資料3-1-4 「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

<人材育成に関して>

  • 「文部科学省における宇宙分野の推進方策について」では
    ・実利用までを見通してプロジェクトを適切にまとめあげる総合力を持った人材を育成するため、宇宙科学など先端科学技術の専門性に加えて、人文科学やリスク管理等の見識を修得する機会が提供されるよう、当該取組を行う大学院等に対して支援を行うなど配慮すべきである。
    ・優れたエンジニアリング能力を発揮できる人材を育成するため、実際の衛星プロジェクトへの参加などを通じて実践的なスキルが修得されるよう、超小型衛星の製作支援や製作された衛星の打上げ機会の提供に配慮すべきである。
    ・将来の新規利用分野の創出に貢献できる能力を有する人材を育成するため、新たな利用方策の開発や実証を経験できるよう、当該取組を行う大学院等に対して支援を行うなど配慮すべきである。
    ・また、これら施策の実施に当たっては、国内の人材育成に加えて、宇宙新興国における人材育成にも配慮することで、海外における将来の宇宙利用拡大に貢献していくこととする。
    ・小中学生等に対しては宇宙分野への関心の向上を主眼とした教材開発などの取組を、高校生・大学生等に対しては模擬のロケットや衛星の打上げ等の実体験を通じてより専門的な関心を高める取組などを支援すべきである。
    と記されているが、現状では各大学・大学院等での自主的な取組によって実施されているだけであり、予算的なバックアップが行われていない。
    文部科学省において(海外を取り込み、産業化にも通じる)人材育成のビックピクチャーを作成し、実実施機関に対する重点的な予算配分等が必要である。
     
  • 全国の高校・大学を対象とした教育実践を推進する拠点校を選定し予算処置を行い、全国共同利用機関として機能させ、打上実験などを伴う実践的な共同実験場の維持・管理を行わせるべきである。
     
  • 海外に対して実施すべき「(研究者ではない)現場監督レベルの技術者育成」、「衛星・システムの設計・製作技術者育成」コースを文部科学省が推進する「産業化を見据えたパッケージ戦略」の一環事業として設定し、必要な予算処置を実施すべきである。
     
  • ISSからの人工衛星放出手段等を積極的に活用し、文部科学省が実施できる海外協力へのアドバンテージとして利用すべきである。
     
  • ISS利用も含めた総合的な科学・探査に関する意見を取りまとめ、文部科学省から宇宙政策委員会に具申すべきである。 
     
  • 現行の宇宙科学研究所でのWG数は実際の予算規模に合致していない。10~20年の長期予算展望に即して、より具体的に実施に向かって動き出すWGと、検討のためのWGを分けるべきである。
     
  • イプシロンロケットを早期に改良し、宇宙科学研究所が実施する各種科学探査プログラム(深宇宙含む)に利用できるようにすべきである。
     
  • 我が国の国家財政は危機的な状況にあり、国家予算のみで人材育成事業等を実施することが困難になりつつある。そのため、民間からの企業メセナ的な支援も必要不可欠である。現在はこのような支援事業を行っている企業に対する表彰制度等がないが、これらをあらたに設けることにより、このような活動を推進する方策をとるべきである。

 「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

  • 本委員会が取り扱う宇宙科学の範囲について
    宇宙科学とは、狭義には天体及び宇宙空間を対象にした科学で、JAXAにおいてはISASが主に担ってきた分野であるが、宇宙からの地球観測やISS等を利用した科学のように、宇宙空間を利用した科学を含む意味で使われることもある。惑星科学と地球科学のように深いつながりがある分野があること、アストロバイオロジーなどこれまでは宇宙科学の範囲では必ずしもなかった分野が参入することにより大きな発展が見られる分野があることに鑑みると、本委員会で議論の対象にする宇宙科学の範囲はできるだけ広くとらえ、優れた学術成果を生みだし、科学的知見と技術基盤の強化を通して宇宙利用を支えるという宇宙科学の目的を、全体としていかに達成するかという観点から議論すべきと考える。
     
  • 大学における宇宙科学力の強化について
    大学における宇宙科学力の強化は、大学の研究力強化を目指す大学改革の方向とも一致し、ある分野に強みを有する大学等への重点的な支援による拠点化は、宇宙科学力の底上げのために重要である。大学の強みの一つは、既存の宇宙科学以外にも幅広い分野の研究者を要することにあり、例えば先端的な工学技術の宇宙分野への応用、宇宙技術のスピンオフ、新たな宇宙利用による社会経済的価値の創出、学際的な研究による新しい宇宙科学分野の開拓といった点でJAXA・ISASの機能を補完することができると考えられる。
    例えばISAS(又はTSC)が宇宙科学の主要ミッションが関係する中心的なテーマを牽引し、大学等における拠点はそれぞれの強みを活かした特徴的な研究や、学際的・萌芽的な研究で宇宙科学の裾野を拡げる機能を持つ、といった役割分担が考えられるのではないか。
    その際留意すべきことは、既存の宇宙分野以外から参加する研究者にとっては、宇宙利用そのものが目的ではなく、また衛星、観測ロケット、ISS等様々な宇宙利用のうちどれがもっとも適したやり方かもしばしば明らかではないため、ISAS以外の部門も含むJAXAからの技術的な支援体制の充実がまず重要である。また、JAXA/ISASのミッションに大学の研究者が参画する場合に、その成果が参画した研究者はもちろん、所属する各大学の評価にもつながることも重要である。
     
  • 人材育成について
    専門的人材の育成には、優秀な学生が宇宙分野の大学院へ進学することが重要だが、大学学部生への宇宙教育は各大学の関係する学部学科や研究室等のレベルで行われているに留まる。例えば拠点大学における学部教育や、拠点大学と地域の小中高校の連携による宇宙教育への予算的支援や、学部以下の教育・人材育成分野での大学・小中高校とJAXA/ISASとの連携の強化を図るべきと考える。
     
  • 成果の最大化と普及について
    JAXAや国立天文台のホームページ等で公開されている宇宙科学素材は原則教育普及のための利用のみが無償であり、商用は有償又は不可、画像の改変を禁じるなど使い勝手もよくない。一方NASAではホームページ上の画像等はパブリックドメインに属し著作権の制限なく、商用を含めて自由に使用することができる。例えばデザインや芸術等分野で天体画像や宇宙関係の映像等への需要は相当ある他、SNS等の普及で個人が情報発信する機会が劇的に増えているにも関わらず、広告等の媒体や出版物、デザイン・芸術作品等においては、日本国内や日本人の手になるものでも、NASAのものが使われることが多い。これは宇宙科学の成果を広く社会に還元し、国民からの支持を得る目的から見ると大きな損失である。
     
    天体画像のような宇宙科学の成果はNASAのようにパブリックドメインとするか、あるいはクリエイティブ・コモンズ等にならって素材ごとに一定の制限をかけたライセンス付けを行うなどすれば、企業、クリエイター、個人が宇宙科学素材を使って新しい価値を創造しやすくなる。ほとんど予算をかけずに宇宙科学の成果をより広く社会へ周知還元するための施策として是非検討していただきたい。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

1.宇宙科学の現状と問題点
1.1)宇宙科学の推進力
  宇宙科学が目指すところは、宇宙空間を利用するための手段の研究開発と、宇宙空間を利用した研究活動を通じ、世界第一級の学術成果を生み出すことである。これまで、宇宙科学研究所を中心に、大学共同利用の理念の下、宇宙空間を利用する新しい手段・能力を自ら開発し、その新しい手段・能力を最大限に活かした科学衛星を順次開発して、その使命を果たしてきた。
  ここにおいて、重要なことは、宇宙空間を利用する新しい手段・能力が導入されることがあって初めて、それらを利用した新しい研究が大きく広がることである。これまでの日本の宇宙科学が成果を上げ続けてこられた重要な点は、ロケットの飛翔能力の向上と、それに歩調を合わせた衛星・探査機の各種能力の向上が、着実に行われてきたことだったと思われる。
  しかし、ここに来て、

  • 次々と飛翔能力をあげることでより高度な科学衛星を生み出してきた、継続的な固体ロケット開発が、節目を迎えたこと、
  • 科学衛星・探査機開発が大規模となり、かつ、長期の準備期間を必要とするため、宇宙工学者が新規の挑戦的技術開発を行う機会が大きく減っていること(宇宙理学も同じ問題を抱えている)

等の理由から、宇宙空間を利用する新しい手段・能力を導入する宇宙工学研究が、十分に行われなくなってきている。

1.2)宇宙空間を利用する研究分野の広がり
  これまでの宇宙科学は、地球磁気圏プラズマ分野やX線天文学分野といった宇宙空間に出て始めて観測・実験が可能となる分野が、宇宙工学分野とともに、分野全体の存在価値をかけて、その最前線を切り拓いてきた。しかし、衛星能力が大幅に向上し、探査機の太陽系空間進出も比較的容易になって、宇宙空間を利用した観測・実験を行おうとする研究分野が増大してきた。また、政策的に導入されてきた地球観測衛星や、国際宇宙ステーションの微小重力環境等を利用した、地球環境科学や、物質科学・生命科学等において、新しい学問的展開がなされつつある。
  考えていくべきことは、新しく宇宙科学に参入しつつある分野においては、地上での実験や地上からの観測に大きなウェイトがある研究環境がまずあって、その上に、宇宙空間に出ることで得られる新しい情報を付け加えようとする面が大きいことである。これらの分野の研究者にとって、宇宙空間を利用することは、全体の研究の一部であって、少なくとも試験的にいろいろとやってみる段階では、自らの研究者人生をかけて衛星や探査機の開発に乗り込むことは、なかなか難しい環境にある。これらの宇宙空間を利用し始めた新たな研究分野が、宇宙空間で着実に成果をあげ、新しい学問展開を行っていくためには、試験的実験の段階から十分な技術支援を受けられる体制を整えていく必要があろう。

1.3)宇宙工学専門技術者の不足
  これまでの科学衛星開発は、その科学目的の実現を指向する分野の理学研究者が主体となり、技術的な部分を工学研究者が支援する形で行われてきた。しかし、搭載観測系が大型化し高精度化するにつれ、衛星開発そのものの工学研究の要素は薄れ、工学研究者が、研究者としてではなく、技術者として衛星開発に関わる面が大きくなってきた。これまでの科学衛星が、限られた予算の下で大きな成果をあげてこられた陰には、工学的見識が高く現場経験が豊富な宇宙工学研究者の果たしてきた大きな役割があった。しかし、今や、宇宙工学者による科学衛星計画への参加には、工学研究というより技術支援の要素が大きくなって、本来の宇宙工学研究にかける割合が大きく減少する事態が生じている。これを解決するには、工学的見識が高く現場経験が豊富な宇宙工学の専門技術者を育成、充実させて、各種のプロジェクトの技術支援にあて、工学研究者が本来の工学研究に十分な時間をかけられるようにするべきである。

2.今後に向けて
  以上のような現状分析の上に、これからの宇宙科学として何を考えていくべきかにつき、考えるところを2点記したい。
2.1)宇宙科学を牽引する宇宙工学の長期ビジョン
  1.1)で述べたように、宇宙科学は「宇宙空間を利用する新しい手段・能力が導入されることがあって初めて、それらを利用した新しい研究が大きく広がる」ものである。これまでは、M-ロケットの飛翔能力の向上が宇宙科学を牽引してきたわけだが、今や、その時代は終わった。今後に向けては、これからの宇宙科学に新展開をもたらし、ひいては、宇宙空間のもっと広い利用に新展開をもたらす、将来の宇宙空間輸送・航行システムを見据えた宇宙工学としての長期的な研究開発ビジョンが求められよう。そして、宇宙空間を利用する様々な科学分野側は、その長期ビジョンに即した新たな戦略をたて、宇宙工学長期ビジョンに結集して、さらなる新展開を目指すべきであろう。
  宇宙工学長期ビジョンで目標とする将来宇宙空間輸送・航行システムの実現に向けては、現在宇宙研で行われている、小型衛星計画以下の規模の各種共同利用実験を再整理しつつ予算規模を増やして、「自由な発想」に基づいて競争的・挑戦的な実験を行っていく特長は活かしつつ、宇宙工学技術開発に向けては、統一的・戦略的に小型規模実験を行っていく体制を作るべきだろう。

2.2)宇宙工学専門技術者の育成と充実
  次には、上で述べた宇宙研で行われる小型規模飛翔体実験の活動の場を活用して、これからの宇宙開発プロジェクトを担う、「自分で考え自分の手を動かす」訓練を積んだ宇宙工学専門技術者を育成する体制を作り、以下にのべるような各種活動の中核技術者として大きな戦力にしていくことを考えるべきである。ここにおいては、しっかりした指導者層を整備し、技術者育成プログラムを作り、系統的に専門技術者の指導・育成が行われるようにするべきである。そして、育成の先には、中型衛星規模以上の科学衛星はもちろん、JAXAの各種プロジェクトの重要な要員となる道があり、さらには、宇宙空間の様々な政策的利用に対応した技術的専門家としての道や、宇宙機器関係企業の宇宙専門技術者としての道も、あるべきだろう。また、近年いろいろな大学で盛んになってきている学生教育の超小型ロケット実験や、超小型衛星実験の指導者としての道も整備されてしかるべきだろう。宇宙研を核とし、宇宙機器産業や関係大学と連携した、宇宙工学専門技術者育成体制の整備が望まれる。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

  • JAXA統合に伴う大型ロケット事業の他本部への移管、月惑星探査グループ(JSPEC)の設置等で、宇宙科学研究所の研究開発体制が、大きく崩れてしまったようです。理学・工学が両輪となり一体となって宇宙科学を推進してきた体制が、JAXA統合前とは大きく変わってしまっているようです。探査や輸送系の研究をどうするのか、以前のようにISASが行うのか、それとも現状を踏まえて新しいやり方を模索するのか、考えていくべきと考えます。
     
  • 宇宙工学は宇宙理学「だけ」をサポートするものではなく広く宇宙開発に貢献するものですので、理工一体の観点「だけ」ではなく、理学成果に直接関連付けられなくとも、将来の探査や宇宙輸送の研究もISASとしてやっていくべきと考えます。
     
  • ISASが期待される成果を上げるためには、その活動に対して自律性と自由が担保されるべきだろうと考えます。

以下、盛り込むべき事項ではありませんが、
トップサイエンスセンター構想具体化に向けた議論が、問題提起されたままになっており、余り議論されていないので、集中的に議論してはいかがでしょうか。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

  • 科学成果の一層の「見える化」の推進
    NASAの火星探査機キュリオシティは17台ものカメラを備え、360度3Dパンラマ写真を火星表面で撮影したり、着陸時の映像を高解像度の動画で撮影するなど、その成果の「見える化」が進んでいる。こうした高いレベルの成果の「見える化」は、米国民のミッションへの親近感を高めている。ハッブル宇宙望遠鏡を言及するまでもなく、宇宙科学の成果を「見える化」することは、そのミッションの重要性を広く一般に理解してもらうために欠かせないことはもちろん、国民の科学に対する意識喚起の意味でも重要だろう。
    さらに、成果の一層の「見える化」の達成できれば、国際的にもトップサイエンスセンターとしての存在感を高めるためにも役立つと考える。
     
  • 長期的な挑戦的な探査ミッションを、人材育成の場と設ける試み。
    ミッション自体の「工学的な成果」や「理学的な成果」とならんで、どれくらいの期間、何人くらいの若手研究者を巻き込み「人材育成の場」とできるかということも“ミッションの成果の1つ”として評価しつつ、長期的な挑戦的な探査ミッションを策定することはできればと考える。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

  宇宙科学研究を推進するには,現場である宇宙での実践を通して学ぶことが肝要と考える。かつて,平均,年1回固体ロケットを打ち上げ,年1回天文衛星あるいは工学実証探査機を打ち上げてきた。自らがプロジェクトの一員となり,プレーヤーとして技術を磨いてきた。諸先輩の後ろ姿をみて,プロジェクトの進め方を学んだ。大学院生も加わり諸検討の1つを担ってきた。
  しかしながら,ミッション規模も大きくなり,数年に1回の打ち上げ機会となっている現状,検討会などの議論ばかりとなっている。またプロジェクト化及び打上げまでに幾つもの審査会が設定され,新しいチャレンジができない状況となっている。
  いままで,10年程度の実現を見据えた多彩な宇宙科学プログラムの計画立案と必要な最先端技術研究が,宇宙研を中心に大学,研究機関,企業の研究者により実行されており,既にミッションとして遂行すべき段階の成熟度に達している計画もある。一方で,実行が期待される宇宙科学プロジェクトは,世界レベルの成果創出と国際的競争と協調などの理由のために,より大型化,より高頻度化,より高度化が求められ,様々な面で計画とその内容が多様化する状況にある。
  そこで,小型あるいは中型規模の衛星や探査機を毎年打ち上げ,科学(サイエンス及び工学)ミッション推進する環境を整備することが重要である。プロジェクトメンバの一員としてプレーヤーとして参加することにより,将来の宇宙科学を担う人材育成がなされる。
  また新しい科学技術の創出に向けて,「はやぶさ」のような挑戦的なミッションも推進すべきである。その良い例が惑星探査であり,「見たことがないものを観たい」という人間が本来有している欲求を満たすミッションを行うのがよい。具体的には,月の縦孔探査や火星のマルチランダや航空機による広範囲な探査,金星バルーン探査など魅力的なミッションを打ち立てるのがよい。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

1.冒頭に、タイトルの「宇宙科学研究」の定義をはっきりとさせ、本とりまとめは「宇宙分野のみについて述べる」ことを明確にする必要があると考えます。

これまでの議論から本委員会はISASの今後の研究推進方策を議論するための委員会であると理解しました。24年12月の宇宙分野の推進方策において、宇宙利用は宇宙を知る、宇宙を支える、宇宙を使う、の3本の柱にまとめられており、「宇宙科学」は宇宙を知る柱の中に定義されていますので、ここにおける「宇宙科学」とは宇宙分野における科学についてのみと考えてよいと思います。

一方、一般的な言葉として「宇宙を利用した科学」には、地球観測を利用した科学が重要な部分として存在します。一般には「宇宙科学」と「宇宙を利用した科学」は言葉だけでは明確な違いがわかりにくいところがあります。本委員会は地球科学の議論を含むものではありませんので、本とりまとめの扱う範囲をきちん定義し、「地球観測を利用した科学も宇宙を利用する重要な科学研究であるが、本とりまとめで「宇宙科学について記し、「宇宙を使う」分野である地球観測等は扱わない」旨について明示しておいていただく必要があると考えます。

よろしくお願いいたします。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

「大学・大学院における人材育成を含めた宇宙科学研究の適切な推進のための具体的な取組」
  大学を横断して宇宙教育を橋渡しする活動及び組織が必要であるが、幸いなことに、そのような組織として「大学宇宙工学コンソーシアム(UNISEC)が既に存在している。2002年4月に9団体から始まった加盟団体数は、2013年6月現在、40校から59団体が参加する組織へと成長した。学生会員は550名以上、学生会累計数は、2000名以上である。しかし、参加団体数の成長に見合った資金獲得が困難で、慢性的な資金不足及び存続の危機が続いている。UNISECに金銭的な支援をとは言わないが、UNISECが獲得しに行けるような、大学を横断して宇宙教育を橋渡しする活動への予算配分を充実させることが必要である。

「国に期待する支援施策」
  JAXAを始めとする従来の宇宙プレーヤーの枠組みを超えた、幅広い層から宇宙関連研究/技術開発への参入が必要である。そのためには宇宙関連活動の規範となる法的枠組みが必須であるが、現状では未整備である。例えば、ロケットの運用を規定する法律は我が国には存在せず、火取法、消防法、高圧ガス保安法等、関連法令による規定しかない。宇宙活動法の整備が急務である。

「宇宙科学コミュニティが世界のトップサイエンスセンターとして機能する方策」
  コミュニティの構成メンバーとして、大学等のアカデミックスタッフだけではなく、メーカー等民間企業の役割も重視すべきである。例えば、宇宙関連プロジェクトにメーカーが加わるタイミングは、現状では競争入札を経た後であるが、小規模ミッションにおいてはミッション提案の段階からメーカーと一体となったチーム編成を可能とする制度運用を検討すべきである。

「学術研究の視点からの宇宙科学研究所や宇宙科学コミュニティの課題」
  用途を宇宙科学に特化したロケット開発を行ってきたことこそが、我が国の宇宙科学の強みであったと思う。宇宙輸送系開発を一本化すべきという議論の中で、宇宙科学と輸送系開発が乖離することを危惧している。ハレー探査やはやぶさが、数百億円規模の前半という低価格であれだけの成果を残したことを考えると、輸送系開発の一本化が必ずしもコスト合理性のある選択だとは言えないと考える。宇宙科学コミュニティの中で輸送系開発が果たす役割については慎重な議論が必要である。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

[宇宙開発活動への企業参加の在り方について]

  (問題点)
  宇宙科学のみならず宇宙関係の研究開発活動への企業参加は計画遂行の重要な要素です。
  現状では大学等の研究機関と企業との関係は一部の共同研究(企業側も費用を負担)を除いては請負若しくは製品納入の契約形態に止まり、研究開発の開始前段階から双方が協力して検討を行うには多くの制約があります。
  特に契約に至る段階においては公平性・透明性が求められ、価格競争等が重視される傾向にあり、企業側の保有する能力を十分に引き出すには柔軟性に欠ける面があります。

  (制度改善の方向)
  米国では民間企業の潜在的能力を引き出し、研究開発の国際競争力を高めるため、国の研究開発機関は国の調達規則(Federal Acquisition Regulation) によらない柔軟な運用を可能にする制度を設立しております。
  この制度はOTA(Other Transaction Authority)又はOther Transaction(OT) Agreementと呼ばれ、1960年代のNASAへの適用を初めとして、以降、多くの政府研究開発機関に活用されており、主に以下の特徴を有するものです。

  • 研究開発機関が計画の立案に当たり事前に自由に企業と話し合うことを許容する
  • 計画立案段階において複数企業間で役割分担等を調整することを可能とする
  • 価格競争によらず、計画遂行に必要な技術を重視して契約を行うことを可能とする
  • 企業との契約後においても目標値等は義務ではなく企業側との話合いで変更できる
  • 契約関係は主従の関係よりは協力者(パートナー)の関係と位置付ける

等々です。
  我が国においても同様の制度を設立し、研究開発に係る契約形態は政府調達の規則の例外として扱われることが研究開発機関と企業の双方にとって有益であると思料します。

  本意見は当面の予算措置とは異なりますが、研究開発活動の基盤整備の施策として検討することを提案します。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

  宇宙科学コミュニティを世界のトップサイエンスセンター化する方策として,宇宙科学に大きな変革をもたらす可能性を有する大学,研究機関等の優れた研究者(国内外を問わない)を一定規模招聘し,それを循環させる制度の確立と招聘のための教育等の人的補償のための経費を用意すること。必要経費や補償などの点で違いはあるが,トップヤングフェローのシニア版であり,できれば研究者個人ではなくグループ単位で実施できることが望ましい。なお,JAXAの厳しい人件費制限から,ISASの海外客員枠は現在年間のべ1名のみ(これを数か月ずつ数名で分割利用している)である。この枠組みの充実も併せてお願いしたい。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

1.「宇宙を知る」宇宙科学研究の今後の推進方策について

  宇宙科学研究は、理学及び工学の政府・研究組織・企業の知見及び技術を結集して進める必要があるまさに総合的な国力が問われる課題である。これを持続発展的に進めるためには、科学研究を進めるコミュニティの自律性を基本としつつ、これを、「大規模なナショナル・フラッグシップ」計画から「小規模かつ先鋭的な科学研究課題」までを広い視野で配置し、柔軟に比重配分を進める推進策・運営策が必要である。

1-1 宇宙科学のグランドビジョン
  ボトムアップ的科学研究の重要性は言を待たないが、一方で、長期的な戦略なしには、持続的発展はいずれ行き詰まるだろう。ここで重要なのは、設定する「長期的な戦略」に、適切な具体性と柔軟性を併せ持つことである。これを「グランドビジョン」と呼ぶことにする。

  JAXA/ISAS が大学を含む研究者、企業、そして政府が一体として進めるべき「ナショナル・フラッグシップ」的プロジェクトを持つことは、日本における宇宙科学全体の持続的発展を進める上で不可欠である。そして、これを着実に実施するためには、予算そのほか環境の現実的な見通しに基づく適切な時間スケールの設定とこれについての合意(コンセンサス)、この時間スケールにおいて目指すべき「基本的」な科学テーマの設定、そして科学衛星打ち上げ機会の設定である。
  私見だが、この適切な時間スケールとは15年程度を想定するべきである。基本的科学テーマとしては、先例として ESA Cosmic Visionや NASA “Beyond Einstein”、”Great Observatories” などが挙げられるが、これらを盲信的に模倣するのではなく、日本で先進性を持つ科学分野と知見に沿って、活発かつ責任を伴う議論を行う必要がある。

  これと相補的に、宇宙科学においては、「小規模かつ先鋭的な科学研究課題」の実施に当たり、大学などの研究者がこれに取り組むための環境を整備することである。宇宙科学では、個別のグループ、個別の研究者のみで、機器開発・打ち上げ・運用について環境も含めてすべてを進めることは困難である。これについては、JAXA/ISAS が一定の役割を果たし、柔軟かつ包括的にこれを支援・推進するための体制をとるべきである。一方、先日中止となった小型衛星プロジェクトの例を見るまでもなく、先鋭的かつボトムアップ的な研究課題のニーズをくんでこれを一律的なシステムで運用することは実際には大変難しい。大学等研究者と ISAS 研究者が日常的に相互交流し並列的に適切な数の計画を進めてゆくための組織的対応が必要である。

  時に宇宙科学と対比される地上における天文学、宇宙物理研究では、国立天文台がすばる望遠鏡、ALMA干渉計、そして今後の TMT 計画のようなナショナルフラッグシッププロジェクトを進めており、これに対して、各大学は、それぞれ小規模ながら、観測地や観測手法、テーマの点で限られてはいるが先鋭的な研究や、あるいは教育、基盤開発に重点を置いた研究を展開する、という構図がある。宇宙科学では、これに対して

  • 大規模プロジェクトの時間スケールが一般的に短い(衛星寿命は典型的には数年)
  • 小規模先鋭的課題においてもこれを推進するに当たり宇宙環境へのアクセス自体がハードル

という点が異なる。これを認識して適切なバランス、仕組みを考えることが必要である。

1-2 企業と JAXA の取り組みについて
  特に大型の宇宙科学ミッションの推進に当たっては、計画段階からの企業の積極的な参加と取り組みを奨励すべきである。コンプライアンスに基づいた、しかし戦略的な方向性を見いだし、企業における人材育成、企業の技術力向上にも寄与する方策を是非とも実施するべきである。

1-3 ISAS トップサイエンスセンターについて
  トップサイエンスセンターの理念は非常に重要である。しかしながら、ISASに併存する、あるいはその一部として、限られた数の優れた研究者を集めたものを作っても、恐らくその効果は限定的だろう。トップサイエンスセンターが免罪符的に扱われ、また、ISAS 本体と乖離することも予想される。私見であるが、望まれるのは、ISAS自身がこのトップサイエンスセンターの機能を果たし研究組織となることであり、そのための、例えば理学と工学の垣根も外すような大胆な組織改革であると考えられる。
  抜本的な組織改革は時間、リスクを伴うので、萌芽的という位置づけであれば、その機能を十分に議論し、試行する意義は認める。

1-4 JAXA / ISAS と大学研究者の意見交換 
  現在は、理工学委員会及び各小委員会が ISAS と大学研究者の接点となっているほか、JAXA と提携している大学では定期的に意見交換の場が持たれている。一方で、理工学委員会などでの議論は、総括的なもの、又は、進行中・計画中の既に具体化したプロジェクトについてのものが優先される。
  ある程度の規模のミッションについては、具体化した段階で、これに参加する主体となる大学研究者を含む委員会的組織をISASとしてきちんと運用したい。

1-5 宇宙科学教育について
  缶サットなどに代表される裾野の広い宇宙科学教育の取り組みは大変重要で、将来的には研究者・企業での人材を幅広く供給するという点で必須である。一方で、宇宙科学が大型化する中で、大型計画を推進してゆくための JAXA/ISAS+企業における人材輩出のためには、より高度で組織的な努力が必要とされると考える。具体的には、工学・理学分野の垣根を越えて、衛星システム及び各ミッションに応用可能な主要な技術システムを担当しうる人材・グループを意図的に育成することを、様々なミッションを通じて行うことである。例えば、JAXA では戦略開発研究本部がこれに当たると考えるが、宇宙科学ミッション全般に十分に還元される、あるいは科学ミッションに適した形で、このような人的資源を整備することが重要である。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

宇宙科学研究が大型化していくことは科学が深まっていく中で必然であると考えるが、宇宙科学分野の裾野を拡げ、宇宙科学の将来を担う人材を育成できる場となる、飛翔機会そのものと研究者や学生が自ら手を動かすインハウス開発の機会の減少という弊害が生じている。
宇宙科学研究のメインストリームとなる大型計画と、宇宙科学への新規参入や若手育成の機会となる多様かつ小規模な研究機会が、適切な割合で実行されていることが、宇宙科学研究の推進に不可欠である。

大型計画の推進についてはロードマップの議論を通じて推進方策が定められるものと理解しているので、ここでは多様かつ小規模な研究機会の推進方策についてコメントしたい。
これらの研究は将来結実するであろう萌芽的な研究であるので、トップダウン的な重点化は必ずしも適切でない。研究内容を定めて推進するのではなく、研究者間の競争とピアレビューにより得られる研究機会の充実を図ることが重要である。
こうした飛翔機会を宇宙科学研究所というプラットフォームに充実させ、宇宙理学委員会、宇宙工学委員会の枠組みの下で推進することも一つの方策であるが、同時に、文部科学省科学研究費助成事業における「系・分野・分科・細目表」に総合科学である宇宙科学を例えば「理工系・総合理工・宇宙科学・○○」といった新分科として位置づけ、宇宙科学の立ち位置を明示すると同時に、宇宙科学の専門家によるピアレビューを実施できるようにすることは、競争的資金レベルで実施可能な多様な小規模研究を大きく推進させ、将来宇宙科学、宇宙利用を担う人材を育成する大学院教育にも大きく寄与することができると考える。

「宇宙科学研究の推進方策について(中間取りまとめ)」に向けた意見

大学・大学院と宇宙科学研究所とのより有機的な連携をもとに必要に応じて企業も参加する形で宇宙科学の新たな推進体制を構築する。

  • 探査技術や搭載機器の戦略的な開発を行うセンター
  • 有機物を含む宇宙試料の高精度分析を行うセンター
  • 宇宙科学・探査の高次データの統合的なアーカイブを行うセンター
  • 探査のための大規模シミュレーションを行うセンター
  • 宇宙科学の戦略構築(decadal survey)・国際連携などを担うセンター

などを拠点として設置し,それらを宇宙科学研究所や大学・大学院とネットワークで結ぶ。

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課