資料2  核不拡散・核セキュリティ作業部会における「今後の核不拡散・核セキュリティ研究開発の進め方について」(中間とりまとめ)(素案)

核不拡散・核セキュリティ作業部会における
「今後の核不拡散・核セキュリティ研究開発の進め方について」
 (中間とりまとめ)(素案)


1.はじめに
 近年、核不拡散や核セキュリティ体制強化に向けた世界的な流れが加速している中で、我が国として、これまで蓄積してきた経験や高度な研究・技術力を通じて、国際的な核不拡散・核セキュリティ強化への貢献や、我が国の保障措置システムの高度化・効率化に資する基礎研究など、関連の施策を講じてきた。
  国際的には、潜在的な核テロへの懸念の増大による核セキュリティ強化の必要性に対する認識の高まりを受け、2010年以降、継続的に核セキュリティ・サミットが開催され、首脳レベルでも核テロ対策に関する基本姿勢や取組状況、国際協力の在り方等について議論されてきた。
2016年春の第4回サミットでサミットプロセスは終了したが、核セキュリティに対する国内外の関心は引き続き高まっており、国際原子力機関(IAEA)等の国際機関や枠組、日米核セキュリティ作業グループ等で議論され、各国の対応状況についても継続的にフォローアップがなされている。
  このような中、核不拡散・核セキュリティの我が国全体としての取組のうち、文部科学省は人材育成や研究開発の役割を担っており、今後当該分野を戦略的かつ効果的に推進していくことが益々重要になっている。これを受け、核不拡散・核セキュリティ作業部会において、有識者、学会、研究機関、関係省庁の協力を得ながら核不拡散・核セキュリティ分野の国内外のニーズ、本分野における我が国の強みや研究開発課題等を整理し、核不拡散・核セキュリティ分野における研究開発の今後の推進に当たっての基本的な考え方、課題、今後の施策の方向性を取りまとめた。
  核不拡散・核セキュリティを担保することにより、もって社会の安全・安心を確保し持続可能な社会を構築していくためには、関連の取組を継続的に行っていくことが不可欠である。とりわけ、人材育成や研究開発のような活動は、長期的な視点で長期に渡って行っていくことが不可欠である。
  他方、短期的には2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会もあり、今後、核不拡散・核セキュリティに対する社会的な関心と必要性は、益々高まるものと想定される。また、米国の新政権においても核セキュリティが重要政策課題であるとの報道もある。
 これらのことから、我が国として今後益々核不拡散・核セキュリティに関してしっかりと対応していくことが重要である。これらの状況の中、核不拡散・核セキュリティの確保に当たっては幅広く様々な取組を相互に繋げて実施していく必要があるところ、文部科学省、大学、研究機関同士等が連携し、人材育成及び研究開発等に取組み、社会的要請にこたえていく必要がある。


2.核不拡散・核セキュリティを取り巻く状況
 (1)国際的な議論
・2009年4月、オバマ米大統領がプラハ(チェコ)において演説を行い、「核テロは地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威」とした上で、核セキュリティ・サミットを提唱し、2010年以降、約50か国(約40名の首脳レベル)3国際機関が参加し、計4回のサミットが継続的に開催されてきた。
・2016年3月に米国のワシントンD.C.で開催された最後のサミットである第4回サミットでは、サミット終了後も引き続き核セキュリティ強化に取り組むため、IAEA、国連等の国際機関・枠組において引き続き議論されていくことになり、IAEAが核セキュリティ強化の取組において中心的な役割を果たすこと、また、各国が今後も核セキュリティ強化に向けて努力していくことが確認された。
・2016年12月に開催されたIAEA核セキュリティ国際会議においては、我が国からは、核セキュリティ・サミットでコミットした核物質の最小化と適正管理の取組を引き続き実施すること、核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)を通じた核セキュリティ分野の人材育成・能力構築支援を継続すること、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けたテロ対策強化のため、大規模国際行事の核テロ対策に知見を有するIAEAとの協力を行っていくことを表明した。

(2)日本の取組
・上述のとおり、核不拡散や核セキュリティ体制強化に向けた世界的な流れが加速していく中で、我が国は、第1回のサミットにおいて、「アジア地域を中心に、核セキュリティを強化するためにキャパシティ・ビルディング支援を行うためのセンターをJAEAに設置すること、核検知・核鑑識技術開発を日米等の国際協力で実施し国際貢献すること」との声明を出し、核不拡散・核セキュリティの確保に向けた取組を行っている。
・研究開発・人材育成の観点では、2010年12月に原子力研究開発機構(JAEA)はISCNを設置し、核鑑識、核検知・測定による研究開発や、核物質防護実習フィールドでの実習、ワークショップの開催等による人材育成支援を開始した。
・また、核物質の最小化と適正管理の取組として、核セキュリティ・サミットでコミットした通り、JAEAから高速炉臨界実験装置(FCA)の機微な核燃料の撤去を完了した。今後、京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)の低濃縮化等の取組を実施していく。
・なお、学会における自主的な活動として、日本原子力学会では、原子力に携わる全ての関係者が、核不拡散・保障措置・核セキュリティに関する状況を十分認識した上で原子力技術の研究開発を推進することが必要かつ重要とした上で、2007年より核不拡散・保障措置・核セキュリティ連絡会を設置し、継続的に開催している。また、2015年より同学会標準委員会の下に設置したSafety &Security分科会において、福島第一子力発電所事故を踏まえ、安全と関連して核セキュリティ強化に関する検討が行われている。更に、核物質管理学会日本支部においても、核セキュリティ強化に向けた研究会等が開催されている。
・この他、環境整備の観点では、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32 年法律第166 号)、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(昭和32 年法律第167 号)及び「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」(昭和33 年法律第162 号)の改正法案が2017年4月7日に成立し、今後、危険性の高い放射性同位元素を取り扱う事業者に対し、防護措置を義務付け、テロ対策の充実・強化を図っていく。

 このように、国内外において核不拡散・核セキュリティに関する重要性・必要性はいや応なしに高まっていると言っても過言でない。


3.核不拡散・核セキュリティ研究開発の今後の推進に当たっての基本的な考え方
 (1)基本的な考え方
・現在、過去4回のサミットの議論をはじめとする国際的な情勢を踏まえ、核不拡散・核セキュリティの取組として求められていることは、核物質及びその他の放射性物質のセキュリティ強化・規制を含む、核物質等の適正管理、核セキュリティに関する条約の順守及び核セキュリティ強化に向けた人材育成支援・研究開発、人的資源の開発、教育及び訓練を通じた核セキュリティ文化の促進のための協力及びこれらの分野において国際会議でコミットした取組の実施等が挙げられている。
・これらのこともあり、今後、我が国の核不拡散・核セキュリティを担保していくうえで、核不拡散・核セキュリティにおける人材育成や研究開発を行っていくことは、我が国において極めて重要な役割である。
・文部科学省は、人材育成、科学技術、研究開発を担う担当省庁として、核不拡散・核セキュリティにおける人材育成や研究開発の取組を行うとともに、研究開発の成果を社会に繋げていくこと、また、当該分野における技術的、科学的な動向を把握していくこと等により、我が国の核不拡散・核セキュリティの確保に貢献していく責務がある。

(2)文部科学省の役割
・文部科学省としては、核不拡散・核セキュリティの確保という国際的要請に応えるため、核セキュリティのためのキャパシティ・ビルディング並びに研究開発を行う必要がある。
・併せて、核不拡散・核セキュリティを今後持続的に確保していくうえで、人的資源の開発、教育及び訓練を通じた核セキュリティ文化の醸成のための協力を行う必要がある。
・さらに、我が国において効果的・効率的に核不拡散・核セキュリティを確保するために、幅広く様々な取組を相互に繋げて実施していく必要があるところ、文部科学省、大学、研究機関同士が連携し、人材育成、研究開発に取組める体制を構築する必要がある。
・ISCNについては、これまでの研究開発や人材育成支援の実績をIAEA等からも高く評価されており、そのような経験を国内向け人材育成にも活かすなど、今後も継続的に事業を展開していくべきである。


4.課題
  我が国にとって、核不拡散・核セキュリティに関する人材育成や研究開発は必要であるが、特に研究開発は、成果展開のターゲットを明確にし、ニーズを踏まえて戦略的に実施する必要がある。そのための課題を以下に示す。
・詳細にわたる研究開発分野、我が国の今後の状況や将来も見据えた、推進すべき研究分野の明確化
・核不拡散・核セキュリティの取組を今後持続可能なものとし、将来にわたる安全・安心を確保する担い手としての人材育成
・受益国のニーズや他の国の研究拠点・中核研究拠点との役割分担を踏まえた人材育成戦略の策定及び核不拡散・核セキュリティ分野に人材を引き付けるための更なる取組
・研究分野と社会実装への隘路の解消
   実用化への道筋の明確化
   ユーザーとの連携の強化
  関係行政機関間との連携


5.今後の施策の方向性
 (1)核不拡散・セキュリティ研究開発
 調査やこれまでの作業部会での議論を踏まえ、今後の研究開発のニーズについては、「・核不拡散技術・核セキュリティ技術・研究開発のニーズ(ニーズ調査結果及び技術シンポジウムの結果)」のとおり。また、今後の方向性については、「・核不拡散技術・核セキュリティ研究の今後の方向性(俯瞰図)」のとおり。
・核不拡散技術・核セキュリティ技術・研究開発のニーズ(ニーズ調査結果及び技術シンポジウムの結果)
・核不拡散技術・核セキュリティ研究の今後の方向性(俯瞰図)
なお、これらに掲げられた研究開発を行う際に、以下のような点を考慮し、実施する。
  ○日本の強み(国際的な動向調査)、国際協力の観点も踏まえて整理する。
  ○研究開発の推進に当たっては、核不拡散・核セキュリティ上のリスク、脅威は何か分析・評価した上で研究開発を最適化して行っていく。
  ○他方、本分野をとりまく状況として、サイバーセキュリティ上の課題が世界的に顕在化し、モノのインターネット(IoT)が急速に進展する中、これらの対応及びグローバルに社会実装していくことが必要になる。これらを踏まえて戦略を考える必要がある。
○なお、限られた時間でこれまで精査を実施してきたが、国際協力も含めて俯瞰的にさらに時間と労力をかけて継続的に精査・分析する必要がある。

(2)核不拡散・核セキュリティ研究・技術を支えるもの
<人材育成について考えた場合、ISCNのミッションとしてアジア地域を中心とした核不拡散・核セキュリティ強化のための人材育成支援があるが、より基礎的な学術研究機関として大学の役割があるのではないか。>
 1.人材育成
  今後も核不拡散・核セキュリティの取組は不可欠であり、当該取組を持続的に取り組んでいく上でも中長期的な視点での人材育成が不可欠。同時に、そのような人材育成が可能となるよう当該分野に対する社会からの理解も重要。また、核不拡散・核セキュリティ技術に対する意識を高めるような取組も重要。
 ○大学の役割
  -学部・大学院レベルの学生や研究生レベルに対する人材育成を行う機関として、大学等の教育・学術研究機関の果たすべき役割は大きく、核不拡散・核セキュリティの人材育成を持続的に行っていくことに対する貢献が期待されている。大学等が課題を明確にしつつ、これらの人材育成を担っていくことが重要。
 ○文部科学省の役割等
  -他方、上記のように人材育成により持続的に核セキュリティを実現していく中、大学のような学術研究機関が本来の目的を果たせるような配慮にも関連する取組の検討(例:機密指定の解除(Declassify))が必要であるとともに、各機関がそれぞれのキャパシティも考慮に入れ、効果的・効率的に核不拡散・核セキュリティのための取組を行っていくこが必要。
  -原子力の分野全体のみならず、保障措置・核セキュリティ分野に特化したような人材育成プログラムの必要性。
 ○ISCNの役割
  -IAEA総会や核セキュリティ国際会議において、セミナー・トレーニング等を通じての核不拡散・核セキュリティに関する国際的な普及啓発、文化の醸成等の重要性が指摘されており、ISCN事業は重要。
 ○ISCNと大学間の連携
  -核セキュリティ等を持続的に確保する上でも人材育成を担う大学が役割を果たし、裾野を広げていくことが重要。
  -核セキュリティを確保する上での拠点機能、拠点間ネットワークの構築
 2.その他のソフト的な対応
  -研究開発等についても今後は分野限定せずに、国内外の機関とも連携していくことが重要。
  -サイバーセキュリティや人の動きに着目した防止策の重要性。
 -ISCNの活動のみならず、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)の核セキュリティの取組も今後のアジア展開に貢献。

(3)国際戦略
  -IAEA等の国際機関との協力・貢献
  -国際的な活動との連携例(ISCNと世界核セキュリティ協会(WINS)との国際会議、ワークショップの開催等)
  -日米間原子力協力(日米核セキュリティ作業グループ(NSWG)の枠組を活用した協力等)
 -アジア地域との協力(ISCN人材育成、FNCAの枠組、日中韓のCOE協力枠組の検討等)

(4)社会実装につなげるための取組
 -基礎研究分野から社会実装に繋げていくための取組(既存の基礎研究であっても研究が進展する上で社会的なニーズをこれまで以上に参酌すること、また、あるべき今後の社会を踏まえて新たな研究開発を行っていくことなど)

(5)関係省、関係機関間の連携
  -核不拡散・核セキュリティは多岐にわたる取組であり、社会からの要請や実装に向けた視点も今後ますます必要となるので、関係省・関係機関間の一層の連携が必要。


お問合せ先

研究開発局開発企画課核不拡散科学技術推進室、研究開発局研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当)

(研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当))