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資料4-1 環境エネルギー分野の研究開発に係る基本認識(現状版)

 2015年9月の国連サミットにおいて持続可能な開発目標(SDGs)が採択された。「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、経済・社会・環境をめぐる広範な課題の一つとして気候変動対策や環境保全等が位置づけられ、先進国である我が国は世界を牽引して取り組む必要がある。2015年末に開催された気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定においては、産業革命以前の水準と比べて世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分低く保つこと、加えて同気温上昇を1.5℃に抑える努力を追求すること、可及的速やかな排出のピークアウト、今世紀後半における排出と吸収の均衡達成への取組について言及した。これは、先進国、発展途上国の区別がない、世界共通の長期目標という点で画期的な内容になっている。2018年末のCOP24では、パリ協定の実施指針も決定され、当該協定は制度設計段階から実施段階へと着実に歩みを進めている。

 パリ協定の採択以降、各国が2℃目標の達成や1.5℃努力目標の追及のために、脱炭素社会の構築に向けて舵(かじ)を切った。日本政府としては、COP21に先立って国連に提出した2020年以降の新たな温室効果ガス排出削減目標に係る約束草案を踏まえ、2016年5月に地球温暖化対策計画を閣議決定し、中期目標として2030年度に2013年度比で26%削減することを掲げつつ、各主体が取り組むべき対策や国の施策を明らかにして削減目標達成への道筋を付けるとともに、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことを位置付けた。また、エネルギー・環境イノベーション戦略(2016年総合科学技術・イノベーション会議決定)においては、2050年頃という長期的視点に立って、世界全体で温室効果ガスの抜本的な排出削減を実現するイノベーションを創出することを目的として、中長期的なエネルギー・環境分野の研究開発を、情報科学を含め多分野の連携により、また産学官の英知を結集して強力に推進し、その成果を世界に展開していくとされており、国際社会での我が国の信頼とプレゼンスの強化に向け、相次いで対策を打ち出している状況である。

 また、環境基本計画(2018年4月17日閣議決定)にも言及されているとおり、金融の側面では機関投資家が企業の環境面への配慮を投資の判断材料と捉える動きが拡大している。金融安定理事会により設立されたTCFD(*1)における議論やESG投資(*2)の拡大など、気候変動への備えを強く意識した行動原理の下で経済社会は動き始めており、環境問題への対応に積極的な企業に世界中から資金が集まり、次なる成長へとつながる「環境と成長の好循環」とも呼ぶべき状況が生まれている。2015年9月の国連サミットで決定された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」においては、気候変動対策や資源、エネルギー問題など、持続可能をキーワードとするSDGs(*3)が掲げられており、こうしたパリ協定やSDGsの動きも踏まえ、産業界が気候変動を社会経済上・経営上、考慮すべき要素のひとつとして捉えたことにほかならない。

 2018年のノーベル経済学賞は、環境経済学の分野において多大なる功績をあげているウィリアム・ノードハウス氏が受賞した。同氏が確立した統合評価モデルは、気候変動影響を評価するために世界中で用いられており、COPに対して科学的な知見を提供している「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」での議論においても活用されている。同氏が「Over the last half-century, the full implications of climate change and its impacts have been illuminated by the intensive research of scientists in different fields. These studies depict an increasingly dire picture of our future under uncontrolled climate change.」とノーベル賞授賞式後のスピーチで述べているとおり、これまでの研究により、気候変動に対処しないという選択肢は取り得ない状況であり、今後も文理の分け隔てなく、知見を蓄積していかねばならない。

 しかしながら、2℃目標あるいは1.5℃努力目標を前にしたときに、現実に立ちはだかる壁は極めて高い。2018年10月にIPCC総会で採択された1.5℃特別報告書(*4)においては、健康や安全保障、経済成長に対する気候関連のリスクは、地球が温暖化するにつれて増加し、各国の温室効果ガスの排出削減目標の達成だけでは、2100年までに約3℃の地球温暖化が起こる可能性を指摘している。加えて、1.5℃努力目標を追求するのであれば、21世紀中におよそ100-1000GtのオーダーでCO2を除去(CDR)することになると予測されており、この場合、CO2の回収・貯留技術であるCCS等のCDR技術を速やかに社会実装する必要に迫られることになる。

 したがって、現実としてパリ協定の目標を達成するには、今後、これまでに類を見ないスピードで、革新的な脱炭素技術の研究開発を進めるとともに、並行して、確立された技術を着実に社会実装していくことが必要になってくる。

 さらに、パリ協定の目標の達成に向けて脱炭素化を進めていくためには、エネルギー基本計画(2018年6月15日閣議決定)にもある通り、政府が掲げる中長期的なシナリオを実現するため、非連続なイノベーションを起こしていく研究開発が必要となってくる。しかし、研究開発には可能性と同時に不確実性も存在しており、現段階でどの技術が最善の選択肢であるかを見極めることは極めて困難である。このため、選択肢を狭めることなく全方位的な開発を想定した「野心的かつしなやかな複線シナリオ」を設定するとともに、最新の情勢と技術革新の進展を見極めながら、各選択肢の開発目標や選択肢間の相対的な重点度合いを決定・修正していくことが必要という同計画の考え方は重要である。

 また、文部科学省の事業である気候変動適応戦略イニシアチブの各プロジェクトから得られた多くの科学的知見をはじめとする最新の研究成果は、2℃目標が達成されるか否かに関わらず、既に気候変動に伴う温暖化は起こっていること、また今後影響の深刻化が見込まれることを示唆している。

 国内に目を向ければ、2018年7月23日に埼玉県熊谷市において41.1℃を記録し、国内最高気温の記録を更新した。同日に開かれた緊急記者会見で、気象庁は同年の猛暑について、命の危険がある暑さであり一つの災害と認識していると発表した。気候変動は決して他人ごとではなく、既に我々の生活に大きな影響を与えていることを認識し、科学によって、より効果的かつ効率的な適応方策を検討していくことで、気候変動による悪影響を最大限に抑制することが、今後一層必要となってくる。

 緩和あるいは適応に関する方策を考える上で重要となるのは、関連する検討の過程や意思決定に当たってのエビデンスとして活用される気候変動の予測情報や定量的に解析された将来社会の予測情報、技術動向の情報等の基盤的情報である。先にも述べた通り、最新の情勢と技術革新の進展を見極めながら、各選択肢の開発目標等を決定・修正していく必要があり、そのためには、自身がおかれている情勢について認識するための情報が必要となる。認識に係る情報がなければ、研究開発の方向性を見誤るような事態や、研究開発に当たって不必要に過剰な投資が発生しかねない事態となり、結果として、限られた資源の中において最大の効果を発揮する対策が打てなくなってしまう。基盤的情報の重要性について改めて認識し、エビデンスに基づいた政策形成を進めていかなければならない。

 パリ協定を受け、社会全体が気候変動に対する緩和や適応に向かい始めているという状況を我が国においても認識する必要がある。また、関連分野の研究開発によるイノベーションの創出が、そのまま我が国の産業を牽引(けんいん)し、世界市場の獲得にまでつながる可能性が極めて高いことを理解しておく必要がある。先に述べたような環境と成長の好循環が起こっている中において、脱炭素技術の世界市場の獲得は、そのまま国際社会への貢献度の向上をも意味している。

 人口減少や高齢化による国内市場の縮小も見込まれる中においては、これを好機として捉え、我が国の産業競争力強化や国際社会での信頼とプレゼンスの強化に向け、関連分野の研究開発を積極的に推進していく必要がある。その際、ゼロから全く新しい技術を創出するイノベーションはもちろんのこと、既存の知見の活用や組合せにより想定外の斬新な知見を創出することも重要な意義を有する。科学的な知見が必要ではありつつも、相対的に短中期的に社会実装が見込まれるようなイノベーションも射程に入れ、長期的な目標達成までの間、社会実装が繰り返されるような研究開発が望まれる。

 研究開発を進める際に最終的な課題となるのは、社会がその技術を受け入れるか否かという点である。パリ協定のターゲットは今世紀末であり、今後、人類は長期的に環境問題としっかり向き合い続けなければならない。ここまでに論じている緩和あるいは適応に関する方策を推進するための研究開発を担う人材には、こうした点で社会に対して情報発信を継続的に行うこと、その際には科学的な根拠を分かりやすく情報提供できるようにしていくことが求められる。また、情報の受け手や活用主体となる国民全体のリテラシー等の醸成を目的とした人材育成の必要性も極めて大きい。

 「環境」とは、「四囲の外界。周囲の事物。特に、人間または生物をとりまき、それと相互作用を及ぼし合うものとして見た外界」(*5)という極めて幅広い概念である。また、「エネルギー」も、「物理学的な仕事をなし得る諸量の総称」(*5)とされ、物理、熱、光、電磁気、位置、運動等の様々なエネルギーがある。これらを技術として見た場合に、例えば、マクロの視点では、社会インフラとしてのシステム構築をどのように進めるのかということも課題になり得る。一方、ミクロの視点ではエネルギーの種類間の変換をどのように効率的に行うかということも課題になり得る。つまり、環境エネルギー科学技術委員会では、こうした裾野の広い課題に対して、「環境」と「エネルギー」の相互の関連を意識し、文理融合した幅広い知見による研究開発を射程に入れることが求められており、その点を意識した議論を進める必要がある。上述のSDGsに掲げられている17の目標は相互に関連している課題であり、まさに環境エネルギー科学技術委員会で扱う課題の典型例ともいえる。

 ここまで記載してきた通り、特に気候変動リスクへの対応は、既に得られている知見からまったなしの状況であることは疑う余地がなく、我々の後代も含めた人類共通のテーマであり、さらに、現在から将来に至る国民生活や社会的・経済的活動に大きく影響すると推測される。このため、気候変動リスクの低減の観点から、人文社会科学の活用も含め、環境分野及びエネルギー分野の研究開発を喫緊に進めなければならない必要性は極めて高い。

 以上のような認識の下、当面、環境エネルギー科学技術委員会では、気候変動に係る様々な分野のリスクについて、環境エネルギー科学技術を用いて、そのリスクを定量化し、そして緩和と適応のそれぞれの側面からリスクを最大限マネジメント(低減)するための方策を検討すること、未来のイノベーションとなりうる多様な基礎・基盤研究を振興し、また、当該技術による世界市場の獲得により速やかな社会実装が図られるよう研究開発を進める領域を検討すること、常にその優先順位を検討し、限られた資源をどの分野の研究開発に充てていくべきかを議論することを委員会の役割と捉え、
・気候変動リスクをマネジメントするための緩和及び適応に関する研究開発
・研究開発を支える基盤的情報の創出
・研究開発を担う人材の育成や気候変動リスクに世界全体で向き合うための環境エネルギー問題や科学技術リテラシー等の向上に向けた方策の検討
・上記に係る産業界の動向や市場成長の見通し、環境エネルギー問題に関する最新の社会動向や技術シーズの把握と俯瞰、これらの世界的動向を踏まえた解決すべき技術課題の優先順位付け
等に係る方向性について、重点的に検討することとしてはどうか。

(*1)気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)
(*2)環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった要素を考慮する投資
(*3)持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
(*4)気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な開発及び貧困撲滅への努力の文脈における、工業化以前の水準から 1.5℃の地球温暖化による影響及び関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関するIPCC 特別報告書
(*5)岩波書店 広辞苑(第7版)より



【参考1:環境エネルギー科学技術委員会の位置付け】
 環境エネルギー科学技術委員会は、文部科学大臣の諮問機関である科学技術・学術審議会に属する研究計画・評価分科会の下に設置されている。このため、各審議会等の運営規則から整理すると、環境エネルギー科学技術委員会は、環境エネルギー科学技術について、
1.科学技術に関する研究及び開発に関する計画の作成及び推進に関する重要事項を調査すること
2.科学技術に関する研究及び開発の評価に係る基本的な政策の企画及び立案並びに推進に関する重要事項を調査すること
3.科学技術に関する関係行政機関の事務の調整の方針に関する重要事項を調査すること
を機動的に行うことを目的とする委員会と整理される。

【参考2:第五期科学技術基本計画における環境エネルギー部分の記載】
○地球規模の気候変動への対応
 地球規模課題の一つである地球温暖化の主な要因は、人為的な温室効果ガスの排出増加とされ、地球温暖化に伴う気候変動が今後更に経済・社会等に重大な影響を与えるおそれがある。
 このため、地球規模での温室効果ガスの大幅な削減を目指すとともに、我が国のみならず世界における気候変動の影響への適応に貢献する。
 具体的には、気候変動の監視のため、人工衛星、レーダ、センサ等による地球環境の継続的観測や、スーパーコンピュータ等を活用した予測技術の高度化、気候変動メカニズムの解明を進め、全球地球観測システムの構築に貢献するとともに、気候変動の緩和のため、二酸化炭素回収貯留技術や温室効果ガスの排出量算定・検証技術等の研究開発を推進し、さらには、長期的視野に立った温室効果ガスの抜本的な排出削減を実現するための戦略策定を進める。また、気候変動が顕著に表れる北極域は、北極海航路の利活用等もあいまって国際的な関心が高まっており、北極域観測技術の開発を含めた観測・研究や北極海航路の可能性予測等を行う。さらに、気候変動の影響への適応のため、気候変動の影響に関する予測・評価技術と気候リスク対応の技術等の研究開発を推進する。加えて、地球環境の情報をビッグデータとして捉え、気候変動に起因する経済・社会的課題の解決のために地球環境情報プラットフォームを構築するとともに、フューチャー・アース構想等、国内外のステークホルダーとの協働による研究を推進する。


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-- 登録:令和元年06月 --