1.分野名 (7)バイオ分子デバイス
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 川合知二  大阪大学産業科学研究所教授
猪飼篤  東京工業大学大学院生命理工研究科教授
意見聴取者   : 松下電器産業()先端技術研究所主任研究員

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 DNA、プロテインなどのバイオ分子を用いた生体に近い情報処理能を持つ素子やDNA、プロテインを載せた五感機能補助装置や高性能診断用チップを創製するとともに、それらの基本動作原理ならびに作製・加工技術を確立する。

(2)一般向け概要説明
 生物の自己組織化を模倣することで、ナノスケールのサイズで制御を行い、新しい動作原理を持つデバイスや超集積素子を開発する。例えば、DNAに適切なプログラムをすることで自動的に電子回路を作製、修復、あるいはスイッチする知的回路の開発を目指す。例えば、手のひらサイズのスーパーコンピューターの開発を目指す。さらにナノスケールでDNA、プロテインを微細なチップ上に高密度に集積させ、疾患の予防と診断、医薬品の開発に新しい道を開く新技術の開発を行うとともに、それらの基礎技術の確立を行う。
 ナノテクノロジーを産業に結び付けるには、大量生産することが不可欠であり、一方、材料のサイエンスはもはや使い捨ては許されず、環境に優しいエコマテリアルの研究開発が要求されている。バイオ分子デバイスは自己組織化により大量生産を可能にし、酵素により効率よく分解されるため、最も有望な環境調和型の新規機能性材料の開発が期待される。バイオ分子デバイスは、今後、IT、材料、医療、環境・エネルギー等、さまざまな分野への応用が期待され、一般社会に多大な利益をもたらすことが期待される。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
 バイオ分子の自己組織化を利用して、ナノスケールの領域を制御することで、新しい素子や材料の開発を行い、産業に応用した例は、まだほとんど見られない。一方、DNA、プロテインを集積させたバイオチップは実用化されているものの、製造装置や解析装置にコストがかかるため、研究室使用レベルをこえた汎用性に乏しいのが現状である。バイオ分子デバイスの開発による新原理素子の確立、高集積化、高コストパフォーマンス化、生産技術革新が急務の課題である。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
自己組織化を利用したバイオ分子デバイスの開発
 シリコンデバイスとは異なる動作原理、超高速化・超集積化・超低消費電力化・超軽量化された素子の研究開発。現在の微細加工技術では10ナノメートル周辺が限界と言われており、回路の幅が2ナノメートルのDNAを用いれば集積度は数十-数百倍と飛躍的に向上される。さらに4つの塩基に異なる種類の粒子あるいは分子を付加させアドレスを打つことで、4ビット論理回路の構築が可能になる。また、自己組織化を用いてプログラムされた電子回路が自動的に形成・修復される知的素子の創製、酵素で効率的に分解される環境調和素子の創製する。目標達成時期は10〜15年、実用化にさらに5〜10年を目安とする。
 目標達成により、超集積システム、超高速情報処理システム、環境循環型生産技術システムの創製等、高度IT化、省エネルギー化に多大な貢献があるものと期待できる。

ナノバイオ分子?シリコン素子インテグレーションデバイスの開発
 既存の電子デバイスとバイオ分子をナノスケールで複合化し、複合化によって初めて発現する機能を有する新原理デバイスの開発。実用化で求められる高耐久性、高強度、高安定性を付加した機能調和材料の開発。目標達成時期は10〜15年、実用化にさらに5−10年を目安とする。
 目標達成により、超集積システム、超高速情報処理システム、環境循環型生産技術システムの創製、革新的ボトムアップ-トップダウン融合技術の創製等、高度IT化、省エネルギー化に多大な貢献が期待される。

ナノスケール制御された高集積バイオチップの開発
 非標識DNA、プロテインを用いた検出法の開発。ナノスケールでDNA、プロテインを高集積させたバイオチップの開発。現在の市販されているDNAチップは、1平方センチメートルに約25万のDNAが集積されているが、新検出法と微細加工技術を組み合わせることで約1億まで集積度を向上させることが可能である。目標達成時期は10−15年、実用化に更に5−10年を目安とする。
 目標達成により、迅速かつ簡便な新診断法の開発、新治療技術の開発・確立等、医療・創薬に多大なる貢献が期待される。

5.研究の概要
DNAエレクトロニクスの開発
 現在の半導体の回路幅は100〜200ナノメートルだが、微細加工技術では10ナノメートル近辺が限界とされており、数ナノメートルで動作する素子の開発が強く求められている。そこで、2ナノメートルの幅を持つDNAの電導性をナノスケールで制御し、実用化可能なナノ素子を開発する。具体的には塩基対、分子サイズと電導性の相関関係を実験的、理論的に明確にし、DNA単一分子の量子物性を確立するとともに、その結果を利用して分子ワイヤー、p型、n型半導体、ダイオード、トランジスタの創製を行う。さらには塩基対に磁性粒子あるいは磁性分子を付加することで、ナノスケールのメモリを開発する。

生体分子の自己組織化を利用したデバイスの開発
 DNA、プロテインが自己組織化を行うメカニズムを解明するとともに、生体分子に適切なプログラムを組み込む原理・方法を確立し、プログラムに従って電子回路が自動的に形成されるようなデバイスの開発を行う。例えば、DNAが自らネットワーク構造を形成することを利用してナノスケールで電子回路を制御し、高集積、低消費電力化したデバイスの創製を行う。

ナノバイオ分子とシリコン素子が融合したデバイスの開発
 大きな部品から微細加工技術により微小な部品を作るトップダウン技術と、一方、原子や分子を組み上げるボトムアップ技術の融合化を行い、バイオ分子とシリコン素子の両方の特性がナノスケールで複合したデバイスを開発する。例えば、バイオ分子は多彩な機能を単一分子で完結させることが可能であり、これを微小な半導体チップに集積させ、半導体の電圧-電流特性に対応してバイオ分子の機能をスイッチするデバイスの開発が考えられる。またシリコンデバイスと脳細胞のインターフェースをとることにより脳の老化にストップをかける埋め込み型補助記憶装置の開発を行う.

ナノスケール制御バイオチップの創製
 現在のバイオチップは蛍光標識しレーザーで検出するため作業的、価格的、携帯的面から汎用性に乏しい。そこで蛍光認識を用いない新たな検出法を確立し、さらに微細加工技術によりナノスケールでDNA、プロテインを集積した高感度、高密度、低コスト、携帯性で優れたバイオチップを開発する。

6.取り組みにあたっての留意事項
 本分野は化学・固体物理・生物・医学の学際領域に位置付けられるため、各専門家が密に連携して開発を推進することが強く望まれるとともに、学際領域に従事してきた研究者を中心に、多角的なアプローチを強力に推進すべきである。

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1.分野名 (8)超高感度知的センサー技術
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 川合 知二  大阪大学産業科学研究所教授
江刺 正喜  東北大学未来科学技術共同研究センター教授
意見徴収者   : 山崎 弘郎  横川総合研究所元会長 (東京大学 名誉教授)
井上 悳太  コンポン研究所 所長
濱川圭弘  立命館大学副総長

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 人間の五感に匹敵する、又は五感を越える感度を持つ高感度な外場応答材料などによるインテリジェントなセンサー技術の開発を行う。情報処理機能を持つ使いやすいマンマシンインターフェースとして,高感度かつ知的なセンサーを開発する。

(2)一般向け概要説明
 今日、センサー技術が関与するニーズは、医療、公害防止、災害防止、ロボットなどあらゆる分野に渡っている。今後更に急激に発展していくと考えられる高度情報化社会では、従来からの単に情報を検知するセンサーだけではなく、多様な情報を超高感度で検知し、かつ情報を処理・伝達できる知的センサー・材料の開発が、より一層重要となる。この要請に対し、生体の五感(嗅覚(分子)、触覚(圧力)、視覚(光)、聴覚(音波)、味覚(分子))を模倣し、また人間の五感でも感じられない現象(磁場、電場)を検出する超五感センサー、必要な情報をセンサー自身が取捨し、通知・対応できるインテリジェントセンサーを開発する。
 具体的には現状で使用されるセラミックセンサー、半導体センサー、高分子センサー、金属センサー材料の原子・分子配列制御による超高機能化・新材料開発、非線形な応答を示す材料を用いた自己情報判断機能の開発、ナノレベルでの複合化によるセンサーの多機能化・超小型化を行う。今後、ウェアラブル健康診断チップなどの医療分野、ロボットによる宇宙開発、公害監視、設備安全診断、省エネルギーなど非常に多くの分野への応用が期待され、その社会的意義は非常に大きい。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成の目途
(1) 現状
 ロボットや医療などへの用途で高感度な知的センサーの開発が始まりつつある。単一の情報を検出するセンサーとして優れたものは存在するが、必要とされる情報は多岐にわたる。また得られた多くの情報から必要なデータを得るためには、非常に煩雑な情報処理を必要とし機器も大型化するため限られた用途にしか使用できないのが現状であり、国民生活に広く普及させるためには超小型で扱いやすい超高感度、多機能な知的センサーを開発する事が急務である。

(2) 実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
 将来目標として安全、快適な生活環境や人間型ロボットに用いられる、五感に匹敵する、あるいは五感を越える高感度、多機能センサーの開発、および得られた情報に基づき脳の様に適切な出力・応答を示す知的センサーの開発を行う。暑いと感じるとその情報を受けとり、好みの温度になるようにクーラーに信号を送り部屋を適温に冷やすなど、多くの情報を超五感センサーで受けとり、適切な反応をメモリ自身が判断する。システムを分子、ナノ単位で小さな薄膜チップの中に集積し、万能でしなやかな情報処理ができるコンピューターを耳のうしろにつけて持ち運びができる(ウェアラブルなデバイス)までの小型化を実現する。

超高感度センサー・ 材料の開発
材料的には現在、セラミックセンサー、半導体センサー、金属センサー、高分子センサー等が利用されている。これらの原子・分子配列制御、さらに薄膜化、ナノ粒子化、繊維化などの形態化する事により感度を現在の1000〜10000倍に高める。また目標達成は5〜10年、実用化に更に5年を目安とする。

知的・脳型センサー・材料の開発
 重要な情報のみを出力として取り出す"判断"機能、"学習記憶"に対応する可塑性をセンサーに持たせることにより、しなやかな情報処理を材料・デバイスレベルで行う。
 目標達成は10〜15年、実用化に更に5年を目安とする。

ナノレベルセンサー集積技術の開発
 上記のセンサー群を分子・ナノレベルで集積する薄膜・人工格子作製技術の開発、またはナノアレイ作製技術の開発。単に小さくするだけでなく、各センサー材料の持つ情報入力に対する物性変化が、相互に関連するよう工夫し積層・配線した、情報伝達機能調和センサーを作製する。
 目標達成は10〜15年、実用化に更に5年を目安とする。

5.研究の概要
(1)超五感センサーの開発〔臭覚、触覚、視覚、聴覚、味覚〕
光に対しては適切なバンドギャップを持つ有機分子、ガス検出機能を持つ半導体等、対象は多岐に渡る。これらの原子・分子配列制御、さらに薄膜化、ナノ粒子化、繊維化などの形態化により感度を現在の1000〜10000倍に高める。

(2)人工生体情報型のセンサー創成技術
人が持つ知的な情報処理機能を持つ、人に近いDNA、プロティンなどを用いた自己発展、自己修復を行うセンサーを開発する。

(3)微細構造制御による超感度センシング技術とナノ力学センサー
極端に微細な構造を用い分子レベルの力などの超高感度なセンサーを開発する。

(4)センサー対応機能調和人工格子作製技術
多くのセンサー材料・素子をナノスケールで集積するための、薄膜多層構造、ナノアレイ構造を作製する技術を開発する。さまざまなセンサー機能をナノスケールで集積した素子により、多くの情報を同時に検出することが可能でかつ非常に小さな(ウェアラブル)センサーデバイスを作製する。

(5)脳の持つ知的な機能(判断や学習機能)を備えた、インテリジェントなセンサー
たとえば、ある閾値以上の電場があるとシグナルが得られる反強誘電体等の判断機能材料や、電場を受け続けるとシグナルが大きくなる強誘電体材料の"知的センサー・材料"開発を行う。さらに各種の超高感度センサーと融合しインテリジェントセンサーを作製する。

6.取り組みに当たっての注意事項
 本分野は、物理現象、化学反応、生物メカニズムなどを上手く利用して情報を検知するものであり、有機、無機、金属材料工学および物性物理分野の緊密な連携の元に推進すべきである。

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1.分野名 (9)IT化医療:ドラッグデリバリー・ナノマシン
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 猪飼 篤  東京工業大学大学院生命理工学研究科教授
江刺正喜  東北大学未来科学技術共同研究センター教授
意見聴取者 : 細木茂行  日立製作所
 中央研究所先端技術研究部主任研究員
浜 祐子  旭硝子(株)ASPEX事業推進部リーダー
大川 隆  大研化学工業(株) 研究開発部長
半田 宏  東京工業大学フロンティア教授
林 利彦  東京大学大学院総合文化研究科教授
伊藤嘉浩  徳島大学工学部教授
中元隆明  獨協医科大学心血管肺内科学助教授
下河邉明  東京工業大学精密工学研究所教授
中山喜萬  大阪府立大学大学院工学研究科教授

3.当該分野の概要
(1) 専門的概要説明
 身体各部の病因細胞をターゲットとして正確に治療用医薬を配送し,患部情報を収集しつつ病因細胞内への医薬注入を行い、超精密化MRI援用の外部指示を受けつつ現場での自動駆動ロボット作用により病因細胞除去手術を施すことのできる医療用ナノデバイス及びナノテクマシンの開発。これと並び病変部状況とこれに対する治療効果の監視・追跡結果を患者体内と医療技術者を双方向的に結んで高度IT化通信を行う統合システムの開発を行う。

(2) 一般向け概要説明
 経口投与される医薬品は,病因部への配送過程で不要なものとして分解されたり、健康な細胞に配送されて副作用を生み出したり、長期間体内に残って害をなすなど、今後ますます高価になる医薬品の無駄と病人の消耗を生み出す場合が多い。本研究課題は治療における無駄と患者の苦痛を省くため、医薬配送の標的特性が格段に良く、疾患部到達後は単一細胞レベルの可視化と周辺生化学指標の分析結果に基づく医薬の細胞内注入行うナノデバイス、またこれと並んで単一細胞レベルの選択性をもって動作する病因細胞除去手術用等のナノテクマシンの開発を行う。上記の治療には例えば,高精度MRI等による外部監視下に、電磁場の作用で医薬カプセルを開閉するなど疾患部と医療技術者間での双方向IT化通信に基づく医療及びドラッグデリバリーを行うマシン等の開発が重要となる。また治療過程とその効果を監視・追跡する双方向通信システムの開発により公開医療を可能とし、医療ミスを減少させ患者の負担を軽減する。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1) 現状
 ドラッグデリバリーシステムとしては、人工脂質膜を利用したリポソームや無毒化したウイルス、あるいは高分子を素材としたカプセルが利用されている。機能としては長時間にわたり医薬が放出される徐放型、体温や血中グルコース濃度に反応して医薬放出を行うインテリジェント型、ガン細胞に特有な膜抗原を目印として病巣を攻撃する標的型などが開発されている。また血中グルコース濃度に応答して自動的にインスリンを放出する体内用ポンプの例は将来のナノマシンによる治療につながる思想を持つ。将来構想としては、標的細胞を間違いなく攻撃するが他の細胞に影響を与えない高度なターゲット精度、放出医薬が患部の細胞等に対してどのように働いているかを位置精度良くモニターする方法、人体各部にナノメートル精度で位置制御しながら医薬等を搬送し必要な手術をする無痛システム、遺伝子治療を確実に行うナノマニピュレータの開発が待たれている。

(2)実用化・産業化の具体的目標及び達成時期の目途
高精度ターゲット特性を持つITドラッグデリバリーデバイス及び
 素材開発
 高精度ターゲット特性を持ち、病因細胞にのみ治療用薬物を配送し、患部の生化学的指標をモニターしつつ病状に相応しい医薬放出を行うドラッグデリバリーデバイスとその作製を可能とする材料の開発。例えば、病状に応じての医薬の放出を外部通信や電磁場印加によりコントロールできるIT化カプセルの開発を行う。基礎技術に5〜7年を要し,実用化・産業化には3〜5年を要するであろう。

疾患部細胞手術を可能とする無痛ナノテクマシン開発
 アクチュエータ付きナノメートル領域マニピュレータによる痛みを伴わない病因細胞(微小ガン組織等)の限定切除を目的として、超精密化MRI、CTスキャン等による観察下に外部指示と自動駆動操作による細胞手術を行う複合化ナノテク手術マシンの開発。基礎ナノテクノロジー技術開発に7−10年を要し、実用化・産業化にはさらに5年を要するであろう。

治療効果発信のためのIT化病巣モニターシステム
 医薬の確実な効果を各微小病巣レベルで評価でき、その結果を外部に非接触で発信できるIT化モニター通信システム開発し、医療行為支援を強化すると同時にこれを公開して医療ミスに関する患者の不安を解消する。モニター開発に5−10年を要し、人体埋め込み実験による安全確認にさらに5年を要するであろう。

遺伝子置換操作用ナノマニピュレータ開発
 細胞レベルの器官再生治療における遺伝子置換治療法をナノマニピュレータによる直接操作で行う方法の開発。技術開発に5年を要し、病院での治療法としての確立に5年、さらに企業技術確立にはさらに3年を必要とするであろう。

5.研究の概要
(1) 高精度IT化ドラッグデリバリーデバイス開発のための
ナノテクノロジー
 病巣へのターゲット性を格段に向上させるために、病因細胞の表層特性を詳細に記憶し、複数のターゲット因子の多重認識によりターゲット精度を格段に高めたドラッグデリバリー用デバイスを開発する。このデバイスは生体患部の生化学的分析状況をモニターしつつ自主的判断と外部からのIT通信・電磁場・光刺激等の制御により適量の医薬を放出する。デバイス開発の基本となる素材・材料開発と生体試験が重要な課題となり、生分解性高分子、ポーラスシリコン、ナノチューブ素材等を検討する。放出医薬としては細胞内に直接注入され、免疫的な副作用を持たない低分子量キャリア型を開発する。

(2)病因細胞除去手術を可能とする自動マシンの開発とナノテクノロジー
 あらかじめ同定された病巣患部までの誘導後、精密位置制御をマシンが自身の持つ病因細胞認識機構と超精密化MRI、CTスキャンによる外部支援を受けつつ行った後、微小ガン化病変部等を除去及び投薬治療するナノテクマシンを開発する。今後予測されるターゲット性の高い幹細胞移植等の高度手術を行うには、外部指示を受けて行うIT化手術マシンの部分とナノテクマシンの自動駆動操作で行う部分を高度に複合化した最適化システムを完成する。

(3)治療効果モニター用双方向通信ナノデバイス開発用ナノテクノロジー
 ドラッグデリバリーシステムによる投薬及び病変部手術による治療効果を現場において連続的にモニターし、発信受信機構を通じて外部に高度IT送受信するシステムをナノテクノロジーの技術を用いて開発する。この開発には手術現場に留まり周辺部の観察と生化学分析を常時行うオプティコビオケミカルな分析システムと、体内外へ非接触的にデータの送受信を行う通信システムからなる。

(4)細胞レベルの高精度遺伝子置換治療を可能とするナノテクノロジー
 細胞培養による器官再生が可能となりつつある現状から、将来は培養初期細胞の染色体を摘出し、その遺伝子DNAに対する直接的置換手術を行えるシステムを開発する。この目的に最も重要な要素技術はナノチューブを利用したナノピンセット、ナノカッター,ナノ接着などの技術革新である。

 以上の4課題を推進し、ドラッグデリバリーと病因細胞除去の標的精度を単一細胞レベルに高め、安全・無痛・高効率医療効果を得るデバイス及びIT通信化ナノテクマシンの開発をトータルシステムとして行い、国民生活に資する研究開発成果をあげ、医療の信頼性を高め、日本を世界の医療産業の一大中心とする。

6.取り組みにあたっての留意事項
 この分野の研究開発にはナノテクノロジー分野全体の進展が関わり、(1)ナノテクマシンとしての最適材料開発、(2)ナノテクマシン設計作成技術とその駆動機構開発、(3)生化学的に高度なターゲット認識システム開発とMRIによる標的確認機構、(4)体内で動作し外部へ発信する超高度集積型生化学分析・化学センサーシステム開発、(5)病巣の単一細胞レベルでの映像化及び高度IT利用型通信デバイス開発等を共同開発作業として進める必要がある。

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1.分野名 (10)ナノソフトマシン
2.分野検討者
検討担当委員: 柳田敏雄  大阪大学大学院医学研究科教授
猪飼 篤  東京工業大学大学院生命理工学研究科教授
意見聴取者 : 難波啓一  松下電器産業(株)
 先端技術研究所リサーチディレクター

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 ナノソフトマシン分野は、タンパク質分子ナノマシンの構築・動作原理を解明し、生体分子に学んだ医療、工学ナノマシンを実用化することを目的とする。人体を含め、いかなる生命体も個々の細胞が生命活動の基本単位であるが、そのたった10ミクロン立方程の小さな体積の中に数万種類の蛋白質分子ナノマシンが高度に集積し、信号やエネルギーをやりとりする膨大でかつダイナミックなネットワークを形成している。その機能集積度は100メートル立法のハイテク工場にも勝る。それは、100メートルを10ミクロンに対応させる1千万倍という縮小率が1ミリメートルの部品サイズを原子のサイズ0.1ナノメートルに対応づけることから明らかなように、蛋白質分子ナノマシンでは原子1つ1つが機能部品として使われ、組み立てられているからに他ならない。これはまさに究極のナノテクノロジーである。そして、水素結合と呼ばれる弱い結合力のネットワークによる特異な立体構造構築原理のゆえに、人工機械とは全く異なる物理原理により、エネルギーロスのほとんどない高効率エネルギー変換や、ダイナミックな超並列信号伝達処理が実現されており、それが生命機能の柔軟で良く制御された精緻なしくみを支えている。その究極の姿が、現在のコンピューターが及ぶべくもない高次脳機能である。

(2)一般向け概要説明
 生命機能は、すべて自然の創り上げたナノテクノロジーに支えられており、その基本原理を学び技術応用展開に結びつけることに大きな夢と期待がかかるナノテクノロジーの宝庫である。その成果技術は、例えば人の病気疾患の原因を単一細胞レベルで短時間に解析しその治療法を生命の基本的機構に基づいて論理的に開発すること、現在の人工機械では不可能な高効率エネルギー変換システムの構築、人の脳を越える超大容量インテリジェントメモリやプロセッサーの実現等々、今までの技術では全くの不可能を可能にするであろう。このナノテクノロジーによって、石器時代から半導体LSIによる高度情報化時代へと人類が上ったステップと同程度の大きなステップを、我々は極めて短時間に踏み越えようとしている。

4.現状および実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)個々の蛋白質ナノマシンの動態を観察、操作し、分析するための1分子テクノロジーはほぼ確立している。これを発展させ、細胞内での個々の蛋白質ナノマシンの動きを立体的に、高時間分解能、高空間分解能で観察して、その機能解明と相互作用ネットワークの把握によって単一細胞診断・手術や新薬の開発およびスクリーニングなどを行う技術は、現在の技術を基盤として数年から10年以内に実現する。その結果は医療の方法を根本から変えると期待される。
(2)個々の蛋白質複合体ナノマシンの動作機構をより深く理解して、例えばそれを制御するドラッグデザインを精度良く行うためには、動作中のナノマシンについて構成原子の立体配置を高分解能で求めることが必要で、X線結晶解析やNMRには不可能な1分子立体構造ナノイメージングを実現する必要がある。そのため、蛋白質ナノマシン専用の極低温超高分解能電子顕微鏡の開発が望まれている。これも十分な研究投資さえあれば、10年以内に実現可能であろう。この装置は電子線トモグラフィー細胞診断法にも活用する事ができ、(1)と同様に医療、医薬開発にも威力を発揮すると期待される。
(3)上記のナノマシン動態観察および構造、相互作用解析技術を駆使して、細胞分化や細胞死など細胞生物学的重要問題や、分子モータのエネルギー変換機構などの物理学的重要問題にアプローチし、生命機能の基本的解明を成し遂げた上で、それを基盤に論理的医療技術、医薬開発の効率的推進を図り、また、高効率高密度エネルギー供給装置、超高集積度情報処理装置の開発を目指す。20年以内の実用化・産業化を目指す。
(4)蛋白質ナノマシンの動態観察および構造・相互作用解析によって得られるこのダイナミックなナノ構造体の構造設計原理を基盤とし、また、球状、棒状、リング状、チューブ状など、既知の蛋白質立体構造をナノ構造ユニットとして組み合わせることにより、複雑な機能を持つ人工ナノマシンやナノ構造を高集積度で立体的に組み上げ、超高集積デバイスとして応用することも可能である。これらも20年以内の実用化・産業化が期待される。

5.研究の概要
 目標(1)は個々の分子ナノマシンの動態を高時間分解能で立体的に追跡し操作する技術開発、目標(2)は個々の分子ナノマシンの立体構造と相互作用を高空間分解能で解析する技術開発、目標(3)と(4)はそれらの解析技術を活用して生体内のナノスケールシステムの機能と動態からその動作原理を明らかにし、細胞診断・手術などの医療応用に役立て、また高効率のエネルギー供給、エネルギー変換、超並列ダイナミック信号処理システムの構築など、工学的応用を目指そうとするものである。理学、工学、医学など、さまざまな研究分野の横断的かつ融合的な協同作業が必要とされる。また、装置や方法論の開発に際しても、適切な観察および解析対象となる生体系ターゲットを選ぶことが重要となる。
   ただし、ナノテクノロジーでもっともハードルが高い大量生産技術の問題が、蛋白質ナノマシン立体構造の非常に高効率、高精度の自己構築能力を利用することですでに解決されており、この点が実用化・産業化に際して、他の硬い材料を用いたナノテクノロジーに対して、最も有利で注目すべき点である。

6.取り組みにあたっての留意事項
 この分野のアプローチでは、開発目標に挙げられた解析法や解析装置が幅広い産業分野で有効利用される期待とともに、目標達成のために生命のしくみをナノスケールで観察し解明する必要性から、ゲノム塩基配列情報を基盤としたライフサイエンスにおける最重要問題をも解決する可能性を秘めており、さらには複雑系システムの挙動の基本的理解といった物理学的重要問題にも関わって、既存の工学的概念を根本から覆すデバイス動作原理の発見につながる可能性も秘めている。よってこの研究分野を、十分な投資によって積極的に推進することが強く要望される。さまざまな研究分野の横断的、融合的、かつ日常的な協同作業が必要とされるだけに、研究拠点整備に当たっては物理的な研究者間の相互作用が十分に得られるような配慮が重要である。

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1.分野名 (11)ナノ組織エネルギー貯蔵・変換材料
2.分野別計画検討者
検討担当委員: 岸 輝雄  物質・材料研究機構理事長
北澤宏一  東京大学工学部教授
意見聴取者 : 櫻井庸司  NTT通信エネルギー研究所
 エネルギーシステム研究部主幹研究員
飯島澄男  名城大学教授・NEC主席研究員
 産総研新炭素系材料開発研究センター長
石原達己  大分大学工学部助教授
秋田 調  電力中央研究所部長

3.当該分野の概要
(1)専門的概要説明
 原子レベルにおいて制御された界面構造、単一原子層構造、ドメイン構造及び欠陥構造の設計技術を確立することにより、高効率太陽電池、二次電池、高密度水素貯蔵ナノチューブ、低温作動型燃料電池及び超伝導小型エネルギー貯蔵素子(マイクロSMES)などの性能を飛躍的に向上させたエネルギー貯蔵・変換材料の開発を行う。

(2)一般向け概要説明
 原子のレベルで、結晶構造などの微細構造を設計することで、従来難しいとされた発電/蓄電の両立による太陽エネルギーの有効利用(利用効率2倍以上の向上)、苛性ソーダ製造プラントから膨大に発生する水素の高密度貯蔵と低温発電用酸化物型燃料電池材料や全固体高分子型燃料電池材料を組み合わせた次世代発電材料、高効率発電・貯蔵システム用の高性能超伝導材料などの開発を目指す。
 本研究領域では、物質が本来持つ構造を適切な形に作りあげることにより、従来のエネルギー貯蔵・変換材料が有していた性能の限界を2倍から10倍に引き上げることを目指す。こうした次世代ナノ組織エネルギー貯蔵・変換材料の開発は、情報通信、医療、環境(二酸化炭素発生抑制、資源の有効利用など)をはじめとする、あらゆる分野への応用が期待され、その社会的波及効果は極めて大きい。

4.現状及び実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
(1)現状
 エネルギー貯蔵・変換材料としては、太陽電池、二次電池、水素貯蔵材料(合金、ナノチューブ)、酸化物型・高分子型燃料電池、超伝導を利用した発電・貯蔵用線材の検討がなされているが、効率や性能が不十分であることから、従来記述に比較してコスト競争力に欠ける。
 太陽電池は、太陽光に含まれる特定波長域の光のみを利用するため、エネルギー利用効率は10%程度と低い状態にあり、2次電池は無機材料による全固体化が達成されておらず、積層化時における信頼性の確保、半導体デバイスとの集積化が困難な状況にある。
 燃料電池においては、1W/cm2級の高い発電効率を示す全固体高分子型固体電解質(自動車への応用)や摂氏500度以下の温度で同程度の発電効率を示す酸化物型燃料電池用固体電解質(分散型自家発電、自動車への応用)の開発を行うことが強く望まれているが、その為には、革新的な材料開発の視点が必要とされている。加えて、高分子型燃料電池開発においては、燃料である高純度水素の安定供給のための高密度水素貯蔵材料の開発無くしては実用化が難しく、高密度水素貯蔵材料の研究が強く望まれている。
 他方、全てのエネルギー貯蔵・変換材料に不可避の要素として内在する損失を、限りなくゼロにできる超伝導線材を利用したエネルギー貯蔵装置(SMES)は、究極の技術としてその実用化が切望されている。高温で使用出来るほど超伝導化のメリットは大きいが、現在20K以上の高温で利用出来る信頼性の高い高性能超伝導線材は開発されていない。

(2)実用化・産業化の具体的目標並びに目標達成時期の目途
太陽電池並びに2次電池用材料開発における目標
 太陽電池においては、その効率を2倍以上に高める目的で、発電2次電池を用いたエネルギー貯蔵機能を組み合わせた素子の開発と高効率素子作製のための構成部材界面構造の原子レベルでの制御。2次電池の高密度化においては、無機全固体型電池の開発とその積層化による高密度電池の開発。目標達成は10年以内、実用化は15年後を目指す。

高密度水素貯蔵材料並びに高性能燃料電池用材料開発における目標
 高密度水素貯蔵材料では、単一原子層からなるナノチューブを作成し、水素貯蔵能力として、6重量%以上を目指す。
 燃料電池においては、1W/cm2以上の発電効率を示し、電解液を必要としない全固体型高分子固体電解質(安全性の飛躍的向上)や原子レベルにおけるドメイン構造を制御し、摂氏500度以下の温度においても1W/cm2以上を示す酸化物型燃料電池材料の開発を目指す。これにより、セパレーターの合金化が可能となり、システムの飛躍的な高効率化が可能になる。目標達成時期は15〜20年後を目指す。

高臨界温度超伝導材料を利用したエネルギー貯蔵装置
効率的な冷凍機冷却が可能な温度(20K以上)、あるいは液体窒素(77K)中でSMES、発電、電動機などに使用可能な高性能線材を開発する。具体的にはそれぞれの温度で、10Tの磁界中、10万A/cm2以上の臨界電流密度をもつ線材の開発。適切なナノスケールの欠陥導入による高温・磁界中での磁束ピン止め強め、臨界電流密度の大幅な改善が必要となる。目標達成時期は15〜20年後を目指す。


5.研究の概要
(1)太陽電池並びに2次電池用材料開発
 太陽電池の高効率化においては、図1aに示すような太陽電池と2次電池機能を組み合わせた新型電池の試作を行う。その際、高性能化の鍵を握るのは、半導体/電極/固体電解質の界面構造の設計(図1b)である。
 さらに、2次電池用固体電解質の全固体化により安全性を確保したうえでの積層化も可能となり、高効率エネルギー変換と高密度エネルギー貯蔵の両立が可能となる。

図1a. 新型電池材料の概念図 図1b. 界面構造の設計

(2)高密度水素貯蔵材料並びに高性能燃料電池用材料開発
 高密度水素貯蔵材料の開発では、図2b,cに示す単一原子層からなるナノチューブを合成することで、水素貯蔵能力が飛躍的に向上(1→6重量%以上)する。この材料開発により、燃料電池の実用化開発が加速される。 低温型燃料電池の開発では、酸化物中に数原子レベルで存在する秩序構造(マイクロドメイン)とその界面構造の設計や、高性能全固体高分子型固体電解質の開発、さらには、高密度水素貯蔵素子との組み合わせによる、小型・高効率システムの開発等が期待される。

図2. 単一原子層からなるナノチューブ 図3.酸化物固体電解質の格子像

(3)高臨界温度超伝導材料を利用したエネルギー貯蔵装置の開発
 実用的には、高温、磁界中で充分に高い臨界電流密度を達成する必要があり、ナノレベルでのピン止め力の大幅な改善が必要である。具体的には、各種欠陥構造によるピン留め効果(図4b)を原子レベル(図4c)において設計することで、臨界電流密度の飛躍的向上を目指す。そのための基盤技術として、超高圧などの極限環境を用いた原子レベルでの欠陥構造設計技術の構築を行い、交流損失や機械的特性など実用性能の評価・解析技術を確立したうえで、実際にマイクロSMES等のシステムを試作して性能の実証を目指す。

a)線材のミクロ構造 b)欠陥によるピン留め c)線材の原子構造
図4.超伝導線材中の欠陥構造と高性能化

6.取り組みにあたっての留意事項
 本領域の課題遂行にあたっては、無機及び有機化学の専門家と物性・解析の専門家が有機的な連携をとり新材料開発に取り組む必要がある。

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