaまでの範囲でナノ組織分散高臨界電流密度超伝導材を開発する。

(3)ナノ組織方位・界面制御高温耐熱材料の開発
 凝固あるいは再結晶時の結晶核あるいは再結晶核の形成・成長を利用し、高融点金属、金属間化合物、金属高融点化合物などのナノ組織の結晶方位および異相界面構造を高度に制御し、1200℃で300MPaを超える強度を持ち、熱衝撃特性、熱疲労特性に優れた高温耐熱材料を、10〜15年を目処に、航空宇宙用や高温ガスタービン用材料などとして実用化が期待される。

(4)ナノ組織方位・界面制御磁性材料の開発
 高性能永久磁石の開発は、モータによるエネルギー変換効率を改善し、省エネルギー・低環境負荷型社会の実現に大きく貢献する。ナノコンポジット磁石は、現在最高性能の永久磁石Nd2Fe14Bを越えることができる可能性がある。目標はエネルギー積1MJ/m3という理論値であり、ナノコンポジット磁石の研究が既に10年近いことを考えれば、10年以内に達成されるべきである。ソフト磁性材料は、トランスなどのエネルギー変換デバイスの他、記録用ヘッドやノイズフィルターなど情報通信機器に不可欠である。現在5年程度での実用化を目途に、低損失高磁束密度トランス材料、GHzの高周波フィルターやインダクターとして、ナノ組織ソフト磁性材料の研究が行なわれている。また、10〜15年を目処に、1.5T以上の高飽和磁束密度と絶縁体の高比抵抗を持つナノ組織方位・界面制御ソフト磁性材料の開発を目指す。

5. 研究の概要
(1)ナノ組織制御強化機構の解明によるナノ粒子分散実用高比強度材料の開発
 Al、Mg、Ti非鉄材料および鉄鋼材料について、ナノ組織と金属材料強度の関係を調べ、その機構を理解することによって、高強度バルク材料製造技術を確立し、5%以上の伸びと従来最高合金強度の2〜3倍の強度を持つ、耐熱性にも優れたナノ粒子分散実用高比強度材料の開発研究を行う。

(2)ナノ結晶成長機構の解明に基づくナノ組織制御技術の確立
 異方性ナノコンポジット磁石、ナノ組織分散高臨界電流密度超伝導材料、ナノ組織制御高温耐熱材料などの開発に不可欠なナノ組織制御技術確立のための研究を行なう。ここでは、過飽和固溶体からの結晶晶出過程、急冷アモルファスや過飽和固溶体などの非平衡物質からの析出過程におけるナノ結晶核形成、成長過程を明らかにし、ナノ結晶の組成、原子構造、界面構造、3次元分布、成長方位などの制御方法を研究する。これらの研究に基づいて、磁石、超伝導材における高臨界電流密度、高温強度、耐熱衝撃性、高温クリープ抵抗実現ためのナノ組織制御術を研究する。

(3)高度ナノ組織制御ソフト磁性材料作製の技術
 高い飽和磁束密度を示すソフト磁性相と、強磁性あるいはフェリ磁性絶縁体相とのナノ界面構造を高度に制御して複合化し、革新的なソフト磁性を示す材料創製のための研究を行なう。

(4)高粒界密度比ナノ結晶組織形成による低弾性率・高弾性限・高強度金属材料の開発
 ガスアトマイズ法やメカニカルアロイング法を用いて、高度に形状、粒径、サイズ分布、構造、組成を制御したナノ結晶粒を製造し、それらを固化・成形することで得られる高粒界密度比ナノ結晶組織材料を作製するための技術を開発する。

6.取り組みにあたっての留意事項
 本分野は金属材料の製造、加工、評価、理論・シミュレーションの各分野の研究者と技術者が連携し開発に臨むことが不可欠である。したがって、これまでより、より密接かつ自由な連携のための研究組織を構築する必要がある。

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1.分野名 (19)ナノ制御高機能表面界面材料
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 川合真紀  理化学研究所主任研究員
魚崎浩平  北海道大学触媒化学研究センター長
意見聴取者   : 有賀哲也  京都大学大学院理学研究科助教授
青野正和  大阪大学大学院工学研究科教授
原 正彦  理化学研究所
 フロンティア研究機構チームリーダー
橋詰富博  日立製作所(株)基礎研究所主任研究員

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 電子デバイスのダウンサイジングが進むにつれ、ナノメートルという微細な領域から機能を引き出す時代が目前に迫っている。一つのチップ上に1−3次元のナノ構造を作りわけ、様々な機能を持たせる技術が必要となるが、そのための、原子スケールで材料の次元性を制御する技術の開発を行う。ナノチューブや、DNA鎖をナノデバイスに応用するには、必要な場所に、望む方向、必要な長さだけこれらの分子鎖を成長させたり繋げたりする技術を開発する必要がある。無機物質からなる、ナノデバイス上にこれらの分子を制御性良く反応成長させるには、ナノデバイス表面をÅオーダーで制御し、化学反応の場を用意する必要がある。ナノバイオの世界にも、無機・有機物質との接合制御が有効である。将来のドラッグデリバリーなどにも生体材料と無機・有機材料の接合技術が欠かせない。さらには、それらのデバイス構造へ電極を配置するアクセス手法が重要である。
 また、表面や界面の特質を生かした新物質の探索も重要である。表面電荷密度波、表面超伝導など新たな表面・界面材料の創生や、次元性を制御した低次元機能材料の作成など、固気相界面、固液界面、さらには固固界面に形成される物質層の制御とその物性研究が急務である。

(2)一般向け概要説明
 電子デバイスのダウンサイジングが進むにつれ、ナノメートルという微細な領域から機能を引き出す時代が目前に迫っています。そこでは、材料を様々な微細な形状に加工する技術が必要となります。極微細な構造から機能を引き出すには、物質の表面や異種物質の界面の構造を原子スケールの精度で意図する形に整形することが求められます。このように、薄膜や厚膜さらには粒子の形を表面や界面で制御して、ナノ構造の化学的、物理的機能を向上させる、あるいは新しい機能を発現させる科学技術は、ナノテクノロジーの基礎となる材料創生であって、全ての科学技術に通じるものです。これからのナノテクノロジーには、生体材料を電子デバイスの部品として用いることが求められていますが、無機物質を中心として発達した既存の電子デバイスと生体材料を繋ぎ合わせるには、これらの材料を有機的に結合させる為の技術開発が不可欠となります。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
 表面界面を制御して形成する技術は、半導体技術として目覚しい進歩を遂げてきた。特にヘテロジャンクションの形成する為の技術開発を通じ、表面を原子スケールで平坦にする技術、原子スケールで精度良く薄膜を形成する技術などが発達してきた。これは主として無機材料を対象としたものであり、有機材料やバイオ材料の表面・界面制御法の確立が急務である。これら異種材料を原子レベルで良好な接合を作る技術、材料の次元性(1−3次元)を制御し、特定の機能発現を狙った物質形成など、ナノテクノロジーの基盤となる技術開発が望まれている。
 ナノテクノロジーの部品として、バイオ材料を含めた多様な材料の活用が検討されているが、その実用化には、バイオ材料と無機・有機材料との接合技術の開発など、異なる材料間の接合研究が重要な鍵となる。このような材料表面界面のナノ構造制御は、高機能デバイスや複合材料の特性向上に不可欠な基盤研究として精力的に推進されるべき対象である。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
 表面界面のナノ構造を制御し、構造的、機能的に格段に優れた材料、デバイス、システムを作り出すために、以下の研究項目を推進する。

表面・界面アクティブ制御
 無機材料の2次元成長では、サーファクタントの存在下でのシリコンのステップフロー成長など、積極的に加えた元素により、表面超構造が解消され、原子レベルの平坦性を保ったまま、結晶を成長させる方法があるが、これがまさにアクティブ制御の例である。これをさらに進めて、カーボンナノチューブや、DNA鎖をナノデバイスに応用するために、必要な場所に、望む方向、必要な長さだけこれらの分子鎖を成長させたり繋げたりする技術を確立する。目標達成期間は10年後、実用化にはさらに5年必要である。

次元性の制御
 表面界面での1〜3次元制御
インフォメーションテクノロジー(IT)で要求される次世代ナノデバイス例えば、量子素子、フォトニック結晶素子、光コンピューティング回路、次世代バッテリーやディスプレイなどには、ナノスケールにおける1〜3次元の構造制御が必須である。それらの構造のナノスケールで生じるであろう新しい物性もさることながら、デバイス?システムとしてインテグレートすることを目標とした次元性の制御は実用化の重要課題である。目標達成期間は10年、実用化はさらに5年が必要である。

バイオ・有機材料の表面・界面制御
 現在注目されているDNAチップにおける、生体/無機の接合界面制御は、塩基配列認識や生体反応をモニターするセンサーとしての応用のみならず、分子計算を行う場としても重要な研究対象になるであろうと考えられている。活性を維持したまま、生体物質に対して入出力を行う界面設計が急務である。DNAやタンパク質、さらには神経細胞そのものを電子材料としての利用する試みもあり、今後のナノテクノロジーの発展には、バイオ材料と無機・有機材料表面との接合を様々な形で実現する技術開発が望まれている。目標達成期間は10年、実用化にはさらに5年が必要である。

5.研究の概要
 研究内容の例示
(1)分子膜自己組織化構造の制御技術の研究
 分子ナノエレクトロニクス、分子認識センサー、光機能材料など多くの分野において、分子配列を制御した分子膜を自己組織化によって作成する技術の開発が急務となっている。しかしその制御パラメーターに関しては個々のケースについての断片的な知識しか得られていない。新しい制御パラメーターの開拓を含めた分子膜組織化構造における制御技術の系統化の研究を行う。

(2)有機・無機材料界面の原子スケール接続
 電子材料としての有機材料はこれまでキャリア濃度の調整の自由度が小さいことが実用化を阻む大きな原因であったが、近年になり無機誘電体材料との接合を利用した電界効果トランジスタとの組み合わせにより、外部電位によりキャリア密度が調整できることが示され、次世代の電子デバイスの旗手として注目されている。均一なキャリア注入には、有機・無機材料の接合や、接合界面での欠陥を低減する技術開発研究が重要となる。本研究では、無機・有機材料のナノ構造デバイスを集積化して脳のシナプス接合のような相互配線網を実現するために、無機・有機材料のナノ構造及びバイオ材料の相互接合を様々な形で研究する。さらに、ナノ構造デバイスを多数配列するために、原子スケール構造と100nmレベル構造の中間サイズで特徴つけられる融合領域での複合材料研究を行う。

(3)バイオとナノデバイスの融合
 これからの科学の新しい発展が期待される大きな分野である。DNAあるいは神経とナノデバイスを融合する事によりバイオ機能をナノエレクトロニクスで制御、計測する新たなデバイスを構築する。上述のように生体マクロ分子の活性を失わず、固体基板上に幾何学的に制御されたパターン化を行い、電気生理学的活性の検出を実現する。また複数の電極が微細加工された記録素子アレイ上で培養され、幾何学的に制御された生体マクロ分子からの長時間活性検出を持続する系のデザインが大切である。それらを用いて、例えば組合せ最適化問題(経路探索)の情報伝達処理系や超並列計算を行う数学的モデル化、連想機能をもたらす確率共鳴的情報処理技術を開発する。

(4)表面・界面での量子構造の制御
 未来の固体量子コンピューターを目指した、結合ナノ構造システムの構築や、電子スピン、核スピンあるいは電子電荷を用いその基本ユニットである量子ビット、量子相関ゲートを構築するための表面・界面制御の基礎を確立する。

(5)カーボンナノチューブの表面形成制御
 ナノチューブを電子部品としたデバイスの実現に向け、望む位置に、望む方向に、望む長さだけ、カーボンナノチューブを化学成長させるための研究を展開する。この技術が確立すると、ナノチューブを基本単位とする新しい機能性材料が構築される。さらに多くの機能出現を期待し、炭素フラーレン以外でのフラーレン構造を固体の表面で制御形成する。

(6)表面界面における単原子層単位の新機能物質の探索
 表面界面の単原子層機能物質にもとづく新しいデバイス構築すべく、以下のような機能発現を狙った研究を展開する。
・表面超伝導、固-固界面超伝導の探索。
・表面界面電荷密度波の制御による情報変換・伝達。
・表面界面に生成する低次元強磁性体。単原子層の磁気輸送特性。
・表面界面相転移現象の制御(超高密度記録)。

6.取り組みにあたっての留意事項
 金属、無機化合物、有機化合物、生体物質などの接合界面において、原子スケールの厚さ領域に局在した新たな物性、機能を探索するには、信頼性の高い界面構造(原子レベルおよびメゾレベル)の計測手法の確立が不可欠である。また、固固界面に局在するナノ物性計測の手法は、表面に比べると著しく遅れているが、実際のナノデバイスでは非常に重要である。表面界面における新しい物性発現にはそれに適した計測手段の開発が必要となる。さらに、ナノデバイスを利用するためのアクセス手法の確立が重要である。従って、ナノメートル領域の計測手法の開発とは常に情報を交換し、効率のよい技術開発、開発研究を推進すべきである。

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1.分野名 (20)有機・無機融合ナノ構造体構築
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 早稲田嘉夫  東北大学多元物質科学研究所長
玉尾皓平  京都大学化学研究所長
意見聴取者   : 佐村秀夫  産業技術総合研究所イノベーションズ副代表
松宮徹  新日鐵(株)フェロー
横山正明  大阪大学工学研究科教授
横尾俊信  京都大学化学研究所教授
中西八郎  東北大学多元物質研究所副所長
藤木道也  NTT物性科学基礎研究所主幹

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 有機および無機物質を、化学結合またはナノスケールでの構造構築により融合させた新規な物質群を創製するための基盤技術を確立する。さらに、それらの物質の機能合目的的な組織化、材料化技術と、総合的な構造・物性・機能の解析・評価技術を開発・確立する。同時に、有機・無機融合ナノ構造(以下、融合ナノ)物質・材料に特有の応用を多々実証し、産業界への橋渡しを実現する。

(2)一般向け概要説明
 我々の身の回りの材料は、ナイロン、プラスチックス、液晶、タンパク質などの有機物質と金属、半導体、セラミックスなどの無機物質とに区分けされています。20世紀には、それぞれが、学会、産業界なども分かれて、独自分野として進展する中で、情報関連を中心とする社会の発展を支えてきました。しかしながら、従来の物質・材料に依存する技術の延長線上の進展では、情報関連は勿論いずれの応用分野においても、10年ほどで限界に達するとされています。そこで、本研究開発では、物質を構成する元素は数十種類にものぼること、物質機能の発現の単位がナノメートルであることから、従来の物質・材料分類の枠を越えたいろいろな物質の組み合わせによるナノ集合体を作製し、未踏の優れた機能を発揮させることで、上記の限界を打破します。同時に、次世代表示素子としてのフラットパネルデイスプレーをはじめとして、極微メモリ、ナノフォトニック加工技術、種々の新IT素子、高性能水素製造光触媒、固体酸化物燃料電池、超高感度医療センサー、細胞レベル以下での検査が可能な軟X線医療カメラへも応用できる解析技術などの新技術を数多く誕生させ、21世紀の豊かな社会形成に貢献できる。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1) 現状
 有機、無機、金属など異なる分類の物質をマイクロメータ以上のサイズで複合することによる機能・性能の向上を目指した研究開発、商品化は多々行われてきた。それらは、既にバルクとしての性質を発揮しているサイズでの混ぜ合わせであり、バルクの特性から見て、互いの長所を生かす、または欠点を補うことを基本にしている。本研究課題のように、ナノスケールで融合させることにより、バルクの性質を超えた新しい個性の発現を目指す研究は緒に付いたばかりであり、今後世界中で、研究開発競争が必至の分野である。特に、化学結合により無機元素を積極的に導入した融合ナノ分子材料の創成が重要と考えられる。

(2) 目標及び達成時期の目途
 本研究開発で対象とする基盤技術の分類は、多くの参画が可能なように、融合ナノ分子材料技術、融合ナノ新素材技術、融合ナノ高次構造技術、融合ナノ表面・界面技術、融合ナノ構造解析・評価技術とし、これら全てを早期(10年以内)に確立し、それらの応用技術開発への展開については、個別研究内容毎に定める具体的目標と達成時期に向けて、産業界への橋渡し(指導・協働による実用化)を達成する。

5.研究の概要
 以下の個別テーマは例示です。
(1)融合ナノ分子材料技術の開発と応用展開
 (例(1)−1)融合ナノ分子設計による革新的電子・光 材料の創製
 化学結合により無機元素を適切に導入した有機ー無機融合ナノ分子材料を開発し、シリコン半導体を凌駕するキャリヤー高移動度(室温で103cm2/Vsec以上)を5年を目途に達成し、それを用いた新表示デバイスの実用化を10年を目安として行う。また、光学バンドギャップの低減と簡便なpn制御を実現し、単一分子エレクトロニクス素子の開発を10〜20年後の実用化を目標として展開する。21世紀の高度ITを支える基幹材料であり、実用化の波及効果は大きい。

(2)融合ナノ新素材技術の開発と応用展開
 (例(2)−1)融合ナノ用鋳型素材の製造
 ナノやメソサイズのポア構造並びに層状構造を有する無機を中心とする新鋳型素材を設計・合成する。現状は、天然産物とポーラスアルミナなど、限られたナノサイズ中心であるが、高純度、サイズ可変を可能な限り早期に達成し、量産、提供することを目標とする。後述(3)−1のように本研究開発で用いられるのみならず、種々の応用に供し得るため、波及・経済効果は多大である。

 (例(2)−2)融合ナノ結晶の作製と材料化
 色素、共役高分子などの簡便なナノ結晶作製技術およびそれらと半導体や金属との融合ナノ結晶の作製技術を創製、確立する。現在、研究レベルとしては、我が国が諸外国に比べて優位であり、ナノサイエンスとしても未知の現象に遭遇するので、サイズ可変、単分散化、量産プロセスの確立こそが重要課題である。まず、有機ナノ結晶汎用製造技術を早期に確立し、機能性色素・顔料の製造プロセスでの実用化を図りつつ、ハイブリッド化による次世代フォトニクス技術に不可欠な超高速光スイッチ素子の実現は10年後の達成を目指す。医薬、農薬、化粧品など幅広い分野へ波及効果は大きいと想定される。

(3)融合ナノ高次構造技術の開発と応用展開
 (例(3)−1)鋳型法による種々の炭素系融合ナノ材料の作製
 無機化合物の鋳型を用いる、3次元網目構造など種々の炭素構造の作製と、さらにその隙間に磁性金属などを析出させて融合ナノ材料を作製する技術を確立する。現在世界中で研究開発競争が過熱しているが、この領域では我が国が最先端、最高水準の成果をあげている。応用開発では、磁性体をナノメータスケールで2次元配列させた磁性極微メモリ材料は10年後に企業化へ橋渡しを実現する。本技術は、有機色素アレーによる光極微メモリ、超高性能キャパシター開発にもつながるため、その経済効果は数十兆円と見積もられ、大きな波及効果が期待できる。

 (例(3)−2)ゾルーゲル構築による光導波路、フォトニクスガラスの創製

 有機−無機融合という新しいアプローチにより無機ガラス材料と高非線形光学特性を有する有機材料とのゾルーゲルナノ複合化を実現する。同時に、フォトニックナノ加工技術の確立に努め、高度IT光技術に不可欠の低損失(0.01dB/cm以下)な光導波路・素子の実現を10年以内に目指す。経済効果は十兆円以上。

(4)融合ナノ表面・界面技術の開発と応用展開
 (例(4)−1)融合ナノ界面における液体構造の評価と自在制御技術
 無機固体と有機液体の界面における液体のナノ構造を評価する新技術及びその構造の自在制御技術を創製する。既に、例えばナノずり共振法の開発で、界面における新規なナノ液体構造が発見されており、汎用装置化が課題となっている。液晶デイスプレーや潤滑制御、ナノコーテイングなどへの応用展開は、汎用化技術の確立直後から行う。摩擦の制御によりGNPの0.5〜2.6% が節約できるので、自動車の摩擦を10% 減らせば5%燃費が節約できるとされているように、波及効果は大きい。

(5)融合ナノ構造解析・評価技術の開発と応用展開
 (例(5)−1)光学ナノ多層構造による軟X線波面エンジニアリング
 厚さ数ナノメータ以下の超平滑均質な光学薄膜を軟X線の干渉膜として機能させ、現在より100倍以上の反射増強、波面制御を可能にし、従来の解析の狭間となっている50ナノメータ分解能での元素デジタル顕微鏡を早期に完成して有機・無機融合ナノ構造体の解析に供する。本手法は、次世代リソグラフィーステッパー開発への展開ニーズも強いが、諸外国に比べて我が国が具現化に最も近い水準にあると考えられるので、早期実用を目指す。応用展開では、上記に加え、超短パルス化により被爆のない顕微カメラの10年以内の実現は、現状を数桁上回る分解能での生体や細胞の検査・治療に用いうるため、医療応用でも大きく社会に貢献できる。

6.取り組みに当たっての留意事項
 プロジェクトのメンバーは、原則として、"物質創製基盤技術の開発"からスタートし、それらを確立しつつ、有用性を実証する"応用技術開発への展開"に移行する形で、両方に参画することを基本とするべきである。また、基盤技術に係る横断的新分野であることから、他テーマとの関連も深く、したがって、知見の交換、データベースの構築も重要であり、適宜連携を遂行すべきである。

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