平成23年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は、国民の間に原子力への不安感のみならず原子力政策そのものに対する不信感を招くこととなり、現在の原子力政策に対する国民からの視線はこれまでになく厳しいものとなっている。特に、原子力の安全性の問題や放射性廃棄物の問題など、原子力の抱える課題が国民的課題として認識されるようになってきた。
一方、我が国は、エネルギー資源に乏しく、その多くを海外からの輸入に頼るという根本的な脆弱性を抱えており、エネルギーを巡る国内外の変化に よる影響を受けやすい構造を有している。このような状況の中で、我が国の総合的なエネルギー需給に関する長期的、総合的かつ計画的な推進を図るための政策である「エネルギー基本計画」(平成26年4月閣議決定)においては、原子力は「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」として位置づけられたところである。また、今後、原子力を利用していくに当たっては、いかなる事情よりも安全性を最優先とすることは当然であり、世界最高水準の安全性を不断に追及していくことが重要であるとしている。こうした中で、「エネルギー基本計画」においては、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発の推進についても明示している。
さらに、「経済財政運営と改革の基本方針2014」(いわゆる「骨太の方針」)(平成26年6月閣議決定)や「日本再興戦略」改訂2014(平成26年6月閣議決定)においても、高温ガス炉など安全性の高度化に貢献する技術開発の国際協力等を行うことが明記された。
将来に向けて有望な技術的選択肢を持つことは、安定的なエネルギー確保の観点から重要である。また、同時に、「安全神話」と決別し、国民目線に立った安全性の追求を行い、国民の安全・安心への期待に応え、世界的な原子力安全に貢献する取組を進めていくことが必要である。
高温ガス炉は、燃料として耐熱性に優れ放射性物質の閉じ込め能力が高い被覆燃料粒子や、減速材として熱容量が大きく耐熱性が高い黒鉛、冷却材として化学的に安定なヘリウムガスを用いており、その炉心燃料の構造と出力密度、冷却特性等の特性から、軽水炉で想定されるようなシビアアクシデントが起こりにくく、また、多様な熱利用が可能であるなど環境負荷低減に貢献しうる原子力システムである。また、次世代原子炉として2030年頃の実用化を目指して国際的に議論が行われた第4世代原子力システムの一つとしても位置づけられている。
我が国においては、1960年代の末から高温ガス炉技術の研究開発を開始し、1998年には、日本原子力研究所(当時。現在の独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。))が我が国初の黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉の試験研究炉である「高温工学試験研究炉(HTTR)」(以下「HTTR」という。)を建設し、初臨界を迎えている。現在、世界でも実際に稼働可能な高温ガス炉の数が少ないこと、また、HTTRが世界で唯一、原子炉外へ950℃のヘリウムガス取出しに成功していること、さらに、民間企業との連携のもと、高温ガス炉に関する世界最高レベルの技術を我が国が有していることなどから、我が国は世界でも最も高温ガス炉技術の研究開発が進んでいる国の一つと言える。中でも、日本の高温ガス炉の安全性に関する技術は世界をリードしている。
また、世界的には、高温ガス炉については、1960年代以降欧米を中心として研究開発が推進されてきており、近年においては中国を中心とした新興国を中心に研究開発が盛んに進められている。特に中国やインドネシアにおいては、すでに商用炉の導入計画を有しており、諸外国から積極的な技術導入を図るなど、高温ガス炉に関する国際競争が高まりつつある状況にある。
このような状況の中で、これまで高温ガス炉に関する技術的優位性を維持・確保してきた我が国として、海外での研究開発動向や導入計画等を踏まえ、今後、高温ガス炉技術について、どのような目的・方向性をもって研究開発を進めていくべきかについて、改めて議論すべき時期に来ている。文部科学省においては、これらの状況を踏まえ、また、「エネルギー基本計画」に安全性の高度化に貢献する原子力技術の一つとして高温ガス炉技術が位置づけられたことを契機として、高温ガス炉とこれによる水素製造技術等の熱利用に関する研究開発の状況等を評価するとともに、国内外におけるニーズを踏まえた今後の研究開発の在り方について、調査、検討を行うために、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会の下に、「高温ガス炉技術研究開発作業部会」を平成26年5月に設置し、高温ガス炉技術に関する研究開発の方向性について議論を行ってきたところである。
本作業部会は、これまでの議論を踏まえた研究開発の今後の進め方について一定の方向性を示すべく、本報告書を取りまとめた。本報告書は、水素社会の展望や国際的な高温ガス炉のニーズを踏まえつつ、今後の高温ガス炉技術の研究開発に関する政策的な検討に資するものとして取りまとめたものである。
なお、今後の高温ガス炉技術の研究開発に当たっては、まず、HTTRをはじめとする関連施設の再稼働や、原子力機構におけるHTTRを用いた安全性の確証等を着実に実施することが重要である。その後、必要なフィージビリティスタディ等を経て、研究開発の進捗や新たな成果を評価しつつ、経済性等も踏まえて実用化の具体像をより明確化し、それに向けた研究開発課題を整理し、改めて研究開発の方向性を整理することが必要である。また、研究開発成果を踏まえ、研究開発段階に応じた産学官の役割を整理しつつ、取り組むことが必要である。
今後、本報告書を踏まえ、産学官で議論を深め、今後の高温ガス炉技術の研究開発を進めていくことを期待する。
高温ガス炉は、燃料として耐熱性に優れ、放射性物質の閉じ込め性能が高い被覆燃料粒子や、減速材として熱容量が大きく耐熱性が高い黒鉛、冷却材として化学的に安定なヘリウムガスを用いており、その炉心燃料の構造と出力密度、冷却特性等から、軽水炉で想定されるようなシビアアクシデントが起こりにくく、多様な熱利用が可能であるなど環境負荷低減に貢献しうる原子力システムである。
欧米では1960年代から先行的に高温ガス炉技術についての研究開発が進められてきた。我が国においても、1960年代末(1969年(昭和44年))から研究開発が進められ、当時の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「原子力長期計画」という。)では、高温ガス炉は発電のみならず、熱利用等原子炉の多目的利用を通じた我が国のエネルギー供給の安定化への貢献を目指した研究開発を行うとされた。
これらの方針に基づき、平成3年にはHTTRの建設工事を開始し、平成10年にはHTTR(熱出力30MW(3万kWt))が初臨界を迎え、平成16年には原子炉出口冷却材温度950℃を達成した。その後も、安全性の実証試験等、基盤技術の確立に取り組んできているところである。
また、高温ガス炉は軽水炉と比べて簡易な構造をしているため、オペレーションのコストが低く抑えられる等の特徴も持っている。
我が国における高温ガス炉技術の研究開発は、主に、原子力機構が有するHTTRを中心として進められてきた。以下に、これまでの国の原子力政策における高温ガス炉技術の研究開発の位置づけ及び原子力機構がこれまで実施してきた研究開発について示す。
我が国の高温ガス炉に関する研究開発の歴史は長く、昭和47年の「原子力長期計画」において、高温ガス炉技術の研究開発が初めて位置づけられ、「原子炉の多目的利用の実現にあたって、高温ガス炉及びその利用技術の開発を総合的、計画的に推進することが必要である。」とされたのを契機に、日本原子力研究所(現原子力機構)を中心として、多目的高温ガス実験炉の研究開発が本格的に開始された。
昭和62年の「原子力長期計画」においては、「多様な試験研究を行える高温工学試験研究炉を建設し、高温ガス炉技術の基盤の確立及び高度化を図るとともに、高温工学に関する先端的な基礎研究を進める。」とされ、試験研究炉の建設について明記された。これに基づいて、日本原子力研究所大洗研究所(現原子力機構大洗研究開発センター)においてHTTRの建設が開始された。
また、それまで概ね5年ごとに改定されてきた原子力長期計画に代わり、平成17年に策定された「原子力政策大綱」においても「高温の熱源や経済性に優れた発電手段となり得る高温ガス炉とこれによる水素製造技術開発等については、今後とも技術概念や基盤技術の成熟度等を考慮しつつ長期的視野に立って必要な取組を決め、推進していくことが重要である。」とされている。
その後、本年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においては、「水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発を国際協力の下で推進する。」とされ、同年6月に閣議決定された「「日本再興戦略」改定2014」及び「経済財政運営と改革の基本方針2014」においても、「高温ガス炉など安全性の高度化に貢献する技術開発の国際協力等を行う」と示されたところであり、改めて高温ガス炉の研究開発の推進が期待されているところである。
原子力機構では、1960年代の末(1969年(昭和44年))から多目的高温ガス実験炉の概念設計を開始し、民間企業と連携しつつ、HTTRの建設・利用を含め、様々な研究開発を実施し、成果を上げてきた。
○高温ガス炉固有の技術:
○熱利用技術:
原子力機構では、高温ガス炉の熱利用技術として水素製造技術、ヘリウムガスタービン発電技術、高温ガス炉と熱利用施設の接続技術の研究開発を実施してきた。
欧米においては、各国に先駆け、1960年代から本格的に高温ガス炉技術の研究開発が行われ、実験炉、原型炉が建設されてきたが、技術的、政治的な理由から運転を停止している。以下に欧米における主な運転終了事例及びそれらを受けての原子力機構としての取組について記載する。
○英国(経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)):
丸1 ドラゴン炉(実験炉、クラスター型燃料、出力20MWt)
ドラゴン炉は、1964年に初臨界となり、1966年に全出力運転を達成した。本炉は、燃料及び黒鉛の開発と健全性実証のための照射試験を広範囲に行うとともに、高温ガス炉の運転保守に関する経験を積み重ねて、十分な照射データを蓄積し、目的を達成したことにより、1976年に運転を終了した。
○米国:
丸1 ピーチボトム炉(発電用実験炉、棒状燃料、出力115MWt/40MWe)
米国初の高温ガス炉実験炉であるピーチボトム炉は、1966年に初臨界、1967年に全出力運転を達成し、その後も高い稼働率で順調な運転実績を残し、1974年に運転を終了した。
丸2 フォートセントブレイン炉(原型炉、ブロック型燃料、出力842MWt/330MWe)
フォートセントブレイン炉は、世界で最初の高温ガス炉の原型炉として建設され、1974年に初臨界となった。本炉は、ガス循環機冷却水の炉内への侵入等の影響や、1981年の全出力運転達成後の稼働率が上がらなかったこと等、技術的課題、財政的課題から、1989年に運転を終了した。
○ドイツ:
丸1 AVR(実験炉、ペブルベッド型燃料、出力46MWt/15MWe)
AVRは、1966年に初臨界となり、1967年に炉内温度850℃の全出力運転を達成し、高い稼働率で発電用実験炉として順調に運転され、1974年には炉内温度を950℃まで上げることに成功した。1978年に蒸気発生器からの水漏れのため一時停止したが翌年に再稼働し、1988年に運転を終了した。
丸2 THTR-300(原型炉、ペブルベッド型燃料、出力750MWt/300MWe)
THTR-300は、1983年に初臨界となり、1986年に全出力運転を達成した。稼働率は50~60%で高温ガス炉の原型炉としての目的を果たしたが、1988年に高温ダクト内の断熱板のボルトの頭が破損したトラブルをきっかけとして、同時期の原子力からの撤退という政治的理由及び財政的理由から1989年に運転を終了した。
なお、上記の欧米諸国における先行事例を踏まえ、我が国では発電用蒸気タービンではなく、ガスタービンの採用に向けた研究開発を進めるとともに、HTTRにおいては水侵入に対する設計対策等を検討するとともに、金属断熱板にボルトを使用せず、熱膨張を拘束しないで自重を支える構造を採用する等、先行事例で生じた技術的な課題を克服できる設計対策と研究開発を実施している。
上記の通り、1960年代から欧米が先行して研究開発を進めてきているが、現在は、アジア諸国をはじめとして、各国に高温ガス炉技術の研究開発が広がっている。
米国ではエネルギー省を中心に、産業界と連携し、水素製造も視野にいれた「次世代原子力プラント計画」において高温ガス炉技術の研究開発を実施している。欧州では独自の研究開発は停滞しているものの、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)や国際原子力機関(IAEA)等の国際枠組みを活用した国際共同研究を続けている。
また、中国等の新興国も高温ガス炉技術の研究開発に積極的に取り組んでいる。特に、中国においてはドイツから技術を譲り受け、1990年代以降急速に研究開発を加速させており、2006年には、国(中国科学技術部)が国家重大特別プロジェクトの一つに高温ガス炉を指定し、大学や国有企業を中心として、研究炉から商用炉まで幅広い研究開発を実施・計画している。
また、インドネシアにおいては、離島における発電、熱利用の観点から、2020年代の試験・実証炉の運転開始、2031年の商用利用を目標に、研究開発を推進する方針であり、我が国や中国等と研究開発に関する連携を締結している。
そのほか、韓国においては民間と連携し、950℃の熱利用を見込んだシステムの実証計画、カザフスタンにおいては、将来的な熱利用も含めた商用利用計画等、高温ガス炉に関する計画を有しており、世界各国における高温ガス炉への関心は高いと言える。
高温ガス炉技術の研究開発については、原子力機構の有するHTTRを中心に、燃料、材料等の原子炉技術及び安全性向上に関する研究開発や、水素製造、ガスタービン発電等の熱利用技術、原子炉と熱利用施設の接続に関する要素技術等に関する研究開発を実施してきており、これらの研究開発において着実に成果を挙げている。今後、高温ガス炉技術の研究開発の方向性を示し、それに向けた研究開発の在り方を整理し、取組を着実に進めることが必要である。
本項及び次項においては、今後10年を目処とした原子力機構を中心とした具体的な研究開発の課題についてまとめる。なお、その際には、水素社会の構築や国際社会のニーズを踏まえつつ、高温ガス炉の将来的な実用化像を描きつつ、それらを目指した研究開発を実施する必要である。そのため、高温ガス炉の将来展望の考え方を示しつつ、その上で原子力機構を中心にHTTRを用いた研究開発の具体的な課題について丸1 高温ガス炉の固有の技術、丸2 熱利用技術、丸3 高温ガス炉の安全性向上の3分野における研究開発に関して提案する。
なお、今後の研究開発を進めていくに当たっては、本項及び次項で整理される研究開発を着実に進めるとともに、実用化の可能性を検討・判断するための評価を経つつ、次の段階に移行していくことが必要であり、それには、最終ユーザも含めた更なる検討が必要である。特に、中長期的な課題として、具体的なユーザを想定したスペック目標を設定したうえで実用化の概念検討を実施し、それらに必要な技術と現状技術とのギャップを明らかにしていく必要がある。中長期的な取組については、5.で整理することとする。
今後の高温ガス炉の研究開発及びその方向性の議論には、HTTRをはじめ、その他の研究施設の再稼働及びそれらから得られる研究成果等が必要不可欠であり、原子力機構においては、まず、新規制基準への対応と運転再開に向けて取り組む必要がある。
高温ガス炉は、前章で述べたとおり、炉心燃料の除熱特性に関して優れた固有の安全性を有しており、また、高温熱利用が期待されることなどから、将来の原子力利用の一つとして期待される技術であるとともに、我が国の優れた技術をもとに積極的な国際展開が期待される技術である。
高温ガス炉の利用については、発電用原子炉としての利用、高温熱源用原子炉としての利用及びこれら二つの利用法を併せ持つタイプの利用が考えられる。また、大きくは国内での利用と海外への展開という2つの方向性がある。これらの将来像についての検討に当たっては、国内における原子力政策の動向や原子力に対する国民の理解、水素社会実現に向けた政府方針や研究開発の進捗状況、また、海外における高温ガス炉技術の需要等も考慮しながら選択していく必要がある。
なお、原子力機構が評価したところでは、その固有の安全性を維持できる原子炉サイズは、現時点においては、約60万kWt(約30万kWe)と見込まれており、小型の原子炉が適正である。また、小型であるという特性から、離島等での分散電源や、工業地帯に隣接した熱源とできる等の利用が見込まれる。
さらに、エネルギー資源に乏しい我が国においては、資源の有効利用等の観点から、核燃料サイクルの推進を基本としており、国内において、将来高温ガス炉を実用化していく場合においては、こうした政策との整合性にも留意が必要である。
高温ガス炉の利用については、水素製造を含む多様な熱利用が可能な950℃(出口冷却材温度)、発電用ヘリウムガスタービンの活用が可能な850℃、発電用蒸気タービンの活用が可能な750℃等、出口冷却材温度に応じて異なる熱の活用方法が存在することが議論された。出口冷却材温度が750℃で蒸気タービンを用いた発電用高温ガス炉システムについては、技術的には既存の技術での応用が可能であるとの意見など様々な議論があったが、本作業部会が科学技術を担う文部科学省の諮問会議の下に設置された委員会であることも踏まえ、本作業部会としては、850℃でのシステムに係る研究開発課題も包含する意味でも、主に水素製造を含む多様な熱利用が可能な出口冷却材温度950℃の高温ガス炉システム、かつ、蒸気タービンよりも安全性、経済性、熱効率の向上が期待されるガスタービンシステムの熱電併産高温ガス炉システムの構築を当面の将来像として、今後、原子力機構がHTTRを用いて行う研究開発の方向についてまとめることとする。
また、これらの研究開発については、必要な評価を行いつつ、長期的な構想をもとに進めることを期待する。なお、長期的な目標設定においては、技術的なシーズプッシュの観点のみならず、水素社会の構築や、諸外国等における高温ガス炉導入のニーズ等も踏まえたニーズプルの観点も必要である。
なお、今後、研究開発の進捗状況や国内外の状況の変化等に応じて、高温ガス炉技術の研究開発の方向性について見直していくことが必要である。
(1)に示した基本的考え方に基づき、高温ガス炉技術の高度化に向けて、今後、高出力化及び長期間運転の実現のために実施すべき研究開発課題のうち燃料、黒鉛、金属・高温機器、炉工学について具体的な内容を以下に示す。
丸1 燃料に関する研究開発
・高燃焼度化(160GWd/t)燃料の開発、高出力密度化のための除熱性能向上燃料要素の開発を実施。経済性、安全性の観点から高温ガス炉の燃料設計方針の原案を検討。
燃料被覆破損機構の研究
【目的】
燃料設計方針の策定に向けた破損機構の解明
【方法】
原子力機構が有する材料試験炉(以下「JMTR」という。)による照射試験及び照射後試験により、破損率の燃焼度依存性を調べ、高燃焼度下で支配的な内部ガス圧力上昇による破損機構(内圧破損)を定式化
【今後の取組】
JMTR照射試験(燃焼度160GWd/t)及び照射後試験を実施
高温ガス炉燃料の高燃焼度化
【目的】
出口冷却材温度950℃高温ガス炉用燃料の高燃焼度化
【方法】
HTTR技術に基づき製造した高温ガス炉燃料試料の高燃焼度(最大160GWd/t)照射試験を実施
【今後の取組】
燃焼度160GWd/tまでの照射健全性をJMTR照射試験により検証
除熱性能向上燃料要素開発
【目的】
炉心の出力密度を2.5MW/m3から6MW/m3に高め、4年間の燃焼期間を達成するため、除熱性能を向上させ、燃料量を増加した燃料要素を開発
【方法】
従来のHTTR燃料から黒鉛スリーブをなくした、スリーブレス一体型燃料の検討。また、燃料要素内の被覆燃料粒子の充填率の向上。これらスリーブレス一体型燃料及び高充填率燃料の照射特性の把握
【今後の取組】
スリーブレス一体型燃料及び高充填率燃料の製造技術開発を実施。スリーブレス一体型燃料及び高充填率燃料の照射特性を燃焼度160GWd/tまでの照射試験により把握
丸2 黒鉛に関する研究開発
・出口冷却材温度950℃高温ガス炉条件で照射された黒鉛特性データにより黒鉛の設計曲線を検証するとともに、黒鉛構造物の健全性を確認。
出口冷却材温度950℃高温ガス炉条件での黒鉛特性評価
【目的】
出口冷却材温度950℃高温ガス炉の照射条件(照射温度、照射量)における黒鉛特性を取得し、黒鉛の設計曲線を検証・高精度化
【方法】
JMTR等の照射炉を用いた照射試験及び照射後試験を実施。取得したデータを用いて既存の照射データの内外挿により作成された黒鉛の設計曲線の検証・高精度化
【今後の取組】
出口冷却材温度950℃高温ガス炉の照射条件における照射試験を実施
HTTR黒鉛構造物の健全性確認
【目的】
HTTR炉心支持黒鉛構造物の経年劣化データの取得及び健全性の確認。供用期間中検査技術の検証
【方法】
HTTR炉心支持黒鉛構造物の供用期間中検査及びサーベイランス試験を実施。酸化量、強度変化等を調べ、健全性を確認
【今後の取組】
HTTRの燃料交換時に供用期間中検査とサーベイランス試験片を用いた強度試験等を実施
丸3 金属・高温機器に関する研究開発
・HTTR試験において、中間熱交換器の性能確認を実施するとともに、ハステロイXRのサーベイランス試験を実施
ハステロイXRの開発
【目的】
ハステロイXR製の伝熱管を持つ中間熱交換器の性能確認及びハステロイXRの経年劣化の評価、設計寿命の妥当性確認
【方法】
HTTR試験における定常運転データから、中間熱交換器の伝熱性能等の経年変化を確認
ハステロイXRのサーベイランス試験片を取り出し、クリープ試験、表面観察(酸化被膜の形成状態確認)等を実施
【今後の取組】
定常運転時の中間熱交換器の熱交換性能の経年変化データ取得ハステロイXRのサーベイランス試験片の取り出しと試験の実施
丸4 炉工学に関する研究開発
・高温ガス炉の設計のために開発した核設計計算手法について、燃料の燃焼を考慮した過剰反応度の計算精度の向上
核設計計算手法の精度評価
【目的】
核設計計算手法の精度評価及び妥当性の検証
【方法】
燃焼に伴う過剰反応度の変化を表す制御棒位置について、測定値と計算値を比較
【今後の取組】
運転中の制御棒位置を燃焼末期まで測定し、測定値と計算結果を比較
(1)に示した基本的考え方に基づき、多様な熱利用尾の実現に向けて、水素製造技術、ガスタービン発電技術及び高温ガス炉との接続技術について具体的な内容を以下に示す。
丸1 水素製造技術に関する研究
・熱化学法ISプロセスについて、耐食性を有する工業材料製の連続水素製造試験装置による運転制御技術・信頼性確証、セラミックス製機器の高圧運転に必要なセラミックス構造体の設計方針の作成、経済性向上を狙いとする機器小型化要素技術開発を行い、安全な連続運転のための基盤技術を確立。
HI濃縮技術
【目的】
HIの濃縮によるHI分解時の消費エネルギーの低減
【方法】
HI濃縮時の温度(約100℃)に耐え、かつ、濃縮エネルギーが少ない分離膜(陽イオン交換膜)の開発
【今後の取組】
分離膜の改良及び大型膜の製膜技術を確立
連続水素製造試験
【目的】
ISプロセスの耐食機器技術、連続運転技術の信頼性の検証
【方法】
工業材料製の連続水素製造試験装置を用いて、プラント全系の耐食機器の信頼性確証、ISプロセスの起動・停止、緊急時の対応を含めた運転制御方法、長時間運転の安定性確証などの運転技術の検証
【今後の取組】
ブンゼン反応工程、硫酸分解反応工程及びHI分解反応工程の機能試験の実施。例遺族水素製造試験の実施
セラミックスの設計方針
【目的】
硫酸分解器に用いるセラミックス製機器の高圧運転に必要なセラミックス構造体の設計方針の作成
【方法】
基準構造体の材料特性と既存の脆性破壊統計理論を用いた大型構造体の下限強度決定法の作成。また、大型構造体の強度評価試験による下限強度決定法の妥当性の確証及びセラミックス設計方針の作成
【今後の取組】
基準構造体の強度データの取得。大型構造体の強度評価試験の実施
機器小型化要素技術:硫酸分解器
【目的】
必要な処理量を得るための硫酸分解器サイズの小型化による経済性向上
【方法】
耐熱性SiC多孔質体を用いた薄層カートリッジ触媒層における熱伝導率の向上及び触媒層の薄層化による反応器の小型化
【今後の取組】
薄層カートリッジ触媒の試作。機器試作及び実環境を模擬した試験の実施
機器小型化要素技術:ブンゼン反応器
【目的】
必要な処理量を得るための反応器サイズの小型化による経済性向上
【方法】
ブンゼン反応における反応生成物である硫酸とHIを陽イオン交換膜で隔てることで過剰なヨウ素量を低減
【今後の取組】
膜反応器の作動に必要な陽イオン交換膜・電極の開発。膜反応器試験により設計に必要な特性データの取得
機器小型化要素技術:HI分解器
【目的】
必要な処理量を得るための反応器サイズの小型化
【方法】
水素を選択的に分離する膜を用いた膜反応器によりHI分解反応の平衡転化率を向上させ、HI分解工程において大量に循環している未反応HIを削減して機器を小型化
【今後の取組】
耐食性を有する水素分離膜の開発。使用温度の低温化による機器腐食の緩和実現のため、低温でも高活性を維持できる触媒を開発。膜反応器試験により設計に必要な特性データを取得
丸2 発電技術に関する研究開発
・ヘリウムガスタービン発電について、軸シール、核分裂生成物(FP)沈着低減に関わるヨウ素技術開発の実施
軸シール技術
【目的】
ヘリウムガスタービン軸からのヘリウムガス漏洩を抑制するための軸シール技術を開発
【方法】
多段メカシールとシールガス圧力制御を併用した軸シールシステムにシールガス回収システムを組合せ、ヘリウムガス漏洩を抑制
【今後の取組】
HTTRを用いたヘリウムガスタービン発電技術の総合性能試験を実施して、シール性能を確証。ドライガス軸シールシステムの大型化
核分裂生成物(FP)沈着低減技術
【目的】
一般産業ガスタービンのメインテナンス方法の適用を可能とするため、ガスタービン翼へのFP沈着量を低減
【方法】
FPの拡散浸透の少ない材料の開発等により低FP沈着ガスタービン翼を開発
【今後の取組】
安定同位体を用いた拡散試験等により、粒界構造及び合金元素と安定同位体の拡散の相関に関するデータを蓄積し、翼材料の粒界構造と合金元素を最適化。また、最適化した翼材料を対象に実環境模擬試験を実施し、FP沈着低減効果を検証
丸3 高温ガス炉との接続技術に関する研究開発
・高温ガス炉と熱利用施設を接続するための技術について、要素技術開発等を行う
ヘリウムガスタービン接続試験
【目的】
ヘリウムガスタービン発電技術の検証
【方法】
HTTRを用いたヘリウムガスタービン発電技術の総合性能試験に向けた要素技術開発等を実施
【今後の取組】
システムの設計、安全評価及び性能評価
水素製造接続試験
【目的】
ISプロセス水素製造技術の確証
【方法】
HTTRを用いたISプロセス水素製造技術の総合性能試験に向けた要素技術開発・連続運転制御技術開発等を実施
【今後の取組】
システムの設計、安全評価及び性能評価
(1)に示した基本的考え方に基づき、高温ガス炉の高度化に向けて今後原子力機構を中心に実施すべき研究開発課題のうち、安全性、廃棄物低減に関する課題について具体的な内容を以下に示す。
なお、今後、実用炉の検討に当たっては、以下に挙げている研究開発のみならず、5.に示すように、原子力プラントの総合的な安全評価として、実用炉の設計段階において外部事象及び内部事象の確率論的安全評価(PSA)を実施し、当該設計の技術的成立性の検証や研究開発課題を抽出していく必要がある。特に、多重事故を含めた事故シナリオを網羅的に評価していく必要がある。
丸1 耐震等を含めた総合的な事故時安全性に関する研究開発
・固有の安全性を有する高温ガス炉の事故時安全性を確証するため、HTTRを用いて炉心流量喪失試験、炉心冷却喪失試験等を実施。
炉心流量喪失試験
【目的】
炉心の冷却機能が喪失した際の高温ガス炉の挙動を明らかにし、固有の安全性を検証。
【方法】
HTTRの出力運転からの原子炉冷却機能喪失状態における原子炉のスクラム操作(制御棒挿入操作)がない状況での炉特性に関するデータを取得
【今後の取組】
原子炉出力100%での試験を実施
炉心冷却喪失試験
【目的】
炉心及び炉容器冷却流量が喪失した際の高温ガス炉の挙動を明らかにし、固有の安全性を検証
【方法】
炉心流量の喪失とともに炉容器外面から炉心を冷却する炉容器冷却系の水流量をゼロとし、制御棒挿入操作がない状況での炉特性に関するデータを取得
【今後の取組】
原子炉出力30%での試験を実施
丸2 使用済燃料、黒鉛廃棄物に関する研究開発
・高温ガス炉の使用済燃料の処理処分について、既存のPUREX法に適合するための再処理技術を開発
・高温ガス炉燃料の再処理に際して発生する黒鉛廃棄物の処理処分方法の検討
使用済燃料の処理処分
【目的】
高温ガス炉燃料の処理処分方法の検証
【方法】
これまで実施してきた研究開発をベースとして、HTTR使用済燃料を用いた前処理試験を行い、高温ガス炉使用済燃料の再処理技術を検証
【今後の取組】
HTTR使用済燃料を用いた前処理工程の確証試験
黒鉛廃棄物の評価
【目的】
高温ガス炉黒鉛廃棄物中のC-14量の定量的評価
【方法】
C-14(半減期約5730年)の主な生成源である窒素に着目し、黒鉛に含まれる窒素量からC-14量を定量的に予測
【今後の取組】
黒鉛中の窒素量の測定。また、HTTRの燃料交換時に炉心から取り出したサーベランス試験片中に含まれるC-14の放射能量を測定
丸3 熱利用施設接続における安全確保に関する研究開発
・HTTR試験データ等を活用して、高温ガス炉と水素製造施設との接続に関する安全基準の検討
核熱供給試験
【目的】
熱利用施設での異常に対して、代替除熱の確保等により原子炉の運転継続が可能であることの検証
【方法】
熱利用施設の異常を模擬するため原子炉入口温度に外乱を与え、HTTRの原子炉状態量に関するデータを取得し、解析コードを用いて原子炉の運転継続について評価
【今後の取組】
HTTRを用いた核熱供給試験の実施。解析コードの検証。HTTR接続試験における熱利用施設異常時の安全評価
熱利用系事故模擬試験
【目的】
熱利用施設の異常に原子炉施設の故障が重なった場合の原子炉の安全性を検証
【方法】
熱利用施設の異常を模擬するために2次系圧力を減少させ、HTTRの原子炉状態量に関するデータを取得し、解析コードを用いて原子炉の安全性を評価
【今後の取組】
HTTRを用いた熱利用系事故模擬試験の実施。解析コードの検証。HTTR接続試験における熱利用施設異常時の安全評価
丸4 安全基準の整備
・HTTRを用いた被覆燃料粒子の核分裂生成物(FP)の閉じ込め性能に関するデータの取得
閉じ込め性能の検証実験
【目的】
HTTRの運転を通じて、被覆燃料粒子の核分裂生成物(FP)閉じ込め性能を検証
【方法】
HTTRの運転中のヘリウム中の放射性物質濃度を測定
【今後の取組】
HTTRの設計燃焼度22GWd/tに至るまでの燃焼注記~末期のデータ取得により、被覆燃料粒子のFP閉じ込め性能を検証
放射性ヨウ素の定量的評価
【目的】
HTTRを用いて、高温ガス炉の1次冷却設備内面に沈着しているヨウ素量を明らかにし、高温ガス炉における事故時の放射性物質放出量を検証するとともに、事故時における被ばく評価手法を高精度化
【方法】
燃料からの放出及び1次冷却設備内面への沈着に関する挙動把握が困難なヨウ素の定量評価を実施
【今後の取組】
炉心流量部分喪失試験及び炉心流量喪失試験におけるヘリウム中の放射性物資濃度の測定
放出放射性物質量試験
【目的】
HTTRを用いて、被覆燃料粒子から反跳・拡散によって放出される放射性物質量を明らかにし、高温ガス炉における事故時の放射性物質放出量を検証するとともに、事故時における被ばく評価手法を高精度化
【方法】
HTTRにおいて、1次系冷却系に放出される放射性物質について、核分裂による反跳放出の寄与と拡散放出の寄与を分離して測定
【今後の取組】
HTTR試験におけるヘリウム中の放射性物質濃度の測定
実用化にむけた高温ガス炉技術の研究開発を進めるに当たっては、当面の原子力機構を中心とした技術的な観点からの研究開発のみならず、原子力機構の研究開発と同時並行、またはそれらを踏まえて、実用化を見据え、安全性、経済性の追求等の観点から、民間等において取り組むべき研究開発が必要となる。以下の具体的な例の他に、今後、5.で提案するアライアンスの例において、原子力機構を中心とした研究開発成果を見極めつつ、より具体的な課題を抽出し、産学官が連携した枠組みの中で、研究開発を進めていくことが必要である。特に産業界については、産業界の自主的な参画意志に基づき、現在原子力機構と連携して研究開発を行っている機器開発・製造を担うメーカを中心に連携を進め、製鉄会社、自動車会社、化学プラントや電力会社等の最終ユーザの意見を求めることも重要である。
高温ガス炉は現在すでに実用化されている軽水炉とは異なるシステムを持つため、実用化を目指すに当たっては、商用炉としての安全基準や燃料、材料(黒鉛、金属)の規格基準等について、新たに整備していく必要がある。
その際には、前項での取組に加え、実用化を目指した基準の策定に向けて、HTTRを用いた安全性の確証試験や、GIF及びIAEAの枠組みを利用した国際標準化への取組、また、原子力規制委員会による安全基準に関する評価を受けることが必要となる。さらに、黒鉛材料、金属材料の規格基準においては、現在HTTRで用いられている技術をもとに、日本機械学会の設計・建設規格等の民間規格に取り組むことが必要である。このため、これらのために必要となる安全性実証研究等が必要である。
また、原子炉に熱利用施設を接続する際の安全基準についても、日本原子力学会研究専門委員会における原案作成及びIAEA等における国際標準化への取組が必要である。
原子力機構を中心に実施する要素技術の研究開発の他に、将来の実用化に当たっては、ヘリウムガスタービンの大型化・高温化技術開発及びメインテナンス技術の実証や、接続技術に関する検討等が必要となってくる。
また、高温ガス炉の使用済み燃料の処分については、処理施設の検討も含め、必要なフィージビリティスタディの確認や前処理施設を含む再処理施設の全体像についての検討が必要である。
現在、国際社会において特に中国等の新興国を中心に、安全性が高く、発電のみならず多様な熱利用が可能である高温ガス炉についての研究開発が急速に進んでおり、商用炉としての活用に向けた期待も高まっている。
我が国は高温ガス炉技術の研究開発について、民間も含めて国際的に極めて優れた技術を蓄積している。また、原子力機構が保有するHTTRは世界に実在する数少ない高温ガス炉の試験研究炉であり、国際的な枠組みを通じて、HTTRを用いた国際共同研究等も数多く行われている。
原子力の安全性についての各国の関心が高まる中、高温ガス炉の安全性の実証に向けた我が国の取組についての期待も大きい。東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国は、高温ガス炉の国際協力・展開の検討に当たり、我が国が主体的に研究開発を推進することを大前提としつつ、高温ガス炉の研究開発で蓄えた知見・技術を用いた高温ガス炉の安全性に関する国際基準策定等を通じて、原子力の安全性向上に向けて世界的な貢献をしていくことが重要である。
また、新興国において商用炉としての高温ガス炉の活用が期待される中で、安全性に関する我が国の技術を国際基準化により、将来的な我が国の高温ガス炉技術の国際展開も見込まれる。
これらの国際協力においては、将来的な原子力プラント輸出も視野に入れ、ハードインフラの整備のみならず、法基盤や規格・基準の整備、人材育成等のソフトインフラの整備も必要である。また、これらの取組に当たっては、産学官が連携した取組が必要不可欠である。
本章では、高温ガス炉を用いた国際協力の基本的考え方を示すとともに、具体的な国際協力の在り方について提案する。
高温ガス炉の国際協力については、丸1 特に安全性について国際貢献に資すること、丸2 国内単独で実施するよりも更なる知見の共有や費用分担によるコスト削減等が見込まれること、丸3 我が国の設計・技術等の国際標準化に資すること、丸4 我が国の技術の将来的な国際展開が見込まれること等の観点で検討を行うことが必要である。また、特に将来の我が国の技術の国際展開を目指し、産学官が連携した取組が必要である。
二国間の取組については、高温ガス炉について先行的に研究開発に取り組み、原型炉の運転経験等を持つ米国等との連携や、今後高温ガス炉の商用炉の導入を目指す中国、インドネシア等の新規導入国等との将来的な我が国の技術の国際展開を踏まえた協力等、相手国に応じた連携が必要である。
国際機関等を通じた多国間の取組は、様々な観点から重要であり、今後ともHTTRを用いた国際共同研究等を実施し、我が国が多国間の取組をリードしていくことが必要である。
丸1 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)
経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の原子力施設安全委員会においては、すでに、前章に掲げている取組の一つである炉心流量喪失試験等において、HTTRを活用した共同研究が進行している。HTTRを活用した安全性に関する国際共同研究については、前述の国際標準化にもつながる取組であり、HTTRを用いた国際共同研究を引き続き実施することが重要である。
丸2 第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)
第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)は、米国原子力エネルギー研究諮問委員会を中心とした国際会議であり、2002年に超高温ガス炉(VHTR)を含む次世代原子炉である6つの第4世代原子力システムを選定した。現在、GIFにおいては、VHTRの実用化を目指し、国際協力により高温ガス炉技術開発を効率的に促進することを目的として、燃料・燃料サイクル、水素製造及び材料の各プロジェクトの活動を実施し、各国が分担してデータを取得している。
現在、我が国においては、具体的には、以下のプロジェクトを主導しており、今後もGIFを通じた国際共同研究の推進により、データの共有と我が国の高温ガス炉技術の国際標準化を目指していく。
高温ガス炉技術の将来を見据えた取組を進めるに当たっては、3.で整理した原子力機構を中心とした技術的な観点からの研究開発のみならず、将来的には、最終的なユーザである産業界等の意見も十分に与することが重要である。
また、高温ガス炉は、設計が比較的簡易であり、従来の技術的可能性を検証する実験炉、経済的可能性を検証する実証炉の通常のステップではなく、HTTRにおける技術的な研究開発の後は、リードプラントにおいて、実用炉を目指した安全性や経済性等の実証の検討に移行することが可能である。高温ガス炉の将来的な実用化には、リードプラントの設計・構築に向けた取組、また、リードプラントを用いた技術的、経済的課題の実証等が必要である。これらの将来的な課題に取り組むべく、長期的な視点の下、産学官が連携した体制・仕組みの構築が必要である。
なお、これらの取組については、まず、HTTRを用いた安全性の確証等を着実に実施し、その後、必要なフィージビリティスタディ等を経て、研究開発の進捗や新たな成果を評価しつつ、経済性等も踏まえて実用化の具体像をより明確化し、それに向けた研究開発課題の整理や、改めて研究開発の方向性を整理することが必要である。
本章では、今後期待される体制・仕組みの構築や、今後の進め方、評価の在り方について提案する。
また、現在、高温ガス炉は研究開発段階にあるものの、研究開発段階から、高温ガス炉の将来の実用化に向けた技術的、社会的課題について整理し、これらの課題に対する産学官の役割分担や優先順位等について、検討を行うことが重要であり、特に、東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、原子力政策に対する国民の意見が厳しさを増す中で、高温ガス炉についての安全性に関する評価体制の構築及び対外的な説明方針の明確化を図ることが必要である。
将来の実用化を検討・判断していくに当たっては、経済的な見通しを立てつつ、他の方法・システムとの間で十分な競争性が期待されるかどうかの分析が必要である。
また、将来の実用化に向けて安全性評価の仕組みの検討が必要である。その際に、軽水炉と高温ガス炉が異なる原子力システムであることを踏まえる必要がある。加えて、高温ガス炉技術の研究開発が着実に進められ、期待される成果が確実に得られているか定期的な評価が必要である。その上で、HTTRを用いた接続試験への着手や、成果を踏まえた将来の方向性の見直し等が必要である。
研究開発の進捗状況及び安全性の評価に当たっては、研究開発の進捗状況を踏まえた適切な場を活用し、国としても本作業部会等において、進捗状況を確認していく。
なお、高温ガス炉と核燃料サイクル政策との整合性については、原子力小委員会等における核燃料サイクルの議論の動向等を踏まえて検討する。
高温ガス炉の将来的な実用化について検討するに当たり、「経済性」の有無は今後の研究開発の方向性に大きな影響を与える重要な要素である。特に、原子炉出口冷却材温度950℃を目指す我が国の研究開発の方向性においては、原子炉建設コストや発電コストのみならず、水素製造コストの観点も重要な指標である。
高温ガス炉は未だ研究開発段階にあり、さらなる技術の実証や安全基準の確立に向けた取組が必要であるが、実用化の判断に当たっては、他の発電システムや水素製造システムとの競争性があるかについて検討を行うことは重要である。このような考えの下、研究開発の進捗状況等に応じて更なる検討が必要である、現時点においては、コストについて、以下の通り論文や原子力機構による試算が行われている。なお、以下の試算については、安全対策費等の算入、現在価値換算等の評価手法・条件やコスト要因の前提となる運用構想や燃料サイクルの実施の要否等の考え方が異なるため、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会報告書(平成23年12月)(以下「コスト等検証委員会報告書」という。)における軽水炉等の発電コストとは単純に比較できるものではないことに留意が必要である。
高温ガス炉技術の研究開発について今後評価を行うに当たっては、丸1 安全性、丸2 技術メリット、丸3 コスト、丸4 社会的受容性の4点を評価軸として設定することが重要と考えられる。
研究開発局 原子力課