資料1-2 高温ガス炉技術開発に係る今後の研究開発の進め方について(案)

1.はじめに

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故は、国民の間に原子力への不安感のみならず原子力政策そのものに対する不信感を招くこととなり、現在の原子力政策に対する国民からの視線はこれまでになく厳しいものとなっている。特に、原子力の安全性の問題や放射性廃棄物の問題など、原子力の抱える課題が国民的課題として認識されるようになってきた。
 一方、我が国は、エネルギー資源に乏しく、その多くを海外からの輸入に頼るという根本的な脆弱性を抱えており、エネルギーを巡る国内外の変化に よる影響を受けやすい構造を有している。このような状況の中で、我が国の総合的なエネルギー需給に関する長期的、総合的かつ計画的な推進を図るための政策である「エネルギー基本計画」(平成26年4月閣議決定)においては、原子力は「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」として位置づけられたところである。また、今後、原子力を利用していくに当たっては、いかなる事情よりも安全性を最優先とすることは当然であり、世界最高水準の安全性を不断に追及していくことが重要であるとしている。こうした中で、「エネルギー基本計画」においては、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発の推進についても明示している。
 さらに、「経済財政運営と改革の基本方針2014」(いわゆる「骨太の方針」)(平成26年6月閣議決定)や「日本再興戦略」改訂2014(平成26年6月閣議決定)においても、高温ガス炉など安全性の高度化に貢献する技術開発の国際協力等を行うことが明記された。
 将来に向けて有望な技術的選択肢を持つことは、安定的なエネルギー確保の観点から重要である。また、同時に、「安全神話」と決別し、国民目線に立った安全性の追求を行い、国民の安全・安心への期待に応え、世界的な原子力安全に貢献する取組を進めていくことが必要である。

(高温ガス炉の特色と各国における研究開発の歴史)

 高温ガス炉は、燃料として耐熱性に優れ放射性物質の閉じ込め能力が高い被覆燃料粒子や、減速材として熱容量が大きく耐熱性が高い黒鉛、冷却材として化学的に安定なヘリウムガスを用いており、その炉心燃料の構造と出力密度、冷却特性等の特性から、軽水炉で想定されるようなシビアアクシデントが起こりにくく、また、多様な熱利用が可能であるなど環境負荷低減に貢献しうる原子力システムである。また、次世代原子炉として2030年頃の実用化を目指して国際的に議論が行われた第4世代原子力システムの一つとしても位置づけられている。
 我が国においては、1960年代の末から高温ガス炉技術の研究開発を開始し、1998年には、日本原子力研究所(当時。現在の独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。))が我が国初の黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉の試験研究炉である「高温工学試験研究炉(HTTR)」(以下「HTTR」という。)を建設し、初臨界を迎えている。現在、世界でも実際に稼働可能な高温ガス炉の数が少ないこと、また、HTTRが世界で唯一、原子炉外へ950℃のヘリウムガス取出しに成功していること、さらに、民間企業との連携のもと、高温ガス炉に関する世界最高レベルの技術を我が国が有していることなどから、我が国は世界でも最も高温ガス炉技術の研究開発が進んでいる国の一つと言える。中でも、日本の高温ガス炉の安全性に関する技術は世界をリードしている。
 また、世界的には、高温ガス炉については、1960年代以降欧米を中心として研究開発が推進されてきており、近年においては中国を中心とした新興国を中心に研究開発が盛んに進められている。特に中国やインドネシアにおいては、すでに商用炉の導入計画を有しており、諸外国から積極的な技術導入を図るなど、高温ガス炉に関する国際競争が高まりつつある状況にある。

(本報告書の位置づけ)

 このような状況の中で、これまで高温ガス炉に関する技術的優位性を維持・確保してきた我が国として、海外での研究開発動向や導入計画等を踏まえ、今後、高温ガス炉技術について、どのような目的・方向性をもって研究開発を進めていくべきかについて、改めて議論すべき時期に来ている。文部科学省においては、これらの状況を踏まえ、また、「エネルギー基本計画」に安全性の高度化に貢献する原子力技術の一つとして高温ガス炉技術が位置づけられたことを契機として、高温ガス炉とこれによる水素製造技術等の熱利用に関する研究開発の状況等を評価するとともに、国内外におけるニーズを踏まえた今後の研究開発の在り方について、調査、検討を行うために、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会の下に、「高温ガス炉技術研究開発作業部会」を平成26年5月に設置し、高温ガス炉技術に関する研究開発の方向性について議論を行ってきたところである。
 本作業部会は、これまでの議論を踏まえた研究開発の今後の進め方について一定の方向性を示すべく、本報告書を取りまとめた。本報告書は、水素社会の展望や国際的な高温ガス炉のニーズを踏まえつつ、今後の高温ガス炉技術の研究開発に関する政策的な検討に資するものとして取りまとめたものである。
 なお、今後の高温ガス炉技術の研究開発に当たっては、まず、HTTRをはじめとする関連施設の再稼働や、原子力機構におけるHTTRを用いた安全性の確証等を着実に実施することが重要である。その後、必要なフィージビリティスタディ等を経て、研究開発の進捗や新たな成果を評価しつつ、経済性等も踏まえて実用化の具体像をより明確化し、それに向けた研究開発課題を整理し、改めて研究開発の方向性を整理することが必要である。また、研究開発成果を踏まえ、研究開発段階に応じた産学官の役割を整理しつつ、取り組むことが必要である。
 今後、本報告書を踏まえ、産学官で議論を深め、今後の高温ガス炉技術の研究開発を進めていくことを期待する。

2.高温ガス炉技術の研究開発に関する現状

 高温ガス炉は、燃料として耐熱性に優れ、放射性物質の閉じ込め性能が高い被覆燃料粒子や、減速材として熱容量が大きく耐熱性が高い黒鉛、冷却材として化学的に安定なヘリウムガスを用いており、その炉心燃料の構造と出力密度、冷却特性等から、軽水炉で想定されるようなシビアアクシデントが起こりにくく、多様な熱利用が可能であるなど環境負荷低減に貢献しうる原子力システムである。
 欧米では1960年代から先行的に高温ガス炉技術についての研究開発が進められてきた。我が国においても、1960年代末(1969年(昭和44年))から研究開発が進められ、当時の「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下「原子力長期計画」という。)では、高温ガス炉は発電のみならず、熱利用等原子炉の多目的利用を通じた我が国のエネルギー供給の安定化への貢献を目指した研究開発を行うとされた。
 これらの方針に基づき、平成3年にはHTTRの建設工事を開始し、平成10年にはHTTR(熱出力30MW(3万kWt))が初臨界を迎え、平成16年には原子炉出口冷却材温度950℃を達成した。その後も、安全性の実証試験等、基盤技術の確立に取り組んできているところである。

(1)高温ガス炉技術の研究開発の意義

(高い安全性(自然に停止、冷却、高い放射性物質閉じ込め能力))

  • 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力の安全性に対する希求が高まると同時に、原子力事業者は安全性を最優先とする取組が求められているところである。
  • 高温ガス炉は、その炉心燃料の多層の被覆構造と、出力密度が小さく、冷却特性にも優れるという特性等により、具体的には以下のような安全性を有している。
    丸1 冷却材が喪失するような事故時において、制御棒の緊急挿入による自動停止を行わなくても、炉心の負の反応度フィードバック効果により原子炉出力が自然に低下して未臨界状態となる。
    丸2 熱伝導や熱放射により自然に原子炉の崩壊熱が除去され、原子炉は安全な状態に静定する。
    丸3 炉心構造物(黒鉛)の耐熱温度が高く(2,500℃)、原理上、熱による炉心溶融の危険性が低い。さらに、炉心構造物の熱容量が大きいため、異常時等において温度挙動が緩慢である。
    丸4 高温ガス炉の燃料は、二酸化ウランの燃料核をセラミックスにより三重(四層)に被覆している被覆燃料粒子の集合体であることから耐熱性が高く(2,000℃)、また、放射性物質の閉じ込め性能が高いため、事故時に放射性物質の大量放出を抑えることが可能である。
  • 原子力機構が評価したところでは、上記の安全性を維持できる原子炉サイズは、現時点においては、約60万kWt(約30万kWe)と見込まれており、高温ガス炉が有する固有の安全性を維持するためには小型の原子炉が適正であるまた、小型であるという特性から、離島等での分散電源や、工業地帯に隣接した熱源とできる等の利用が考えられる。

(燃料の高効率利用による廃棄物低減への貢献)

  • エネルギー資源に乏しい我が国にとって、エネルギーの有効利用はエネルギーの安定供給・確保の観点から重要な課題である。高温ガス炉は、燃料の効率的な利用による廃棄物低減への貢献が期待されている。
  • 高温ガス炉において用いられる被覆燃料粒子は、セラミックによる三重(四層)の被覆構造で高燃焼度化(160GWd/t(軽水炉は55GWd/t))の対応が可能であるため、燃料の効率的な利用が可能であり、燃料費用や発電コストの低減につながることが期待される。
  • 発電用ヘリウムガスタービンを用いた高温ガス炉については、軽水炉に比べて約1.5倍の発電効率に達する可能性があるとの試算がある。

(熱利用による温室効果ガス排出削減に貢献)

  • 温室効果ガスの排出削減は、国際社会における共通の課題であり、我が国をはじめとした先進国には、世界各国をリードする取組が求められているところである。
  • 我が国の二酸化炭素排出量は約12.8億トン(平成24年度)であり、その約68%が発電以外の熱利用分野が占めており、さらに、熱利用分野の80%以上が産業、運輸部門から排出されている。したがって、温室効果ガスの大幅な排出削減を行うためには、産業、運輸部門における化石燃料の消費を大幅に低減することが極めて有効な対策である。
  • 850℃~950℃の高温熱を供給できる高温ガス炉は、発電に加え、水素製造、低温排熱を利用した海水淡水化、地域暖房など、多様かつ高効率の熱利用が期待される。この高温ガス炉の熱利用システムにより供給される電力、水素及び熱が産業、運輸分野における化石燃料の代替エネルギー源となれば、温室効果ガス排出量の削減への貢献が期待できる。温室効果ガスの排出削減は世界共通の課題であり、海外においてもその貢献度は高い。

(水素社会への貢献)

  • 水素は代表的な2次エネルギーの一つであり、「エネルギー基本計画」においても、「取扱い時の安全性の確保が必要であるが、利便性やエネルギー効率が高く、また、利用段階で温室効果ガスの排出がなく、非常時対応にも効果を発揮することが期待されるなど、多くの優れた特徴を有している」とされており、水素社会実現に向けて着実に進めていくこととされている。
  • 水素社会の実現に向けては、安定的かつ利便性の高い水素供給技術やインフラの開発・整備に加えて、経済合理性のある水素価格が必要である。
  • 950℃の高温熱を供給できる高温ガス炉は、水の熱分解による水素製造への貢献が期待され、将来的に高品質の水素が安定的に合理的な価格で供給することが可能であれば、我が国における「水素社会」の構築に大きく貢献しうると言える。また、高温ガス炉の国際展開により、海外に設置した日本製の高温ガス炉から大量に水素を輸入・供給することも将来の水素社会の在り方の一つとして考えることができる。
  • なお、高温ガス炉からの水素の活用方法の一つとして、温室効果ガス抑制の観点から、将来的な水素発電の導入の意義についての議論にも貢献しうる。

 また、高温ガス炉は軽水炉と比べて簡易な構造をしているため、オペレーションのコストが低く抑えられる等の特徴も持っている。

(2)これまでの原子力政策における高温ガス炉技術の位置づけ及び取組

 我が国における高温ガス炉技術の研究開発は、主に、原子力機構が有するHTTRを中心として進められてきた。以下に、これまでの国の原子力政策における高温ガス炉技術の研究開発の位置づけ及び原子力機構がこれまで実施してきた研究開発について示す。

(国の政策における位置づけ)

 我が国の高温ガス炉に関する研究開発の歴史は長く、昭和47年の「原子力長期計画」において、高温ガス炉技術の研究開発が初めて位置づけられ、「原子炉の多目的利用の実現にあたって、高温ガス炉及びその利用技術の開発を総合的、計画的に推進することが必要である。」とされたのを契機に、日本原子力研究所(現原子力機構)を中心として、多目的高温ガス実験炉の研究開発が本格的に開始された。
 昭和62年の「原子力長期計画」においては、「多様な試験研究を行える高温工学試験研究炉を建設し、高温ガス炉技術の基盤の確立及び高度化を図るとともに、高温工学に関する先端的な基礎研究を進める。」とされ、試験研究炉の建設について明記された。これに基づいて、日本原子力研究所大洗研究所(現原子力機構大洗研究開発センター)においてHTTRの建設が開始された。
 また、それまで概ね5年ごとに改定されてきた原子力長期計画に代わり、平成17年に策定された「原子力政策大綱」においても「高温の熱源や経済性に優れた発電手段となり得る高温ガス炉とこれによる水素製造技術開発等については、今後とも技術概念や基盤技術の成熟度等を考慮しつつ長期的視野に立って必要な取組を決め、推進していくことが重要である。」とされている。
 その後、本年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においては、「水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉など、安全性の高度化に貢献する原子力技術の研究開発を国際協力の下で推進する。」とされ、同年6月に閣議決定された「「日本再興戦略」改定2014」及び「経済財政運営と改革の基本方針2014」においても、「高温ガス炉など安全性の高度化に貢献する技術開発の国際協力等を行う」と示されたところであり、改めて高温ガス炉の研究開発の推進が期待されているところである。

(原子力機構におけるHTTRを用いた研究開発、水素製造技術の研究開発等) 

 原子力機構では、1960年代の末(1969年(昭和44年))から多目的高温ガス実験炉の概念設計を開始し、民間企業と連携しつつ、HTTRの建設・利用を含め、様々な研究開発を実施し、成果を上げてきた。

○高温ガス炉固有の技術:

  • 燃料の研究開発においては、被覆燃料粒子の商用規模の製造技術を原子燃料工業株式会社と共同開発するとともに、HTTR建設前段階においても、HTTR環境を模擬した高温高圧炉内ガスループ試験等により、核分裂生成物(FP)の閉じ込め性能を把握し、照射後試験により、各種物性値を取得、また、被覆燃料粒子の破損機構を解明し、HTTR装荷燃料の製造につなげた。
  • 黒鉛材料の研究開発においては、高強度で耐放射線性に優れた等方性黒鉛(IG-110)を東洋炭素株式会社と共同で開発した。また、HTTR黒鉛構造設計方針及びHTTR黒鉛検査基準を作成するとともに、HTTR黒鉛構造物の供用期間中検査手法を開発した。
  • 金属材料・高温機器の研究開発においては、通常運転時約950℃の高温ヘリウム雰囲気中で使用可能な耐食・耐熱合金ハステロイXRを三菱マテリアル株式会社と共同で開発した。また、原子炉圧力容器用2.25Cr-1Mo鋼等のデータベースを確立し、高温ガス炉第1種機器の高温構造設計方針を作成した。さらに、中間熱交換器の要素技術試験を実施し、構造健全性を確認した。
  • 炉物理の研究開発においては、高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)を用いてHTTRの核設計計算手法の精度が設計誤差以内に収まることを確認した。また、日本の核データライブラリの最新版JENDL-4.0が、高温ガス炉の核設計計算への適用性に優れることを明らかにした。
  • 熱流動の研究開発においては、大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)を用いて、HTTRと同じ温度(950℃)、圧力(4MPa)で、炉心、炉内構造物、高温配管、ヘリウム循環機等の主要機器の実証試験を行い、設計性能を検証し、運転経験を蓄積した。
  • 事故時安全性の研究開発においては、炉心耐震試験、1次冷却設備内面への放射性物質沈着挙動の把握、配管破断時の放射性物質離脱挙動の把握、空気侵入事故模擬試験、黒鉛酸化試験等を実施し、HTTRの安全評価に必要なデータを蓄積した。
  • 使用済燃料・黒鉛廃棄物の研究開発においては、軽水炉の再処理工程へ接続するために必要な、高温ガス炉特有の前処理工程(解体工程、焙焼工程、破砕工程)の技術原理を確認した。
  • HTTRを用いた研究開発においては、平成元年2月にHTTR原子炉施設の設置に係る許可申請を行い、平成2年11月に許可を取得した。平成3年3月から建設を開始し、平成10年11月に初臨界を達成し、平成13年12月に定格熱出力30MWt、原子炉出口冷却材温度850℃を、平成16年4月に定格熱出力30MWt、原子炉出口冷却材温度950℃を達成した。さらに平成22年3月には50日間の950℃の高温連続運転を実施し、高温核熱を安定供給できることを示した。
  • 高温ガス炉の安全性を確証する試験として、平成14年からHTTRを用いて、反応度添加事象を模擬した制御棒引抜き模擬試験(原子炉熱出力9~24MWt)、冷却機能の低下を模擬した流量部分喪失試験(原子炉熱出力9~30MWt)及び冷却機能の喪失を模擬した炉心流量喪失試験(原子炉熱出力9MWt)を実施し、安全性の確証のためのデータを蓄積した。

○熱利用技術:

 原子力機構では、高温ガス炉の熱利用技術として水素製造技術、ヘリウムガスタービン発電技術、高温ガス炉と熱利用施設の接続技術の研究開発を実施してきた。

  • 水素製造技術の研究開発においては、ヨウ素(I)と硫黄(S)を利用し、約900℃の熱で水を熱分解し水素を製造する熱化学法ISプロセスによる安定した水素製造のため、プロセスを定常維持するための運転制御技術を開発した。
  • 平成16年には、ガラス製機器を用いた試験装置により、1週間にわたる毎時30リットルの連続水素製造に世界で初めて成功した。
  • また、運転制御に必要な強腐食性のブンゼン反応溶液の組成を計測する非接触型組成計測技術を開発した。
  • 工業材料製機器技術の研究開発においては、強腐食環境下で使用する機器材料の選定を行うとともに、安価で耐食性に優れたガラスライニング材の適用性について、耐食性及び耐熱性データを取得した。また、フッ素樹脂被覆炭素鋼製のブンゼン反応器を製作し、熱サイクルに対する耐食被覆の健全性等の機器信頼性を検証した。さらに、炭化ケイ素(SiC)製の硫酸分解器、ニッケル基合金製のヨウ化水素分解器の製作を完了した。
  • これまで開発してきた運転制御、工業材料製機器等の技術を統合して、平成26年3月に連続水素製造試験装置の製作を完了した。
  • ヘリウムガスタービン発電技術の研究開発においては、世界最高の圧縮機効率を有するタービン圧縮機、一般産業用熱交換器に比べ約10倍の熱交換密度を有する再生熱交換器用のコンパクト熱交換器を三菱重工業株式会社と共同で開発した。
  • 接続技術の研究開発においては、異常時に原子炉と熱利用施設を隔離するための高温隔離弁の要素技術開発を行い、開発した弁座盛金材(ステライト複合材)を対象にモデル試験を実施し、弁座からのヘリウム漏えい量が目標値の1/10以下であることを確認した。

(3)国外の高温ガス炉の開発を取り巻く現状と動向

(高温ガス炉を巡るこれまでの国際動向)

 欧米においては、各国に先駆け、1960年代から本格的に高温ガス炉技術の研究開発が行われ、実験炉、原型炉が建設されてきたが、技術的、政治的な理由から運転を停止している。以下に欧米における主な運転終了事例及びそれらを受けての原子力機構としての取組について記載する。

○英国(経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)):
丸1 ドラゴン炉(実験炉、クラスター型燃料、出力20MWt)
ドラゴン炉は、1964年に初臨界となり、1966年に全出力運転を達成した。本炉は、燃料及び黒鉛の開発と健全性実証のための照射試験を広範囲に行うとともに、高温ガス炉の運転保守に関する経験を積み重ねて、十分な照射データを蓄積し、目的を達成したことにより、1976年に運転を終了した。
○米国:
丸1 ピーチボトム炉(発電用実験炉、棒状燃料、出力115MWt/40MWe)
米国初の高温ガス炉実験炉であるピーチボトム炉は、1966年に初臨界、1967年に全出力運転を達成し、その後も高い稼働率で順調な運転実績を残し、1974年に運転を終了した。
丸2 フォートセントブレイン炉(原型炉、ブロック型燃料、出力842MWt/330MWe)
フォートセントブレイン炉は、世界で最初の高温ガス炉の原型炉として建設され、1974年に初臨界となった。本炉は、ガス循環機冷却水の炉内への侵入等の影響や、1981年の全出力運転達成後の稼働率が上がらなかったこと等、技術的課題、財政的課題から、1989年に運転を終了した。
○ドイツ:
丸1 AVR(実験炉、ペブルベッド型燃料、出力46MWt/15MWe)
AVRは、1966年に初臨界となり、1967年に炉内温度850℃の全出力運転を達成し、高い稼働率で発電用実験炉として順調に運転され、1974年には炉内温度を950℃まで上げることに成功した。1978年に蒸気発生器からの水漏れのため一時停止したが翌年に再稼働し、1988年に運転を終了した。
丸2 THTR-300(原型炉、ペブルベッド型燃料、出力750MWt/300MWe)
THTR-300は、1983年に初臨界となり、1986年に全出力運転を達成した。稼働率は50~60%で高温ガス炉の原型炉としての目的を果たしたが、1988年に高温ダクト内の断熱板のボルトの頭が破損したトラブルをきっかけとして、同時期の原子力からの撤退という政治的理由及び財政的理由から1989年に運転を終了した。

 なお、上記の欧米諸国における先行事例を踏まえ、我が国では発電用蒸気タービンではなく、ガスタービンの採用に向けた研究開発を進めるとともに、HTTRにおいては水侵入に対する設計対策等を検討するとともに、金属断熱板にボルトを使用せず、熱膨張を拘束しないで自重を支える構造を採用する等、先行事例で生じた技術的な課題を克服できる設計対策と研究開発を実施している。

(高温ガス炉を巡る現在の国際動向)

 上記の通り、1960年代から欧米が先行して研究開発を進めてきているが、現在は、アジア諸国をはじめとして、各国に高温ガス炉技術の研究開発が広がっている。
 米国ではエネルギー省を中心に、産業界と連携し、水素製造も視野にいれた「次世代原子力プラント計画」において高温ガス炉技術の研究開発を実施している。欧州では独自の研究開発は停滞しているものの、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)や国際原子力機関(IAEA)等の国際枠組みを活用した国際共同研究を続けている。
 また、中国等の新興国も高温ガス炉技術の研究開発に積極的に取り組んでいる。特に、中国においてはドイツから技術を譲り受け、1990年代以降急速に研究開発を加速させており、2006年には、国(中国科学技術部)が国家重大特別プロジェクトの一つに高温ガス炉を指定し、大学や国有企業を中心として、研究炉から商用炉まで幅広い研究開発を実施・計画している。
 また、インドネシアにおいては、離島における発電、熱利用の観点から、2020年代の試験・実証炉の運転開始、2031年の商用利用を目標に、研究開発を推進する方針であり、我が国や中国等と研究開発に関する連携を締結している。
 そのほか、韓国においては民間と連携し、950℃の熱利用を見込んだシステムの実証計画、カザフスタンにおいては、将来的な熱利用も含めた商用利用計画等、高温ガス炉に関する計画を有しており、世界各国における高温ガス炉への関心は高いと言える。

3.HTTRを中心とした今後の具体的な研究開発の進め方について

(1)高温ガス炉技術の研究開発における基本的考え方

 高温ガス炉技術の研究開発については、原子力機構の有するHTTRを中心に、燃料、材料等の原子炉技術及び安全性向上に関する研究開発や、水素製造、ガスタービン発電等の熱利用技術、原子炉と熱利用施設の接続に関する要素技術等に関する研究開発を実施してきており、これらの研究開発において着実に成果を挙げている。今後、高温ガス炉技術の研究開発の方向性を示し、それに向けた研究開発の在り方を整理し、取組を着実に進めることが必要である。
 本項及び次項においては、今後10年を目処とした原子力機構を中心とした具体的な研究開発の課題についてまとめる。なお、その際には、水素社会の構築や国際社会のニーズを踏まえつつ、高温ガス炉の将来的な実用化像を描きつつ、それらを目指した研究開発を実施する必要である。そのため、高温ガス炉の将来展望の考え方を示しつつ、その上で原子力機構を中心にHTTRを用いた研究開発の具体的な課題について丸1 高温ガス炉の固有の技術、丸2 熱利用技術、丸3 高温ガス炉の安全性向上の3分野における研究開発に関して提案する。
 なお、今後の研究開発を進めていくに当たっては、本項及び次項で整理される研究開発を着実に進めるとともに、実用化の可能性を検討・判断するための評価を経つつ、次の段階に移行していくことが必要であり、それには、最終ユーザも含めた更なる検討が必要である。特に、中長期的な課題として、具体的なユーザを想定したスペック目標を設定したうえで実用化の概念検討を実施し、それらに必要な技術と現状技術とのギャップを明らかにしていく必要がある。中長期的な取組については、5.で整理することとする。
 今後の高温ガス炉の研究開発及びその方向性の議論には、HTTRをはじめ、その他の研究施設の再稼働及びそれらから得られる研究成果等が必要不可欠であり、原子力機構においては、まず、新規制基準への対応と運転再開に向けて取り組む必要がある。

(高温ガス炉の将来展望の考え方)

 高温ガス炉は、前章で述べたとおり、炉心燃料の除熱特性に関して優れた固有の安全性を有しており、また、高温熱利用が期待されることなどから、将来の原子力利用の一つとして期待される技術であるとともに、我が国の優れた技術をもとに積極的な国際展開が期待される技術である。
 高温ガス炉の利用については、発電用原子炉としての利用、高温熱源用原子炉としての利用及びこれら二つの利用法を併せ持つタイプの利用が考えられる。また、大きくは国内での利用と海外への展開という2つの方向性がある。これらの将来像についての検討に当たっては、国内における原子力政策の動向や原子力に対する国民の理解、水素社会実現に向けた政府方針や研究開発の進捗状況、また、海外における高温ガス炉技術の需要等も考慮しながら選択していく必要がある。
 なお、原子力機構が評価したところでは、その固有の安全性を維持できる原子炉サイズは、現時点においては、約60万kWt(約30万kWe)と見込まれており、小型の原子炉が適正である。また、小型であるという特性から、離島等での分散電源や、工業地帯に隣接した熱源とできる等の利用が見込まれる。
 さらに、エネルギー資源に乏しい我が国においては、資源の有効利用等の観点から、核燃料サイクルの推進を基本としており、国内において、将来高温ガス炉を実用化していく場合においては、こうした政策との整合性にも留意が必要である。
 高温ガス炉の利用については、水素製造を含む多様な熱利用が可能な950℃(出口冷却材温度)、発電用ヘリウムガスタービンの活用が可能な850℃、発電用蒸気タービンの活用が可能な750℃等、出口冷却材温度に応じて異なる熱の活用方法が存在することが議論された。出口冷却材温度が750℃で蒸気タービンを用いた発電用高温ガス炉システムについては、技術的には既存の技術での応用が可能であるとの意見など様々な議論があったが、本作業部会が科学技術を担う文部科学省の諮問会議の下に設置された委員会であることも踏まえ、本作業部会としては、850℃でのシステムに係る研究開発課題も包含する意味でも、主に水素製造を含む多様な熱利用が可能な出口冷却材温度950℃の高温ガス炉システム、かつ、蒸気タービンよりも安全性、経済性、熱効率の向上が期待されるガスタービンシステムの熱電併産高温ガス炉システムの構築を当面の将来像として、今後、原子力機構がHTTRを用いて行う研究開発の方向についてまとめることとする。
 また、これらの研究開発については、必要な評価を行いつつ、長期的な構想をもとに進めることを期待する。なお、長期的な目標設定においては、技術的なシーズプッシュの観点のみならず、水素社会の構築や、諸外国等における高温ガス炉導入のニーズ等も踏まえたニーズプルの観点も必要である。
 なお、今後、研究開発の進捗状況や国内外の状況の変化等に応じて、高温ガス炉技術の研究開発の方向性について見直していくことが必要である。

(2)当面の具体的な研究開発課題

(2-1)高温ガス炉の固有の技術に関する研究開発 

 (1)に示した基本的考え方に基づき、高温ガス炉技術の高度化に向けて、今後、高出力化及び長期間運転の実現のために実施すべき研究開発課題のうち燃料、黒鉛、金属・高温機器、炉工学について具体的な内容を以下に示す。

丸1 燃料に関する研究開発
・高燃焼度化(160GWd/t)燃料の開発、高出力密度化のための除熱性能向上燃料要素の開発を実施。経済性、安全性の観点から高温ガス炉の燃料設計方針の原案を検討。
燃料被覆破損機構の研究
【目的】
燃料設計方針の策定に向けた破損機構の解明
【方法】
原子力機構が有する材料試験炉(以下「JMTR」という。)による照射試験及び照射後試験により、破損率の燃焼度依存性を調べ、高燃焼度下で支配的な内部ガス圧力上昇による破損機構(内圧破損)を定式化
【今後の取組】
JMTR照射試験(燃焼度160GWd/t)及び照射後試験を実施
 
高温ガス炉燃料の高燃焼度化
【目的】
出口冷却材温度950℃高温ガス炉用燃料の高燃焼度化
【方法】
HTTR技術に基づき製造した高温ガス炉燃料試料の高燃焼度(最大160GWd/t)照射試験を実施
【今後の取組】
燃焼度160GWd/tまでの照射健全性をJMTR照射試験により検証
 
除熱性能向上燃料要素開発
【目的】
炉心の出力密度を2.5MW/m3から6MW/m3に高め、4年間の燃焼期間を達成するため、除熱性能を向上させ、燃料量を増加した燃料要素を開発
【方法】
従来のHTTR燃料から黒鉛スリーブをなくした、スリーブレス一体型燃料の検討。また、燃料要素内の被覆燃料粒子の充填率の向上。これらスリーブレス一体型燃料及び高充填率燃料の照射特性の把握
【今後の取組】
スリーブレス一体型燃料及び高充填率燃料の製造技術開発を実施。スリーブレス一体型燃料及び高充填率燃料の照射特性を燃焼度160GWd/tまでの照射試験により把握

丸2 黒鉛に関する研究開発
・出口冷却材温度950℃高温ガス炉条件で照射された黒鉛特性データにより黒鉛の設計曲線を検証するとともに、黒鉛構造物の健全性を確認。
出口冷却材温度950℃高温ガス炉条件での黒鉛特性評価
【目的】
出口冷却材温度950℃高温ガス炉の照射条件(照射温度、照射量)における黒鉛特性を取得し、黒鉛の設計曲線を検証・高精度化
【方法】
JMTR等の照射炉を用いた照射試験及び照射後試験を実施。取得したデータを用いて既存の照射データの内外挿により作成された黒鉛の設計曲線の検証・高精度化
【今後の取組】
出口冷却材温度950℃高温ガス炉の照射条件における照射試験を実施
 
HTTR黒鉛構造物の健全性確認
【目的】
HTTR炉心支持黒鉛構造物の経年劣化データの取得及び健全性の確認。供用期間中検査技術の検証
【方法】
HTTR炉心支持黒鉛構造物の供用期間中検査及びサーベイランス試験を実施。酸化量、強度変化等を調べ、健全性を確認
【今後の取組】
HTTRの燃料交換時に供用期間中検査とサーベイランス試験片を用いた強度試験等を実施

丸3 金属・高温機器に関する研究開発
・HTTR試験において、中間熱交換器の性能確認を実施するとともに、ハステロイXRのサーベイランス試験を実施
ハステロイXRの開発
【目的】
ハステロイXR製の伝熱管を持つ中間熱交換器の性能確認及びハステロイXRの経年劣化の評価、設計寿命の妥当性確認
【方法】
HTTR試験における定常運転データから、中間熱交換器の伝熱性能等の経年変化を確認
ハステロイXRのサーベイランス試験片を取り出し、クリープ試験、表面観察(酸化被膜の形成状態確認)等を実施
【今後の取組】
定常運転時の中間熱交換器の熱交換性能の経年変化データ取得ハステロイXRのサーベイランス試験片の取り出しと試験の実施

丸4 炉工学に関する研究開発
・高温ガス炉の設計のために開発した核設計計算手法について、燃料の燃焼を考慮した過剰反応度の計算精度の向上
核設計計算手法の精度評価
【目的】
核設計計算手法の精度評価及び妥当性の検証
【方法】
燃焼に伴う過剰反応度の変化を表す制御棒位置について、測定値と計算値を比較
【今後の取組】
運転中の制御棒位置を燃焼末期まで測定し、測定値と計算結果を比較 


(2-2)熱利用技術に関する研究開発 

 (1)に示した基本的考え方に基づき、多様な熱利用尾の実現に向けて、水素製造技術、ガスタービン発電技術及び高温ガス炉との接続技術について具体的な内容を以下に示す。

丸1 水素製造技術に関する研究
・熱化学法ISプロセスについて、耐食性を有する工業材料製の連続水素製造試験装置による運転制御技術・信頼性確証、セラミックス製機器の高圧運転に必要なセラミックス構造体の設計方針の作成、経済性向上を狙いとする機器小型化要素技術開発を行い、安全な連続運転のための基盤技術を確立。
HI濃縮技術
【目的】
HIの濃縮によるHI分解時の消費エネルギーの低減
【方法】
HI濃縮時の温度(約100℃)に耐え、かつ、濃縮エネルギーが少ない分離膜(陽イオン交換膜)の開発
【今後の取組】
分離膜の改良及び大型膜の製膜技術を確立
 
連続水素製造試験
【目的】
ISプロセスの耐食機器技術、連続運転技術の信頼性の検証
【方法】
工業材料製の連続水素製造試験装置を用いて、プラント全系の耐食機器の信頼性確証、ISプロセスの起動・停止、緊急時の対応を含めた運転制御方法、長時間運転の安定性確証などの運転技術の検証
【今後の取組】
ブンゼン反応工程、硫酸分解反応工程及びHI分解反応工程の機能試験の実施。例遺族水素製造試験の実施
 
セラミックスの設計方針
【目的】
硫酸分解器に用いるセラミックス製機器の高圧運転に必要なセラミックス構造体の設計方針の作成
【方法】
基準構造体の材料特性と既存の脆性破壊統計理論を用いた大型構造体の下限強度決定法の作成。また、大型構造体の強度評価試験による下限強度決定法の妥当性の確証及びセラミックス設計方針の作成
【今後の取組】
基準構造体の強度データの取得。大型構造体の強度評価試験の実施

機器小型化要素技術:硫酸分解器
【目的】
必要な処理量を得るための硫酸分解器サイズの小型化による経済性向上
【方法】
耐熱性SiC多孔質体を用いた薄層カートリッジ触媒層における熱伝導率の向上及び触媒層の薄層化による反応器の小型化
【今後の取組】
薄層カートリッジ触媒の試作。機器試作及び実環境を模擬した試験の実施
 
機器小型化要素技術:ブンゼン反応器
【目的】
必要な処理量を得るための反応器サイズの小型化による経済性向上
【方法】
ブンゼン反応における反応生成物である硫酸とHIを陽イオン交換膜で隔てることで過剰なヨウ素量を低減
【今後の取組】
膜反応器の作動に必要な陽イオン交換膜・電極の開発。膜反応器試験により設計に必要な特性データの取得
 
機器小型化要素技術:HI分解器
【目的】
必要な処理量を得るための反応器サイズの小型化
【方法】
水素を選択的に分離する膜を用いた膜反応器によりHI分解反応の平衡転化率を向上させ、HI分解工程において大量に循環している未反応HIを削減して機器を小型化
【今後の取組】
耐食性を有する水素分離膜の開発。使用温度の低温化による機器腐食の緩和実現のため、低温でも高活性を維持できる触媒を開発。膜反応器試験により設計に必要な特性データを取得

丸2 発電技術に関する研究開発
・ヘリウムガスタービン発電について、軸シール、核分裂生成物(FP)沈着低減に関わるヨウ素技術開発の実施
軸シール技術
【目的】
ヘリウムガスタービン軸からのヘリウムガス漏洩を抑制するための軸シール技術を開発
【方法】
多段メカシールとシールガス圧力制御を併用した軸シールシステムにシールガス回収システムを組合せ、ヘリウムガス漏洩を抑制
【今後の取組】
HTTRを用いたヘリウムガスタービン発電技術の総合性能試験を実施して、シール性能を確証。ドライガス軸シールシステムの大型化

核分裂生成物(FP)沈着低減技術
【目的】
一般産業ガスタービンのメインテナンス方法の適用を可能とするため、ガスタービン翼へのFP沈着量を低減
【方法】
FPの拡散浸透の少ない材料の開発等により低FP沈着ガスタービン翼を開発
【今後の取組】
安定同位体を用いた拡散試験等により、粒界構造及び合金元素と安定同位体の拡散の相関に関するデータを蓄積し、翼材料の粒界構造と合金元素を最適化。また、最適化した翼材料を対象に実環境模擬試験を実施し、FP沈着低減効果を検証

丸3 高温ガス炉との接続技術に関する研究開発
・高温ガス炉と熱利用施設を接続するための技術について、要素技術開発等を行う
ヘリウムガスタービン接続試験
【目的】
ヘリウムガスタービン発電技術の検証
【方法】
HTTRを用いたヘリウムガスタービン発電技術の総合性能試験に向けた要素技術開発等を実施
【今後の取組】
システムの設計、安全評価及び性能評価

水素製造接続試験
【目的】
ISプロセス水素製造技術の確証
【方法】
HTTRを用いたISプロセス水素製造技術の総合性能試験に向けた要素技術開発・連続運転制御技術開発等を実施
【今後の取組】
システムの設計、安全評価及び性能評価

(2-3)高温ガス炉の安全性の向上を目指した技術開発

 (1)に示した基本的考え方に基づき、高温ガス炉の高度化に向けて今後原子力機構を中心に実施すべき研究開発課題のうち、安全性、廃棄物低減に関する課題について具体的な内容を以下に示す。
 なお、今後、実用炉の検討に当たっては、以下に挙げている研究開発のみならず、5.に示すように、原子力プラントの総合的な安全評価として、実用炉の設計段階において外部事象及び内部事象の確率論的安全評価(PSA)を実施し、当該設計の技術的成立性の検証や研究開発課題を抽出していく必要がある。特に、多重事故を含めた事故シナリオを網羅的に評価していく必要がある。

丸1 耐震等を含めた総合的な事故時安全性に関する研究開発
・固有の安全性を有する高温ガス炉の事故時安全性を確証するため、HTTRを用いて炉心流量喪失試験、炉心冷却喪失試験等を実施。
炉心流量喪失試験
【目的】
炉心の冷却機能が喪失した際の高温ガス炉の挙動を明らかにし、固有の安全性を検証。
【方法】
HTTRの出力運転からの原子炉冷却機能喪失状態における原子炉のスクラム操作(制御棒挿入操作)がない状況での炉特性に関するデータを取得
【今後の取組】
原子炉出力100%での試験を実施
 
炉心冷却喪失試験
【目的】
炉心及び炉容器冷却流量が喪失した際の高温ガス炉の挙動を明らかにし、固有の安全性を検証
【方法】
炉心流量の喪失とともに炉容器外面から炉心を冷却する炉容器冷却系の水流量をゼロとし、制御棒挿入操作がない状況での炉特性に関するデータを取得
【今後の取組】
原子炉出力30%での試験を実施

丸2 使用済燃料、黒鉛廃棄物に関する研究開発
・高温ガス炉の使用済燃料の処理処分について、既存のPUREX法に適合するための再処理技術を開発
・高温ガス炉燃料の再処理に際して発生する黒鉛廃棄物の処理処分方法の検討
使用済燃料の処理処分
【目的】
高温ガス炉燃料の処理処分方法の検証
【方法】
これまで実施してきた研究開発をベースとして、HTTR使用済燃料を用いた前処理試験を行い、高温ガス炉使用済燃料の再処理技術を検証
【今後の取組】
HTTR使用済燃料を用いた前処理工程の確証試験

黒鉛廃棄物の評価
【目的】
高温ガス炉黒鉛廃棄物中のC-14量の定量的評価
【方法】
C-14(半減期約5730年)の主な生成源である窒素に着目し、黒鉛に含まれる窒素量からC-14量を定量的に予測
【今後の取組】
黒鉛中の窒素量の測定。また、HTTRの燃料交換時に炉心から取り出したサーベランス試験片中に含まれるC-14の放射能量を測定

丸3 熱利用施設接続における安全確保に関する研究開発
・HTTR試験データ等を活用して、高温ガス炉と水素製造施設との接続に関する安全基準の検討
核熱供給試験
【目的】
熱利用施設での異常に対して、代替除熱の確保等により原子炉の運転継続が可能であることの検証
【方法】
熱利用施設の異常を模擬するため原子炉入口温度に外乱を与え、HTTRの原子炉状態量に関するデータを取得し、解析コードを用いて原子炉の運転継続について評価
【今後の取組】
HTTRを用いた核熱供給試験の実施。解析コードの検証。HTTR接続試験における熱利用施設異常時の安全評価

熱利用系事故模擬試験
【目的】
熱利用施設の異常に原子炉施設の故障が重なった場合の原子炉の安全性を検証
【方法】
熱利用施設の異常を模擬するために2次系圧力を減少させ、HTTRの原子炉状態量に関するデータを取得し、解析コードを用いて原子炉の安全性を評価
【今後の取組】
HTTRを用いた熱利用系事故模擬試験の実施。解析コードの検証。HTTR接続試験における熱利用施設異常時の安全評価

丸4 安全基準の整備
・HTTRを用いた被覆燃料粒子の核分裂生成物(FP)の閉じ込め性能に関するデータの取得
閉じ込め性能の検証実験
【目的】
HTTRの運転を通じて、被覆燃料粒子の核分裂生成物(FP)閉じ込め性能を検証
【方法】
HTTRの運転中のヘリウム中の放射性物質濃度を測定
【今後の取組】
HTTRの設計燃焼度22GWd/tに至るまでの燃焼注記~末期のデータ取得により、被覆燃料粒子のFP閉じ込め性能を検証

放射性ヨウ素の定量的評価
【目的】
HTTRを用いて、高温ガス炉の1次冷却設備内面に沈着しているヨウ素量を明らかにし、高温ガス炉における事故時の放射性物質放出量を検証するとともに、事故時における被ばく評価手法を高精度化
【方法】
燃料からの放出及び1次冷却設備内面への沈着に関する挙動把握が困難なヨウ素の定量評価を実施
【今後の取組】
炉心流量部分喪失試験及び炉心流量喪失試験におけるヘリウム中の放射性物資濃度の測定

放出放射性物質量試験
【目的】
HTTRを用いて、被覆燃料粒子から反跳・拡散によって放出される放射性物質量を明らかにし、高温ガス炉における事故時の放射性物質放出量を検証するとともに、事故時における被ばく評価手法を高精度化
【方法】
HTTRにおいて、1次系冷却系に放出される放射性物質について、核分裂による反跳放出の寄与と拡散放出の寄与を分離して測定
【今後の取組】
 HTTR試験におけるヘリウム中の放射性物質濃度の測定

(3)民間とともに中長期的に取り組むべき研究開発課題

 実用化にむけた高温ガス炉技術の研究開発を進めるに当たっては、当面の原子力機構を中心とした技術的な観点からの研究開発のみならず、原子力機構の研究開発と同時並行、またはそれらを踏まえて、実用化を見据え、安全性、経済性の追求等の観点から、民間等において取り組むべき研究開発が必要となる。以下の具体的な例の他に、今後、5.で提案するアライアンスの例において、原子力機構を中心とした研究開発成果を見極めつつ、より具体的な課題を抽出し、産学官が連携した枠組みの中で、研究開発を進めていくことが必要である。特に産業界については、産業界の自主的な参画意志に基づき、現在原子力機構と連携して研究開発を行っている機器開発・製造を担うメーカを中心に連携を進め、製鉄会社、自動車会社、化学プラントや電力会社等の最終ユーザの意見を求めることも重要である。

(高温ガス炉技術の規格基準の策定に向けた取組)

 高温ガス炉は現在すでに実用化されている軽水炉とは異なるシステムを持つため、実用化を目指すに当たっては、商用炉としての安全基準や燃料、材料(黒鉛、金属)の規格基準等について、新たに整備していく必要がある。
 その際には、前項での取組に加え、実用化を目指した基準の策定に向けて、HTTRを用いた安全性の確証試験や、GIF及びIAEAの枠組みを利用した国際標準化への取組、また、原子力規制委員会による安全基準に関する評価を受けることが必要となる。さらに、黒鉛材料、金属材料の規格基準においては、現在HTTRで用いられている技術をもとに、日本機械学会の設計・建設規格等の民間規格に取り組むことが必要である。このため、これらのために必要となる安全性実証研究等が必要である。
 また、原子炉に熱利用施設を接続する際の安全基準についても、日本原子力学会研究専門委員会における原案作成及びIAEA等における国際標準化への取組が必要である。

(民間とともに取り組むべき研究開発)

 原子力機構を中心に実施する要素技術の研究開発の他に、将来の実用化に当たっては、ヘリウムガスタービンの大型化・高温化技術開発及びメインテナンス技術の実証や、接続技術に関する検討等が必要となってくる。
 また、高温ガス炉の使用済み燃料の処分については、処理施設の検討も含め、必要なフィージビリティスタディの確認や前処理施設を含む再処理施設の全体像についての検討が必要である。

4.国際協力・展開の在り方

 現在、国際社会において特に中国等の新興国を中心に、安全性が高く、発電のみならず多様な熱利用が可能である高温ガス炉についての研究開発が急速に進んでおり、商用炉としての活用に向けた期待も高まっている。
 我が国は高温ガス炉技術の研究開発について、民間も含めて国際的に極めて優れた技術を蓄積している。また、原子力機構が保有するHTTRは世界に実在する数少ない高温ガス炉の試験研究炉であり、国際的な枠組みを通じて、HTTRを用いた国際共同研究等も数多く行われている。
 原子力の安全性についての各国の関心が高まる中、高温ガス炉の安全性の実証に向けた我が国の取組についての期待も大きい。東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が国は、高温ガス炉の国際協力・展開の検討に当たり、我が国が主体的に研究開発を推進することを大前提としつつ、高温ガス炉の研究開発で蓄えた知見・技術を用いた高温ガス炉の安全性に関する国際基準策定等を通じて、原子力の安全性向上に向けて世界的な貢献をしていくことが重要である。
 また、新興国において商用炉としての高温ガス炉の活用が期待される中で、安全性に関する我が国の技術を国際基準化により、将来的な我が国の高温ガス炉技術の国際展開も見込まれる。
 これらの国際協力においては、将来的な原子力プラント輸出も視野に入れ、ハードインフラの整備のみならず、法基盤や規格・基準の整備、人材育成等のソフトインフラの整備も必要である。また、これらの取組に当たっては、産学官が連携した取組が必要不可欠である。
 本章では、高温ガス炉を用いた国際協力の基本的考え方を示すとともに、具体的な国際協力の在り方について提案する。

(1)国際協力の基本亭考え方

 高温ガス炉の国際協力については、丸1 特に安全性について国際貢献に資すること、丸2 国内単独で実施するよりも更なる知見の共有や費用分担によるコスト削減等が見込まれること、丸3 我が国の設計・技術等の国際標準化に資すること、丸4 我が国の技術の将来的な国際展開が見込まれること等の観点で検討を行うことが必要である。また、特に将来の我が国の技術の国際展開を目指し、産学官が連携した取組が必要である。

(2)具多的な国際協力の在り方

(安全基準分野における我が国主導の国際標準の確立に向けた取組(IAEAの枠組みを活用した我が国の技術の国際標準化))

  • 国際的な原子力の国際標準の確立にあたっては、IAEAにおける検討及び各国との共同研究による標準となる仕組みの検証が必要である。
  • 原子力機構においては、これまでにIAEAに設置されている、ガス炉に関連する活動方針を審議する最高機関である「ガス冷却炉技術ワーキンググループ(TWGGCR)」に対し、複数の高温ガス炉に関する「協力研究計画(CRP)」を提案し、HTTRを用いた研究開発により、それらの取組の中心的な役割を担ってきている。
  • IAEAの取組は、これまで高温ガス炉の実証を行ってきた欧米諸国を始め、中国、インドネシア等の高温ガス炉の商用炉の導入を検討する国も参加しており、また、カザフスタン等についても今後の参加が見込まれている。
  • これらの高温ガス炉の商用炉の導入を検討している国が参加しているIAEAの場において、協力研究計画の活動を通して、我が国が提案する高温ガス炉の安全基準について、各国のコンセンサスを取得し、我が国の技術による安全基準を国際標準とすることは重要である。そのため、原子力機構は我が国の安全性に関する技術の国際標準化に向けて、必要なCRPの提案及びHTTRを用いた国際共同研究をリードしていくことが必要である。
  • なお、IAEAにおける国際標準の安全基準の検討については、2013年3月にTWGGCRにおいて、高温ガス炉の安全基準に関するCRPの新設に関する協議が開始され、2014年内に開始予定である。本CRPの活動を通して、HTTRの試験データに基づく我が国の技術による安全基準の国際標準化に向けた取組を行うことは重要である。
  • また、上記活動については、後述するGIFの枠組みも併せて活用し、高温ガス炉研究開発を進める国の間でのコンセンサスを得ていくことが重要である。

(二国間取組の強化)

 二国間の取組については、高温ガス炉について先行的に研究開発に取り組み、原型炉の運転経験等を持つ米国等との連携や、今後高温ガス炉の商用炉の導入を目指す中国、インドネシア等の新規導入国等との将来的な我が国の技術の国際展開を踏まえた協力等、相手国に応じた連携が必要である。

  • 米国との協力については、米国エネルギー省(DOE)が所有する高温試験研究装置(HTTF)及びHTTRの試験データを活用した高温ガス炉技術の高度化を目指した協力を推進する。また、産業界と連携し我が国の技術の国際展開を図る。インドネシアとの協力については、原子力機構と「インドネシア原子力庁(BATAN)」との協力取り決めが締結されたことを受け、HTTRを用いた研究協力、人材育成等を進めることにより、我が国の技術の国際展開を図る。
  • そのほかの国(カザフスタン、中国、韓国等)についても、相手国の技術力や国際情勢を踏まえた対応が必要である。

(他国刊の取組による研究開発の推進)

 国際機関等を通じた多国間の取組は、様々な観点から重要であり、今後ともHTTRを用いた国際共同研究等を実施し、我が国が多国間の取組をリードしていくことが必要である。

丸1 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)

 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の原子力施設安全委員会においては、すでに、前章に掲げている取組の一つである炉心流量喪失試験等において、HTTRを活用した共同研究が進行している。HTTRを活用した安全性に関する国際共同研究については、前述の国際標準化にもつながる取組であり、HTTRを用いた国際共同研究を引き続き実施することが重要である。

丸2 第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)

 第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)は、米国原子力エネルギー研究諮問委員会を中心とした国際会議であり、2002年に超高温ガス炉(VHTR)を含む次世代原子炉である6つの第4世代原子力システムを選定した。現在、GIFにおいては、VHTRの実用化を目指し、国際協力により高温ガス炉技術開発を効率的に促進することを目的として、燃料・燃料サイクル、水素製造及び材料の各プロジェクトの活動を実施し、各国が分担してデータを取得している。
 現在、我が国においては、具体的には、以下のプロジェクトを主導しており、今後もGIFを通じた国際共同研究の推進により、データの共有と我が国の高温ガス炉技術の国際標準化を目指していく。

  • 燃料・燃料サイクルプロジェクト
    燃料・燃料サイクルプロジェクトでは、VHTR用燃料の重要研究課題である照射試験・照射後試験、燃料挙動モデルのベンチマーク、安全性試験等を、国際協力により実施する。
  • 水素製造プロジェクト
    水素製造プロジェクトでは、原子力機構は国際協力により高温ガス炉による水素製造技術開発を効率的に促進する観点から、ISプロセスにおいて触媒等を分担して開発し、データベースを構築してきており、今後もデータベースの整備・拡充等、ISプロセス研究に関する情報収集に努める。
  • 材料プロジェクト
    材料プロジェクトでは、原子力機構は第4世代原子力システム材料ハンドブックのデータベース作成や技術会合で得られた情報を活用し、実用高温ガス炉に活用できる材料の設計用データベースを構築する。

 

5.今後の進め方について(将来を見据えた推進体制・仕組み等)

 高温ガス炉技術の将来を見据えた取組を進めるに当たっては、3.で整理した原子力機構を中心とした技術的な観点からの研究開発のみならず、将来的には、最終的なユーザである産業界等の意見も十分に与することが重要である。
 また、高温ガス炉は、設計が比較的簡易であり、従来の技術的可能性を検証する実験炉、経済的可能性を検証する実証炉の通常のステップではなく、HTTRにおける技術的な研究開発の後は、リードプラントにおいて、実用炉を目指した安全性や経済性等の実証の検討に移行することが可能である。高温ガス炉の将来的な実用化には、リードプラントの設計・構築に向けた取組、また、リードプラントを用いた技術的、経済的課題の実証等が必要である。これらの将来的な課題に取り組むべく、長期的な視点の下、産学官が連携した体制・仕組みの構築が必要である。
 なお、これらの取組については、まず、HTTRを用いた安全性の確証等を着実に実施し、その後、必要なフィージビリティスタディ等を経て、研究開発の進捗や新たな成果を評価しつつ、経済性等も踏まえて実用化の具体像をより明確化し、それに向けた研究開発課題の整理や、改めて研究開発の方向性を整理することが必要である。
 本章では、今後期待される体制・仕組みの構築や、今後の進め方、評価の在り方について提案する。
 また、現在、高温ガス炉は研究開発段階にあるものの、研究開発段階から、高温ガス炉の将来の実用化に向けた技術的、社会的課題について整理し、これらの課題に対する産学官の役割分担や優先順位等について、検討を行うことが重要であり、特に、東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、原子力政策に対する国民の意見が厳しさを増す中で、高温ガス炉についての安全性に関する評価体制の構築及び対外的な説明方針の明確化を図ることが必要である。

(1)将来を見据えた高温ガス炉研究開発を支える体制の在り方

(産学官の役割分担及び連携の在り方について)

  • これまでの高温ガス炉技術の研究開発は、原子力機構が中心的な役割を果たしつつ、民間企業と協力しながら進めてきた。将来の高温ガス炉の実用化及び技術の国際展開までを見据えた取組を行うに当たっては、原子力機構のみならず、これまで以上に産学官が連携した取組が必要である。
  • 海外に目を向けると、米国、韓国等では、すでに高温ガス炉の開発に向けて産業界のアライアンスが構築され、特に米国では、産業界も費用を負担しつつ、研究開発等が進められつつある。
  • 我が国においても、将来の高温ガス炉の実用化を検討・判断していくに当たっては、産業界を含めたアライアンスの構築等、研究開発段階から産学官が連携し緊密に意見交換できる体制を構築し、高温ガス炉の可能性や実用化像、そのための研究開発課題等について議論していくことが必要である。
  • アライアンスの参画機関については、原子力機構をはじめとして、多くの産業界、アカデミアが参画する仕組みとすることが望ましい。特に産業界においては、今まで原子力機構と連携して高温ガス炉技術の研究開発に取り組んできた関連企業のみならず、最終ユーザとしての製鉄会社や自動車会社、化学プラント、電力会社等の意見を踏まえることが必要である。アカデミアにおいては、将来的な人材育成の観点や、技術的な貢献の観点から高温ガス炉についての研究開発に取り組む大学等の参画が期待される。
  • また、国においては、アライアンス参画機関との意見交換等を通じて、高温ガス炉の実用化までのビジョンを示していくことが必要である。
  • アライアンスの具体的な機能については、将来の実用化像の具体的検討・提案をはじめ、実用化像に向けてのリードプラントの設計概念構築、基盤技術の確立等の取組や、国際展開の在り方等について、国の政策等に提言をするとともに、必要となる研究開発の分担や評価の在り方等について検討・提案していくことを期待したい。また、海外の技術開発動向の共有等に加え、人材育成等のソフト的な機能も期待される。なお、これらの取組においては、最終ユーザの意見を踏まえつつ国が主導しつつ進める必要がある。また、技術的・経済的課題を検討するためのリードプラントの設計等に関する検討については、実用化像の具体化とともに、要素技術の研究開発成果を踏まえ、今後5年程度を目処に行うことが望ましい。
  • 人材育成の観点からは、アライアンスに参画する大学等の学生や研究者がHTTRにおける研究開発に参加する仕組みや支援システム構築や、HTTRにおける研究開発の推進による民間企業での高温ガス炉に関する技術の継承が期待される。
  • なお、どのような体制をいつの時点から構築するのが最適であるのか、研究開発の進捗状況を踏まえつつ、更に検討していくことが必要である。

(費用分担も含めた産業界との協力を念頭においた総合的な研究開発の推進)

  • 高温ガス炉は未だ研究開発段階にあり、国際的に見ても高温ガス炉を商用炉として活用している国はない。一方、今までの我が国における高温ガス炉に関する取組においては、研究開発段階から原子炉製造メーカや素材メーカを中心に多くの企業が参画している。
  • 原子炉級黒鉛や燃料の製造等については、東洋炭素㈱や原子燃料工業㈱をはじめとした企業が参画し、非常に優れた研究成果の創出に貢献した。また、三菱重工業㈱や㈱東芝等の原子炉製造メーカについては、三菱重工業㈱はHTTR建設時に高温ガス炉プラント建設を取りまとめるとともに、高温熱交換器、高温配管の製作技術開発をその後も原子力機構と連携して、自社製の実用高温ガス炉システムの概念検討やリードプラントの建設提言を行い、㈱東芝は原子力機構が提案する小型高温ガス炉の概念構築のとりまとめを行っている。我が国における高温ガス炉の優れた成果は、原子力機構とこれらの民間企業の連携によって生み出されたと言える。
  • 高温ガス炉は、これまで述べてきたように、将来の可能性が見込まれる原子炉である。将来の実用化に当たっては、民間も含めて、具体的な実用化像の構築とそれを実現するため、課題の抽出、解決方策の提示、必要資金と期間等を明確にしつつ、取り組む必要がある。
  • 今後、実用化に向けた研究開発を行っていく段階においては、市場見通しが見える段階までは国が主導しつつ、民間企業においては、技術的な貢献のみならず、実用化に向けた構想の構築や費用分担等による貢献が求められる。将来的には、アライアンスの運営についても、民間が主導していくことが求められる。
  • 現在、高温ガス炉技術の研究開発は主に国の予算において実施されているが、民間企業等においても、自社の人的インフラ的貢献をはじめ、フィージビリティスタディをはじめとした自主研究もなされてきている。今後も積極的な貢献が期待される。
  • その際、先に提案したアライアンスにおいて、開発目標を明確化し、次にこれを達成するための役割分担、設計概念の構築等が期待される。
  • ただし、特に産業界のアライアンス参画に際しては、ライフサイクルでの経済性や実用性の視点も必要であることに留意が必要である。

(2)今後の研究開発の進め方及び今後の取組についての評価の在り方

 将来の実用化を検討・判断していくに当たっては、経済的な見通しを立てつつ、他の方法・システムとの間で十分な競争性が期待されるかどうかの分析が必要である。
 また、将来の実用化に向けて安全性評価の仕組みの検討が必要である。その際に、軽水炉と高温ガス炉が異なる原子力システムであることを踏まえる必要がある。加えて、高温ガス炉技術の研究開発が着実に進められ、期待される成果が確実に得られているか定期的な評価が必要である。その上で、HTTRを用いた接続試験への着手や、成果を踏まえた将来の方向性の見直し等が必要である。
 研究開発の進捗状況及び安全性の評価に当たっては、研究開発の進捗状況を踏まえた適切な場を活用し、国としても本作業部会等において、進捗状況を確認していく。
 なお、高温ガス炉と核燃料サイクル政策との整合性については、原子力小委員会等における核燃料サイクルの議論の動向等を踏まえて検討する。

(経済的見通し(発電コスト))

 高温ガス炉の将来的な実用化について検討するに当たり、「経済性」の有無は今後の研究開発の方向性に大きな影響を与える重要な要素である。特に、原子炉出口冷却材温度950℃を目指す我が国の研究開発の方向性においては、原子炉建設コストや発電コストのみならず、水素製造コストの観点も重要な指標である。
 高温ガス炉は未だ研究開発段階にあり、さらなる技術の実証や安全基準の確立に向けた取組が必要であるが、実用化の判断に当たっては、他の発電システムや水素製造システムとの競争性があるかについて検討を行うことは重要である。このような考えの下、研究開発の進捗状況等に応じて更なる検討が必要である、現時点においては、コストについて、以下の通り論文や原子力機構による試算が行われている。なお、以下の試算については、安全対策費等の算入、現在価値換算等の評価手法・条件やコスト要因の前提となる運用構想や燃料サイクルの実施の要否等の考え方が異なるため、エネルギー・環境会議コスト等検証委員会報告書(平成23年12月)(以下「コスト等検証委員会報告書」という。)における軽水炉等の発電コストとは単純に比較できるものではないことに留意が必要である。

  • 平成18年に物量算定結果等に基づき算出された実用発電高温ガス炉システム(電気出力:約30万kWe)の建設費及び発電コストは、それぞれ、約550億円及び約4.2円/kWhである。
  • また、コスト等検証委員会報告書の内容等を参考として見直した概略の発電コストは、上記の通り評価条件等が異なるため同報告書における軽水炉等の発電コストと単純比較できるものではないが、約6.4円/kWhとなり、他の発電方式に競合できる可能性が示された。なお、今後更なる研究開発が必要であり、実用化にあたってはその精査も必要である。
  • 発電及び水素製造の経済性については、HTTR接続試験による施設の設計・建設、リードプラントの基本設計などを通して、産学官の連携によりさらに詳細な検討を実施する必要がある。

(経済的見通し(水素製造コスト))

  • 高温ガス炉の非常に高温となる原子炉出口冷却材は、産業界において、様々な活用が考えられる。その中でも、高温の熱を利用した水素の製造は主な活用方法の一つであり、水素社会の構築における貢献も考えられる。その際には、経済的、質的な競争性について検討することが必要である。
  • 資源エネルギー庁において、水素の利活用に関するロードマップ等に関する議論を行っている水素・燃料電池戦略協議会の資料によれば、2030年の国内の水素需要は、外販される産業用水素で2億Nm3/年、燃料電池用で27億Nm3/年である。これに水素発電で0~220億Nm3/年の水素需要が生じる可能性もある。
  • この場合の水素価格としては30円/Nm3前後がプラント引き渡し価格として想定されている。この価格と競合できる水素を高温ガス炉が供給することができれば、高温ガス炉の実用化を検討する意義がある。
  • 現在、水素は、主として石油・天然ガス・石炭の水蒸気改質により製造されている。これらは、水素は主製品ではなく、水素を利用して付加価値の高い製品を得ることを目的としている。また、一部電気分解により水素を得ている産業もある。これらのプロセスから供給される水素は、副生水素と呼ばれるもので、水素の製造価格は20~37円/Nm3前後と低い。これらの水素製造のインフラは、主製品製造に必要な容量以上に有しており、水素社会に必要とする場合に、110~170億Nm3/年前後の量を供給するポテンシャルを有している。
  • 原子力機構におけるISプロセスの研究開発では、平成16年に0.03m3/hの連続水素製造に成功した。現在0.2m3/hの連続製造プラントが完成し、連続運転に向けた調整が行われている。原子力機構による水素製造コストの試算では、24~28円/Nm3の供給価格が試算されており、水素社会に対して安価な水素供給を行える技術として期待されている。なお、この値は高温ガス炉が商用炉として活用されている段階を想定した数字であり、今後更なる研究開発費用等が必要であること、また、高温ガス炉の経済性評価手法にも今後の精査が必要であることに留意することが必要である。
  • しかしながら、この試算値は、海外で褐炭をエネルギー源として製造された水素供給価格にも競争力を有する値であり、日本が将来、石炭、再生可能エネルギーからの水素以外に、日本製の高温ガス炉を海外に展開し、そこから水素供給を受けるという可能性も考えられる。
  • 水素を活用する主な産業の一つに燃料電池自動車があるが、燃料電池自動車の導入に当たっては、安定的な水素燃料の供給が必要不可欠である。
  • その際に、現在行われている副次的な水素製造システムでは、安定供給の観点から課題が残るため、燃料電池自動車用の水素を目的生産する製造能力の確保が望まれる。
  • また、その品質についても国際的な水素燃料の基準を満たすことが必要であり、高温ガス炉由来の水素の活用に当たっては、そのための研究開発も必要となる。
  • また、燃料電池自動車用の水素の価格については、他の環境配慮型車との競合を考慮する場合、水素コストが、20円/Nm3~30円/Nm3のレベルを一つの検討の目安として、その実現の可能性についての検討とその結果についての考察がなされるべきである。

(安全性の評価について(PSA評価による総合的な安全性評価))

  • 安全性の確保は原子力政策の基盤である。現在商用炉として活用されている軽水炉とは異なるシステムである高温ガス炉の将来的な実用化を判断していくに当たっては、軽水炉の安全性評価に相当する、商用炉としての安全性評価システムを構築することが必要である。
  • 原子力機構においては、想定しうるすべてのリスクについて評価を実施し、研究開発の段階に応じて民間と役割分担をしつつ研究開発を推進していくことが必要である。
  • 特に、原子力プラントの総合的な安全性を評価する際には、想定されうる外部事象や内部事象に関する確率論的安全性評価(PSA)を実施し、当該概念の技術的成立性の見通しや、必要となる研究開発課題を抽出する必要がある。
  • 外部事象については、大型化する炉心燃料の支持構造や原子炉容器、熱交換器、ガスタービン等の技術的成立性と、成立する地震動の限界等を把握しておくことが重要である。
  • 内部事象については、炉心溶融に至る可能性のある事象を網羅的に摘出し、それらに対して熱出力60万kWt程度までであれば、高温ガス炉の構造によって、炉心溶融は起こらず、大規模な放射性物質の放散に至らないことを検証する必要がある。
  • 特に、多重故障を含めた事故シナリオを網羅的に摘出・検討し、配管破損等による空気混入による炉心燃料及び炉心支持構造物の健全性、黒鉛と空気との接触による可燃性ガスの発生影響、放射性物質の放散可能性等を評価する必要がある。
  • また、評価手法の開発に留まらず、プラント全体の包括的な評価の結果、いかなる安全対策によって事故リスクがどの程度低減するのかなど、最終的に安全性を高める取組につながるものでなければならない。

(評価の方法(安全性、技術メリット、コスト、社会的受容性等))

 高温ガス炉技術の研究開発について今後評価を行うに当たっては、丸1 安全性、丸2 技術メリット、丸3 コスト、丸4 社会的受容性の4点を評価軸として設定することが重要と考えられる。

  • 丸1 については、高温ガス炉の固有の安全性を示すためにHTTRを用いた試験等を実施し、事故時の安全性を確証するとともに、設計手法、解析手法の高度化を進めることが必要である。
  • 丸2 については、3.の中で示した個別技術の目的を達成するために必要な成果を出しているか否かについて、達成度合いを技術的な観点から確認し、評価する。
  • 丸3 については、高温ガス炉を用いたガスタービン発電及び水素製造について、産業界と協力して、前提条件を検討可能なものとして明確化しつつ、より精度の高いコスト分析を行う。その際、多くの不確実性が存在することから、その影響評価を実施する必要がある。また、研究開発を推進するために必要なコストについても適宜見直しを行っていくことも重要である。
  • 丸4 については、我が国において、ガスタービン発電、水素製造等多様な産業利用が見込まれる高温ガス炉を新たに導入することに対して、社会的に受容されるか、調査・検討を行っていくことも重要である。

(評価の時期と優先度)

  • 高温ガス炉の将来的な実用化にあたっては、「安全性」、「経済性」を考慮すると、高温ガス炉を用いたガスタービン発電技術及び水素製造技術の確証が必要であり、それらの技術のHTTRとの接続試験が完了する時期を原子力機構としての高温ガス炉の成果のとりまとめの時期として定め、民間への研究開発の受け渡し時期の目安とすることが考えられる。その際、核燃料サイクルとの整合性の観点から、再処理技術についての成立性についても一定の成果が得られていることが期待される。一方、接続試験に入るに当たっても、原子炉本体の改造を必要とし多額の経費を要するものであることから、接続試験に移行する段階において、研究開発状況の評価を行うことが重要である。
  • そのため、当面2年後を目安に、研究開発の進捗状況を確認し、核燃料サイクルへの適用性等を検証しながら次のステップに入っていくことを提案する。
  • また、接続試験を開始してからおおむね2年後を目安に、その後の研究計画の見直しを含めてさらに評価を行う。
  • 安全性の評価については、研究開発段階から原子力機構が行うべき取組と民間が行うべき取組の役割分担を行いつつ、検討を進めることが必要である。なお、原子力機構を中心とした研究開発段階においても、民間企業との積極的な連携が期待される。また、国内外における運用構想とそれに伴い発生するコストを念頭に置くことが必要である。

(3)技術の保持・人材育成のための取組等

(我が国の優れた技術の保持に向けた取組)

  • 我が国は、原子力機構におけるHTTR等を用いた研究開発や、原子力機構と民間企業が協力した燃料、材料(黒鉛、金属)、高温機器等の研究開発により、国際競争力の観点から、極めて高度な高温ガス炉に関する国産技術を蓄積している。特に、民間企業におけるこれらの優れた技術の蓄積は、原子力機構が高温ガス炉技術の研究開発を民間と連携して実施してきたことに大きく起因していると言える。
  • 一方、我が国初の高温ガス炉試験研究炉であるHTTRは、我が国に存在する唯一の高温ガス炉システムであり、平成3年にHTTRが建設工事着工、平成10年に初臨界を迎えて以来、新たな高温ガス炉システムは製造・建設されていない。また、高温ガス炉の燃料についても2次燃料の製造以来、現在に至るまで製造は行われていない。
  • 我が国は世界的に見ても優れた高温ガス炉の研究開発実績を持っているものの、現在の状況が長く続く場合、特に民間企業による製造技術の継承が困難となる。また、現在、大学等における高温ガス炉の研究開発は必ずしも活発であるとは言えない。このような状況の中で、我が国の優れた技術を保持し、今後の実用化や国際展開につなげるためには、早期の原子力機構におけるHTTR改造やリードプラントの基本設計を含む高温ガス炉技術の研究開発の着実な推進はもちろん、民間との連携や大学等のアカデミアにおける高温ガス炉研究開発への参画が求められる。

(研究開発・国際協力を通じた人材育成・確保の在り方)

  • これまで、高温ガス炉に関する取組は原子力機構を中心に行われてきたが、将来的な高温ガス炉の実用化に向けては、民間、アカデミアにおける人材の育成・確保が必要である。
  • 具体的には、我が国で唯一の高温ガス炉であるHTTRを人材育成の場として活用することにより、原子力機構の研究者、技術者のみならず、教育分野における学生等に、高温ガス炉に関連する技術を広めるとともに、HTTRを用いて様々な試験運転を行い、これらの試験を通して、高温ガス炉の優れた安全性に関する知識を習得させることにより人材を確保する。
  • また、アカデミアにおける高温ガス炉の研究者の裾野を広げる取組や、原子力機構と連携した取組等、活動の拡大・多様化が必要である。
  • さらに、原子力機構を中心として実施しているもしくは今後実施する予定の研究開発に民間企業の研究者、技術者が参加することにより、民間における高温ガス炉技術の継承を促進させる。
  • 将来、高温ガス炉の輸出を考える場合、国際協力の下、海外の研究者、技術者、ステークホルダ等をHTTRに受け入れて、高温ガス炉技術の理解促進を図り、優秀な研究者、技術者を育成するとともに、帰国後に自国における高温ガス炉プロジェクトの中心的役割を担う人材を育成することも、今後の海外展開を推進する上で非常に重要である。

(高温ガス炉の取組を着実に進めるための環境整備の在り方(安全規制への対応、地元をはじめとする国民との信頼関係)

  • 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、平成25年から施行されている新規制基準への対応については、原子力機構は、確実に実施しなければならない。また、運転期間中の保安検査・定期検査の中でも継続的に適合の確認を受けることが大前提である。
  • 現在、実用高温ガス炉に適用する安全基準は存在していないため、原子力機構は、必要に応じて民間等と連携しつつ、将来の実用化に向け、原子力規制委員会が高温ガス炉特有の新規制基準を策定する際には、適時的確に技術データを提供し、国内の安全基準策定に貢献することが必要である。また、必要に応じて民間等と連携しつつ、日本原子力学会の研究専門委員会で高温ガス炉の安全基準の原案作成を進めることが必要である。さらに、4.でも述べたように、IAEA等を通じて、高温ガス炉の国際的な安全基準策定に貢献することが必要であるとともに、国際的な安全基準を、国内の安全基準策定に適応していくことが望まれる。
  • また、高温ガス炉技術の研究開発を行うに当たっては、HTTRの立地地域の住民をはじめ、国民との信頼関係の構築が必要不可欠であり、高温ガス炉の安全性に係わる研究開発の成果やその意義を積極的かつ分かりやすく情報発信して行くことが重要である。

参考文献

  • 高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)の安全設計方針、片西他、日本原子力学会和文論文誌、Vol.2、No.1、P.55-67、(2003)
  • GTHTR300 design and development, Yan, et.al., Nuclear Engineering and Design, 222, P.247-262, (2003)
  • 2012年度(平成24年度)温室効果ガスの排出量(確定値)について, 環境省,2014
  • 水素・燃料電池ロードマップ~水素社会の実現に向けた取組の加速~, 水素・燃料電池戦略協議会,平成26年6月23日
  • コスト等検証委員会報告書,エネルギー・環境会議コスト等検証委員会,平成23年12月19日

用語解説

  • FP(Fission Products)
    核分裂生成物。核分裂によってできた核種、又は核分裂生成物(核分裂片)から放射性崩壊によってできた核種。
  • PSA(Probabilistic Sagety Assessment)
    確率論的安全評価。原子炉施設の異常をもたらす事象の組み合わせ(事故シーケンス)とその発生確率、事故シーケンスがもたらす影響及びリスクを体系的に評価する方法。
  • PUREX(Plutonium URanium Extraction)
    使用済燃料を硝酸や塩酸で溶解し、この溶解液から燐酸トリブチルを用いてウランとプルトニウムを抽出・分離するプロセスのこと。
  • VHTRC
    高温ガス炉の核特性データを取得するために建設されたウラン燃料黒鉛減速型の臨界実験装置
  • アライアンス
    目的を共有する複数の企業が協力体制を構築すること。
  • 安定同位体
    同一原子番号を持つが、中性子数が異なる核種を同位体という。同位体のうち、安定しており放射能を持たないものを安定同位体という。
  • 大型構造機器実証試験ループ
    HTTRと同じ温度、圧力条件下で、炉心、炉床部構造物、高温配管、ヘリウム循環機等の主要機器の実証試験を行うために建設された試験装置で、英語の設備名はHelium Engineering Demonstration Loop (HENDEL)。
  • 海水淡水化
    海水を処理して淡水を作ること。基本的には海水の脱塩処理である。高温ガス炉の低温排熱を利用して処理することが可能である。
  • 核データライブラリ
    核計算に必要な核反応断面積等が格納されたデータベース。一般的に、核計算に用いる核データライブラリの違いは、核計算結果に影響を及ぼす。日本の核データライブラリJENDL(Japan Evaluated Nuclear Data Library)は、米国および欧州の核データライブラリ-とともに世界の3大核データライブラリの一つとされており、世界的に広く用いられている。
  • 核燃料サイクル
    使用済燃料(ウラン燃料)を再処理してプルトニウムや燃え残ったウランを取り出し、再び核燃料として使う流れ。
  • 過剰反応度
    原子炉から制御棒を全て引き抜いた時の反応度のことで、反応度とは原子炉が臨界状態からどれだけ離れているかを示す尺度。原子炉が臨界を維持するためには、過剰反応度は0以上であることが必要。
  • ガラスライニング
    金属の表面に化学的に安定なガラスを融着させた耐食性複合材料。化学、医薬など産業分野の容器や配管などに用いられている。
  • 供用期間中検査
    原子炉の運転中において、主要な機器の経年劣化状況を計画的に把握するために、定期的に実施される検査。
  • クラスター型燃料
    英国ドラゴン炉に採用された、被覆燃料粒子同士を結合した燃料ペレットを7本の六角柱状の黒鉛棒に装荷する構造の燃料要素。
  • 高温高圧炉内ガスループ試験
    HTTR建設前段階において、実際のHTTRの炉内環境を模擬した中性子照射条件下での燃料の核分裂生成物閉じ込め性能を把握するため、材料試験炉(JMTR)に設置された照射試験設備で、設備名はOarai Gas Loop-1 (OGL-1)。
  • 高充填率燃料
    高温ガス炉炉心のウラン装荷量を高めて燃料を長寿命化するため、燃料コンパクトへの被覆燃料粒子の充填率(燃料コンパクトに対する被覆燃料粒子の体積割合で表す。HTTRの燃料コンパクトの充填率は約30%。)を高めた燃料。
  • 再生熱交換器
    高温流体から低温流体へ熱を回収するための熱交換器。排熱を少なくし熱効率を高めるために用いる。
  • サーベランス試験
    原子炉での照射、温度、不純物等による材料の健全性及び劣化を調べるため、あらかじめ原子炉内に取付けた試験片(サーベイランス試験片)を定期的に取り出し、各種試験を行い、材料特性の変化を調べる。
  • 軸シール
    ヘリウムガスタービン軸の圧力容器の貫通部において、ヘリウムガス漏洩を抑制するためのシール。
  • シビアアクシデント
    原子炉において、炉心が損傷し、大量の放射性物質が放出される可能性がある苛酷な事故。
  • 出力密度
    単位体積当たりの発生エネルギー。単位にはMW/m3やW/ccが用いられることが多い。
  • 水素発電
    水素を燃料に用いた発電。その方法として、水素を丸1 ガスタービンの燃料、丸2 蒸気タービン用のボイラーの燃料、丸3 燃料電池で用いる方法がある。
  • スリーブレス一体型燃料
    HTTRに採用されたピン・イン・ブロック型燃料構造から、黒鉛製のさや(スリーブ)を削除し、燃料コンパクトを1次冷却材へ露出させることで除熱性能を高めた燃料要素。
  • セラミックス
    無機物の焼結体。金属材料に比べ、一般的に耐熱性、耐食性に優れる。金属とは異なり、延性に乏しく脆性的な破壊を示す。
  • 炭化ケイ素
    炭素(C)とケイ素(Si)が結合したセラミックス (焼結体)。耐熱性や耐食性に優れる。
  • 多孔質体
    細孔が非常に多く存在する材料。材料の種類は、セラミックス、有機材料、金属と様々である。一例として活性炭やゼオライトなどがある。
  • 中間熱交換器
    1次ヘリウムの熱エネルギーを2次ヘリウムにつたえるための熱交換器のこと。伝熱管の内側を2次ヘリウムが流れ、外側を1次ヘリウムが流れる。
  • 熱化学法ISプロセス
    I(ヨウ素)とS(硫黄)を含んだ3つの化学反応(ブンゼン反応、ヨウ化水素分解反応、硫酸分解反応)を組合せて水を熱分解して水素を生成する化学プロセス。
  • 燃焼度
    核燃料が燃焼した程度を示す量のこと。核燃料の単位重量あたりの累積発熱量(MWd/t)で表す。
  • 反応度フィードバック効果
    原子炉が高出力になると、燃料やその他構造材の温度の変化により反応度が変化する。その結果、反応度が変わると出力が変わり、出力が変わると温度などが変化して、それらが再び反応度に効くという相互に物理量が相関関係を示す。これを反応度フィードバック効果という。
  • フィージビリティスタディ
    事業化可能性調査。投資を行って長期的に収益をあげられるか否かの経営判断ができる客観的な材料をとりまとめて総合的に評価すること。
  • 被覆燃料粒子
    原子炉燃料の二酸化ウラン微小球を、炭化ケイ素(SiC)や炭素の薄いセラミックス被覆層で3重(4層)に被覆した構造を持つ直径1ミリ未満の燃料で、高温ガス炉特有の燃料。高温ガス炉の高温の炉心においても耐熱性に優れ、被覆燃料粒子の内部に核分裂生成物を閉じ込める役割を持つ。
  • ブロック型燃料
    被覆燃料粒子同士を黒鉛母材で結合させた燃料コンパクトを六角柱状の黒鉛製ブロックへ装荷した構造を持つ燃料。HTTRでは、中空円筒形状の燃料コンパクトを黒鉛製のさや(スリーブ)へ装荷し、これらの燃料棒を六角柱状の黒鉛製ブロックへ装荷したピン・イン・ブロック型構造が採用されている。
  • ブンゼン反応
    熱化学法ISプロセスにおけるブンゼン反応は、水とヨウ素と二酸化硫黄から硫酸とヨウ化水素酸を得ることができる約100℃で行う液相の発熱反応。
  • 平衡転化率
    化学反応が平衡(反応した物質と生成した物質の量が変化しない)になったときの、反応器に供給した物質に対する反応に使われた物質の割合。
  • ベースロード電源
    一日の負荷曲線の中でベース部分を分担するもので、一定の電力供給を可能にし、優先して運転される電源。
  • ぺブルベッド型燃料
    被覆燃料粒子同士を黒鉛母材で結合させた、直径60mm程度の球状燃料要素。高温ガス炉の主流である2大炉型のうち、ブロック型燃料と対をなす燃料。
  • ヘリウムガス圧縮機
    ヘリウムガス圧縮機は、タービン翼を通過して圧力が低下したヘリウムガスを再びタービンへ再循環させるための軸流式圧縮機。
  • ヘリウムガスタービン発電
    1次冷却材であるヘリウムガスを作動流体とし、高温高圧状態の流体の運動エネルギーを、タービン翼を用いて回転エネルギーに変換し、その回転エネルギーを利用した発電機によって発電を行う。
  • 崩壊熱
    原子炉の運転を停止しても、核分裂生成物のうち放射性の核種から放出される熱を示す。
  • 前処理
    使用済燃料の被覆燃料粒子を、既存のPUREX法を用いて再処理するために必要な処理のこと。具体的には、被覆層を破壊して燃料核を取り出し、硝酸に溶かすまでの処理のこと。
  • メカシール
    ポンプや攪拌機などの回転機器において、容器等を貫通する回転軸からの液体の漏れを機械的にシールする方法。軸とともに回転する回転環と固定された固定環で構成される。両者がスプリング等により互いに接触して摺動することにより、流体の流れを最小限にする。
  • 陽イオン交換膜
    陽イオン(正の電荷を帯びる)を選択に通過させることができる膜。電気分解や燃料電池などに用いられている。
  • ヨウ化水素分解反応
    ガス化したヨウ化水素を約400℃で、水素、ヨウ素に熱分解する化学反応。わずかに吸熱的で、触媒下で進行する。
  • 硫酸分解反応
    ガス化した硫酸を約900℃で、酸素、二酸化硫黄および水に熱分解する化学反応。吸熱的に触媒下で進行する。
  • 炉心溶融
    原子炉の炉心の冷却が不十分な状態が続き、あるいは炉心の異常な出力上昇により、炉心温度が上昇し、燃料溶融に致る事故。

お問合せ先

研究開発局 原子力課