資料1-5 今後の核融合原型炉開発に向けて

原型炉開発に向けた今後のコミュニティの体制について
(核融合ネットワークの立場から見た個人的見解)

 

核融合科学ネットワーク
委員長 小川雄一(東京大学)

 

 核融合ネットワークは、大学等の核融合研究者をメンバーとして、研究情報の共有や研究協力の促進、次世代を担う人材の育成、さらには他分野への学術発信などを、核融合研と連携・協力して進めている。ここでは、核融合ネットワークおよび大学等の研究者の視点から、原型炉開発に向けた今後の体制や在り方について、以下の三つの視点から個人的意見を述べる。

 

(1)所属している組織の既存の枠組み、或いはその運用方法の変更で可能な原型炉開発への指向性を強化する取り組み(人材育成や共同研究、産学官連携の奨励を含)

○ITERの建設が進み原型炉開発への新たな一歩を踏み出すにあたり、今後の核融合開発を加速するにあたり、中間報告書では、その具体的な課題の抽出と進め方がまとめられている。また核融合開発は、数十年の長期プロジェクトであり、しかも幅広い学術・技術分野の最先端の英知を結集することが必要である。従って、原型炉開発を支える「強固な学術基盤の構築」と「不断の人材育成」も不可欠である。この点は、平成15年の報告書「今後の我が国の核融合研究の在り方について」(平成15年1月8日:科学技術・学術審議会 学術分科会基本問題特別委員会 核融合研究ワーキング・グループ)でも謳われている。

 

核融合研究の階層構造

 

○強固な学術基盤の構築と不断の人材育成を推進するためには、核融合ネットワークの母体である全国の大学等における核融合研究の活性化が必須である。

○大学等の研究の活性化に向けた努力の一例として、核融合研の共同研究の拡充が挙げられよう。例えば、核融合研の共同研究は核融合研と大学との交流に制限されていたのが、双方向型共同研究や、ネットワーク型共同研究では、大学附置センターと他大学や、大学・大学間の交流も可能となった。その結果、多くの大学間での連携や共同研究、さらには学生などの人的交流が活性化された。

○核融合研の共同研究では、大学等からの自主的な提案に基づいた課題に対して推進されている。しかし、原型炉開発では、緊急かつ重要な開発課題に対して、大学・核融合研・原子力機構などを網羅した全日本的な連携による共同研究体制を構築して推進する必要がある。(例えば、ダイバータ課題を解決するための、プラズマ実験装置・材料開発・シミュレーションなどが連携し共同研究体制を組んで組織的に研究開発にあたる。)

○原型炉開発では多種多様な学術分野からの参画が必要であり、大学等の潜在的ポテンシャルを把握しておくことは重要である。核融合ネットワークでは、大学等の核融合研究の現状と将来の人材供給可能性の見通しなどを把握すべく大学等の教員・学生の人数や研究・教育の実情を定期的に調査している。(最近では平成18年12月に実施し、文科省の核融合研究作業部会で報告した。)

(2)所属している組織で追加予算が措置されることで可能となる取り組み

 ○原型炉開発には計画的な予算確保の裏付けがなければ人材が定着しないし、研究開発も継続性がなく非効率となる。大学等では原子力機構からの受託研究などを通して、原型炉開発を目指したBA活動に寄与しているが、予算的にも非常に小規模で単発的と言わざるを得ない。また産業に密接した分野では企業との共同研究も考えられるが、核融合はまだ開発段階であり、しかも長期に大型の予算投入が必要な分野であるので、産学連携に馴染まない。従って、長期的視野に立って国策として進めるべき核融合分野では、例えば戦略的創造研究推進事業CREST・さきがけのような科学技術政策対応型の競争的資金の確保が不可欠である。
 因みに、1980年から10年間の文部省科研費「核融合特別研究」は、大学の核融合研究の推進に寄与すると共に、多くの研究者が核融合界に参入する契機としての役割を果たした。
○戦略的創造研究推進事業が核融合分野にも創設されるなら、原型炉開発の重点課題の遂行に必要な研究課題の公募などを通じて、核融合コミュニティ内の切磋琢磨や関連する学術分野の研究者の参入を促すことが期待でき、原型炉開発における学術基盤の構築と裾野の拡大を図ることが出来る。

○このような比較的大型の研究予算を大学等が獲得することにより、若手研究者の雇用も可能となり、次世代を担う優秀な研究者育成に寄与すると共に、大学内での核融合分野の競争力強化を図ることができる。

(3)所属している組織以外で実施してほしい取り組み(要望)、および行政に対する要望

○日本からのITERへの人的寄与、特に若い研究者の寄与を組織的に増力する必要がある。若い研究者がすぐにITERに採用されるのは必ずしも容易ではない。従って、事前にITERと何等かのコンタクトを取りながら研究を進め実績を挙げることにより、日本人研究者の優秀性をアピールするのが有効だと思われる。核融合研ではCOE研究員の枠を使ってITERへ若手研究者を派遣・滞在させる制度を検討中と聞いており、期待している。一方、原子力機構にはリエゾン室を強化・拡充し、数多くの日本人研究者がITERサイトに滞在できるように尽力していただきたい。

○JT-60SAやITERへの大学等からの研究参画では、タスクやテーマのリーダーとして実験を牽引する機会が増えてくると期待する。そのためには大学等の教員が長期間にわたり大学を離れて職務を行うことが可能となるような制度設計を大学と原子力機構などとで構築する必要がある。

○昨今の我が国の科学技術政策は比較的短期的な成果が期待できそうな分野に傾注していると言えよう。エネルギー政策においても30年程度を想定した政策のみに議論が集中しているような気がする。エネルギー基本計画に核融合の研究開発が取り上げられたのは幸いであるが、やはり国の根幹に関わるエネルギー戦略は「国家百年の計」を見据えた議論と政策が求められよう。

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