宇宙開発利用部会 宇宙科学小委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成25年5月8日(水曜日)15時30分~18時5分

2.場所

文部科学省3階2特別会議室

3.議題

  1. 宇宙科学研究の推進方策について
  2. その他

4.出席者

委員

主査 井上 一
主査代理 永原 裕子
専門委員 秋山 演亮
専門委員 磯部 洋明
専門委員 小川 博之
専門委員 北野 和宏
専門委員 高薮 縁
臨時委員 瀧澤 美奈子
専門委員 常田 佐久
専門委員 永田 晴紀
専門委員 野崎 光昭
専門委員 秦 重義
臨時委員 藤井 孝藏
専門委員 山田 亨
臨時委員 横山 広美
専門委員 吉田 哲也

文部科学省

研究開発局宇宙開発利用課長 柳 孝
研究開発局宇宙開発利用課企画官 竹内 英

【有識者】
株式会社IHI 理事/宇宙開発事業推進部長 牧野 隆
三菱電機株式会社 宇宙システム事業部副事業部長 小山 浩
三菱電機株式会社 宇宙システム事業部副事業部長 清水 岳雄
日本電気株式会社 宇宙システム事業部長 安達 昌紀

5.議事録

【井上主査】  それでは定刻になりましたので、ただ今より、宇宙開発利用部会宇宙科学小委員会の第2回会合を開催いたします。まずは事務局から本日の会議に関する事務的な確認をお願いいたします。

【竹内企画官】  2点、報告させていただきます。1点目は本日の会議の成立についてです。宇宙科学小委員会は19名の委員に構成員として御所属いただいており、本日は16名の委員に御出席いただいております。よって、運営規則に定める過半数の定足数の要件を満足しておりますので、本日の会議が成立していることを報告させていただきます。2点目は、本日の資料でございます。お手元の議事次第の「4.資料」にお示ししていますとおり、資料2-1-1から資料2-1-5までと、メインテーブルのみではございますが、紙ファイルにとじ込んだ机上配布資料をお配りさせていただいております。過不足がございましたら、適宜事務局までお知らせいただけると幸いです。
  なお、今月初めから、関係省庁はクールビズになっております。御容赦いただければ幸いです。

(1)宇宙科学研究の推進方策について

【井上主査】  それでは議事に入りたいと思います。一つ目の議題は前回に引き続きまして「宇宙科学研究の推進方策について」でございます。本日は前回の議論を踏まえた上で議論をお願いしたいと思いますので、まずは前回の議論のポイントについて事務局から説明をお願いいたします。

事務局(竹内企画官)から資料2-1-1に基づき、説明があった。

【井上主査】  ありがとうございました。ただ今の説明そのものにつきましても、いろいろと御感想があると思いますけれども、適宜、今後の議論に反映していただくということで、次の議論に進んでいきたいと思います。
  今日の議論の進め方ですけれども、永原委員と3名の宇宙関連メーカーの方々から宇宙科学研究の在り方について御意見を頂くことになっております。それぞれの御意見を頂いた後に御議論をお願いしたいと思います。それでは早速、永原委員から、「宇宙科学推進におけるISAS(宇宙科学研究所)及びコミュニティの課題と国への要望」とのテーマで御意見を頂きたいと思います。

【永原主査代理】  永原でございます。前回欠席をして、大変失礼しました。宇宙科学推進におけるISAS及びコミュニティの課題と国への要望ということでお話をさせていただきたいと思います。内容としましては、前提となる宇宙科学の推進、ISASの課題、コミュニティの課題、国への要望という順番にお話ししたいと思いますが、始めにお断りさせていただきますと、私自身は惑星探査に関わっているわけでもありませんし、ISASの組織の内部のことを知りつくしているわけでもありませんので、偏った意見であったり内容に誤りがあったりするかもしれませんので、その場合はどうぞ御指摘いただければと思います。
  まずは宇宙科学の役割と枠組みについて話したいと思いますが、役割としては言うまでもなく科学におけるフロンティアの開拓という役割があります。これは宇宙科学に限らず、学術そのものの根本的役割です。宇宙科学の場合に特に重要になってくることは技術開発のドライブということでして、挑戦的課題によって新たな技術開発をけん引できるかどうかというところがポイントになります。それから国際協力、宇宙というのは多くの場合国際協力でなされる事業ですので、いかにその枠組みを築きあげることができるかですとか、リーダーシップを執れるかといったことが重要な役割になってきます。人材育成では、フロンティア・連携・リーダーシップを兼ね備えた人材育成、これは今の日本ではありとあらゆる場面で求められていることですが、こういう役割が期待されているわけです。次に、現状の日本における宇宙科学の枠組みはどうなっているかと申しますと、宇宙科学は宇宙研が全てというわけではなくて、基本的には地上は国立天文台、スペースは宇宙研という枠組みができております。図にお示ししますように、日本においては、宇宙研と天文台という二つの組織の周りに大学や宇宙を専門とする拠点大学があって、それを取り巻く広いコミュニティがあります。これを支える周辺はどうなっているかと申しますと、天文台に関わってくるようなところは文科省の中の研究振興局や、最近では学術会議が大型研究のとりまとめなどをしていますので、そこでの様々なエンドースが重要な意味を持っています。この小委員会の事務局である研究開発局は、もちろん宇宙全体に関わっていますが、主に宇宙研に関わっています。その一方、宇宙研には宇宙政策委員会や宇宙戦略室も関わっていて、同時に最近では多くの省庁が関わり、また実際の事業には民間も関わるという枠組みとなっています。全体として何を申したいかと申しますと、宇宙には普通の基礎研究とは違う特別な枠組みが存在していて、行政的な方針や判断が重要な役割を果たしているという枠組みになっているということです。
  ページをめくっていただきまして、最近の新しい宇宙政策において宇宙科学がどのような位置づけになっているかということを、宇宙政策委員会の資料から一部抜粋しております。この小委員会でも既に議論されてきたかと思いますけれども、重要な点は、従来のことは高く評価されていて、「今後も一定規模の資金を確保し、それを科学の発展や衛星開発のスケジュールに柔軟に対応できることとすることにより、理学・工学双方の学術コミュニティの英知を集結し、ボトムアップの活力と取組を尊重しながら、様々な政策的な意図を排除して推進すべき」と書かれていて、科学は全体的に高い期待と評価を受けているわけです。これは、日本のほかの大型の学術研究に比べて、極めて恵まれた環境にあると思われるわけで、だからこそ、これに応えるJAXA及びコミュニティの在り方は非常に重要な課題になっていると思います。
  次のページですが、実際に「一定規模」ということをどのように理解するかと言いますと、そこに示しましたグラフは前回配られた資料をグラフにしたものですが、この10年間、毎年200億円程度の規模で宇宙科学あるいは探査が行われてきています。この数字に関して宇宙政策委員会の宇宙科学・探査部会の部会長でいらっしゃる松井さんは、「一定規模は250億円が一つの目安である」と発言されていて、これは既に議事録に掲載されていることです。内閣府のほうではこのように考えておられているということは、従来200億円くらいでやってきたところを250億円と言ってくださっているというように、非常に恵まれた環境にあると思うべきであると思います。この数字がどのような意味を持っているかを理解するため、地上の宇宙関連との比較を右に書きました。例えば「すばる望遠鏡」は、二十数年前に予算が承認されて、2000年から共同利用が始まりましたが、建設費の400億円ほどとその後年間36億円ということで、合計でざっと800億円という経費が今まで投入されています。これに対して延べで2万件のプロポーザルがあり、その中から7000件が採択されて様々な研究が行われ、千編近い学術論文が出版され、著者の延べ人数は1万人を超えているという非常に大きな成果を出しています。また、最近稼働し始めました「アルマ望遠鏡」も、全体では千億円ぐらいかかっていますが日本の分担は300億円ほどで、今後日本は毎年30億円程度を投入していきます。まだ初期段階のサイクル0において、これは昨年度ですが、千件近いプロポーザルの15パーセントくらいが採択されていて、サイクル1でも千件以上のプロポーザルが出ているという状況です。そう考えると、「すばる望遠鏡」の合計800億円に対して、宇宙科学と探査には年間250億円と非常に大きな数字になっているわけで、これに見合うだけの成果をいかに出していくかということが、宇宙科学あるいは宇宙研の重要な課題だと思います。
  次のページはISASの課題です。私は、ISASの課題は四つくらいの論点があると思っています。一つ目は理論とプロジェクトということで、実際に探査あるいは科学をやっていくことをいかに両立させていくかということです。この点に関しましては、前回、藤井委員のほうからいろいろとお話があったようですが、私は詳細を存じませんので、今日はこのことには余り触れないでおこうと思います。2番目が一番お話ししたいことなのですが、プロジェクト成果の最大化という問題です。3点目はロードマップ、最後に人材育成の問題です。
  ページをめくっていただきまして8ページです。プロジェクト成果の最大化が一番重要なことです。プロジェクト成果を最大化するために何が必要かと考えると、後になって最大化することはできませんので、準備段階からいかにそれを最大化するような基盤を作っておくことができるかということが重要です。始めはプロジェクトを計画している段階です。この段階で理工の連携を強化して、あらゆるチャンスを利用して,理学・工学の存在価値を高める仕組みを意図的に作れるかということが、宇宙研の計画では非常に重要になろうと思われます。理学の存在意義というのは最先端科学の展開をドライブすることですが、これは宇宙研でもなされていますし、周囲の大学でもなされていることです。しかし、宇宙研でしかできないことは、実際の打上げやいろいろな計画のそばに理工の人たちがいるということでして、工学の人たちは最先端技術をいかにドライブすることができるか、理学の人たちは工学の存在価値を高めるアイディアをいかに出せるかというように互いに利用しあえる計画は、その人たちが一緒にいる宇宙研という場でしかできないわけです。外の大学の人にはできないことですので、日常的な問題として宇宙研に考えていただきたいと思います。更に具体的にするためには宇宙研の組織がどうあったらいいのかまでは分からないので申し上げることはできないのですが、是非意図的にやっていただく必要があると思います。次に具体的な提案をするまでの段階ですが、ここでは大学とか周囲との連携が重要です。次に述べることとも関わりますが、実際にプロジェクトは巨額の資金を使ってやることですから、責任持ってやりきるためには、実際に動き出すときにコアとなる宇宙研と大学の連携を事前にいかに作れるかが重要になろうかと思います。
  次はプロジェクト決定後の段階における実行体制の問題です。これも責任持ってやりきるためなのですが、次のページに書きました絵は前回の小委員会の資料に書かれていた意思決定、プロジェクト選定の仕組みでして、ボトムアップで提案されたものを理学委員会・工学委員会で議論をして選定するというものです。私はここまでは正しい、基本的に科学はボトムアップの仕組みでやっていくことは正しいと思うのですが、問題は「採択と実施」というところです。ここを宇宙研には考えていただきたい。採択まではそれでよろしいとして、実際に実施するとなるとそれだけでやりきれるかと。巨大なプロジェクトというものは、採択をしたならばその成果を最大化するために、もっと宇宙研あるいは周辺の大学を巻き込んで、意図的にそこを強化する仕組みが必要だと思います。自然発生的にボトムアップで選ばれた小さな集団が、その後もそれだけで走り続ける仕組みではなくて、成果を最大化させるために強化するということが非常に重要な点ではないかと思います。そういう意味では宇宙研の組織体制を考えていただきたいと思います。
  ページをめくっていただきまして、10ページ、プロジェクト成果の最大化のためには、更に積極的な情報提供、つまり周囲から参画しやすい環境作りも必要だろうと思います。コアもしっかりしてないといけないわけですが、それだけではなく、走り出してからもいかに成果を最大化していけるかということも重要です。例えば、そこに示しましたのはOSIRIS-RExという「はやぶさ2」と競合するようなNASA(米国航空宇宙局)のミッションですけれども、そこのホームページにいくと、FacebookやTwitterやWikipediaにすぐにリンクが張られています。Teamというところクリックすると、真ん中の絵のように、300人を超える関係者の顔写真が専門と一緒に全部出てきます。その中を見ると、教育の関係だとか学生を雇用する担当であるとか、理学・工学の人は言うまでもなく、ありとあらゆる関係者の顔が見えるようになっています。一方右側は「はやぶさ2」ですが、ここには「はやぶさ」のときと同じように“星の王子様に会いに行きませんかキャンペーン”は張ってあります。両者を比べると、成果最大化のために周辺を巻き込もうというところに明らかに違いがあって、宇宙研は今日的な取組という点を更に強化していく必要があると思います。そのためには人員や経済的なサポートも必要ですが、総合的な成果最大化のためにありとあらゆる手段をとるという考え方自体が必要であろうと考えます。
  次は12ページ、コミュニティの課題に移らせていただきます。現状では、宇宙科学のコミュニティは非常に広いわけですけれども、分野によって課題のレベルが違っていまして、進んでいる分野と、まだこれから改良の余地がある分野があると感じています。ここで申し上げたいことは4点ほどありまして、分野による多様な課題、最先端課題についての議論、ロードマップの作成とプロジェクト立案、最後に一つ特別な問題として将来のサンプルリターンに向けた課題、これは惑星科学に関わる問題ですけれども、そういうものがコミュニティの課題としてあると思っております。
  具体的には、天文宇宙物理分野ではコミュニティの中で十分な科学的議論がなされて、自分たちの中で提案が絞り込まれています。幾つかのものは学術会議の大規模研究計画に関するマスタープランへの掲載もなされていますし、ISASに対して提案もなされています。X線やガンマ線物理学、宇宙線、電波・光・赤外天文学、あるいは太陽等、かなり成熟度が高いと思います。ただし、地上とスペースの両方のサイエンスが展開されている分野のコミュニティとISASとの関係は、スペースしかない部分に比べると、サイエンスをどのような仕組みで展開していくかということも含めて、まだ改良の余地があると思います。
  一方、惑星科学・探査に関しては、かなり改良の余地があると思います。最近、学術会議で大型研究マスタープランへの提案を公募しましたけれども、そこに出きてきたものはSELENE-2(月着陸・探査ミッション)のみでした。もちろん、いろいろな計画があるわけですけれども、外部に具体的提案として出せる次元まで成熟しているものがそれしかないということは、人材育成の観点から考えると大変まずいことで、公にコミュニティの外まで出ていけるようなプロジェクト計画が非常に限られているということは、若い人を巻き込むためには不十分な点があるということです。特に惑星科学の分野では、磁気圏物理と惑星科学・惑星探査との関係がなかなかすっきりこなかった部分がありました。しかし、「はやぶさ」の成果がいかに世界にインパクトを与えたかというのは言うまでもありません。一般の国民に対するインパクトではなく、あそこで展開された工学技術、サンプルを持って帰ってくるだけではなく、その小さなものからいかにサイエンスの成果を導き出したかを考えますと、あのオリジナリティはNASAに恐怖を与え、OSIRIS-RExでは来年のNASAの総予算が50億ドルのところで2.6億ドルというように、惑星探査は減っているにもかかわらずOSIRIS-Rexはほとんど満額で、全面的に推進しようとしていまして、日本が当初やりたくてもできなかったことを全部取り込んだような計画を展開するくらい、「はやぶさ」がアメリカに、世界にインパクトを与えたわけです。したがって、今後においてもこういう計画を是非、つまり理学と工学が非常に上手な組合せでもって展開できるプランというものを、日本として展開することが重要であると思います。
  最後に国への要望ですが、これは基本的には経済支援に尽きるのですが、一つ具体的に申し上げたいことは、大規模な探査や国際連携で行われることは流動性が高いということです。日本が独自に行っていく計画であれば予定どおり進めることができるわけですけれども、国際連携が大きく関わってくるときには他の国の兼ね合いで、事を急がなくてはいけないですとか後ろにずらさなくてはいけないということがたくさん起こりますので、そういうことを可能にできる柔軟な仕組みに御協力いただくことを希望したいと思います。それからもう一つ、常々思っていることですが、JAXAが大学を巻き込んで計画をうまく進めるためには、NASAがやっているようにJAXAの予算で、大学や民間とGive & Take で全体を進められる仕組みができることを希望しております。もちろん大学が手弁当でやる部分もありますけれどもそれは限界がありますので、プロジェクトをうまく推進するためにJAXAが主導的に分野全体の振興を図れることが望ましいと思います。

【井上主査】  ありがとうございました。ただ今の永原委員のプレゼンに、御意見をいただければと思います。

【秋山専門委員】  私も、基本的に永原委員の御意見には賛成で、一つ一つのプロジェクトに関して成果最大化という視点は、まさにそのとおりだと思います。ただし、もう一つ問題と考えていることは、前回もお話をしたのですが、宇宙研が分断されてしまっているところがあってその弊害がいろいろあるのではないかということです。分かりやすい具体例として「はやぶさ2」の話をさせていただきますと、これは先日の宇宙政策委員会でも議論になりましたが、「はやぶさ2」の相乗りという話です。これはいろいろな方が誤解されているので是非申し上げたいわけですけれども、「はやぶさ2」のプロジェクトそのものは、着実に、ものすごくタイトなスケジュールの中で進んでいて、プロジェクトとしてはまじめにやられています。しかし、H-ⅡAで打ち上げるということですので、輸送能力を見ると、全体で300キログラムから400キログラムという余力があります。以前に打ち上げた「あかつき」(金星探査機)では、「IKAROS」(小型ソーラー電力セイル実証機)という150キログラムクラスのものを「あかつき」の下に載せたのですが、「はやぶさ2」ではその情報が今年の3月末までに表に出ていなくて、その結果、フェアリングと衛星の隙間に50キログラムサイズの衛星を1機、2機相乗りさせましょうということでは全体として打ち上げるときにもったいないということで、これに対して宇宙政策委員会では、予算が少なくなっているのになぜ能力を全部使い切らなかったのですかという意見が起きました。これには組織論もあるとは思いますが、これが昔の宇宙研のプロジェクトであれば、輸送系を含めて全体をマネージメントできていたと思うのですが、最近は、宇宙研は宇宙研のやっているところ、JSPEC(月・惑星探査プログラムグループ)はJSPECのやっているところだけしか見られなくなっていて、全体としてサイエンスの最大効果を出すということが実はできなくなってきていると思います。しかし、誰に責任があるのですかと言えば、皆、自分は当事者じゃないと思っている。これは外から見ると非常にもったいないことをしているわけで、永原委員が言われている一つ一つのプロジェクトの成果最大化もさることながら、宇宙科学のコミュニティの能力が、ある意味でそがれてしまっている。これは、宇宙研が輸送系を失ったということが大きいと私は思うのですが、そこを理解しながら、全体として最大の効果を上げようという観点が必要なのではないかと思います。

【永原主査代理】  ありがとうございます。私が、早い段階から理学と工学の日常的な連携をと申したのはそのようなつもりでして、宇宙研の中にいればそういうことは当然分かっているはずです。むしろ私から期待したいことは、工学は新技術を開発しようとしてチャンスを虎視たんたんと狙っていて、余剰があればそこに入り込みたいと、チャンスを奪い合ってけんかしてでもこれをやらせろというような姿勢が欲しいということです。そのために、日常的な情報交換や議論を、計画立案段階の非常に早い段階で是非やっていただきたいというつもりで申しました。おっしゃるとおりでございます。

【井上主査】  ほかにはいかがでしょうか。

【横山臨時委員】  大変勉強になりました。ありがとうございます。私、文科省の研究振興局のほうで、学術会議のマスタープランを受けて、それを大型プロジェクトの推進に関するロードマップにする委員会に参加させていただいておりますが、永原委員の話で一番驚きましたことは、マスタープラン2014への提案が1プロジェクトのみということで、これはほかの分野と比較しても大きな問題ではないかという印象を受けています。研究振興局でヒアリングして点数化をした際に、それを利用していただける先々というものはある意味限定されており、全てがそれに従って進行するわけではないということはよく理解しているのですが、この背景にある問題としてはどういうものがあるのか、よろしければひと言、御説明いただければと思います。

【永原主査代理】  私の説明が正確でなくて申し訳ありません。SELENE-2のみと申し上げましたが、正確には惑星科学分野に提案されたプロジェクトはSELENE-2だけだったということでして、総合工学のほうには、今正確な名前は思い出せないのですが、もう少し一般的な宇宙探査の提案がなされています。具体的な個別プロジェクトの名称ではない形の提案です。それはなぜかということは私も気になったので伺ったところ、宇宙研の理学委員会で認められているレベルを提案しているということで、まだ予備段階のワーキンググループとして活動しているものは外部に出すべきではなくて、ちゃんとオーソライズされて宇宙研としてこれは本当にやりますとなっているレベルのものを外部に提案として出すという御説明を頂きました。これは、宇宙研のどなたかから正しく御説明いただいたほうがいいかもしれません。

【藤井臨時委員】  ワーキンググループレベルは、それぞれのワーキンググループの自主性に任せるということだったと記憶しています。ですから、宇宙研が全部を仕切っているわけではなくて、宇宙研から出るものは、プリプロジェクト以上という定義で分けていたと思います。

【井上主査】  私が補足するのも変ですが、天文学・宇宙物理学ですとか地球惑星科学関係は、学術会議の下の物理学委員会とか地球惑星科学委員会で議論が行われていて、物理学委員会の下の分科会レベルには例えば天文関係の天文学・宇宙物理学分科会というものがあります。学術会議で大型施設計画・大規模研究計画のマスタープランの議論が始まったときに、どういうものをそこに入れていくかということを議論したときに、少なくともスペースに関係したものについては宇宙研のワーキンググループ以上になっているものにしようと整理しました。もともと、宇宙研ではいろいろな提案が競争的に出てくるわけですから、宇宙科学として二つの入り口があるような形、つまり学術会議側と宇宙研という二つの入り口になるような格好は良くないということで、理学委員会においてあるレベルまで来ているものを取り扱っていくという学術会議側の判断もあって、このようにある種の範囲に絞られた形でプロジェクトが上がっていったのだと思います。惑星探査計画については、そのレベルまで進んでいるものが限られていたという事情だと思います。
  ほかにございますか。

【永田専門委員】  今、御説明いただいた9ページ目、プロジェクトを採択した後も成果を最大化するということは非常に大事な議論だと思うのですが、その議論の中で、これは前回の会合でも似たようなことを申し上げたのですが、チームをどれだけ力強いものにしていくかということについては、そのチームにメーカーがどのタイミングで入っていくかという議論が必要だと思います。10ページ目にOSIRIS-RExの例を出していただいているのですが、チーム紹介の上のほうに4人並んでいて、これは恐らくは主要メンバーという位置づけだと思うのですが、この4人のうち一番右側の方はロッキード・マーチン社の方です。こういうチーム作りがどういうタイミングでできたのかということは、もう少し分析すると、恐らく参考にすべきことがあるのではないかと思っています。メーカーの方がどのタイミングで入っていくかということについては、ひょっとすると採択する前に入ってもらって、検討の段階からチームとして参加していただくほうがいい場合もあるかもしれませんので、そういうところでの最大化の議論も、是非やるべきではないかと思います。

【永原主査代理】  私がどうこうと申し上げる立場ではないのですが、申し上げたいことは、いかにオープンに門戸を広げて人を呼び込むような姿勢が外部に見えるかということが、重要だと思います。それは大学の研究だけではなく、教育ですとかメーカーですとか、ありとあらゆる部門も巻き込みながら全体として最大化していくということが、やはり宇宙全体を盛り上げる上では一番重要なことですので、是非宇宙研で御検討いただきたいと思います。

【永田専門委員】  現状、全部がそうではないのかもしれないのですが、プロジェクトが採択されてから「こういうものが欲しい。」ということで、採択された後に競争入札でメーカーが選定されて、そこから初めてチームに入ってくるというパターンになっているのですが、後になってその人たちが「これではできないですよ。」という話もあったりしますので、そういうタイミングで入ってきた後にいろいろともめるようなことがあるというところが、何とかならないのかなと思っています。そういう例もあるということです。

【秋山専門委員】  今の関連で、正確な記述は忘れましたが、NASAのプロジェクトには予算全体の何パーセントというようにある一定の比率をアウトリーチに使うことが義務付けられているはずです。こういう予算がアウトリーチ代として既に含まれているので、こういうことができるのだと思います。しかし、日本の場合は、そういう予算が認められていないわけでして、宇宙研に「NASAがやっているからやってくれ。」と言うと、宇宙研は持ち出しでやらないといけないという話になると思いますので、そういう意味では、予算の中でアウトリーチ費を認めることができるとこういうことができるということだと思います。

【井上主査】  先ほど永田委員がおっしゃったことは、むしろ、前回の会合でも述べられたことで、その際の表現としては非常に適切な表現をされたと思いますがここでは少し言い方を変えますと、従来は、あるプロジェクトを立ち上げていくときにはかなりの初期段階からメーカーさんと一緒になってやっていたわけですが、今やそれは許されないことになってきたと思います。やり方としては、どこかの時点で一度区切りをつけて、改めて入札をして最終的にメーカーさんを選定するということになっていて、それまではいろいろな格好でメーカーさんに調査とかある意味での事前の技術協力をお願いしているとは思うのですが、一度そこは改めて入札という格好をとらなければならないということになると、言い方は悪いですが、従来のように何となくうまくやっていくことができなくなった。前回、その辺のことをおっしゃったと思います。

【秦専門委員】  御指摘のとおりでありますが、むしろ、それが研究開発の弊害になるのであれば、改めるのがよろしいのではないかと思います。先ほど、永田委員からも御指摘がありましたが、アメリカでは特別な法律が作られているわけでありまして、事前に研究者、大学、企業のコミュニティが提案を作ることも可能ですし、企業間同士で役割分担することも可能になっています。しかし、現時点の日本でこれをやりますと、恐らく競争性なり公平性なりへの指摘が出てくると思います。本来、宇宙科学分野への参画というものは、競争性のある市場ではないと思うのですが、それが「談合」と言われてよろしくないという指摘があるのであれば、やはりアメリカの歴史がたどったように、研究開発機関については特例を認めるという法律あるいは規則を定めるというような柔軟な対応方法を考えないと、やはり企業の参加は難しいのではないかと思っております。企業も、どの段階でプロジェクトに参加できるか分からない状態で人員を抱えることには非常に不安がありますし、ある時点で競争性があるので公募しますということに備えて、初期の段階から要員を配置するといった事前の準備をするということも難しいと思いますので、これは予算とは関係ない制度の問題ですけれども、そういったところまでの検討が必要ではないかと思います。

【野崎専門委員】  前回欠席しましたので、前回の議論を承知してないのですが、全体の予算規模がどんどん大きくなってくると、プロジェクトを始めるかどうかに際しての予備的な検討にもかなりお金がかかるようになると思います。プロジェクト経費全体を正確に見積もるためにもお金がかかるわけです。日本の場合、調査費が少しでもつくと、これは最後までいくというような前提で物事が進んでいくかと思うのですが、プロジェクトを本格的にスタートするかどうかを判断するまでの期間に企業に見合う費用をお支払いして検討をするという仕組みも含めて検討しないと、今後は大きなプロジェクトというものはなかなか進められないし、間違った見積りで進めてしまって、後になって大きな誤りに気がついても遅いということになりかねないわけで、そういう仕組みを作っていく必要があるのではないかと思います。

【吉田専門委員】  永原委員のおっしゃるように、宇宙研がプロジェクトを選んだ段階で、宇宙研がプロジェクトにどういうふうに対応するかをフレキシブルにすべきだという御意見には賛成ですが、一方で、プロジェクトは宇宙研が実行するというレベルを既に超え始めているのではないかと、私は思い始めています。コミュニティ全体が一つのプロジェクトに責任を持って参加するという体制を作ることは非常に重要だと思いますが、もう一方で、私が実際に宇宙研にいて思うことは、これは大学が法人化されたことにも影響されているかと思いますが、大学の方が、「JAXAの仕事でしょ。」、「ISASの仕事でしょ。」とおっしゃることが多くなってきたということです。本来、大学の研究者は、自分の研究としてISASの場を使って衛星を作ることをされているはずなのですが、「それは大学の仕事ではないですよね。」と言われることが最近多くなっていまして、宇宙研が大学共同利用をベースにした研究の枠組みを作ろうとしたときに困ったことになっています。昔の良くも悪くも「国立大学はみんな一緒」という世界では、そのような細かいことは言われなかったのですが、最近は、それぞれの大学の「顔が見える」、「名前が出る」ようにしながら、かつ、プロジェクトに参加できるような状態を作らないといけないということですので、これから大きいプロジェクトをやっていく上ではその観点からの制度設計がある程度必要ではないかと思います。

【永原主査代理】  恐らく、そのような関係は分野によって違っているのではないかというところが私の印象です。先ほど申しましたが、ある分野ではコミュニティとして、あるいは関連する学会として、十分に将来計画を練って「こういう計画が必要である。」というように、例えばX線ですとか太陽といったグループは、コミュニティとしてそのようにきちっとできていると思っています。その一方で、かなり未成熟でそういう仕組みをまだ作り得てないコミュニティもあって、将来計画として「これが重要で、自分たちはこのロードマップでやっていこう、全体で支えていこう。」というところまで至っていない、例えば、惑星の分野といったところもあると思います。分野によって、その状態が違うのではないかと思うのですが、そうではないのでしょうか。

【吉田専門委員】  先ほど、ワーキンググループというお話がありましたが、理学委員会の中にも恐らく三つくらい惑星探査関係のワーキンググループがあったと思います。そういう形で将来の惑星探査、火星とか木星とかについて実際に検討はされていると思っていますが、どのくらい力強いかについては別の問題として見ていく必要があるだろうと感じています。

【井上主査】  大事な部分について御議論いただきました。これについては改めて最後に議論することにいたしまして、時間の制約もございますので次に進ませていただきたいと思います。続きましてメーカーの立場から御意見を頂きたいと思います。お一人目は株式会社IHIの理事で、宇宙開発事業推進部長の牧野様から「企業から見た教育機関への期待」というテーマで御意見を頂きます。よろしくお願いいたします。

【牧野氏(IHI)】  牧野でございます。よろしくお願いいたします。今日は「企業から見た教育機関への期待」ということで、話をさせていただきます。
  ページめくっていただきまして、今更ですが、宇宙開発利用事業の特質というものは、一般的な大量量産工業製品と違いまして、一品一様のカスタムメイドであるということです。これは何を指しているかと言いますと、普通の製造業ですと製造に携わる人員が非常に多いわけですが、宇宙は設計者の方が製造部門より多いという特殊な事業となっております。それに加えまして、開発対象が大規模システム、また、軽量化・高性能化などの製品の差別化のために最新技術を多用しており、加えてマーケットは世界でありグローバルな競争をしなければいけないという特質がありますので、こういう状況の中で教育機関への期待と言うと、この2点になるかと思っております。第1点は、事業継続のための技術者を供給していただくことです。実際のところ、技術者も2種類いまして、一つには製品の競争優位性を確保するために企業のコアコンピタンス技術を革新・最新化していくためのエンジニアで、もう一つは製品の開発を進めていく設計部隊のエンジニアです。このようなエンジニアが欲しい人材ということになります。第2点は、新興国を中心として宇宙開発利用分野の人材を育成していただければと思っております。将来の宇宙開発利用分野を担うコアメンバーに、日本の宇宙技術に親近感を持っていただくということから始まり、グローバルな人間関係を作っていくということを期待したいと思っております。
  それでは具体的な技術者像について、4ページですが、「I型人材」の需要ということで、これは企業の立場から見ますとスペシャリスト系の人材で、コアコンピタンスの技術を担う人間が欲しいということです。IHIの航空宇宙関係では、1年間で技術系の社員を60から70名新規採用していますが、そのうちの10から20パーセント程度がそういう意味での専門家として欲しいと考えています。ところが、このようなコアの専門分野では、いろいろな大学等との共同研究をやっておりますので、実はその候補者はいるわけです。ちょうど今、会社では来年度採用の最終面接をしているのですが、例えば流体力学でCFD(数値流体力学)がとっても得意な人が来て、いい人だなと思ったとしても、毎年一名ずつ採るということはありません。研究所ではありませんので、5年に一人くらいいればいいわけです。そういうことで、I型人材は技術系新入社員の10から20パーセントくらいと考えているのですが、現在の大学の単一研究室での教育ではI型人材の比率が高くて、面接していても50パーセント以上はI型に近いと感じていまして、大学側の供給と企業側の需要にミスマッチが起きていると理解しております。
  次のページは「T型人材」の需要です。これはジェネラリスト型の技術者で、面接でもまず聞くことは「四力学は得意ですか。」でして、その次に、宇宙であれば軌道工学、推進工学、あるいは今や制御のないものはないですから制御工学といったようなところ、そういうところもできますかと聞くわけです。そういう意味で、設計部門なり生産技術部門ではT型が欲しいわけでして、このT型でカバーできる分野が広いほど即戦力かつ有能であると考えるわけです。私が知っている限りでは、20年くらい前まではISASやNASDA(宇宙開発事業団)においても小規模プロジェクトが結構ございまして、それもRFP(提案依頼)でメーカーに来たりしていたのですが、そういう小さな数億円程度のプロジェクトがあるとメーカーの中にいても比較的鍛えるチャンスも多かったのですが、最近は少なくなってきていて残念に感じています。
  次のページ、こういう用語があるかどうかは分からないのですが、本当に一番欲しいのは「櫛(くし)型人材」です。いろんな分野をある程度の深さまで知っているというチーフエンジニア型の人材で、システム開発の技術責任者としてこういう人がいると非常に頼りになるのですが、これはT型人材がある種の実務経験、開発経験を積み重ねることによって、Iの部分が多少浅いかもしれませんがいろいろな分野に刺さっていくことで育ってくるわけです。こういう人材が欲しいのですが、なかなかいないです。例えば、ロボコン、学生衛星、缶サット、ハイブリッドロケットなどをやっている人は、比較的T型や櫛(くし)型に近い傾向がありますが、先輩譲りの同じことをやっているのではなく、プロジェクトの中心で新しいことをやってきたという人が欲しいと思っております。
  ページをめくっていただきますと、実は私は宇宙研出身でございまして、スペースシャトルが飛び、M-3SⅡロケットで「さきがけ(MS-T5)」(惑星間試験探査機)と「すいせい(PLANET-A)」(ハレー彗星(すいせい)探査機)が打ち上がった年に宇宙研に入ったのですが、この大型連休中、昔を思い出して何をやっていたかということをまとめてみました。まず、ある先生が私たち学生に向かって、「スペースプレーンを作ろうよ。」とおっしゃったわけです。そうすると、学生のみで設計会議をやって、「これが分からないな。」となって、M先生に聞きにいくわけです。そうすると、直接は教えてくれなくて、「この本を読みなさい。」と本を1冊渡されて、こういう中で、また学生のみで「次はどうしよう。」と会議をすると、誰かが「この解析プロジェクトログラムを作ろうよ。」と徹夜するわけです。当時はメインフレーム(大型計算機)、今となってはパソコンより性能の低い大型計算機でしたが、それを使って設計解析をして、またみんなで集まって、「これがシステム概念設計報告書だ。」と紙を作るわけです。そうすると、次のページですが、設計をすると技術的に分からないことが出てきますので、それを確かめるために「サブスケールの滑空試験がしたい。」と先生に言うと、こんなに簡単には了解はもらえなかったかもしれませんが「やりなさい、お金は用意します。」となって、また学生だけで設計会議をするわけです。そうすると、フィールドでいろいろな試験をする場合には安全上の問題があったりしますので、それを技官に相談すると、「設計はこう変更した方がいい、試験もこう変更したほうがいい、手伝ってあげよう。」となって、試験計画書ができあがるわけです。その試験計画書に従って、助手のみなさんや技官の支援の下、フィールド試験をやって、「システム設計にこう反映しよう。」というようなことを日常的にやっていました。
  そのことを、次のページ、これまでの仕事に役立った学生時代の経験という形でまとめますと、まず、自分で自ら考えるということを徹底的にやってもらいました。二つ目は学生のグループで仕事することで、これは学生がたくさんいますから、リーダーが変わるとまた違うシステムを検討するといったようなことを散々やりました。その中で、システム分析、仮説、検証、フィードバックという普通の科学的思考プロセスの教育をやっていただいたと思っております。そういう意味で当時の宇宙研の環境で良かった点は、1番目は教えてくれない先生、2番目はロケットや衛星を飛ばすための全ての技術とその専門家である先生方がそこにいらっしゃるということ、それに加えて、学生が試験をやる際に経験豊富な技官の集団がいらっしゃるということ。さらに、「雑居房的」と書いていますが、学生が各先生の単独の部屋ではなくて複数の先生の学生が一緒に一つの部屋に入っていて、システム系と言っていましたが、多いときには10数名が雑居房的な学生居室にいて、逆に言うとそのメンバーが集まれば基本的なシステム設計や試験ができたわけです。
  次に、「新興国を中心とした宇宙開発利用分野の人材育成」についてですが、11ページ、私たち宇宙産業が期待されていることは、ここに宇宙基本計画の序文から抜粋していますように、内需の税金に過度に依存するなと、アジアを初めとする新興国に展開して自分たちで金を稼いでこいということを言われているわけです。ということで、IHIグループもいろいろな所へ行脚しておりますが、なかなか新興国への売り込みのハードルは実は高いと感じております。その原因として、新興国の宇宙エンジニアは宇宙技術教育をアメリカや旧宗主国で受けるために、日本の宇宙技術を知ってはいるのですがレピュテーションは低いとか、新興国の宇宙エンジニアとの人間関係がないということが挙げられます。そういった状況がハードルの中で見受けられるということで、勝手に書いておりますが、Virtual INstitute of Space Technologies(VINST-J)というようなものを作ったらどうだろうと思います。これは、日本国内で、新興国の若い技術者教育を実施することにより、日本の宇宙技術力への親近感・信頼感の獲得しようということと、将来の新興国の宇宙コアメンバーと我が国のアカデミアや産業界の人脈を構築しようというもので、これは宇宙基本計画と合致しているように見えます。
  次のページですが、カリキュラムの案としては、いろいろな大学で超小型衛星が作られていて試験もできるということもありますので、ある特定の大学でなくて、いろいろな大学なりISASなりで人がリンクをとれれば、こういった講義をして、ミッションを立案して、キューブサットくらいの衛星を作って、試験をして、打ち上げて、母国で衛星を運用する。キューブサットは、去年HTV(宇宙ステーション補給機「こうのとり」)の3号機で5基ほど運んで国際宇宙ステーションから放出したり、H-ⅡAにもJ-PODというディスペンサーもあったりしますので、打上げの手段も含めて比較的機会が多いので、このくらいがいいかなと思います。50キログラム衛星ですと、先ほど話題にあったように打上げのハードルが高いようですので、数キログラムのキューブサットくらいがいいかなと思っております。
  次のページですけれども、缶サットとかキューブサットとかナノサットのようなものを使って、簡単な教育ですとキューブサットくらいかもしれませんが、こういった教育を連続的に新興国の方に行うといったことを考えていただければと思います。缶サットやキューブサットで日本に来ていただけるのは多分20歳代後半くらいまでだと思いますので、20年後に40歳代後半くらいになったときに「日本の宇宙技術はいいよ。」と言ってくれる状況が作れればいいなと思っております。
  最後のページは企業から見た教育の観点での私的な提言ということで、宇宙科学研究所等の高度な教育機関で、T型エンジニアを輩出することを明確な目的として、学生中心の小規模プロジェクトの数を増せないかということと、UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)の活動が缶サットのトレーニングプログラムまで進んできているので、こういう形をうまく活用することによって、恒常的な形で、新興国の宇宙開発利用のエンジニアの教育を国内で実現できないかということを、私的な希望として述べさせていただきました。以上です。

【井上主査】  ありがとうございました。今の御意見に対して御意見をどうぞ。

【北野専門委員】  大変面白くお話を伺いました。ありがとうございます。7ページの「かつて、経験したこと」というところで、すなわちかつてこういうふうに教育がなされたということを興味深く聞き、一つ伺いたいことがございます。この頃のISASと現在とでは、行われていることの間には大きな違いはあるのでしょうか。あるとすれば、何が違うのでしょうか。どなたかお答えいただけませんか。

【井上主査】  牧野さんに答えていただくというより、今のISAS側でどなたか、小川委員はいかがですか。

【小川専門委員】  僕自身は学生を採ったことがないので、その辺は藤井委員とかに聞かれた方が良いかと思いますが、基本的には今でもこういう雰囲気はあって、助教とか若い人はこんな感じだと思っていますが、足りないことは、「みんなでスペースプレーンを作ろう。」というきっかけみたいなものがないのだと思います。しかし、きっかけがあれば、若い人たちは自分で考えて自分でやるという環境にはあると思っています。

【牧野氏(IHI)】  先ほども言いましたが、私が宇宙研にマスターで入ったときは、ちょうどスペースシャトルが飛び、ハレー彗星(すいせい)探査機PLANET-Aをやっていて、輸送系はものすごく活気があったと思います。そういう中で、N先生がスペースプレーンを作ろうと言ったりして、スペースプレーンを作るために10年かかるのか20年かかるのか分からなかったですけれども、それを終極の目標としてだんだんと近づけていこうという小さなプロジェクトがあったということだと思います。そういった大きな目標が、今はないように思います。

【小川専門委員】  プロジェクトに関わることで、いろいろな技術課題とか将来につながる活動もそこで見えてくるので重要なことだと思っているのですが、一方で皆さんが御指摘されているように、新しいことに携わる余裕がなくなっていることも確かに事実で、そういう意味で、スペースプレーンだとか再使用ロケットといった新しいものを考えて、それを実際にものにしていこうとか実現するための検討をしようという活動が少なくなってきている気はします。

【山田専門委員】  大変、面白いお話で、特に最初の人材育成の部分は、私も大学の教員として理学畑ではあるのですが、身につまされるところがあって参考になりました。また、グローバリゼーション、国際化ということで御提案があったところも興味深く拝聴したわけですけれども、一方で、途上国ではない先進国に対してという部分で、私は報道でしか分からないのですが、航空産業では、例えばボーイング787のように、日本の企業が本当の意味でグローバルな開発の基幹部分を担当していることはあるわけです。そこで、スペース産業に関しては現在どういう状況にあるのかということを教えていただければと思います。もし仮に、そこの大きな壁がある場合には、宇宙科学と一体になってどう進めれば途上国だけではなく、先進国も含めたグローバリゼーションの中で地位を確保していけるかということについて御意見を頂ければと思います。

【牧野氏(IHI)】  こちらに衛星メーカーの方が2社おられますけれども、輸送系メーカーとしてロケットの話で言いますと、安全保障と関係するところもあり、なかなか真の国際協働というところにはたどり着きにくいところがあります。ただし、宇宙でないかもしれませんが、防衛とかの分野ではスタンダードができつつありまして、そういう意味での国際協働開発が始まりつつあるという状況だと思います。

【磯部専門委員】  新興国の学生を日本で教育するということはすばらしい提案だと思いますが、新興国の学生さんが日本に来るだけではなく、日本の学生がそこで交わるとか、場合によってはその国に行って運用まで一緒にやるということが、長期的な人間関係の構築に貢献するのだと思います。その場合、工学、いわゆる技術系の学生だけではなく、地域研究であるとかマネージメントの学生が入ってくると、更にプロジェクトが学生主体で行われて、いろいろな意味で人脈もできますし幅広い教育ができるかなと思うのですが、工学以外の学生がこういうところに入ってくるということは、企業側としてそういう人材がいたら欲しいかどうかにコメントを頂ければと思います。

【牧野氏(IHI)】  なかなか難しい質問でございますが、先ほど言ったように、輸送系についてもいろいろな意味の国際協働の話が出てきているという状況で、そういうことに関わるという点では今の宇宙の輸送系には欠落している人材ですので、そういう人は将来的に非常に重要なポジションになると思います。ただし、今、面接しているときにそういう人が来たら、ほかがいいのではと勧めるかもしれません。

【秋山専門委員】  私が前回申し上げたことと似ていて、私もこういうふうにプレゼンすれば良かったと思っているのですが、13ページにシステマティックな教育プログラムと書かれていますが、今、日本はこれを実行できる体制にあると思っています。私は、ここにかなり関わっているのですが、問題点は、それが大きなビジョンの中で国の方針としてまとまったわけではなくて、ある意味ボトムアップ的に実現しているということです。今はあります、しかし、5年後にあるかと言えばなくなる可能性ありますということで、予算の付け方とかが問題だと思っています。実はキューブサットより左は、ある意味では民間のサポート等でもできなくはないです。私もプロジェクトディレクターをやっていますけれどもUNIFORMより右側は国の予算が結構必要だと思っていて、UNIFORMに関しては来年度で終わってしまうのでせっかく作ったシステムがなくなってしまいます。ここは是非、文科省に考えていただきたいところです。ではキューブサットから左側は企業から潤沢な予算をもらっているかと言いますと、バブル崩壊以後そういうことはなくなっています。缶サットについては、ある食品メーカーさんからかなりのお金をもらってはいるのですが、これは非常にまれな例です。そこで一つ提案ですが、例えば企業がお金を出すにしても個々には出しにくいところもありますので、文科省と組んでファンドを作ってそこから配分するというような企業メセナ的なことを促進する政策を考えてはどうかと思います。アメリカでやっているコンペティションにはドイツの会社が賞金を出しているのですが、日本からは出せていません。なぜかと言えば、企業も出しにくい環境になっていて、なぜそれに出すのかという企業内の理由付けが必要ということです。ですので、文科省が指導してファンドを作るということが一つの方策ではないかと思います。もう一つは、今年から宇宙政策委員会のほうで表彰制度ができますが、それは宇宙開発利用をやっている人が対象で、企業メセナ的にサポートしてくれている企業に対する表彰はないわけです。表彰状一枚でもいいと思いますので、文科省としても何か考えていただければと思います。ちなみに、高校生の缶サットには、宇宙関連企業にも若干出していただいているのですが、宇宙ではない一般的な企業さんからその100倍ほど出していただいていますので、そういうところに何か還元できる制度を考えていただければと思います。

【井上主査】  私から一つ質問ですが、前半の企業として必要としている人材という部分、企業として必要としている人材はどういう経験を積んで入ってきて欲しいのか、あるいはどのような人材に育てたいと思っているのかという部分と、後半の海外の人材を育てるという部分に、少しギャップがあるように感じます。つまり、宇宙機器産業の企業として作っているものはかなり規模の大きいもの・レベルの高いものである一方で、海外に向けてはキューブサットや缶サットという教育レベルですので、企業として経験を積んでもらいたいレベルにギャップがあるような気がするのですが、そのあたりはいかがなものなのでしょうか。

【牧野氏(IHI)】  おっしゃるとおりだと思っております。基本的には、前半部分のエンジニア候補はかなり高いレベルを期待していますが、後半部分はどちらかと言うと日本の宇宙技術にまずなじんでいただくところがスタートかなと思っています。そういう意味で、キューブサットのキットのようなものでまずは始めるということがいいと思っております。

【井上主査】  逆に、前半部分は、先ほどのお話にありましたように、昔の宇宙研にあったようなかなり挑戦的で世界に冠たる成果を上げるようなものが人を作っていくというように考えればよろしいのでしょうか。

【牧野氏(IHI)】  そうですね、10年後に世界に挑戦していくことをイメージしながら、新しいこと、それも要素技術ではなくて、何か飛ぶものといったような機能するものを学生主体でできるのがいいと思います。

【永田専門委員】  UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)の理事長としてお礼を申し上げます。最後のページの提言の(2)に、UNISEC等の活動を参考として恒常的な形で実現できないかという提言を頂いていますけれども、これはすごく重要だと思います。どこが重要かと言いますと、今はないので作らなければならないという提言ではなく、今はあるのだけれども恒常的ではないというところに問題意識があるということを全体で共有いただければ有り難いと思います。

【井上主査】  ありがとうございます。これも議論が尽きないところでございますが、時間の制約もありますので次に進ませていただきます。次は三菱電機株式会社宇宙システム事業部の副事業部長の小山様から、「産業界からの立場からの宇宙科学分野への期待」というテーマで御意見を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。

【小山氏(三菱電機)】  三菱電機の小山と申します。今御紹介いただきましたとおり、宇宙科学分野への期待ということでお話させていただきたいと思います。
  この資料ですが、宇宙科学分野とその他の宇宙分野、例えば地球観測、輸送系、通信衛星といろいろありますが、技術的な観点で見ていきますと、相互に連携性があります。そのあたりを少し横通しを図りまして、より上のレベルにいくような連携を図っていくべきではないかという観点で資料をまとめております。
  まず1ページですが、こちらは全体像を整理したもので、この絵でまとめたい趣旨とは、上に書いてある二つの事項です。一つには、世界をリードすることが基本的には競争力の源泉になると思っていますので、世界をリードする宇宙科学ミッションを通じた共通的な要素技術基盤を、共通的な基盤という意味で確立していくことが重要な点ではないかと思っています。ここは一つ、期待する大きなところです。二つ目はその基盤と言いますときに、どういう形でそれを作り上げていくかがもう一つのポイントになると思っています。その観点としては、宇宙科学分野とその他の分野の相互のSeedsとNeedsをお互いに分析・把握・連携した上で、将来的にも差別化可能な次世代技術に向けて協力、確立をしていくというあたりが期待するところです。そういう観点で各分野を技術的に眺めてみたものがこの絵になります。この絵としましては、一番上は宇宙科学で、その代表例ということで惑星探査関係と天文衛星関係について整理しております。その他の分野としてはいろいろあるのですが、典型的なものとして地球観測、輸送系、通信衛星の三つの分野を比較対象として並べています。まず宇宙科学の天文衛星と地球観測の陸域観測衛星について説明したいと思います。天文衛星にはX線、宇宙望遠鏡、太陽観測等々があります。一方、地球観測の陸域観測衛星にはいわゆるカメラ衛星である光学衛星、電波を出します合成開口レーダーのSAR衛星、さらには高分解能衛星といったものがあります。これらを技術的に横通ししてみますと、ほとんど共通と言える技術があるということが分かってきます。色が付いているところがその主要な技術です。少し細かい話になってしまいますが、例えば非常に精度良く姿勢を制御する高精度姿勢制御技術ですとか、その姿勢をずっと同じ精度に安定的に保つ姿勢高安定度技術ですとか、さらには宇宙船に載っておりますいろいろな振動要素、太陽電池パドルとかいろいろありますが、こういったものによるじょう乱を抑える振動抑制技術、さらには望遠鏡衛星ですと大きな望遠鏡を作る技術といったものが実は共通要素であり、技術基盤としては非常に重要なものと考えることができます。
  また、天文衛星と環境観測衛星、こういったところでも横通し技術があります。天文衛星で言いますと新規に惑星を見るような新しいセンサ技術と環境観測衛星における環境を見る新規なセンサ技術といったものは、要素技術的にかなり近いものがあると考えております。
  また、一見関係ないように見えます輸送系や通信衛星とも、宇宙科学の関係の衛星は共通の要素があります。その一つは誘導制御と呼ばれる技術です。特に惑星探査機「はやぶさ」等に見られますとおり、探査機では小惑星に着陸する技術、そこまで持っていく技術、イオンエンジンの技術が重要ですが、こういった技術は輸送系、例えばHTVに関しても、ある地点に対して非常に精密に位置を誘導していく技術ということで実は共通要素を持っているものになります。また、イオンエンジン、これは通信衛星にも非常に多用されており同じく重要な技術になっています。さらに、通信関係では、非常に遠距離で誤りなくデータを送る技術が宇宙科学では非常に重要ですが、実はこれは通信衛星でも同じように重要な技術になってまいります。
  このように全体を見てまいりますと、非常に高度な技術分野において、実はほとんど類似の技術というものが共通的に使われている状況ですので、これはやはり共通技術基盤ということで共有すべきではないかと思われるところです。これが最初のページのまとめの趣旨になります。
  もう少し具体的に事例で整理したものを、2ページから3枚ほど付けております。事例その1ということで大型望遠鏡技術について、少し細かくサーベイしております。細かい話になってまいりますが、まず望遠鏡技術について申し上げますと、宇宙科学、探査、地球観測ではそれぞれ観測対象と性能向上目的は異なっているわけですが、高分解能にして精度を上げるということ、あるいは高S/N化、これはノイズの低いAOL(開ループ利得)を得るということ、こういうハードウェアに対する技術やイノベーションの方向性は共通だと考えています。さらに、衛星に搭載する機器というものは、高性能化に伴いまして地上の製造装置ですとか試験装置も大規模で高額となってきてしまいますので、そのためには共通的な基盤技術開発のレベルで戦略的に相互に還流を図ることが重要になってくるのではないかということが二つ目の事項になります。さらに、このような高度なミッション要求があるということ自体が日本としての要素技術基盤向上にも寄与してくるのではないかと考えられることが三つ目です。
  こういった観点で横通し技術を下に書いておりますが、先ほど申しましたことに加えて、実は製造や検査に関する技術、組立て調整の技術、試験評価の技術、地上試験装置の技術、あるいは上がった後の軌道上調整技術、これらは実はみんな共通です。また、細かい検出器につきましても機能や性能の面、画素を増やすといった面も実はみんな共通で、宇宙科学、地球観測、陸域観測、いろいろなところへ共通的に持って行けるものになっていると考えております。これが2ページ目の共通的な要素技術についての整理です。
  似たような形で、3ページ目は姿勢制御関係をまとめております。これは宇宙科学分野では非常に分解能が高い、精度の高い観測が要求されております。そのために人工衛星を非常に高い精度で相手に向かって指向させ、ぶれの原因となる振動を低いレベルに抑えることが重要になってきます。これに関する姿勢技術は、姿勢センサも含めて、地球観測衛星と共通的に高度化することが可能になってくると考えています。細かいところは省略いたしますが、こういった高精度な姿勢に関する技術要素、安定に関する技術要素、振動を抑える技術要素というものは、実は天文衛星、宇宙科学分野、観測衛星分野、場合によっては通信衛星分野にみんな共通であり、こういった共通的なものを上げることによって高度化することが重要ではないかと考えております。
  最後にイオンエンジンということで4ページ目になります。こちらが事例の最後ですが、非常に高比推力の、効率のいいイオンエンジンは衛星に搭載する推薬量を削減できるために非常に有効です。このために「はやぶさ」でも大活躍をしたということですし、最近ではオール電化衛星ということでイオンエンジンを静止衛星に使う例も出始めています。こういった幅広い活用分野が実はありますので、効率のいい大推力を有する技術は非常に有益で共通的なものだと考えています。ここに細かい技術要素を書いていますが、いずれにしましてもこういった要素についても共通化、高度化を図ることが、全体の日本の技術力に資すると考えております。こうやって見てまいりますと、ほとんどの分野でいろいろな共通項目がありますので、今より、更なる高度な横通しが必要ではないかと、共通的にレベルアップをしていく必要があるのではないかと思います。そのリード役として宇宙科学分野に期待するところが大きいというところが、私どもの考え方です。
  もう一つの視点がありまして、これは、結局はロードマップの話になるのですが、特に宇宙科学分野は非常に長期的なロードマップを描いていろいろな活動をされているという印象が強いと私は思っております。こういった次世代の技術基盤を視野に入れた場合に、5ページに書いておりますが、長期的視野に立脚した要素技術・システム開発を期待したいということで、ロードマップを共有してやっていく必要があると考えています。その下には、別のところで整理したときに面白い結果が出ましたので、それを5ページと6ページに入れております。実は技術開発、宇宙機関係の大規模プロジェクトを調べてみましたところ、最初にやり始めてから最初の実用機が打ち上がるまで、どれをとっても大体30年くらいを要しているという面白い結果が出ています。HTVの例が5ページに書いてありますが、これが始まりましたのは実は1979年で、当時のNAL(航空宇宙技術研究所)とNASDAの共同研究からスタートしたのが最初です。この後基礎研究の時間が5年ほどあり、その後SFU(宇宙実験・観測フリーフライヤー)、これは若田宇宙飛行士がスペースシャトルで回収してくださったプロジェクトですが、そこで初めて遠いところからある地点へ移動するというランデブーを実証しています。その後にもうちょっと近場でドッキングをしたり近づいたりという実験をやろうということで、1997年にJAXAさんと文科省さんの主導で技術試験衛星Ⅶ型というものが行われています。この二つがあってHTVが実用化されたという流れですが、HTVの実証フライトの2009年は、実は1979年からちょうど30年という日数を要しているというステップです。当時やり始めた頃はHTVをやろうと思ってやり始めたわけではありませんが、将来この技術が必ずや差別化する技術になるだろうというある種の確信を持って始めたわけです。具体的な姿が出ていたわけではないですが、その姿が出るまでに30年かかったということです。
  面白い例としては6ページ、海外の大規模の典型的な宇宙プログラムとしてGPS(全地球測位システム)とスペースシャトルを調べてみました。GPS、実はこれはTRANSITと呼ばれる衛星が初めです。それが1960年代の半ば頃から打ち上げられています。本格的に運用が始まりましたのが民生利用開始の1993年ですので、ちょうどこれも約30年要しているという状況です。スペースシャトルも似たようなものです。最初の実験機として1959年、X-15と呼ばれるものが飛行しております。そこから1980年代の実用化に至るまでこれも約30年ということで、やはりこれくらい長期的に見ていったものが最後には実用化にまで至っているということです。従いまして、先ほどの技術基盤の共有化と合わせまして、こういった長期的な視点も合わせまして、やはり長期的な話を含めて連携していくべきではないかというのが、特に宇宙科学分野とその他の宇宙分野との連携に関わる期待事項です。
  最後は7ページ、人材育成に対する期待ということで、箇条書にまとめていますが、一部牧野さんのお話しくださったことと似ている部分もあります。まず大学等における要素技術習得ですが、これは何事においても基本だと考えております。これは先ほどI型人間とおっしゃっておりましたが、まさにそのことかと思います。次のステップで私どもが期待しますことは、こういった要素技術を踏まえた上でのシステム構築力を有する人材の育成、これは大きな問題なわけですが、そういったところを期待しているところが大きいということです。ある意味、今まで日本の技術習得は追いつき型だったと思っていますが、宇宙分野ではもう大体追いついていて、今度は参考になるものがだんだんなくなってきているという状況になっていると思います。そうしますと、これからは参考になるものが何もない今後に対してどうやって何を描いていくかあたりが多分重要ではないかということで、いわゆる実現シナリオ構築力を含めたエンジニアというところに期待するところが大きいところです。どういうことを指して実現シナリオ構築力と言うのかという内容を、その下に箇条書で書きました。例えば、あるミッション要求が出てきたときにそれを実現するシステムはどうあるべきなのかということが言えるかどうか、それを実現するためには何を具体的にやったらいいのか、課題は何なのかと言えるかどうか、その課題に対応するためには何をどうしたらいいのか、既存方式を使えばいいのか新しい方式の何かを開発しなくてはいけないのかを決められるかどうか、最終的には実現に向けた整備計画を作って関連部門との調整等含めて推進できるかどうか、こういったものを含めて実現シナリオ構築力と呼びたいと思っています。こういった人材が今後非常に必要になってくるのではないかと考えております。やはり一つのポイントは、先ほどのプログラムの例にもございましたが、責任ある立場でこういったことを体験する機会を付与するということが重要ではないかと思います。ある意味、そういう立場に追い込まれないとなかなか難しいという点もあるのではないかと思いますので、そういったことを踏まえてシステム構築力、実現シナリオ構築力を有する人材というものに対して期待するところが大きいところです。
  非常に難しい問題であると思いますが、追いつき型から変わっていくこれからの時代にはこういった意味での方々が必要ではないかと考えております。

【井上主査】  ありがとうございました。ただ今のプレゼンテーションに関しまして。どうぞ。

【永原主査代理】  大変面白いお話ありがとうございました。今のお話の中でJAXAとメーカーさんとの関係について、どういうふうに考えておられるのか、もう少しお聞かせいただければと思います。つまり、要素技術の開発にしても人材育成にしても、全てJAXAあるいは大学に期待していますよということなのか、あるいはこういうきっかけを与えてもらえれば、ある部分はむしろ自分たちでやっていくといったような切り分けはおありなのでしょうか。

【小山氏(三菱電機)】  1ページの絵の趣旨から言いますと、実は今まで技術検討は個別には結構やっているのですが、基本的にはプログラム単位が多いわけです。例えば、今度は何とか衛星のプログラムをやりますという場合に、そのプログラムに対してはこういう技術でやりましょうということです。つまり、必ずしも類似の宇宙科学からこういった分野を俯瞰(ふかん)して、ここが共通だから今度のプログラムではこういうところまで共通化して要素技術として共有しましょうという場面は余りなかったと思っております。恐らく、これを見ると関係者の方々は個別プログラムでは似ていると思われるでしょうが、具体的にどこがどう似ていて、これからお互いにどうすべきで、どの部分をどこで強化するという議論は余り公式にはやったことがないと思います。

【永原主査代理】  ものの流れとしては、きっかけとしての話がJAXAからメーカーに行って、それでメーカーでいろいろやられるという形でしょうか。

【小山氏(三菱電機)】  方法論としてはいろいろあると思います。問題はほとんど共通的なことですので皆さんすぐに御認識いただけるわけですが、あとはどういうやり方でうまく抽出してまとめるかという話だと思います。分野によってはより高度なものが要求される分野もありますので、分野ごとに、どの部分がこの技術を引っ張り上げるためには有益だということについていろいろな意見があると思います。そこを誰が最後に見るかが一つポイントかと思います。共通技術を列挙しようとなるとたくさん出てくると思いますが、それをどう整理して最後に方向性を持たせるか、どういう仕組みでやるかを考えなくてはいけないところかと思います。

【井上主査】  ほかにいかがでしょうか。今の質問と関連して、先ほどの5ページ、例えばランデブーという基礎技術開発が結果としてHTVに結実していったというように、振り返るときれいなある種の筋が見えてくるわけですが、そういう種類のことがやれるためには、ある意味での長期的方向性のようなものを誰かが見ていくことが必要だろうと思います。こういうものは将来必要になるというある種の確信があったとおっしゃったのですが、実際に30年間誰がどういうふうに見てきたという観点で分析すると、今からこういうことを考えるときには何が必要になるとお考えでしょうか。

【小山氏(三菱電機)】  当時は、先ほどのN先生もそうですが、何人かのこういったカリスマ的先生がいらっしゃったと思います。その先生方は、やはり20年、30年先のことをおっしゃっていました。当時、ランデブーはアメリカやソ連が先行していましたのである意味追いつけという面もありましたが、最後はこういった技術が宇宙のコア技術になるに違いないという確信を持っていらっしゃったことは間違いないです。その確信を持つに十分なだけ世の中のいろいろなことを調べてらっしゃったり、国際的関係を持っていらっしゃったりしたことも、確信を持っておっしゃることができた一つの理由だと思います。そういう発信者の方がいたということが一つ大きなところだと思います。

【藤井臨時委員】  今言われたことは、牧野さんの話も含めて、優れた研究所には必ずビジョナリーリーダーが必要で、一方でそれを実現する人たちも必要であるということを言われているような気がします。科学技術政策研究所の報告に、世界中の優れた研究所を調べた結果、要件として必要なものは今の2点であるとまとめてありました。ビジョンを出す人と、それを具体的に実現するときにその具体的なプロセスを動かす人たちが必要で、牧野さんの資料ですとN先生がビジョンを出す人、Y技官が具体化する人、今のお話がビジョンを出す人、小山さんの資料のシステム構築力に相当するところをきちっと詰めることができる方が具体化する人だと思います。そこで、今の宇宙研の置かれている状況を考えたときに、今のままで10年後にもそういう方がいてうまく進んでいるかという点について、企業から見てどう思われますかという点に関して意見を伺いたいと思いますが、回答は難しいでしょうか。

【小山氏(三菱電機)】  いつの時代でも当然そういう方はいらっしゃると思いますので、あとはそのループがうまく回っているか、そこは周りの環境次第かなと思います。ただ一つ難しいところは、先ほども申し上げたとおり、今までは追いつく目標があったわけで一部の分野にはまだ残っていますが、これからはほとんど自分たちで何をするか決めなくてはいけない時期に入ってきていますので、そこはまた違うやり方が、違う方々を組み合わせる必要があるかと思っています。

【藤井臨時委員】  そこが多分人材流動というところにつながると思います。

【井上主査】  そこが核心の部分のような気がします。ほかにはありますか。

【吉田専門委員】  5ページと6ページの図、これは非常に面白いですが、ただ物事はこれほどハッピーには進まないと思います。多分そこがすごく重要でして、適度に失敗しながら進んできたからこそシステム構築力も修得することができたと思いますし、その経験を積めたということが重要だと思います。私が学生の頃と比べると、今の日本の科学は失敗の許容力が減ってきているのではないかと感じています。その理由の一つには、規模も大きくなってきていてお金もかけているので仕方がないところもあると思いますが、失敗の許容力が落ちてきていて、どうしても成功させなくてはならないことが先にきた結果として、失敗をしながらシステム作りをトレーニングする場がどんどん減ってきているということが私としては非常に大きな問題だと思っています。先ほどのお話に缶サットのキットという考え方がありましたが、これですと「全部成功して面白かったね。」で終わってしまうのではないかと危惧しています。どこかでうまく失敗させないと、もちろん余り失敗させると興味がなくなってやめていくのですが、うまく失敗させてトレーニングになるようなことを考えることが、プロジェクトを作っていくことができる人を育てていく上で重要ですし、トレーニングの一環としての失敗のさせ方としてどこまで失敗を許容するかをちゃんと考えていくということが、長期のビジョンを考えるときに重要なことだと思います。

【秋山専門委員】  キットという言葉は、まさにそういう問題認識を形にしてもので、その辺は我々がプロと呼んでもいい自信を持っているところです。キットというのは、実は今の高校生レベル、大学生レベルは全く物を作ることができませんので、やっていいですよと場所だけ用意しても最初の導入の敷居としては高すぎるわけです。ですから、まずはこういうものがありますよという例を示すものがキットであって、そこから先はそれだけではできませんよということを競争とかという形でやっています。そのあたりは、制度としてはあります。ありますが、永田委員が言われたように、今はあるけれども5年後もある保証はない状況であるということが一番重要だと思います。

【井上主査】  いかがでしょうか。よろしければ3人目の企業の方からの御意見を頂くことにいたします。最後は日本電気株式会社の宇宙システム事業部長の安達様から、「宇宙科学・探査分野への要望」というテーマで御意見を頂きます。よろしくお願いいたします。

【安達氏(日本電気)】  よろしくお願いいたします。お手元の資料を簡単に御説明して、ディスカッション中心にさせていただければと思います。
  1枚目めくっていただいて、当社の衛星開発実績と書いておりますが、一番下の宇宙科学・天文観測というところについてシステムまとめを長年にわたりやらせていただいております。我々の宇宙事業の基礎がここから出ているということはこれを見ても明らかだということでございます。
  次のページですが、ここでお話させていただきたいことは、かつてはMS-Tシリーズというものがあったということでございます。ここにいらっしゃるベテランの方は全て御承知だと思いますが、先ほども少し話に出た「すいせい(PLANET-A)」という衛星の前にはMS-T5「さきがけ」という工学的な見地のテストプローブの衛星を上げていますし、「GEOTAIL」(磁気圏尾部観測衛星)という衛星の前には「ひてん(MUSES-A)」(工学実験衛星)という衛星を上げてスイングバイ技術を確認して次へ進むということが行われていました。また、ここには書いていませんが、科学衛星特有の開発方式として一次かみ合わせ、二次かみ合わせというものもあります。これもいいところと悪いところがあるわけですが、諸先輩方々が限られた予算の中でどう実質的な開発成果を上げるかという観点から、ある意味自然のうちに幾つかのスキームを作り込んで今に至っているということだと思っております。先ほど永原委員や吉田委員がおっしゃったように、構造的にいろいろ見直す時期にあるということは確かだと思いますので、何が良くてある意味の成功があったのかということを分析する時期にきているのかなという気がしております。
  次のページですが、何とか難しいミッションを限られた予算と厳しい打上げウィンドウの中で実現してきたわけですが、三菱電機さんが整理されていたように、我々企業も言われたことだけをやっていたわけではなくて、企業としていかに横展開できるか、それはひいては宇宙研にフィードバックされていくところもありますので、いろいろ工夫をしながらやってきたということでございます。その一例として、Spacewireに対応したSpaceCubeというオンボードコンピューターの例を挙げています。そもそも2004年のSTRONボードというものから始まっていますが、ここはSpacewireとSTRONの名前でお分かりのように、OS(基本ソフトウェア)にITRONを使っております。これに関しての我々のもくろみですが、それまではOSを使うのか使わないのか、OSを使うにしてもほかの人が作ってものではだめで自分たちで作りこまないと信頼性が確保できないというところから走ってきたわけですけれども、非常に高精度で高機能な性能を要する計算機を一つ一つ全て手作りで作っていくことにはもう手が回らなくなってきました。そこで思いついたことが、民生の技術を使えば、何万人、何千万人という人がバグ出しをしてくれたシステムを使えば、少なくとも計算機上の信頼性は確保できるだろうということでITRONを使いたいとなりました。サイズも日本人が開発したものだけあって、非常に手頃なサイズになっています。それからもう一つは、様々な要求に対応するソフトウェアを作るためにオブジェクト指向でソフトウェアを作りたいという技術的要請、そのことは民生側にも出てきておりまして我々も同じ課題を持っておりましたので、それと親和性のあるITRONを選びましょうということと、さらにはPlug & Play、これは我々としてはインテグレーションの手間を省くということ、宇宙研の先生方からすれば各大学でやってきたローカル試験と宇宙研におけるかみ合わせ試験の垣根をなくすということ、これらの両方のメリットが合意してこのようなSpacewireを使ったシステムを開発しようということが始まったわけです。ですので、微妙に目的が違いますが、こういうことがやりたいということに対して意義をしっかり理解していただけるところが科学衛星のプログラムということだと考えています。後でもお話させていただきますが、ミッションをやるためにプライム方式でメーカーに丸投げをすると、こういったものを使っていいかどうかの判断が恐らくできないと思います。科学衛星に携わっておられる方々の特色としては、エンジニアリングまでしっかり御理解されて適用するかどうかを確認するというところが科学衛星の皆様の特徴ではないかと思っております。そういうことで、このページの続きになりますが、我々としては科学衛星の中でこのコンピュータを共通的に使うということはもちろん、NEC(日本電気株式会社)製の衛星には全て標準プラットフォームとしてこの計算機を使うという対応をしながら、少量生産から少しでも大量生産にして単価を安くしていくというところを狙いたいというもくろみがございました。
  5ページ、次はNEXTARという小型衛星バスの標準版ですが、我々が海外へ出ていくためにどうやれば強みのある製品を用意できるかということを考えたときに、先ほど申しました科学衛星で培った小型軽量化技術や「はやぶさ」で証明されました自律化自動化技術といったものを組み合わせて、短納期で、低コストで、フレキシブルに様々なミッションに対応するシステムを構築しようということで、これは開発技術一つ一つを組み合わせて、さらには技術思想というものを活用して商品化したという一例でございます。
  その次のページは小型イオンエンジンで、「はやぶさ」で宇宙実証したものです。貴重な宇宙実証というヘリテージを持って、そこにわずかなリペアを加えて製品化をするというところに、JAXAさんのファンドも活用させていただきながら次に進むというような動きをしているということでございます。
  最後のページでございますが、少し話し始めてしまいましたが、お伝えしたいテーマとして三つございます。ほぼ全てこれまでの議論で出たことですので、私の観点から簡単にお話しさせていただきます。一つ目は技術競争力を得るための原動力となっているプログラムであるということは小山さんが御説明されたとおりでございまして、我々としても貴重なヘリテージをできるだけ水平展開したいということであります。また人材を育成する貴重な場ということでありまして、科学衛星に人を投入いたしますと、最も人材として作りにくいコーディネーションをする能力、それから将来的にはプロジェクトマネージメントするような能力、様々な意見のバランスをとって必要なものは自らステークホルダーと交渉しながら物事を進めていく能力が身につきます。それもたったの5年間でそのような能力が身につくわけですから、非常に貴重な場面になります。意識されているかどうかは分からないのですが、科学衛星のプロジェクトに携わっていろいろな会議に出席して調整をさせていただくということは、世界有数のそれぞれの専門家の方と直接お話しできるという貴重な場であるとともに、専門外であっても理系のそれなりの思考回路を持った方々に対して資料を説明しなくてはいけませんので、論理的飛躍や企業にとって都合のいい論理展開といったものが全て見破られて叩(たた)きのめされて帰ってくるということもございます。そういうことを繰り返しながら、相手に物事を伝えるためにはどうすればいいのかということを、身を持って経験しますし、NECの立場としてはインテグレータとして宇宙研のお手伝いをさせていただいていますので、各メーカーさんですとか各サブシステムの担当の先生方に対しても意見を言わなくてはいけないというところで人材が育成されていきます。また、大学に属されている研究者や学生の方々の中には、そういうNECの社員の姿を見ていただいている方々もいらっしゃいますので、リクルートの一つのきっかけになるということもございます。そういう意味で、人材を育成する非常に貴重な場に自然となっているということでございます。ともすれば甲乙というドライな関係というお話もありましたが、企業を育てるという意味ではもっともっと厳しく御指導していただいていいと思っています。人材育成という意味では、プロジェクトの規模もいろいろとありましたが、プロジェクトの頻度も重要で、かつては1年に1機上がっていましたし、MSシリーズを考えますと同じような衛星が二つ必ずシリーズで出るというような環境は、我々が人材を育成する上で非常に有り難かったということでございます。ここは主に企業にとって直接的に関係するところかと思います。
  二つ目は、これは企業に直接は関係しないことですが、こういった宇宙科学のプロジェクトに関わって横から見ていてということで、構造的課題への対応方針はどうすればいいでしょうかということを2点ばかり挙げさせていただいております。こちらは永原委員が資料に書かれていたことと同じでございます。基本的にはミッションの宿命と言いますか、先端性を常に担保しながら進めていかないといけないということで、基本的にはどんどん大型になり、どんどん大電力になり、どんどん大がかりになっていく、その一方で、予算にキャップをはめるかどうかは別にしても、それに見合っただけ予算が伸びていくということはなかなか想定しにくいということですので、これに対して根本的にどう対応するかという、ある意味スキームと言いますか、幾つかのケーススタディをしておくべきではないかなということだと思います。一つにはイプシロンロケットと小型衛星を組み合わせた、小型のミッションというプラットフォームを用意するということも一つのアイディアだと思っています。どういうことかと申しますと、理学委員会、工学委員会を経て選出されるプロジェクトは、選出されればフルスペックで大型プロジェクトができますが選出されなければもうそれは終わりですという1か0かという方式とするのか、あるいは少し縮退した形でミニスペックでの小型衛星としてあるミッションの端緒を確認するというような0ではない何かを残すべきなのか、そういうスキームをしっかりここで話をしておくべきなのかと思いました。また、吉田委員が触れられていたことと非常に近いものとして、研究者としての効率性ということも考える必要があると思います。私は研究者ではありませんので、どういうふうに研究者の方々が過ごされているかは分かりませんが、研究者としての効率性を考えると、小川委員が先ほどおっしゃったように、プロジェクトの様々な問題に対して一つ一つ対応していくということはひょっとしたら効率を下げていることになるのかもしれないと思います。一方で大きなプロジェクトを実施していくためにはそれなりの体制も必要になってくるということの中で、宇宙研を含めた科学コミュニティの良さをどうやって担保しながら対応するかということについても、幾つかの在り方をケーススタディで出してはどうかと思っています。民間にプライムとして出すというやり方はESA(欧州宇宙機関)もNASAもやっているわけですが、それとは違うやり方で宇宙科学研究所が中心としたコミュニティが成功しているその中には、先ほど申しました一つは工学という横ぐしがあるということです。工学はプロジェクトを横ぐしにするための非常に重要なものであって、先ほど基礎的なものが少し弱くなってきているのではないかということもありましたが、工学の横ぐしも弱くなってきているのではないかと思います。もう少し言えば、牧野さんの資料に出ていましたが、技官の皆さんの存在があったと思います。理学を横ぐしにする工学、工学は学問ですので我々メーカーがやるエンジニアリングの間には少しギャップもあると思いますが、そういうところをうまく埋めて、宇宙科学研究所にノウハウを蓄積してきていたのは技官と呼ばれる方々だったのではないかなと、横から見ていてそういうふうに感じております。その機能が、今度は宇宙研の工学の先生方に全てかぶさってくるとそれなりに負担も大きくなってくるのかという気もしますし、先ほど申しました宇宙研の先生方だけではなくて、そういう役目を関係の大学の皆さんで一緒に背負っていくような責任ある組織の整備につなげていく必要があると感じております。
  三つ目は、技術ロードマップの整備の不可欠ということですが、これもどなたかがおっしゃっていたことと同じです。これまでもいろいろな厳しい局面があったわけですが、何とか創意工夫でやってまいりました。やりきれなかったことも含めて、何とかそれをやってきたと思っています。しかし、これだけミッションが先端的になってきますと、ちょっとやそっとの創意工夫では根本的な問題を解決できなくなってきていることは確かです。周到な計画を持ってそれなりの予算を投じてLSI化ですとか、じょう乱の評価ですとか、そういうものを積み重ねてようやく確実なプロジェクトが担保できるということだと思います。先ほどお話ししましたMS-Tのようなテストプローブとまではいかないまでも、開発を重視したプロジェクトをきちんとその名目で立ち上げるということが重要ではないかと思います。今は一つのプロジェクトの中で開発要素も取り込みながらやっていますが、それはえてして様々なそごを生んだりすると思いますので、技術ロードマップ、工学の横ぐしあるいは他のプロジェクトへの展開も含めたロードマップを整備した上で、開発プロジェクトというものを計画的に立ち上げることが必要ではないかと感じています。以上です。

【井上主査】  ありがとうございました。今のプレゼンテーションに対して御意見をお願いします。あるいは、今のプレゼンテーションに限らず、もう少し広い範囲での御意見でも結構です。
  私から一つ、最後におっしゃった技術ロードマップについてはおっしゃるとおりだと思いますが、技術はそれを何に使うかということがないと開発のしようもないようなところがありますので、結局は先ほどの御意見にあったように大きな目標みたいなものがないと新たに進んでいくというところは難しいのかもしれません。従来の宇宙研の場合には、Mロケットの開発というものがある意味で大きな柱になっていて、その周りにいろいろな開発要素があるということがベースにあって、その結果、ロケットの能力が向上することで衛星の規模や能力が上がっていって、やれることが広がっていくことでいろいろな技術がその周りに必要になっていったというような形でしたが、今はその柱になるものが見えなくなっていると思います。技術ロードマップと言うと、結局そこに話がいってしまうのかなという感じがします。
  ほかに御意見があればお願いします。

【横山臨時委員】  今の主査のお話は、私も外部の者として非常に強く感じるところでございます。関係者の先生方及び企業の皆様がどういう夢を持ってやってらっしゃるのかということが、外側の人間からは非常に見えにくくなっている時代なのかなという印象を強く持ちました。平成23年だったと思いますが、日本学術会議の第三部が「理学・工学分野における科学・夢ロードマップ」という今後30年、50年にわたる大きな夢を描いてくださいという企画をされて、私もその資料を非常に楽しく拝見しましたが、様々な分野で、大きな目標が再見直しをかけられている時期なのかという感じを非常に受けています。ですので、やはり先生方や企業の皆様におかれましては、それぞれのビジョンという共通の言葉が使われておりましたが、大きな夢を提示いただければと思います。子供たちへの教育という点では、大人が夢を見ていないと子供は夢を持ちあわないというところが強いと思いますので、是非大人の皆様に大きく夢を語っていただきたいというところが第一の感想でございます。
  もう一つこれに関連してですが、先ほど安全保障という言葉が出てまいりましたが、宇宙開発利用、スペースを使うものに関してはいろいろな意味でインターナショナルプロジェクトが難しいのかなという印象を持ちました。地上においては、例えば望遠鏡の「すばる望遠鏡」はナショナルプロジェクトですが、次の「アルマ望遠鏡」はインターナショナルプロジェクトで、出資が各国にわたるような巨大プロジェクトをやるという形になってきていると思います。これに先駆けている例としては、加速器の分野が何十年も前からそういう体制になっていると思います。分野外の私にはまだよく分からないところもありますが、例えば非常に大きな夢を語っていただいて、それをきっかけに日本が主導国になって大きなプロジェクトをインターナショナルプロジェクトとしてやっていくというような可能性についても、年30億円ぐらいの建設費がかかるようであれば、今後は検討していく必要があるのかなという印象を持ちました。

【井上主査】  今の御意見に私がコメントすることも変ですが、科学衛星の理学ミッションについては非常に広い国際協力が行われていますので、そこは是非共通認識として持っていただいたほうがいいと思います。先ほど牧野さんがおっしゃったことは、例えば輸送系で国際協力のようなものをやろうとするときには安全保障の関係等で制限があるということをおっしゃったわけです。技術の大きな柱と言ったときには、確かに国際的にどういうふうに進めていくかという部分と、国として自律的に何かを持っていくという部分、その両方を考えておかないといけないということはあると思いますが、例えば、今、探査という分野では、国際宇宙ステーションの次をどういうふうに進めていくかということが、国際的に議論され始めています。国の安全保障という考え方にはソフト的な部分とハード的な部分があるわけですが、ソフトパワーと言われる面では国際協力が国の安全保障につながるという考え方にもなるでしょうから、ここはいろいろな広い考え方をとりうるところだと思います。いかがでしょうか。

【永原主査代理】  ピュアサイエンスの学者の先生たちは常にあれが知りたいこれが知りたいとおっしゃっていて、世の中からもそのように見られていて、それをやってくださいとエンカレッジされている面もあります。また、先ほどのお話のように、これまではこういう経緯を全部整理してみるとヒストリーがあって、成果としてこういうものがあったということは非常に面白かったと思います。しかし、今後の日本の宇宙は利用でいくと大枠で決められた中で、今後宇宙研そのものを含めた宇宙科学が存在意義を持つためには、今後こういう宇宙技術を展開したい、こういうことができる、こういうことをプランニングしているということを、いかにどこまで示せるかがこの委員会のミッションとして非常に重要ではないかと思います。それを強く示していかないと、学者がお金を使ってやりたいことをやっているだけということになってしまいます。先ほどの夢ロードマップではないですが、10年後にはここまで展開して一番のメインはこれだというような、そういうことを是非次の機会に話題提供していただいてディスカッションできればいいのではないかと思います。もちろん、シークレットな部分に関わるものは別かもしれませんが、そのような部分をこの委員会でもう少し議論してはどうかという感想です。

【井上主査】  今の御意見は、宇宙科学という枠組み、国としての宇宙開発利用をやっていくときの宇宙科学が果たすべき役割、存在意義をはっきりさせようということですね。

【磯部専門委員】  しばしばM-Vがなくなった後、宇宙研では輸送系の開発をしなくなっていると言われますが、外から見るとJAXAとしては輸送系の開発をしているわけで、宇宙研はJAXAの一部であるわけです。ですから、宇宙研から輸送系がなくなったのでいろいろなことができなくなったというロジックは、外からは余り説得力があるようには見えません。そこをJAXAの方はどういうふうに整理されているのでしょうか。また、NECさんは、人材育成と技術開発に非常にいい場になっていたとおっしゃったわけですが、それは宇宙研の宇宙科学のミッションがそうなのか、宇宙研以外のJAXA、例えば地球観測をやっているところにも関わっていらっしゃると思いますが、そこにそういう機能はあるのかないのかというところはどうですか。

【安達氏(日本電気)】  後者をまずお答えさせていただきます。宇宙科学研究所の特徴は、ミッションのエンドユーザーが先生方そのものであるというところです。最終的なスペックに対する判断が御自分の見識でできるというところが非常に大きなところです。そういう意味で、ミッションの一番トップの要求のところから我々企業の人間が理解し、だからこういうエンジニアリングが必要だということが分かりやすいということです。それ以外のものの場合、エンドユーザーとしてどうしても外部機関の方々がいらっしゃるので、そこの意見を集積するといったようなワンクッションが入ります。そのため、科学衛星ほど自在性を持ってそういうものがどんどん入ってくることはないという理解です。

【磯部専門委員】  前回も申し上げましたが、地球観測を宇宙科学の一部に含めるかどうかについては御意見が分かれるところもありますが、サイエンスとしての目的もあるわけですよね。確かに地球観測衛星はピュアサイエンスだけではない目的を持たれているので、難しいところだと思いますが、宇宙研でやっているものはエンドユーザーがそこにいるけれども、地球観測の方はエンドユーザーが遠いところにいるという状況は、やりようによっては変えられるのではないかと思います。

【井上主査】  二つの御質問のうち、今、2番目について議論がされましたが、1番目の御質問に対して私の考えを申し上げると、今、日本として直面している問題は、宇宙研の問題ではなくて輸送系全体の問題だと思います。H-ⅡAは、ある種の追いつけ路線で世界の標準レベルまできたわけですが、その先にどういう輸送系を持ってくるかについては、日本だけでなく、NASAもESAも悩んでいると思います。次をどういうふうに持っていくかについて先が見えていないところは共通だと思います。それから、先ほどM-Vが果たしていた役割について特徴的に申し上げましたが、宇宙研で理学が発展してきた背景として、ロケット能力が上がりそれを使って新しいことがやれるようになったということがあったとすれば、ロケット能力を上げることがある種の最前線のことをやれることにつながるという歯車が動いていたわけです。しかし今や、理学としてこういうものが導入されたら新しいことができるというところに工学側がその期待に応える新しいものを提供していくという面は非常に弱まっています。大きいものや精密なものはどんどん深まっていくのですが、新しい可能性が持ち込まれるという点はなかなか見えてこないという状況です。そういう意味で、理工が一緒になって新しいものを作っていくという点について、工学側の柱が必要になっているということだと思います。

【秋山専門委員】  前回私がお話しした「はやぶさ2」の余剰ペイロードの話が、まさにこの話です。昔は、ある意味で宇宙研のロケットは宇宙研の先生が遊びたおしてもよかったわけですが、今は、プロジェクト単位でしか発注できないわけで、プロジェクトが既製品のロケットから載せましょうという権利をもらっている状況です。それ以外のペイロードがロケットの能力を使い切るという状況にはなっていないわけですので、この問題をどう解決するかについて、宇宙政策委員会の中にも輸送系の部会がありますが、そこと科学探査の部会は是非討議していただきたいと思っています。私としては、宇宙研にもう1回輸送系の開発を戻すということは余りフィージブルではないと思っています。そこでちょっとした私案ですが、例えば10年を見据えてH-ⅡAを2機とイプシロンを4機程度、これは宇宙研が好きにしていいです、しかも輸送系も含めて好きにしていいですというような枠があれば、もっと理工がこれを使い込んでいっぱい遊んでやろうということが生まれてくるのではないかと思います。そういう意味で、M-Vがなくなったことは、工学と理学が一緒になって使い切りましょうという関係が崩れたことにつながったと思います。

【井上主査】  いかがでしょうか。今の御意見は、先ほど永原委員がおっしゃった宇宙科学の存在意義といった話につながっていくような御意見ではないかと思います。そういう意味で言うと、個人的には、輸送系が引っ張る部分は秋山委員のおっしゃったレベルよりももっと大きいものだと私は思います。自分たちの自由になるという意味でのM-Vだけではなく、将来の輸送系をどう考えていくか、宇宙科学そのものをどう考えるかという話につながる話だと思います。

【藤井臨時委員】  コメントのような意見で申し訳ありませんが、先ほど永原委員がおっしゃったように、どういうところに目標を置いて宇宙科学を進めるかという道標、あるいは小山さんがおっしゃった共通技術の中で例として挙げられた大口径望遠鏡や姿勢制御、そういったことを合わせて考えたときに、若干理学的な立場ではありますが、アメリカのハッブル宇宙望遠鏡は非常に大きなマイルストーンになっていたと思います。ハッブル宇宙望遠鏡で初めて宇宙を見るわくわく感みたいなものが、研究者にはもちろん社会も含めてインパクトがあったから、それに向かって進めていこうというフラッグシップになり得たのだと思います。これまでの宇宙研のミッションにも、そういうものはたくさんあったと思います。一方で、輸送系とおっしゃいましたが、スペースシャトルがあったからハッブル宇宙望遠鏡を実現することができたわけでして、今、JWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)がまさに上がらんとしていますが、その次としてNASAの次期の巨大ロケットで単一鏡の8メートル望遠鏡や複分鏡の16メートル望遠鏡を、20年後ぐらいをターゲットに打ち上げようと企画されています。それ自体は大きなわくわく感のある大目標で、それと同じことを日本でやるわけではありませんが、そういったフラッグシップになるような宇宙を科学するためのわくわく感のあるミッションと輸送系が結びついて発展していくということは大変重要であると思います。

【野崎専門委員】  今の件ですが、年間の予算が幾らであるとか、イプシロンのキャパシティがこれだけであるとか、H-ⅡAのキャパシティがこれだけといった制約は、もちろんプロジェクトをやる上では大事だと思いますが、その制約を外した奇想天外な発想で、これを実現すればこんなサイエンスができるというようなことを理学と工学が一緒になってやるような場を、宇宙研は必ず提供し続けないといけないと思います。そのような場が今はないと言っているわけではなくて、そういう場を宇宙研が提供するということ自体が宇宙研の大事な役目ではないかと思います。そうでないとできる範囲のことしかやらなくなってしまって、サイエンスそのものが非常に縮こまったものになり、先ほどの夢というものがなくなってしまうと思います。特に理学と工学のインタラクションがきちっとできていたがために、先ほどの30年の長いスパンの技術やビジョンというものを描ける方が出てきていたのではないでしょうか。こういう技術を実証すればこんなサイエンスができるということについて、工学の方は常に理学の方からインタラクションで情報をもらい、逆に理学の人は工学の人から、どれがフィージビリティのありそうな技術なのかという情報をもらうということがうまく機能すると、30年のビジョンが失敗しない形で回っていくのではないかと思います。これが私の感想ですが、そういう天井をとっぱらったような議論をすることが絶対必要かと思います。

【小川専門委員】  理学、工学というキーワードで、理工一体というキーワードで、両輪となって展開するということは必要だと思っています。しかし、工学として新しい輸送系、これまでのロケットの延長線上ではなくて、新しいスペースプレーンとかスペースシャトルよりもっと頻度が高くてコストが下がる輸送系を工学として目指してもいいのではないかと思っています。今あるJAXAのロケットや次期基幹といった延長線ではなく、もっと革新的な研究が工学研究としてはあってもいいと思いますし、そういう活動をやるべきかと思っています。その上で、理学の方々が新しい宇宙輸送システムを使ったらコストが非常に下がって、また新しいサイエンスができるというようなことができればもっといいと思っています。

【井上主査】  ありがとうございます。いかがでしょうか。

【瀧澤臨時委員】  先ほど横山委員がおっしゃった夢ということは非常に重要であると私も思いますので、夢ということで私見を申し上げさせていただきます。私の宇宙に対する今の段階の夢は、死ぬまでに一度は宇宙に行ってみたいということと、もう一つ、今見つかっている系外惑星のようなものの本当の姿、そこに海があり川が流れていて山があって雲がある姿を見てみたいということです。皆さんからはばかばかしいと映るかもしれませんが、もちろん予算の問題もあって日本独自でできる問題でもないかもしれませんが、もしそういうことを実現するとしたら、そういったときに国際的なミッションの中で日本はどういう立場を果たしていくのか、それに向けて今の段階でどういうことをなしていくべきかというような考え方があってもいいかと思います。予算の問題があって現実にできることはこれでというような複雑な連立方程式を今この場ですぐに解かなくてはいけない、そういった強迫観念を感じてしまいました。素人的な意見で申し訳ありませんが、もう少し自由な、ばかばかしいところがあってもいいかと思いました。そういった中で一つ合致していることは過去の「はやぶさ」で、サンプルリターンを世界で一番にやるという工学と理学的なわくわく感や成功点が非常に一致していたところだと思います。日本ならではのそういうもの、皆さんが今までにおっしゃっていたように工学と理学ですり合わせ地点を見いだすことに加えて、もう一方で制約を外した将来的な夢に向けて国際協力の中でどういった役割を果たしていくかといったことを考えて、日本なしではそれは実現できないというところまで技術を持っていくという考え方があってもいいと思います。

【井上主査】  ありがとうございました。

【清水氏(三菱電機】  せっかく出席させていただきましたので、ひと言申し上げます。三菱電機として、先ほどから話題に出てきております「すばる望遠鏡」や「アルマ望遠鏡」を担当させていただいて、私自身も携わってきたのですが、先ほどから話に出ていますように、どんどんプロジェクトが大型化してきているということがあって、宇宙のプロジェクトも同じように大型化してきているところがあって、もはや1国だけではなかなかできない状況になりつつあります。そういう中で、国際コンソーシアムの中で役に立つ人材をどうやって育てていくかということが一つの課題ですが、逆にプロジェクトが大型化すればするほど全体がなかなか見えにくいこともあって、それゆえにシステムエンジニアが育ちにくいということも課題として出てくるわけでして、そういうときにどうやって若手を育てていくのかということが、宇宙研を含めた研究機関の方々の大きな課題になってきていると思います。一方、科学というものをどういった形で世の中にアピールしていくのかというときに、工学の視点にたったアピールの仕方にもう少し重点を置いたアピールが必要になってくるのではないかと感じています。ピュアな学問としてのアピールの仕方が今までのやり方だろうと思いますが、両輪のもう一方の工学に重点を置いてアピールした方が、雑ぱくな言い方ですが世間受けが良くて、これはこういった形で水平展開して使われるというようなアピールの仕方をした方がむしろいいように思います。科学技術のためということがもともとの目的としてあるのだとは思いますが、両輪としてうまくアピールしていく方が将来に向けた展開が見えてきていいのかなと思います。もう1点、教育の話ですが、小回りが利くようなプロジェクトがなかなか出てきていないということもありますので、工学も絡めて小回りの利くプロジェクトをやりながらもっと大きな将来につなげていくということをロードマップとして、それをうまく見せるような形にしていけば、なるほどそうなのかという理解が得られるのではないかと感じました。

【井上主査】  ありがとうございました。どうぞ。

【秋山専門委員】  先ほど永原委員が言われましたが、結局はビジョン、それは科学であり、技術であり、教育であり、国際交流や外交に関するビジョンだと思うのですが、それをどこが作るのかということが大きな問題です。それは、この委員会で今後議論していく話なのか、あるいは宇宙研や理工学委員会がもっと頑張ってくださいということもあるかと思いますし、若しくはJAXAの経営企画もあるかと思いますが、私は基本的にはこの委員会でビジョンに関してはある程度出せるような活動を今後やっていくべきだと思うのですが、いかがでしょうか。

【井上主査】  大きな考え方はこういうところが議論するべきだと思いますが、個々のそれぞれのビジョンについては、本来それぞれのコミュニティで議論が行われていくものだと思います。その際にどういうところをよく考えて欲しいというような、そういう大きな部分はここで議論すべきかと思いますが、皆さんどう思いますか。今の御意見は、ビジョンという観点での話ですが、もう一つ今日出されたこととして人材育成という話があります。この言葉はいろいろなニュアンスで使われていますが、宇宙研で非常に大きなプロジェクトが動くようになったことでいろいろなことをやる余裕がなくなったというときに、そこを少しでも緩めていくにはどういった人材がそこに入るといいか、どうしたらそこがうまく動くようになるかという観点から、一般的な大学院までを含めた教育で人材を作るということとは少し違う人材育成を議論する必要があるかと思います。メーカーさんとしてはこういう人材が欲しいということもありますが、宇宙研として実際に宇宙科学が果たすべき役割をやっていこうとすると、どういう人材が必要かということで、先ほどは技官という言葉が出てきましたが、ある種の支援人材、支援という言葉は余りいい言葉ではないという気もしますし、本来はそのような人材が任っていく部分はすごく大きいと思いますので、そういう点も少し議論があるといいと思います。いかがでしょうか。吉田委員は、小さい規模ですがいろいろなところで支援をやっておられると思いますが。

【吉田専門委員】  私は小型飛しょう体を使った実験や運用をしていますが、今まで飛しょう体実験をやったことのない方が参加されるところが一番面白いところです。新しい分野の実験をいろいろな大学等でやって欲しいのですが、もう一方で、最近の大学を見ていると、物を作るとか、何とか形に仕上げるというところの評価がだんだん少なくなってきていて、結果を出してこれがサイエンスですと見せるところにものすごく価値が出てきているところがあります。余りうまく小型飛しょう体を使っていないじゃないかというところが最近感じるところです。私は野崎委員と同じ素粒子物理の出身ですが、素粒子物理には「正規戦とゲリラ戦」という考え方があって、コミュニティの柱となる「正規戦」を走らせている片方で、必ず5年くいらでころがっていく小規模の「ゲリラ戦」をどうやって走らせておくかということが大学の先生の腕というところもありました。そういう異なる規模の研究が共に続いていくような環境をそろそろ宇宙科学も作っていかないとならないだろうなという感想を宇宙研に移ってみて思いました。小規模のいろいろな実験がたくさんできるといいのですが、そこにどうやってメーカーの人に参加してもらうのか、メーカーの方々が入ってこられると小型の規模のお金で済まなくなるので難しいところですが、メーカーの方の参加の仕組み考えるべきという気がします。

【井上主査】  今の視点について御意見はございますか。

【永田専門委員】  今の吉田委員の御意見に全く賛成です。最後のほうのメーカーの方々にそういう小さい規模でどうやって参加していただくかという話ですが、うちの大学でやっていることもかなり小さい規模でして、非常に小さいハイブリッドロケットを飛ばしていますが、これはメーカーと組んでやっています。植松電機という株式会社ですが、そこまで規模が小さいとメーカーとしては儲(もう)かりませんし、我々もほとんどお金を払っていませんで、手弁当でやってもらっています。では、なぜ植松電機はやるかというと、人を育ててもらえるので授業料だと思ってやっていますと言っています。小さい規模になれば、それは社員を育てる場だと思って、儲(もう)けがなくても参加してもらえるという、そういう考え方もあるのではないかと思いながら伺っていました。

【井上主査】  私が余り意見を言ってもいけないですが、メーカーさんと一緒にやる一つのやり方としては、永田委員が言われたように、メーカーさんからも人が加わっていただいて、そこが宇宙の現場を経験するような人材教育の場という格好で動けるとなると、一つの生かし方となるような気がします。メーカーさんいかがですか。

【安達氏(日本電気)】  十分ありえると思います。永田委員がおっしゃるとおりだと思います。非常に長期間ということになると、それはそれでいろいろあると思いますが、我々も先ほどお話ししたとおり、設計者が物作りにどれだけ携われるかところのきっかけを探しているところもありますので、失敗も含めて試行錯誤、そういうところに参加させていただいて経験することはそれなりにWin-Winの関係になるのではないかと思います。

【小山氏(三菱電機)】  私どももいろいろな場面で宇宙研さんとおつきあいさせていただいていますが、今おっしゃった点に加えて、各専門分野の先生方は非常にレベル的にすばらしい技術や蓄積を持ってらっしゃいますので、学ぶ点が多く、いろいろな面でこういう連携をもう少し進めるべきではないかと思っております。もう一つ、最初の資料の説明で忘れていましたが、普通の衛星分野でいろいろな衛星を開発する上では利用要求があるわけですが、その要求は大体想定範囲が多いわけです。しかし理学の方々からは、非常に厳しい技術的要求が提示されることがあります。「ひので(SOLAR-B)」(太陽観測衛星)という太陽を観測する衛星では、非常に高度な安定度と非常に高精度な指向能力を求められました。そうした要求が出てきませんと、ある意味で技術の底を引っ張り上げられないということもありますし、それができたあかつきには、それをもっと他のところにも使えるということが初めて開けてくる部分もあります。それを含めていろんなインタラクション、交流は必要ではないかと思います。

【井上主査】  ほかにございますか。時間も過ぎましたので是非言っておきたいことがございましたら。いかがでしょうか。議論が必ずしも収れんしているとは思いませんが、よろしいでしょうか。

(2)その他

【井上主査】  それではまた次の機会もございますので、「その他」ということで事務局から連絡事項があればお願いします。

【竹内企画官】  今後の進め方ですが、当面第3回、第4回の会合を予定させていただいております。第3回は6月6日開催で調整させていただきたいと思います。第4回は7月を予定しております。第3回は今まで御議論いただいた論点をまとめるとともに、中間とりまとめの骨子を御議論いただければ有り難いと思います。第4回で中間とりまとめの案を御討議いただければと有り難いと思っております。それが今後のスケジュールです。
  それからもう一つは、会議資料と議事録の公開ということでございます。運営規則に基づきまして本日の会議資料は公開となります。後日文科省のホームページで公開となります。また議事録につきましても皆様方に確認をさせていただいた上で、ホームページに公開させていただくことを考えております。以上です。

【井上主査】  ありがとうございました。以上で本日の議事を終わりにしたいと思います。閉会といたします。ありがとうございました。

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課