第10期 環境エネルギー科学技術委員会(第6回) 議事録

1.日時

令和2年1月24日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 3F2特別会議室

3.議題

  1. 令和2年度文部科学省予算案(環境エネルギー科学技術分野)について
  2. 革新的環境イノベーション戦略について
  3. 研究開発プログラム評価の試行的実施について
  4. イノベーションに関する話題提供について
  5. 今後の環境エネルギー科学技術分野における研究開発の在り方について
  6. その他

4.出席者

委員

高村主査、石川委員、加藤委員、堅達委員、佐々木委員、嶋田委員、清水委員、竹ケ原委員、波多野委員、本藤委員、山地委員

文部科学省

横地環境エネルギー課長、林開発企画課長、石川環境科学技術推進官、清水課長補佐、葛谷課長補佐、亀井専門官、加藤係長

オブザーバー

磯谷科学技術・学術政策研究所長、梶川東京大学・東京工業大学教授

5.議事録

【高村主査】 それでは,定刻になりましたので,第10期の科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会 環境エネルギー科学技術委員会 第6回を開催いたします。
本日はお忙しい中お集まりいただきまして,どうもありがとうございます。
それでは,事務局から本日の出席者と資料の確認をお願いしたいと思います。
【加藤係長】 おはようございます。
本日の御出席の委員数は,現時点で過半数に達していますので,委員会は成立となります。
本日御欠席の委員は,江守委員,沖委員,奥委員,中山委員,本郷委員です。
次に,資料の確認ですが,議事次第,資料1から5がお手元のタブレットにあることを御確認ください。もし,タブレットに不具合等ございましたら,事務局までお申し付けください。
なお,お手元に前回までの資料を参考で御用意しておりますので,御利用ください。
事務局からは以上です。
【高村主査】 ありがとうございます。もし資料等に不備がありましたら,事務局にお願いできればと思います。
それでは,本日議事次第にありますように,6つの議題が予定されております。委員の皆様から忌憚(きたん)ない御意見を頂ければと思います。
それでは,早速ですけれども議題1に入ってまいります。
議題1は,令和2年度文部科学省予算案 環境エネルギー科学技術分野に関する報告です。
それでは,事務局から御報告をお願いいたします。
【横地環境エネルギー課長】 予算案について説明させていただきます。
お手元のタブレット,資料1を御覧ください。令和2年度の文部科学省の環境エネルギー分野の予算案について,説明をさせていただきます。
まず1ページ目です。クリーンで経済的な環境エネルギーシステムの実現ということで,この分野領域に係る予算を総覧できる形で1枚にまとめております。右肩に予算額(案)の額が書いていますけども,本年354億8,600万円となってございます。
概要のところですが,この領域については,エネルギー制約の克服やエネルギー転換・脱炭素化に挑戦し,温室効果ガスの大幅な排出削減と経済成長の両立を目指しながら気候変動への適応等に貢献するということを目的としています。パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略,これは昨年の6月に閣議決定されまして,この検討に当たっては,高村先生などが入っていただいておりましたが,この閣議決定や,この後の議題で説明させていただきます革新的環境イノベーション戦略,こういったものも踏まえつつ,クリーンで経済的な環境エネルギーシステムの実現に向けた研究開発を推進するというフィールドでございます。
全体,大きく3つのテーマで構成されておりまして,それぞれ説明させていただこうと思います。まず,この下の囲みの中にございます,省エネルギーや再生可能エネルギー技術の開発により環境エネルギー問題に対応する研究開発,それから,その右側にございますけども,長期的視点で環境エネルギー問題を根本的に解決する,核融合関連の研究開発,下の段になりますが,地球観測・予測情報を活用して環境エネルギー問題に対応するという研究開発,この3つで,クリーンで経済的な環境エネルギーシステム実現に向けて施策を展開していこうというのが文科省の取組でございます。
核融合に関しては,本委員会とは別に取り組まれているものですから,そこについての説明は捨象させていただこうと思います。
それぞれ御覧のような事業がございまして,2ページ目以降から,各事業の説明紙を用意させていただいていますので,簡単に説明させていただきます。
まず,2ページ目でございます。省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発です。令和2年度の予算額(案)は14億6,800万円です。
中段左側に事業の目的・目標が書いてございます。窒化ガリウム等の次世代半導体を用いたパワーデバイスなどの2030年の実用化に向けて,令和2年度までの事業期間中に,結晶の作製技術を創出するとともにデバイスの作製方法の目途を立てるというような研究プログラムです。事業期間は,令和2年度までというようなことになっておりまして,来年度が最終年度です。大容量の大電力用のデバイスなどについて,多数の研究成果を出しております。
それから3ページ目を御覧ください。一番左上ですけども,低炭素社会の実現に向けた未来社会創造事業ということでございます。
中段左側に事業の目標・目的がございますが,2050年の社会実装を目指して,従来の延長線上にない革新的なエネルギー科学技術の研究開発を進めています。研究期間は,原則5年としながら,ステージゲート評価を経て本格研究に移っていくという運用をさせていただいております。
それから,その次の4ページですが,戦略的創造研究推進事業,通称ALCA(アルカ)というふうに呼んでいるものでございます。これについては,もう既に新規課題の採択が終わっている事業です。
中段左側に事業の目的・目標が書いてございます。2030年の社会実装を目指して研究開発を進めています。右下の方に,これまでの成果を書かせていただいていますけども,例えば,木質をバイオマスとして活用しやすくするために,細胞壁を改変するといった成果が出てございます。
それから,5ページは核融合関連で説明を省略させていただいて,6ページ,気候変動適応戦略イニシアチブということで,気候変動関連の予算をまとめてございます。
中段に事業の目的・目標が書いてございます。気候変動メカニズムの解明や,精度の向上,予測情報の創出,地球環境ビッグデータのプラットフォーム化,こういったことに取り組ませていただいておりまして,それぞれ研究成果を出してきているところです。下の方に書いていますけれども,主な成果として,『Nature』『Science』などの学会誌に多く掲載されるとともに,IPCCなどの議論の中でも研究成果を活用していただいておりまして,世界で最も多く活用されたのはこの事業から生まれたデータでございます。また,地球環境情報のプラットフォームについても,この4年間でユーザー数が5倍になるなど,非常に多くの方々に使っていただいております。また,これまでなかなか難しかったリアルタイムの浸水予測システム,こういったものも提供させていただくなど,国内外に貢献させていただいているところでございます。
説明は以上でございます。
【高村主査】 ありがとうございました。
それでは,議題1の事務局からの御説明について,御質問,御意見ございましたら頂ければと思いますが,いかがでしょうか。
堅達委員,お願いいたします。
【堅達委員】 1つ質問ですが,予算の額が前年度に比べて微妙に減っている気がするのですが,これは何かシーリング的なものがあるのか,何が原因でしょうか。例えば,つい最近マイクロソフトは,2030年までにカーボンネガティブを達成するということを会社として宣言して,1社だけで1,100億円のファンドを作っています。もちろん,ビジネスの世界でやるのと,国の税金を使ってやるのはまた違うし,そういうところは考えていかなければいけないとは思うのですが,国民に対するメッセージとしては,やはり,国がこの分野を重要に考えていて予算を増やしている,しかも,この10年が勝負だから,がつんと付けていますという勢いが少し感じられない。理由はなぜかを教えていただければと思います。
【横地環境エネルギー課長】 ありがとうございます。
施策の重要性というのは,正におっしゃるとおりで,極めて重要だと我々も考えています。額の多寡だけではないとは理解をしていますが,この分野の予算措置について,引き続き努力してまいりたいと思っております。
また,予算以外の活動というのも非常に重要だと我々は思っていまして,机上配付させていただいたように,裾野を広げるような活動も進めてまいりたいと思っています。後ほど説明させていただこうかと思い,机上に配付していますが,この分野が非常に重要性であるとか,現在どういう状況になっているかというようなことをなるべく発信をしていくことで,比較的低コストで施策を展開できるような手法というのも考えてまいりたいと考えております。
【清水課長補佐】 少し補足ですが,令和2年度の予算が大きく減った具体的な理由としましては,最初のページの革新的な低炭素化技術の研究の推進というところに2つの事業が並んでいるかと思いますが,上段が未来社会創造事業,下がALCAと呼ばれる先端的低炭素技術開発になっております。枠組みとしては,こちらの先端的低炭素化技術開発(ALCA)の方がもう新規募集を停止いたしまして,その分を未来社会創造事業で新規採択しているということになっております。令和2年度は,特にALCAの課題終了に伴う減額が非常に多くて,それだけで17億減という形になっております。7件程度の課題終了,それから,重点分野であるホワイトバイオテクノロジーの分野も課題終了なので,今年度は特にその減額が大きいということになっております。
なお,蓄電池等の基盤研究拠点の整備というものを今回新たに考えておりまして,既にこのALCAの中にある重点領域である蓄電池の研究開発にALCA-SPRINGという取組がございますけれども,そのALCA-SPRINGの更に基盤となる研究拠点を作ろうということで考えております。こちらの額は,これから公募なので計上されていないのですが,米印のところにありますとおり,JST共創の場形成支援,こちらは全体として20億程度なので全てが付くわけではないのですが,これを活用しながら,蓄電池分野で課題をとれるように努力してまいりたいと思います。
以上になります。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかに御質問ございますでしょうか。
嶋田委員,お願いいたします。
【嶋田委員】 DIASなんですが,利用者が5倍になってるということで,かなり利用が進んでいて,恐らく自治体なども一部利用者がいるかと思うのですが,令和2年度までということなので,こういった基盤というのは,長期的なインフラの整備が必要だと思いますが,ポストDIASみたいなものは考えられているのでしょうか。
【横地環境エネルギー課長】 今後,様々な方々の御意見を頂きながら,どのようなものがよりふさわしいのかということは検討してまいりたいと考えています。
【高村主査】 ほかに御質問,御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。議題の中に,文科省としての今後の科学技術の研究開発の在り方についての議論もございますので,もし,そこのところで追加的にありましたら御質問いただければと思います。
それでは,議題2に移ってまいります。先日,総合科学技術・イノベーション会議,CSTIで決定をされました革新的環境イノベーション戦略について,事務局から説明をお願いしたいと思います。
【横地環境エネルギー課長】 では,引き続き,革新的環境イノベーション戦略について説明させていただきます。
つい先日,1月21日付けで,統合イノベーション戦略推進会議決定になったものでございます。今後の施策の展開は,この戦略も踏まえて進めてまいりたいと考えておりますが,内容について,簡単に説明させていただきます。
資料の2-1が概要版でございまして,2-2が全体版とです。まず,2-1を御覧ください。1ページ目で,革新的環境イノベーション戦略が目指すものということでございます。若干ビジーなページになっていますけども,大事なところなので説明させていただきます。
パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略において,我が国は「脱炭素社会」を掲げて,今世紀後半のできるだけ早い時期にこの野心的な取組の実現を目指すということを掲げました。また,2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減をしっかりと取り組むということを宣言しております。また,これに加えて1.5度の努力目標を含むパリ協定の長期目標の実現にも貢献するということを政府として決めておりまして,この延長線上で,しっかりとどう取り組むのかということを今回定めたというものでございます。
ただ,非常にこの実現は野心的でございまして,例えばコストだけ見ても,相当な追加的な費用が必要になるということで,そこに1.5度の努力目標を実現するとなると,更に追加の費用が必要になるということで,従って,非連続のイノベーションで社会実装可能なコストを可能な限り早い時期に実現するということが何より重要であるというようなものでございます。ただ,これまでの取組で,例えば太陽電池のコストなどについては250分の1にまで下げてきたというような経験もございますので,イノベーションの力強さというのはこれまでも分かっているわけなので,ここをしっかりやっていく必要があるというのが,全体を流れる通奏低音になっております。
今般の長期戦略に基づいて策定するこの革新的環境イノベーション戦略についてですけども,その囲みの中の下の丸に書いてございますが,技術課題16を具体的に挙げて,具体的なコスト目標を明確にしたイノベーション・アクションプランというのをまず定めるというようなことをいたしました。また,これらを実現するための研究体制とか投資の促進策,こういったことを示したアクセラレーションプランというのを作ってございます。また,社会実装というのは日本だけでは不十分なので,世界に対して発信して,成果をみんなで共有して新たな社会を創っていくということが重要だということでございまして,ゼロエミッション・イニシアチブ,こういったことも定めさせていただいています。
この3つのパートで構成されているというのが,今回の革新的環境イノベーション戦略でございます。世界のカーボンニュートラル,あるいは過去のストックベースでのCO2の削減を可能とするような技術戦略として,今後の社会実装を目指していくということにしております。下にグラフが書いていますけども,2010年実績で490億トンというようなことが計算されていますけども,今回の技術を全て足し上げれば,これを超えるような削減量が期待できるということでございまして,ビヨンド・ゼロと命名しています。
それから,2ページ目ですが,イノベーション・アクションプランがここに書いております。それから,全体像については3ページ目に書いてありますので,まず,3ページ目を御覧いただくと全体像が説明しやすいと思います。
まず,イノベーション・アクションプランというプランの下に,それを強力に後押しするアクセラレーションプランというのが作られているという構造になってございます。イノベーション・アクションプランについては,具体的な行動計画として5つの分野で16の課題を設けております。コスト目標とか世界における削減量,それから開発内容,実施体制などについてここに掲げているというものでございます。それから,そのプランを強力に後押しするための仕掛けとして,アクセラレーションプラン,それから,一番下にありますゼロエミッション・イニシアチブズ,こういったものを今回ここで明確に定めたということでございます。
アクセラレーションプラン自体は3つの柱からなっておりまして,まずは府省横断で,基礎から実装まで長期的にしっかりと推進していくような体制を新たに作るということで,グリーンイノベーション戦略推進会議というものを司令塔にしっかり定めて,計画的に推進していこうというようなこと決めております。また2番目の柱として,国内外の英知をしっかりと結集していこうということでございます。産総研に作られるゼロエミッション国際共同研究センターとか産学が共創する次世代エネルギー基盤研究拠点,これは文科省が中心なって考えてまいりますけれども,こういったものをしっかり定めることによって,国内外の英知を結集していこうというようなこと,それから,民間投資も増大するというような,民間の御協力も頂きながら進めていこうというようなこと,こういったことをアクセラレーションプランとして定めております。
また,日本国のこうした取組を国際会議などを通じて世界に発信していこうというようなことで,ゼロエミッション・イニシアチブズというような仕掛けを考えておるところでございます。
2ページ目に戻っていただくと,イノベーション・アクションプランの具体的な中身について,概略を書かせていただいております。5つの分野というのがこのローマ数字の1から5になってございます。エネルギー転換,運輸,産業,業務・家庭・その他・横断領域,それから農林水産業・吸収源というような5つの分野になっております。
例えばエネルギー転換であれば,これがしっかりと実現されれば,世界で約300億トンのCO2の排出削減がポテンシャルとして見込まれるというようなことがここに書かれてございます。低コストな水素サプライチェーンの構築とかパワーエレクトロニクス技術による超省エネの推進などがここに定められております。
運輸におきましても,これがしっかりと達成できればということで110億トンとなっております。例えば高性能蓄電池などについては,ここにしっかりと位置付けられています。
以下,産業においては,例えば人工光合成やセメントの製造,それから吸収型のコンクリート,また4番目の業務・横断領域においては,グリーンの冷媒,それから働き方とか行動変容,こういったことでも減らせるのではないかということ。また,ここには書いていませんけども,横断領域ということで,気候変動の予測研究なども,科学的な知見の蓄積の重要性という観点からここに盛り込まれております。資料の2-2が全体版ですが,52ページに気候変動の予測研究についてのシートがありますので,後ほど御覧いただければと思います。
また5番目,農林水産業・吸収源として,例えばCO2の吸収でDACなどが盛り込まれているところでございます。
以上でございます。
【高村主査】 ありがとうございました。
それでは,議題2について,事務局から今頂いた説明について御質問,御意見等ありましたら,札を立ててお知らせいただけますでしょうか。
では,竹ケ原委員,お願いいたします。
【竹ケ原委員】 どうも御説明ありがとうございました。
この革新的環境イノベーション戦略は,日本にしか出せない一種のタクソノミーと捉えています。2050年のネットゼロを構成する要素を,ヨーロッパはEUのルールとしてタクソノミーという形で打ち出しています。それ以外をどうするかについては基本的には明示していません。ブラウン,現状のものから2050年までのパスというのが示されておらず,タクソノミー以外のプロジェクトは,否定するというか,極端なことを言えば,ダイベストメントの対象にするという論調もあります。それに組すると、脱炭素に向けたトランジションが重要だ,非連続なイノベーションが大事だと一般論で述べても,結局それはごまかしだ,と切り捨てられかねないのです。そうすると,イノベーションの担い手が具体的にその実効性を示していかないといけないのですが,これができる国は限られていると思います。日本政府が,革新的環境イノベーション戦略で具体的にプロジェクトにまで展開した形で示したことは,欧州がタクソノミーとしてゴールを示したのに対し,そこに至るトランジションを,時間軸を置いて,時間的に達成していけばそこに至るのだという道筋として示したことになります。これが示されることによるESG投資への影響は,大変大きいと思います。したがって,今度はこれを具体的な分野ごとに分解していただいて,どの分野の社会実装が近いのか,フィージビリティーがあるのか,などを示していただくことで民間投資の誘導にもつながると思います。我々としてもリスクマネーの供給等含めて,スキーム作りに協力できればと思っています。ありがとうございました。
【高村主査】 ありがとうございました。
佐々木委員,お願いいたします。
【佐々木委員】 ポテンシャル検討会でいろいろ議論したことが形になってきて,なおかつそれを国全体で同様にして後押しされるという形ができてきたというのは本当にうれしく思いますし,引き続き政府を挙げて取組をしていただきたいと思います。
それで,この資料を,1点だけですが,研究者のサイドから見ると,例えば3ページ目を見ますと,有望技術の支援強化ということで,3つぐらい事業の名前が並んでいます。それで,先導研究というと我々が思い浮かべるのは,NEDOがやっているようなエネルギー環境の先導研究というエネ環先導を思い浮かべますし,ムーンショットというと内閣府のイメージが湧きますし,地域循環共生圏というと環境省が省を挙げて取り組んでいるということで,イメージが湧くのですが,そうすると,文部科学省はどこをやるのかというのが少しよく分からなくて,こういう中で文部科学省の位置付けがどのあたりなのかを補足説明していただければと思います。特に大学は文部科学省にお世話になっており,我々がお役に立てるところがありましたら当然頑張りたいと思っておりますので,その中で少し補足をお願いします。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかにこの議題について御質問,御意見ございますでしょうか。
では,堅達委員,その後,波多野委員,お願いいたします。まとめてお答えを頂こうと思います。
【堅達委員】 このような革新的環境イノベーション戦略を打ち出されたということは非常にすばらしいですし,こうした取組が具体的になっていくということについては私も高く評価したいと思います。1つ疑問に思うのは,このゼロエミ・イニシアティブズですとかゼロエミ国際共同研究センターとか,世界の科学者が連携してやっていくという壮大なプランを日本がリーダーとして打ち出すときには,やはり世界共通の野心的な目標となっている2050年ゼロという軸がないと,普通恥ずかしくて旗を振れないのではないかと,私は疑問に思いました。これに関して,もちろん文部科学省1省でどうなるわけでもないことは重々承知しておりますし,これは国の方針として決めていくこととは思いますが,世界の科学者が集まってこういうテーブルに着いたときに,あれ,日本は2050年ゼロではないのだっけといったら,もうリーダー役は普通任せてもらえない,そういう世界のトレンドというか,空気感を是非科学者,研究者,文部科学省の立場からも,政府内で強く主張していただいて,より早いタイミングで2050年ゼロということを日本が目指せるような,そういうふうに是非進めていっていただければと思っております。取り組む方向性自体は,私はとてもすばらしいことだと感じております。
以上です。
【高村主査】 ありがとうございます。
それでは,波多野委員,お願いいたします。
【波多野委員】 ありがとうございます。
私は,グリーンイノベーション戦略会議で,府省連携にて将来の目標が定まり,それに対するブレークダウンがなされつつあることは大きな前進であり,この委員会の成果でもあると思っています。先ほど御意見がありましたように,例えば前の議題の「文科省が取り組む研究開発」に関しましても,それぞれの研究の目標や成果がどのように活かされ,環境エネルギーのゴールに対してどの程度の寄与があるかをより定量的に示すことは,環境エネルギーに関する研究全体の戦略を策定する上で必要と思います。基礎研究には設定が難しいテーマもございますが、基礎・基盤研究と応用研究、社会実装、さらに社会的課題の解決への連続性が明確になり、有効と考えます。先ほどALCAのALCA-SPRINGにつながる卓越した成果の御説明をいただきましたが,例えばALCAで蓄電池の技術が2050年のゴールの目標値に関してどの程度進み,更にALCA-SPRINGにより加速できることが分かるような指標が,今後の研究開発への投資も含めて議論しやすいのではないかと思いました。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。
それでは,事務局からまとめてお答えいただければと思います。
【横地環境エネルギー課長】 ありがとうございました。我々の問題意識と近いところまで御質問を頂いています。
まず,佐々木先生の御質問ですけども,文部科学省の位置付けはどうなっているんだというようなことでございます。資料の2-2の方を御覧いただければと思いますが,例えば64ページ目,先ほど概要版で御説明させていただいたので,関係省庁それぞれ少しずつしか顔出しができてないのですが,全体の構成,このアクセラレーションプランの構成というものの1つの見せ方というのが24ページに載っています。ここに様々な仕掛けが現在のものをベースに書かれています。この中で,各省が,それぞれ知恵とツールを持ち寄って進めていこうという全体の俯瞰(ふかん)図が書いてあります。こういった中で,我々の取組も進めていこうということとか,それから66ページを御覧いただくと,ゼロエミッションの拠点フォーラムというようなものに,例えば大学とか国研とか,こういったことをしっかりとコミットして貢献していこうというようなことで,政府全体として進めていこうというようなことを書かせていただいているところでございます。正に66ページにある大学などというのは,最も重要な主要な勢力になると思っておりますので,是非先生のところにも御活躍,御支援を頂ければと思っております。
それから,堅達先生から御意見を頂いた,しっかりと2050年を見据えてやっていくということを宣言するべきではないかということでございます。この戦略の中では,例えば資料2-2,本体資料の方ですが,5ページ目を御覧いただければと思いますが,先ほど御説明させていただいたこのグラフの少し前に,革新的な技術を2050年までに確立することを目指して社会実装を目指していくというような形で,我々としても決意を述べさせていただいているというところでございます。是非いろいろな形で御支援を頂ければと思います。
それから,波多野先生からの御指摘ですが,これをどういうふうに進めていくのかというのがやはり大事だというようなことでございます。我々としても,やれる範囲でやれるところから手掛けていきたいと考えておりまして,例えば資料2-2でいきますと67ページに,次世代エネルギー基盤研究拠点の新規設置ということを書かせてもらっていますけども,その囲みの中に,こういったことに取り組んでまいりたいということで,これは文科省としてやっていきたいというような点でございますけれども,大学とか研究機関でしっかりとやっていくというようなこと,それから,それをしっかりとどう成果が生かされてくるのかということも大事だという御指摘も頂いていまして,それが正に先ほどの概要版の資料2-1の3ページ目になるのですが,アクセラレーションプランの1に掲げています司令塔による計画的な推進,ここの部分かというふうに我々としては考えています。文科省の主に担っている部分は,やはり基礎研究,基盤研究の部分なので,これをしっかりと実装まで生かしていっていただくというのが我々としても非常に重要な点だと思っております。そういった観点から,グリーンイノベーション戦略会議の中で府省横断で基礎から実装まで長期的に推進するということをこの戦略の中で位置付けられたということは,基礎研究,基盤研究に携わっていただいている方々の成果をしっかりと社会実装にまでつなげられるような仕掛けができたのかというふうに考えておりまして,こういった政府全体の進め方の中でしっかりと考えていければいいと考えておるところでございます。
以上です。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかに御質問,御意見ございますでしょうか。
佐々木先生,お願いいたします。
【佐々木委員】 特にアカデミアでいきますと,67ページの次世代エネルギー基盤研究拠点というところが当然大学とかアカデミアに近いのかと思いますけれども,別の資料の予算の制度のところで,アクセラレーションプログラムでこの次世代エネルギー基盤研究拠点について,書いていたスライドがあったと思いますが,その中には,共創の場の予算の内数ということで書いてあります。ということは,言い換えると,これのための新たな文部科学省の予算というのはなくて,共創の場の中でエネルギー関係も積極的に取り込んでいくという理解と考えてよろしいでしょうか。
【横地環境エネルギー課長】 革新的環境イノベーション戦略の推進に関連している予算を1枚にまとめたのが資料2-3になります。エネルギー転換とか運輸とか業務・その他・横断領域,あるいは農林水産・吸収源,アクセラレーションプラン,国内外の英知の結集,こういったことを手掛けてまいりたいと考えておりまして,これが文部科学省の現在の要求している予算案の中で革新的環境イノベーション戦略に関わるものということでございます。これを見ていただくと,そのものずばりでやるものから,他の施策の器を使いながらやっていくようなものまで含まれておりますので,こういったことを考えているというふうに御理解いただければと思います。
【佐々木委員】 ちょうど共創の場の支援というのは,私は産地部会も入っていて,いわゆるイノベーションハブをアカデミアの中で作りましょうということですけれども,今まではどちらかというと,エネルギーはNEDOがやっているということで,何となく余り表に出ないでくださいと,肩身の狭い思いをしていたところもあるのですが,こういう共創の場の中でエネルギーというのも,脱炭素化とか,そういうグリーンイノベーションもある程度きっちり入れていきましょうということで,産地部会,産地課なんかとも議論されてこういう文章になったと理解してよろしいですか。
【清水課長補佐】 御指摘のとおり共創の場支援事業は,今の時点で完全に環境エネルギー領域が立ち上がるとは決まっておりませんが,今後省内で領域の特定に向けて議論を行うこととなっており,事務的に調整しているところです。確かに経産省が主にエネルギー部分というのはやっているところではありますが,今回の蓄電池の構想について言いますと,NEDOなどで実用化をしていく段階で,例えば,電池だったら電池のスケールアップをしていく段階で,基礎的なメカニズムが分からないと実用化の問題解決が立ち遅れるというような部分があるので,そこの本当に基礎基盤的研究部分を担うような拠点を作ろうというのがコンセプトであります。そのため,エネルギーだから経産省ということではなくて,そことうまく連携しながら基礎部分をしっかりと進めていくというところで,文部科学省としては次世代エネルギー基盤研究拠点という形で打ち出しています。
なお,令和2年度からは,蓄電池というところを獲得できるようにしていきたいと思っているのですが,この革新的環境イノベーション戦略の中で述べている次世代エネルギーは蓄電池だけのことではなくて,今後,どの分野の基盤研究拠点を作ったらいいのかというところの調査を継続しながら,ここをやった方がいいというところが見えてきましたら,そこの部分も更に増やしていきたいというふうに考えております。
【高村主査】 ありがとうございます。
それでは,時間も少し押してきていますので議題3に移ってまいりたいと思います。
議題3は,研究開発プログラム評価の試行的実施についてでありますけれども,第1回の本委員会で,事務局から進め方やスケジュールについて御説明を頂いています。このたび親会議になります研究計画・評価分科会の事務局から,今年度中に各委員会で評価票を作成して1回以上議論をしてほしいという依頼を頂いております。その結果については,議論を研究計画・評価分科会に報告をするということになります。そこで,きょうは,評価票案を事務局で作っていただいておりますので,その評価票案について御議論を頂きたいというふうに思います。先ほど申し上げましたように,本日の議論を踏まえて,改めてその内容については,親委員会であります研究計画・評価分科会で報告をするということになります。
それでは,事務局からプログラム評価票案について説明をお願いできますでしょうか。
【清水課長補佐】 それでは説明をさせていただきます。
ただいま主査からスケジュール感等々大変詳しい御説明を頂きましたので,中身の方に特化してお話をさせていただければと思います。
まず,資料の3-2を御覧ください。施策マップということで,環境エネルギー分野がございます。左側に中目標1,2,3と並んでおりまして,こちらが研究開発計画の中目標ということで,今回3点,評価の対象になっているくくりでございます。こちらも参照しながら,評価票の方を見ていただけたらと思います。
続きまして資料3-3-1を御覧ください。こちらの分野別委員会で担当いたします3つのプログラムのうちの1つ目でございます。こちらは低炭素技術,脱炭素技術の確立のための研究開発を推進するというところでございます。対象となっているのが,内局事業の次世代半導体の研究開発ですので,そちらの現在での貢献状況というところを記載しております。
表の中の一番左側の測定指標を御覧ください。こちらは,もう既に計画で定められている指標を書いているものでございますけれども,1の研究開発による特許出願累積件数というところで,2016年から18年まで大幅に伸びているところでございます。また2のところですけれども,こちらは,様々な低炭素技術開発が企業等に橋渡しをされた事例というところで,こちらも安定的に橋渡しができています。なお,先ほど,次世代半導体のプログラムと申し上げましたけれども,こちらの1と2については,JSTの事業であります未来等における成果の特許出願や橋渡しテーマ件数も含めての数字となります。
さらに,右の貢献状況というところをご覧ください。本事業では,大幅な省エネ効果が期待される窒化ガリウム,GaN等の次世代半導体材料に関する基礎基盤技術開発に取り組んでいるものです。現在,大電力用デバイスの歩留まり向上への貢献が期待できる高品質結晶製造の技術確立,それからイオン注入によるp型GaNの作製,それから高性能レーザーデバイス作製方法の構築など,様々なデバイスの実用化のために必ず必要となってくる世界初の研究成果というものを数多く創出しております。こうした成果が科学技術基本計画ですとか,エネルギー基本計画におけるエネルギーの安定供給や産業競争力強化,それから脱炭素化に向けた動きに貢献していくものと考えております。
引き続きまして,2ページ目ですけれども,研究開発成果の寄与状況というところで,定性的な指標が書いております。こちらはGaNだけではなくて,先ほどの未来社会創造事業等の提案公募型の事業も含めた形での成果,本当に基礎研究,裾野を広げることが大事だという中で,提案公募型も含めまして様々な成果を生み出しているところでございます。こちらが定性的な評価になります。
続きまして,資料3-3-2になります。こちらは,気候変動関係ということで,気候変動メカニズムの解明等の研究開発となっております。
まず,左の測定指標を御覧ください。こちらの統合的気候モデル高度化研究プログラムの指標は,こちらの成果を活用した国際共同研究と国際プロジェクトへの参加も含みますけれども,海外連携実績を指標として挙げております。2017年と2018年も80件以上ということで,様々国際連携も進んでいるという点がうかがえます。
右側の貢献状況のところですが,気候変動予測情報も省庁連携が必要になってきます。環境省等の関係省庁に提供することによって,気候変動対策に寄与するとともに,国際的にはIPCC等を通じた協力をしております。IPCCでは,日本が開発した気候モデルが世界で最も多く活用されまして,国際的な気候変動に関する議論をリードしております。
続きまして2ページですが,こちらは,SI-CATでございます。気候変動適応技術社会実装プログラムというところで,2のところが,これは御存じのとおりモデル自治体を選定いたしまして,地域の環境問題を解決するためのプログラムを研究開発するというところでございますけれども,指標としまして,成果を活用して適応策等の検討を開始した自治体等の数というところで,2016年から順調に伸びております。
さらに,取組状況のところですが,研究開発成果を地方公共団体等に提供しまして,モデル自治体の中で適応策の立案・推進を積極的に支援するのはもちろんですが,その成果等を横展開して,様々な自治体ですとか関係省庁へ提供を開始しております。
続きまして資料の3-3-3になります。こちらはDIASでございます。様々な地球環境ビッグデータを蓄積・統合解析するためのプラットフォーム構築というところで,運用の評価でございます。まず,指標につきましては一番左のところです。DIASの利用者数ですけれども,2016年は約3,000人だったところが,2018年には5,000人弱ということで順調に伸びております。
さらに,貢献状況というところですが,様々なデータの蓄積・統合解析のための運用体制の構築を推進しているほか,基本的に,コアとしては学術研究への利活用の推進をこれまで進めてきたのですけれども,更に一歩手を伸ばして,水力発電の高効率化に向けた電力会社との共同研究等を通じたデータの産業利用の促進,それから洪水や渇水予測システムによる海外の防災・減災等への貢献,また,国際的取組としましては,地球観測に関する政府間会合(GEO)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を通じた国際貢献を引き続き推進しております。
また,補足になりますが,資料の3-1を改めて御覧ください。
今回の議論について,留意点としましては,まず中目標ごと,この委員会としては今述べた3つの中目標ごとの取組を総覧した上での気付きということで,すなわち個々の事業の評価のみではなくて,その中目標を達成できたかという観点から,事業を横断的に見ていただくための評価を頂けたらと思います。もちろん事業個別に関する評価のことでも構いません。それから,留意点として全体的に示されていますものが,定量的指標のみに頼ることなく,プログラムの性格,内容等を考慮した形で評価をしていただきたいという点,それから3点目が,目標に対する達成状況を評価とすることを基本としているのですけれども,実施したプロセスの妥当性ですとか副次的効果,それから理解増進や研究基盤の向上等,次につなげる成果を幅広い視点から御議論いただけたらと思います。このことが全体として示されておりますので,御紹介させていただきます。
【高村主査】 ありがとうございました。
この研究開発プログラムの評価については,評価の仕方等含めて随分,第9期の環境エネルギー科学技術委員会でも議論がありましたし,親委員会でも議論があったところで,今回,試行的にまずやってみようということでの最初の取組だと理解をしております。今御説明がありましたように,定められた環境エネルギー科学技術分野の中目標というのは設定をされているわけですが,それに関わって今,関係しそうな事業,それからその評価というのを出していただいていますけれども,広い観点からお気付きの点を御指摘いただければと思っております。
御発言を御希望の方は札を上げていただければと思います。まず波多野委員,その後加藤委員,その後竹ケ原委員にお願いいたします。
【波多野委員】 ありがとうございます。
先ほどの革新的環境イノベーション戦略の非常に壮大なプランの御説明の後で,この目標とか貢献度というのが,まずCO2削減に対して幾ら定量的な評価が難しいとはいえ,それに対する文言がないというのは少し違和感を覚えました。例えば御紹介ございましたGaNの技術は我が国がノーベル賞を受賞した大変な重要な技術であります。将来,2030年の実用化が目標で,応用のターゲットも設定されていらっしゃいますので,この技術を実現したら,これぐらいのCO2削減が見込める,温室効果ガス削減に寄与できる,というような半定量的な指標を設定できるのでは,と思いました。
【高村主査】 ありがとうございます。
それでは,加藤委員,その後竹ケ原委員,お願いいたします。
【加藤委員】 ありがとうございます。
波多野委員と同じような印象を持ったということなのですが,既に議論されていて定量的なことはそんなに気にしないでくださいと,最初から言われているのですけど,これを見て,では,何を考えたらいいのかと思ってしまうのです。それで,測定指標というのがそれぞれの課題に対して違うのは,それはいいと思うのですが,やはり目標が何かあって,この数字を挙げる必要はないのではないですかということになるし,この数字は何を意味するのかというところを,目標に対してどれだけなのかというのはやはり知りたいという感じがしますので,もう少し説得力のあるような指標の見せ方というのがあるのではないかと思いました。
以上です。
【高村主査】 ありがとうございます。
それでは,竹ケ原委員,お願いいたします。
【竹ケ原委員】 政策効果をどういうKPIで測るかは,非常に難しいと思います。特にこの分野は難しいと思うのですけど,例えば,これは質問になってしまうかもしれませんが,資料3-3-1で御説明いただいた企業への橋渡しテーマの数,これがKPIになっているわけですが,橋渡しの意味,橋渡しした結果,どんなアウトカムがあったのかというところの方が本質だと思います。3-3-3も,利用者数,これはアウトプットとしてはベーシックなKPIになると思いますが,横の右側で書かれているように,学術研究から更に産業利用の促進等,要するにユーザーの多様化をうたっていらっしゃるので,単純に数が増えているだけではなくて,目指したとおり産業利用が拡大しているのかどうか,このあたり,こういう御報告を頂くと知りたくなるわけですが,実際そのアウトプットをベースとしつつも,もう少し狙っていらっしゃったアウトカム,ないしインパクトが生じたのかどうか,このあたりを少しKPIの見せ方として御検討いただく余地はあるかと感じました。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかに御質問,御意見ございませんでしょうか。
石川委員,お願いいたします。
【石川委員】 私も同じところで,しっかりと目標と指標が合っているのかというのは,やはり気になるところなのと,もう一つは,例えば今,竹ケ原委員がおっしゃられていたアウトカムというのがいつ出てくるのかというのは,もう一つ大事なポイントで,事業終了後に出てきても,その事業自体がうまくいったというふうに評価するべきではないかとは思うのですけれども,期間中にアウトカムまでというのはなかなか難しいものもあるのではないかと,そういうのも含めてどういうふうに評価するのかというのは,是非とも何かいいアイデアを出していただきたいと思います。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。よろしゅうございますか。
余り抑制的にいってしまったかもしれませんが,随分これは議論があって,事務局は多分苦労されて御準備されていると思いますけれども,もし,例えば今おっしゃったような目標と指標のミスマッチがあるのではないかというところの御指摘,あるいは十分ではないのではないかという御指摘だと思いますが,例えばこういう指標というのがあり得るのではないかといったようなサジェスチョンでも結構ですし,あるいは全体としての評価の仕方について,先ほど石川委員の御指摘,アウトカムのタイムラグといいましょうか,時間軸の問題についても非常に貴重な御意見かと思います。
何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。まだ多分事務局が分科会に御報告いただくのに少し時間的な余裕があると思いますので,もし後でお気付きの点があれば,事務局の方に御連絡いただければと思いますが,よろしいでしょうか。ありがとうございます。
それではそういう形で,一定の期間区切りまして,事務局の方にお気付きの点,追加でございましたら頂くというふうにいたしまして,少なくともきょう頂いた御議論の内容については,事務局の方で取りまとめていただいて,現時点でのこの委員会の議論の状況として,研究計画・評価分科会に報告をさせていただきたいと思います。これらの評価はまだ続いていきますので,分科会で更に議論をした上で,また次回以降も御議論いただくことになりますので,そういうものとして引き続きよろしくお願いしたいと思います。
事務局から発言をよろしくお願いいたします。
【清水課長補佐】 今頂いた御意見のとおりだと思います。念のため,少し補足なのですが,測定指標自体は29年度に決定されました研究開発計画の中で既に指示されているものでございます。ですので,指標をどう変えるかという部分は,計画の見直しの段階で更に検討していきたいと思います。また,お話の中にもあったのですが,なかなか基礎研究分野になりますと,追跡評価などをしないとどうしても最後,社会にどう還元されたかというところがなかなか評価しづらいところがあります。追跡評価については,今,内閣府が中心になって各ファンディングエージェンシー等の追跡評価を促進するような動きがございますので,そういった流れも踏まえながら,基礎研究とはいえ社会にどう役に立ったかという部分をしっかりと示せるような形での指標というのを,今後も検討させていただきたいと思います。ありがとうございました。
【高村主査】 よろしゅうございますでしょうか。ありがとうございます。まだ続きますので是非よろしくお願いいたします。
それでは,議題4に移ってまいりたいと思います。
きょうは,イノベーションに関して梶川裕矢先生をお招きしております。同僚ですのでなかなか紹介するのが心苦しいところがあるのですけれども,東京工業大学の環境・社会理工学院,そして当方所属しております東京大学の未来ビジョン研究センターで教授を務めていらっしゃいます。もともと工学系のバックグラウンドだと思いますけれども,現在,技術経営学,科学技術政策学,情報学等,非常に幅広い研究領域で活躍をしてくださっている先生でして,知,システム等の構造化の方法論,イノベーション学の知の体系化等で,先生方にも知己を持っていらっしゃる方もいらっしゃるのではないかというふうに思います。今回,この後の議題5にも関わってまいりますけれども,やはり科学技術イノベーションを引き出していく仕組みとしての政策の在り方について,政府に対しても梶川先生はこの間御助言いただいて,いろんな場で御助言いただいているのですけれども,本委員会でも,今後の研究開発の在り方を検討する上で,これまでも非常に貴重な世界の動きですとか金融の動向等々ヒアリングをしてまいりましたけれども,その中で,やはり論点としていかにイノベーションを引き起こしていくのかということが挙がっておりますので,そういう背景からこれまでの議論を受けて,今回,梶川先生に御報告をお願いをするということにいたしました。
それでは,お待たせいたしましたけれども,梶川先生から御報告お願いできますでしょうか。
【梶川教授】 ただいま御紹介にあずかりました梶川と申します。このような貴重な機会を頂きまして,ありがとうございます。この会議でもイノベーションというのがキーワードとしてよく語られるようになってきたということで,イノベーションについての基本的なところをレクチャーしていただけませんかという依頼を受けまして,きょうお話しさせていただきます。
資料4にございますけども,キーワードとしては,未来社会,科学技術,イノベーション,それらの関係性について,これから基本的な解説をしていきたいと思います。
まず初めに,未来社会ということで,最近ですと内閣府のSociety5.0とかSDGsというのを聞かない日はないぐらい,特に科学技術関係者はという状況ではありますけども,よく考えてみると,未来社会像の作り方が全く違うのです。Society5.0というのは,農学ができて環境利用ができるようになって農耕社会,それから,工学,人工物の創造で工業化社会,情報学で情報化社会,今後はAI,IoTでSociety5.0ということで,科学技術が可能とする社会の視点で未来社会を描いたものになります。SDGsというのはそうではなくて,あるべき社会の視点,社会はどうでなければいけないのか,何を達成しなければいけないのかということで,社会の視点からのバックキャスティングで描いたものというのがSDGsになります。あるべき社会の視点というのは,多様な視点があり得まして,例えば18世紀,19世紀までさかのぼると帝国主義とか,20世紀では社会主義,資本主義,現在は国家主義というのも非常に台頭してきておりますけども,それに対して持続可能主義とも呼ぶべき新しい社会原理を提示して,そこからの社会像を描いたということになっています。日本ですと,科学技術というとほとんど理工系の研究のことを指すわけですけども,グローバルにはそうではありませんので,あるべき社会の視点から社会を描いていく,ここでは人文社会系の研究というのが非常に重要になってくるわけです。いずれにしろ,未来社会の描き方は2通りあるにせよ,どちらにしても科学技術というのが非常に重要な役割を果たしますし,2つのアプローチ,科学技術,特に狭い意味の科学技術が可能とする社会の視点,あるべき社会の視点の交点の中で将来の社会というのが描かれていくべきであるし,実現されていくことになるということです。
イノベーション,これは非常にバズワードなのですけれども,人によって捉え方,特にプライオリティーの置き方が全く違うのです。イノベーションと聞いて,特に環境エネルギーで何を思い浮かべるでしょうか。GaNかもしれない,リチウムイオン電池かもしれない,水素,CCUSかもしれない,様々に書いていますけども,人によっては,科学技術,特に技術に立脚したイノベーションというのを想像するわけです。人によっては,いや,それはイノベーションとは呼ばない,必要かもしれないし必要ではないかもしれない,ビジネスとして収益を上げることがイノベーションだというわけです。ただ,よくよく考えてみると,ビジネスとして収益を上げる,例えばレイオフして利益率が改善しましたとか,M&Aで売上高が伸びました,これはイノベーションと呼ぶのかというようなことで,別の人は,いや,そうではない,社会にインパクトを初めて,もちろんポジティブな意味でのインパクトを初めて,そこまで至って初めてイノベーションだというわけです。ややもすると,総論賛成,各論反対といいますか,人によって重点の置き方が違うので,意見が合っているように見えて実は議論がかみ合っていないというようなことがよく起きるわけです。
例えばということで,きょうは文科省の会議ですので,NISTEPのイノベーションの定義を持ってきたのですけども,全国イノベーション調査の中で,「イノベーションってなんですか」と。「イノベーションとは,企業が収益改善のために行う新しい取組のことです。なお,自社にとって新しい取組であれば,他社が既に同様の取組を行っていても「イノベーション」となります。なるほど! 「イノベーション」って意外に身近なものなんですね」と。「全ての日本企業の一つ一つのイノベーションが日本の経済の成長の源泉です」と政治家が言いそうなことを書いてあるわけです。これは,学術の世界ではこういうのはイノベーションとは呼ばないのです。政策サイドでも,OECDのオスロマニュアルというイノベーション調査のためのガイドラインがありますけども,そこでは,こういうのはイノベーションとは呼びませんというのが書いてあって,そこの中の一つが,先ほど紹介したM&Aですとかレイオフとか,そういうようなこととか,あと他社が既に行っているとか,そういうようなことなので,こういうのはイノベーションとは呼ばないと。ただ,イノベーションの定義が学術的に1つに定まっているかというと,そうではないです。あるレビュー論文によると90の異なる定義があるというような話もあるのですけれども,概ねこういうのをイノベーションと呼ぼうというのは,方向性は定まっておりまして,それが次の「イノベーションとは何か?」と書いてあるスライドです。
一言で言うと,Value Creation with Something Newということで,Valueというのは,経済的な価値もありますし,社会的な価値,文化的,公共的な価値,環境にとっての価値,様々な価値というのがあります。それから,Creationというのはプロセスを指す,ValueをCreationするProcess,それからOutput,Outcomeを含むものということです。Somethingの中には技術もあれば製品,サービス,システム,ビジネスモデル,それからライフスタイル,政策や制度と,多様なものが何かに含まれる。新しいというのは通常,New to the worldです。誰もやったことがない。他社のまねをとか,そういうのはイノベーションとさすがに呼ばないわけで,New to the worldのものです。正確に言うと,A series of net value creation processes and their outputs and outcomes with something new to the worldということになろうかと思います。ここでのポイントは,net value creationということで,ある面で見ると価値が増えているのだけども,ある面で見ると下がっている。ただ,もしかしたらある企業にとってはそれは抵抗勢力かもしれないし,ある企業にとっては事業のオポチュニティーかもしれない。だけれども,社会の全体としてnetでvalueが作られていれば,これは社会としてそちらを目指すべきではないかということで,net value creationと。それから,A series ofというところがポイントで,イノベーションというのは,誰かが何かをやってできるものではないのです。それは,非常にその価値を作っていくcreationのprocessの連鎖として生じるわけです。
例えばきょうの話ですと,太陽光で日本がコスト250分の1にしたとか,そういうことはあり得ない。そこに貢献した,貢献はあるかもしれない。これにより世界での普及に,これはもううそですね。御案内のとおり,日本というのは太陽光のコストが非常に高いわけで,そんな国がなぜ世界の普及に貢献したと言えるのですかと。もちろんA series ofというようなことで,例えば産総研で松田さんがアモルファスシリコンでとか,三洋の桑野さんがとかあるわけですし,先ほどの当初効果のところでいくと,非常にそこがふくそうしていて,投資した人とリターンを受け取る人が必ずしも一致はしていない。例えば太陽光発電の今日の普及に大きな貢献を果たしたと私が思っているのがマーティン・グリーンですけども,オーストラリアの研究者です。では,オーストラリアに太陽光産業ができたかというと,できていないわけです。中国なわけですけども,例えばサンテックの創業者だったり事業部長クラス,かなり多くの人がグリーン先生の研究室出身なのです。そういうようなことで,どの国で起きるか分からない。そういった価値の連鎖の中でイノベーションというのは起きると。イノベーションが起きるというこのプロセスの連鎖の部分とイノベーションの収益化,誰がイノベーションの収益をとるのかと,これはまた別問題になってきます。そういうような非常に複雑なプロセスの連鎖の中でイノベーションというのが起きているのだということです。
次のスライドに行ってもらいまして,きょうはイノベーションを捉えるということで,2つの視点を紹介したいと思います。1つが,軌道移行の視点。これは事務局からのリクエストにもありましたので,軌道移行の視点。それから,多層性の視点ということです。
次のスライドに行っていただきまして,軌道移行って何かと。これは,この委員会でも言及されておりましたけれども,ディスラプティブ・イノベーションと。これはクリステンセン,ハーバードのビジネススクールの先生が97年に発表した論文から来ているわけですけれども,この図はクリステンセンのものから持ってきましたが,彼の問題意識は,エクセレントカンパニーと言われるような大企業が数年たつと姿がなくなっていると。倒産したりM&Aで吸収されたり。それはなぜなのかというような問題意識から研究をスタートしたのです。結論は,ディスラプティブなイノベーションが起きているのだということです。この図は,横軸が時間で縦軸が製品のスペックを指す。青い線の上が,大企業が研究開発を進めていく方向性を指しています。この研究の結論は,マーケティングをやり過ぎるから大企業は失敗するのだという話で,お客さんの声を聞くと,もっといいものが欲しい,もっといいスペックをというようなことで,カスタマーのリクワイアメントに従って研究開発を進めていくと,どんどん製品のスペックというのは向上していくのですけれども,このピンクが,顧客が本当に求めているものです。あるところで顧客が本当に求めているものを超えてしまうと。ただ,マーケティング調査をすると,もっといいものが欲しいと言うわけです。顧客が本当に何を求めているか自分では分かっていないということで,それを超えて研究開発が進んで行く状態が続いて,あるときに,その新規参入者が,例えばコストが劇的に安いと。このクリステンセンの例では,ハードディスクの大型化を目指してみんなが研究開発をしていたのだけれども,実はそういうニーズというのは,あるときから薄れていって,もう圧倒的に低コスト,小型化に移ったというようなことで,新興企業が別の機能軸を打ち出して,それで市場に参入してくると。下の方の青いラインの人たちが入ってき始めた頃に,大企業の経営者が担当者に,最近ああいう企業があるらしいのだけども,どうなのと聞くと,皆さん,口をそろえて,あんなの大したことないですよと。日本でも一時そうだったのです。中国,何かやっていますけど,大したことないとみんな言っていたわけです。これは,事実としてそうだったし,それから研究者の思いとして,これはいろんな研究者といろいろ話をして,皆さん自分の技術にはプライドを持っていらっしゃるので,同じ分野の競合するような研究者だとか製品については,必ず駄目だと言うわけです。少し離れると,割合客観的なコメントがもらえるのですけれども,というようなことで,本当に駄目だったり,技術者,研究者としてのプライドを懸けて,あんなのは役に立ちません,おもちゃみたいなものですと言う。ところがあるときに,それが顧客のリクワイアメントに達してしまうのです。そうすると,急激なシェアの移動が起きる,そういうような話なのです。もともとクリステンセンが言っていたのは,ハードディスクのコストがというような,そういう狭い話だったのですけど,このイノベーションのジレンマというのが非常に社会に広まったのは,恐らくこの研究が持っている含意なのです。製品のスペックだけではなくて,例えば社会のシステムだとか事業の在り方だとか,そういう広く超えて同じようなこういう現象というのが起きるのではないのかというようなことで,拡大解釈されてこのイノベーションのジレンマというのが非常に広まってきたということです。
学術的な立場から見ると,では,ディスラプティブとそうではないのはどうやって区別するのとか測るのとか,そういう議論はいまだに続いています。どういうふうにそれぞれのイノベーションを定義してどう測るのかと。これは学術的な信頼性の観点からは重要ですけども,テクニカルになるので,ここではひとまずざくっと軌道延伸型と軌道移行型ということで分けて,単なる製品のスペックだけではない部分も含めて,解釈して話を進めたいと思いますけれども,一つ,この委員会に関係するところであれば,どこを民間企業が担って,どこが政府が担うべきなのかというような議論です。これはもう明確で,サステイニング・イノベーション,企業の従来の事業の延長線上でというのが,これは民間資金で行うべきとなります。それから,例えば今の物性を10倍,100倍にしていくとか,非常にラジカルなイノベーション,これもう本来はその企業の事業のわけだから民間でとなるのですけれども,なかなか四半期ごとに成果を求められる中で,株主からの圧力もある中でそれは難しいということで,ラジカルなところは,これはもう国の役割というのが一般的なことかと思います。特にやるべきなのは,ディスラプティブ・イノベーションということで,これは,企業の中でも分かっているのです。きっと,将来にはこちらに移行するだろうと。だけども,今の事業があるので,これを両利きの経営と言いますけれども,今の事業と将来の事業の両方を企業の中で持っておく。これは並大抵のことではないのです。それをうまくできる企業はうまくいくし,そうではない企業はというのはあるのですが,なかなかそれは難しい。
例えば環境エネルギー分野ですと,電池,ソニーがリチウムイオン電池でといったときには,当初,一次電池しかやっていなかった。盛田さんがこれからは二次電池だというので号令を掛けて,一次電池と二次電池の両方の事業を実施することになって,一時はかなり高い世界シェアを占めていた。そこは旭化成の吉野さんの貢献がかなり大きいわけですけども,今はもう既に事業を売却しています。ゲル状の電解質からポリマーや固体型が重要になってくる段階で,主力事業はゲルだったのです。ただ,そのとき運悪く大規模なリコールを起こしてしまって,内部でこれからは固体だとかポリマーだって言っていたのだけれども,そこが予算が縮小されというか,そのチームが解散になってしまった。結局勝ったのはそちらの方で,それが中国の企業と言っていいのか,TDKと言っていいのか分かりませんけれども,がやったわけです。ソニーのリチウムイオン電池のチームは,当初は盛田さんに守られて両事業が併存していたのだけれども,自分たちが主力になったとたん,新しいテーマを縮小するという行為に出たわけです。そのぐらい難しい,普通ではもう,ということで,ディスラプティブ・イノベーションの部分は特に政府資金で大学等で実施して,ベンチャーで,それがその後事業会社に買収されるのもあれば,IPOでエグジットするケースもあるのだけども,それは両方とも成功だというようなことで,そちらを目指していきましょうということで,今,研究開発投資の基本的な戦略としては,ラジカル・イノベーションを企業と大学の大型の共同研究で行っていくというのが一つと,もう一つは,スタートアップです。大学発ベンチャーというのが2大テーマになっているわけです。
なぜ軌道移行が生じづらいのかということで,これは,我々の仲間の長谷川さんが言っている話ですけれども,普通の正規分布のグラフが描いてあるわけですが,意思決定が真ん中で行われるということです。意思決定が現在の事業戦略とどのぐらい合致しているかと。今,日本企業でオープンイノベーションと言っているのですけれども,それをオープンイノベーション,例えばベンチャーだったり大学の技術を評価する人たちはこの真ん中にいるわけです。そうすると,今の事業戦略に合っていませんとか,そういうような軸で切ってしまうケース。これは社内においても一緒で,そうすると何が起こるかというと,この正規分布がどんどん鋭くなっていくわけです。そうすると,軌道移行が起きないというようなことです。これは,真ん中にいる人も自分の出世を考えて,経営者にヒラメ型のように寄り添うみたいな人もいるし,このままではまずいと分かっていても声を上げられない,やはり端っこを切ってしまうというようなケースもあります。このようなことで,非常に軌道移行というのは難しい。大学においても,端っこにいる研究者は割合気楽にできるわけですけれども,先生方のように立場があると,今のセンター,今の教員,今のポスドク,どう雇用を保証していくかというようなことで,真ん中になってしまうわけです。
今回は,イノベーションやイノベーションのタイポロジー,ここまではイノベーションとは何か,イノベーションの類型について少し解説してきたわけですけれども,どうやってイノベーションを起こすかというのが非常に関心事だと思います。そうすると,イノベーションからイノベーションプロセスを議論しなければいけないということで,お話までに持ってきたのは,ピーター・ティール,PayPalの創業者で,『Zero to One』という本を書いて,非常に世界的なベストセラーになったのですが,彼が著書の中で紹介しているシリコンバレーでの大前提というのを紹介したいと思います。
イノベーションを起こすにはどうするのか。少しずつ段階的に前進すること。壮大なビジョンを掲げるのではなくて,ステップ・バイ・ステップで,TRLを徐々に上昇させていって,POCをやってと,そういうような話です。まずは顧客を捉えてというような。少しずつ段階的に前進すること。それから,無駄なく柔軟であること。例えばこれも私の同僚が言っていたのです。エネルギー基本計画でベストミックスとか,そういう計画経済的なことを言っているのは日本だけなのではないのとかいうような。そういうような計画は傲慢であると言うのです。全ての企業はリーンでなければいけない。すなわちそれは計画しないことだ。ビジネスの先行きは誰にも分からない。試行錯誤を繰り返してピボッティング,実験の連続として企業を取り扱うべきであるというのが2つ目。3点目が,ライバルのものを改良するということで,マーケットを創るというのは容易ではない。機が熟さないうちに慌てて市場を創ろうとしてはいけない。カンフル剤的に補助金を付けてというのはあるかもしれないのだけれども,本当に商売になるかどうかを知るには,既存顧客のいる市場から始めるしかないというわけです。最後が,販売ではなくプロダクトに集中すること。販売のために広告や営業が必要だとしたらプロダクトに問題があると。本当に革新的なものでいいものであればほっといても売れるでしょうというわけです。まずはそこに集中すべきだというわけです。というような,シリコンバレーでの大前提,これは全て真っ赤な大うそですというのが,ピーター・ティールの主張であります。
少しずつ段階的に前進することなんてやっているから,ほとんどのベンチャーは結局中小企業で終わるというわけです。それから,無駄なく柔軟であること。出来の悪い計画でもないよりはいい。アマゾンの創業者が紙ナプキンに書いてとか,あれも計画なわけですけども,ないよりいい。ライバルのものを改良することをやっているから,レッドオーシャンで利益が消失するというわけです。販売ではなくプロダクトに集中すること,販売はプロダクトと同じぐらい大切だ。これはベンチャーといったらみんな分かっている話で,経営者の一番な役割は営業なわけです。営業と資金調達です。というようなことなのです。
では,一体シリコンバレーの原則とピーター・ティールの主張はどうなのだ。これは,答えはイノベーションに万能薬はありませんということなのです。イノベーションはビジネスモデルに万能薬はないのだけれども,条件依存性はあるわけです。こういうタイプのイノベーションだったらこういう方法がいい,こういうタイプのイノベーションだったらこういう方法だというわけで,イノベーションについても,先ほどのディスラプティブとかラジカルのような類型があったように,イノベーションプロセスについても類型というのがあります。
リニアイノベーション,まず,研究上の技術的なアイデアがあって,研究をして技術の練度を上げていって,開発でプロトタイプを作って,製品やサービスをリリースして実証,それから事業化につなげていくというタイプです。ところが,経営学者とかその辺の人たちには,非常にこれは受けが悪いのです。まず,非常に古臭い感じがする。それから,いかにもインベンション重視でイノベーティブではないような感じがするというようなことで,リニアイノベーションというものは30年前,40年前の話です。今は,ユーザー・ドリブンだというわけです。ユーザー・ドリブンにおいては,まずはアイデアから始める。ここのアイデアというのは,リニアイノベーションでのアイデアとは違って技術的なアイデアのことではなくて,ビジネスモデルとかユースケースとかライフスタイルの提案とか,そういうようなアイデアです。まずは,そのアイデアに基づいてデザイン指向でモックアップ,プロトタイプを作って,それからすぐにリリースして,ベータテストを繰り返しながらアップデートして,ユーザーをまず獲得する,その中でイノベーションにつなげていくのだというわけです。ユーザー・ドリブンイノベーションというようなことが言い始められていたのは20年前ぐらい前だと思いますけども,ユーザー・ドリブンイノベーションというのはもう古臭くて終わっている,今はエコシステム型だというわけです。
というのが一般的な話なのですけれども,よくよく考えてみると,これらは今既に全て併存しています。リニアイノベーションの重要性というのは失われていないのです。どういうときにリニアイノベーションが向いているかというと,マーケットやニーズが存在しているものです。例えば暗黒の臓器と言われるすい臓がんのバイオマーカーとか,そういうのができたら確実に億万長者です。アンメット・メディカル・ニーズを満たすという。つまり,それはマーケットやニーズが明らかに存在している,そういうものではリニアイノベーション。それから,必要な投資やリスクが大きい,これは環境エネルギー分野のところの火力とか,そういう話になるとそうだし,医薬もそうですけども,必要な投資やリスクが大きいので,段階的に進めて,ゴー,ノー・ゴーの判断をきっちりと行いながらリニアに進めていくというものです。それから,システムが複雑で多様なコンポーネントが成り立っているとか,それから知財が強いというようなことで,手段による参入障壁を築けるもの,これはリニアイノベーションで進めていくべきものです。ユーザー・ドリブンが向いているものってどういうものかというと,マーケットやニーズが不明,やってみないと分からない,それからIT関係が典型的ですけれども,必要な投資,リスクが小さくてシンプルなシステムであると。それから,ネットワーク効果が働くということで,ユーザーが提供してくれるデータによって自分たちのサービスをよりよくしていけるですとか,そのことによってどんどんポジティブフィードバックが回るようなネットワーク効果が働くもの,これはユーザー・ドリブンで進めるべきだというふうになります。最後がエコシステム型ということで,既存のパラダイム自体に挑戦するとか新しいシステムにトランジッションが必要だとか,そういうようなものです。最後の,特にエコシステム型のイノベーションというのは,リニアイノベーションだったりユーザー・ドリブンだったり,様々な要素が包含されたものになっています。
この視点2のトランジッションマネジメントのスライドですけれども,フランク・ジールという,今,マンチェスターのビジネススクールの教授ですが,彼が若いとき,ポスドク時代に,イノベーションの普及に関する先行研究を何百,何千と読みまくって,それでシステマティックレビューを行って,1つのポンチ絵を出した。これが非常に受けて,もう既に数千,もしかしたら1万とかいくかもしれないのだけれども,世界的にインパクトがあった。たかだかレビューかもしれないのだけれども。これは何かというと,イノベーションのそれまでの知見を全て整理すると,イノベーションには3つの要素が重要だと。3つの階層のものが重要だと言っているのです。
1つ目が,technological nichesというので,この段階ではいろんな技術や製品,サービスというのが競合している。もちろんtechnological nichesの下には,科学技術基盤のようなものがあるかもしれないし,まずそもそも科学技術のところがtechnological nichesまで行くまでが大変です。電池でもいいし,水素でも何でもそうなのですが,あとニッチというと技術系の先生には怒られてしまいそうなのですが,俺のやっているのはニッチじゃないとか。それはそれとして,technological nichesというのがあって競合し合っている。これが時間がたつとどれかが勝負に勝ってメインストリームの技術として世の中に出ていくわけです。
じゃ,何がメインストリームになるかというのを決めているものが,Socio-technical regimesというものです。それには技術というのはもちろんある。それから,例えば水素であれば供給インフラのようなインフラというのもある。それからマーケットやユーザーの選考だったりライフスタイルのようなものもある。それから,産業政策,その技術が持っている文化的,象徴的な意味,それから,関連する科学技術の知識,例えば気候変動のシミュレーションなんていうのは非常にインパクトがあるでしょうし,そういう関連する科学技術の知識,それから,インダストリアルネットワーク,狭く言うとサプライチェーンです。広く言うと最近ではビジネスエコシステムと言うのですけれども,そういった産業のネットワークや各社の戦略,そういったものによって,どの技術がメインストリームになるかというのが変わる。ある技術というのは下の方にFailed innovationとありますけども,うまくいかない,ある技術は時が来れば再びというような右下のようになっていくというわけです。
最後が,Landscape。レジームは何が決めているのかというと,もっと世の中の大きな流れであって,例えばSDGs,ESG投資,マイクロプラスチックというのもそうかもしれない,そういうような社会課題であったり将来の社会像,それを国際的に発信していくようなランドスケープのところ,それがレジームに影響を与えるしというような。レジームが変わればランドスケープも変わるかもしれない。このトランジッションマネジメントの矢印でS字カーブのようになっている部分がいわゆるイノベーションという部分で,その背景にあるレジームだとかランドスケープだとか,あと科学技術基盤というのもあるでしょうけども,その部分というのはイノベーションエコシステムと呼ばれます。なので,イノベーションというのは,イノベーションの実践者たるイノベーターがこのS字カーブを上がっていく,これをどうサポートするかという面もあるし,また,アクセラレーションと言われるような。それから,イノベーションエコシステムの部分をどうリッチにしていくかという両面があるわけです。
それから,この図を受け手,受け身,パッシブに眺めてみると,technological nichesをやっておきながら時が来たらどんと投資しようよと。レジーム,世の中の動向をよくモニタリングして,時が来たらどんと投資しようよという話になるんですけども,それで,日本の太陽電池もうまくいかなかったのではないか,水素もという話もあるのですけども,それはそれとして,今何が起きているかというと,レジームをパッシブに捉えるのではなくて,アクティブな設計の対象として捉えるということなのです。つまり,technological nichesでTRLを上げながら知財を押さえながら,それからレジームを産官学の協調でクローズドサークルでデザインする。それから,国際的なイニシアチブ作り,ランドスケープの提示,これをコンカレントに進めていくというのが今起きていることです。これは,グリーンイノベーションの分野でも宇宙の分野でも正にそうです。日本の科学技術イノベーションの問題は,パッシブに捉えていいタイミングで投資できないというのもありますけども,それは非常に,そういう課題もありつつも,アクティブにその3階層をコンカレントにやっていくという部分というのが非常に弱いわけです。一方,欧州は非常にランドスケープ作りに長けているというようなところもあるというようなことです。
最後の,科学技術イノベーションの困難性ということで,これを実際にやっていこうとすると,非常に難しい。まず,情報量が爆発していて,知識が細分化して専門化していく。なかなか先ほどの3階層をコンカレントにやるというと,必要とされるのは実際には研究者ではなくて専門家です。研究者というのは,世界の最先端に立って新しい知見を生み出していくというのがミッションなわけです。ただ,レジームとかになるとそうではなくて,その分野に関する広い知見やインサイトを持っているかというような専門家としての力量が問われるというようなことになります。なかなか大学はそこの今,研究者養成がメインというと,少し語弊があるかもしれないのですけれど,専門的なというところで不十分なところがあるかと。
あと,これは従来から指摘されている,吉川先生がおっしゃっていることを持ってきたのですけれども,特にこういう委員会形式で今後の研究開発戦略をやっていこうとすると問題になるのが,課題を検討する委員が当該分野の専門家のみで構成されている場合,自らの専門の擁護者として論陣を張る場合がある。一方,専門家を含まない場合,検討される内容は素人の考えとなって価値を失うというわけです。これは,私がいろんな委員会に出ると,今もまだ起きていることです。きょう,何という文書を作る会だったか忘れましたけども,文書を作ろうとすると,まずはエネルギー基本計画だとか科学技術基本計画のような閣議決定文書に,自分がやりたい研究テーマがキーワードとして入っているかどうかというのが一番の関心事項なのです,研究者サイドは。もちろん予算をとりにいく文科省サイドもそうです。それに基づいて各事業,施策というのが打たれていくわけで,はっきり言ってあの文書を真面目に読んでいる人は誰もいないのだけれども,自分がやりたい施策,若しくは研究開発プロジェクトのキーワードが入っているかどうかというのは血眼になってチェックするわけです。そこにキーワードを入れてもらうために,こういう場をやっているというようなことで,だからうまくいかないのだと。だけども,では,素人でというような会議もあるわけで,そうすると余り意味のないものになってしまうわけで,研究開発のラインに入っている人がやはりそこに参画しなければいけないのだけれども,そこの問題をどうクリアしていくかというのがなかなか悩ましい問題になっていくということで,必要なことは何かというようなことで,学問を深化して細分化,要は最先端のことをやって新しい知見を生み出していくと,これはもう必須なのです。だけども,これに加えて,逆向きの矢印で専門家を育成していくというようなことで,私はこれを知識の構造化と言っているのですけれども,例えば環境エネルギーであれば,こういった委員会で検討すべきときに必要な知識というのは,もしかしたらパワーデバイスかもしれない,もしかしたら水素かもしれない,もしかしたら原子力かもしれないのです。だけども,経済学かもしれないし,経営学かもしれない,政策学かもしれない,科学技術コミュニケーションなのかもしれないというようなことで,必要な知識はとってくればいいというようなことで,それをシステマティックに体系化するような知識の構造化,その上で,必要な3階層,イノベーションの3階層のシステム設計を行う。最後は様々なステークホルダーの行動を構造化するという知識の構造化,システム設計,行動の構造化という3段階が必要であろうというふうに思います。
必要なことを機能させるためには何が必要か。1つは,Boundary Organization。これを日本語で中間組織と呼ぶべきなのか境界組織と呼ぶべきなのかというのがあるのですけれども,特にアメリカとの比較でいうと,Boundary Organizationというのが非常に弱い。つまり,シンクタンクです。中間組織というのは正にそういうシンクタンク的な。境界組織というのは,例えば我々のところの東京大学の未来ビジョン研究センターというのも,ある意味境界組織的な役割を期待されているわけですけれども,JSTのCRDSですとか電中研とか,そういうものも,電中研は中間なのか境界なのかというと,電力会社のお金が入っているから境界かなと,そういうようなことなのですが,いずれにしろ中間組織,境界組織というのは非常に重要で,その人たちやその組織が持っている幅広なネットワーク,そこで活躍できるような人材の育成というのが非常に重要になってくるだろうというふうに思います。組織だけあっても機能しないと,よく批判的に言われるのは,日本のシンクタンクはシンクはしないと,受託調査機関であるというような。組織だけあっても駄目なのです。
研究開発プログラムでいうと,私は非常に日本で欠けていると思うのはプログラムオフィサーです,プロフェッショナル人材としての。アメリカの場合だと,大学,公的研究機関,産業界の元研究者で普段から研究開発動向を把握しており,広い人的ネットワークを有している30代後半から50代の研究者。これは,政策のための科学という事業を文科省が行っておりまして,そこで京都大学の山口先生がNIHのプログラムオフィサーに,日本でいうと行政官に当たるわけですけれども,あなたたちのアイデンティティーは何ですかという質問をぶつけたら,全員がサイエンティストだと答えた。日本の行政官で科学技術イノベーションに関わっていて,あなたは何者ですかと聞かれたときに,サイエンティストと答えられる人ってほぼいないと思います。そういうような人が2,000人いるというわけです。これからの国としてのプライオリティーをどこに置くべきかというようなことを議論しているわけです。そういうようなBoundary Organizationだったり様々な組織をつなぐようなNetwork of Networksであったり,最後は人というようなことで,フィージビリティーを考えずにあるべき姿でイノベーションに関する議論を紹介させていただくとこういうような話になるということで,話題提供までということで,どうもありがとうございます。
【高村主査】 ありがとうございました。
委員の先生方,イノベーションに関わっていらっしゃる先生方を前に大変歯に衣着せぬ,通常どおりでありますけれども,御報告といいましょうか,課題提供を頂いたと思います。
時間の配分ですけれども,この後議題5,6はその他でありますけれども,議題5で,この間議論していただいています研究開発の在り方について御議論を頂きたいというふうに思っていまして,1つは少し12時を越えてしまう可能性があるということを含みおきいただきながら,発言の方をできるだけ簡略にお願いをしたいということであります。もう一つは,今,梶川先生にこの研究開発の在り方に関わる非常に重要な話題提供していただいたというふうに思っていまして,まずこの議題4のところで,先生の話題提供に対する直接的な御質問をまず頂きたいというふうに思っております。御意見というのは,むしろこの研究開発の在り方のところでインプットいただけないかというふうに思います。そのような進め方でもよろしいでしょうか。ありがとうございます。
では,清水委員,お願いいたします。
【清水委員】 梶川先生,どうも貴重な御講演ありがとうございました。
我々も最近,海外に比べて企業とアカデミアの間の人的交流というのがとても少ないと考えております。そこは変えていかなければいけないという意識を強く持っているのですが,例えばアメリカで,そういったプログラムオフィサーみたいな人が2,000人もいるというのは,そもそもどういう仕組みでそういうことが可能になっているのか,それから,その人たちは,通常どこで仕事しているのか,そのあたりを教えていただけますでしょうか。
【梶川教授】 そこは各ファンディングエージェンシーで雇用しているということです。なので,NIHだったり。だから,日本でもJSTやNEDOでプログラムオフィサーをきちんとフルタイムで雇用するということだと思います。概ね謝金ベースで少し手伝っているというのが日本のプログラムオフィサーといいますか,私も内閣府でSIPの評価ワーキングに入っているのですけれども,SIPにも,プログラムディレクターと,SIPでPDと言っているのですけれども,本当は期待されている役割はPOなのです。ですが,週に何日も来るわけではないし,まずそういった組織なり人に対する必要性の認識がないと思います,日本では。産官学の交流というので,それはいろんなやり方があって,例えば技術移転一つとっても,アメリカのように大学発ベンチャーを介した技術移転というのもあれば,ドイツ型でフランホーファーのように,あたかも企業の研究所がそのまま公的機関の中にあるような。ドイツの大学もそうなんですけど,この前……。ちょっと長くなるのでそこまでとしたいと思います。
【清水委員】 どうもありがとうございました。非常に参考になりました。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
本藤委員,お願いいたします。
【本藤委員】 梶川先生,非常に貴重な御講演ありがとうございました。
スライド5番に関して御質問があります。「イノベーションとは何か」ということで,この「net value creation」というのが,個人的にはなかなか難しいかと思ってお聞きしていました。例えば社会において,ある集団においては非常に大きなプラスのバリューが生じる。しかし,別の集団にとっては,そのイノベーションは非常に大きなマイナスのバリューを生み出している。ネットしてしまうとゼロになってしまう。そのような場合,それはイノベーションとは呼ばないのかというふうに,バリューをネットで合計するということをどのように考えたら良いのかが、上手く頭の中で整理できず,もしよろしければそのあたり御示唆を頂ければと思って御質問差し上げました。
【梶川教授】 価値というのは多様な価値があって,誰にとっての価値というのもありますし,それがしばしばトレードオフの関係にあったり競合するわけです。この軸で見るとこのぐらい価値があって,この軸で見るとこうというのがあったとして,ここら辺トレードオフがある。この中のトレードオフ中でどこを選択するのかというのは,もうこれは政治的な意思決定の問題になるのです。イノベーションというのは,value creationではなくて,net valueだけではなくて,creationだったりsomething newというのが。つまり価値軸があってトレードオフがあるときに,これをこっちにずらす,それがイノベーションの役割であるということで,社会的意思決定ということとイノベーションというのは分けて考えるべきであろうというふうに思っています。特にnet value creationというか,トレードオフをずらすところでは,科学技術,特に狭い意味の科学技術というのは非常に重要な役割を果たすと思います。ただ,そうはいっても,完全に軸が,例えばこうなっているとそれは合意しやすいのだけども,こうなっていて,ある人にはネットで見てもマイナスになるというのは非常に難しい問題になるので,そのときは非常に政策的な支援だとか制度的枠組み作りというのが重要になってくると思います。
【本藤委員】 また,後日,いろいろ詳しく教えてください。ありがとうございました。
【高村主査】 ありがとうございます。今,でも本藤委員が御質問になったところは私も伺いたかったところなので,ありがとうございました。
ほかにはいかがでしょうか。
堅達委員,お願いいたします。
【堅達委員】 貴重な講演,ありがとうございました。
イノベーションの御専門から見て,政府が盛んに言っている非連続のイノベーションということの考え方というものについては,どういう認識というか,どういう留意点が必要かとか,あるいは,ディスラプティブなことも含めて,少しお考えをお聞かせいただければと思います。
【梶川教授】 方向性については特に異論はないのですけれども,イノベーションに関する政策というのは政府の中でかなり一巡していると思っていまして,政策の問題ではなくて,もっと施策のオペレーション段階で問題が生じているというふうに思いますので,そこをどうしていくかというようなことなのです。ただ,施策レベルの話になるので,個々の施策があればこういうふうにと言えるんですけど,なかなか一般論として語るのは難しいところであります。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。御質問,よろしいでしょうか。
それでは,梶川先生にも是非いていただいて,御意見を頂きたいと思うのですけれども,次の正にそういう意味では施策のレベルかもしれませんが,議題5のところで,この間,この委員会で議論をしてまいりました今後の環境エネルギー科学技術分野における研究開発の在り方についてという議題に移ってまいります。こちらは前回,素案として示していただいたものを議論もいたしましたけども,事務局の皆様に更に意見をその後頂いております。これは,この間の議論を踏まえて取りまとめをしていきたいということでありますけれども,まず事務局の方から取りまとめの案について御説明いただきたいというふうに思っております。
【清水課長補佐】 それでは失礼いたします。御議論の時間を長くとりたいので,早口でかいつまんで説明をさせていただけたらと思います。
まずなんですけれども,前回から変わったところのうち,大幅に見直したところを黄色いマーカーで今回,引いております。資料5になります。
全体を通してデータの引用等に関する整理について御指摘がありました。IPCCのような各国政府に裏打ちされた提言等に限定する方がいいのではないかという御意見もありましたので,全体を通してそのように整理をしております。あと,留意点としまして革新的環境イノベーション戦略が21日に決定いたしましたので,そこの時点更新は現在反映されていないのですけれども,後でしておきたいと思います。
大きな御指摘があった部分,本当にかいつまんでということになり恐縮なのですが,簡単に説明させていただきたいと思います。
50行目の周辺でございます。プラスチックの影響に関する研究開発というところで,そこはアクションプランの趣旨を踏まえて,プラスチック影響の更なる調査研究の必要性を打ち出してはどうかという御意見を頂きましたので,そこのところを書き込んでおります。
あと73行目の周辺でございます。ESG投資がイノベーションの流れを後押しするというよりは,政策的にこれは後押ししていくということが求められていると,政府としてはそういったところが求められているということではないかという御指摘を踏まえた修正でございます。
さらに87行目周辺になります。エネルギー分野について,特に気候変動等のみではなくて,産業競争力強化という視点からの記述を追加しております。
さらに125行目というところになります。DIASの部分ですけれども,過去データの蓄積の部分の記述が抜けておりましたので,御指摘を踏まえて追加をしております。
さらに160行目になりますけれども,革新的環境イノベーション戦略の成果も踏まえた今後の重点的な分野というところで,重点化に関しては,今後の社会変化を踏まえて,多くのオプションを残しておくべきという御指摘もございました。その反映でございます。
さらに162行目のところですけれども,海洋プラスチック問題についてですけれども,データの一元化のことのみ記載しておりましたが,そこを第一歩として,更に環境問題に取り組んでいくための研究開発を進めていくべきということで,記載をしております。
さらに195行目ですけれども,人文科学データの必要性について追記をしております。
次に,221行目です。産学官の連携強化というところでございますが,産業界との連携に係る課題を追記しております。
さらに232行目ですけれども,ESG投資を拡大することの意義の明確化を図っております。
かいつまんで,かつ非常に早口でしたけれども,全体的に御指摘を頂いた部分を反映させていただいたつもりでございます。更に御議論を頂ければ幸いでございます。
【高村主査】 ありがとうございます。
この間の議論を踏まえて,もしできましたら本日の委員会のところで取りまとめの方向を決めていきたいと思っておりますけれども,その意味で,先ほど梶川先生から大変刺激的な話題提供を頂きました。あるいはお手元にございます前回までの資料も踏まえて,この取りまとめの中身について御意見を頂ければというふうに思っております。御意見のある方は札を上げて教えてください。
佐々木委員,お願いいたします。
【佐々木委員】 梶川先生の思いはよく分かるのですけれども,多分行政文書にしようとするとこういう文章になってしまうのかと思いますし,どこが非連続かという御意見はあるとは思いますけれども,個人的には,エネルギー関係にいる人間としては,それぞれやることをきっちりバランスよくまとめられているかという印象を持ちましたので,大きく変える必要はないと個人的には思います。
それで,本当に細かいことなのですけれども,2点だけ発言させていただくのは,4ページ目の一番上の行87なのですけれども,我が国の産業構造を見ればというところで,今,我々工学系でいると,もう圧倒的に運輸機器がほとんど日本は一本足打法で,これで生きているというような深刻な状況になっていますけれども,そういうのもありますので,できればこの産業構造を見れば,運輸というと少し誤解を招きかねないので,「運輸機器,エネルギー危機,化学等」という形に書き直していただければと思います。
それから細かい,もう本質的なことではないのですけれども,その前のページのいわゆる66行目で,本年のノーベル化学賞にと書いていますけど,もう既に去年の話になっていますので,そこは本年度とか,書き方は行政文書の書き方でお願いします。
以上です。
【高村主査】 ありがとうございます。
それでは,加藤委員,その後,清水委員,お願いいたします。
【加藤委員】 私は出遅れているのかもしれないのですけれども,全体的にうまく全部盛り込まれてまとまっているとは思うのですが,どちらかといったら,最後の方の人材のところを文部科学省の在り方としてはもう少しインパクトを上げてもらえるといいのではと感じました。きょう,先ほどの梶川先生のお話にもあったように,やはり人材育成が重要です。ここだと専門家を育てることだけが書いてあるけれども,もう少し広く見渡せるような人も必要ということです。そうすると,記述が最後の方の一番下辺の(4)のところ,工学系の人が減ってきて大学院進学者が減ってというような,事実で確かにそれが重要かもしれないのですけれども,どちらかというと,将来日本の科学技術を直接的に背負う人として,博士課程をもう少ししっかり育てるというところを,もう少し盛り込めないかというか,強調してくださればうれしいと思います。具体的に支援するだけではなくて,もうそういうところはしっかり学生が生活できるような保証するということまで踏み込んでいただけるように,御検討いただければと思います。ありがとうございます。
以上です。
【高村主査】 ありがとうございます。
それでは,本藤委員,お願いいたします。
【本藤委員】 取りまとめ,大変ありがとうございました。いろいろな意見をまとめるのは難しいかと思います。それで,先ほど梶川先生の,ある意味御批判も踏まえまして,自分の研究分野がキーワードに入っているか否かという確認ではなく,全体を通して,自分なりの価値観に基づいてですけれど,よりよいものとするべくコメントしたいと思います。細かい点はお時間もないことなので,後で事務局にお知らせするということでよろしいですかね,文言に関しては。
1点だけ,全体を昨夜拝読していて気になったのが,気候変動の緩和という言葉に比べて,適応という言葉が結構多く登場していたのです。PDFで一応数数えようかと思ったのですが,数えられなかったので印象ですが,多分,適応という言葉が多く出ていると思います。あえて適応という言葉を強めるという意図があれば,それはそれでよいのかもしれませんが,やはり個人的には,先に緩和があって,それで適応であるということだと思いますので,文書の中に適応という言葉が過度に多いと緩和を少し軽視しているという印象が付くのではないかというのを懸念しました。ですので,いま一度見直していただきたいと思います。1点,具体的に申し上げますと,9ページ目になります。行番号で言うと255行目ぐらいでしょうか,254,55行目あたり。少し読みます。「専門家とコミュニケーションをとり,ニーズを落とし込むことのできる環境分野の知見・技術を有する人材が少ないという課題がある。例えば,適応策策定や環境問題の解決に必要な」とあるのですが,これは緩和策に関しても非常に重要なことになりますので,ここは例えば「緩和適応策の策定や」などとした方がむしろよりよいのではないかと思います。これは一例ですが、適応だけではなく緩和にも関係する記述の部分においては,緩和という言葉を加えるなど,是非御検討いただければと思います。
以上です。
【高村主査】 ありがとうございます。
それでは,堅達委員,お願いいたします。
【堅達委員】 評価軸のところもそうだったのですけれども,私はこれ全体を見て1つ抜けていると思うのが,正に循環経済,サーキュラーエコノミーに転換していくことの重要性というのが,言葉としても1行も出てこない。これは今,地球が置かれている環境の状況を考えたときにどうなのかと非常に思います。そういうことをやはり書いていないと,先ほどのヨーロッパとかのLandscape developmentsではないですけれども,明らかにヨーロッパは循環経済,サーキュラーエコノミーを打ち出すことで,そこにもう共創としてのイノベーションがどんどん起きていきますし,新しい新技術ですとか新素材ですとか,そこに向かってどんどん今優秀な人材もその分野に投入されていっているという現状を見たときに,あれ,何で日本はそういうことが大事なこととして認知されていないのだろうというのが,前半で御説明いただいたロードマップみたいなものの中にも出てこない。実は所々埋め込まれて,海洋プラスチックの問題も含めているのですけれども,全体としてこれが大事で,ここでイノベーションを起こさなければいけないのだというものが全く感じられないのが残念だし,もったいないというふうに感じましたので,是非その視点で入れられるといいと思います。そこは実は気候変動の緩和に,ヨーロッパではつながっているわけで,CO2の削減と循環経済の構築というのは全く同じ土俵の話でございますので,そこだけもう一工夫していただけないかということを申し上げたいと思います。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかにこの取りまとめ案について御意見,御質問いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
梶川先生,何かありますか。御覧になってないかもしれないのですけど。
【梶川教授】 直前の意見と全く同じ意見で,現状分析があって,やる施策となっているのですけれど,現状分析との施策の間に,目指す社会像について何か言及すべきではないかと思います。
あと,細かいのですけれど,吉野さんについて言っているところで,革新的電極材料開発と書かれているのですけれど,これは少し難しいところで,システム技術開発とかにしていただいた方が正確かと思います。実は私,ノーベル賞の前に吉野さんが日本国際賞をとられたのですけれど,そのときの審査員で,かなり調べて,授賞理由をどう書くかとさんざん頭をひねった記憶がありますので,少し細かいですが。
【高村主査】 ありがとうございます。
ほかにちょうどこの取りまとめ,先ほど申し上げましたように,今回の意見を踏まえて取りまとめを最終版としていこうというふうに思っておりますけれども,ほかにお気付きの点,言い残された点ないでしょうか。よろしいでしょうか。ありがとうございます。
それでは,きょう頂きました御意見を踏まえて,前の幾つか若干その書きぶり,あるいはもう一度確認をしてほしいという,全体のところ,御指摘もあったかと思いますけれども,頂いた意見を踏まえて修正について検討したいというふうに思います。事務局で修正について考えていただいた上で,修正内容については主査一任とさせていただければと思いますけれども,よろしいでしょうか。ありがとうございます。
それでは,委員の方々には先ほど本藤委員からもありましたけれども,もし具体的にやはり細かな文言等で修正が必要と思われる点がございましたら,追加的に事務局に御連絡を頂いて,それも踏まえて全体を確認をしてまいりたいと思います。では,それを条件にしてこの取りまとめについては本委員会として決定をするという,そういう条件付きでするということで御了承いただければと思います。
それでは,議題6でございますけれども,その他でございます。特に何か委員の方から御意見ございますでしょうか。
御提示がなければ,本日予定されている議題は以上ということでございます。全体を通してもし何か委員の方からございましたら,よろしゅうございましょうか。ありがとうございます。
それでは,事務局から御連絡をお願いしたいと思います。
【横地環境エネルギー課長】 私から簡単に1点。きょう,会議の本体資料とは別に机上配付させていただいております原稿がございます。教育委員会月報ということで,毎月,教育委員会など,研究者向け,研究者というより教育者向けに出されている機関紙なんですが,そこに気候変動の現状についてざっくり総覧するような記事を特集で載せさせていただいております。こういうような裾野を広げる施策も打っていきたいというふうに思っておりますので,お時間のあるときに目を通していただければ大変有難いというふうに思います。
【加藤係長】 続いて事務連絡でございます。本日の議事録ですけれども,後日事務局よりメールで委員の皆様にお送りさせていただきます。修正等ございましたら御指摘をお願いいたします。最終的には文部科学省ホームページに掲載することで公表させていただきます。
また,旅費委員手当に関する諸手当の請求に当たっての確認についてお配りしておりますので,御確認いただき,お帰りの際に事務局まで御提出ください。
また,次回の会合については,追って日程を御相談させていただければと思います。よろしくお願いいたします。
本日は貴重な御意見,御議論ありがとうございました。梶川先生におかれても,講演いただきありがとうございました。
以上でございます。
【高村主査】 ありがとうございました。
今,ちょうど横地課長から御提示いただいた教育委員会月報ですけれども,この間やはり温暖化の問題でいろんなところでゼロエミッションの宣言が出ていまして,それを進めていく上でも教育が重要だという意見を市民の方,自治体の方から頂いていまして,大変時期にかなった情報提供をしていただいているのではないかというふうに思っております。
改めて先ほど事務局からもありましたけれども,きょう,梶川先生,貴重な時間を頂いて大変重要な有用なインプットを頂いたというふうに思います。改めて委員会代表してお礼申し上げたいと思います。
それでは,これをもちまして環境エネルギー科学技術委員会の第6回会合を閉会いたします。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――
 

お問合せ先

研究開発局環境エネルギー課

(研究開発局環境エネルギー課)