1.今後の地球環境研究の在り方について(中間報告) はじめに

 本報告書は、文部科学省が2014(平成26)年3月に設置した「今後の地球環境研究の在り方に関する検討会(以下「検討会」という。)」における議論について中間報告として取りまとめたものである。
 気候変動に伴う台風や集中豪雨等をはじめとした自然災害リスクの増大が懸念されるなど、地球環境が直面する複雑な諸課題による影響は今後ますます深刻化していく可能性があり、これに対応することが喫緊の課題である。我が国は、これまで蓄積してきた気候変動予測情報・技術等を活用し、関係府省が一体となって解決に向けた取組を強化していかなければならない。
 「科学技術イノベーション総合戦略2014(※1)」においては、環境技術は産業競争力を強化し政策課題を解決するための分野横断技術のひとつと位置付けられており、取組の強化により、科学的知見の創出による国際貢献や、新産業の育成への貢献等が期待されている。
 検討会においては、地球環境研究に関する最近の国内外の状況を踏まえ、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に対する協力をはじめとした国際貢献の推進に加え、気候変動への適応に関連した新産業の創出等に係る厳しい国際競争を勝ち抜くための研究開発を強化する観点から、我が国が喫緊に対応すべき、「気候変動適応研究推進プログラム(RECCA)(※2)」の成果・経験を踏まえた気候変動への適応に向けた技術開発の在り方の検討、「フューチャー・アース」構想の戦略的な推進、データ統合・解析システムの長期的・安定的運用体制(以下「長期運用体制」という。)への移行という3つの課題について集中的に議論を行った。


※1 2014(平成26)年6月26日閣議決定

※2 事業期間:2010(平成22)年度~2014(平成26)年度

気候変動への適応に向けた技術開発

 IPCCは、2007(平成19)年に公表した第4次評価報告書以来、実に7年ぶりとなる第5次評価報告書の策定に向け、第1作業部会(自然科学的根拠。以下「WG1」という。)、第2作業部会(影響・適応・ぜい弱性。以下「WG2」という。)、第3作業部会(気候変動の緩和)の各作業部会において、順次評価報告書を公表している。
 WG1第5次評価報告書では、気候システムの温暖化については疑う余地がないことが示された。続くWG2第5次評価報告書では、現在、既に温暖化の影響が広範囲に観測されているとされ、効果的な適応策を講じ、緩和策を併せて促進することの重要性が指摘された。
 適応策は、温暖化の影響から国民(地域住民)の生命・財産を守り、生活の安全・安心をもたらすものである。現在、政府内では環境省を中心に、気候変動に対応するための適応計画の策定に向けた議論が開始されており、自治体も本格的な適応策の検討を始めているほか、企業も適応を新たなビジネスチャンスととらえ、積極的な事業展開を進めている。こうした取組は世界各国で進められており、国際的な技術開発競争が始まっている。RECCAでは、極端気象や農業、水資源管理に関する対象地域に即した予測情報の生成や、その発信に必要な基礎的なツールの開発、試行的な運用の実施といった成果が出る段階に至っており、これらをベースとして地方特有の影響を考慮した適応策の立案や、グリーンビジネスの国際展開のような国内外のニーズに応じて取組を発展させるべき段階にあると考えられる。
 我が国は、全球規模の気候変動予測情報・技術に関する世界トップクラスの経験・能力を有しており、その強みを活用して競争に勝ち抜き、継続的に国際貢献を果たしていくための具体策を検討する必要がある。

「フューチャー・アース」構想

 地球環境研究の進め方自体についても、学術界を中心に、大きな議論が起こっている。自然科学や人文・社会学という分野の枠を超え、地球環境研究におけるシームレスな学際的・統合的研究を進めるため、2012(平成24)年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)において、国際科学会議(ICSU)、国際社会科学会議(ISSC)、国際連合教育科学文化機関(UNESCO)、国連大学(UNU)、国連環境計画(UNEP)、ベルモント・フォーラム(BF、世界各国の研究ファンディングエージェンシーの集まり)、地球変動問題出資機関国際グループ(IGFA)、世界気象機関(WMO)により、「フューチャー・アース」構想(以下「FE構想」という。)が合同で提案された。
 具体的な手法として、成果を社会に実装し、最終的に社会変革に結びつけるという目標を達成するため、研究者中心で計画・実施していた従来型の研究を変革し、分野の壁を超えて企画段階よりステークホルダーとともに立案、協働して地球の変動を包括的に研究(トランスディシプリナリー研究(以下「TD研究」という。))することが想定されている。
 こうした流れを受け、文部科学省では、「持続可能な地球環境研究に関する検討作業部会(※3)(以下「FE作業部会」という。)」において議論を行い、2013(平成25)年8月に、今後の取組の在り方等についての論点整理(※4)を取りまとめた。
 フューチャー・アース暫定事務局は、2014(平成26)年10月に、FE構想として取り組むべき優先課題(SRA:Strategic research agenda)を決定・公表するための準備を進めており、初期設計も最終段階を迎えつつある。FE作業部会後の状況の変化も踏まえ、目の前に迫ったFE構想のフルスタートに向け、対応すべき事項について改めて整理し、具体的に着手する必要がある。


※3 「科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会環境エネルギー科学技術委員会」の下に設置

※4 「持続可能な地球環境研究の進め方について 中間とりまとめ(論点整理)」

データ統合・解析システムの長期的・安定的運用

 気候変動をはじめとする水、食糧問題、生態系・生物多様性保全等の地球規模課題の解決に必要となる科学的情報を提供するために、データの解析処理を行うための共通的プラットフォームを整備・運用し、近年飛躍的に増大している地球観測・予測データを収集・解析する技術や、課題解決に必要となる情報を抽出し、政策決定者等が利用しやすいように変換する技術が求められている。
 このため、文部科学省では、気候変動への適応等に関する政策決定や意思決定に有効な情報を創出するツールを構築することを目的として、2006(平成18)年度からデータ統合・解析システム(DIAS)の開発を開始し、2010(平成22)年度までにプロトタイプ(試作版)を完成させた。この結果、世界で初めて、多種多様かつ大容量な地球観測データ、気候変動予測データ等を統合的に組合せ、水循環や農業等の分野における気候変動の影響評価や適応策立案に資する科学的情報に変換し、提供するプラットフォームが実現した。2011(平成23)年度からは、DIASを社会的・公共的インフラとして実用化するための、更なる高度化・拡張に着手した。具体的には、ストレージ容量を5倍以上に拡張し、保有データを増強するとともに、他データベースと連携強化や、ソフトウェア共通化・高度化等のシステム拡張を図っている。
 DIASについては、初期の開発期間が2015(平成27)年度に終了し、その後、長期運用体制へ移行することが予定されている。DIASが自立可能な社会的・公共的インフラとして機能するためには、可能な限り早期に、長期運用体制の基本設計を明確化し、移行に向けた準備を加速化させなければならない。

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