平成29年7月5日(水曜日)14時00分~16時00分
文部科学省 東館15F科学技術・学術政策局会議室1
小林 傳司 主査、内田 由紀子 委員、片田 敏孝 委員、田中 恭一 委員、原田 豊委員、堀口 逸子 委員、山口 健太郎 委員、横山 広美 委員
塩崎科学技術・学術政策局人材政策課長
説明者:科学技術振興機構安藤理事、科学技術振興機構社会技術研究開発センター津田企画運営室長
○開会の後、議題1及び議題2。人事案件のため非公開。
【小林主査】 それでは、これより会議を公開といたしますので、報道関係及び一般傍聴者の入場を許可したいと思います。
(傍聴者入室)
【小林主査】 それでは、事前に登録のあった写真撮影希望の傍聴者の方については事務局の指示に従って撮影をお願いいたしします。
【事務局】 撮影希望の方はいらっしゃいますでしょうか。大丈夫でしょうか。
【小林主査】 御欠席なのですか。はい。
それでは、委員会の発足に当たり、科学技術・学術政策局人材政策課長から、一言御挨拶を頂きたいと思います。
【塩崎課長】 済みません。遅くなって申し訳ございません。人材政策課長の塩崎と申します。よろしくお願いします。
前期のこちらの安全・安心科学技術及び社会連携委員会においては、安全・安心なども含めていろいろと御検討いただき、更に平成28年1月に、閣議決定がされました科学技術基本計画に基づいて、各分科会、分野の方で取りまとめられる研究計画の中に、横串ということで、いろいろと社会連携の観点から入れていただきました。
これから始まる2年間ということで、今年度につきましては、実際に科学技術基本法でまとめられた、ちょうど第6章の方に書かれている、先ほど見ていただきました資料2-1に書かれているようなステークホルダー間の共創の推進を通じた新たな科学技術の社会実装の取組の在り方ということで、3点ほど挙げさせていただいておりますけれども、そちらの方について御議論いただき、この5年間の科学技術基本計画の基づくその実効性の中できちんと効果を上げていく、そういった取組にしていきたいと思っておりますので、御審議方よろしくお願いしたいと思います。
【小林主査】 それでは、私からも一言御挨拶をさせていただきたいと思います。
今、課長からも説明がありましたように、この委員会の議論というのは、第5期の科学技術基本計画の第6章、社会との連携に関わるところの部分を中心に議論してまいります。
先ほど資料2-1にもありましたように、ステークホルダー間の共創の推進を通じた新たな科学技術の社会実装への取組の在り方というふうなところにアンダーラインが引いてありまして、3点まとめてございます。
科学技術基本計画の歴史の中で、このような社会との共創というものは、期を追うに従って強化されてきたというふうに思います。当初の頃は、科学技術に関する国民の理解を測定するという、そういう調査研究のようなものが出発点でございました。その後は、分かっていない国民に対してどうやって正しい科学技術を教えるかという、そういう啓蒙モードがしばらく続いておりました。ですから、これは理解増進活動などと言っておりまして、これは日本だけではなくてヨーロッパも同じような歩みをしてきております。21世紀になった頃から、そういう発想自体を見直そうということで、社会とともに創るというような言い方がどんどんと出てくるようになりました。
実は、こういう共創とかコ・クリエーションという考え方をどのように具体化するかというのは、多くの国が悩んでいるところであります。ELSIという議論も、そのような文脈でよく引き合いに出されてくる議論だと思います。また同時に、いわゆるイノベーション論においても、例えばトリプルへリックスという議論がありまして、これはアメリカのスタンフォードが日本のイノベーション政策をモデル化したときの言い方で、3つのらせんなのですが、その3つというのは産・官・学でありました。これは日本の通産省のやっていた仕組みを非常に評価していたということでありました。このトリプルへリックスから現在はクワドゥルプルへリックスと言って、4つだという言い方をしております。そのときの4つ目というのは、civil societyとかcitizenとか、そういう言い方、あるいは産・官・学というふうな日本語の言い方で言えば、社ですかね。社会と。そういう4つが絡まなくてはいけないというのが、イノベーション論の議論の中で出てきております。
それから、日本学術会議の方でも、相当に強調しているのが、というか世界的に協力していこうというのが、フューチャー・アースという環境問題の研究です。ここではtransdisciplinaryという言い方で、研究課題の設定の段階で、知識のユーザーがきちんと参加するという、そういうモードを入れなくては、社会にとって実装可能な研究が生まれてこないのではないかと、研究者の関心だけで、研究者のモードだけで生まれてくる研究が、現実の社会になかなかかみ合わないというところの問題意識から生まれてきております。
こういった議論がことごとく、今回のこの議論のモデル、この委員会のテーマになってくるかと思っております。ですので、そういう点では、今日お招きした社会技術研究開発センターというのは、そういうタイプの研究を非常に早い段階に日本で取り組んでこられた。世界的にもかなり先進的な研究センターの1つではないかと思いますので、そこでどのようなことがなされてきたのかというのは、この委員会の出発点においては大変貴重なものであるというふうに認識しております。
そして、この委員会の中で今後、日本でどのような形でこういう問題に取り組んでいくかというのを、一度きちんと考えたいという問題意識を持っております。実は、研究公正に関する全国組織というものが、一昨年法人化してまいりました。この間、その総会といいますか理事会で、いろいろと議論をしたわけですが、いわゆる研究不正に対するトラブルシューティング的なものでは、もう研究のガバナンスは回らなくなっているのではないかという問題提起が、多くの方からなされました。
その中の事例としては、当然、研究不正のところの出発点にもなった生命科学で、様々な議論、ガイドラインの作成、あるいは最近だとゲノム編集ですね。ああいったものをやっていくときに、どういうふうな配慮が必要なのかというのは、研究者も悩んできていると。あるいは、情報科学関係、これは相当そのタイプの問題が多いのではないかと。実際、現場の工学系の研究者が、こういう技術は持っているけれども、実際に社会で研究活動するときに、自分たちの感覚だけで技術を使った実験をやっていいのかどうかが、もうよく分からないと、これは非常に危険だと思うという言い方をされている。そういうタイプのものがどんどん増えてきているので、こういうものをもう少しきちんと対応するような仕組みが必要だろうと。
情報関係に関しては、日本でどういうふうな研究対応がされてきたかというのを調べたことがあります。そうすると、実は欧米と同じく非常に早い時期にそういう研究が立ち上がっております。振興調整費のようなお金でやられておりました。問題は、その振興調整費の期間が終わりますと、そこで培われた研究資産、それから研究者のネットワークが、ばんと消えます。そして、数年後に全く別のところのファンディングで、同じようなものが始まりますので、また一から同じことをやっているのですね。それを繰り返している間に、欧米は最初のところで作った組織がずっと継続して、議論を蓄積し続けることができたことによって、国際的なこの問題に関するアジェンダセッティングは彼らがやっていると、そういう状況になってしまっております。
そういう点で、こういう科学技術を日本が捨てない限りは、ELSI的なものは絶対に必要な基本的なインフラストラクチャーとしての側面がありますので、これをどういうふうに作っていくかというのも、長期的にはこの委員会の中で一度議論してみたいというふうなことは考えております。
そういう点では、大変私は重い委員会、重要な委員会だと認識しておりますので、皆様お忙しいとは思いますけれども、是非御協力を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
ちょっと長くお話ししてしまいましたが、それでは、議題3の方にまいりたいと思います。新たな科学技術の社会実装に向けた取組に当たって社会との連携のためにあらかじめ組み込むべき仕組みについてでございます。これは検討事項の1番目に対応したものでございます。これは事務局の方から御説明いただきたいと思います。
【阿久澤係長】 先ほどの議題でも御案内をいたしましたが、科学技術の社会実装に向けては、人文社会系の研究者や、多様なステークホルダーとの協働が必要ということで、協働の在り方について、御議論を頂きたいと考えております。今回は、まず社会技術研究開発を長年実施してまいりましたJST社会技術研究開発センターより御説明を頂いて、その後、先生方のお手元に配布をさせていただいております資料2-1と、それから論点について検討をしていただきたいと考えております。
JSTの安藤理事、それからRISTEXの津田室長にお越しいただいておりますので、資料3に基づきまして、安藤理事より御説明をいただければと思います。よろしくお願いいたします。
【小林主査】 それでは、安藤理事、よろしくお願いいたします。大体40分程度お願いしたいと思います。
○資料3に基づいて、JST 安藤理事から説明。
【小林主査】 どうもありがとうございました。
厚みのある課題について長年取り組んでこられたことがよく分かりますが、今の御説明、あるいはその後参考資料も付いておりますので、これも含めて御意見とか質問をまず最初にお願いしたらどうかと思います。それとともに、議論を進める上で論点ペーパーというのを机上配布しておりますので、一番下の資料、とじておりませんで、紙で配っておりますので、これも参考にしていただければと思います。
今、安藤理事がいろいろと課題として挙げられたものも、ここには含まれているように思いますが、まさしくステークホルダーの関与という共創の在り方について、どういうものが問題点であるかということですね。これは特にテーマの決定という上流でのテーマ決めの問題、それから2番目はどちらかと言うと既に行われているというか、他の機関での研究活動への関与の仕方、そして3番目は特に重要だとおっしゃっていましたが、人社系を入れるということはどうすれば可能かという問題。それに加えて、私が先ほど申し上げた人材育成ですね。こういう関わり方のできる人材が放っておいたら生まれてくるかというとなかなかそうではないので、それでは社会技術開発センターがやってこられた活動の中で、若手が何とかこういう問題群に関心を持ち続けてきたという、そういう点では、人材育成を結果的にはやっておられましたねという気もするものですから、そういう点も含めて御議論いただければと思います。
どこからでも自由に、今日は質問なり何なりからどうぞお願いします。
【堀口委員】 質問していいですか。
【小林主査】 どうぞ。
【堀口委員】 実装のイメージがなかなか湧かないのですけれども、どういう、言葉の定義とかも調べたりもするのですが、ここのところで言っている実装って、どういうものを言っているかというのを教えてほしいのですが。
【津田室長】 では私の方から回答させていただきます。
社会実装という言葉自体は、我々ももうバズワード化しているというふうに思っています。いろいろな意味合いで使われておりますが、我々の中では、研究開発成果が社会に普及・定着することというふうに思っています。そういう状態にあることを社会実装がなされているというふうに解釈をしています。したがって、我々が言っている、今、研究開発成果実装支援プログラムというのがあるのですけれども、あれはあくまでも成果が社会に普及・定着するためのエビデンスを、そのプログラムを通じて社会に提示していくという位置付けであるかなと思っております。プログラムの中でやっているプロジェクトの金額とか期間とかを考慮しますと、多分社会全部に定着させるというのはちょっと難しいかなと思っておりますので、そのためのエビデンスを提示するための機能というふうに認識しています。
【堀口委員】 今の説明でよく理解しました。
それで、6ページの政策立案のための協働というところに、研究者と政策立案者の協働を志向と書いてあるのですけれども、例えば私が今回、今回というか数年前に実装プログラムに応募したときの研究は、厚生労働省の研究だったので、もう、先ほど言いましたエビデンスの提示まで求められてしまっているのですね。要するに。なので、エビデンスはもう証明できましたと。ものは開発しています、だけれども、先ほど言われた普及・定着ができていないのでどうしたらいいのかなというところで、プログラムを作って、プレのプログラムをもう政策立案者の厚生労働省から求められていたので、それの評価まで終わってしまっているものなのですよね。なので、例えば戻ってきた評価、落ちたときの戻ってきた評価とかを見ながら、エビデンスまで研究費でもう既に求められてしまっている、政策立案者からは求められて、そうでないと研究が続けられないという研究費でやってきたものについて、社会実装をどうするかというふうに考えていただけると有り難いなと思いました。
もう1点は、今、私は食品のことに関わっているのですけれども、今、食品分野でやはりレギュラトリーサイエンスの人材不足、それから評価をするマシンとか方法についての研究に視点が行っているのですけれども、実際に評価を行っている、要するに皆さんでディスカッションしながら、評価をするという行為、もう一応レギュラトリーサイエンスを担う人々だと私たちは思っていて、それについての人材に対する評価がなかったりとかするので、このレギュラトリーサイエンスをどのように、大事な社会実装だと思っているのですけれども、どのようにこの中に当てはめていけばいいのかなというイメージがちょっと湧かないので、何かヒントなどを教えていただけると有り難いなと思うのですけれども。
【津田室長】 はい。ちょっとヒントになるか分からないのですけれども。
今の、正に御指摘いただきました、この科学技術イノベーション政策のための科学に関しては、医療分野なのですけれども、あるプロジェクトがレギュラトリーサイエンスのことをやっています。それ以外の、このプログラム以外としては、いろいろ領域ごとにテーマがありまして、例えばこの領域は安全・安心とかをやっていると。こっちの領域は地域を多世代でどうやって活性化していくかというのをテーマにしている。こっちは虐待とかDVをテーマにしている。それぞれテーマがあるのですけれども、その中で規則という点でどういうふうなアプローチができるかというのは、多分テーマごとに違うアプローチをしているとは思うのですが、例えばそれがある領域では個人情報保護法と言う観点でどうしたらいいかという検討だったり、別の領域ではまた違う観点で検討したりとか、多分そこは領域ごとのテーマ設定によってしまうかもしれません。というのが、今の我々の状況です。
したがって、食品というような領域が立てば、今、先生がおっしゃったようなレギュラトリー的なところがかなり入ってくるのではないかというふうには思います。
【堀口委員】 例えば、この科学技術基本計画の、多分、食品安全、生活環境、労働衛生等の確保という、20ページに書いてあるのですけれども、この分野では非常にレギュラトリーサイエンスとかがベースになるのかなと思っていて、特に新しい機械を開発するとかそういうものでなくても、これまでの行われた研究を、AIを使うのか、使えないのでまだみんなの頭で考えているのですけれども、そういうようなものもやはりサイエンスとして考えていただきたいなと思っています。
非常にそういう人材が、もうほとんど枯渇してきている現状なので、大学でもなかなか評価をしていただけないので、大臣表彰制度を今年度、内閣府の方で作らせていただきましたので、そういうところとも是非連動していただければと思います。よろしくお願いします。
【小林主査】 レギュラトリーサイエンスは象徴的な例だと思いますけれども、日本の弱いところです。
恐らくこの社会技術という議論が始まったときには、いわゆる科研費でうまくカバーできていなくて、そして従来のディシプリン、理工系も含めた、ああいう対応ではちょっとカバーできなくて、しかし社会的には需要があるとか、実はすごく大事だとか、そういう部分で、しかも科学技術が関係しているというところで、社会技術という、なかなかこのネーミングは苦労されたと聞いておりますけれども、昔は社会工学みたいなものとはちょっと違うのだというニュアンスを出そうとした、そういうところでカバーすべきものなのだろうと思いますが、これは依然として大学でもうまく対応できていないので、人材が枯渇しているというのはおっしゃるとおりですね。
ある意味で、個人芸でそういうことのできる人がぐっとファンディングを獲得してエース級のプレーヤーになる、片田先生なんかそのタイプだと思いますが、恐らくこういうものをきちんと社会の中で、それこそ実装する仕組みは考えなくてはいけない。それは至るところにそういうものが多分あるのだろうと思います。そういう問題文はこの委員会でもちょっと考えていかなくてはいけないのだろうと思います。
ほかにいかがですか。
【田中委員】 先ほどのエビデンスと社会実装の関係で、何かすごく先生のお話を伺っていてなるほどとか思っていたのですけれども、それはリニアと言うか、不可逆と言うのですかね。エビデンスがあったら、もう次は社会実装とか、そういう順番は決まってしまっているものなのでしょうか。むしろ、分からないですけれども、行ったり来たりというか、より戻しがあってまたというか、社会実装しそうだなと思うとまたエビデンスが必要になってくると、何かそういうような流れというのはないのかなというか。
【堀口委員】 ああ、いえ、それはやっている中身によってはそうなると思うのですけれども、厚生労働省の研究費というのは、いわゆる社会実装が前提になっているので、やはりそこまでのエビデンスを頑張って出して、それ以上が出るときもあるし、先生のおっしゃるとおり出ないときもあるのですけれども、それで、ある社会実装をしたら、もう1回より戻してということももちろんありますけれども、それを既に3か年とか5か年の研究の中でやり終えてしまっているのですよね。それを、先ほど地域で偏りがあるとかとおっしゃっていたので、それを全国に展開していくときに、もうちょっと必要な部分があると。エビデンスは出ているのだけれども、もうちょっと必要な部分があるというときに、社会実装なのかなと思って応募したのです。ゲームを作っていまして、ボードゲームなのですけれども、それをやれば、例えばさっきの深堀りするというのにもあるかもしれないのですけれども、何でノロウィルスなのですかとまず書かれて、その後たくさんノロウィルスが流行しているじゃないかと、こちらは思うのですよ。かつ、ではこれをすれば、ノロウィルスは撲滅するのですかと書かれて、いや、そういうものを見つけるためのものが社会実装、研究なのですかというふうに、ちょっと思ってしまったので。
教育ツールなので、これをやれば明らかに、例えば撲滅するとか、お薬ではないから、だけど教育効果とかそういうものは感染症の研究者だけではできませんので、心理学の研究者であったりとか、いわゆる人文社会の研究者の方々と一緒に作っていったものだったので、どうかなと思って。だから、より戻しているのは研究費の中でより戻している感じですね。
【田中委員】 より戻している。済みません。
【小林主査】 確かに、いわゆる研究開発、R&D型の評価軸で言うと、そういうコメントが来そうですね。
【堀口委員】 ああ。そういう。
【小林主査】 そこではないですよねというのを多分おっしゃりたかったのだというのは理解しますね。防災分野では、そういうカードゲームの開発というのはすごく進んでいて、特に神戸の阪神・淡路の後なんかでも出てきていまして、あれで、では全員が大丈夫になりますかと、そういう話ではないというのは一応共有されているとは思いますけれども、でも、あれがすごく大事な意味を持つという理解もありますので、それは多分評価軸の問題だとは思うのですね。
ほか、いかがですかね。
【小林主査】 どうぞ。
【片田委員】 社会実装をしていくこと、また社会技術という領域の中で研究者として仕事をしていくこと、そこの動機付けをどこに求めるのかというのは、非常に大きな問題だというふうに思います。
僕は防災の領域でやっているのですけれども、まず社会実装となると、対住民であったり、対子供たちであったり、そこに対して働きかけることというのは本当に大変なのですね。学者間の話、研究者間の議論であれば、ある程度議論の幅も狭まっていて、同じ常識の中で議論をしますからスムーズに議論が進むわけですけれども、相手は一般の方々ですので、様々な価値観の中で、なぜそんなことをしなければいけないのだとか。僕らにすれば、あなた方のためにという思いも本当はあるのだけれども、彼らにすれば、そこでそもそも考えている立脚ポイントが違うものですから、時に批判されたりするわけです。特に防災などの領域でやっていますと、例えば釜石なんかでもそれ相応に頑張ったつもりですし、それ相応の成果もあったとは思うのですけれども、でも防災の領域ですと、ほとんどの子供が生き残って5人亡くなっていると、成果の部分を議論しようとすると、5人の子供はどうなるのだ、みたいな、それで批判されたりするというような、本当にしんどい仕事なのですね。
その割には、従来の研究者の評価として、こういった取り組みをやっていると、それは研究者としての仕事なのかと。論文を書いても、それは論文なのかという評価になって、研究者としての評価軸に乗っかってこない。そうすると、若手、これから研究者として社会に出ていかなければいけない、その中で勝負していかなければいけないという立場のものに、その取組をやらせようとすると、何を住民のところへ行ってちまちまそんなことばかりやっているのだと、NPOの人と何が違うのだと、みたいなことを言われながら、論文を書いても評価もされず、結局彼らの研究者としての芽を摘んでしまう。そうすると、やらせられないという、そういうことになって、結局、科学コミュニケーターを広げていくとか、その資質はとか、どれだけ議論しようが、やるだけの動機付けがないという、大きな大きな問題点があります。
それからもう1つは、これは研究費をこういう形でJSTなんかも付けてくださったりするのですけれども、相手が地域であったり社会であったり人々であったり、先般文科省のプロジェクトでやったのは、学校の先生方の防災教育の能力の資質を高めようというような取組をやるわけなのですけれども、そうしますと、研究者が通常の研究費の常識的な支出をしようとしても、相手が一般の方々なものですから、様々なことを言ってくるわけですね。例えば、極めて具体的な話をすると、どこかで研究集会をやろうとすると、そうすると全国の先生方をお集めすると、そうすると東京まで行くのだから1泊余分にしたいのだけれどもとか、そうすると研究室でやっている事務はほとんどトラベルエージェンシーになってしまうわけですね。何で僕はこんなことばかりやっていなければいけないのだと。また、当然研究費ですから厳密な執行を求められるわけですけれども、50人参加予定で50本お茶を買ったら49人しか来なかったと。1本はどこへ行ったのだと言われ、理由書を求められます。あたまに来て、片田が飲んでしまったということにしておいてくれ、みたいな話を思わずするわけですけれども、何かそんな研究費の非常にこう着化した執行、それはしっかりしなければいけないことはそうなのですけれども、ただそんなことばかりやっているものですから、結局何をやっているのか分からなくなりまして、社会実装という、その社会とか、社会との間で仕事をやろうとするときに、本当にその辺の大変なことが余りにも多い。その上、成果が認められない。これでは、どれだけこんな議論をしようにも意味がないのではないのかなと。この辺の改善をまずは考えていただかないと、もう僕は社会実装とかやりたくないなと、正直思います。予算をいただいてやるようなことは、もう自分の持っている予算の範囲の中でやるのだったらいいのですけれども、こういう研究ファンドを付けてもらってやろうとすると余りにも大変で、もう僕は一切応募していないですよね。もう嫌です。
【小林主査】 でも、その場合、こういうことをやろうとする人間が出てこなくても、もうしようがないかなと……
【片田委員】 いやいや、そうは思わない。ですから何とかそこを改善していただかなければいけないと思うのですけれども、少し、従来の、特に対社会というところのリンクが非常に強いわけですので、そこに対する研究評価軸というものを明確にしていただきたいということ、これは学としてのサイエンスペーパーにはならないかもしれないけれども、そこに対して研究者の評価はそこだけではないはずなわけですね。こんな議論をしているように。であるならば、そこの部分をちゃんと評価するような評価軸というのを明示していただき、それに基づいた評価というものを具体にしていただき、それ相応の活動をした者に対して高い評価を与えていただきという、何かちゃんとしたものがないとやってられないという要望です。
【小林主査】 おっしゃるとおりですね。そのとおりです。評価軸の問題はもうクルーシャルですね。でも、それを言う余りにお金も要らないと言ってしまうと、いよいよ……
【片田委員】 そうですね。それは話はまた別なのですよ。それは予算執行のこう着化の問題です。
【小林主査】 分かります。
【片田委員】 特に社会とやる場合、余計、そこがこちらの力の及ばないところでルーズになってしまうところがある。相手側のニーズというのが対社会ですので、もういろいろなニーズの中に応えていかなければいけない。それを研究費の執行用のルールの中にこちらからはめ込んでいかなければいけない。そうすると書類ばかり書かなければいけない。書類の束になるのですね。
【小林主査】 だから、いわゆるディシプリンの研究のモードとは違うモードの研究をやっているときには、それに応じたファンディングの仕方と、それから評価の仕方があるべきだと、そういうことですね。
【片田委員】 そういうことです。
【小林主査】 全くそのとおりだと思います。そういう必要性がありながら、なかなか評価軸においてインセンティブが働かない……
【片田委員】 働かない。
【小林主査】 という分野がたくさんありますね。これは多分、横山さんなんかもずっと苦しんでこられた部分だと思うのですけれども。
【横山委員】 お話を伺いながら、もうそのとおりだなと共感しております。やはり研究者としてはエビデンスを出したいと思うのですが、手法やディシプリンというのも横断的であるので、私の場合はまずは共同研究者を見つけることが重要だと感じています。片田先生が今おっしゃったようにこうした分野に、強制的に引っ張ってこられないということはあると思っていて、そういう意味では人材育成というよりはやはり自発的にぽろぽろ出てきた人をうまく運用していくという方が効率がいいと思っております。私の周りだと、バックグラウンドが理学系の若い有能な人たちで、そうしたセンスを持っている人たちがいらっしゃいます。
【小林主査】 いや、コミュニケーションに関係する部分というのは、科学技術、常にコミュニケートする科学技術が分かっていなければできない部分がどうしてもありますから、そういう意味では、センスのある人間をぴっとつかまえるというのは有効だというのは、非常によく分かります。
他方、このELSIとか社会実装みたいな話になると、当該の科学技術が分かっているだけでセンスのある人にできるかというと、それよりは大分ハードルが高い問題があるのですね。ここは悩ましくて、では倫理学者とか法律家がこういうところにはせ参じてくれるかというと、彼らにそういうインセンティブは今のところ働かないのですね。結局、彼らの持っている評価軸というのは、そのディシプリンの評価軸で、それから逸脱したことをやっていると、頑張っているねの一言で終わるという。
【片田委員】 逆に、何やってるんだと思いますね。
【小林主査】 それは、多分理工系の学生から見ても同じなのですね。自分はこういうELSIに関係することを大事だと思うからやろうと思ったときに、博論はどうするのだという話になるだろうと。やはりペーパー主義という評価軸しかないというのが、こういう分野を空白地帯にしてしまうことになるのですね。更に、こういうテーマではお金を取れないだろうというふうなことを言っているPIがたくさんいますから、そういう構造をどうするかですね。
【小林主査】 どうぞ。
【内田委員】 片田先生のおっしゃったことに、私は共感したのですけれども、様々な問題が現状において悪循環に今なっているような気がしています。
1つは、まず社会技術の実装というところまで考えたときに、社会科学では自然科学系よりも、最初から最後まで全部1人でやってくださいというようになりがちであると考えています。1人の研究者が問題を立て、データを取り、社会実装や応用の範囲を考えて、実際に実装するというところまで全てをやることが求められている。本来的に言うと余りにも範囲が広すぎる。そうすると研究者というのは、一体何を自分の評価、成果にすればいいのかというのが分からなくなってくる。論文を書くというのが本来的には基礎研究の最初の部分のアウトプットです。更に講演活動や研究成果の伝達が次のアウトプットになる。そして先ほどRISTEXの方から説明もあったような、様々なステークホルダーに普及させるという、さらなる次の遠いステップまで含まれている。1人の人が全部やるのは実質無理です。しかも若手の研究者にそれを求めるのは非常に難しい。
実際にはどのステージで活動するのが向いているのか、適性があると思います。基礎研究を実施して論文を書くのが向いている人もいれば、現場に行って活動するのが向いている人もいる。しかしどの人にも社会科学のアカデミックな知識や技術は必要ですが、アウトプットの見せ方はいろいろあるというときに、現状は社会科学で博士号を取った後に、アカデミックポスト以外での就職が難し過ぎるという課題がある。アカデミックで就職するならば先ほどの論文問題が出てくる。もちろん博士号を取るためには論文が必要ですが、その後、別の活躍の場を広げるならば論文以外のアウトプットが評価されるような仕組みを作るべきですが、それがない。結局全部できる人が全部やってくださいよというふうになってしまう、という悪循環になっている。そのような中、社会科学を、自然科学の後追い的な法整備、倫理整備みたいなところだけに定義するならば、この悪循環は解決しないどころかますます加速化すると危惧しています。評価の在り方や人税育成の方向性や風土を、トップダウンである程度作っていかなければ、どんどん社会科学の範囲は狭くなっていく。まず社会科学というのは自然科学の後追いではないく、新たな概念を見つけ出すこともできるのだという前提をまず共有する。そして社会科学の技術を持った人が、ノン・アカデミック以外でもいろいろなところで活躍ができる、例えば博士号を持った社会科学の人を積極的に採用する企業を支援する仕組み作りが必要ではないか
現状社会人文科学系では博士号を取ると30歳前後になってしまって、そこから一般企業に就職するのがとても難しい。せっかく出てきた社会実装の担い手の種が、こうした理由でいろいろつぶれていく現状を是正する必要があるだろう。そのような中でリステックスのような事業が、そこの中核を担っていくことを期待しています。
以上です。
【小林主査】 ありがとうございます。どうぞ。
【山口委員】 ちょっとレベルの低い話ですけれども。
今、片田先生がおっしゃられたような部分で言うと、例えば、トラベルエージェンシー的なところも含めて、面倒くさいところは外注して、先生方がもう本当に研究に専念できるような体制を作るというようなやり方もできる資金もあるので、そこは一つ研究取り先の探しようかなというところと、あとは研究資金を取る前に、そこはファンド元によくよく相談すると、結構了解してもらえるという場合もあるので、そこの努力ももう一つ必要かなというふうには思います。
社会実装という面で、今、片田先生がおっしゃられたような、研究資金をとっても事務作業に忙殺されるという問題が一般に見られるのであれば、やはりそういった資金の用途の緩和といったような工夫もしつつ、必要なところで必要な人が分担できるような仕組みに変えるといった議論もあってもいいのかなというふうに思ったりもします。
【小林主査】 PhDの問題はもう本当に深刻でして、今、私は大学でそういうことをやっていますから、日本のPhD、理工系もどんどん減ってきていますね。博士後期もどんどん減っています。ですから、論文数が減っていると言われますけれども、博士後期の学生が減れば論文数が減るのは当たり前ですから、日本の研究力がこれから落ちるのは目に見えています。今のノーベル賞は全部過去の遺産ですね。
しかも修士の段階からそうなのですけれども、修士の段階のいびつさというのは世界で際立っています。つまり、工学がやたらと多くて、人社系の修士が極端に少ないです。ですから、それがそのまま反映して、ドクターの比率がやはりそうなりまして、人社系のドクターはおっしゃるとおりで、きついです。アカデミアにしか行けないとみんな思っていますから、入院するとか出家するとか、そういう言い方をするのですよ。
博士の後期の部分で日本が多いのは医学系になっているのですね。開業医さんは皆さん医学博士をお持ちですから。海外から見ると、これは完全にガラパゴス化しています。しかも21世紀になってから、世界中が博士の人材数を人口当たりでも増やしてきています。先進国で減っている唯一の国は日本です。ですから、まず人社系が少ない。理工系の修士によって、技術的な手段では勝てている、いいものができている、しかし戦略レベルで勝てていないのではないかという議論を、工学の人が最近言っていますけれども、そういう問題なのですね。だから人社系を巻き込むのが大事だと産業界も言いだしているし、もうRISTEXさんもずっとそういう研究が要ると言ってきている。それからELSIが大事だと、今度は人材政策課の方もおっしゃっている。全くそのとおりなのですね。
そこをどうやってかみ合わせるかというところで、多分評価軸の問題が決定的に効いていますね。つまり、学位がアカデミアの就職にしかプラスに働かず、それ以外のところではただ3年以上、年とった人になるわけですよね。この構造がある限り、こういうところにインセンティブとして働いてこないので、ELSIが大事だと叫んで10年ぐらいになるのですけれども、ではやりましょうという人が出てこない。やっている人が限られていて、高齢化しています。この構造は、もうえらいことになると思います。そこに手をつけない限り、どんなレポートを書いても駄目なのではないかと最近ちょっと思っていますね。
【塩崎課長】 ちょっと1点、事務局からよろしいですか。
この机上配布資料の方の論点として書かせていただいた背景を申し上げたいと思うのですけれども、先ほど安藤理事の方から、こちらの方の資料の39ページで、今年度から新たに未来社会創造事業というようなものも始めまして、実際にこの39ページのところを見ていただくと、超スマート社会とか幾つかあるのですけれども、その中の、例えば重点公募テーマというところで見ていただくと、安全・安心のところにヒューメインなサービスインダストリーの創出というところで、特に今後、ハイリスク・ハイインパクトということで、どちらかと言うと非常に技術的に価値のあるようなものを目指していきましょうと。そのときに、その題材がヒューメインなサービスインダストリー、これはどういうものかと言うと、例えば今人間が置かれている環境で、その人がどう感じているのかというのをある程度センシングをして読み取って、その人に対して適切な環境を実現していきましょうとか、そういったような技術を例えば開発しましょうということになりますと、例えばそのときに人の感情とか気持ちとかというのをセンシングするというのが、本当に、将来的になるのかもしれませんけれども、社会実装ということを念頭に置いたときに、何らかのそういった個人情報に当たるのかどうかとか、そういったものが問題になるのかどうかとか、あとは例えば自動運転ということでも、実際に運転するのは車ですと。そのときに、事故が起こったときに、誰が責任主体になるのですかと。運転していませんよと。では、機械が責任を取ってくれるのですかと、それともメーカーなのですかと、いろいろな問題が実際に、実装していこうというときには出てくると思うのですね。
今、実際に技術的なところがずっと進んでいってしまっていて、まさしく社会実装というところが置き去りにされていないかということなのです。今までお話を頂いたのは、ある程度技術が確立したものを、実際に社会、全国に広げるときにどういう問題があるかというところ、それももちろん重要なのですけれども、むしろ、これから実装に向けてやっていこうとする中で、どんな問題があるかというのをある程度つかんでおかないと、再生医療の幹細胞ではないですけれども、生命の萌芽を傷つけるなどということはできないということで、結局ES細胞の方は進まなかったりして、結局iPS細胞が登場してきたりという話になってしまうと、そもそも、それではそういった研究ってどうだったのという話になりかねないので、ある程度、やはりその研究、特にハイリスク・ハイインパクトというようなものを考えていくときには、社会と非常に密接なつながりが出てくるので、そういった中である程度、その社会実装というところを念頭に置いた検討というのを並走しないと、単に技術だけで突っ走っていっては実現できないのではないかという、そういったところを少し考えていまして、実は今日の午前中に基礎基盤研究部会という、やはり科学技術学術審議会の部会があって、この未来社会創造事業を説明したときにも、まさしくそういった問題が指摘をされまして、そういったところをきちんと捉えていかないと、実際にELSIとか社会実装の問題というと、やはりそういった技術とか何とかという、ある程度個々の具体的な問題が出てきませんと、単純に社会実装の問題だけで考えましょうかと言っても進まないのですね。そういう意味で、ある程度、科学技術基本計画の中にも、研究開発活動と連動させてというのが書いてあるのは、まさしくそういうことなのかなと思っておりまして、今後、研究開発課題というのを実際に選定がされ、進んでいく上で、技術だけで進んでいくのではなくて、そういった社会技術的な、ELSIも含めて社会実装的なところをどう組み込んでいくと、非常に円滑に研究というのが、実際の実装段階に移っていく中で、円滑に進めていけるのかと、ちょっとそういった視点で、研究開発の中にどう取り込んでいったらいいのかというところについて、少し御示唆を頂ければ大変有り難いなと、そういったところも含めて、論点を書かせていただいたということでございます。
【小林主査】 おっしゃるとおりで、そもそもELSIというのはヒトゲノムの研究のスタートのときから同時に進行していったわけですよね。ですから、決してヒトゲノムが何か問題を起こしたからトラブルシューティングをやろうとしたわけではなくて、最初からやはりプロアクティブに、この研究をやるときにどういうふうな配慮を、社会との間のインタラクションを考えておくべきかということが、後々の社会実装に絶対に有効だと、こういう問題の立て方ですよね。
だから、そういう意味では、IoTの議論で、欧米はもうそれを最初から、そういうことをやる情報と社会とか、倫理の研究所というのは、ずっと作っているのですよ。先ほど冒頭に私が申し上げたとおり、日本も出発点のときには同じようにファンディングしたのですよ。で、それを、5年の振興調整費が終わるとばさっと切れて、また次のところでお金を付けてというパタンを繰り返したために、全体としての蓄積が出せずに、アジェンダセッティング能力のないままに今、課長がおっしゃるような話になっているわけであって、そこをどうするかという問題なのですよ。
だから、最初から必ず一緒に考えていくというのはすごく大事で、しかもそれがどんどんとリアルになってきているというのは、そのとおりなのです。そのときに、その問題を考える人材がいないのですよ。少ないのです。つくってこなかったから。そこなのです。
【塩崎課長】 例えば、従来のディシプリンの中でも、法学部というか、と言った場合に、例えば自動運転で誰が責任主体化と言ったときに……
【小林主査】 そういうテーマまで行くと……
【塩崎課長】 行くと、そういうディシプリンとうまく。
【小林主査】 そう。
【塩崎課長】 ですから、そこまでどう掘り下げるかという話だとは思うのですけれども。
【小林主査】 と言うか、多分、どういう技術開発をするかということと、どういう問題が出てくるかということを、法律だけではなくて、いろいろな場面で全部考えていくというのを、同時進行させないといけないのですが、同時進行させるための手立てがなかったのですよね。だから、今課長がおっしゃっているように、どうやって同時進行させる手立てを作るかという問題なのだと思います。それは。
【塩崎課長】 そういうことになります。はい。
【横山委員】 よろしいですか。振興調整費でいろいろな活動をされた2005年からの活動などで、副専攻という形でかなり多くの人材を育てられていたと思います。
【小林主査】 それはコミュニケーターの、科学コミュニケーターの話ですね。
【横山委員】 はい。確かにELSIはハードルが高いのですね。だからハードルが高い側面を事業でサポートしながら、更に教育していくようなシステムがあれば、理学系周りのコミュニケーションができる人間で、またELSIの方のハードルを越えられそうなセンスのある人は、結構いるのではないかなというふうに感じております。
逆に困るのは、外から来て、非常にポイントの外れた議論をしていくような学生さんを相手にするのは、こちら側も結構苦労します。シニアの研究者は時間が限られていて、深く付き合うということがなかなか難しいので、それぞれのコミュニティーの中から育ててこちらをサポートしながら、副専攻としてでも育てていくというのは、ある種すごく効率がいい育て方なのかなという感じはいたしました。
【山口委員】 この分野の学会というのはないのですか。ELSIとかも含めて。
【小林主査】 ないですね。それぞれの分野で。ただ生命倫理に関してはありますね。だけれども情報倫理については学会はないと思いますね。
【津田室長】 内々の方で倫理委員会というのは……
【小林主査】 委員会というのは作っていますね。学会の中でね。そこに若干、社会科学系の人が今、協力して入るという動きは出てきていますので、そういうものをエンカレッジすることがすごく大事ですね。
もう1つは、やはり教育プログラムが、日本の場合、高校まで完璧に文系と理系に分かれてしまうことによって、例えば法律系とか倫理系というのは、中学校の理科を、その後はもうセンター試験対応ぐらいしかできていませんので、相当きついです。逆に、理工系の人は人社系の教養がないです。これもやはり中学校です。ですから、その辺のギャップが結構個人の特性で、まさしくセンスのある人によってつながれているというのが現状ですね。だから、その辺もよく考えて大学の教育も考えないと、なかなか回らないかなというぐらいだと思いますね。
【山口委員】 1つ済みません。社会人を育てるというのはどうですか。
【小林主査】 あり得ると思います。
【堀口委員】 小林先生の言われた話は、私もいろいろなところで聞いていて、特にアメリカなどで教育を受けてきて今若手で頑張っている研究者は、やはり日本人は研究者同士の会話が中学校の単語までしか通用しないと。要するに、文系と理系の、いわゆる文系といわゆる理系というふうに、ばんっと高校時代に分けられてしまって、マークシートとかの試験がある前は、まだそれも最後の高3ぐらいだったのも、今は高校1年生のときに、既にもう私立文系と言ったら英語と国語と歴史ぐらいしかやらないみたいな感じで、会話が普通に研究者同士なのに成立しないというのをよく言われますし、なので、よそから来た研究者というか学生とちぐはぐな会話になってしまうのは、もう致し方ないのかなと。私も、公衆衛生はいろいろなところから学生が来るので、それぞれ文系からも来るのですけれども、毎日ちぐはぐという中でずっとやってきて、でもこれが社会だからこそ、自分としては社会実装に興味が湧いているのかなというところはあります。
【原田委員】 1点よろしいでしょうか。
【小林主査】 どうぞ。
【原田委員】 ちょっと論点がずれると思うのですけれども、第1回でもあり、ブレーンストーミング的なところもあっていいかなとも思うものですから。今の議論の中でも出てきていた、日本でいっときELSIみたいなもの、社会実装的なものについて、欧米と同じぐらいのスタートで出ていたはずなのに、それが何年間かの研究期間が終わって、そこでリセットがかかってしまうという話があったかと思うのですけれども、そういうことの背景にもう1つある問題として、世の中の関心みたいなものが、研究分野によっても違うのでしょうけれども、大きくシフトしてしまって、ファンディングも多分それに影響されて、いっときはすごく研究費が取りやすかったものが、全然駄目になってしまう。実は、私自身がこれに直撃されたと思っておりまして、今日のRISTEXの皆さんからのお話もあった、犯罪からの子供の安全という研究領域、私はその第1期生のプロジェクトの1つをやっていたのですね。それが終わったのが平成24年の春だったのですが、御存じのとおり平成23年の春に東日本大震災が起こりました。この研究領域が立ち上がった頃には、犯罪からの子供の安全というのがホットな社会的なイシューだったのですね。それが、終わったときには、完全に震災と防災の話になってしまった。その意味で片田先生と利害関係が相反するのですけれども。
それが最近になって、またいろいろな事件が起こって、今年の春もとんでもない事件が我々の職場の御近所で起こって、また社会の関心がうんとシフトしてきているという状態があって、自分自身もそれに翻弄されてきたという気がするのです。その中で、何とか以前やったものをやり続けるというのは、正直、大変なことであって、結果的には、いろいろな事情もあったのですけれども、RISTEXの支援も受けることができずに、結局何をやったかと言うと、科研費を2回取りました。それで何とかつないできて、今でもそれでやっている。最初にRISTEXで作った成果物の社会実装を、皮肉なことに科研費でやっているというのが、現状なのです。
結局、そういうことが起こるのも、その背景にあるのは、世の中の関心が、大きくシフトすることがあって、それにいろいろなものが、世の中全体がつられていく。だから、着実にそういう重要な分野であり、特に社会との関係をどう作って、研究成果を社会に返していくかというところに関して言うと、そういう社会の動き、関心のぶれみたいなものに余り左右されないような、文字どおり中長期的な視野を持った仕組みというのを是非考えていただけないかという気がします。
あともう1点は、自分のことになってしまって恐縮なのですけれども、ちょっと地にはいつくばってやってきたつもりがありますので、しつこく続けている人間みたいなもの、それをもうちょっと顕在化していただいて、それなりに評価していただけるという仕組みがあると有り難いと思います。自分はもともと犯罪の研究者ですから、RISTEXの最初のプロジェクトが終わって、「統合実装」という形になった、それがちょうど震災の後でしたので、これからは防災なども含めて統合的にやりましょうということになったわけですが、その途端に、自分はもう隅っこの方にちんまりコバンザメしているような状態になってしまったわけです。ただ、その中でも、やはり防犯と防災とは本質的に違うところがありますので、それを一緒くたにして本当にうまくいくのかというのは、いまだに疑問に思っています。そのような自分の考えと、世の中の動きとが違ってきたところがずっと続いてきました。でも自分としてはそういうところは曲げたくないと思ってやってきたつもりがあります。今、またそれが少し芽が出始めたという気がしていますので、しつこく続けているというもの、単純なことの繰り返しになってしまいますけれども、そういうものに目を向けていただけるようになるといいのではないかという気がします。
以上です。
【片田委員】 いやいや、ちょっと私の状況を、社会実装を続けているという面において、今現在の状況を含めて、私のこの状況で抱えている問題というのを御説明しておきますと、僕も社会実装の研究資金も得て、防災の取組を始めて、東日本大震災があって、ある一定の成果があり、そうしたところ、社会の関心というのが一挙に高まったわけですね。当たり前のように、どこもここもやってもらえるものという。社会実装ニーズが全国から僕のところに集中するわけですね。電話1本、先生、うちの子供たちも助けてやってくださいと、こう電話が来るわけですね。指導に来てください。何かそば屋の出前のように頼まれまして、行こうと思って、交通費なんかの最低限の予算は確保していただいていますかと言ったら、えっ、要るのですかと。子供の安全を守るのにお金が要るのですかと、こういう言われ方をする。こんなところに対しては、研究費としてのファンディングはもうないわけですよね。本当に、完全に社会実装される側からすると、分野によっては、特に防災みたいな命が関わる、人道的な、みたいな領域になってくると、当たり前のように、研究者の使命かのごとく、次から次へと要望が来るわけですね。どうしたらいいのですか。社会ニーズが高まるという、ないのも困るかもしれませんが、3.11で消えてしまうのも困るかもしれませんけれども、それで異常に高まっても、そこに対する、本当にファンディングも何もない状況の中で、本当に厳しい状況に追い込まれてしまうわけですね。結局、これに耐えられる人しか、何らかの別枠の予算を持ってきて、それを流用してやっていくみたいな、本当に社会実装ボランティアみたいになってしまうわけですね。疲労こんぱいに。
【小林主査】 そろそろ時間がちょっと来ましたけれども。
今日はちょっと発散気味の議論で、ブレーンストーミングというか、でもこれはこれでよかったと思いますが、先ほど課長がおっしゃったヒューメインな情報技術開発というのは、これはもう避けて通れないどころか、かなり真剣に取り組まなくてはいけない課題であると、これはおっしゃるとおりで、今ぱらぱら資料を見ていましたら、例えば35ページ、36ページ、今日はこのお話をしていただかなかったのですけれども、この人と情報のエコシステム研究開発領域のところに書いてあるような事柄というのは、恐らく課長の問題意識と大体通底しているのではないかという気はするのですが、これは公募型でやりますよね。そうすると、今、課長がおっしゃったようなテーマでどんぴしゃで応募してくれるかどうかというところが、なかなか微妙なのですよね。そこのバランスって難しいところですよね。もう決め打ちでこれをやってくれとやった方が、話は早いと言えば早いというところもあるのですね。でも、一応RISTEXは公募型で、そして提案、テーマに関しては逆に内部で調査して作っていく、そしてそれに対してワークショップもやって、その上で公募をするというやり方ですね。この未来創造の方も、テーマは公募されていましたよね。
【塩崎課長】 公募です。はい。
【小林主査】 でも、かなり研究者ばかりが応募したという話なのですが。
【塩崎課長】 だから、ちょっと私、皆さんの、先生方の御意見を頂こうかと本当に思っているのですけれども、社会技術のRISTEXの事業というのを独立させているのではなくて、やはり未来とかそういった研究開発等も一体化するという形をとっていかないと、結局RISTEXでずっとやっていっても、何かちょっと違うのかなと。やはりハイリスクで進んでいく、そういった研究開発とやはり一体となって、そういった社会技術の面を見ていかないと、主査がおっしゃるとおり、別な事業として、本当にそれに合致するような公募が出てくるのかどうかも、応募があるかどうかも分かりませんので、むしろそういった研究開発と一体にという形で、うまく組み込めるようなやり方というのはないのかなというのを、少し考えたいなと思っております。
【小林主査】 なるほどね。だから、結局そこで人材のリクルーティングシステムなのですよ。でもそれは基本皆さんがおっしゃるように、出てきませんよという話なのですよね。高齢化してしまって。
【塩崎課長】 ただ、先ほど横山先生がおっしゃられたとおり、私なども思うのは、やはり中の人間でないと、そこの状況というのは分からないのではないかと。先ほども、情報委員会の中にも、情報の学会の中に倫理委員会ができるというのと同じように、やはりその専門分野の中でそういった人たちを育てないと、結局、単にNCだけの委員会とかというのはあり得ないと、私なども思っていまして、やはりそういった情報とか何かの問題があるから、そこにそういった倫理の問題が付随して出てくるのであって、そういう意味ではやはり中のコミュニティーの方々の中で、うまく取り入れていくという、そういう流れを作っていくのがやはり一番いいのかなという感じもしているのですけれども、そこはちょっと御示唆いただければ有り難いなと思います。
【内田委員】 その際に社会科学が、社会科学者ができることは何なのでしょう。中の方で倫理委員会を作るとなった場合に、では外の、例えば法学とか経済学とか、私みたいな心理学、社会学を含めて、一体何ができるのかというのは、難しい問題ではないか。
例えば、余りにも課題がピンポイント過ぎると、誰もそこで本来の業績が出ないものに一生懸命コミットするのは特に若手は難しい。では中の方だけでやるという状態だと、せっかくの自然科学と社会科学の共創が崩れ、振出しに戻っているような気がします。
【塩崎課長】 中の人間だけでやるというのは多分できないのですけれども、中の人間ではないと、問題が洗い出せない。その問題が洗い出されてくる過程で、もちろんそういう心理学の先生や法学の先生というのも入っていただいて、より深くその観点から問題をどうしたら解決できるかという話かなという気もするのですけれども。
【小林主査】 問題点の洗い出し方のレベルというところだと思うのですけれども。だから、今回、これからやっていかなくてはいけないことというのは、何のための科学技術かというところの共有からスタートし、そこで問題点を一緒に洗い出すという、そういうフェーズだと思うのですね。だから、技術があって、それの問題点は何かという立て方ではなくて、技術を何のために開発するか、そしてそれに伴う問題点は何か。似ているようで大分違うのですね。だから、そのレベルでの協働をするのかどうかというのは1つあるのかなとは思うのですね。
【横山委員】 多分、歩み寄りが必要な部分もあるのかなと思います。それぞれおっしゃることはそのとおりだなと思うのですけれども、確かに課題は出せるのだけれども、広い意味での共同研究を、心理学や法学の先生と一緒にしたいという側面もあります。一方で広すぎると、現場の問題と離れ過ぎていって、課題にさえならないのですよね。そこのつなぎの悪さを始終感じていまして、それはやはり中からの声を少し上のレベルで聞いていただいて、それがどういう社会実装へのエビデンス出しの研究テーマになるかというのを構築していただくというつなぎを、こうした委員会などで御指導いただけると、多分現場の中でコミュニケーションやELSIについて考えてみるのもすごく助かると思います。
私などもいろいろな先生方に御示唆いただいたなと思うのですけれども、やはり分野も、心理学や法学はもちろんですけれども、政治学とか国際政治なども物すごく関わっていると思っていまして、その辺は柔軟に行ったり来たりがそれこそできるといいのかなという印象を持ってございます。
【小林主査】 おっしゃるとおりですね。科学技術が関係している領域は相当に広くなっているのはそのとおりなのですけれども、そのときの一体でというのをどうやって設計しますかね。一体でというのは。これは言うは簡単ですけれどもね。つまり、研究スタイルが違っているとか、そんなレベルの話ではなくて、チームの組み方の問題だとは思うのですけれどもね。どっちのテーマで研究テーマを設定、どうやって研究テーマを設定するのですかね。まず研究テーマに関しては技術的なテーマを設定して、その後に外付けで買ってくる感じですか。
【塩崎課長】 いや、そこはどういう形が一番いいのかという……
【小林主査】 もしそれだとすると、相当モデルが古くなってしまう。
【塩崎課長】 ですから、やはり人文社会系の、ここの論点との形で、具体的にどう参画できるかといった……
【小林主査】 主体的にと。
【塩崎課長】 この辺とのバランスをとるのはどうすればいいのかと、非常に悩んでおります。
【小林主査】 ここなのですよね。それは。
【内田委員】 やはりどうしても社会科学系が後手ということになるのでしょうか。例えば自動運転をやりますと。それに対して、例えば心理学からどう思いますかというようなことを聞かれる。実際にはこちらからの問題設定みたいなものとも相互リンクみたいなのがないと、多分きついと思うのですよね。自然科学から提示された特定の題目についてどう思いますかと言われたことに、社会科学者が答える研究を行うということだけだと、モチベーションはなかなか持てないと思います。そもそも課題設定自体について共創という枠組みを作っていこうと思うならば、社会科学の側からのアイデア出しみたいなフレームも、必要なのかなというふうに思います。一方向になってしまわない方が、私はいいのではないかと思います。
【安藤理事】 ちょっといいですか。
【小林主査】 どうぞ。
【安藤理事】 技術に着目して議論してしまうと、どっちが、技術が先で社会が後という感じになってしまうのですけれども、今、先ほどの未来事業の話にもありましたように、どういう社会を作るのだということを議論していくときには、これはどんな技術が必要かも含めてそこの中で考えていかないといけないのですね。どういう社会が必要かといったところで、自然科学の人だけではなくて、人文社会の人も一緒に考えるような形でうまくできないものかなといったところが、そこを正に考えるいい材料が、今回のこの未来社会事業ではないかなと思っていて、確かに容易ではないと思うのですけれども、そのテーマを考える中でうまく共同作業ができて一旦テーマが何かできたと。できるとそこで今度は技術が見えてくるのだと思うのですね。そうすると今度は見えた技術に対して、これが将来進展すれば、具体的にどんな、先ほどの個人情報の問題が出てくるとか、どんな問題が出てくるのだろうかということを、これはこれで制度的・社会的な観点で、倫理的観点で、これが技術があって、それに付随する問題として深めないといけないかもしれないのですけれども、そこも並走してやらないといけないのだろうなと思うと、最初のテーマ設定の段階と、テーマが決まって実際に研究が進み始めた段階と、両方で何か生かし方を考えないといけないだろうなというふうには思っているのですね。難しいと思うのですけれども、何か今、考えないといけないなと。
【小林主査】 あれですね。COI事業などでもそういう議論をしていましたね。うまく行ったのですかね。あの辺も1回レビューしても面白いかもしれませんね。
【塩崎課長】 そうですね。
【小林主査】 そこは本当に。それから、先ほど私も申し上げたように、フューチャー・アースがどういうふうに考えておられるかとか、あれもやはりまさしくそういう問題で、知のユーザーとちゃんとかみあっていないために、実装できない知識が論文として積み上がっているという問題意識ですよね。そういうところでのフィードバックのループを、どのレベルからどういうふうに回すかというところの設計をやらなければいけないということで。だから、どの研究テーマでも似たようなことを考え始めているわけですよね。
【塩崎課長】 そうですね。
【小林主査】 だからこれも、人社系の研究者だけでいいのかという問題もあって、未来創造も公募されたわけですよね。テーマに関しては。でも、実態として、研究者以外の人たちの公募ってどのぐらいあったのかというのは、そんなに多くなかっただろうと思うのですよね。そんなに知られていないから。多分……
【塩崎課長】 まだちょっと今、募集期間中なものですから、まだ。
【小林主査】 ああ、そうか。
【塩崎課長】 7月19日まで。
【小林主査】 ああ、そうですか。では期待したいですね。
いや、だからそういうところの社会のこういうものの引き出し方も、いわゆるパブコメ型の従来的手法で本当にいいのかとか、そういうこともありますよね。そして初めて社会と一緒に考えて、テーマ設定をして、そしてそれぞれの課題を専門家がちゃんとかみ合って研究していくという、そのルートを作ると。それをどちらの側の研究者も嫌がらないような関係をどうやって作るかというのは、これは大事な仕事だとは思いますね。
【安藤理事】 そういうアプローチだけでいいのかという話で、人文社会という視点でいろいろな提案ができるように、あらかじめいろいろなことを議論、研究しないといけないではないかという、これもよく分かるのですけれども、どこまでやるのかという話は、正にファンディングの中でどこまでやるのかというところは、何がどういう目的に役立つか分からないけれども、とにかく人文社会で倫理的な観点で何か議論をしておかないといけないだろうという、物すごく抽象的な段階から、もう少しある種の技術が見えてきたときに、そこに想起される問題点は何かと、これを提案するための何かを、掘り下げ型、探索型の研究というのもいろいろあると思うのですけれども。
【小林主査】 35ページを御覧に、出していただいていますよね。
【安藤理事】 はい。
【小林主査】 これで、35ページの下のところに海外の研究所の例が挙がっているのですけれども、こういうものをずっと、そんなに大規模ではないですよ。これ。でも、こういうところでずっと一貫してこのテーマを追いかけ続けていることによって、技術の発展に対して即応して、こういう問題を立てなければいけないのだということを彼らは言うのですよ。そしてアジェンダを立ててくるのですよ。そのアジェンダ、人文社会的なアジェンダが出てきたときに、日本の研究者がおっ取り刀で出てきて、そして欧米のものを文献を読んで勉強するというフェーズに入ってしまうのですよ。このモードをいつまでやりますかということなのですよ。私が先ほど言ったのは。ずっと抽象的でも何とかという話なのだけれども、それをやり続けるのが彼ら(西欧)です。我々は具体のところにならないと出てこないという話になっていて。これはフォロワーのスタイルです。今後もこれで行きますか、という問題があるのではないですか。
かつて、こういうことができそうなタイミングがあったと思うのですよ。振興調整費で情報倫理、物すごく大きなお金をつけたのは、20世紀の終わり。
【田中委員】 小林先生、そうすると例えば、ELSIのようなテーマを、奇貨として考える。そうすると、これまで意見を出してきたこと、問題提起の仕方、社会のイメージ等々も含め、その目的について議論するようになるわけですね。停滞していたことが動き出すのではないか。ただし、具体的な方法論が思い浮かばないので、どうすれば良いのかという課題は残りますが。
【小林主査】 いや、だからこのタイプの研究所で、科学技術が社会とどうかみ合うかとか、共創するときに何を考えなければいけないか、ELSIだけではなくて、もっと広いものを考え続けるという研究所を持っていない国は日本ぐらいですからね。
ほとんどの国は何らかのものを、大学とか、あるいはテクノロジーアセスメント機関とか、そういうところで小さくてもいいからとにかくずっと粘り強くやり続けていますよ。その蓄積の中で、ばんっと出てくるわけですよ。そこへ例えばElon Muskがどかんとお金を出したりとかするわけですよね。
残念ながら日本の場合、お金の出し方というのは政府しかありませんので、私は政府に、こういうことも同時に考えないと、毎回アドホックシステムになりますよと、そうすると人材が途切れてしまいますよと、それはまずいなと。
【堀口委員】 そのような研究所は、地方の大学にいる人間としては是非作っていただきたいなと思います。長崎大学は人文系が非常に弱い大学で、共同研究を進めていくときに、やはり、よその大学の先生方とやっていることがほとんどなのですけれども、そもそもちょっと聞く人が周りにいないという。大きい規模の大学であれば、同級生だったとかいうのがあるかもしれないのですけれども、やはり人材っていろいろなところから見つけていくものだと認識はしているのですけれども、こういうような科学技術について議論をしてくれているような組織というか、あると、すごく地方にいてもコミットしやすいし、そこでまたいろいろな最新の情報が得られてやっていけるのかなと思います。
うちの大学は医療系が強い大学なので、科学技術というのが全てイコール医療みたいな会話になってしまっているのですよ。なので、やはり新しい情報をどうやって拾うかというのは、非常に地方の国立では重要なポイントかなと思っているので、先生方が今議論しているような、ずっとそういう議論が継続するような場が、文科省に頑張って作っていただければ非常に有り難いです。よろしくお願いします。
【小林主査】 今日は入り口の議論というか、どういう課題に我々は向かわなくてはいけないのかということは、かなり共有はできたかと思います。
実は、先ほど課長が言っていたセンサーを使った研究に関する問題群というのは、もう既に私のところにも相談に来ています。技術者が、研究者が。これだけのセンサーを開発したのだけれど、これを使って人間を対象にした研究を本当にやっていいのかと。誰に相談すればいいのかと、悩んでいます。だからそういう意味では問題意識を非常に共有するので、これを日本の科学技術政策の中でどう解くかというのは、これからちょっときちんと議論できたらと思います。
課長、是非今日の論点をうまく整理して、長期的な視点も含めて、是非お考えいただければと思います。
【塩崎課長】 はい。
【小林主査】 安藤理事、一言何かありますか。
【安藤理事】 RISTEXで頑張りたいと思いますけれども、やはり先ほどの話をお聞きしていると、研究者個人はいろいろ頑張っておられる方が多数おられますけれども、それがうまく評価されていないという話で、そこはやはり組織としてどう考えていくかというのは、大学なり研究機関なり、非常に大事なことだろうなというふうに思うのですね。コミュニティーは論文でしか評価してくれないということであれば、組織がこれはきちんと考えないといけないと思うのです。
組織はこれから社会とも密接に連携しないといけないし、産業界ともやはりこれはもう協働しないといけないというふうになってくると思うのですけれども、そうなってくると、これはこういう社会的な問題と考えずに進むことは、本当はあり得ないと思うのですよね。だからそれが、組織がそういうことを認識してもらうために、どういうアクションをいろいろなところととっていくかといったところは、1つやれば全て実現するというものは多分ないと思うのですけれども、でもいい成果を、とにかく効果がありそうなものをいかに見せていくかといったところは考えていかないといけないなと思いますけれども、それも含めていろいろなアプローチを是非皆様と一緒に知恵を出しながら考えていきたいと思います。
【小林主査】 どうもありがとうございます。今日は長い時間お付き合いくださいましてありがとうございました。
それでは、この委員会を閉じたいと思いますが、事務局の方、何か連絡事項ございますか。
○事務局より事務連絡
【小林主査】 どうもありがとうございました。
―― 了 ――
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