宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会(第58回) 議事録

1.日時

令和6年1月30日(火曜日) 10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省3階2特別会議室またはオンライン

3.議題

  1. 国際宇宙探査及びISSを含む地球低軌道をめぐる最近の動向
  2. 若田宇宙飛行士によるミッション報告
  3. ポストISSを見据えた我が国の地球低軌道活動の進め方について(非公開)

4.出席者

委員

専門委員 藤崎 一郎【主査】
専門委員 高橋 忠幸【主査代理】
専門委員 石井 由梨佳
専門委員 植木 千可子
専門委員 金山 秀樹
専門委員 倉本 圭
専門委員 佐藤 智典
臨時委員 高鳥 登志郎
専門委員 竹森 祐樹
臨時委員 中須賀 真一     
臨時委員 永山 悦子

文部科学省

研究開発局長  千原 由幸
大臣官房審議官(研究開発局担当)  永井 雅規
研究開発局宇宙開発利用課長  上田 光幸
研究開発局宇宙開発利用課宇宙利用推進室長  鈴木 優香
宇宙利用推進室係長   久保 竜馬

(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA))
理事  佐々木 宏
特別参与 宇宙飛行士  若田 光一
有人宇宙技術部門事業推進部 部長  小川 志保
国際宇宙探査センター センター長  山中 浩二
国際宇宙探査センター 事業推進室長  永井 直樹
有人宇宙技術部門きぼう利用センター センター長  白川 正輝

5.議事録

【事務局】 ただいまより国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会の第58回会合を開催いたします。本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。
 
<議事次第に基づいて資料の確認>
 
【藤崎主査】 では、議題に入らせていただきます。4つ議題がございますけれども、まずは国際宇宙探査およびISSを含む地球低軌道を巡る最近の動向につきまして、事務局よりご説明いただき、その後質疑応答をお願いいたします。
 
<鈴木室長より資料58-1-1に基づいて説明>
 
【藤崎主査】 ありがとうございます。SLIMが発電できるようになって本当に良かったと思います。予算と戦略基金を含めた全体について、皆さま方からご質問やご意見があれば承りたいと思います。
 佐藤委員、金山委員、中須賀委員と連続してご発言いただき、文科省とJAXAからお答えいただきたいと思います。
 
【佐藤委員】 経団連の委員から来ている佐藤でございます。まずはSLIMの成功を大変喜ばしく思います。今後のアルテミス計画等に向けて、弾みのついた第一歩を踏み出せたのではないかと思います。また、月のみならず月以遠への輸送を含めた輸送や移動に関して、今回の技術を産業界でも様々な形で活用していきたいと考えております。
今のSLIMの件とはちょっと異なりますが、基金の件は、産業界としても今後の技術開発の加速および産業創出という観点で非常に大きな手段が提供されたと思っておりますので、産業界としても積極的に活動していきたいと思っております。
 今日ご説明いただいた中でも少しだけ言及がありましたけれども、基本的には、関係省庁さんのほうから資金提供いただいたものを、省庁が横断的に、いわゆる宇宙技術戦略というものと連動して、この技術を体系的・戦略的に開発していくということが大きな目的であるというふうにも理解しております。そういった観点で、今回の基金活動が、非常に横断的で戦略的な資金の運用になるように産業界としても期待しておりますし、宇宙技術戦略はこれから最終的に完成し公表されるものだというふうに理解しておりますが、そういったものと連動して、今後、運用・活用されることを産業界としても大変期待しております。以上でございます。
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。次に金山委員お願いします。
 
【金山委員】 2つだけ教えていただければというふうに思います。26ページにNSPOCの結果の概要を示されているのですが、3番目の丸のところで「現在認可されていない商業宇宙活動」という言葉が出てきておりますが、具体的にどのような活動が認可されていないけれども、今後検討していくような価値があるというようなお話が出ていたかどうかということを教えていただきたいと思います。
 あとは今年の秋に予定されています大統領補選について、アメリカの宇宙政策に対する議論というものが何か起こりつつあるのかどうかという2点について、もしご存知でしたら教えていただければと思います。よろしくお願いします。
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。中須賀委員お願いします。
 
【中須賀委員】 ありがとうございます。宇宙戦略基金のことで質問とコメントの両方なんですけれども、これまで衛星開発やロケット開発が始まってから、その周りの研究開発ができるけれども、先者への投資ができなかったということは、内閣府の政策委員周りでも非常に議論がたくさんあって、その結果としてこの宇宙戦略基金という1つの新しいスキームができてきたのだろうと考えております。それは大変いいことだというふうに思っております。今後、この戦略基金をどこに配分していくかということで、産業界や大学も1つのターゲットになるだろうと思っています。この大学との関係をどのように作っていくのかがすごく大事だと思っています。これまで宇宙プロパーのお金が、大学における宇宙関係の研究開発に使われたという経験がなく、みんなが向いている先は科研費やJST、NEDOのお金です。だから、どのように政府と大学が関わっていくかということを大学もよく分かっておりません。したがって、大学とどういう関わりをつけていくのかということに関してのご計画があれば教えていただきたいと思います。
 もう1個大事なことは、宇宙というのはいろいろな分野を合わせた総合工学であるというふうに考えると、大学の中に拠点化をしていく必要があると思います。例えば推進系の強い大学、通信系の強い大学など、そこにずっと継続して研究開発資金だけではなく、プロジェクトにおける役割を何か担わせることによって、その大学がある分野に非常に強くなっていくということをやらなければいけないと思っています。これは宇宙科学研究所の工学委員会でもずっと申し上げてきたのですが、基金というお金があれば、そういったある種戦略を立てられるのではないかと思うので、この機会に何かに強い大学ができていくような世界を作っていただければありがたいと思っています。これは要望でございます。以上です。
 
【藤崎主査】 大変大事なご指摘やご質問がいろいろございました。これについてお答えいただき、その後第2ラウンドに入りたいと思います。
 
【鈴木室長】 ありがとうございました。佐藤委員と中須賀委員からはご意見をいただきました。佐藤委員のご指摘のとおり、今後技術戦略に基づいて、各省庁で要求した予算をJAXAにおいて基金として一体的に運用していきます。産業界・大学等でしっかり研究活動ができるように、JAXAとともに制度を作っていきたいと思います。
 中須賀委員のご意見についても、現段階で「ぜひやります」と宣言することはできませんが、ご指摘の通りだと思いますし、今はじめて聞いた話ではないので、しっかりご意見を踏まえつつ検討させていただければと思います。
 金山委員からのご質問、26ページの「現在認可されていない商業宇宙活動」の件ですが、これは特定の宇宙活動を指しているものではありません。これまでは商業宇宙活動については許認可の対象ではなかったということを述べています。今後については、野放図にやるということではなく、一定のルールがあったほうが良いという話が宇宙産業界からも出てきているという中で、フレームワークでどうやっていくか、ベストプラクティスや基準というものを作っていきたいという検討を始めるものです。
 大統領選の関係についてはリサーチ不足で、私から今すぐお答えできることはないですが、トランプ大統領になったとしても、アルテミス計画については特段大きな方向転換があるというものではないと考えています。その他様々な宇宙開発でバイデン大統領の就任時に何か変更があったものがあるのか、それがどうなるのかというところまでは、調べておりません。
 
【藤崎主査】 ありがとうございます。大統領選挙の関係で1つだけ申し上げますと、オバマ政権の時には火星ということを言っており、そのときにトランプさんが月に戻してくれたということで、バイデン政権を引き継いでやっているので、ある程度その継続性はあるのではないかと思います。
 次に高鳥委員、倉本委員、植木委員の順番にお願いします。どうぞよろしくお願いします。
 
【高鳥委員】 今日ご説明いただいた内容と直接関わらないかもしれませんが、月探査が各国でどんどん進んでいく状況にあると思います。前回も、そういったときのルール作りがどのようにされているかといったところで、アルテミス合意で取り決めがされているというお話でしたが、実際に資源の獲得競争などは早い者勝ちになってしまうのか、それともある程度ルール付けがされていくことになるのか決まっていれば教えてください。
 
【藤崎主査】 オンラインの倉本委員、お願いします。
 
【倉本委員】 倉本です。まずはSLIMの成功について私からも祝意を表したいと思います。マルチバンドカメラの分光データが出てくることを私も大変楽しみにしています。私からは2点質問がございます。
 宇宙戦略基金に関するところで、どういう立て付けで今後、公募していくのか、受け付けていくのかについて方針を伺いたいと思います。特に発展性を持ちつつも継承性を持たせるべき技術というところと、全くイノベーティブな新しいものを取り入れていくという部分と、両方合わせて持った形で進んでいくといいかなという考えを持っておりまして、その辺りの考え方をお聞かせいただければと思います。
 それから、H3とイプシロンに関するところですが、昨今は物価高ということが出てきていまして、2つのロケットに関して、おそらく従来想定していた打ち上げコストではなかなか収まらなくなっているような気がしますが、打ち上げコストの目標設定はどうなっているのかお聞かせいただければと思います。以上です。
 
【藤崎主査】 植木委員、お願いいたします。
 
【植木委員】 どうもありがとうございます。私もSLIMの着陸成功をアメリカで非常に興奮しながらニュースを聞きました。祝意を表したいと思います。
 少し教えていただきたいのですが、この63点をどう評価していいのかちょっとよくわからないのですが、今回の少し不具合があった、エンジンの脱落などは、現時点で将来のスケジュールあるいは計画に変更が出るようなものなのでしょうか。現時点でわからないのであれば、いつ頃その状況を精査してわかるようになるのかということを教えていただきたいと思います。
 アルテミス計画については、データを送ることで貢献していますが、パートナーを選ぶ上で着陸できた技術なども長期的に重要になると思ってお尋ねします。よろしくお願いいたします。
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。お願いいたします。
 
【鈴木室長】 まずは、月探査に関するルール作りですが、資源獲得のルール作りについては国連のCOPUOSで検討が始まっています。しかし、どのようなやり方がいいかについては、検討段階です。例えば、南極では、今は資源を誰も取ってはいけないし、開発もしてはいけないというルールと聞いています。一方で、そもそも月にはどのような資源があって、何が使えるのかもわかっておりません。そういう調査がされていない中で、過度に規制をするのがいいのかどうかも含めて検討が進んでいると聞いております。現段階では、まずは調査を進めていく段階ではないかと思います。
 宇宙戦略基金の立て付けについてですが、JAXAに基金が造成され、来年度以降にJAXAから公募がなされるものと考えています。技術戦略などを踏まえて技術テーマが決定され、それぞれのテーマに沿った形でステージゲートの設定、補助率の設定などがされると考えています。ご指摘の通り、イノベーティブなものから商用化に近いものまで、様々なものを支援する方向です。
 H3ロケットの打ち上げコストと物価高騰の関係についてですが、JAXAも本日ロケット担当の方は来ておりませんのでお答えしきれないところはあると思いますが、JAXAから後で補足をお願いしたいと思います。ロケットのコストについて、物価高騰の影響もあると思いますが、海外から買っているものについては円高の影響などもあると思いますし、H3については、まだ1号機や2号機という段階なので、今後定常化、たくさん打ち上げることによって価格が下がることもあるかと思いますので、バランスだと考えております。
 SLIMに関して、エンジンの不具合がなぜ起こったかということについては現在調査中です。今後の日本の月面着陸の計画としては、31ページに「月探査をめぐる各国の動向」の中で、SLIMの着陸の次にLUPEXの着陸と記載していますが、LUPEXについてはインドと共同で行い、着陸機についてはインドのチャンドラヤーンの着陸機を使用することにしているため、LUPEXに影響があるものではないと考えています。
 SLIMで獲得した技術をどのように民間に広げていくのか、JAXAの次のプロジェクトにつなげていくのかということについては今後検討し、その際には、今回なぜ上手くいかない部分があったかという検証もしっかりできればと思います。以上です。
 JAXAから補足をお願いします。
 
【JAXA 佐々木理事】 基金の公募の件についてご質問がありましたが、基本的にはJAXAが全て決めるわけではなく、政府の方と一緒に技術戦略を作った上でテーマを設定します。実行としてはJAXAになりますので、現在JAXAの中でも体制を組んで、公募の進め方について検討しており、年内半ばには公募できるような準備を進めているところです。
 ロケットにつきましては、基本計画でいろいろと契約制度を見直すということで、著しい物価や為替の変動の対応ということが明記されております。そういう観点で、今の動向を踏まえて価格は見直されることはあると思っています。当初の設定では、習熟度を考えて10機ぐらいで安定化するという形で設定されていますが、こういう状況ですので、それについては事業者のほうで見直しをして、我々だけではなく、関係部署と相談しながら価格が決まっていくものだと思っています。
 SLIMのエンジントラブルにつきましては、このエンジンが未来永劫使われるわけではないので、個々に対応が変わると思いますが、現状、鈴木室長からありましたように、LUPEXは日本が着陸機を開発するという計画がありませんし、将来ミッションを立てる場合は、原因究明をした上でしっかりと反映したり、違うエンジンを使う形で進められるので、我々としてはアルテミスの参加に大きな齟齬はないと思っています。
 原因究明については、現在エンジニアのほうで究明していますので、近いうちにご報告できると思います。私からは以上です。
 
【上田課長】 宇宙開発利用課長の上田です。SLIMのほうは、課室内で私が分担していますので補足します。50m高度の時点でメインスラスターの片方の推力がなくなって脱落していた可能性があるという報告がJAXAからなされています。このメインスラスターですが、着陸モードに入る前に、月軌道に投入する段階など計8回くらいあったと聞いていますが、全て正常に作動しています。かつ、そのときの推力のほうが着陸時の推力よりも大きかったというような報告がJAXAからなされています。着陸も動力降下モードのときは健全に作動しており、まさに垂直降下モードである50mの時点でそういったことが起こりました。
 一つJAXAから発表されているのは、エンジン自体の不具合というよりも、他の要素とのインタラクションがあった可能性があるということです。私どもとしては、エンジンの原因調査の状況も見ていくことになると思っています。以上です。
 
【藤崎主査】 他の委員の方々はよろしいですか。先ほど出ましたルールの点について、率直に申しまして、米国、中国などが乱開発する可能性は当然ありますし、途上国などに不満が募らないよう、日本の国益という観点からも、日本がアメリカなどに働きかけてリードして、このルール作りをしていくことが極めて必要だと思いますので、この点はよく念頭に置いて、日本のためでもあるということをよく認識していただきたいと思います。
 第2議題は、今日ここにいらしてくださった、若田宇宙飛行士よりJAXA特別参与および宇宙飛行士の若田さんからのミッション報告になります。若田さん、よろしくお願いいたします。
 
<若田宇宙飛行士より資料58-2-1に基づいて説明>
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。若田さんは500日以上にわたり宇宙に滞在されました。5回にわたって宇宙に行かれたことは、卓越したリーダーシップ能力の他に、他国の宇宙飛行士からも「若田さんと飛びたい」という希望が非常に多かったからだろうと思います。本当に素晴らしい日本の代表だったと思います。そして、多大な貢献に感謝するとともに、引き続きのご活躍をお祈りしたいと思います。
 皆さま方、せっかくの機会ですから、いろいろなご質問があると思いますので、札を上げていただければと思います。それでは、永山委員、高橋委員、中須賀委員の順でお願いいたします。
 
【永山委員】 ご説明ありがとうございました。5回目の長期滞在、お疲れ様でした。3点伺いたいと思います。まず1点目ですが、若田さんが国際宇宙ステーションに長期滞在された前回のタイミングでロシアのクリミア侵攻がありました。今回はウクライナ侵攻ということで、世界の分断が広がる中での宇宙活動となりました。現在の宇宙開発が安全保障の切り口から注目されることが多いのですが、逆に地球上の分断を解消する方向として、宇宙開発がどのような役割を果たしていけとお考えですか。実際にセンシティブなタイミングに宇宙で活動されたご経験から何かご意見があれば伺いたいと思います。
 2点目です。今回は生活用品の開発に日本の様々な企業が参加されたというお話がありました。先ほどご説明のあった宇宙戦略基金は、宇宙開発の尖った部分の開発になると思います。それ以外にも日本の幅広い産業界の力が、宇宙開発に貢献できる部分もあるのではないかと思います。今回の生活用品の開発・利用に関わられたご経験から、日本の産業界がより裾野を広げていくために、どのようなことが宇宙開発分野で期待できるのかということを伺えればと思います。
 3点目です。私は小澤征爾さんがタクトを振られたサイトウ・キネン・オーケストラの活動を動画で拝見して本当に感動しました。若田さんも以前、宇宙舞踊のような形で文化活動にもいろいろと貢献されてきたご経験があると思いますが、今後月での活動や長期の宇宙活動が広がっていく中で、文化と宇宙開発のコラボレーションに対してどんな期待をされているかを伺えればと思います。以上3点、よろしくお願いいたします。
 
【藤崎主査】 高橋委員、お願いします。
 
【高橋委員】 長い間のご活躍、ありがとうございました。今日のご発表をお聞きして、ISSがどれだけ日本の宇宙開発に役立ったかを教えていただき、本当にありがとうございます。2つ質問があります。1つは、新たなプラットフォーム形成に向けた知見の獲得について様々なことを教えていただきましたが、先ほどの基金とも絡んで、これまで民との関わりをどのように進められてきたのでしょうか。例えば民からの提案が入って行われたものや、民と共同で行ったもの、得られたものが一般的にどのように展開されていくのかについて教えていただきたいです。その経験を踏まえて、今後基金でどのようなことを行えば日本の民間企業が元気になり、世界の中で高い技術を持つことができるのかについて教えていただきたいと思います。
 2つ目は人材育成についてです。これはJAXAが世界でリーダーシップを取って行われたものなのか、それとも他の国と共同で行ったプログラムなのかということを伺いたいです。私自身は日本が主導権を持って、世界にビジビリティを持って行ったなら、とても素晴らしいことなので今後も続けていただけたらと思っています。以上です。
 
【藤崎主査】 中須賀委員、お願いします。
 
【中須賀委員】 若田さん、本当にご苦労様でした。やはり若田さんの人柄、性格、人徳など、いろいろなものがあって長期間の宇宙活動につながったと思って聞いておりました。ありがとうございました。
 宇宙施設の中で、アストロビーというアメリカのロボットを動かしながら、ロボットプログラミングコンテストを一緒にやらせていただきました。ここ数年やっている中で非常に感じるのは、やはり宇宙が入ると、理科や科学に対する関心が高くなって参加したいのではないかいうことです。だから、その力を生かして、日本が宇宙をベースにした教育の拠点になっていくと「きぼう」を最大限に生かしていき、それによってアジアや、これから科学技術を伸ばしていこうという国々の中で、教育の先生になっていくような世界をもっと生かしたら、「きぼう」の利用の仕方が良くなり、さらに広がっていくのではないかと感じております。是非、今後ともJAXAさんに広げていただきたいと思いますが、その辺のご計画があれば教えていただきたいと思います。以上です。
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。とりあえずここまでご回答いただき、第2ラウンドで植木委員と石井委員にお願いしたいと思います。
 
【JAXA 若田宇宙飛行士】 ご質問ありがとうございます。まず永山委員からのご質問ですが、2013年~2014年2月のクリミア危機のときは、宇宙ステーションの船長を担当させていただきましたが、今回はそれ以上に大きな問題でした。地政学的にはこのような状況でしたが、軌道上ではISSを安定・安全な運用をするための協力をきちんと行っています。地上では分断の状態ではありますが、軌道上では安全を確保しながら、人類としてISSの利用成果を出していくことで、しっかりと仕事ができています。この中でアジア唯一の参加国である日本が重要な役割を果たしながら、安定したISSの利用成果を継続していくことが非常に重要だと思います。当然、私も仲間として、どの国の人と人とのつながりは変わらないと思いますが、軌道上での有人宇宙活動の協力が平和な世界を築くことにつながってほしいと思います。そこに日本が参加して、難しい状況の下で継続していくことが重要だと感じています。
 生活用品とその基金に関してですが、多様な日本の企業の技術を生かして、低軌道のみならず国際宇宙探査、月探査、火星探査に貢献できる部分が多いと思います。これまで宇宙産業分野の方だけではなく、非宇宙産業の企業様に参加していただくことが重要だと思いますし、JAXAも宇宙探査イノベーションハブを通して、様々な地上と宇宙の課題解決をするための取り組みを、多くの企業と行っています。特に、地球の6分の1の重力であり、地上の分野が活かせるような月探査においては、ISSのような無重力環境以上に、今の日本の非宇宙業種の方々が宇宙に参画して、それを産業につなげられる可能性が高いと思っています。やはり異業種の技術の糾合が重要だと思っています。
 サイトウ・キネン・オーケストラについて、私も小澤征爾さんが直接指揮されたものを宇宙で拝聴し、本当に感激しました。これまで日本は、宇宙の人文社会利用の観点から、どの国よりも多くのことに挑戦してきたと思います。ですから、今後の月や火星を含めた宇宙環境を使った活動をもっと広げていくべきだと思いますし、日本がリードしている分野の一つだと思います。優れた日本の文化をさらに紹介しながら、いろいろなミッションに取り組んでいければと思っています。
 高橋委員からご質問があった、基金に関して民間との関わり合いについてでございますけれども、どの分野に基金を活用したらいいかという具体的な例に関しては、私のほうからもはっきりとは申し上げにくいところはあると思いますが、これまでも有償利用を通して、タンパク質結晶成長の実験を通した創薬、ELFという静電浮遊炉を使って新しい金属材料の開発に「きぼう」ならではの能力を生かした実験などが進んでおりますので、そういったものがさらに継続して拡大していく必要があると思います。また、超小型衛星の放出事業も、事業者として日本民間企業の2社が利用を進めていますので、そういった民間主導で地球低軌道の利用が広がっていくための取り組みを、我々も進めてまいりましたので、そういった活動をさらに広げていく必要があると思っております。ですから、そういった活動に対して、その基金が有効に活用されていくことを、私も期待したいと思っております。
 人材育成の観点からですけれども、日本がリーダーシップを取って行ってきている部分もかなり多いのではないかと思います。中須賀委員が活躍してくださった「きぼう」のロボットプログラムチャレンジでは、今回も世界各国の多くのチームが参加してくれましたけれども、日本がかなりリーダーシップを取っている分野だと思います。同じく、アジア太平洋地域の学生さんからの簡易物理実験テーマを募集して行っているアジアトラインゼロGもJAXAのほうで主導していますので、こういった2つの例を挙げてみても、日本がリーダーシップを取って進めてきているところだと思います。こういったアジアの宇宙教育の先生というような形でこれまでもプロジェクトをやってきましたので、こういった工夫をさらに進めて「きぼう」を活用していく必要があると思っております。
 中須賀委員への回答に関して、やはり宇宙教育の拠点を「きぼう」において、さらにその役割を増やしていくことは非常に重要な観点だと思いますし、既にそのための取り組みが実現できていると思いますので、多くの皆さんからのご意見を伺いながら、できるところを拡大していくことが必要だと思います。私の具体的な計画は今のところはございませんけれども、引き続き進めてまいりたいと思います。以上です。
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。それでは植木委員、石井委員よりお願いいたします。
 
【植木委員】 どうもありがとうございました。せっかくの機会ですので、直接質問させていただければと思います。本当にご苦労様でした。日本に対する信頼の話など、いろいろなことをやっていらっしゃることを伺いましたけれども、それに加えて若田さんご自身のお人柄など、全てのことが貢献しているのだなと、改めて感激しながら伺った次第です。永山委員の質問とも少し重複する部分もあるかもしれませんが、2点伺いたいと思います。一つは、これから先もこのようなISS計画事業を進めていく上で、どの国とパートナーになったらいいのかということが、この委員会でも少し話題になりました。先ほどのお話ですと、プロフェッショナルとして、地上における紛争などはあまり影響せずに活動できたということでしたけれども、どの国とパートナーを結ぶかと考えるとき、そういったところはあまり気にせずに選んでいいというふうにお考えでしょうか。地球上の国家間競争や対立など、いろいろな要素もあると思いますが、パートナー国の選定に関して、宇宙での活動については、これらの影響はあまり注意して考える必要がないのかどうかということについてお伺いしたいと思います。
 もう一つは、宇宙デブリの除去など、非常にとても重要なことを日本が進めていくということを感慨深く伺いましたけれども、それ以外にもウガンダ、ジンバウエ、インドネシアの衛星放出、APRSAFのことなど、独自では打ち上げできない、あるいは大きなプロジェクトにはまだ参加しない国と一緒になって、宇宙での活動に参加していくということは国際的にも非常に重要だと感じました。先ほど藤崎主査のほうからもルールづくりの話がありましたけれども、若田さんが感じていらっしゃることがあれば伺いたいと思います。そう申しますのも、先週と先々週の2週間ぐらいワシントンのほうで、核軍備管理の話などをいろいろな人に聞いて回っていたのですが、重要性は理解しているけども、今はそういったようなことを進められる状況ではないと答える人がほとんどでした。米中の現状では、重要性はわかっているけれどもルールづくりには動けないという感じのことをおっしゃる方が多かったものですから、大国以外の国がリーダーシップをとって月でのルールづくりを進めていく可能性を実感していらっしゃるか、それとも難しいとお感じになっていらっしゃるのか、ご意見を伺えれば幸いです。よろしくお願いいたします。
 
【藤崎主査】 石井委員、お願いします。
 
【石井委員】 本日は大変貴重なお話をいただきましてありがとうございました。私もお話を伺っておりまして、ISSが日本の宇宙開発にいかに役に立ってきたかということと、非常にいろいろな可能性を秘めた場であるということを改めて感じた次第です。せっかくの機会ですから、いくつか教えていただきたいと思います。1つ目は、14ページに書かれている今後の人材育成のプランについてです。これに関しては宇宙関連の様々なイベントを行って活発な参加があったという話もありましたが、参加者のその後についてトラッキングなどはされているのでしょうか。データがどのくらい集まっているのかもわかりませんが、その後宇宙に関連した業界に行かれているのかどうかということが気になりました。
 2つ目は、日本で全体的に問題になっているのが、特に博士課程に進む学生が減っていることです。他の国は増えているのに日本だけ減っております。それについて宇宙分野の観点から何かできることはないのかということについて、何かありましたら教えていただければと思います。また、女性の宇宙関連の専門家を育成する視点はあるかについても教えてください。お示しいただいた資料の中に具体的な数字がなかったのですが、どのくらいの割合で女性が参加しているのか、また積極的に取り込もうとされているのかについて教えていただければと思います。
 もう一つは、ISSにおける国際協力が今後の宇宙関連の国際協力のひな形になっていくことはわかっておりますが、ISS協定の仕組み自体はアメリカが中心となって様々なことを決めていると思います。このISS協定を今後のアルテミス計画を含めた宇宙活動の基盤としていくことについて、ポジティブな評価されているのかどうかについてお伺いできればと思いました。以上です。
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。若田さん、お願いいたします。
 
【JAXA 若田宇宙飛行士】 ありがとうございます。植木委員からの質問で、ISS計画の経験の下で、どういった国とパートナーとなるのが良いかというのは非常に難しいご質問です。やはり地政学的な問題があると、国への渡航などが様々な形で制限されますので、実際の運用上、当然、地上での状況というのは活動に影響を及ぼしているのが事実だと思います。ただ、大局的な観点から地政学的な状況も踏まえた上で、政策的な判断が必要だろうと思っておりますし、ISSのような巨大プロジェクトを円滑に進め、効率的に成果を出していくときは、やはり問題が少ない国とやっていくことが最も効率としては高いのではないかと感じます。ただ、1984年にレーガン大統領が国際宇宙ステーション計画の提唱をして、日本も参画を表明したときは、今のロシアはなかったわけです。大局的な判断で、その後1990年代に入ってロシアが参画して、世界の安全保障という観点からも含めて、ISSが一定の世界的な協力に貢献できているところがあると思います。この部分はかなり難しい判断になると思いますけれども、米ソの冷戦状態であっても1970年代にはアポロ・ソユーズのドッキングミッションを行ったことがございますし、コミュニケーションのネットワークを維持することが重要なのではないかと、宇宙飛行の現場で長年お仕事をしながら感じておりまし、外交手段という意味合いが非常に大きいところもあると思っております。有人宇宙以外の宇宙政策に比べて、有人活動の持つ外交手段的な要素は大きいのではないかと思います。
 デブリ除去のお話のようなルールづくりについてですが、やはりいろいろな国の力関係はあると思いますけれども、基本理念を共有することが非常に重要だと思いますし、その中で日本がリーダーシップを取って働きかけていくということが、世界のSDGs維持的な宇宙利用を進めていくために必要なのではないかと思います。ただそのためには、大国ではなくても日本が技術を持って、その土俵に入っていくことが必要だと思いますので、この国際宇宙ステーション計画で我々が示してきたような様々な信頼してもらえる技術や宇宙探査等の活動を一つひとつ成功させていくことで、日本が超大国に意見を述べることができるような土俵に入ることにつながっていくのではないかと思いますので、そういった努力が重要なのではないかと思っております。
 石井委員からいただいたご質問で、人材育成の点でトラッキングをしているかということに関しては、補足していただけると助かります。
 
【JAXA 小川部長】 有人部門事業推進部の小川です。トラッキングは何度か行っているのですが、なかなか先方からお話をいただけないことが多いですが、2~3回トラッキングした際に、アジアントライゼロGのほうに参加したインドネシアかタイの学生さんが、自分の在籍している町の奨学金をもらえて大学に進学できるということを言われておりました。将来は日本に留学したいということを言っております。その方はまだ高校生だったので、その後についてフォローできればと思います。ただ、やはり人材育成ということで長い年月で見ていかなければいけないと思っております。アジアントライゼロGもそうですが、ロボットプログラミングチャレンジも長く続けていくことで、10年あるいは20年レンジで人を育てていき、その国の宇宙開発の人材になっていただけるようにしていきたいと思うので、フォローアップは常に続けていきたいと思います。
 特にロボットプログラミングチャレンジのほうでは、中須賀委員にサポートいただいて、毎回学生さんたちにレクをして振り返りをするフォローアップというのをやっておりますし、小型衛星のほうでは、九工大や東北大学といった小型衛星に力のある大学と連携することで、アジアやアフリカの学生をつなげていくということをやっております。やはりJAXAだけでやるのではなく、日本の大学やアカデミアと協力して人材育成を進めていくことが大事だと思っております。その中で宇宙飛行士さんに、このような機会を捉えて協力していただくことが大きな力になるのではないかと思います。以上です。
 
【JAXA 若田宇宙飛行士】 ありがとうございます。博士課程に進む方が減っているというお話もございますけれども、やはり世界標準を意識しながら、宇宙での研究に携わる方が増え裾野が広がっていくことが、博士に進む方の増加につながっていくのではないかと思いますので、宇宙での研究をさらに拡大して進めていくということが重要なのではないかと思います。
 女性の参画に関しても、有人宇宙活動の分野で携わっている方がどんどん増えてきていると感じております。クォータ(quota:割り当て、定数)はないと認識しておりますけれども、飛行の管制官や「きぼう」実験棟の地上での管制を指揮するフライトディレクターも女性の割合が非常に高くなってきていると思いますし、世界の宇宙活動の中でもそういった日本の女性が活躍している分野が広がってきていると思います。今回、宇宙飛行士候補者の中にも米田あゆさんが参加してくれていますように、やりがいや仕事の内容を若い世代にきちんとお伝えしていくことが、女性の活躍の場をさらに広げていくことにつながるのではないかと思っています。
 最後に国際協力のIGAのことに関してですけれども、私も法律家ではなく技術者でございますけれども、これまでも海外とさまざまな調整をさせていただきましたが、ISSやIGAがあって本当によかったということをよく感じることがございました。例えばスペースシャトルの事故で宇宙ステーションへの往還がアメリカだけではできなくなったとき、国際協力のもとソユーズで往還することができました。やはり、骨組みである協定がきちんとあることで継続性がある計画が推進できたと思っております。それが長期的な視点で利用の成果につながっていると思いますので、そういう意味でアルテミス協定や、今後日米の間で国際宇宙探査において枠組み協定の署名が一歩一歩進められてきておりますけれども、そういった根幹となる協定というのは本当に非常に重要だなということは、現場で仕事をしていても何度も感じるところであります。以上でございます。
 
【藤崎主査】 ありがとうございました。大変懇切丁寧にご説明をいただきました。引き続き改めてご活躍をお祈り申し上げます。

<議題3は非公開>

【事務局】 ありがとうございます。本日の議事録については、非公開審議部分を除いて文科省のホームページで公開いたします。資料については、すでにホームページに掲載しております。次回の小委員会の予定につきましては日程調整の上、改めてお知らせいたします。以上をもちまして本委員会を終了したいと思います。ありがとうございました。

(了)

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課