参考資料1
平成19年4月24日(火曜日)14時〜17時
学術総合センター 中会議室4
井上(明)主査、家委員、井上(信)委員、大野委員、小川委員、金子委員、川上委員、駒宮委員、西村委員、横山委員、和気委員
藤井日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門副部門長、永宮J-PARCセンター長
木村量子放射線研究推進室長、他関係官
【川上委員】
非常にいい実例を示していただいて、よくわかりました。最後のところで、コーディネーターの方の勧めに従って中性子の実験を行ったら結果が出たというお話がありましたけれども、現在、コーディネーターの方は、どのような分野の方が何名ぐらいいて、どのような仕組みでそれを運用されているか、教えていただけますか。
【藤井JAEA副部門長】
このトライアルユースは、放射線利用振興協会が文科省の委託を受けて行っておりますので、放射線利用振興協会がコーディネーターを配置しています。我々としてはフルタイムのコーディネーターが欲しいのですが、予算的なこともあって現在はパートタイム的に5人ぐらいの各分野の方がおられます。その人たちが企業からの申請内容を見て、適当な装置を選びます。次に装置責任者と詳細について打ち合わせ、実際に実験できるかどうか検討しています。その5人ぐらいのコーディネーターの下にまた何人か支援する人がいて、それは放射線利用振興協会がイニシアチブをとり、原子力機構のスタッフが全面的に協力してやらせていただいております。我々のスタッフのほうも、こういうデータが出てきて非常におもしろいということで、喜んでいるところです。
コーディネーターとして放射線利用振興協会から指名されている人には、JAEAの者だけではなく、東京大学物性研究所の方もおられるし、KEKの方もおられるし、全国的に、大学の先生もおられるので、そこはバランスがとれております。我々原子力機構だけではとても賄い切れませんし、分野もカバーできませんので、これはオールジャパン体制でやっています。
【小川委員】
今のお話で、6ページと7ページにあるような実験ついては、これをJ-PARCでやったときの一番画期的なところは、どういうところですか。
【藤井JAEA副部門長】
7ページのことに関して言えば、まず、構造解析によって格段にたくさんの構造を解くことができるということがあります。それからダイナミクス、すなわち動きを見るには、構造を見る場合に比べて10万分の1ぐらい強度が弱くなりますので、それができるのはJ-PARCしかありません。動きを見るというのは機能を見るということになりますから、非常に大きな期待がされています。
【小川委員】
アクティブサイトとか、酵素のある相互作用などがよく見えるということですか。
【藤井JAEA副部門長】
そういうのが見えるようになると思います。
【小川委員】
その次の例えば東洋紡のやられている高強度繊維に関しては、今度はどういうことがわかるのですか。
【藤井JAEA副部門長】
これは、そのときにちょうど出てきたテーマでうまくいったものなのですが、こういういわゆる高分子系の問題もこれからたくさん出てくると思います。高分子の中の動きを見るにのは中性子の非弾性散乱が非常に重要だと思っています。特に高分子関係の方は、構造だけではなくてダイナミクスというのを期待されています。
【小川委員】
動きをちゃんと観られるということですね。筋肉ならば、収縮している様子がわかるのでしょうか。
【藤井JAEA副部門長】
それから、高分子がうどんのようにするする動いていくなどのようなことが観られます。
【小川委員】
そうすると、資生堂との研究の例では、皮膚角質層に水分がどう入っていくかということも観られるのですか。
【藤井JAEA副部門長】
はい、ミリ秒か、マイクロ秒の間隔で時間を追って見ることができると思います。
【小川委員】
酸化防止膜の例では、防止膜がどのぐらいの時間でできるかではなくて、どのようにできていくかということが観られるのですか。
【藤井JAEA副部門長】
これは実際に持ってきた資料を何十分か測定して静的な構造を観ているので、今おっしゃられるように合成の過程を時間を追いながら見るということは今の場合はできません。
【小川委員】
J-PARCだと、できるようになるのですか。
【藤井JAEA副部門長】
はい。酸化防止膜をつけるのであれば、それがついていく様子などが観られると思います。どのぐらいの時間間隔での測定になるかはわかりませんが。
【西村委員】
タンパク質の構造の解明に非常に興味があるのですが、卵白リゾチームというのは非常にポピュラーなタンパク質で、結晶化もしやすいですけれど、測定に必要な結晶の大きさは、どの程度なのでしょう。
【藤井JAEA副部門長】
それはタンパク質の構造解析のときに一番重要な問題です。現在は一般的には1ミリとか2ミリ角ぐらいのものが必要ですが、このリゾチームの場合には2ミリ角ぐらいの大きなものでした。J-PARCでは、1辺が0.5ミリぐらいのものが測定できると考えています。それでも、ミクロンの大きさの試料を扱う放射光に比べれば、創薬や標的タンパクの研究などをされている方にとってみれば、非常に大きな結晶です。
【西村委員】
そうですね。そんなに大きなものが得られるわけではないです。
【藤井JAEA副部門長】
そこで、現在結晶を大きくする技術も研究しています。どうしても結晶化しないものや、結晶化してもある大きさまでしか大きくできないものもありますので、結晶化技術と、結晶を大きくする技術も並行して推進する必要があると思って進めております。
【小川委員】
弾性散乱を観るという場合は、結晶化したものを観るのでしょうか。それとも、水溶液中で見ることができるのでしょうか。
【藤井JAEA副部門長】
今の話は結晶化したものについてでした。水溶液の場合には結晶化していませんので小角散乱で観ることになりますが、それは溶液散乱と呼ばれています。
【小川委員】
それが観られるのがJ-PARCの特徴ですか。
【藤井JAEA副部門長】
それはむしろ中性子の特徴です。
【小川委員】
では、現在JRR−3にある装置でも観ることができているのですか。
【藤井JAEA副部門長】
はい、溶液散乱は観られます。そのときに重要な中性子のお家芸として、タンパク質の部分と周りの水の部分の水素を重水素で換えてコントラストを付けることで構造がユニークに決まります。
【小川委員】
今まで中性子でどういうことができたかということはよくわかりましたが、それをJ-PARCでやると、どこが詳しく観えるようになるかがはっきり理解できなかったので質問をしました。
【藤井JAEA副部門長】
一番大きい特徴はダイナミクス、すなわち動きが見えることです。それを実時間で追いかけて見る方法と、非弾性散乱で見る方法の両方があって、それは直接的なイメージとして観るか波の回折で観るかの違いです。
【井上(明)主査】
今後の期待等が鮮明になってきたかと思いますが、よろしいでしょうか。時間の都合もありますので、本件につきましては、ここで終了させていただきます。
【金子委員】
資料2の8ページには、当面は施設共用と大学共同利用を活用し、さらにトライアルユースを導入していく、とありますけれども、利用する立場からしますと、施設共用で使うのか、大学共同利用で使うのか、トライアルユースで使うのかという違いは全く考えずに利用方法を相談したいというのが、正直な意見です。ですから、中性子を一度使ってみたいという場合はトライアルユースで使われたらいかがですか、ということを逆にアドバイスしていただけたり、トライアルユースの結果ある程度できることがわかっていたら、ではこういう利用の方法がいいと思いますよというアドバイスを教えていただけるとよいのですが、さらにでき得ることなら申請フォーマットについても、申請の時々で違うとか、ビームラインがKEKの装置か茨城県かJAEAかによって違うということがないとよいと思います。中性子を使った研究がしたいということであれば、1つのフォーマットを書くことによってJ-PARCとJRR−3のどちらの装置も使えるというような形で産業利用等ができるとよいと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
ここに書かれているのは施設共用とか大学共同利用という枠を有効利用しようということで、我々としては窓口の受付を複雑化する気持ちはございません。トライアルユースにするかどうかという区別はあると思いますけれども、窓口のほうは一本化して、これは茨城県のビームラインだから、あるいはKEKのビームラインだから、ということはせず、受け付ける際にはこの施設でこれをしたいということのみ申請すればよいような形としたいと思います。それをどのようにハンドルするかは、もちろん内部で考えることだと考えています。
【井上(明)主査】
先ほどの説明にありました共用促進法が適用されると、ユーザーにとって何か大きなメリットがあるのでしょうか。資料2の8ページにある説明を見ても、共用促進法が適用されるとすごくよいようなニュアンスで受け取れるのですが、ユーザーにとっての実際のメリットは何でしょうか。
【木村室長】
今までは、それぞれの設置者が使う権利が最初からある程度設定されています。例えばJAEAが設置したマシンであれば、それは当然JAEAが自分たちのミッションを達成するために使う施設ですから、それに必要な一定の時間を当然確保しなければいけない。それによって、本当は使いたいのに使えない一般のユーザーの方が出てくる。だけど、共用促進法の網をかぶせることによって、JAEAも自ら一ユーザーとして第三者機関に対して課題の応募をして採択されなければいけないことになるので、すべてのユーザーが同じ土俵で課題の応募ができるようになるという点では、外部ユーザーにとってメリットがあるのかと思います。
【井上(明)主査】
となりますと、その装置の設置についていろいろ世話してきたところが、特別な恩恵・特典を受けることではなくなるということですか。
【木村室長】
そうなります。
【井上(明)主査】
わかりました。
【小川委員】
先ほどの説明で、共用促進法の適用については国が関わらなければいけないというようなことをおっしゃいましたが、共用をする施設はすべて国が関与するということなのでしょうか。
【木村室長】
共用する施設に関しては国が責任を持って、建設当初からやるものについては、その建設をする。それ以外のところについては、運用を国が責任を持ってやるということになるかと思います。
【小川委員】
そのための、法律などをつくるのでしょうか。
【木村室長】
SPring-8の場合では、共用ビームラインの設置、あるいは加速器本体の運用、そういったものについて国から補助金という形で経費を支出しています。これは設置者である理研に対する運営費交付金という形では措置されません。国が直接責任を持って事業を行うという立場を明確に示すためにも、補助金という形で経費を支出するということになります。
【永宮J-PARCセンター長】
SPring-8ですべてのビームラインが埋まらなかったということと、それから思うほど産業利用が進まなかったということについては、共用促進法の導入によってそれが随分解決されたと聞いています。
【木村室長】
SPring-8は最初から共用施設です。
【山崎J-PARC副センター長】
最初から共用促進法が適用されていて、産業利用が進んだのはトライアルユースが導入されたからです。
【大野委員】
SPring-8の場合は、産業利用が進んだのは、共用促進法があったからというよりも、サービスする人的な資源をいかにして10年間で蓄えてきたかというのが、圧倒的に大きなファクターです。それにトライアルユースなどの3年間のプロジェクトが重なってきてくれて、今、コーディネーターは9名、それから産業支援者は専任が30名近くおります。そういう人的資源の整備が進んできたことが、大きなファクターです。だから、多分J-PARCもこれから最終目標に向けて何年かかけていろいろおやりになることだろうと理解しております。
【永宮J-PARCセンター長】
先ほど金子委員の御発言にありましたように、我々は窓口は非常にシンプルにしたいと思っているのですが、茨城県のビームラインに関しては、茨城県が特別にいろいろアレンジしてくださっていますので、窓口は隣に同時に置くかもしれません。特別の措置もありますので、そのことに関して今、茨城県と話し合っている途中です。
【家委員】
何回か前の作業部会でSPring-8の共用促進法の御説明があったときに、私がそれはJ-PARCについても適用されるのですかと質問したところ、どなたかが、そうはならないだろうという御説明をされたように思ったのですけれども、これはまだ白紙ということですか。
もし共用促進法が適用される場合にはどのような単位に対して、つまりJ-PARC全体について適用するのか、中性子施設に対して適用するのか、あるいは個々のビームラインそれぞれという可能性もあるのか、その辺はいかがでしょうか。
【木村室長】
最初の御質問ですけれども、共用促進法が適用にならないだろうという話については、今の現状を見れば、適用にならないと思います。それは、J-PARCはまだ運転されてないわけですから、JAEAのミッションはまだ完全に達成されてないからです。JAEAのミッションが達成されてない中でJAEAの権利を制限してまでほかの方に利用させるのが適当なのかということを考えれば、共用促進法の適用にはならないだろうと思います。ただ、今J-PARCセンターのほうでいろいろお考えになっているこういった産業界利用のニーズの取り込み方次第では、必ずしもJAEAが設置する必要はないけれどもこれだけ幅広い利用が期待されているビームラインがある、という提案がもしあれば、それは、JAEAが設置する性質のものでもありませんし、もちろんKEKが設置するような性質のものでもありませんので、国が責任を持って対応をする必要があるだろうということです。
その場合の共用促進法の網の被せ方ですが、今適用対象になっている施設では研究施設丸ごと対象となっているわけですが、J-PARCについては必ずしもそれが適当ではない部分があります。すなわち、本当に50GeV(ギガ電子ボルト)、素粒子原子核の施設まで含めて共用になるのかという問題です。それは大学共同利用に屋上屋を架してしまうことになるわけで、少なくともその部分まで共用促進法をかけるのは適当ではないだろうということは我々も理解はしているのですが、実際、ビームライン単位でやるのか、あるいはビームを流す加速器の部分まで含めるのかということについては、SPring-8の例もございますが、これから考えていかなければいけないのかなと思っています。
【川上委員】
資料2の9ページ「今後の方向性にかかる論点」というところの3項目目に関してJ-PARC側として永宮センター長から「幅広い対応について」というお話があったと思うのですけれども、その中で、私が関係していることで特に気がつきましたのは、生体物質の構造解析を目的とした利用の場合、今予算化されている10本のビームラインに関して言えば、茨城県のみが生体物質の構造解析を目的としたビームラインを作られているということです。それで、今後はいろいろな選定会議を行って今後のビームライン建設その他を決めていくというお話でしたが、それはどちらかというと受け身の感じがしています。結局、こういう構造解析その他の科学技術の進歩と今後の産業利用ということを考えた場合に、まず学術的な利用が先行していかなくてはいけないと私は思っていますが、その受け皿となる実験のビームラインが全然挙がっておりません。茨城県のビームラインは、産業利用を目的としているものですから、そちらの方が先行しているわけです。一方、X線結晶構造解析では、SPring-8の例で言えば、そこの学術的なものを担うカウンターパートとなるところでは理研が入って、ビームラインを数多く持っています。学術的な研究を行うことで、それが産業利用や製薬企業の専用ビームライン建設にもつながっているわけです。そういうことを考えますと、やはり政策的に中性子の生体構造解析に向けたビームラインを別に作って、学術的な研究をするというチームを発足させるという考えを持たないと、我々産業界が今後使っていこうとしたときに難しくなると思うのですが、いかがでしょうか。
【永宮J-PARCセンター長】
おっしゃることは私個人としても非常に納得できることで、生体物質の研究はこれから非常に伸びゆく科学ではないかと思います。それを推進していかなければいけないということについては、よくわかります。それを我々も志向はしつつやっているのですけれども、これからどのように資金を確保するかが問題です。今の御意見は貴重な御意見としてこの評価作業部会の報告書に書いていただいて、それを糧に我々も予算交渉等で話し合ってゆきたいと思います。
【藤井JAEA副部門長】
今のは非常に貴重な御意見ですが、実はもうそのようなワーキンググループはあります。現在茨城県で建設中のビームラインは、一辺が135Å(オングストローム)以下ぐらいの大きさのタンパク質を狙っているので、それ以上の大きさのもの、300Å(オングストローム)とか400Å(オングストローム)の非常に大きなタンパク質に関しては今建設中の装置では難しいところがあります。そこで、そこまでをカバーできる新しいもう1台の装置が要るのではないかということで、原子力機構の黒木(中性子生命科学研究ユニット長・生体分子構造機能研究グループリーダー)が中心になって、ワーキンググループを作って、そのような装置の提案を今行っています。どういう形でそれが予算化されるかは別の問題ですけれども、そういう声があって実際に動いていることは確かです。そういうところに是非貴重な御意見を入れていただければと思います。
【川上委員】
是非そういったところはJ-PARCで主導していただきたいと思います。生体物質という場合に、これまでは酵素という比較的小さなタンパク質を調べれば済んでいたのですが、今後は、タンパク質のアセンブリーといったタンパク質同士が相互作用を及ぼして生体の中で機能を発揮する機構が研究対象となってきます。今はどんどん結晶化技術が進歩してきていまして、今のところ電子顕微鏡で測定できる結晶まで作れるようになってきていますから、今後、三次元結晶の作成が成功してくれば、まずはX線で調べられると思いますが、最終的に相互作用を見る場合には水素その他の働き、詳細な構造、相互作用が重要になってくると思いますので、今の時点でそのようなものに対応を取れるような形で是非考えていただきたいと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
我々もユーザーの方に呼びかけて、将来のビームライン整備の方向性についてユーザーの考え方を示していただく会議も何回か持たれております。そのような場での御意見を糧にしながら、財政当局と話し合ってゆきたいと思っております。
【井上(明)主査】
今の御質問に関連しますが、中性子実験装置計画検討委員会には、生命科学系の先生方も出席されていろいろ討論された結果現在のビームライン配置となったのでしょうか。その会議の中には生命科学系の先生はおられなかったのでしょうか。
【藤井JAEA副部門長】
おられます。当然、各分野おられます。今お話に出ました構造を解く装置は予算化された10本のうちの1台で茨城県が作られるものですが、予算化されていない装置を含めると、ダイナミクス、すなわち、生体物質中の動きを観る非弾性散乱の装置も実は建設予定に入っています。ダイナミクス観測用の装置は世界でどこもまだ作っていない、非常にオリジナリティーが高く難しい装置ですが、生体物質関係では、静的な構造を解く装置と、ダイナミクスを観る装置の2台は用意しようということでプロジェクトがスタートしています。
それともう1つ、今川上委員がおっしゃったことに関して、もっと大きいタンパク質の研究が重要になるから、135Å(オングストローム)を超えるような大きいものを測定できる装置がもう1台要るのではないかという御意見は、非常に重要な御意見として伺いたいと思います。
【西村委員】
先ほど資料1の7ページに関連して申し上げましたが、タンパク質を研究している人にすると、リゾチームなの?という感じがします。だから、今川上委員がおっしゃいましたように、タンパク質同士のインタラクションと言いますか、カスケードを通じて情報がタンパクの中に流れていきますので、そのあたりをきちっと、基礎的なところで、捉えることができるのだということを産業界のほうに発信していただきたいと思います。産業界には、先端的な研究の様子を見ながら、産業に利用できるか、もっと簡単に言えばもうかるのかということを横目でみているような、非常にずるいところがありますので、やはりそれをきちっと提示していただかないと、産業利用と言われても、言葉が一人歩きするのです。そのあたりを是非ともお願いしたいです。その点X線ではSPring-8に関していろいろとたくさんの情報をいただいていますし、SPring-8の例が非常に役に立つのじゃないかなと思いますので、いろいろ御意見を聞かれながら進められたらよろしいと思います。
【藤井JAEA副部門長】
ありがとうございます。これも貴重な御意見だと思います。リゾチームはもう10年ぐらい前から研究されている古いタンパク質ですが、それをなぜここに紹介しているかと言いますと、実はリゾチームをベースにしたダイナミクスのシミュレーションを行っているからです。構造解析とダイナミクスのシミュレーションが一体的に研究されているタンパク質は今はリゾチームしかなく、それで同じ物質なので構造解析の結果も載せています。
【西村委員】
サイエンスの進め方として、シンプルなものから始めてだんだんと複雑なものへ発展させるというのはよくわかりますし、スタートとしてのシンプルな系の研究は非常に大事だということはわかりますけど、産業利用と絡め合わせるならば、もう少し込み入った複雑なものに対してどういうことができるのかを見せていただかないと、中性子の産業利用はなかなか進みにくいのではないかという感じがいたします。
【井上(信)委員】
今ここの場では、生命科学分野の希望が非常に高く出ています。一方、このたびの話では、産業利用は材料解析分野で残留応力測定が一番多いという現状が示されたわけです。その辺にギャップがあるようなので、戦略をきちんと立てる必要があるだろうと思います。また、この残留応力測定について、JRR−3の現状では産業利用の利用率は50パーセントぐらいですが、J-PARCの装置では60パーセントと予想されるとの話でした。中性子コミュニティーの方は常々J-PARCも要るけどJRR−3も要るとおっしゃっていたと思うのですが、それらの住み分けという観点で、果たして残留応力測定にとってJ-PARCのパルスビームが適しているのかどうかという説明が要るのではないでしょうか。もし残留応力測定には単色ビームを使ったスポットスキャンのほうがよいということであれば、JRR−3での利用はそのような測定に特化するけれどもJ-PARCの方は生命分野に特化するというように、両方の施設が要ることの論理的整合性が見えるような総合戦略の中で両者を位置付けて欲しいような気がします。
【藤井JAEA副部門長】
もちろん我々はそのように考えております。J-PARCセンターはJ-PARCを推進していきますが、しかし、先ほどお見せしたように800メートル横にJRR−3の定常中性子源があります。それらの住み分けは非常にシリアスに議論しており、中性子科学会の中でも特別委員会で議論しています。特にJRR−3の定常中性子線は時間積分すると熱中性子領域の強度が高いのです。だから、先ほどお見せしたようなラジオグラフィや放射化分析などには非常に有利です。
もう1つは、パルス中性子の特徴はダイナミクスを見るのに適していることと、非常に高いエネルギーも出てまいりますので、広いエネルギー領域の中性子線が得られることです。漁に例えると投網を打つように非常に幅広いところの情報をとることができるというのがパルス中性子の特徴です。一方で、その中のある特定の重要なところを細かく調べる、一本釣りに相当する測定もあります。これがJRR−3を用いた、定常中性子を用いた研究というもので、我々の中ではそういう住み分けをしています。
残留応力測定に関しては、圧倒的にパルス中性子の方が適しています。パルス中性子だと、例えば大きなエンジンを測定する場合、そのエンジンを測定台に乗せたまま動かすことなく全ての座標軸方向の応力解析ができます。非常に能率よく残留応力の解析ができるので、企業で残留応力を調べられている人たちはJ-PARCに非常に期待しています。
【小川委員】
JRR−3がよいのか、J-PARCがよいのかというのは、研究の段階によっても決まってくるのだと思います。例えば一段低い段階の研究をJRR−3でやって、もっと上の段階まで見たいと思ったときにJ-PARCに行くということがあるので、J-PARCがあるからJRR−3は要らないということにはならないと思います。だから、先ほどの説明の中にあった既存の制度を活用するということはそのような意味であると理解していました。
それからもう1つ、私は生命科学が専門なのですが、今回お話に出たのはリゾチームですけど、タンパク質の結晶化はもう6年前にリボソームまで成功しています。リボソームというのは、タンパク質とリボソームRNAの構造体で、非常に大きな構造体です。それが転写するときにメッセンジャーRNAとどう結合するか、それからtRNAとどう結合していくかというところを観るのが一番の研究目的になります。もう1つ大きな生体物質で本当にわかっていないのは、染色体構造だと思います。染色体構造というのは、今、結晶化して見ているのは、ヒストンH1などがくっついている構造体だけです。実際には転写、複製、組み換え、遺伝的な入れ換えなどもっと違った役割がたくさんある。そういうときに染色体の本当の構造というのを見ることは、すごく重要なのです。細かい話になりますが、今では体細胞の染色体を見るとちゃんと構造体になっていることがわかっていますが、複製しているときは、構造体がない。あるいは、減数分裂期の染色体で組み換えしているときの染色体構造はかなりはっきりしていますが、それ以外のときにははっきりしない。その辺りのことは電子顕微鏡で観察できる程度の大きさまではわかっているのですけど、どういうタンパク質がどうしているか、本当のところがわからない。そういうところがJ-PARCで狙えれば、それは非常に大きな基礎研究から産業への応用の例となると思います。
【和気委員】
私は地球温暖化問題の審議会のメンバーのときに、地球シミュレーターをどういうふうに利用するか、例えば海外の機関とどういうコラボレーションがあり得るかというような、国際公共財として地球シミュレーターをどう使うかという議論に参画したことがありました。そのときのイメージでJ-PARCのような研究施設を見たときに、海外との研究成果がどういう形で期待できるかということが、今日の御説明の中では見えてこなかったのですが、アジア、欧米の研究機関あるいは大学との間に何か具体的な展望あるいは既に事例があるのかどうか、お聞かせいただければと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
先ほどの話では中性子にスポットを当てましたけれども、非常に大きなサイエンスとして50GeV(ギガ電子ボルト)のサイエンスがあります。これは、ニュートリノや原子核素粒子分野のハドロン物理になりますが、ニュートリノではユーザーの4分の3が外国人で、ハドロンも外国人がかなり多いです。そういうことで、これらのグループの国際化は、外国からどんどん人がやって来くるという形で進んでいます。
中性子の方は、我々としては、世界の人を受け入れる非常に大きなきちっとした拠点を作りたいと思っていますが、御承知のようにアメリカでもヨーロッパでもJ-PARCに似たパルス中性子施設があります。そういうことで、世界の中で注目されつつも、アジア圏の人がヨーロッパやアメリカに行かなくてもこっちに来て世界トップの研究ができるというリージョナルセンターとなることを考えています。それに関して、現在、アジア圏のいろいろな国からJ-PARCの中性子ビームラインを作りたいという希望があって、それに関する交渉が行われておりますが、具体的に予算が決まったというような話はまだありませんので、今回の資料には出ていません。
それから、ビームラインの設計あるいは技術的な諸問題については特にSNSとは常に交流があります。人の交流もありますし、テクノロジーの交流もありますし、委員会の委員の交流もあります。両者は兄弟のような関係で、デザインも、J-PARCの方がよいと思っていますが、かなりよく似た構造になりつつあるのはそのような技術交流が盛んだからです。ならばアメリカやヨーロッパのユーザーもこちらに取り込みたいところですが、1日2日の実験の場合そのためにすぐに飛行機で飛んでこられるかどうかというとわかりません。しかし、長期的な実験ならば、世界の中での分担ができればよいのではないかと思います。
【小川委員】
例えばニュートリノでは、小柴先生が作られたカミオカンデがありますよね。J-PARCでちゃんとニュートリノのビームが出て、それをカミオカンデで観測できるというような、ほんとうの基礎研究がJ-PARCでちゃんと確立したという成果がどんどん出ていくと、有効だと思います。ニュートリノを使う方法は、産業利用や生体物質の構造などいろいろなものに関係してくると思いますが、外国にはカミオカンデのような施設がないので、現実的にそれは日本でしかできないですね。
【永宮J-PARCセンター長】
実はニュートリノの長基線実験というのはフェルミ研究所でもやっています。われわれの研究グループは400人ぐらいですがそのうち300人ぐらいが外国人で、フランス人、アメリカ人、ヨーロッパ人はたくさんいます。我々としてはJ-PARCのほうが上だと思っていますが、彼らも、こちらでやるときの実験と向こうでやるときの実験でどちらが勝つかという価値判断も含めながらこっちにやって来ているので、競争がないわけではありません。
【小川委員】
先ほど地球シミュレーターの話がありましたが、それが日本が一番と言われているのは、温暖化の現象を全部シミュレーションして報告できるということがあるんです。それは地球環境のシミュレーターだからそれができるのですが、J-PARCはそうではないですね。だから、世界的にどう寄与するかということを考えるのならば、地球シミュレーターとは全然別の考え方をしないといけないのではないかという気がします。
【金子委員】
産業利用と科学技術・学術利用のバランスという点に関して伺いたいのですが、先ほどJRR−3のトライアルユースでは今年度は前期だけで昨年度と同じぐらいの応募があったという話がありましたけれども、そうすると今年度は前期だけでマシンタイムが一杯ですという事態にはならないのでしょうか。つまり、中性子を試してみたいという産業界の要望が多いことに対して、今後なるべくトライアルユースの枠を広げて、なるべく産業利用を進めるための何らかの処置をするのか、それとも、今年度はマシンタイムが足りないので課題数をある程度絞ってしまうのでしょうか。また、J-PARCができた後に産業利用が伸びていくとした場合、やはりどこかで産業利用の枠を設定するのでしょうか。SPring-8での産業利用率は22パーセントとなっておりましたけど、20パーセントぐらいである程度枠を設けるという話もお聞きしたことがあります。産業利用が伸びてきたときに、どのような考え方でいるのか、逆に言うと、今は増やそうしているが、増え過ぎたときにはどうするかということをお聞きしたいと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
このトライアルユースを始める前は、産業利用率は5パーセントから7パーセント程度で、やっと10パーセントを超えるという程度なので、まだマシンタイムが足りないような段階には行かないと思います。J-PARCのプロジェクトがスタートしたときに、中性子に関しては産業利用の割合は25パーセントぐらいを目標としたいということを言ったことがあります。今もその目標は変えておりませんが、25パーセントに行くまでは相当の努力をする必要があると思います。特に、X線に比べて中性子はとっつきにくい面がありますので。だから、上限に達したらどうするかという心配は、今はする段階ではないというのが、私の正直な印象です。レビューをしながら産業利用を進めてゆき、10年ぐらいかかってそういう段階になるのではないかと思います。
【藤井JAEA副部門長】
トライアルユースはあくまで味見実験です。リピーターの方も歓迎いたしますが、トライアルユースから、守秘義務を負ってビームタイムを買い取る非公開利用へ進んでいただくことを期待しております。SPring-8の場合も同様ですが、成果非公開利用のユーザーがどのぐらいまで増えてくるかが産業利用の普及を量る一つの目安になると思うのですが、そこはなかなか増えておりません。それは成果非公開で利用料金は1日当たり13万円ぐらいですが、それでも過去3年間で3〜4パーセントあり、産業利用が全体で10パーセントあるうち非公開が3パーセントということになっています。トライアルユースからはみ出た部分は非公開利用に回っていただければと思います。あるいは、JRR−3の施設共用というシステムがスタートしましたので、そちらに回ってもらうことも可能です。あるいは、味見実験の段階でトライアルユースから外れたものでも、我々と共同研究できるものは共同研究としてやることもできます。そこのところはまだトライアルユースを始めて2年目ですので十分ハンドルはできます。J-PARCの利用が始まって、そこでの産業利用率が25パーセントに行けば嬉しい悲鳴ですけど、そこまで行くのには大分かかるのではないかと思っております。
【駒宮委員】
永宮先生の御説明資料の一番最後のページに利用者懇談会というのがありますが、これの役割はどういうものでしょうか。
【永宮J-PARCセンター長】
利用者懇談会は、ユーザーズ・アソシエーションでありまして、ボランティア的に各コミュニティーが作っているものです。ニュートリノやハドロンでもできました。それで中性子の利用者懇談会ができて、そこがだんだん成長していけば、そこが利用者協議会に代表者を送り込むような形になるのではないかと思います。
【駒宮委員】
利用者懇談会ができて、これがサポーターになるということは非常によろしいと思いますが、ここに話を持っていかないと新しいことは何もできないということになったらいけないという心配がございます。多分それはないということでよろしいのでしょうか。
【永宮J-PARCセンター長】
むしろ今の段階では中性子の方はもっとどんどん意見を言ってきていただいた方がありがたいと思います。
【藤井JAEA副部門長】
これは、中性子だけではなくて、ミュオンも含んだMLFの利用者懇談会です。ミュオンと中性子というのはよく似たプローブとして物質科学、生命科学に大いに使われ、コミュニティーもよく似ていますので、一緒にやることになりました。これは、我々施設側が組織したものではなく、利用者の自主的な集まりとして利用者の声を伝える組織です。同様のものとして例えばSPring-8だとSPring-8の利用者懇談会、フォトンファクトリーにはフォトンファクトリー懇談会があります。
【駒宮委員】
わかりました。
【井上(明)主査】
それでは、どうもありがとうございました。まだ御意見等があるかと思いますが、時間になりましたので、ここで終了させていただきます。
【横山委員】
フライホイールの導入費用と節電効果について具体的な数字をお持ちでしょうか。また、実験の先生と加速器の先生で御意見が違いましたが、J-PARCセンターとしてフライホイールのプライオリティーをどのように位置付けているのでしょうか。
【永宮J-PARCセンター長】
既に具体的な検討をしております。詳細は山崎副センター長からお答えしますが、フライホイールの導入には数十億円かかります。エネルギーが50GeV(ギガ電子ボルト)になったときには非常に節約効果がありますがエネルギーが50GeV(ギガ電子ボルト)より低いところでは、それほど節約効果はありません。ですから最初からフライホイールを導入するかどうかは、かなりよく考えなければならないと思っています。
【山崎J-PARC副センター長】
エネルギーの平均が40GeV(ギガ電子ボルト)だと仮定して計算しますと、節電効果は年間約4億円です。さらに精査する必要があると思うのですが、現時点で複数の見積りを精査した結果では、フライホイールの導入費用は60億円程度で、約15年で元が取れるという状況です。しかし、フライホイールの主たる目的は節電ではなく、電源が安定化するためにビームを50GeV(ギガ電子ボルト)リングから取り出すときにもビームが非常に安定化して実験が格段によくなるということと、50GeV(ギガ電子ボルト)で運転した際に電力系統に対して与える悪影響を低減させることができるということです。先ほどの節電効果は、運転の仕方によって変わってきますので、節電効果だけでホイールの導入を決断するのは少し問題あると思います。
【駒宮委員】
電気料金のことですけれども、2ページにある1MW(メガワット)の定常運転時とは、一体どういうことなのですか。
【永宮J-PARCセンター長】
リニアックの回復後に1MW(メガワット)になりますから、初めは0.6MW(メガワット)です。定常的になったときの見積もりをしたということを書きたかったのです。
【山崎J-PARC副センター長】
私は1MW(メガワット)定常運転は最終目標と理解しています。ビーム性能も加速器も非常に安定してきたと判断できる状態だと理解しております。
【大山J-PARC副センター長】
リニアック回復時には1MW(メガワット)ですので、運転日数と実験利用日数などの前提条件はありますが、1MW(メガワット)定常運転時とはフルパワーになった状態での計算です。
【駒宮委員】
電気料金は、1kWh(キロワットアワー)当たり幾らと仮定したのですか。
【大山J-PARC副センター長】
基本料金や従量料金を平均して1kWh(キロワットアワー)あたり12円と仮定しています。
【駒宮委員】
1kWh(キロワットアワー)あたり12円ですと結構高いですね。おそらくKEKでは1kWh(キロワットアワー)あたり10円程度ですのでもっと安くなるのではないでしょうか。1kWh(キロワットアワー)あたり12円で200日フルに運転させると仮定すると約50億円です。しかし、おそらく200日フルに運転することはないでしょうし、運転していないときの電力を考慮しても70億円は多すぎるのではないかと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
料金はKEKとほとんど同じと考えてください。あくまでこれは、定常運転したときに電気料金がどれだけかかるかを専門家が見積もったものです。
【駒宮委員】
私も定常運転を前提に発言しています。基本料金と従量料金を平均すると1kWh(キロワットアワー)あたり10円程度になると思います。それで200日で4,800時間運転すると、単純計算で約50億円かかります。運転していないときの電力を考慮したとしても50億円程度にしかならないと思います。230日運転すると、およそ55億円になるのです。30パーセントの精度で計算されたのでしたらいいのですけれども、それ以下の精度だと少し何か違うと思います。
【大山J-PARC副センター長】
今後の契約の段階でどこまで下がるかは、相手のある話ですので何とも申し上げられません。
【大山J-PARC副センター長】
これは当然、契約前であり、約款を参考に計算をしていますので、現時点ではこの金額しか見積もれません。
【山崎J-PARC副センター長】
駒宮委員は必要電力量を何MWh(メガワットアワー)で計算されているのですか。
【駒宮委員】
500GWh(ギガワットアワー)と仮定しています。
【神谷KEK理事】
この資料では総電力を何GWh(ギガワットアワー)と仮定しているのですか。
【永宮J-PARCセンター長】
585.1GWh(ギガワットアワー)です。
【神谷KEK理事】
約600GWh(ギガワットアワー)ですか。
【駒宮委員】
そうすると60億円ですね。
【永宮J-PARCセンター長】
従量料金が52億円で、1kWh(キロワットアワー)あたり約9円です。
【駒宮委員】
その単価が安くなったら、さらに安くなりますよね。
【永宮J-PARCセンター長】
この見積もりは、KEKの吉岡教授を中心に専門家を動員して作成しました。この金額から10億円安くなるのではないかと言われても、我々としては、そうですとは言えない立場です。
【駒宮委員】
しかし、非常に単純に計算したら少し金額がおかしいと思ったので申し上げました。
【山崎J-PARC副センター長】
駒宮委員の500GWh(ギガワットアワー)と、こちらの585GWh(ギガワットアワー)という値だけで2割の差は出るわけです。加速器が故障して止まっていれば当然運転時間は短くなるわけです。それらの前提が変われば、当然この電気代の見積もりは変わってきます。
【駒宮委員】
加速器がフルに運転したと仮定しているのですね。
【山崎J-PARC副センター長】
その通りです。
【永宮J-PARCセンター長】
ピーク電力がKEKよりも多いので基本料金も高くなります。ピーク電力を下げる努力はしていきますが、既に細部まで検討して数字を出しています。
【駒宮委員】
もう1回精査していただくということで。
【井上(明)主査】
電力量については、次回会合で簡単に積算の根拠を示してください。電力量以外のことで何かございますか。
【和気委員】
経費は通常、会計報告を含めればある程度客観的に分かります。仮に有償利用のユーザー使用料の算定基準になっていく費用だと考えますと、なぜ人件費の中にJ-PARCにかかわる職員のコストを入れなかったのでしょうか。また競争力は価格競争力だけではないのですけれども、国際競争力を議論する場合の目安として、利用料金がどの程度の価格競争力を持ち得るのかが知りたいです。
【永宮J-PARCセンター長】
例えば中性子の場合は、全費用を23本のビームラインで割って利用料金を算定しますと、大体1日あたり180万円から1日あたり210万円になります。SNSは1日あたり150万か160万円、ISISは1日あたり300万円になっています。世界のスタンダードと比べてそれほど変わらないので、この金額を参考にしながら料金設定を行うと説明しました。正式な利用料金については文科省等と十分協議して決定しますが、大体そのあたりに設定することになると思います。
それから、職員の給料まで入れるべきかどうかは、現在の日本の考え方では入れないので、入れなかっただけです。
【井上(明)主査】
もちろん運転経費は、実際のユーザーの使用料金の算定基準になります。さらに、その妥当性は文科省等で問われることもあると思います。また人件費等については、全国共同利用施設の活動ですので少し考え方が違うのだと思います。
【駒宮委員】
SNSとの比較ですが、日本とアメリカでは会計基準が全く違います。またアメリカは、費用のかなりの部分が人件費です。人件費は除いたとのことですが、どのように除いたかを教えていただけますか。
【大山J-PARC副センター長】
SNSは運転経費のレポートが出ていますので、その中から人件費だけ抽出すことができます。人件費は100億円弱だったと思います。
【駒宮委員】
資料に記載されているSNSの装置保守費32億円の中に、人件費は含まれないのですね。
【大山J-PARC副センター長】
人件費はまったく入っていません。ここではJ-PARCの装置保守にかかる委託人件費も全部除いて比較しています。
【駒宮委員】
わかりました。1人当たりの人件費は年間約700万円なので妥当だと思います。次に人数が妥当かについですが、6ページを見ますと加速器関係の人員は3GeV(ギガ電子ボルト)施設と50GeV(ギガ電子ボルト)施設ともに非常に効率よく配置されています。しかし、3GeV(ギガ電子ボルト)施設の建家設備に73人も配置されていますが、この人達は具体的にどのような作業をするのでしょうか。
【大山J-PARC副センター長】
日本の場合は24時間体制で常駐して設備の見回りをしますので、SNSのようなに常駐が義務づけられていない施設に比べ人員が多く必要になります。
【駒宮委員】
建家設備とは別に安全管理を担当する人たちがいるわけですね。建家設備と安全管理は何が違うのですか。
【大山J-PARC副センター長】
安全管理は、放射線安全のことです。
【駒宮委員】
これは放射線安全に特化した人たちなのですか。
【大山J-PARC副センター長】
特化しています。
【大野委員】
この資料で運転経費は職員の人件費を除いて187億円ですが、職員の人件費を入れたら施設の運転経費はいくらになりますか。
【永宮J-PARCセンター長】
職員が322人ですから、プラス30億円程度ではないでしょうか。
【大野委員】
わかりました。
【小川委員】
物理と生物では違うのかもしれませんが、大学共同利用を推進するための利用実験経費がこんなにかかるのですか。私が今までいた大学共同利用機関と比べると桁違いに多いです。
【永宮J-PARCセンター長】
どこが多いのでしょうか。
【小川委員】
利用実験経費が11億になっています。
【永宮J-PARCセンター長】
利用実験経費は、今までKEKの加速器施設に交付されていた金額をかなり参考にしています。
【小川委員】
KEKの施設でする共同利用は、装置の保守費などが入っているのではないのですか。
【永宮J-PARCセンター長】
これは実験装置に関してです。
【小川委員】
実験装置ですか。これは、利用実験経費ですよね。
【永宮J-PARCセンター長】
例えばPSやBファクトリー等々の実験経費は、新しい実験が認められたときに、装置をつくるためにかなりの額が費やされていると思います。PSほどではありませんが、中性子に関してもこの程度の金額は欲しいと思っています。
【小川委員】
この金額の10パーセントの1億円でも多いと思います。
【井上(信)委員】
おっしゃるように大学共同利用機関はいろいろあります。そのため機関ごとに共同利用経費の区分が違います。伝統的にKEKの実験では中の人も外の人も同じように装置を使っています。そのため、内部の研究者が使用する装置も全部共同利用のカテゴリーで扱っています。普通の研究所の場合は、内部の職員は研究費、外部の人が使用する分だけが利用経費という分け方をしています。このことが大学共同利用機関の評価をするときの比較を困難にしている原因の一つです。共同利用経費は各機関の感覚にずれがあるのです。
【小川委員】
しかし、装置の保守費や設備費などが共同利用経費に入っているわけですよね。
【井上(信)委員】
各研究者がやる経費は入っていません。
【小川委員】
しかし、ビームをつくることなども各研究者の研究であると思いますが。
【井上(信)委員】
おっしゃる通りです。しかし、加速器のような大型機械にかかる費用の一部分を各研究者から個別に徴収できないわけです。
【小川委員】
そうではなくて、やはり一部分は自分の競争的資金を得てくる必要があると思います。共同利用研究だから全部をサポートしようとする考えは、少しおかしい気がします。
【井上(信)委員】
それは考え方の違いかもしれません。各研究者の競争的経費が入ってないわけではありませんが、伝統的にこのような方法でやってきました。現在競争的経費が問題になっていますが、私は過度に競争することが望ましいとは思いません。
【小川委員】
そうではありません。現在独立法人等の競争的資金や運営資金が削減されています。この利用実験経費は巨額ですので、今までのしきたりだからという説明だけでは国民を納得させることは難しいと思います。
【井上(明)主査】
利用実験経費について、もう少し詳しく御説明をお願いします。
【永宮J-PARCセンター長】
確かに小川委員のおっしゃることは一理あります。過去の共同利用研究所で実験する限り、その研究所にしか予算が付きませんでした。さらに、高エネルギー物理の実験では1台何十億円もする装置を造るためには、受け入れる共同利用研究所が用意しなければなりませんでした。そのため、実験者に対して各種審査を行い、そこで認められた実験に予算をつけるという方法を伝統的に行ってきました。政策的な問題も入ってきますが、今後もし競争的資金で5億円や10億円といった巨額の資金を獲得できる状況になれば、この利用実験経費を減らしてもいいと思います。
【小川委員】
その通りです。実験にかかる費用が巨額なため国が補助しなければならないということは、私も十分理解しています。やはりこの資料の利用実験経費は、共同利用研究所内部の職員が研究するための費用だと記述した方がよいと思います。利用実験経費の定義があいまいだと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
原則として大学共同利用機関は、1つの大学で持ち得ないような大型の実験装置など保有することにしたわけです。したがって、基本的に実験装置は、各大学職員が使用します。大学共同利用機関の職員が使用するわけではないです。
【小川委員】
やはり、そこが納得できません。
【永宮J-PARCセンター長】
大学共同利用機関とは、大学職員が実験するために設立した研究所ですから。
【井上(信)委員】
それは永宮センター長のコミュニティーの歴史がそうであったので自明のこととしておっしゃっているのですが、共同利用研究所間でもかなり質が違うところがありますので、そこは丁寧に御説明されないと理解して頂けないと思います。60年前各大学は、小さな加速器をつくって原子核や素粒子の研究を群雄割拠でやっていたわけです。しかし、加速器が大きくなるに従い各大学が個別に加速器を建設することが難しい状況になりました。そのため各大学が競争して概算要求を行うことはやめて、東京大学原子核研究所のような共同利用研究所を設立させました。そのため我々は、共同利用研究所は自分たちの施設だという意識を持っています。自分たちの施設を自分たちがマネジメントしているというわけですから、使わせてもらっているという意識ではありません。岡崎にある自然科学研究機構の3研究所は各大学に設置できる程度の小さな研究所ですから、小川委員のおっしゃるような競争が行われているわけです。
【小川委員】
国民は納得しないと思います。基礎生物学研究所も国立遺伝学研究所も大阪大学タンパク質研究所も、全部共同利用研究所です。これらの研究所の共同利用経費とは、外部の研究者の旅費と宿泊費だけです。内部の研究者は全部自分持ちです。ですから共同利用経費のイメージが全然違うのです。
【駒宮委員】
競争的資金で用意できる金額には範囲があります。例えば特定領域を獲得しても加速器は造れません。ですから、競争的資金だけですべてを賄うことが非常に難しいためにこのような仕組みをつくったとことは正当だと思います。
またこの資金の考え方に戻りますが、これは資金の考え方ですね。考え方は、すなわち今このお金がすべて正当化されることではないと思うのです。やはり種々の取り組みで経費削減をしていただきたい。もしこれが、現時点で全部確定した金額とされますと大変なことになります。例えば先ほど私が500GWh(ギガワットアワー)で50億円と言ったら、そちらは585GWh(ギガワットアワー)で60億円とおっしゃった。金額を算定するには、そのような細かい前提条件がありますので、要するにこれは考え方だということですね。
【小川委員】
利用実験経費の内容はいいのですけど、利用実験経費の中に含める経費の説明を少し考えたほうがいいと思います。備考欄に書いてあることは非常に誤解を招くと思います。
【井上(明)主査】
わかりました。大学共同利用機関には、非常に大型の大学共同利用機関から、普通の国立大学法人の共同利用型の研究所までスケールが非常に違うところがあります。そのため、委員の中でも共同利用のあり方において少し意見が違っていると思います。この意見の相違は、日ごろの各委員の活動の違いを考慮すれば当然のことだと思います。現時点では4ページの円グラフ等などから、運転経費の内訳にこのような項目があることは理解できます。さらに細かい説明やデータを提示していだたき、当作業部会でも最終的には運転経費の金額もある程度議論していただく方向でよろしいですね。文科省としても、そのような方向性でよろしいですか。
【木村量子放射線研究推進室長】
そうですね。まずJ-PARCをきちんと運転して使用していただくという考え方がベースにあります。J-PARCを理想形に近づけたときに、これだけの運転経費の要素があり、各要素はこのような考え方で積算されて、この程度の規模が要るのだと。積算された金額は、同様の加速器施設と比較してもそれほど変に外れてないかどうかを是非見ていただきたいです。ですが、それをもって190億円という数字が確定するわけではありません。今後節減努力をしていくわけですし、保守経費や性能向上費などは毎年固定的にこの金額が必要なのかは、それぞれの年度できちんと査定をしていかなければならないわけです。190億円は、あくまでもJ-PARCが理想形になったときの経費の最大値の規模を示したものです。ほかと比べてどうなのかということについては、是非御意見を賜れればと思います。
【井上(明)主査】
本日の御説明ですと積算根拠が少し不明確だと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
積算根拠が不明確なところとは、電気代のことでしょうか。
【駒宮委員】
電気代と装置の保守費と装置の性能向上費の項目です。保守費と性能向上費はなぜ分けているでしょうか。
【永宮J-PARCセンター長】
例えば保守費ですが、20年に1回交換するという積算根拠の大前提になる原則まで考え直す必要があるのでしょうか。
【井上(明)主査】
いや、それは考え直さなくてもよいと思います。
【永宮J-PARCセンター長】
細かい要因もありますが、保守費の根拠はあくまで20年に1回交換するということです。装置の向上費は、加速器部門の案を査定した結果です。3GeV(ギガ電子ボルト)までの積算結果は8億円ですが、これはSNSの10億円とほぼ同額なため、我々もこの積算は妥当だと考えています。
電気代について、駒宮委員は積算金額が高いと言われましたが、これは専門家が東京電力の料金体系を基に積算を行いましたので、残念ながら再度積算しても金額は変わらないと思います。
【井上(明)主査】
積算金額は変わらなくてもいいと思います。概略で構いませんので積算の根拠になっている資料等を提示して頂きたいと思います。
【大山J-PARC副センター長】
積算資料自体は項目ごとに数十ページになってしまいます。
【井上(明)主査】
積算資料自体を提示して頂かなくても結構です。例えば光熱費ならば70億円の根拠を紙1枚程度にまとめていただければいいと思います。
【駒宮委員】
おそらく電気代については、最高何MW(メガワット)と1カ月当たり基本料金は幾らかを提示していただければいいと思います。
【大山J-PARC副センター長】
電力については、料金表から夏季料金や夜間料金など全部参考にしていますけれども。
【駒宮委員】
その平均額が幾らなのかを示していただきたい。
【永宮J-PARCセンター長】
1kWh(キロワットアワー)あたり9円です。
【駒宮委員】
その平均額でいいと思います。その金額さえあれば計算できますから。
【永宮J-PARCセンター長】
基本料金は、最大電力が108MW(メガワット)で17億9,300万円です。従量料金は585GWh(ギガワットアワー)で52億円です。
【山崎J-PARC副センター長】
次回にこの資料を提出いたします。
【家委員】
予算の桁は大分違いますけれども、私も大学附置の全国共同利用研究所にいますので似たような事情はあります。先ほど小川委員がおっしゃった利用実験経費ですけれども、11億円が妥当な金額かかどうか、にわかには判断できません。しかし、利用実験経費の考え方自体は妥当だと思います。東京大学物性研究所でも、基本的に物性研に来て実験をされる方のための寒剤や液体ヘリウムなどは、物性研の共同利用経費から支出しています。もちろん来られる方が共同利用経費以外の競争的資金を使って、さらに消耗品など購入して実験されるケースもあります。共同利用経費は最低限を保障する感じです。それは全国共同利用研究所のかなり重要な機能だと思っています。私も駒宮委員と同じ意見で、何でも競争的資金でやればいいという考え方には疑問を持っています。もちろん、各研究者が個別に競争的資金を申請することはあっていいと思います。しかし、すべての経費が競争的資金になることは健全なことではないと思います。私は基本的にマシンタイムの審査と実験経費は、コミュニティーの人達がきちっと議論をした上で決めればいいと思っています。
【川上委員】
先ほど駒宮委員から装置保守費と装置性能向上費を分けるのはいかがかというお話がありましたけど、私自身は、装置性能向上費という考え方は非常にいい考えだと思っています。我々企業でいろいろ実験していましても、保守費は考えてはいるのですけれども、我々は実験の性能を向上させるためには設備投資をして装置を変えていくわけです。そういうことで毎回設備投資かけていって、なおかつ保守もしているということで、やはりかなり金額がかかるだろうと思います。永宮センター長の説明によりますと、20年に一度何かを変えるというお話だったのですけれども、それが適当かどうかを少し議論したいのですが、こういう装置は5年程度で性能を向上させていかなくてはいけないと思うわけです。20年は保守のことであって、性能向上という意味ではないなというふうに感じているわけですがいかがでしょうか。
【永宮J-PARCセンター長】
20年は保守のことです。性能向上はコンスタントにやります。
【川上委員】
性能向上費13億円の根拠が、SNSと比較して同等程度だから妥当だろうというお話ですけれども、SNSよりおそらく高性能かつ多くの実験目的があると思うのです。そのようなことを考慮して、本当に13億円でいいのでしょうか。そこのところの根拠が今回十分に示されていなと思います。
【和気委員】
どうしても人件費のことが気がかりです。これは国民に対するある種の情報開示の一環だと思います。運転費用を会計学的に変動費と言い表しますと、やはり変動費の中では、外注か内部資源かに関わらずヒューマンリソースをどの程度ここに投入したかが大変重要です。ヒューマンリソースを投入して最先端の研究拠点とその技術を維持するわけですから、運転経費の中に人件費を算入して情報公開したほうがいいと思います。会計学の考え方からすると、このような情報開示の仕方では少し問題があると思います。あまりミスリードするような情報は出さないほうがいいと思います。
【井上(明)主査】
この資料はJ-PARCの運転経費だけですから、両機関の総人件費からJ-PARCの運転に関わる人件費を算定して活動状況等を一緒に添付して次回に御提出ください。
【永宮J-PARCセンター長】
この資料にありますJ-PARCセンターの人数は322人ですので、J-PARCに関わる職員の人件費は322人に年間給与額の平均を掛ければ出てきます。
【井上(明)主査】
平均しますと約900何万程度ですよね。
【永宮J-PARCセンター長】
一度精査させていただきますけど、J-PARCに関わる職員の人件費は約30億円程度だと思います。
【和気委員】
おそらく、各事業にどの程度の人員を配置したかをセグメント情報なさいますね。セグメント情報で加算すればある程度わかると思います。
【井上(明)主査】
両機関の要覧等に記載されている人件費や年間予算等でいいと思います。J-PARCセンター職員の人件費の概要がわかる資料を御提出ください。
1枚物程度で光熱費や装置保守費等々の概要がわかる資料も次回までに準備してください。この議題に関しましてはもう一度、その説明資料に基づいて当作業部会で再度議論させていただきます。最後に、本日はKEKの神谷理事、JAEAの野田理事に御出席頂いておりますが、何か御意見はございますか。
【神谷KEK理事】
前回の会合で鈴木機構長が申し上げたと思いますが、とにかくKEKはJ-PARCプロジェクトを最重要事項と位置付けて、一丸となって完成させ、また運転をしていこうと思っておりますのでよろしくお願いします。
【野田JAEA理事】
J-PARCの建設自体は75パーセントと進んでおりますので、建設については、順調にいくと思っております。しかしながら、J-PARCの運転については、運転維持経費の更なる削減などをすることが課題ですが、両機関の財政状況等から見ますと、J-PARCをしっかり運転するための予算の確保は極めて困難な情況です。この点に関し、文科省と相談させて頂いておりますが、是非いろいろな御意見を頂きたいと思っています。よろしくお願いたします。
【井上(明)主査】
この運転経費の考え方につきましては、非常に活発な御意見を頂きまして、ありがとうございました。運転経費については、資料等も再準備して、また御意見を伺うということにいたします。
―了―