平成25年1月
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力科学技術委員会
核融合研究作業部会
平成23年3月11日に発生した東日本大震災により被害を受けた東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下、「福島原発事故」という)の影響を鑑み、我が国はエネルギー政策・原子力政策の大幅な見直しを行っている。一方、世界人口及びエネルギー需要の爆発的な増大が予測されている状況に変わりはなく、国際的にもエネルギー安全保障や気候変動対策に関する懸念が高まっている。このような状況から、我が国においても新たなエネルギー源の開発が急務となっている。
核融合エネルギーは、「地上の太陽」とも言える究極のエネルギー源であり、エネルギーの安定供給、地球環境問題への長期的な視野での対応を目指して、核融合反応に関わる現象解明と制御を可能とする研究開発が精力的に実施されるとともに、その成果として生み出される先端技術を幅広い科学技術分野へ展開する取組が行われている。
今後の核融合研究開発の在り方については、新たなエネルギー政策との整合性に留意する必要があるが、核融合エネルギーは、資源量、安全性、環境適合性等の観点で優れた特性を有しており、地球規模での低炭素社会を支える基幹エネルギー源として、その早期実現が期待されているという政策的意義に変わりはない。欧米やアジアの主要国においても、このような認識の下、核融合研究開発が着実に推進されている。
我が国の核融合研究開発は、現在、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標とした「第三段階核融合研究開発基本計画」(平成4年6月 原子力委員会決定)(以下、「第三段階計画」という)の枠組みの下で、更なる具体的な方針については、「第三段階核融合研究開発基本計画における今後の核融合研究開発の推進方策について」(平成17年11月 原子力委員会決定)に示されている「今後の核融合研究開発の推進方策について」(平成17年10月 原子力委員会核融合専門部会策定)(以下、「平成17年報告書」という)に基づき進められている。
平成17年報告書においては、21世紀中葉までに実用化の目処を得るべく研究開発を促進する必要があるとした上で、以下の方針が示されている。
○ 研究が先行しているトカマク方式について、開発研究として、第三段階計画の中核である国際熱核融合実験炉(ITER)計画を進める。また、ITERの主要な基本性能が達成される時期までに原型炉段階への移行の可否を判断するため、トカマク方式による原型炉建設に必要な研究開発を総合的に進める必要がある。原型炉は、高いエネルギー増倍率を持つ定常炉心を実現し、同時にプラント規模での発電実証を一定の経済性を念頭において実現することを目標とすることが妥当である。
○ ヘリカル、レーザー方式については、核融合炉の選択肢を拡げる観点から、引き続き大学等での学術研究に重点をおいて研究を進める。学術研究においては、ITER、及び、トカマク、ヘリカル、レーザー、炉工学における研究や、独創的な発意に基づく新たな可能性の探究を通じて新たな知見を蓄積しつつ、体系化された学理の構築が求められる。またこれらを通じてITERへの貢献や人材育成に努めることが求められるとともに、原型炉の設計にこれらの成果を適宜反映する必要がある。また、ヘリカル、レーザー方式については、大型ヘリカル装置(LHD)計画と高速点火実証実験第1期(FIREX-1)計画の研究の進捗を踏まえ、適切な時期に核融合炉としての可能性に関する評価を実施し、その後の計画の進め方を検討する。
○ 開発研究と学術研究の相乗効果によって開発を加速する観点から、ITERを最大限に活用しつつ実用化に向かって、開発研究と学術研究からなる総合的な研究開発を推進する必要がある。
平成17年報告書の取りまとめから7年が経過し、その間、本作業部会が平成20年に取りまとめた報告書「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」や、原子力委員会核融合専門部会が平成21年に取りまとめた報告書「原子力政策大綱等に示している核融合研究開発に関する取組の基本的考え方の評価について」において、原型炉の実現に向け、我が国として確保、維持すべき技術を明確にした戦略的なロードマップを策定し、それを産学官で共有してオールジャパン体制で取組を推進する必要性が指摘されているところである。
この間の核融合研究開発の進展により、原型炉の本格的な概念設計活動を開始するために必要な技術的、知的基盤が形成されつつある。一方で、現在の工学技術基盤を原型炉に必要と想定される製造技術へ発展させるための課題も明らかになってきている。これらの課題に対する要素技術のR&Dと整合した形で原型炉の概念設計を完了することによって、建設を見込んだ工学設計段階へと移行することができる。このため、核融合研究開発の今後の展開について、現在の科学的・技術的実現可能性の実証の段階から原型炉による発電実証の段階への移行についての判断を行うための準備に資することを目的として、本作業部会に提出された核融合エネルギーフォーラム提言「原型炉に向けた核融合研究開発の具体化について」、及び「核融合研究開発のロードマップに対する核融合ネットワークでの検討結果」を元に原型炉開発のための技術基盤構築の課題を整理し、その解決のための研究の方向性、実施体制の在り方について検討を行った。検討に当たっては、福島原発事故を受けて、特に安全性を重要な観点と位置づけた。本報告書は、この検討の結果をまとめたものである。
我が国の核融合研究開発に関しては、平成17年報告書において、開発研究のトカマク方式、並びに学術研究のヘリカル方式及びレーザー方式の三方式が示されており、それぞれについての研究開発が着実に展開されている。
トカマク方式については、核融合研究開発の基軸プロジェクトとして独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下、「原子力機構」という)が中心となりITER計画と幅広いアプローチ(BA)活動が進められている。
ITER計画は、第三段階計画の中核となるプロジェクトであり、燃焼プラズマ条件(エネルギー増倍率が10以上)の実現と燃焼プラズマ制御の見通しの確立、長時間燃焼(1千秒程度)の実現、システム統合技術の確立と発電ブランケットに関わる基本技術の獲得などを主要な目標としている。
国際共同プロジェクトであるITER計画は、協定が平成19年10月に発効して、ITER機構が発足し、南仏カダラッシュにおける施設建設と各極が分担する機器の製作が本格的に進められている。現在の計画では、平成32年(2020年)に実験を開始、さらに核燃焼実証(DT反応)が平成39年(2027年)に見込まれている。我が国においては、物納機器の製作等を担当する国内機関として原子力機構が指定され、核融合エネルギーフォーラムの活動等を通じて、産学官の関係者が技術課題や研究計画への取組等を協力して行うオールジャパン体制が構築されている。
我が国は、超伝導トロイダル磁場コイル(以下、「TFコイル」という)など、ITERの枢要な機器の製作を担当している。平成24年度から一機目のTFコイルの製作が始まり、残りの八機のTFコイルをはじめ、担当機器の製作を、現地での組み立て作業に合わせて計画的に行うこととしている。
このITER計画から得られる知見は、将来の原型炉開発において決定的に重要であり、適切なチェック&レビューの実施等を通じ、原型炉開発のための技術・知識ベースとして、幅広く関係者が活用できるよう体系化することが必要不可欠である。
BA活動は、原型炉に必要な工学技術基盤の確立に貢献するとともに、ITER計画の効果的・効率的な推進に資する先進的な研究開発等を日欧の協力の下で行い、原型炉実現に向けて世界をリードすることを目指したプロジェクトである。BA協定が平成19年6月に発効して、実施機関として原子力機構が指定され、平成22年3月には青森県六ヶ所村に研究センターが完成し、活動が本格化している。この活動は、国際核融合エネルギー研究センターに係る事業(以下、「IFERC」という)、国際核融合材料照射施設(IFMIF)に関する工学実証及び工学設計活動に係る事業(以下、「IFMIF/EVEDA」という)及びサテライト・トカマク計画に係る事業(以下、「STP」という)で構成されている。
IFERCについては、トカマク原型炉の概念設計やそれに必要な材料、発電システムに関する研究開発とこれらに関連する大規模シミュレーション等を行うものである。計算機シミュレーションセンターでは平成24年にスーパーコンピュータの運用を開始したところである。また、IFMIF/EVEDAは将来のIFMIFの建設に向け、原型炉の中性子照射環境を模擬する施設の工学設計を行うとともに、大強度重陽子イオンビームの加速器やターゲットとなる液体リチウムのループについての工学実証試験を行う事業である。所定のリチウムループ性能は原子力機構大洗研究開発センターにおいて既に実証されつつあり、また、欧州において開発・製作中のプロトタイプ加速器は、一部の要素機器が平成25年に国際核融合エネルギー研究センターに搬入され、据付・試験が開始される予定である。
STPは、既存の臨界プラズマ試験装置JT-60を超伝導装置JT-60SAに改修して、経済性、信頼性に優れた炉心プラズマ性能達成のための研究を進めようとするものである。JT-60SAについては、原子力機構那珂核融合研究所(以下、「那珂研」という)において、既存トカマク装置本体の解体が終了し、平成25年1月に欧州が担当する機器が搬入され、平成31年からの実験開始に向けて、着実に改修が進められている。
これら二つのトカマク方式に関するプロジェクトの他、ヘリカル方式、レーザー方式の研究開発の現状は以下の通りである。
まず、ヘリカル方式については、超伝導コイルを有したLHDの活用を通じ、実施主体である大学共同利用機関法人自然科学研究機構核融合科学研究所(以下、「核融合研」という)が大学等と共同し、特に、本質的に定常運転に優れるヘリカル方式の特長を生かして、プラズマの定常性に関わる学理の構築を図っている。LHDは平成10年4月より実験を開始し、これまで、15年間で11万回以上のプラズマ放電を共同研究に供してきている。その成果として、1千万度以上の高温プラズマの1時間の定常保持や、トカマク方式と比肩できる8千万度のイオン温度の達成など、核融合炉概念としての可能性の評価に向け、この方式が持つ性能の検証が進められている。また、平成31年に予定されているJT-60SAの稼働までは、国内唯一の大型実験装置であり、我が国の磁場閉じ込め物理研究における国際的リーダーシップの確保と人材育成の場の提供のために果たす役割は極めて大きいものがある。
レーザー核融合は、最先端のレーザー技術と極限状態の物質科学に基づくことから、新たな学術分野と磁場閉じ込めとは異なる先端産業を切り拓きながら核融合実用化に至る研究開発である。炉心プラズマについては、米国の国立点火施設(National Ignition Facility;NIF)がエネルギー増倍率Q=10以上の核融合点火実験に取り組んでいる。我が国では、独自のアイデアに基づく高速点火の手法を、ペタワットレーザーを用いた点火温度への加熱実証へと進展させるFIREX-I計画が、国立大学法人大阪大学レーザーエネルギー学研究センターにおいて進められている。また、炉工学技術については、炉用レーザー材料であるセラミッククリスタルの透明化と、励起用レーザーダイオードの長時間運転に成功するなど、我が国発の大きなイノベーションがあり、炉用レーザー開発要素についての見通しが得られつつある。
平成17年報告書においては、前述の通り、ITERの主要な基本性能が達成される時期までに原型炉の建設段階への移行の可否を判断するため、トカマク原型炉建設に必要な研究開発を総合的に進める必要があるとされている。これを踏まえ、以下の議論は磁場閉じ込め方式の技術基盤構築を対象として行う。
原型炉とは発電プラントとしての技術的成立性の実証を目指すものであり、成立性の主な要件としては、
1) 核融合エネルギーによる発電を実用化に繋がり得る技術を用いて実証すること
2) 実用化に繋がり得る一定の経済性についての見通しを得ること
が挙げられる。このために、原型炉段階への移行に当たっては、実用化において必要となる高いエネルギー増倍率で定常・連続的な炉心プラズマの運転ができ、発電を行いつつ、トリチウム燃料の自己供給が可能で、かつ炉環境下で使用可能な材料への見通しがついていることが求められる。
現在の核融合研究開発については、前述の通り平成17年報告書等の方針に沿って計画的に進められている。ITER計画、BA活動といった大型プロジェクトをはじめとする開発研究とそれ以外の学術研究・基盤研究は、それぞれ有用な成果を生み出してきている。発電技術の実証を行う原型炉の開発にとって、これらの成果に含まれる重要な知見が不可欠であることは言うまでもないが、原型炉段階への移行に関する合理的な判断を可能とするためには、改めて原型炉開発のための技術基盤構築に向けた具体的な道筋を整理し、原型炉という目標に向け、ITER計画・BA活動をはじめとする大型プロジェクト及び関連する開発研究とそれ以外の学術研究・基盤研究を統合する戦略を構築することが必要となっている。
言い換えれば、核融合研究開発は、太陽中心核の10倍という超高温の世界で起こる様々な未知の現象を、実験的・理論的に解明していくという学術研究を基盤として進展してきたことから、今後の原型炉の本格的な概念設計を行うための収斂の過程においても、より発展的な核融合炉に向けて、学術的に多様かつ革新的な研究の展開を継続して進めることが必要である。そしてこれは人材育成の観点からも有意義である。
トカマク方式を基軸として、プラズマ物理及び核融合工学の観点から設計の最適化を図るためには、ITER計画やBA活動のみならず、ヘリカル方式による学術研究などを含めて、それぞれの研究活動から得られた成果を統合的に理解し、体系化して活用していくことが重要である。これにより、原型炉開発の前に立ちはだかる課題の解決を加速し、原型炉の早期建設の可能性を高めることが期待される。平成17年報告書によれば、ITERの運転が開始される頃に中間段階でのチェック&レビューが行われることとなっており、そのチェック&レビュー項目の一つである「原型炉の概念設計」には原型炉の全体目標の策定が含まれている。この目標策定は、ITERのファーストプラズマ達成までの成果はもとより、BA活動や他の学術研究・基盤研究の成果が総合的に取り入れられるべきである。上記の研究成果の体系化は、中間段階でのチェック&レビューにおける活用を想定して進められることが必要不可欠である。
特に、原型炉開発にあたっては、三つの方式と並んで重点化分野とされている炉工学について、総合的な知見と実現可能な工業技術が必要となることから、今後どのように学術研究・基盤研究と工学技術開発の知見を蓄積・統合し、活用していくかが極めて重要である。また、ヘリカル方式の実用化の可能性の見極め、及びヘリカル方式による研究から原型炉開発への貢献をより効果的にするためには、より核融合条件に近い高性能の定常プラズマを実現することが必要であり、今後、現有実験設備の拡充と定常運転に関する学術的に重要な課題の解明に一層の努力を払う研究展開が必要である。
2章で議論した原型炉開発のための技術基盤構築の進め方を踏まえ、原型炉の本格的な概念設計活動を開始するために取り組むべき具体的な研究開発課題について検討を行った。
概念設計活動は、現在の物理的、工学的な知見を外挿し予想(フォアキャスト)する作業であり、現在進行中の研究開発成果の延長線上に位置づけられるものである。設計の基礎となる知見については、原型炉実現のために将来必要となる工業技術と現在の技術成熟度との間で十分な整合性が確保されていないことが多い。しかるに原型炉はこれまでの核融合実験装置とは異なり、非常に大規模な工業プラントであることから、その技術的整合性を確保しないままでは、実際に建設に着手する段階で非常に大掛かりな工学技術開発を要し、そのために相当の資源と時間が必要となる恐れがある。
このため、原型炉に求められるもの、原型炉のあるべき姿の方から見るバックキャストの手法に沿い、既存・進行中の研究開発計画を合理的なものとすることが、原型炉の本格的な概念設計活動の在り方を考える上で、極めて重要である。この原型炉の本格的な概念設計活動についてITER計画、BA活動及びそれらを補完する研究開発の整合性、合理性など、全体をとらえた検討・検証を進捗に応じて行うことができるものとする体制を整備して、原型炉の最適化を可能とする総合的な活動の推進を図ることによって、実現可能性の高い原型炉へのロードマップが構想され、第四段階計画(原型炉により技術的実証と経済的実現性を明らかとする段階)への移行の判断に必要とされるチェックポイントが明らかになっていくであろう。同時に、現在の工業技術基盤から到達可能と見込まれる技術を原型炉概念設計と並行して検討し、その両者を合せて最も望ましい発展過程を見いだしていくことが重要である。このことは、今後求められる核融合発電実証プラントとしての経済性や社会的受容性に関する議論の基礎の一翼を担うものでもある。
このような考え方に立ち、実規模工学実証試験を伴う原型炉の本格的な概念設計活動を見通すために、原型炉概念の構築と設計作業及び10の構成要素に関わる研究開発課題を整理し、この課題を解決するための取組や実施体制の在り方について検討した。
また、検討に当たっては、国際協力で進められているITER計画やBA活動に対し、今後の展開において、現在までに得られている国内の研究・技術開発成果から取り入れるべきものはないか、また、逆にITER計画やBA活動から得られる成果を、今後の原型炉の研究・技術開発に係わる国内活動にどのように効果的に活かしていくかという観点から、組織体制の在り方や役割分担を含め、成果の相互還流を効率的に進めることに留意した。
原型炉概念の構築は3.2節に挙げる各構成要素の研究開発と密接に関連しており、原型炉概念の課題が単独で解決されることはありえない。例えば、真空容器内に挿入されるブランケット構造や磁場配位に強く依存するダイバータは原型炉概念を大きく制約する要因となる。さらに、トリチウムのインベントリや中性子による放射化は原型炉の稼働率や保守に影響を与える。
本節では3.2節の各構成要素の議論に対する俯瞰的理解を促すため、重点化計画とされている各方式についての現時点の課題の概要を示す。
1. 現状
これまでの原型炉概念の検討として、平成17年報告書に示された原型炉像に沿い、原子力機構からはSSTR, SlimCSが,電中研からはDemo-CRESTが概念設計案として提案されている。
BA活動のトカマク原型炉概念設計活動は、現在実施中あるいは計画中のプロジェクトにおいて所定の目標が達成されることを仮定して、原型炉概念を構想している。 これは、ITERを原型炉に例えれば、ITERの準備段階と位置づけられた日本、米国、欧州、ソ連によるINTOR計画(1978-1987)に相当すると位置づけられる。この設計作業は、平成17年報告書が述べている「一定の経済性」の要求を満たすことを設計の基本指針としているが、同時に、昨今の安全性への要請の高まりに対応すべく、核融合固有の安全性をさらに生かした原型炉の構築を目指しており、従来の日本の原型炉案(SSTR, SlimCS, Demo-CREST)とは出力規模などで若干異なるものとなる。
2. 課題
(a) すべての磁場閉じ込め方式の原型炉概念案に共通する課題として、ダイバータ除熱、プラズマ対向材料、炉心プラズマのシミュレーションコード開発、ブランケット構成材料のデータ拡充、ブランケットの実規模モックアップ試験、電流駆動装置の定常化とメンテナンスフリー化、遠隔保守技術が挙げられる。
(b) 原型炉に求められる要件の整理が必要である。一定の経済性への対応、多目的利用への対応などについて、優先順位を明確にするとともに、開発戦略を構築することが必要である。
(c) 現在は、産業界及び研究者の参画が限定的であり、現状のままではBA活動後に想定される原型炉の本格的な概念設計の遂行が困難である。
3. 課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 上記課題の解決の取組については、3.2節で述べる。
(b) 一定の経済性に関しては、設備利用率、ベータ値、熱効率等の表面的な経済性に係る目標設定にとらわれず、これらの経済性要因と深層で繋がっている安全性やRAMI (Reliability, Availability, Maintainability, Inspectability; 信頼性、可用性、保守性、検査性)、並びにその確保のための必要コストについて理解を深めることが肝要である。エネルギーの多様性(多目的利用)への対応を原型炉本体の基本仕様として求めることは必ずしも適切ではない。例えば、ITERにおいて小規模な先進ブランケットの実証試験を実施するテストブランケットモジュール計画と同様に、原型炉においても小規模なブランケットモジュールを導入することによるエネルギーの多様性への対応の可能性を探ることが考えられる。
(c) 原型炉の本格的な概念設計活動の立上げを円滑に行うために、現在のBA活動の国内実施における原型炉設計の体制・規模の強化を行うとともに、要素技術に精通した人材の投入と産業界からの参画の拡大、人材育成と多様な分野の専門家の結集を図るべきであり、大型実験装置の設計・建設経験者が現行の概念設計活動及びその後の原型炉の本格的な概念設計活動に寄与できるよう、人材の流れを確保しうる仕組みや組織体制を構築しつつ、次段階に繋げるべきである。
1.現状
技術開発項目について、トカマク方式と共通する部分は多い。
プラズマ電流を必要としない定常運転と電流崩壊の無い特長を生かした設計研究が行われている。
ヘリカル方式はトカマク方式に比べ大型にならざるを得ないが、大型化に伴って緩和される設計条件もある。例えば、中性子壁負荷を低く抑えられるため、ブランケットの長寿命化、放射化物による崩壊熱の軽減、超伝導マグネットの核発熱の軽減、等が検討されている。また、ブランケットを回り込む磁力線構造を有するので、高速中性子から遮蔽されたダイバータの開発検討が可能である。この検討により材料選定の自由度が拡大できる可能性がある。
2.課題
課題の多くはトカマク方式と共有されるものである。加えてヘリカル方式固有の課題として、以下が挙げられる。
(a) 大型の超伝導ヘリカルコイルなどの高度連続巻き線技術の開発が必要である。
(b) ブランケットの遠隔保守技術において、複雑な炉内構造に対応できる高度なマニュピレータ技術が必要である。
(c) 高密度ダイバータによる熱流束除熱技術の確立が必要である。
(d) ヘリカル方式におけるこれらの研究成果を効果的に他方式、他分野へ応用、波及させる開発戦略が必要である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 連続ヘリカルコイルについては、LHD方式の連続巻き線と、超伝導ジョイント採用の分割組み立て方式の二本立ての研究開発が必要である。LHD方式ではNb3Al等を候補にした設計と冷却安定の実証実験が必要である。超伝導ジョイントについては高温超伝導を用いた実証研究が必要である。
(b) 遠隔保守については分解取り出しのシナリオ構築のために、ITERで採用された方式を参考にしつつ、技術と信頼度の評価を進めることが重要である。
(c) ダイバータ熱流束に関しては、放射冷却・デタッチメントによる低減、及び周方向の不均一性の分散平均化等を可能にする技術開発が重要である。
(d) ヘリカル方式についての学術研究成果を、トカマク方式の開発研究に反映させるため、装置間比較実験および比較計測の実施、照射サンプルの比較分析等を実施するとともに、関連分野の研究者の双方向交流が有効である。
レーザー方式で実用化を目指すには、レーザー方式固有の課題と、磁場閉じ込め方式との間で共通性の高い課題があるが、後者の共通課題についても留意しておく。
1.現状
レーザー核融合炉では、炉システムとレーザーを物理的に離すことによる炉の構造の単純化が検討されており、炉の構造体を中性子から遮蔽できる液体壁炉やシンプルな構造の固体壁炉が考えられている。
液体壁炉である「KOYO-F」と固体壁炉である「FALCON」が提案され、炉心プラズマ・レーザードライバー・燃料系を含む炉システムの各要素を統合した設計研究が行われている。レーザー方式固有の課題として、原型炉用の炉心プラズマの原理実証と統合シミュレーションコードの開発が進められ、ドライバーとしてはダイオード励起固体レーザーが開発されている。また燃料ペレットを連続的に投入しそれにレーザーを照射する技術が開発されている。
2.原型炉開発において共通性の高い課題
(a) 固体壁炉では構造体の中性子に対する耐久性が課題である。液体壁炉ではこの問題が大幅に低減されるが、構造材と冷媒の共存性が課題となる可能性がある。
(b) プラズマからのパルス熱負荷に対する第一壁の応答を調べることが課題である。液体壁炉では液面のアブレーションの特性、固体壁炉では炉壁の耐久性を調べることが課題である。
(c) レーザー炉においても、原型炉用の炉心の設計はシミュレーションに基づき行われる。高エネルギー密度状態にある物質の特性、非局所エネルギー輸送、多価イオン、高原子番号プラズマの原子過程等は、磁場閉じ込め型原型炉におけるプラズマ-壁相互作用の物理と共通である。左記の共通物理の理解を高めるとともに、相対論電子に関する物理モデルを構築することが、炉心設計コードの高精度化への課題である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 炉本体やブランケットの開発については、磁場核融合の炉工学研究と連携を深め、効率よく研究を推進し反映する必要がある。
(b) レーザー生成プラズマ等を用いた第一壁の高い熱負荷の状態を模擬した実験と、それを再現するシミュレーションを中心とした研究が必要である。同時に、シミュレーションコード間のデータ転送技術の向上、容量の増大、計算の高速化等を実施する必要がある。
(c) 高エネルギー密度状態や高原子番号プラズマが関与する原子過程といった素過程の物理を、分野を越えた協力により理解することが、磁場閉じ込め方式同様、シミュレーション結果の確度を増す上で重要である。
1.現状
ITERのTFコイル構造材料としては、最大600 MPaになる膜応力に対し、0.2%耐力(降伏応力)が1,000 MPaと十分な尤度を持った高Mn系完全オーステナイト系ステンレス鋼(JJ1)が原子力機構によって開発され、採用されるに至った。
ITER用線材としてはNb3Snが用いられる。ITER-TFコイル設計値では、最大経験磁場11.8 T、定格電流値68 kAである。ITER用導体のSULTAN装置での導体試験では繰り返し励磁による臨界電流密度(Jc)低下が観測されており、銅比、撚りピッチ、ボイド率の変更、素線Jcの向上などの対策がなされた。
原型炉用線材としては改良型Nb3Sn, 急熱急冷Nb3Al, ReBCOテープ線材、B23212丸線が候補として挙げられている。
原型炉用導体には、13-16 Tの最大経験磁場と100 kA程度の電流値が想定されており、ITER-TFに比べ、導体電磁力も1.6-2.0倍に増大し、Jcの低下も指摘されているため、ITER用のNb3Sn線材では対応困難とみなされている。
CIC(Cable in Conduit)導体は、核融合装置用に開発された、大電流導体に適した撚り線構造である。導体の種類として、丸線の場合はこのCIC導体か成形撚線、テープ線の場合は積層導体やRoebel導体が現時点での候補となっているが、いずれも新規開発のものになる可能性もある。
日本が開発を先導してきたNb3Alは、耐ひずみ特性に優れており、高応力下での用途に適していることが期待される。原型炉では高いJcを必要とすることから急熱急冷法により製造されるNb3Alへの期待が高い。原子力機構と独立行政法人物質・材料研究機構(以下、「物材機構」という)の共同研究で、急熱急冷Nb3Al縮小CIC導体のコイルが試作され、15 Tの外部磁場中で、素線性能から予測される臨界電流を達成し十分に高い冷却安定性を実証した。今後、実規模導体の開発、R&Dコイルの性能実証、大量生産能力の確立が必要である。導体化や巻線にはITERの技術を適用可能である。
高温超伝導(HTS)線材は、高磁場での高Jc機械強度、冷却安定性などにおいて潜在的性能が高い。機械的特性に優れたReBCO線材が入手可能となり、大電流導体の開発研究が本格化している。
HTS大電流導体として、Bi-2223テープ線材は、ITER用(70 kA)を始めとして電流リードに広く採用され、Bi-2212丸線は、12 T-10 kAのCIC導体、10 kA成形撚線が開発済みだが、機械強度が低いことが課題であることから、ReBCO線材の技術進展に伴い、研究が停滞している。ReBCO線材については、ようやく長尺線材の入手が容易となり、大電流導体の開発が本格化している。
2.課題
(a) マグネットの高磁場・大型化には、構造材の厚さと強度の増大、及び導体や絶縁材の高強度化が必要である。ITERのTFコイル重量の90%は構造材が占めており、さらに大型化が予想される原型炉においては、低コスト化のためにも高強度材の開発が必要である。
(b) 線材のJcの向上と機械強度の向上、コイルとしての高強度化が導体の種類を問わず課題として挙げられる。CIC導体構造は、交流損失が少ない、濡れ面積が広いため冷却安定性が高い、高強度コンジットに収納されており機械強度が高いなどの利点を有するが、コンジットとの熱収縮差に起因する残留ひずみによるJc低下、及び、素線同士の交差部の局所的な曲げ応力によるJc低下を抑制することが課題である。
(c) Nb3Sn線材については、ITERマグネットの開発と実機製造を通して大きな進展があったが、電磁力による素線Jc低下を克服するため、CIC導体構造の改良または新型導体の開発が必要である。現存の改良型Nb3Sn、新型Nb3Snと言われる製法・構造では冷却安定性・交流損失、コイル冷却構造の研究も必要となる。
(d) Nb3Al線材(CIC導体)は、縮小導体の実証までの段階であり、線材の長尺化と低コスト化、及び、導体の大電流化が重要課題である。
(e) ReBCO線材では、線材の長尺化、低コスト化、Agの低減、及び、導体の大電流化・撚線構造、機械的補強、冷却方式、クエンチ保護、交流損失低減、さらに、コイルの冷却構造と巻線・接続技術などが課題として挙げられる。
(f) 既存の大型試験装置は12-13Tが上限なので,原型炉の要求を満たすことができない。また、電磁力による性能低下を正しく評価する導体試験法の確立が重要課題である。
(g) 新超伝導材料の開発及び実用化に向けて評価、量産するための研究が重要である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) JJ1の開発経緯に倣い、原子力機構等の研究機関が策定した目標性能に向け、大学関係者、産業界等によるオールジャパン体制によって数多くの候補材からの材料選定を効率的に実施することが必要である。
(b) 導体開発においては、Nb3Sn導体の機械特性の向上と高性能Nb3Al導体の開発を競合させながら強力に進めるとともに、長期的な視点で高温超伝導線材を開発することが肝要である。原型炉における要求性能の観点から、ITER建設で開発された技術を評価し、さらに発展させる部分や新たな取組みが必要な部分について、人材育成の観点にも考慮した具体的な開発計画を速やかに策定し、着実に実施していく必要がある。
(c) Nb3Sn導体が用いられるITERのTFコイル導体の製造に8社(日本から2社)が参加しており、また、加速器用マグネットも含め、世界の主要な研究機関や大学が高性能化研究を精力的に推進している。導体の更なる高磁場化・高Jc化のため開発計画を速やかに具体化し、大学、研究機関、産業界の適切な役割分担のもと、国際的な協力も活用して推進する必要がある。
(d) 急熱急冷Nb3Alは物材機構の独自技術である。CIC導体は原子力機構との共同研究、加速器用マグネットは大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構との共同研究によって発展している。導体化とコイル化にはITERの技術を利用できる利点がある。原子力機構と物材機構の協力により大電流導体の開発、R&Dコイルによる性能実証を行い、原型炉導体への適用可能性を確認する必要がある。産業界における工業的な製造能力を獲得するための開発計画が必要である。
(e) ReBCO導体には10社程度(日本から6社)が性能向上、長尺化、低コスト化を競い合っている。モーターなどの電力機器に加え、強磁場マグネットの研究が進行中である。一方、大電流導体は核融合特有のものであるため、核融合研究の中での開発計画の位置づけと具体的な研究計画の策定が必要である。
(f) 現状の大型導体試験装置は12T(CSインサートは13T)が最大のため、15T級の大型設備が求められ、核融合研や原子力機構の既存設備の増強と整備が必要である。また、電磁力影響を評価する導体試験法の確立も重要である。
(g) 新超伝導材料の開発、量産及び実用化に向けてその性能評価を適切に行うため、超伝導体内部におけるミクロな電磁現象やマクロな電磁的性質の理論、シミュレーション及び方法論を成熟させておく必要がある。このことは分野を問わず重要な知見であるので、他分野で発展した技術を核融合分野に応用するとともに、逆に核融合研究で進展した成果を、医療や電力貯蔵等の核融合分野以外へ展開させることができるよう、産学官の相互交流を円滑にする体制作りが必要である。
1.現状
1)固体増殖ブランケット開発
原型炉ブランケットを模した試験モジュールをITERに装着して実際の核融合環境下での試験を行うテストブランケットモジュール(TBM)計画においては、筐体として低放射化フェライト鋼F82H、トリチウム増殖材としてLi2TiO3、中性子増倍材としてBeを用いた水冷却方式を主案とする提案が我が国からなされている。本格的なTBM設計•解析に着手し、予備安全解析書を提出済みである。
実規模TBMの筐体モックアップ部材の製作技術を確立し、各種筐体試験に着手している。また、消費されるLiを予め想定添加した増殖材、高温安定性に優れた増倍材製造に着手している。
2) 液体ブランケット開発
液体金属であるLi、PbLi、及び溶融塩であるFLiBe、FLiNaK等の自己冷却あるいはHe冷却を併用した方式において、連続トリチウム回収等の設計提案及び種々の要素研究が進展している。
核融合研、大学と研究機関等との間の共同研究の発展形としての日米協力プロジェクトが実施された後は再び国内研究にシフトした。今後の計画としては、ITERのTBMとして、運転後期に提案を行う可能性について検討されている。
腐食等に関する各種材料の共存性、電気絶縁被覆や水素透過抑制被覆、伝熱促進技術、水素回収技術、高温融体運転技術等が進展している。
2.課題
(a) 構造材料、トリチウム増殖材、中性子増倍材といった構成材料については、基礎データ、及び標準データの拡充が必要である。
(b) 強電磁力環境下での核融合ブランケットの構造健全性や、中性子照射環境下での放射線腐食効果、トリチウム挙動等を含む、実際の核融合環境下におけるブランケット特性の総合実証が必要である。
(c) トリチウム増殖及び回収については、原型炉全体のトリチウム増殖性能が、持続的な運転条件下で確保されることの実証、及びトリチウム透過漏えい防止の実証が必要である。
(d) 原型炉概念全体から見て整合のとれた遠隔保守概念、安全性確保概念、及び規格基準の構築が必要である。
(e) 液体増殖ブランケット、ヘリウム冷却固体増殖ブランケット等の先進ブランケット概念については、原型炉ブランケット開発と同様の課題の解決に加えて、固有の諸課題の解決が必要である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 原型炉ブランケット開発に向け、材料の規格基準の策定並びに安全及び保守シナリオの検討に必須な増殖・増倍材料及び構造材料の標準データ(加重影響、照射影響、腐食影響、等)を得ることが必要である。
具体的には、大強度中性子源による、核融合炉内機器の核・熱・構造・トリチウム等に関する総合的な特性評価を行い、体積発熱 (数W/cc)、重照射下におけるHe効果、トリチウム生産量評価(TBR検証と計量管理)の高度化など、原型炉核工学データベースを構築する。これらは、高温運転・長寿命化を目指した核融合中性子照射下の挙動評価の基礎となるデータである。
(b) ITER-TBM計画を通して、ITERのパルス運転を利用し、強磁場環境との整合性、及び変動負荷・環境への応答健全性等の実証を行う。中性子照射下でプラズマから第一壁への熱負荷を受ける核融合の環境下で、交換期間を通じた構造健全性を実証する。
第一壁厚さに関する冷却、トリチウム増殖比(TBR)及び構造安全性の観点から、最適設計とその実証を行うことが必要である。
ITER-TBM 計画実施のためには、固体増殖・水冷却方式のITER-TBMの開発・製作を具体化し、 (i) TBMの構造健全性データ確認試験、(ii)プロトタイプ性能試験、(iii)TBMの安全性確証試験、(iv)TBM補機システムの開発、(v)実機受け入れ試験、(vi) 漏水時のBe-水反応などの異常事象を想定した影響試験、といったITERの安全審査に必要な性能評価試験により、性能が要求水準を満たすことを確認する必要がある。
ITER-TBM計画の推進には、当初から我が国発の世界標準の確立を視野に入れた大学・研究機関・産業界の連携が不可欠である。このような先進的な開発戦略を可能とする体制を実現するため、早期より各大学、研究機関の学術研究基盤を強化し、特長を生かした研究設備を活用、増強することによって、国内の若手人材育成を強力に推進することが望まれる。
中性子照射環境下における核変換が競合する効果については、腐食などへの影響が大きく安全上重要であるが、ITER-TBM計画においては中性子照射フルエンスの不足などの要因で十分な実証試験が行えないことが考えられ、別途、重照射環境下における実証試験が必要である。
(c) 同じくITER-TBM計画を通して、TBM補機システムである冷却システム、トリチウム計測システム、トリチウム回収システムの開発により、原型炉全体のトリチウム増殖性能の、持続的な運転条件下での確保、環境安全及びトリチウム量の確保に不可欠な透過漏洩防止の実証を行う。同時に、トカマク環境下での技術統合と総合的機能確証を目指すとともに、小規模でも発電機能の実証を目指す。
(d) 遠隔保守概念の構築としては、故障発生時の対処が可能なシステムの構築を行うとともに、ブランケット交換保守概念の根幹である、セクター規模の大型構造物の製作性、一括交換方式による着脱性とホットセルへの輸送性の検証、セル内での遠隔保守技術の開発と実証、総合的な保守時の安全性確保概念の検証を行う。
安全性確保概念の構築としては、安全性を確保し、事象の管理が可能なブランケットシステムの構築を行う。さらに、ITERで照射したTBMの受入、照射後試験、保管を行い、TBM試験のデータを完備すると共に、原型炉大型放射化構造物の解体処理技術(再利用・減容などの廃棄物低減と安全閉じ込め技術など)を高度化し、総合的なRI取扱技術を検証する。
規格基準の構築については、核融合炉固有の安全性を十分考慮したうえで合理的な規格基準となるよう努める。
さらに、遠隔保守概念、安全性確保概念及び規格基準が互いに整合をとれたものとすべく、冷却材漏えいに伴う加圧事象への対処方策、ブランケットユニット支持構造と保守交換との整合性確保等、必要な観点からの検討を行う。
上記(a)から(d)の研究開発の実施においては、既存施設の有効活用及び拡充が有用である。
(e) 液体増殖ブランケット概念については稼働率と遠隔保守において利点がある一方で、液体ブランケット固有の課題として、強磁場、トリチウム・熱の分離回収、成分調整管理、固液界面制御管理等が挙げられる。循環系では常に過渡状態であるため平衡論で記述できない。したがってこれら液体ブランケット固有の各課題について、単独あるいは複合した流動装置によるデータベースの構築及び運転実証研究、並びに各種事故事象の実験的及び解析的検討を実施する。これらに加え、筐体に対しては、固体増殖ブランケット開発同様、中性子照射環境によるHe効果、高速中性子損傷、及び放射線腐食効果の研究が必要である。さらに、液体ブランケットシステムの長所を充分に実現するための運転システムの構築が肝要である。
また、固体増殖(ヘリウム冷却)ブランケットについては、構造材料や他国の研究の進展を考慮しつつ、今後検討する必要がある。
1.現状
原型炉ダイバータ構造としては、ITERダイバータの技術的な延長となる固体壁水冷却ダイバータ構造を主案とした設計検討がなされている。また、プラズマ対向材料については、高融点・高熱伝導率が必要であり、タングステン(合金、複合材含む)と、炭素繊維複合材(CFC材)が候補材料である。
構造材については、中性子照射による脆化等により銅合金が使えないため、F82H等の低放射化フェライト鋼が候補材料となっている。
CFC材は、プラズマ照射時の損耗、トリチウム蓄積、中性子照射による材料特性の劣化や寸法変化が懸念される。一方、タングステン材については、炉心プラズマへ混入した場合の影響や、中性子照射による脆化や元素変換が懸念される。原型炉のダイバータについては、熱負荷制御の観点から、プラズマ制御法や装置設計について、シミュレーションを用いて設計が進行中である。原型炉ではITER標準運転と比較して、さらに大きな放射損失、広範囲の非接触状態運転が必要である。原型炉の熱設計において、タングステンとF82H鋼を組み合わせた場合、許容可能な最大熱負荷は10MW/m2以下となる見通しである。
2.課題
(a) 熱負荷制御、ヘリウム排気性能、及びコアプラズマから周辺プラズマまでを含んだ矛盾のないプラズマ立上げ・維持シナリオの策定が必要である。特に、ダイバータ設計の尤度を増すためには、ダイバータへの熱負荷を下げる必要があり、そのための対策として、ダイバータ磁場配位の工夫やデタッチメントの最適化が必要である。
(b) CFC材については、照射影響(特に寸法変化)が少ない材料の開発と、プラズマ照射損耗やトリチウム蓄積量制御法の開発が必要である。タングステンについては、原型炉重照射条件下での、中性子照射影響の理解と、それに基づく照射脆化の少ない材料開発が必要である。
(c) 原型炉では、ITERに比べて低熱伝導性の材料(タングステンとF82H鋼)を採用しつつ、ダイバータに定常的に入射する熱を除去する熱設計を成立させる必要がある。
(d) ダイバータ機器の損耗・脆化・保守と矛盾のない周辺プラズマ運転シナリオの策定が必要である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) デタッチメントによる熱流低減の基礎過程解明や、周辺プラズマモデル高度化のため、また、ダイバータ磁場配位の工夫の原理実証のために、実験室プラズマ実験が重要である。その際、プラズマの適切な診断方法を開発し、モデリングと比較することで、原型炉の周辺プラズマへの外挿の信頼度を高めることが肝要である。一方、熱負荷制御とヘリウム排気の実証、及び磁場構造の最適化を目指すには、磁場閉じ込め装置を利用した大規模な模擬実験が不可欠であり、LHD、JT-60SA、ITERでの実験研究が重要である。さらに、ダイバータ磁場配位の工夫に関しても、原型炉設計に採用するには大型装置で有効性を実証する必要がある。
(b) トリチウムプラズマを用い、材料へのトリチウム蓄積量やトリチウムダストの挙動を調べる基礎実験装置を有効利用する国際協力プログラムが始動しはじめており、米国および欧州の装置が参画している。同プログラムでは、プラズマ対向材料の中性子照射効果の研究も推進されることとなっている。しかしながら我が国は出遅れており、特に、トリチウムを含むプラズマ-壁相互作用について、材料・表面・周辺プラズマ・計測・モデリング・中性子効果の観点から総合的な知見を得るための研究環境整備及び体制作りが肝要である。
(c) 原型炉用ダイバータ冷却材として、1)水冷却、2)ガス冷却、3)液体金属冷却のオプションがある。現状ではITERダイバータの延長上にある水冷却方式の研究開発が主体であるが、冷却材の最終的な選定には、原型炉全体での経済性や安全性、並びにダイバータへの入射熱負荷に関する検討がなされた上での判断が必要である。その結果として、「1)水冷却」以外のオプションの選択が必要な場合には、ITERダイバータの技術的な延長を逸脱することになるため、速やかに基礎的・工学的な研究開発を実施する体制を構築する必要がある。
(d) 原型炉のダイバータプラズマ設計はシミュレーションが中心となる。したがって炉心プラズマからダイバータ機器までを含む統合コードの開発が必要である。
1.現状
原型炉における加熱機器の役割は、プラズマ点火、電流駆動、プラズマ燃焼制御であり、100MWを超える大電力機器の1年を超える連続運転、高効率運転ならびに高信頼性運転が、中性子照射環境下で求められている。
原型炉では、設計・運転シナリオに強く依存するが、中性粒子入射加熱装置(NBI)の仕様として、1-2MeVの入射エネルギー、100MW以上の入射電力が想定されている。電子サイクロトロン共鳴加熱装置(ECH)の仕様としては、170-220GHzの周波数可変ジャイロトロン、100MW程度の入射電力が想定されている。
現在、NBIでは1MeV-33MW-3600s、ECHでは170GHz-20MW-3600sのITER仕様の達成に向けた開発が進められている。
2.課題
(a) 原型炉における加熱・電流駆動機器に共通した課題として、電流駆動・制御のために信頼性の高い1年以上の連続運転が必要であることから、(1)長寿命連続運転(CW化)、(2)還流電力の低減のための60-70%の高システム効率、(3)中性子照射環境下での機器の寿命と信頼性の向上の三点が重要である。
(b) 個別課題としてNBIでは、長寿命でメンテナンスフリーなRF負イオン源の開発、1-2MeVの高エネルギービーム加速、1年以上の長寿命連続運転、光中性化セルの開発による高効率ビーム中性化、中性子照射環境下での機器の寿命と信頼性の向上等を行う必要がある。
(c) ECHでは、高周波数(170-220GHzのサブ・テラヘルツ帯)・周波数高速可変ジャイロトロンの開発、ジャイロトロンの1年以上の連続運転での高信頼性・長寿命化及び高効率化(70%以上)、ランチャーシステムの耐高中性子負荷・耐高熱負荷に向けたミラーレス導波管入射型ランチャーシステムの開発等を行う必要がある。
(d) NBIでは、入射ポートからイオン源及びビームライン機器が中性子に直接照射されるため、中性子照射環境下における運転性能の劣化について検討する必要がある。また、ECHランチャーも含めて、遠隔保守の方法の確立を行う必要がある。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 連続運転・高効率運転に伴う開発項目のハードルが高いため、NBIでは長寿命連続運転や光中性化方式の実証が、ECHでは長寿命連続運転が可能なジャイロトロンやミラーレス・ランチャーシステムの実証が、実機規模で実施できる試験設備が必要である。
ITER建設へ向けて開発される技術の多くは、原型炉の加熱・電流駆動機器へ外挿することができ、大学も含めた既存設備を活用したITER技術開発の実施を通じて、国内における工学的・技術的基盤を維持・確立することが可能である。
ITERに関わる技術課題が解決されるITER建設終了までには、原型炉開発課題に取り組むために、原子力機構、核融合研、大学等が共同してプロジェクトを立ち上げ、中核となる試験設備を建設して研究開発を実施するとともに、その活動を通じて若手の人材育成を図ることが必要である。
(b) NBIでは、RF負イオン源開発及び高エネルギービーム加速の課題はITER技術の延長線上にあるが、光中性化セルの開発は新たな技術開発が必要であり、国内の既存設備を活用・強化して、早急に要素技術開発を開始させる必要がある。
(c) ECHでは、ジャイロトロン開発及びランチャー・伝送系開発はITER技術の延長線上にあり、既存設備を活用した開発が既に開始されている。
(d) 中性子照射環境下における機器の性能劣化、寿命等については、ITERの運転で検証することになるが、小型の素子、材料等については、中性子照射材料試験等を活用する必要がある。
1.現状
原型炉概念の構築と設計作業に向けて理論・計算機シミュレーション研究が目指す炉設計統合コード開発には、実験データによって十分に検証された核燃焼プラズマ統合解析と、核融合炉構成要素を総合的に記述する炉工学統合解析が必要となる。核燃焼プラズマ統合解析に向けた車の両輪となるのは、第一原理的に大規模計算によって乱流現象、MHD現象、高速粒子のような非線形物理現象を解明しようとする多階層連結シミュレーションと、多様な現象を簡約化された物理モデルによって記述し、それらの相互作用を自己無撞着に取り扱うことによって炉心プラズマ全体を全放電時間にわたって記述しようとする多要素統合シミュレーションである。
核融合プラズマの閉じ込め性能を支配する乱流輸送現象や運転領域を制限する非線形MHD現象の多階層連結シミュレーションは、非常に高い空間時間解像度を必要とすることから、大規模な計算資源を必要とする。平成24年4月から通常運用を開始したBA-IFERC-CSC のHeliosや、平成24年10月に増強された核融合研のプラズマシミュレータは、これらの大規模シミュレーションに必要な計算資源を供給し、非線形物理現象の解明に大きく貢献している。また、一部の超大規模シミュレーションはさらに大型の京コンピュータを利用して研究が進められている。
核燃焼プラズマ統合解析に向けて、大学、核融合研、原子力機構等の研究協力として、核燃焼プラズマ統合コード構想(Burning Plasma Simulation Initiative: BPSI)が2002年から進められてきた。主な活動は、多要素統合シミュレーションである炉心プラズマ統合コードに向けたコード間連携の枠組み開発、階層連結型物理モデルの検討、新しい計算科学技術の導入であり、日米協力、日韓協力、国際トカマク物理活動(ITPA)等を通して国際協力も推進してきた。その活動の一環として炉心プラズマ統合コードTOPICS-IB(原子力機構)、TASK(京大)、TASK3D(核融合研、京大)の開発が行われており、それらの連携を図るための標準データインターフェース(BPSD)の開発やモジュールの相互利用の実践が進められている。
同様な活動として、欧州では欧州核融合開発協定(EFDA)のサポートの下、ITM-TF (Integrated Tokamak Modelling Task Force)が組織的な統合コード開発を進めており、コード連携のためのフレームワーク開発、既存の実験データに基づく物理モデル検証、ITERの予測シミュレーション等を行っている。また、計算科学分野との協力により、大規模シミュレーションコードの開発・整備を行うEUFORIA (EU Fusion for ITER Application)も成果を上げている。一方米国では大規模シミュレーション開発としてSciDAC (Scientific Discovery through Advanced Computing)が強力に推進されているが、統合シミュレーションコード開発を目指すFSP (Fusion Simulation Project)はまだ認められていない。ITER機構においては、ITERプラズマの予測・制御・解析に向けて統合モデリング解析コード群IMAS (Integrated Modelling Analysis Suite)の構築を目指しており、ITER参加極から提供されるコードを組み合わせるためのインフラストラクチャを中心に概念設計が進められている。
核融合炉構成要素を記述する炉工学シミュレーションとして、中性子解析、熱流動解析、トリチウム輸送解析、電磁力解析が進められており、それらを統合したブランケット統合解析が検討されている。また、第一壁やダイバータ、構造材等に最適な炉材料、及び先進的超伝導材料の開発を目指して、ミクロからマクロにわたる多階層炉材料シミュレーションも進められている。
現在の炉設計研究においては、計算の高速化を図るため、空間分布を仮定し、少数のパラメータで記述される簡単な炉心プラズマモデルが用いられており、より現実的な、自己無撞着なプラズマ空間分布を求めるシステムコードの開発が進められている。
2.課題
(a) 炉心プラズマ中の多くの物理過程が複雑に相互作用することによりプラズマの性能を規定し、運転が制約されているため、輸送障壁、密度限界、圧力限界等の物理機構を解明する必要がある。
(b) ITER計画を始めとした国際協力において、日本が主導権をとって研究開発を進めていくために、国際競争力があり、信頼性の高い炉心プラズマ統合コードの開発と実験による予測能力の精密な検証が必要である。
(c) より精度の高い炉設計を実現するために、炉心プラズマ中の様々な物理量の空間分布を取り入れるとともに、輸送現象・不安定性による時間発展も取り入れた炉設計システムコード開発が必要である。
(d) 従来の炉工学要素毎のシミュレーションを連携させ、ブランケット統合解析や炉材料解析を含む炉工学統合コードの開発が必要である。
(e) 原型炉の計測・制御システム設計に利用するため、(b)~(d)等を統合した炉システム統合シミュレータの開発が必要である。
(f) これらを実現するためには、大規模な計算資源が利用可能な環境を確保することが必須であるとともに、国内の多くの研究者の有機的な連携と原型炉開発を担う若手人材の育成が必要である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 輸送障壁、密度限界、圧力限界等の現象は、多くの物理過程が複雑に相互作用をしつつ関与しており、その解明には実験研究と大規模シミュレーション研究、統合モデリング研究の密接な連携が必要である。国際トカマク物理活動(ITPA)等を通して国際共同研究を進めると共に、重要な物理課題に対して研究資源を集中するタスクフォース的な研究の進め方を検討する必要がある。
(b) ITER標準と互換性のある統合コードインフラストラクチュアを確立し、国内の炉心プラズマモデリングコードの相互連携の実現を目指すとともに、各コードの物理モデルの妥当性を既存の実験データとの比較や大規模シミュレーションデータとの比較によって検証することが必要である。また、ITERにおいてより優れた実験提案を行うためには、IMASに含まれる基本的なコンポーネントに比べてより先進的なコンポーネントを独自開発し、国内統合コードの国際競争力を高める必要がある。そのため、炉心プラズマ統合コードの主要コンポーネントである平衡、輸送、安定性、加熱、周辺等それぞれについて継続的な研究グループが形成され、系統的なコード開発を行うことが必要である。
(c) 定常状態だけではなく時間発展を含めた炉心プラズマシミュレーションにより、より現実的であり、かつ運転シナリオの最適化を含めた炉設計作業が可能になる。炉心プラズマ統合コードグループと炉設計コードグループの密接な連携が必要である。
(d) 個々の炉工学要素シミュレーションを連携させ、ブランケット統合コードにまとめていくとともに、核融合炉材料に特化した炉材料シミュレーションコードの開発を含め、継続的な炉工学統合コード研究が必要である。
(e) 炉心プラズマ統合コード研究、炉工学統合コード研究、炉設計コード研究が、最終的に炉システム統合シミュレータ開発にまとまっていくことが期待される。
(f) 多くの研究者が連携して研究を進め、大規模な計算資源を有効に利用することが必要となる。BA-IFERC-CSC 終了後もオールジャパンで ITER の解析、物理モデルの検証、原型炉の設計に関連するシミュレーション研究を推進するためには、大規模高性能計算機システムを運用し、必要な計算コードの開発、高性能化、利便性向上を図るための研究を行うとともに、原型炉の工学設計組織とも連携して人材育成を図る核融合原型炉シミュレーションセンターの設置が必要である。その一方で、新しい着想を発展させ、若手人材を育成する大学での研究を一定水準確保することも重要である。
1.現状
ITERに関しては、燃焼プラズマ(エネルギー増倍率Q=10)の長時間維持の実現とQ=5の定常維持達成を主目的として、2020年のファーストプラズマ及び2027年のDT燃焼実験に向けて機器製作及びサイト整備が進んでいる。
JT-60SAに関しては、臨界条件級プラズマの長時間維持でITERを支援すること、及びITERでは実現困難な高ベータ定常プラズマの実現と長時間維持で原型炉開発に貢献することを主目的として、2019年3月のファーストプラズマ実現に向けて、日欧の機器製作が順調に進展し、H25年1月から本体の組み立てが開始されている。また、JT-60SAの共同研究計画を日欧共著者 332名(11カ国38研究機関)でH23年12月に取り纏めた。欧州は装置寿命に亘る参加を希望し、JT−60SAの共同利用の枠組みに関する日欧協議が進行中である。
LHDは、定常・安定性に優れたヘリカル方式により、核融合炉を見通せる高温高密度プラズマの学理を体系的に獲得し、定常核融合炉実現に必要な物理的・工学的課題を解明することを目的としている。高い信頼性を持った超伝導コイルシステムを用いて、実験開始以来15年間で11万回以上のプラズマ放電を、国内外から600名以上の研究者が参加する共同研究の機会に供してきている。この間、プラズマ性能を着実に進展させ、8千万度のイオン温度、5.1%のベータ値、500kW-54分の定常運転を達成してきている。
2.課題
(a) トカマク原型炉のプラズマ設計の高度化が必要である。原型炉プラズマの設計は、燃焼プラズマ(ITER)と高ベータ高自発電流割合プラズマ(JT-60SA)、及び両者のプラズマの振る舞いを統合して理解して原型炉の予測を可能とするモデリングの三者の成果を有機的に複合してはじめて確定する。そこで、このような燃焼・高ベータ・高自発電流割合プラズマにおいてダイバータ熱流束の低減を含む高い総合的性能を達成し、ディスラプション回避・緩和を含む現実的(原型炉を炉として成立させ得る少数の制御機器・計測機器の選択)かつ信頼性のある制御手法と制御ロジックを確立することが肝要である。
(b) 将来の発電で必須となる定常運転を実現するため、ヘリカル方式のLHDとトカマク方式のJT-60SA双方を用いた定常運転プラズマの高性能化が必要である。具体的には、本質的に定常運転性能が備わっているヘリカル方式では、点火を見通すことのできるプラズマの高性能化がLHDにおける課題である。トカマク方式では、プラズマ定常維持のための高効率プラズマ電流駆動と高密度運転の両立が課題である。また、両方式共通の課題として、高性能高圧力プラズマと低第一壁熱負荷を両立し得る定常運転手法を、3次元的磁場構造制御や先進的な粒子制御等を用いて解決することが必要である。
(c) 原型炉は、炉心プラズマ技術及び炉工学技術が高度に複合したシステムである。その実現のための主要課題は、高熱流束ダイバータ試験、プラズマ材料相互作用試験、ブランケット・プラズマ整合試験、プラズマ制御機器試験等である。
(d) 国際的な炉心プラズマの研究開発の場で主導性を発揮する人材の育成が急務である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) ITER、JT-60SA、理論モデリングを複合した有機的な取組が必要である。その際、ITERとJT-60SAを両輪として高い効率性と日本の主導性を実現する総合的な研究計画が不可欠である。JT-60SAの研究計画では、ITER実施計画を効率的に進めるため、ITERの各運転期に必要なデータ・制御技術等の獲得を先行して行うこととし、また、JT-60SAでは、大学等からの知見や挑戦的提案を実験で試みる機動性を確保することによって、ITERや原型炉への応用までのリードタイムの短縮を図る。原型炉のダイバータ熱負荷低減のためにダイバータ部の磁場配位を大きく改良する必要が生じた場合の試験を可能とするためには、諸外国の中型トカマク装置との協力も重要である。
(b) LHDにおいて高性能粒子排気、加熱機器増強等を行い、重水素実験により、核融合を見通せる1億2千万度のプラズマを実現し、核融合条件に近い高性能定常プラズマの研究を推進する。そして、閉じ込め物理の質量依存性を明らかにして核燃焼実験を十分な確度で予測できるモデルを構築するなど、環状プラズマの学術的体系化をJT-60SAや各大学の装置と共同で推進し、ITER及び原型炉の課題解決へ貢献する。
(c) 多くはITERを用いて高中性子環境下で行うものであるが、新しい概念、構造、材料等をITERで試験する以前に、機動性の高いJT-60SAやLHDを用いて行うことが肝要である。特に、LHDは2019年まで日本における唯一の大型実験装置であることから、原型炉の本格的な概念設計活動に向けたLHDの役割は重要である。また、原型炉開発に向けてITERでは装置制約上困難な試験をこれらの装置を用いて実施することが重要である。
(d) ITERのためのITPA及びJT-60SA研究計画策定における核融合エネルギーフォーラムの活動や、LHDが推進している全国の大学等との共同研究・国際共同研究をさらに発展・連関させ、国内研究コミュニティがチームとして国際的な炉心プラズマ研究開発で主導性を発揮することが大切である。その際、我が国が国際共同事業に主導的に貢献するため、JT-60SAの実験体制(国内研究者200-300名、欧州等外国研究者200-250名が参加)がITERの実験体制の良い参照事例となるよう体制の構築を進めると同時に、ITERやJT-60SAの実験に大学等の研究者の常駐/長期滞在を可能にする人事・運営制度が必要である。また、ITERやJT-60SAの実験を担う世代の研究者の人員不足が極めて深刻であるため、長期的視点での継続的な人材確保を行う必要がある。その観点からも、LHDや各大学の装置を活用した大学院教育を通じた人材の育成と供給は重要である。
1.現状
日米協力(TSTA)で開発した燃料循環技術をはじめ、トリチウム工学技術の多くの分野で我が国は世界最先端にある。トリチウム燃料循環系と安全系については、ITERの建設によって蓄積される技術を取得することができる。ブランケットトリチウム回収系については、TBMの技術開発の中に含まれている。動力炉ブランケット技術、トリチウム課題の一部はBA活動で研究されている。現在、安全管理技術、環境保全技術、計量管理に課題が残っている。
また、原型炉を含む動力炉の開発に向けてのトリチウム工学技術は十分ではない。例えば、大量・高濃度のトリチウムの取扱技術とトリチウム含有熱媒体を用いたエネルギー利用は重要課題である。
核融合施設でのトリチウム使用経験は、未だ乏しく、高温、高圧、大量の高濃度のトリチウム含有熱媒体の利用、熱交換器、蒸気発生器を含め、これら動力系の技術はITER計画でも、他の装置や産業技術でも未だ確立される見通しは立っていない。
初期装荷トリチウムは、現時点では入手の見込みが確実でないことから、種々の運転シナリオが提案・検討されている。
トリチウムをブランケットで製造するためにはリチウム6の確保が必要であるが、現状で同位体分離・濃縮プロセス自体は、有機イオン交換、無機イオン交換、電解透析など候補はあるが、グラムレベル以下の製造能力に留まっている。
2.課題
(a) ITERのTBM開発や、BA活動でカバーされないトリチウム工学の課題は、動力炉技術(大量・高濃度のトリチウム及びトリチウム含有熱媒体の取扱い技術)、計量管理、初期装荷トリチウムの確保である。さらに、これらを扱う大型技術の開発が課題である。
(b) 廃液処理、及び固体廃棄物からのトリチウム除去を行う大型技術を開発する必要がある。
(c) トリチウムの取扱いを含む安全課題はブランケット及びダイバータの研究開発課題と整合性のとれた形で解決を計画的に図る必要がある。
(d) リチウム6について100トンレベル製造能力の確証が原型炉の実現に向けて必須である。ロジスティックスの確保の観点から、国産化が必要である。このためのリチウムの分離回収技術は、プロセス選択とプラントを見通せるスケールアップのための技術開発が必要である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) トリチウム技術開発にはITER計画やBA活動以外に新たな大型施設が必要である。ただし、ブランケットやダイバータのDT環境試験施設があれば計量管理技術開発装置なども併設することが可能である。初期装荷トリチウムについては製造プロセスを検討する必要がある。
(b) 廃棄物処理などの技術についてはITER計画で獲得される技術では不十分であり、大型技術を開発し、運転を検証するまでの体制構築が必要である。
(c) トリチウム回収系の技術については、ITERやJT-60SA等の実験を通じて、高精度の計量管理を含めた技術開発を進める必要がある。
(d) リチウム6については、製造プロセスを選定し、スケールアップに向けた研究開発に至急着手する必要がある。大規模な資源量を扱う電池用リチウム資源確保戦略に付随して同位体分離プロセスを組み込むような計画の策定が重要となる。
1.現状
第一候補材の炉材料とみなされている低放射化フェライト鋼の研究開発については、原子力機構が中核となり、世界で最も豊富なデータベースを有するF82Hの開発を日米協力照射研究及びBA活動を軸として進めている。大学はBA活動の中の共同研究等を介して広範な基礎工学研究において貢献している。
先進材料(バナジウム合金、SiC/SiC複合材など)は大学が中心となって照射損傷基礎過程から製造技術まで幅広い研究開発を進めている。特に近年には製造技術、部材製作技術における飛躍的進展がみられた。これらの研究は、核融合炉の一層の高度化、第一候補材へのバックアップという観点から今後も必要である。
ITER建設が開始され、原型炉建設が具体的目標となりつつある。これにあわせて材料開発は、素材開発段階から、設計に対応した構造材料開発段階(材料規格化を目指した開発)に移行しつつある。
21世紀中葉にエネルギー源としての見通しを得るためには、2030年代からの原型炉建設開始が必要であり、2020年代初頭からの原型炉の工学設計活動開始がそのための要件となるが、一方で、核融合実環境照射データ取得の要として期待される国際核融合中性子照射施設(IFMIF)は工学設計・工学実証段階にあり、実稼働は最速でも2020年代後半と見込まれている状況にある。
2.課題
(a) 材料規格を定めるためには、材料特性評価と劣化機構の理解に加えて、材料への要求仕様を定義する基となる核融合炉における安全性確保の基本方針と、それに対応した構造設計基準が必要である。
(b) 初期の原型炉工学設計活動に必要な核融合中性子照射データを獲得するため、IFMIFの早期実現だけに頼るのではない、代替案や複合的な取組案を検討し、取り組む必要がある。
(c) 照射データ取得の前提となっている微小試験法について、規格基準の確立が必要である。
(d) 材料開発には長いタイムスパンが必要であるが、実際の使用に着実に結びつけるためには、産業界の長期にわたる積極的参画が不可欠である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 核融合炉の安全性確保の基本方針と構造設計基準の策定、及び材料に対する設計要求の明確化は核融合材料開発全体のボトルネックである。ただし現有の原子炉技術を参照することができないので日本として世界に先んじて独自に取り組む必要がある。その際には、ITER誘致活動時に国内で議論が進められたITER安全基準をベースとすべきである。BA活動において欧州との議論が進められており、この活動をオールジャパンとしての体制で取り組む事が基本と考えられる。ただしアメリカ機械工学会(ASME)との連携の可能性も考慮すべきであろう。
一方、材料開発は、非常に長いタイムスパンを要するものであり、上記活動の結論を待つことなく、材料に対する設計要求を現状での設計検討に基づいて定義し、重要度に応じて対応を進めるべきである。安全性確保方針、規格基準及び設計の進展に対しては、設計要求変更を精査して随時修正を図りつつ開発を進めるべきである。
(b) 2020年代初頭から原型炉の工学設計活動を本格的に開始するためには、それまでに取得可能と見込める照射データに基づく設計活動が定義される必要がある。これまでの知見では、たとえば低放射化フェライト鋼では、核融合中性子特有の照射効果はある程度の核変換生成He量(500~700appm)を超えた条件(発現臨界条件)で影響が出てくることが示唆されている。よって、初期工学設計は、発現臨界条件までの範囲で、核分裂炉・核破砕中性子源照射データ等に基づき実施することが可能と推測される。
この発現臨界条件策定に向けた研究活動は、模擬照射実験及びモデリング研究を基軸としてBA活動で進められており、大学の広範な基礎研究も寄与するものである。一方、この戦略は豊富な中性子照射データが取得されることが前提となっていることから、現在進められている国際協力による照射研究の一層の充実に加え、常陽を利用した国内重照射研究体制の整備が重要と考えられる。
IFMIFの早期実現は、工学設計用実環境照射データ取得の観点で強く望まれるものであるが、IFMIFの初期運転は発現臨界条件の実証としても重要である。IFMIFの開発についてはEVEDA活動がBA活動で実施されるため、主として日欧により検討されている状況である。IFMIF建設とそれに係わる諸活動を開始するためには、国際的な推進母体の在り方を明確にし、検討組織の強化を進める必要がある。既存体制としてIEAに国際的な組織が作られているが、日欧以外の活動が不活発化しており、今後連携を深める必要がある。
初期工学設計の範囲内においても、より核融合環境に近い照射データの早期取得が安全確保上、設計要求上必須と考える場合、IFMIFに先行する照射手段の確保が急務となる。至近では、BA活動で整備される加速器等をBA活動後に拡張利用して中性子照射施設を整備することがオプションとして考えられるが、その実現にはオールジャパンの検討組織の立ち上げが急務である。
(c) 現在取得が進んでいる中性子照射データ及びIFMIFによる材料照射データを設計用データとして整備するためには、微小試験法規格基準の確立が必要であり、これに向けての整備方針の確定を急ぐ必要がある。材料試験の規格基準を確立するための活動組織・体制の確立が急務である。学協会等での規格の審議を行うための検討をすぐに始める必要がある他、国際協力プログラムの充実を図る必要がある。
(d) 国によりエネルギー源としての開発方針が早い段階で示されることにより、産業界の積極的参画を促すことが望まれる。人材育成の観点においても、若手の核融合分野(核融合材料開発分野)への挑戦意欲を高める努力が期待される。
1.現状
原子炉と比較して核融合炉は、核暴走が無い点や、内包する放射性物質が少ないという特徴を有しているが、安全性評価は具体的なシステムを対象とするので、核融合炉の概念設計段階で、既存の原子炉で行われてきたようなプラントの設計を評価する形式での安全性評価は必ずしも容易ではない。
先駆的な研究として、核融合プラントの機器ではなく機能に着目して安全性の評価を試みたGEMSAFEが挙げられる。一方、具体的なプラントを対象とした安全研究としては、ITERに対する安全性評価と安全研究が挙げられる。特に我が国では、ITERの日本誘致に向けて、安全性に対する詳細な評価が実施された。またそのための安全研究として、安全評価のための計算機コード群の整備が進み、ICEをはじめとした検証と妥当性確認 (verification and validation;V&V)実験も実施された。一方、欧州では1990年代にSEAFP/SEAL(Safety and Environmental Assessment of Fusion Power / Safety and Environmental Assessment of Fusion Power - Long Term Programme)活動において核融合プラントに対する安全研究および安全性の評価が精力的に実施された。また2000年代の欧州の核融合炉設計PPCSでは、安全性を設計基準の一つとして取り上げ、中性子壁負荷を2MW/m2程度にまで下げ、すべての能動的冷却機能を失った場合にも、第一壁を含むすべての閉じ込め隔壁の崩壊熱による損傷を防止する設計が可能であることが示された。なお BA活動の一環として推進されているトカマク原型炉概念設計活動においても、核融合エネルギーの社会的受容性のより一層の向上を目指した安全性に関する研究が展開されている。
2.課題
福島原発事故以降の状況を踏まえた我が国の核融合炉の安全概念の確立が必要である。これには原子力分野の専門家や規制当局と連携した検討体制が重要である。なお核融合炉の安全確保の考え方は、現段階においては、原子炉等の既存の原子力施設の安全確保の方法論に準拠するものとみなされる。ただし、燃料であるトリチウムに関しては、
・微量だが検出可能な通常時放出があること、
・したがって能動的トリチウム放出管理が不可欠であること、
・一方で事故対応に必要な設備は通常運転対応目的の設備の範囲にあること、
など、違いが大きく、必ずしも既存の方法論に依存することになじまない。核融合炉を我が国に導入するには、このような点を考慮した上での安全ロジックが社会に理解され、受容されなければならない。
(a) 原子炉の安全性の基本である、「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」の視点から核融合プラントの工学的安全性に関する課題を整理してみる。
「止める」とは、連鎖的に起こる核反応を止めるということであるが、核融合炉は連鎖反応ではないので、原理的に核暴走は起こらず、連鎖反応を止める機能を必要としない。また、理由のいかんによらず、炉構造そのものまで破壊されるようなケースでも、燃料の再臨界が絶対に起きないことは核融合炉の特長である。ただし核融合炉でも過渡的な過出力は起こり得るので、核融合炉心プラズマに対する制御手法の確立と過渡的な過出力に対するダイバータや第一壁などの炉内機器への影響を精査する必要はある。
「冷やす」とは、熱除去機能の確保であり、核反応に起因する熱や、反応が停止した後でも発熱源となる放射性物質の崩壊熱を冷却することであり、核融合炉でも第一壁/ブランケット、ダイバータなどの炉内機器の放射化による崩壊熱の冷却は必要となる。従って、炉内機器の安全性評価のためには以下の項目が課題となる。
・ 炉内機器の崩壊熱を含めた内在するエネルギーと移動性放射能(ソースターム)の定量的な評価
・ LOCA(冷却材損失)やLOVA(炉内真空損失)などの各種事故シナリオに伴う核融合プラントの安全性評価
・ 核融合プラントの安全性を確保するための方策と設計へのフィードバック
・ 安全性を評価する計算機コードの開発とその妥当性を検証するV&V実験
「閉じ込める」とは、放射線の透過や移動性放射能の移動を制御し、作業環境や周辺への放出を防止するという事であり、核融合プラントが内包する主要な移動性の放射性核種はトリチウムと放射性ダストである。特にトリチウムに関しては以下の項目が重要である。
・ 炉心のみならずブランケットや燃料循環系など、プラント内に存在するトリチウム量の評価とその制御
・ 定常時および事故時の環境への放出量の評価と制御
・ トリチウムの環境動態と人体への影響評価
原子炉では異常時の閉じ込めの比重が大きいのに対し、核融合炉においては、異常時はもちろんであるが、通常時のトリチウム閉じ込めの重要性が高いこと、能動的なトリチウム制御装置の運転に依存していることにも注意が必要である。
(b) 核融合の特徴に合わせた安全工学、運転安全性の実証は当然必要であるが、核融合炉は、通常運転時においても微少であるが検出可能なトリチウムの放出があると考えられることから、環境トリチウム挙動と生態系影響の把握、安全管理、社会的受容性の確保が重要な課題となる。また、エネルギー経済とそれを踏まえた導入シナリオの検討においても、安全性、環境適合性との関連を考慮することが必要である。
(c) 安全設計研究は、現状ではBA活動の一環として国際核融合エネルギーセンターで実施されているものが中心であるが、日欧の社会事情も異なることから、異常事象とその対策などの安全に関する研究は、国内で我が国固有の条件に合わせて実施できる体制を構築することが必要である。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) 日本における核融合炉の安全研究は、BA活動の一環として、国際核融合エネルギーセンターのトカマク原型炉概念設計の一部として行われているものが主要なものとなっている。ここでは、原型炉で重要な事故シーケンスの解明、事故進展の防止・緩和のための安全設計手法の構築、原型炉の安全設計ガイドラインの確立をめざしている。ただし、詳細な設計がまだない段階での安全研究であるので、既存プラントの安全評価とは異なり、安全解析に基づき概念設計を修正していくフィードバック形式を取ることで、核融合の安全上の特長を生かした原型炉概念を構築することとしている。
事故シーケンスの解析には、内在エネルギー量と移動性放射能(ソースターム)を知ることが必要である。エネルギーに関しては、プラズマが持つ電磁エネルギーと熱エネルギー、超伝導コイル系のエネルギー、主要材料からの崩壊熱などは、概念設計があれば計算コードによって推定が可能である。ただし、日本が主案とするブランケットであるセラミックス増殖材を用いた水冷却方式においては、ブランケット内の化学的エネルギーの予測に関するデータが不十分であり、今後実験等によりデータを蓄積する必要がある。
ソースタームのうち、トリチウムのインベントリは、真空容器内、ブランケット表面と内部に存在するトリチウムを適切に管理できるだけのデータを揃える必要がある。また、放射化ダストについても、原型炉は第一壁表面の材料が、ITERとは異なるタングステンとなる可能性が高いので、ダストの発生量を予測できるデータも必要である。
一方、事故シーケンスの解析結果の評価には、安全要求基準が必要になる。核融合炉の安全基準に相当するものは日本にはない。欧州ではSEAFP、PPCSでの取組を通して提案された基準がある。欧州の考え方は参考にはなるが、日本において適用するには日本の風土や社会状況にあった新しい展開を考えることが望まれる。ただし、この分野の展開においては、トリチウムの環境挙動の研究者などが世界的に手薄になっていることが大きな障害となっている。長期的視点でこの分野の重要性を考慮し、人材を確保していく必要がある。
事故進展の防止・緩和のための安全設計手法の構築については、a) 設計内の想定事象、b) 設計基準外事象(Beyond Design Basis Events)、c) その発生原因や確率も問わない架空的重大事象(Bounding Sequence)のそれぞれの評価が必要である。a)については当然ながら安全に収束する設計がなされる。b)の設計外事象においては、その進展がcliff-edge(ある点を超えると突然事態が悪化する点)を持たないように設計することが重要である。c)については、原子炉で用いられてきた一定の制約のもとでの「仮想事故」よりはるかに確率が低いものや、技術的確率論では議論が困難なテロなど故意による破壊まで想定することが必要だろう。なおこれらの事象による放射性物質のハザードを同定し、その環境影響についても併せて評価し、事故進展の防止・緩和のための安全設計に反映させる必要がある。
原型炉の安全設計ガイドラインについては、放射性物質閉じ込めバリアの具体化、燃焼プラズマの出力制御の安全性からの変動制約の明示、閉じ込めバリアの健全性確保手法とその設計基準、崩壊熱除去システムの具体案とその設計基準、LOCA、電源喪失などへの対策、異常事象の防止策や緩和策の具体案とその設計基準などを含めることが必要である。加えて、以下の通常運用時のトリチウム制御に関するガイドラインも含むべきである。
(b) 核融合プラントは放射性物質をプラント内の多くの部分で循環するシステムであるので、プラントとしての運転の通常状態からの逸脱に対する考慮が安全上不可欠である。閉じ込めも、コンファインメント施設と回収除去機能の双方によって確保しているため、プラント制御の観点での安全設計が重要となる。
環境安全性に関する課題では、原子力や放射線生物、環境等多くの分野の研究者との連携が不可欠である。特に、地道な環境放射線影響の評価研究への幅広い支援が重要で、その成果に基づく放射線に対する社会の理解を長期間かけて醸成、構築することが求められる。トリチウムを取り扱うBA活動施設や他の核融合施設で運転実績を積むと同時に、施設の立地地域との信頼関係を築き、核融合エネルギーが受け入れられる社会的な下地を作ることが望まれる。このため、通常時放出が環境中で検出可能なこととその影響について、社会の理解を得るための研究体制の確立と長期の研究実績を積み重ねることが重要である。
(c) 環境安全性の基礎を支える研究者(トリチウムなどの環境挙動分野など)が、核融合分野からほとんど支援を受けていないなど、体制的にもかなり深刻な問題点があり、長期的展望に立って人材を育成する環境が必要である。また、ITERでのトリチウム取扱い経験を我が国に持ち帰る若手技術者、研究者の育成も必要である。
安全研究は原型炉の本格的な概念設計研究とは不可分であり、原型炉設計のコアとなるオールジャパン体制を構築することは、安全研究も含めた今後の核融合研究の展開においては非常に重要になる。
1.現状
ITERでは、損傷した炉内機器(ダイバータ、ブランケットなど)の定期的な交換を効率良く行うため、54台のカセット構造を有するダイバータ(12トン/台)については炉外(ホットセル)保守方式を、受熱・遮蔽機能を有するモジュール構造のブランケット(最大4.5トン/モジュール)については炉内保守方式を採用している。これらの炉内機器はITER運転期の稼働率を考慮し、ダイバータ54台の全交換期間として6ヶ月が、ブランケット・モジュール440個の全交換期間として2年が要求され、この要求を満足する保守技術の開発を進めるとともに、二つの保守方式に関わる遠隔保守機器の製作設計を最終化するための調達活動に着手している。加えて、遠隔保守の要素機器の開発では、ITERの耐放射線性の目標である積算5 MGy以上(空気吸収線量)を満たす動力系・視覚系の機器の開発・試験がほぼ完了している。加えてITER-EDA期間中に、当時のITERの設計における炉内環境を考慮して100 MGyを視野に入れたITER用のロボット関連部品(モーター、ケーブル、ファイバー、潤滑材など)の研究開発を進めてきた実績がある。
原型炉では、実用レベルの稼働率の実証及び更に高い炉内線量下での保守作業が求められることから、BA活動のトカマク原型炉概念設計では、ITERでの設計・開発の知見を活かしつつ、必ずしもITERの保守方式にはとらわれない、様々な保守方式の概念検討作業を実施中である。
ITERでは、所定の稼働率を確保するリスク管理の一つとしてRAMI解析が採用されているが、この手法は原型炉で実証すべき「一定の経済性」を議論する上でも重要である。これまでの核融合炉設計研究では、通常、核融合炉の設計仕様(磁場、ベータ値など)と絡めて経済性が議論されてきたが、RAMI解析や安全性も絡めた総合的な経済性の議論は不足していると言わざるをえない。
2.課題
(a) 「一定の経済性」との関連でみた経済性とRAMI、安全性などを含めた稼働率・保守性の全体像に関する理解が必要である。平成17年報告書の求める「一定の経済性」の具体的内容は、単なる稼働率の数値目標と見るべきでなく、保守方式の将来展望、信頼性確保のアプローチ(品質保証、冗長性、安全尤度の考え方)、検査性、計画外停止のリスクなどを考慮した総合的なものであるべきで、産業界を巻き込んで議論を深めることが望まれる。
(b) 稼働率を評価するためには、炉内機器の寿命予測、さらには寿命伸張へ向けた取組の方向性を提示できるだけの知見の蓄積が必要である。
(c) 保守方式、炉構造、建屋・ホットセルにわたる総合的な概念検討にもとづく保守概念の構築が必要である。
原型炉では、ブランケットまたはダイバータ全てを、定期的に、可能な限り短期間で交換することが求められるため、ITERとは異なる保守方式も想定しなければならない。ITERの数十倍という炉内線量率を考慮すると、耐放射線性機器の開発及びそれらの機器を組み込んでのシステム統合化が必要である。
ITERの保守機器の耐放射線性の目標が積算5 MGy(炉内で2年間の健全性確保)であるのに対し、原型炉の保守機器には積算線量 200 MGy程度(ホットセル内での2年間の健全性確保)が求められ、このための技術開発や(性能)確認試験が必要になる。
3.課題解決に向けて必要となる取組と体制
(a) RAMIは稼働率と関係が深く、ひいては経済性の見通しを得るための基幹指標の一つとなるので、原型炉システムの性能評価手法として確立を目指すことが重要である。このうち、信頼性や保守性に関係の深い設備・機器の故障率データベースの構築については、ITERやその他の国際協力を活用することも有効と考えられる。
(b) 個々の機器の寿命決定要因となる冷却管の減肉、構造材の照射劣化及び増殖材の燃焼については、今後の研究開発により見通しが得られると考えられるが、最も重大な寿命決定要因となりうる対向材の損耗は、材料、粒子束、照射エネルギー、中性子/イオン同時照射効果、温度など様々な因子に依存するため、現象の理解までに相当の時間を要するため、長期的視点に立ち、継続的に取り組むことが重要である。
(c) BA活動で実施するのは保守概念の設計検討であり、遠隔保守技術や耐放射線機器の開発、並びに炉内機器の寿命評価は含まれない。ITERの保守技術開発と連携しながら、BA活動後に、原型炉を目指した開発・試験を実施する必要がある。耐放射線性の確認試験のため、長期にわたって高ガンマ線照射設備を確保することの必要性にも留意するべきである。原型炉では炉外(ホットセル)保守を主体とした方式を検討する必要があると考えられるが、ここで必要となる大型構造物のハンドリングについてはITERで開発した保守・制御技術の活用が可能である。さらに、ITERで用いられる他の保守技術についても、その多くは原型炉に適用可能と考えられ、特に、ホットセル内で要求される保守技術であるトリチウムを含んだ放射化ダストの除染技術、損傷した炉内機器の補修技術、補修後の検査技術、交換で不要になった部品の廃棄物処理技術などは原型炉にも共通する技術であり、ITERでの経験蓄積の意義が大きい。
原型炉で要求される耐放射線性への対応については、ITER-EDA期間中の100 MGyを視野に入れた研究開発の実績を適切に活用することが重要である。
保守概念の確定に際し、成立性・製作性の検討も必要であり、産業界も主体の一つとして参加できる体制の構築や環境整備が不可欠となる。
本章では、核融合研究開発の現状認識(1章)と原型炉開発のための技術基盤構築の進め方(2章)を踏まえ、原型炉の本格的な概念設計活動を開始するまでの準備段階において取り組むべき具体的な研究開発課題について、課題解決に向けた取組の方向性や実施体制の在り方について検討を行った。検討に際しては、最も重要と考えられる原型炉概念の構築と設計作業並びに10の要素技術項目に整理すると共に、現在国際協力で進められているITER計画やBA活動に留意し、今後の両活動を円滑に進めるために、現在までに得られている国内の研究・技術開発成果から取り入れるべきものはないか、また、逆にITER計画やBA活動から得られる成果を、今後の原型炉の研究・技術開発に係わる国内活動にどのように効果的に活かしていくかという観点からも検討を行った。
原型炉設計では、前節で述べた炉心プラズマの研究、工学機器・システムの開発、核融合炉材料の開発において、所定の目標が達成されることを仮定して、BA活動を中心として、トカマク方式の概念設計活動が進められている。これらの活動は、これまでの知見の外挿・予測(フォアキャスト)に基づくものであり、研究開発の進展に伴い、それらの成果を適宜フィードバックして設計に反映することになる。一方、原型炉に求められるもの、原型炉のあるべき姿から見て、進められている研究開発計画を見直して(バックキャスト)、より合理的なものにしていくということも重要であり、今後、「一定の経済性」の要求や経済性要因と深層で繋がっている安全性等の議論も踏まえつつ、両方の視点から原型炉設計を捉えていくことが必要である。
ITER計画においては、我が国は超伝導TFコイルをはじめ、ITERの枢要なハイテク機器・システムの製作を担当している。また、BA活動の下で行われているSTP(JT−60SA)においても、トカマク中核機器の製作を欧州と分担している。これらの機器の製作を完遂すると共に、サイトでの据付・コミッショニング・運転に参加することにより、本章で議論を行った原型炉に必要とされる基幹技術が獲得されることが期待される。また、原型炉に向けた工学機器・システムの開発の多くは、これらの基幹技術の下に展開されるものであるが、本章で述べられている通り、様々な高度化が必要である。この高度化においては、実機を見込んだ工学試験に代表される開発研究と革新的な概念の創出や外挿性の高い体系的理解を確立するための学術研究の相乗的展開が必要である。
原型炉に向けて取り組むべき具体的な研究開発課題や課題解決の方向性は本章で述べた通りであるが、ITER計画及びBA活動等の現行プロジェクトで必ずしも十分でない要素技術開発、また原型炉に向けた技術のさらなる高度化については、これらと相補的な国内のあるいは国際協力による研究開発が求められることとなる。別紙1の表は、前節までの議論に基づき、要素技術10項目についてITER計画及びBA活動を含む現行プロジェクトで解決が図られる課題と高度化が必要とされる課題を整理したものである。ここで高度化が必要とされる課題については、重要度が高いと判断される代表例を示した。今後、これらの課題間の依存関係と個々の課題に関わる技術の成熟度の分析に基づいて、よりクリティカルな課題の解決を優先的に図っていくことが求められる。
ブランケット開発については、工学面でITERの利用計画の柱であるTBM計画に、我が国として主体的に参加することにより、その筐体や増殖・増倍材の製造技術が確立されると共に、核融合環境下においてブランケットの基本性能の実証を行うことが可能となる。
ダイバータ開発については、JT−60SAやLHDを中心として、炉心プラズマ研究と核融合工学研究の複合領域の試験・研究を行うことにより、ITERにおける試験・研究を支援・補完することが可能となる。これらの複合領域の研究を促進するためには、機関間の共同研究を促進する枠組みを活用または構築することによって、人事交流と設備の有効利用を図ることが重要である。
理論・計算機シミュレーション研究に関しては、原型炉の設計と制御手法の確立に必要な、燃焼プラズマ統合シミュレーションコードの開発を、ITER、JT−60SA、LHD等の実験データによる検証を行ないつつ推進し、炉工学統合コード及び炉設計統合コードと組み合わせることで、炉システム統合コードの確立を目指す。
炉心プラズマの研究に関しては、トカマク原型炉に向けて、ITER、JT−60SA、理論モデリング・シミュレーションを複合した有機的な取組が必要である。ITERでは、燃焼プラズマ(Q=10)の長時間維持の実現と定常維持の達成(Q=5)を主な目的とする。JT−60SAでは、これらのITERの実験・運転を計画通り実施する主導的立場を確保するため、ITERの各運転期に必要となるプラズマ制御技術等の獲得を先行して行うと共に、ITERでは実現困難な先進的高ベータ定常プラズマの実現と長時間維持を、ダイバータ熱負荷低減等も含めた高い総合性能の下で実現し、原型炉開発に貢献することを主な目的とする。ITERやJT−60SAの実験実施に当たっては、両者を有機的に連関させ推進する我が国の研究体制を構築することが重要である。LHDでは、定常性に特長を持つヘリカル方式により、核融合炉を見通せる高温高密度プラズマを目指すと共に、トカマクプラズマの理解と制御に有益な3次元構造を持つ環状プラズマの学理的体系化を推進し、ITER及び原型炉の課題解決に貢献することが期待される。
核融合炉材料開発に関しては、第一候補材料と先進候補材料が特定され、BA活動や日米協力を軸として、中性子照射影響の評価、製造技術の開発等の研究開発が進められており、素材開発段階から構造材料開発段階に移行しつつある状況である。原型炉の工学設計・許認可・建設・安全な運転のためには、IFMIFの建設・運転が不可欠であるが、それが見込まれるまでは、既存の原子炉等を最大限に活用すると共に、BA活動で整備されるIFMIF/EVEDA施設を拡充して利用することが有効と考えられる。また、この施設を、同じくBA活動で整備したIFERC工学試験施設群と連携させ、拡充することにより、本格的な原型炉ブランケットの開発に必要な総合的な特性評価試験やRI取扱技術開発に活用することが提案されている。これらBA活動で整備される施設の活用・拡充により、原型炉に向けて鍵となる材料開発と核工学機器開発(原型炉ブランケット、大量トリチウム取扱技術、遠隔保守を含むシステム統合技術等)に大きな進展が期待されることから、国際協力も視野に入れつつ、BA活動の終了後、可及的速やかにこれらの活動が展開される必要がある。
安全性に関しては、ITERの国内誘致に向けて、核融合とITERの安全上の特徴を分析し、ITER施設の安全確保の基本的な考え方、安全規制の在り方、安全設計と評価の方針及び技術基準等の体系を構築してきた。その一部は、フランスでのITER建設にも反映されている。原型炉に向けて、その安全性の枠組みを検討する上では、こうした知見を活用することが可能であり、その際には、原型炉とITERの安全上の相違を定量的に把握することが重要である。
稼働率と保守については、原型炉概念の構築と設計作業と相まって、ITER計画への参画、STPでは、サイトでの据付・コミッショニング・運転を主導することとなり、システムの信頼性・保守性等の統合技術に関する幅広い知見を蓄積することが重要である。
課題解決の取組として、既存の枠組みで整備された設備を十分に活用すべきであるとともに、今後整備される予定の設備の活用についても国内の産学官の研究者、技術者にとって利用しやすい枠組みの構築が必要である。
BA活動で整備されている設備は、原型炉開発に向けて優位な設備群であることから、我が国の研究者は大いに活用する必要がある。スーパーコンピュータなど高度な設備を、斬新な発想を持つ若手研究者が積極的に活用するよう促すべきである。また、現在建設中のJT-60SAの共同利用の枠組みについては、その利用の開始までに国際的なコミュニティの意見をもとに企画・構築をしていく必要がある。
学術研究の中核拠点として核融合研の担う責任は大きいので、双方向型共同研究のみならず、一般共同研究及びLHD計画共同研究の三つの共同研究を着実に展開し、個々の大学の自由で革新的な研究活動を支えつつも、それらを核融合研究の発展へと向けていくことが重要である。
我が国の核融合研究開発が世界トップレベルを維持し、原型炉開発のための確固たる技術基盤を構築するためには、核融合に関連する広範な学術・技術の重厚な知的ストックの効果的活用、諸分野の研究活動との有機的な連携を積極的に進めることが必要である。このためには、未開発の可能性にチャレンジする独創的研究や、成果を他分野へ転換する重層的な学際的研究を、原型炉開発に向けた取組と統合する、言い換えれば、課題解決を志向し、かつ開放性をもった新たな協働ネットワークを核融合コミュニティの中に形成していくことが求められる。
今後、このようなネットワークを形成し、機能させていくためには、多くの優れた人材を多様な分野から糾合する必要があることから、境界領域を一層幅広くし、他分野との連携や融合による機動的な人材確保を行うことが必要である。また、このネットワークは大型プロジェクトを中心として活動を展開するものであるが、そのようなプロジェクトに関わる研究者・技術者一人一人が大規模な公的投資に伴う責任を自覚し、投資効果を最大のものとするよう十分に連携をはかることが不可欠である。
製造技術を担う産業界がITER計画、BA活動、原型炉開発といった大型プロジェクトにおける各種の課題の解決に、積極的に参画することも重要である。それによって、自らの技術能力を向上し、人材を育成するとともに、これらのプロジェクトを通じて得られる研究成果を様々な産業利用に展開できるような仕組みを構築することが必要である。
現在国内で稼働中の大型設備がLHDのみという状況を踏まえ、ITER計画やBA活動の中で研究的性格が強い部分に若手研究者が長期的に参画できる共同研究、共同利用等の仕組みを構築するとともに、若手研究者が海外で武者修行できるよう国際共同研究を積極的に推進することが必要である。
将来の原型炉開発の中核を担う人材を育成するために、ITER計画・BA活動の経験者が学術界及び産業界に戻り、その経験を生かして活躍できるようなキャリアパスを確立するとともに、そのような専門人材の組織化が必要である。
核融合研究開発は、多額の公的資金を必要とし、長期的戦略に基づいて推進される必要があることから、幅広い国民からの理解と支持を得ることが必要不可欠である。そのためには、まず、核融合エネルギーの特徴や、ITER計画、BA活動をはじめとする研究活動の成果、核融合技術の到達度等に関する情報を、シンポジウムやインターネットなど様々な媒体を通じて積極的に発信することが求められる。その際、青少年、一般市民、報道機関など情報発信の対象ごとにそれぞれの関心事項を踏まえたきめ細かな対応が重要である。
また、核融合という用語はまだ社会一般に浸透・定着していると言える状況にはないが、近年プラズマという用語は一般の人々も次第に見聞きするようになってきていることから、今後国民の間における核融合研究への関心や理解を高めていくためにも、まずは核融合に関わるプラズマ等について正しい理解が得られるような取組も必要である。
さらに、核融合研究開発は、先端技術の集積によって成り立つ性格を有する。我が国の産業競争力を支える基幹的な技術としての波及効果が期待される要素技術としては、例えば、超伝導材料、高熱負荷材料、低放射化材料、イオンビーム・マイクロ波・レーザー技術が挙げられるが、こうした先端技術の産業展開についても、核融合研究開発が大きな経済的・社会的価値をもたらすものであることを示す事例となることから、積極的に推進することが重要である。
以上の議論を踏まえれば、原型炉開発のための技術基盤構築の中核となる存在として、3.2節で議論された多種多様な研究開発課題の相互依存性や優先度などの分析に基づき、統合的視座をもって原型炉開発の在り方を検討する機能の構築が重要と理解される。この機能については、原型炉の戦略的な設計作業を基軸として、3.2.5に示されている理論・計算機シミュレーション研究や、3.2.9に示されている安全研究などの原型炉概念設計推進のコアとなる機能との連動性が確保されるべきである。その検討は原型炉開発を国家プロジェクトとして本格的に実施するための戦略策定、組織的プラットフォームづくりの土台を与えるものであることから、核融合研究開発の在り方を産学官の関係者が議論する核融合エネルギーフォーラムやプラズマ・核融合学会などの場において、将来の原型炉開発を担う産学官の若手が重要な役割を担う形で、上記の機能が構築されることが期待される。
さらに、3章で述べたように、現在の工業技術基盤から到達可能と見込まれる製造技術の開発を原型炉概念設計と並行して検討し、その両者を合せて最も望ましい発展過程を見いだしていくことが重要であり、これには産業界からの寄与が必要であるとともに、物理研究においても製造技術の開発動向を理解してそれに合わせた方向に開発を進めなければならない。従って、上記の機能に産業界が積極的に参画することが非常に重要であり、産業界が原型炉建設に必要な製造技術を発展させ、それを担う人材を育成しながら参画できるよう、今後の原型炉開発は長期的展望の下に計画的に進められるべきである。
核融合研究開発に関わる大学、研究機関、産業界は、本報告書で示された課題を共有し、緊密な連携関係の下で課題解決に取り組むことが求められる。本作業部会は、この取組の進捗状況についてコミュニティから報告を受けるとともに、それを踏まえて技術的達成度と平成17年報告書に示された中間チェック&レビュー項目(案)の関係を評価し、原型炉段階への移行条件についての議論の深化を図りつつ、本報告書の見直しをしていくこととする。このような取組を通じて従来より進化したオールジャパン体制が構築されることを期待する。
要素技術項目 |
現行プロジェクトで獲得が期待される主な基幹技術 |
原型炉に向けて必要となる基幹技術の高度化(代表例) |
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超伝導コイル開発 |
・Nb3Snを使用した大電流CIC導体化技術 |
・Nb3Sn、又はNb3Al、高温超伝導線材を使用した導体の高磁界化、高強度化 |
ブランケット開発 |
・筐体や増殖・増倍材の製造技術 |
・大強度中性子源を用いた総合特性評価 ・総合的なRI取扱技術 |
ダイバータ開発 |
・高温高圧水による高熱流束除熱技術 |
・耐中性子照射性の高い材料への技術の拡張 |
加熱・電流駆動システム開発 (NBI) |
・大型イオン源技術 |
・CW化(長寿命連続運転対応) |
加熱・電流駆動システム開発 (ECH) |
・170Hz・1MW級のジャイロトロン技術 |
・サブ・テラヘルツ帯ジャイロトロンのCW化(長寿命連続運転対応) |
理論・計算機 シミュレーション研究 |
・燃焼プラズマ統合シミュレーションコード、炉工学統合コード及び炉設計統合コードの開発 |
・左記コードを組み合わせた炉システム統合コードの開発 |
炉心プラズマ研究 |
・燃焼プラズマ(Q=10)の長時間維持の実現 とQ=5の定常維持達成 |
・現行プロジェクトの目標を上回るプラズマ性能の向上とプラズマ制御性の改良を目指した研究開発 |
核融合燃料システム開発 と規格・基準策定 |
・燃料循環技術 |
・大量・高濃度トリチウムの取扱技術 |
核融合材料開発 と規格・基準策定 |
・第一候補材料の大量製鋼技術の確立と 構造設計基準の基盤構築 |
・核融合中性子模擬照射施設の建設・運転・利用(究極にはIFMIFの建設・運転・利用) |
核融合炉の安全性 と安全研究 |
・核燃焼実験炉の安全性、環境適合性及び社会的受容性の実証 |
・原型炉の安全性・環境適合性・社会的受容性 |
稼働率と保守性 |
・ロボットによる遠隔保守技術 |
・設計選択に対応する大型機器の遠隔保守技術 |
科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会
原子力科学技術委員会における作業部会について
平成23年5月23日
(平成24年10月10日改正)
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
原子力科学技術委員会決定
科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会運営規則第2条第1項に基づき、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会に以下の作業部会を設置する。
名称 |
調査検討事項 |
---|---|
研究施設等廃棄物作業部会 |
原子力の研究開発や放射線利用に伴って発生する低レベル放射性廃棄物(研究施設等廃棄物)に関して、処分事業を進める際の重要事項について調査検討する。 |
核融合研究作業部会 |
ITER計画の本格化や幅広いアプローチの始動等、核融合研究が新たなフェーズに入ったことを踏まえ、今後の我が国における核融合研究に関する新たな展開について調査検討する。 |
核不拡散・核セキュリティ作業部会 |
核不拡散・核セキュリティの強化に必要な研究開発課題、人材育成手法、我が国の保障措置の信頼性向上、効率化のための方策、国際原子力機関(IAEA)に対する技術支援の課題等について調査検討する。 |
もんじゅ研究計画作業部会 |
「革新的エネルギー・環境戦略」を踏まえ、高速増殖炉開発の成果のとりまとめ、廃棄物の減容及び有害度の低減等を目指し、国際的な協力の下での研究も含めた「もんじゅ」などによる研究計画を策定するために必要な事項について調査検討する。 |
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会
原子力科学技術委員会 核融合研究作業部会名簿
(委員)
主査 小森 彰夫 自然科学研究機構核融合科学研究所長
疇地 宏 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター長
石塚 昶雄 社団法人日本原子力産業協会シニアアドバイザー
大島 まり 東京大学大学院情報学環教授
岡野 邦彦 財団法人電力中央研究所上席研究員
小川 雄一 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
尾崎 章 社団法人日本原子力産業協会ITER・BA対応検討会主査
金子 修 自然科学研究機構核融合科学研究副所長
笹尾眞實子 東北大学名誉教授
髙津 英幸 日本原子力研究開発機構特別研究員
東嶋 和子 サイエンス・ジャーナリスト
二宮 博正 日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門長 (平成24年3月まで)
平山 英夫 高エネルギー加速器研究機構名誉教授
堀池 寛 大阪大学大学院工学研究科教授
森 雅博 日本原子力研究開発機構核融合研究開発部門長 (平成24年5月から)
(科学官)
山田 弘司 自然科学研究機構核融合科学研究所教授
(学術調査官)
門 信一郎 東京大学大学院工学系研究科准教授
核融合研究作業部会(第6期)の審議経過
回 |
日時 |
議題 |
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第27回 |
平成23年9月14日(水曜日) |
1.核融合分野における研究開発の進捗状況について |
第28回 |
平成23年10月31日(月曜日) |
1.核融合分野における研究開発の進捗状況について |
第29回 |
平成24年1月16日(月曜日) |
1.核融合研究開発に関する推進方策の検討について |
第30回 |
平成24年5月31日(木曜日) |
1.今後の核融合研究開発の在り方について |
第31回 |
平成24年7月12日(木曜日) |
1.今後の核融合研究開発の在り方について |
第32回 |
平成24年7月31日(火曜日) |
1.今後の核融合研究開発の在り方について |
第33回 |
平成24年9月25日(火曜日) |
1.今後の核融合研究開発の在り方について |
第34回 |
平成24年11月14日(水曜日) |
1.今後の核融合研究開発の在り方について |
第35回 |
平成24年12月14日(金曜日) |
1.今後の核融合研究開発の在り方について |
第36回 |
平成25年1月28日(月曜日) |
1.今後の核融合研究開発の在り方について |
齊藤
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ファクシミリ番号:03-6734-4164