1.概要
本作業部会における、核不拡散・核セキュリティ分野の技術開発に関する俯瞰図の策定に向けての議論に資するため、本分野の技術開発の現状やニーズ等に関し、関連省庁へのヒアリングを実施した。
ヒアリングの結果、核不拡散分野においては、非破壊測定(NDA)技術を用いた核物質の計量管理の精度の向上に対するニーズが把握できた。また、核セキュリティ分野においては、核テロの防止に資する技術開発として、サイバーセキュリティ対策やドローンへの対策に資する技術へのニーズが把握できた。核テロの検知に関しては、小型化、実用化が今後の技術開発に向けた課題として提起された。核テロに対応するための技術として、核テロの現場における放射線測定技術、核鑑識技術に関するニーズが把握できた。核鑑識については原子力機構の技術力の維持に対する期待がある。
2.ヒアリング対象省庁
内閣官房国家安全保障局、内閣官房副長官補(事態対応・危機管理担当)、財務省、防衛装備庁、原子力規制庁(核セキュリティ・核物質防護室、保障措置室)、警察庁(本庁及び科学警察研究所)、海上保安庁、消防庁
3.ヒアリング調査結果
(1)技術開発の現状
(1)核不拡散分野
(原子力規制庁(保障措置室))
日本原燃が建設中のMOX燃料加工施設(J-MOX)に適用される保障措置機器の開発を核物質管理センターに委託し、米国のロスアラモス国立研究所との協力の下で実施(MOX原料キャニスター、燃料製造工程から採取したMOX粉末、ペレットのサンプル、MOX燃料集合体のγ線や中性子線を測定し、それらのPu量を定量する非破壊測定機器を開発している)。
(2)核セキュリティ分野
(原子力規制庁(核セキュリティ・核物質防護室))
原子力施設に対するサイバーセキュリティ対策、原子力施設の侵入検知センサーやカメラの性能評価、車両進入阻止アングルの性能評価等を実施。
(警察庁(科学警察研究所))
核テロの現場において初動対応にあたる人員の放射線安全を確保するための機器(中性子線量を測定する無線式個人線量計、モニタリングカーの機能を集約したキャリングケース型の放射線測定装置、核物質からの中性子線を1/3に低減する中性子防護盾等)の開発を実施。核鑑識に関しては現場での対応に必要な範囲において技術開発を実施(ウラン濃縮度の測定技術等)
(2)具体的なニーズ
(1)核不拡散分野
事業者による計量管理の正確性をより向上させるような技術開発に対するニーズを把握することができた。具体的には以下の通り。
・軽水炉の使用済燃料中の核物質の計量管理について、現状では、燃焼コードによる計算値が用いられているが、より精度の高い NDAにより直接計量する技術が開発されれば、再処理施設において溶解後、実測により計量した量との受払間差異(SRD)をより少なくすることができる。
・廃棄物中に内包される微量の核物質の測定には誤差を伴うため、廃棄物の計量管理の精度を向上させるNDA技術が開発されれば良い。
・再処理施設では、それぞれの工程における密度、液量を計測する技術とサンプル分析を組み合わせて計量管理を行っているが、NDAだけで出来るとタイムリーに測定が可能であり、また、サンプルを取る必要がなくなることで廃棄物を出さずに済み、査察側にも事業者側にもメリットがある。
・MA(マイナーアクチノイド)含有燃料に対する計量管理には、現状の測定機器では対応できないことから、今後、核変換技術等のために、国内でMA含有燃料が用いられることがあれば、NDA測定機器の開発にニーズが生じる。
・プルトニウムの同位体測定等に用いられるガンマ線測定用のゲルマニウム検出器は冷却が必要だが、これに用いることができる冷却の必要がないガンマ線測定器があれば良い。
(2)核セキュリティ分野
1 予防技術:
・テロリストの脅威に対抗するため、堅牢な輸送容器の開発が望ましい。
・特に重点的に考えていることがサイバーセキュリティ対策。IAEAの関心も高い。
・原子力施設で使用している監視カメラやセンサーの性能が分かれば事業者に対して指導がしやすい点で関心がある。
・侵入監視センサー・監視カメラ技術、防護扉・フェンス等の性能評価は、米英仏は国の機関で実施している。バイオメトリクス、禁制品探知技術の評価についても、米国では国の機関が行っている。
・原子力施設に対する妨害破壊行為を行う可能性のあるドローン対策に関心がある。
・ドローンの接近を探知する装置や飛行を妨害する装置の開発を希望。
2 検知技術
・ISCN(核不拡散・核セキュリティ総合支援センター)が取り組んでいる技術開発は大がかりな装置が必要で、小型化、低コスト化が課題。
・現状の放射線計測システムは十分機能しており、現段階では技術開発のニーズは感じてはいないが、テロのリスクは高まっており、将来的には、ISCNで開発しているようなアクティブ型の検出器の導入が必要になる可能性がある。
・検知技術は持ち出しに対する対策として事業者にとってニーズがある。
3 対応技術
・「予防」だけでなく、「核物質が盗まれた後にどう対応するのか」といったことに必要な研究開発を行って欲しい。例えば革新的放射線イメージング技術の開発により核物質・放射性物質の同定、隠匿された位置情報の取得の精度向上に期待。米国では、遮蔽できていない中性子の到来方向を把握する実験を行っているが、10度程度の分解能だった。
・ダーティボムの飛散予測と飛散検知の基盤研究(例えば、小型の無線検出器を上空からばらまき、汚染範囲を予測する研究開発)を行って欲しい。
・緊急時に放射線環境下で人が近づかなくても計測や防護ができるロボット技術の研究開発が望ましい。
・一般的に放射線や放射性物質の環境下においては、線量だけでなく時間管理の出来る個人線量計や、ホットスポットの分かるメガネのようなものがあれば、様々な対応機関にとって有用と思われる。
・核セキュリティ事案発生時の対応の観点から、核鑑識技術は維持して欲しい。
・核鑑識用分析技術開発はITWG、IAEA等の国際協力に支障の出ないようにしてほしい。
・核鑑識に関して科学警察研究所が実施するのは、現場で試料を採取し分類するところまでで、詳細な分析はJAEA等の研究機関に依頼する必要があると考えている。
・核鑑識にはデータベース構築が重要。
4 その他
・ISCNが実施している核セキュリティに関する人材育成事業は有益であり、続けて欲しい。
研究開発局開発企画課核不拡散科学技術推進室、研究開発局研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当)
-- 登録:平成28年09月 --