第1章 研究開発評価の在り方に係る特筆課題

 経済の再生を図り、国際競争力を強化するには、科学技術を基盤としてイノベーションの実現を強力に推進していくことが必要不可欠であり、科学技術に対する社会からの期待は大きい。しかし、平成23年の東日本大震災の発生時においては、我が国が直面した社会的・経済的な諸課題に対して、科学者や技術者が社会からの期待に十分に応えることができず、大学をはじめとする研究開発機関で行われている研究開発活動に対する国民からの信頼は、逆に低下した。国際的には、厳しい社会経済情勢や財政状況の中、限られた資源・財源で研究開発を行わなければならない実情を踏まえ、科学コミュニティ自らが研究開発活動の意義や在り方について考え、改善し、行動し、説明していかなければならないという考え方が示されるようになってきている。
 我が国においても、このような国内外の動向を踏まえ、研究者が自ら社会の要請を的確に把握し、多様な専門知の結集などによる課題解決を可能としていく研究開発システムが構築されていくように、研究開発評価の在り方についても改善・改革を図っていく必要がある。

 本指針の対象となる文部科学省内部部局(巻末(2)参照。以下同じ。)及び研究開発機関等(巻末(5)参照。以下同じ。)においては、科学技術イノベーションの創出につなげていくような研究開発の在り方を積極的に追求していく必要がある。基礎研究・学術研究についても、社会経済情勢や国際的動向等を踏まえた上で、その目標や意義を明確化し、説明することが強く求められる。基礎研究・学術研究の意義は、最新の科学技術・学術の知見をもとに新しい学理・学術領域の創出や既存の学理の再体系化を促すことによって、科学技術・学術の進歩に資することである。さらに、技術の背後にある基礎学理を明らかにすることは、その技術に信頼を与え、それを広く活用することを可能とするものであり、科学技術イノベーション創出の源泉となる。ここにも、基礎研究・学術研究の重要な意義がある。こうした目標や意義について、研究者が自ら常に意識し、それに沿った成果を効果的に創出し社会に還元するよう努力しなければならない。

 今般、平成24年12月の大綱的指針改定において、「研究開発プログラムの評価」の概念が導入されたが、政策的に推進すべき具体的な科学技術イノベーション創出へ向けてのゴール(目標)を明確に設定できる場合、並びに国民や社会が解決を必要とする具体的な政策課題について明確なゴール(目標)を設定できる場合には、この「研究開発プログラムの評価」が研究開発施策(巻末(8)参照。以下同じ。)の評価に際して効果的に機能していくことが期待される。また、研究開発の多くは、大学院生を含む若手研究者の活動の中で行われていることから、研究開発施策と高等教育施策などの人材育成施策は有機的な連携を図っていくことが大切であり、個々のプログラム、プロジェクト、課題等の評価のみならず、人材育成の視点等、研究開発をとりまく諸情勢までを踏まえたマクロな視点から研究開発施策について評価を行っていくことも重要である。

 他方、国、資金配分機関とともに、研究開発機関等の研究開発の現場においても、評価の頻度・負担が増大してきており(※1) 、評価活動に伴う弊害を改善する取組を真剣に進めていくことの重要性が高まっている。

(※1) 日本学術会議「研究にかかわる『評価システム』の在り方検討委員会」が平成24年にとりまとめた日本学術会議会員に対するアンケート調査では、「多数の評価に対応する負担がある:86%」、「評価の頻度が多い:77%」、「個々の評価が過度に精緻:82%」、「被評価者に徒労感:88%」、「落ち着いた研究を行いにくい状況:84%」、「独創的な研究を行いにくい:72%」であった。

 また、評価は、何らかの意思決定(資源配分、改善・質の向上、進捗度の点検、説明責任等)を行う目的のために実施される手段であり、その目的に応じて個々の評価システムが構築される必要があるが、これまで研究開発評価の導入やシステム化を優先的に図ってきた結果、逆に意思決定のプロセスが不明確化する事態も生じている。施策の企画立案、資源配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任と権限を有する主体を明確化し、当該主体が適切な意思決定を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から、評価の在り方を再構築していく必要がある。また、従来、評価に係る負担が研究開発活動の現場に向かいがちであったものを、研究開発施策の企画立案やマネジメントの在り方等、文部科学省内部部局や資金配分機関の取組に対する評価を適切に行っていくことの重要性が増している。

 加えて、いかなる評価システムが構築されても実際に評価を行うにふさわしい人材が乏しければ適切に機能しないことからも明らかなように、評価に責任と権限を持つことができる、評価に関わる資質能力を備えた人材を育成していくとともに、当該人材が活躍できる環境やキャリアパスを整備していくことも重要な課題である。

 従前より、国として、あるいは科学コミュニティとして、研究不正を防ぐために様々な取組がなされてきたにもかかわらず、研究活動における不正行為や研究費の不正使用の事案が社会問題として大きく取り上げられる事態となっている。研究不正は、真実の探求を積み重ねて新たな知を創造していく営みである科学の本質に反するものであり、人々の科学及び科学コミュニティに対する信頼を大きく揺るがし、科学の発展を妨げ、冒涜(ぼうとく)するものである。したがって、各研究開発機関等の科学コミュニティを中心として、国を挙げて事前防止に取り組んでいかなければならない極めて重大な課題である。
 研究開発評価システムにおいても、研究開発機関等における研究不正に対応するための規程や組織としての責任体制の整備状況を確認すること等を通じて、研究活動の大前提である研究不正の事前防止に貢献していくことが重要である。公正な研究開発活動を通じて、研究者等が互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、研究開発の質を高めていくような環境を築いていかなければならない。

 このような我が国の研究開発の諸課題、社会経済事情、国際情勢等を踏まえ、以下の五つの特筆課題については、国、研究開発機関等、研究者、評価者等としても研究開発評価に係る基本的一般的事項とは別に、特に留意すべき課題として把握し、研究開発評価の実務・現場においても適切に改善を図っていく必要がある。

1.科学技術イノベーション創出、課題解決のためのシステムの推進
2.ハイリスク研究、学際・融合領域・領域間連携研究等の推進
3.次代を担う若手研究者の育成・支援の推進
4.評価の形式化・形骸化、評価負担増大に対する改善
5.研究開発プログラム評価

1.1 科学技術イノベーション創出、課題解決のためのシステムの推進

 東日本大震災によって顕在化した、社会の期待に十分応えられなかったという科学技術の課題への対応を図るため、研究者自身が社会の要請を的確に把握し、多様な専門知の結集などにより、効果的に課題解決のための研究開発を実施していくような研究開発システムの構築に向けて改革を図っていく必要がある。
 また、厳しい社会経済情勢や財政状況の中、限られた資源・財源で研究開発を行わなければならない実情を踏まえ、科学コミュニティ自らが自律的により効果的・効率的な研究開発活動を進めていくために、研究開発評価システムを再構築していく必要がある。
 そのため、文部科学省内部部局及び研究開発機関等において、以下の取組を積極的に進めていくことが期待される。その際、研究開発機関等においては、これらを踏まえた研究開発評価システムを自ら設計・運用し、評価結果を資源配分、組織運営、研究者等(巻末(7)参照。以下同じ。)の処遇等へ適切に反映する取組を進め、文部科学省内部部局においては、これを適切に支援する。

1.1.1.研究開発評価に際して全体として特に期待される取組

 論文発表数や論文被引用度は客観的・定量的な評価指標であり得るが、論文関係の数値だけに頼り安易にこれらの数値を上げること自体が目的化することは適当ではなく、文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、必ずしも論文至上主義に偏しすぎないようにする。

1.1.2 研究開発施策の評価に際して特に期待される取組

 文部科学省内部部局及び資金配分機関は、科学技術イノベーションの創出や課題の解決に向けて、研究開発施策の企画立案段階からの必要な関係者の参画・関与や透明性の確保に努めるとともに、社会経済的な影響について適切に評価することに努める。

1.1.3 研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

(a)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発の開始段階等における幅広い関係者との協力に基づいた、国際水準をも踏まえた課題設定、出口戦略の作成、産業構造の変化への対応等の取組を適切に評価へ反映する。

(b)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発グループや研究開発課題(プロジェクト)の長のマネジメント力、成果の最大化のための研究開発体制作り、有機的な連携や多様な専門知の結集による実用化や社会実装までを考慮した取組を適切に評価へ反映する。

(c)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発基盤の強化の観点から、ベンチャー企業のような、実績は少ないが技術力や実用化へ向けた熱意がある研究開発組織・機関と連携協力して推進する研究開発を積極的に評価する。

1.1.4 研究開発機関等の評価に際して特に期待される取組

(a)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体(巻末(6)参照。以下同じ。)は、学際・融合領域・領域間連携研究(巻末(9)参照。以下同じ。)、国際連携等の横断的取組やハイリスク研究(巻末(10)参照。以下同じ。)への取組を評価へ反映する。

(b)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、課題解決のためのシステム化を促進するため、知の探求のみならず社会ニーズに対応した知の活用を促し、成果の受渡しや成果の実用化など、社会実装に至る全段階を通じた取組を評価へ反映する。

1.1.5 研究者等の業績評価に際して特に期待される取組

(a)研究開発機関等は、研究開発活動の費用対効果の観点等も含め、研究者等の活動及び成果がコストに見合わないと判断されるような場合は、研究開発活動の改善を促す措置とあわせて、改善が見込み難い場合の対処方法等についても組み込んだ研究開発評価システムを構築する。その際、科学技術・学術の展開に対する影響度など研究の質及び新規性についても適切に評価を行い、多方面からの評価軸を設定するなど多様性に配慮したものとすること、また、全てを加点方式により評価するシステム(※2)の導入など、被評価者の能力向上につながるものとして肯定的に受け入れられ、研究開発活動の改革や進展を促進するものとすることに努める。

(※2)十分に達成できなかった評価項目等について減点していく形で評価する方式ではなく、研究開発活動の取組状況や実績等で積極的に評価することができる成果を加点していき、積み上がった加点事項を中心に評価する方式。

(b)基礎研究・学術研究活動の重要性・必要性等について国民や社会からの理解と支持を得ていくためにも、研究開発機関等は、研究者自らが研究目的と研究期間について明確に意識しながら所属機関等の使命や領域・課題等に応じた適切な目標を提示し、得られる結果の学術的意義や社会的価値を説明していく等の取組を積極的に評価し、推進する。

1.2 ハイリスク研究、学際・融合領域・領域間連携研究等の推進

1.研究目標が達成されるかどうかには高いリスクがあるが、成果が出ると社会的・経済的・学術的にインパクト(巻末(13)参照。以下同じ。)があり、領域の進展に貢献するなど非常に大きな影響を与える可能性が高いハイリスク研究や、

2.一つの学問領域では解決が困難な課題に対して二つ以上の学問領域を統合・融合・連携協力して横断的に取り組むことで、新しい研究領域を開拓する学際・融合領域・領域間連携研究

を今後一層促進することが重要である。これらの研究については、関係者での合意ができるまでは評価基準が不明確であることや、既存の研究領域の研究開発課題(プロジェクト)に比して過度に低く評価される傾向もあることから、このような状況を改善していくとともに、ピアレビュー以外の手法を織り込んだ評価手法を設定すること等を通じて、ハイリスク研究や学際・融合領域・領域間連携研究等の推進につながるような研究開発評価システムを積極的に構築していく必要がある。

1.2.1 研究開発施策の評価に際して特に期待される取組

(a)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、ハイリスク研究や学際・融合領域・領域間連携研究等が適切に評価されるような、事前評価・事後評価等の方法、評価基準、マネジメントの仕組みを、各研究開発施策の目的を踏まえて適切に導入する。

(b)本来はハイリスク研究の推進自体を目的としない研究開発施策においても、当該目的・評価基準では推し量れないハイリスクな研究が提案される可能性はある。その場合、文部科学省内部部局及び資金配分機関は、当該目的・評価基準では必ずしも優位ではないがリスクをとっても実施する価値があると考えられる案件を採択することを妨げないような審査基準等を設定し、中間評価や事後評価においても、ハイリスク案件であることを前提として評価するなどの取組を推進する。

(c)評価者の立場からすると、ハイリスク研究についてはその性質上、あらかじめ統一的・客観的で明確な評価基準をもって評価ないし判断することは困難である。そのため、文部科学省内部部局及び資金配分機関は、ハイリスク研究の推進に際しては、PD(プログラムディレクター)(巻末(14)参照。以下同じ。)・PO(プログラムオフィサー)(巻末(15)参照。以下同じ。)、研究開発課題(プロジェクト)のリーダー等に、研究開発の具体的推進に係る相当の裁量権限と責任を委ねるような仕組みや評価の枠組みを採り入れることを考慮する。

(d)本来は新しい研究領域の開拓自体を目的としない研究開発施策における研究開発課題(プロジェクト)の審査においても、学際・融合領域・領域間連携研究が提案された場合に不利にならないよう、文部科学省内部部局及び資金配分機関は、審査・評価に際しての取扱いを明確にするなど、研究の芽を適切に拾い上げることに努めるとともに、研究の進展に応じて、評価の基準・方法等を適切に見直す。

1.2.2 研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

(a)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、ハイリスク研究の事前評価においては、研究開発成果が技術的課題その他に大きなインパクトをもたらす可能性があるものかどうか、研究開発計画が既存の研究開発領域に変革をもたらし新たな研究開発領域を創出する可能性がある研究かどうか、想定される研究開発成果がリスクに見合っているか等を重視するとともに、研究開発課題(プロジェクト)のリーダー等がその目的を実現するマネジメント能力を有しているかについても適切に評価する。

(b)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、ハイリスク研究の研究開発実施段階においては、研究開発の進捗や諸情勢の変化等を踏まえて適時に評価を行い、研究開発課題(プロジェクト)に対する助成等の中止も含めて適切な形で目標・計画を見直す。

(c)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、ハイリスク研究の事後評価においては、挑戦的な研究開発課題(プロジェクト)が当初の目標の達成には失敗したとしても、予期せざる波及効果に大きい意味がある場合等には、次につながる有意義なものとして評定することを許容するような評価基準を設定する。

(d)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、特定の社会的課題の解決などを目的として多様な学際・融合領域・領域間連携研究を進める研究開発施策の下で推進する研究開発課題については、目標達成への道筋や必要な技術課題群の明確化を行い、それらを踏まえた評価を行うことに十分配慮する。

1.3 次代を担う若手研究者の育成・支援

 昨今、ポストドクターや博士課程学生を含む若手研究者について、その研究活動のみならず生活基盤そのものが競争的資金等の研究開発課題の評価や機関内の研究拠点等の評価に強く左右される状況となっている(※3)。また、若手研究者の経歴・年齢・国籍などの属性は多様化している (※4)。そのため、研究開発評価も、このような若手研究者の育成・支援の推進を図るものとしていく必要がある。

(※3)平成21年(2009年)11月現在、ポストドクター15,220人のうち45.9%は競争的資金やその他外部資金によって雇用されている。また、平成20年度(2008年度)に経済的支援を受ける博士課程学生49,561人のうち23.9%が競争的資金によって支援されている(学校基本調査によれば、博士課程学生の総数は平成20年度(2008年度)で74,231人。)。(出典:文部科学省科学技術政策研究所、科学技術・学術政策局基盤政策課「ポストドクター等の雇用・進路に関する調査-大学・公的研究機関への全数調査(2009年度実績)-」、文部科学省科学技術政策研究所、科学技術・学術政策局基盤政策課「ポストドクター等の雇用状況・博士課程在籍者への経済的支援状況長さ-2007年度・2008年度実績-」)

(※4)博士課程学生入学者のうち、社会人は5,462人(34.8%、平成23年)、留学生は2,503人(16.0%、平成23年)、35歳以上は2,988人(19.1%、平成23年)である。(出典:平成24年度学校基本調査)

1.3.1 研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

(a)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発課題の評価に際して、ポストドクターや博士課程学生に提供されている処遇や研究環境、若手研究者が自立した研究者へ育って多様なキャリアへ進むことを支援するような研究代表者の所属機関での組織的な活動を適切に確認する。

(b)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、若手研究者が応募する競争的資金制度では、若手研究者を育成するために、評価者からのコメントを通知することを検討する。

(c)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、多様で優れた研究者の活躍を促進する観点から、研究開発施策等の目的を十分踏まえた上で、若手研究者、女性研究者、外国人研究者が研究代表者である優れた研究開発課題を積極的に評価する。

(d)文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発課題の評価において、参画している個々の若手研究者に評価資料の作成負担がかかるような評価活動を行うのではなく、研究代表者を中心とした評価活動を行うことで、若手研究者が研究に専念できるよう配慮する。

1.3.2 研究開発機関等の評価に際して特に期待される取組

(a)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、博士課程における研究指導体制・環境や多様なキャリア育成の方策を評価することにより、大学等(巻末(3)参照。以下同じ。)の教育研究活動の改善を推進する。同時に、大学等が博士課程学生の修了後の進路把握を継続的に行うことを促進する。

(b)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、研究開発機関等の活動状況の評価において、研究実績だけでなく、若手研究者の研究環境や各種の育成・支援方策、ポストドクターの研究開発機関等内部での位置付け、キャリアパス展開のための方針の策定や各種の取組を積極的に評価する。

(c)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、研究開発機関等による優れた若手研究者、女性研究者、外国人研究者の研究代表者としての積極的な登用など、成果の最大化や多様な視点・着眼点の確保のための取組を積極的に評価する。

1.3.3 研究者等の業績評価に際して特に期待される取組

(a)研究開発機関等は、個人業績評価による若手研究者への影響を確認しながら、若手研究者が励まされ、創造性を発揮しやすくなるような評価方法を検討する。

(b)研究開発機関等は、不適切な評価によって若手研究者を短期的に結果の出やすい研究に誘導することなく、挑戦的な研究の実施を促進するような評価方法を検討する。例えば、毎年の評価でなく数年ごとに評価する方法を取り入れることや、単に実績だけを評価するのではなく長期的な視野、学際的な視野に立って、各人の活動目標の設定や達成状況、将来の研究展開の可能性や研究領域開拓の展望、若手研究者の成長度合いを積極的に評価すること、従来の領域別のピアレビュー以外の観点や手法を織り込んだ評価手法を設定することなどの方策を検討して、若手研究者による挑戦的な研究活動を奨励するような評価法を構築する。

(c)研究開発機関等は、若手研究者の経歴・年齢・国籍などの属性が多様化している状況を踏まえ、それらの人材が不当に不利益を被ることのないような評価制度、評価結果が処遇内容に反映される仕組みを構築する。

(d)研究開発機関等は、業績評価結果を若手研究者の人事や処遇、資源配分へと反映するなど、評価結果の活用方策を事前に設定する。

(e)研究開発機関等は、安定的な資金を確保する努力を行うことでテニュアトラック制度を構築し、任期付き教員・研究者やポストドクターが評価結果に応じてテニュアを獲得できるように努めるとともに、若手研究者の採用時における評価基準についても論文のみに偏重し過ぎることのないようにする。同時に、多様なキャリアパスに求められる能力を育成するなど、教員・研究者以外へのキャリアパス展開の支援も推進する。

(f)研究開発機関等は、評価が人事や処遇に結びつく場合には、評価基準の明確な設定や評価実施の透明性の確保を行うことで、若手研究者が意欲をもって研究を行い、切磋琢磨(せっさたくま)する環境を整備する。

(g)研究開発機関等は、指導的立場にある教員・研究者の業績評価において、ポストドクターや博士課程学生の指導や多様なキャリア開発支援の実績が評価されるよう評価の視点を拡大する。

(h)研究者が自ら行うべき研究活動に専念し、効果的・効率的に研究成果の創出を図っていくためにも、研究支援者や技術者等は極めて重要である。研究開発機関等は、研究を支える人材の育成と安定的確保が可能となるよう、研究支援者や技術者等の役割、活動、能力等を適切に評価する。

1.4 評価の形式化・形骸化、評価負担増大に対する改善

 科学技術基本法制定(平成7年)及び科学技術基本計画策定(平成8年)以降の研究開発評価に関する指針の策定等に基づく研究開発評価の本格的な導入・実施と並行して、これまでに、政策評価法に基づく政策評価(平成13年)、独立行政法人通則法に基づく独立行政法人評価(平成13年)、国立大学法人法に基づく国立大学法人評価(平成15年)、大学の認証評価(平成16年)が導入されてきたことや、研究費の基盤的資金から競争的資金等の外部資金へのシフト等により、評価の頻度・負担の増大による弊害(エネルギーの消耗、研究時間の不足、評価の形骸化、徒労感の発生、研究活動への悪影響等)が発生してきている。「評価の形式化・形骸化」は「徒労」、「責任不在の評価」は「弊害」を生むことについて関係者間で認識を共有し、合理的かつ実効的な研究開発評価の在り方に向けて真剣に改善を図っていく必要がある。

1.4.1 研究開発評価に際して全体として特に期待される取組

(a)評価は、最も評価対象・評価事項等に理解・精通している者が行う評価、すなわち「自己評価」が基本かつ重要であり、評価システムが質の高い自己評価を基盤として再構築されることが望ましい。そのために、自己評価に当たっては、客観的で信憑(しんぴょう)性の高いものとすることに十分留意するとともに、文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、研究者側からの研究意義等についての積極的な主張を歓迎する。質の高い自己評価をベースとした第三者評価(巻末(16)参照。以下同じ。)や外部評価(巻末(17)参照。以下同じ。)については、例えば、それぞれの研究開発段階での自己評価の正当性の観点から行うことや、会議形式での評価と書面形式での評価を適切に組み合わせるなど、多様な評価手法を検討し、評価対象や目的に応じて柔軟に合理的な評価手法を設定する。

(b)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価は何らかの意思決定(資源配分、改善・質の向上、進捗度の点検、説明責任等)を行う目的のために実施される手段であることを再確認し、画一的な評価システムを形式的に導入するのではなく、その目的に応じて個々に適切な研究開発評価システムを構築する。

(c)評価を導入・システム化してきた結果として、逆に責任・権限関係や意思決定のプロセス等が不明確化する事態も生じている。文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、施策の立案、資源配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任・権限を有する主体を明確化し、当該意思決定を行う主体が適切な判断等を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から評価の在り方を再構築する。また、そのような責任・権限体制が整備・確立されているかどうかについて適切に評価する。

(d)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、研究開発に係る各種の評価システムの必要性や有効性、評価の頻度や方法の妥当性等を踏まえ、実効的かつ合理的な評価の在り方を検討するとともに、評価の質を高めるよう努める。その際、「必要性」・「有効性」・「効率性」を含め、以下のような評価の観点や項目全てについて網羅的に評価するのではなく、むしろ、それぞれの研究段階、研究特性、研究方法等を踏まえて、評価の観点や項目の重みづけを行い、評価すべきことをしっかりと評価することが本質的に重要であることに十分留意する。

○施策やプログラム・制度との「関連性」
○研究の内容や成果の「質」、「独創性」、「先進性」、「新規性」
○資源が適正に配分され、成果がそれに見合うものであるか
○研究活動全般の将来を十分に見据えた影響力、波及効果

(e)文部科学省内部部局、研究開発機関等及びその他の評価実施主体は、評価に関わる人材(評価に関する専門的能力を有する人材、評価の設計を担当できる専門人材を含む)の育成方策について検討するとともに、評価に関わる人材の能力アップを図り、キャリアパス展開を推進する。また、このために必要な経費を競争的資金の一部から確保することについても検討する。なお、評価に関わる人材として求められる能力・素養としては、以下のようなものが挙げられる。

○評価の目的を的確に把握する能力
評価対象の実態を深く把握・分析する能力
評価対象のみに限定されないマクロな視点や把握力
評価に際して不足している知見・情報等を適切な者から補える能力
評価に際しての中立性・公正性
評価に際して適切な責任・権限を行使できること
○評価に際して留意すべき一般的事項や専門的事項に一定程度精通していること

(f)文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、科学コミュニティや科学技術政策における課題の解決を促進するための一手段として、研究開発評価システムを設計して評価結果を活用することを推進する。

1.4.2 研究開発施策の評価に際して特に期待される取組

 文部科学省内部部局及び資金配分機関は、競争的資金の全体構成や基盤的資金とのバランス等、社会情勢等を踏まえた施策全体の在り方について適切に評価するとともに、存続・廃止や在り方等による影響が特に大きいと考えられる研究開発施策については、負担が過大とならないことにも十分留意しつつ、適切にモニタリングや追跡評価を実施していくことを検討する。また、追跡評価は、評価者・被評価者双方に相当の負担やコストが発生する実情を踏まえ、追跡評価の対象施策・課題等を限定するとともに、追跡評価の負担の軽減や廃止についても適切かつ柔軟に対応する。

1.4.3 研究開発課題の評価に際して特に期待される取組

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、それぞれの研究開発の位置付け、研究開発方法、研究開発機関の特性等を踏まえて資源配分や評価の手法を最適なものとし、成果の最大化を図る。

1.4.4 研究者等の業績評価に際して特に期待される取組

(a)研究開発機関等は、研究者等の業績評価を実施する目的や評価結果の活用方法を改めて明確にする。活用方法には、待遇(昇進、賞与・一時金や給与など)への反映のみならず、研究資金や資源(スペースや時間等)の配分、教員の教育・研究能力開発の支援など多様な可能性があることに留意する。また、業績評価の有効性を検討し、定期的な見直しを行う。

(b)大学等は、教員や研究者の研究教育活動が多様であることや年齢・経歴等の属性が多様化している現状を踏まえ、複合的な視点を含む評価方法を採用することに留意するとともに、大学等において主流である学術研究については、学問領域の特性に配慮しつつ、自ら研究課題を探索し発見する取組を評価する。

1.4.5 PD・PO制度の改善及び評価システムの合理化、柔軟化

 PD、PO等、評価に際して相当の責任・権限を有する者は、評価に関する知見・経験が豊かであるのみならず、当該案件に相当の時間や労力をかけることが可能であるとともに、内容や事情等にも精通している必要がある。文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、そのような評価に際して責任・権限を担える人材を育成するとともに、当該責任・権限を行使できる体制を構築し整備していくことが重要である。
 PD・PO制度については、我が国に本格的に導入されてから10年近くが経過している(平成25年現在)。競争的資金制度等によっては、PD、POの責任・権限が明確でなく、また、多くが非常勤であり2~3年で交代してしまう場合もあるため、役割等が十分に果たせていない等の課題も生じてきており、プログラムやプロジェクト等の期間や目的に応じた適切なPD、POの在り方を検討する時期にきている。研究開発プログラム評価を導入するに際しては、PD、POの役割と研究開発プログラム評価を適切に整理する必要がある。文部科学省内部部局及び資金配分機関は、政府全体の方針を踏まえて、PD・PO制度についても実効的・合理的な研究開発評価を実施する観点から、以下のような点等に留意して改善を図る。

(a)資金配分機関等におけるPD、POへの責任及び権限の付与、明確化、強化

(b)PD、POを雇用・任命・指名・選任する者(文部科学省内部部局及び資金配分機関等)の責任、権限及びプロセスの明確化

(c)PD、POの活動や判断を支える体制及び環境の整備

○PD、POの位置付けの改善(常勤化又は相応の待遇の確保)
活動の継続性の確保(例えば、5年程度を目安に研究開発内容や制度の特性に応じた就任期間の設定、活動終了後の責任の継続)
PD、POのプログラム等の企画・立案への関与・参画
○裁量権の拡大
○適切なエフォートの確保
○必要な活動経費の支援
○必要な事務支援体制の提供

(d)競争的資金制度等の予算等で、これらのPD、POの活動に必要な経費を適切に確保・執行する。

(e)競争的資金制度等ごとに、文部科学省内部部局、資金配分機関、研究実施者(研究リーダー)とPD、POの役割分担(責任・権限)を明確化する。

(f)上記のようなPD・PO制度の改善がなされた場合における研究開発評価システムの合理化や柔軟性の容認・確保(従来型の事前・中間・事後評価に代えて、研究実施者による自己評価及びPD、POの責任・権限による評価・行動・説明等を基本とする新たな評価システムへ)

1.5 研究開発プログラム評価

 政策的に推進すべき具体的な科学技術イノベーション創出へ向けてのゴール(目標)及び時間軸が明確に設定できる場合、国民や社会が解決を必要としている具体的な政策課題について明確なゴール(目標)を設定できる場合には、今回初めて「国の研究開発評価に関する大綱的指針(平成24年12月6日内閣総理大臣決定)」に盛り込まれて本格的に導入される、「研究開発プログラム」のレベルで時間軸を設定し各段階での達成度目標を踏まえて評価を行うことが、研究開発施策の評価に際して効果的に機能していくものと期待される。
 ただし、研究開発プログラム評価の設定・導入に当たっては、大綱的指針における「研究開発プログラムの評価」を踏まえつつ、合理的かつ実効的なものとすべく、文部科学省内部部局及び研究開発法人等(巻末(4)参照。以下同じ。)は、以下の事項等について十分留意しながら試行的・段階的に進めていく。

(a)政策、施策、事業等に係る諸評価体系(政策評価法に基づく政策評価、独立行政法人通則法に基づく独立行政法人評価、国立大学法人法に基づく国立大学法人評価、大学の認証評価、総合科学技術会議による評価、行政改革に係る行政事業レビュー等)と整合性をとりながら、合理的かつ実効的な形で研究開発プログラム評価の導入を進める。

(b)基礎研究、学術研究については、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずある。このほか、独創性が重視されるとともに、人材養成の意義も重要である。このため、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意することが必要であり、研究開発プログラム評価においても、こうした特性を十分考慮する。

(c)文部科学省関係の研究開発施策について、時間軸を明確にした検証可能な目標・アウトカム(巻末(12)参照。以下同じ。)指標を設定して研究開発プログラム評価を行うことの研究開発の現場に与える影響等も十分考慮し、また、公募により研究開発課題を採択する施策においては、施策立案側で予期していなかったような優れた提案についても適切に採択・実施していく可能性を排除しないためにも、定量的に評価できる指標をあらかじめ画一的に設定することに固執することなく、定性的な目標・指標を設定することを含め、有意義かつ実効的な形で目標・指標を設定するとともに、プログラムの進捗に応じた適切かつ柔軟な評価を行う。

(d)研究開発プログラム評価についても、一般の研究開発施策と同様に、責任主体の明確性を確保することが重要であることから、原則としてその研究開発プログラムの実施主体である事業推進部門が外部の専門家等を評価者とする外部評価を活用することなどにより実施し、必要に応じて評価部門による評価や第三者評価を行う。

(e)追跡調査・評価の実施の在り方等を含め、合理的かつ実効的な形で研究開発プログラム評価の導入を進める。

(f)研究開発プログラムの企画・立案段階から、国、資金配分機関、PD・PO候補者等が適切に関与・参画し、責任・権限関係や役割分担等が明確な形で実施され、研究開発プログラムの評価は当該態様に適合した形で行われることも重要である。

(g)上記の他、研究開発プログラム評価を行うに際して必要な事項(評価者、評価の実施時期、評価方法、評価に当たり留意すべき事項、評価結果の取扱い)については、第3章「研究開発施策の評価」を踏まえて行う。

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科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)