第7期 環境エネルギー科学技術委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成26年5月30日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文化庁特別会議室

3.議題

  1. 環境エネルギー分野における主な研究開発の進捗状況について
  2. 環境エネルギー分野の国内外の動向について
  3. 平成26年度の研究評価計画について
  4. その他

4.出席者

委員

安井主査、橋本委員(主査代理)、三村委員(主査代理)、江守委員、河宮委員、杉山委員、関委員、館山委員、田中委員、林委員、原澤委員、安岡委員、鷲谷委員、渡辺委員

文部科学省

田中研究開発局長、磯谷大臣官房審議官、松尾課長、木下環境科学技術推進官、山村課長補佐、鏑木課長補佐、西川地球観測推進専門官

オブザーバー

独立行政法人海洋研究開発機構 木村特任上席研究員、国立大学法人東京農工大学 千葉副学長、独立行政法人理化学研究所環境資源科学研究センター 候副センター長

5.議事録

【安井主査】  ただいまから第7期の科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会環境エネルギー科学技術委員会の第5回の会合を開催させていただきます。まず、出席者の確認を事務局からお願いしたいと思います。

【山村課長補佐】  御出席の委員数が14名と過半数に達しておりますので、委員会成立となります。また、今回議題1に関しまして、環境エネルギー分野における代表的な取組のヒアリングとして、海洋研究開発機構の木村特任上席研究員、東京農工大学の千葉副学長、理化学研究所環境資源科学研究センターの侯副センター長に、それぞれ御出席いただいておりますので、併せて御紹介させていただきます。

【安井主査】  ありがとうございました。実は、局長から御挨拶をいただく予定でございますが、ちょっと遅れておられますので、お見えになったときに割り込みということでやらせていただきたいと思います。それでは、議事に入ります前に、本日の資料の確認をお願いしたいと思います。

(配付資料の確認)

【安井主査】  ありがとうございました。それでは、進めさせていただきたいと思います。お手元にございますように、本日の議事次第でございますけれども、3つの議題プラスその他となっております。
 一番初めが、「環境エネルギー分野における主な研究開発の進捗状況について」ということでございまして、先ほど御紹介をいただきました方々にお見えいただいております。分野といたしましては、地球環境研究、人材育成、エネルギー技術開発、この3つの観点から代表的な取組の事例をお話しいただこうと思っております。それぞれ15分ぐらい御発表いただきまして、その後、文部科学省といたしまして江守委員を座長として今「今後の地球環境研究の在り方に関する検討会」というものを設置して議論を行っておりますので、江守委員からもその議論の進捗につきまして御紹介をいただきたいと思っております。質疑及び議論につきましては、議題の2で行わせていただこうと、このように考えております。それでは、初めに、先ほど御紹介ございました海洋研究開発機構JAMSTECの木村特任上席研究員から御発表いただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます。

【木村特任上席研究員】  JAMSTECの木村です。気候変動適応研究推進プログラム、その中の私どもの課題、12課題あるのですけれども、そのうちの1つの「日本海沿岸域における温暖化に伴う積雪の変化予測と適応策のための先進的ダウンスケーリング手法の開発」、このテーマにつきまして、現在の研究の進捗状況と主な成果を御紹介させていただきます。このテーマは、JAMSTECのほかに秋田大学と富山県環境科学センターが連携して推進しているところです。
 お手元の資料1-1ですけれども、表紙を1枚めくってください。次のページに、気候変動適応研究推進プログラムの概要が示されています。中でも、具体的にどういうことをするかというのは一番上の枠の中の丸3つで要約されます。特に、それの更に簡単にまとめたものが一番下に相当すると思いますけれども、地球規模の気候変動予測成果を都道府県あるいは市町村など、地域規模で行われる気候変動適応策立案に科学的知見として提供するために必要となる研究開発を推進するというのが、このプログラムの目的です。
 大きく3つの柱がありまして、一番目が先進的なダウンスケーリング手法の開発です。これは右の方に、私どものプログラムに関係することなのですけれども、それが示されています。御承知のように、将来の気候変動はCGCM大気大循環モデルによって行われるわけですけれども、その結果を用いて日本付近を詳細にダウンスケーリングして変化を調べる。さらに、その右側にありますように府県単位ぐらいまで気候変動の分布が分かるように更に拡大して、そのことによって、この場合ですと、例えば富山県の積雪量の変化だとか、農業に影響のある河川流量の変化ということを予測して、自治体に提供しようというのが1番目です。2番目はデータ同化技術の開発ですけれども、地域規模における気候変動評価にデータ同化、つまり観測データを入れていくという作業を活用して適応策の検討に役立てようという計画です。右の方に幾つかそのサンプルがあって、これも雪ですけれども、北海道の課題だとか、あるいは首都圏の洪水の問題だとか、それからヒートアイランドの問題、こういったテーマが実施されています。それから3番目に、気候変動適応シミュレーション技術の開発です。これは地域規模で行われる気候変動影響評価・適応策の立案を可能とする気候変動適応のシミュレーション技術の開発です。右の方には、水産資源だとか海況のシミュレーションのよって漁場の探索技術を開発して役立てようというテーマの例が示されています。この気候変動適応研究推進プログラムは、出口として、自治体等の連携によって将来的な社会貢献を意識した出口志向の基礎的な研究開発を実施することになっています。
 3ページ目を御覧ください。3ページは、私どもの研究テーマの学術的な評価です。同じように、これに続きます残りの2ページに、学術的な評価に加えて社会的な成果、それから、これまでの研究でよかった点、成功した点、反省した点を3ページにまとめています。順番にお話しします。まず、学術的な成果でどういうアウトプットがあったかということですけれども、これは後で詳しく説明しますけれども、擬似温暖化手法という方法があって、この方法があったためにこの課題に参加したということもあるのですけれども、それの検証を大きく進めました。これによって気候変化幅が大きい場合にもこの手法が使えるということを示しました。2番目に、日本海の雪がどういうメカニズムで増えたり減ったりするかということについて、最も重要なのは水温の上昇があり、それによって日本海側の降水量が増えるわけですけれども、それだけではないという複数の原因を明らかにしたというのが2番目の成果です。そのほか、降水量の変化と同時に河川流量の評価も行って、特に春先に河川の流量が大きく変化するといったことをまとめまして、幾つかの学術論文としてまとめました。
 そのうち、一番初めの擬似温暖化手法の検証なのですけれども、6ページ目を御覧ください。1図です。この擬似温暖化手法というのは、実はCGCMの結果というのはバイアスがあって、そのままダウンスケールすると実際の気温に比べると1度とか、あるいは降水量が少なめといったバイアスがあります。そうしますと、利用する人はそれを補正しないといけないので非常に使いにくいのですけれども、その対策としてCGCMの予測結果を全て信じないで、現在と将来の気候差分だけを信じる。それに、観測に基づく客観解析データを使って、それと重合して領域モデルの境界値を作成するといった方法です。このやり方でいいのかどうかということについては、過去に生じた10年規模の気候変動について既に検証されているのですけれども、変化が大幅な場合には非線形が効くでしょうから、単純にダウンスケール、大幅には非線形が効くのですから、確かではないのですけれども、これの検証は真値がないので難しかったのですが、CGCMの単純ダウンスケールを真値と仮定することによって、変化が大幅な場合にこの疑似手法がうまくいくかどうかということを検証しました。右下の図はそれの検証結果ですけれども、ハッチのついているところは多少差が見られるというところですが、この差は疑似温暖化のせいとは限らないということです。基本的に、別の年々変動の30年平均を比較していますので、年内変動の違いから来る統計的な誤差というのは当然として生じるわけです。その誤差に比べて、ハッチを付けた格子点の数というのが、期待される数値より少ないですから、基本的に疑似手法そのものが誤差を増していることはないということが分かりました。
 もう一度、御面倒ですけれども3ページ目に戻ってください。3ページ目の真ん中辺にあります「(2)RECCAの目的に即した効果」ですけれども、これは3つ挙げています。1ダウンスケール手法によって不確実性の一部が低減できました。バイアスが除去できたということです。それから2番目、この手法だと実はダウンスケールがかなり容易になります。どうしてかというと、現在気候は1つだけでいいからです。そのために、たくさんのCGCMのダウンスケールが可能になりました。これについても、すぐこの後御説明させていただきます。
 この研究で検証が進んで、ダウンスケール手法や利点というのを海外の気象部局に出向いて、具体的にはインドネシアと中国ですけれども、担当部門の専門家に紹介して、強い興味を持っていただけました。7ページの2図を御覧ください。これが複数のCGCMのダウンスケーリングを実施したときの積雪の変化です。左の方に6つ図がありますけれども、左上は現在の積雪量の再現です。赤いところほど積雪量が多い。残りの赤とかピンクで書かれているところが、どのぐらい積雪が減ったかということをいろいろで表しています。赤が濃いところほど大幅に雪が減ったということです。各5つのGCMのダウンスケーリングはそれぞれかなり違います。右上の方に、細い線がいっぱいある、スパゲッティみたいなチャートがあるのですけれども、これがCMIP5のたくさんのGCMが、日本付近でRCP4.5シナリオにおいてどのぐらい気温が変化するかということを示したものです。この中から変化幅の大きいもの、小さいものを5つ選んで、それらをダウンスケールしたのが左の図です。日本のGCM、ちょうどこの真ん中の2段目のところに2つ仲よく入っていて、積雪の減少量としては中間的な値を示しています。
 もう一度、3ページ目に戻ってください。最後に、プロジェクトが終わる頃、どういう見通しになるかということですけれども、この課題で得られた予測情報はDIASと連携してデータセットを提供しますし、また、後でお話ししますけれども、富山県さんに随分尽力していただいて、プロジェクト終了後もWEBなどで政策担当者や一般向けの解説を関連情報と併せて提供するということができる見込みになりました。
 次のページを御覧ください。4ページです。社会的な成果としてどういうことが得られたか。まず、研究の成果としてのアウトプットですけれども、先ほど申し上げましたようにバイアスの少ない情報を提供することができたということ。それから、積雪量の標高別・平均化時間別の予測によって、年間の積雪量は富山県の場合かなり減少するのですけれども、豪雪についてはこれまでと同様の警戒が必要であるということを示しました。これはすぐ後に図3のところで説明させていただきます。それから、河川流量の変化も予測して、春先の水資源の減少が特に大きいということを示しました。それから、RECCAの目的に即した効果についてですけれども、雪害の対策だとか、水資源、農業及び観光資源などに関わる政策決定者や利害関係者に必要な科学的な情報を提供できました。これも、このすぐ後4図で説明します。そのほか、富山県だけではなくて、長野県など複数の県の要望も調査して、予測情報を提供できました。それから、富山県の環境審議会地球温暖化対策小委員会など富山県や長野県をはじめとする行政関係者や学識関係者と意見交換を進めることができました。プロジェクトの終了の見通しについて、先ほどもお話ししましたが、富山県さんでWEBを準備してくれるということで、その後も継続して情報発信できるということ。それから、丸で3番目に当たりますけれども、現在RECCAとして作成している気候変動適応に関する科学技術ガイダンスブックによって、自治体職員等に分かりやすい情報の提供を行うということが可能になりました。
 3図、4図。8ページが3図ですけれども、これを御覧ください。これは情報提供の例ですけれども、可視化によって分かりやすい情報提供、それから、豪雨への引き続きの警戒を求める情報です。まず左側、これは積雪の状態を2000年代の3月と2030年代の3月を可視化して、30年間ぐらいの間にどのぐらい雪が変わるのかということを示しました。その上で、棒グラフが4つあるのですけれども、一番右はこの間に年間の総積雪量は、現在に比べると60%程度まで減る。これはかなりはっきり実感できるぐらいの現象です。ところが、左側の、これは平地に限っていますけれども、最大降雪量で見ると、6時間の年最大で見ますと、その減少幅は20%にしかすぎない。現在の80%が維持されますし、1週間で見たときの最大積雪も72%までしか減らない。今年、東京でも大雪が降りましたけれども、そういうような大雪というのは今後もあり得るということを情報発信いたしました。
 それから、その次の4図を御覧ください。これは雪の多い地域の行政関係者と議論し、具体的には富山県だとか長野県ですけれども、特に要望の高いものについて情報を作成して提供をしました。まず上の2枚、富山と書いてある2枚の絵ですけれども、これは、道路の除雪の目安というのは日降水量で10センチなのだそうです。この頻度がどう変化するかということをマッピングしたものです。図の一番右のところに、「積雪深」と書いてあるのは僕の間違いで、「日数」です。除雪が必要な日数が2000年代と、それからMIROC5で2度上昇した年代、具体的には2040年代ぐらいに相当するのですけれども、そのときの変化を示したものです。そうしますと、平野部では現在、年に4日から7日除雪が必要なのですけれども、これが1日から4日に減少する。かなり大幅に除雪の負担は軽くなるということが示されています。ただ、先ほど申し上げましたように、豪雪というのは相変わらず起きるので、豪雪に対する警戒は怠ってはいけないということです。
 それから、下の図は長野県になりますけれども、スキー場の積雪量の将来予測です。これも2040年代、MIROC5で予測したときには、特に長野県の中南部を中心にして雪の量が減ります。具体的には、最大積雪深が2メートルを超えるスキー場は長野県の中南部ではなくなります。北部の方では、かなり温暖化が進んでも、スキーをすることについて支障は起きません。実は、スキー場を富山の方にはプロットしていないのですけれども、県の方から、富山県はスキー場が少ないので、特定されやすいので載せないでくれと言われています。それから、スキー場についてはもっとシビアなインデックスがあって、これは20センチ以上の積雪が90日あるというのが自然雪としてのスキー場の1つの目安らしいのですけれども、その図も作成したのですけれども、それも今のところまだ見せないでくれと言われています。
 4ページにお戻りください。プロジェクト終了後の見通しは話しましたので、5ページ。ここで、このプロジェクトを通じて、成功したと思われる点と反省すべき点をまとめました。まず、一般向けのシンポジウムは2012年に行ったのですけれども、有名な気象キャスターを2人もお呼びすることができたので、将来の気候変化情報を聴衆に伝えることができました。その説明は非常に成功したと思いますし、また5図、10枚目ですけれども、ここに富山県の気候温暖化の緩和策に関係するパンフレットなのですけれども、このパンフレットは、富山県が小学生を対象とした副読本としてまとめているものですけれども、この中で適応策に関係することで、このシンポジウムの中身を扱っていただくことができました。右の方に、先ほどお見せした、可視化した図が掲載されています。左の方には、キャスターさんが我々のデータを使って冬だけではなく、桜の咲く頃の変化だとか、あるいは夏の暑さの変化、こういうことも説明されていたのでこれも掲載されています。ただ、非常に残念なのは、雪が減るのですけれども、豪雪には相変わらず警戒が必要だということは書いていないのです。是非、それは書いてもらいたかったと私どもは思っています。
 もう一度、5ページの図にお戻りください。そういうことが成功点の1番です。そのほか、雪の場合は観測データがないというのが一番の問題だったのですけれども、現地の専門家らから数多くの積雪の観測データ、精度的には限界があるのですけれども、これが思わぬ収穫でした。それから、気象庁が『地球温暖化予測情報第8巻』というのを発表しています。これについても雪の予測がありますので、現在、気象庁側との研究者とも連携して、予測の不確実性の観点から、両方併せて分析を進めているところです。反省点としては、試験研究関連部署を除くと自治体との合意というのは、かなり大変なところがある。かなり時間が掛かりました。研究計画や、先ほどのような発表をどうするかということについては、協議に時間が掛かるということを当初から見込んでおく必要があったと思います。それから、自治体間でも温度差があって、複数の自治体との、これについても長野県との連携が少し遅れたのですけれども、もっと早くからやっておくべきだったというふうに考えています。
 私からの報告は以上です。

【安井主査】  ありがとうございました。先ほど申し上げましたように、御質問は議題2の説明が終わりました後にまとめてお願いしたいと思います。田中局長がお見えでございますので、御挨拶をお願いしたいと思います。

【田中研究開発局長】  研究開発局長、田中でございます。今、環境エネルギーということについては、きょう御出席いただいている先生方がいろいろな社会的な状況、国際的な状況ということを考えながら、それぞれ御活躍をされているというふうに思っております。IPCCの問題、あるいはここでも取り上げていただいているような「フューチャー・アース」の問題、それぞれ大事な問題として、文部科学省としてもきちんと真っ向から取り組んでいきたいというふうに思います。
 最近では、エネルギー基本計画というのが作られたのは先生方も御存じだと思います。エネルギー基本計画は、私ども原子力もやってはいるのですけれども、原子力エネルギーというのは今後の見通しが必ずしも見通せないときに、どういう環境変化を見通しながらエネルギー基本計画を作るのかということが大事だろうというふうに思いますけれども、必ずしもきちんとしたデータということが、むしろ我々の方から発信できなかったのではないだろうかという気もしています。
 環境エネルギー科学技術というのは、やはり成果というものがどうやって社会、国際、経済、あるいは人々の生活に役立っていくのかということまでたどり着かないと、これはなかなか私たちがやっている努力、あるいは先生方が日々御苦労されているような事柄が可視化されないのだろうというふうに思います。そういう観点からは、この研究計画・評価分科会ということで、議論をしっかりとやっていただいて、その成果を私たちの行政というところに生かしていきたいというふうに思っています。我々、単に研究のための研究をやっているということを外から見られがちな部分もあるのですけれども、決してそうではないということが特に求められるのが環境エネルギー分野だろうというふうに思います。これからもいろいろなところで、先生方の御指導をいただきながら、我々行政がきちっと進めていきたいというふうに思いますので、これからもますますいろいろ御指導いただきたいと思います。きょうは本当に暑い中、どうもありがとうございました。

【安井主査】  ありがとうございました。元に戻りまして、議題の1、2を続けさせていただきたいと思います。それでは、2番目でございますけれども、東京農工大学の千葉副学長がお見えでございますので、「産学協働による地球環境問題に対する国際的な取り組み」ということで、プレゼンテーションをお願いいたします。

【千葉副学長】  東京農工大学の千葉でございます。資料1-2を御覧ください。本学でこれまで実施してまいりました、特に産学協働、それから人材養成という観点からの環境問題に対する取組をいろいろやってまいりましたが、メリット、いい面もありますし、これから解決しなければいけない人材養成に関する問題なども経験してまいりましたので、そのあたりを御紹介できればというふうに思っております。
 2ページ目を御覧ください。これは、東京農工大学の方針で大変恐縮ですけれども、赤い字で下の方に「日本を牽引する大学としての役割」ということで、その次に、一番トップに「日本の産業界を国際社会に向けて牽引」と書かれております。恐らく、最初に産業界を国際社会に向けてというふうに示す大学はそれほどないかもしれません。ある意味、農工大は産業界との連携というのを非常に特徴として捉えて、これを生かすことによって日本の大学の総力を挙げていこうというふうに考えております。 下に赤い四角で4つほど囲ってありますが、これはいずれも近年、ここ数年、産学連携活動を重点的に行ってきたという1つのあかしでございます。3ページを御覧いただきたいのですが、実は産学連携というのは、一言で言うと非常にシンプルで、また世の中の役に立つ方向性を示すように見えるのですが、私が実際かなり深く関わったときに、大きな問題を感じました。というのは、いわゆる研究連携、相互の研究開発というのは進むのですが、それが最終的に世の中に送り届けられて、社会がそれを受け入れて、いわゆるイノベーションですね、何か継続的に大きな波及効果が出るまでにはかなり距離がある。そこで最も不足しているものは何かと考えたときには、それを牽引していく人であるということを非常に強く感じたところでございます。
 そういうこともございまして、3ページにありますのは、平成17年あたりから本学は産学連携というキーワードの上に、特に人の育成ということで、これは文部科学省その他の事業に一生懸命取り組ませていただいて、また真剣に取り組むことによって、次に解決すべき問題がいろいろ見えてきたという試行錯誤の連続の10年間だったというふうに考えております。せっかく経験してきたことですので、このあたりを御紹介させていただければと思っております。
 4ページを御覧ください。本学も、大変有り難いことに戦略的環境リーダー育成拠点形成事業を実施させていただきまして既に終了しております。特に現場立脚型ということで、実践ですね、日本あるいは世界各地で起こっている問題に直接触れて、それに対して何をアクションできるかというようなことを中心に事業を行いました。さらに、それを継承する位置付けになることができたのですが、博士課程教育リーディングプログラムを平成24年度から開始させていただいて、環境分野でグリーン・クリーン食料生産を支える実践科学リーディング大学院の創設。大学院を創設しますということを明言して、このプロジェクトを進めさせていただいております。大きな目標につきましては、赤い文字で書いておりまして、先生方非常に分かりやすいことかなと思いますが、こういうことを実際に世の中に出て、企業等とも連動して、引っ張ってこれを解決していく。あるいは企業が大きな社会的意義を果たすというようなところで役割を果たす人を育てようというふうに考えている次第でございます。
 5ページを御覧ください。先ほどの環境リーダーですが、ざっと見渡していただくと、大勢の学生さんを育成させていただいたのと同時に、東南アジア等の国々と連携を深め、最終的に出口、海外の大学の職員あるいは民間企業、省庁等に就職する。あるいは博士課程に行って、更に研究を発展させるという、勉強だけではなくて最終的にはその働き手になるという道筋は大きく広がったというふうに考えております。
 ただ、まだこれは経過処置でございまして、この時点で更にこれを継続的に、更に産業界をもっと動かしていくにはどうしたらいいかということで、今取り組んでいるのが6ページになります。
 環境・エネルギーという分野、特に実践ということになりますと、実は座学だけでは全く足りませんで、いろいろなアクティビティが必要になります。後ほど簡単に御紹介しますが、それを更に大学全体で共有して、大学院の専攻過程として定着させなければ一時的なプログラム、プロジェクトで終わってしまうだろうということで、実はこの考え方はリーディングプログラムにも引き継ぎまして、大学院を正式に設置しようという努力をしてまいりました。既に、このリーディングプログラムは開始して、実質的に2年弱ですけれども、来年4月から、この中心にあります、5年一貫性の食料エネルギーシステム科学専攻の設置がほぼ確実になりましたので、この夏から募集を開始しようというふうに考えています。何よりもこれが大学院教育課程として設置されたということで、これはもう永続的にこの教育をしっかりやっていく。またさらに、ここを中心にして、全学あるいは全国的あるいは世界に広げていく。かなり大きなことを申し上げているようですが、その裏付けの活動もしてきておりますので、それは後ほどまた御紹介させていただきますが、まず継続性が出たということが非常に重要だと思っております。
 7ページを御覧ください。実は、東京農工大学の農学系の大学院は、連合農学研究科というものを取りまとめて既に約30年になっておりまして、現在約18の大学の連携が確実に進んでおります。これは授業を共有したり、学生の相互交流などをしたりしておりまして、18大学全体で約1,000名の博士課程の学生がおります。さらに、上智大学、国際基督教大学なども連携を一緒に、この教育の中に入ってくださりまして、この輪が広がっておりますが、重要な点は農学という狭い分野、農学自体狭くはないのですけれども、農学という1つの分野ではなくてリベラルアーツなども含めた広い視野を持った教育ができるような体制ができたという点が非常に大きいと思っております。
 8ページを御覧ください。この連携をベースに、過去7年間にわたりまして、実は私も含めまして、約二百数十回全国の教授会等を、いろいろな大学をお邪魔して、この考え方を御理解いただき、また学生さんの相互交流を進めた結果、最終的に日本全国の博士200名以上を農工大に招聘してイノベーション研修、環境のリーダーになるような教育をして、更に海外での研修や就職をお世話するということを実施することができました。大学も国公私立にわたりまして35大学、あらゆる分野のところから参画してくださいまして、このような教育をかなり重点的にできたことを大変有り難く思っております。
 9ページ、これにつきましては自治体との連携も多く進みまして、例えば東北地方であるとか、沖縄であるとか、いろいろなところの自治体が、一緒にこういう学生さんと勉強して、各地の問題の解決に当たりたい。あるいは、自治体でそのまま学生さんを雇用したいという話が随分広がってまいりました。これだけでも博士課程の学生さんに対するイメージが随分変わってきたというふうに思います。7年前はほとんどある専門的な知識を持った以外は、余り博士の価値を認めてくださっていなかったのが世の中の反応ですが、現在は博士課程の学生を正式に受け入れるような人事システムも多数の企業が導入するなど大きな効果が出ていると私は感じております。現在、これは横浜市栄区からも研究費をいただいて、学生さんが区で抱える問題の解決に当たっております。
 10ページを御覧ください。先ほど200名の博士の学生さんを集めたと申しましたが、その一つの旗印となった連携先がスタンフォード大学です。スタンフォード大学のビジネススクール、それからスタンフォード大学の研究所というのがございまして、こことは6年前に、恐らく農工大が世界で初めて、大学として連携をすることができまして、既に200人ほどこの研究機関に送り込んでおります。要するに、スタンフォード大学はアメリカ式のイノベーションの成功したモデルをいろいろ共有するということで、あくまでもアメリカはこうやって成功したということで、では、日本ではどうやったらいいかということを考えるいいチャンスではないかというふうに考えております。また、右側がシュタインバイス大学という、これはメルセデスベンツを囲んでいる中小企業の社員が学生になっている、ドイツで唯一のメジャーな私立大学です。この学生さんたちも毎年70名ほど東京農工大学に来て、農工大周辺の中小企業の皆さん、農工大の学生と一緒に、日本あるいはヨーロッパにどうやって新しい技術を広げていくか、例えば自動車の省エネ化も含めまして、その基幹の技術はどういうものかというようなことを一緒に勉強して、授業までを進めていくという取組をしております。
 11ページですが、このような経験を生かして、今本学が考えておりますのは、日本の大学としての力、一番上にありますが、これはどこの大学さんも同じと思いますが、国際水準の教育研究を展開するということですが、そのために右方向に回転していくと、「大学改革、機能強化」、今これを盛んにやっているところです。農工大としては、「構想力・実現力」を持った人を育てようということですが、更に左に行くときに大きな障害が生じます。大きな障害というのは「機関連携」とか企業との連携を、本当に実業ベースで考えるときには非常に大きな交渉力、説得力などが必要になります。この部分ができないために、一応リーダーは教育しましたというところで終わっている場合が多いように思います。実際、我々は教職員を含めて、この機関連携、実際に事業を進めていくという左上のイノベーションというところに持っていくプロセスを重点的に実施しているところです。
 12ページですが、今の世界情勢、東南アジア、ASEANはまだまだ収入が低く、先進国のレベルに達しておりません。多くの要求、要望があることが見えております。また、下の図で、ドイツは日本と同じような技術があるにもかかわらず、日本の3倍の輸出額がありまして、これは中小企業連携が非常にうまくいっておりますので、日本はまだ新しい世界が開く余力がたくさんあると考えております。
 13ページが、今、農工大が特に新興国として取り組んでいるところを挙げましたが、東南アジアに限らず、西アジア、中東方面とも連携を深めておりまして、こことの事業化、企業を巻き込んだ事業化を具体的に進めているところです。
 14ページを御覧ください。具体的な例というのは、たくさん、既に私たちはこういうところに出向いて、様々な情報収集を学生さんとしておりますが、バナメイエビですとか、カラギーナンの生産、あるいは植物工場の需要、淡水の需要たくさんございます。こういうところに日本の技術を導入して、また、現地でも多くの産業を引き起こしていきたいという要望があることが分かっております。
 更に具体的なものとしては15ページ、サウジアラビアとの連携を非常に強化しておりまして、KAUSTという国立大学に、学生職員を派遣しますと、農工大の技術で是非ここに植物工場を作ってほしい、作りたいという要望があります。作りたいだけではできませんので、関連する日本企業、それから資金的な裏付け、現在、三井住友銀行さんの本店で先日も会議をしておりますが、銀行全てを挙げてこのアクションを進めたい。もちろんこの例に限らず、関連する2万社ぐらいの会社を三井さんはお持ちなので、そういうところの要求、やはり人の問題が大きいということで、資金的なバックアップも含めて進めたいということをおっしゃってくださっています。
 16ページが、1つの例で恐縮ですけれども、リーディングプログラムの学生のフォーラムのコンペティションがあったのですが、農工大の学生がサウジアラビアでのレタス生産工場ということで最優秀賞をいただきました。これは決してプレゼンがうまかったというのではなくて、サウジアラビアの流通業界との連携も既に押さえ、そしてまた彼らはシリコンバレーの投資家との交渉もして、現実性のある、資金の裏付けもあるような提案をできたことが大きかったというふうに思っております。
 17ページに、実際に環境問題であるとか、食糧問題を認識して事業にする、あるいは企業と連携していくというところで必要なものです。根底には構想力、人を惹きつける力、倫理観などがありますが、多様なスキルが必要で、これは1年、2年ではとても身に付くものではないのですが、いろいろな投資家さんや企業の方との連携で、こういうものをブラッシュアップしているところです。また、シュタインバイス大学あるいはスタンフォード大学でのビジネススクールの学位などを連動して取れるような仕組みを、今検討しておりまして、シュタインバイス大学ではこれが取れそうなところまで交渉が成立してきております。
 18ページが、学生さんがどういうところで活躍するか、また、日本の企業が、例えばアジア新興国に進む上ではやはり人の配置、教育、ニーズの把握等がすごく重要だということをイメージに書かせていただきましたが、左の方には国連、世界銀行等もありますが、こことの連携も農工大は既に進めております。
 19ページが、現在までに、この考え方で賛同し、連携協定がほぼ成立しているところ。8割方ですが、正式に連携協定が成立しております。これは普通の研究連携ではございません。環境、食料、エネルギー問題のイノベーションリーダーの育成という特別なプログラムを一緒にやりませんかという投げ掛けをして、約5年間で世界有数のトップクラスの大学が一緒にやりましょうということで、既にこれは活動が開始されております。
 最後になりますが、20ページ、実際にこういう活動をして育成された学生さんが、どういうキャリアパスをということで、実例を含めて御紹介しますが、左側、若い学生さんを国連食糧農業機関に派遣しまして、1年間、食糧問題や環境問題の研修、アフリカ等での研修も含めて、最終的に彼女は世界銀行の正式の職員になりまして、どういうところにお金を投資したらいいのかというようなことを扱える立場になっています。また、ある学生さんはSRIでの研修を経てシリコンバレーでのベンチャー企業と連携し、環境問題に対する起業という方向に進んでいるところでありまして、こういういわゆる研究者の道とはちょっと違いますが、こうやって世の中に大きなインパクトを与える、世の中を引っ張っていく人の育成というのが非常に重要だというふうに考えているところでございます。以上です。

【安井主査】  ありがとうございました。それでは、続きまして、理化学研究所の侯副センター長からの報告をお願いしたいと思います。お願いします。

【侯副センター長】  理化学研究所の侯です。よろしくお願いします。資料1-3を御覧ください。我々が最近、よりよいアンモニア合成法を目指して、現在、窒素分子を活性化して、水素化させてアンモニアを作るという研究をしております。去年スタートしたばかりの研究なのですけれども、最近の研究成果について御紹介させていただきたいと思います。窒素分子の活性化ですので、分子レベルの話になりますので、ちょっと細かいところもあります。御了承いただければと思います。
 まず、次のページ、2ページ目ですけれども、我々理化学研究所が現在行っている研究の位置付けですけれども、現在、御存じのように文科省と経産省がエネルギーキャリアというプロジェクトを融合して実施しているのですけれども、左側が文科省のプロジェクト、右側が経産省のプロジェクトです。左側はALCA、秋鹿先生がリードされている研究です。これは主に企業の方もかなり入って、非常に出口に近いことを意識して研究されているのですけれども、下にさきがけとCRESTですが、ここももう少し基礎的なところも含めた取組です。一番下に小さく書かれている理研ですけれども、我々はもっと基礎的なところから、特にアンモニアを中心に新しい合成法を検討しているところです。温和な条件下で特殊な試薬を用いずにアンモニアを合成できる触媒の開発を目指しております。
 次のページですが、窒素は空気の約8割を占めている豊富な資源ですけれども、窒素分子は非常に安定なものですので、それを切断してアンモニアを作るということはなかなか難しいのですけれども、しかしそれを工業的に実現したのが、次のページになりますけれども、ハーバー・ボッシュ法というプロセスです。これは1913年、ちょうど100年前ですけれども、ドイツのBASF社が初めて工業化に成功したわけです。その後、爆発的にアンモニアの消費量、ここで示しているのは生産量ですが、それと同時に世界人口も爆発的に増えたのですけれども、現在の世界人口の約半分は、いわゆる合成アンモニアによって支えられているというふうに言われています。2010年現在のアンモニアの世界生産量は1億3,000万トン以上というふうに言われておりまして、当然たくさんのエネルギーも消費しておりまして、全世界の供給エネルギーの1%以上は消費しているというふうに言われております。
 次、5ページですが、このように、我々の体に入っているいわゆるDNAとかアミノ酸とかタンパク質というのは、約半分がこのように人工的に作られたアンモニアから食物を経てできているというふうに言っても過言ではないです。さらに、肥料だけではなくて、アンモニアはいろいろな機能性材料の合成にも広く使われております。例えばナイロンとか、ポリウレタンとか、こういったものの窒素源はほとんどアンモニアです。更に最近、水素キャリアとして、アンモニアがかなり期待されております。すなわち水素はガスですので、なかなか輸送とか貯蔵が難しいのですけれども、それを液体のアンモニアにしますと、割と貯蔵とか輸送も容易になりまして、オンサイトで水素を取り出すとか、あるいはアンモニアを直接燃やして、アンモニアエンジンとか、アンモニア車を作るという研究も最近されております。これは窒素とか、アンモニアの重要性です。
 次のページ、6ページになります。工業的にアンモニアがどのように作られているかについて、簡単に御説明いたします。まず、化学反応式が出ていて恐縮ですけれども、このように窒素と水素が反応してアンモニアができるのですが、工業的には大きく2つのプロセスがあります。1つは、水素を作るところですけれども、天然ガスあるいは石炭から、いわゆるウォーターガスシフトという反応で水素を作る。そうやって作られた水素と、空気中の窒素と反応させてアンモニアを作る。下の図で言いますと、左側が水素を作るプロセス、右側がアンモニア、いわゆるハーバー・ボッシュプロセスです。そこで、左側で作った水素と窒素を混ぜて、加熱して、圧力を上げて、右側のところで窒素と水素を反応させてアンモニアを作る。作ったものを450度以上、高圧、300気圧以上ですけれども、それを一旦冷却して、アンモニアを取り出して、未反応の窒素と水素をもう一度反応容器に戻して再利用するというような感じです。これは非常に大きな装置、プラントになるのですけれども、これは、やはり今は1日数千トンみたいな形だと割と安く作れるのですけれども、少し小規模、例えば100トン以下になると、ぐっとコストが上がってしまうというような問題点が指摘されています。いわゆるオンサイトでの利用が難しいというふうに言われています。
 より温和な条件下でアンモニアを作るにはどうすればいいのかということですけれども、まず8ページ目です。ちょっと簡単に、これも化学反応式が出るのですけれども、この反応は基本的に発熱反応です。ですので、熱力学的には温度が低い方がいいのです。一方で、この反応自体は分子の数が減る反応ですので、圧力を高めた方がいいのです。下の図を見ていただくとお分かりになるように、例えば200気圧という圧力を掛けて反応を行いますと、500度という温度ではアンモニアの転換率20%以下になりますが、ここでもし温度を200度にしますと80%以上になります。当然、理論的にはこのようになりますけれども、実際問題としては、現在の触媒、ハーバー・ボッシュ触媒は低温では、200度という温度ではほとんど活性がないので、反応の速度が非常に遅いです。なかなか平衡に達しないのです。ですので、もしより高活性な触媒が見付かれば割と低い温度でもこの反応を更に有利に進めることができます。
 そこで、更にどうすればいいのかということですけれども、次の9ページ目です。まず、ハーバー・ボッシュプロセスの詳細、反応機構的なところを簡単に御説明いたします。左上のところですけれども、これは基本的に固体触媒ですので細かいところはなかなか分からないのですけれども、現在一般的に言われているのは、固体触媒の表面で、まず水素分子が分かれて、ヒドリドという活性種になりまして、そこで窒素も同じように窒素-窒素三重結合が非常に強いものですけれども、これを高温で切断して、更に切断された窒素と水素が結合して、いわゆるN-H結合が形成されるわけです。ずっと数段階を経て、最終的にNH3というアンモニアになるわけですけれども、この反応は非常にきれいな反応。要するに窒素からアンモニアを作るには、まず電子が必要です。窒素-窒素分子を切るには電子が必要。更にアンモニアを生成するにはプロトン、水素が必要ですけれども、ここでは水素分子が電子源及びプロトン源あるいは水素源の両方として働くのです。非常にきれいな反応なのですけれども、問題点はかなり高温高圧が必要という点です。
 一方で、このヒドリド活性種を使って窒素を活性化できないかという研究も当然出てくるわけですけれども、右上の反応ですけれども、ここでタンタルという二核のヒドリド錯体を使った反応ですけれども、ここでは確かに窒素分子が金属に取り込まれたことが実現されたのですけれども、それ以上反応が進まなかった。アンモニアを作るには、まず窒素-窒素結合を切らないといけないのですけれども、この場合は三重結合が一重結合に還元されただけで、それ以上反応が進まなかった。水素化も起きなかった。常温・常圧で初めて窒素を活性化させてアンモニアに成功したのが、左下の反応です。Schrockが2003年に発表した仕事ですけれども、しかし、この反応をよく見てみますと、モリブデンに対しては確かに触媒的なのですけれども、8当量だけですけれども、8回回っているのですけれども、しかし、ここではかなり特殊な電子源及び水素源を使っています。例えばクロムという金属化合物を使っていますけれども、ここでは触媒になっているというよりは、むしろ過剰に使っています。ということで、8当量のアンモニアを作るのに40当量のクロムが使われている。更に水素源も特殊なピリジニウム塩を使っています。こういったものが、反応後にもまだ不要物、ごみとしてたくさん出てきますので、原子効率-が非常に悪いですね。確かにこれは学術的に非常に面白い研究ですので、初めて常温・常圧でアンモニアを触媒的に作ることが実現できたわけです。右下ですけれども、これは昨年『ネイチャー』に掲載された研究ですけれども、この場合も基本的に左側のモリブデンの場合と似ています。昨年度の『ネイチャー』の論文では鉄を触媒として用いているのですけれども、基本的にこの場合も電子源が特殊なもので、水素源も更に特殊なものです。同じ問題点を抱えております。
 このような状況下で、我々がどうすればいいのかということですけれども、次のページ、10ページを御覧ください。我々の考え方としては、ハーバー・ボッシュのところで最も活性な部位を取り出したような形、イメージですけれども、多金属ポリヒドリド錯体について興味を持ちました。なぜかといいますと、ここでは複数の金属ヒドリドサイトを持っておりますので、協奏的に働くと窒素を容易に切断することが期待できます。さらに、この点においてはヒドリド、先ほどのハーバー・ボッシュのプロセスに似ていますけれども、ヒドリド原子が電子源と水素源の両方として作用することが可能です。この場合、ハーバー・ボッシュと違うところは、我々の場合、構造が明確で、制御することが可能であろうということも期待できます。
 次のページに移らせていただきますが、11ページですけれども、またこのような複雑な化学構造式が出てきてしまって申し訳ないのですけれども、左側の三核のチタンヒドリド錯体を用いますと、確かに常温・常圧で窒素分子を切断し、更に片側の窒素と水素が結合することができました。N-H結合ですね。右側の方。これは初めての例ですけれども、常温・常圧で特殊な電子源あるいは水素源を使わずに、窒素-窒素結合の切断及び窒素-水素結合の形成に初めて成功したわけです。
 更にこの反応プロセスをもうちょっと詳細に見てみますと、12ページです。細かいところで恐縮ですけれども、実際この三核チタン錯体が窒素に対して非常に高活性を示します。マイナス30度でも窒素を取り込むことができます。そこで窒素の三重結合が一重結合に還元されます。温度をマイナス10度に上げますと窒素-窒素結合が切断されまして、室温になりますと分子内で水素が移動して部分的にN-H結合ですね、いわゆるイミドというものになります。
 これはまだ量論反応で、これからアンモニアにするために更に水素化をしないといけないのですけれども、13ページになりますが、これは未発表の結果ですけれども、ここでまず先ほど御説明した、室温20度で窒素と反応させると、イミドヒドリド錯体を与えたのですけれども、更に調べてみますと、この錯体にヒドリドがまだ2つ残っておりますので、窒素、今度は温度を180度にして、100度前後でも反応が進行しますけれども、更にもう1分子の窒素を活性化することができます。左側のトリスイミドという化合物を与えますが。そこで、紙の上では更にBという一番右の化合物を水素と反応させればアンモニアが発生して、Aになるという化学反応式が書けるのですけれども、実際に調べてみたら、この反応はなかなか難しくて起きなかったわけです。もう一つ、Aを水素化させますと、当然アンモニアが、例えば5分子の水素と反応させると2分子のアンモニアが発生する計算になりますけれども、そこで元の錯体というか、一番左側に戻りまして、ここでグルグル回ると触媒的になるのですけれども、現在それに向けて努力しているところです。
 14ページですが、将来的なイメージとして、分子性の触媒を固体に担持させて、このようにカラムみたいな形ですけれども、窒素と水素を流してアンモニアを合成するというイメージですが、なぜこのようなことをするかといいますと、ハーバー・ボッシュもそうですけれども基本的に平衡反応ですので、出てきたアンモニアをまず取り出さないといけない。将来的にこれを目指しております。
 ちょっと時間が押しております。最後に、アンモニア以外も先ほど御説明しました含窒素有機化合物の合成にも、直接活性化された窒素を利用して、実現したいというふうに考えております。今までの含窒素有機化合物の合成の窒素源は、ほとんどアンモニアですけれども、ここでせっかく還元されたアンモニアをまた再酸化する必要がありますので、そこではアンモニアではなくて窒素を直接利用することが一番望ましいわけです。ここで省資源、省エネルギーに寄与できるというふうに期待しています。まだスタートしたばかりの研究ですので、今後いろいろなことを総合的に考えて進めていきたいと思います。以上です。よろしくお願いします。

【安井主査】  ありがとうございました。それでは、もう一方、江守委員でございますが、「今後の地球環境研究の在り方に関する検討会」での議論の状況についてということで、短めで、5分ぐらいでお願いしたいと思います。

【江守委員】  資料1-4を御覧ください。そういう名前の検討会で座長を仰せつかって進めております。めくってください。「設置の趣旨」というふうに書いてありますけれども、位置付けとしては研究開発局長の私的諮問機関ということで、きょうやっているここの委員会とは形式的には独立ですけれども、非常に内容が関係していますので、参考として御報告させていただくとともに、御意見などをいただけたら参考にさせていただきたいというふうに思っております。
 設置の趣旨ですけれども、いろいろ書いてありますが、分かりやすく言うと、今日一番初めに木村さんから御説明がありましたRECCAという課題が今年度で終了するわけですけれども、来年度文科省としては新しい事業提案をされると思いますが、それに向けた専門家等からの意見をインプットするというのが一番直接的な目的かなというふうに理解しております。それに伴いまして、ほかにもRECCA以外にも行われている地球環境研究の、2番目のポツに書いてありますけれども地球観測や気候変動予測、データ統合・解析に関わる研究が実施されていますので、それとの包括的な関係も同時に検討する。特にデータ統合・解析に関しては、DIASというシステムがあと2年、来年度末に今の研究期間を終了して長期運用に移るという計画ということですので、その在り方についても併せて検討する。
 3ポツ目、4ポツ目は、その際の境界条件としまして、1つには適応計画が政府内で議論が始まっていて、国としての適応計画の議論があるということが1つと、もう一つは国際的には「フューチャー・アース」という地球規模の持続可能性に関する新しい研究プログラムが走り始めていますので、それをにらみつつ議論をするということになっております。
 めくっていただきまして、検討会構成員ですけれども、ざっと見ていただくと、いわゆる専門家だけではなくて、自治体ですとかNPO、企業の方にも御参加いただいて幅広い観点から、特にニーズを含めた観点から検討を進めております。
 めくっていただきまして最後の紙ですけれども、検討のフェーズを申し上げると、今、3回の検討会を実施しまして、中間取りまとめの骨子案について議論をしていたところで、今、事務局に取りまとめとドラフティングをやっていただいているところです。その骨子案の中から、ポイントを少しピックアップさせていただいたものを書いているのですけれども、必ずしも今の検討会の構成員の中でコンセンサスがあるかどうかは分かりませんけれども、主要と思われる幾つかの点です。
 まず、「気候変動への適応に向けた研究開発」について、「国が実施した気候変動に関する最先端の研究開発の成果を「出口」へと着実に導くための戦略的なシステム設計(人材育成を含む)の必要性」というのが認識されています。RECCAに関しては、先ほどの御説明にもあったように、自治体と組んで、ある意味画期的なことがなされたと思いますけれども、それを更に一歩推し進めるにはどういうシステム設計にしたらいいのか。それに関係しますが2番目に「研究者、自治体に加え、企業等を新たにプレーヤーとして加えた研究体制の構築」、3番目としまして、「地球観測や地球環境予測等の基盤的プログラムの重要性の再確認(ニーズに応じた重点化は必要)」です。これは、今研究をやっているプレーヤーが言いますと、引き続きやらせてほしいと聞こえるのですけれども、そうでない分野の専門家の方や、あるいは社会の側から見ても、こういうのは引き続き必要だろうという意見をいただいております。
 次の「「フューチャー・アース」構想の推進」についてですけれども、「我が国の技術・経験の活用とシステム設計の重要性」、それから「得意分野への資源の集中的投下の必要性」というポイントを挙げさせていただきましたけれども、「フューチャー・アース」は国際プログラムで、それに日本としてどう関わっていくかということは、様々なところ、学術会議等でも検討はされているところですけれども、特に文部科学省としてこれからお金をつけていくときに、どういう考え方をしたらいいかという点かと思います。
 最後に、「データ統合・解析システムの長期運用」についてですけれども、「自立的な運用に向けた利用者増の明確化と利用支援体制の構築」、「我が国にとって重要な情報の収集・創出・公開に関する戦略の必要性」です。データ統合・解析システムは様々なデータを持っていて、それが基本的には専門家がそれを使って、そのシステムがないとできないような解析を行うという趣旨のシステムと理解しておりますけれども、それが長期的にシステムを、ハードウエア自体としても維持していかなくてはいけません。そのための予算も確保されなくてはいけないという中で、どういった目的と使い勝手であれば、そういった形として運用可能なのかというような観点かと思います。以上です。

【安井主査】  ありがとうございました。それで、以上、何の議論もなく議題の1が終了しまして、議題の2に移りたいと思いますけれども、事務局から、これからどういう方向で議論していただくかということに関わるような御説明を簡単にいただいて、その後、35分、40分ないから、それぐらいの時間を掛けまして、御質問及び御議論いただけたらと思います。御説明お願いします。

【山村課長補佐】  資料2でございますけれども、資料2-1から2-8までを使いまして、簡単に現在の国内外の状況を御紹介させていただきます。まず、資料2-1でございます。これはIPCCのワーキンググループ2とワーキンググループ3の報告書が最近発表されましたので、その内容を簡単に御紹介させていただきます。
 まず、1ページ目の左上の方でございますけれども、AR5のワーキンググループ2ということで、公表が3月31日でございました。「実際の適応を念頭に、観測された影響と将来の影響及び脆弱性について、地域・分野的に、より具体的に評価」をしたということ。最後に書かれておりますけれども、緩和策と併せて推進することが重要ということが指摘されております。ワーキンググループ3については、その下でございます。4月13日に公表されました。近年の排出量の増大ですとか、早期の排出削減の重要性や技術開発・導入の重要性というものを強調した内容になってございます。これにつきましては、6月4日から開始されますUNFCCCの第40回補助機関会合で議論される予定と聞いております。更にAR5ですが、統合報告書が本年の10月に取りまとめられる予定ということで、これがCOP20などに使われていくというような内容になっております。
 続いて資料2-2はGEOSSでございますが、ちょうど2014年、本年の1月に政府間会合が開かれまして、GEOSSの活動を2025年まで継続する、延長するということが承認されました。我が国からは櫻田文部科学副大臣が御出席されて、意見交換や議論をされたということでございます。更に4月に入りまして、小池俊雄先生に御参加いただきまして、新10年実施計画の議論が開始されておりますので、そちらの議論がこれから進んでいく予定です。2014年11月、本年の本会合で新しい10年実施計画の初案について提出される予定ということでございます。
 続きまして資料2-3です。「フューチャー・アース」に係る最近の国際動向について御紹介させていただきます。既に御案内のとおり、本年3月にフューチャー・アース国際本部正式事務局やエンゲージメント委員会の公募が締め切られています。今、本部の方で選考作業等が進んでいるところと承知しておりますけれども、今月5月に、SRA(フューチャー・アースとして取り組むべき優先課題)選定準備ワークショップが京都にて開催されております。来月の6月になりますけれども、北京で科学委員会と暫定エンゲージメント委員会が合同開催されまして、同月中に正式事務局、エンゲージメント委員が決定される予定と聞いております。7月に入りまして、正式事務局長の公募開始ということで、こちらは年内に決定される予定と聞いております。10月に、先ほど申し上げたSRAが公式に発表される予定と聞いております。平成27年1月、これも予定でございますけれども、これが暫定事務局の引継ぎが完了しまして、正式事務局が始動される予定ということでございます。
 続きまして、資料2-4、国内動向について御説明させていただきます。先日23日に総合科学技術・イノベーション会議の第1回の会合が開かれました。ここで、総合科学技術会議が取りまとめておりますイノベーション総合戦略の改訂についての案の考え方が示されてございます。特に環境エネルギー分野の関係ですと中ほどの第2章というところで、小さくて恐縮ですが、「2.産業競争力を強化するための分野横断技術」ということで、最後の「地球観測技術や資源循環等の環境技術」ということが明確に位置付けられました。さらに、「クリーンで経済的なエネルギーシステム実現」ということでSIPが間もなく開始される予定ということでございます。1枚めくっていただきまして、今申し上げた内容を少し細かく御説明させていただきますと、環境エネルギー課といたしましてこれから取り組んでいかなければいけない課題ということで、SIPの中では2点ございます。1つが左側にあります「SIPが先導」と書いてありますけれども、1つは革新的燃焼技術というものがありまして、これはトヨタの杉山常務理事がPDということで間もなく研究が開始されるものです。これは産学連携によって、熱効率50%以上、内燃機関の高効率化を目指すものでございます。下の方が、エネルギーキャリアということで、これは私どもALCAというプロジェクトでエネルギーキャリアを進めておりますが、これにつきましては間もなくALCAを卒業という形になりまして、こちらのSIPの方で発展的に引き続き取り組まれていくというような状況でございます。ちなみに革新的燃焼技術については20億円、エネルギーキャリアについては29億円という予算額が予定されてございます。さらに、先ほど御紹介申し上げた下の「分野横断技術による産業競争力の強化」ということで、一番右下のところでございますけれども環境技術ということで「地球規模の観測データ等を活用した将来の再生エネルギー量のポテンシャル把握や、食料生産管理への活用」とかそういったものが提言されているということでございます。
 続きまして資料2-5、「平成26年度アクションプラン特定施策レビューについて」ということで、総合科学技術会議の中で、昨年1月から3月ぐらいにかけまして、特定施策のレビューに幾つかの施策が取り上げられ、私どもの関係の施策もレビューいただいたというところでございます。具体的には3点ございまして、1つが「次世代蓄電池技術」の研究開発、「エネルギーキャリア」、最後は「革新的地球環境研究」ということで、気候変動リスク情報創生プログラムですとか、RECCA、DIASといったものがレビューされているという内容でございます。レビューの内容について簡単に御説明させていただきますと、まず、次世代蓄電池は7ページで、こういう各省連携の取組とは非常に重要だということで、これからもこういう両省連携は進めていこうということでした。さらに、蓄電池につきましては利用拡大に向けた取組というものを進めるようにという御指摘がございました。次にエネルギーキャリアでございますけれども、17ページで、これも蓄電池と同じように本テーマのマネジメントをきちんと両省で行っていくことが重要ということでございまして、ステージゲートをしっかりと設定して研究成果を見える化するようにということ、更に今、取組の位置付けというものにつきまして、こういうものをきちんと整理しながら進めていくことが重要であるという御指摘がありました。
 最後のページになりますけれども、23ページで、革新的地球環境研究に関する取りまとめということで、こちらの方につきましては、RECCAですとか気候変動リスク情報創生プログラムといった、今私どもが実施しているような課題の間で成果をきちんと橋渡しして、出口の方に持っていくことに取り組むようにという御指摘がございました。もう一つは主にDIASですけれども、ICT研究者の育成、長期運用なども踏まえてのことだと思いますけれども、そういったものにも取り組むべきという御指摘がございました。
 その次、資料2-6でございます。先ほど局長からも御説明させていただきましたとおり、エネルギー基本計画が4月11日に閣議決定されました。その中で特に環境エネルギーに関する部分についてざっと御説明させていただきます。1枚おめくりください。1ページ目です。再生可能エネルギーの総体的な位置付けとしましては、温室効果ガス排出のない有望かつ多様で、重要な低炭素の国産エネルギー源ということで、今後3年間、導入を最大限加速する。その後も積極的に推進していくというような指摘がなされております。さらに、具体的に今どういうアクションをとっているかといいますと、1ページ目の下の方ですけれども、再生可能エネルギー等関係閣僚会議の創設ということで、これが資料2-7に当たるものなのですけれども、エネルギー基本計画が閣議決定された日と同じ閣議で、閣議口頭了解されて設置されてございます。
 1枚おめくりください。2ページ目の下ということで、水素社会がエネルギー基本計画において非常に重要なものとして位置付けられておりまして、更に1枚おめくりいただいて3ページ目の上の方でございますけれども、有機ハイドライドやアンモニアといったエネルギーキャリア技術というものも重要との御指摘を受けております。そのすぐ下の真ん中の方ですけれども、戦略的な技術開発ということで、戦略的技術開発はやはり引き続き進めていくべきだという御指摘もありました。エネルギーキャリア技術ですとか、太陽光発電、バイオマスエネルギーといったものに取り組んでいくべきということ。さらに、最後でございますけれども、双方向的なコミュニケーションの充実ということで、これは思想的な部分だと思いますけれども、対話型の政策立案実施プロセスというものが重要であるという御指摘がありました。
 最後に資料2-8でございます。これは「適応計画」ということで、今どういうふうに動いているかということを簡単に御説明させていただきます。一番右側で御説明させていただきますが、平成25年7月2日に気候変動影響評価等小委員会が中央環境審議会に設置されまして、現在議論が進められているところでございます。平成25年度には影響評価に関わる中間報告というものが取りまとめられたというふうに聞いております。さらに、政府全体の「適応計画」の策定ということでは、現在把握している状況では平成27年2月から夏ぐらいにかけて閣議決定を目指すというようなプロセスになっていると聞いております。以上でございます。

【安井主査】  ありがとうございました。これから御議論いただくのに非常に論点が多くて大変です。多分、事務局の最大の目論見というのは、恐らくポストRECCAをどうするかとか、DIASをどうするかという具体的なところにあるのかもしれませんが、非常に広範にわたりますので2つの方法があるかと思っておりますけれども、御発表いただいた方に御質問するというところから始めていただく。若しくは、どなたか俺がまとめてみせるという人が手を挙げていただいて、そこからお話をいただくという多分2つの方法があるのですけれども。もしまとめるとしたら橋本先生ですけれどもね。何か一言ありますか。

【橋本主査代理】  きょうの会議は、明らかにやはり来年度の予算のための会議だと理解していますので、最後に事務局の山村さんの方からお話されたことが重要だと思うのですけれども、私は政府全体の科学技術関係に関わっていますので、その観点から申し上げますと、来年度の予算の計画に向けて、これに向けてのということでまとめというか、ポイントなのですけれども、山村さんのお話からありましたように、資料2-4で御説明ありましたけれども、今、これはまだ原案ですが、科学技術イノベーション総合戦略の改訂が進んでいますが、原案ですけれども、かなり固まっているわけですけれども、その中で山村補佐の御説明にあったように地球観測等々と書いてあるのが、産業競争力を強化するための分野横断技術というところに位置付けられているのです。これが強いメッセージでして、しかし、大変不満は多いと思います。皆様方にとって大変不満が多いのですけれども、これは現政権において政策的に産業競争力強化というのが一番なのです。
 ですので、まずはそこをしないと次が始まらないという観点で行っていますので、エネルギーは分かりやすいのですけれども、環境に関してもこの視点が今は必要だと。それがずっとこれで行っていと思っているわけでは全くなくて、近々第5期の科学技術基本計画の改訂に伴う議論がいろいろ始まりますけれども、それもこうだというわけではないと思います。まだ決まっていませんけれども。少なくともしかし、現在、来年度の予算に向けていろいろ議論するときには、今の観点は忘れるわけにいかないということと、もう一つ重要なのは、御説明の中にありましたけれども省庁連携です。これもすごく大きな言葉でして、ここでやっている中では今もお話のあった電気の話と、キャリアの話は経産省と一緒にやってきたので、そういう意味でレビューの結果も好意的なレビュー結果が出ているのです。これは非常に大きなメッセージでして、今年度も、来年度の予算に向けてやるときに、きょうのお話を伺っていると、最初のお話等々から分かるように、今までやっていた大きなプロジェクトがなくなるので次のものをやはり考えていくのに、どういう視点が必要かという観点で見ると、今申し上げたことの特に後半部分というのは大変重要かなと思いました。
 ですので、それは先ほど御紹介のあった今度の地球環境研究の在り方に関する検討会について、多分そこでいろいろなことをやっていくのだと思うのですけれども、このとき、やはり文科省だけでやらなくて、文科省と関係省庁が一緒に歩調を合わせていくということが極めて重要で、多分このお話ですと、経産省も重要ですけれども、国交省とか環境省とかこの辺と歩調を合わせてプログラム化していくということは、大変重要なのかなというふうに思いました。
 その辺のことを、松尾課長はどのように戦略的に思っておられるのかあれですけれども、今はまだ多分この研究会だけで言っているのだと思うのですけれども、これはそういうふうにいった方が政府全体の流れとしては非常に受け入れやすいということは明確にあります。ただ、ちょっと私、ほかの環境省なり国交省なりが、この辺の関係のところでどういうふうに動いているのかというところは全然知らないで言っていますので、無理なのかも分かりませんけれども。研究者としては、皆さん両方に関わっているのですよね。全部の省に関わっているのですよね、多分。ですけれども、省庁の立て付けとしてはそうなっていないような部分があると思いますので、その辺をうまく持っていくというのが大変重要なイシューかなと思いました。以上です。

【安井主査】  ありがとうございました。三村主査代理もやはりまとめてくださるのですね。

【三村主査代理】  まとめということじゃないですけれども、ちょっと適応とか、温暖化の観測や影響予測について発表があって、その評価のことで、まさに今、橋本先生もおっしゃったようなことと同じようなことを感じたので言いたいのですけれども、評価の中に、課題間での成果の橋渡しをしろと。それから、「研究成果等のデータを国際社会でも有用に使えるようにしていただきたい」と書いてあるのは、非常に私は重要だと思いまして、今、気候変動の影響研究とか適応の研究がどういう段階にあるかというのを最初に言いたいのですけれども、4年前に文科省からRECCAのプロジェクトディレクター(PD)をやれということで指名されまして、同じ時期に環境省のS-8のプロジェクトの研究代表ということで、幾つかの大きなプロジェクトの責任者を同時に始めたわけです。
 それで、すごい今までにないような成果が上がりまして、世界で見ても、これだけ細かい解像度で気候予測だとか、影響予測をできるような成果を出したのは恐らくないというようなところまで行ったわけです。それで、自治体も20とかそれぐらいの自治体が、そういうことで今まさに問題が起きているので気候変動の適応に取り組みたいという意欲を持って取り組むようなところまで行った。そういう意味では非常に影響力の大きい研究だったと思うのですけれども、次のステップでそういう流れを見てみると、そういう研究成果を実際の自治体の政策や、あるいは企業の政策や、大きくは日本全体の適応計画に生かすという実務的な問題にどうつなげるかというところが、今、非常に大きな課題になっているのです。そこは研究者の先生方は、実はなかなか踏み込みたくないところかもしれないけれども、社会のニーズはそういうところに非常に大きくなっていると思います。
 それで、ではそういうものを一旦出したら未来永劫その傾向で行くかというと、状況も変わるし、科学的な認識も変わるわけですから、何年かに一遍必ず日本の影響はこうなりますというレポートというか、認識を改めないといけないし、気候予測も改めないといけないし、それから政策自体も見直しをする必要があるわけですよね。そういう意味では順応型の適応というのは、英語で言うとadaptive adaptationという非常に妙な言葉になるのですけれども、そういうプロセスが適応政策のプロセスだと思うのです。それを支えようと思うと、研究者の人がいつも、何年かに一遍モデルを改良しては成果を出していくというプロセスをやるのか、研究とは別にそういう実務的な、言ってみれば研究成果と政策をつなぐようなものを考えるのか。ひとつそういうところが非常に課題になっていると私は思っています。それが1つ。
 それから2番目はですね、さっきおっしゃっていた省庁連携というので、研究成果の点からもそうなっていまして、RECCA自体は、言ってみれば、影響予測と適応の上流側の情報をやっているわけですよね。ダウンスケールですから、非常に高度の難しい技術を開発していただいている。S-8はその結果を受けて、今度は影響予測とか適応策そのものをやっているわけです。さらに、リスク創生というのをやっぱり文科省でやっていただいていると思うのですけれども、それは自然災害に関する最悪シナリオということで、もしも将来スーパー台風が来たときにはどのようなところを通って、どれぐらいの強さになるのかとか、そういうものを出している。それが今、3つそれぞれ成果を主張しているわけです。ところが、そういうものを全部束ねて初めて意味があるようなものだと思うのです。ですから、それだけではなくて、そのほかにリスク創生の中ではモデル開発そのものもやられていると思いますし、それからもっと下流側では、低炭素社会のデザインというものもJSTのセンターでやっているとか、いろいろありますので、どこで束ねるかは別にしても、そういうものを大きく束ねないと成果が1つにまとまらない。それが国際的な発信力にもつながらないというようなことにもなると思うので、来年の予算を考えるまでにそう時間もないかもしれませんが、省庁連携、統合というのは、私は今の段階では是非必要なことではないかと思っています。その2つですね。

【安井主査】  ありがとうございました。かなり包括的な御議論をいただいたわけでございますが、恐らくかなり細かいところまで議論している暇は余りないかもしれませんが、キーワードとして省庁連携。ただこれ、省庁連携をやれといっても、委員レベルでこうやれという話でもないので、これは事務局はどうやるか。今は、先ほど御紹介があったように経産省との合同検討会はあるのですけれども、ほかのところとは、とりあえずは正式にはやっていない。裏では多分あるというような感じかと思いますが、ですから、それは事務局でやっていただくのかな。
 そうすると、あとは課題間での成果の連携とか、社会的ニーズに合っているかどうか。要するに出口志向の研究になっているかどうかというのは、どうも皆様、余り気に入らないという可能性もあるのですけれども、仕方がないという方向性ではあって、そのあたりはどういうふうにお考えなのか。RECCAは、先ほどの富山県の例などはかなり出口志向になっているような気がします。それから、あとは、こういう研究をどうやって産業競争力という結構難しい言葉とつなぐかというところもあって、そのあたりを、これはやっぱり……。

【橋本主査代理】  そうですね。ちょっとポイントなのですけれども、言葉でつなげても、これは分かるので意味がないのですね。

【安井主査】  そうだと思いますね。

【橋本主査代理】  それで、難しいことだということも分かっているので、でも、そういう大きな方向、絵を描いた中のこういうことをやっているのだということが分かる。それが重要なのです。

【安井主査】  そうだと思いますね。というようなところが、多分ポイントかと思います。そういうことに関しまして、先ほど実例を幾つか、我々伺うことができておりますが、例えば人材育成なんかは全部に関わることでございますので、そういったところを含めて何かまず、どうですかね、少し細かいところからの議論をいただいてもいいかと思っていますが、何かほかに。

【江守委員】  先ほど三村さんからのコメントがあったところで、ちょっと追加でお伺いしたいことがあってですね、リクエストさせていただきたいと思うのですけれども、先ほど御紹介させていただいた検討会で議論するに当たって、やはりRECCAが……。三村さんからRECCA全体を見て、どのように御覧になっているかということを伺っておきたいと思いまして、ポイントを僕なりに2つ挙げさせていただくと、1つはフューチャー・アースと関係するのですけれども、フューチャー・アースではトランスディシプリナリーということがあって、コデザインということが例えば言われていて、ステークホルダーと一緒に研究をデザインするのだという観点に立った場合には、RECCAというのは自治体と組んで研究プロポーザルを出してもらうということで、ある意味ではコデザイン的なことが既に行われている部分があると思っているのですけれども、ただそれは非常に、プロポーザルを出してもらうまでの短期で相手を見付けて相談して、それでデザインして出してもらったということがRECCAの成果に、そのやり方というのはどのように、いい面でも、あるいは限界がもしかしたらある面においても影響しているのかということ。それが1つ。これは、もし木村さんからも補足があれば伺っておきたいと思うのですけれども。
 もう一つはですね、基本的に研究者が、こういうダウンスケーリング手法を自治体と組んでやりたい。特に組める自治体を探してということで、基本的にはシーズ主導で組める相手を探して出てきたということだと思うのですけれども、組める相手も日本地図で割といろいろなところに散らばっているようではありますけれども、スポット的であって、サンプル的であって、事例的であるわけですよね。もちろんそこからグッドプラクティスが出てきて、いろいろなところに展開できればいいのかもしれないのですけれども、そういう事例的にRECCAの場合は研究が行われたということを基にして考えるときに、水平展開というか、一般化というか、その見通しとか戦略とか、あるいは次の課題でそのようなことをより意識しなくてはいけないときにはどのようにデザインすべきであるという、もし御意見をお持ちでしたら、そのあたりを伺いたいと思います。

【三村主査代理】  RECCAについては、今、フューチャー・アースと言われているトランスディシプリナリーや、あるいはコデザイン的な研究を本格的にやったというのではなくて、そういう考え方で最初始めてみたというくらいではないかと実は思っています。皆さんよく御存じのとおり、インターディシプリナリーというのは学際的だからいろいろな分野が協力してやる。トランスディシプリナリーというのは研究コミュニティーと、それから実際の社会のステークホルダーが一緒になっていろいろ考えて、動いて、研究者も社会の一員として何かやっていくということですよね。今やっているRECCAというのは、そこまでトランスディシプリナリーではないというふうに私は思っていまして、それで、実は実際にやってみると、自治体の人はどういう反応をするかというと、「いっぱいモデルもあります」、「こんないいモデルで誤差も評価しています」ってやると、「じゃあ先生、どれを使っていいか、20年後何度になるか教えてください」って。そうすると、「それは不確実性もあるし、いろいろモデルにも差があるから」って言ったら、「先生が分からないっていうのなら、我々はもうやりません」とか、要するにお任せ的なのです。それだけ、気候変動の科学というのは結構難しい。だから、今のものというのは、我々が、皆さんが使えるようなデータを作るまで、いい科学技術を開発してその成果が出てきたので、この成果に従ってみてくださいとか、せいぜい選ぶときに幾つかシナリオを出して、あなた方はどのシナリオを選ぶかを決めてくださいというようなレベルだと思います。ですから、さっき実務的と言ったのは、気候変動に対する科学自体は、そうすぐにぱっと見たから分かるみたいなものではなくて、どんどん進むと思うのです。科学自体を進めるという面と、科学の利用を実際にどうやったらいいのかというところをつなぐブリッジになるようなものが必要なのではないかというのが1つの趣旨です。それは、プロジェクト自体が担うというのはちょっと重いですね。別のものが必要なのではないか。
 それから2番目の、そういうのをどういうふうにデザインしたらいいですかということですけれども、これは別に批判しているつもりでも何でもないのですけれども、RECCAは最初、完全にある特定の地域をターゲットにした気候変動のダウンスケールとかそういうようなものを、今、木村先生がおっしゃってくださった3つの領域をターゲットにしたものを公募しますということで公募されて、12課題選んだ後にPDでまとめてくださいと言われたので、そのストラクチャーを作るのに実はかなり苦労した。どう分けたらいいのか、どこが共通の技術なのか、どこが共通の視点なのか。だから、逆に、今はもうそういうことで分かってきたので、どういうものを戦略的な目標に掲げてやるということを、まず大きなものを決めて、それでそういう戦略に従って適切なプロジェクトを募集するとか、もしそれをやるときにPDを指名されるのであったら、その戦略を決める最初からPDと相談しながら、どういうストラクチャーにすべきだというある種の絵を持ってやると、次のステップは、もうちょっとそういう研究全体の戦略性が出るのではないか。ただ、それをRECCAだけで、RECCAの後継というか、1つのプロジェクトだけでやるというのはなかなか難しいので、さっき言ったように、今進んでいるほかのものと、どこは共有して、どこは独自のものを出すかというのを考えないといけないのではないか。それはPDとしての感想です。

【橋本主査代理】  ちょっとコメント、一言だけ。もう一つのキーワードは、今のお話を聞いて思ったのですけれども、地域の活性化というのがこれから極めて大きなキーワードとなってくるのです。ですので、富山県は石井知事が元消防庁長官だったということもあって、大変、多分御理解があったのではないかなと思うのですけれども、そういうことでもいいわけで、そういう地域の活性化というキーワードと併せて、こういう気候変動の話を持っていくというのは大変政府的には重要なことですね。

【三村主査代理】  すみません、いいですか。重要なことを指摘していただいて、それを忘れていたのは申し訳ないのですけれども、RECCAの視点というのはまさにそういうのが入っていて、特に2011年の大震災の後に目的を付加して、地域の復興に貢献するというのを目的の中に入れたのです。何が起きたかというと、例えばJAMSTECと京大のプロジェクトではアカイカの漁場を事前に予測するというので、みんな今まで船が勝手なところに行っていたのを、ここに行けば捕れるという情報を出す。そこに行って捕るわけです。捕れたかどうかというのを、すぐにiPadで返信してくるのです。そうすると、またそれに次の情報を入れてみたいなインタラクティブなものにして、燃料は節約できるわ、捕れる量は増えるわ、みたいなことをやっています。
 それから、東北のプロジェクトはやませや冷害、いもち病が発生する気象条件というのを農業研究所と一緒に研究して、その条件に合うようなことが今後一、二週間の間に起こるかどうかという情報を農家に発信しているのです。それとか、東大のグループは福井県で実際の米を作っているところにセンサーをまいて、どういう条件の下で一番いい米がとれて、しかもそれの質がいいかということを特定するようなことをやってとか、非常に具体的です。だから、1個1個の成果を聞くと、さっきの木村先生の話もそうですけれども、そんなことまでできるようになったのということは出ているわけですけれども、それをさっきおっしゃったスポット的ではなくて戦略的にやるためには最初からデザインが必要だという話だと思います。

【安井主査】  ありがとうございます。木村先生何か。

【木村特任上席研究員】  自治体との連携は、その自治体の中にある試験研究機関とは非常にスムーズに行くのですけれども、自治体本体は、いろいろな意思決定に物すごく時間が掛かりました。なので、研究の進め方とそれとの同期をどう取るかというのは、かなり大きな問題だろうというふうには感じました。

【安井主査】  ありがとうございました。いろいろ御意見を伺いたいのですけれども、今のお話を伺っていると、もしRECCA2にするのであれば、例えば他省庁とやはり合同検討会を作ってからやれという話。例えば農水あたりがどうして興味を示さないのか不思議でもありますよね。そういうことを何かやれというふうに皆さんがおっしゃるかどうかですね。あと何か。いろいろな論点が出ておりますが。

【林委員】  江守先生がおっしゃった検討会での議論は、どういうことをやっておられるというのがあったのですけれども、これを見ていると、排出されてしまった二酸化炭素をどうするかというようなところが中心なのですが、発生源側、すなわち都市、産業、交通システム、ライフスタイルとか、そっちの方がない。次期プログラムでは逆から発生源側と発生排ガスの影響をつなげる必要があるのでは。
 そのときに参考になるのは、私が翻訳に携わった、エルンスト・フォン・ワイツゼッカーの近著『ファクター5』で、非常に具体的な問題提起をしているのです。前著『ファクター4』が京都会議のときに出たわけですが、システムではなくて単体のことをやっている。例えば交通ですと、自動車のエンジンをどうやって効率化するかということを言っていたのですが、それは今度交通のシステム全体をどうするかを論じている。この本の各チャプターで、実際どういう問題が起こっているかというのを解き明かしているわけですが、それに対してRECCAの後継プログラムが、研究成果としてこれをバックアップできるかをやってみたらいいのかな、と思った次第です。
 それから、もっと具体的な話ですと、私は政府開発援助(ODA)に携わっていて、20年ぐらい前にバンコクの都市を道路中心から鉄道中心へとどう改造したらいいかとかをやって、一日の通勤時間が8時間超の人が1割に達したという、もう絶望的な渋滞だったのが、我々の提案で鉄道ができてきて変わってきたのです。
 そういう都市の問題もあるし、最近のPM2.5なんかは、あれは単に発生源の問題だけではなくて、北京が激しい大気汚染に見舞われると汚い産業を追い出す。そうすると内陸の方の、数百キロ離れた石家荘などの都市が発展したいから欲しがる。固定汚染源が移るから、今度は石家荘に大気汚染が移る。
 それはいいのですが、固定源が移っただけではなくて、大消費地は動かないのです。大消費地はそのままで工場だけ動くから、作った製品をまた運び戻すのです。そうすると、ものすごい隊列を組んだエンジンの悪い、でかいトラックがドーッと走っていて、大量の排気ガスを出している。日本もそういう時代があって、1960年代に工業再配置法を制定して大都市から工場を追い出しましたが、日本は国土が狭いので、東京が蹴飛ばして出ても、50キロとか30キロ出ただけですが、中国だと300キロ、500キロ出ていくのです。それを運び戻す。
 しかも、今度は材料が製品より重たいのだけれども、材料も多分ガタガタ道のときは近場から調達していたのが、もっと奥の何百キロか先から高速道路を造ったがため、それによって実は毎年6,000キロの高速道路を造っているのですが、また運び込むとか。汚い石炭を燃料としていたから、今度は燃料も何百キロのところから運んでくるみたいな非常に複合した格好になっていまして、私はODAの方でも言っているのですが、交通インフラ整備を、経済発展によかれと思いやっているのだけれども、大気汚染など逆のことが連鎖的に起こるので、そこを研究する必要があると思うのです。
 これは1つの分野では全然対応できないのです。大体、都市・地域計画をやってきた人は、気候がどうなのかというのは考えたこともないのです。このことから、分野連携して、発生源側と影響側をつなげるようなことがRECCAの次で出てくるべきだと思います。以上です。

【安井主査】  今のお話に関して、例えば環境省あたりは、そういう社会システムとミティゲーションという研究をやっていますよね。原澤さんのところがやっているのではないかと。

【原澤委員】  そうですね。いわゆるシステム的な研究を進めていて、モデルを作って、いわゆる低炭素社会作りを今アジアの都市に展開しているとか、そういう意味では、そういった研究のフューチャー・アースの中では、位置付けられていくのではないかということだと思います。今まさに中国とか発展途上国をどうするかみたいな話は、日本でやった研究を、いかにそういったところに応用していくかの1つの大きな研究課題ではないかと思いますけれども、ちょっと問題が大き過ぎて答えになっていません。

【杉山委員】  直接関係ないですけれどもいいですか。前回も何も発しなかったので、今日はちょっとお話ししようと思うのですけれども。先ほど三村先生のお話もありましたけれども、適応とよくよく考えていくと、結構経済開発につながるものが多くて、イカもそうですし、米もそうですし、その観点が私はとても大事かなと。先ほどの産業競争力の強化というのとまさにつながる話でもありますので。そう思って江守さんのやっておられる御検討で、産業界の方がきちんと入っているのですけれども、もう少し増やしてもいいのかなと。水産業をやっておられるメーカーの方とか、農業をやっておられる企業の方とか、そういう観点もあると。重厚長大産業、鉄鋼の方が1人入っているのですけれども、多分センスは全然違うだろうと思いますので、気象の情報をいかに経済開発に生かすかというのは、足元でも大事ですし、将来も大事だということで、そういう技術は途上国にとっても行く行くはすごく重要になってくると思いますので、それが1つかなと。
 もう一つが、トランスディシプリナリーと言っているものですけれども、きょう御報告いただいた件は非常に精緻に研究なさっていて、自治体とも協働を試みられて、非常に大変な御苦労だと思います。それはすばらしいと思うのですが、一方で、余りこれをやるように義務付けるというか、そういう方向に持っていくと、心配するのは、政治的な影響を科学が受けて中身が適切に発信されないようになってしまうということを、私は結構心配していて、今回の研究はすごく得心が行くのですけれども、最後のパンフレットだけはちょっと何か違和感を抱くのは、温暖化の影響というのは調べると、地点や調べるものによっては悪影響ではなくて、いい影響の方が多い場合が結構出るのですけれども、恐らくこれを自治体の方と一緒にやると、自治体の方はそんなものは絶対に出してほしくないので、やっぱり温暖化防止のキャンペーンとつなげたくてやっている部分はあると思うのです。今回も、もし費用便益分析を環境経済学風にやると除雪費用が浮いたという方が、スキー場に降雪機を入れるより大きいので、このぐらいRCP4.5ぐらいであればいい影響の方が多いという結論になってしまうと思うのです。リスク情報として平べったく伝えるならそうなのですけれども、それだと、富山県の方針の温暖化防止のキャンペーンには全く載らないものになるので、この辺の気持ち悪さ。科学というのは必ずお客さんの意図した答えが出るとは限らない。そこに価値があるわけで、余り近づき過ぎることも気持ち悪いけれども、もちろん近付いた研究も必要という、そういうポートフォリオの感覚が必要なのではないかと思います。

【林委員】  除雪費ってすごいですよ。上越市なんかは、公共事業費の0.6掛けだけ余分に掛かるのです。

【安井主査】  ほかの方何か。

【河宮委員】  今の点に少しだけ関係するのかもしれないですけれども、出口志向が強調される中で、そこの方向性に全く反対するものではないのですが、やはり近付き過ぎるとゆがめられるという危惧はすごく持っていて、一言で言えば、やはり基礎研究というところにきちんと視点を置いておかないと、ゆがんだ形の事業ができ上がってしまうのかなという懸念はちょっと持っています。例えば木村さんが示してくださった資料7ページ目の右上の図などを見ると、RCP4.5というシナリオは1つですけれども、当該地域の不確実性がものすごく大きくなっている。これは多分全球レベルで見たときの不確実性よりも大きいですよね、多分。あ、違いますか。何か誤解していますか。

【木村特任上席研究員】  雪が降っている地点があるということです。雪だと、それがかなり拡大されるように見える。

【河宮委員】  はい。なので、この地域における不確実性というのが、どういうメカニズムでもたらされているかであるとか、そういう気象学的に非常に基礎的な問題をはらんでいるプロジェクトでもあるので、そこのところの視点というのをしっかりと置いた上で出口志向を目指すというバランス感覚がこれから必要なのかなと感じました。以上です。

【安井主査】  ごもっともです。

【渡辺委員】  すみません。私、この委員会に参加させていただいて日が浅いのですけれども、きょうの木村さんのお話を聞いて、本当に研究の成果がきちんと実社会に開かれていて、しかも子供たちにまで、先ほどパンフレット云々があったのですが、還元されている研究を見るのは初めてで本当に感銘を受けました。先ほどのお話もあったのですが、長野県だけ、富山県だけではなくて、私は新潟から来ているのですが、是非とも新潟県も仲間に入れていただけると本当に除雪と農水産業、それこそ道路関係の情報もいただきたいなと思うのですが、先ほどの余り近付き過ぎないようにというお話も分かるのですけれども、本当に社会に還元されている研究になっているというところを広げていただければ、本当にその価値が上がってくるかと思います。以上です。

【安井主査】  確かに出口べったりで気持ち悪いという感覚が非常に強くあることはあるのですけれども、現実として、しかしかなりそういう方向でないと予算が付かないというところをどういうふうに考えるかというかなりプラクティカルな問題があって、そこは当面そうなのでしょうね。多分ね。

【橋本主査代理】  それに環境というと、人と関係のない環境はないですからね。

【安井主査】  だから、確かに……。

【橋本主査代理】  やりやすいと思いますよ、ほかのに比べると。逆に言うと。

【安井主査】  だから、宇宙とか言えばそう簡単に出口志向……。なってはいるような気もするけれども、衛星などはそのような気がしますけれども、数学などもそうなのか分かりませんけれども、やっぱりおっしゃるとおりで、環境エネルギーというのは本当にかなり人間とべたべたしているので、余りやはりべったりしてしまうと気持ち悪いとも言っていられない部分があるという実情かと思いますが。ほかに何か。きょう是非何か一言、二言。

【安岡委員】  当面の課題はRECCAの後継を考えるということだと思うのですけれども、先ほどから議論になっているRECCAで非常にいい成果が上がっている。これから、それを更に評価していくというときに、RECCAがなぜ成功しているかということの1つの理由は、やっぱり地球シミュレーターを始めて、最先端のモデルを共生プログラムで作って、今は創生になっていますけれども、この日本が誇るべきところが強調されているところが、最後に成果に表れていると思います。ですから、RECCAを考えるときには、例えばこれから国際展開をするときに、日本がこのシステムを世界に売れるようにするために、日本の強みは何かというのを常に押さえておいた方がよくて、逆に20年後に更に生きていけるためには、RECCAのようなもので何を日本が押さえておかないといけないか。何が強みになっているかというのは是非考えないといけないだろうなと。特に文科省のプロジェクトとしてなので、ほかの省庁との連携をやっていくことは非常に重要ですし、出口へ持っていくことは重要ですけれども、一番基礎的な日本の強みをどこに置くかという検討は、やっぱり忘れてはいけないだろうという気がいたします。以上です。

【安井主査】  そのあたりは是非、ちょっと時間が足りないので、またゆっくり議論をさせていただきたいと思いますが、一応地球シミュレーターも新しくはなるので、計算能力も何とかかんとか持てる最低限のところは行けるかなという感じはありますね。ですから、そこで本当にピュアサイエンスとして何をやるかというのは、先ほどの河宮さんのお話の延長線上に何かがあるような気がするという。

【安岡委員】  すみません。強みというのは、多分、ピュアサイエンスの部分だけではなくて。

【安井主査】  だけではないと思う。それはおっしゃるとおり。

【安岡委員】  システム的にどうやって構築していくかというのも、多分世界がこれから、フューチャー・アースもそうですが、システムとしていかにやっていかなければいけないかという部分があると思うのです。そこの部分、ちょっと日本はまだ弱いので、そこは考えておいた方がいいような気がいたします。

【安井主査】  システムとは何か。

【三村主査代理】  度々すみませんけれども、今、安岡先生がおっしゃったことで、RECCAの後継の話と、日本の地球環境研究全体はどうするかという話は少し分けて考えた方がいいのではないかと思っていまして、というのは、地球温暖化のことだけ考えても、さっきGEOSSのことありましたけれども、観測というのは衛星をどうするかみたいな話から、モデル開発、より進んだものをどうするかという話もあれば、今やっているようなダウンスケールや影響評価や適応という話もあれば、エネルギー技術という話もありますよね。それら全体をどういうような俯瞰図、構造にするかという話はすごく重要ですけれども、それが即座にRECCAの後継につながる話ではないと思うのです。

【安岡委員】  そうです。

【三村主査代理】  どこでバウンダリーを作るか。つまり、RECCAの話をダウンスケールのモデルから適応の評価のところまでをやるのか、それとも、ダウンスケールのところに焦点を合わせるのか。そこのところはうまく切り分けて、環境エネルギー課で考えるときに、地球温暖化問題の全体の課題をどういうようにうまく俯瞰して絵を描くか。その中に、とりわけ際立つようにRECCAの後継の部分を、どこの分を切り出すかという2つの問題が今あるのだと思います。そんな他人事みたいに言わないで、そう思うなら何か言えとかいうことになるかもしれませんけれども、ちょっとその話をすると長くなるので、江守さんの委員会で是非2つのことを考えていただければと思います。

【江守委員】  ちょっとまた別の話なのですけれども、簡単に少し戻って、先ほど社会と近付き過ぎるとどうなのかという話があったので、少しそれにコメントしたいと思います。僕は、実はこの富山のシンポジウムで基調講演とパネルのコーディネーターをやらせていただいて非常によかったのですけれども、そのときにも感じたしコメントしたのですが、気候の問題、地域に密着して話をするとどうしても、こう言うとあれですけれども、矮小な話になるか、大げさな話になるかで非常に難しいなと。分かりやすく言うと、桜の咲くのが変わってきてちょっと気持ち悪いので省エネをしましょうという話で終わってしまうか、それとも、巨大台風が来るかもしれないから云々みたいな話になるか。そのときに思うのは、先ほど河宮さんはバランス感覚とおっしゃった、そういうことかもしれないと思うのですけれども、要は、地域は地域のコンテクストがあって、それでいろいろ心配していることとか、解決してもらいたいと思っている問題とかがあるわけですけれども、コデザインというのは別にそのことを言うとおりに、科学者が社会の言うことを聞くことを意味していることを意味しているわけでは恐らくなくて、例えばグローバルという長期のことを考えている専門家は、地域のコンテクストのことを学ばなければいけないし、逆に地域の社会の人たちはグローバルなコンテクストはどうなっているかということに目を開いてもらう必要があるという、それが相互に学び合うということをやらなくてはいけないということなのではないかなと思っています。

【安井主査】  実を言うと、一番重要な議題が残っていまして、議題3というのはハウスキーピングに関わることなのですけれども、まさにこれのためにある委員会なので、それをやらなくてはいけないので、議題の3をお願いいたします。事務局から説明をお願いします。

【山村課長補佐】  簡単に御説明させていただきます。資料3でございます。本年度も評価をしなくてはいけない課題がございますので、本日、この評価計画を御決定いただきたいということでございます。評価につきましては、例年そうなのですけれども、事前評価、中間評価、事後評価という3本立ての構成になってございます。今回、特に目的のところにつきましては、最後のところに書かせていただいておりますけれども、特に社会情勢の変化と、プロジェクトが立った以降、これは特に中間評価に当てはまるものだというふうに認識しておりますけれども、プロジェクトが立った当時からどのように状況が変化し、研究経過がどのように進捗し、そしてこれからどうしていかなければいけないのかというところを特に重点的に評価いただければと事務局としては考えてございます。
 具体的な評価課題につきまして御紹介させていただきますと、2.に入りますが、事前評価につきましては、まだ概算要求は固まっておりませんので、これは次回の委員会におきまして該当するものがあれば御審議いただきたいと考えてございます。
 中間評価が2件ございます。1件が「東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト」ですけれども、これは2つから構成されておりまして、福島が産総研と連携してやっております太陽光発電の「革新的エネルギー研究開発拠点の形成」が1つ目。2つ目が岩手、宮城等と連携しましてやっております潮力、波力、バイオマスエネルギー等から構成されますクリーンエネルギー研究開発の推進でございます。2件目が、「気候変動リスク情報創生プログラム」ということで、こちらの方は先ほどから議論がございますけれども、こちらも中間評価の年を迎えますので、御協力いただきたいと考えております。
 1枚おめくりいただきまして、事後評価が2ページ目になりますけれども、「大学発グリーン・イノベーション創出事業」を平成23年から開始してございますけれども、この中に「緑の知の拠点事業」というものがございまして、これらは3か年の計画になっておりまして、具体的に言うと、エネルギーマネジメントシステムですけれども、それを大学のキャンパスを用いて実証的にやるという取組でございました。これが3か年終了いたしましたので、こちらの方は事後評価をいただきたいと考えてございます。
 「3.評価方法」につきましては、事前評価については、私どもの方でどういうものを概算要求するかというのをまとめさせていただいて、事前にメール等の手段を用いまして、皆様方から御意見を募り、次回の評価委員会で御審議いただこうと考えてございます。中間評価につきましては、23ページ目と25ページ目を御参照いただければと思いますが、安井主査とも御相談させていただきまして、エネルギー分野の評価ワーキングと環境分野の評価ワーキングで2つのワーキングを作らせていただければと考えてございます。エネルギー分野につきましては、中間評価と事後評価の両方を御審議いただき、環境分野につきましては中間評価のみとなると思っております。以上でございます。よろしくお願いいたします。

【安井主査】  ということでございまして、主たる御了解をいただくのは、ワーキンググループを2つ作らせていただいて、本日御欠席ですけれども山地委員と安岡委員にそれぞれのワーキンググループの座長をお務めいただくということでございます。よろしくお願いをしたいと思います。以上でございますが、何か御議論があれば、あるいは御注意いただける点があれば伺いたいと思いますけれどもいかがでございましょうか。

【松尾環境エネルギー課長】  1つだけよろしいでしょうか。すみません。橋本先生からお名前をいただきながら、何もしゃべらないのはまずいという気もしますので30秒だけ。ポストRECCAの話に戻ってしまうのですが、地球環境の考え方の取組全体の中で、RECCAというのはある意味特殊なものであって、そのポストRECCAをどうするかという議論からすると何となく本当は小さい議論なのですが、全体のバランスが必要だということで、本当にそのとおりなのですが、RECCA及びポストRECCAを考えるときには、多分RECCAというのは、三村先生からもお話がありましたけれども、極めて研究者と自治体が努力をした結果、うまくいくモデルというものができるということが分かったというものだろうと思います。
 ただ、今後地球環境の成果というものを出口に結び付けていくことを活性化させるためには、日本中の人に「さあ努力してくれ」と言ってもそれは無理なことであって、特に研究者は研究者評価という厳然たる事実の中で、そこを飛び出してうまくやれと言ったって、100人の先生がいたら95人は本当にやっていただけるかといったら、それは無理があるかと思うのです。なので、そこをいかに文科省が提供する土台の上で、多様なニーズに合わせて、いかに地球環境の研究成果を多様なニーズに合わせてアレンジして適応策の立案に結び付けていくかという、まさに江口先生の紙の言葉で言えば戦略的なシステム、これをどうするか。民間的センスが必要になるのではないかという気がしているのですけれども、そういうものをいかに構築し、文科省がそこにどういう土台を提供することができるかというのが1つのポストRECCAの考え方かなと思っています。
 国内のニーズを向けば、産業が生じるということもありますし、日本の地域の特性、地域活性化にもつながる。国外に目を向けてそういうことを考えれば、今度は日本初の新産業創出につながるかもしれない。こういう付加価値を求めていくのかなと思います。そのときに、農工大の千葉さんから話のあった産業を向いて、そういう人を社会に出していけるということが併せてないといけないので、そのセットとして、文科省としてどういうことが考えていけるのかなというのが1つの思案かなというふうに思っています。
 ただおっしゃるとおり、文科省は土台だけ提供してあとはどうでもいいやというわけにはいかないので、出口のことをいろいろ考えておられる他省庁さんとの連携というのはエネルギーと同じように必要になるので、すみません、これからやろうかと思っていたのですが、例えばIPCCの枠組みで、ほかの対策が、省庁との連携の枠組みがあったりしますので、一応IPCCの枠組みではありますけれども、そういうところで少し話をしていこうかなというふうには思っております。次回の委員会に向けて、その辺検討させていただければというふうに思っております。すみません。長くなりましたが以上です。

【安井主査】  ありがとうございました。議題4、その他。何か連絡事項が事務局からあるようでございますのでお願いします。

【山村課長補佐】  本日の議事録につきましては、後日事務局よりメールで、委員の皆様にお送りさせていただきます。御確認いただき、修正等がありましたら御指摘ください。最終的には文部科学省のホームページに掲載することで公表させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。また、旅費、委員手当等の書類につきましては、記載内容を御確認の上、お帰りの際に事務局に御提出ください。本日の資料ですが、郵送御希望の場合はお手元の封筒に資料一式を入れておいていただければ、後ほど事務局より郵送いたします。次回の会合につきましては、8月12日午後3時から午後5時を予定してございます。場所は調整中です。どうぞよろしくお願いいたします。

【安井主査】  ありがとうございました。次回、大変変な時期で申し訳ございません。以上をもちまして、第5回環境エネルギー科学技術委員会を閉会いたします。本日はありがとうございました。

―― 了 ――

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