安全・安心科学技術及び社会連携委員会(第5回)・安全・安心科学技術及び社会連携委員会 リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会(第7回)合同会議 議事録

1.日時

平成26年3月7日(金曜日)14時00分~16時00分

2.場所

文部科学省17階 17F1会議室

3.議題

  1. リスクコミュニケーションの先行事例に関する調査について(最終報告)
  2. リスクコミュニケーションの推進方策について
  3. その他

4.出席者

委員

堀井 秀之 主査、小林 傳司 主査代理、内田 由紀子 委員、片田 敏孝 委員、河本 志朗 委員、田中 幹人 委員、奈良 由美子 委員、原田 豊 委員、藤垣 裕子 委員、三上 直之 委員、山口 健太郎 委員、大木 聖子 委員、寿楽 浩太 委員、平川 秀幸 委員

文部科学省

川上 伸昭 科学技術・学術政策局長
松尾 泰樹 科学技術・学術政策局人材政策課長
西山 崇志 科学技術・学術政策局人材政策課長補佐
齊藤 加奈子 科学技術・学術政策局人材政策課専門職

5.議事録

<開会>
【堀井主査】  定刻となったので、第5回安全・安心科学技術及び社会連携委員会(第7回)リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会合同委員会を開催する。
 本日は、安全・安心科学技術及び社会連携委員会は、定数12名に対して11名の御出席、リスクコミュニケーションの推進方策に関する検討作業部会は6名のところ5名が御出席で、それぞれが定足数を満たしている。
 それでは、事務局より配付資料の確認をお願いする。
【齊藤専門職】  (配付資料の確認。)

<議題1.リスクコミュニケーションの先行事例に関する調査について(最終報告)>
【堀井主査】  議題1、リスクコミュニケーションの先行事例に関する調査の最終報告について、まず、科学技術振興機構科学コミュニケーションセンターフェローでもある平川委員から、調査の報告をお願いする。
【平川委員】  お手元にある資料1-1の分厚い冊子が調査報告書の案である。初めにお断り及びおわびを申し上げるが、4番の考察の部分に関しては未完成である。考察は全部で3節あり、その中で総論はほぼ完了しているが、残りの2節はまだ見出しの部分だけである。残りは早急に仕上げて再提出させていただきたい。なかなか作業が進まなくて大変申し訳ない。
 では、概要の説明をさせていただく。まず6ページの概要について。こちら、本調査ではリスクコミュニケーションに関する、それぞれの個別分野ではなく分野横断的に重要な共通事項ということを明らかにするために、食品、化学物質、原子力、感染症、地震・津波、気候変動の六つの分野における先行事例を収集して報告書としてまとめた。
 対象分野は記載のとおりで、具体的に扱った事例は(例)とうたっているところの中から抜き出している。また、そのリスクの種別、リスクにも様々なタイプがあるので、それらに関しての分類を、Renn,O.& Klinke,A.たちの論文を基にした分類なども併せて載せている。
 そして、具体的な調査項目としては、7ページ(2)にあるように、対象分野における先行事例、特にリスクコミュニケーションとして首尾よくいったと考えられる好事例と、あと様々な問題点・困難・克服点があったという意味での教訓的な事例、これらを選んでいった。そして、分野に対して、専門家や行政など関係者間で相互に行うコミュニケーションの先行事例を正常時、非常時、そして回復期の三つのフェーズに分けて調査を行った。更に好事例と教訓事例の要因についても検討するという目標を立てた。
 更に(3)調査の視点としては、分野固有の事例としてではなく、どの分野でも参照可能な事例として調査する。また、2のリスクコミュニケーションの推進に当たっての重要事項。こちらは、本委員会が昨年7月19日に出された重要事項において提示されたリスクコミュニケーションの類型に即した事例を可能な限り含めるとした。ただし、この1から5の類型については、この委員会でも、これだけではまだ十分ではないだろう、更に上乗せして拡張していく必要があるだろうという議論があったので、また後ほど本調査の中でどういう検討をしたかということに関して申し上げたい。
 続いて8ページ、3のリスクコミュニケーションに参加するアクター、関係者のコミュニケーションとしてどんなアクターを想定しているかを表しているのが、そこにある五角形の図である。大きく分けて行政、専門家、市民、事業者、メディアという形になっている。さらに、先ほども申し上げたように、事例調査の中でリスクコミュニケーションが行われるフェーズによる分類として、何か特別に事故などが起きていないような平常時、それから事故が起きた直後の非常時、緊急時、そして、そこから回復していく過程である回復期という分け方がある。それぞれの事例に関して、その事例がこの平常期、非常時、回復期のどれに当たるのかなどにも注意しながら、事例の分析、整理を行った。
 最後の方になるが、9ページの(4)調査の方法としては、ヒアリング調査をあらかじめ有識者に行い、そこから文献調査、更にヒアリング調査を行った有識者からの紹介などを基にして、別の有識者に対するインタビュー調査などを行った。実施体制は資料にあるとおりである。
 10ページからは実際の調査の内容で、10、11ページにあるのは、有識者に対するヒアリング、そのヒアリングに基づいて行った別の有識者に対する事例インタビューのスケジュール表である。
 12ページから先が結果であり、インタビュー、ヒアリングなどで集めたイベント型の取組の事例についての簡単にそれぞれA4で1ページずつにまとめている。食品分野など6分野それぞれ複数の事例を、どういうフェーズで行われたものであるか、また取組主体としてどういうアクターが関わっていたのか、主催者は誰か、いつ行われたのか、場所、更に内容と手法、そして、このコミュニケーションの実践、事例の特徴を表すような概要を記述してある。
 ちなみに後でも申し上げるが、ここで取り上げたイベント型の取組だけで、リスクコミュニケーションの活動の全てのタイプを網羅しているわけではない。というのは、リスクコミュニケーションというのは、こうしたイベント型の活動を支えるような制度であったり、組織であったり、また、後でも申し上げるが、リスク管理やリスク評価であったり、そうした事柄やプロセスの中で一体的に考えなければいけないものなので、このイベント型のものだけがリスクコミュニケーションと呼ばれるものではないからだ。しかしここでは分かりやすく、見えやすいものとして、イベント型のものを集めてみた。
 続いて、34ページからが考察になる。これは先ほど申し上げたように、まだ作成中である。全部で3節、4.1で総論、4.2が情報提供、4.3で対話・協働となっている。この3節のうち総論についてはほぼ書き上がっているが、情報提供と対話・協働のところは頭出しだけがしてある状態。
 とりあえず総論の大事なところを幾つか述べておきたい。まず総論一つ目のポイントは、先ほども申し上げたことで、リスクコミュニケーションというのはイベント型のものだけでなくて、リスク評価・リスク管理、より広くは様々な政策決定・施策の実施というものと一体的なプロセスとして考えなければいけないということを述べてある。
 そのために、図4.1に、国際リスクガバナンスカウンシルという国際的なリスク関連の研究者や実務家の団体が示しているリスクガバナンスの枠組みを引用した。コミュニケーションが全てのプロセスにおいて中心的なものとして位置づけられている。
 次のページでは、一体性ということで、もう一つ別の側面について述べている。リスクコミュニケーションというと、ついついリスクだけのこと、いわば科学技術や我々人間活動のネガティブな側面に集中しがちだけれども、同時に、やはりネガティブな側面を考えるのは何のためかといえば、より広くは人間が扱う技術、人間社会をよりよくするため、ポジティブな方向に向けるためであり、リスクコミュニケーションの目的も本来はそこにある。
 そうすると、例えば特に先端科学技術、あるいはまだまだ研究開発途上である萌芽(ほうが)的な科学技術と呼ばれるもの、そうした事柄に関するリスクコミュニケーションというのはリスクというネガティブな負の側面だけではなく、同時にどういう技術が望ましいのか、どういうアウトカムが望ましいのか、そういうプラスの側面も両方にらんだ形で分け隔てなく議論されること、情報、知識などの共有がなされることが必要と考える。したがって、研究開発、イノベーションとの一体性ということもリスクコミュニケーションにおいては非常に重要だということで、ここに挙げさせていただいている。
 続いて37ページ、リスク問題とリスクコミュニケーションの分類軸。この委員会で昨年7月に示された重要事項にあった五つの類型、これを更に発展させ、アクター、それからフェーズ、また問題の発生や対応に関する時間・空間あるいは社会的なスケール、リスクコミュニケーションが行われる目的といった分類軸、更にハザードの種別――つまり何らかのリスクの原因になるようなものの種類として三つ定めた。第一に、地震・津波のような自然災害や感染症のような疾病、第二に科学技術の中でも従来科学技術と呼ぶべきもの。これは既に社会の中で広く普及し定着しており、それがどういう問題を持っているのか、また、それら問題・リスクに対してどのような管理をしたらいいのかがかなりの程度分かっているような科学技術のことである。
 そして第三に、まだまだ実用化間もない先端科学技術や、更にまだまだ実用化の手前で研究開発途上、けれども将来大きな社会に対してプラスの面でも、マイナスの面でも、インパクトが予想されるような萌芽(ほうが)的な科学技術がある。この三つに大きく分けたハザードの種別という分類軸も設けた。
 さらに、リスク研究ではしばしば言及されるものとして、知識の不定性ということがある。リスクの問題に関して人間が持っている知識がどういう状態なのか。ここでは、先ほども出た国際リスクガバナンスカウンシルの報告書で使われている単純、複雑、不確実、多義的という分類を用いた。これらの言葉の意味は、もう少し先、40ページ、表4.3にまとめてある。
 単純というのはリスクの性質や管理方法がよく分かっており、また、分かっていることを社会でも広く認知していて、異論や対立が見られないような状態。それに対して複雑というのは、リスクの評価や管理の仕方について科学的な面で不一致がある状態。そして、不確実というのはリスクの評価に関して大きな科学的な不確実性、不確かさがある状態。そして、多義的というのには、大きく分けて二つの側面がある。一つは、同じリスクの評価結果に複数の解釈が存在するような解釈の多義性。それから、倫理や様々な社会的な価値に関する規範的な多義性、この両面を合わせたものとしての多義的な状態というものが四つ目のカテゴリーとしてある。
 こういう形で知識の状態を分けて、問題を、またそれに則したリスクコミュニケーションの在り方を分類する。問題を分けて考える上でのスクリーニングのフィルター的なものとして、この知識の不定性をこの図の中では位置づけている。個別のところは資料をお読みいただければと思う。
 ここで幾つか強調しておきたいのは、一つは、リスクコミュニケーションの目的には、ここに挙げている、教育・啓発、行動変容の喚起、信頼醸成、意思決定への参加や紛争解決という四つ以外にも実は様々にあるということ。特に四つ目の参加や紛争解決をもう少し細かくしていくと、例えば論点の可視化であったり、相互理解であったり、議題構築、あるいは和解や回復といったこと、これはこの委員会のまとめの骨子でもリスクコミュニケーションの目的の案として中に書かれている。そうした事柄も、修正作業の中で盛り込んでいきたいと考えている。
 それから、こうした分類をどういう形で実際に活用できるのかという点では、43ページ、図4.6に、リスクコミュニケーション企画のフローチャートという図式を掲げている。複合的な分類枠組みの図4.2を使って、実際にリスクコミュニケーションの実践をどういう形で企画立案するか、あるいは実際に行われたリスクコミュニケーションの実践をどのように評価するか、どういう観点から評価するかを考える上で役立つものとして、特にここでは企画の場合を例示している。
 つまり、最初にハザード種別はどれなのか、自然災害・疾病なのか、従来科学技術なのか、先端・萌芽(ほうが)的な科学技術なのかという分類。そして、それらに関してフェーズはどれに相当するのか。また、時間、空間、社会スケールはどれなのか。その上で、知識の不定性に関してはどうなのか。ちなみにこの知識の不定性は、先ほど申し上げ忘れたけれども、必ずあるリスクの問題が単純、複雑、不確実、多義的のどれか一つに1対1対応するわけではなく、一つの問題で単純な側面と不確実な側面、多義的な側面というのを併せ持っている場合も多々ある。むしろ、その方が普通にあると言った方がいいと思う。
 また、世の中、社会の中で、立場によって、人によって、ある観点からは単純と分類されるリスクが、別の側面からは多義的に分類されるということもある。いずれにしても、そうした形で知識の不定性の状態を分類、検討した上で、実際に、誰と誰のどのようなコミュニケーションが必要か、アクター関係の設定や目的の設定を行い、その上でリスクコミュニケーションの実施案を具体的に定めていく。こういう形でこの分類軸が使えるのではないかと考えている。
 ほかにも、今日、この後、資料1-2でJST科学コミュニケーションセンターがリスクコミュニケーション事業の構想を説明することになっているけれども、こちらの資料で、リスクコミュニケーション事業の在り方、そのスキームの示し方としてこの図を早速活用している。
 これらが今のところ考察でまとまっている部分である。そのほか、まだ頭出しの段階、箇条書的に書いてある状態だけれども、情報提供、また対話・協働についても様々な知見、また今後リスクコミュニケーションの活動を展開していく上で役立つ知見や教訓がある。
 その中では、この後のリスクコミュニケーション事業の構想、JSTから説明させていただくものでもあるけれども、例えば情報提供で48ページの(1)番、一覧性のある情報ポータルの必要性。これには、例えばヨーロッパをベースに、様々な科学的なコンセンサスレポートの解説をまとめたGreenfactsという例がある。これは主に環境問題や公衆衛生、先端科学技術のリスクの問題に関する様々な政府機関や国際機関、研究機関がまとめたコンセンサスレポートを、初心者向け、中級者向け、より本格的なレベルの3段階に分けて解説してある、そういうデータを集めたポータルサイトになっている。こうしたものが日本でもリスク問題に関して誰もが有効活用できる情報基盤として必要ではないかということなどが、情報提供のところでは盛り込まれている。
 そのほか、対話・協働に関しては、人、場、手法、また目的、文脈という観点から論点を整理していく予定。
 以下、52ページ以降は参考資料で、先ほどの3.でそれぞれA4、1枚にまとめた事例、それをより細かく、もう少し突っ込んだ形で理解していただけるように実際のインタビューから起こした資料になっている。3.でまとめた事例に含まれていない事例も含めて、参考資料では掲載させていただいている。
 細かいところはいろいろとまた読んでいただいて、フィードバックをいただければと思う。
【堀井主査】  続けて、科学技術振興機構 科学コミュニケーションセンターの長谷川事務局長より補足説明をお願いしたい。
【長谷川事務局長】  資料1-2、リスクコミュニケーション事業の構想という資料に沿って御説明する。今平川委員から御説明があった取組を踏まえて、考察の中で、例えば32ページの図の4.2で、リスクコミュニケーションについての軸を提示させていただいているけれども、こういったものを活用しながら今後のリスクコミュニケーション事業をいろいろ展開できるのではないかということで、現時点での整理を御紹介させていただきたい。
 1ページ目のスライドの2の部分。多様なリスクに対応できるコミュニケーションの仕組みを作っていくということ。どういうところに位置づけてその仕組みを作っていくのかについて言うと、御紹介のあった6軸のスケールを意識しながら設計をしていけば、どこが充実している、どこが欠けているかを一覧にしながらやっていけるのではないだろうかということ。
 ここの軸に当たるアクター、フェーズ、目的、時間・空間スケール、ハザードの種別・知識の不定性など、こういったリスクについては非常に多様になっているけれども、ここに対応できるような社会を創ることを大きな目的として、そこの中でどういう区分けの中で施策を打っていくのかということで、我々なりにその考察を踏まえて整理をした。現時点では、一つは、対話・協働、こういうカテゴリーでの活動が是非必要なのではないかと考えている。それから、もう一つが情報を共有するという取組が必要なのではないかと。この二つを大きな固まりとして整理したらどうかと考えている。
 次にスライド3で、今御紹介した二つの固まりについて、例えばどういう取組が想定されるのかを今思いつく範囲で並べている。今後議論が進んでいく中で、こういったところにもっといろいろなアイデアが出てくるのではないかとは考えている。
 例えば対話・協働の取組でどういうものがあるのか。これは、様々な対話の場を作って、その中でいろいろな取組を展開していくことが必要であろう。その場を作って、それを展開していくに当たって必要な項目として、対話の手法がこれまでの実践の中でもいろいろ試みられてきて、ある程度有効なものが見えてきそうなので、そういったものを活用、整理をして、手法としてきちっと整理をして提供していくという取組が会話を活性化するためには必要なのではないだろうかと。
 それから、対話を進めていくために、やはりファシリテーターが非常に重要な形で入ってきているので、これをしっかり養成していくということで、場の活用のところでこういう要素が必要であろう。
 それから、対話をしっ放しで、よかったね、共感できたね、合意ができたね、で終わってしまうのではなく、そういう対話、結果も含めて積み重ねが一覧できるような形で提示をする必要があるのではないかということで、なされた対話をアーカイブして参照できる仕組みをしっかり作っておく必要があるだろう。
 それから、次にワークショップの展開・支援ということで、いろいろな対話やワークショップがやられていると。片田先生などもいろいろな取組をされている。けれども、これがなかなか進まない状況が、一方でまだあるのではないだろうかということで、こういう有効な取組に何らかの支援の策を展開することも有効なのではないだろうかと考える。
 それから「・」の三つ目で、フューチャーセンター、これはヨーロッパなどで既に展開をされている仕組み。日本でも始まっているというだが、そういう仕組み、あるいは組織をきちっと要所要所に設けて展開をしていくということで、一つ、こういう対話の拠点を持ちながら活動していくことも有効なのではないかと考える。
 それから、地球規模課題に関する対話で、例えばWorld Wide Viewsのような取組についてJSTも少し参画をしながら経験を積んでいるので、こういったものも参照しながら対話の形を作っていくというのも一つあるかなと思う。
 それから、学校、科学館、公民館、図書館での対話ということで、どういう場を活用していくのかと。学校や科学館は当然想定されるわけだけれども、広く生涯学習のような視点で見渡していくと、公民館あるいは図書館のような場も、リスクに関係する活動としては重要な場なのではないだろうかということで、視点を広く持って活動していく必要があるだろうと考える。
 それから、情報共有の部分。どういうふうに情報提供していくのかということで、リスク情報のポータルサイトのようなものをしっかり整備をしていくということ。それから、メディアトレーニングプログラム、これは情報の出し方によって情報の価値が捉える方にとっても変わってくるので、メディアの部分でのトレーニングプログラムをしっかりと持って、それを使ってきちんとした情報発信していくことが重要なのではないだろうかということ。
 それから、3番目、リスクコミュニケーションのインフラ整備。ハザードマップのようなものがいろいろなスタイルで整備されているけれども、これを一覧する仕組みがある方がいいのではないかということ。仕組みを一から作るというやり方もあるし、例えばグーグルマップのような既に社会的に普及しているものに、ハザードマップ的な情報を入れ込んでいくなど、そういったものを活用しながらいろいろな情報を一覧できるような仕組みを推進していくのもいいのではないだろうかと考える。それから、リスクリテラシーに関するハンドブックを作ること、あるいは学校、科学館、公民館、図書館、こういったところで情報の共有をしていくという取組、それから、メディアを通じたリスクへの調査研究、こういったものを組み合わせていくことが必要なのではないだろうかと考える。
 以下、例えば海外を見渡してみて参考になるのではないかという事例を幾つか掲げている。スライドの4番目、科学館を活用したリスクコミュニケーション。これは情報共有の部分だけれども、アメリカの科学館にフューチャーフォーラムというものがあって、ここはファシリテーターがいろいろな説明、医療だったり、健康だったり、そういうイシュー(論点)を中心に説明して、来場された方々――これは大人の方々だと思うけれども、それに対して自分はこう思うということを、その場で画面に対してタッチをしていき、それが表示されると。この活動などは専門知識を得ながら、市民の方々がどんな意見を持っているのかということが分布として可視化できると、それから、意見の変化がどういうふうになっていくのかを追い掛けられるということで非常に参考になるのではないかと。
 例えば先ほどの軸で整理をしていくと、このような位置づけで、こういう取組が整理できるのではないかと示している。
 資料をめくっていただいて、科学技術政策をめぐる市民対話のナショナルセンター、これは対話・協働のところで、イギリスにSciencewiseという取組がある。ここで例えば政策対話のコーディネートをしたり、ファシリテーター研修をしたり、対話に関する調査研究をやっている。我々科学コミュニケーションセンターで少しずつ始めているようなことをもう既に組織的に展開されているので、こういったことを推進していくことも重要なのではないだろうかと。
 それから、下のところで、先ほど平川委員からも御説明があったけれども、Greenfactsの例、こういった対話、リスク情報をきちんと整理をして展開をしていくという取組、こういったものを参照しながら施策を打っていくことが必要ではないだろうかと考える。
【堀井主査】  ただいまの説明について御質問や御意見をお願いする。
【小林主査代理】  ハザードマップの閲覧性を高めるということはすごく大事なことだと思うが、これがトラブルの種になることはないか。つまり、すごくクリアにハザードが起こってしまっている地域でハザードマップの閲覧性を高めるのはいいが、平常時のときにこういうものの閲覧性を上げることに対する、例えば不動産業界とかからの抵抗があるのかなと思う。政府関係の機関が出している活断層の分布図を見ると、地図上に一応線は引いてあるけれども、非常に解像度を落とした地図になっている。
 肝腎のところを正確に見たいなと思ったときに、そういうデータを今どうも出し渋っているのかなと感じる。ちゃんと調べたわけではないけれども。だとすると、ああいうものをシャープにどんどん出すというのは閲覧性を高めることに当然貢献するが、それはいろいろな影響がある。そういう部分はどういうふうに考えるのか検討は行われているのかどうかを知りたい。
 それは、当然こちらの方が大事だから、全部閲覧性を高めればいいじゃないかというので押し切れるのかどうかがよく分からない。
【長谷川事務局長】  おっしゃるとおり、これは、こういうものがあればいいねという原則論で今挙げているので、それを実際に展開したらどうなるか、おっしゃるようなことが当然起こるだろうと思うので、それを現実にどういうところに落とし込んでいくのかというのは。
【小林主査代理】  課題だと思う。
【長谷川事務局長】  それこそ大変なことだろうという気がするので、これは一つの方向性としてこういうアイデアがあるのではないかというだけで。
【小林主査代理】  もちろん、それはそれでいいけれども、そういう課題があるんじゃないかなと、ちょっと思った。
【堀井主査】  ほかにはいかが。どうぞ。
【寿楽委員】  ちょっと違う話で恐縮だが、平川先生にお伺いしたらいいと思うが、今の報告書案で、34ページ以降のところ、ほかもそうだけれども、極めて重要だなと思って拝読していたが、36ページの(2)のところで、いわゆるエマージングテクノロジーとか、エマージングリスクのことについて特に言及されていると思う。今回のこういう議論がなされていることのきっかけであるとか、この報告書で取り上げられている事例を考えると、リエマージングという言い方がいいのかもしれないが、従来そういう技術は社会に入っていなかったわけではない、あるいは天災を経験したことがなかったわけではないけれども、我々の世代がいざ現実にリスクが顕在化するような出来事、例えば震災だとか、原発事故だとか、なるほどこういうものだったのかというのを今回初めて認識したようなリスクというのもあると思う。
 そういう場合には、原子力の場合などは特に典型的だけれども、経路依存的に今まで作られてきたいろいろな社会制度とか状況があって、その中には主体の信頼が低いとか、いろいろと関係する要素があると思う。だから、そういう場合にこのリスクコミュニケーションをどう捉えるべきなのかというのを、それについてもこの進行リスクとか、あるいはイノベーションとリスクコミュニケーションを併せて行うべきだと特出しするのであれば、そういうことについても、(3)ぐらいがいいのか分からないけれども、少し言及が加わってもいいのではないかなと感じた。
 現状だと、その37ページの図4.2のところでハザード種別ということで、従来科学技術というふうに入っているとは思うが、ただ、頭では分かっていた気でいたけれども、実際にはこんなにも重大なものなのか、という受け止めが今回の原発事故ではあったのではないか。
【平川委員】  まさに今おっしゃったように原子力に関しては、このカテゴリーの中でいうと、客観的には従来科学技術であり、例えばアメリカの規制状況であったら、かなり従来科学技術扱いしてもいいような状況だったのが、日本ではいろいろなところでまだ不備の部分が結構あったりして、先端科学技術的なフェーズにも実はあったという複合的な状況、二重の状況があったといえる。
【寿楽委員】  おっしゃるとおりだと思う。しかも、他方で、本当の先端技術はいろいろなものが今まさに作られている中なので、逆に操作可能性があったり、主体に対する社会のパーセプションはニュートラル、特によくも悪くも思っていないということがあったりすると思う。それは、でも、やはり厳しい初期条件みたいなものがあって動くわけである。そういうものを、何かちょっと工夫したらうまく捉えられるのかなと感じる。もちろん、特に具体的な例示の挙げようはないが、難しいなら難しいということをここに、これですぱっとはまってやれるわけではないのかもしれないということを書いていただくだけでもいいのかなと思う。
【平川委員】  ちょうどこの従来科学技術と先端科学技術の合間の、両方の要素を持って重なるような形になっている。知識の不定性というところでも、原子力の場合、単純なところだけでなく、多分これ全部が重なっている。
【寿楽委員】  そうだと思う。
【平川委員】  なので、そのあたりは、ちょっと言及させていただきたいと思う。
【寿楽委員】  それから、これは長谷川さんに伺った方がいいのかもしれないけれども、この報告書では34ページの総論のところで、リスクコミュニケーションというのはリスク管理と一体であるべきだとか、そのプロセスの中で主体の行動変容があるという、相互作用性が担保されていなければ価値がないものとみなされてしまうおそれがあるというのは、これは大変重要な指摘だと思う。今回このスライドの資料で提示くださっていて、主に対話・協働と情報共有というところから着手してはどうかということだが、ここに例示されているようなものにおいて、リスク管理とか、政策決定、意思決定との一体性だとか、特に前に出ていた言い方でいうと、そうしたプロセスの中において統治者視点側に立つような人たちの行動や態度の変容がこの中にどう入ってくるのかを、少し御説明いただければと思う。
【長谷川事務局長】  例えば対話の仕組みを作っていくということの中で、これまでの考察等の中で入ってきているようなことで……。
【寿楽委員】  もう少しありていに言うと、私の直感的な受けとめ方だと、政策形成とか、政策決定のプロセスとは少し距離があるようなものが例示されているように見えるが、それだけだと結局従来のパブリックリレーションみたいなものとの違いが明らかでない。一番大事なのは、それによってリスク管理が変えられる、それは社会全体が選び取るものなのだというメッセージがここから出てくるのかなというのが心配である。
【長谷川事務局長】  やはり最終的に政策に届けるということを大きな目的として、そこに対してどういう手段を講じられるのかということで挙げていくので、きちっとした対話ができても、それがちゃんと刈り取られるのかどうかはまた別な要素があるのだろうと思う。
 我々はそこに届けるという意志を持ちながら、どういう仕組みをまずは講じていくべきなのかから始まって、まずはこういったところを立ち上げていくのがいいのではないかと思う。
【寿楽委員】  なるほど。例えば、5ページの市民対話のナショナルセンターというところに、政策対話のコーディネートを特徴として、もちろんこれは外国の事例の紹介なわけだけれども、もし日本でもこういうことをやろうとすると、明らかにこれは政策形成、決定のチャンネルに何らかの形で接続していることが前提になると思う。それがある形で、こういうことをできるセンターがあると、それはすごく意義のあることだと思っている。
 私とか、小林先生が高レベル放射性廃棄物処分の問題の議論に関係しているが、そういう場合は、例えば経産省のような官庁がこういうことをやりたいと思っても、そのための資源がどれだけあるかというと、現状では、例えばそういう能力や実績があるような会社による入札をして、発注をしてということになる。これは前に申し上げたかもしれないが、公的なセクターにそういうハブになってくれて、実務もできるし、全体のプロセスもコーディネートしてくれる、ロジスティクスのコーディネートも、コンサルティングもやってくれるみたいなところがあるとすごくいいと思う。お金の流れという意味でも、そのたびごとにアドホックにお金を払うよりも、そういうところが基盤的なインフラとして政府の中にあれば大変有効だと思う。
 その辺までお考えなのか、あるいは、割とその場その場でまずは対応をという趣旨なのか。
【長谷川事務局長】  これは、構造的にこういう機能を持つべきなのだろうなと思う。それは、いろいろな問題を扱っていくことになるだろうと思う。非常に機微な問題も時には扱いながら。
 あと、例えば政策対話というところからちょっと外れるのかもしれないけれども、研究をしていくときに、バックキャスト的に、どういう社会を創るためにどういう研究をするのかということも、当然こういう機能で実現できると思う。そういったことも取り込みながら、リスクだったり、研究のイノベーションの方向だったり、そういったものを多様に議論していく。それは多分同じような仕組みでできるのではないかと考えるので、それでこういうものがあったらいいなと考える。
【寿楽委員】  なるほど。その辺の研究開発のフレームワークの中で考えるのか、もう少し広くジェネラルな政策の次元でリスク管理みたいなものの中でこういう取組を考えるのかで、ちょっと違うのかなと感じた。最後は私のコメントである。
【長谷川事務局長】  はい。
【平川委員】  ちょっとよろしいか。フェローの立場として申し上げると、基本的にはイギリスのSciencewiseみたいな形で、政府の中にあって様々な対話機能をサポートするような役割を果たす、そういうキャパシティをJSTの中に設けていきたいということが一つある。いざ政策で求められるようになれば、いつでもリソースを提供できるようにする。
 ちょうど一昨年、エネルギーに関して討論型世論調査があったけれども、あれに関しては専門的な観点で見ると、本当にあの手法でよかったのかとか、いろいろな問題があるわけである。そういうときに、では、どういう手法がより適しているのかに関してアドバイスや立案をできるような、そういう組織的能力を日本でも作る必要があるという問題意識は、科コミセンターでも共有されていると考えている。
 それから、あともう一つ、JSTは研究助成機関でもあるので、研究にダイレクトにつながる、つまり政策を挟んでではなく研究開発そのものにダイレクトに反映するようなこともできる。CRDS(研究開発戦略センター)とも将来的に連携をする形で、研究戦略に反映するのも、非常に重要なものではないかと考える。

<議題2.リスクコミュニケーションの推進方策について>
【堀井主査】  では、時間の関係もあるので、次に議題2、リスクコミュニケーションの推進方策について。前回に引き続き、今後求められるリスクコミュニケーションの取組について、8名の委員がプレゼン資料を作成してくださったので、プレゼンをお願いしたいと思う。資料番号順に一人5分でプレゼンしていただき、その後、引き続き全員で議論するので、質問等はそのときにお願いしたい。
 では、資料2-1、内田委員。
【内田委員】  新しい論点かどうかちょっと分からないけれども、重要だと思われることを四つ挙げさせていただいた。
 一つは、リスクに関する議論を可能にするような社会的な文化的な風土の醸成。特にリスクというのは、あ平常時に取り決めておいたり、あるいは議論の場を設けて、それに対する情報発信をしたりしておくことが多分必要なのだと思う。これ以前にも議論が出たと思うけれども、一般的にはリスクというのはクライシスと非常に混同されやすくて、リスクという話を出すだけでもかなり過敏に反応されることがあると思う。例えば先ほどのハザードマップを出してしまうと、それに対して非常に過敏に反応するというのもあるだろう。
 特に心理学で文化比較をやってきた立場からのいろいろな知見から見ると、日本ではリスクを回避する、失敗を回避しようとする傾向が強い。強いが故に、そういうものに対して非常に敏感に反応してしまって、こういうことは語ってもいけないというふうになってしまっているのだと思う。議論できる土壌をかなりきちんと醸成しないといけない。
 多分それは意識の高い組織や個人にリスク情報を提供してくださいと言うだけでは、多分足並みはそろわない。リスク情報の発信を広く積極的に促す、それに対するインセンティブをきちんと与えることをやっていかないと、難しいのではないか。
 2点目は、これまでも触れられていたことだと思うが、リスクファシリテーターの育成に関するところ。例えばリスクに関連した問題が発生したときに、それを管理する、あるいはコミュニケートする人に対して、どれだけ受け手の方がその情報を信頼して、そこにフォローしていこうというふうに感じるかどうかを検証する必要がある。
 単なる専門性だけではなくて、コミュニケーションの能力が非常に重要である。全く別の話になるかもしれないけれども、農業や漁業集落中で普及指導員という人たちが技術指導のみを行っても、それだけではなかなか成果が上がってこないということが分かっている。説得力のあるコミュニケーションと信頼の基盤がなければ、幾ら良い技術の話を伝えても、伝わらないということがあるのだと思う。
 そういう意味では、リスクの受け手に配慮しながら伝達するなどに関する、かなり専門的なトレーニングが必要になるだろうと思っている。専門家集団を作っておくであるとか、常設的なこういうトレーニングを受けられる機関というのを自治体・政府あるいは一定の企業などが設置することを促進することが重要であろうと思う。
 3点目は、リスク情報の判断の難しさに対する配慮の土壌。対話や協働でファシリテーターといろいろな市民が交流する場においても、結局それは意識の高い人は集まってきても、そういう人たちがマジョリティーだとは思えない。
 そうしたときに、あなた方個人できちんと判断してください、これだけ情報がありますよと提供されても、一般的には難しいだろうなと思う。大方の人はマスメディアを情報源にしていると思う。しかし言い切り型、例えば1か0(ゼロ)かという情報は分かりやすいし、メディアは発信しやすいものなので、残念ながら取り上げられやすいとは思う。
 それではリテラシーの醸成にはとてもつながらないことだし、現実のリスクというのは別に1か0(ゼロ)かではないことというのはたくさんある。このリスク情報判断の難しさに対する配慮の基盤醸成ということは、リスクコミュニケーター、あるいはリスクの管理者側だけではなくて、それを伝える媒体の方の教育とも連動して形成することが必要だろうと思っている。
 最後、4点目として、結局このリスク情報に対峙(たいじ)したときに、人は何らかの意思決定をしなければならない。この意思決定を行う際に、最終的に何を一番目標にするのかということを、きちんと最初から話し合っておくべき必要があると思っている。例えば功利主義モデルでいくのか、それとも、それぞれがある程度ちょっと我慢しながら、だけれども、よかったと思えるような方策を取るのか。
 分配とか公正とは何かという非常に哲学的な問題になってしまうのかもしれない。しかし意思決定の目標について共有された理解がなければ、最終的にリスク情報をどう判断すべきかを見失う可能性ある。何が大切かということも踏まえた上での議論形成みたいなものをしておく必要があるだろう。
【堀井主査】  続けて資料2-2、小林主査代理。
【小林主査代理】  この委員会で様々な議論、論点が出尽くしているので、例えばコミュニケーションの手法とか、信頼とか、社会の目指すべき価値の共有といった、今内田委員がおっしゃったようなポイントはもう既に随分議論になっているので、あえて言うこともないかなと思っている。
 一応2点、メモでは書いた。2点目の下の方の部分を最初にさらっとお話ししておく。やはり、この委員会としては、リスクがハザード掛ける発生確率という、この単独パラダイムで全部処理するという発想をどうやって超えるかというメッセージを出すべきだと思っている。今までの委員会の資料の中でも、リスクには非常に多次元的な性質を持っているということは強調されてきたので、ここは基本的な論点だろうと思っている。
 そして、リスクはハザード、プラス、アウトレージという発想は初期の資料で出ている。こういった発想をもう少し表に出していくのはいいことなのではないかと思った。
 その上で、一番厄介で、かつコミュニケーションで伝えるコンテンツの話だけれども、この確率論的な表現の意味というのをどう理解するかというのが実は非常に厄介。ここでは例示として、地震の予知を挙げているが、これは大数の法則が成立しない事例。確率と言いながら。例えばサイコロの3の目が出る確率は6分の1とか言うけれども、12回ぐらいの試行だと6分の1なんかにならないが、数を重ねると6分の1に収束していくというのが大数の法則のイメージ。
 今我々が確率で表現されている地震だが、これは大数の法則のような事例の量を持たない事例。にもかかわらず確率論的に表現している。例えば2011年、3.11の年の1月1日に地震の発生確率がこういうふうに地震調査委員会から出ていた。そうすると、宮城県沖は当たっているといえば当たっていると、三陸も当たっているというふうに読めるが、福島県沖は7%以下だった。
 こういう数字をどう理解するのかというのはなかなか難しい。だから、コミュニケーションするときに、リスクファシリテーターであれ、リスクコミュニケーターであれ、それがこの数字をどういうふうに伝えればいいのかというのは多分悩むだろうと思う。他方、メディアの役割が大事と、内田さんがおっしゃったけれども、これは2012年の新聞で、文科省は首都直下のマグニチュード7以上の発生確率は30年以内に70%と言っていた。ところが、1月23日に東大の研究グループが4年以内に70%という数字を出した。2月1日に京都大学の研究チームが5年以内に28%と出した。2月5日に東京大学が4年以内に50%以下と出した。この短期間にこういうふうな出方をしている。
 この数字をどう理解するかというところの横に括弧がある。この東大の70%というのは3.11から9月までの地震のデータを使っている。そうすると、余震が非常にたくさんあった。京大は3.11から翌年の1月21日までになるので、期間が延びて余震の数の頻度は減っている。そして、東大も3.11から12月までに考慮する期間を延ばしたために下がってくる。そういう話なのだろうと思う。
 結局この地震調査研究推進本部というのが文部科学省にあり、そこがいろいろな地震の確率的な評価をしていて、そのページを素人が最初にアクセスするといったやりかたをしてみた。そうすると、読み方というページがある。これは資料2-2の裏側に全項目が載せておきましたが、その中で、地震発生確率値の留意点というのがある。「想定した次の地震が起きないかぎり、年数経過とともに地震発生確率値は増加していきます」と。それはそうだろうと。
 この「過去の活動記録が不明なため、年数経過によらず地震発生確率値が変わらない統計処理を行っている場合もあります」というただし書が付く。これをぱっと読んで、ごく普通の人が理解できるかという問題。
 更に次も、「過去の地震活動の時期や発生間隔は、幅を持って推定せざるを得ない場合が多いため、地震発生確率値は不確定さを含んでいます。また、新たな知見が得られた場合には、地震発生確率値が変わることがあります。」それはそのとおりだと思う。つまり、この類いの説明があって、そして「活断層で起きる地震は、数千年程度と間隔が長いため、30年程度の間の地震発生確率値は大きな値とはなりません。例えば、兵庫県南部地震の発生直前の確率値を求めてみると、0.02から8%でした。地震発生確率値が小さいように見えても、決して地震が発生しないことを意味してはいません。」
 これが付いていたときに、この数値を見て何をどう判断するかというのは本当に難しい。そして、これをコミュニケーターがコミュニケーションするといったところ、どう説明するかというと、起こるときには起こるんだよと言っている以外になくなってしまう。この部分の確率論的データの読み方というのは、発信するのならもっと丁寧なものが要るだろうと思う。
 例えばIPCCパネルの報告書は、一応確率的な言葉遣いをするときの意味をそれなりに執筆者が書くときに、どういう意味で使うのかというガイドラインと、それから読み手が読むときにどう理解するかというガイドラインを付けている。地震でそれに該当するのは、今紹介したこの裏側のページ。これはいかにも専門家の中での話であって、コミュニケーション、社会において使えるようなものになっていない。
 だから、確率論的なデータの読み方の工夫というのは、まず専門家の方できちっとこれは議論してもらわなくてはいけない。そういうことは余りやっていないような気がする。そして、その上でこの読み方とか伝え方は、専門家と読み手である社会が協力して開発することをやらなければ、恐らくこういうものが、確率論的な数値が我々の社会ではうまく生きないだろうということを思う。
 だから、研究課題として、こういう問題を確率論的な専門家と社会とが一緒になって開発するような、そういう取組にファンディングをするということを早めにやっておくべきではないかと思った。
【堀井主査】  では、続けて、資料2-3、田中委員。
【田中委員】  既に論点はかなり出ているので、私は何人かの方も挙げている、リスクコミュニケーションの研究費を投下するという際に関して簡単に論点をまとめてみた。
 1番のところは、これまでの議論を踏まえて、研究費投下の際にどういった点が留意されるべきかといった論点。リスクコミュニケーションというのは現代社会のある種の保険機能であって、リスクコミュニケーション研究というのは浮き沈みが激し過ぎるのは実はよくないこと。ただ、現状リスクコミ・バブルなのかもしれないが、費用対効果は一見よくないので、長期に重篤なリスクが発生しなければ、多分ニーズとしては下がっていって、そういった人材というのは生まれなくなっていくだろうということは、一つ押さえておく点かと思う。
 また、これまで確認されていたように、リスクコミュニケーションの持続可能性ということ自体が低く、そして、リスクコミュニケーターのキャリアパスが狭いことも容易に予想される。
 その次の項目として、でも、やはり続けていくことを考えると、継続的に若手が涵養(かんよう)されて、社会に一定数のコミュニケーション、ファシリテーション――これまでの議論でもあったけれども、そういった人材が生み出されることが重要であると。
 その一方で、リスクコミュニケーションというのは分野横断的な性質を持ち、また同時にファシリテーターの能力ということが先ほどからも出ているけれども、属人的な機能の側面というのは避けられない。良いファシリテーションができる人というのは、多分ほとんどタレンテッドなというか、ある種のものを持ち合わせたコミュニケーターだという部分はあると。
 そして、一部を省くけれども、繰り返し出ているようにアクションリサーチなど、現場を前提として鍛え上げられる知である必要があると。例えば確率論的なことのリスク算出にたけているだけでは困るということが言えると思う。
 また、研究に資金を投下したリスクコミュニケーションということの視点から見ると、個別のタスク、リスク表現とか、あるいはリスクの算出、あるいはリスクの現場における捉え方といったような、個別のタスクの追求によって深めていくことも重要であると同時に、また、この委員会自体が私も参加させていただいて非常に勉強になるけれども、類似でありながら相違点を持つほかの取組というものに常に接触することが恐らく重要なんだろうと。
 こうしたときに幾つか出ていたように、拠点型の例えば一つの大学にお金を落としてやる形の、それだけでは、多分そこで教科書的なものとかマニュアルはできていくけれども、ある種の広く浅くなミニチュア人材で、しかもその人が強いところは一部の部分ということになっていくことは容易に予想される。
 したがって、これまでの前提を踏まえると、その次の方策のところに行くけれども、基本は従来の研究開発、トランスディシプリナリーとか、インターディシプリナリーなものというのは目指されてきたけれども、やはり個々のプロジェクトをどうつなげるか、である。だが、つなげること自体を主目的にしてしまう研究費デザインというものがもう少しあってもいいのではないかと思う。
 私自身の経験を踏まえてのことだけれども、比較的この分野には遅い年齢で入ってきた。振興調整費、及びその後のRISTEX(科学技術振興機構社会技術研究開発センター)のプロジェクトなどでかなり強制的な合宿的な機会がある。これ、リスクコミュニケーションと一緒で、実は行くまではすごく嫌で、面倒くさいなと思って行くけれども、行くと、すごく、ああ、よかったと思うわけである。非常に視野が広がったと。
 我が身を反省しながら言っているが、行くまでは面倒くさいな、こんな宿題が出てと思うが、行ってみると、この間も同窓会的なミーティングがあったけれども、やっぱり違うアプローチをやっていても同じ問題を抱えているんだとか、そっちの方ではこういったことを見いだしているんだということを発見すること自体がすごく参考になるわけである。
 RISTEXさんの方で丁寧にそれを設計いただいたと思うけれども、頭では分かっても、行くまでは面倒くさいという、すみません、それは。ただ、そこを、でも、本当は最初からそれが完全にきれいに組み込まれていた形というのは、まさにリスクコミュニケーションの場にはよく機能するのではないかと。より機能するのではないかと思うので、それは一つあってもいいのではないかということが一つ。
 そうしたときに、アクションリサーチとか、そういったものなどを踏まえた分野横断的なリスクというものに研究費を投下するのはこれまでも出てきたとおりだけれども、それだけではなくて、先ほど直前に小林先生が言われた部分というものを、ここの表現というのは多分リスク算出をしている人たちからはどう改めていいか分からない。でも、これを、じゃ、どうやって現場に持っていきますかということの立場から見れば、大分解決策が見えてくると思える。
 だから、そういった発想というものが幾つか想定され得るのではないかと。これで時間なので省くけれども、方策の最後として、これらの間で、その中でつながり合うこと自体をかなりの主目的とした研究費デザインとした場合に、もう一つの重要な点は、私がいろいろ恩恵を頂いたように、そこでかなりつなぐ役割として動き回る若手の人たちが、多分それが一番重要なハブなのだと思う。
 その人たちが生まれてきて、そしてキャリアパスを接続できるようなデザインというものを最初から主目的にするということが一つ、重要なポイントなのかなと思う。
【堀井主査】  では、続いて資料2-4、奈良委員。
【奈良委員】  私からは4点。基本的に前回事務局の方から頂いた、今後求められるリスクコミュニケーションの取組に関するたたき台に即してまとめてきた。
 一つ目が、リスクコミュニケーションの基礎的素養を涵養(かんよう)していこうと。ただ、このときに多分検討しなければいけないことが2点あって、一つは、基礎的素養の中身。もっと言えば、この委員会として基礎的素養の内容はこうですよというガイドラインを出すべきなのかどうなのかということをちょっと迷っている。というのは、今回事例報告書の仕事に関わらせていただくことに当たって、随分リスクコミュニケーションの多義性とか、多次元性というのを本当に感じた。
 分野の研究者によってそもそも何がリスクかという捉え方が違うし、ということは、何がリスクコミュニケーションかと思っているのも違うし。ということは、どんなリスクコミュニケーションをしているかというのも随分違っていて、そういう中で学協会に任せて基礎的素養のもととなるものを作ってくださいと、ぽんと言っていいのかというところが少し迷っていて、委員会としてそういったものを出すべきかどうかというのは検討しなければいけないと思っている。
 (2)で、では、一体誰が涵養(かんよう)の手段を作り主体として推進するのかについて、学協会というのはメーンの主体となっていくと思う。それから、ハイフンの二つ目で、これは本当は次の2.と3.で言った方がよかったかもしれないけれども、教育機関として、教材としてこういったものを作って、広く多くの方に見てもらう、知ってもらう、活用してもらうというのもあると思っている。例えば私がこのリスコミの取組の中で何ができるかを考えたときに、私であれば、本務校の放送大学で何かリスクコミュニケーションの理論と実践というような科目を作って、テレビ又はラジオで多くの方に見ていただいて、テキストも作ってというのはできるかなと思っている。
 次の二つ目で、問題解決に向けたリスクコミュニケーションの場を創出しようということで、これは2点ほど検討しなければいけないと思っている。1点目は、やはり運営主体は誰になるべきかということ。この点はこの委員会でもう随分議論し尽くされたことではあるが、信頼をキーワードに置いて、どのリスクにはどの主体が関わるかを決めていくのがとてもいいと思っている。
 というのは、私が2012年に行った国民に対する調査の結果では、リスクによって誰を信頼するかというのが随分違ってくるため。原発とか放射線絡みとか、食品安全絡みだと圧倒的に大学とかNPOに対する信頼が高い。行政は原発とかだったら本当に2割ぐらいになってしまうけれども、大学は5割キープ、NPOも高い。一方、地震とか、犯罪とか、交通事故は依然行政の信頼が8割とか、7割とか、高い。
 だから、リスクに応じて主体を変えていって、いきなり行政の方が苦手なリスクで無理するのではなくて、最初比較的国民と対話しやすい、協働しやすいリスクから入っていってリスクコミュニケーション能力を付けていくというのも、一つのやり方かなと思っている。
 それから、(2)が、これはほかの先生の中から普段(ふだん)化という言葉で出てきていることと同じことを私は言っているが、リスクコミュニケーションの日常へのビルトインということで、わざわざリスクコミュニケーションをするというのは本当に長続きしなくて、よくなくて、コストは掛かるし、第一、ふだんから何げなくやれていることしか、実際何か起こったときにはすっとできないので、それをうまくビルトインする仕組みを一生懸命考える必要がある。
 例えば、学校教育の授業への繰り込みというのはすごく有効。片田先生が釜石でされていた、津波についてわざわざ授業を立ち上げるのではなく、算数の中でやったとか、社会の中でやったと工夫されたような、ああいうことはすごく有効だと思っている。ああいったことを小中高だとやれる。そうすると、インセンティブにもなる。例えば大学でこういった科目を組み込んでいけば単位を取れるとか。そういったインセンティブも持たせながら、うまく日常に繰り込んでいく仕組みを作る必要があると思った。
 3は、リスクコミュニケーションを行う人材を育成しようということで、私は3段階あると思っている。この委員会では割にこの(1)(2)(3)の中でも(3)に重きを置いた議論が多かったと思う。つまり、ファシリテーターとしてどんな人材を作るのか、これももちろん推進すべき。加えて、私は(1)と(2)も重要だと思っている。(1)はどの生活者もリスクコミュニケーションのステークホルダーになれるから、リスクリテラシーというものをまず身に付けていただくというのが重要かと思っている。
 それから、(2)の視点というのは、リスコミをするのだけれども、それこそわざわざするのではなくて、ふだんの仕事の中でしてもらおうと。私の本務校の放送大学の学生さんは社会人の方が多いが、物すごくリスクコミュニケーションに飢えていらっしゃるというか、困っていらっしゃるというか。医療関係の方も多いし、不動産の方も多いし、自衛官の方、消防士の方、いろいろいらっしゃるが、仕事の中でリスクコミュニケーションを日々それこそビルトインしてやっていくことによって、それが応用できていくのではないかと思っている。
 それから、最後が良好事例の共有・展開で、これは二つ検討するべきだと思っている。一つは、良好事例が集まる仕組みを作らないと駄目だなと思っている。というのは、今回の事例報告書を作らせていただいくに当たっても、やっぱり有識者の方というのをJSTの方が苦労して探して、苦労してお願いして、苦労してデータを集めに行っている。そうではなくて、向こうからうちはこんなことをやっていますよということを上げてくれるようなうまい仕組みを考えないと駄目と思っている。
 というのは、今回の先行事例報告書も、やっぱりGood Practiceが多い。あと3.11前のものが多いし、研究者主導のものが多い。本当はもっと震災以降のものとか、失敗事例とか、あと市民や行政が主導になったものももっと増やしていかないといけないと思っている。
 (2)がそれと関連するが、良好事例を展開するに当たっては、こういったデータをしっかり集めた上で、パターン抽出をしていくということをしなければいけないと思っている。
【堀井主査】  では、続いて資料2-5、藤垣委員。
【藤垣委員】  私の資料は前回、1月31日に配られた資料を基に作っているので、それが手元にないと分かりにくいかもしれないので、少し補いながらやっていく。
 まず1月31日付参考資料1というのは、予算の資料。
【西山補佐】  今日の参考資料の6です。
【藤垣委員】  では、今日の参考資料6を御覧いただいて、この紙で一番下に先行モデル、Good Practiceを作り、水平展開を促すと書いてある。このことの意味を考えようということで私の資料が作ってある。つまり、その言葉の意味を資料1というのは、1月31日の時点では、今日平川さんが説明してくれたものが、分野ごとにヒアリングを展開しますというぐらいの情報しかなかったので、では、分野ごとのヒアリングをどうやってこの先行モデルを作り、水平展開を促すのに生かすのかということを考えていたので、それを図にしたもの。
 もし水平展開がないと、恐らく食品事例は食品事例のままと、こういうふうに縦に行くのだろうなと。もし水平展開があれば、化学物質での知見が原子力に生かされてとか、こういうGood Practiceが次々とこういうものを生んでいくような――これはイメージ図にすぎないので、こういうようなことになれば、水平展開ということの意味になるのであろうなと思ったので、描いたもの。
 今日の平川さんの説明で、事例ごとではなく、分野横断的特徴をピックアップして、それをフローチャートにしということで、分野ごとをそのまま分断したままではないということはよく分かった。ただ、先行モデルとして何を選ぶかによって随分今後の展開が違うように思う。つまり、先行モデルがほかの分野のリスクコミュニケーションにどう影響を与えるのかを考えたときのその先行モデルが、例えば先ほどJSTの方から説明があったナショナルセンターみたいなものだとすると、非常に一般的。つまり、一般市民の人に一般的なリスクについてどう考えるというものになる。
 ところが、先行モデルがもし福島県民における低レベル放射線をめぐる県民健康調査のリスクコミュニケーションなんかになると、もっとずっとローカルだし、具体的だし、一体どうやって本当に悩んでいる福島県立医大の先生に対してどういうアドバイスをするかになると、とてもこのナショナルセンターで扱っているような一般論ではなく、もっと具体的に、もっとどういうことに悩んでいて、どんなことになるかという話になってくる。
 そういう非常に具体性を帯びた先行モデルを選ぶのか、それともナショナルセンターみたいな非常に一般的なものを選ぶかによって水平展開というものの設計の仕方が変わってきてしまうので、最初の事業、先行モデルとして何を選ぶかというのは結構重要ではないかなと。今後このファンディングは5年間続くとなると、そういうことも考えながらやらないといけないのだろうなということが1点目。
 2点目は、本日の参考資料6と主体別、平川さんの説明の中では主体を分類していたと思うけれども、この委員会の中でも何度も言及されたが、主体には専門家と、学協会と、行政と、広報、メディアが5分類の中にも、一応主体は5種類ぐらいあった。じゃ、この事業が終わった後に各アクターがどんなふうに変わっていればいいのだろう。フローチャートだけだと主体は変わったことが分からないので、それをどうやってチェックするかということ。
 例えば先ほど小林傳司さんの発言の中に、確率論的データの読み方の工夫についてというのがあった。これは恐らく学協会が主体になってまずは研究しなくてはいけないことで、じゃ、それをやることによって学協会自体がどう変化するかということをやらなければいけない。だから、先行モデルを作り、水平展開を促すとき、これらの四つの主体のうちどれを最初にやって、ほかの主体にどう働き掛けていけるのかということを考えながらファンディングをしなくてはいけないだろうということ。
 だから、最初の年というのは非常に大事で、そういうことも考えながらどれかを選ばないといけないということをちょっと書いた。それを併せて、最終的、何年か後に、日本にリスクの責任というものを担う文化――ずっと文化の話もしてきたけれども、そういうことを醸成するようなきっかけができればいいなと考えている。
【堀井主査】  続いて、資料2-6、山口委員。
【山口委員】  論点としてはもう既にいろいろ出尽くされているところがあるが、今藤垣先生からもあったように、主語はひとまずペンディングというか、誰がやるかというところは少し置いておいてというふうにして考えている。
 キーワードとしては、特にリスクという言葉を取ってもいいのかなと私は思っていて、価値競争(→共創)とか、社会からの信頼というところで、具体例も含めて3点ほど手短に御紹介したいと思う。
 1点目は大学を核とした自治体、企業、市民とのコミュニケーションの場の形成と。こう書いてしまえばよくある普通の提言だけれども、実際こういったところがかなりベースになってくるのかなというところ。下のバッテン二つあるのは、実際こういった萌芽(ほうが)もいろいろ現場では見られている。例えばある南海トラフの地震のリスクに面しているある自治体さんで、これまで非常に長い間対策を議論してきたけれども、なかなか前に進まないということで、実際に座長の(→ある大学の)先生のアイデアで、自治体の職員さんがとりあえずアフター5に所属している部署の看板を下ろす。一住民になって意見交換をして、そこで出たもののアイデアからアクションプランというものを組み上げていっているという今進行の事例がある。
 これは当初、田中先生からもあったような役割交換を、実際に住民の方を交えるというわけではないけれども、仮想的に住民の立場に代わっていろいろな職員さんたちが議論を交わすといったやり方をしている事例がある。これも先ほどの政策の決定プロセスとコミュニケーションとの距離といったところの一つの萌芽(ほうが)事例として非常に面白いのではないかなと思うところ。
 また、同じ地方の別の自治体さんでは、それぞれの昼間の役職以外に地域担当という役職を与えると。一応土木の職員だけれども、何々地域の担当という役割ももっていて、その地域で何かあったときは、その地域担当の職員に言ってくださいと。それは福祉の内容でも、どんな内容でもいいですということで、そういった人がハブになって役所につなげていくと。最終的には、その人に裁量を持たせて、予算も待たせて、コミュニティレベルの課題はそこで解決してもらうということを考えている自治体さんもあると。
 現場では逼迫(ひっぱく)したリスクに直面する中で、今紹介したような具体的な動きがでてきているということが、まず1点目の御紹介である。
 2点目は、学会間で連携した情報発信等の仕組み作り。これは私が業務上、いろいろな学会に入らざるを得ないような状況にあって、科学技術系だったり、土木だったり、公衆衛生だったり、いろいろな学会に入っていて、月末になるといろいろな学会誌が届く。すごく面白いと言うと語弊があるけれども、東日本大震災の後に、やっぱりどの学会誌も地震について論じている。すごく興味深かったのは、ある学会誌で避難所の運営の話、論文、紹介記事が出ていて、別の学会誌では、避難所における健康の実態調査に関する詳細な調査結果が出ている。これ二つ合わせるとすごくパワフルな情報になるといったところで、何でこれを二つ並べて示せないんだろうということがあった。
 なので、ポータルサイトでもいいけれども、そういった情報発信をして、一般の方々、アカデミックでもいいけれども、情報のアクセシビリティーをもうちょっと上げていくといったようなところもあるかなというところ。
 先ほどの小林先生の話で1点補足すると、ハザードマップをインターネットで公開するという話もあるが、実際に今、南海トラフに直面している自治体さんの中では、そういうアカデミックな後ろ盾のない情報も含めて、どうやって市民の方々に伝えていくかもかなり話題として上ってきている。本音としては出したくない情報も、ツイッター情報も含めて、もう現場の方が先行して動いていっているという事例の御紹介。
 3点目が、今回の委員会を通じて少し強調し切れなかった部分かなとは思うけれども、事後検証とか追跡の調査といったところで、事後に関係を修復していくということを前提にしたようなコミュニケーションといったことがなかなか論点として挙げられなかったかなというところがある。いろいろな災害とか被害があって、関係者は結構その後にいろいろな努力をしていたり、改善をしていたりするけれども、なかなかそれが世の中に知られていないのではないかという現状がある。
 そういったことをもうちょっと情報として整理して伝えていく努力をすることで、最初にあるキーワードの社会からの信頼とか、社会連携といったものにもつながってくるし、事後の関係修復とか改善といったものを前提にすれば、事前のコミュニケーションの在り方も、何でも予防とか、予防線を張るみたいなコミュニケーションから少し変われるのではないかということを現場でいろいろ情報提供しながら思っている部分である。
【堀井主査】  では、続けて、資料2-7、平川委員。
【平川委員】  資料2-7に入る前に、ちょうど今山口委員からお話があった、最後のところ、事後の関係修復とか、このあたりは実は報告書の中では北海道でやったBSEの問題、これに関して関係者がいろいろと、行政関係者も含めて振り返り、そして未来に歩むためのという、まさにそういう関係修復を目的にしたコミュニケーションの事例があるので、そのあたりは報告書の考察の中で改めて強調させていただきたいと思う。
 あとは資料2-7で、ここに挙げたものは実は大体考察の部分でも書こうと思ったこと、あるいは書いてあることが結構ある。まず1点目は、脱「切り身」のリスクコミュニケーション。リスクコミュニケーションの問題といったとき、しばしばそれは、コミュニケーションのやり方を変えればうまくいくとか、そういう捉え方をされることが結構ある。
 でも、実際にはリスクコミュニケーションの現場で問題になっていることというのは、コミュニケーションのやり方の問題ではなくて、例えばリスク管理とか施策の内容だったり、その決め方に対する不満だったり、それに伴う不信感だったりすることが結構ある。そういう意味で、リスクコミュニケーションの問題を、単にコミュニケーションの巧拙の問題として考えないで、施策内容や、物事の決め方、そういう問題として捉え返していく必要があるだろうというのが一つ。
 第二に、実際にリスクコミュニケーションの場に参加する人たちは、具体的に施策の内容が変わることを期待してくることが結構多い。したがって、リスク管理の主体である、例えば行政、あるいは企業の方に、コミュニケーションを通じて自らの当初の方針を変える心構え、用意がないと、なかなかコミュニケーションがうまくいかないし、そういう場はやがて見捨てられてしまう、人が来なくなってしまうということになりかねない。さらには、不信感がより深まり広がってしまうこともあるので、場合によっては、もしも方針変更の用意がないなら、いっそリスクコミュニケーションをしない方がいいということも多々あるのではないか。
 第三に、これはちょうど先ほど小林さんが言ったこととも重なっているので簡単に申し上げるけれども、リスクの規範的な問題への配慮が必要である。先ほど小林さんの中ではアウトレージという要素を挙げていたけれども、これは言い換えると、例えば公平性とか、自己決定とか、責任とか、信頼とか、そうした社会的、規範的な要素というものがリスク認知の中で大きく関わっているということである。私はよく授業でそこの右にあるような図、理系の人も直感的に分かりやすいように、リスクの認知というのはこういう3次元で成り立っているんだという例えを使って説明をしている。
 これの社会的、規範的な次元に関する理解というものもやはり重要なのだろうと。リスクという問題には、単に人の健康や、自然界に対する環境への影響というだけではなくて、人間社会や人間の心理、あるいは人間関係、そうしたものに対しての影響というものもたくさんある。倫理的な問題、法律的な問題、いわゆるELSIと言われるような問題もあるので、そういったことを含めて人文社会科学系の関与が必要である。これまでのとこ、日本ではそういう分野からのリスク問題への関与が手薄なので、そういう取り組みを促進することは、特に文科省の推進方策として重要なことかなと思う。
 それから、第四に、これも先ほどの報告の考察の中でも述べさせていただいたが、イノベーションの文脈との接続・融合。先ほど奈良委員が日常へのビルトインということをおっしゃっていたけれども、我々の報告書でもリスクコミュニケーションの文脈化という言葉を使っている。つまり、単にリスクコミュニケーションということをリスクコミュニケーションそのものでやってもなかなか人は集まってこないので、いろいろな日常生活の文脈、社会の文脈の中に入れ込んでいく。そうすることによって、リスクの問題について考える機会、知る機会というのを増やしていくということが必要である。
 例えば先端科学技術の場合には、イノベーションという文脈の中でコミュニケーションや、さらにはレギュレーション、例えばテクノロジーアセスメントとか、そういうことなども含めて考えていくことが必要なのではないのか。
 更に5番目に文化の問題がある。先ほども文化の話があったけれども、「エビデンスを求める文化」というものが重要ではないか。これには、単に知識を普及するだけではなくて、人々が知りたいと思ったときにどうやって知ったらいいのか、また、どうやって尋ねたらいいのか。専門家や、企業、行政に対してどういうふうに質問すると、どういう答え、どういう情報が得られるのかということに関するエンパワーメントも必要ではないかと考えている。
 例えばAsk for Evidenceというものがある。これは、イギリスの公益団体でSense about Scienceというところがやっているキャンペーンで、一般の人々に対して専門家や企業、行政に対しての質問の仕方、エビデンスの求め方について、いろいろとガイダンスなども行ってサポートするキャンペーンである。
 さらに、そうしたことも含めてNPO等がリスクコミュニケーションに関わる活動を助成するような仕組みも必要ではないかなと考える。
 そして6番目は、この活動助成ということに絡めて、単に助成金で維持していくだけではなくて、何らかの形である種のマーケット、市場というのが成立する必要があるだろうということ。それは人材やキャリアが開拓されて良い人が集まってくるためにも必要である。そして、そうした仕事や人材の需給関係が成り立つためには、まずは行政が何らかの形でこうしたコミュニケーション活動、単にリスクということに特化しないかたちでの事業展開を進めていく必要があるだろう。イノベーションとか、あるいは文科省の政策でいえばCOC、センター・オブ・コミュニティなどの活動もうまく活用していく。そやって人材が活躍する場を創出し広げていって、資金を循環させていくことが必要かなと考える。
 あと最後、これも報告書の中にも盛り込ませていただいたけれども、こうしたコミュニケーション活動を行っていくに当たっては、やはりある種の「媒介者の規範」ということも整備し、共有していく必要があるだろう。特に事業化してお金のやりとりが関わってきたりする場合には、中立性とか、そういう信用問題としても重要になってくるので、こうした整備が重要だと考える。
 このあたりは実は田中委員がやられていた社会技術研究開発センターでの研究開発である程度原型ができているので、そういうものを今後発展、共有できればと考える。
【堀井主査】  では、最後に、資料2-8、片田委員。
【片田委員】  私自身リスクコミュニケーションの専門家だとも思っていないので、一介の防災研究者なので、いろいろ議論を聞きながら、一体リスクコミュニケーションを今この場で議論しようとしているのか、正直よく分からないという感じがした。率直に申し上げると、今先行モデル、Good Practiceをそれぞれの分野で作って、それを水平展開するということだけれども、一つ一つの分野、例えば防災という分野だけを捉えても、津波とか、地震だとか、洪水だとか、全部違って、それぞれ全部試行錯誤で現場を持っているわけである。
 この間でも十分に共有できるようなものがなくて、1個1個の取組に、それぞれの専門分野、食品衛生なら食品衛生で、それぞれの分野で七転八倒している。横を見る余裕がないという状況もあって、1個1個が真っ当に出来上がっていないというのが現状だろうと思う。ここの議論が何か高みの見物だなという感じがするわけである。分野横断的に共有してなんて言っているけれども、そんな感じは全然していない。それから、分野横断的共通事項を俯瞰(ふかん)的にまとめ上げてみたいな、現場それぞれがそんなレベルじゃないよなという感じがしている。
 その中で、例えば資料1-1の43ページ、例えばこういうリスクコミュニケーション企画のフローチャートって、フェーズはどれかとか、知識の不安定さとか、誰と誰のどのようなコミュニケーションかからアクターの関係の設定だとか、目的の設定。これで実施案が設定できるなら、こんな楽なことはないのだけれども、こんな話じゃなかろうにと、正直思うわけである。
 僕は、少しさめた目で一歩離れて防災研究者、単なる現場を抱えている研究者として、すごく社会が、我々のこういう集団に対して何を期待しているのかなと。我々それぞれが専門分野を持っているけれども、そんなの関係なくて、リスクという分野の住民、国民から見た場合に、僕らは何を期待されているのかというところを考えると、とにかく様々、津波一つ取ってもそうだし、原子力を取ってもそうでもあるし、いろいろあるのだけれども、様々不安があって、命の危険にさらされるというところに対して、我々はいかに心安らかな社会をこのリスクコミュニケーションという分野が誘導していってくれるのかということに対する期待があると思う。
 そんな中で、一つ一つの現場を見ているときに、もちろん、こういう学理の探求というのもすごく重要なんだろうけれども、大きな社会的なリスクがあって、例えば3.11のような大きな被害が出て、こういったところに対して、我々高みの見物ではなくて、少し現場に降りて1本1本のそれぞれのGood Practiceがあって、それをみんなで持ち寄って議論するというのが本当の議論の在り方なのだろうと思う。全然、例えば津波防災の現場を皆さんも余り御存じなくて、単に僕のやったことを、例えば表面的に見てGood Practiceだと、その要点を出せと言われるけれども、そんな話ではなかろうにと正直思う。
 津波防災、表の真ん中より下の東日本大震災以前の状況ということで、こういう多様な問題がありますよということを、紹介を通じて後で少しまとめたい。東日本大震災前の状況:多重の悪(あ)しきループにより高まった脆弱(ぜいじゃく)性というところだけれども、まずは明らかに、先ほど小林先生の方から99%だとか、いろいろ議論があったけれども、要はあんなのは確率現象ではなくて確定現象だと。あとは時間の問題だけだということ、絶対来るんだからと。でも、それも間近だと言われていたと。これでいいわけである。間近、絶対来る。でも、逃げないよねと、何が起こるか。これって、皆さんもお気づきだった。これから膨大な人が死ぬかもしれないという事象に対して、このリスクコミュニケーションという分野は余り関係ないのか。そもそもそんな感じがするわけである。
 マル2、行政依存の悪(あ)しきループ:過剰な行政依存と災害過保護と書いてあるけれども、こういう社会問題に対してこの分野はどういうふうに考えるんだろうかということ。人々は津波に対する漠然とした不安を持っていたと。でも、不安回避の対処は自ら行わず、行動も起こさず、行政に対応を求めるというような、その社会構造を皆さんも御存じだったと思う。不安が高ければ高いほど行政に対する対応要望が強く、時の為政者は要望が強ければ強いほど、それに応えてきた。
 こうして依存が高まって、高まった安全により、更に経験値や先人からの継承知、災害文化というのが失われて、更に弱体化していくという、こういう社会の構造の大きな問題に、皆さんはこういう分野は関係ないんでしょうかとお聞きしたいと。こういう問題を認識しておられなかったのかと。認識していたとするならば、なぜ対処する行動をこういう分野として行われなかったのかと、すごく思うところである。
 世代間の悪(あ)しきループ。これは時間の中での話だが、ダイナミックな話だけれども、子供たちの防災教育を始めたのは、ここにもあるように子供たちは避難しないと断言したと。なぜ逃げないかというと、うちはお父さんも、おじいちゃんも逃げないからだと。こういう現状があって、この子は大人になって避難しないだろう。その子の子供もまた避難しない。
 こうして時間経過の中で数世代後にそのときを迎えるということも分かっていたわけである。こういう問題は、また今回も現場では後悔して、また記念碑が一つ増えたけれども、碑ばかり増えていく。こういう時間的な流れの中でこういう問題というのは、この分野として全然次の世代、生まれ落ちる子供は社会を選択できないので、社会を作っていこうというふうに言っている割には、こういう教育的な問題だとか、時間的なダイナミズムの問題だとか、こういった具体の問題に対して全然手が触れられていないなと。これは防災の問題であって、リスクコミュニケーションという分野の方々は関係ないのか、どうなのか、どういう認識でおられるのだろうかという感じがすごくする。
 こんな中で、もう一つは、今度は東日本大震災以降の話、山口さんも言っておられた話だけれども、日本一の津波想定を突き付けられたのは黒潮町というところで34メートルなのだけれども、釜石とか、あのあたりは不意打ちを食らったわけである。どれだけ来るぞ来るぞと言っても、当人たちは、そうねと言っていただけで全然その気になっていないから、本当に地震が起こったとき、津波が来たときに、本当に不意打ちを食らった。
 ところが、今、西の方は違う。3.11の現実を見て、次は我がことだとおびえ、そして、その上あの巨大津波想定をぼこんと専門家と言われる人が突き付けて、その結果どうなったかというと、避難放棄だとか、明らかに向かい合えていない、こういうリスクとコミュニケーションできていないわけである。震災前過疎といって、その地域から出ていっちゃったりしているという変なことが起こっていたりして、こういう自暴自棄の状態が生まれた。
 ところが、そこまで落ち込んだからこそ立ち上がったものがある。ここまでの話も問題なのだけれども、そこから立ち上がったものがあるというところにも注目していただきたい。マル4というところ。率直に、さっき山口さん、伏せて言われたけれども、黒潮町のことだと思うけれども。
【山口委員】  同じ地方である。
【片田委員】  黒潮町は高知県の一番の想定が出た町。あの発表直後、町長が僕のところに電話をよこされて、とにかく1回会ってくれと。僕の出張先まで追いかけてきて、先生、町民を守る自信がありませんと。町長自身も34.4メートル、次の津波ぐらいに思っている。
 そういう状況の中で、僕は思わず、町長、一番でよかったじゃないかと申し上げた。なぜかというと、34.4という想定が出ようが出まいが、黒潮町という町が津波に関して海と向かい合っているその関係は昔も今も、将来も何も変わりない。たまたま計算結果がこうであったということで、その数字におびえているのだけれども、昔から状況は何も変わっていないと。
 大体34メートルだろうが、30メートルであろうが、25メートルであろうが、そんなもの単なる計算結果であって、関係あらへんと。どうせ出してもらうのなら一番でよかった、これを逆手に取ろうじゃないかと。何か売りはないですかと。日本一の津波の町で考えた日本一の防災と、それで売りましょうと。この数字で自暴自棄になるのも想定の迎え撃ち方だし、こんちくしょうと言って、みんなで向かい合う、それを売りにするのも、まとめるというのも一つの向かい合い方。
 であるならば、何かまとめるための手立てを考えましょうよと、みんなで向かい合うという。何が産品としてありますかといったら、カツオだとか、浜辺で作るラッキョウだとか言うから、そこから、この町は、日本一の津波の町で考えた日本一の津波対応で町おこしということで缶詰工場を造った。34種類の青旗マークがあり、どこかのジャムみたいなマークの、これ34Mと書いてある。これで工場を建てて、僕は工場長に就任する。名前だけだけれども。これで、この想定を出したのだから、内閣府は買ってくれるだろうなと、自衛隊は買ってくれるだろうなといって、町長が営業に回ると言ってはりきっている。
 要は、こういう想定をぽかっと突き付けられてくしゃっとなってしまうところもあるし、一方で、こういう形に展開できることもある。少なからずとも、これでもGood Practiceといえば一言でおしまいなのかもしれないけれども、こんなのGood Practiceでも何でもなく、単なる思いつきのアイデアでその場で言ったことである。それを余り高尚にGood Practiceとか言われても困るわけで。
 要は、本当に我々が社会をよかれ、少なくともリスクコミュニケーションの専門家といわれる集団であるならば、何も津波の専門家ではなくたってこんなことはできる。こういう少しこの分野、様々な分野で何かこう社会をちゃんとリードしていけるような、そこにやっぱり飛び込んでいってほしいなというのが率直の思いとしてある。
 もう一つ、マル5というところもそうだけれども、あちこちで、南の方で津波防災の学校教育をやっている。初めはどれだけお声掛けしても振り向いてくれなかったけれども、これも同じ。先生は3.11を見たと、その後、東大津波想定を突き付けられた。もうどうにもならないと思ったときに、釜石の子供が逃げましたみたいな話があって、幾ら自暴自棄になろうが何であろうが、学校の目の前に海があって、そこに津波が来る、目の前に先生は子供がいる。自暴自棄にすらなれないという状況の中で、釜石の子供の話があったときに、それに飛びついてきたというのが現状なわけである。
 僕に頼めば子供は助かるみたいな勘違いをしていて、やんややんやと言ってくるわけだが、決してそんなことはないということと。要は、釜石の子供がどういうふうにああいう子供になったのかということで、すごくそういった自治体、そういう学校の先生方の防災教育というのはごろごろ音を立てて変わっていると思う。本当に単に教えればいいだろうと、知識付与型だとか、教育関係のコミュニケーションとか、何か身の入っていない。どうしても先生はこの子に死んでほしくないという思いだけで、そのためにはどうしたらいいのかを懸命に考えた結果として様々な教育論があちこちで起こってきている。
 リスクに対して主体的に向かい合うところに、初めて様々な姿勢や、考えや、そしてGood Practiceも出てくるし。そういうことをやらずして、端から見てGood Practiceをあちこちからつまみ食いして、分野横断的に相互に共有できるところは何でしょうかと言っていても、僕は恐らく議論の論点が定まらなくて、様々な議論をしているけれども、どうもむなしさを感じざるを得ないというのが正直なところ。
 少なくとも、また表に戻っていただいて、黒い四角の二つ目のところに、こういう状況に対してリスクコミュニケーションという学術領域は具体的にどのように応えくれるのだろうかと。多くの人の命に関わる重要な社会問題、また多くの国民が大いに不安にさらされる問題が現に存在している実感、いろいろな分野で今持っていると、津波防災なんかまさにその一つだったと。この状況に鑑みて、学術としてのリスクコミュニケーション、及びその周辺領域というのは防災みたいなことを思ったわけだが、学理の探求以前にこの問題に対する処方箋を示すこと、その模範的実践というものを示すこと。そういうものをそれぞれがやっている中で、それを持ち寄って議論していくことをやらない限り、やはりもう少し実践的研究、現場に基づいた研究の中から出し合う議論で、初めてさっきの山口さんの言っていた土木学会が避難所をやっていたと、公衆衛生がやっていたと、それぞれ現場の問題を抱えて、それを持ち寄ったときにつながるのだろう。
 それをつなげるのがリスクコミュニケーション、この分野の役割ですみたいなことを言っているのは何か変で、多分それぞれがやって、それぞれが持ち寄るという形でしか積み上がらないのではないかなという気が、僕はする。単なる一介の津波防災という分野だけをやっている者の立場から、あえて物を言うとこんなメモになるということ。
【堀井主査】  それでは、残りの時間で今後求められるリスクコミュニケーションの取組についての意見交換を行う。先ほどのプレゼン内容への質問や補足などがあったら、お願いしたい。
 参考資料の6というのが、前回も出ていた資料だけれども、概算要求をしたものが通って、これが来年度、4月以降実施されていくと。一応、二つの取組がここで挙がっていて、今専門家集団として責任ある情報発信が行えるようになるために、学協会に対して何らかの取組をするということと、リスクコミュニケーションを支援する活動を通じた能力の育成ということに関連して、大学研究機関に何らかの取組を実施すると、こういうことだと思う。
 実際これを、どんな取組をどういうふうにしていくのが最も望ましいのかと、そういう御意見を頂くためにプレゼンいただいたという理解だと思う。だから、4月以降、具体的に取組を進めるときに、そこはどういうことをやったらいいのかと、少しそういう観点で残りの時間、御議論いただきたいと思う。
 片田先生が最後ずっとおっしゃっておられた話というのは、この参考資料の6でいうと、右側の大学・研究機関で行う取組というところで、何か実施できるといいことなのだろうなと。具体的にどうしたらいいのですかと言われたら、それぞれ現場を持っていろいろな具体的な取組を実施しているところの間で情報交換をし、これからそういうことをしようとしている人たちにその内容を聞いてもらうということで、望ましい取組になるのか。
【片田委員】  津波防災の現場だけ見てもいろいろやっている。ただ、いろいろ取り組んでおられる、その実際の報告はいろいろ聞くのだけれども、それはそういう事例ねと。それでおしまいみたいなものが多くて、何か議論が一歩ディープになっていかない。何なんだろうかなというのは非常に思うところがあって。
 例えば、大木さんがやっているような子供たちに理科教育、知識を深めていくみたいなアプローチ。だけれども、知識が深まって行動はとれるのだろうかというと、多分違うなとか。こんな工夫をやっています、教材をこのように換えてみました、そういうのはいっぱいいっぱいある。そういうのをいっぱい聞いても全然、ああ、そうで終わってしまって、もう一歩深まっていくものがない。何なのかなというのが、非常に悶々(もんもん)としている。
 少なくとも、一つ気づいているのは、経営学者の野中郁次郎先生という、失敗の本質という組織論の有名な先生だけれども、その先生が私のところに訪ねてこられて、企業のイノベーションは簡単だと、あめとむちがあると。ところが、社会のイノベーションは、あめもむちもないと。そこにあるのは共感だけだと。要は、例えば僕が子供たちに向かい合ったときに、この間に存在するのは共感という言葉だけで、動くのは向こうで、あめもむちもないから、向こうが勝手に共感し、若しくは共感してくれないと向こうが動かない。
 その共感をするだけのコミュニケーションができているかどうかということのみが、ソーシャルイノベーションとしての唯一の道具立てだと思うと。道具立てと言えばあれだけれども、それを君はどうやってやったのかを知りたいと言ってこられた。どうもこうもなくて、一生懸命やったということだけれども、一生懸命やったじゃ分からない。
 少なくとも、この目の前に向かい合っている子供たちに、間もなく絶対津波が来る、それは時間の問題だけで。津波の周期性からいっても、小学校の子供たちであれば、生涯を閉じるまでの間に必ずそのときを迎える。そのときに君たちに死んでほしくないのだと。少なくともそういう気持ちで子供たちに向かい合い、あの子たちに話してきたことが、あの子たちは、多分僕の言っていることの半分も話は分かったかどうか分からない、津波のメカニズムの話とか。そんなのはどうでもよくて、自分たちの置かれている立場と、僕のコミュニケーションの中で感じ取って、逃げなきゃいけないのだという気持ちを子供たちの心の中に作り上げていくということ。
 それだけではなくて、あとはそれを補強するような、君が逃げた後にお母さんはどうするだろうみたいな話を出すことによって、僕が逃げないとお母さんは死んじゃうんだみたいなところで、さらに、それをバックアップして行動に転換できるような、行動変容を起こしやすいような周辺条件を整えていく。
 要は子供を中心に、学齢の低い子供であればお母さんだろうし、その子供を中心にその子の津波に向かい合うことにおいて必要であろうと思うことを僕なりに内部観察して、その周辺を、条件を埋めていくというコミュニケーション。だから、1個1個子供たちには、僕の話ではなくて、その子が考えて出てくるような発想の周辺で議論を埋めていくみたいなコミュニケーションをやるようには心がけている。
 そうなると、やはりコミュニケーションデザインというのはすごく重要だなというのは前にもお話ししたと思うけれども、実践というのか、コミュニケーションの現場で本当に動かそうと思うと、そういったところがすごく重要で大きいウエートを占めているなというのは感じる。
 こうやって、現場もいろいろある中で、そのポイントはどこだったかと。口頭で共感が大事ということが分かりましたと、これは共通事項ですと言われても、共感を埋めるコミュニケーションというのは分かったところで、どうしようもない。そうすると、人材育成とか、本当にそこの部分というのは、どういうプログラムで作っていけばそういう人材が育っていくんだろうかとか。
 正直、僕の研究室のスタッフとか研究員も10人ぐらいいて門前の小僧状態だけれども、僕のパワーポイントを持って行って彼らにやらせても駄目である。要は、何をどうしゃべればいいかという、そのコンテンツの問題ではなくて、何かもう少しコミュニケーションとして別な枠のところで何かあるだろうというのは感じ取ってはいるわけである。どうやったらこの辺を実際に、少なくともこのリスクコミュニケーション、並びに我々関連周辺分野というものは、3.11みたいなものを見ていると、国民は少なくともよかれ方向に導いてほしいという期待をされていると思う。
 だから、そこに対して少し実効性のあるところで応えていく、実践実学であるところを社会は求めている。少なくとも社会は求めている。だけれども、ここまで議論を聞いていると、余りそのように思っていらっしゃらないのだろうかと、率直にそういう感じがしてならないというのが僕の感じたこと。
【寿楽委員】  片田先生がフラストレーションを覚えられるのは非常に共感するが、私は現場に入ってどんどんやっている方ではないので余り大きなことは言えないが、原子力の分野で考えてみると、では何を伝えて、何を守ればいいのかということ自体が実はそうはっきりしないという問題がある。だから、原子力防災の場合に、例えば原子力施設の周辺住民の方の命を守るというのは、一体どうすることが命を守ることになって、何がその地域社会から期待されているのか。今、例えば地域防災計画を立てるとかというときには、どこを目指して一緒に協働すればいいのかということ自体が常に問い直されてしまって、一歩踏み出して、じゃ、こういうふうに伝えればいいのではないかと言って出て行った人が倒れてしまうわけである。
 それはなぜなら、議論が最終的にはそもそも原子力を日本社会が利用すること自体の是非まで話が戻ってしまう要素があるから。
【片田委員】  そこまで付き合うのである。
【寿楽委員】  そうすると、おっしゃるようにそこまで付き合わなければならないのだが、そこまで付き合うものだと思っている人がなかなかいないということがある。そう思わずに、むしろ安易に、それはまさに水平展開だとかというふうにデッドコピーみたいなものを作ってしまう危惧がある。そうならないようにするためには、結局こういういろいろな分類とか、概念の整理みたいなことも一定は必要だと思う。
 私はこういう議論、あえてこういう頭でっかちのことをやっている意味は、安易に水平展開するためというよりは、むしろ安易に水平展開させないために議論をしているつもりである。いずれにせよ、原子力の場合に一歩踏み出すというのは、本当に非常に大変なことである。やられている方は私も何人もお付き合いがあるけれども、結局議論がそこに戻ってくるし、そのコミュニケーションの実践家の人たちの、もちろん最後まで付き合うが、でも、最後、じゃ、その人たちととことん議論をしたら、政府の施策は変わるかというと、そういうわけでもない。
 そうすると、このメタなコミュニケーションとかいう言い方をしたが、結局リスクコミュニケーションの話をすると、先ほど平川先生の資料にあったと思うが、不満に思っているのは、その説明される内容とか、どう逃げなきゃならないかとかいうことは、別に不満はないという可能性がある。それは、ちゃんと一生懸命考えてくれている人が伝えてくれれば受けとめられるかもしれない。しかし、では、そもそも何で特定の地域だけ原子力施設を引き受けているのかとか、何で自治体が計画を立てなきゃならないのだとか、そういう話になってきてしまうと、結局やはりその政策と社会の合意形成とか、意思決定とのつながりということを考えなければならないわけだが、それも含めてリスクコミュニケーションというふうな言葉でごっちゃに言われているのではないかと。それを分けて議論する必要があるのではないかというのがこれまで議論してきたことだと、私は理解している。
 だから、先生がおっしゃっているようなことを否定するつもりも全然ないし、そこが最後の核心の部分になることはよく存じているけれども、むしろ、そこで何をするべきかを明らかにするためには、こういう整理がやはり必要なのではないかなと。それが非常に頭でっかちな机上の空論に見えるというのは、私もよく工学部の先生と、今朝も話してきたが、そういう議論にいつもなるけれども、そう御理解いただけないかなと感じた。
 すみません、余りこの場の議論のアジェンダとは違うかもしれないが。
【堀井主査】  ほかにもいろいろあろうかと思うけれども、そろそろ時間も迫っているので、とりあえず、まず報告書の取りまとめに向けて、報告書の骨子のたたき台というのを御準備いただいているので、その御説明をお願いしたい。
○事務局より資料3、リスクコミュニケーションの推進方策 骨子(たたき台)について説明。
【堀井主査】  今日はちょっと議論する時間がないけれども、骨子のアウトラインについて御意見があったら、事務局にメールでお伝えいただければ、それを反映してこの骨子を肉づけしていっていただけるということなので、是非お願いしたい。

<議題3.その他>
【堀井主査】  今後の日程について、御説明をお願いしたい。
【齊藤専門職】  (資料4に基づいて説明。)
【堀井主査】  メールで御意見を頂いて、それを反映したものを事前にお送りいただいて、27日に最後の議論をさせていただくということで、あと1回しかないということ。したがって、是非事前にメールでいろいろな意見を頂くのが一番大切かなと思うので、ひとつよろしくお願いしたい。
 ちょっと不手際で時間オーバーしたけれども、以上で第5回安全・安心科学技術及び社会連携委員会(第7回)リスクコミュニケーションの推進方策の検討作業部会合同委員会を終了する。

お問合せ先

科学技術・学術政策局人材政策課

(科学技術・学術政策局人材政策課)