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資料3-4-2 平成24年度の我が国における地球観測の実施方針

平成23年8月24 日
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
地球観測推進部会

目次

はじめに ・・・ 1
第1章 課題解決型の地球観測 ・・・ 2
 第1節 気候変動に伴う影響の把握 ・・・ 2
 1 水循環・風水害 ・・・ 3
 2 生態系・生物多様性 ・・・ 5

 第2節 気候変動メカニズムの解明 ・・・ 8
 第3節 地震・津波・火山による被害の軽減 ・・・ 11

第2章 国内の地球観測システムの統合に向けた地球観測データの統合化 ・・・ 14

第3章 国際的な連携の強化 ・・・ 15

第4章 分野別推進戦略に基づく地球観測の長期継続の推進 ・・・ 17

はじめに

 地球観測推進部会は、総合科学技術会議の「地球観測の推進戦略」(平成16年12月。以下「推進戦略」という。)を受けて平成17年2月に文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会に設置された。本部会は、地球観測の推進に関する重要事項について調査審議し、地球観測に対する利用ニーズや国際的動向を的確に踏まえ、「推進戦略」に沿って地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等を内容とする具体的な実施方針を毎年策定することとされている。
 また「推進戦略」では、実施方針とそれに基づく事業の進捗状況について総合科学技術会議が総合的な評価を行うこと等により、統合された地球観測システムの運用状況をフォローし、次年度以降の地球観測の実施方針の策定に反映させることとされている。さらに、実施方針は、平成17年の第3回地球観測サミットにおいて策定された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」等の国際的な枠組との連携を確保するものとされている。
 「平成24年度の我が国における地球観測の実施方針」においては、地球規模課題である気候変動問題の解決に向けて地球観測の果たすべき役割は引き続き極めて重要であることに加え、第4期科学技術基本計画(平成23年8月19日閣議決定)において、我が国が取り組むべき課題を明確に設定し、科学技術政策を総合的且つ体系的に推進していくことが必要とされていることから、気候変動問題に対応するための課題解決型の地球観測の推進を重点事項として第1章で提示する。また、東日本大震災の影響を踏まえ、第4期科学技術基本計画においては、「震災からの復興、再生の実現」が掲げられており、「推進戦略」に示される地震・津波・火山の分野での地球観測の取組・課題についても改めて整理し、その被害を軽減するための地球観測の方向性を示す必要があるという観点から、それら災害による被害の軽減を重点事項の一つとして第1章において提示する。
 また、「GEOSS10年実施計画」が折り返し点を過ぎ、観測システムの統合に向けた取組が本格化することから、国内の観測活動についてもその統合を加速していく必要がある。このことから、GEOSSをはじめとする国際的な連携を強化し、我が国がイニシアティブを発揮していくことの重要性を併せて考慮し、国内の地球観測システムの統合を第2章で提示する。
 さらに、第3章では国際的な連携の強化として、国際的な枠組との連携及び協働と科学技術外交の推進を、第4章では、「推進戦略」に示された「分野別の推進戦略」及び地球観測の長期継続的な観測の重要性を踏まえ、分野別の推進戦略に基づく地球観測の長期継続の推進を提示した。
 本部会の提言及び実施方針を踏まえて、各府省・機関においては、平成24年度予算などを通じて地球観測の推進を図ることを期待する。

第1章 課題解決型の地球観測

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書(AR4)(2007年11月)による指摘や、G8ドーヴィルサミット(2011年5月)における合意等から明らかなように、地球温暖化をはじめとする気候変動への対応が世界的な政策課題として取り組まれており、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)における京都議定書の第1約束期間の最終年である2012年を来年に控え、2013年からの第2約束期間の取扱いを含む国際的枠組に関する議論がUNFCCCで進行中のいま、温室効果ガスの排出抑制に代表される気候変動の緩和策に加え、適応策についても緊急な対応が必要な状況にある。
 気候変動への緩和と適応の両面にわたる適切な対応のためには、気候変動に伴う地球環境の変化を具体的かつ正確に把握・予測することが必要不可欠かつ社会からの要請の高い喫緊の課題であり、気候変動の監視・予測や対策の検証に寄与するための地球観測の役割はますます重要になっている。
 第4期科学技術基本計画においても、『地球観測、予測、統合解析により得られる情報は、グリーンイノベーションを推進する上で重要な社会的・公共的インフラ』と位置づけられ、『地球観測・予測・統合解析に関する技術を飛躍的に強化するとともに、地球観測等から得られる情報の多様な領域における活用を促進し、気候変動や大規模自然災害に対応した、都市や地域の形成、自然環境や生物多様性の保全、森林等における自然環境の維持、自然災害の軽減、持続可能な循環型食料生産の実現等に向けた取組を進める』こととされている。
 気候変動は水循環や生態系・生物多様性などに影響を与え、さらに、風水害の増大を引き起こす可能性や、農業生産にも大きな影響を与えるなど、地球環境及び人間生活に与える影響は多岐にわたる。したがって、気候変動問題への対応のためには、気温・海水温の上昇、海面水位の上昇等といった気候変動の直接的な影響の観測のみならず、温室効果ガス等に係る物質循環、水循環、生態系・生物多様性など関連する分野における観測を密接に連携させながら推進していく必要がある。
 本章では、こうした状況を踏まえ、気候変動に伴う国民生活等への影響を把握するための地球観測と、緩和・適応策立案の前提となる気候変動メカニズムの解明のための地球観測、さらに、地震・津波・火山による被害の軽減のための地球観測についてまとめた。

第1節 気候変動に伴う影響の把握

 IPCC AR4において、『過去30年間にわたる人為起源の温暖化が、地球規模で、多くの物理・生物システムにおいて観測された変化に識別可能な影響をすでに及ぼしている可能性が非常に高い』と指摘されているように、気候変動の影響はすでに顕在化している。さらに、『最も厳しい緩和努力をもってしても、今後数十年の気候変動のさらなる影響を回避することができないため、適応は、特に至近の影響への対処において不可欠となる』と指摘されているように、気候変動に対する適切な適応策の立案が大きな政策的課題となっている。また、G8ドーヴィルサミットの首脳宣言においては、『気候変動への対処は、世界的な優先事項である』とされている。
 地球観測のための衛星が定常的に打ち上げられるようになって30年余が経過し、また、観測技術の高度化及び地上・海洋等における現場観測の広域化等により、本節冒頭に指摘されているような生物への識別可能な影響に関わる様々な気候条件の温暖化に関する変動が地球規模で検出されつつある。気候変動モニタリングによる温暖化シグナルの定量化、及び、それに伴う極端現象の変化の検出とその変動のメカニズム解明は、緩和策の導入および安定的管理にとって非常に重要であり、衛星及び現場観測データの蓄積、またそれによる予測精度の向上に伴って近年科学的に検出可能になってきていることを鑑みるに現在まさに取り組むべき重要な課題である。
 気候変動への適応のための地球観測においては、気候変動予測の高精度化・不確実性低減に向けた取組を地球観測との車の両輪として継続的に推進することが必要である。適応計画策定の際には、地球気候の複雑系としての特性および気候予測に内在する不確実性への配慮が不可欠であり、また、地球温暖化の緩和策として注目されている太陽光、風力等の再生可能エネルギーの活用において、その導入や、安定的な管理にあたっては、気象状況の観測・解析・予測技術が重要となる。
 複雑系である気候システムの予測信頼性の向上のためには、生物・化学過程の導入や高解像度化・データ同化などにより気候変動予測モデルを高度化することが重要である。そのためには、衛星・航空機・地上観測点・船舶等の観測ネットワークを構築し、気候予測・解析技術を高度化すると共に、予測モデルの不確定要素となっている雲・エアロゾルなどの観測を全球規模で行うことが必要である。また、不確実性を定量的に把握しその社会への影響を評価するため、衛星データ及び気候モデル出力データの解析の強化とともに、人口変化や経済発展など人間社会側の変化も考慮した上での計画策定に資するための情報基盤整備が必要である。
 本節では、気候変動に伴う影響の中でも特に社会的要請の高い、水循環・風水害及び生態系・生物多様性の分野における課題解決に向けて必要な地球観測の取組を掲げた。

1 水循環・風水害

気候変動は、世界の様々な地域において水資源やその管理に影響を与え、現在、世界各地で水不足、水質汚染、洪水被害の増大等の水問題が発生している。特に経済成長に伴い水・食料需要が急増している中国をはじめとするアジア・アフリカ地域では水問題は非常に深刻である。
気候変動による降水分布や降水タイプの変化は、水循環の極端現象(風水害、渇水)の発生に影響を与える。IPCC AR4では、多くの地域で大雨の頻度や干ばつの影響が増加する可能性が高いと指摘されており、気候変動により激化する大雨や高潮、渇水等が原因となる様々な水災害の被害の軽減や水循環変化への適応策立案に向けた支援情報の提供が必要である。
 地球規模での気候変動予測の不確実性の問題に加えて、地域規模の水循環の予測にも大きな不確実性が存在する。適応策の立案・意思決定のためには、これらの予測の不確実性の低減とともに、不確実性を定量的に評価する手法の確立が不可欠である。
 さらに、水問題は社会・経済問題であるため、自然科学的なアプローチに加え、産業や生活、環境に与える経済的な影響評価が求められる。生活や環境などへの影響については、人々の意識に深く関連しており、各地域の人々の意識調査を含む、社会科学的評価の実施も必要となる。
 このように、気候変動による水循環の変化に対する適応策立案支援のためには、渇水、平水、洪水の全段階を含む水量・水質の評価及び、産業や生活、環境に与える経済的・社会科学的影響の定量的評価、さらには産業構造・社会の発展、政策、住民意識の変化なども考慮した包括的な影響評価が必要であり、地球科学的視点、水文学的視点、河川工学的視点、水環境工学的視点、地域経済並びに人文・社会科学的な視点を実質的に補完、共有することにより、理学的アプローチ、工学的アプローチ、人文・社会学的アプローチを融合して推進することが必要である。
 このような観点から、水循環の実態を正確に把握するとともに、風水害の軽減や水資源の管理に結びつけることが求められており、これらの課題解決に向け、以下の取組の推進が期待される。

風水害の軽減

 風水害による人的被害を減らすことは、我が国を含むアジア及びアフリカの安全保障上不可欠な課題であり、極端事象の予測(台風・低気圧・前線による豪雨・高潮・強風の1~3日先程度の予測、局地的な豪雨などの1時間~半日先程度の予測、少雨・高温傾向の1週間~季節の予測)精度の向上、気候の変動傾向のモニタリング及び地域的に生じる気象要素の偏差の観測が不可欠である。
そのためには、気象衛星観測の継続実施、水循環や気候変動の監視・予測・影響評価のためのレーダー及びウィンドプロファイラによる観測の継続や、水循環変動観測衛星(GCOM-W)、気候変動観測衛星(GCOM-C)、全球降水観測計画(GPM)及び雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)等の開発、観測技術基盤の高度化(高頻度、高空間分解能)と統合的利用、数値気象予測モデル・気候予測モデルと熱帯や寒冷圏の現地観測データや衛星観測データの統合的利用並びにこれらと全球レベルの地球地図等による基盤的地理情報を関連づけた統合的利用などについての今後の推進が必要である。

都市における極端気象災害の監視・予測システムの確立

 高度に発達した交通網や通信網を有し、数百万の人々が生活する大都市には、台風、集中豪雨、落雷、突風などの極端気象に対する脆弱性が内在している。今後の気候変動に伴って懸念される局地的大雨(いわゆる「ゲリラ豪雨」)の多発化や巨大台風の発生は都市型水害の被害を甚大化する可能性が高い。さらに、極端気象が地震や津波などと同時に、あるいは前後して発生することにより生じる風水害(複合的風水害)が懸念されることから、極端気象の監視・予測手法の高度化は急務である。
 極端気象は局所的に発生し時間変動が激しいために高い時間・空間分解能での観測技術が求められる。また、より早期の予測のためには降雨開始前の雲や上昇気流の観測技術の開発が必要である。近年、地上マルチパラメータレーダー観測網の整備、高頻度観測が可能な静止気象衛星、高速スキャンが可能なレーダー技術の開発、データ同化技術を組み込んだ雲解像数値気象モデルの高度化が進められている。極端気象災害の被害軽減のためにはこれらの新たな技術の実用化に向けた取組を加速する必要がある。さらに、国際的な連携の下、先進国のみならず発展途上国への開発技術の展開を視野に入れた取組が必要である。

総合的水資源管理の推進

 水環境の保全、持続可能な水資源利用の実現、水災害リスクの軽減等のために、気候変動に対応する、水利用の円滑化・効率化、地下水の保全と活用など、水資源に係る様々な課題を包括的に捉えた総合的水資源管理の推進が必要であり、その基礎となる流域・地域の状況を表現・把握するための情報や指標の整備が必要である。
 そのため、地域性の強い現象にかかわる情報、特に数値モデル化が容易でない事象を、関連する国際的な枠組・組織との連携を図りながら、地球規模で収集していく必要がある。
現在、基礎となる土地利用情報として、地球地図データが存在するが、今後、より詳細なデータ整備が期待される。特に季節や年代で大きな変化のある植生や農地・栽培作目などは、気候変動の影響評価や適応策の検討のために、多くの分野・関係者が共通して必要とする情報であり、これらの情報のための衛星と地上での長期継続観測やデータ整備が必要である。

2 生態系・生物多様性

 生態系・生物多様性に対する気候変動の影響はすでに顕在化しており、今後はその影響が加速することから、その影響変化をできるだけ時系列的に把握し対策を打つこと、及びその対策の有効性をモニタリングすることが求められている。特に、発展途上国における環境の変化が著しいこと、気候変動などによる影響が早期に顕在化する可能性が高いことなどから早急に観測体制を構築する必要がある。また、植林クリーン開発メカニズム(CDM)のクレジット検証や、「途上国における森林の減少・劣化に由来する排出の削減等(REDD+)」の基準作り、また、昨年5月に生物多様性条約事務局から公表された地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)では、地球規模での生物多様性の危機的な状況が報告されており、生物多様性条約における目標達成状況の把握などにおいても、生態系・生物多様性のモニタリングが必要となる可能性がある。
 昨年10月に名古屋で開催された生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議(COP10)では、2011年から2020年までの戦略計画及び愛知目標が採択され、「自然と共生する」世界を実現するための長期目標として、「2050年までに、生態系サービスを維持し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、健全に利用される」こと、短期目標として、「2020年までに、生態系が強靱で基礎的なサービスを提供できるよう、生物多様性の損失を止めるために、実効的かつ緊急の行動を起こす」こと、また、個別目標として、2020年までに陸域及び内陸水域の17%、沿岸域及び海域の10%を保護地域とすることなど、20の目標が合意された。さらに、現在、生物多様性分野における科学と政策のつながりを強化するため、「生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の設立に向けた議論が進んでおり、我が国がこれまでに蓄積した観測データを通じたIPBESへの貢献が期待される。
また、本年6月のG20農業大臣会合で採択された「ACTION PLAN ON FOOD PRICE VOLATILITY AND AGRICULTURE(食料価格脆弱性と農業に関するアクションプラン)」や、昨年10月のAPEC食料安全保障担当大臣会合で採択された「APEC食料安全保障に関する新潟宣言」においても、我が国を含めた世界における食料の安定供給のために、農業気象と穀物生産に関する情報改善の必要などが言及され、G20農業大臣会合においては、そのためのツールとしてリモートセンシングの活用が提案されている。
 これら国際的な枠組での生態系・生物多様性の保全に向けた取組の着実な推進のためにも地球観測の果たす役割は大きく、国際的な連携による生態系・生物多様性モニタリング体制の構築とデータの共用化が求められている。
 なお、生物圏に関する観測は時間スケールが長いことから、必ずしも短時間にその結果の評価を行うことができないため、適切な機関間連携を図ること等により、長期的な観測体制・評価体制の整備が必要となる。
 気候変動による生態系機能の変化については未知の部分が多く、また生物多様性への影響の陸域・沿岸域から外洋域にわたる観測はまだまだ不十分であるため、これらの課題解決に向け、以下の取組の推進が期待される。

生態系・生物多様性の保全

 地球規模の気候・環境変動や大規模災害及び人為的な土地利用変化による生態系・生物多様性への影響を観測・評価し、生態系・生物多様性の劣化が人間生活に与える影響を把握するとともに、有効な適応策を順応的に確立するために、地上調査の拡充及び海洋生態系・物質循環の時系列観測の強化や、関連して劣化が懸念される生態系サービス(自然災害抑制、水、生物生産など)の複合的なモニタリングが必要である。現在、二酸化炭素と生態系データ(特に生産力)の観測などは連携が進んできているものの、その他の連携が遅れており、その推進が期待される。
 また、生物圏の観測・調査は個別独立に行われることが多く、その知見が必ずしも集約化されていないことから、個別独立な観測データを集約化して共有することが重要であり、まず、官公庁、大学、企業、NGOなどが所有しているデータの電子化、公開を進めることが求められている。さらに様々な観測ネットワークの連携や得られるデータの集約化・共有化を行うための実施主体としての拠点を作ることが必要である。

森林の保全と炭素モニタリング

 陸域生態系の中での資源として、あるいは環境への影響の大きさにおいて、森林は非常に重要な意味を持っており、近年、特に地球環境や生物多様性等に関連して、ますますその重要性が指摘されている。わが国では古くから、森林そのものを対象に資源としての観点から、また関係する気象学や生態学の観点からも長期間にわたって観測が行われてきており、その観測資料は貴重な財産となっている。森林観測データには多岐にわたる内容が含まれ、資源としての情報、生物集団としての情報のほか、生態系や生物多様性の観点からの情報などがあり、しかもそれらのスケールも群落から流域・地域・国レベルまでの情報があり得るので、それらを統一的に取り扱うには困難が伴う現状がある。
 森林減少等に由来する排出は、世界の人為的な二酸化炭素排出量の約2割を占めるとされており、REDD+の取組が気候変動対策として果たす役割は大きい。
 地球規模での森林の適切な管理・保全の実現に向け、効率的・効果的な対策を講じるためには、森林生態系と生物多様性の変化の観測や排出量・炭素収支等の計測や報告、森林のバイオマス量及びその動態の評価の観点から、衛星や航空機による観測や現地での森林調査等を利用した森林モニタリングシステムの構築・高度化に向けた継続的な取組が必要不可欠である。森林モニタリングシステムの構築については、ブラジル・アマゾンにおける伐採現場の早期発見・監視による違法行為の抑制に貢献した陸域観測技術衛星「だいち」のLバンド合成開口レーダを高度化し搭載した陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)、また、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)とその後継機による衛星観測の継続実施に加え、センサーの高度化、データの取得、バイオマス量推定アルゴリズムの開発、現地取得データとの連携など多くの取組が必要となる。関係機関も多数にわたることから、森林観測に関わる様々な分野の研究ネットワークを緊密に連携させ、現場におけるニーズを踏まえ、効率的・効果的な連携を確保しつつ着実に推進していくことが重要である。
なお、地球観測連携拠点(温暖化分野)は、ワークショップの開催等により今後の連携施策の検討を行い、森林観測の連携に関する以下の取組を推進することが必要であるとまとめた。

  • 森林観測に関わる様々な分野の研究ネットワークの緊密な連携と機関間・分野間の情報交換の一層の推進
  • 高山帯・周極域・冷温帯林と暖温帯林・熱帯林等における地球温暖化による影響を把握するための超長期的モニタリングの実施
  • REDD+の取組の中で、特に、REDD+の測定/報告/検証(MRV)に貢献するための高度なモニタリング技術の開発

海洋酸性化のモニタリング

 海洋の酸性化は現在確実に進行している。これまでの実験室内における限定的な研究によれば、海洋酸性化が海洋生物に影響を及ぼすことで、種の多様性や,水産資源,さらに、海洋の二酸化炭素吸収能や生物分布にも変化をもたらす可能性が指摘されている。低水温の北部太平洋海域は海洋酸性化の石灰化生物への影響が急速に現れると考えられているものの、海洋現場での酸性化の実態と生態系変動との相互関連についての知見はきわめて乏しい。
 地球環境変動に対する将来予測、さらにはその適応策立案のために、速やかに海洋酸性化に伴う海洋生態系や炭素循環の構造と機能の変化に関する観測研究を行うと同時に、生物多様性、水産資源、及び炭素循環を含む物質循環の影響評価に向けたモニタリングを始める必要がある。特に、その影響が大きく現れることが予測されている南極海、北極海での観測を充実させる必要がある。

農業生産環境の変化の把握

 昨今、干ばつ、集中豪雨や津波など農業生産に影響を与える異常気象や自然災害が世界各地で発生するケースが増加している。多くの穀物を輸入している我が国においても、我が国の地球観測衛星によるリモートセンシング技術を活用し、世界の主要な穀物生産地域などの農業生産環境を把握することは、食料の安定確保の観点から重要である。
 このため、我が国における食料の安定確保、気候変動及び異常気象による農業への影響把握、ならびに我が国の技術のアジア地域への展開のために、農業分野と宇宙開発分野の研究機関の相互の密接な連携の下、ALOSシリーズ及びGCOM-Cによる水稲をはじめとする主要穀物に関する作付面積・生育状況の把握及び洪水や津波等による農地への浸水・湛水被害の把握を行う。特に「だいち」では、2011年5月の運用終了まで、国内の水稲作付状況の把握や洪水・津波による農業被害状況把握のための観測を行っており、また、アジア地域においても農業被害状況把握のために「だいち」は広く活用されてきたことから、これら継続的な観測のため、後継機の打上げが必要である。また、農業に被害を与える可能性のある異常気象などについて、GCOM-W、GCOM-C、GPM及びEarthCAREによる衛星観測と地上観測網を組み合わせた地球観測を強化・継続する。あわせて、収量予測のためのモデル研究、モデルの入力となる気象情報(日射量、土壌水分、降水量、地温など)のGCOM-W、GCOM-C、GPMによる衛星観測と地上観測網による継続観測、及び結果の検証のための取組を始める必要がある。さらに、その成果をG20、GEO、APECおよびASEANなどに発信し、我が国が国際的なリーダーシップを発揮し、推進することが期待される。

第2節 気候変動メカニズムの解明

 気候変動の監視・予測・影響評価・対策のいずれにおいても、地球温暖化による気温上昇とそれに伴う気象・気候変化を定量的かつ正確に予測することが重要であり、このためには放射収支や温室効果ガス循環などの気候予測において不確実性が高いプロセス・メカニズムの解明に必要となる様々な物理量等を全球規模で長期継続的に観測することが必要である。
雲物理・降水過程や台風・熱帯低気圧、インド洋ダイポールの発生など、科学的に十分解明されていない現象については、科学的理解の不足が、気候変動に伴う影響予測に大きな不確実性をもたらしている。また、気候変動の温室効果ガス収支へのフィードバックに大きな不確実性が含まれることから、フィードバックの大きさによっては、現在検討されている排出規制の目標値を大きく変更させる可能性がある。
 したがって、これらの不確実性の低減は、精度の高い温暖化予測やその予測に基づく政策立案のために必要かつ緊急の課題であるため、地球観測の取組を一層推進しなければならない。観測技術の高機能化と併せ低コスト化を更に加速させ観測網の充実を図るとともに、得られた観測データを基にした予測・解析技術の高度化及び影響評価を推進し、その成果を防災や健康分野等の実社会に活かすことが求められている。 
すでに述べたようにこれら不確実性の大きな原因のひとつは、予測モデルに組み込むべき気候変動プロセス・メカニズムの理解不足である。本節では、気候変動のプロセス・メカニズム理解のために特に取り組むべき課題として、温室効果ガスに係る物質循環の解明、雲物理・降水過程の解明、対流圏大気変化の把握、海洋の熱・水・物質循環及び大気海洋相互作用と海洋変動の把握、極域における変化の観測・監視に焦点をあてて整理した。
これらの課題への取組は、地球システムの理解に不可欠であるだけでなく、前節でまとめた、気候変動に伴う影響の把握のためにも必要とされるものであり、水循環、生態系等の分野とも深く関係するため分野横断的な取組が求められる。
地球観測の推進による予測の高度化・不確実性の低減から影響評価、緩和・適応策の策定に関わる基本的課題の解決のために、これら観測・予測の科学から意志決定に資する研究成果の提供までの一貫した研究体制を確立して、推進することが期待される。

温室効果ガスに係る物質循環の解明

 気候変動を予測し、人間社会や生態系への気候変動の影響を評価する上で、温室効果ガスに係る物質循環を正確に理解することは喫緊の課題である。
 特に、温室効果ガスに係る物質循環と、その気候へのフィードバックは十分に解明されておらず、IPCC AR4でも、気候変動と炭素循環の間の正のフィードバックの大きさの不確実性のため、大気中の二酸化炭素濃度をある特定の水準に安定化させるために必要な二酸化炭素排出量変化の不確実性が増大すると指摘し、将来の炭素循環のフィードバックの大きさの決定が解決すべき課題として挙げられており、その解明の為には、地上、船舶、航空機及び衛星などを活用した、広域にわたる温室効果ガスの長期モニタリングが不可欠であり、一層の拡充が必要であるとされている。
現在、温室効果ガス排出削減策の一つとしてREDD+が注目されており、二酸化炭素吸収源となる森林の観測を含めた炭素循環の観測の重要性が増している。また、森林火災やインドネシア等で多発する泥炭火災による二酸化炭素放出については、衛星観測で評価した地上バイオマスの喪失のみから推定されているケースが多いため不確実性が高い。衛星観測に加え、現地観測によって森林保全が温暖化防止策として果たす役割を正確に評価することが求められている。また、航空機による観測は分解能・測定精度が高く、上空の大気の状態の直接観測という独自の重要性を持ち、衛星・地上観測の検証に必須である。
農耕地や草地における炭素貯留は、今後の地球温暖化対策として重要な役割を果たすことが期待されており、他の温室効果ガスを含めて、農耕地や草地の条件とガス・物質動態のより正確な見積りと評価が求められている。メタンや一酸化二窒素については、そのシンクとソース及び気候応答の理解が不十分であるため、将来の推移予測が著しく困難となっており、早急に解決すべき課題である。また、二酸化炭素の放射性同位体比には、化石燃料起源の炭素に関する情報が含まれており、人為起源の二酸化炭素収支の解明につながることが期待される。
 更に、海洋も様々な物質を溶かし込んでいるため、その物質の分布や輸送・循環を観測し、把握することは、温室効果ガスに係る物質循環の理解に対して重要な役割を果たす。
こうしたことから、全球的な温室効果ガスの濃度分布及び収支の把握並びに循環に対する理解を一層深め、モデルの高精度化に寄与する観測を強化することが必要である。
宇宙からの全球の温室効果ガス濃度分布の観測については、我が国が「いぶき」により国際的なリーダーシップを発揮していることから、後継機を含めこの取組を推進することが必要である。
また、生態系による吸収・放出量の寄与を明らかにするためには、海洋及び陸域生態系の生産量分布と、その長期的な変化を捉える必要がある。そのためには、GCOM-Cによる全球規模の生産量把握と長期変動監視を早期に開始し、地上観測網による精緻な実測と併せてこれを広域化するためのデータを継続的に取得することが必要である。また、世界の森林を広範囲にかつ高精度・高頻度に観測してきた「だいち」の運用が終了したことを踏まえ、「だいち」による観測を継続・高度化するALOS後継機の開発を推進することが必要である。

雲物理・降水過程の解明

 IPCC AR4において指摘されているように、気候変動予測に利用される気候モデルにおいて、雲・降水過程の扱い(特に熱帯域の雲降水過程)には不確定要素が多い。放射収支に関する雲・エアロゾルは、温暖化を和らげる(冷却する)効果を持つものの、その大きさが不確定であり、現在主流の気候モデルに内在する最大の不確定要因となっている。また、雲・降水過程に伴う潜熱の再配分と大気循環との相互作用のメカニズムが未解明であることは、気候モデルにおける地球規模の大気循環再現性に大きな不確実性を残している重要な要因である。気候変動の予測精度向上のためには、衛星・地上リモートセンシング技術や航空機観測技術などを用いた観測実験的手法による研究を推進し、エアロゾルが雲核・氷晶核として雲・降水過程に、ひいては、エアロゾル・雲・降水と大気大循環との相互作用を通じて、水・エネルギー循環に及ぼすプロセス・メカニズムの解明を進展させるとともに、エアロゾル・雲・降水の全球規模での衛星・航空機・船舶によるモニタリング観測を持続的に遂行することが必須である。そのためには、GCOM-Cによる陸域も含めた全球規模のエアロゾル高精度観測、EarthCAREによる雲の鉛直構造把握、GPMによる立体的かつ観測頻度の高い降雨観測など、衛星による観測を早期に開始し、これまでに国内外で蓄積された多種の衛星観測によるデータを有効に解析するとともに、衛星観測を検証する航空機観測や北極域における地上雲レーダー観測を充実することが必要である。

対流圏大気変化の把握

 近年のアジア地域の急速な経済発展に伴い、化石燃料の燃焼に伴う大気汚染物質の放出量が増大し、我が国を含む広範囲の地域の環境への影響が懸念されている。また、近年は、越境大気汚染によりオキシダント濃度が環境基準を超過し、光化学スモッグ頻度も増加中であり、健康被害や農作物への被害が懸念されている。さらに大気汚染物質は、二酸化炭素以外の微量温室効果ガスの大気寿命に重要な影響を及ぼすことから、地球温暖化及び気候変動の観点からもその観測が求められている。
大気化学の観測では、大気組成の空間的・時間的変動の常時監視が重要で、そのためには、互いを補完する衛星・航空機・地上観測の並行実施が不可欠である。静止衛星によるアジア地域の広域的な大気汚染・大気変化の監視が必要とされているが、欧米も含めてまだ実現していない。実現のためには、静止衛星への搭載を目指した、大気環境観測センサの研究の促進が必要である。同時に粒子状物質のような空間的変動が大きい物質の観測に対応した地上観測点の整備も必要である。

海洋の熱・水・物質循環及び大気海洋相互作用と海洋変動の把握

 海洋が気候に及ぼす影響は大きく、地球規模で熱・水・物質を輸送する海洋循環の実態とその変化、さらに大気との交換の実態を知ることは、気候変動の予測はもちろん、緩和・適応策の立案を支える重要な基礎となる。近年、海洋が直接的に気候変動を支配すると考えられる現象が報告されるようになり、その中でも、インド洋ダイポール現象は、東南アジアあるいはオーストラリアでの干ばつと直接的な関係があるばかりでなく、太平洋のエルニーニョ発生状況とも関連して、遠く日本の季節的な気温変化、降水量変化にも影響を与えていることが指摘されている。また、世界の各大洋で報告されている深層水の昇温に関しては、特に南極周辺での深層水形成量の変化と結びついていると考えられており、大気との熱交換変化を通じて人間の生活圏の気温の急激な変化や、人為起源二酸化炭素の海洋深層への輸送量変化が引き起こされる可能性が指摘されている。
 これらの実態とメカニズムの解明、及び気候モデルへのインプットを可能とするためには、海洋と大気を一体としたモニター観測研究と、個々の現象を対象としたプロセス観測研究を不可分に推進することが必要とされる。このため、これまでに日本で培われた定置ブイ、漂流フロート、荒天域での船舶観測等の全球規摸での現場観測網の構築を促進し、さらに老朽化した機器を更新し長期継続的に維持することが必要である。加えて、平成23年度に打ち上げ予定のGCOM-Wにより海洋変動監視や大気海洋相互作用の把握に必要な海面水温や海上風等の衛星による観測を継続的に行い、現場観測データと比較検証することにより、広域での高精度な観測を実現することが必要である。

極域における変化の観測・監視

 北極域は、地球温暖化による平均気温の上昇が最も大きく、地球上において気候変動による影響が最も顕著に表れると予測される地域の一つであり、また、地球上の雪氷の変化は、地球温暖化の加速や海水面上昇などの地球環境に影響を及ぼすことが懸念されている。北極域における変化は、日本や世界の気候システム及び全球的な物質循環に影響をもたらす可能性があることから、環境変動の実態とメカニズムの把握や環境変動に伴う生態系の応答プロセスの理解、および領域気候モデル構築や大気大循環モデル(GCM)の高度化のため、北極域を含む雪氷圏における継続的な地球観測を実施することは非常に重要である。また、過去から現在に至る気候変動を把握するために、氷床・凍土等の観測を強化することも重要である。一方、南極域は極めて強い温暖化の起こっている南極半島域とあまり温暖化が顕著に現れていない東南極域とがある。前者は、棚氷の崩壊、氷河流出、ひいては氷床の消耗、海面水位上昇につながるものとしてその変化の広域監視が必要であり、後者は、特にオゾンホールの存在が温暖化抑制に働いているとの説があることから、今後の動向の把握が必要である。大型大気レーダーの設置に伴うこのような気候変動メカニズムの解明とともに、長期の変動を監視する定常・モニタリング観測の継続が必要であり、今後も南極観測事業を着実に継続して実施していくことが重要である。
 更に、南極域で進められている観測と併せ、北極域・南極域双方の結果を比較研究することも重要である。さらに、年間を通じて環境変動を監視するため、従来の観測システムの改良や新しい観測システムの開発が必要である。

第3節 地震・津波・火山による被害の軽減

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、我が国に甚大な被害をもたらしただけでなく、広く世界中に影響を及ぼした。現在、あらゆる政策手段を総動員した震災からの復興・再生が進められているなか、総合科学技術会議においても、策定途中であった「第4期科学技術基本計画」の再検討が実施され、「震災からの復興、再生の実現」が同計画の中で掲げられたところである。また、今般の震災発生後、「だいち」による広域且つ高精度という特色を生かして被災地の緊急観測を行い効率的に被害状況の把握や、地震源近傍における海底地形の調査や余震調査、及び海底下構造探査が行われた。また、放射性物質の放出状況のモニタリングや、放射能濃度分布のシミュレーションに役立てるための海水温及び塩分濃度等の観測などの様々な取組が行われた。これら震災後の取組を踏まえ、本実施方針においては、「推進戦略」に示されている地震・津波・火山の分野での地球観測の推進について、改めてその重要性を確認し、その方向性を捉え直す必要があるという観点から、災害発生メカニズムの解明、災害情報の正確かつ迅速な把握及び国際連携に資する地球観測に焦点を当て、以下のように整理した。

災害発生メカニズムの解明と予測技術の向上による今後の防災・減災への貢献

 東日本大震災では、それを引き起こした海溝型超巨大地震や巨大津波の現象・災害に対して科学的知見の蓄積が未だ不十分であることが再認識された。また、現在も霧島山(新燃岳)では断続的に噴火が継続し、海溝型巨大地震による応力場の変化に伴って富士山等の多くの火山周辺や内陸地殻で地震活動が活発化していることが懸念されており、国民の安全・安心な生活を脅かし続けている。地震や津波・火山活動による被害を軽減するためには、地震・地殻活動等の調査・観測を通じて、災害発生に至る諸過程を把握するとともに、得られた観測データにより、予測シミュレーションを高度化し、その発生予測精度を向上させることが必要である。また、観測データの蓄積による発生メカニズムの解明や予測精度の向上は、リスク・ハザード評価の一層の高度化、さらに、被災地の復旧・復興における今後の的確な防災・減災対策の立案へもつながる。
 地震・津波の発生メカニズムを深く解明するためには、マルチチャンネル反射法探査システムによる海域地球物理観測や自律型無人潜水機(AUV)・遠隔操作型無人探査機(ROV)等の潜水船により過去の地震像の実態を正確に把握するとともに、地球深部探査船「ちきゅう」による科学掘削により断層から掘削したコアから、地震性破壊の有無を把握することが必要である。また、災害発生時の早期検知に向け、地震・津波及び海底地殻変動をリアルタイムでモニタリングすることが重要であり、その為の稠密な観測網を整備する必要がある。さらに、陸域及び海域の観測により得られた成果をハザードマップの整備・更新等に活用するなど、今後の災害対策に活かしていくことが重要である。また、観測研究の成果を世界で共有していくとともに、グローバルな観測網の更なる充実も必要である。

災害情報の正確かつ迅速な把握及び国際連携の推進による災害対応への貢献

 地震大国と呼ばれる我が国のみならず、アジア・オセアニアは地震や津波にたびたび見舞われる地域であり、災害時において、その規模や被害状況等を正確かつ迅速に把握することは、世界的な課題であると言える。その課題の解決に向けて、衛星・航空機による災害監視体制、また、生態系の被害状況およびその後の変化等を把握する為の衛星及び陸域・海域、特に沿岸域での観測体制、日本近海のみならず太平洋における海底火山や漂流物の拡散状況等の海洋環境の広域俯瞰的な観測体制を強化するとともに、解析システムと併せた、より迅速かつ正確な情報の把握及び伝達システムの構築を進めることが必要である。特に、東日本大震災のみならず、世界各国で発生した地震、津波、火山、洪水等の災害において、広域俯瞰的な被害状況の把握に貢献し、センチネルアジアや国際災害チャータの枠組で数多くの有効な衛星画像を提供してきた「だいち」の運用が終了したことを踏まえ、「だいち」による観測を継続・高度化するALOS後継機の開発を推進することが必要である。また、海洋生態系への被害状況を、海洋の物理・化学的環境、気象や海底地形、海底下の状況を踏まえて包括的に把握するためには、総合的な科学的調査と研究を実施することのできる船舶が必要不可欠であり、計画的に整備していくことが必要である。
 また、観測技術の高度化及び機器の高機能化や小型化を進めるとともに、通信ネットワークについても災害に対して頑健なシステムの構築に向けた取組が必要である。今回発生した東日本大震災においては、センチネルアジアや国際災害チャーターを通じて各国から提供された衛星画像や、国内関係省庁・機関の連携による震源域周辺及び以東の海域での放射性物質の海水の汚染状況のモニタリングは、被災地の状況把握に重要な役割を果たした。このような国際協力及び国内の関係省庁・機関による連携は不可欠であり、今後の災害対応においてもこの取組を継続・発展させることが必要である。

第2章 国内の地球観測システムの統合に向けた地球観測データの統合化

「推進戦略」では、我が国の地球観測の基本戦略として、「利用ニーズ主導の統合された地球観測システムの構築」を挙げている。利用ニーズ主導の統合された地球観測システムは、地球環境問題や災害の軽減といった国民のニーズが高い重要な課題解決を可能にするため、持続的・効率的に効果的な地球観測を実現するものであり、その構築を進めることが重要である。
地球観測システムの統合に向けては、衛星、海洋、航空機、地上観測などの様々な観測データを科学的・社会的に有用な情報に変換し、全人類的課題である地球環境問題の解決や自然災害の低減に有用な情報として広く社会に提供することが重要である。多様な地球観測・予測データの統合化と解析のための超大容量システムを構築して、温室効果ガスの地域排出量のモニタリング体制の確立、気候変動予測モデルの相互比較・統合化、災害やエネルギー等の様々な分野における影響評価の推進、地域気候変動の予測・影響評価の高度化、気候変動への緩和策と適応策の意思決定、人口減少下の効果的な国土管理など、最先端科学技術を応用した国民目線の成果を創出することが期待されている。
異分野間のデータに加え、地球地図等の全球的基盤データを共有・統融合し、河川管理、農業農村基盤整備、林業・水産業支援、生物多様性の保全、感染症対策、影響評価結果に基づく地球温暖化の緩和策や気候変動への適応策、大規模災害軽減などに資する有用な情報を創出し、その成果を関係府省・機関の連携によって社会に還元していくことが求められる。同時に、我が国における地球観測事業による観測データの共有・利用を促進し、「推進戦略」に示された地球観測システムの統合化を加速していく必要がある。さらに大学を含めた我が国におけるより広汎な地球観測データに関しても、その一層の有効利用を図るために、これらの統合化を進める必要がある。
また、「平成23年度科学・技術重要施策アクション・プラン」で示された重要施策パッケージ「地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化」においては、2020年までの成果目標として「地球観測データの統合化を進め、統合データが全体に占める割合を90%以上に引き上げる」とされ、「平成24年度科学技術重要施策アクションプラン」では、「地域特性に応じた自然共生型のまちづくり」を重点的取組の一つとして掲げ、『地球観測、予測、統合解析システムをグリーンイノベーションの創出を促す上で重要な社会的・公共的インフラと位置付け、関連する技術を飛躍的に強化するとともに、国際連携も活用した効率的な開発を行い、気候変動への対応や自然共生、災害のリスクマネジメント等幅広い領域における活用を促進する』こととされている。
これらの目的を確実に達成するため、我が国における地球観測事業による観測データの共有・利用を促進し、「推進戦略」に示された地球観測システムの統合化を加速していく必要がある。その為には、我が国における関係省庁・機関及びデータ統合・解析システム(DIAS)、地理情報クリアリングハウス、地球観測グリッド(GEO Grid)などのデータベースの連携、及びデータ利用者の利便性向上のためのデータ・メタデータの統合化に向けた取組とその利活用が一層推進されることが求められる。

第3章 国際的な連携の強化

「推進戦略」では、我が国の地球観測の国際戦略として、「国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮」、「アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立」を挙げている。

国際的な枠組との連携及び協働

我が国は、科学技術の水準の向上を図り、経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに、世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献するため、科学技術の振興を図ってきた。また、国際社会における役割を積極的に果たすとともに、我が国の科学技術の一層の進展に資するため、研究者の国際的な交流、共同研究、科学技術に関する情報の国際的流通等を推進している。今後とも地球観測に係る国際的な貢献に取り組んでいく必要があり、GEOSSをはじめとする国際機関・計画における地球観測に関する取組をより一層加速し、推進することが求められる。我が国は、GEOSS推進のための組織である「地球観測に関する政府間会合(GEO)」の執行委員会メンバーを務めている他、作業計画へのリード機関・貢献機関としての参加、事務局への人的貢献、常設委員会(構造及びデータ委員会)の共同議長、主要なタスクチーム等へのメンバー派遣を行っており、引き続き国際的なイニシアティブを発揮していくことが期待される。
また、GEOSSの活動におけるアジア太平洋地域での一層の連携強化のために、平成19年から、GEOSSの普及及びGEOSS推進に向けた情報交換を行い、共通理解を深めることを目的として、「GEOSSアジア太平洋シンポジウム」が毎年開催されている。本シンポジウムを通じて、GEOSS推進に向けた具体的な連携の取組を推進し、アジア太平洋地域の取組を世界に発信していくことで、全世界的なGEOSSの推進につなげていくことが期待される。
さらに、「GEOSS10年実施計画」の後半を迎え、各国における地球観測システムの統合に向けた取組が本格化する。GEOSSにおいて共有されるデータは「データ共有原則」に従うべきとされており、GEOSS10年実施計画においてガイドラインが制定されている。また、各国・各機関が保有する各種データを共有するためのGEOSSの共通基盤となる情報システム(GEOSS Common Infrastructure, GCI)を構築し、運用を開始している。今後は、DIASを日本及びアジアのデータ統合のハブとし、GCIとの接続を通じてGEOSSにおける世界的なデータの共有に貢献していく必要がある。
気候変動の分野においては、UNFCCCの第15回締約国会議において、研究及び組織的観測の決議が採択され、その具体的なアクションとして、全球気候変動観測システム(GCOS)が衛星観測、地上観測等に関する国際観測網の構築について実施計画を定義している。また、地球観測衛星委員会(CEOS)から、気候監視を優先事項として気候に関する科学的知見の充実に貢献することが表明され、さらに、世界気候会議(WCC-3)において世界のすべての国々に対する気候情報の提供を推進する「気候サービスのための世界的枠組み(GFCS)」の構築が決定された。
GCOSが定義する観測に対する要求条件として、必須気候変数(ECV)が大気、海洋、陸域の分野で合計50種定義されており、UNFCCC等における意思決定に貢献する重要な情報となっている。これらの広域で長期に渡る気候変動に関する物理量の分布と変化の情報を国際協力の下で長期に着実に観測し、取得したデータを蓄積することにより、気候変動の研究と実態把握への活用が求められている。
ECVのような包括的な気候変動監視のためのパラメータを長期に観測し、データ提供を実施していくためには、関連する研究開発と運用に携わる機関の双方の協力が不可欠となる。衛星観測においては、GCOM-C及びGCOM-Wの着実かつ継続的なミッション遂行をはじめ、国内及び海外の研究と運用の衛星観測によるECVの対応調査を実施し、観測とデータの気候変動監視・予測に堪える精度、品質、衛星・センサー間の整合性、長期継続性を保証すると共に、GCOSの要求に対するギャップについての対応策を協議し、その結果をUNFCCCにおいて報告する必要がある。

科学技術外交の推進

総合科学技術会議が平成20年5月に取りまとめた「科学技術外交の強化に向けて」などを受けて、「推進戦略」における「アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立」の考え方を発展させ、アジア・オセアニア地域のみならずアフリカ地域など、広く連携を図っていくことが必要である。
気候変動の問題や残留性の高い化学物質が国境を越えて影響を及ぼす問題など、グローバルな環境リスク問題への対応には、国際的な地球観測の共同研究が不可欠である。しかしながら、発展途上国においては、観測施設・拠点の整備、継続的な観測を実施するための現地研究者等の人材育成など、課題が非常に多い。我が国の高度な観測技術を活かし、積極的な科学技術外交の推進と研究協力を行い、発展途上国における国際観測網への参画、観測技術の向上、人材育成に貢献していく必要がある。
また、積極的な科学技術外交を推進するに当たり、我が国がこれまでに行ってきた衛星や船舶等による観測データ及びその技術は、発展途上国における違法伐採の監視支援や陸域生態系の炭素収支観測、及び社会・経済的に深刻な影響を与える豪雨や干ばつをもたらすエルニーニョやモンスーン等の大気・海洋の変動の把握に関する共同研究等に広く活用されている。我が国の衛星や船舶等による地球観測は、アジア・オセアニア地域及びアフリカ地域等との連携を図る上で必要不可欠な役割を果たしており、強力な外交ツールとして機能している。今後も、衛星による観測やその技術開発を推進し、これら地域に限定せず引き続き幅広く協力を進めていくことが、我が国の科学技術外交の強化において非常に重要である。
関係府省・機関は、引き続き科学技術と外交の相乗効果等の観点から、発展途上国との科学技術協力を強化し、発展途上国の観測ニーズの把握、発展途上国の能力開発を含めた国際共同研究を推進することが期待される。

第4章 分野別推進戦略に基づく地球観測の長期継続の推進

「推進戦略」では、社会的な要請に応える包括的な地球観測の全体像を明らかにするため、「地球温暖化」、「地球規模水循環」、「地球環境」、「生態系」、「風水害」、「大規模火災」、「地震・津波・火山」、「エネルギー・鉱物資源」、「森林資源」、「農業資源」、「海洋生物資源」、「空間情報基盤」、「土地利用及び人間活動に関する地理情報」、「気象・海象」、「地球科学」の15分野において現状、観測ニーズ、今後の取組方針等を整理した分野別の推進戦略をまとめている。関係府省・機関は「推進戦略」に基づき、引き続きこれらの分野における取組を推進することが期待される。
地球システムにおける重要な変化の多くには、短期間の観測では明らかにすることができない事象があり、的確な把握のためには長期継続した観測が必要であることから、地球観測事業の長期継続的な実施に必要な観測基盤の構築が重要である。
 そのため、統合された地球観測システムにおいては、長期継続観測を実施する関係府省・機関と研究開発機関・大学の連携を可能とする仕組みを備え、関係府省・機関の有する観測施設等と人材、研究開発機関・大学の技術等を活用することで、長期継続的な研究観測を支援する体制を整えることが重要である。また、長期継続観測を可能とする新たな観測手法や観測機器の開発、人材の育成を促進するためには、競争的研究資金の活用等を図ることも必要であり、これらを総合することにより長期継続観測の体制を構築することが出来る。
また、これまでに挙げた重要観測項目のモニタリングや長期継続観測を可能とする体制(予算、連携体制等)の構築、モニタリングや長期継続観測の重要性を示す広報・アウトリーチ活動の推進、観測資料・試料に関するデータベースの構築、データ共有・流通の促進などを進めることで、必要なデータを継続的に取得し適切な形で利用できる体制を整える必要がある。そのためには、それぞれの地球観測システムを担っている府省・機関が相互に連携し合う必要があり、その手段として関係府省・機関間の連携を推進する機能を持った連携拠点の設置や、関係府省・機関による具体的施策を通じて連携する必要がある。各分野における連携の進捗状況は様々であるものの、現在、その取組が進んでいる分野においては、機関間・分野間の具体的な連携施策の検討が進められており、データ流通やデータ標準化の取組等に関する成功事例も創出し始めいていることから、今後更に成功事例を創出していくことが他の分野の連携・データ共有の促進に繋がるため、引き続き、既存の連携拠点における連携の推進が期待される。その際には、これまでの連携の成果を評価し、活動にフィードバックすることが重要である。また、既存の取組も参考にして、新たな分野での連携拠点の設置を検討することが必要である。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)

-- 登録:平成23年10月 --