1.分野名   (12)ナノ構造制御触媒
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 魚崎浩平    北海道大学触媒化学研究センター長
  茅   幸二    岡崎共同研究機構分子科学研究所所長
  川合真紀    理化学研究所主任研究員
意見聴取者   : 岩本正和    東京工業大学資源化学研究所教授
  今成   真    三菱化学(株)執行役員
       科学技術研究センター長
  北海道大学触媒化学研究センター教授
(朝倉   清高、市川   勝、大澤   雅俊、上田   渉、大谷   文章、高橋   保、辻   康之、松島   龍夫)

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   触媒反応は、1種類の活性サイトのみで進行しているとは限らず、異なる働きを持つ様々なサイトが物質・エネルギーの移動を介して有機的に結びつき、進行している。触媒の活性や選択性を飛躍的に向上させるために、活性点を原子・分子レベルで設計・制御するのみならず、ナノ〜ミクロン領域で組成や形といった高次構造を規定したナノ構造制御固体触媒を設計・構築する。また、精密有機合成化学の手法を駆使し,完全にナノ構造を制御することによって、分子認識能など従来の触媒系では達成できない画期的な機能を有する分子触媒を創出する。

(2)一般向け概要説明
   物質を高速・高効率かつ高い選択性をもって転換し、資源・エネルギーの有効利用を達成することは、エネルギー・環境・材料の広範な分野に関連した、循環型社会実現のための非常に重要な課題であり、触媒がまさにその鍵となる。生体内では、酵素(分子)に始まり、細胞内組織、細胞、組織、生命体という高次構造をもち、全体として統一のとれた生体反応が営なまれている。これと同様、人工触媒系においても多くの化学過程が同時に進行し、触媒上の多くの部分がオーケストラの各パートのように協力しあって、特定の物質が生成される。ナノ構造制御触媒では、分子よりも大きなサイズ、すなわちナノメートル領域における高度な構造制御により,従来にない高い性能を有する触媒が実現される。ナノ構造制御触媒を用いることにより,副生成物がなく生成物のみを作り出す反応系,有機溶媒を用いず水中で反応が加速される反応系,分子認識能を有する極めて高い選択性を有する反応系、太陽光を使って水を分解し、水素を発生させる光触媒、超高効率・長寿命燃料電池用触媒、医薬品などの精密合成用触媒、アミノ酸・糖などのセンサーなどが実現可能となり,環境保全,エネルギー消費抑制,および対外競争力の回復など極めて大きい社会的意義がある。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
   高効率生産、環境浄化、エネルギー変換用など触媒は現在でも人間社会のあらゆる場面で重要な役割を果たしており、多大の進化をとげてきた。これまでの触媒設計は、主に固体表面において反応分子と相互作用する分子・原子レベルの「活性点」という考え方に基づいて行われており、原子レベルでの構造制御に関する研究は非常に進んでいる。しかし、ナノ構造制御固体触媒の研究はまだ途についたばかりである。高次構造制御に関しては、ミクロ・メゾ細孔をもつ多孔性物質の利用や自己組織構造形成、モレキュラインプリンティングなどの化学的な手法が取り上げられているが、規則構造の設計・調製は明確な指針がないままに研究されており、もっとも多くの研究者が携わっている、「ナノ細孔をもつ材料」の合成とその応用においても、分子よりもずっと大きいナノメートルサイズの空孔をもつ材料が、高速・高選択的な触媒として機能した例はない。また、ナノメートルサイズの構造を規制した光触媒についてもほとんど検討されていない。
   分子触媒は現在すでに医薬品や機能材料などの合成に広範に用いられているが、ナノ構造を完全制御した触媒系の開発例は今だない。また、環境負荷低減のために不可欠な水を溶媒とする触媒反応系も実現されていない。

(2)実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
   究極の目標は、化学反応のエネルギー効率・原単位の飛躍的向上と不要副生物の発生0(選択率100%)の実現にある。具体的目標は以下の通り。

三次元的にナノ構造制御(複合機能集積化)した触媒系の開拓
   1つの触媒上に、酸点―塩基点、酸化活性中心―還元活性中心、親水性―疎水性など互いに相いれない反応部位を組み込むことで複合機能集積化を実現する。例えば、不斉合成反応は医薬品、農薬等の化学工業において極めて重要であり、これまでは均一系触媒でのみ可能であるとされてきた。均一系触媒を利用する多くの不斉合成反応が提案されてきたが、反応の複雑さにともなう分離やプロセスコストの関係で、現時点で実用化されている反応系はごくわずかである。これに対し、三次元的にナノ構造制御し、必要な機能を単一の触媒上に付与する(複合機能を集積する)ことによって、廃棄物を出さない新しい触媒プロセスの実用化など、現在の生産工程が革新的に変革され,計り知れない経済的効果が期待される。目標達成時期は5年後,実用化にはさらに5年程度必要である。

多段階合成プロセスを一回の操作で達成可能なナノ触媒チップ(ナノファクトリー)の構築
   上述をより複合化したものであり、原子レベルで構造を制御した触媒をリソグラフィーなどの手法で、その高次構造(位置や形)を制御・配列し、高機能化する。同一chip 上のCPUなどの電子部品とバルブ,センサーなどの機械・化学部品と共同し、能動的、自律的に反応の制御をはかる。さらに、各Chipを通信回線で結びつけ、各Chipを有機的に結合するとともに、外部指令に基づき、多段階化学反応の制御を実現する。プロトタイプの完成に7〜8年、実用化にさらに5年程度が必要であろう。

循環型エネルギーシステムの実現
   太陽光の照射により、光触媒を用いて水を分解し、水素を得る。この水素を燃料電池に用いることによって、太陽光だけをエネルギー源とし、環境汚染物質を一切放出しないクリーンなエネルギーシステムが実現できる。このためには高効率・長寿命の光触媒と燃料電池用触媒の開発が不可欠である。いずれも、複合的な機能が要求され、ナノメートルサイズの構造制御が鍵となる。技術的な問題に止まらず社会構造の大幅な変化を伴うため、開発期間は10年、産業化にさらに10年程度を要するものと考えられる。

5.研究の概要(課題の例)
(1)高選択的ファインケミカルズ合成用ナノ構造触媒
   これまで、光学活性体(鏡像体)のうち一方だけを合成するために用いられる触媒は、一方の光学活性体とだけ相互作用する活性点を表面に配置するという、活性点と反応原料分子の一対一相互作用を基本にして設計されてきた。上記の目標達成のためには、このような一対一相互作用ではなく、表面の二次元あるいは三次元周期構造と反応原料分子の特異的な相互作用系の開発が必要となる。触媒表面に単に光学活性分子を付着させるのではなく、デンドリマーなどの高度に三次元ナノ構造が制御された配位子を利用した分子の配列構造そのものが光学活性であるような新規な触媒の開発を目指す。

(2)集積ナノ触媒チップ(Integrated Catalyst Nano-Chip:ICNC)
   現在高次構造制御法として広く用いられている化学的な手法はエネルギー消費が少ないソフトプロセスであるという優位性をもつ反面、構造制御という観点では問題がある。一方、リソグラフィー法に代表される物理的手法は、三次元高次構造を自由に形成可能であり、エントロピー的に不利な構造構築も行うことができる。ここでは両者の特徴を利用した新しいナノ触媒チップ構築法を確立し、ナノファクトリーへの展開を目指す。具体的には活性構造の原子レベルでの構築とリソグラフィー法によるその配列、構造の制御による高効率・高選択触媒の開発、高次構造による触媒作用制御の原理の確立、電気・光等による化学反応の能動制御、半導体デバイス・マイクロメカニクスの組み込みによるナノ触媒チップの作製と触媒作用の自律コントロールの確立、ICNCの組織化とコントロールソフトウエアの開発を行い、ナノファクトリ・ナノコンビナートの実現・実用化を図る。

(3)水完全分解用ナノ構造光触媒
   これまでの光触媒材料のほとんどはナノメートルあるいはマイクロメートルサイズの微粒子が集合した多結晶体である。一方、学術的な観点から、単結晶が用いられることもあったが、その比表面積が極端に小さいために実用的ではなかった。効率低下の最大要因である「励起電子?正孔の再結合」は結晶欠陥や粒界などで進行することが知られており、結晶面の構造を制御したナノメートルサイズ微粒子を調製することにより、再結合を抑制し、高効率な光触媒ナノ粒子を調製可能である。

(4)新規ナノ構造体の合成手法の確立
   金属または半導体のナノ構造体(細線、粒子)は、既存の材料とは異なる材料特性を発現するものとして期待されており、触媒材料としての可能性も高い。しかし、これら材料の大量合成技術はまだ確立されていない。ここでは、メソ細孔シリカなどの多孔体物質を鋳型として、その細孔内にナノ細線やナノ粒子を合成する。メソ細孔シリカFSM-16やHMM-1(細孔径3 nm)の粉体に金属化合物を導入し、光や水素で酸化還元を行い金属または半導体ナノ細線とナノ粒子を作り分ける。また、メソ細孔薄膜でも同様に光還元により薄膜内ナノ細線・ナノ粒子を作成する技術開発を行う。

(5)携帯電子機器用マイクロ燃料電池の開発
   現在水素を燃料とする自動車用燃料電池の開発が急速に進められているが、電子機器用電源としては水素を直接燃料とすることは安全上問題があり、石油などの改質により水素を得ることも、改質器が小型軽量化を妨げ、高温を必要とするなどの問題がある。したがって、超小型化のためには、エネルギー密度が高く、保管運搬が容易なメタノールを直接燃料とするダイレクト・メタノール型燃料電池の開発が望まれる。このための最大の課題は高性能かつ安価な触媒の開発にあり、複合機能の集積化が必要である。

6.取り組みにあたっての留意事項
   本分野では、材料合成、構造評価、反応設計、あるいは触媒特性評価などの幅広い分野の研究を統合的に推進することが必須であり、また、金属、ミクロ/メソ多孔体(ゼオライト)、触媒、物性物理の材料関連分野の連携が不可欠である。また、ある程度研究が進行した段階では企業との共同研究を積極的に行っていくべきであろう。


・高次ナノ構造制御触媒
 
有機金属ナノ構造触媒   メゾポア構造組織と複合金属酸化物ク
ラスター分子で構成される水浄化触媒


・ナノ細線・ナノ粒子の調製法


・携帯電子機器用マイクロ燃料電池


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1.分野別   (13)ナノポア系材料
2.検討チーム
検討担当委員: 臼井   勲    科学技術振興事業団理事
意見徴収者   : 寺崎   治    東北大学大学院理学研究科助教授
  黒田   一幸    早稲田大学理工学部教授
  稲垣   伸二    (株)豊田中央研究所主任研究員
  青山   安宏    立命館大学副総長
  藤田   誠    名古屋大学大学院工学研究科教授
  相田   卓三    東京大学大学院工学系研究科教授

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   ナノポア系材料とは、口径十Å〜数千Åの微小な空間を持つ様々な物質のことを言う。この研究領域は、ナノポア系材料の持つナノオーダーの空間に着目し、新材料や新機能発現を得ようとするものである。
   これまでナノポア系材料として、ゼオライト、シクロデキストリン、クラウンエーテル等が知られていた。例えば、ゼオライトは、石油精製・脱硫触媒などとして不可欠な材料として知られ、これまでにさまざまな分野に利用されている。近年になり、より大きな空間や空孔率等を有する多孔体が、機能向上と、新しい機能の発現の期待から追究され、多くの努力の結果、1990年には多孔質シリコン(ポーラスシリコン)の室温高効率可視発光の報告(英国)があり、一方早稲田大学黒田教授の研究グループおよび Mobilの研究者がシリカ・メソ多孔体の合成に初めて成功した。また、有機材料においてもシクロデキストリン等と比べ、より大きな空間を持つ新しい物質が作られる等、新しい展開が考えられてくる段階になってきた。
   ナノポア材料は無機から有機、タンパク質等、多種存在し、またその原子配列においても、結晶、アモルファス、超分子等と多様である。近年、物理的または化学的な新しい合成技術の進展に伴い、空間の大きさ、形状等にも多様なものが得られつつある。ナノポア材料はその特殊な構造により、様々な用途が期待される。例えば、吸着・分離材(特定の分子を空間に吸着し、分離する働きを持つ材料)や、触媒、界面活性剤等の工業材料として活用が期待される。また、空間にさまざまな原子や分子の集合体(規則的に配列した各種金属クラスターや薬等)を導入するなどして、新しいデバイスやDDSの担体としての利用も可能になる。さらには、空間に特定の原子や分子を閉じこめ、通常の気相、液相反応では合成が不可能な新しい化学合成や不安定な化学物質の保持、新しい機能の発現等が期待される。空間が数千Åオーダーになると、光の波長領域と重なるため、光の閉じ込めや回折効果等による新たな光特性を持つ材料の創出が考えられ、フォトニクス材料や光デバイス等が期待される(ポーラスシリコン等)。

(2)一般向け概要説明
   ナノポア系材料とは、ナノオーダーの微小な空間を持つ材料の総称である。近年、新しい材料の作製技術が進歩したことにより、様々なナノポア系材料が得られるようになってきている。ナノポア系材料は、その特異な構造により、従来の材料にない様々の特徴を有し、この特徴を応用することで新しい技術の創出が可能となる。(例えば、吸着剤、触媒、光学材料、医薬などへの応用)
   本テーマでは、多様なナノポア材料の合成、構造や物理・化学特性の解析等を、様々な専門分野における研究者の協力の下に進め、それらの合成法、物性に関する知識を取得することをめざす。
   さらに、その結果をもとに、新規にナノポア材料の設計、合成を行う手法の確立を行い、それにより合成された有用なナノポア材料応用の可能性の検討を行う。また、ナノポア材料を用いた新たな合成技術についての検討も行う。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)10年後:新規な低誘電率材料開発の見通しが得られる。
新規な触媒開発の見通しが得られる。量子エレクトロニクス、光エレクトロニクス、フォトニクスの新規な概念が得られる。

(2)15年後:新規燃料電池開発の見通しが得られる。
3次元量子細線等による新デバイス開発の見通しが得られる。新規分子篩の開発の見通しが得られる。ナノケミストリー工場(新規の化学合成、不安定材料の安定保持)の見通しが得られる。

(3)20年後:各種DDS、GDS(DDS:drug delivery system、GDS:gene delivery system)を利用した治療技術の開発の見通しが得られる。

5.研究の概要
(1)各種ナノポア系材料の合成法の研究(ナノポア制御と機能制御)
自己組織化・界面活性材・ブロックコポリマー・ゾルゲル・陽極化成・シップ・イン・ボトル鋳型合成法ほか

(2)ナノポア系材料の3次元構造解析・機能解析
電子線・X線・中性子線解析、NMR解析、誘電率、バンド構造ほか

(3)ナノポア系材料の応用
合成法や機能の最適化

(4)新材料の応用展開
水素・メタン吸蔵材(燃料電池用等)、固体電解質膜、ガス分離膜の検討

6.取り組みにあたっての留意事項
   ナノテクノロジーの推進は、各々の既存専門分野に捕らわれない分野横断的な融合が必要である。そのためにも、産学官の有機的な連携や長期的な展望を持って推進することが必要である。また、ナノテクノロジーは、ライフサイエンス、情報通信、環境等の重点分野をはじめ広範な分野において利用が期待されることから多くの共同研究チーム参加や国際的な取り組みも必要である。
   特に本テーマにおいては、これまで自然界に存在していたゼオライトやクラウンエーテル等のナノポア材料の利用から新たな展開とし、自らナノポア材料の設計・解析やポアの導入物質による機能化を図る研究を推進が必要である。
   具体的には、ナノメートル領域における界面やポア、粒子等を含む微細構造を制御(構造と機能の解析をし、新しい材料設計をする。)することで、新たな触媒や分離膜、物質担体(水素・メタン、薬、DNA、RNA等)、光デバイス、電子デバイス等の創製を図る研究を推進することが望まれる。

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1.分野名   (14)超分子制御
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 玉尾   皓平    京都大学化学研究教授・所長
  茅   幸二    岡崎国立共同研究機構分子科学研究所所長
意見聴取者   : 高原   淳    九州大学有機化学基礎研究センター教授
  井上   俊英    東レ株式会社化成品研究所長
  藤田   誠    名古屋大学研究所所長

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   超分子科学とは、2個以上の分子が非共有結合性の分子間力で相互作用する結果形成される高次の分子集合体に関する科学であり、単一分子の概念を超えた科学と定義されている。超分子では有機低分子、高分子、たんぱく質、核酸、多糖類、金属、無機分子などの様々な分子がその構成単位となる。超分子と呼ばれる分子集団では、構成単位からの予想を越えた特有の機能を示す。現在のトップダウン方式によりナノ加工することには、様々の困難が存在するが、分子レベルからナノレベルのボトムアップ方式により、分子の自己組織化を用いてナノ構造を構築することは、原理的に比較的容易である。超分子のナノ構造の新しい構築原理や超分子構造の固定化方法が開拓され、さらにナノ素子としての性能評価ならびに機能設計の手法が開発されることにより、電子情報材料、生体機能材料、医療デバイス、ナノマシンなどの広い応用分野で無限の可能性を秘めている。

(2)一般向け概要説明
   超分子は、異なる分子が化学結合よりも弱い力で互いに認識し結びついた分子の集まりで、分子の組み合わせにより様々な構造と機能が期待される。現在の半導体加工技術のように、大きなものを加工して、微細なものを作るのではなく、超分子及びその集合体の構造、機能制御は物質の基本単位である分子を組み合わせて新しい材料を作り出そうとするナノレベルでの材料を組み立てる技術である。超分子を組み立てるための方法を確立することにより、いろいろな性質の分子を様々な形で結びつけることが可能となり、今までに無かった電子情報材料、生体機能材料などの新機能材料やナノマシン、ナノデバイスを作り出すことが可能となる。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
   超分子科学は1978年にLehn教授によって提案されたものであり、ここ数年でこの分野には急速な発展が見られている。超分子科学の概念が提案されたときには、わが国ではすでに分子認識化学や合成二分子膜の研究分野でのイニシアチブをとっており、現在では大学における研究を中心にホスト分子を用いた分子認識、自己組織化単分子膜、ラングミュア・ブロジェット膜、デンドリマー、錯体・金属ナノ集合体、自己集積性物質、人工酵素、液晶などの分野で国際的水準は極めて高い。超分子の応用例で実用化されているあるいは実用化に近いものとして、自己支持型液晶デバイス、有機EL素子、フォトクロミック分子メモリ、バイオセンサーなどがあげられる。内外ともに大部分の研究は超分子を組み立てるための基本的な原理を確立しつつある段階であるが、実用化への潜在的なポテンシャルは大きく、情報・環境・バイオ・エネルギー関連の技術を根底から革新するのは確実である。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
革新的な機能特性を持つ超分子材料開発
   高速応答性の超分子液晶素子の開発、高密度の超分子メモリの開発、超分子ポリマーによる循環型材料の創製、エネルギー変換超分子素子の開発、バイオチップ、ドラッグデリバリーへの応用を目的としたナノバイオ材料の開発等。目標達成時期は5〜10年、実用化に更に5年を目安とする。
   目標達成により、情報伝達の大容量・高速化、高効率エネルギー変換、環境調和材料、高効率の医療システム等、省エネルギー・環境保全・健康の維持に多大なる貢献があるものと期待できる。

その他超分子材料
   超分子を用いた分子機械、超分子を用いた分子コンピューター等。10年〜20年後の実用化を目標。

5.研究の概要
   ここでは考えられる研究内容を例示する
(1)超分子の構築技術の開発
   原子・分子からスタートして超分子組織構造を構築するための、新しいナノ構築技術を開拓する。分子〜ナノレベルにおけるナノ構築は、原子間力、分子間力を精密に制御するとともに、階層構造的な自己組織化現象を実現することが鍵となる。またボトムアップの構造形成による完全結晶材料のような高性能材料の可能性も期待できる。超分子形成の基礎理論の確立、分子認識を解析するための手法の確立、分子認識化学を駆使したナノマテリアルデザイン、高分子の自己組織化による新規高分子ナノ組織体の設計、自己組織性を有する有機ならびに有機―無機超構造の開発を行う。

(2)超分子素子の開発
   超分子素子の設計手法を確立する。新規超分子液晶素子の開発、超分子の光学的・電気的特性を光や磁場により制御する手法の開発に基づく超分子メモリの開発、外部エネルギーにより輸送を行う分子機械やエネルギー変換超分子の開発を行う。また蛋白質・酵素・核酸などの生体分子を、目的に合わせて超分子化することでセンサー、環境浄化、分離剤への応用のための分子認識ナノ素子、バイオチップ、デリバリーへの応用のためのナノバイオ材料あるいはバイオと人工系のナノハイブリッドによる分子サイボーグを構築する。

(3)超分子構造解析・物性評価・加工技術の開発
   超分子の構造や性質の開発のためには従来のマクロな解析手法では限界があるので新しい技術の開発が必要不可欠である。そのためには構造、物性評価のためのナノプローブ技術や高速の分光法の確立を行う。また超分子素子のナノ加工のための光、電気、機械的ナノプローブ技術を確立する。

(1)、(2)、(3)は互いに密接に関連しており、各研究分野の情報を互いにフィードバックしながら成果を活用することにより、短期間で大きな成果をあげることが可能となる。

6.取り組みにあたっての留意事項
   本分野は化学、物理、材料、生物、エレクトロニクスの専門家が学際的に新材料開発に望むに最適であり、全材料分野連携のアプローチを強力に推進すべきである。わが国がこの分野でイニシアチブをとるためには基盤技術確立と実用化のためのバランスのとれた組織と先端的な装置・設備の整備が必要不可欠である。

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1.分野名   (15)ナノチューブ・フラーレン
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 玉尾   皓平    京都大学化学研究所所長
  茅      幸二    岡崎国立共同研究機構分子科学研究所所長
意見聴取者   : 篠原   久典    名古屋大学大学院理学研究科教授
  田中   一義    名京都大学大学院工学研究科教授
  井上   俊英    東レ株式会社化成品研究所所長

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   ナノテクノロジー研究においては,フラーレンとカーボンナノチューブ(以下、CNTと略)を代表とする新規ナノ炭素物質は、シリコン,化合物半導体と並ぶ第3の基盤材料になることは間違いなく,材料,エレクトロニクス、環境の分野において次世代の大きな産業になりうる。この分野の挑戦的研究により、材料ナノテクノロジーが急速に発展し,ナノメートルスケール領域のエキゾチックマテリアルの創製が加速し、新たな産業が生まれる波及効果がある。また、フラーレン・CNT分野の研究の多くが、わが国の研究者独自の発想に基づくものであり、国際的水準は極めて高い。

(2)一般向け概要説明
   ナノテクノロジーのトップランナーであるフラーレンとCNTは、今後10〜20年の間に、わが国が世界に先陣を切って発展させなければならないナノテクノロジーにおける最も重要なキーマテリアルである。シリコン半導体に基づく電子技術では、もう数年の内にそのダウンサイジングや高効率化が限界にくることが明確である。フラーレン・CNT状物質はナノスケール炭素物質として、電気特性に大変に優れ、分子として半導体、金属あるいは超伝導体になる唯一のナノ物質である。これらのナノ炭素物質を用いることにより、パソコンと同程度の性能を持つ、角砂糖大の大きさのコンピューターを作ることが可能となる。
   フラーレン・CNTの実用を目指した研究開発は急速に行われており、超微細電子線放出源、フラットパネル・デイスプレイ、燃料電池、水素吸蔵体、医療用ナノカプセルなどへの応用に期待が高まっている。フラーレン・CNT物質はナノテクノロジー分野だけでなく、ITやバイオの分野でもブレークスルーをもたらす。フラーレン・CNT物質は炭素物質なので、従来の半導体物質や金属物質と異なり、環境にやさしい、まさに21世紀を担う理想的なナノ炭素物質であり、その社会的意義は極めて大きい。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
   フラーレン・CNTは電子エミッター、量子細線、導電性ポリマー、2次電池負極材、高性能触媒、水素吸蔵材料、ドラッグデリバリー、造影剤など、現在まで様々な分野で進められており、フラーレン・CNTを用いた高電圧型蛍光表示管やリチウムイオン電池は、1〜2年の内に実用品が市場に出ると予想されている。一方、フラーレン・CNTの実用化・産業化で最も重要視されている、ナノ電子デバイス(ナノダイオード、ナノトランジスター、量子細線)や水素吸蔵体による電池エレメンツ、あるいはドラッグデリバリーへの研究開発は、製造コストの問題やナノ微細加工上の問題等が十分に解決できないのが現状である。ナノ複合化技術革新による高コストパフォーマンス化とナノ機能化技術の開発が急務の課題である。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
高品質フラーレン・無欠陥CNTの超低コスト工業的製造法の確立
   フラーレン・CNTの新素材創出、電子・情報新材料、エネルギー、医薬などの分野において、実用化・産業化のキーポイントは高品質フラーレン・CNTの低コスト工業的製造法の開発にかかっている。現在、フラーレン・CNTはグラファイトのアーク放電法で合成するのが主流であるが、この方法はコストパフォーマンスが低く、工業化には適さない。フラーレン・CNTの工業的製造法に適する合成方法として、炭化水素を原料とする、化学蒸着法(CVD)法と燃焼法が注目されている。CVD法や燃焼法による高品質フラーレン・CNTの工業的製造法の確立を目指す。
   目標達成時期は5〜10 年を目安とする。目標達成により、現在グラム
   1万円(フラーレン)から数万円(CNT)の価格を、グラム当り数百円程度までのコスト低下が期待できる。

CNTの超微細加工技術の深化による次世代電子情報材料の創出
   フラーレン・CNT特有の材料・電子物性(半導体、金属、超伝導)を期待されるナノデバイス産業に直結させるためには、これらの切断・接合などの超微細加工技術の研究開発が不可欠である。直径1〜100nm のフラーレン・CNT状物質の微細加工技術の研究開発を行い、新たなナノトランジスタ構造、スピンデバイス構造、テラビットメモリなどのナノデバイスの実用化・産業化を目指す。目標達成時期は10〜15年、実用化に更に5〜10年を目安とする。目標達成により、ナノチューブアレイ形成技術が確立され、得られた知見と技術を有機的に結合したナノメートルレベルのエレクトロニクス計測技術による、次世代ナノエレクトロニクスの根幹技術の創出に多大なる貢献が期待できる。

フラーレン・CNTと炭素繊維・高分子技術の融合による新材料創出
   高品質のフラーレン・CNTと既存のポリマー加工技術を融合した、高強度度・高靱性化・高信頼性を付与したナノコンポジット材料の研究開発。電気特性に優れたフラーレン・CNTは従来にない、伝導性に優れ、フレキシブルな高分子複合材料を創生できる。また、CNTによる強化型プラスチック等新素材を用いた新たなコンポジット材料開発を推進する。 10〜20年後の実用化を目標とする。製造と応用の連帯が重要であり、製造から応用まで一貫して検討できうる企業の参加により、研究開発は加速できる。

5.研究の概要
   ここでは考えられる主な研究内容を例示する
(1)高品質フラーレン・CNTの低コスト精製法と工業的製造法の開発
   単純な炭化水素を利用した化学蒸着法(CVD)と燃焼法による高品質・低コストのフラーレン・CNTの多量合成の研究開発を行う。特に、CNTの生成後の分離・生成は困難なため、CVDによる高純度・無欠陥CNTの合成法の確立がキーポイントとなる。

(2)フラーレン・CNTの高機能コンポジット材料の創製
   高品質フラーレン・CNTと高分子加工技術を融合することにより、超高強度、軽量、高信頼性を付与した新規のナノコンポジット材料の研究開発を行う。フラーレン・CNTは電気・機械特性に特に優れた、究極の炭素繊維とも言える材料であり、その表面構造の制御、高次加工および用途開発には、日本で開発された炭素繊維分野で蓄積された技術との密接な連携が必須である。

(3)フラーレン・CNTによる微視的(ナノ)デバイスの創製と開発
   限界に達しつつあるシリコン情報技術に代わりうるフラーレン・CNTを、基礎、物性、デバイスの面から学際的・総合的に研究開発し、新たな科学技術体系を確立すると共に新規ナノエレクトロニクス情報技術の創出を目指す。デバイス製作には自由度の高い集束イオンビーム(FIB)技術や走査プローブ技術のすいを集めた斬新な方法を用い、フラーレン・CNTの超微細加工を行う。これにより、単一電子トンネル素子(SET)、ナノダイオード・トランジスターなどからなるナノデバイスの創製と開発を行う。

(4)フラーレン・CNTの反応場・吸着場としての利用による新分野開拓
   CNT内部のナノスケール極微小空間を反応場(ナノリアクター)として利用することにより、原子・分子レベルでの制御可能な新プロセス化学を開拓する。CNTの内部空間は高効率のナノスケールの反応空間であり、フラーレンを内包したハイブリッド物質を始め、各種分子の非常に効率の高い共重合性、立体選択性、位置選択性が見出されている。従来のプロセス化学では実現できなかった、新規の高機能物質を創出することが可能となる。こうした研究開発はナノサイズ領域の新材料創製、ナノテクノロジーの高精度化という、21世紀の物質・材料科学の展開に必要不可欠である。


   図.金属内包フラーレンをカーボンナノチューブ内部に
取り込んだ新規ハイブリッド物質

6.取り組みにあたっての留意事項
   本分野は化学、物理、材料、エレクトロニクスの専門家が学際的に新材料開発に臨むに最適であり、全材料分野連携のアプローチを強力に推奨すべきである。

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1.分野名   (16)クラスター、ナノ粒子
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 茅      幸二    岡崎国立共同研究機構分子科学研究所長
  井上   明久    東北大学金属材料研究所長
  早稲田嘉夫    東北大学多元物質科学研究所長
意見聴取者   : 隅山兼治    名古屋工業大学材料工学科教授
  西      信之    岡崎国立共同研究機構分子科学研究所教授
  小林   速男    岡崎国立共同研究機構分子科学研究所教授
  井上   隆敬    コンポン研究所(株)常勤顧問
  小田   正明    真空冶金(株)開発研究部長
  多賀   康訓    株式会社豊田中央研究所理事

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
   原子数が数十から数万にわたるナノ集合体は、微妙なサイズの違いが大きな機能性の違いとして反映される、材料科学の新しい挑戦の目標である。そのような差異は、(1)原子1個の違いによる集合体の電子・スピン状態の変化(2)サイズによって変化するナノメートル領域特有の階層構造の存在に起因する。バルクにおいて、電子が非局在化している金属、電子が局在化している分子も、ナノ集合体としては、その中間的挙動が期待され、それらの複合体の電子構造を広汎に変化させ、制御することが可能である。本プロジェクトは、異分野間の協力体制の下に、「電子・スピン状態を制御しつつ機能発現の起源、最小単位を解明し、階層構造を考慮に入れながら新規機能のナノ集合体を開発、構築するとともに、ナノエレクトロニクスデバイス、光機能デバイス、医薬品などナノテクノロジーの応用を念頭に置いた大量合成、システム化をめざしている。

(2)一般向け概要説明
   原子・分子が数個から数万個集合した系は、クラスター・ナノ粒子と呼ばれ、ナノメーターサイズの大きさを持つ。この大きさの領域の物質は、1個の原子や分子とも、あるいは固体・液体とも異なる特別な性質を持ち、その特性を利用した新規な機能材料を作り上げることが可能となってきた。本プロジェクトは、原子分子1個を操作できる高い科学技術を駆使し、ナノサイズの新規機能物質を構築し、そのシステム化により機能性デバイスを築きあげる基盤を提供することを目的としている。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
   ナノ粒子、クラスターに関する1960年代の久保の理論(久保効果として世界的に通用している)及び上田らの物性研究は、わが国が世界に誇る先駆的な業績である。その後、物理によるトップダウン、化学からのボトムアップ手法によって日欧米で活発に研究が展開され、その安定性、物性、階層構造などが理解されてきた。
   原子の集合数が比較的小さなクラスターにおいては、原子1個の違いにより著しく機能が相違する現象やその起源、金属クラスター超格子、生体分子機能と関連の深いナノ液滴の研究などが進行しつつある。現在、ドイツ、アメリカなどで、クラスターを単位とした新規機能固体の探索が盛んとなり、ナノ結晶材料という呼称で組織的に新規材料を開拓する開発研究が行われ、わが国が従来からもっていたポテンシャルが侵食されている感がある。同時に単一分子検出、質量数10万を超える生体分子などの単離、STMなどによる1原子操作などが可能となっている。
   応用面においては、わが国ではナノ粒子を単位とした着色材料、金属ペースト、磁気記録塗料、センサー薄膜などの実用化が図られている。これらは、何れも粒径が10nm以上の比較的大きな粒子である。一方、粒径が数nm以下のクラスターでは、超微小サイズによる量子効果が現れ、画期的な性能を発現することが種々実証されていて、将来の革新的な製品開発のシーズとして期待される。
   本研究は、「革新的な物性、機能を付与するための物質・材料技術」の研究であり、具体的な応用製品について目標を掲げることができないが、以下に、応用可能な分野について述べる。

(2)実用化・産業化への応用可能な分野
ナノ粒子の実用化:
   ナノ粒子を用いた着色塗料やデスプレイ、ナノペーストの電子工学プロセスへの応用(低温ハンダ、金属薄膜形成など)、磁性体ナノ粒子による超高密度ハードディスクなどを実現させる。

新しい集合形式をもつナノ分子金属、分子磁石、分子超伝導体の開発とバルク材料への展開:
   スピン・電子状態を考慮して機能設計された分子を単位としてナノメートル領域での構造制御を行い、伝導性、磁性、超伝導性などに画期的な新機能を有するナノ材料を構築し、次世代のナノデバイスの基本物質として提供する。また、バルクレベルのナノ構造制御材料を作り上げる。

クラスター液滴:
   液体中のナノ構造の解析、超臨界流体による化学合成、液体中での情報伝達機構の解明を行う。クラスター液滴界面からの強い場と、空間が非常に狭いことを用いて、新規の特性を引き出し応用する。例えば、細胞器官特異的ナノドラッグデリバリー、超臨界クラスター液滴中の特異的化学反応、クラスター液滴中に入る分子の種類と数を制御する反応分子デリバリー、分子数と時間を制御する情報伝達分子デリバリー、超微少空間反応場を利用した化学反応、などが考えられる。

クラスター集合磁性体の開発と応用:
   巨大磁気モーメントを示すクラスターのサイズや構造の解明、クラスター間の磁気的相互作用の制御・最適化を行う。その結果を総合して、磁気記録媒体、マイクロマグネティクス用微小磁石や薄膜トランス材料への応用を図る。

半導体クラスターの電子、光、触媒素子への応用:
   化合物半導体の優れた電子的、光学的、半導体的、触媒化学的諸特性がナノメータ尺度で一層顕著となることに着目し、超微細高機能電磁素子、光学素子、情報通信素子、環境反応素子、医薬用プローブ素子への応用を図る。

新規クラスター、ナノ粒子の探索、ナノ結晶材料の創製:
   金属、金属酸化物、合金クラスターや分子―金属複合クラスターなど、機能発現の最小単位の準安定粒子を構成要素とした新機能ナノ結晶材料を設計、製作する。

クラスターによる表面加工、表面反応:
   従来、半導体の基板表面へのデポジション、エッチング、イオン注入は単原子のイオンビームにより行っているが、原子の集合体であるクラスターイオンビームを用いることにより、高速・低エネルギー・低損傷などの加工が期待できる。また、クラスター衝突時の固体表面が超高温・超高圧とすることができるので、従来では得られない反応が生じ新たな物質合成の可能性がある。

ナノ粒子制御による光機能材料の創製と応用
   無機化合物結晶のバンド幅をその粒子ナノサイズにより制御し新しい物性、特性の発現を目指すと共にそれらを利用した有用な実用材を開発する。具体的には金属酸窒化¥物の組成とクラスター、ナノ粒子サイズを制御する事により紫外光や可視光を吸収し粒子表面触媒活性の飛躍的向上を目指す一方、金属酸窒化物クラスター、ナノ粒子は紫外光、可視光、赤外光等との相互作用(吸収、反射、屈折、位相制御、等)に特徴ある性質を発現すると期待される。これらの光物性は今後急速に普及すると予想される光通信等のIT産業分野に大きなインパクトを与えると期待される。いずれにせよ、クラスター、ナノ粒子の発現する光物性、特性を実用に結びつける可能性を示唆するものである。

有機クラスターの制御と電界発光素子への応用
   現在有機ELデイスプレイが世界的規模でブームとなっている。これらの次世代デイスプレイの最も重要な機能を支配するAlq3, NPD等の有機超薄膜等は通常真空蒸着等で作製されるがそのナノ薄膜の成長過程に関する研究はほとんど行われていない。バルクを出発材料として真空中での分解、輸送、成長過程を経てナノ薄膜に成長する。特に分解過程ではクラスター状に分解する事が知られているがそれらのクラスターの性状と成長した有機発光ナノ薄膜との相関は不明である。ここでは、有機フォトニクス
   材料のクラスター、ナノ粒子物性と発光素子への影響についての研究を行う。これらの基礎的研究は21世紀のデイスプレイのみならず平面照明の実現、有機レーザー、有機トランジスター等の次世代デバイスの開発にも大きく道を開くと期待される。

付記*クラスター・ナノ粒子の応用例(ケース・スタデイ)
(1)超高密度磁気記憶素子
   数個の原子で構成される遷移金属クラスターの中で、電荷の印加状況により磁性が著しく変化するものがあり、記憶素子への可能性がある。このクラスターの大きさは数Åなので単純計算すると1014ビット/in2となる。現在の磁気記録の記憶容量はギガ(109)ビット/in2レベルなので、クラスター素子にすると一気に5桁も性能が向上する。過去10年間の記憶容量向上が2桁弱であることと比べると画期的なことである。

(2)次世代型超廉価触媒
   現在、自動車の排ガス浄化触媒には粒子径10nm前後の白金やロジウムなどの貴金属が使用されている。今までの研究で金属クラスターの10量体以下で反応性が急激に向上する例が報告されているので、もし数量体の白金クラスターに置き換えることができれば、白金の使用量を少なくとも1/10、上手く行けば1/100に激減できる画期的な触媒ができる。

(3)超微細電磁素子
   磁性材料による磁心を必要とするコイルやトランスなどのインダクタンス部品は、現在の半導体ICに混載されていないが、もしそれが可能となればより総合的なICとなり、情報通信機器の小型・薄型化に大きく貢献できる。しかし、ICパッケージに収まるように磁心を小さくすると磁気特性が低下するので実用に至っていない。そこで微小サイズにしても透磁率特性に優れた磁性材料の開発が望まれる。たとえば、磁気特性に優れた金属クラスターを研究し、クラスター集合磁性体とするか、あるいは高周波特性の良いナノグラニュラー磁性体の磁性粒子(粒径:数nm、サイズ不揃い)を、サイズが小さく粒径の揃ったクラスター磁性体に置き換えて用いることなどが考えられる。

5.研究の概要
   クラスター・ナノ粒子の分野で、前節で述べたような実用化・産業化を達成するために、大枠次の研究が必要である。 まず、革新的な物性や反応性などの特異な機能を発現するクラスター・ナノ粒子の探索、創製を行う。次にこれらのクラスター・ナノ粒子を基板上に配列・固定する方法あるいは安定化させる方法の研究が必要である。その後、これらのクラスター・ナノ粒子を工業材料とするための大量合成用基本プロセスの研究を行う。さらに、これらの研究を支援するものとして、サブ・ナノからナノメートル領域での計測技術や理論計算などの技術開発を平行して行う。 以下に具体的な研究テーマの概要を述べる。
(1)革新的な物性をもつクラスター・ナノ粒子の探索・創製
・クラスター・ナノ粒子の物性とその発現機構の解明
・構成元素:単一元素系、多元系、金属/無機/有機複合系

(2)革新的な反応性をもつクラスター・ナノ粒子の探索・創製
・クラスター・ナノ粒子の反応性とその発現機構の解明
・反応場:気相中、液相中、液滴中、固体表面

(3)クラスター・ナノ粒子生成法の研究
・生成素過程の解明と最適化
・汎用的、高効率、高精度サイズ選別

(4)クラスター、ナノ粒子の光物性制御と光デバイス、光機能材料への応用・金属酸窒化物クラスター、ナノ粒子のバンド制御と可視光動作光触媒の創製・有機クラスター、ナノ粒子の形態制御とデイスプレイデバイスへの応用

(5)クラスター・ナノ粒子の基板への堆積、配列方法の研究、ソフトランディング・クラスター・ナノ粒子ドットの自己配列制御

(6)工業材料化の基礎研究
・クラスター・ナノ粒子の安定化・大量合成の基本プロセス(グラム・オーダー)

(7)ナノメートル領域での計測技術、理論計算
・単一分子検出技術
・ ナノ構造体のキャラクタリゼーション技術

   このような研究を通して得られた成果が、次世代情報通信システム用ナノデバイスや環境保全・エネルギー利用高度化材料を実現するための不可欠な基盤技術となる。但し、これらの研究は、デバイス化・製品化の探索ないし基礎研究であって、研究成果の中で、実用化の可能性のあるものから順次、応用研究チームを編成し、応用・開発研究へと進むことになる。その時期はおよそ5年後以降から技術移転が行われると考えられる。

6.取り組にあたっての留意事項
(1)クラスター、ナノ粒子は、サイズに応じた階層構造が存在し、それらの知見を活用することなしには、有効な研究開発が遂行できない。金属を例に取れば、数nm程度までは、井戸型ポテンシャルが適用された電子の殻模型で説明され、表面原子の占める割合が物性を左右する。それ以上では、幾何学的安定性(表面原子を考慮しつつ)が問題となり、更に大きくなると長周期的構造が支配的になる。これらの条件を配慮しつつ、ナノ構造を制御し、目に見えるサイズのデバイス化を達成するためには、ナノサイエンスの基礎から機器やシステムの専門家までの広い分野をカバーする協力体制とネットワークが必要不可欠である。但し、100 nm程度を単位とする素子の開発は、従来の知見をもとに研究開発が比較的容易である。このように、2つの局面を考慮しつつ、研究開発を推進する必要がある。

(2)前述のように本研究は、産業化できる製品を生み出すために、革新的な物性、機能を付与するための物質・材料技術の研究、すなわちシーズ創出段階にあたる。本研究成果を実用化に結び付けるためには、得られたシーズ技術をトランスファーする適切な製品開発者を選ぶことと、その後の連携作業により、実用化のための更なる研究課題を発掘し研究者側にフィードバックすると同時に、製品開発者側で担当すべき課題を設定することが重要である。従って、研究の進行状況、学術的成果を如何に実用化に結び付けるかという観点からの研究マネジメントが大きな鍵を握ると考えられる。

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