資料2-1 原子力科学技術の推進方策について〈中間とりまとめ(案)〉

平成23年9月14日
(平成23年9月26日改案)
原子力科学技術委員会

原子力科学技術の推進方策について <中間取りまとめ(案)>

目次
1.基本的考え方
(1)推進方策の目的・位置付け
(2)課題領域と検討の視点

2.原子力科学技術を支える施策
(1)原子力に関する基礎的・基盤的研究の推進
(2)原子力人材の育成
(3)原子力と社会との関係・コミュニケーションの深化

3.我が国の重要課題達成に向けた当面の重点的取組
<課題領域マル1「震災からの復興、再生の実現、」>
  ○放射性物質による汚染からの環境回復に関する技術開発
  ○ ロードマップへの対応
  ○原子力施設の廃止措置技術
<課題領域マル2「環境・エネルギー」(グリーン・イノベーション)>
    ○核融合研究開発
    ○高温ガス炉研究開発
<課題領域マル3「医療・健康・介護」(ライフ・イノベーション)>
   ○放射線被ばく医療研究
    ○放射線の医学的利用
<課題領域マル4「安全かつ豊かで質の高い国民生活」>
    ○原子力安全研究
    ○放射性廃棄物の処理・処分
<課題領域マル5「科学技術基盤」>
    ○量子ビームテクノロジー研究開発・利用促進
    ○原子力利用に係る技術基盤の維持・強化
<課題領域マル6「国際的取組」>
    ○事故後の海外諸国や国際機関との連携・協力
    ○保障措置、核不拡散、核セキュリティに関する研究開発

4.政策の方向性を踏まえながら検討を要する課題について
    ○高速増殖炉サイクル技術
    ○使用済燃料再処理技術
    ○高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術(P)

 

1.基本的考え方

(1)推進方策の目的・位置付け

 我が国の原子力の研究開発は、原子力基本法の定めるところに従い、また「原子力政策大綱(平成17年10月)」とともに、第3期科学技術基本計画の下で総合科学技術会議が策定した「エネルギー分野の分野別推進戦略」や、エネルギー政策基本法に基づく「エネルギー基本計画」等も踏まえながら、進められてきた。
 一方、本年8月に策定された「第4期科学技術基本計画(以下、「第4期基本計画」という。)」において、これまでの重点推進4分野及び推進4分野に基づく研究開発の重点化から、重要課題の達成に向けた施策の重点化へ方針を大きく変換されたことを踏まえ、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会の下に置かれた各委員会は、第4期基本計画で示された重要課題の達成に向けた研究開発等の推進方策について検討を行うことが求められている。
 このため、本推進方策は、第4期基本計画で示された重要課題のうち文部科学省における原子力科学技術と密接に関連するものに関して、その達成に向けた重点取組を課題領域ごとに提示するものである。

  しかしながら、本年3月11日に発生した東日本大震災、特に東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、原子力の研究開発を含む今後の原子力政策の在り方については、全体的なエネルギー政策の検討が進められる中で、政府で議論されることとなり、エネルギー・環境会議において「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた検討が進められるとともに、その議論を踏まえながら、原子力委員会においても「新原子力政策大綱」の策定に向けた検討が再開され、今後1年を目処に新大綱を取りまとめることとされている。このような状況を踏まえ、第4期基本計画においても、高速増殖炉サイクル等の原子力に関する技術の研究開発については、我が国のエネルギー政策や原子力政策の方向性を見据えつつ実施し、核融合の研究開発については、エネルギー政策や原子力政策と整合性を図りつつ、同時にその技術の特性、研究開発の段階、国際約束等を踏まえながら推進することとされている。
  一方、東京電力福島第一原子力発電所事故の早期収束とともに、放射性物質による環境汚染に対する不安の解消に向けて、今回の事故についての科学的な検証等とともに、緊急に解決すべき技術課題への取組の加速、強化が求められている。さらに、第4期基本計画においても、今回の事故を踏まえ、科学技術の現状と可能性、その潜在的なリスク等についての情報を迅速かつ十分に国民に提供していくことや、多層的かつ双方向のリスクコミュニケーション活動等の促進の必要性が指摘されている。

 このような事情を踏まえ、本推進方策では、東日本大震災からの復興・再生、そしてこれまで以上に「社会のための、社会の中の科学技術」という観点を踏まえつつ、第4期基本計画期間(平成23~27年度)のうち当面の間(1~2年程度)、重点的に取り組むべき課題と、政策の方向性を踏まえながら検討を要する課題に分けて、それぞれの対応方策を提示することとし、3年目以降の方策については、政策の方向性を踏まえながら、引き続き検討を進めることする。

(2)課題領域と検討の視点

  第4期基本計画で示された重要課題の達成に向けた研究開発等の推進方策の検討に当たり、「研究計画・評価分科会における審議事項について」(平成23年7月21日一部修正 研究計画・評価分科会決定)において、「環境・エネルギー」、「医療・健康・介護」、「安全かつ豊かで質の高い国民生活」、「科学技術基盤」の4つの課題領域が示されるとともに、また、第4期基本計画(平成23年8月19日閣議決定)では、東日本大震災を踏まえて、「震災からの復興、再生の実現」が主要な柱として位置づけられたところである。
 このため、本推進方策においても、東日本大震災、特に東京電力福島第一原子力発電所事故により、我が国が直面する国家的危機を克服して復旧・復興を成し遂げていくことが目下の最重要課題であるとの認識の下、原子力科学技術は、将来にわたる持続的な成長と社会の発展、また、安全にかつ安心な国民生活の実現を目指す中で、我が国の存立基盤である国家安全保障や基幹技術を成すものの一つであるとの考えに立ち、その役割と貢献について示していく必要がある。
 さらには、平成24年度原子力関係経費の見積りに関する基本方針(平成23年7月19日 原子力委員会決定)において、基本方針の一つとして「国際社会における責任ある行動の推進」等が挙げられており、東京電力福島第一原子力発電所事故に対応した適切な情報発信等の率先した貢献により、原子力安全に関する国際的な取組と協調を推進していくことが必要である。
  以上を踏まえ、原子力科学技術において、当面の間、重要と考えられる課題領域を
 マル1 震災からの復興・再生の実現
 マル2 環境・エネルギー(グリーン・イノベーション)
 マル3 医療・健康・介護(ライフ・イノベーション)
 マル4 安全かつ豊かで質の高い国民生活
 マル5 科学技術基盤
 マル6 国際的取組
に大別し、上記6つの課題領域において、重点的に取り組むべき研究開発課題と方策を次章以降に示す。なお、総合科学技術である原子力科学技術は、貢献し得る課題領域が多岐にかつ広範囲に及び、また、個々の取組施策は相互に関係するが、各施策は最も関係の強い課題領域にて分類することとする。 

また、各推進方策の検討にあたっては、以下の点に留意しつつ課題等を整理する。

  • 東京電力福島第一原子力発電所事故の収束・検証、被災地の復興支援に係るものについて、重点的に推進すべきもの。
  • エネルギー・原子力政策の方向性を踏まえて取り組むべきもの。
  • 原子力安全確保の観点から取り組むべきもの。
  • 国際競争力や技術基盤の維持等の観点から、継続しないと国益を損ねると考えられるもの。
  • 国際約束に基づくものや国際社会において責任をもって取り組むべきもの。
  • オールジャパンの一員として、府省間連携、産学官連携等により、一体となって文部科学省が取り組むべきもの。
  • 必要な人材の投入・確保と、活動拠点の形成・増強に向けて取り組むべきもの。
  • 課題解決のため学際研究・分野間連携に取り組むべきもの。
  • 社会・地域との共生に取り組むべきもの。 

2.原子力科学技術を支える施策

 原子力技術の利用、開発を進める上で、技術基盤の強化は大きな要素を有している。これは、先端研究のみならず、今般の原子力発電所事故のように、予測し難い事態の収束及び原因究明には、これまでに蓄積された科学的知見や技術ノウハウのみならず、新たな知見等も必要とされるからである。このため、サイエンスとしての基礎研究、基盤研究は重要な役割を果たしていくことになる。研究活動に付随して、原子力固有の研究施設の利用や、課題に対応可能な知識、技術力を備えた研究者・技術者は必要不可欠であり、これらを支える体制として、平成22年に発足した「原子力人材育成ネットワーク」をはじめとする様々な取組を更に強化する必要がある。
 また、確かな技術・ノウハウの伝承は現場における一体となっての取組からのみ得られるものであり、若手研究者・技術者の育成に対する取組は今後の原子力科学技術を進める上で大きな鍵を握っている。
 さらには、これらを推進していくに当たっては、研究者の育成に限らず、社会、国民との相互理解があって初めて成り立つものであり、ますます重要な役割を担っている。
 したがって、これらは最底辺となる土台を構築する、極めて大きな要の部分として、確実なる推進に取り組む必要のある施策について本章で示し、具体的な研究開発課題について次章で示すこととする。

1)原子力に関する基礎的・基盤的研究の推進

 原子力の基礎的・基盤的研究開発は、原子力利用に係る技術基盤及び基盤施設を高い水準に維持するとともに、新たな知見や技術を創出し、また、原子力を支える人材育成に資するなど、我が国における原子力の利用と安全を支えるものとして重要である。
 また、3月の東京電力福島第一原子力発電所の事故を受けて、

  • 安全研究との連携
  • 自然科学者と人文・社会科学者との連携
  • 課題解決のための学際研究や分野間連携
  • 社会への発信や対話に関する研究
  • 極めて高度かつ複雑な技術システムに事故あるいはトラブルが発生した場合の国としての対応や人々の生活の安全に資する研究

等、多角的アプローチからの複合的連携研究への取組が求められていることを踏まえ、平成20年度に創設された競争的資金制度での「原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ」等を通じて、このような新たな課題に対する研究の裾野を広げながら、効率的・効果的に基礎的・基盤的研究の充実を図っていくことが必要である。

2)原子力人材の育成

 原子力人材の育成については、従来から、原子力の平和利用を、安全を確保しつつ推進していくために、各高等専門学校や大学等における原子力教育研究活動の高度化や国際化などの取組を支援してきたところである。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、原子力安全に係る関心が国内はもとより、国際的にも高まっている。一方、学生や若手研究者が、原子力の将来性に疑問を抱き、原子力離れに更に拍車をかける懸念もある。原子力人材の育成は、原子力の安全を確保する上で基盤となるものであり、今回の事故の教訓や国際的な議論の状況等を踏まえながら、原子力の安全や危機管理に係る専門家、原子力を志望する学生・若手研究者等の原子力人材の育成活動を、従来に増して強化していく必要がある。
 人材育成の効果が発揮されるまでには時間を要することから、これら人材育成活動の取組みをスピーディに、かつ積極的に実施していくことが重要である。
 また、これら活動を進めるに当たっては、昨年11月に設立した我が国の産学官の原子力関連機関が参画する「原子力人材育成ネットワーク」を活用した幅広い連携を更に進めていくなど、我が国一体となった取組を実施していくことが重要である。

3)原子力と社会との関係・コミュニケーションの深化

 現に、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の広範囲な拡散による放射能汚染と被ばくが社会的問題と化している。こうした問題を正しく認識し、むやみに原子力や放射線に対する不安、不信を増幅することのないよう、放射線、放射能に対する正しい知識を国民レベルで共有していくことは重要である。
 また、新学習指導要領改訂により、平成24年度から中学校理科において「放射線」が加わるなど、青少年における放射線教育の位置付けはその重要性を増している。一方で、放射線教育に携わった教員は少なく、正しくかつ効果的な授業展開がなされるよう、教員や指導方法、実習資機材への手厚い支援は今後重要になってくるとともに、原子力科学技術における知見やノウハウを駆使し、貢献していくことが大いに期待される。
 研究開発活動や期待される効果、潜在的なリスク等について、国民と政府、研究機関、研究者との間で認識を共有することができるよう、双方向のコミュニケーション活動を一層積極的に推進していくことが重要であり、大学や研究機関の専門家によるコミュニケーション活動の普及、定着を図っていくことが必要である。
 さらには、避難住民等への相談窓口対応など、現地のニーズに即した、きめ細かな取組を継続していくことにより、原子力に対する信頼回復を図ることが肝要である。 

3.我が国の重要課題達成に向けた当面の重点的取組

<課題領域マル1 「震災からの復興・再生の実現」>

  第4期基本計画では、被災地の産業の復興、再生、さらには成長の実現に向けて、「汚染された土壌や水質等の調査及び改善改良、海洋生態系の回復、生産性の向上、農林水産物の安全性の向上等に関する研究開発を推進するとともに、その成果の利用、活用を促進する。」とされている。
 また、被災地における安全な生活の実現に向けて、「周辺地域及び全国における放射線モニタリングを強化するとともに、こうした情報を国内外に正確かつ迅速に発信する。さらに、国際社会からの協力も得て、汚染された土壌、水等の除染、放射性廃棄物(放射性物質に汚染されたあるいは汚染されたおそれがある廃棄物)の処理、処分等に関する取組を推進する。」とされている。

 政府と東京電力は「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束・検証に関する当面の取組のロードマップ」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」における中長期的課題に着実に取り組んでいる。
 このため、東京電力福島第一原子力発電所の事故により生じた放射性物質による汚染に対する不安の1日でも早い解消と、また事故の早期収束に向けて、必要な技術の開発や実証に関する取組を先行して推進していくべきである。

  なお、第4期基本計画では、被災地における安全な生活の実現に向けて、「人々の健康不安を解消し、精神的な安定を確保するため、被災地の人々を対象とする長期間の健康調査と分析、心理学や精神医学等に基づく診断、治療、研究等を強化する。」とされており、被災者の健康不安解消の観点から様々な研究開発を進めることも重要であるが、これらに関係する重要課題については、<課題領域マル3 医療・健康・介護>において記載することとする。

○放射性物質の分布状況等の調査(P)

 今後の警戒区域、計画的避難区域等の見直しや、放射性物質による環境影響の把握、住民の健康管理や適切な除染対策等に必要な情報として、福島県内を中心とした詳細な放射性物質の影響の把握が求められている。
 このため、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う陸域土壌等における放射性物質の蓄積量等について広範囲な分布状況を詳細かつ精緻に調査するとともに、今後の経時変化を追うこと等長期的な影響把握に係る手法の確立が必要である。環境省と協力して環境放射線のモニタリング等を全国展開して実施していくことが重要である。
 また、関係自治体が行っている食品中の放射性物質のモニタリング検査に際して、文部科学省が行う航空機モニタリングにより得られた空間線量等の結果や独立行政法人日本原子力研究開発機構をはじめとして行われている環境モニタリングデータを提供するなど、関係機関との協力によって、国民への万全な支援体制を継続して行っていく必要がある。

○放射性物質による汚染からの環境回復に関する技術の開発・実証

 放射性物質の除去については、現在、主に表面削土、高圧洗浄等の物理的手法が用いられているが、様々な対象物を含む広範囲な地域を二次廃棄物の発生を抑えつつより効果的、効率的かつ安全に除染することができる技術の確立が求められている。
 このため、国内外の叡智や他分野におけるこれまでの知見を活かしつつ、研究室レベルでの放射性物質の動態挙動に関する化学的解明や除染技術の研究開発を加速させるとともに、実験室レベルで一定の成果が得られた技術についてはフィールドレベルでの実証実験や、大規模な事業展開に向けた実用化のための研究開発を促進することが必要であり、農林水産省をはじめ関係省庁や自治体との連携により取り組むべきとされる。
 また、環境修復の結果として生じる放射性物質を含む廃棄物の管理・処理についても、より効果的・効率的かつ地域に受け入れ可能な技術や手法の開発・確立が急務である。
 なお、技術の開発や実証に当たっては、被災した広範な地域・コミュニティの様々なニーズや要望、環境修復に当たって直面する様々な問題をきめ細かく捉えながら進めることが重要である。

○原子力発電所事故収束に向けた中長期的課題への対応

 東京電力福島第一原子力発電所事故の収束に向けて、現在、安定した炉心冷却システムを構築し、安全な停止状態を継続できるようにする努力が行われているが、これが達成された後には、使用済み燃料を取り出し、ロードマップに従いながら、廃止措置に向けて必要な措置が講じられる予定である。
 現在、原子力委員会の下に設置された中長期措置検討専門部会において、このような東京電力の取組の着実な進展を促すために必要な技術開発課題の整理・検討がなされているが、それらの検討結果に基づき、他分野も含めた過去の経験や知見を参照しつつ、新たな技術の開発・確立が必要である。

○原子力施設の廃止措置技術

 東京電力福島第一原子力発電所においては、大量の放射性廃液の処理、この処理に伴って発生する大量の放射性廃棄物の管理及び廃棄体化処理、構内の汚染設備・建物・土壌や災害廃棄物の処理、使用済燃料の運び出しや損傷燃料の取り出し、発電所施設の解体などの廃止措置を、長時間をかけて着実に進めていくことが必要である。

<課題領域マル2 環境・エネルギー>

 第4期基本計画では、安定的なエネルギー供給と低炭素化の実現に向けて、「原子力に関する研究開発等については、東京電力福島第一原子力発電所の事故の検証を踏まえるとともに、今後の我が国のエネルギー政策や原子力政策の方向性を見据えつつ実施する。ただし、原子力に係る安全及び防災研究、放射線モニタリング、放射性廃棄物や汚染水の除染や処理、処分等に関する研究開発等の取組は、これを強化する。」とされている。また、「核融合の研究開発については、エネルギー政策や原子力政策と整合性を図りつつ、同時に、その技術の特性、研究開発の段階、国際約束等を踏まえ、これを推進する。」とされている。

    我が国においては、将来においてエネルギーを長期的・安定的に確保するとともに環境問題を克服する可能性を有する核融合の研究開発や、資源有効利用性、経済性、安全性、エネルギー効率性等に優れた高温ガス炉の研究を推進し、世界をリードする成果を挙げており、これらを引き続き推進していくことが必要である。
 また、原発の依存度の低減に関する国民的議論が現在行われているが、現在、我が国のエネルギーの約30%は原子力発電によるものであり(中央電力協議会「平成22年度供給計画の概要」(平成22年3月)を参考)、既設の原発に係る安全性の確保等に関係する重要課題については、<課題領域マル4 安全かつ豊かで質の高い国民生活>において記載することとする。

○核融合研究開発

 核融合エネルギーは、将来においてエネルギーを長期的・安定的に確保するとともに、環境問題を克服する可能性を有している。また、安全性等の観点で優れた特性も有しており、その実現は人類共通の課題である。現在、国際約束であるITER(国際熱核融合実験炉)計画やBA(幅広いアプローチ)活動に加え、国内の重要施策として、トカマク方式、ヘリカル方式、レーザー方式及び炉工学の推進を図っているところであり、長期的視野に立って、引き続きこれらの核融合研究開発を着実に推進していく必要がある。

(国際約束に基づくITER計画等の推進について)
 ITER計画は世界7極(日米欧露中韓印)により進められている、核融合エネルギーの実現に必要不可欠な国際共同プロジェクトであり、今般の東日本大震災後のスケジュールの遅れを最小化し、ITERの建設ができるだけ早期に実現するよう、我が国が分担する調達活動等を積極的に行う必要がある。
 また、BA活動は、ITER計画を補完・支援する日欧協力による重要プロジェクトであり、ITER計画の進捗を踏まえつつ、確実に取組を進める必要がある。

(重点化計画における推進4分野について)
・トカマク(トカマク国内重点化装置計画)
 高ベータ定常運転(※1)を可能にする日本原子力研究開発機構のJT-60SA計画については、BA活動におけるサテライト・トカマクの進捗を踏まえて、また、安全の確保に最大限の注意を払いつつ、解体・改修を進めていくべきである。

・LHD(大型ヘリカル装置)計画
 核融合科学研究所のLHD計画では、プラズマに関わる学理の構築を行っている。今後、より臨界プラズマ条件(※2)に近い高性能の定常プラズマを実現するために、重水素実験に向けた準備を着実に行うとともに、プラズマに関する学術研究の中核拠点として大学等との共同研究を引き続き推進していくべきである。

・レーザー方式
 レーザー核融合については、現在、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターを中心として高速点火方式による第1期の実証実験(FIREXⅠ)が進められているが、次段階への移行判断のため、核融合点火温度(5千万℃-1億℃)の達成等の研究成果を確実にあげることが重要である。

・炉工学
 炉工学については、ITER計画及びBA活動との連携を図りながら、日本原子力研究開発機構における炉工学技術開発や、大学等における幅広い基礎研究を総合的に推進することにより、炉工学技術の基盤の形成を着実に図るべきである。
※1:ベータ値(プラズマ圧力/磁場圧力)が高い状態での連続運転で、高ベータ化は、核融合炉の経済性を高める上で、必要不可欠な要素となる。
※2:プラズマイオンが同数の重水素と三重水素で構成される時に、プラズマに注入したパワーと等しいパワーが核融合反応で発生する条件。

○高温ガス炉研究開発

高温ガス炉は、熱需要に応えることができ、地球環境問題の解決に貢献しうるとともに、自己制御性に優れるという安全上の特徴から、途上国等の原子力新興国における原子力利用に適しているといわれている。
 独立行政法人日本原子力研究開発機構が開発してきた技術は世界的にも注目されており、高温ガス炉技術の開発に着実に取り組むことが重要である。

<課題領域マル3 医療・健康・介護>

 第4期基本計画では、革新的な予防法の開発に向けて、「東日本大震災を受けて、被災地の人々を中心に長期間の健康調査を行い、疾病等の予防法開発に活用する。」とされている。
 また、新しい早期診断法の開発に向けて、「早期診断に資する微量物質の同定技術等の新たな検出法と検出機器の開発、新たなマーカーの探索や同定など、精度の高い早期診断技術の開発を推進する。」とされており、さらに、安全で有効性の高い治療の実現に向けて、「放射線治療機器、ロボット手術機器等の新しい治療機器の開発、内視鏡と治療薬の融合など診断と治療を融合させる薬剤や機器の開発、更に遠隔診断、遠隔治療技術の開発、それを支援する画像情報処理技術の開発を進める。」とされている。

東京電力福島第一原子力発電所事故に伴って、放出された放射性物質の拡散による地元住民への健康影響のおそれと、住民の心理的不安が発生している。これに対して、長期的に取り組むとともに、放射線と健康リスクに関する専門家会合を開催するなど国内外の叡智を結集し、住民の健康影響の防止、不安解消を図っていくことが重要である。
 また、世界最高の放射線医療を提供できる体制と、先進医療機器を用いた診断、治療実現に向けての取組がより一層重要となる。

○放射線影響に対する住民健康調査

 福島県では、原子力災害による放射線の影響を踏まえ、将来にわたる福島県民の健康管理を目的として、福島県立医科大学を中心として、「県民健康管理調査」を開始している。本調査の実施にあたり、独立行政法人放射線医学総合研究所や関係機関においては、引き続き協力を継続していくことが望まれる。

○放射線被ばく医療研究

・放射線安全研究
 放射線の生物影響、環境影響及び医学的利用に関する研究基盤を最大限に活用し、今回の事故を通じて得られた教訓を生かしながら、安全規制の科学的合理性を高めるために利用可能な知見を蓄積することが重要である。
 特に、合理的な防護基準策定のための小児をはじめとした放射線感受性の定量的評価に関する研究や、低線量・低線量率長期被ばくの影響解明に向けた研究、放射線リスク低減化に向けた取組の強化が必要である。加えて、放射線安全に対する社会的理解の増進に有効なリスクコミュニケーションを実践することが重要である。

・緊急被ばく医療研究
 今回の事故を踏まえ、放射線被ばく事故や原子力災害の発生に適切に備えるため、緊急被ばく医療についての専門的な診断と治療に関する医療技術を向上することが重要である。
 このため、外傷又は熱傷を伴う放射線障害(複合障害)に対する線量評価や基礎研究を総合的に実施することが重要である。加えて、国内の緊急被ばく医療体制の更なる整備を行うとともに、アジア諸国を中心とした国際的なネットワークの構築を図ることが必要である。
 なお、これらの分野を支える人材育成についても重要な課題である。

○放射線の医学的利用

・重粒子線を用いたがん治療研究
 重粒子線がん治療は、臓器の別、がんの悪性度を問わず良好な治療成績をあげ、副作用が極めて少なく低侵襲性で患者への負担も少ない治療法であり、より多くの患者に最適な治療を提供するため、治療の標準化や適応の拡大を目指すことが重要である。
 このため、新たな照射技術の着実な臨床応用に取り組むとともに、照射が困難な部位の治療を可能とする照射法(小型回転ガントリー方式)の実用化や、画像診断技術を重粒子線がん治療に融合し、腫瘍の位置や経時変化に即時に対応できる治療技術の開発とその実用化に取り組む必要がある。 

・分子イメージング技術を用いた疾患診断研究
 生命現象及びその異常を分子レベルで非侵襲的に画像化する分子イメージング技術は、放射線の医学的利用分野において近年めざましい発展を遂げ、疾病の早期診断や効率的な創薬を実現可能にする重要な分野である。
 このため、これまでに得られた研究成果を着実に臨床研究に発展させていく必要がある。

<課題領域マル4 安全かつ豊かで質の高い国民生活>

 第4期基本計画では、生活の安全性と利便性の向上に向けて、「自然災害をはじめとする様々な災害等から、人々の生活の安全を守るため、地震、火山、津波、高波・高潮、風水害、土砂災害等に関する調査観測や予測、防災、減災に関する研究開発を推進する」とされるとともに、「人の健康保護や生態系の保全に向けて、大気、水、土壌における環境汚染物質の有害性やリスクの評価、その管理及び対策に関する研究を推進する。」とされている。

 このため、東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえて、原子力の安全確保に必要な技術基盤の強化を図るとともに、原子力防災や廃棄物処分に関する研究を着実に推進する。

○原子力安全研究の推進

 原子力の研究、開発及び利用に当たっては、安全の確保が何よりも最優先かつ最重要な課題であり、安全確保に必要な技術基盤を高い水準に維持していくことが求められる。このため、シビアアクシデントを想定した緊急時への準備の充実、低頻度高影響の外的事象(地震、津波、爆発等)への対応、シビアアクシデント対策強化のための研究などを強化すべきである。その際、国際協力による推進を強化し、その成果が、世界の原子力安全につながるように取り組むべきである。
 例えば、米国ではTMI-2事故(1979年)の収束後、各国による事故進展解析とその比較(報告書:1991年8月)や採取した溶融燃料サンプルの国際共同分析がOECD/NEA TMI-2-VIP(Reactor Pressure Investigation Project、1988年1月~1993年3月)として実施され、世界の原子力安全に大いに寄与している。  また、安全対策の高度化は喫緊の重要課題であり、国際的に高い評価が得られている我が国の安全対策に対する実験技術を活用し、安全対策の高度化に有用な技術開発を推進するとともに、既存原子力施設の安全性の向上など安全技術基盤の強化を図ることが重要である。

・安全対策の高度化に有用な技術開発
 シビアアクシデントの発生防止及び影響緩和のためには、炉心冷却に関する新たなアクシデントマネジメント策や安全機器の導入、フィルターベントなどの新たな影響緩和技術の導入が検討されている。安全対策を効率的に高度化するには、装置・機器等の開発に加えて、事故進展評価技術の高度化及びそのための実験的研究に関して有効性を確認しつつ進めることが重要となる。

・既存原子力施設の安全性向上
 核燃料サイクル施設等を含めた多様な既存原子力施設の安全性を向上するためには、施設固有のリスクの種類や大きさを明確にし、施設の特徴を踏まえた安全管理活動を適切に実施して、安全性を向上しつつ高いレベルで保つ必要がある。このため、リスク評価技術の高度化及びリスク評価技術の活用に関する研究は、リスク情報を有効に活用して安全性を効率的に向上できるため重要である。また、原子力施設の多様な状態に置いて安全性に影響する現象について適切に研究を実施し、最新の知見やデータを反映した評価に基づいて着実な安全性の向上を図ることが必要である。加えて、こうした活動が継続的に実施できる体制を整備することが重要である。

○原子力防災に係る研究開発

 原子力施設等の災害に対する対応基盤の維持・強化に対する取組は重要であり、今回の事故を通じて得られた教訓を生かしながら、環境モニタリング、原子力防災に関する調査、研究開発を着実に進めることが必要である。
 特に、柏崎刈羽での地震時に基準地震動の最大加速度の数倍を記録し、今回の地震でも30%程度超えたこと、津波は設計基準高さを大幅に超えたことを踏まえれば、「設計基準」の設定の考え方の見直しが必要であり、設計基準を超えるリスクを評価し、PSA(確率論的解析)を活用してリスクの低減を図る研究が重要となる。
 これらの研究により、実効性の高い防災計画を予め定め、これを最新の知見に基づいて継続的な改善を進めることになる。それら成果を活用し、放射性核種の放出・移行から人体への影響までを確率論的に扱う環境影響評価(レベル3PSA)により、複数プラントの事故や複合災害について、総合的な安全評価を実施することが重要である。

○放射性廃棄物の処理・処分

・研究施設等廃棄物の処分事業の推進
 研究機関、大学、医療機関、民間企業等において発生する研究施設等廃棄物の処分については、平成20年6月の独立行政法人日本原子力研究開発機構法の改正により、日本原子力研究開発機構が処分の実施主体として明確に位置付けられ、平成20年12月に策定された「埋設処分業務の実施に関する基本方針」に基づき、平成21年11月、日本原子力研究開発機構が策定した「埋設処分業務の実施に関する計画」が認可されたところである。
 引き続き、当該実施計画に従い、国、日本原子力研究開発機構、廃棄物発生事業者等が連携協力して、処分事業を進めていくことが重要である。

・放射性廃棄物処理・処分技術
 低レベル放射性廃棄物の処理・処分に必要な技術開発は、発生する放射性廃棄物の安全で合理的な処理・処分を実現し、放射性廃棄物量の低減等につながることから、原子力エネルギーの開発・利用の推進の上で重要である。

・放射性廃棄物分析のための技術の開発
 今後原子力施設の廃止措置が増加することが予想され、多種・大量の放射性廃棄物の発生が見込まれる。埋設処分する場合、分析を行い、放射能量を確認する必要があり、この確認を合理的かつ効率的に実施していくことがコスト低減や作業軽減を図る上で重要となる。そのため、これまでに確立されていない比較的放射能濃度の高い放射性廃棄物の分析技術の開発や放射能量測定を簡易・迅速に行う技術の開発を行い、分析技術の合理化・向上を図ることが重要である。    

・放射性廃棄物処分に係る安全評価に資する技術開発
 ウラン等の低レベル放射性廃棄物の安全評価手法の確立に資するため、放射性廃棄物を処分した際の廃棄体中の放射性核種がどのように環境中に移行していくかなどの処分時の安全評価解析に関する技術開発を行うことが重要である。

<課題領域マル5 科学技術基盤>

 第4期基本計画では、領域横断的な科学技術の強化に向けて、「先端計測及び解析技術等の発展につながるナノテクノロジーや光・量子科学技術、シミュレーションやe-サイエンス等の高度情報通信技術、数理科学、システム科学技術など、複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術や融合領域の科学技術に関する研究開発を推進する。」とされている。

  また、共通的、基盤的な施設及び設備の高度化、ネットワーク化に向けて、「科学技術に関する広範な研究開発領域や、産学官の多様な研究機関に用いられる共通的、基盤的な施設及び設備に関して、その有効利用、活用を促進するとともに、これらに係る技術の高度化を促進するための研究開発を推進する。」とされている。

 また、量子ビームテクノロジーは、基礎科学から産業利用まで様々な分野に貢献する社会基盤であり、これまでも身近なところで広く利用されているものであるが、一般的認識がまだ十分とは言えない。領域横断的な共通的・基盤的な技術として、研究開発とその利用を促進するとともに、人材育成の推進、放射線利用への理解増進の強化等に、引き続き取り組んでいくことが重要である。
 なお、安全研究についても、基礎研究の強化の一つとして進めていくべき重要課題であるが、<課題領域マル4 安全かつ豊かで質の高い国民生活>において記載することとする。

○原子力利用に係る技術基盤の維持・強化

  原子力科学技術の推進において技術基盤は磐石なものでなければならず、研究開発を促進させる上で技術基盤を常に維持し強化することは重要である。また、安全基盤の技術の向上及び高度化をはじめ、新たな領域を開拓していくために、技術基盤の構築に資する研究開発は大きな意義を有している。とりわけ基礎的、基盤的な重要な役割を担っており、これらの研究活動を行うことのできる大型原子力研究施設は極めて貴重である。
 他方、我が国における原子力研究施設は老朽化・減少化傾向にある。このことから、特定施設へのユーザー集中化への対応と利用による新たな技術獲得を目指して、原子力施設の高度化を図り、実験等研究利用の向上と施設の継続的な維持・確保のための支援を行っていく必要がある。

○量子ビームテクノロジー研究開発・利用促進

 量子ビームテクノロジーは、学術、工業、農業、医療など様々な分野で重要な役割を果たしている領域横断的な共通基盤技術である。引き続き、技術革新及びその利用を推進することにより、イノベーション創出や社会的課題の克服など、学術の進歩、産業の振興及び人類社会の福祉と国民生活の水準向上に広範囲に貢献していくことが必要である。

・J-PARC(大強度陽子加速器施設)等の復旧・共用
 東日本大震災で甚大な被害を受け、現在、平成23年度内の共用開始を目指し、復旧作業中。学術界・産業界から中性子線利用への期待が大きく、早期運転開始を実現し、国際頭脳循環の核となる世界的な研究開発拠点としてその機能を強化していくことが重要である。

・多様な量子ビームを活用した研究開発の促進及び人材の育成・確保
 中性子、イオン、電子、RI、放射光・レーザーなど多様な量子ビームは、様々な利活用が可能な共通基盤技術であり、イノベーション創出や社会的課題の解決等を目指し、利用技術の革新や施設・設備の整備・高度化・高経年化対策等を継続的に行っていくことが重要である。
 また、研究開発及び利用を支える優れた人材の育成・確保を強化していくことが重要。

・量子ビームテクノロジーを活用した原子力災害・震災復興への対応
 これまで多くの分野で実用化・商品化が進められてきた技術や知識、ノウハウ等の最大限活用し、例えばグラフト重合技術で作成したセシウム捕集材を活用した放射能汚染除去等の技術開発など、今般の原子力災害や震災復興に広く貢献していくことが重要である。

・理解増進・広報活動の強化
 量子ビームテクノロジーは、基礎科学から産業応用まで幅広い分野で利用され、日常生活にも広く活かされているにも関わらず、社会的な理解が十分とは言えない状況を踏まえ、産業界を含めた社会への技術情報の提供や理解増進活動を強化することが重要である。

<課題領域マル6 国際的取組>

○事故後の海外諸国や国際機関との連携・協力

 東京電力福島第一原子力発電所の事故後の国際協力に当たっては、原子力政策の在り方についての政府全体での検討及び国際動向を踏まえつつ、この事故に係る知見を人類の共有財産とし、原子力安全に関する国際社会の取組が充実するよう、率先して貢献することが必要である。原子力科学技術に係る国際協力についても、こうした考えのもとに、取組を進めていくべきである。

・原子力システムの研究開発に関する国際協力について
 国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC)や第4世代原子力システムの研究開発に関する国際フォーラム(GIF)等の国際枠組を用いた取組においては、福島事故の知見を取り入れつつ、より安全なシステムを実現すべく取り組んでいくべきである。

・アジアにおける原子力分野の協力について
 福島事故後も引き続き、近隣アジア諸国を中心に原子力研究開発利用が拡大しており、事故の知見を踏まえた我が国の原子力技術に期待を寄せる国々も少なくない。地理的にも近いアジアでの原子力の平和的で安全な利用を促進すべく、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)等を通じ、こうした期待に責任をもって応えていくべきである。

○保障措置、核不拡散、核セキュリティに関する研究開発

 原子力の平和利用に関する国際的信頼を得つつ、核不拡散および核セキュリティに関する技術開発や人材養成における国際協力を先導することが重要である。

・着実な保障措置の実施
 原子力平和利用の担保は、原子力エネルギー利用の大前提となるものであり、そのための保障措置活動は、今後とも着実に実施すべきである。その際、東京電力福島第一原子力発電所に関連する対応について、今後必要となる技術開発について整理を行いつつ、中長期的な視点に立って対応すべきである。

・核セキュリティの取組強化
 平成22年4月の核セキュリティ・サミットにおいて我が国が表明したイニシアティブである核不拡散・核セキュリティ総合支援センターをはじめとした、グローバルな核セキュティ強化に貢献するための人材育成、技術開発については、米国や国際原子力機関(IAEA)等とも連携しつつ、着実に実施すべきである。 

4.政策の方向性を踏まえながら検討を要する課題

 エネルギー資源の乏しい我が国において、エネルギー安定供給の確保は常に重要な課題である。このような背景から、我が国は長期的なエネルギーの安定供給や放射性廃棄物の低減に貢献する高速増殖炉サイクルの研究開発を行ってきたところである。
 しかしながら、本年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い、原子力の研究開発を含む今後の原子力政策の在り方については、全体的なエネルギー政策の検討が進められる中で、政府で議論されることとなり、エネルギー・環境会議において「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた検討が進められるとともに、その議論を踏まえながら、原子力委員会においても「新原子力政策大綱」の策定に向けた検討が再開され、今後一年を目処に新大綱を取りまとめることとされている。
 このため、特に以下の施策については、上記議論を踏まえながら、検討を進める必要がある。

○高速増殖炉サイクル技術

 高速増殖炉サイクル技術については、原子力政策大綱等を踏まえ、長期的なエネルギー安定供給や放射性廃棄物の潜在的有害度の低減に貢献できる可能性を有するとして、研究開発を推進してきた。
 具体的には、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核として位置付けられている「もんじゅ」の成果等を反映しつつ、将来の実用化を目指すとしている。
 当面の研究開発については、「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理において、核燃料サイクル政策を含め原子力政策の徹底検証を行い、新たな姿を追求することになっているため、その議論の方向性を見据えつつ実施する必要がある。

○使用済燃料再処理技術

 民間事業者における軽水炉使用済燃料の再処理を技術的に支援するため、民間事業者が直面した技術的課題を克服するための研究開発を行うことが重要である。
 具体的には、日本原子力研究開発機構における高レベル放射性廃液をガラス固化する技術の高度化等の技術開発のほか、民間事業者への人的支援を含む技術的協力を実施しており、民間事業者による再処理技術の着実な定着を目指すこととしている。
 ただし、「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理において、バックエンド問題を含め原子力政策の徹底検証を行い、新たな姿を追求することになっているため、その議論の方向性を見据えつつ実施する必要がある。

○高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術(P)

 高レベル放射性廃棄物等の地層処分については、信頼性のより一層の向上を目指す研究開発を継続的に推進することにより、処分事業を進めることや、国による安全規制を支える上で不可欠である。
 具体的には、独立行政法人日本原子力研究開発機構を中心とし、深地層の研究施設等を活用して、深地層の科学的研究、地層処分技術の信頼性向上や安全性評価手法の高度化等に向けた基礎的な研究開発、安全規制のための研究開発を着実に進めており、引き続きこのような技術基盤を整備する。
 ただし、「革新的エネルギー・環境戦略」策定に向けた中間的な整理において、バックエンド問題を含め原子力政策の徹底検証を行い、新たな姿を追求することになっているため、その議論の方向性を見据えつつ実施する必要がある。
 なお、原子力の便益を享受した現世代は放射性廃棄物の安全な処理・処分への取組に全力を尽くす責務を、未来世代に対して有している。したがって、現に原子力発電所から排出された使用済燃料の再処理によって、現に発生している高レベル放射性廃棄物等に対する処分システムを、安全にかつ環境への影響に配慮して確立していくことは必須であり、今後の重要な課題であることに留意する必要がある。

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