ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略検討作業部会(第5回) 議事録

1.日時

平成30年3月16日(金曜日)15時~18時

2.場所

3F1特別会議室

3.議題

  1. ナノテクノロジー・材料分野に関するヒアリング
  2. 研究開発戦略の方向性について
  3. その他

4.議事録

【中山主査】  それでは、定刻となりましたので、ただいまより第5回ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略検討作業部会を開催いたします。本日は御多忙の中、お集まりいただきまして、ありがとうございました。前回に引き続きまして、この分野の研究開発戦略の策定に向けた議論をしてまいります。

 本日は、これまでも議論してまいりましたが、産業技術総合研究所の夏目徹様、北陸先端科学技術大学院大学の谷池俊明様、物質・材料研究機構の後藤真宏様、そして、一杉委員にプレゼンをしていただきます。その後に積極的な御議論を賜れればと思います。

 早速ですが、事務局より委員の出欠及び配付資料の確認等、よろしくお願いいたします。

【丹羽補佐】  事務局です。本日は、内田委員、近藤委員、染谷委員、高梨委員、館林委員、田中委員、渡慶次委員、中嶋委員、早川委員が御欠席となっております。

 議事次第にありますとおり、本日、4名の方々より御発表いただく予定となっております。配付資料に欠落がありましたら、事務局までお知らせいただければと思います。

 以上です。

【中山主査】  ありがとうございます。

 また、本日は内閣府から千嶋様にお越しいただいております。また後ほど経済産業省より小宮様がお越しいただく御予定と伺っております。それでは、議事(1)に入らせていただきます。夏目様、谷池様、後藤様、一杉委員の順に御発表いただきます。

 夏目様、谷池様より御発表いただいた後に、10分程度の質疑応答、そしてまた、後藤様、一杉委員からのプレゼンの後に後藤様、一杉委員への質疑応答と、その後に全体の質疑応答を40分程度設けさせていただければと思います。

 まず初めに、夏目様より御発表いただきます。ラボ改革に関する先行的な事例が見られるライフ分野の例として、当分野に取り入れられるもの、あるいは一緒にやれるようなこと等を議論したいと思います。

 それでは、15分程度でのプレゼンをよろしくお願いいたします。

【夏目徹先生】  産総研の夏目と申します。よろしくお願いいたします。では、早速始めさせていただきたいと思います。

 私は、これからロボットの話をさせていただきますけれども、ロボット専門家では決してありませんで、ライフサイエンスの人間です。というわけで、ナノテクでもなくて、ライフサイエンスでもなく大変恐縮なんですけれども、少し我々の取組をお話ししたいと思います。

 私は、産総研の人間ですが、それと同時に、世界トップ4に入る日本の誇るロボットメーカー、安川電機、それから、JSTさんにも参加していただいて、3年前に作りましたRobotic Biology Instituteという会社のCSOも兼任させていただいています。私がお話しするロボットは、ヒューマノイドというロボットです。

 ヒューマノイドという言葉は、人間そっくりの機械みたいな意味で使われますけれども、厳密にはロボティクスの世界では、人の動きを再現できる、それゆえに人がふだん使っている道具や装置をそのまま使えるロボットという意味が狭義の意味です。

 早速ごらんいただきたいんですけれども、ヒューマノイドというのは専用ロボットではない。汎用、それから、拡張性を持ったロボットです。これは8倍速で我々がふだん行っている、例えばプロテオミクスと呼ばれる研究のサンプル処理を行っています。このように、Vortex、それから、インキュベーター、遠心機、攪拌装置、それから、ピペッター、こういうものを全てロボットのために一切改造することなく、そのまま使って実験をします。遠心機の扉を自分で開けて、ローターを調整して、パネル操作も自分で行いますので、人間がこれまで使ってきた装置が全て使えるわけです。

 それで、右手と左手に簡単なビジョンを持っていて、ローターのアングルを確認したり、チューブの置き間違え、つかみ損ないが無いように全てセンシングしながら作業を行っています。これはインキュベーターをパカッと開けて、角度を調整して、フープに差すというようなことまで実際に行うことができます。

 我々このようなロボットをLabDroidと呼んでおります。これはLaboratory Humanoidの造語です。繰り返しになりますけれども、心は、マルチオペレーションによる汎用性、それから、拡張性ですね。それから、強調したいのは、このサイズのロボットですね。人間の大人と同じリーチを持つロボット。それで、人の作業を実現しようとすると、モーターの数が非常に大きくなって、なかなか実現できないんですけれども、これは日本の冠たるロボット技術を持つ、安川電機は中空アクチュエータという、非常に軽量で高出力なモーターを自社で作っている会社です。唯一日本だけがこのようなヒューマノイドを作ることができるということを強調しておきたいと思います。

 それで、ライフサイエンスを行う上での作業の精度というのは、時としてはるかに人間を凌駕するわけです。例えばこれはスピンカラムと呼ばれるカラムですね。遠心を行った後にこのフィルタをうにうにうにっとやってスポンと取るんですけど、人間はこれは本来両手でやるんですけれども、一切固定していませんが、ロボットはこれをバーンと飛ばしてしまうような失敗は決してすることなく、きちんと取ることができます。

 これはTCA沈殿と呼ばれる、人間がやると結構神経を使う作業です。ここに小さなペレットがあるんですけれども、これを吸っちゃったら終わりなんですね。ごらんになっていただいて分かるように、液面の下がり方、ピペットの先端の絶妙なコントロールで、決して吸ってしまうなどというようなへまはしないわけです。

 これは細胞バイオのスクレイピングですね。右手と左手を使ってやります。これは典型的に業界で言うところのJig free systemというものを実現しています。左手が常にJigとして働きますので、私が作った従来型のロボットのような特殊なJigは必要ありません。ということは、どんなサイズのディッシュ、それから、スクレイピングのやり方を自在に目的に合わせて変えることができるわけです。

 実際にこれは一番大きいディッシュですね。15センチディッシュ。これも右手と左手で持ってやっております。この細胞は非常にスティッキーな細胞で、このときにこの上げる角度ですね。これは垂直にピュッと上げるのが大事なんですけれども、これをやらないとまたくっついちゃうんですが、そういうところもきちんと最適化されて、人間では決して不可能なリカバリーレートが97%というようなリカバリー、ハーベスティングを行うことができます。

 これは一番小さいのが384のmultiwellですね。8連のピペットを使っています。ロボットは完全に平行にピペッターをコントロールすることができますし、それから、従来のディスペンサーと違って、ピペットのアングル、押し方、それから、ウエイティングのタイミングとかといったものを最適化することによって、CV値を4%という脅威的な数値にすることができます。

 それから、引き戸をカラカラカラッと開けて、チューブがランダムな位置に止まりますけれども、左手についている目でチューブを見つけて、簡単にピュッと取るというわけです。どうだ、すごいだろう、Vとやるんですけれども、これはあんまりVに見えないんですね。これは手がでか過ぎなんですが、こういうところは、これは彼の悩みなんですけれども、ライフサイエンスに関わるベンチアップは全て、唯一このロボットでできるということは御理解いただけたと思います。

 繰り返しになります。これは汎用ロボットです。周りのセットアップを変えることによって、細胞バイオからゲノム解析まで1台のロボットでやることができるというわけです。

 それで、メリットはそれだけではなくて、ヒューマノイドのライフサイエンスにおけるメリットは、人の作業を可視化して、最適化できるところです。これはヒューマノイドなので、人間の動きというのは一旦ロボットに移すことができます。そうすることによって、最適化が行われます。ですから、ヒューマノイドは単なる人をロボットで置き換える自動化ロボットではなくて、実は最適化ツールということを少しお話ししたいと思います。

 例えばqPCRと呼ばれる、再現性を人間が出すと非常に難しい作業があるんですけれども、こういう作業もピペットをどれぐらいのスピードで押すとか、ボトムに対して何ミリ近付けるといったように、一旦人の標準的な作業を移した後、これは数値化されますので、それを全部パラメータオプティマイゼーションをすることができます。このとき一番大事なパラメータというのは、これはピペッターを垂直にホールドすることだということが分かりました。こういうことは、人間は全て暗黙知、あるいは経験値として持っていますが、なかなか可視化することができないんですね。仮にそれが正しいと分かっていても、人間はそれを垂直にホールドし続けることができないので、ロボットには決して勝てないというわけです。

 その次ですね。これは慶應大学でこのロボットは3台働いていて、そのうちの1台は、Cell-based high-content screeningというのをやっております。まず細胞をバッチでカルチャーして増やして、それを96ウェルのフォーマットに、スクリーニングのフォーマットに移して、その後は、数千個のケミカルライブラリーを段階希釈して、間違いなく各ウェルに打っていくという作業をします。

 このスクリーニングは非常に難しいスクリーニングで、人間が2年間やっていて、1回も成功したことがない作業です。なぜ人間が成功しないというのはどういう意味かというと、同じ化合物がヒットしないんですね。毎回違う結果になってしまう。ところが、ロボットは、たった3つのパラメータをオプティマイズすることによって、これをたった1回で成功させました。

 それで、この細胞はステムセルなので、まず巻くときに完全にシングルセルにセパレーションしなきゃいけない。ただ、それを力ずくでやろうとすると、細胞にはダメージがあって、バイアビリティが下がってしまうという、そういう2つの相反するファクターがあります。

 まず細胞が90%、バイアビリティを確保できるようなそういうディスペンシングの方法をまず考えるわけですね。ロボットに最適化してもらいます。それは簡単にやって、ビュッ、ビュッ、ビュッと強く数回やるのか、ゆっくり何回もやるのかみたいなところで、こんなものは30分ぐらいで決められるわけです。

 ところが、これは予測されていたことですけれども、こういうような条件を満たすと、これはアグリゲートが残ってしまう。細胞塊が残ってしまうんですね。ところが、次に、沈降時間というものを設けてあげます。そうすると、アグリゲートが先に落下しますので、ある瞬間、シングルセルのレイヤーが生まれます。ここではアグリゲートを吸ってしまうリスクがあって、ここでは遅すぎるというわけですね。あとは、適切な細胞のインテンシティのあるところにピペットを差すという、このポジションですね。この高さだけ決めてあげると。たった3つのパラメータオプティマイゼーションで人間が数年前実行不可能だった実験を成功させたというわけです。

 多分皆さん、ここで聞いておられる方は、このロボットを使うのは非常に難しいんでしょうというふうに思われると思います。私たちは産総研、それから、安川電機、それから、今、RBIですけれども、物すごく頑張ってやったのは誰でも使える作業インターフェースですね。ここにあるように、まず使うラボウェアというのをこのカラムから選択して、次に、遠心、ピペッティング、攪拌といったような、作業のジョブのライブラリーがここに作ってあって、そこでこのようにドラッグ・アンド・ドロップをしてパラメータを入れていくと、それが自動的にロボットジョブに変換されると、こういうシステムを我々8年間掛けて開発いたしました。

 これは何をやっているかというと、まずインキュベーターからディッシュを取り出します。そこで上清を捨てて、そこにライシスバッファを添加して、スクレイピングをします。スクレイピングした後に、10マイクロリッターのセルライゼットを1.5マイクロリッターのチューブに移すといったようなことを作業指示しています。ごらんになっていただいて分かるように、テクニシャンの方から、初めてロボットを使う方でも直観的に、簡単にプロトコルを構築することができるわけです。

 それで、少し未来についてお話ししたいと思います。私たちが実現したい未来というのは、まず一つは、こういうロボットをつないでいくことです。現在、16と書いていますが、今、17台目が神戸の理研で稼働を開始するところですけれども、こういうロボットをインターネットでつないでいくということを今行っています。

 そうすると、何がいいかというと、まずプロトコルの共有ということがロボットを通して行えるようになります。例えばどこかで非常に難しい実験、あるいは経験や、非常に熟練した技術が必要なプロトコルでも、一旦ロボットに移してしまえば、別の場所でプロトコルをダウンロードするだけで直ちに再現させることができて、データの再現性、それから、プロトコルの本当の意味での共有化、技術移転がすぐさまできるようになると。

 それから、ロボットのすごくいいところは、ログを出すところです。リアルタイムに電子化されたログを常に出します。何時何分何十秒で、タイムスタンプを付けて、腕をこういうふうに曲げる。このチューブを取ったといったようなログを全部残すことができます。ですので、これは生産の現場では完璧な、完全なプロセスバリデーションであり、ライフサイエンスのアカデミアの現場では、捏造の完全な防止システムになるというわけです。

 さらに、そういう意味で、プロトコル、それから、ログ、それから、データですね。この3つをインターネット上でセマンティックに管理することができるようになります。例えばプロトコルはロボットに移すことによって、共通のフォーマットで記述されます。それから、共通のフォーマットでログも出していくことができます。そうすると、そのデータですね。AIにとってはとても理由しやすい、品質の高い、それから、スケールするアベイラビリティが非常に高いデータを生み出していけるというわけです。そうすると、AIはきちんと賢くなれて、最終的にはAIが実験を最適化、自立化していくようなそういうシステムに発展していくというふうに考えています。

 私たちの実現したい未来は、例えば在宅研究の促進とか、女性の方が、例えば子育て、育児を両立しながら、研究をすることができるようになると思います。例えば子供を保育園に預けて、昼前にのこのこ研究室に来れば、ロボットは夜通し実験をしていてくれて、もうデータが出ているわけです。仲間とディスカッションして、次の実験をしかけたら、3時ぐらいに帰っちゃうと。お買い物して、晩御飯の支度をしながら、リモートのパッドでロボットが実験していることを確認したり、何か人間の判断が必要なときは、遠隔でロボットを操作して、自宅から研究ができるというわけです。

 それから、老研究者にとっても朗報ですね。私たちのように、もう実験の現場に立つ時間のない人間も研究にまた、現場の戦力として参加することができるようになります。それから、若い研究者にとっても大きなメリットがあります。要するに、長年の修行というか、熟練技術を習得する、あるいは高額の研究費を、競争的資金を獲得して、多くのこういうリソース、あるいは開発機器を持たなくても、こういうものをシェアリングすることができるようになります。もしかすると、アイデアや、それから、知識、やる気があれば、高校生でも研究に参加できるかもしれないというわけですね。というわけで、シニア、ミドル、それから、若い層の人材の徹底的な活用になるというふうに思っています。

 それから、ロボットをインターネットでつなぐだけではなくて、将来的には大きなロボット研究拠点が必要になってくると思っています。そして、お互いにプロトコルを相互利用するだけではなくて、例えば各研究機関は最適化みたいなところは自分たちでやって、非常に大きなリソースですね。ロボットが必要なときはこういうところにアウトソーシングすると。それだけではなくて、そうすると、まず研究現場のフラット化、持ってなくても研究ができる。それから、自分たちの一番深堀りしたいところだけに差別化、自分たちを特化することができるので、研究拠点の差別化が生まれやすくなると思います。それから、稼働率が低くて、非常に高額。でも、必ず必要な研究機器というのを1か所に集めることで、稼働率も大幅にアップするというシェアリングが可能だと。

 それから、ここは非常に大事なところだと思うんですけれども、これからプロセスバリデーションはアカデミアの世界でも必須だというふうに考えています。『NATURE』などでもNIHでも、第三者に認証を承認してからでないと論文をパブリッシュしてはいけない、あるいは予算の要求ができないというような議論がされていますが、一体それを誰がするんですかということに対して回答がないと思うんです。そういう意味で第三者承認の役割を持つ集中的なロボットセンターみたいなものが必要になってくるかなと思います。

 それから、もっと先の未来というのは、私たちはラボレスだというふうに考えています。各研究者、研究機関がもはや研究設備、機器を持つ必要がない。考えて、プロトコルを大規模なロボットセンターに投げて、データを返してもらうだけで研究ができる。そういう未来を実現したいというふうに考えています。

 多少ぶっ飛んだところがあるかなと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、こういうことを非常に真面目に考えてホワイトペーパーを書きましたら、ちゃんと採択してくれるジャーナルがあって、既にパブリッシュされております。ということはどういうことかというと、これはもはやそんなに突飛なアイデアではないということだというふうに思います。ということは、いつか必ず実現してしまうんだということだと思います。

 我々ライフサイエンスの内外にはいろんな問題があると思います。例えば再現性の危機。REPRODUCIBILITY CRISISというのがもう声高にいろんなジャーナルで叫ばれています。これはライフサイエンスの研究における最大で最も大きな問題だと言われています。

 それから、再現性がなかなか担保されないから、これが捏造の温床になるんですね。我々は、私は個人的には誤解を恐れずに言うならば、捏造とは倫理に関わるような問題ではないというふうに思っています。

 それから、危険なものがたくさん出てきます。これはエボラウイルスですね。それから、少子化、我々の大きな問題ですね。こういう問題を全て包括的に解決できる唯一の、ここがもしかしたらヒューマノイド・イン・ラボラトリーというアイデア、それから、クラウド・ロボティック・バイオロジーというアイデアかもしれないというふうに考えています。

 私たちのこのLabDroidは、通称、MAHOLO君というふうに呼ばれています。これは「まほろば」から取った名前で、研究者を苛酷な労働環境から解放して、知性と独創性と、それから、個性ですね。全ての研究室をパラダイスにしたい。特に若い人たちにとってのパラダイスにしたいというふうに考えて、MAHOLO君という名前にしました。

 もう一回謝辞をして、産総研と、それから、安川電機と、それから、JSTさんに研究費出資をしていただいて、今このプロジェクトを進行させております。どうも御清聴ありがとうございました。

【中山主査】  どうもありがとうございました。大変参考になります。

 続きまして、谷池様より15分程度で御説明よろしくお願いいたします。

【中山主査】  どうもありがとうございました。大変参考になります。

 続きまして、谷池様より15分程度で御説明よろしくお願いいたします。

【谷池俊明先生】  先ほど御紹介にあずかりました北陸先端大の谷池と申します。非常に壮大なテーマを頂きまして、私のような駆け出しの者がどのくらいお役に立てるかどうか、また、どのくらい壮大なテーマを描けるかどうかも自信がないのですが、本日はせっかく頂いた時間ですので、我々の研究室が「探索・学習・予測のシナジーを実践する次世代マテリアル設計」と標榜して、日本の科学の将来をどのように考えてやっているのかということを簡単に御説明させていただきます。よろしくお願いいたします。

 まず僣越ですが、私自身の自己紹介を簡単にさせていただきます。私の研究経歴は東大で、量子力学による純粋な理論研究、また、プログラミングを主体とした計算科学研究に始まり、博士課程では岩澤研に移りまして、固体表面、特に固体触媒表面を表面化学実験、第一原理計算によって解明する、こんなことで博士号を頂きました。

 その後、現所属の北陸先端大に移りまして、寺野先生という先生の下で助教として、工業触媒、特に固体オレフィン重合触媒というような工業材料と、それによって生み出されたポリオレフィンの物性解析という、非常に工業に近い研究をやってまいりました。このポリオレフィンという分野、非常に特殊な分野でありまして、触媒の改良やポリマーの物性改良がすぐさま工業的なインパクトにつながるのですが、値段がすごく厳しくて、例えば10円上がるようなプロセスはもう全く受け入れられないと、見向きもされないと、こんな厳しい世界です。

 このような経験、理論から実験、合成から物性、アカデミアからインダストリーといった経験を踏まえまして、2013年に研究室を持った際に、せっかくですからこの研究の背景を生かしまして、専門にこだわらず、材料研究者として今何をすべきかということを考えるチャンスを持つことができました。プロジェクトとしましては、現在、クモ糸の物性改良をImPACTでやっておりまして、メタンの変換触媒に関するハイスループット実験をCRESTで、ほかにはDutch Polymer Instituteという、オランダの産学官連携オープンイノベーションコンソーシアムで固体重合触媒の研究をやっています。そのほかに、ちょっと変わったところかなと思うんですが、企業との共同研究を約3年間で15社ぐらいずっと続けております。

 このような最初に御紹介申し上げました表題に私が考え付くに至って、前提とした世相と目標について簡単に触れさせていただきます。これはもう皆様にとっては非常に当たり前なお話で非常に恐縮ですが、地球と人類存続に係る問題が逼迫する中で、今、日本という国を見てみたときに、資源なきグローバル化、グローバル化による技術寿命の短縮、そして、少子高齢化から来る、予測される内需の縮小、そして、そこから更に予測される研究資源の逼迫という、非常に厳しい状況にあります。

 一方で、『Science』誌で、ここ10年間ぐらいで発表された触媒関連の論文の主題を見ますと、希少金属の代替、低価値炭素源の化学変換、燃料電池、水素製造、光水分解といったように、今までの材料ありきの基礎研究から、課題解決に帰する実用的な目的を前提とした研究にシフトしつつあるなというふうに感じています。

 このような中で、課題解決を図るためにはコスト競争力というのも非常に重要でありまして、研究のやり方が精密設計や解明から、より値段が高く、より高度に設計された技術の高度化を目指すという方法から、汎用的な材料の組み合わせであったり、シンプルなプロセスであったり、コスト競争力を重視して、その方法で出口まで到達できるのかということを見越した材料設計が重要になりつつあるというふうに感じています。

 翻りまして、私の学生時代を思い返しますと、私自身、研究者の想像を絶する努力と失敗の連続の果てに成果が得られるものと捉えてまいりました。しかしながら、思い返しますと、大半の時間は仮説検証のための、先ほどもありましたが、単純あるいは類似作業の繰り返しで、再現を頑張って、頑張って、頑張るというこんな感じで研究をしておりました。

 これらの背景を踏まえまして、私どもは、日本が迎えつつある世相を前提に、地球や社会の課題に貢献する材料を、いろんな意味で最低投資で生み出すことを目的として研究を進めていきたいと。そのためには科学の仮説研究のやり方自体を変えないといけないんだろうなというふうに考えました。

 私の時代はちょうど、気合いと根性の20世紀だったのですが、今後、ハイスループット実験や材料シミュレータによって、検証の高速化、そして、人工知能、インフォマティクスによって、データ収集・解析、仮説の立証、仮説の発見・検証というように、だんだん研究のやり方が変わってくるものと思っております。

 このような未来を見据えまして、私どもの研究室では、ハイスループット実験による検証の高速化、得られた大量のデータのマイニングによる仮説の立案、そして、統計モデルや第一原理計算、コンピューターを使った材料設計。いわゆるIn-silico材料設計というものをやっております。これらの3本の柱を下に、材料科学研究における仮説検証のプロセスのスループットを上げまして、社会に役立つ材料を作りたいなというふうに思っています。

 この社会に役立つ材料というのは特に意識していることでありまして、研究の方法論を研究するに当たって、その出口が絶対にないといけないというふうに私は考えておりまして、その中で、学生さんにも同じような考え方を持って卒業していってほしいなと思ってやっております。

 昨今、マテリアルズインフォマティクスのように、材料科学研究におきましても、データ科学の活用が注目を集めています。これはデータ科学を積極的に利用することで、材料研究開発の飛躍的促進に挑戦しようとする魅力的な試みです。従来法が、材料というブラックボックスに対して、「構造Aを有するならば、物性Bを発現するはず」という形で、因果関係を順々にたどっていったのに対して、このインフォマティクスの方法では、データを分析して、物性Bと相関する構造Xを探るということで、ブラックボックスの中身を人間が解き明かすことなく、そこに潜む相関をデータ科学的にあぶり出す、こういう方法です。

 言うまでもなく、このような研究におきましては、元手となるデータの質と規模が最も重要です。一方で、バイオロジーの分野ではもうかなり立派なデータベースがあるものかと思いますが、材料科学研究という観点からデータの質と規模を見たときに、サンプル数が非常に少ないという問題があります。また、このサンプル数の問題に対して、例えばハイスループット計算をやってデータを増やせばいいじゃないかというふうになるんですが、計算科学ではなかなか合成プロセス、評価プロセスといったプロセス条件が考慮できず、このプロセス条件というのは実材料にとって非常に重要です。

 一方で、文献などからデータを集めてくればいいとも思うのですが、文献はなかなかプロセスがそろっていないものが多く、構造情報も全然そろっていなく、こんな状況があるわけです。

 例えばこれは、私が今、CRESTでやっておりますメタン変換触媒に関する40年のデータをある研究者がまとめられたものです。ここはその一部を示しているんですが、まず見て分かることは、40年間でたった2,000個のデータしかありません。この2,000個のデータのうち、論文の番号、1、2、3と付いているのですが、1、2、3とも触媒の調製法が違ったり、触媒の評価条件が全く違っていたりして、このような不ぞろいな状態で2,000個しかデータがないと。これでは全く学習にならないということで、これはある意味、当然の話でして、研究者が予備実験的なデータや、余り良くなかったデータを論文に載せる必要がなかったという問題があります。

 このような観点から、私たちの研究室では、均質なデータを自家生成するハイスループットな方法論とデータそのものが最大の財産と捉えて、研究を行っております。これは2014年4月から実動した研究室で、ここまでに開発した代表的な材料になります。

 例えば、工業触媒の70倍の活性を有するPETの合成触媒。ハイスループット装置の開発。触媒概念の設計、あるいはコンピューターによる工業触媒の設計、光触媒。これは成形性がすごくいいポリエチレンで、これが車、電気自動車などに使われるキャパシタ材料のナノコンポジット材料と、これはろ過膜ですが、結構いろんな材料をやって、実際に世の中に出しております。重要視していることは、特定の材料に限らないということ。それでいて、社会や産業の課題に対する最善手を高速で研究するということを大事にして研究をやっています。実際ここで紺色で示されている研究というのは、もう既に工業化の途中にあるか、工業化を見据えた上で、産学の共同研究が言っているものです。

 ハイスループット実験というふうに聞きますと、私、きょう、ヒューマノイドの発表を見てびっくりしたんですが、こんなロボットアームを使った装置を思い浮かべられる方、非常に多いんじゃないかと思います。このような高度に自動化されたものというのは、1万回、同じプロセスを繰り返すのはいいんですけれども、材料にこだわらない、あるいはプロセスを開発するといった意味においては、ちょっとフレキシビリティが失われていて、余り都合がよくありません。そこで我々の研究室というのは、材料科学実験で共通する要素プロセスに対してそれぞれ1日に10から100でいいんです。ミディアムなスループットで十分ですので、そういったモジュールを拡充、開発しています。

 例えば計量、これは高分子の成形、これは触媒合成などの化学反応。こちらは分析の類いです。こういったハイスループットモジュールを随時拡大していっています。例えば2017年の前半には、自動車の排ガス浄化触媒の高速評価装置を設計しましたし、今年度末には、メタンの直接変換触媒のハイスループット触媒評価システムというのを導入しています。この中で、以降、我々のターニングポイントとなった装置について紹介させていただきます。

 この装置は、化学発光イメージング装置というふうに言われておりまして、有機物や高分子が酸化する際に生じる微弱な化学発光を捉えるものです。まず一般に、大半の高分子は酸化劣化によって材料としての寿命を迎えます。このポリマー、今、海洋のごみが問題になっておりますが、リサイクルやリユース性を向上するに当たって、このポリマー自体の寿命を向上するという、非常に重要な目標があります。しかしながら、この寿命を向上する、寿命を1個測る実験というのは、大体1週間から1か月に1個掛かります。そこで、我々の研究室というのは、これを2,000倍速できる装置というものを開発しまして、これによって新規材料の寿命開発の研究を多くやっています。

 例えばこの装置を使うとどういうふうに見えるかと申しますと、これは異なる安定性を持つプラスチックを酸化劣化させたもので、寿命が尽きたものからこのように光って消えていって、光らない時間がその材料の寿命として判断されます。このような動画を使って、一遍に100検体やることができまして、そういうことができるようになると、機械学習と組み合わせることで、例えばこれはポリプロピレンという非常に汎用的な材料なんですが、150度で、200時間以上もつという、スーパーエンプラ並みの寿命、あるいはそれを超すような寿命を持つ材料も作ることができます。このような装置というのは、例えば人工クモ糸の安定化や、高耐熱バイオマスポリイミドの安定化、こういったことにも使うことができております。

 最後に固体触媒に関する研究について御紹介させていただきます。固体触媒のような固体材料におきましては、役割の異なる化学種を混在させるマルチコンポーネント化と、いろんな階層で物理構造を設計する階層構造の設計というものが非常に重要なポイントになります。複雑な構造を設計すればするほど、一般に言うと、概して機能が増して多機能的になっていき、多機能になった一方で、複雑化するからこそ、構造と性能の相関というのが非常に解明しがたくなっていて、大半の工業触媒というのはこんな状況にあります。

 この固体触媒の構造性能相関と多機能性の起源を解明するために、我々はZiegler-Natta触媒という工業触媒を題材にずっと研究を進めていまして、例えばこれは担体の階層構造の構造性能相関の解明では、このようなミディアムスループットの装置で、大量のサンプルを合成して、この合成したサンプルを斉一的な条件で構造をパラメータ化し、性能をパラメータ化し、この構造性能相関のデータを多変量解析でモデル化することによって、実際に工業触媒の設計が直接、今できるようになっています。

 次が分子レベルの話でありまして、分子レベルのところでは第一原理計算を使います。いろいろな実験条件、実験によって得られるいろいろな結果を多面的に十分条件として満足可能な精密な分子モデルが確立できれば、これはもう直接、工業との共同開発になります。横軸が計算値で、縦軸が工業的に得られた値ですが、実際、触媒開発を計算科学でやるということをやっています。

 以上で発表を終わらせていただきます。

【中山主査】  どうもありがとうございました。

 それでは、夏目様、谷池様の説明内容につきまして、御質疑、御討論等、よろしくお願いいたします。どなたからでも結構です。

 では、私から。夏目様に質問ですが、これは海外ではどういう状況でしょうか。競争相手とか追従しているところとか、そういう周辺の状況をお伺いできますか。

【夏目徹先生】  まずハードウエアのロボット的には、日本はかなり優位性があって、発表の中でもお話ししましたけれども、あのサイズのヒューマノイドというのは今のところ海外にはありません。ところが、クラウドバイオロジー、ロボティックバイオロジーというアイデアは、これは私たちだけではなくて、西海岸にはTranscriptic、それから、エメラルドバイオ、それから、イギリスにはシンセテックバイオロジーといったアウトソーシング、実験を自動化するそういう企業が既にもう設立されています。そういう状況です。

 ただ、彼らが我々のような汎用型ロボットは持っていませんので、プロトコルを1つ作るたびに、開発するには、先ほどの谷池先生がおっしゃっていたように、専用ロボットを組み合わせていかなきゃいけないというのがまだ現状ですので、そういう点では優位性はあるというふうに思っています。

 それから、ロボットを使っている人たちの考え方というのは、基本的にその自動化、効率化、無人化というところにフォーカスされていますが、我々はヒューマノイドによる最適化ツールとしての価値を最大化しようという点では、多少、企業の目指している方向は違うのかなというふうに思っています。

【中山主査】  ありがとうございました。

 一杉先生。

【一杉委員】  一杉といいます。最後のところ、もう一回お教えください。自動化と最適化の違いをもう一度お願いします。

【夏目徹先生】  自動化が生み出すバリューというのは、人件費がマックスです。導入費、ランニングコストが引かれていくので、ライフサイエンスの場合はほとんどそれがプラスになることはないと思います。導入コストは非常に高くて、フレキシビリティが低くなってしまうので、生産現場のように、物すごく大量に同じことをやること以外にはロボットはペイしないことになります。

 それに対して最適化というのは、先ほどお話ししたように、ああいう事例はたくさんあって、人間が今まで不可能だったこと。あるいは5年も6年も掛かっていたことを、たった1か月、2週間でできてしまう。それによって、例えばお薬が5年早く作れるとなると、マーケットが20億だったとすると、100億違ってくるわけですね。そこには物すごく大きな付加価値が生まれる。そこにフォーカスしたいというのが私たちの考えです。

【一杉委員】  つまり、研究のスピードアップということで非常にいい、最適化が早く終わるというのは非常にいいですよね。

【夏目徹先生】  そうですね。はい。

【一杉委員】  それで、さきほどの装置は、人間が使う実験器具をそのまま流用できるわけですね。

【夏目徹先生】  そうです。

【一杉委員】  そこがコスト削減になっていると考えていいですか。

【夏目徹先生】  はい。それによって、周りのセットアップを変えれば、すぐに別の作業ができる。それから、装置自体が陳腐化してもその装置を置き換えても、人間のために作られていれば基本的に使えますので、新たなプロトコルもすぐできるということですね。

【一杉委員】  分かりました。ありがとうございます。

【中山主査】  どうぞ。髙尾委員。

【髙尾委員】  夏目様に御質問させていただきたいです。大変感銘しましたというか、驚きました。

【夏目徹先生】  ありがとうございます。

【髙尾委員】  バイオ系のお話だったんですが、暗黙知について、例えば重要なポイントが3つありますとのことでお伺いしたいと思います。ここを押さえれば何年も掛かって人間ができなかったことが、数回で再現できましたというお話があったんですけれども、その材料系でも、ものを作るときに勘コツみたいなものがやっぱりあって、例えば乳鉢で混ぜるにしても、ああ、このポイントだみたいなことが往々にしてあります。そういったものが先ほどのビデオだと、何かその作業者の人を捉えたビデオカメラで捉えた映像の動きとかで、こことこことここがポイントだという感じで出ていたような気がしました。どこまで押さえられるのかというのをもしお分かりになればというか、感覚的でもいいんですけれども、教えていただければと思います。

【夏目徹先生】  将来的には、人工知能がもうそれこそブラックボックスを解くように、パラメータチューニングしていくことになると思うんですけれども、今、我々がやっている方法というのは、まずパラメータを出せる限り出して、適当な数字を放り込んでまず作業させてみます。

 次にやることは、いわゆる品質管理工学的な直交表みたいなものを使って、結果に一番大きく貢献するパラメータを上位3つ選んで、その3つを最適化したりするようなことを今はやっています。

 人間の上手な人というのを最初はビデオを映してやっていたんですけれども、全然違うことの方が多いんですよ。例えば、まだ公表はできないんですけれども、iPS細胞を非常に分化させる難しい細胞に分化させるということを人間の2倍の効率と、ばらつきを2分の1にすることができたんですけれども、そのとき最終的にロボットが見つけたパラメータというのは、教科書的には絶対やってはいけないというパラメータ、数字だったんですね。人間がやっているところが一番ばらつく。立ち上がるところでほとんどの作業者はしていたので、Aさんはできるけど、Bさんはできないということがあるのは当たり前だということが分かったりします。ですので、あんまり人間の経験、直観値の、直観的なものは入れずに、もう淡々と品質管理工学的な実験法ですね。

【髙尾委員】  実験計画法の直交法であらゆるものを出して、まず絞るということなんですね。

【夏目徹先生】  ええ。そうなんです。例えばピペットを粘度の高いマイクロピペッティングをするときに、人間というのは無意識のうちに手先が震えるのが嫌なので、接触させるんですね。接触させたらだめだということが分かったんですけれども、人間でも接触させずに入れるという人はいたんですよ。ところが、両者の成績を比較してみると、どうかというと、どっちもどっちなんですよ。要するに、人間には、アイデアとしては接触させない方がいいと分かっても、例えば先ほど出たように、垂直に上げなきゃいけないとかそういうことは自分はやっているつもりでも、人間というのはほとんどできていない。だから、たった一つのそんなマイクロピペッティング一つでも人間には最適化ができないんだということがよく分かるんですね。

【髙尾委員】  今の実験計画法でも、そのパラメータの中に垂直に上げる、何度で上げるというのも入れるとよいということですね。

【夏目徹先生】  というのを例えば思い付けばいいですよね。

【髙尾委員】  人が思い付けば。だから、そこが人のポイントなんですね。

【夏目徹先生】  ええ。そうですね。そこがまだ人頼りなところがあって、将来的には十分なデータが集まっていけば、これはAIがもう勝手にやってくれる世界になっていて、もっと大量のパラメータを1か月のうちに見つけてくれると。

【髙尾委員】  分かりました。ありがとうございます。

【中山主査】  どうぞ、関先生。

【関委員】  ヒューマノイド、大変おもしろいと思ったんですけれども、今回、バイオロジーに対する応用というのを主に語られていたと思うんですけれども、例えば私、無機材料の研究なんですけれども、そういった他分野への応用というのは考えておられるのかというのと、多分お薬を作るというのは費用対効果がすごく大きい分野だと思うんですけれども、例えば無機材料でももちろん何ができればどれぐらいの見返りがあるかというのは、市場規模にすごく差が分野によっていろいろあると思うんですけれども、具体的に費用対効果がちゃんとプラスになりそうな分野としてどういう分野をほかに展望として持たれているかというのを教えていただきたいと思います。

【夏目徹先生】  間違いなく化学合成マテリアルだと思います。ロボットは空気も必要ありませんし、湿度ゼロのところでも働きますし、光も必要ありませんので、例えば飛躍的にいろんな効率が上げられるんだというふうに思います。

 何でライフサイエンスかというと、先ほどお話ししたように、ライフサイエンス全般、バイオインダストリー含めて、非常に大きな価値が果たせるからということと、私はライフサイエンスの人間だったので、そこから手を付けたというだけで、特に深い理由はなくて、きちんとしたバリューが生まれる分野というのはほかにもたくさんあるというふうに思います。

【関委員】  ありがとうございます。

【中山主査】  その他。どうぞ。

【生越委員】  私、大阪大学の生越といいます。谷池先生に質問なんですけれども、これは途中で、これは途中でZiegler-Nattaの触媒を原型というか、基本的にZiegler-Nattaの触媒の改良をされていたということですか。あそこでやっていた作業というのは。

【谷池俊明先生】  まず最初の目的が、一般的な固体触媒が同じく複雑な構造を有することを想定した上で、その構造性能相関の解明の手段を示したかったというのが一つ。これによって、構造と性能がどういった機構で相関しているのかというのが分かっただけでなくて、せっかくモデルを作ったわけですから、工業的な実証をして初めて役に立つのかなと思いまして、それで実際に開発研究にも使っていると、こういうことになります。

【生越委員】  では、そうすると、でも、Zieglerの組み合わせでやっていくと、結局、マックス・プランクにパテントでパカッとお金を持っていかれるようなことになるのかなと思っていたんですけれども、そうはならないんですか。元素も変えて、やっていっておられるということですか。

【谷池俊明先生】  今、もともとの特許というのはかなり切れておりまして、日本も3社ほど強い触媒開発のグループがありまして、そこで出てきたパテントというのはそれぞれ有効で、それぞれが触媒を売られていますので、今はマックス・プランクが独占するというような状況にはなっていないです。中で新しいディスクリプターが出てきて、それで範囲を外せるような触媒というのが出てきてはおります。

【生越委員】  なるほど。でも、それはやっぱり元素をまたいでということにはなってこないんですか。

【谷池俊明先生】  特段元素をまたぐ必要はない場合もあります。

【生越委員】  ないわけですか。またいだ方がいいときもある?

【谷池俊明先生】  またいだ方がいいときも、計算科学の例ですと、これをまたいでいるものです。はい。あります。

【生越委員】  ありがとうございます。

【中山主査】  ありがとうございました。では、林さんの後で次のプレゼンとします。

【林委員】  夏目先生に2つ御質問させていただきたいんですが、このロボットを使ってやるときに、ある程度プロトコルが確立しているものにはすごく向いていて、ハイスループットにたくさん処理ができると思うんですけれども、微妙なカスタマイズみたいなものを実験の過程で必要になるところにもこういうロボットが使えるのかというのが1点と、あと、これは単純な興味なんですが、導入コストとかランニングコストはどのくらいなのかという2点教えてください。

【夏目徹先生】  微妙なパラメータをオプティマイズするというのはまさにヒューマノイドの真骨頂で、例えばピペットの角度とか回数とか強さ。それはもう強さも単に強さじゃなくて、加速度を変えたりとかですね。そういうところができるのがヒューマノイドロボットの一番のメリットだと思います。

 それで答えはよろしいですか。

【林委員】  最初にプロトコルを設定して、遠隔でもできますという話だったんですけれども、そのプロトコルは一回一巡してみないとそれが最初にセットするプロトコルとして最適だったかどうかというのが分からないものですけど。

【夏目徹先生】  分からないですよね。はい。

【林委員】  それを、プロトコルの最適化がセットされるまでにどのくらい期間を要するのでしょうか。

【夏目徹先生】  例えば慶應大学の事例は、あの3つのパラメータをオプティマイズしたらいいんじゃないかということを見つけて、なおかつ、オプティマイゼーションするのに大体1週間ぐらいですね。それから、ピペットのqPCRのマイクロピペッティングみたいなところを、パラメータをオプティマイズするのは一晩ですね。それから、非常に長い実験の掛かる、例えばクロマチン沈降みたいな、23時間にも及ぶみたいなものはやっぱり数か月掛かったりはします。

 ただ、基本的に人間はそこに張り付いている必要がないので、その間、研究者は生産的な作業ができますから。あとは一旦オプティマイゼーションを数か月掛けてしても、それはその場限りではなくて、お話ししたように、インターネットを介して、医科歯科大学でできたことが京大でもできる、東大でも理研でもできるというふうにどんどん作業されていきますよね。ですから、そこには時間とコストを掛けるバリューがあると。一つの研究室の中に囲い込まれることがないのであれば、非常に価値があるというふうに思います。

 それから、コストですが、一番残念なことは、あのロボットがまだ非常に高いということですね。それから、メンテナンスは、基本的に日本のロボットというのは、ああいうロボットが数百台、5年間、24時間休みなく動いて、1台たりともトラブルを起こさないというのが日本のロボットのすごいところですね。これこそが日本のロボットのすごいところで、基本的にメンテナンスフリー5年間と思っていただいて結構だと思います。

 実際に私も安川電機のこの手のロボットを使い始めて、関わり出して8年以上ですけれども、1回もロボット自体の不具合に出くわしたことはないです。これは日本ってすごいなというふうに思います。

 コストのところであのロボットが非常に高いと、買える人と買えない人の間に格差が生じて、我々が標榜するフラットなサイエンスと真逆を行くことになるんです。それが我々の非常に同じく悩みで、なので、今、我々はあのロボットを販売するのはやめて、ロボットシェアリングという形で、必要な場所にロボットを先にただで置かせていただいて、使った分だけお金を払っていただく。そういうようなビジネスを今、展開しようと思っています。

 九州大学、慶應大学、今度、筑波大などでも始まりますけれども、ビジネス的には黒字になりそうだというふうになっています。

【中山主査】  ありがとうございました。続きまして、後藤様より15分程度でプレゼンをよろしくお願いいたします。

【後藤真宏先生】  ありがとうございます。物質・材料研究機構のエネルギー・環境材料研究拠点の後藤と申します。よろしくお願いいたします。今日の私の話ですが、「コンビナトリアルテクノロジーとマテリアルズインフォマティックスの融合によるラボ改革」というタイトルで、少々情報提供させていただきたいと思います。

 現在、世界各国で高速な材料開発が求められております。私の分野でご説明いたしますと、地球環境の悪化が進行しており、その対策が重要課題となっております。そこで、これに供すべき高性能なエネルギー変換材料の創製が急務となっています。ただ、この材料創製において、どのような元素を用いても良いわけではなく、非常に過酷な制約があります。資料にございます通り、私が使用対象として着目しておりますのは、ユビキタス元素であり、かつ、無害な元素です。このように、環境に優しくて、かつ、地球に豊富に存在する元素を用いて、これに臨んでいかなければならないと考えております。また、地球環境が日々刻々と深刻化しておりますことから、非常に短期間でこれらのことを行わなければいけないという制約もあります。

 さて、我々が実際に世の中に出していく材料についてですが、使う原料としては原子となります。これは、たった100種類に満たない数のものしか存在しておりません。それらの中から、さらに先ほどのユビキタス元素かつ安全なものとの制限を加えて選択するとなりますと、使用可能な元素の数は更に大幅に少なくなります。そこで、実際に有益な材料を見出す時には、原子・物質・材料の3つの階層全てを総合して考える必要があります。次に、物質の階層の説明になりますが、使用可能な元素において、いろいろな元素の組み合わせ、さらに、結晶構造の最適化が重要となり、それらの中から最適なものをうまく見つけ出していく必要があります。

 現在のところ、既知物質では約15万種あり、その中のほとんどが二元系で約72%、三元系が10%、四元系が0.5%以下となっており、このぐらいの少ない材料しか今現在知られておりません。ですから、物質探索としてまだやることは沢山あります。

 それから、物質の組成、構造などが、決まりますと、今度は、それらを組み合わせて実際の材料を作る階層となります。例えば、ナノ構造、あるいは、ミクロン構造の違うものの組み合わせや、形状が違うもの、サイズが違うものの多種多様な組み合わせによって様々な機能の異なる材料が創製できます。これらは、材料プロセスの違いにより発現するものであり、このプロセス制御により、異なる無限の種類の材料を作り出すことができるわけです。

 現状の研究手法ですが、この物質探索については、理論科学分野の計算では、例えばCALPHADとか第一原理計算が有名ですが、これらの研究が非常に進んでおりまして、計算だけで物質の特性が予測可能となりつつあります。実験科学分野についても、コンビナトリアル実験手法が進んでおり、状態図作成とか単結晶の成長とXRDを組み合わせた実験が進められておりまして、現在、物質探索では、実験から計算へとシフトしていっており、まさに既存のマテリアルズインフォマティクスプロジェクトの対象領域であり、非常に進んだ領域へと進化してきております。

 一方、材料の物理化学特性については、計算もPhase Field法、有限要素法など、幾つかありますが、やはり従来の実験手法が中心であり、研究者の経験と勘に強く依存し、この材料階層の研究が一番時間の掛かるところであります。よって、この箇所が自動化とか高速化のニーズの一番多いところとなりますが、現在のマテリアルズインフォマティクスではまだ余り取り上げられるところまで至っていないというのが現状であります。

 私の研究は、ここを自動化して、材料創製に適用していこうとしています。材料開発を加速するための私の考え方は、資料にお示しした通りです。これが私の掲げているコンセプトです。まずどういった物質を探索すべきかという点は、先ほど申し上げましたが、計算による予測がかなり進んできております。それによって、こんな材料をやってみたらどうか? というものが候補として出てくるわけです。あとは長年の研究者の勘で、この辺が良い材料になるだろうという感覚がございまして、それらを物質の候補に掲げ、まずは、高速・自動化させた材料創製・探索が行なえるコンビナトリアル手法により、様々な材料の組み合わせ、結晶構造を変化させたものを作っていきます。この作ったものに対して、次に高速で構造解析、その他物性計測を行ない、得られたデータをデータベースの中に蓄積して、それを機械学習によって解析させることで、次はどういったプロセス条件を設定すれば、自分の求める材料が見出せるのかを計算予測します。このループを早く繰り返すことによって、必要とする特性を有した材料を作っていきます。

 ここで、今日の話で一番重要であると強調したいのは、実験の再現性になります。仮に再現性がなかった場合でも、この解析によって、こういった構造、こういった組成を有した場合、このような物性が発現するという知見が単純に得られます。ところが、実際には、それらの評価した物性値だけで、この特性が決まっているとは限らず、やはり未知の部分が多く含まれています。この場合には幾ら解析して、次の材料候補の予測をしたとしても、他の作製手法で作製したら、その構造・組成を目指して作製しても、求める材料特性を再現できないことが多く、その他の様々な要素が含まれていることになります。これがまさに、多くのコンビナトリアル実験が、実材料への応用として進展していない要因となっているわけですね。

 私としては、もしこのプロセスが再現性のあるもの、つまり、私の場合ですと主に8個の成膜パラメータを動かしていますが、何回でも、例えば10回成膜しても全て同じものができるようにしておけば、その信頼性のある成膜パラメータにより作製した材料の諸物性を機械学習させることによって、目標とする材料特性を得るための最適な成膜パラメータが予測でき、次に、自動的にその成膜パラメータを設定して実験を行なうことにより、材料探索を極めて効率的に継続することができます。つまり、その材料特性を決定する根幹にある物理的な要因が分からない研究段階であっても最適な材料を作り出すことができることが特徴です。

 もちろん最終的には、その物性と構造に加えて、その他の物性評価を追加したり、あるいは、成膜パラメータとの相関関係なども解析して、実はこういう物理要因によって必要とされる物性が得られていたということが明らかになります。このような、物理的な要因が決められない段階でも実験の再現性が確保されれば材料探索ができるわけです。このように、再現性が非常に重要です。

 さて、今この分野が海外ではどうなっているかといいますと、アメリカなどはそれぞれのラボが特徴ある物性評価手法を有しておりまして、コンビナトリアル手法で作製した材料を各機関に回していって評価し、いろいろなデータを国ぐるみで、あるいは、ヨーロッパなども絡めて取得することを行なっています。

 ところが、主に状態図の作製が中心で、物質探索の方に重点が置かれているわけですね。つまり、実材料の探索まではなかなか進んでいない。一方、中国の方ではプロジェクトタイトルに「Materials Genomic Engineering」となっております通り、材料作製までをハイスループットで目指しているというところが大きく違いまして、常に大きな予算がついております。資料の上に示す予算ですと15.44億ですから、日本円に換算しますと大体260億円になります。次の予算だと90億円とかが充当されており、非常に大型の予算と人的資源があてがわれています。

 こういった世界状況に立ち向かうべく、私が材料探索に用いている、一番核になる装置を一つ、今日はご紹介したいと思っております。この装置は、2001年から私が開発を手がけておりまして、非常に早い段階で人工知能やデータベースを組み合わせようと言っていたのですけど(参考:学振151依頼講演資料)、なかなかそういう時代が来なくて実現できておりませんでした。まさに今、機が熟し、これを実現することができるチャンスが到来しております。現在、当該装置は、全自動での材料作製・評価に加えて、新たに作製するサンプルの成膜パラメータのAIによる自動推測・設定機能を追加中でありまして、これが完成すればAIによる材料探索ロボットとして機能し、さらなる新規機能性材料探索効率の向上が見込まれております。

 さて、この装置の概要ですが、この1台で広範囲の材料探索からデバイス化までをやってしまうというものです。計算とか、従来のコンビナトリアル技術ではある程度の材料探索ができますが、私が目指しているのは、探索に加えて、デバイス化までを1台の装置でやってしまうものです。しかも、再現性よく、ナノ構造も制御するという欲張りな装置になっております。

 では、どういう装置であるか具体的に申し上げますと、私が使っておりますのは、スパッタ法という、ガスイオンで原料をたたいて飛び出させて膜を作るという方法です。真空装置内部には、あらかじめ、多くのサンプルが入っておりまして、一つのサンプルが作製されると、自動でサンプルホルダーが回転して次のサンプルに交換し、成膜パラメータを次々に変化させながら、必要とするサンプルを自動で作るというコンセプトの装置です。

 ここで、この装置の持っている代表的なモードは、3つあります。1番目は物質探索モードです。これは従来のコンビナトリアルに非常に近いものですが、そのコンビナトリアル材料作製効率を少しだけ向上させているものです。1回の実験で、例えば3元素の分布が場所ごとに違うものを、アドレスが付けられた基板の上に作製させまして、その物性値、組成、結晶構造などをマッピングで取得し、どのあたりの組成、結晶構造のときに自分が求めているベストの特性を有した材料ができるのかを、おおよその当たりを付けるモードです。逆に、この欠点は何かといいますと、最適な材料の点が判明した場合に、これをもう一回同様に作りたいと考えても、再現性が得られなかったり、この良好な点の材料だけを基板全面に作ろうと思っても、条件が異なるためにそれを作り出すためには、新たに仕切りなおして別の実験をしなければいけない(できるかも解らない)ということで、このモードは、広く材料探索するには非常に向きますが、私が目標に掲げている材料の応用というところまではなかなかつながりにくい。

 2番目の薄膜作製モードは、これが私のオリジナル性の高いモードなのですが、一つ一つのサンプルの設置場所において、基板全面に成膜パラメータの違うものを順番に全自動でロボットが作っていきます。モード1と比べると、サンプル量、作製効率は下がりますが、試料一つ一つがそのまま実用化に繋がる膜ができてくるという利点があります。また、ナノ構造も最適化することが可能であり、例えば超格子、あるいは、ナノ粒子を材料の中に入れるなどのナノ構造も作り出すことができるモードです。

 いざ、この作製条件が良いとなりますと、今度は、3番目のデバイス作製モードを用います。このモードでは、サンプルだけでなく色々なパターンの複数のマスクも自由に自動で選択することができ、好きなパターンを好きな順番に使い成膜することができ、デバイスの作製ができる。これらの3モードが当該装置には含まれています。

実際の装置は、このようになっております。この部分に見える番号を振ってある板の上に複数のサンプルが固定されています。サンプルの下には、一箇所だけ穴が開いている大きなマスクが設置されており、1か所だけ成膜されるようになっております。この成膜部のサンプルは、温度を変えることもできます。サンプルの温度を例えば1,000度に上げたとしましょう。他のサンプルの部分は、水冷を行なっていて、この場合でも大体75度までしか昇温されず、加熱中のサンプルの影響を受けません。このように、基板温度の効果、ガス圧など、様々な成膜パラメータが8個制御できます。制御部には成膜用のレシピが用意されておりまして、あらかじめ、レシピ中に、こういったパラメータで1番を作り、次に、別のパラメータを設定し2番を作れと記述しておき、最終的にスタートボタンを押しますと、全自動でこのロボットが各条件の膜を作ってくれます。

 最後にデバイス作製モードの詳細をご説明いたします。サンプルと一箇所だけ穴が開いている大きなマスクとの間に、様々な形状の複数のマスクが設置されていまして、それも回転して、何番目のマスクでこのサンプルを作って、また、何番目のマスクで次の成膜を行なうというようにしてデバイスを作製いたします。

 また、さらに別のモードも紹介しますと、小さな穴の開いた移動式のマスクを使用し、あるレシピ条件のものをこの基板上の小さな領域にまず作製する。また次に、少し場所を変えて、次のレシピ条件で作っていくものです。このモードでは、条件を変えた多くのサンプルを一つの基板上に作り出すことができます。なぜ小さな基板に作製しなければいけないかといいますと、材料評価するための各種マッピングの装置が、大きな測定エリアを対象としていないものが多いためです。こういった小さな領域にコンパクトにコンビナトリアルサンプルを作るということも重要となります。ここで重要なのは、このモードは、従来のコンビナトリアル手法と違って、再現性があるということです。理由は、一つの材料作製点が、一つのレシピ条件に対応していますので、例えばこの点の材料性能が良かったと判明すれば、このマスクを除くだけで良好な性能の材料を基板全面に作製できます。つまり、第2の成膜モードと同様に、このモードでも、ベストな点が見つかれば、そのまま実用化に近づけることができます。

 さて、私がご紹介した装置で実際にラボの材料研究に本当に役立つのか、実績がこれまで出ているのかについてですが、時間がありませんので、一部の成果だけになりますが、お見せしたいと思います。

 一つは、断熱材料です。熱の流れを抑制するものです。もちろん、応用としては熱機関のエネルギー効率を上げたりとか、その他様々な用途があるのですけれども、目的はナノ構造と界面熱抵抗を利用して、極低熱伝導率を実現できないかということで試みた例であります。

 まずは、マテリアルズインフォマティクスの力を使います。これは機械学習によって、候補の物質、どういった元素とどういった元素を組み合わせると熱伝導率が下がるかという候補材料をざっとデータベースとシミュレーションとを組み合わせて探査し、求めるわけです。そうすると、候補材料が順番に出てきまして、このあたりの材料を狙おうという戦略がまずこれで立てられます。

 次に、先ほど申し上げましたコンビナトリアルスパッタコーティング装置を使って、実際にナノ構造をいろいろ変えながら材料を作って熱伝導率を評価するという、ルーチンを繰り返すわけです。その結果、材料内部に分散させた結晶粒の大きさを成膜パラメータを制御することで順次変えることに成功いたしました。具体的な例はアモルファスシリコンの中にビスマスの結晶の粒が均等に分散しているものなどとなります。このデータを見ていただくと分かりますが、こちらが、これまでに世界で実施されてきた断熱材料のデータです。グラフの上部になりますと熱伝導率が高くなり、下部になればなるほど断熱性能が高いことになりますが、今回得られた結果は、ここに示した通り、世界で最低の熱伝導率を有する材料が得られていることが解ります。つまり、マテリアルズインフォマティクスとコンビナトリアル技術を活用しますと、こういう世界で初めての特性を有数する材料も非常に効率よく、短期間で作り出すことに成功しているという実績を示しております。

 次の適用先ですが、先ほど省エネルギーという点でトライボロジー材料もエネルギーの問題では重要だと言いました。そのトライボロジー材料探索例がこれです。少ない荷重から、徐々に連続で荷重を高くして摺動させた場合に、その摺動部分の結晶配向が連続で変わります。この原理を利用して、この変化した結晶配向と摩擦特性を評価しますと、どういった結晶配向になると摩擦力が下がるかという情報が、一回の実験で分かります。最適な結晶配向の知見が得られれば、先ほどの薄膜モードを活用し、成膜パラメータ制御により、結晶配向を連続で変えるという実験が可能です。これらのアプローチにより、低摩擦特性を有する結晶配向について特異点があることが発見されました。

 この発見された低摩擦材料を使いますと、また同じ装置で、今度は平面ではなく、球に低摩擦特性を付与することができました。それを、ベアリングとして構築したら、摩擦係数を通常の市販のベアリングの約3分の2以下にすることに成功しました。今までの長年の蓄積で、ベアリングは既に性能がほぼ最適化されていましたから、それを更に3分の2以下に下げることに成功したわけですから、新規低摩擦材料の発見としてはインパクトがあります。

 そして、それを今度は、この低摩擦化したベアリングをマイクロガスタービンに2つ組み込んで、燃費の性能を測定したところ、通常のベアリングの場合と比較して、燃費を1%削減することに成功しました。さらに、最終的には、企業と連携して、災害用に使う小型の発電機への応用まで実現しております。つまり、ナノの領域で見つけた組成・構造を探索して、良好な材料を発見し、次にデバイス化して、さらには実用化するということを非常に短期間で行うことができることを示した結果です。

 3番目の例ですが、今度は熱電変換ですね。熱から電気を作り出す研究例です。資料は当方のコンビナトリアル実験を熱電材料研究に適用した1回目のものです。Bismuth tellurideというのはこの分野では一番代表的な材料ですけれども、これに適用した実施例となります。スパッタ成膜時の印加電力をパラメータとして変えてみた例です。さきほどの装置を用いて全自動でパラメータを変化させて成膜を行ってみますと、結晶構造と配向が連続で変わるということが分かりました。その結果、印加電圧が低い点では、はじめn型ですけれども、印加電圧の上昇に伴って熱電性能の最適点が出てくることが分かりました。また、続けて電圧を上昇させると、あるところでp型に変わり、さらに、最適な熱電性能を有する点も実験で明らかになりました。もし、このような実験を、ロボットが行ないますと、容易に最適な点が見つかるわけです。後で様々な観点から解析を進めましたところ、性能が向上した物理的な要因が判明しました。それで論文を書けるわけなんですけれども、もし、そういう原因が分からなかったとしても、ロボットで最適な材料を見つけ出すことはできるわけです。

 一旦、最適条件が発見されますと、ここですね。ちょっと見にくいのですが、まず先ほどのマスクの1番を使って、p型だけを作ります。次に、マスクを変えてn型を作って、最後に、さらに次のマスクで電極を付けていくと、自動でデバイスの素子が作製できるところまで行なえます。

 それから、もう一つの熱電材料のコンビナトリアル実験例ですが、熱電変換の材料を最初に基板上に作っておいて、一方を加熱しておいて、同時にもう片方を冷却します。そうしますと、材料の温度が連続して変化します。つまり、アニーリングの効果がサンプルの場所ごとに連続して変わるわけです。マイクロポイントXRDで、その部分の結晶構造変化を解析し、その同じ場所の熱電特性もマッピングデータ取得し、総合的に解析いたしますと、ある特定の結晶構造のときに熱電特性が良好になるといった情報を得ることができます。

 資料を見ていただきますと、熱電変換の性能を現すZTが書かれていますが、ここが性能の良好なサンプルポイントであることがわかります。反対に、こっちはあんまりよくないぞと。時間の関係で詳細は説明できませんが、なぜ性能が良いのかを解析しますと、こういった結晶構造の時に、良いよというのが分かってきて、次の目指すべき材料探索に資することができるわけです。

 時間が短かったので、研究のほんの一部しかお話しできませんでしたが、私のところではコンビナトリアルテクノロジーとマテリアルズインフォマティクスの融合によってラボ改革を推進しておりまして、あらゆる分野の新材料を短期間で見出すことを可能としております。

 以上です。

【中山主査】  どうもありがとうございました。

 続きまして、一杉先生、よろしくお願いします。

【一杉委員】  一杉です。すでに3名の講演者がすばらしい、かつ、ポイントを突いたことを話されましたので、私がしゃべることがもう無いように思いました。そこでどうしようかと考え、今日のお三方の議論の中に入っていなかったことに重点をシフトして話そうと思っています。

 今回お話しするような、ロボット・人工知能や機械学習を導入して研究を進めるという話を、何名かの先生に話をしたことがあります。その時に、先生方がどのような反応をされたかということから話をはじめようと思います。もちろん多くの先生は、非常に良い取り組みだと言われますが、かなりの割合で、そのような取り組みによって、「学生の考える力」が失われるのではないかと、批判的に受け止められてしまいます。

 さきほど谷池さんがおっしゃっていたように、根性と気合いというのは、確かにある程度そのような気持ちがないと、物質の感覚といいますか、ものづくりの感覚というものがつかめません。今回紹介する話は、そのような根性と気合いの要素が少ないので物質観・化学観の涵養につながらず、「大学では人工知能やロボットの活用はだめだ」という捉え方をされてしまうことがしばしばあります。

そのような意見に対して、そうではないという話を、本日の話の骨子の一つにしたいと思います。それから、もう一つ、「ロボットや人工知能を導入する効果の本質は何か」を考えていこうと思います。僕自身も考えながら話していきます。

 つい最近、卒論が終わりました。これは卒論生達の写真です。こちらは留学生で、非常に頑張っています。見ていただきたいのは、このすごく良い笑顔。この卒論生も非常に良い笑顔ですね。このような真空搬送器具に試料を入れ、大学キャンパス内の実験装置に運ぶために走り回って研究を進めています。この彼はグローブボックスと友達で、一生懸命実験を進めています。これは学生さんがすごいいい目をして研究をしているなと思って、写真を撮りました。これからの日本は、とにかく「学生さんこそ宝」でしょう。重要なことは、ここでお見せした卒論生や若い方々が、科学や技術をどのように発展させていくのかということです。彼らにどのような教育を提供して、どのような世界を作っていくか。そこに今回の人工知能やロボットがどう貢献できるのか、そのようなところを考えていきたいと思います。

 「研究者のCreativityを増すためにAI/ロボットを活用し、高速に研究を進める」。もちろんそれは大賛成ですが、大学に所属する我々としては、「教育」という観点での問題意識があります。

 この図は横軸に時間を、縦軸に生産性を描いています。研究の場合、もちろん最初はどんどん学んで、吸収して、急成長します。したがって、習熟度曲線は急激に上がっていきます。このように楽しくて仕方ない時期がありますが、それを過ぎると習熟度曲線の傾きが小さくなり、寝てきます。長期間、一つのテーマの研究を続けているとこのように寝た状態になってしまいます。多くの学生さんはこの状態になっていることでしょう。この領域こそが気合いと根性で、「その苦労が物質観なり、化学観なり、研究者の勘どころに転化する」というが通説です。それらをつかむために必要な修行期間だということになっています。しかし、これからはそれではだめで、習熟度曲線が寝てきたときには、また新しいことに取り組んでまたどんどんと学び続けなければならないと思います。ただ、新しいことに取り組むときに、何が問題かというと、単純作業に時間を取られていて、新しいことができないということです。したがって、その単純作業となってきた部分はロボットにお任せして、我々はもっと付加価値が高い仕事にシフトする。そのようにして研究を進めなければならないと思っています。

 最適化に要する時間の短縮は非常に重要なことで、それによって生まれた時間を「さらにCreativeな仕事」に使っていく。それこそが人材育成の新しい方向ではないかと思っています。

 とにかく狙いどころは、「研究者がCreativityの発揮すること」です。そして、人工知能やロボットの導入の本質は何かというと、「探索空間の拡大」だと思います。我々が今まで探索した物質は、すべての物質のうちほんの一部と認識しています。すばらしい特性を持つ物質を探したいわけですが、探索している物質数がほんの少しだったら、目標とする物質はなかなか見つからない。したがって探索空間を非常に大きくする、つまりこれまで合成していなかった領域に存在する物質にアプローチするというのが、人工知能やロボットを使う意義だと思います。単なる自動化ではありません。

 このような流れは以前からあり、先ほどもコンビナトリアル合成の話がありました。特に私の場合は無機材料の研究者ですので、無機材料に焦点を絞って話します。過去にこの方針に則ったJST-CRESTプロジェクトがありました。ただ、残念ながら、無機合成分野でコンビナトリアル合成を取り入れている大学研究者は現在少ないのが実情です。

 いろいろな方に取材をした結果、企業はコンビナトリアル合成を取り入れ始めているという認識をもっています。この手法についてもう一回復習すると、様々な組成や合成条件の試料を一度に合成するということです。それを請け負う企業が日米欧で立ち上がっています。例えば日本でしたらコメット、アメリカではintermolecular、欧州だったらイリカという会社です。そのような会社が存在するということは、コンビナトリアル合成技術を取り入れて高速に研究を進めることは、企業レベルでは受け入れられ始めていると判断します。専門企業がアウトソースで請け負うモデルが立ち上がってきたと考えてよいと思います。先ほどアウトソーシングでやってらっしゃるという話があったと思いますが、そのとおりで、それに無機材料のコンビナトリアル合成も入っているかと思います。

 それから、この流れに、ハイスループット計測技術を融合させていくことが重要です。融合させる利点は、我々がサンプル提供したら、短期間で試料を評価してくれるということです。前回でしたでしょうか、日本分析機器工業会の講演では、様々な分析機器でデータフォーマットを揃え、物性の相関を解析しやすくするという話しがありました。そのような時代になってきているので、コンビナトリアル合成と組み合わせると、サンプルを提供したら、どんどんデータが出てきて、データが勝手に集まってくる仕組みが出来あがっていくと期待できます。

 データを集めるという観点では、合成プロセスとセットになっていることが重要で、良質な試料が不可欠です。研究室に加入したばかりの卒論生が作った試料と、ものづくりに習熟した修士2年生が作った試料では品質が大きく違います。それら試料から得た分析データをごちゃまぜにすることはできないから、成膜プロセスがきっちりと管理された試料と分析データとのセットが必要になってきます。そこでロボット合成やコンビナトリアル合成が非常に重要になってきて、そのプラットフォームを押さえていることが極めて重要になってくると思います。たとえばシリコンの単結晶の物性は信頼できるものがあります。それは非常に質が高い試料が確保できるからです。そのように高品質試料から得た物性値のデータベースを構築することが今後の課題です。

 それでは我々の取組について説明します。我々は現在、人工知能、機械学習、ロボットを駆使して材料研究に取り組もうとしています。今までのお三方の話と何が違うかといいますと、研究の一部分を高速化するのは当然として、頭で考えるところまで全てを人工知能/ロボットに任せるという点です。狙いとしては、日本の強いロボット技術に、マテリアルズインフォマティクス、IoT、センシング技術などを組み合わせ、「自ら考え、実験し、パブリッシュする」ロボット科学者を作ろうとしています。

 皆さんが実験を行うとき、どのように考えていくかを整理しましょう。皆さん、ものづくり、つまり物質合成を行うときに、最初に2つの合成パラメータを選び出しませんか。たとえば、薄膜合成では、基板温度と酸素分圧など。その二つの合成パラメータについて、3条件×3条件、あるいは3条件×4条件とマトリックス(マス目)を作って、物質合成と物性評価を行い、求める物質への近さに応じて、マル、バツを付けていくのだと思います。二重丸のところ、つまりそこが最適条件と判断し、次に3つ目の合成パラメータを入れていく。つまり、最初に見つけた二重丸周辺でチョロチョロッと材料を最適化する。そこで一番良いものができたら、さらに、四つ目のパラメータを変化させ、またチョロチョロッと最適化する。それでベストなものができたとします。しかし、その方法では、広大な探索空間の中の一部しか見ておらず、「最適化したつもり」になっているだけかもしれません。

 つまり、探索空間の中から見たら、ほんの少ししか探っていない。それ以外のところを探って成功したのが、端的に言うと、「セレンディピティ」ですね。考えてもみなかった実験条件でおもしろい物質が得られたということです。それを見逃しているのが現状だと思います。

 要するに、広大な探索空間の中から、組成も含めたベストな合成条件をいかに速く見つけ出すかということです。先ほどまでの議論に沿って言うと、いかに速く最適化するかということです。それから、論文にするためにはこのマトリックスを埋めていないと論文にできないので、マトリックスをいかに速く埋めるのかということもキーワードになります。

 スピード感としては、卒論生が1年間で行うことを1週間で実現するということです。高速化がもたらす教育面でのメリットは何かというと、こういうことです。卒論生が1年間かけて、たいてい装置を壊しながら、そして、それを修理することで多くのものを学び、一つの目的の試料を作る、この試料について物性測定してこういう結果を得ました、という卒論発表をします。今、まさにそんな感じですね。

 それが人工知能とロボットを使って、例えば4つも5つも試料を合成して、それらの物性を比較して、考察して、空いた時間にしっかりとさらに高度な解析もして卒論発表することを目指しています。そうなったらどのような教育効果がでるでしょうか。実験を高速化して、様々な材料・物質を作って、それらに直に触れて、そして、包括的・俯瞰的に材料達を見る。そうすると今までとは異なる化学観なり、合成勘が涵養されることでしょう。今までゴリゴリ、ゴリゴリ物質合成して何とか体得してきた合成勘なり化学観とは異なる、「新しい化学観」が学生さんに生まれるというのが一つポイントだと思います。

 我々のアプローチでは、ベイズ最適化を使います。狙う物性値を入力する、あるいは「物性を最大化せよ」と指令します。すると、コンピュータはベイズ最適化のアルゴリズムに従って、合成条件を指示します。その指示通りに自動的に薄膜合成し、その後、自動的に物性測定をします。物性測定をしたら、結果をコンピュータに返します。そしてベイズ最適化によって次の合成条件を指示します。ベイズ最適化は、人間の感覚に非常に似ています。過去の結果を考慮して、次の一手を予測してくれるアルゴリズムです。つまり、過去の薄膜合成条件とその結果を見て、次の最適合成条件を予測し、指示します。そのようにサイクルを回して、合成条件を最適化して最高の物性を示す物質を生み出します。

 ここで人間は大変重要な役割を果たします。最初にどの元素が必要なのかを考えるのは人間です。そこはまだ人間の力が必要です。全ての元素の原料を備えた合成装置は存在しないので。後藤さんのケースでも最初の原料は人間が決めていますよね。すると、物質観、合成勘をいかに早くつかむのかというのが、次の教育が向かうべき姿の一つだと思います。そのためにこのシステムを使うということです。

 狙いとしては、いち早く最適化して、最高の物性を示す物質を作り出すということです。そこから我々としては、その空いた時間を更に有効利用したいと思っています。今回のシステムを用いると、どのぐらい効果的なのでしょうか。これは数学的に分かっています。

 例を薄膜合成で示します。我々が薄膜合成する際には先述のように様々な合成パラメータがあります。例えば温度、基板温度、ガス圧などです。それらが合計5つあって、それぞれ4つの条件で試料を作ったとしましょう。そうすると、網羅的に調べるなら45回、すなわち1,024回の成膜が必要です。実際には1,024回も実験をせず、さきほどのように、とりあえず自分の経験と直観で選び出した2つ条件についてマトリックスを作り、そこから3つ目の要素を足していくというのが現実だと思います。

 このベイズ最適化を行うと、5%の誤差内で最適化を見つけるためにはたった15回でよいことが数学的にわかっています。非常に効率がよくなりますね。皆さんが指導している学生さんが学会発表するまであと15回しか実験する時間が無いとしたら、どうしますか。昔ながらのやり方で15回実験するか、ベイズ最適化を活用して15回で最適化するか。答えは明白だと思います。

 AI/ロボットはできますが、人間には到達できないことがあります。さきほどのように人間だったらマトリックスを作って最適化したつもりになっていたのですけれども、ベイズ最適化でしたら五次元空間内で一括して最適化できる点で人間を超えます。人間でしたら五次元空間の最適化は絶対できないですね。頭がこんがらがっちゃう。それをやってのけるのがベイズ最適化です。

 ということは、人間が到達できない領域にも探索が及び、探索空間が拡大しているということです。探索空間の拡大というのは、新たな物質を見つけられる可能性があり、思ってもない物質が出るということですね。

 「思いどおりに実験結果が出たら残念だと思え。予想外の結果が出たときがチャンスだと思え」といつも学生さんに言っています。要するに、この探索空間の中で予想外の物質が出てきたときに、それこそ本当かどうかと見分ける能力を持って、そしてそれが本当だったら、その新しい物質を使って、さらに新しい科学を展開していく。そのような展開が重要で、それはバイオインスパイアードという言葉で言い表されているように、AI/Robot-inspired Materials Scienceということですね。そういうところが非常に重要になってくるのではないかと思います。

 実際にベイズ最適化がどの程度使えるかを検証してみました。これは二次元マトリックスの場合で、水素分圧と成膜温度を振ってTiH2を作りました。3週間、学生さんが一生懸命実験しました。この赤いところが、評価結果が良かったところです(X線回折ピークが大きいところ)。まずシミュレーションで、実際にこの領域に到達できるかを調べてみました。最初、ベイズ最適化ではランダムに合成条件を選択します。その後推定していきます。すると、最適条件近くをすぐに見つけてくれます。非常に効果的だと思い、我々は実際に今、実験に取り入れようと計画しています。現在はまだシミュレーションだけです。

 そして、これは高速化だけではなくて、さらに発展していくでしょう。その点は最初の夏目さんの講演ですでに述べられているので省こうと思います。

 では、これからのナノテク・材料研究はどうなっていくのでしょうか。今までは家内制工業で学生さんが一子相伝で技術を受け継いで研究を進めていたと言って良いでしょう。でもそれではさっきのMAHOLOのロボットがあったら絶対負けちゃいますよね。ほかの国が装置を購入してどんどん研究を進めたら、もう日本としては非常につらい状況です。やはり日本が先導して本日お話ししたアプローチで進めていかねばならないと思っています。家内制工業からデータ大量生産時代に入ってくるのは確実です。

 最後にまとめると、今日の4つの話の中に共通する重要なことの一つは、「探索空間の拡大」だと思っています。ここが本質で、これで新しいチャンスが広がると。今まで、セレンディピティは偶然に頼っていたわけですが、きっちりと計画された、自分たちが直観で思っていたところではない領域を探索する世界に入っていくと思っています。

 ただ、研究者の勘というのは重要なので、これをいかにして涵養するかということが大学のミッションです。高速化できるということは、膨大な試料に触れて、化学観を涵養するとチャンスです。他国に先んじて、新しい物質観を手に入れるチャンスです。AI/Robot-driven material research、これにインスパイアされた材料研究が重要だと認識しています。

 さらなる発展に向けては、当然マテリアルズインフォマティクスの力をかりることが考えられます。こんな物質を作ればいいのではいかとマテリアルズインフォマティクスからサジェスチョンがあれば、本システムに入力し、自動で合成と評価まで完了します。その結果をまたマテリアルズインフォマティクスのデータとする。このサイクルが重要で、まさに人工知能・ロボットの出番です。

 あとはデータが集まる仕組み。これももう既に言われていたので、ビッグデータのためにはそういう仕組みが必要と思っているところです。

 以上で終わります。

【中山主査】  どうもありがとうございました。

 ここで議論に移りたいと思います。最初の2つに関しての議論、および全体に対しての議論でも結構です。よろしくお願いします。上杉先生、よろしくお願いします。

【上杉委員】  一杉先生のお話は、私はとても大切だと思うんです。自動化をする場合、自動化だけでは寂しいと思うんですよね。

【一杉委員】  はい。寂しいですね。

【上杉委員】  夏目先生は、自動化だけじゃなくて、最適化と言われた。先生の場合には教育にも有効であると。

【一杉委員】  大学でこのようなアプローチを採用する場合は、教育につなげなければならないと思います。

【上杉委員】  もう一つは、夏目先生が言われたのは、自動化すれば、格差も起こるんじゃないかという話がありましたね。実は格差というのは教育によって埋められると思うんです。ですから、自動化を教育に使えば、自動化で格差を埋められます。もちろんシェアリングの方法というのもあります。シェアリングも格差をなくす方法であって、教育は狭める方法だと思うんですね。例えば、私そういう経験が一つあります。テクノロジーは格差を生むと考えられています。私はMITが運営しているedxというインターネット教育機関を使って英語で化学の講義を提供しています。講義が自動化されて多くの人たちに教育をほどこせます。テクノロジーで格差を狭める方法があるのです。一つ確実な方法は教育です。だから、自動化を教育に使えば格差は狭まるというMITの考えに感銘を受けました。

 自動化をすることによって、夏目先生が言われた最適化とこの教育の両方できれば、これはすばらしい方法になるんじゃないかなと思いました。

【中山主査】  ありがとうございました。

【一杉委員】  シェアリングみたいなことは。

【上杉委員】  シェアリングもいいです。

【一杉委員】  シェアリングができるようになって、たとえば、京都から東工大のロボットシステムを遠隔操作して新しい材料が出てきたら、「アイディアは持っているけど、ものづくりの先端技術は持っていない」という研究者にとっても非常に良いと思うんですね。

【上杉委員】  そういう教育。

【一杉委員】  はい。教育にも良いと思います。使えると思います。

【中山主査】  その他ありますでしょうか。

【夏目徹先生】  済みません。少しコメントさせていただいてよろしいですか。

【中山主査】  よろしくお願いします。

【夏目徹先生】  教育という議論と少し外れるかもしれないんですが、例えば慶應大学でスクリーニングをロボットがやってくれると、学生さんというのはああいう作業を一番やりたくないので、化合物のスクリーニングというのはテーマにする学生さんがほとんどいなかったんですね。ところが、ロボットがやってくれると、実は自分たちの研究のシーズを生かして、創薬したいというマインドはすごくあったらしくて、学生さんが、我も我もとスクリーニングを自分の研究に取り入れるようになったという事例があります。

 あともう一つは、人材交流という点で、医科歯科大学でクロマチン沈降という、23時間も掛かって、ゲノムの世界で最もチャレンジングなプロトコルと言われているとプロトコルがあるんですけれども、それを浅原先生がすごく苦労して、それこそ数か月掛けてロボットに移したんですね。そうすると、臨床のデューティを持っている先生がたくさん研究に参加するようになった。臨床のデューティがあると、その1年とか習熟してできるかどうか分からないような実験を、臨床の研究者が取り入れることはできないんですけれども、ロボットがやってくれるのであれば、自分たちが病棟にいる間にロボットがやってくれれば、それを自分たちに取り入れられるということで、すごく臨床家と基礎研究の人材交流が活発になったとか、そういう事例もあって、その教育も含めて、やっぱり自動化というのはかなりポジティブなものがたくさんあると思います。

 我々は、例えば学生さんが、あるいは若い方が実験がうまくいかないと、もっと気合いを入れろとか、もっと集中しろとか、そんなすごいいいかげんなことしか言えないわけですね。何に対して集中するかもないわけで、まあ、ほとんど根性の世界ですけれども、ロボットにそのパラメータ探索みたいなのをさせて、では、人間もやってみましょうかというと、一律、学生さんとか若い方はみんな実験が上手になりますね。それは大変、実はロボットが教えてくれるというところはたくさんあるんじゃないかと思っています。

 すごく大切な考え方、人間とロボットの関係というのをきちんと整理して、ある意味、ロボットカルチャー、ロボット文化みたいなものを作らなきゃいけないと思うんですね。単なる置き換えではなくて、そこにどういう付加価値が生まれるか。それから、多分ほかの先生方もおっしゃっていたんですけれども、ロボットは、置き換えではなくて、自分の人間の機能拡張だというふうにきっちり捉えて、協働するものであるというふうにきちんとした、日本としてのロボット文化カルチャーというものを生み出すべきだと思うんですね。

 海外などの事例では、自動化すると、その研究者はすごいばっさり解雇されてしまう、研究者は解雇されてしまうと。導入したコストに対してどれだけのエフィシェンシーがあるかということをすぐ問われてしまうんですけれども、日本は違うんですと。付加価値を見るんです。研究者は労働から解放されるとより高付加価値なことができて、ロボットがたくさん再現性の高いデータを出したら、表現したり、論文を書いたり、プランニングしたり、仕事はどんどん増えて、それも創造的な仕事が増えていくんですと。

 だから、そういう枠組みをしっかり、何ていうんですか。枠組みとしてそういうものを作らなきゃいけないのかなというふうに思って、例えばどんどん自動化したからといって、基本的には機械失職がないように、例えばテクニシャンを解雇してはいけないとかそういうレギュレーションの側の働きも、仕組みもすごくこれから重要に、AI化していくということも含めて重要なんじゃないかなというふうに思います。

 

【一杉委員】  一つ補足してもよいでしょうか。

【中山主査】  どうぞ。

【一杉委員】  大学に今回のような技術を取り入れると、もう一つ期待できることがあります。化学・ナノテク・材料系の学生が、なるべく低学年の段階で、人工知能、機械学習、ロボット技術に触れた方がいいと思っています。例えば金融業では、人工知能や機械学習を活用してフィンテックと呼ばれる技術が生まれ、産業自体に大変革が起きています。自動車、化学や鉄鋼など、物質に近い産業も、人工知能、機械学習、ロボットを活用したら新しい産業ができると思っています。といいますか、そのような新産業を創成する若者を育成しなければならないと思います。そのために、なるべく早い段階で学生さんにそういう技術に触れてほしいと思って、積極的にナノテク・材料研究にこのような技術を取り入れています。ですから、ナノテク・材料研究に特化するわけではなく、新しいタイプの学生さんを育てることこそ重要です。その学生さんたちが産業界に行ったときにうまく活用してただけるようにする、というのが大学のミッションの一つだと思っています。

【中山主査】  ありがとうございました。

 磯谷局長。

【磯谷研究振興局長】  大変おもしろいサンプルと議論があって感銘をしたんですけど、今、一杉先生が言われたこととか、上杉先生などもまとめられたことと関係するんですけど、我々はとにかく資源は限られていて、一生懸命若い人に魅力ある環境作りみたいなことをやっていて、なかなか決め手がなくてですね。ここに書いてあるように、必ずしも昔ながらの教育が通用しないし、かつ、その研究開発のセンスを持つ学生が激減。また、入る方も大学に残る人が少ないみたいな状況の中で、今、先生方が議論されているような自動化と最適化とその教育とシェアリングみたいなキーワードで、研究室の生産革命みたいなことをするというのが、今、先生がまさにおっしゃったように、ほかの分野にも波及していくような話なので、これは是非進めたいと思うんですが、この政策を展開していくときに何か留意点みたいなのがもしあったら、ヒントだけでもいいですから、教えていただきたいということと、それから、個別の質問になっちゃうんですけど、後藤先生のあれの実績のマル2の「低摩擦材料」のところで、例えば広範囲探索からデバイス化まで一気通貫にやったので、大変研究開発がすごく短くなりましたという御発言されたんですけど、例えばの例でいいんですけど、今までだったらこのぐらいの、平均的な期間だったのが、これによってどのぐらいになったみたいなイメージがあったら頂きたいです。

【後藤真宏先生】 失礼します。まず本日ご紹介した低摩擦材料ですけれども、まず申し上げたい点は、他の低摩擦材料の作製時間の効率化という点で比べられないことがございます。それは、今回の低摩擦材料は、今まで全く低摩擦現象を発現すると思われてなかった材料が、このロボットによって結晶配向を連続的に変化させ、低摩擦になる特異点を発見することができたことです。これらの材料も先ほど申し上げましたように、ユビキタス材料で、一般的に毒性が少なくて存在量が多い元素で、その有用性が高い材料の中から、今まで摩擦係数が大きくて低摩擦材料としての利用を誰も考えられなかったものに対してロボットを活用し、低摩擦化を成功させたというもので、革新的なものと言えます。

 通常の材料の作製時間だけでご説明いたしますと、例えば、私が、最初研究所に入った当時、1つのサンプルをできるだけ再現性良く作ろうと思うと、高い真空環境まで時間をかけて真空排気する必要があります。この場合、サンプル1枚作るのに大体2日、3日かかります。それが、今回ご紹介した装置では、14枚のサンプルを一度に良好な真空環境を作り出すために3日ほど真空排気し、その後連続して14枚のサンプルを自動で作製することが可能です。この場合、サンプルごとの真空排気時間の大幅な短縮ができます。ロードロック方式のサンプル交換を行なったことも過去にはございましたが、サンプル交換時にゲートバルブ・試料室や搬送機構からガスが発生し、サンプル基板を汚すために再現性が得られにくくなることが明らかとなりました。このことが、現在私が、このような方式を最良としている理由の一つです。また、先ほどお話いたしました熱電材料のマッピング評価になりますと、一つの基板の上に大体2,000点の異なる材料評価点があり、その中で優れた材料を探索する実験を1回で行うことができるぐらいの効率化は望めます。

【磯谷研究振興局長】  ちょっと最初の質問が抽象的過ぎて、それは君たちが考えろと逆に言われるようなあれで。

【一杉委員】  留意点として、短い時間に浮かんだことを二つ述べさせていただきます。一つは、今回の手法が合う研究分野と、合わない研究分野があるということです。今回のような手法が適した研究分野では導入がはやく進みますので、最初は導入格差が出てしまうと思います。今日の話では、バイオ関連は導入しやすいのかなと思います。したがって、全研究分野の学生さんにベネフィットが行き渡るかというとそうではなく、導入できるところから順次導入するのが良いと思います。そこの温度差は許容しなければなりません。そして、予算が限られているので、導入できる研究分野の中で、まずはトップグループを引っ張り上げるという考え方で導入を進めるのが、現実だと思います。一律に導入するという施策ではうまくいかないと思います。

 それから、二つ目です。シェアリングが本当にできるようになれば、裾野が一気に広まってきます。日本のどこの大学からでもアイディアさえあれば、遠隔からものづくりができるようになります。そこまでできるようになれば、そのプラットフォームを確立し、世界展開すべきです。日本が先行しながらも海外にひっくり返されて・・・、というありがちなパターンにならないよう、戦略を十分に考えながらそのようなシェアリングプラットフォームを構築していかねばなりません。

【磯谷研究振興局長】  ありがとうございます。それで、今、大変また整理していただいてありがたかったんですけど、例えばナノテクプラットフォームみたいなことを今までやっているじゃないですか。あれみたいなところにそういう何か、大学の研究ラボの生産性を向上する。例えば、だから、一杉先生がやっておられるようなところ、夏目先生のやっておられるような、あるいはまた別のいろんなアイデアがあると思うので、それは大学だったり、国研だったりあり得ますよね。NIMSも多分それに近いことをやっておられる。それを幾つかやってみるみたいなのはありですかね。それともあんまりそういうふうに型にはめない方がいいんですかね。

【一杉委員】  それは二つ考え方があります。一つ目は、現状で企業のアウトソーシング先として、請け負う会社がすでに発展しているということは、ナノテクプラットフォームで専門能力のある人が装置を運営する環境があれば、信頼して依頼できると考えられます。さらに、ナノテクプラットフォームの強みである評価技術と組み合わせて、そこで合成した物質について、様々な物性評価も実施すれば,なお使いやすいものになるでしょう。その評価データも、ばらばらのデータフォーマットで出てくるのではなく、統一されて後で解析しやすい形だとなお良いでしょう。そのような環境も整えて、ものづくりと物性評価をセットにしていけば、より多くの人が使えるような環境になると思います。

 最初に二つと言いましたが、もう一つを忘れてしまいました。思い出したら後で言います。

【中山主査】  格差の話がありましたけど、多分ほかの国に先に走られたら、その国との格差ができますよね。もう一つ、トップグループはどこの国も使うでしょう。一杉先生みたいなトップグループも使うでしょう。でも、若手の研究者等がこういうものを有効に使える環境に、もし日本が先に整備をしたら、それは勝てますよね。どのようにそれをやっていくか。一つの有力な手段はシェアリングだと思いますし、どのように低コストで使って、持続可能なようにして、たくさん蒔いていくか。その最初のきっかけをどうやって政策的にやるかというところですね。勝つためにどうするか。逆に言うと、やらないと負けてしまいます。そこで、最初に夏目さんが言われたように、まだ他国がそこまで行っていないということであるならば、やるべきでしょう。過去を見れば、コンビナトリアルは明らかに我が国が先行していましたよね。今はちょっと分からないですけど、このようなことをどうしようかということかなと思います。

 どうぞ。

【内藤委員】  まさにそのとおりだと思うんですけど、例えばNIMSでもしそのシェアリングをするとしたら、どうなんでしょう。可能でしょうか。今の後藤さんの持っている装置を。

【後藤真宏先生】  そうです。先生のおっしゃるとおりでして、NIMSで例えばこの装置をそういう共通設備として導入することが仮にできれば、さらに、どういった物性の評価が必要なのかをユーザーの方に聞いて、それを自動で評価できる装置も開発します。そして、そのデータをユーザーにお渡しして考察していただき、その結果に基づいて次の探索すべき材料を考えるというようなプロセスが可能となれば、かなり材料開発が加速すると思われます。その理由は、私、最初NIMSに入ったときには効率の悪い成膜装置で実験を行なっていて、このままのスタイルで実験を続けて行くと、自分の今後の研究生命を数えたら、人生で実施できる実験というのは本当に限られるとわかってぞっとしたんですよ。それがこの装置を作るきっかけになりまして、実は今この装置1台を使っているのは私とポスドクの2名ですけども、研究テーマは13ほど行なっています。これが何とか行なえる理由は、まさに、この装置があるからですね。だから、そういう形でこれを1台共通設備に導入する、もしくは、何台か複数台導入してもらうことで研究者皆でシェアすれば材料探索効率は向上すると思います。ゆくゆくは、他の分野の方も、まずはこの装置を使って材料スクリーニングを行なうということになったら良いと思います。この有用性に気づいていただければ、複数台の導入可能性はあると思うんですよね。

【内藤委員】  分かりました。

【一杉委員】  先ほど述べようとしたことを思い出しました。

【磯谷研究振興局長】  思い出した。そうですか。

【一杉委員】  今の議論で思い出しました。それは、研究者にも志向があって、シェアリング装置を使いたい人と、「俺の物質・材料は自分の装置で作りたい」という人がいるということです。このバランスですね。全研究者がシェアリングの方向に向かうというと絶対そうではなくて、自分なりのこだわりを持ってものづくりしている研究者も大切にしなければなりません。自分たちのノウハウをつぎ込んだ高性能物質合成装置への投資も大切にして、シェアリング型装置とのバランスをとれば、研究者コミュニティが応援したくなる政策になると思います。シェアリング装置ばかりになってしまうとそれはそれでよくないので、バランスだと思います。

【中山主査】  こういうので、先ほどの谷池先生からインフォマティクスのお話がありましたよね。インフォマティクスと、こういうのというのはかなり接近していて、より生産性が上がる方向に行くと思います。我が国でまだまだ足りていないと思うのは、みんながデータを持ち寄るところだと思うのですが、そういうことに関しては進んでいるのでしょうか。あるいは谷池先生のところはやっぱり自分のところで閉じてやっているのか。

【谷池俊明先生】  ちょっとずれているかもしれないんですけれども、私、いろいろ企業さんと共同研究をして、インフォマティクス、あるいは人工知能に対する興味はすごく今高くて、ただ、基本的なデータ、基本的な材料すらそろった形式でデータを取れてなくて、新しくそれを何十年間分の蓄積をやり直さないといけない状況になっていて、そうしたときに、どうしようといったときに、本当は、まずインフォマティクスとかAIに頼るのではなくて、まずは自分たちのプロトコルを1回見直して、スループットを最大限上げることができて、それで自家製のデータをそろえて、ようやく人工知能とかインフォマティクスなのかなと思っているのですけれども、なかなかそういう考え方をできる人がいなくて、今までずっとやってきた試験法を変えたくないと、こういったところで、まず人の部分がすごく思考停止しちゃっているような方が多いので、ここを何とかしないといかんなとは思っています。それがあってインフォマティクスは役に立つかなと思います。

【中山主査】  おっしゃるとおりです。第一次コンビナトリアルのときも、コンビナトリアルなんかは邪道みたいな感じになっていましたよね。でも、本当はそこが本質だったのだと思います。

【一杉委員】  今でも僕は、人工知能やロボットを活用すると言うと、機械任せにしたら学生が育たないからだめだと言われてしまいますよね。

【中山主査】  ですよね。でも、そんなことしていると早晩負けちゃいますよね。

【一杉委員】  はい。非常にまずいなと思います。だから本日、人工知能やロボットを活用すると、新たな物質観、化学観が涵養できるということを主張しました。

【中山主査】  そのほかありますか。参事官、どうぞ。

【齊藤参事官】  ナノテクノロジープラットフォームでやるとか、そのシェアリングの大ロボットセンターを作るみたいなところで、これは主に夏目先生にお聞きするのかなと思いますけど、そのオペレーションと言うんですかね。その技術支援の要員、人材育成みたいなものには課題、問題はあるんでしょうか。

【夏目徹先生】  いや、申し上げようかなと思ったんですけども、多分しばらくの間は、自分のプロトコルをロボットに移すというところのエキスパートというか、それが得意な人たちという職種は必要だと思いますし、その人材教育は必要だと思います。できれば我々もそういうことをしたいなとは思っているんですけれども、それが1点ですね。

 それから、他の先生方、何かありますか。よろしいですか。

 あと、先ほどちょっと政策のお話が出ましたけれども、まだまだ日本はロボットもあるし、アイデアとしてはそんなに遅れていないというふうに申し上げたんですけれども、実は今、我々が一番脅威に思っている会社は、やっぱり西海岸にザイマジェンという会社がありまして、やっぱりラボラトリーオートメーション。特にシンセテックバイオロジーのオートメーションをするという会社なんですけど、実はソフトバンクの孫さんがこの会社に150億も投資してしまったので、国策としてされる場合は相当急いでやらないと、我々のこのこしているとザイマジェンにパクッと買われちゃうんだろうなというふうに思っています。

【中山主査】  孫さんは夏目さんのところに投資してくれないのですかね。そういう感じじゃないのでしょうか。

【夏目徹先生】  情報が行っているかどうかはよく分かりませんけど、してはもらえません。孫さんの弟さんがやっているMistletoeなんかも検討はしてくれたんですけれども、まあ、あんまりライフサイエンスには興味がないという感じでしたね。はい。

【中山主査】  ザイマジェンというのはライフサイエンスなんですよね。

【夏目徹先生】  要するに、微生物の遺伝子の改変して、いろいろ物質を作らせるというところをアウトソーシング、受託して、オートメーション化する会社ですね。まあ、スパイバーみたいなああいう、遺伝子を何か取って、それをいろんなものを作らせるみたいなところも含めて、そういうことをやっている会社のようです。あんまり情報がないので、我々も調べようと思っているんですけど。

【中山主査】  どうぞ。よろしくお願いします。

【生越委員】  今日ずっとお話を聞いてて、今、方向がすごく盛り上がっているとは思うんですけれども、でも、基本的にどの、何ていうんですかね。一気通貫というのであっても、それを全部全自動でやるのであっても、そのオリジナルの反応、あるいはオリジナルの手法というのはある程度確立されていて、こういうふうにしたらいいよねというのが分かった上で、それをより効率的にするという部分に向かってのお話だったと思うんですよね。

 そうじゃなくて、不連続な部分が多分どの分野にも一番最初にあったと思うんですけれども、そこの部分に対しての、今日はそういうお話ではない会のような感じはしているんですけれども、ただ、政策的にと言うのであれば、ゼロイチの部分に対してもやはり同じような。ただし、これを知ってゼロイチをするのと、しないのででは大きな差が出てくるとは思うんですけれども、やはりそこの部分に対しても等しく新しい芽が出てくるように考えていただけたらなというふうに私自身は思います。コメントになりましたけれど。

【中山主査】  ありがとうございました。

 その他ありますでしょうか。どうぞ、林さん。

【林委員】  先ほどの政策的にというところでいきますと、私も企業の方々といろいろ話をしているときに、経営層の方々が、何かAIってすごいらしいけど、これで一体何ができるんだ? というのを社内で下の方々に問い掛けをするそうです。私が日頃お付き合いしているのはバイオ系の企業の方々なんですけれども、その方々ですら、どうすればいいのか分からなくて、やはり研究者の先生方に相談に行くというようなサイクルになっているというふうに聞いています。

 材料の世界でももしかしたら同じようなことがあるのではないかというふうに考えられて、この環境をきちんと、こういうロボティクスであるとか、AIというものを取り込んで、非常に多くのアイデアや知見をどんどん出しながら人材も育成し、材料の業界、企業の側に対してたくさんの提案を出せるようになっていくというのは、文科省さんの政策として非常にいい形になるのではないかなというふうに思いました。

【中山主査】  ありがとうございます。

 その他ありますでしょうか。どうぞ。

【井上委員】  一杉先生の御意見がすごくいいなと思ったんですけど、こういうロボットとか、そういうAIとか使って、すごく便利なのはいいんですけど、こういったものというのはやっぱり、途中の話もありましたけど、先ほど脅威という話もありましたけど、結局、装置産業になってしまうんですよね。そうなるとやっぱり日本というのはどうしても資源がないので負けざるを得ないんですけど、どうやってそれを使って教育していくか、人を育てるか、そこの部分をちゃんと設計した方がいいのかなというふうには思いましたね。

 道具はあると。いろんな道具はある。なんですけど、どうやって人を育てていけばいいのかという、そこら辺のアイデアというのは何かありますか。

【一杉委員】  途中聞き取れなかったので、もう一回質問を繰り返すと、最初のところは、最初、装置産業のように思えますと、そこと教育のところが聞こえなかったのでもう一度お願いします。

【井上委員】  済みません。装置産業になってしまうので、それだけだと、やっぱり日本は勝ち切れないように見えるんですね。なので、そこはやっぱり日本の固有のというか、日本人固有の資質を生かしたところに行くのかなということで、やっぱり教育が非常に重要になってくるんだろうなと、こういったものを使いこなして、更に次のものを見つけていくような人材をどういった形で。まあ、使えば生まれるだろうというように聞こえたんですけど、本当にそれだけでいいのかなというのがよく分からなくて。

【一杉委員】  ビジネスと教育の2つの観点でお答えします。まず装置産業になるのは絶対に避けなければなりません。日本の産業が今まで繰り返してきたことで、おっしゃるように勝ち切れません。それを回避するにはやっぱりソフトウエアと、データを押さえるということですよね。ですから、最初に夏目さんの話があったように、やはりデータを集めるシステムが重要です。僕らのところも、この装置で作ったデータを全部サーバーにアップロードして、データを集めるような仕組みを作ろうとしています。要するに、こういうプラットフォームを使って、これを導入した人は、そこのデータを使えるようにする。過去にある実験を行って失敗したのだったら、そういう事実が分かるような、あるいはすでに合成されているのだったらそのレシピが分かるような、そういう情報自体が売りになるようにしなければなりません。それから、周辺機器ビジネスや、本体と周辺機器を結ぶインターフェースをライセンスするとか、装置産業に終わらないやり方もあると思います。

 教育の方は、繰り返しになりますが、重要なところは2つあります。1つは、広い範囲の探索をしたときに、思いがけない材料が出てくることです。新しい材料が生まれてくる瞬間に立ち会うみたいな、そのワクワク感に触れさせることが最大の教育だと思います。その発見を契機に研究を広げていく機会を増やすには、やはり探索空間を大きくして、おもしろい材料を見つけていくのが非常に重要だと思います。

 それから2つ目が、高速化することによって、今までは学生が1年間に1個の材料しか作ることしかできなかったのが、4つ、5つ、6つと自分で作って、それらを比較して議論することができるようになります。すると、今までの一点集中ではなくて、「俯瞰して議論するからこそ生まれる化学観」が形成できるのは確実だと思うので、そういう意味で経験値も増すし、非常に重要だと思います。

 それから、我々の狙いは物質合成だけではありません。我々の真の狙い実用化に向けてデバイスを作ることや、さまざまな分析をして本質に迫るということですね。ですから、物質探索以外で、見つけた物質を活用するために割く時間を増やすことは、教育的にも非常にいいと思っています。

【井上委員】  ごめんなさい。最初の装置産業にならないためのデータというところなんですけど、これはどうなんですか。どこがやるべきなんですかね。

【一杉委員】  例えばこの装置から出てきた、物質合成のレシピ、そして、物質評価結果をどこかが保管して、誰が閲覧、活用できるかを管理しなければなりません。これはNIMSにお願いします?

【井上委員】  NIMSですか。

【一杉委員】  ということで、そのうちにNIMSにお願いします。

【内藤委員】  もう既にマテリアルデータバンクという構想で始めておりますので。ただ、おもしろいなと思ったのは、考えているんですけれども、例えば大学の先生。大学にためるのはいいんですけど、退官されるとデータはなくなっちゃうじゃないですか。

【一杉委員】  なくなりますね。学生が卒業してもデータがなくなります。

【井上委員】  それはだめです。怒られますよ。

【一杉委員】  ああ、ノートは残っていると。もちろんノートとパソコンの中のデータは残っていますよ。はい。

【内藤委員】  やっぱりノウハウは大学の先生方のそういうデータも継続的に保管できるようなシステムがあると、非常にいいなとは。

【一杉委員】  うれしいですね。僕が死んでも誰かが利用してくれる。

【内藤委員】  そうです。はい。

【一杉委員】  現状は、死んでも誰かが利用してくれるというものは論文ですよね。

【内藤委員】  そうですね。

【一杉委員】  今、論文の出版社にあらゆる情報が吸い取られています。

【内藤委員】  現在はそうですね。

【一杉委員】  今、出版するときに、生データや補助データまでアップロードするように要求され、日本のすべての情報が海外の出版社に吸い取られています。彼らがそのデータを有効活用しはじめたら、日本としては非常にまずいです。ですから、そこも何とかしなければならないと考えています。海外の出版社に情報・データを全部吸い取られている現状を。したがって、やはりさきほどの仕組みで自動的にデータをアップロードして、データベースを構築し、かつ、活用するということが重要だと思います。

【夏目徹先生】  済みません。ちょっと付け加えさせていただいていいですか。今、すごくいいことをおっしゃられたと思うんですけれども、我々も全く同じことを考えていて、装置産業になったら必ず負けると思うんですね。やっぱり大切なのは情報で、AIも高品質な情報のアベイラビリティがあって初めてAIというのは成り立つわけですよね。高品質なデータというのはロボットが出せます。あとはどれだけそのデータを早く先回りして取れるかが勝者になるわけですね。なので、我々はなるべくロボットをみんなに使ってほしい。データを少しでも生み出したい。そのデータを生み出す。みんながより多く生み出して、トータルラボラトリーマネジメントシステムみたいなものを例えばどこか公的なところが管理したりすればいいんじゃないかなというふうに思っているんですけれども、そのときにデータで勝者になるには、いかにデータをセマンティックに持つかだと思うんですね。

 あとはロボットの側が、違ういろんなロボットがあったとしても、データとしては、いろんな人間が加工したり、解析できるようなそういうフォーマット、それから、ログの上げ方、それから、実験データの記録の仕方みたいなところのフォーマットをきちんと作って、それがすごくよくできていて、みんなに支持されたら、そこでみんなロボットを使って、そのフォーマットが最終的に標準化というところにも、キーワードにもなっていくんですけれども、そこが最終的にそれを取ったところが勝者になると思っています。

【中山主査】  どうぞ。

【草間委員】  今の御発言にも関連してですけれども、恐らく国際的な競争力の基礎になるのが標準化なのかなという感覚があります。ライフサイエンスの分野で結構、欧米が標準化が大好きで、恐らく人がどんどん変わるから、標準化していかないといけないというベースがあると思うんですけれども、何か国際的な標準を作られちゃって、日本が海外の会社の測定機器を使わざるを得なくなったりとか、高い測定器を買わされたりとか、そういう現状が若干起きている印象があるので、最初は国内とかそういう局地的なスタンダライゼーションから始まる。それでもいいと思うんですけれども、国際的に、最終的に通用するスタンダードを作っていくというのが政策転換としては留意していただければなと思います。

【中山主査】  ありがとうございます。

 その他。はい。

【一杉委員】  一つ述べさせて下さい。さきほど、データをアップロードするといいました。ここで重要なのは、うまくいったデータもうまくいかなかったデータもアップロードする点です。そこが非常に一番重要なところで、それこそが本当に欲しいデータです。むだを繰り返さないためにも。そして、ビッグデータを解析するとき(機械学習)も「うまくいかないデータ」が必要なので、そこがポイントかなと思います。

【夏目徹先生】  多分これから論文のパブリケーションの仕方は変わると思うんですよね。我々はチャンピオンデータとか成功したデータしか出しませんけど、これからロボットがやっていれば、失敗した全ての、そのプロジェクトを始めたときからの全てのデータを提出しなさい、そういう時代にすぐなると思います。

【一杉委員】  そうでしょうね。

【中山主査】  ありがとうございました。大体皆さん言われたいことは御発言されたでしょうか。

 それでは、少し時間が延びてしまいましたが、次は研究開発戦略の全体の議論です。その前に休憩をとらせていただきます。10分弱、5時15分から始めさせていただきます。

( 休憩 )

【中山主査】  では、そろそろ後半を始めさせていただきます。よろしいでしょうか。

 議題の2つ目です。これまでこの作業部会において、いろいろな皆様から意見聴取や、議論をやってまいりました。それを踏まえまして、この研究開発戦略の素案を机上配付資料としてお配りさせていただいております。傍聴席の皆様には大変申し訳ありませんが、戦略の構成(案)のみを配付させていただいております。

 本日御発表いただきました後藤先生、谷池先生にも議論に参加いただければと思います。夏目先生は所用があるということで、後半は欠席させていただきたいということです。

 最初、私の方から簡単に内容を説明させていただきます。このA3の紙を出していただけますでしょうか。カラフルな、ナノテクノロジー・材料科学技術の研究開発戦略(素案の案)というものです。これからいろいろ内容を更に入れていくということで、全然フィックスされていないものです。

 ざっと説明させていただきます。余り時間が掛からないようにいたします。

 最初のところで、全体を貫くものとして、ナノテクノロジー・材料科学技術は我が国が「強み」を有していると。産業基盤を支える重要な役割を果たしているということ。IoT/AI/ビッグデータを活用したデータ駆動型のところをきちんとやっていかなければいけない。材料開発の高速化が始まっている。ゲームチェンジがある。起こるであろうということです。また、社会がSociety5.0、あるいはSDGs等を実現していくためのいろいろな方策が待たれている中で、この分野をどうしていこうか。社会を牽引していくという、この標榜している分野をどうしていこうかということをしっかり考えなければいけないということが最初に書かれています。

 1ポツですが、この分野を取り巻く状況の変化ということで記載させていただいております。これまでのナノテクノロジー・材料科学技術の役割はいろいろありました。産業基盤を支える重要な分野であるということ。もちろん、いろんな研究領域の基盤であることともに、新たな可能性を切り開く先導する役目であるということが書かれています。また、研究環境は大きく変化しているということ。研究者の確保が難しくなる。論文数のシェアは低下する。競争は激化していく。ゲームチェンジの時代に突入して、今、誰が勝者か分からない。そういう状況の中でどうしていくか。

 そして、(3)は、我が国の政策上の位置付けです。第2期科学技術基本計画からナノテクノロジー・材料分野は始まりまして、分野として成立していたのが第2期、第3期。そして、第4期、第5期に行くに従って、基盤のところをしっかり支えるような位置付けになってきております。

 そして、(4)では、我が国の材料分野の強みということが書かれています。

 (5)は、諸外国の動向です。各国が政策的にナノテクや材料を重要なキーテクノロジーと位置付け、従来からの取組を戦略的に更に強化していく中で、我々はどうしたらいいかということを考えなければいけないという話になっております。

 そして、(6)で新たな未来社会創造、未来社会の実現へ向けてということで、Society5.0、SDGs、その他社会の懸案事項に対してどう対峙していくかということを真剣に考えるということが、この分野では必要ではないかということが前書き、1ポツ、大きな流れです。

 そして、2ポツでは、何を目標に推進していって、基本的なスタンスは何かということで書かれています。多くの壁を次々と打破していく。そして、産業振興と人類の「幸せ」の両方に貢献するのが材料、ナノテクノロジー・材料科学技術であろうと思います。そして、それらを推進していく中で魅力的な機能を持つマテリアルの創出を推進する、これらを「マテリアルによる社会革命(マテリアル革命)」とし、実現したいということを書かせていただいております。またこういうところも議論していければと思っております。

 そして、3ポツです。それらに向けた課題がいろいろありますよねということで、その先に続いていきます。まずは、マテリアルの更なる高度化はしなければいけません。そして、マテリアル研究の長期化への対応をする。また、データの量・質、データベース化への要求に対する対応。そして、資金の確保、研究の担い手の確保、研究開発そのものの生産性の向上が必要であろう。そして、後半部に行きますが、研究室と民間のスケールの差やコスト面の事業化へのギャップを埋めなければいけない。また、産業界が抱える基礎研究フェーズへの課題、ここにはギャップがあります。そして、事業化や新たな用途展開を誘発するサポート体制の不足。この3つあたりがちょっと似通っているところです。

 そして、最後は、論文になりにくい技術領域に対する適切な評価軸の設定。どうしても産業化等へ持っていく場合には論文になりにくいところが出てきて、そこが隘路になっています。それをどう解決していくかも、この分野で真剣に考えるべきところです。

 そして、右下、4ポツです。マテリアル革命を実現するための取組といたしまして、まずは新たな切り口を導入する。更に我々が新たに取り組まなければいけないことはどういうことかということ。そして、もちろん戦略的かつ継続的に取り組まなければいけないことはどういうことか。今までやってきたことでも大事なことはある。それらはしっかりやっていかなければいけないと。いつまでも新しいものばかり追い続けているということでもよくないということがずっと議論で出ております。

 そういう中で魅力的なマテリアルを創出していくためにどうするか。そして、ラボ改革をどう実現していくか。きょうのお話です。その続きの議論もできればと思っております。

 そして、4ポツの(1)です。その新たな切り口に基づくマテリアル機能の拡張ということで、一個一個は読み上げませんが、多くのこういう新しいことが我が国発でできるのではないか、あるいは世界の潮流になるのかもしれないのではないかということが、いろんな皆様からの御意見で出てきているのを書かせていただいております。

 そして、(2)ですが、戦略的・持続的に進めるべき研究領域。これまでも多くの成果を出してきた研究領域とか研究への取組、分野、そういうものをまた新しい施策をやるからといって終わらせてしまうのではなく、いいものはいいと評価して次へ二の矢を放つということは非常に大事であると、多くの方から言われております。そこにどういう内容があるかということを(2)に書かせていただいております。

 そして、(3)は、研究開発の効率化・高速化を実現するためのラボ改革。きょう、お話しされたような内容は、ここの重要な内容になっていくと思います。

 そして、(4)は、マテリアル革命のための推進方策。国際の話とか人材確保とか、これらの分野を推進していくために一緒に考えなければならないことをここに掲げております。大きく言いますと、まず何をやるかという、研究の内容。どういうテーマでやっていくかということが書かれている。そして、それらをどうやってやるか。ラボ改革とかマテリアルズインフォマティクスとか、どうやって効率を上げてやっていくかということ。3つ目は、どうやって隘路を解消していくか。例えば共用ですね。先ほどプラットフォームの議論がありましたが、そういう共用をどうやっていくかとか、あるいは論文になりにくいけど、その材料、ゼロから1になったものを更に大きくしていくためのスケールアップのところを取り組まないと、産業化になかなか結び付かないとかですね。そういう隘路を解消するようなところ。

 そして、4番目がこの材料研究開発、あるいは社会への貢献がサステーナブルであるための方策、つまり、国際とか人材とかELSIとかですね。人材確保とかそういうこともしっかり考えていかなければいけないという、全体を見通したことがここに書かれております。

 あとは先生方には事前にメールで本文もお回ししておりまして、それらも読んでいただいたということを前提に議論を進めさせていただければと思います。どのような観点でも結構ですので、御議論を賜れればと思います。よろしくお願いします。

 なかなか、どこから話していいか分かりませんかね。上杉先生。ありがとうございます。

【上杉委員】  きょうの議論を踏まえますと、3のところが問題です。「研究開発の効率化・高速化を実現するラボ改革」のところは、少し書き換えた方がいいのではないかと思います。恐らく高速化するのは、効率化するための方法かと思います。さらに、この効率化以外にも教育という観点が出てきました。そういうところにも使えるのではないか。ロボットに習うという考え方もあるというお話もありました。そのような幾つかのキーワードをここに入れてもいいかもしれません。

【中山主査】  ありがとうございます。そのように直していければと思います。

 そのほかありますでしょうか。どのような観点でも結構です。

 私がもう少し追加するとしたら、この歴史観みたいな、過去からどういうふうに来て、今、どうで、未来はどう行くかというのをもう少しここに書き込めないかなと。例えばアメリカのNNIとか読むと、そういう歴史観みたいなものが非常に強く出ています。それに対峙するような戦略にしたいなとも思っていて、もう少し書き込みたいと思っています。

 また、ヨーロッパで、今、Horizon2020という日本の科学技術基本計画に近いものが走っていますけど、二、三年後にそれがフレームワークプログラム9、FP9というのに書き換わります。そのワークショップ等が行われつつあるというのを聞いています。そういうところでもこの分野に関してかなり広く掘り下げられていて、そういう状況もよく見ながら、我が国として大きな戦略にこれを更にもう1段、2段、香り高いものにしていく努力をしていければと思っています。

 済みません。どんな観点でも結構です。なかなかないかな。

【上杉委員】  これは文字制限みたいなのはあるんですか。何文字までというのは。

【中山主査】  ないです。

【上杉委員】  ないですよね。

【中山主査】  大事なことであれば載せられます。

【上杉委員】  さらに加えていくとどんどん字が小さくなって、総花的になるような気がします。そこで、逆に、もう少し少なくできるところはありますか、この部分は要らないですか、この部分はかぶっているのではというのがあれば、それを議論していただいてもいいんじゃないでしょうか。どうでしょう。

【中山主査】  では、一杉先生。

【一杉委員】  4ポツの(1)、(2)、(3)までは少し議論が、きっちり議論があったので想像ができるのですが、やっぱり(4)のところで、具体的なところが見えないと感じました。産業界と基礎研究、それらをどうつなぐかということに対してもう具体策が少し欲しいなと思っているところです。私自身は具体的な案はないのですけど、そこはもう少し議論が必要だなと思います。今までギャップの中に落ちていった研究は幾らでもあるので、そこから確率をどうやって上げるかというところですね。もし何か御意見あれば、ここ、何か足したらいいと思っているところです。

【中山主査】  今までギャップの中に落ちていた研究開発というのは、その研究テーマとしてですか。(4)に掲げるようなこういう推進方策的な話ですよね。

【一杉委員】  僕自身、生まれた成果を特許として出すのですが、結局、企業の人とうまくつなげられなかったり、企業の人が求めるレベルに達せられないことが頻繁に起きます。その要求レベルというのは、性能は達しているのですが、サイズを大きくしないとだめだとか、大型化や集積化ということです。それで僕らはそこに応じられなくて、実用化を諦める。僕自身もその例がいくつもあります。

 大学の研究者は、性能はもう達しているからいいやといって、それを大面積化して評価するところは熱心ではありません。つまり、大学の人事評価につながる仕事ではないので、実用化研究に取り組むことが難しいのが実情です。そこにギャップがあるのは確かなので、そういうところを埋めたり、あともう一つは、大学にいるとやっぱり企業のニーズがつかめないので、ニーズを公開するうまい仕組みが重要だと思います。企業がニーズを公開できる範囲を設定し、公開することが重要であると思います。企業と研究者が1対1ではなくて、企業が研究者集団と組み、その研究者集団とともに課題に解決するという仕組みも考えられます。企業のニーズさえわかれば、大学の研究者は解決策を示すことができるので、それをスムーズに行う仕組みが重要だと思います。何かそんなこと、林さん、以前おっしゃっていませんでしたでしょうか。企業と大学の連携という点で、NEDOだから、そこをうまくつなぐのが仕事かと思うのですけど、そういう取組があったらいいんじゃないかなと。今のままやると少し抽象的なように感じて。

【林委員】  そうですね。大体企業の方々が大学の先生方に御相談に行くときには、すごく敷居が高いというふうに言っておられますので、そこをもうちょっと門戸を広く、何でも相談ができるような環境であるとか、先生方とのコネクションみたいなものを作れるような場があったらいいのではないかなと思います。

 あと、ちょっと加えて申し上げると、(4)の推進方策のところで、これまでも言われていることではあるんですけれども、やっぱり異業種とちゃんと連携しながらやっていかないと、新しい開発にはつながらないとか、異分野との融合であるとか連携みたいなものというのは、変わらず入れておいてもいいのではないかなと思います。

【中山主査】  ありがとうございました。

 一杉先生が言われたことというのは、要は、研究室でいい材料ができても、実はほとんど死んじゃっているということですね。それをある企業の人とうまくつながったものとか、ものすごく熱意でやったものだけが産業化に結び付くけど、本当は結び付くであろうものがたくさん死蔵されているということでしょうか。そこをうまくスケールアップしてあげることによって研究の費用対効果が格段に上がっていくだろうと。実はそんな取組、ヨーロッパとかで今、盛んに行われつつあって、とても怖いなと思うんですよね。

【一杉委員】  現在、大学の評価の軸というのは、とにかくトップサイエンスをやりなさいというものです。それができないと職を失うのが実情です。ですから、1センチ角で良いものができても、「10センチ角、1メートル角にしないと評価しませんよ」と企業に言われたら、それで僕らは挫折してしまいます。

【中山主査】  今回のラボ改革で、いい材料、いい可能性があるものがたくさんできたとします。でも、それがみんな研究室に死蔵されてしまったら意味がないと。

【一杉委員】  要するに、1センチ角でできたとしても意味がないという状況になり得ます。ですから、そこはラボ改革を行ったとしても、同じ穴に落ちる可能性があります。

【中山主査】  そこは二の矢なんですよ。そこはもう二の矢を放つところですよ。

【一杉委員】  はい。だから、そこをつないであげなければいけないように感じます。

【中山主査】  非常に大事だと。

【一杉委員】  それは例えば人事評定の評価の軸が違う人が重要だと思います。要するに、僕らは1センチ角でベストを目指してしまいますが、すでに知られている物質のサイズを工業レベルのサイズまで大きくしても、あまり評価されません。サイズを大きくすることにより高い評価を得るタイプの人に技術をうまくつなげられれば良いのですが、そこが難しいところです。ドイツだったらフラウンホーファーとか、そういうところに目が向いている研究者がいます。日本の大学はやはりそっちは向いていないから、産業につなげるための施策はますます重要だと思います。

【中山主査】  産業につながらないから、バックキャストだ、一気通貫だとか精神論を言いますけど、そんなじゃなくて、こういう実際に大事なところを、隘路を埋めるようなことをすべきだと思いますけどね。

【一杉委員】  はい、同感です。問題意識はあるのですけど、具体策がないということですね。

【中山主査】  そのゼロから1、1を10とか、1を100にするところをどうしようかというのは勉強する必要があるとは思います。

 どうぞ。

【丹羽補佐】  先ほどの上杉先生ほかから議論いただいている点は、本文ベースではお手元の資料の25ページに文章として書いてありまして、そこをまさに御議論いただきたいと思っています。例えば材料がそのまま最終製品になるケースが少なくて、「社会のニーズの把握が困難」という論点でありますとか、あるいは「魔の川を越える製造プロセスを提案・試作する」環境がない。また、「産業化から要請される基礎基盤的な研究開発」、これはNBCIさんから先日御講演を頂いた内容にも近いところですが、こういった点を取り込んでおります。

 ただ、具体的にそれをどう実現していくかというところでありますとか、先ほどの林先生からもあった異業種という観点とか、そういったことが今まだ具体性がない状況でありますので、御意見頂けたらと思っております。

【中山主査】  ありがとうございます。

 その他ありますでしょうか。どうぞ。後藤先生、よろしくお願いします。

【後藤真宏先生】  現場の方からの意見ですけど、先ほど述べられた企業に自分の研究成果をつなぐというところなんですが、私の例で言いますと、先ほどの低摩擦材料なんですが、実はナノレベルで非常に摩擦が低くなる特異的な現象は、ずいぶん前に発見いたしまして、それを発表すれば、多分民間企業さんは興味を持って、すぐに応用してくださるのだろうと思いましたが、ほとんどいずれからもコンタクトはございませんでした。そのまま時間が経ち、このまま終わらせるには惜しいということで、さらに発展させて、自分で低摩擦の球を作ったり、それを組み込んだベアリングを作って良好な性能を有することを示しました。産業界で使われている基盤要素となるベアリングへの応用が成功したため、今度は、企業の連携が多くなり、困るぐらい連絡が来るようになりました。私は、そこは(ベアリングへの応用など産業化に近い部分)、民間企業の方が実施されるものだと思っていたのですけど、民間企業さんは、研究者がそこまで成果を示さないと興味がないということがわかりました。そこのギャップの埋め方の問題ということですよね。

【一杉委員】  まさにそのとおりです。

【後藤真宏先生】  はい。私の場合、自分でギャップを埋めることをやってみたのですけど、論点は、これを誰がやるかというところだと思いますよね。現場からの具体的なコメントがお役に立てばと思いまして。

【一杉委員】  そのとおりなのですよね。そこをどうやって埋めるかなのですよね。そこの具体策がなかなかない。

【後藤真宏先生】  私の場合は、とにかく仕方がないから自力でやってみたという形になるんですけど。

【生越委員】  でも、それはやれる能力と場所があるからできたということになるんですよね。きっと。だから、大学では割とそこまでやるのというのは、正直、じゃ、誰の手を使うんですか。それこそ卒論とか修論とかD論作っている子に、「悪い、これ、ちょっと売り込みたいから、ええもんにして」なんて言うのは、これ、正直な無理な話ですよね。

【後藤真宏先生】  そうなんですよね。

【生越委員】  そうでしょう。

【後藤真宏先生】  売り込みたいから、1センチのものを10センチにしてと言ったら、これは研究者は、もう全然興味なくなっちゃう。

【生越委員】  そうですよね。そういう話にもなるし、逆に、日本ですごく、僕もいろいろしますけれども、すごく感じるのは、詳しいところまで言うと、どこかに持っていかれたら困るからという会社のフワッと、フワッと。本当はハンカチが欲しいのに、「四角い形の薄っぺらい布で」と言われたら、これ、ハンカチかなと思うじゃないですか。それが風呂敷かという話。だから、本当にそういうサイズ感の違いというのはすごく大事で、だから、それをどこまで理解、こちらにさせるか、腹を割るかというところですかなという気もします。

 僕もずっと10年以上、一緒に共同研究しているところはもう全部、事細かに言って、ここだけ分かればいいんですという話をしてくれると、ああ、そこでだったら、じゃ、1年後には論文で発表できるからやりましょうかみたいなことはできますけれども、一見さんの方が来て、あるいは1年間一緒にやって、「いや、ごめん。先生、ほんまは風呂敷が欲しかってん」と言われて去っていく企業もいるわけですよね。だから、結局、入り方のアプローチというのがそれをその企業の方にやる前に、ここまで言ってくれたらするけれども、ここまで言わないんだったら、それはしませんと。ただ、僕はマテリアルを作っているわけではないので、マテリアルの人は、できたもので、さあ、どうだといったときに、その作り込みの段階で、既にもうどこかと交渉しておくとか、そういう必要があるのかなというふうにお話を聞いてて思いますし、僕自身もそれは必要なことかなというふうに思いますね。

【中山主査】  どうぞ、お願いします。

【髙尾委員】  いろんな問題をはらんでいると思うんですけど、研究だけということでやるのと、やっぱり最終的に何に活かされるかという課題を持ってやるものの大きな違いがあると思うんです。学生に、何かとんがった、何かいいものを作ってくれと言って教育するのと、いや、ここに使えるもの、こういう物性を持ったものとして作ってというのとでは、随分、大学を出た後も含めて研究者の基盤として違ってくるのではと思うんですよね。

 だから、今のベアリングみたいな、ああいうもので超低摩擦なものができれば世の中変わるぞと言って、コンビナトリアルで作って、それを小さい球でもいいから物にしてみせるというところまでを教育としてやらないといけないんじゃないかなと思っています。

【生越委員】  僕もそれはそう思いますけど、それを「やらない?」と言って、「やります」と言う子は絶対会社に行って偉くなるんですけれども、そこを、「いや、それはちょっと」と言うのは、やっぱりとりあえず何かチャレンジしようという気持ちを持っている人、子供。子供といっても子供じゃないかも。でも、そういう人たちとやっていければいいんですけど、まあ、みんながみんなそうじゃないですし、教育は同じように教育の環境を与えたところで、飲み込む側が何を飲み込むかによって出ていくものは違いますよね。

【髙尾委員】  それがこの最後の「論文になりにくい技術領域」というあたりの、どのレベルまでが論文にできて、できないかというそのあたりもあるかと思うんです。結局、私は豊田中央研究所ですけど、やっぱり基礎研究で、いかにグループ各社の人に使ってもらうかというのは、なかなかやっぱり理解してもらえないですね。物として見せなきゃいけないだとか、前から内藤先生ともお話ししていますけど、日本のこれまでの、何かいいものができたら、何かいい特性を持った材料ができたら、誰かが使ってくれるかもしれないと。それはよくなくて、こういうものを作りたいといったものが大事で、何かいいものができれば、それがまた広がるというような、考え方を含めて変えていかないといけないのではと思います。いいものを作ったけど、使えないね。物性はいいんだけどということは、うちの会社でも、何十年も取り組んできた中で反省しないといけないとかんがえている状況です。

 教育も含めて何を学生に意識させるかというところも含まれると思います。そこに付随して、研究の評価だといったところも全部包含されるので、この4番目の問題は大きい問題と感じています。

【生越委員】  僕自身はいろんな合成をしているので、でも、やっぱりずっと時間がたってきて、考えてみると、いいものを作ったときに出てきたごみが、研究室でピュッと捨てるレベルじゃなくなってきたときに、どこかがそれを買い取ってくれるごみを出すのか、お金を取って処理しないといけないごみを出すのかで、もうその反応一つの持つ価値が致命的に変わってくるというのを、例えば学生が経験して理解するというのはすごく大きな経験だろうなと思いますし、研究室でもそれを見せる。だから、皆さんの分野と僕は違うので、多分それでもその分野なりにそういった形の問題というのはきっと抱えているんじゃないかなとは思っているんですけど、ただ、そこの部分に関してまでは、ちょっとそこまでは話はできていないかなとは思うんですよね。そのリサイクルという部分ではあるんですけれども、初手から出さないという考え方も大事かなとは思いますね。

【中山主査】  ありがとうございました。先生、分野は全然違くないですからね。

【生越委員】  そうでしたっけ。

【中山主査】  違いますとかないです。合成なんて、もうど真ん中ですから。

【生越委員】  僕、割と液体を作っているんですよ。

【中山主査】  いや、同じです。マテリアルをやっております。

 その他ありますでしょうか。どうぞ。ありがとうございます。

【谷池俊明先生】  よろしいですか。この産学の谷の部分についてちょっとコメントさせてください。私、いろいろ共同研究をやっていて思うことは、日本で新しい材料を作った際に、やっぱり既存のプロセスにのった上で、コストコンペティティヴなものじゃないと、もう投資してくれない気がすごくしていて、それであるか、0を1にするような、投資価値が、その設備投資までを含めてリスクを取れる価値があるぐらいの物すごい材料であるかのどっちかだと思うんですね。例えばそれで、コストコンペティティヴなものを作ったとして、それを、じゃ、次に商用化しようとなったときに、例えば共同研究の産学連携の枠があったときに、じゃ、それがビッグプロジェクトと比べて魅力的かというのは結構難しいと思うんですね。

 その産学連携共同研究と政府とのプロジェクトで、例えば大学が経費として差っ引く分があったとして、非常に論文が出にくい。経費的には小さいということで、なかなか難しい部分があって、その産学連携を、もちろん評価もそうなんですけど、金銭的に何か補助するようなシステムがあると、もう少し行くのかなという気はします。

【中山主査】  ありがとうございました。

 今の議論に対して、若しくは新しいことでもありますでしょうか。言いたいことは言われましたでしょうか。大丈夫ですか。

【井上委員】  大丈夫です。

【中山主査】  大丈夫ですか。言いたいことを言われましたか。

【一杉委員】  ここの4番は具体性を持たせなくてもいいですか。

【中山主査】  そこはやっぱりやるべきだとは思うんですけどね。もう少し時間もあるので、先ほどのゼロイチの話も含めて、あと、社会実装の話。人材育成・確保にどのぐらいここで時間を割くかというのは、材料の話を飛び出ちゃうので、ちょっと。ただ、必要だとは思います。あと、社会とともにとか、ELSIの話とかですね。諸外国の取組、特にアメリカの取組を見ていると、一定の割合をここに必ず予算として割くことを先に決めておくとかですね。そんなのもあるので、我が国として、ちょっとここを。まあ、あんまりお金をそういうところに割きたくないなという議論が……。逆に議論がないのかな。ただ、大事なところでもあるので、きちんとしておくべきとか、そういう議論はどこかでするか、若しくは何か先生方からいろいろコメント頂くとかしないといけないなと思います。

 例えば、大きな戦略としては、こういうことをちゃんと書いておかないと。やりたいことやテーマばかり書いてあると、ただのテーマ集になって、おもしろくないです。多角的じゃないし、立体的じゃない。国として責任を持った戦略というのであれば、こういうところをちゃんと議論して、厚くしていく必要があるかなと思います。

 場合によっては、ここにそういうことをちゃんと考えている人をお呼びして、ディスカッションするとかですね。そういうこともあるかもしれませんが、御相談しながら進めさせていただければと思います。大事なところだと思います。

【一杉委員】  企業の方のお話も聞いてみたいですね。

【中山主査】  そうですね。

【一杉委員】  やっぱりどうやって大学とお付き合いしているのかとか、大学に限らず、研究機関と国立の研究所も含めて。加速するために、彼らのアプローチというのはどうするのかというところですね。そこも聞いてみたいところではあります。

【中山主査】  ありがとうございます。今すぐ具体的には少し出ないと思うので、これは宿題にさせてください。

 どうぞ。

【草間委員】  これはここら辺に関するAMEDの取組のただ紹介なんですけれども、一つは、最近、企業シーズ、企業ニーズとアカデミアのシーズをマッチングさせるシーズ・ニーズマッチングサイト。まあ、出会い系サイトみたいなものと思っていただけるといいですけれども、そういうのもできまして、なるべく秘密裏に、ちゃんと特許を、公開情報にならないうちに情報交換できるようなそういうサイトを整備したりということもやっております。

 あとは実用化、企業が付いている技術にどこまで国費を入れるかという議論はあるんですが、企業と国費、半々ぐらいのそういうファンドで、アカデミアのファンディングをしたりということもあります。

 完全にもう企業の研究になってしまったら、もう企業でやってくれという感じなんですが、確実に実用化される技術をアカデミアで持っているのであれば、出口戦略が付いているという状態で国費を直前まで支援する、国費で支援するという、そういう考えでやっております。

【中山主査】  ありがとうございます。それもさっきのスケールアップしていくところの議論ですよね。どこまでどっちの金でやるかということ。

【草間委員】  はい。

【中山主査】  でも、それでお見合いしていると、結局、物にならないと、我が国全体の損ですよねという。

【草間委員】  そうですね。出口戦略が不確実のものにファンドするという考えも当然あるし、出口戦略がしっかりしているものにファンドする。絶対実用化されるというものにお金を投資するという。

【中山主査】  だから、絶対実用化されるものであれば、企業がやればいいと思いますよね。そこが難しいですね。

【草間委員】  はい。その境界線が難しいんですが、その実用化すると決まる手前まではやってもいいのかなと。例えば知財が出てくるところまではとかそういう形。

【中山主査】  ありがとうございました。大事な論点だと思います。

 そのほかなければ、そろそろ終わりにしますかね。

 では、このぐらいで議論を閉めさせていただければと思います。では、最後に事務連絡を事務局よりお願いします。

【丹羽補佐】  本日はどうもありがとうございました。次回の作業部会につきましては、日程調整中ですので、また決まり次第、御連絡をさせていただきます。また、議事録については、事務局で案を作成しまして、皆様に照会いたしますので、また御連絡を頂ければと思います。また、本日の配付資料につきましては、お名前を書いて、置いておいていただければ、また郵送させていただきます。

 今日はどうもありがとうございました。

【中山主査】  ありがとうございました。

 本日は、内閣府から千嶋様もどうもありがとうございました。もしよろしければ、一言頂けるとありがたいです。

【千嶋調査官】  内閣府の千嶋です。今回、非常に感銘を受けました。というのも、前半のロボットの話、まさにそのSociety5.0時代の研究手法の話かなと思っています。よくサイバー空間に閉じたところの勝負というのは後塵を拝しているというか、やっぱりネットのデータとか、データのマイニングとか、そういうところでは一歩遅れていると言われていますけれども、そのフィジカル空間との接点のところではまだまだ勝負がこれからだというような議論がされているかなと思っているところに、やっぱり研究現場でどうやってロボットというのを活用して、結局その品質の高い一次データというのを大量に得るとか、あるいは常識を空間の探索で全く新しい機能を発見するとか、そういうところで、やっぱり人だけではうまくできなかったところにロボットを活用するという、すごく可能性をきょうは学ばせていただいたので、是非うまく戦略の方に取り込んで、強くまた、この勝負に勝てるような戦略になるといいのかなというふうに思いました。ありがとうございました。

【中山主査】  どうもありがとうございました。また、本日は、後藤先生、谷池先生、どうもありがとうございました。また今後ともお力添えを頂ければと思います。

 それでは、本日の会合を閉じさせていただきます。どうもありがとうございました。

 

―― 了 ――

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研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

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