科学技術社会連携委員会(第12回)議事録

1.日時

令和2年2月4日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 東館15F 科学技術・学術政策局1会議室

3.議題

  1. 第6期科学技術基本計画策定に向けた検討状況(報告)
  2. シチズンサイエンスについて
  3. その他

4.出席者

委員

小林 傳司 主査、小野 由理 委員、小原 愛 委員、小出 重幸 委員、調 麻佐志 委員、田中 恭一 委員、横山 広美 委員

文部科学省

菱山 科学技術・学術政策局長、真先 文部科学戦略官、奥野 人材政策課課長、小田 人材政策課課長補佐

オブザーバー

説明者:
九州大学大学院工学研究院応用化学部門(分子) 岸村 顕広 准教授
自治医科大学医学部 髙瀨 堅吉 教授

5.議事録

【小林主査】  若干定刻前ですけれども。それでは第12回の科学技術社会連携委員会を開催いたします。
 出席者、配付資料等について、事務局の方から説明をお願いいたします。
【小田補佐】  おはようございます。初めに、本日は科学技術社会連携委員会の委員の10名のうち7名に御出席いただいておりまして、社会連携委員会の運営規則第3条に定める定足数の過半数を満たすことを御報告いたします。御欠席は内田先生、堀口先生、片田先生となってございます。
 次に、本日の出席者の御紹介をさせていただきます。
 議題2のシチズンサイエンスについて議論を深めていただくために、日本学術会議若手アカデミーより、九州大学大学院工学研究院応用化学部門(分子)、岸村顕広准教授でございます。
 次に、自治医科大学医学部、髙瀨堅吉教授でございます。
 この2名の方に御出席を頂いてございます。
 続きまして、配付資料についてでございます。本日の資料は、議事次第に記載しておりますとおり、資1-1、1-2、2-1、2-2、4点御用意させていただいております。議論の途中でも結構ですので、過不足等ございましたら、事務局までお知らせいただければと思います。以上でございます。
【小林主査】  はい、ありがとうございました。
 それでは議事に入ります。議題の1番目、第6期科学技術基本計画策定に向けた検討状況でございます。事務局より御説明お願いいたします。
【奥野課長】  はい。それでは、お手元の資料の1-1及び1-2について、御説明申し上げます。
 これまで本委員会において御検討いただきました第6期科学技術基本計画策定に向けた、本委員会の検討結果についてでございますが、お手元に配付した資料1-1の形で、昨年、令和元年10月18日付けで、本委員会として取りまとめた形といたしまして、本件の審議を本委員会に依頼しておりました科学技術・学術審議会総合政策特別委員会の側に提出したところでございます。これを受けまして、次にお手元の資料の1-2を御覧ください。今回提出を受けました本委員会の検討結果を踏まえまして、この総合政策特別委員会の事務方の方より、資料の右肩にございますとおり、第32回、昨年12月18日に開催されました第32回において、この検討結果を提出するとともに、審議においては、総合政策特別委員会の事務局より、資料1-2「科学技術と社会の関係の在り方に関する論点(案)」という形で総合政策委員会に付議されました。
 基本的には総合政策委員会の事務局の側が、本委員会から提出いたしました検討結果をまとめたサマリーにはなっています。ただ、一方で総合政策委員会等の調整の過程で、何点か追加、強調されている箇所ございます。簡単に御紹介いたしますと、1ポツの基本的考え方について導入部の中で、全般に関わることですが、SDGsですとか、そういった全体的な政策の動きというのが導入部の基本的考え方で、より一般的な記載が最初の第1段落に付記されてございます。また、次に第3段、三つ目の丸でございます。ここの中には昨年開かれましたブダペスト会議の議論の結果等を踏まえまして、国際的にはWell Beingへの科学技術の貢献が求められているという記載が、一応全体の進捗と総政特の議論等を踏まえた形で付記されてございます。
 その他2ポツ、科学技術コミュニケーションについて、3ポツ、ELSIに係る取組について、4ポツ、政策形成における科学的知見の活用、5ポツ、研究公正の確保については、基本的には本委員会の報告の概要というような形で取りまとめられてございますが、こちらも総政特の議論の際にでございますけれども、それぞれの記述、例示中の中において、例えば3ポツの人材育成の箇所ですと、4番目の丸等のELSIに係る専門家の養成の前に、下線引いてある法学等の人文学・社会科学の知識を踏まえたという記述がございますし、またその1段上の3ポツの中の下線につきましても、今後の科学技術プロジェクトに関して、ELSIの取組等の実装に係る記述におきましては、初期段階からテクノロジーアセスメント、ソフト・ローも含む法制度の整備等、特に総政特の議論においては、ELSIの中でも法学等の社会科学に関して、より着目する議論が行われたという観点から、かかる記述等が追加されてございます。
 現在、総合政策特別委員会に関しては、報告書の取りまとめに向けた審議等行われてございますが、基本的には本委員会から提出したものの、このサマリーの論点(案)となっている形のものが、最終的に本委員会の検討結果を受けて、総合政策特別委員会の報告書の中の科学技術社会連携の章の記載内容になっていくというようなイメージで、現在総合政策特別委員会において審議が行われているところです。恐らく、この論点(案)でまとめたような形の内容が、総合政策委員会側の審議結果として報告書に取りまとまるような方向で審議が行われているものと承知してございます。
 一応本委員会からの報告提出以降の、主として総合政策特別委員会の審議経緯に関して御報告申し上げます。
 以上です。
【小林主査】  どうもありがとうございました。1-1が我々の方から出した文書でありまして、それで1-2ということです。1-2の取りまとめというか、この文章の責任はどこでしたっけ。1-2。
【奥野課長】  この文章につきましては、最終的には、この文章そのものは総合政策特別委員会の事務局が作成、提案しましたが、最終的な仕上がりとしては、事務局が総合政策特別委員会の報告書にまとめる際の、報告書のドラフトのたたきとなってございますので、最終的には総合政策特別委員会の、恐らく分析といいますか、審議結果として取りまとめられることになると考えております。
【小林主査】  はい、分かりました。
 じゃあ、このアンダーラインの付けなどは、その事務局でちょっと取りあえず案として付けてこられたことということですね。
【奥野課長】  はい。事務局と、こちらの担当官とで確認した際に下線を付したものです。
【小林主査】  ということですね。
【奥野課長】  報告書中では、下線は一般的に付されませんので、最終的には報告書は下線なしという形になるかと思います。
【小林主査】  報告書はいつ頃取りまとめですか。
【小田補佐】  3月4日に開催を予定というふうにも聞いておりまして……。
【小林主査】  もうあと1か月ですね。
【小田補佐】  そこで取りまとめる予定だと思われます。
【奥野課長】  要するに本案かかって、ドラフトかかっておりますが、これ以上のコメント等は今のところ出ておりませんので、総政特としてはほぼ論点のような形で、この章というのは取りまとまるのではないかと考えてございます。
【小林主査】  今日、ここで何か少し意見はあった場合には、それは場合によっては反映される可能性が少しはある? もうほとんど……。
【奥野課長】  いや、最終的には総政特に、我々の意見はもうこの検討結果が全てですので。
【小林主査】  これで終わっているので。
【奥野課長】  あとは、今各委員会が出した、この分野ごとのを受けて、総合政策特別委員会がまとめていますので、最終的には総合政策特別委員会側……。
【小林主査】  で決める。
【奥野課長】  で決まるという段取りになります。
【小林主査】  ということですが、御一読されて、何か御意見等ありますか。質問とかございますか。
 今回、のみ人文的なものを念頭に置いたような記述っていうのは、このページ、2ページには含まれていないと考えていいんですか。例えば3ポツのELSIのところの丸の三つ目で、「具体的には」、最後の方ですね、「研究者を対象としたELSIに関するリテラシー向上に係る取組や法学や経済学等を含む分野横断的な研究体制の構築等につながる検討を初期段階から進める必要がある」と書いてあるのは、これは専らELSIの中の話という理解でいいんですね。
【奥野課長】  はい。
【小林主査】  そういうことですね、これはだから、法学、経済学等を含むっていうのは、別に特にのみ人文を念頭に置いてるというわけではない。
【奥野課長】  特に念頭に置いているわけではございません。ただ、一方でソフト・ローが例示されている点等を鑑みれば、科学技術基本法は念頭には置いてございませんが、よりELSI等の観点において、そういった分野、レギュラトリーサイエンスだとか、ソフト・ローっていう考え方も、恐らく研究開発を進めるに当たって、余りELSIの文脈では使わないアプローチで、それは総合政策特別委員会でも指摘はあったんですけれども、ただ、研究推進という関係だと、ソフト・ローを使ってより研究推進を図っていくという観点があるので、法学に関しては、やや法学という特定分野をより科学技術の振興において活用できるんではないかというような御意見は、総合政策特別委員会の委員の中にはございます。
【小林主査】  済みません。のみ人文という訳の分からない言葉を使ったので、何だろうと思われたと思いますので簡単に説明しておきますと、科学技術基本法というものがございます。それに基づいて科学技術基本計画というのを作っていくという構造になっていますね。その科学技術基本法の中では、専ら人文科学に関わるものを除くという表現があって、その人文科学というのは人文学と社会科学を両方含むもので、そういうものは計画になじまないのではないかというので外してあるという理解だったんですが、今般それを、その「外す」を削除しようではないかという議論が起こっていまして、見通しとしては6月ぐらいの国会で出すというふうに聞いています。
【菱山局長】  もう今、与党の方に提出して審査をいただくべく今準備をしています。
【小林主査】  準備をしているということで、多分その人文学、社会科学を除くということをやめるということは、これらの分野も基本法の中で扱えるようにするという。そういうふうになると、人文・社会科学に関する研究というものも、基本法の中で考えなくてはいけない。それを「のみ人文」という言い方で呼びだしている。
【小野委員】  のみ。平仮名ですね、のみは。
【小林主査】  人文社会科学だけの研究プロジェクトも、研究も、この法律の枠の中で考えましょうねという話になった。今まではその人文・社会科学だけのやつは外しておいて、理工系と人文・社会科学が連携してやる研究というのは対象に入れていたんですが、今度はそこも広げましょうという議論もされているということなので、ここで社会科学などがいっぱい書いてあるのは、のみ人文を念頭に置いているのかなとちょっと思ったということで質問をしたということでございます。
【奥野課長】  御指摘のとおり、そもそもそれを外すという前提は、基本法を作った当時は人文科学というのを政策課題解決のツールとして使うっていうような考え方が分野としてなじまないとありましたが、最近学問領域においては、社会課題の解決へのアプローチというのは人文社会でも行われているという観点、かつ科学技術政策でも課題解決のために様々使っていくというのは、人文科学の在り方が変わったというのと、科学技術のアプローチが社会課題から行った場合に専ら人文科学のみでそれを解決するというのが可能になったという観点で、科学技術政策から恐らく人文・社会科学を積極的に除くということの合理性がなくなってくる。当然そういった価値観は、こういった記述の中には影響は及ぼしているとは思います。主査御指摘のように。
【小林主査】  だからSDGsみたいなテーマになると、あれは技術だけで解けない問題いっぱい書いてありますよね。そういうところにやっぱり視野を広げると、法律の方も当然、人文・社会科学をもっとちゃんと取り組みましょうという、そういう考え方に変わってきているということです。
【小野委員】  1点質問してもよろしいですか。追加で、1ポツの一番最後にWell Beingについて御記載いただいています。Well Beingはかなり定義が曖昧な概念だということだと私は理解しておりまして、個人の話から、社会を含むものから、次世代も含むものから、いろいろな方がいろいろな定義でお使いになられる概念と存じます。ここではどういう概念で使われているでしょうか。
【奥野課長】  基本的には昨年行われたブダペスト会議の報告ととってございます。ただし、まさに御指摘のとおりブダペスト会議の報告のWell Beingについても、成熟した社会が求めている個人のレベルから、途上国が求めている、まさにかつて訳した社会福祉だとか、そういった側面から、いわゆる個人の効用のレベルは、さらにはより主観的なレベルを含めるので、そういったもの全てを向上させていくようなことが今国際会議で提起されて、今後恐らくWell Being自身は日本側からブダペスト会議に提起したような議題ですので、例えばSDGsのような形でポジティブな政策の方向輪としてWell Beingという概念が、まさにこれから出てきているというような点がここで強調されておるんだと思います。総合政策特別委員会の全体仕切っております科学技術振興機構の濵口主査自身が、まさにWell Beingというのを積極的に国際的な場で提起しているというような観点もございます。ただ、御指摘のとおりブダペストの見ている過程においても、途上国等が見るWell Beingはどちらかというと福祉だとか……。
【小林主査】  貧困からの脱却とか……。
【奥野課長】  インフラ、貧困という側面、日本等でウェルビーイングやっている方々は、個人のより主観的な意味での効用の増進の方に力点を置いていますので、多義的に解されているというのが現状ではないかと。
【小野委員】  ありがとうございます。
【小林主査】  今、だからこの言葉が、やや流行の兆しがありまして、ブダペスト会議の昨年の報告書というか、宣言文の中で、Global Well Beingという表現になっていますね。きのうも実はちょっと、このブダペスト会議のその宣言文の翻訳をやっていたんですけれども、Well Beingが翻訳できないんですよ。福利とかいろいろな、それこそ今おっしゃったいろいろなニュアンスが入っているので、取りあえず幸福として(Well Being)としましたけれども、ここでもWell Beingと横文字になっていますよね。日本語にできないんですよ、やっぱり。だから、これからしばらくいろいろな形でこの言葉が出てくると思いますが、呉越同舟のようないろいろな意味を含み込んで、みんな自分の都合に合わせて言っていくということがしばらくは続くように思います。
【小野委員】  ありがとうございます。
【小林主査】  ただ、何のための科学技術かっていうのを説明するときに、やっぱりその社会のための科学技術という言い方を1999年のブダペスト宣言以来してきたんですが、それを人類のWell Beingのための科学技術というふうに読み替えていくという、そういうトレンドのように思います。はい。
 あといかがでしょう。よろしいですか。
 そうすると、間もなくこの第6期に向けた文科省からの提案というのがまとまっていくと。3月4日ぐらいで中間取りまとめですか。最終ですか、もう。一応中間取りまとめという。
【菱山局長】  最終です。今のスケジュールですと、再来年度から、要は来年の4月になったときに第6期になりますから、それの検討ということでなると、今文科省内の検討は終わりにして、今後はCSTIでもしっかり検討いただくと。そこにCSTIに御提案をするという形になると思っております。
【小林主査】  そうですね。はい、そういうスケジュール感です。
 それでは、特に御質問なければ、次の議題に参りたいと思います。
 今日はシチズンサイエンスというものについての全体的な議論をするということで、学術会議の若手アカデミーの方々、非常にシチズンサイエンスについては関心を寄せて、いろいろ取り組んでこられていまして、いろいろなところでシチズンサイエンスをやっていますということだけは聞いていたんですが、やはり科学技術と社会ということを扱うこの委員会で一度議論するのがよかろうと思って、今日は岸村先生、髙瀨先生に来ていただきました。
 じゃあ、事務局の方で少し前振りをしていただいて、はい。私も少し。
【小田補佐】  はい。今期のこの社会連携委員会に関しましては、来年の2月まで、第6期の基本計画の直前の来年の2月まで審議期間がございまして、それまでに第6期に向けていろいろと御検討いただくということで、今回、シチズンサイエンスの方、主査と御相談の上設定をさせていただいてございます。この後も1年間かけて、いろいろな議題を議論させていただければということで、まずはシチズンサイエンスということで進めさせていただくものでございます。
 以上でございます。
【奥野課長】  しばらくの間、このような形で様々なテーマ等に関して最新動向等をここで御議論させていただいて、その中でこの委員会として、特にどういった点に着目して、どう新たな提言を出していくのかというのを御検討いただく最初の課題の提示というような形で、こういった観点から本日は御議論いただければと存じます。
【小林主査】  お手元のフォルダーに入っている、これの第5期の科学技術基本計画、現行のものです。それの46ページ、附箋が付いているかと思います。ピンクと肌色の附箋が付いているページですけれども。実はこの第5期の第6章のところでは、(1)のマル1の下から3行目に、シチズンサイエンスの推進を図ると書いてある。このあたり作るときにちょっと協力をしたのですが、こういうものを日本もやっぱり取り組むべきではないかと思う部分もありまして、入れたんですが、その後なかなかハイライトは当たらなかったものです。
 これ歴史的には割と古いので、いろいろなタイプのものがあります。伝統的に、いわゆる専門的な研究者ではないけれども、在野でいろいろな研究をする人がプロと協力をするという、そういう分野というのは、天文学とか、考古学とか、歴史学とかでは割と昔からありました。そういったものは非常に古典的な例なんですけれども、それ以外にも、実は1970年代ぐらいの公害問題のときには、かなりそういう活動が行われました。日本の場合だと、宇井純さんがやった「公害原論」なんていうのが、東大で市民講座みたいな形でやられたことがありますし、それから沼津だったかな、プラントを造るということが起こったときの風による公害の発生の問題について、政府、大学関係の人たちのシミュレーションで大丈夫だというのが出たのに対して、当時の高校の理科の先生が住民や高校生を組織して、実際にその風速を計り、データを蓄積することによって、大学の先生がやったシミュレーションが間違っているということを明らかにしてしまったというような例もありまして、その頃そういうふうな活動結構ありました。
 これは日本だけじゃなくて、ヨーロッパではサイエンスショップという仕組みで、大学に対して市民の側、社会の側がこういう問題を調べてほしいというふうに持ち込んでくる。そうすると、大学の研究機関、研究の窓口が、その課題が単なる営利のための研究ではなくて、公共的意味のある研究テーマだというふうに判断した場合には、そのテーマについて、大学院生などを組織して研究をしてそれを返す。そのときにはその提案した市民も一緒になって議論するというような、そんな仕組みを作ったのは1970年代ぐらいです。今もそれは続いています。ヨーロッパの大学の幾つかでは。そういった活動は、だからあの時期には世界的に起こりました。そしてアメリカでは、コミュニティーベースドリサーチというような言い方で、CBRと略しますが、アメリカの大学で、その地域の人々と一緒にこの研究活動をするというようなことは長らく続いているという意味では、科学が、それこそ社会の課題につながっていて、そして実際にその知識のユーザーがその問題の研究に関わるという、そういう意味でのシチズンサイエンスというのは、細々と存在してきていたと思います。ただ、日本の大学はそういう機能を全部捨ててしまいましたので、日本の大学はそういうのをほとんどやらなかったというのは問題だっただろうと思います。
 今、学術会議の若手アカデミーの方々が、現代のシチズンサイエンスの取組についていろいろ調べた上で、日本でももう少しこういうのを活性化すべきだ、既に実際にこういうことやっているんだということをいろいろ発言されているので、これは是非伺ってみたいということでお招きしました。私の理解している歴史的素描はこのような程度のものですが、現代的な展開も含めて、先生方の御意見を是非伺いたいと思います。
 それでは最初は九州大学の岸村先生、よろしくお願いいたします。
◯資料2-1に基づいて、岸村准教授から説明。
【小林主査】  どうもありがとうございました。
 では、引き続き髙瀨先生、お願いできますか。
◯資料2-2に基づいて、髙瀨教授から説明。
【小林主査】  どうもありがとうございました。非常にパンクチュアルに守っていただきまして、ありがとうございました。
 多分、初めて皆さんお聞きになった話で、へえーと思うものが多かったと思います。最初の方の岸村さんのところで、大阪大学のサイエンスショップが、やろうとしたけれども消えちゃいましたねというのをおっしゃいました。それは私が絡んでいたやつなんです。なぜそうなったかだけ、ちょっと最初に説明をしておきますが、端的に言えば早過ぎたのかもしれません。今も、ひょっとするとまだ早過ぎるの状態に日本はいるのではないかというのは、2000年前後から、2005年ぐらいからそういうことを考え始めていたんですが、ある頃の日本は、ちょっとそういうふうな市民社会の可能性みたいなものに期待する雰囲気があったんですけれども、やっぱり失われた何年と言っている間に、もうあっという間にそういう気分がしぼみ始めていったんですね。多分、今先進国じゃなくなりつつあるわけで、日本は、衰退途上国だっていう議論もあるぐらいなんですけれども、その意味で、公共の可能性みたいなものに対する期待がちょっと下がったような気がします。それは一つジェネラルなトレンドです。
 それから当時、具体的に何が問題であったかというと、結局ふさわしい課題を持ってくる方が余りいないということなんです。これは日本の社会で、例えば図書館を使うときに、ライブラリアンを使うというふうな教育を日本の学校でしないんですね。だから、本の整理をしている人だと思っているわけです。でも、実はライブラリアンというのは非常に専門的な職能であって、情報収集のためのすごく有力な手助けをするというのが本来なんですが、そういう機能を余り果たせなくていらいらしていますよね、ライブラリアン自身が。それと同じで、何かそういう形のものを相談に来るというふうな発想が、余り社会の中にないんです。本当に来るのは何かというと、夏休みの課題なんです。宿題の学習課題なんです。そういうものにどうしてもなってしまうんですね。結局適切な課題がまず来ないということがありました。
 それから、髙瀨さんがちょっとおっしゃったんですけれども、機器の使用に関する制約なんですね。特定の研究費で整備した大学にある機器は、それ以外の目的外使用をするということに対して、たしかいろいろ制約がありますよね。それが大学のものなんだから、公共財だから使えればいいじゃないかっていうんだが、そうはいかないんです。これは実はイノベーションとか、ベンチャーのインキュベーションの場面でも起こっているわけです。大学内で動いていた取り組みを大学の外に出してスタートアップしようとすると、今度は大学の機器が使えなくなるということが起こりかねない。大学のスタッフでやっている間は使えるんですけれども、スタートアップで大学から離れてしまうと、その機器、同じ機器を使うときにいろいろと、場合によっては制約が出たりとか、何かそういうところに妙な固さが残っているんですね。そういうこともあって、柔軟にそういうものを使うということが難しかったということもありました。
 結局、だからそれで立ち消えというか、発展させられなかったというのが正直なところです。非常に残念だったんですけれども。あとはやっぱり研究者が評価されるかどうかっていうのも大きいんじゃないですかね。皆さんどんどん忙しくなっているじゃないですか。そのときにそういうテーマでっていうので、だから大学院生とか、ポスドクの人を使ってやってもらったらどうですかって言ったんだけれども、彼らも彼らで忙しいという構造になって、非常にコンペティティブな世界にはまっていますので、そういう自分の業績に直結しないようなものはやってどうするのっていう議論にどうしてもなってしまうと。そうすると、それを指導教員が命令するなどということは非常に危なくてできないということもあって、構造的になかなか苦しいところがあるなと思いました。今もそれはそんなに解決していない問題じゃないかと思います。
 それだけちょっとお話しして、それではあとは、まず、質問、御意見。どうぞ。
【田中委員】  小林主査の補足説明を聞きながら30年ほど前の記憶が急によみがえってきました。以前トヨタ財団というところで助成金を出す仕事をしていたのですが、およそ30年ほど前に「市民研究コンクール」という助成プログラムを運営しておりました。テーマは「身近な環境を見つめよう」で、市民による環境問題への自発的な取り組みの萌芽を支援しておりました。このプログラムの受け手(助成先)としては、大学よりも高等学校の先生方が中心となっているケースが多かったかなとの印象を持っています。もちろん大学の先生方も共同研究者として一緒にデータを収集したり分析したり。
【岸村准教授】  生徒さんと一緒にやられるような。
【田中委員】  はい。そうです。でも「労働力」としてではなく、何となくお互いに寄り添う形で楽しそうでした。気づきとかも多かったのではないかと思います。指導するというのではなく「学びあう」というのでしょうか。それでも「科学的」という視点は欠かせません。そこで大学等に属する研究者の方も一緒にやっておられました。が、その方々のかかわり方が積極的でモチベーションが高いなと思ったものです。
これは受け手側ですが、出す側の選考委員の方たちも熱心でした。詩人の谷川俊太郎さん、京都大学の動物行動学の日高敏隆先生、後に政治家になりましたが嘉田由紀子先生等々。
【小林主査】  元知事ですね。
【田中委員】  覚えている限り吐き出しますと、NPOの分野では奈良にある「たんぽぽの家」奈良の播磨靖夫さん、国立環境研究所の所長をされていた鈴木継美先生も委員として助けてくださっておりました。それでも数年後に廃止となってしまいました。20年くらい続いていたので「惜しまれながら」ですが。
 つまり、先ほど小林主査のお話の中にもできていたワードですが「早過ぎた」ということだと思うのです。プログラムの開始が1979年でしたが、1990年代後半でも、まだ「早過ぎた」たのかもしれませんね。
 それでも、プログラムの趣旨に賛同して積極的に応援してくれた先生方は必ずいらっしゃると思いますし存在していたわけです。多少夢物語みたいなことを言うようで恐縮ですが、理解者を少しずつ増やし広げていくことが大切なのだと思います。もちろん、不特定多数の方にプログラムの存在を知ってもらう努力もそれ以上に大切だと思いますが。
【小林主査】  ありがとうございます。岸村さん、何か。
【岸村准教授】  私も全員がやる必要がある内容だとはやっぱり思わないんですね。だから、何か均等にみんなにやらせるみたいな仕組みは絶対破綻しますので、何か今のような形ですくい上げられると……。
【田中委員】  でも我々も、均等にというのは目指していたと思うんですよ。それはでも、何ていうのかな、知ってもらうということだと思うんですよね。応募してもらうとか、それはやっぱりやった方がいいと思うんですけれども。
【小林主査】  ほかいかがでしょうか。
【横山委員】  面白くお話伺いました。
 古くからの活動で、いわゆる片仮名のシチズンサイエンスじゃなくて、漢字の市民科学の取組があります。たとえば昆虫の分野で割と長く続いていて、それを何十年も大好きでずっとやり続ける年配の方がかなりいらっしゃると。そういう集団を調べると、やっぱりモチベーションの維持がみんなで集まって議論して、評価されることで勇気づけられてさらに続ける、元気になるっていう還流があるという発表を審査したことがあります。こうしたいろいろなヒントが、長く細々と続いている古いタイプの市民科学の中にきっとあるんじゃないかなというのをお伺いしました。
 あと二つだけ申し上げると、クラウドファンディングを研究対象にして調べたことがありました。ちょっと残念な情報なんですけれども、300件ほどを調べたんですが、我々から見て研究や調査だなと思うものは、わずか数件しかありませんでした。なので、市民の方が研究、調査と思ったときと、我々から見たときのギャップは物すごく大きいと。さっき小林先生がおっしゃった、その課題がないっていうことをおっしゃったんですが、我々から見て研究課題というのと、彼らがニーズとして持っている調査したいことが相当な乖離があるんですね。それは研究という言葉を使ってはいけないのかもしれない。研究の質を我々一生懸命管理するわけですけれども、社会がいういい研究と乖離があるかもしれないので、気を付けて見ていただくといいのかなと思いました。
 最後に1点、心理学の再現性問題、非常に悩ましいんだなとというふうに拝見したんですけれども、でもそれは学術の責任だと思うんです。だからそれは、市民の方にもしかしてお手伝いしていただくのではなく、やっぱりそれは学術で解決すべき問題だと思うんです。なので、その辺の学術の責任と、その市民と一緒にやっていくところという線引きを、ある程度あらかじめ設定すると、後ほど混乱することもないかなというのをお伺いしながら思いました。ありがとうございました。楽しかったです。
【小林主査】  確かにこういう科学研究の場合のクオリティーコントロールっていうのは割と大事になりますよね。クラウドファンディングで、今横山さんおっしゃったように、研究に値しないようなものがいっぱい出てきてしまうとか、それから結果そのものもそうなんですね。最近ちょっと、クラウドファンディングだったと思うんですけれども、災害の碑のことをおっしゃいましたが、あとそれ以外に古文書で、地震の記録なんかが残っているものがたくさんあるんです。ただ古文書なので、崩し字で書いてあるので読めない。だけれども全国にあると。それはどうしたかっていうと、崩し字の読み方を研究者がネットのところに置いて、このように読むんだ、この字はこうだというようなことをするページを作っておいて、それを基にしてそれぞれの地域の人が自分の近くにある古文書を入力していくんです。そうすると膨大な文書数が入力できてしまうという、そういうことをやっているというのがありましたね。だから、多分ネットの活用の仕方っていうのは、結構市民科学にとっては、いろいろなものを見出してくるという意味では、私たちがやった2005年ぐらいよりはずっとその条件がよくなっているんだなと思いますので、そこは是非これから開拓すべき部分なんでしょうねという気がいたしました。
 ほかにもどうぞ。御意見、御質問。どうぞ。
【小原委員】  シチズンサイエンスという言葉は知っていたのですが、今日、岸村先生と髙瀨先生にお聞きして、こういうものだと具体的に分かって、非常に参考になりました。ありがとうございます。
 シチズンサイエンスは、科学技術と社会の連携を具体的に進めていく考え方として非常によいと思いました。岸村先生は、科学研究の担い手として、アカデミアと市民と民間企業を挙げられていて、やはりそこがキープレーヤーだと思います。三位一体でやっていく。民間からの視点をお話しする立場の委員としてお話しすると、民間企業をシチズンサイエンスにどんどん巻き込んでいくとよいと思います。民間との連携方法として、「民間資金の活用」と岸村先生は書かれていますが、他に「民間の施設」もありますし、「民間のノウハウ」もあるので、それも活用できるかと思います。多くの民間企業は既に、CSR活動や社会貢献として施設や研究所をオープンにしたりしていますが、まだ“交流”にしかなっていないところが多いので、その活動を“シチズンサイエンス”と位置付けてやる、という視点を民間企業に与えていくと、「あっ、こういうこともできるんだ」というのがどんどん出てくると思います。そうすると、まさに三位一体となって、シチズンサイエンスがもっと活発になっていくだろう、という印象を今日のお話を聞いて受けました。
 “野生のサイエンティスト”が多くいらっしゃるということも興味深く、一般市民に向けて、「あなたたちもシチズンサイエンスになれるんですよ」と、積極的に言ってあげるとよいかと思いました。JSTの「STI for SDGsアワード」の審査を今年やらせていただいて、高校の先生と高校生が生き生きと科学に取り組んでいるケースがあったので、どういう人がシチズンサイエンティストかということを示して、「あなたたちもこんな役割果たせるんですよ」と明確にすることによって、もっとシチズンサイエンスって活発になっていくだろうなと思います。
また、小林先生が「なかなか、よい課題が挙がってこなかった」とおっしゃっていたのですが、社会の課題というのは、市民が原点だと思いますので、「市民のシチズンサイエンティストの役割は、身の周りの生の課題を挙げてくれることなんです」と言うと、実はどんどん挙がってくると思うんですね。そういうふうに、プレーヤーの役割と、期待される内容を明確にすることによって、シチズンサイエンスは、もっと進んでいく余地があるなと、今日は非常に強く思いました。
 最後に、個人的なケースですが、私、横須賀に住んでおり、NTTの研究開発センターや電力中央研究所が近くにあって、そこで開催されるオープンデーは、老若男女、列を作るぐらい入ってきて、すごい人出なんです。ですので、市民はサイエンスという言葉が結構好きだし、サイエンスに参加したいと思っていると思うんですね。オープンデーは施設見学だけなのですが、おじいちゃんやおばあちゃんもすごく質問をしますし、市民は、被験者やデータの収集元となるだけでも、喜んでサイエンスに参加するのではないかと思います。先程「時機が早い」というお話もありましたが、結構熟している感じが私はするので、今こそまさに、シチズンサイエンスというのが進めていく機運を盛り上げるのによい時期ではないかなと、先生たちのお話を聞いて思いました。
【小林主査】  何かご意見はありますか。
【小出委員】  よろしいですか。
【小林主査】  もうちょっと質問……。
【小出委員】  どうぞ。お答えあるんでしたら、先に。
【髙瀨教授】  済みません。今お話伺って、3点ほどコメントをさせていただきたいんですけれども、先ほどこのシチズンサイエンスが、どこまでがシチズンサイエンスかという議論はやっぱりありまして、例えばウエアラブル端末をこう着けて、寝ている間にデータだけとられると。これは、じゃあシチズンサイエンティストとはちょっと違うかなと思うんですね。ですので、シチズンサイエンスの概念整理というのは非常に重要なことかなと思っております。
 あともう一つは、そのシチズンサイエンスにどう参画するかという点で、ちょっとケースは違うんですけれども、スポーツイングランドっていう取組がありまして、これは要するにスポーツ参加率を上げようということなんです。スポーツって、私は結構習慣でやっているんですけれども、やらないとやらないで腰が重たくなると。このときにスポーツイングランドがよかったのは、パーソナリティー属性に応じて、どういうふうに誘導していこうかということを調査したということで、サイエンティストもサイエンスをするモチベーションで結構多様だと思うんですよね。ですので、シチズンサイエンティストもこうしなきゃいけない、これがサイエンスなんだからというのじゃなくて、シチズンサイエンスの取組がある中で、この人はこういうところか、この人はこういうところかなみたいな、そこはパーソナリティー特性に応じた誘導の仕方があるのかなと。それによってモチベーションが維持できるんじゃないかなと思いました。
 最後は、先ほど再現性問題、学術の責任、おっしゃるとおりです。私もすごくそう思います。で、そのときにその市民の行う科学のクオリティーですよね。私は何か最初は、それこそスポーツじゃないですけれども、いきなりオリンピックに出ろというわけではないので、アマチュアでもいいと思うんですよね。例えば心理学を学んだ学生が、さんざん学んで最後卒業してから、何か人と話しているときに、ああ、やっぱりあの人B型だからねとかと言われると結構ショックなんです。で、何ですか、つまりアティテュードを身に付ける、サイエンスを定常的に日常の中で行うことによって、サイエンティフィック、若しくは学術的なアティテュードを身に付ける、そこから始めるだけでも十分価値があるんじゃないかなと。いきなりクオリティーの話をするんではなくてどう広めるか、ここが第1段階なんじゃないかなと私自身は思いました。
 以上3点です。はい。
【小林主査】  ポスト・トゥルースの時代には大事なことですよね。
【小出委員】  クオリティー・コントロールというのは、確かに重要なことだと思います。いまの学校の教育現場でも、小林先生おっしゃったような「ポスト・トゥルース」(post-truth)といいますか、「水からの伝言」、「水にやさしく声をかけると良い香りに変わる……」という、科学的事実からかけ離れた、疑似科学、スード・サイエンス(pseudo science)ともいいますが、小中学校の教育の中で教えられたりしている問題を、見聞きします。もちろん教育現場全部ではありませんが、一つの問題になっていますね。
 こうした問題は日本だけでなく、アメリカではいまでも、進化論に基づく生物学の系統を全く否定し、すべて神が創造したという認識に基づく科学教育が継続されています。ケンタッキー州には、この思想を広める「創造博物館(Creation Museum)」があり、昨年、実物大の「ノアの方舟」テーマパークもオープンするなど、子供の教育をするためにやって来る親子連れも多いということです。米国の世論調査(Gallup)でも、40%以上の人が「創造説」を支持するという調査結果まであって、こうした米国での反科学論を取材した「ルポ 人は科学が苦手 アメリカ<科学不信>の現場から」 (光文社新書)が、話題になっています。
科学が発達し、私たちの生活全体に大きな影響を及ぼしている一方で、こうした反科学論も台頭して来ている、こうした状況で、それでは事実、ファクトは何かを明瞭にする努力、これは市民の中から、シチズン・サイエンスとして育んでゆく努力も、科学コミュニケーションの大切な役割だと考えています。
 こうした現場で、専門家と市民の間をつなぐ、インタープリターを務める人材をどのように育成するか、専門家、市民、もちろん教育行政も関わりますが、それぞれに、歩み寄る、狭い領域を超えてプロジェクトを進めて行けるような“意識改革”も、岸村さんも触れておられたように、重要だと思います。
もう一つは、科学者と、現業の専門家の問題です。
専門領域で、新しい知の地平を切り開く、という科学者の役割が重要であることはもちろんです。同時に、その底辺、あるいは周辺で、地道にデータを採取し、分析を続けてゆく「現業」という領域も、欠かせません。気象庁や、地球科学領域のデータベースの役割を考えればすぐに分かると思いますが、科学コミュニケーションには、この「現業」領域の努力、データベース、解析成果も、同じく重要だと思います。しかし、そこにはなかなか光が当たらない、研究・活動資金が十分ではない、「論文作成」に向かう専門家にも評価されす、社会的理解も進んでいない。科学技術政策に、コミュニケーションの重要性を歌うのであれば、この領域をどう評価し、コミュニケーションのフレームに入れてゆくかは、ぜひ考えるべきだと思います。
【小野委員】  よろしいですか。
【小林主査】  はい、どうぞ。
【小野委員】  「Science for the people Not Science for scientists」と、サイエンティストの方からわざわざおっしゃられたということが私にとって非常に印象的でした。事例としてクラウドファンディングのアカデミストさんの事例が出ていますね。アカデミストの取組を拝見していると、必ずしも、観測だったり、計測に参加するというところまでのモチベーションでなくても、科学的なことが大好きで、新しい情報を集めていて、いわゆる科研費では採択されないようなものでも、おもしろいと思った研究に自分のお金を少し出して、そういうものが進んで、お礼として情報や、直接研究者と会えるということで物すごく満足できる人が、1万人とか2万人の単位でいらっしゃったかと思います。研究の道具として使うサイエンスではなくて、科学を楽しむという意味でのサイエンスという層がベースメントで増えることの方が、まず一義的には大事なのかなと思います。
 おそらくサイエンティストの中にもいろいろな階層があるのではないでしょうか。中には御自分で研究に協力したいと思われる方もいらっしゃると思うけれども、それありきでシチズンサイエンティストと言ってしまうと、対等と言いながら、何となく道具っぽい印象を、申し訳ないのですが、受けてしまいます。アカデミストの雷の例は科研費では採択されなかったのに、ここで研究できて、そこでの成果を『Nature』に発表したら評価され、その次の年から科研費がとれるようになったという成功事例なのです。何かそういう循環の方が市民との距離感としても対等感が高くてよいのではないかと思います。
【岸村准教授】  それはおっしゃるとおりで、ある意味それは学協会が行えることもあると思って、各研究室の露出度を上げていって楽しんでもらう。例えば裁判の傍聴とかを趣味にされている方もいらっしゃると思いますので、例えば学会も少しオープンにすれば、それを見るのを趣味にされる方々もいらっしゃるかもしれないので、そういうのを一つきっかけにして広げていくという。学会もお金がない問題でいろいろあったりしますので、そこも少しサポートできるかもしれないというのは、ちょっと思ってはいます。
【小野委員】  シチズンサイエンスというのは、とても広い概念で、人によって受け止め方が随分違う印象があります。アカデミア側と市民側のとり方に、温度差のある領域だと思いますので、そこをうまく埋めるようなコミュニケーションを進めると、シチズン側の立場としては参加しやすいのかなと思います。
 小原さんもおっしゃいましたけれども、大企業とか、企業の中にいる個人も、企業が永続的ではないと感じる時代になってきていますので、個人として参加したい人の数も増えていると思います。産学連携や、オープンイノベーションというと、何かすぐ事業につながるような話と捉えられがちですけれども、企業の中の事業に直結することに携わっていない人たちも含めてうまく動かすということも、本当の市民側、地域の中の市民という意味ではない意味での市民という意味では捉えてもいい、レイヤーが違う話で申し訳ないですが、こうした考え方もあるのかなと思いました。
【小林主査】  確かに相当多様なレイヤーがありますね。だから市民科学という言葉が、シチズンサイエンスがちょっと広過ぎて、これがシチズンサイエンスと簡単には言えない。
【小出委員】  特にね……。
【調委員】  よろしいですか。あっ、ごめんなさい。三つぐらい。済みません、花粉症なので、ちょっとマスクして。
 一つ思ったのは、何でシチズンサイエンスって、まだ今言わなきゃいけないのかなっていう気がちょっとしました。それはどういう意味かっていうと、別にシチズンサイエンス的なものだけが特出しに、もうする時代じゃないんじゃないか。例えば地域の中小企業と何をやるとか、まちおこしに対して大学が貢献するとか、その中には、もう1個言うとサイエンスでやらなきゃいけないものもあれば、サイエンスと関係なくやれるものもある。そういうものに対する知の何かを提供する一つのプレーヤーとして、特に今大学のことを頭に置いていますけれども、場合によっては学会も存在する。そういうふうに考えないと、市民が来てください、これでというのは、20年前に私も、御存じのように調査とか行っていた、あの時代ではありだけれども、今はそうではなくて、特に私がちょっとやっている話でいくと、デザイン思考みたいなような話でやっている人たちは、そこ必ずしも区別していないですよね。ある部分ではソーシャルイノベーション、はやり言葉でいうとソーシャルイノベーションをやりますし、別のところでは市民科学的なこともやれば、まさに新しいデバイス、簡単なデバイスを開発して、それによって大気の状況を市民も参加して調査するなんて、もうこれは立派なシチズンサイエンスです。そこの間に垣根というか、区別がないんじゃないかなというのが、まず感じました。
 2点目は、一方で市民科学的なものが必要な局面というのは当然あって、その中で学会なり、あるいは学術会議というのは、どうやって信頼を得るんだろう、確保するんだろう。一般的には、それこそ子供の夏休みの宿題的なものであれば当然信頼されているわけですけれども、原発の話であろうが、多分今はやりだったら、それこそコロナウイルスの話だろうが、もう完全に信頼を失っている状態で、少なくとも全員にじゃない。社会全体じゃないですが、ある一部から完全に信頼を失われている、信頼されていない状況というのをどうするかっていう話はいろいろなところであって、これは我々の方が考えなきゃいけないことなのかもしれないですけれども、これどうしようかなっていう話が二つ目です。
 3点目は、どうでもいい話なんですが、たまたま今日、実はうちの子供が東京農工大の方に、まさに大学の先生にコンタクトをとって話を聞きに行くということをやっています。それは海洋プラスチック関係のリサイクルの話で、自分の中学校で一部でごみ拾いを町に出てやろうということをやり始めたと。それがうちの子は納得がいかなくて、環境問題に対してごみ拾いで対応というのはちょっと筋が違うだろうっていうのでやり始めたらしいんですけれども、でも、うちの子みたいなのがどんどん来ちゃったら、大学迷惑ですよね。はっきり言って。明らかに。なので、じゃあそういうのをどうするかっていうのはもう1個あるかもしれない。つまり問合せが来たときに、1回対応したらそれをどうやって次は共有するかとか、そういう部分がないと、しかもそれは一つの機関だけじゃなくて、いろいろな機関で結んでやれば、余り忙しくならずに済むんじゃないかなとちらっと思いました。3点です。
【小林主査】  ありがとうございます。これは大学として何か御意見ありますか。先生の方。
【髙瀨教授】  お話3点あったんですけれども、1点目に関してはまさに私もそう思っていて、やっていることは変わらないんですよね。科学者がやっていることも、いろいろなセクターの方がやっていることは、基本的にその課題を抽出して、仮説を設定して、実験、調査を、アプローチですけれども、してみて、その後にどうなったかというのを検証するということをやっているので、そのときにシチズンサイエンスをわざわざ持ってこなくてもいいんじゃないかという御意見もあるとは思うんですけれども、やっぱり文脈ですよね。改めてグルーピングしてカテゴライズすることによって、そういった風土を作っていく。そのためのキーワードなのかなと思っています。
 二つ目なんですけれども、その科学に対する信用を失う、これは非常に難しいところで、市民科学、もともと、ちょっと言葉は悪いかもしれないですが、左よりのところから始まっているわけですよね。だけれども、そういった方と、信用できないという方も信用できないから調査をしてくれるわけで、先ほどのスポーツイングランドの例ではありませんけれども、どういった、誘導といったらまたちょっと変ですね。どういった筋道で接触してくださるのかということを考えながらやっていく必要があるのかなと。そういったことで、地道な作業ですけれども、そうじゃない方もいらっしゃるので、いろいろな方を場合分けしながらコミュニケーションをとっていけばいいんじゃないかなと思いました。
 情報共有は非常に悩ましいところで、ちょっと解決策はありません。
 あと、先ほど小野先生がおっしゃってくださった対等ではないという。これ実は認定心理士の方からもよく御意見頂きます。搾取しているだけじゃないか、いいように活用しているだけなんじゃないかと。何か文章を書くと、全くそんなつもりはないんですけれども、偉そうとか言われて。いや、そんなつもりはないんですけれどもみたいな話で、具体的にお話をすると分かっていただけるんですね。ああ、そういった意図なんですかみたいな。あとは、同じような事例がほかでもありまして、そういうときにどうしているんですかと聞いたのは、困っている感を非常に出しましょうと。例えば再現性問題、非常に私は困っているんですね。こういうのが一般の方には伝わらないみたいで、会うたびに困っています、困っていますと言います。そうすると、しようがないから手を貸してあげようみたいな方が何人か出てくるというような状況です。非常に、何ですか、位置関係ですね。私もセンシティブになっています。難しいところだと思っています。どうも御意見ありがとうございました。
【小林主査】  多分その対等感みたいな文法というか、イディオムが、大学の先生の中に基本的にないので、結局ふだんは学生に対して教える側にいるというスタンスで生きているわけですね、これは科学という営みに関して、知識の利用者と生産者ができるだけ同じ対等の場面で作っていこうという、トランスディシプリナリーみたいな議論と非常になじみのいい試みなんだと思うんですよ。トランスディシプリナリーというのは、結局論文がたくさん出ても、ちっとも社会的な課題解決につながっていないという環境問題に関して出てきた議論で、そうすると、やっぱり本当にその問題に対して困っている人々が使える知識を作るにはどうするかっていう議論から始まって、そうすると知識のユーザーがアジェンダセッティングにちょっと関わって、そして研究に関してのモニタリングをしたり、協力をしたりして、出てきた成果を本当に問題解決に使おうよという、そういうモデルだったんです。だから、その中のステークホルダーとして市民というのが、今ちょっと、今日はハイライトが当たっていると考えると、広い意味ではトランスディシプリナリーな研究というのは、社会課題にオリエンテートすると、どうしてもそういうタイプの研究が必要になってくるんだろうと思うんですね。だから、先ほどの社会課題とつなぐという、碑の問題とか公衆衛生とかですね。そういう問題になると、もうそのユーザーというか、ベネフィッシャリーというか、そういう人たちを巻き込んだ研究にするというのが一番うまくいくわけです。だからそういうところでは、割と広がりがあり得る取組で、それを市民科学という言葉遣いをすることがどのぐらい有効かというのは、ちょっと微妙になるのかもしれないですね。どうなのかな。
 あとちょっと僕、岸村さんが課題解決のための図書館というのが一つの流れだっておっしゃったじゃないですか。これはどういう図書館なんですか。
【岸村准教授】  私もちょっと本で見ただけですけれども、最近、要は貸出し数を増やすだけが図書館の目的ではないというような話がありまして、例えばニューヨークの公共図書館であれば、ITインフラを備えた、データベースとか使いやすいフリーアクセスの拠点として、ビジネスを起こすときの支援ですとか、あるいは地域課題を解決するために、基本的にはどういう情報をとったらいいかというのしか司書の方はできないかもしれませんけれども、例えばこういうところにこういうのがあるので調べたらどうかとか、こういうところと、特にビジネスライブラリアンと言われている人は、本のことだけではなくて、もちろん本も紹介するんですが、それを一つ基点にして、実際つながりを持つような形で、例えば何とか学会とかにつながったらいいんじゃないですかとか、周りの企業、地域の企業とつないでもらったりして、産学連携のようなものも起きやすくするような土壌をセットするという意味で、地域に密着したある種の情報拠点というんですかね、というのを進めようというのが、これもともと文科省の政策で大分前から行われているものだと思いますが、徐々に根づいて、結構地域で目立っている図書館というのも出てきているという話が……。
【小林主査】  日本でも出てきている?
【真先戦略官】  あります。もうちょっと古い記憶で恐縮なんですが、私も平成十四、五年ですか、そのぐらいの時代にうちの社会教育課というところにいまして、図書館も担当していたんです。当時図書館というのは、やっぱり情報発信拠点としての位置付けというのを、何とか地域の教育力の発言の場としていかなきゃいかんという、そういう問題意識が一つありました。具体事例では、例えば千葉県の浦安図書館でしたかね。先ほど司書さんが、単なる貸出しのあれをする人ではなくて、さらにビジネスマンの悩みに応じて適切な図書を紹介するであるとか、そういうことまでできるような、そういう能力を生かして随分活躍されていたと思います。そういう事例も日本ではありました。かなり注目されていたはずですね。そこにおいては、もうかなり以前からやるところはできていますね。津々浦々一般化されているかどうかは、ちょっと私も最近よく分かりませんけれども、そういう事例はやっぱりあるわけでございます。
【小林主査】  それはすごく大事な話ですよね。あと、だから博物館の役割と、両方は相当重要なメーターですよね。
【真先戦略官】  ついでに申し上げますと、私は博物館も担当していました。社会教育課の博物館と図書館と公民館ですね、社会教育施設を担当しています。こういった施設をやはり生かして、地域の教育力の、何ですかね、一番活躍の根源としてやっていただきたいということで、博物館も美術館とか歴史博物館のように、非常に美しい展示物をガラスケースに入れて、来る人には見せてやるみたいな、それではいかんと。むしろアクティブに来館者を招き入れ、市民の学習意欲を増進させるような、そういう博物活動が大事であるという、そういうことを当時も宣言しております。基本的に、ですからアクティブな、体験型の施設とか、そういったものを増やしていくというのも、その現れではないかと思うんですが、またちょっと博物館は別のいろいろ、財政的な問題とか、苦しい問題がたくさんございますので、こういうのを市民社会全体でどうやって支えていけるのかというのは非常に大きな課題です。
【調委員】  そういえば公設試とかJSTプラザ、もう潰されちゃいましたけれども、ああいうやつも実はそれでも結構よかったんですが。
【真先戦略官】  せっかくですので、大分いろいろな話で触発された気がするんですが、岸村先生がおっしゃるように、シチズンサイエンスという用語をあえてここでこう強調するのが、いい場面とそうじゃない場面といろいろあるだろうなというふうに感じましたね。お進めなさっている話は、シチズンサイエンスと呼んでいないんだけれども、かなり多くのところでいろいろな形で活動している話とオーバーラップして見えました。その中で一つキーとなるのは、やっぱり大学の取組として、私どもが今後政策につなげていくものとして、大学の取組をどう考えたらいいのかというふうなことをまず一つ思いました。
 岸村先生のお話で、九州大学の事例でこういう活動がなかなか大学の組織が活動して認知するにはまだまだ距離が遠いという話があったんですが、もちろん高知大学の事例は知っておるんですけれども、もっとローカル、地方の大学に行きますと、相当地域貢献という形で、もっと具体的な活動を大学が組織的にやっております。例えば高知大学と次世代創生センターでしたか、そういう組織を作り、地域コーディネーターさんというのも高知大学の職員として雇って、その方を各地域に派遣し、直接市民と常に地域課題の、何というんですかね、収集じゃないですね。ディスカッションをどんどんしていくんですね。日常的な活動をされています。それをどう解決できるのか、大学としてというのをまた大学に持ち帰るという、そういう活動もされている事例はあります。こういったところが、日本の大学の中でも、機能として、名ばかりのところなのか、実をもってかなり積極的に取り組んでいるのかっていうのは、いろいろあるんですよね。そこの実態をよく見ていく。そこをシチズンサイエンスと呼ぶかどうかというのはまた別問題。
 で、そこの部分は、最近の、やはりSDGsの策定以降、日本国内でも大いに社会課題の解決という意味で、いろいろな取組がかなり盛んになってきていると。これは日本だけじゃなくて国際的にもそうで、EUのHorizon Europeの今の検討状況を見ますと、ミッション型も随分強調されて、そういったところを、社会課題をどう向かい合って、これはある会社がやるとか、ある産業、産学連携だとか、そういう世界を飛び越えて、どう社会課題に取り組んでいこうかという、むしろ直接的にそういう活動が今高まっていると思っています。この流れは、例えばJSTの事業でも、かつては科学コミュニケーターを作っていくという事業をやっておりました。これはSDGsをつなぎ合わせて、今SOLVEという事業にまた模様替えをしました。こういったところで、これはシチズンサイエンスと呼ぶかどうかってまたありますが、地域の住民の皆さんが持っておられる課題というものを解決するためのフレームワーク作りとそのソリューションという、それもそのまま事業として進めてきている状況にあります。
 それだけではありません。例えば未来館の取組も、数年前も毛利館長がここに来て説明をされたとき、科学コミュニケーターが今後どうあるべきかということで、いろいろ御説明がありました。説明というか、思いを語られた部分がありましたが、やっぱり科学コミュニケーターというのは従前の理解増進の役回りだけではなく、まさに重層的です。地域の社会課題に貢献できるような、そういう役回りというのが今後期待されるということもおっしゃっていました。まさにそういう担い手としての科学コミュニケーターというのは非常に期待されます。
 認定心理士のお話もそうなんですが、ほかにも、多分この手の話、この手というか、こういう課題解決に貢献できる人材というのは、非常に多くの方々が世の中にいらっしゃって、そういった方々をどう具体的に、その地域課題を例えば一つとってみますと、そこのグループないしはコミュニティーに、そういう力を取り込んでいくことができるかっていうのが非常に大事なことではないかと。こういったところを具体に動かしていくというのが、これは小野さん、小原さんが、民間の世界で多くのネットワークを活用され、様々なステークホルダーの中でのディスカッションを高められていると。まさにそれも重要な機能だと思います。こういったものをいかに全体に取り込んで、具体なゴールは、やはり目の前に見えている課題が本当に解決に向かっているんだろうかというところを非常に多くの方が関心を持って見られるので、そこの足跡をしっかり見せていくというのが、具体的には大事なことではないかなと思いました。ちょっと、まだまだありますが、取りあえずそんなところで。
【小林主査】  ありがとうございます。大学の中でというので、より地域に密着したタイプの大学と、それから旧帝大系みたいに世界と戦えと言われている大学とで、なかなかその取組の温度差が出てきてしまうんですね。それは研究者の意識だけの問題じゃなくて、結局社会課題の解決というのをテーマにすると、社会課題の解決に貢献すれば評価されるべきなんですよ。本当は。だけれども、社会課題に貢献するということは、別に論文にならなくたっていいわけですよね。ところが論文にならないと評価されないという仕組みの中で生かされている研究者は、それはつらいわけですよ。しかもそれを数量的に分析して、ランキングとか何とかに使われるみたいな話をやらされると、理事のような役割の人間は、頼むから論文の数を増やしてくれみたいに言わざるを得ないわけです。でも、片一方でSDGsに貢献する大学ですというふうに言おうとすると、それはやっぱり社会課題に直結したことをやると、それが必ずしも論文になるかどうか分からないですよね。でも、論文にならなくても必要なことは必要なんですよねというところのジレンマを両方やれって言われたら、研究者はしんどいという構造を痛感しましたが、何かそんな感じしません?
【岸村准教授】  まさしくそのとおりだと思います。
【小野委員】  民間企業も、いわゆるPLを追いかけている会社、株主資本主義で、売上げ、利益だけ追いかけてる会社、それが、いわゆるCSV(Creating Shared Value)的な会社、どういう価値を社会に提供するかという方向に今大きく変わりつつあるじゃないですか。
【小林主査】  今、もうESG投資ですよね、さらに。
【小野委員】  大学も変わっていかなくてはならないと思っておりまして……。
【小林主査】  おっしゃるとおりです。
【小野委員】  大学にとって、まさにPLはイコール研究論文の数だと思うのです。アウトカムとして何を社会に提供するかということについて、大学側が指標を持たなければならない、非財務価値を大学側でどう定義するかという議論をする時代になってきているということでしょう。
【小林主査】  おっしゃるとおりです。本来そうあるべきで、例えば三菱商事は石炭、一般炭と言われているやつですね。あれを使ったビジネス全部やめましたよね。それはあれをやっている限り、グローバルマーケットでESG投資の点からマイナスの点つけられて、それは全体としては損だからというので、物すごい利益率があったのに捨てるわけですよね。だからマーケットの構造が変われば、そういう意味でのプレーヤーの行動を変えることができるっていう仕組みなんですよ。
 今、大学の場合も、マーケットというものはないにしても、やっぱり大学をコントロールする仕組みっていうのはあるんですが、その一つが論文数になっているわけです。だからそこが……。
【小野委員】  それはだから、文科省が変えないということですね。
【小原委員】  でもあれですよね。日本だけじゃなくて、世界的にあれですもんね。それは何か世界的な議論になってくる。
【岸村准教授】  大学でいえば、要は、どう新しい人材を獲得するかっていうところにも既に関係しているという話もあって、入学者が満足しなくなってくる可能性があるんです。今までの基準だけでカリキュラムを作って、研究のアウトカムを論文だけですみたいにしたときに、新しい学生さんが既に失望しているという話もあったりしますので……。
【小林主査】  そこが一番深刻かもしれないね。
【岸村准教授】  新しくコースを作ってそういうのを標榜すると、結構集まりやすかったりするので。やりたい人は多いんです。
【小出委員】  特に日本はそうだと思いますが、実学が、いわゆる論文として評価されないという伝統、このシステムは、とても残念なことです。例えば英国では、科学コミュニケーションの大学院教育には、実践、実学の要素が極めて多い。コミュニケーションの現場に出て行って、すぐに役立つ知識、体験、行動力を身に着けさせる、それを評価し、論文として審査し、学位を授与する仕組みが作られています。
また、市民の視点で独自に活動する、社会に働きかける「シティズン・サイエンス」のひとつの例として、「セーフキャスト」(Safecast;https://safecast.jp/about/)という組織が、日本にあります。
 2011年3月の東京電力・福島原発事故によって放射性物質の拡散が社会的な不安となった時、日本政府や東京電力の情報提供が信用できない、そもそも情報発信やコミュニケーションがない、という状況に不安を持った、東京在住の米国人、オランダ人、そして米国のMITメディアラボの所長だった伊藤穰一さんの3人で立ち上げた、放射線自主測定し、情報の公開する組織です。
 政府や原子力界に頼らなくても、人々が、自分たちで測定したデータによって、自ら力を持てるよう、データを提供する活動を、世界規模で行うプロジェクトに発展しています。
このグループは、世界各国を駆け回る会員のビジネスマンや旅行者とも協力して、同じ形式のガンマ線カウンターを持ち歩いて得たデータを、Goodle Earth上に蓄積して、膨大な観測データベースを作り上げています。興味深いことに、福島事故現場周辺のデータなど、日本政府や福島県などのデータと、Safecastのデータがほとんど一致しており、観測の信頼性をお互いに高めている、というようなことも報告されています。
このシチズン・サイエンスの領域で、調先生におうかがいしたいのは、ネットの活用によって、シチズン・サイエンスの在り方もどんどん変わっているのではないか、ということです。
ニコニコ学会の、江渡浩一郎さんたちの活動もそうですし、それから、高エネルギー加速器研究機構(KEK)では最近、SuperKEKBでの素粒子の衝突現場をニコニコ動画で中継し、それを17万人以上がネットを経由して見守るという、広報プロジェクトも登場してきています。
もちろん、衝突するチェンバーの中に入り込むわけではなく、その外観を映し、実験室でモニターを中止する研究者らの表情を映し、そして衝突成功、散乱粒子の動態が確認できたときの、彼等の興奮をニコニコ生中継し、ということなのですが、これなどは、素粒子物理学の世界に初めて市民を引き込んだという面で、シチズン・サイエンスの一翼を担っていると思います。
仁科芳雄博士が1920年代、英国やデンマークから持ち帰ってスタートした素粒子物理学ですが、十数万人という市民がその第一線に立ち会った、というのは、日本の物理学の歴史でも初めてのことですし、ネットを活用すれば、これだけの実績が挙げられるという実績でもありますね。こうした面から考えると、シチズン・サイエンス、そしてネットワーク、データベースの活用は、第6次科学技術基本計画のコミュニケーション領域を考えて行くうえで、はずせない要素だと思います。
【小林主査】  セーフキャスト?
【小出委員】  セーフキャストね。SAFECAST。もうホームページで日本も出ていますし。
【小原委員】  今、NPO法人化していましたよね、たしか。
【小出委員】  もうしているんでしたっけね。
【小原委員】  渋谷に本社があって。
【小出委員】  渋谷にあって、誰でもそれはできるし、同じ格好の、こんな弁当箱に入れた。
【小野委員】  お弁当箱の中に、どうやってガイガーセンサーを入れたらいいかというのも全部教えてくれるので、個人が自分で参加できると伺っています。
【小出委員】  で、とってきたデータをみんなそこに入力すれば、グーグルアースの中に入れればどんどん広がるという、相当、もうかなり広がっているんじゃないかと思うんですけれども。
【小野委員】  そうですよね。
【横山委員】  もっとも国に関して一つ補足させていただくと、僣越ながら、やっぱりAIが出てきて、解析の手伝いをするというようなタイプのシチズンサイエンスがこれからなくなっていくはずなんですよね。そのままの設計にしておくと将来先すぼみなので、本質的にやっぱり面白くて、一緒にやる価値のある課題と巻き込み方というのが大事になってくるんじゃないかなという気がいたします。
【小林主査】  なくなっていくというのは?
【横山委員】  例えば銀河の分類作業などは、すぐではないにしろ、AIで解決をしていくと思います。データの解析部分が、まだAI化されていないところを、人手を欲しいということで募って一緒にやるというようなタイプのものが多いんですよね。
【小林主査】  なるほど。ああ、そういうことですね。
【調委員】  崩し字とか。
【横山委員】  そうですね。AI化され始めていますよね。そういうものは、今後まさに何というんでしょう、インターネットとAIの活用でなくなっていく、物理学者たちは今そこをすごい力を入れて、AI開発をやっていますので、もう進んでしまうので、そういうタイプじゃない、だから本質的におもしろい課題を抽出して、必要なことを社会課題のためにやっていくというようなスタイルじゃないと、人海戦術のための市民科学というのはもうなくなると。
【小林主査】  なくなる、なるほどね。
【小野委員】  さきほどの真先さんの話を伺って思いましたが、おもしろい課題を見つけて、見える化したり、実証していくようなことと、それを社会に実装するということの間には結構大きなギャップがあるのではないでしょうか。社会に実装するとか、事業にするというところは、概念としてサイエンスの範囲を超えているのではないかと思います。社会課題というと、どうしても社会の実装というニュアンスが強くなるので、言葉のニュアンスとギャップがあるいう印象を受けました。
【真先戦略官】  おっしゃるとおりで、ちょっと私も先ほど申し上げた、やっぱりSDGsの話というのは非常に大きなインパクトだと思うんですね。国の大きなプロジェクトも、研究で終わらせるなと。社会実装までして初めて本物っていう、だからイノベーションという言葉が、今科学技術だけじゃなくて、イノベーションというのがつく。開発基本法もそういう概念が、今般の開発で検討されているということですから、研究から社会実装まで一気通貫に行くイメージが非常に強いんですよね。そういう中でサイエンスというところを切り取って、そこをどういう価値観を持って眺めるのかというのをやっぱり、言葉の使い方は非常に重要でございまして、何のために、そこを力点を置く部分というのはやっぱり、アカデミーの世界で非常に重要じゃないかという気がこれまたします。地域貢献、社会貢献というとただの貢献じゃない、やっぱり一定の価値観としてものを見るという、そういうところで、実は価値を持つのかなという気もしないではないんですが、そういうことで、多分やっていることはいろいろ、世の中で動いてる話と非常にシンクロしています。同じことをやっている。どういうものかというのは、やっぱり時と場合ということもあるのかもしれない。この辺をよく整理してやるといいのかなとちょっと思ったりいたしました。
 以上です。
【小林主査】  はい。大体予定の時間が参りましたので、議論はこれで閉じたいと思いますが、若手アカデミーのみなさんがシチズンサイエンスをこうやって重要だというふうにずっとアピールしていただいていて、これ大変ありがたいことなので、もっと促進するにはどういうふうなことを、例えば政策対応としてやるべきなのかといった提案も、あれば是非頂きたいと思います。やはり頑張っているよねで終わるよりは、何とか、そういうことをきっかけにできればと思いますので、そういう御提案も是非頂けたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【岸村准教授】  一応今提言は準備中で、提案のチャレンジはありますので、いずれ出せればいいかなとは思っています。是非拾っていただけるとありがたいと思います。よろしくお願いします。
【小林主査】  多分人材政策課の中でも議論していただけるはずだと思いますので、よい提言を。
 はい、それでは今日の委員会の時間も参りましたので、これで閉じたいと思います。どうもありがとうございました。
 それでは、今後のスケジュール等について事務局の方で説明をお願いいたします。
【小田補佐】  はい。途中で局長の方からもお話ありましたけれども、総合政策特別委員会の方の報告書は、中間取りまとめは去年の10月に終わっておりまして、今年の3月に最終報告という、そういう形になってございます。
 社会連携委員会の方ですけれども、次回の開催については、先生の皆様の日程の調整を改めてさせていただければと思います。
 それから毎回のお願いですけれども、本日の委員会の議事録につきましては、作成次第先生方に御覧いただいて、後日文科省のホームページに掲載させていただきます。引き続きよろしくお願いいたします。
【小林主査】  それでは今日はこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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