資料2-2 核融合分野における研究開発の進捗状況-LHD計画(核融合科学研究所)

 1. 計画名

 超高性能プラズマの定常運転の実証
(大型ヘリカル装置(LHD)による核融合科学の推進)

 2. 実施機関名 

自然科学研究機構 核融合科学研究所

 3. 計画の概要  

 本計画は、安全で燃料が海水から採れる核融合発電の早期実現に必要な物理および工学の学理の探求とその体系化を図ることを目的とする。核融合発電では炉心となる1億度を超える超高温のプラズマを定常に閉じ込めることが必要である。このために、我が国独自のアイデアに基づくヘリカル方式の超伝導コイルを有する大型ヘリカル装置によって、イオン温度が1億2千万度以上のプラズマ、安定した定常プラズマなどの核融合炉を見通すことができる超高性能プラズマを実現する。また、これらの実験を広く国内外の共同利用・共同研究に供することによって、核融合コミュニティおよび関連分野の研究者の英知を結集して、核融合発電を実証する原型炉の設計に必要な理工学課題を解決し、その体系化を図る。さらに、関連する学術研究、人材育成、産業技術への応用と展開を世界に先駆けて推進する。本計画は関連する学術コミュニティでの議論の積み上げに基づいており、学術研究としての必要性とその実行が強く支持されている。

 4. 主な研究計画及び達成目標   

 核融合原型炉を見通すことができる超高性能プラズマの定常運転の実証を目的として研究計画を推進する。ヘリカル方式は、本質的に定常運転が可能であるため、大型ヘリカル装置においては、核融合の燃焼プラズマにつながる、イオン温度1億2千万度以上の高温プラズマの生成などが目標となる。その他、定常加熱電力3,000キロワットを用いて数千万度級プラズマを1時間保持するなど、超高性能プラズマの定常運転に関わる重要な課題に取り組む。このため、大型ヘリカル装置の性能を最大限に発揮させる高性能排気の改造、プラズマ加熱装置の増強を行い、プラズマの性能を格段に向上させる整備を進める。さらに、プラズマ性能の向上が期待される重水素実験を平成28年度から実施するための装置等の整備を進める。同時に、得られた高性能プラズマを対象とした具体的な議論を可能とする計測及び解析の整備を進める。これらの実験環境及びデータを国内外の研究者に供し、その共同利用・共同研究により、核融合科学における重要課題の解決を図る。世界に類を見ない特長である定常・安定性を活かした研究により、核融合原型炉設計のために必要な学理の体系化を図る。核融合研究を大学院教育と強く連携させ、国際的な人材育成の場とする。

 5. 期待される成果 

【社会的意義】
 一次エネルギーの約8割を輸入に依存する我が国にとって、安全で、究極のグリーンイノベーションである核融合発電の早期実現を図ることは、緊急に推進すべき課題である。原型炉の設計段階へ進むための二大課題は核融合燃焼の実証と超高性能プラズマの定常保持の実証である。国際協力で進められているITER(国際熱核融合実験炉)は前者を担っており、後者の課題解決を図る本計画をITERと相補的に進めることにより、原型炉に必要な科学的基盤の構築と、原型炉の工学設計への展開が可能となる。

【学問的意義】
 1億度を超える超高温プラズマで起こる現象を理解、予測し、制御することはプラズマ物理学の革新を伴う基礎学問的体系化によって可能となる。核融合発電の要件である超高性能プラズマの定常運転の実証を本計画によって図り、原型炉を設計するための学理の体系化を加速することができる。超高温プラズマの際立った特徴である複雑性は広く自然科学にみられる典型例である。本計画による最先端の核融合研究は核融合科学の分野に留まらず、天文学や原子・分子過程などの基礎科学に新たな研究の切り口を与え、超高温、極低温、放射線などの極限環境における材料科学などの研究においても革新的な進歩が期待できる。

【教育・人材育成への貢献】
 大型ヘリカル装置はヘリカル方式の世界唯一の大型装置であり、世界最高の定常プラズマ運転能力を有している。この世界最先端の研究環境は総合研究大学院大学や連携大学院の大学院生だけでなく、共同利用・共同研究を通じた国内外の大学院生の教育・人材育成に広く活用されている。これらにより国際的にリーダーシップを取るこ
 とができる人材育成を強力に進めることができる。

【国際的な貢献】
 6か国(極)と2国間協定、国際エネルギー機関実施協定、18の海外機関と学術交流協定などに基づいた国際協力の中核拠点実験計画として、海外からの組織的な参画がある。また、公募による共同研究申請も海外に開かれている。現在、フランスにおいて建設中であるITERへは相補的研究あるいは先行研究によって貢献している。

 6. 進捗状況及び主な研究成果 

【進捗状況】
 本計画の中核を成す大型ヘリカル装置は平成10年度の実験開始以来、これまで15年間、順調に稼動してきた。この間、研究者コミュニティの多様なニーズに応え、11万回以上のプラズマ実験を国内外の共同利用・共同研究に広く供している。世界最高の定常プラズマの性能を有し、プラズマ物理の研究だけでなく世界最大の超伝導コイルシステムとして装置工学上の成果も得られている。得られた実験データは国内外の共同研究者に利便性高く利用可能とし、標準化されたデータの公開も進めている。着実なデータの蓄積と、新たな発見の理解との相乗によって、プラズマ性能は当初の見込み以上に進展している。これらの成果によって、プラズマ加熱電力の増強、高性能粒子排気(閉構造ダイバータによる排気)、そして閉じ込め改善をもたらす重水素の実験を実施することで、最終目標である核融合炉を見通すことができるイオン温度1億2千万度以上のプラズマを実現できることが確実となりつつある。これに向けて段階的に大型ヘリカル装置を最高性能化するため、プラズマ加熱装置改造等整備を進める。重水素の実験については、地元自治体の同意が得られていることから必要な機器の整備に着手する。

【主な成果】
(1)プラズマ性能の向上
 代表的なプラズマ性能の指標として、イオン温度、プラズマ密度、プラズマ圧力、放電保持時間がある。本計画では、それぞれ個別の値として、1億2千万度、400兆個/cc、プラズマの圧力と磁場の圧力の比であるベータ値として5%(磁場は1テスラ以上)、3,000キロワットの加熱電力下で1時間の保持を最終目標としている。将来の原型炉では、これらの値を同時に満足する必要があるが、本計画では、個別の達成から学問的体系化によって予測精度を高め、原型炉の設計へと進めるものである。これまで、最終目標に対して、イオン温度8,500万度、プラズマ密度1,200兆個/cc、ベータ値5.1%(磁場0.425テスラ)、1,000キロワットで19分の保持を達成した。大型ヘリカル装置の稼働前に懸念されていた物理的課題は実験研究の進展によってほぼ払拭された。これらの基本的理解に立ち、必要な措置を講ずることによって、最終目標が確実なものとして見込まれるようになってきた。

(2)革新的な発見
 プラズマ密度については核融合条件の目安である100兆個/ccの12倍にもなる超高密度状態を発見した。安定性に優れたヘリカル方式の特長を活かすものであり、1億度以下の温度で点火し、核融合炉の工学的な要件を軽減できる新たな運転シナリオの可能性を開いた。
 イオン温度の上昇に伴って、プラズマ中心部から燃料水素以外の不純物が排出される現象を発見した。プラズマの閉じ込め性能向上は不純物の蓄積をもたらし、核融合反応の効率を損ねる懸念がある。この排出現象は重い不純物ほど強く起こることが同定され、将来の核融合炉運転に明るい展望をもたらした。
 核融合炉の経済性を決定する指標となるベータ値(ベータ値:プラズマ圧力と磁場の圧力の比)を高める研究において、プラズマ圧力上昇により生じる揺らぎが自律的に抑制されるという、従来の理論では説明ができない現象を発見し、新たな理論モデルの必要性を喚起している。
 トカマクにおいても喫緊かつ決定的な課題となっている摂動磁場に対するプラズマ応答について、磁場の3次元性に関して長じた研究の応用により、磁場の乱れの電場構造、回転、輸送への影響の同定が進んだ。

(3)プラズマ物理学や学際的な研究進展
上記の革新的な発見はその体系的理解のために、高度で新たな物理モデルの構築を要求しており、プラズマ物理学上の進展が加速されている。

  ヘリカル方式は軸対称性のない3次元磁場構造を取ることに対して、トカマク方式は軸対称性をもった2次元磁場構造を持っている。トカマク方式では高性能化にともなって磁場の軸対称性の破れが喫緊かつ決定的課題となってきており、本計画で培われた手法や知見、あるいは比較実験によってこの解決に大きな貢献をしている。また、世界で大型ヘリカル装置でしか作ることができないプラズマを光源あるいは媒体として利用する学際的な研究により、太陽観測を中心とした天文学や原子・分子などの基礎学術や産業応用を見込んだ研究に新たな展開をもたらしている。

 原型炉の早期実現に向けた世界的な中核拠点装置として、核融合科学の研究において決定的な役割を国際的に担っている計画の進捗状況として、原型炉への明るい見通しにつながる成果が上げられており、その目的を成就するためには、今後、大型ヘリカル装置による超高性能プラズマの定常運転の実証が不可欠である。

 7.今後の主な予定(今後の課題)  

 本計画の目的・目標を計画に沿って達成するため、重水素実験の準備を滞りなく進める。閉構造ダイバータを高性能粒子排気装置として本格稼働させ、プラズマの超高性能化を行う。さらに、大型ヘリカル装置においてイオン温度が1億2千万度以上となる超高性能プラズマを実現するため、プラズマを加熱する装置の主力である中性粒子ビーム入射加熱装置の増強整備を行う。これらを背景に、国内外の共同研究者の提案に基づき、大型ヘリカル装置によるプラズマ実験を7,000回実施し、超高性能プラズマの実現と関連する学理の研究をさらに進展させる。

 8.その他  

 本計画は、日本学術会議によって我が国が推進すべきと考えられる学術の大型施設計画・大規模研究計画(マスタープラン43計画)として提示されている。さらに、これを受けた科学技術・学術審議会学術分科会の学術研究の大型プロジェクトに関する作業部会において、基本的な要件が満たされており、一定の優先度が認められる計画(18計画)に選ばれている。さらに、第22期の日本学術会議においてもコミュニティの合意のもとJT-60SAともに「高性能核融合プラズマの定常実証研究」としてマスタープランに申請した。

お問合せ先

研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当)

齊藤
電話番号:03-6734-4163
ファクシミリ番号:03-6734-4164

(研究開発戦略官付(核融合・原子力国際協力担当))