資料4-1 宇宙科学の推進方策について(中間取りまとめ)(案)

平成25年8月2日
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
宇宙開発利用部会
宇宙科学小委員会

1.はじめに

  平成24年7月、政府において宇宙開発利用に関する新たな推進体制が構築され、本年1月には新たな宇宙基本計画が策定された。当該計画においては、三つの重点課題として、「安全保障」、「防災」及び「宇宙科学等のフロンティア」が掲げられ、宇宙科学については、学術コミュニティによるボトムアップの議論を踏まえ、一定規模の資金を確保し、世界最先端の成果を目指すこととされた。すなわち、宇宙科学には、引き続き人類の知的活動に貢献する真理の探究や、世界を先導する画期的な成果の創出が求められるとともに、我が国の宇宙開発利用を先導する役割が期待されている。
  本中間取りまとめは、宇宙科学がこれら期待に適切に応えるとともに、我が国の宇宙科学や宇宙開発利用を支える人材を適切に育成していくため、科学技術・学術審議会の下に設置された宇宙開発利用部会宇宙科学小委員会として、日本の宇宙科学の現状と問題点を整理し、これらに対する当面の取組を取りまとめた。

2.現状と問題点

(宇宙科学研究所の将来戦略)
  宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)は、これまで衛星等宇宙空間を利用するための手段を研究する「宇宙工学」と、それを利用し宇宙空間における観測等により真理の探究を目指す「宇宙理学」とが緊密に連携することで、アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)に比し格段に小さな規模でありながら、世界に誇る優れた成果を生み出してきた。その後、平成15年に宇宙開発事業団、ISAS及び航空宇宙技術研究所の3機関が統合されJAXAが発足したことを契機として、固体燃料ロケットの開発・運用が液体燃料ロケット事業と統合され、宇宙輸送ミッション本部における業務として整理された。また、高度化・大型化する搭載機器開発に対応し、衛星開発にも高精度化・大型化が求められる一方で、工学的新規性への要求度が減少し、宇宙工学研究としてではなく衛星製造技術としての専門性が求められる要素が強くなった。
  その結果、ISAS宇宙工学分野の求心力が低下するとともに、ISASの特徴ある宇宙科学の推進を果たしてきた「宇宙工学による新しい宇宙空間利用能力の導入」の仕組みが有効に機能しなくなってきていることが指摘されている。最先端技術の開拓とそれに支えられた独自の宇宙科学の展開が順調に進まないことは、世界における日本の宇宙科学の地位の低下につながり、人材育成にも大きな影響を与えることになる。
  このように、我が国の宇宙科学の根幹的問題に直面しているにもかかわらず、ISASにおいては、問題の認識とこれからの宇宙科学の在り方、組織の在り方などの将来戦略や具体的対応策の検討が十分に行われていない。

(大学等における宇宙科学研究拠点)
  宇宙科学の推進主体である宇宙科学コミュニティは、ISAS、大学等の機関により構成される。両者は連携して宇宙科学プロジェクトに取り組んできているが、科学における良い意味での競争関係が存在せず、衛星打ち上げ機会の減少も相まって、活気が失われている分野も存在する。あるいは逆に、大学コミュニティの成熟が不十分で、そのことがISASの活性化が進まないことにつながっている分野もある。
  このような状況を打破し、我が国の宇宙科学全体が卓越した成果を創出し続けていくためには、大学等において宇宙を利用した科学を先導する拠点が複数存在していることが不可欠である。しかし、現在の我が国においては、そのような拠点形成を実現する仕組みが存在していない。

(新規学問分野の開拓)
  宇宙科学の新たな発展のためには、将来的に高い学術的価値を生み出すと期待される新規学問分野を開拓することが重要である。他方、宇宙科学のこれまでの研究経験の延長や現在のコミュニティのメンバーのみでは、これまでの殻を破ることは困難である。このため、従来は必ずしも宇宙科学と密接な関連を有していなかった分野との連携を促進する施策を実施することが必要である。また、ISASが、大学だけでなく宇宙分野以外の研究機関等との連携を拡充し、先端的な技術開発や人材育成などを進めることが重要であり、それを可能とする新たな枠組みが必要である。

(宇宙分野の専門人材の育成)
  宇宙科学の多様な分野への広がりやプロジェクトの高度化・大型化に対して予算・人員の増大が見られないことから、宇宙科学ミッションの頻度は著しく減少しており、日本の宇宙科学の基礎的な力の維持向上や人材育成などの観点から憂慮すべき状況となりつつある。宇宙分野に限らず、科学の基礎力は国の技術を支える根幹であり、人材育成の原点であることから、この状態を放置することは、長期的な日本の宇宙開発利用を支える力の低下につながる。多様な宇宙科学ミッションを実現することで、宇宙開発全体と宇宙利用の拡大を支える人材を育成していくことが必要である。育成すべき人材は多様であるが、長期にわたる大規模プロジェクトを牽引(けんいん)することのできるリーダーや、計画を事実上支える宇宙工学専門技術者について、特別の育成システムを整備することが必要である。
  また、宇宙科学は巨大プロジェクトであり、多くの技術開発を伴うことから、計画立案から始まり、技術開発、機器開発、製造などのあらゆる段階において、民間企業との協力関係は極めて重要である。民間企業との連携は、人材育成の点からも、宇宙に関わる産業振興にも重要な役割を果たす。しかしながら、現在我が国では、企業との連携が有効に機能する人材の流動化が図られているとは言い難(にく)い。
  したがって、イノベーション創出に資するよう、ISAS、大学、民間等が連携して多様なキャリアパスを提供する仕組みが必要である。

(宇宙分野への興味・関心の拡大)
  将来の宇宙科学を支える専門人材の確保や宇宙開発利用を支える社会的環境の醸成は一朝一夕に達成されるものではない。宇宙に対する国民の興味・関心を掘り起こすことや知識の増大に多様な機会を提供することが大切である。
  現状では、小中学生に対しては、宇宙分野への関心の向上を主眼とした理解増進活動として、JAXAを中心とした関係団体において、インターネットによる情報提供、コズミックカレッジ(宇宙を題材にした実験、体験により感動を経験することを目指した理解増進プログラム)、タウンミーティング(宇宙開発利用に関する専門家と市民との直接対話)等が積極的に実施されている。しかしながら、高校生や大学生に対する興味・関心の喚起に資する活動は必ずしも充実していない現状にある。これら世代に対しては、成長に応じたより実践的な手法を用いて興味・関心を拡大する取組が極めて有効である。

3.今後の方向性

(1)ISASの強化

1. 長期戦略の策定
  ISASの宇宙工学分野の求心力を回復し、宇宙工学による技術開拓が有効に機能するような研究開発体制や組織体制の改革を実現するため、以下の視点を盛り込んだ宇宙科学の長期戦略を検討すべきである。

  • イプシロンロケットの高度化、再使用ロケットの導入、大幅なコストダウンとなる輸送システムの開発や、挑戦的な宇宙探査プロジェクトなど、将来の宇宙空間利用システムの開発研究と、それにより可能となる宇宙理学研究についての戦略的な課題設定
  • 宇宙工学と宇宙理学が連携することで生み出され得る優れた成果の明確化
  • 我が国の独自性を生かした、世界を牽引(けんいん)し得る宇宙科学ビジョンの明確化
  • 国として参加する国際協働計画への宇宙科学コミュニティによる科学的貢献の明確化

2. 多様かつ柔軟な計画の立案
  プロジェクトの高度化・大型化や財政的制約等からプロジェクトの機会が減少し、成果創出と人材育成が不十分となっている現状を克服する必要がある。このため、前述の長期戦略を踏まえつつ、国際協力によるプロジェクトなど多様な計画への積極的な参画及び衛星の相乗り打上げや国際宇宙ステーション(ISS)からの放出等の多様な機会を生かせる柔軟な計画を立案すべきである。

3. 組織改革
  前述の長期戦略の策定とその遂行により、ISASが我が国宇宙科学コミュニティの中核として期待に応えられるよう、以下の組織改革が必要である。

  • 宇宙理学及び宇宙工学の連携強化を可能とする組織形態
  • 宇宙理学委員会及び宇宙工学委員会に閉じず、学術会議の議論をはじめとする学術コミュニティ全体の科学的評価に立脚した計画の立案
  • 競争的・挑戦的に進める小規模計画の増加
  • プロジェクト規模に応じた柔軟な評価システムの構築
  • 純粋な工学研究とは異なる位置付けの宇宙技術者養成の仕組みづくり
  • 計画立案からデータアーカイブに至るまでのあらゆる段階での民間企業との連携強化を可能とする仕組みづくり

(2)大学における拠点形成

  ISASと大学等の研究機関との間に良い意味での競争関係を生み出し、両者によって構成される宇宙科学コミュニティが成熟していく環境を醸成するため、以下の目的を持つ大学拠点を形成する必要がある。

  • 宇宙工学・宇宙理学の萌芽(ほうが)的計画を主導的に進める拠点
  • 新たな分野創出のための拠点

  また、これらの拠点においては、大学院生が一定の責任ある立場で計画に参画することが可能であること、拠点以外の大学に所属する大学院生等にも広く門戸を開いていること、及び民間企業と積極的に連携していることが重要である。

(3)専門人材の育成

  宇宙科学の多様な分野への広がりやプロジェクトの高度化・大型化に対応し得る専門人材を育成するため、以下のことを行う必要がある。

  • 多様な規模の計画を組み合わせること、あるいは海外の計画への参画の機会を増加させることで、衛星打ち上げの機会を可能な限り増やし、経験の蓄積を目指すこと
  • ISASとJAXAの他部門、拠点大学、他の大学等機関、民間企業との間の流動的な人事交流により、プロジェクトを率いることのできる人材や専門的技術能力を有する人材を意識的に育成するシステムをつくること
  • 若手研究者を数年程度にわたり海外のプロジェクトに派遣し、宇宙プロジェクトの進め方を学ぶ機会を提供すること

(4)次世代を担う青少年の興味・関心の拡大

  宇宙開発利用を支える社会的環境を醸成し、宇宙分野への国民、特に次世代を担う青少年の興味・関心を更に拡大するため、以下の取組を強化すべきである。

  • 小中学生、高校生及び大学生に対する様々な理解増進の取組を強化し、多様な規模の教育を広く支援するプログラムをつくること
  • 博物館・科学館などにおける宇宙分野に関する各種取組について内容の充実を図るプログラムをつくること

 

<<以下、事務局追加案>>

4.当面の取組

(1)成熟した宇宙科学コミュニティの形成

  我が国が世界水準で最先端の宇宙科学を展開していくためには、「3.今後の方向性」で指摘されている内容に適切に対処し、宇宙科学コミュニティの総力の嵩(かさ)上げを図っていくことが重要である。
  このため、当面、以下のような取組を行っていくことが必要である。

1. 大学における拠点形成
  文部科学省は、宇宙科学で我が国が世界をリードするため、平成26年度概算要求に向けて、各分野で優位性を有する大学を中心とした拠点を、大学院生を含め若手研究者が一定の責任を果たし得る体制により構築するために必要な措置を検討すべきである。

2. ISASに対する要請
  長期戦略の策定については、内閣府宇宙政策委員会宇宙科学・探査部会において宇宙科学に関する長期的なロードマップの作成に向けて早急な検討がISASに求められており、これと一体的になされることが重要である。このため、ISASは、ロードマップ等の検討状況を踏まえつつ、本年秋を目途に適宜当小委員会に報告することを求める。なお、当該戦略は、「3.(3)専門人材の育成」で指摘されている事項についても適切に反映していることが必要である。
  また、組織改革については、可及的速やかに可能なものから順次着手し、その状況について適宜当小委員会に報告することを求める。

(2)宇宙分野への興味・関心の拡大

  昨今、はやぶさの帰還、宇宙を題材にした映画やアニメの放映などを契機として、宇宙分野が社会的に注目され、宇宙に対する憧れを抱く青少年が増えつつある状況にある。さらに、日本人として初めてISS船長に就任する若田宇宙飛行士の打上げが本年11月に予定されており、益々(ますます)その傾向が強まるものと期待されている。
  このため、文部科学省は、このような機運を適切に活用し、次世代を担う青少年の宇宙に対する興味・関心の拡大が図られるよう、平成26年度概算要求に向けて、現在十分な支援体制に乏しい高校生から大学生を対象として、実践的な宇宙開発利用への理解増進を目的とした活動を支援するために必要な措置を検討すべきである。

 

 

参考1 宇宙科学小委員会の設置について(※国立国会図書館ホームページへリンク)別ウィンドウで開きます

参考2 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 宇宙開発利用部会 宇宙科学小委員会 委員名簿

参考3 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 宇宙開発利用部会 宇宙科学小委員会 開催実績

【第1回 平成25年4月25日(月曜日)】

議題
(1)宇宙科学小委員会について
(2)宇宙科学分野の現状について
(3)宇宙科学研究の推進方策について
(4)その他

【第2回 平成25年5月8日(水曜日)】

議題
(1)宇宙科学研究の推進方策について
(2)その他

【第3回 平成25年7月2日(火曜日)】

議題
(1)宇宙科学研究の推進方策について
(2)宇宙科学ロードマップについて
(3)その他

【第4回 平成25年8月2日(金曜日)】

議題
(1)宇宙科学研究の推進方策について
(2)その他

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課