資料7-1 文部科学省における宇宙分野の推進方策について(素案)

注:本資料は11月27日の宇宙開発利用部会(第7回)で配付された資料です。部会での議論を受けとりまとめられた最終版はこちらのページをご参照ください。 文部科学省における宇宙分野の推進方策について

 平成24年11月27日

目次

  • 本報告書のポイント
  • はじめに

総論

  1. 検討に当たっての前提
  2. 宇宙開発利用に係る基本認識
  3. 新体制の下での文部科学省の役割

文部科学省の取組の方向性

  1. 基本的考え方
  2. 宇宙開発利用に関する将来予測
  3. 宇宙を知る
    (1)宇宙科学
    (2)宇宙探査
  4. 宇宙を支える
    (1)技術基盤の強化
    (2)実利用との結節点
    (3)人材の育成
  5. 宇宙を使う

 本報告書のポイント

宇宙開発利用の基本認識

  • 国の安全保障への貢献
  • 持続的発展を支える知の源泉
  • 国際的なプレゼンスの確保
  • 人材の育成
  • 宇宙特有の社会的効果

文部科学省の役割

  • 科学技術や学術・教育が任務
  • 研究開発を通じ「新たな知を育み社会につなぐゆりかご」の役割
  • 活力ある未来に向けた「明日への投資」に重点化

文部科学省の取組の方向性

1.基本的考え方

「宇宙を知る」及び「宇宙を支える」に取り組むことにより、「宇宙を使う」に貢献

2.具体的な推進方策

それぞれの意義や課題を踏まえ、以下の取組を推進

(1)宇宙を知る
1) 宇宙科学

  • 最先端の研究成果を持続的に創出するため、新規分野への取組や人材流動化の促進等により、トップサイエンスセンターを構築
  • 学術コミュニティの自律性を重視し、一定規模の予算で推進
  • 一定規模を超える大規模プロジェクトに対応する新たなスキーム

2) 宇宙探査

  • ISS等の経験を活(い)かし、将来の国際協働による大型の宇宙探査への参画を視野
  • 国際協働探査を主導できるよう必要な技術を蓄積

(2)宇宙を支える
1) 輸送技術

  • 半減程度の大幅なコスト削減の可能性を見極めた上でJAXAの次期中期目標期間内に必要な措置を実施
  • 多様な衛星の打上需要に対応し得る設計など、国際競争力の向上
  • 新ロケットの開発期間にあっても、現行ロケットの更なるコスト削減を検討
  • 小規模衛星の経済的な打上げ及び独自技術の維持のための固体ロケットへの取組

2) 実利用への結節点

  • 宇宙の利用ニーズを有する各府省、大学、産業界等、そして技術面から実現可能性を議論できるJAXAや宇宙産業界等が参画するコミュニティの構築とニーズを集約したプロジェクト化の方策の検討

3)人材の育成

  • 幅広い自然科学、人文科学等の見識と応用力を有する人材、高い技術的能力を有する人材、宇宙利用拡大の経験を有する人材を育成
  • 年齢層に応じた宇宙への関心を増進する取組
  • 将来の海外における宇宙利用拡大の観点から宇宙新興国における人材育成に配慮

(3)宇宙を使う

  • 「実利用への結節点」で示したコミュニティを活用し、新規の宇宙利用分野の開拓を検討 
  • 文科省としては、地球観測分野等の科学技術・学術分野における宇宙利用に取組

はじめに

 宇宙開発利用とは、フロンティア領域への人類の飽くなき挑戦であり、宇宙の謎や物質・生命の起源解明といった人類共通の探求心の現れであるとともに、宇宙を活用して得られる種々の便益を享受することを目的とした活動といえる。
 我が国は、宇宙の利用に際して、海外からのサービス調達ではなく、独自の宇宙技術を獲得しつつ進めるとの途を選択してきた。これにより、宇宙開発利用による経済的・社会的価値を創出し、自律的な宇宙活動が可能な数少ない宇宙先進国たる地位を得るに至った。また、気候変動等の地球規模の課題の克服のために宇宙を利用する国際的活動も高まりを見せている。科学技術立国を標榜(ぼう)するとともに広義の安全保障への貢献を重視する我が国にとって、宇宙政策は国家の重要戦略の一つであり、先進国の矜持を持って取り組むべきものと考える。
 したがって、宇宙開発利用は、その実現を担う人材育成にも配慮しつつ、高水準で信頼性の高い独自技術を持続的に開発し、技術基盤の確立を図ることを大前提として推進していくことが必要である。

 我が国は、これまでも宇宙分野において、科学技術力の向上を目指して高度な研究開発に取り組み、その成果について関係府省や民間における実利用への橋渡しを行うことで、今日の国民生活にとって無くてはならない通信衛星、放送衛星、気象衛星などの社会への定着を図ってきた。
 また、国際的に見ても、高い技術力と平和利用の基本理念にのっとった長年にわたる国際的な信頼醸成を経て、国際協力の場において参画が求められる国としての地位を築いてきた。
 他方、産業基盤の構築との観点から振り返ると、1990年の日米衛星調達合意の影響により、我が国の宇宙開発利用が研究開発を重視せざるを得ない状況となった事実にも留意する必要がある。

 このようなことから、今後とも技術基盤を維持し自律的に宇宙への取組を進めていくためには、眼前の国際市場獲得に向けた自国利益のみに偏重することなく、国際的な関係にも配慮しつつ、相互利益の拡大に努めることが重要である。
 具体的には、最近発展を続ける新興国に対し大学研究者が草の根的に築いてきたつながりを活(い)かした支援を行うといった、人材育成等宇宙利用の素地作りを含めた国際的な宇宙利用の拡大に努めつつ、国際競争力の強化を図ることが有益である。

 これらの方策により、我が国が国際社会の一員として、長期的視野に基づき研究力・技術力の向上を図り、将来の宇宙利用を支える技術基盤・産業基盤を構築するとともに、地球温暖化問題、防災・減災、将来の資源・エネルギー問題等の国民生活の向上や安全保障への貢献、人類の知的資産の蓄積等による社会への発展、国際協力による我が国の国際プレゼンスの向上等に貢献していくことが極めて重要である。
 宇宙利用の拡大に当たっては、宇宙への第一歩である輸送のハードルを下げていくことが不可欠である。輸送技術は、経済的観点に加え、技術、外交、経済等の安全保障の観点からも極めて重要であり、国の責務として、その自律性を確保していくべきものと考える。
 他方、打上げサービスを担う民間においても、技術力に加え、顧客ニーズへの柔軟な対応やロケット製作上の工夫によるコスト削減等を図り、宇宙産業の国際競争力の強化及び国のコスト負担低減を図ることにより、自律性確保に関する国の役割を補完することが期待される。

 本年7月、我が国の宇宙政策の司令塔機能が内閣府に設置され、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)が政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的実施機関として位置付けられるなど、新たな体制が構築された。
 我が国の宇宙開発利用は、新体制の下で宇宙の利用拡大と自律性の確保に向けて進められることとなるが、上述の大きな方向性を共通理解として検討を進め、今後、文部科学省が果たすべき役割や取組の方向性を明確にすることを目的として本報告書をとりまとめた。

総論

1.宇宙開発利用に係る基本認識

 宇宙基本法は、宇宙開発利用の果たす役割を拡大し、国民生活の向上及び経済社会の発展に寄与するとともに世界の平和及び人類の福祉の向上に貢献することを目的とし、各種施策を総合的かつ計画的に推進することとしている。こうした取組を持続的に発展させていくため、以下の基本認識の下、文部科学省の果たすべき役割を検討する。

(1)国の安全保障への貢献

 宇宙分野は、技術・安心安全・経済など広い意味を含めた国の安全保障への貢献が期待され、国際的にも必須の社会基盤の一部と認識されつつある。
 また、我が国は、昨年3月の東日本大震災により人的及び物的に甚大な被害を受けるなど社会的、経済的に激動の中にあり、豊かで平和な社会を実現していくために、国の安全保障の重要性が強く認識されるようになってきた。
 これに対して、我が国はあらゆる政策手段を動員すべきであるが、その際、科学技術立国たる強みを活(い)かしていくことが重要である。
 宇宙科学技術は、幅広い技術分野にわたり匠(たくみ)の技から最先端技術までが統合された巨大科学技術であり、我が国科学技術を底上げし、裾野を拡大させるとともに、産業競争力の強化にも寄与する。特に、革新的なプロジェクトにより得られる知見や経験は、新産業創出や人材育成につながる貴重な機会となる。

(2)持続的発展を支える知の源泉

 国民生活や経済社会の持続的発展のためには、新たな知への絶え間ない挑戦を行い、そこから生まれた新規技術を育み、社会における実利用に結実させていくイノベーション創出の流れを作り出すことが重要である。
 宇宙開発利用においては、そのような各過程に時間を要することを踏まえて、先端的な宇宙科学技術が持続的発展を支えることを十分に認識すべきである。
 また、宇宙利用を持続的に発展させていくためには、現在の官需中心の状況から、国内民需や海外受注を拡大していくことも必要である。海外へのパッケージ型インフラ輸出などの政府によるサポートが重要であるが、商品自身の魅力がまず問われることとなる。
 その際、価格に加え、我が国の強みとして、優れた技術やそれに裏打ちされた信頼性を提供できることが国際的な競争力強化につながると考える。
 このため、絶えず新たな知的資産を創出して実利用に栄養を送り続ける、いわば知の源泉である先端科学技術への挑戦は、時間軸上の位置に違いはあっても実利用を直接支えるものとして、経済的観点からも高い優先順位付けをもって取り組むべきものである。

(3)国際的なプレゼンスの確保

 我が国が国際社会において確固たる地位を維持し、一層向上させるためには、地球規模の問題等に対し、我が国の強みを活(い)かした先導的な解決策を提示し、相互信頼、相互利益の関係を構築していくことが重要である。
 このためには、我が国が宇宙先進国として、優位性ある分野を中心に先端的な宇宙科学技術を更に推進し、その成果を国際社会に発信していくことが不可欠である。このような取組によってはじめて、国際協働活動において主導的な役割を果たし、国際的プレゼンスを確保することができる。特にアジア地域においては、我が国の技術力を活(い)かしたイニシアチブの発揮が求められる。

(4)人材の育成

 宇宙利用の一層の拡大を期待する時代を迎え、我が国においても宇宙政策を戦略的に推進する体制が構築され、政府全体で宇宙開発利用を進めるようになった。
 こうした流れを持続的に発展させていくためには、それを支える人材を育成し供給することが不可欠である。特に、新たな利用分野の拡大には、研究開発の成果を社会システムとして定着させるまでを見通した上でプロジェクトをまとめ上げることのできる人材が必要であり、そのような総合力を持つ人材の育成にも取り組むべきである。

(5)宇宙特有の社会的効果

 ロケット打上げや小惑星探査機「はやぶさ」は、衛星を軌道に運ぶことや小惑星からの試料採取が主目的であるものの、その成功やそこに至る過程等は国民から大きな関心が寄せられ、結果的に国民に夢や希望を与えたり、我が国の誇りにつながるといった宇宙特有の社会的効果も期待される。
 こうした特性を活(い)かし、納税者として宇宙活動を支える国民の共感や理解を醸成したり、次世代を担う青少年の科学技術に対する関心をかき立てるなど、科学技術立国の礎を築くことにも寄与する。また、宇宙科学技術の展開は、東日本大震災等により失われた科学技術への信頼回復にも貢献する。

2.新体制の下での文部科学省の役割

 文部科学省は、科学技術の総合的な振興、学術や教育の振興を任務としており、研究開発を通じて“新たな知を育み社会につなぐゆりかご”としての役割を果たしてきたところである。
 宇宙分野においては、JAXAとともに、宇宙の成り立ちの探求や人類の活動領域を拡大するための宇宙科学研究を牽(けん)引役として、ペンシルロケットや我が国初の人工衛星「おおすみ」にはじまり、H-ⅡAロケット等国産技術による輸送技術の確立とその民間移管や、通信衛星、放送衛星、気象衛星等の開発から実用への橋渡しをこれまで行ってきた。

 文部科学省は、新体制下においても、先述の基本認識に基づき、科学技術立国を標榜(ぼう)する我が国にとって、新しい可能性を育み、国家存立の基盤となる技術として宇宙分野を位置付け、活力ある未来に向けた「明日への投資」として施策の重点化を図っていくことで、宇宙開発利用の進展に貢献してく役割が求められる。
 具体的には、宇宙先進国にまで至った我が国宇宙開発の優位性をより発展させるため、研究開発により宇宙のフロンティアを拓(ひら)き(宇宙を知る)、自律的な国家基幹技術として宇宙利用の基盤となる技術の強化や人材育成といった取組(宇宙を支える)を今後重視していくことにより、国民生活の向上及び経済社会の発展等に寄与する宇宙利用(宇宙を使う)に貢献する。

 これら施策の重点化に当たっては、基本認識に示した事項の相互連関を十分考慮する。それとともに、広範な分野に係る多くの研究機関や、創造的・先端的な学術研究・人材養成の拠点である大学を所管する文部科学省の強みを活(い)かし、産業界と連携しつつコミュニティ形成を進めること等により、ニーズに即した双方向のやりとりを通じて成果の最大化を目指していく。 

文部科学省の取組の方向性

1.基本的考え方

 新体制下において政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的な実施機関と位置付けられたJAXAは、今後、各府省や産業界のニーズを受けて一層広範な業務を行うこととなるが、文部科学省としては、以下の方向性に即した取組により、「明日への投資」との観点からJAXAが業務目標を達成し得るようリソースを重点化していく。
 また、文部科学省は、今後とも“新たな知を育み社会につなぐゆりかご”の役割を果たしていくため、厳しい財政状況の下、実用に向けて一定の成果が得られた段階で新たな研究開発課題にリソースを振り向けていくことが重要であり、その際、研究開発リソースの既得権益化や特定分野に固定化させることなく、新たな領域も含め優先順位付けを行い、明日への投資に相応しい施策展開を図るべきである。

2.宇宙開発利用に関する将来予測

 宇宙開発は、極限環境での高い耐久性や信頼性を要求されることから、新規衛星開発に通常4年以上、新規ロケット開発に8~10年程度を要するなど、かなりの長期間を必要とする。
 このため、文部科学省が「明日への投資」として、今後何をなすべきかとの取組の方向性を検討するに際し、現況を踏まえつつ、以下のような宇宙開発利用の長期的な姿を念頭に置いて行った。  

(1)現状

 我が国の宇宙開発利用の歴史は、1955年のペンシルロケットに始まり、これ以降、固体ロケットについては、科学衛星打上げ用のロケットとして進化を遂げ、惑星探査機等の打上げが可能なM-Vまで発展してきた。現在はこれら技術を継承し、機動性や経済性に優れるイプシロンを2013年の初号機打上げを目標に開発中である。
 一方、液体燃料ロケットについては、実利用衛星の打上げを目的として米国からの技術導入により開発を開始した。N-Ⅰロケットを皮切りに継続的な開発に取り組み、全段自主技術により世界に比肩する打上能力を有する大型ロケットH-Ⅱを開発し、更に改良を加えたH-ⅡA/Bでは、世界最高水準の成功率(平成24年11月時点で95.8%[24機中23機の成功])を実現するに至っている。
 国際的な為替動向といった予測困難な要因も加わり、当初想定した国際競争力を得たと言い難い状況にあるものの、その技術力と信頼性の観点から高く評価できる成果をあげてきた。

 また、人工衛星については、1970年の日本独自の「おおすみ」の打上げ以降、人工衛星の特徴である広域性や迅速性等を活(い)かし、地球観測、通信・放送、測位など様々な分野で宇宙利用が進んできたところである。
 我が国において最も早く利用が進んだ気象観測分野では、1977年当初は当時の科学技術庁と宇宙開発事業団が開発を担当したが、技術の進展に伴い段階的に気象庁が費用を含め開発分担を増やしていき、2005年以降は気象庁が開発・運用の全てを担当することとなった。気象衛星に関して日本企業は競争力を有するに至っており、これまでの技術開発が結実しつつある分野である。
 気象以外の分野についても、1980年代の基盤技術の蓄積から始まり、現在は世界最先端の衛星開発・運用能力を獲得し、多様な観測分野における国際協力を進めるとともに、2006年の陸域観測衛星「だいち」による本格的な観測データの商業販売など衛星データの商業利用の一般化や3次元の降水量観測レーダに見られる我が国独自の先端衛星技術による地球観測といった形で発展をつづけている。
 また、より商用利用が広がっている分野として、通信・放送や測位をあげることができる。世界中で衛星放送やGPSシステムを活用したカーナビゲーションシステムを始めとする幅広い宇宙利用が既に大きなマーケットを形成している。

 このように、宇宙の利用は既に日常生活の一部となっているものも多く、通信・放送、気象、測位等の国内産業規模は9兆円を超えるまでに至っている。また、途上国においては、地上インフラの整備が容易に進まない場合があり、衛星による通信・放送や災害情報の提供などの分野で宇宙利用への期待が大きい状況にある。これらを踏まえると、今後世界的に、更なる宇宙開発利用の拡大が期待される状況にあるといえる。

 他方、宇宙開発利用には多くの先端技術が統合されたシステムが必要であり、また、大きな費用を要する場合も多いことから、国際協力による取組が効果的な分野とされている。日米露欧加の5極15ヶ国の協力により高度約400kmの地球周回軌道上に有人の宇宙ステーションを建設・運用・利用する国際宇宙ステーション(ISS)計画は、その良い例であり、科学技術分野の国際協力の象徴の一つとなっている。我が国は、アジアで唯一ISS計画に参画し、国際的な信頼を寄せられる国としての地位を築いてきた。
 これにより、宇宙先進国の一員として、例えば世界の14宇宙機関が構成員として宇宙探査に係る情報共有や意見交換を行う国際宇宙探査協働グループの議長を現在JAXAが務めるなど、今後の国際協働プロジェクトを他のパートナーとともに主導し得る立場を得るに至ってきた。

(2)将来の姿

 これまでの宇宙開発利用や他の科学技術分野に見られるような優れた成果の社会への還元、そして、既に日常生活の一部となっている自動車や鉄道、航空機などの発展の歴史においては、先端科学技術に挑戦することでイノベーションが生まれ、実社会における経済活動の一環として普及に向かう努力と有機的に結合し融合することで、持続的な成長と社会の発展が進んできた。
 宇宙開発利用の将来を展望した場合、宇宙科学技術や宇宙探査、有人宇宙開発などのフロンティアを開拓する分野と、国民生活の向上等社会ニーズに基づき経済的な発展にもつながる通信・放送、測位、地球観測などの実利用分野において、国際的な連携を図りつつそれぞれが一層進展していくとともに、相互に良い影響を与えあって発展していく形をとると考えられる。例えば、フロンティア開拓の過程で得られた先端科学技術の蓄積が、その後に続く宇宙の実利用において社会に還元され、国民生活の向上等に寄与し続けるといった、両者の有機的な関連が期待される。
 フロンティアを開拓する分野においては、科学技術の進展により観測装置や衛星等が大型化、高性能化が実現され、更なる遠方の宇宙空間や天体への到達が可能となったり、人類が未だ知り得なかった宇宙の謎や物質・生命の起源など新たな知見が明らかにされていくことが期待される。また、有人宇宙開発については、高度な技術を要する大型プロジェクトであること、NASAとしても国際協力によるポストISSの宇宙探査を検討中であることから、遠くない将来に国際協働による有人宇宙探査の事業が立ち上がる可能性が高いと考えられる。その際、将来的な到達目標としての天体が設定され、これを実現するための中間的な目標が掲げられ、宇宙先進各国において、それに向けた取組が実施されることが期待される。
 実利用分野においては、既に日常生活の一部となったり、商業ベースで利用されている気象、通信・放送、測位については、情報通信技術の発展や今後益々進むグローバル化などと相互に影響を及ぼしあい、新興国を含めて更なる一般化が進み、経済・社会への貢献も大きくなっていくと考えられる。現在は商業利用の規模は小さい地球観測についても、衛星から得られる地理データや環境データがより高度に、より手軽になり、低コスト化が進めば、地上で得られる種々の情報と組み合わせることで新たな利用が拡大していくものと考えられる。
 以上のように今後の宇宙開発利用は、フロンティア開拓の分野においては、技術の進歩と国際協働に支えられ、より遠方への到達を果たし、より優れた科学的知見の蓄積が進むものと期待され、これらを支える科学技術が宇宙の実利用発展の基盤となり、地上における利用拡大の取組と相まって更なる宇宙利用の一般化が図られ、国民生活の向上や経済・社会の発展などに持続的に貢献していくものと期待される。

3.宇宙を知る

(1)宇宙科学

1) 意義
 宇宙科学とは、宇宙理学及び宇宙工学の学理及びその応用であり、人類の発展に貢献する真理の探究や最先端の技術・知見を集約して未踏の研究課題に挑み、世界を先導する画期的な成果を期する学術研究である。その取組は、宇宙空間を利用した観測や実験により真理の探求を目指す宇宙理学と、衛星等を宇宙空間に飛翔させてフロンティアを拓く宇宙工学があり、これらが緊密に連携することで宇宙科学全体として優れた成果が期待されるものである。
 宇宙科学の成果は、公共財としてそれ自体が人類にとって貴重な資産であるとともに、その取組が宇宙開発の端緒を拓(ひら)き、宇宙開発利用を先導するものであり、人類共通の知的資産の創造や重層的な知の蓄積の形成につながるものである。そして、得られた知見に基づき新たな研究領域の開拓やイノベーションの創出が行われるなど「多様性の苗床」としての機能を有し、直接的あるいは間接的に新たな宇宙開発利用の拡大、ひいては社会の発展に寄与するものである。

2) 将来の姿(今後~30年程度)
 宇宙に関する真理の探究や未踏の研究成果の獲得といった宇宙科学は、人類の根源的な欲求によるものであり、研究者の自由な発想とコミュニティの合意形成に基づき実施されるため、我が国が頭脳循環の拠点の一つとして世界の研究者の英知を結集し更なる知的触発を促す環境が一層醸成されていることが期待される。
 このためには、我が国の強みを活かして最先端の研究成果が持続的に創出されるよう、例えば深宇宙の赤外線やX線データ、素粒子の観測、惑星・小惑星からのサンプルリターンといった、従来の手法では得られない未知のデータの収集が重要な要素となる場合が多く、宇宙理学及び宇宙工学の緊密な連携を基礎として、最先端の技術や知識を集約した大規模かつ高度なプロジェクトの実現が希求される。 
 今後、国際共同研究が益々重要視される中で、これらの取組により、我が国が優れた提案力を有し、また、宇宙先進国の一員として国際的に常に参画が求められる国となることが期待される。

3) 課題及び推進方策
(世界をリードする先端的な宇宙科学研究の推進)
 宇宙科学は、その意義に鑑みれば、今後とも我が国が世界最高水準の研究成果を継続的に創出し、世界の宇宙科学を主導する国の一つとしての地位を維持していくことが求められる。
 このため、これまで蓄積されてきた優位性をより発展させる挑戦的なプロジェクトの実施を推進することが重要である。例えば、宇宙理学については、X線や赤外線などによる宇宙空間からの天文観測や宇宙物理、太陽研究、磁気圏観測・月面詳細観測等の太陽系探査科学、宇宙工学については、「はやぶさ」で得られたイオンエンジン技術や宇宙空間航行技術等といった分野で卓越した成果を生み出してきた。これら実績を踏まえ、更なる取組について、新分野開拓や分野融合にも配慮しつつ、ISASの大学共同利用機能を活用し、研究者コミュニティにおける議論を踏まえた支援を実施する。

(宇宙科学コミュニティの自律性を確保する一定の予算規模)
 独創的かつ科学的価値の高い成果を実現していくには、現在ISASを中心として行われているような研究者間の研究提案の磨き合いが極めて有益であり、コミュニティーによるボトムアップの活力を活かす観点からその結果を尊重することが重要である。
 このため、宇宙科学コミュニティとして選定したものについては、その自律性に配意し、一定規模の枠内において実施が担保されるよう、これまでの実績を踏まえつつ、予算を確保する仕組みを構築する。

(宇宙科学プロジェクトの大規模化等への対応)
 我が国が宇宙科学分野において世界をリードし得る存在となっていくには、フラッグシップとなるような挑戦的なプロジェクトの提案や参加が重要である。
 他方、一定の予算規模で宇宙科学を実施することとした場合には、当該予算規模の枠内では今後重要性が高まるプロジェクトの大型化や国際化等に対応することは困難である。
 このため、プロジェクトの大型化等へ柔軟に対応できるよう、一定規模を超えるものについては、コミュニティーによる科学的判断に加え、プロジェクト毎に政策判断を行った上で財政措置することができる仕組みを検討する。また、当該プロジェクトの選定方法についても併せて検討することとなるが、その際、現在の宇宙科学コミュニティーによる合意形成手法による自律性の確保を基本としつつ、具体的な方策を検討すべきである。

(世界的な頭脳循環の拠点に相応しい環境の整備)
 最先端の研究成果が持続的に創出され、世界水準の研究者の英知を結集させていくためには、これに相応しい研究環境が必要である。
 このため、新規分野・融合分野への取組の促進、各大学における研究者の活躍機会の増加や大学院教育の充実との観点に留意しつつ、ISASと各大学の連携協力の強化、国内大学研究者の流動化の促進、世界の頭脳循環の拠点の一つとなることを目指した人材の国際的流動性への取組など、ISASを中心とした宇宙科学コミュニティが世界のトップサイエンスセンターとして機能するような取組について、具体的な支援方策を検討すべきである。

(情報の発信)
 宇宙科学技術が発展していくためには、国民の理解を得ることが不可欠であり、社会との間の双方向のコミュニケーションが重要である。 このため、これまでややもすれば社会との関係に関心が薄かった研究者や技術者においても、国民を意識した情報発信がなされるよう機会の提供を図るなど支援していくこととする。

(2)宇宙探査

1) 意義
 宇宙探査は、“宇宙の渚(なぎさ)から深宇宙へ”人類のフロンティアを拓(ひら)くものであり、輸送技術や衛星技術、有人技術の底上げを先導するなど宇宙開発の牽(けん)引役をなす。これは、宇宙空間における人類の活動領域を広げることであり、将来的には、新材料の発見や新産業の創出、地球外での資源獲得やエネルギー施設建設、さらには宇宙観光といった人類の知的好奇心の充足など、新たな宇宙利用の可能性につながるものである。
 また、宇宙探査に必要なロケットや輸送機、探査機器が開発されることにより、宇宙産業の技術基盤・産業基盤の維持にも寄与するものであり、その技術自体もスピンオフなどにより社会に還元され、国民生活の向上等にも貢献するものである。
 さらに、国際協働活動による宇宙探査への参加は、日本の宇宙技術力の高さへの評価であることに加え、国際的なプレゼンスを発揮することにより、外交的な視点や経済的な視点からもメリットを有する。

2) 将来の姿(今後~30年程度)
 近年、将来的な国際協力による宇宙探査に向けて、実現のための方策や課題について、NASA、JAXA、DLR(独航空宇宙センター)、CSA(加宇宙庁)等各国宇宙機関からなる国際宇宙探査共同グループ(ISECG)において議論が行われてきている。昨年8月には、ISSを出発点として「次は小惑星」又は「次は月」とのオプションによりステップバイステップで有人火星探査を目指すとのロードマップが公表された。
 このような国際的な動向や最近のNASA及び欧州閣僚級会議での議論に鑑みると、遠くない時期にポストISSとしての国際協働プログラムが具体化していく可能性が高い。宇宙先進国の我が国としても、プロジェクトの国際的な検討に当初から加わり、実現への道筋、開発すべき具体的な宇宙システムとその開発分担等を明らかにしていくとともに、ISSを活用した有人宇宙技術等の更なる蓄積や日本が貢献し得る技術的な強みを更に伸ばす取組が期待される。

3) 課題及び推進方策
(総合的な政策判断により取り組む宇宙探査)
宇宙探査とは、大気圏外の目的地に人工物を到達させて新たな知を獲得する試みであり、宇宙科学と捉えられるものが多いが、科学的な視点に加え、外交や経済、更には社会への影響等を総合的に勘案した政策的な判断、いわゆるトップダウンにより行うものもある。このような判断により我が国が取り組んだ例としてはISS計画が挙げられるが、2004年に米国ブッシュ大統領が発表した宇宙探査構想などが具体化し、我が国が参加を検討する場合にも該当し得る。
他方、大型で達成目標の高い宇宙探査を実施するためには、多額の経費が必要であること、幅広い高度な技術の結集が必要であることなどから、世界の宇宙先進国においても、ISECGの活動で示されるように、単独ではなく、国際協働による実施が共通認識となりつつある。
また、有人宇宙探査は人類の活動領域の拡大に直結したものであり、宇宙探査の大きな魅力といえるが、我が国の国状に鑑みれば、単独で行い得る状況にはない。
このため、我が国としては、今後の有人宇宙探査の国際協働大型プログラムへの参加を将来的な大きな目標として、当面、国際的な動向の一層の把握に努めるとともに、国際協働による大型探査プロジェクトにおける自らの役割を提案し得る準備を進めることが重要である。
また、このような大型国際協働プロジェクトについての政策決定スキームをあらかじめ定めることは困難であるが、科学技術水準の向上、外交的メリット、宇宙産業の維持発展、社会への波及効果等、様々な視点から関係府省が連携して政府全体として適切な判断がなされるよう期待する。プロジェクトへの参加やその先行実施段階におけるJAXAの実施体制については、プロジェクトの性格を踏まえつつ、宇宙科学分野の研究者を含めその総力を結集できる形とすることが重要である。

(国際的な動向の把握)
 ISECG等の国際的な意見交換の場に引き続き積極的に参加するとともに、欧米など他の宇宙先進国との接触の機会を捉え各国動向の把握にも努めることが重要である。その際、ISS計画の枠組みをベースとして新たな国際協働プロジェクトに向けた実質的なパートナー協議が進められる可能性もあるため、文部科学省及びJAXAにおけるISS計画担当と宇宙探査担当が必要に応じて緊密に連携できるよう留意すべきである。

(我が国の技術的強みの明確化)
 国際協働プロジェクトが具体化されつつある段階においては、高度な技術力と信頼性の観点から参加が求められ、プロジェクトを主導し得る宇宙先進国の一員としてその一翼を担えるよう備えることが重要である。
このため、国際動向を踏まえつつ、我が国の優位性を活用する観点から、ISSで蓄積した有人宇宙技術やこれまでの宇宙科学を含めた宇宙開発利用の経験等を踏まえ、国際協働活動において貢献し得る我が国の強みを明確にすることが必要である。
 その上で、将来の国際協働プロジェクト参加を念頭に、宇宙政策委員会などの政策判断も踏まえつつ、我が国の強みを伸ばす無人宇宙探査など独自の取組を適切な体制により実施していくことを検討すべきである。

4.宇宙を支える

(1)基盤技術の強化

 宇宙を支える技術基盤は、学術における基礎的理解を含む科学技術インフラをベースとして、世界水準の先進的ミッション達成と幅広い分野での宇宙の利用拡大を支えるものであり、新技術創成の理念の下、あらゆる機会を捉えて技術基盤を強化することが重要である。
 さらに、ここで得られる先端的な研究開発の成果はスピンオフにより様々な方面へ波及する我が国先進技術の源であり、技術の底上げや裾野の拡大、ひいては産業競争力の強化につながるものである。

1) 輸送技術
(ⅰ)意義
 輸送技術は、宇宙開発利用を行うに当たって、衛星等を宇宙空間に打ち上げるといった宇宙を支える基盤的な役割を担うことから、我が国が自律的に宇宙開発利用を進める上で不可欠である。すなわち、輸送技術は、我が国として必要な衛星等を自力で適切な時期に打ち上げるための国家基幹技術であり、これを持ち続けることが求められる。
 また、宇宙への独自の輸送技術を有する国は世界の中でも数少ないことから、輸送技術の保有自体が宇宙先進国として国際的なプレゼンスの確保にも貢献するものである。   

(ⅱ)将来の姿(今後~30年程度)
 今後、宇宙利用はより一般化し、国民生活の広範な分野において不可欠なものとして幅広く社会において受け入れられていくものと考えられる。このような状況において、ロケットは宇宙への第一歩として自在な宇宙活動を支えるといった宇宙利用の基盤的技術の役割を果たしていると考えられる。
 また、スペースXのようなロケット打上げ産業への民間会社の参入等により、輸送コストの国際競争は厳しさを増すことで、打上げコストは将来的に低減してくことが見込まれる。

(ⅲ)課題及び推進方策
 ロケットに関しては、国として衛星等を打ち上げる際の国費の削減、民需衛星等の打上げの受注促進の観点から、大幅な打上げコストの低減が重要である。また、新規ロケット開発等に必要な技術基盤の維持への対応も重要である。

(打上げに要する国費削減)
 打上げに要する国費削減の観点からは、次期基幹ロケット開発により、打上げコスト及び整備後長期間を経過した地上設備の維持コストについて、大幅な削減が実現する場合、長期的に見ればロケット開発費を含めて考えても、必要な国費全体を削減できる見込みがある。

(民間衛星等の受注促進)
 また、民需衛星等の打上げ受注の観点からは、打上げコストの大幅削減が実現する場合、国際競争力が向上し、受注数の増加につながり、ひいては、ロケットの技術基盤・産業基盤の維持や更なる打上げコストの低減に貢献する可能性がある。

(技術基盤・産業基盤の維持)
 さらに、技術基盤・産業基盤については、現在喪失の危機に直面している。仮に最短スケジュールで次期基幹ロケット開発に着手した場合でも、運用開始からは平成33年以降となるとみられ、新規開発ロケットであるH-Ⅱ運用開始からは29年、部分的な新規開発であるH-ⅡAからは21年を経過する状況となる。このような長期間の空白により、ロケット開発で培われた技術基盤の継承が困難となりつつある。また、技術基盤が失われると、既存ロケットの運用に必要な不具合対応が十分に実施できない状況に直面することになる。次期基幹ロケット開発が行われる場合、このような技術基盤・産業基盤が継承され、将来的にも我が国の自律的なロケット打上げ能力が確保されることになると考えられる。

(推進方策)
 これらを踏まえると、今後のロケット開発方針について早急に検討し、打上げコストの削減と地上設備維持コストについて半減程度の大幅削減の可能性を見極めた上で、宇宙航空研究開発機構の次期中期目標期間内に必要な措置を実施することとする。また、次期基幹ロケットを開発する場合には、多様な衛星打上需要に対応できるよう容易に輸送能力を拡大できる設計とすることで、種々の政府衛星を打ち上げる自律性を確保するとともに、民需を視野に入れた国際競争力の向上を目指すことが適当である。
 また、次期基幹ロケットの開発を財政的に支援する観点や国際競争力向上を目指して、現行の基幹ロケットであるH-ⅡAについても、ロケット製作上の方策の工夫などによる更なるコスト削減を検討することが適当である。
 さらに、液体燃料ロケットのシステムは複雑であるがエネルギー効率は優れているため、一定規模以上の衛星打上げに当たってコストの観点から優位性を有する一方で、固体燃料ロケットは小規模の衛星を打ち上げる場合に液体ロケットと比較して経済性に優れる。このような得失及び我が国が培ってきた独自の固体技術の維持の観点から、固体燃料ロケットによる打上げ能力の確保にも引き続き取り組むことが適当である。

2) その他の基盤技術
(ⅰ)意義
 その他の基盤技術については、先進的な衛星技術の研究開発や新たな宇宙利用の可能性につながる研究、例えば、宇宙探査の本格化に際して有用となる技術や宇宙太陽光発電などに関する研究についても着実に進めていくことが必要である。

(ⅱ)将来の姿(今後~30年程度)
 将来的に、我が国の自在な宇宙活動を支えられるよう、宇宙開発利用に活用されるべき強固な技術基盤が維持されるとともに、技術の継続的な世代交代をなし得る革新的な技術への取組が行われている状況が期待される。そして、宇宙を利用する側のニーズ(ユーザーニーズ)を反映した技術基盤を背景として、衛星等の新規プロジェクトが次々と立ち上がり、新たな宇宙利用の機会を提供している状況が期待される。

(ⅲ)課題と推進方策
 宇宙を支えるとの観点からは、ユーザーニーズに応え得る技術基盤を提供していくことが重要であり、そのための仕組みについて検討する必要がある。また、宇宙探査の本格化に際して有用となる技術や宇宙太陽光発電に資する技術の発展方策について検討する必要がある。
 このため、次の「実利用における結節点」において記述するコミュニティを活用し、ユーザーニーズを反映した革新的宇宙利用技術の開発や、個別の要素技術の向上、基盤技術の維持・発展への取組を実施することが適当である。
また、ISS計画については、これまでの実績を踏まえ、「きぼう」での実用化に向けた利用を中心に、将来の宇宙探査活動に必要な技術開発や科学的知見の蓄積など重点的に取り組む分野を明らかにした上で利用を進める。

(2)実利用との結節点

1) 意義
 社会的ニーズに対応した宇宙開発利用の推進に向け、我が国宇宙開発利用を技術で支える中核的な実施機関として位置付けられたJAXAは、文部科学省を含む各府省の政策ニーズやユーザーニーズの積極的な掘り起こしやそれに応える技術の提供を含めた宇宙科学や基盤技術と実利用との結節点の役割を担うことが期待されている。このような活動により、実利用のニーズをとらえた宇宙開発を進めることができ、また、技術実証等を通じて、宇宙科学・基盤技術側から実利用側への橋渡しを実質化する機能を絶えず循環的に果たしていくことが可能となると考えられる。

2) 課題及び推進方策
(ニーズに基づく宇宙開発利用)
 これまでは、我が国の宇宙分野のプロジェクトは、海外の宇宙先進国の技術レベルに到達する必要があったことから、到達すべき技術を踏まえ開発側が利用可能性を発掘するといった技術開発主導が必要であった面も否定できない。しかし、宇宙開発利用の発展に伴い、今後はプロジェクト立上げ当初から宇宙利用側のニーズを反映させる取組が求められる。このような観点から、宇宙利用の拡大のためには、幅広い分野のユーザーニーズを集約し、社会で認知され活用される技術につながる宇宙プロジェクトを実施していくことが必要である。
 このため、ユーザーニーズに関係の深い府省が参画し、ニーズを有する各府省、大学、産業界等、そして技術面からの実現可能性を議論できるJAXAや宇宙産業界等が参画するコミュニティを構築し、コミュニティの総意がプロジェクト化されていく仕組みを検討することとする。

(新たなアイディアを有するユーザーの開拓)
 JAXAが宇宙の実利用を促進する役割を果たすためには、今後宇宙利用の拡大に寄与し得るアイディアを開拓することも有益であると考えられる。他方、新たなアイディアを有するユーザーの中には、大学や中小企業など独力で大きな衛星を開発・運用することは困難であるが、超小型衛星の活用によりアイディアの実証に取り組む意欲を有するものが存在する。
 このような観点から、超小型衛星について、開発支援やJAXA衛星との相乗り衛星の公募等の方策に取り組むこととする。

(3)人材の育成

1) 意義
 我が国が宇宙先進国として宇宙開発利用を持続的に進めていくには、様々なユーザーニーズに適切に対応し、かつ十分な技術的信頼性と資源効率性を有するプロジェクトをまとめあげることができる人材の育成が不可欠である。また、実社会で宇宙関連の業務を担当する人材として、技術面の豊富な知見を有し、ロケット、衛星等の設計、製作等を的確に実施できる人材、そして、宇宙利用の幅の拡大に取り組める人材についても、我が国の宇宙開発利用の発展のために非常に重要である。
 また、一方で、宇宙に関心をもつ一般の人々が増えることによって、宇宙開発利用が受け入れられる社会的環境を醸成することは、宇宙開発利用の適切な推進に大きく貢献するものであり、また、このような宇宙に対する社会的理解の広がりは、我が国全体の科学技術についての理解を促進し、ひいては科学技術立国としての我が国のソフトパワーを強化するとの波及効果が期待できるものである。

2) 課題及び推進方策
(実社会における実践的な人材育成)
 宇宙産業界等において有為な活躍が期待される人材の育成のためには、実社会において求められる実践的なスキルを身につけることが課題である。このような観点から、宇宙科学研究所における大学共同利用機能を活用するなどにより、大学院生等に対しては以下の育成方策を検討することとする。

  • 宇宙技術の専門性、幅広い自然科学、人文科学等への見識を有し、システムやリスク管理を含めた総合的な応用力を備えることで、ユーザーニーズを踏まえてプロジェクトを適切にまとめあげる能力を有する人材の育成
  • 実際の衛星プロジェクトへの参加を通じて、実社会において優れたエンジニアリング能力を発揮できる人材の育成
  • 宇宙利用の拡大に実際に取り組む経験を通じて、将来の新規利用分野の創出に貢献できる能力を有する人材の育成

 また、国内の人材育成に加えて、今後は宇宙新興国における人材育成にも配慮することで、将来の海外における宇宙利用拡大に貢献していくこととする。

(青少年の裾野の拡大)
 宇宙分野に取り組む青少年の裾野の拡大については、年齢層に応じたきめ細かな育成に配慮した支援方策を講ずることが有効である。このため、小中学生等に対しては宇宙分野への関心をかきたてることを主眼とした取組、高校生・大学生に対しては実際の体験を通じてより関心を高める取組などを実施することとする。

5.宇宙を使う

(1)意義

1)  科学技術・学術分野における宇宙利用
 宇宙に関する技術開発を実施する観点からのみならず地球観測などの分野に貢献する科学技術を発展させる観点からの宇宙利用は今後とも重要性を有する。
 例えば、宇宙環境利用による極限環境でしか得られない基礎的な研究成果の蓄積、地球観測による国民の安心安全の確保、地球規模の課題解決に資する研究基盤・データを提供するといった宇宙を利用する取組に当たっては、他の科学技術分野と連携し新たな衛星利用分野を開拓するともに、国際協力により効果的に推進することで、科学技術・学術分野における優れた成果の創出がなされることが期待される。

2) 宇宙利用拡大への貢献
 これまでも述べた通り、今後宇宙の幅広い利用の発展が想定されるところであるが、その具体的ニーズは未だ潜在的であるものが多い。このため、ユーザーニーズを反映した宇宙開発が進むことが、新たな宇宙利用の拡大に貢献していくものと考えられる。   

(2)課題及び推進方策

 「実利用との結節点」に記述したように、宇宙利用の拡大のためには、幅広い分野のユーザーニーズを集約し、社会で活用される技術につながる宇宙プロジェクトを実施していくことが必要である。
 これを踏まえて、ユーザーニーズを有する各府省、大学、産業界等、そして技術面からのニーズの実現可能性を議論できるJAXAや宇宙産業界等が参画するコミュニティを構築し、コミュニティの総意をプロジェクト化できる仕組みを、地球観測分野等の科学技術・学術分野において検討することとする。また、当該コミュニティを活用して、新規の宇宙利用分野の開拓を検討することとする。

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課

-- 登録:平成25年03月 --